Coolier - 新生・東方創想話

Cyclamen Bouquet

2011/12/31 09:05:44
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注意

さとり×パルスィ
過去捏造 性格,口調,その他色々崩壊 独自能力解釈 独自設定 等注意
戦闘描写 グロテスクな描写 在り

過去作品
【Contrainess Jealousy】
【Coward Insensitive】
【Conceal Incomprehensible】
【Cynical Monsters】
【Crazy Clown】


それでは ブラウザバックかスクロールバーダウン

































じんじんと腕が痺れる感覚がした
私は動かない、私と対峙する橋守も動かない
今は小休止の時間だ、戦いの間双方に与えられる僅かばかりの安息にして準備の期間、朦朧となる意識を何とかして建て直し、分析を行う時間

畜生
どんな体力をしているんだ

すでに橋守に入れた急所は数知れない、顔を切りつけ、足を切りつけ、腕を切り落とした、体のあちこちに裂傷が入り血塗れだ
向こう側からは荒い息が聞こえる、もう限界なのかもしれない
ならば、なぜ倒れない
死んでしまえば楽になるのに なぜ倒れ込まない
理解不能だ 初めて出会う敵だ
これほどの重傷を負って生を望む者は誰一人として居なかった、皆殺してくれと心の中で強く願っていた
だが、こいつは違う

――――面白い奴

楽しんで――愉しんでいる
この状況を心から愉しんでいる
背筋が震えた
間違いない、こいつは化けものだ 正真正銘の化け物だ
命を啜り 血を垂れ流し 肉を喰らう者だ
戦闘を避けられない物と諦めるのではなく、それに愉悦を感じる様な種類だ
私は今、初めてのタイプの敵と対峙している

膝が抜けそうになるのを何とか堪える、ここで倒れ込んでしまえば全てが終わってしまうのだ、耐えなければならない。
どうやら私の方も限界の様だ、体力も、精神力も
正直立っているのも辛い、いつ倒れるのかすらも自分では分からない


だが、引けない


手に持っている武器を確認する、小ぶりで小回りが利き、良く砥がれた細身の短剣
腰の飛び道具は粗方使い果たしてしまったのでこちらに頼り切るしかないだろう
対して橋守の方は苦無を使っていたが戦闘が長期化の気配を出し始めた頃から短剣に持ち替えた。
まあ、それがとんでもなく禍々しい代物だったのだが
その一振りを見るたびに背筋が凍るような気がする、何重もの怨念が聞こえるような錯覚を抱く
それが短剣の持つ怨念なのだか砥ぎ方に問題があるのかは分からないけれど、短剣としては異常に持つ、ただの短剣で無い事は明らかだ。
一回薄く切られただけで体中が金縛りにあったような痛覚が走り、無理に動くと激痛が体中を走りぬける
それでも、それでも私は此処を突破しなければならない

これで終わりにしよう
もう終わっても良い頃合いだ
腰の全ての飛び道具を使い、私の持ちうる能力をフルに使い、それでも駄目なら諦めよう
まあ、刺し違える覚悟で行く事には間違いないが
短剣で鯉口を切ると向こうも休憩の終わりを感じたらしく、にぃっと口角を吊り上げて笑った

―――さあ、殺ろうじゃないの

殺ろうか、どちらかが倒れるまでは
どちらかの命が枯れ果てるまでは踊ってやる
一気に間合いを詰めようとすると向こうも合わせて走り込んでくる
激突の瞬間、橋守の心が入って来た

―――風呂、入りてえなぁ

なぜそんな事を思うか分からないけれど、私も風呂には入りたかった
今熱い風呂に入れたらさぞ気持ち良かろう

両者の鋼と鋼が接近していき
再び凄まじい音を立てて激突した



■□■



ただいま、お姉ちゃん

あらま 居たなら言ってくれればいいのに

言ったよ?無意識だけど

意味がありませんね



■□■



「お姉ちゃんってさ、いつまでパルさんとあんな関係続ける気なのさ」

珍しく帰って来たこいしにいきなりそんな事を言われたのはパーティーの数時間前の話だった。
その日はなぜか終始落ち着かなく、そわそわとしていたがその様子をこいしに見られていたらしかった、恥ずかしい。
こいしはいつもと違って危険物持込みは行っていない様だったので特にこれといったお咎めも無く、ただなんとなしにお茶会をしようという流れになった。

地上やそこらをうろついている事について私は追及したことが無い、理由は一つ、追及したところで聞く耳を持たない事、二つ、聞いたとしてもその忠告の内容が実行される時は来ないだろうという事、つまり言うだけ無駄と言う事だ。
誰がそんな無意味な事を好き好んでやるものか、そんなのはあの閻魔だけで十分すぎる。

その日はこいしに緑茶を出した、特に理由は無く、ただ私が緑茶を飲みたかったからである。
当然茶菓子は羊羹に決定となったがこいしは開始早々丸かじりしてしまった為、今こいしの手元には一杯の緑茶しかない。
ちなみにこれで7杯目である、トイレが近くは無いのだろうか。
そろそろ寒くなって来たとのことで暖炉が解禁となった事もあって食堂には寒さに弱いペットが集合している、おかげで木が無駄にならずに済む。
地上と地底が遮断されていた時は暖炉なんて滅多に使えるものでは無かった、当然の事ながら木が貴重な為である。
一応地霊殿管轄の元森林地帯の奥地である程度の木は育てることができるものの、それでも当然ながら十分量では無い、従って暖炉が使える時と言ったら祝日とか、大事な会議がある時ぐらいだったのである。
それが、今では平気で使えるようになった。

地上は広い、太陽も降り注ぐ、厳しい寒波があっても物量さえあれば何とか生き延びる事が出来る、死と隣り合わせでは無い世界。
確かに地上と言うのは地底の妖怪にとって非常に魅力的な世界だ、二つの世界の境界が完全に閉じた今でも通行許可を求める輩が来るのはそこがそれ程までに程魅力的だからに違いない。
命の危機と言うのは生命に安寧の時間を与えない、常に狙われ、常に狙わなくてはならない世界に生きていると言うのは精神を絶えず疲弊させるのだと言う事は今更間違い様も無い。
地底には様々な危険がある、数えきれないほどの危機がある
飢えて死ぬ危険、仕事が見つからない危機、乱闘に巻き込まれて死ぬことだって少なくない、地底に住む妖怪の中で代表的な妖怪は鬼だが、地底に住まう者全てが全て鬼の様に筋骨隆々としていないのだ、当然体の弱い物も、居る。
そんな世界にこれ以上居たく無い者も当然ながら存在する、まあ、甘すぎる考えなわけだが。

だが、私はそれでもこの世界が気に入っている
ここの直接的な危機よりも地上の間接的な危険の方が私としては生きにくい、陰口をたたかれ闇討ちを受けるよりまともにぶつかられる方が遥かにやりやすい、避けやすいし対処も楽だ。
それに、ここの社会は実力主義だ、直接的な武力でなくとも知力、処世術、力のある奴が生き残り、強力な権を持つようになる。
この地底は鬼が実質運営するだけあって、ルールは唯一にして簡潔極まりない、だからこそやりやすかった。
なにせ力の部分はあり余る奴らが掃いて捨てるほど居るのである、そして生憎私は力が無く、その代わりに『生き延びる』事にかけては誰にも負けない自信があった。
後は簡単だ、邪魔者をそれとなく排除し、根回しを行い、遂にはこの地底の権力の片側を握るまでに成長した。
多少の時間はかかったがそれでも地上で生き延びる事よりも遥かに容易かったのである、なにせ多少失敗しても挽回が利くかもしれないし、何よりも時間は沢山あったのだから。

「それで、私は答えを聞いているんだけど、お姉ちゃん?」
「ん、ああ、すみません」

むぅーっとこいしはむくれる
あんな関係とはなんだろうか、もしかして今のからかいあうだけの関係の事だろうか、私はそれで十分満足しているのだが。
これ以上の関係を望んだ所で、それをパルスィが断れば元も子もないし、今の関係が壊れる事もあるかもしれない、そんな危ない橋は渡りたくない。
訳が分からないという顔をしていたからだろうか、こいしは呆れ顔で溜息を吐いた。

「満足っていうよりも、妥協だよね、それ」

確かに、それは妥協だ、臆病さの産物だ
だからどうしたというのだろう、だからなんだというのだろう、臆病で良いではないか。
何が悪いと言うのだ、どこが悪いと言うのだ。
今の関係が壊れれば、私はパルスィと今のように話す事が出来なくなるかもしれない、
それどころか、姿を見る事すら気まずくなるかもしれない、そんな事になる位なら私は臆病のままで良い。
今の様に決して終わる事の無い追いかけっこを続けても何の不満も無い。

「でもさ、いつかパルさん取られちゃうかもしれないよ」
「う、ぐぅっ」

どうしてこう、痛い所をついてくるのだろう
パルスィは見ての通り美人だ、パルスィに惚れる者が居てもなんらおかしくない、橋姫に惚れるなど愚かさの骨頂だが、その愚人がここに一人居る訳だし。
例えパルスィが最初は拒んでも不意の事故と言うものがあるかもしれないのである、パルスィだって心はある、もしかしたらもしかしてそんな事があるかもしれない
その逆もある、ありえない話ではあるが、ありえない話ではあるがパルスィが誰かを好きになるかもしれない、無論ありえない話ではあるのであくまでも可能性だが。

別に、取るとか取られるとかそんな問題でないのは分かっているのだが。
こいしは安定して呆れたような表情でこちらを見ている、まるで養豚場の豚を見るかのような目つきだ。

「お姉ちゃんってさあ、やっぱり変だよね」
「変とはよく言われますが」
「あー、分かるねー 要するにさ、中間が無いんだよね」

だから余計に厄介なことになるんだなー
ぶつぶつと呟かれるこいしの愚痴とも分からない戯言が妙に心に突き刺さる。
この目に溜まる物は涙なんかじゃありません、心の汗なんです、そんな芝居をしてみても突っ込む者は誰も居ない、ああパルスィが懐かしい。

そろそろ橋の方も暖炉が恋しい季節になって来たのではないかと思う、ともかく向こうは寒いのだ。
地上から燃料はたんまりと運ばれてくるわけだし今年は寒さに震えずに過ごせそうだ。
あ、でもそうするとペットのもふもふで冬を越す事が出来なくなるかもしれない、どうしようか。

冬は寒い、太陽の出ない地底なら尚更だ
最近は灼熱地獄が再稼働し始めたので少しはましになったがこの間までここらもそこらもどこかしこも、寒かった
それでも地霊殿に来てから命の危機と言えるほどの寒さに出会ったことは無い、地上に居た頃は追っ手に臭いを辿られない為に真冬の夜の中川に入った経験がある、あのころに比べるとはるかにましと我慢ができるのであの経験はその場凌ぎ以上の効力を持っていると思う。

そう言えば地上では今雪が降っているのだろうか
こいしに聞いても首を振るばかりで何も分かっていない様だった
時期的に、そもそも私達が地上に居た時の季節感が当てになるかなんてとんとわからないが、今の季節はもう既に雪が降り始めても何らおかしくは無い季節だったと思う。


地上に居る時、雪は好きだった
冬の寒さは動きにくくなるし、他のどの季節よりも生命に直結するのでいただけなかったが、それでも雪と桜だけは好きだった。
追っ手が来ている時に積もられると足跡で方向が判別されて逃げきれなくなるのでやむなく追っ手と戦闘を避けられなくなると言う事もあるが、それでも一面に積もる銀色の雪は壮観だった。
杉の木に積もる雪や、川の流れをせき止める雪や、辺り一面にしんしんと降り積もる雪は好きだった。

そう言えば、パルスィに地上に行ってみるように勧められていた事を思い出す
気が向いたら行ってみるとしようか、その時にはパルスィを連れて行こうか、地上に旅に出るのも良いかもしれない。
パルスィは橋守の仕事があるが、まあ本人も堂々とさぼっているし仕事も無いだろうから連れ出しても文句は言えまい、うしし、散々弄ってやろう。

「お姉ちゃん?それにはまずパルさんと仲良くならなきゃ駄目だよ」
「む?パルスィとは十分仲良いじゃありませんか」
「旅に無理やり連れだしても文句言わない程度に?」

確かに、そう言われればうむと考えざるを得ないだろう
パルスィは無理やり連れだしても恐らく文句は言わないだろうが、凄く不満そうな顔でこちらを常時睨みつける事になるかもしれない、想像できてしまうあたり悲しい所だが。
そんな旅は面白くもなんともないだろう、折角久々に娑婆の空気を吸う気分になるのだから開放的になって貰わないと、そう言えば地上に温泉はあるのだろうか、写真機持って行かなきゃ。

「だからさー、少しはそういったのが許される程度まで仲良くなってなくちゃー駄目なんじゃないの?」

その必要性は確かに認める
だが私はパルスィとどう付き合えばいいのか分からないのだ
どんな行動を取ろうにも私の事をどう思っているのか確認することができないのである。
どんな行動を取ろうと、まるで底無し沼に石を投げ込むが如く無意味に返ってくるとあっては、不気味極まりない。
覚妖怪だけの話ではないが、特殊な能力を持つ者はその能力に依存しがちとなる。
普段は能力を使っているので支障は無いが、いざそれが通用しないものを相手とすると調子が狂う。

「だからさー、何で中間が無いのかなー」

ぐでっとこいしが机に突っ伏す、やる気が失せたかのようにあーだの言っているこいしはまるで空気の抜け切った風船のように見えた。

「別に親密な仲になろうとか、そういうのじゃないなら笑顔見せときゃいいのよ、そんでもって変態的な行動を控えりゃできるって、お姉ちゃん行動が残念なだけで顔は悪くないと思うから」
「行動はって…まあいいでしょう、そろそろパルスィを呼んでこなくちゃいけませんから」

ことんとカップを置き、立ち上がる、後片付けはペットがやってくれる
ドアまで近づいて後ろを振り向くとすでにこいしは居なかった
まあ、またいつかは戻って来るだろう、その時まで待っていればいい
私は電気をつけたままパルスィを迎えに行った。



■□■



もしかしたら、その時にはすでに分かっていたのかもしれない
これからどうなるかが、心のどこかで分かっていたのかもしれない
ただ惜しいのは、分かっていたとしても私はきっと何もしないであろうと言う事と
何かしたとしてもそれはどうしようもない事だと言う事だ
事実は小説よりも奇なり
不思議不可思議な巡り合わせにも程がある



■□■



風が
身を切るように冷たい風が縦穴を駆け抜けた
ばさばさと服が靡き、押し潰されるような感覚に足を踏ん張って耐える
もう切るような寒さは気にならない、ただ茫然としたぼうっとした空気だけが辺りを包んでいた。

いくら過去に逃げた所で現在が変わることは無い、分かっている、分かっているのだが、
パルスィの左肘から下が、まるで風化してしまったかのように消えている、そこは昔私が切り飛ばした場所だった。
何と言う皮肉か、偶然か 悪意じみた物をひしひしと感じる
これが運命だと言うのであれば、それはさぞ人の不幸を見てにやにやと笑っている者に違いない。

パルスィはなんでも無いかのように風に当たっている、寒波がひょうひょうと吹く中まるで散歩をしているかのような余裕さだ。
自分がこれからどうなってしまうのか、それを知りながらなぜあんなに平然としていることができるのか、私には分からない
パルスィには未だに私の分からないことが多すぎる。

また、寒波が上から降り注いで来た
地上はさぞ凄まじい事になっているに違いない、宴会を開いた日が今日で良かった
そんな事を考える時でないのに、頭が現実を見ていない

橋がきしきしと不気味な音を立てる
私にはそれが陰気な死神の笑い声のように聞こえてならなかった
もしも、このタイミングが意図的な物だとしたら、そいつはさぞ陰気で根暗で趣味が悪いのだろう。

もし、パルスィがいつも通りの格好をして、こんな風に、なんでも無いかのように振る舞っていたとしたならば私もいつもの様に振る舞っていただろう
例え、パルスィの状態がこれと同じ、これよりも悪かったとしてもだ
卑怯で、矮小だ
私は誰かの上に立っているべき妖怪では無い、それ程の器は私には無い
だが、あそこは、あの地位は私を護る盾だった
安寧の為に得る必要がある必要不可欠な武器だった
私には覚悟が無い、私には度胸が無い、私には何もかも無い
それを後悔したのは今が初めてだ
もしも、私が地位にいる事が必然に感じる程精神が熟成していたのだとしたら、私は迷わずパルスィに近寄れただろう。

だが、それができない

体が震える
声が出ない
油断すると倒れそうになる
パニックを起こさないようにするのが精一杯だ

弱かった
惨めだった
私は どこまでも 私が思っているよりも遥かに愚か者だった


「それで、いつまで経ったらあなたは動くのかしら」

不意に
声が聞こえた気がした
ばっとパルスィの方を向くと呆れた様な、迷惑そうな顔でこちらを見ていた
その顔に多少の感情を感じて束の間安堵する
無論、ただの現実逃避だが



パルスィの異常は体の消滅だけでは無かった
無論そちらの方だけでも大問題なのだが、もう一方の異常の方が遥かに異常性があった

心が読めない
以前は私の事だけがまるで消去されてしまったような『読めない』だったが今度は全く違う
心が、まるで消えかけているように虫喰っているのだ
なんだこれは
もう、訳が分からない

『…………さとり…………で……………かしら』

しかも悪い事に、この異常は先程からどんどん進行している
先程は単語単語が読め、一文字単位で消失していただけなのにしだいに単語が読めなくなり、今ではもう文が殆どノイズがかって読めなくなってしまっている。
この分だと心が読めなくなってしまうのにもう僅かの時間もかからないだろう。

それが、何を意味するのか
心が読めなくなると言っても私の能力に異常は見つからない、だとしらたら、異常なのは当然パルスィの方だろう
心が次第に読めなくなると言う事は、心が次第に無くなっていくという事なのだ
その事に辿り着いた時、私は一瞬意識が遠のいた
心が無くなる?無くなってしまう?それはどういう事なのだろう
自分と言うものが認識できなくなり、次第に意識が混迷していき、遂には永遠の闇に閉じ込められる
もう考える事も無い、何も感じない
この世の最も深い部分に落とされるのだ、今まで心を読んだ事は数知れない、だが心を失ってしまった者の心を読む事はただの一度も無かった

その心は 地獄よりも更に深く 地殻の底よりも暗く 極北の冬の川に浸かるよりも冷たい

いつだったか、閻魔が持ってきた覚妖怪が記したとされる貴重な本を読んだとき最後の一説にこう書いてあった
最後の一説に書かれた理由は他でもない、その一説を書いた後その妖怪が失踪したからである。
その時は分からなかったが、今では分かる
恐らくその妖怪は耐えきれなかったのだ、この絶望感に
地底の最深部にある牢屋に閉じ込められるかのような圧迫感に
目を覆いたくなる様に完璧な暗闇に
そして極寒の冬の川の底の様な寒気に
私が今そうしてしまわないのは、まだパルスィの心の片鱗が残っているからなのだろう

パルスィはただ、いつもの様に、私が迷惑をかけた時の様に苦笑している
いつもよく見る顔
だがその笑顔は偽物だ、限りなく本物に近いダミーだ
闇の淵に沈む心が僅かに映し出す感情の残滓に過ぎないのだ。



私が先程見つけた橋の下に貼られていた札、吸血鬼の『種明かし』を受けた時あれの効力を思い出した。
“存在を縛りつける事”それがあの札の効力だ
それは縛りつける者の名と、同意の元に履行される契約書の様な物だ。

では、果たして誰をこの地に縛りつける?
誰の名によって、誰の同意を得た契約だ?
決まっている、決まりきっている
ぞれは目の前の橋姫 水橋パルスィをこの地に縛りつける物だ。

なぜパルスィを縛りつけているのかは分からない、だがパルスィの異変の理由の全ては此処に帰結する。
パルスィにかけられた契約内容は恐らく『この橋の境界と言う特性を護る事』だろう、それしか無い。
これまではそれで良かった、地上の者が地底に侵攻した時も彼女はしっかりと仕事をし、ここからが地底だと言う境界をはっきりさせることができた。

だが、ここに拙い、致命的な要素と因子が入り込む
村紗水蜜 雲井一輪 地上より落とされた最後の地底参入者
地底を脱出する時、彼女たちは此処と地上に置き土産を残した
“星蓮風穴”一般的にそう呼ばれるようになったあの風穴だ、地底の民が地上に行くときに使用するようになり、地上の民が地底に来るときに使用することになったあの風穴だ。
あれがパルスィの存在意地に致命的な要素となった。

パルスィの契約内容『橋の境界の守護』――― 一見橋を護ればいいと見えるが厄介な事にこの内容には大きな落とし穴がある。
『橋を』護るのではなく『橋の境界』を護る事がこの契約の要なのだ
橋と言うのは元々川に架けられ、違う陸地の存在を繋ぐものだ、その為橋には必然的に『二つの地の境界』と言う役割も付与される事となる。
即ち、この場合地上と地底の境界を守る役割と言う事になる、今まではその役割を、内容にはかなり難あるがしっかり履行していた。
予想すらできなかったことだろう、その契約を結んだ本人も、パルスィも、まさか硬い地盤をぶち抜いてもう一つ穴を開けられる事なぞ。
これが致命的な要因となった、見て分かる通り地上の民も地底の民もこぞってその穴を大領にとおるのである、全体量に比べて橋を通る人数の割合は増えない、地上と地底の境界は薄れて無くなりつつある、最早パルスィが存在する意味は無くなってしまったのだ。
用済み その言葉が脳裏を走る、体が震えた気がした。

パルスィは相変わらず、まるでなんでも無いかのように橋の上に立ち、煙管から突き出している。
彼女の心は最早もう殆ど見えなくなってしまった、辛うじて時々単語らしきものが見えるくらいだ。
これ以上見ると自分も危ない、やむを得ずパルスィの心を見ることを諦めて退避する。

その時だった、パルスィが煙管を口から取り落としたのは
からん からからからから
乾いた音を何度も響かせて煙管は橋の端に向かって転がっていき、そこで消えた。
パルスィは暫くの間まるで放心してしまったかのように虚ろな顔で、上を見ているような恰好をしていた。

「さとり」

その口から、しっかりとした言葉が刻まれる
間違い無い、まだパルスィは意識を保っている
だが、殆ど何も考えられない状態で何とか自分を保つことができるのはパルスィの持つ強靭な精神があるからだろう。
私は一字一句聞き漏らさないために耳を傾けた、そして次の言葉が刻まれる。

「ここから出て行きなさい」

紛れも無い、拒否の言葉
いつかは言われるだろうと思っていた、だが私はそれに従う気は無かった
私はここに居たかった、パルスィの心が完全に無くなってしまうまではパルスィを見ていたかった。
それが多分、私とパルスィの最後の繋がりとなってしまうから。

「嫌です」
「出て行きなさいって言ってるでしょうが」

何度も強い口調で歔欷される、私はここにいるべきではないと諭される
それでも
それでも私はパルスィの心が完全に失われるまではここに居たかった。
だがそれは許されない、無慈悲に僅かにも許容されない。

「出て行きなさい、もうじき私はあなたを襲うようになるから」
「…………断ったら、どうなりますか」


ぱぁん


その瞬間、頬に鋭い痛みが走った
叩かれたのだ、そう理解する暇も無く緑色の奔流が押し寄せてきた
決壊したような勢いでありとあらゆるものを押し流そうとする濁った緑が私を飲み込んだ。
緑に溺れそうになる瞬間パルスィを見ると、燃える様な緑色の瞳でこちらを睨みつけてる光がうっすらと私の意識に入り込んできた。
私にはその緑の光が彼女の精神を燃やし尽くして見せる最後の輝きの様に見えてしまう。
必死に抵抗を続けて、押し戻されまいとしているうちに、その瞳が懇願する様な物に替わって。

「ごめん、さとり」

声が聞こえた
ごめん?いったい何の事だ?
そう思うまでも無くパルスィの緑眼が見え、頭に鈍い痛みが走る


薄れゆく意識の中、緑色の波の合間に見たパルスィの顔は
私にはどうしようもなく悲しくて、泣いている子供の様に見えた



■□■



些細な切っ掛けから視界は暗転

意識は 無意識の内に過去に遡る



■□■



「地底に新しい都市が建設される?」
「ええ、前に私達が倒した猪の化生の衆がそんな事を考えていましてね、ついさっき町に出て詳しい情報を得て来たんですよ、知っている者は随分と詳しく知っているもので」
「ふぅん…で?行くつもりでしょ?」
「当然、噂を見る限りでは今地底は混乱の極みの様ですし、混乱に乗じてそれなりの地位とそれなりの居所を確保することが可能かもしれませんよ、こいし」
「ふぅん、ま、興味ないけどさ、お姉ちゃんがそのつもりなら付き合うよ」
「ありがとうございます」

既にこいしが第三の目を閉ざしてしまってから数年の歳月が過ぎた、あの頃は混乱したり困惑したりしたものだがいざそうなってしまうと慣れたものだ、自分の適応能力は意外にも高かったと言う事は確認できる。
しかし、このままではまずい、非常にまずい
こいしは私が生き残る事に協力してくれるようだが生憎にも無意識を操り、無意識に操られるようになってしまったこいしは策敵、情報収集、物資確保、生き延びるために必要なあらゆる行動にとって役立たずとなってしまった。
酷い言い方かもしれないが生き延びる為には肉親すらも道具として扱うと言う考えはこいしも賛同しているのでこれで良い、溺れる者は藁も掴むだ。
別に命をかけろという訳では無いのでこれで良いだろう、肉親だと思って変に同情なぞ掛けると後々面倒だ、家族の様な事は安住の地を見つけてからで遅くは無いだろう。

私は別に嫌われる事に対して特に嫌だとか苦痛だとか何だとかは考えてはいない、寧ろ離れてくれた方が落ち着くので良い。
しかし、心を閉ざす前のこいしはそういう考えは持てない様だった、仕方ないだろう、こいしは私よりも遥かに幼いし経験も少ないのだ、汚い事を知らないし苦痛にもまだ慣れていない、そんな柔らかい存在が冷たく厳しい外界の環境に着いていけと言う方が酷なのだ。

ともかく、追っ手として放たれた猪たちの化生、まあ化生と言っても僅かに知能を持った程度で満足に人型にもなれないようだったので化生もどきだが、それらを今日の食料として狩る前に妙な情報を得る事が出来た。

――――地上での生活に嫌気がさした鬼達が地底の旧地獄に新たな都市を建設しようとしている、他の嫌われ者の妖怪や地獄から押し付けられた罪人もそこに入る予定である

まあ、いわゆる法外者達の都市という訳だ
私が惹かれたのはその混沌具合、そして地底に降りる最有力妖怪が鬼と言う点だ
鬼は義理に厚い、嘘をつく者を許さないと言う特性があるが心の中では当然嘘をつくし悪心も当然ながらある、ならばそれを暴き立てる可能性のある私を恐れるのは当然、嫌う可能性と恐れる可能性があるのは半々だが半々なら十分に賭ける価値に値する。
恐れさせてしまえばあとは簡単、閻魔辺りに取り入ってちょいちょいと他の妖怪を牽制しつつあまり目立ちすぎない様に恐れを振りまけば自動的に召し上げると言う形で隔離地域に入れると言う算段だ。

隔離地域と聞こえは悪いが逆に考えると敵も寄せ付けないと言う事で、召し上げると言うのはそれなりの好待遇を得られると言う事で、それは正に私の望むべくした環境を得られると言う事だ。
どうせ私は他者に会わずに本を読んでいた方が落ち着くのだ、隔離地域だろうと何だろうと関係なぞあったものでは無いだろう、注意する点としたらあまりやり過ぎて反発を呼んだり思わぬ策に嵌ったりして牢屋とかにぶち込まれないよう注意するといった事だが、そうなってしまえば地上よりも面倒くさい事になるだろう、それを含めての賭けだ。

ともかく、これで面倒くさい環境とはおさらばだ、太陽が無いので美味しい食事はこりんざい食えないかもしれないがそれを考慮しても手も余りある程の魅力だ。
早速出撃する準備をしようと浮足立った時に聞き捨てならない情報が入って来た。

―――どうやらすでに収容は終了しているようだよ、今は番人が居るらしい

その後さらに詳しく情報収集を進めた結果更に以下の事が判明する
どうやら地底都市は封印されるらしい、地底都市の封印には二回の段階を踏むがその一段目は相互通行阻害の為の封印と罠、そして番人の設置らしい。
封印に関してはそれなりの知識があるし、大体軽度の結界と言うのはシステムが似通っているので少し補強知識を漁れば難なく突破できるだろう、罠に関しても大体鬼が設置する罠だろうから場所とどのような種類かは大体分かる、きっと力に任せた大規模な物に違いない。

そこで私が最も危惧しているのは番人の存在だった
鬼は周知の通り武力は最高レベルを保持している、多少の戦略や罠などはものともしない程の強さを誇っていて、しかも好戦的だ。
そんな鬼がわざわざ門番を建てる意味があるのか、噂によると門番は小柄で“いかにも”な影では無かったようだが果たしてそれは本当なのか、はたまた幻覚を使っているのか、見間違えなのか。
ともかくその門番に関しての情報こそが最も必要なのにそれはありえない程に情報量が足りなかった。
予想外に強過ぎて殺されると言う事態は勿論避けねばならないし逆に装備を固め過ぎていざ闘ってみると弱かったと言うのも無駄が多すぎてその後の対処が疎かになってしまいがちとなり危険だ、何事にも丁度良いという感覚が必要となる。

しかし、時間が無い
情報収集と準備を進めているうちに期限が来てしまった、つまり第二段階、地上の賢者の手による完全な封印だ。
もうこうなってしまえば私の手の届くところでは無くなってしまう、そうなれば次にこのような千載一遇の好機が訪れるかも分からない。

私は恐れられる事には慣れている
だが、それと死ぬ恐れが無いと言うのは全く別問題だ。
いつか後ろから刺されて死ぬかもしれない、罠に嵌められて死ぬかもしれない
勿論その問題は生きている限りはどこまでもついてくるのだが
私にはやりたい事がある
ゆっくりお茶を飲んでみたい、庭を作ってそこに花を植えてみたい、ペットを飼うのも良いかもしれない。
そしてこいしと、家族の様に付き合いたい
今、正体がばれれば追われる日々では出来なかった事が沢山ある、安定して住めないと出来ない事が沢山ある。
覚妖怪として生まれてしまったからと諦めるしかないのか、それで後悔を残しながら逃げて、逃げて、嘆きながら孤独に死ぬしかないのか。
嫌だ、そんなのは嫌だ
私は生きたい、生き延びるのではなく、生きたいのだ
諦めてやるものか、嘆いてやるものか、泣いてやるものか
例えどんなに苦汁を舐めようと、死んだ方が遥かにましだ思えるような状況にあっても、私は決して諦めたくなかった。
それで死んでしまったら全てが終わるのだ、望むべくも無く生まれて、望むべくも無く死ぬ、そんな命なぞ私は要らない。

もうじきに夜の帳が降りる、そうすれば行動を開始しよう、見つかるとまずい

「ん、行くの今日だっけ」
「ええ、こいしは…まあ、気が付いたら居ますよね」
「まあねー、多分居ると思うよ、居なかったら今生の別れかな?」
「物騒なこと言わないでください、こいしが無事地底につくかどうかも賭けに入っているんですから」

今回の冒険は偶然に偶然が重ならないと成功しない
だが元々残り幾らあるか分からない命だ、この大きな好機に全額賭けるには丁度良いだろう。

そろそろ、夜の帳が降りる
夜陰に乗じ、音も光の隙も見せず事を成し遂げる、成し遂げてみせる
封印の儀式が始まるまでは後一刻、それまでに近くに開いた穴から入りなるべく深くまで侵入する必要がある。
なにせ千年単位で発動する強力極まりない結界だ、発動時の衝撃がどこまで届くかは分からない、飛んでいる最中に衝撃波で気絶しそのまま真下まで落下なんてあってはならない事態だ。
まだ番人の居る場所も番人の戦闘能力も何も分からないが仕方が無い、成すように成るだ。

「さあ、行きましょうか」

返す声は無い
ただ、風が吹き抜けた
行きましょう、生きましょう
私は目的に向かって駆けた



▼△▼



計画は順調に、順調すぎて不気味に思える程に順調に進んだ
結界は予想よりも見かけだけの脆い物だったし罠も作動する気配が無い
一応警戒は怠らないものの、何も無い
静かだ 暗い どこまでも暗い








それに気が付いたのはそこが完全な暗闇だからだったからだろう
潜り始めて数十分ほど経った時、私はそれを見つけた
暗闇の中に光の灯る箇所がある、不気味な一つ目の様に明々と不自然なほどに光が灯る場所がある
喉がごくりとなった
この明かりが何の為にあるか分かっている、ここに何が居るかも分かっている
番人だ、番人がここで待ち構えている
近づいていくごとにその建造物の造型が明らかになっていく、岩壁をこそこそと進んでいるので速度は遥かに落ちるが間抜けに飛び回って撃墜されるよりは遥かにましだ。

橋だった
朱塗りのがっしりとした、立派な橋がそこにあった
なぜこんな水一滴の気配すらない場所に橋があるのかは分からないが拙い事になった、隠れる場所が無いのである。
しかも、番人改め橋守はとっくのとうにこちらに気が付いているらしく下から此方を正確に見上げていた
最早逃げる事は出来ない、諦めて堂々と降りる事にする
橋にとん、と降り立つまでには数分もかかる距離だったが見つけられていた、よほど勘や感覚が良いのか、それとも常時上を見ていてはならない程暇なのか。

橋守は見たところ何の武装もしていない様だった、地味な服を纏い、外套の様な物を羽織っている。
先程までは緊張で気が付かなかったがここは寒い、冬で無いと言うのに吐く息が白い、その寒さがここの深さを現わしている様だ、手足が震える。
橋守は相変わらずその場から動かない、ただじぃっとこちらを不気味に見ているだけだった。
心を読んでみるが特に何も考えていなかったし、本当は置物なのではないかと思ってしまう。


その状況のまま数分経つと、この番人の役割は威嚇なのではないかと思い始めた。
良くある話ではないか、ただの時間稼ぎ、もしそうならば私はまんまと引っかかってしまった事になる。
ひょうひょうと縦穴の上から強い風が勢いよく吹き抜けてくる、一日中これに吹かれているとなるときついだろう、詰所の様なものがあるか、そんな事を考えられる程度には余裕が出て来た。
そろそろ封印の時間まであと僅かとなって来たし、そろそろ下へと向かうか。
そう思って私は視線を僅かに下に向かってずらした










その瞬間橋守の姿が視界から消える





気が付いた時にはもう遅かった
姿が消えた事に気が付いた時には私は全く無防備な姿になっていた
そしてめきょりと嫌な音が体の内側から聞こえて、私の体は毬の様に後方に向かって吹き飛ばされた

一瞬視界が真っ白になって、そのまた一瞬後に地獄がやって来た
内臓が全て抉られて、肋骨が丸ごと複雑に折れたかと思わせる激痛
胃の中の物を全て吐き出しても収まらないであろう壮絶な吐き気
そして欄干に背中をぶつけた事から発生した呼吸困難
吐きたい、でも息が続かない
何とか指を一本噛み切り痛みで無理やり混濁する意識を取り戻す、ぼとりと嫌な音で吐き気の方が勝ったのか欄干から下に吐瀉物を撒き散らした。
ひゅうひゅうと喉が潰れた様な音がする、苦しい

油断した、違う、油断させられた
こいつの目的は何もしない事で一瞬の油断を誘う事だった
疑惑は時間を経てば解消され、安堵が残る、安堵は緊張を弛緩させ、油断を生む
指を噛み切った箇所から血が噴き出して仕方が無いので衣服を切り裂いて止血する、妖怪と言えど失血すると冷静な判断ができなくなる場合もある。

恐らくあの消えた瞬間橋守は横に回ってその勢いを利用して腹に一撃を喰らわせたのだ。
この一撃は後々大きくなるだろう、痛みは隙を生む物だ。
だが負けられない、負けたくない
腰から投擲用の短剣を数本取出し、懐からしゅるりと一本の短剣を取り出す、私が振り回しやすいように形状を改良させ、数日の間術を掛けながら砥いだ特別製だ。
まあ、この武器でどれだけ持つかは分からないがやる他は無い、橋守が動き出す前にこちらが動いてしまわないと。
私はすぐさま橋の対岸に向かい走り出した。




















ちぃん ちぃん と軽い金属音と共に退避する
手持ちの飛び道具は粗方使い切ってしまったし回収も難しいだろう
それよりも、さっさとここを抜ける方法を考えないといけない
反発の勢いを利用して飛びながら後退すると厚い木の床をがががと擦った


なんて番人だ
片腕を切り落としたのに庇う事もせず突っ込んでくるか
命が惜しくないのかとかそんな次元では無い、勝つことすらも考えていない
笑っている、血みどろのまま笑っている
顔から、手から、肩から、足から、ありとあらゆる所から血を流して赤く染まりながら狂った様に笑っている。

ちぃっ
欄干を足場にし、一気に橋守の上空数メートルまで飛び、下りざま残り少ない金属片を投げつける、当然打ち返され、一気に切りつけられるが何とか防御した。
そのまま着地し再びの突撃を防御する。


受け流す事が出来ない
普通の戦闘であったならば心を読んで行動を先読みし、受け流しつつ流し切りなりなんなりできるが、無理だ、考える前に行動される。
その結果攻撃を回避できず後手に回る羽目になり、結局は消耗戦だ、もう少し心を読まない戦い方を訓練しておくべきだった。
後悔したところで勝てるものでは無いが、この戦いは圧倒的に不利過ぎた、経験も何もかも私の方が格下だ。

だが

負けるわけにはいかない
膝をつき、ありったけの妖力をかき集める
呼吸が荒れて、意識がまた混濁する
慌てた様な声と、その数瞬後にこちらに駆け出す音
ガィインと鈍い音が辺りに響いて橋守と私の短剣が衝突した
掠れてゆく意識の中、橋守の緑眼が私を睨みつけていた
上から物凄い力で押さえつけられる中、読心能力を発動する
深くへ もっと心の奥 そこに封じられた記憶を暴き立てるまでに

「想起――――」

トラウマを、思い出させてやる
喜びを失った困惑を
裏切りを知った哀しみを
裏切られた憤怒を、身を焦がす様な灼熱を
そして、幸せな者への緑色の感情を

カラン
何かが落ちるような軽い音と共に重圧が消えた
まだだ、精神を崩壊させるまで、全てを暴き立てるまでは終わらせない

そして、痛みを
全てを忘れるような果てしの無い嫉妬を
あの人との宝を失う事への覚悟を
人の身を捨て去る事への覚悟を
ただ復讐の為のみに生きる鬼と化す覚悟を
殺戮を 殺戮を 殺戮を 狂気を

そして――――――――――――

ずむ
そこまでだった

「かっ………けはっ……」

喉をなにかが込み上げて、口の端からぽたりと零れる
それは紅い雫だった
私の腹から、腕が生えていた

「…油断したわ」

どこまでも冷酷な顔で見下ろされる、額には尋常では無い汗をかき、焦点は僅かに震えていても、声は冷静だった
ああ、この妖怪は――――この元人間は――――だから強いのか
意識がいよいよもって混濁し、闇に沈んでいく

「――――――――――――――」

何かが聞こえた気がしたが、もう私には聞こえなかった
最後に思った事はこいしの事と、この哀れな嫉妬の鬼が最初から最後まで縛られていた感情。
ただどこまでも強く、どこまでも哀れなただ一つの感情







それは  大きな空洞だった



■□■



そして 意識の帳は降りて

私は現実に覚醒する



■□■



目が覚めると意識が僅かに覚醒してゆく
ぼうっと、次第にあたりが見えてくるようになる
そのぼんやりとした意識で最初に目が捉えたのは地盤の黒い影だった、つまり私は今まで横になっていたという事で
なぜ横になっていたかと言うと、それはパルスィに橋の上から押し流されて――――

緑色の奔流
あらゆる感情を押し流す濁流
そして、その中に居るのは―――――――

そうだ パルスィは
ばっと目を覚ますのと同時に起き上がる
ぜい ぜい 荒い呼吸音だけが辺りの空洞に響いた どうやらかなり閉鎖された空間だったらしく嫌な音が反響するが気にならない
一瞬自分が何故、何の為に此処に居るのかを忘れていた、慌てて頭を振って強制的に意識を自我の下に置く、頭が歪んでしまったかのような痛みが走って、私は顔を顰めた。
だがそのおかげで意識がはっきりした、冷水を被った様に冷静になる。

痛みがじきに引いてゆくにつれて私は辺りをまんべんなく見回せる様になった、とはいえ痛みが完全に引いた訳では無いのであまり動く事は出来ないが。
ここは恐らくあの橋からかなり下の地点だろう、真下に落ちていない事から恐らくは横穴に入ったのだろうと言う事も分かる、ともかく暗い、これでは辺りの様子が分からない。
とは言ってもこの体の痛みだ、外に出て体力切れを起こし落下、なんて事になったら洒落でも無い、まだこの状況すら把握できない今は落ち着かなくてはならないだろう
ともかく体を横にして一旦状況を把握することにしよう

とは言ったところで私が知っている事は先程の事で殆どだ、それ以上の事実を私は知らない。
ただ――気になる点が一つある、どうしても見逃すわけにもいかない、要点のような存在がある。
パルスィの橋に貼られたあの護符、契約書の様なものだと言ったがあれには当然の如く必要となるものがある。
契約の内容、その代償
契約内容においては間違い様も無いだろう、代償についてはこの際考えなくても良い
ここで見逃されがちになる事が一番重要なポイントだ
『被契約者』と『契約者』の存在
一見当然だが見逃す事の出来ない落とし穴、それが契約者の存在だ
パルスィは当然契約を持ちかけられた被契約者に違いない、だとしたら契約を持ちかけたのは誰だ?“役割を終えた”抜け殻のような元人間に役割と場所、そして新たな命を与えたのは一体全体どこの誰だ?

答は既に出ていた
吸血鬼の種明かしを聞いて、全てが繋がった時まず初めに思った事がある

――――――――やってくれたな

嵌められたとは言わないまでも私に一言言ってくれても良かった筈だ、寧ろ役職上の事を考慮すれば言わなければならなかったに違いない。
明らかに報告ミス、いや、それよりも遥かに性質が悪い
これは明らかに隠蔽だ、要するに、言い出せなかったのだ、“消滅する筈の存在を輪廻から引っぱり出し無理やり別の仕事に従事させた事”を。
自らの役職上行ってはならない事をどうして言う事が出来るのだろうか。
だが、だからこそ私は許しがたい

あなたを

「そこに、居るんですよね」

閻魔 四季映姫・ヤマザナドゥを

緑色の髪を掻き上げて岩の影から現れた閻魔は観念したように目を瞑った
どうやら死神の方は今回同行していない様だ、もしくはどこかに行っているのか分からないが。
閻魔はいつもの様な服装でこの地に来ている、それがどんなことを意味するか私には薄々分かっていた。
閻魔がぼそぼそと何かを呟くと、ぼうと辺りに光が満ちる、閻魔は魔術の一種でも使えるのか、それとも閻魔固有の術法なのか分からないがそろそろ光が欲しかったところだ。
自分の体はあちこち擦り剥いたりしたらしく服は所々が破け、あちこちに裂傷があった、妖怪の身なのでこれしきすぐに治るが、それでも自分の体が傷ついているのを見るのは気が滅入るものだ。

閻魔は近くにある岩に腰掛けて溜息を吐いた
私は閻魔を許さない、ただ、四季映姫・ヤマザナドゥを責める気にはどうしてもなれない
彼女は恐らく必要に切迫していたのだろう、詳しい事は直接彼女の口から聞く事にするが。
また、溜息が聞こえた

「まず、謝っておかなければなりませんね」

閻魔が不意に切りだす、まあ律儀な彼女の事だから謝罪から始まるであろう事は予想していた事であるが
かっ かっ と硬い岩を踏みしだくようにこちらに歩いてきた映姫は私の顔をじぃっと見つめて頭を下げた。

「説明をしてほしいのですが」
「……分かりました、どこから話せばいいでしょうか」
「できれば最初から、事細かに」

分かりました
閻魔はいつものような無表情で、いつもの様に語り出した
全ての事の始まりを



■□■



四季映姫・ヤマザナドゥの裁判所に妖怪の賢者、八雲紫が現れたのは地上と地底の封印が完了するその三年前の事になる。

「地底と地上の境界の封鎖を行う?」
「ええ、でもこれは封鎖では無く封印ね、勘違いしないようお願いするわ」

急に現れた事にはもう慣れたものの、そこまで突飛な事を言われるのは映姫にとって初めての事だった。
前から鬼がどこか新天地を求めている事は知っていたし、そうなればそろそろ自分の方にコンタクトがあってもおかしくは無いと思っていたが予想外の方向から接触がかかったものだ。
勝手に自分が飲む予定だった茶を飲まれたので手持ちの本でぶっ叩きながらここに紫が来た意味を考える。
恐らく紫は鬼の代わりに来たのだろう、そうなるとただ単に私、ひいては是非局直庁に用があるである筈が無い事は間違いようも無いのである。

「まあ、私が此処に来た理由は大体分かっていると思いますけど」
「まあ、多少は」
「流石閻魔様、耳が早い、話も早ければ尚良いのだけど」
「…内容にもよります」

今日は裁判も忙しくないし話を聞くぶんには問題ないのだが、面倒そうだったら断ろう
そう思っていた私の前に一枚の書類が突きつけられた
書類の名称は辞令書、差出人は―――是非局直庁
紫は頭を押さえながら困った様に「いやー、これ取るのに苦労したわ、コネとか」と自慢げに語っている。
……どうやら逃げるわけにもいかない様だ、観念して話を聞くしかないのか。
だが、能力上不可能は殆ど無い筈の八雲紫を、眠気が最も弱点だと言う事に定評のあるあの八雲紫にここまでも行動を起こさせる要因と言うのは一体何なのだろう。
辞令を紫の手から受け取り、中身をざっと見てみる



辞令
閻魔 四季映姫・ヤマザナドゥ

内容
 旧灼熱地獄を鬼、その他その協力者に移譲し地底都市を建設することに助力する事
 そして完成後はそこの治安の維持に協力する事
 また、この協力者には八雲紫、星熊勇儀等四天王が補佐に当たるとする。
 尚、閻魔の業務はこれまで通り実行するものとする

期限
 本日から地底都市崩壊まで

                                 是非曲直長



…成程、そういう事か
地底都市の建設、及び用意を私に一任すると言う建前で私を仮のトップに据え、実質運営はこの胡散臭い妖怪と鬼達が行う、これならば是非局直庁という巨大なバックがある以上下手な手出しはできないし尚且つ私が仕事をするわけでもないので閻魔業務に支障も出ない、故に金欠が痛い是非曲直長にしてみれば痛手も無いし始末に困っていた灼熱地獄及びそこの残留物も処理に困らない、地上からしてみれば『居て欲しくない』妖怪を誰の不満なく実質追放することが可能となる、いわば掃き溜めだ。

えぐい事をする、他人の利己的感情と後ろめたい部分を最大限に突いた最上の策だ。
そんな事を考えられる辺り、流石は妖怪の賢者と言う所か。それともこれは組織の方が考え出した事か?ならば尚更吐き気がする。
私がさぞ嫌な顔をしていたからだろうか、紫はにぃっと口の端を吊り上げて笑った。

「と、いう訳で協力よろしくお願いしますわ」
「…はぁ、分かりました とは言っても私の仕事なぞ灼熱地獄の移譲程度ではないでしょうか」
「いえ それは重要なのですが更に重要で、厄介な任務が一つ」

世界を一つ構築するのには、境界が必要でしょう?
紫は扇子を口に当てて笑う
その言葉だけで紫が何を言いたいのか、何を望んでいるかが分かってしまう
まあ、数十年こんなことを押し付けられる仲で居れば嫌でも勘づくようになってしまうが。

「欲しい物は、番人ですか」
「流石閻魔様、見事、御明察♪」

ああ、だからこいつと付き合っていると碌な事が無いのだ
完全に降参と諦めの感情を込めた溜息が妙に虚しく書斎に木霊した。



■□■



「あなたも、あなたがよく分かっている通り地底に移住する住民と言うのは皆外界に対して何らかの恐怖か未練を持っています、後者は勿論の事、前者にも地底脱出の恐れがありますしなにより脱出幇助されたものならばこの計画は完全に崩壊してしまうでしょう」
「だからパルスィを、“地底に無関係で尚且つ自分の思い通りに動く傀儡”を仕立てあがたと言うのですか」

『仕方が無かったのです』
閻魔は何も言わないが後悔をしているのは分かる
地底に居ながらにして地底と無関係な、しかも不平不満を一切言わない
ありえない程の条件を満たす存在を作り上げるには閻魔と言えど大きな代償を払わなければならなかったのだろう、自らの良心に真っ向から反逆する行為を行うと言う代償を。
いかに組織から何を行っても良いと言われても映姫は善人だ、閻魔の鏡たる彼女の事だから組織と良心の板挟みにあった事だろう
組織に忠実になり良心を冒すか
良心に忠実になり居もしない者を探すか
そして、良心が折れた、現実を優先した

「私が橋姫に、退治され、存在が消滅する筈だったあの人間に渡した見返りは“再びの命”科した代償は“反抗心、及び疑心の消失”です」

それは死者に鞭を打つこと、輪廻転生の論理から外す事
閻魔として地蔵から志願した映姫にその決断を下させるとは、閻魔とはなんと業が深い物なのだろうか。
パルスィは妖怪だ、軟な退治方法で消える訳が無い
だが自分が望む事をやり遂げた後ならばどうだろう、自らの存在を賭けた目的を達した後その妖怪はどうなるのだろう。
簡単な話だ、存在意義を失った妖怪は限り無く弱体化する、容易に人間に退治されるほどに非力な存在となる。
妖怪と言うのは精神に依存する、存在意義の消滅と言うのはつまり退治されている、されていないに関係なく滅亡への一途を辿る事に他ならないのだ。

そこに映姫が現れる
彼女は死にかけの罪人にこう問いかける筈だ『生きたいか、死にたいか』
それは映姫にとっても大きな賭けだったに違いない、なにせパルスィが死ぬことを望めばそれで終わりなのだ、無理に契約させる事もできるかもしれないがその場合契約が無事に履行されるか分からないのだから。

しかし、パルスィはなぜ契約を承認したのだろう、それが自らを縛るものだとは彼女も理解していたはずなのに。
何か未練があったのだろうか、あの俗世に執着しなさそうなパルスィが未練を残すとしたならばなんだったのだろうか。
考えた所で理解することはできないだろう、私はパルスィでは無いのだから。
頭の痛みも体の傷も随分消えてきた事だし、私はひょいと立ちあがる。
外に出ようとすると閻魔は待ってくださいと私を留めた
『もうすぐ星熊と小町が合流予定です』、居ないと思ったら死神は別行動らしい。
ともかく映姫が言う通り余計な行動をするのは得策では無いだろう、私は勇儀達を待つことにした。



■□■



これですべてが終わる
川に入った時にはそう思っていたのに



■□■



目が覚めるとそこは全てを飲み込むような暗闇では無く、書斎だった
書斎、そう呼ぶのが一般的であろう其処は圧倒的な違和感を持ってそこに存在していた
まず一つに、本の量が尋常ではないのである、まるで図書館だ
隅から隅まで本棚と、そこには分厚い表紙を持ったいかにも重厚そうな雰囲気を出した本がみっちりと詰まっているのである。
異常な点はその本棚にも存在していた、訳の分からない字が刻まれているのだ
日の本語では勿論無い、いっその事海の外にある国の言葉であったならば訳が分からないの一言で済んだだろう。
しかしその字はどこかで見覚えがあるのである、まるで蛇がのたくったようなその字はやはり私の記憶の中にあるものだった。

――――――梵語か

不意に昔、寺でその字が書かれた書物を見た事を思い出す
しかし、なぜ梵語が書かれた本がこんなにあるのだろう、ここは寺に地下に造られた書庫なのではないか?
私がなぜここにいるかも気になる、私は確か殺しに殺しを重ねた末に人間によって退治された筈なのだから意識がこんなにはっきりとしている理由づけができない、まあ、私は死んだことが無いのでそこらへんはあくまで私の考えに過ぎないが。
手を触ってみてもきっちり受肉されている、しかもあれほどあった傷もあれほどべったりと付着していた血も無い。

ぱらぱらと本を捲って行くといくつかの図がみっしりと字の詰まった頁の中に入っている天秤、門、水車の様な物 
修羅や畜生、極楽浄土などいくつか覚えのある言葉もある。
しかし、これではまるで閻魔の書斎の様ではないか、人の身から逃げ出した私が閻魔の世話になるなぞなんの似非非似非事か。

「それが、そのまさかなんですね」

声が薄暗い部屋に響き渡った
思わず後ろを振り返るとそこにはなぜそこにある事に気が付かなかったのか分からないくらいに大きな扉があって、その前には緑髪の女が居た。
勝手知った様につかつかと私の横を通り過ぎ、どかりと大きな椅子に座りこむ様からこの部屋の主だと言う事は分かるが。

「あなた、閻魔なのかしら」
「ええ、閻魔をやらせてもらっております、四季映姫・ヤマザナドゥと言う名です」

閻魔
この女が 閻魔か
人間ならばそんな馬鹿な事をと言うかもしれない
だが私は人ならざらぬ身、この目の前に居る者が閻魔だと名乗っても何ら不信感を持たなかった。

「…それで、閻魔様ともあろうお方が私に何の用かしら」

聞くと、閻魔は困った様な、悲しそうな様な表情を浮かべた
そのまま数秒後、重々しい口調で閻魔は切りだす

「宇治の橋姫、嫉妬の妖怪 あなた――――もう一度生きてみる気はありませんか?」













「あるわ」


突飛な提案
私の生前の罪だとか そこに至る過程とか そんな事は考えつかずに、一瞬の間をおいて私の口から承諾の言葉が飛び出した。
閻魔は一瞬だけ驚いた顔をして、「良かった、もし拒否されたら実力行使をするところでした」とか物騒な事を漏らして息を吐く。
そこまで来てようやく私は自分がどんな提案をされて、それがどんなことを意味するかを考える。

第二の生か、その代償は半端では無い程大きいに違いない、なにせ私は罪人なのである
まあ、どこかの番犬代わりに使われるのが考えつくところだろう。
不思議と嫌にはならなかった、私はそういう事を嫌っていたはずなのに。
考えるのが疲れたのかもしれない、他人の狗になっても良いと思ったのかもしれない
ただ分かるのはその理由が決して前向きなものでは無いだろうと言う事だけだ。
なにせ私ほど暗い感情が似合う者は居ないのだから。



■□■



本当に それだけの筈だったのに



■□■



星熊勇儀、小野塚小町の両者が私達の居る横穴に降り立ったのはそれからおおよそ一時間程の時間が経ってからだった。
その頃にはもう私の体力もほぼ完全に回復し普段通り動けるようになって、正直暇を持て余している所だった、こんな事をしていないで早くパルスィの居る所へと急ぎたかったが行った所で私に何かできるわけでもない、それに勇儀も何らかの情報を持っているし小町も何らかを知っているようだ、待った方が得策である。

だが、得策を行う事と心の平穏は全く別問題だった
普段の私ならば最も適切な方法を取る事に何の躊躇いも必要ないだろう
だが、今は違う 一刻も早く駆けつけたいと言う気持ちが勝ってしまう
いらいらと岩盤の上を歩きながら待っている時間は果てしなく長い様に感じられた。

勇儀と小町は下から戻ってきた
小町は飛んでいるが勇儀の方は地面を蹴って駆けあがって来た、全く鬼の運動神経は凄まじい

「すまん、待ったか」
「……もう戻ってこないかと思いましたよ」
「…すまん」

多少の皮肉は笑って流されるだろうと思っていたが勇儀は深刻そうな顔で再び謝ってきた、本人にとっても堪えたのだろうか。
小町は映姫の傍により何かぼそぼそと呟いている、映姫はその報告を聞きながら頷いていた。

「勇儀、橋姫の様子は分かりましたか?」
「いや、無理だった 球体の大きさがでか過ぎて中の気配が全く分からん」
「球体?いったい球体とは何ですか?」

こっちだ、勇儀は私を横穴の外へと誘導した
そこを抜け、上を見上げた時に私はその“球体”の意味を把握する。


緑色だった
縦穴をまんべんなくみっしりと緑色の霧の様な、苔が生い茂り濁った水の様な流体物が渦巻いている壁がそこに存在していた。
と、言うよりもそれは壁と言うよりもまるで何かを中心とした一個の超巨大な球の一部のようにも見えるのだ、恐らく勇儀と小町はこれを上から見てきて突破口を探してきたのだろう、だがここまで塞がれているとそんな隙間なぞ見当たらない。

「小町の報告によりますと、この球体のうち五分の三程はこの分厚い緑色の霧に覆われているそうです」
「私も少し入ってみたがこの中は前が見えないし何かやばそうな雰囲気の奴も居やがる、とても大手を振って入れはしないな」

恐らく、と言うよりも確実に球体は橋、及びパルスィを中心として形成されている。
だがパルスィの傍に近づけない事を目的とするならばあまりにも広範囲過ぎて妖力の無駄過ぎるのではないのだろうか、これだけの球体となるとどれだけ力があり余っていても精々連続三時間程が限界だろう。

「映姫、あなたはまだパルスィがなぜこうなったか教えてくれていませんね」
「ええ、それはこの状況を見せてから話そうと思っていました、なにせこの球体が急激に変化するかもしれないので迂闊な移動はできなかったのです、訳の分からぬ説明をされても混乱するだけでしょう」

まあ、確かに説明だけされた所で理解できない事もあるだろう、百聞は一見にしかずと言う言葉もある、心を読めると言った所でそれはただの視覚情報であり百聞に過ぎないのだ。

「と、いったものの私が知っている事と言うのは今は役に立たないかもしれません」
「契約主であるあなたが知らないとは…どういう事でしょう」

話によるとパルスィをここに縛りつけたのは映姫だが
だが当の本人は『そんな簡単な話でしたら苦労は無いんです』と首を振る。

「確かに私は橋姫と契約ました、ですが彼女は―――地底が完全に封鎖された時には消滅する筈だったのです」
「それは…」
「…存在し続ける為に必要なのはあくまで『契約内容が試行され続ける事』です『橋の境界を護る』と言う目的の為に居る彼女は封印が完全に終了し次第徐々に消滅してゆく予定でした」
「用済みになったら要らない、そういう事ですか」
「ええ、予定では彼女は新都市として確立された地底には存在しない筈の―――“死んでいる筈”の存在だったのです」

存在価値の無い物は要らない、別にそれは何ら残酷な事では無いだろう、当然の判断だ
映姫には時間が無かったし地底にとって“地底を必要としない”事を条件としたパルスィの存在はイレギュラー、どんな影響を与えるか分からない不穏因子なのだ、嫉妬心を操る橋姫は親和性も低いだろうし地底の安定化を狙う者達にとってこれ以上居て欲しくない者は居ないだろう。


だが―――そうと分かっていても

「嫌な事ですね、理解していても」

閻魔が自嘲気味に呟いた
ぼうと緑色の淀みが揺らめく
嫌な事だ、確かに閻魔にとって橋姫は利用する者であり、それ以上でもそれ以下でも無かった筈だ。
それでも閻魔は、四季映姫・ヤマザナドゥは今その橋姫に仕事を命令したり食事を作ってやったりしているのだ。
果たしてそれが自分の罪滅ぼしか、それともパルスィへの罪償いのつもりか、それとも他の目的があるのか、どれにしても本当に道具としか思っていなかったら映姫はパルスィと関わりを持たなかっただろう。



しかし

「解せませんね」

それでは説明がつかない
パルスィが来る筈だった消滅を逃れた訳が
なぜ今まで消滅を免れて来たか
そして今になって再び消え去ろうとしている訳が
何もかもに説明がつかない

「私もこれ以上の事は分かりません」

映姫も首を傾げて困ったような表情を浮かべた
小町はもとより会議に参加する気は無いようで岩にもたれ掛かって目を瞑っている……いや、あれは寝ている。
閻魔は気が付いていない様で「ともかく」と話を区切る。

「分かっている事はこの問題を解決したいのであれば時間が何よりも重要なファクターだと言う事です、彼女が今どうなっているかは分からないですが時間が経てばたつほど修復が難しくなってゆくでしょうから」

しかし、何とかするにしてもこの巨大な球体がパルスィの周りを囲っている以上突破は難しいに違いない。
そもそもこの球体の存在意義は何なのだろう、パルスィに近づけないようにする為ならばこんなに妖力の消費が激しそうな方法を使わなくても良い筈だ。

「恐らく、この球体は橋姫を護ると言うよりもこの縦穴における地上と地底の境界を護る働きがあるのではないかと思います。だとするのならば今の橋姫は―――――」

分かっている
分かっていますよ

「『侵入者を排除する事しか目的を持たないただの存在』でしょう?」
「その通り、全くもってその通りです」

橋を守護する事
来訪者に加護を与え、侵入者には武力をもって制裁を加える事
それは彼女の存在意義 
ずっと昔から、まだ私と出会わなかったときも続けられてきた彼女の職務
それだけが独り歩きをして彼女との精神を乗っ取るまでになったとしたならばそれは

「なんと言う残酷な皮肉でしょうね」

それは何の冗談か
それは何の贖罪か
彼女は許されないと言うのか


許される筈だ、許されなくてはならないだろう
愛ゆえに人を斬り捨てて、それだけの為に全てを捨て去って
ただひたすらに、泣きながら求めようとした彼女を誰が恨むと言うのか
体のあちこちに傷を作りながらただ一途に求め続けた彼女を誰が責めると言うのか

確かに彼女は罪人だ、通るものを殺して見せしめにした恐ろしい妖怪だ
だが同時に彼女は誰よりも人間に近い妖怪なのだ、感情も、心も、何もかもが妖怪とは違う
妖怪になるには生温すぎて
人間のままでいるには厳し過ぎる
そんな彼女を誰が救ってやると言うのだ


行こう
パルスィの所へ行こう
今いかずにいつ行くと言うのだろう
私が助けずに誰が助けてやれると言うのだろうか

「行くつもりですか」
「当然」

例えそれが意味の無い行動だと言われても それが不可能だと言われても
それが無駄かどうかは私が決める 可能か不可能かなんてのはやらなければ分からないのだ。
このままここで待っていても事態は悪化するばかり
パルスィの異変について私に分かる事は少ない、だったら本人に直接聞くしかないだろう。
普通の妖怪ならばそれは叶わないだろう だが私には読心の目がある、呪われた第三の目がある
パルスィに心の残滓でも残っていたならば、私は何かを汲み取れるかもしれない
限りなく低い確率、だが私はそれに全額を賭けよう 全力を賭さなければこの賭けは成立しない。

ただ、それは私がパルスィに勝てたらの話だが

「さとり、とは言ってもお前は一度パルっこに負けたんだぞ」

その通りだ、まずはは勝たなくては先手を取れない、読心しようとして止めを喰らったのは良い思い出だ、何はともあれまずはパルスィに勝たなくてはいけない。

「難しい、限りなく難しい事です さとり、あなたはどうしてそこまで――――」

確かに、難しい
それでも私は進む

どうして?

「私は、パルスィを好きだからですよ」

そこに理由など要るだろうか
彼女の緑眼が好きだから
彼女と話すのが好きだから
そんな理由だけで十分では無いだろうか

「地霊殿にある武装を取ってこさせます、お燐ならば10分もかからないでしょう」

今と昔、パルスィがどう変わって、私がどう変わったのか
確かめる時が来たのではないだろうか



■□■




随分と昔の話だ

私と彼女が初めて出会ったのは



■□■



ぼうっと意識が浮遊を始めた
まるで水底から浮かんで行くかのような心地の良い浮遊感
私の周りから闇が少しずつ薄れていき、地上からの光が包んでいくような錯覚を覚える


だが、私は知っている
現実はそう上手くはいかない事を私は知っている
生温く辺りを包むようなまやかしを振り払おう、そんな物は要らない、私は現実のみに生きなければならない。
途端に周りを取り巻いていた幻惑的な光景は瞬時に掻き消え、私が待ち焦がれた暗闇が現れた。
一面の暗闇には慣れている、普通の者にとっては恐怖の対象であるだろう暗闇は、私にとって思考の海にどっぷりと浸かれるまたとない環境だ。
意識がはっきりとし、思考が冴えわたるにつれて疑問が次から次へと沸々湧いてきた

私は
私はどうなったのだろうか
脳裏にあの最後の瞬間、私が意識を失う寸前見た光景がフラッシュバックする

それはあの橋守の顔だった
燃える様に輝く緑眼
風も無いのに巻き上がる羽織
そして、何かを必死に堪えているかのような その険しい表情
その顔は、まるで人間の様な激情を灯していた


人の身を捨ててもなお烈火の様な激情に身を賭す者
あれは橋姫だったのか、元人間にして嫉妬の化身と化した妖怪
だが、あの時見た橋姫の狂気は明らかに尋常では無い威圧感を放っていた
血を体中から流しても笑い続けて、ただ侵入者を殺す為だけを考えて突撃を行う殺戮機関

明らかに人間離れした行動、そしてどんな妖怪よりも人間らしい感情
それらが相反して発生する事による違和感

それがなんにせよ、私は負けてしまった訳だが
ああ、負けだ 完璧にして覆しようのない敗北だ
もはや後悔すらも私の内からは消え去ってしまったようで
私は負けたのだ、負ければ死ぬ、死なねばならぬ それがこの世の理なのだ
こんなにもさぱっと殺してくれれば本望だ、もはや何も望むことは無いだろう




――――ああ、そうだ こいしは
私はそこに至ってようやくこいしの事を思い出した
すっぱり忘れてしまっていた私はやはり、姉として失格だな
そう苦笑しつつも次の瞬間には分析という目で冷淡にこいしを見ている自分に多少嫌気がさす

こいし
古明地こいし
私の妹にして唯一の肉親、世にも珍しい覚妖怪、そして長い間の相棒
今はその能力の大半を捨てたが、それによって更なる能力を得た者
無意識を操るなどという桁外れ過ぎる能力保持者
あの子であれば私が戦闘している隙に地底都市に侵入できるのも容易であるに違いない
何と言ってもあの子はそう言った事に昔から特化していたのだ
相手の裏を書く事、隙を突く事、隙を作る事、工作員という肩書が相応しい程こいしはそういった事に向いていた

昔から、そう昔から
あの子は訳の分からない事をよく言っては私を困らせていたものだった
ある時はその道は嫌だと言ってわざわざ遠回りをした
ある時はいつの間にやら大金を払って妙な物を買ってきてしまった
また、ある時にはわざと追っ手に気が付かれる事をやった事もあった

だが、こいしの脅威的、または驚異的な所はその全てが裏目になっていない事だ
遠回りをせずそのまま行っていたら土砂崩れに巻き込まれていた
大金を払って買った物を転売するとその二倍の金が手に入った
気付かれた結果こちらに向かってきた追っ手が絶妙な場所に配置されていた、誰かが仕掛けたであろう落とし穴にはまって絶命した

最初は凄い偶然だと感心した
それが続くとこれは使えると喜んだ
そして一番最後には―――――――

恐怖だ
私はこいしの事がどうしようもなく恐ろしくなった
あきらかに異常だ、こいしのする事なす事が全て上手く行く
恐らく、こいしは天性の勘と言うものがあったのだろう、それを駆使していたに過ぎないのだろう
生まれついて持っていた凄まじい勘、さとりの読心能力、俗世への嫌気、それらを捨てて偶然の産物として無意識を得た 心を閉ざしたこいしを見た時私はそう断定した。



――――お姉ちゃん

一点の光が。暗闇の中。遥かな先に見えた気がした
そこに映し出されるのは一人、見紛うもしない一点の後ろ姿
こいし、あの子はこれからどう生きるのだろうか
地底で頼れる者も居ないまま、ただふらふらと放浪し続けるのだろうか
私は、まだお姉ちゃんらしい事を一回もしていないと言うのに

こいし
待って
行かないで


そうして私は届く筈も無いのに手を伸ばして――――――――











むにゅ

手に、場違いな柔らかい感触が

むにゅむにゅ

ふーむ、柔らかい、大きさも中々だ

むにゅり

うむ、例えるのだとしたらば

「妬まし」
「黙らっしゃい」

その一撃で私は覚醒した
頭が地味に物凄く痛い、酷い事をするものだ

「まったく…人の家で呑気に数日眠りこけて挙句の果てには起きざま胸を揉むとか…あんたいったい何者なのよ」

呆れたように目の前の少女は肩を竦める、どうやら怒ってはいない様だ
『何でこんなの拾って来ちゃったのかしら、頭のどこかがおかしくなったのかしら』
こんなのとは随分とまあ失礼な物言いだ。
目の前のふわっとした金髪を持った妖怪は急に屈み込み、じいっと私の方を見た。

「へ?」
「いいから、良くその面見せなさい」

私の方を見つめるその瞳は燃える様な、緑眼だった
自らの薄暗い感情を燃やし続けている様な、そんな炎だった

「ん、まあ、特に大したこと無さそうね」

あれだけ喰らわせたのに、妙な所でタフなのね
その言葉の後にばたんと扉が閉まる音が聞こえて、そこでようやく私はまだ自分が死んでいない事に気が付いた。



▼△▼



扉を開けると鼻孔をくすぐる良い香りに気が付く、美味しそうな食事だ

「あらまあ、飯の匂いに惹かれて起きて来たのかしら、その食欲と元気さが妬ましい事ね」
「別に、匂いに惹かれて起きて来た訳じゃないですよ」
「ふん、どうだか」

つっけんどっけんな返事をするものの心の中では『ほら、さっさと座りなさいよ』とか言っている辺り憎まれ口は癖の様なものらしい。
ならば恐るるに値せんとばかりに用意されていた椅子に座り、自分の分に手を付けようとするとまた頭をぶっ叩かれた、痛い。

「……痛いんですが」
「食事の前にはいただきますと言いなさい、最低限の事よ」

いただきます?食事の際の挨拶だろうか
私は生まれてこの方食事の際にそのような掛け声は掛けたことも聞いたことも無いのだが。
そこまで考えてようやく私は目の前の妖怪があの時の橋守だと気が付いた。

「あなた、あの橋守ですよね」
「そうだけど?」

今日の食事は玄米飯、菜っ葉、そして僅かばかりの肉だ
それをもむもむとやりつつ橋姫は平然と頷いた
それが本当だとしたら私は今この間まで殺し合っていた妖怪と同じ食卓に居ると言う事になるのだが、それは一体どういう状況下なのだろうか。
頭を捻っていると橋姫は顎で私の目の前の食事をしゃくった、行儀悪い。
どうやらさっさと食えと言いたいようなので早速箸を持とうとしたが、確か挨拶をしろと言われていたのでまずは手を合わせて「いただきます」と言う、橋姫は満足げに目を瞑った。
いかさか無駄な儀式のように思えなくもないが郷に入れば郷に従えと言う言葉もある、今の郷は紛れも無くこの家だし、ここでは彼女が法なのだ、私も何が起こったかは分からないが助けられて、食事まで恵んでもらえるのである、挨拶の一つ程度、仕草の一つ程度さもありなん。




橋姫の作った食事と言うのは、あんな血なまぐさい事をやっていたとは思えない程に美味しかった。
そう言えば心を読んだときに分かったのだが、彼女は橋姫だった。
橋姫、嫉妬の化身、緑色の化け物
確か何処かで聞いたことがある、嫉妬の果てに鬼となって果てた者が居ると
裏切りの果てに人の身を捨て、妖怪となった者が居ると
恐らく、それは目の前の彼女だ 死んだと思っていたがこんな所にいたとは
もぐもぐとさもつまらなそうに食べ物を租借している姿からは想像だにできないが、この間の死闘からその戦闘力が衰えを見せない事は分かる。

しかし、いよいよもって彼女の意図が掴めない
私は彼女を殺し合いをした、今は治っているが腕さえ切り落とした
だがなぜ私を助ける?なぜそんなにも平然として居られる?
心を読んでも何の策略も見えない、それどころか恐怖すらも感じていない、私にはそちらの方が不気味だ。

まあ、とりあえず腹が減っては戦もできぬだ
目の前に美味しい食事が並べられている、毒も何も入っていない、食べねば失礼に値するだろう。
取り敢えず菜っ葉に手をつけたがこれは味が薄すぎた、彼女は薄味派なのだろうか。塩か醤油が欲しい所だ

「あの、橋姫さん?ちょっと菜っ葉にかける調味料が欲しいんですが」

また、あの瞳で見られた
睨みつけるように見られると思わず後ずさってしまうような気迫を持っている。
正直、心臓に悪い

「……パルスィ」
「うん?」
「水橋パルスィ、私の名前よ」

……これは、つまりこれから呼ぶときはその名を使えと言う事だろうか

「橋姫とか呼ばれると何か気持ち悪いのよ、それだったら水橋とでもパルスィとでも呼ばれた方が遥かにまし」

それに、私はそんなに偉くは無い
そう言った後橋姫改め水橋パルスィは再びもむもむとやり始める
パルスィ、異国風の名前だ 記憶から探るに恐らく自分でつけた名前だろう
とにもかくにも、まずは食事をとらねば話にならない

「パルスィ、水橋パルスィ、そこにある醤油を取っていただけませんか」

ん、口に食べ物を詰め込んだパルスィが醤油便を差し出し、私が受け取る
そう言えば久しぶりだった、誰かの名前を呼ぶのも、誰かの手に触れるのも



久々に触れた手は、私の冷えた手先には温かかった



▼△▼



自分の使った食器ぐらい自分で片付けろ、そう命令されたのでかちゃかちゃと食器を洗いながら私はこれからの事について考える。
一体あの橋姫はどうするつもりなのだろうか、自分を囲った所で何のメリットも無いだろうに。
最初は騙して私を何処かに売りつけるなり通報するなりすると思っていたのだが全くそんな気配を見せず今は卓袱台の前に座って編み物をしている、手袋だろうか、料理と言い編み物と言い器用な物だ、さっきなんか慣れた手つきで掃除をしていた。
あれだけ呑気にしていると幾らでも寝首をかき放題になるのではないかと一瞬考えたものの諦める。
例えぐっすりと眠っていたとしても私はそれをできないだろう、それに何の意図があるかは全くもって不明だが自分を助けてくれたのである、流石に心が痛む。

取り敢えず、ここで立ちっぱなしにしていても足が疲れるばかりだ、卓袱台の向かいに座るとしよう。
すとんとすっかりすり減った畳の上に座ってもやはり、落ち着かない
それはこの畳の所為では無い、目の前で平然と編み物をしているこの橋姫の所為だ。
普通ならばこちらをちらと見るなり何かこちらを意識した事を考えるだろう。
だがいつまで見てみても彼女は私の事を意識の片隅にも置かないのである、普通何かしらの形で意識するだろう、ますますもって分からない。
取り敢えず、声をかけてみる事にする。

「橋姫…じゃなかった、パルスィ」
「……なによ」

ああ、返事をしてくれた
かなり不満げそうな顔をしているがそれは作業を中断されたからだと考えよう.
しかし、呼んでみたは良いが何を聞くのかが分からない、行き当たりばったりに声をかけるんじゃなかった。
橋姫の方は『用があるならさっさと言いなさいよ』とか思っているし、どうするか。

「お手洗いはどこでしょうか」
「そこのつきあたりよ」

会話終了
まあ、丁度用はあったし行ってこようか



▼△▼



そして、またこの状態になったわけなのだが
相変らず橋姫の方は手袋を作っている、色は桃色の様だ、そこに白い糸で何か柄が編み込まれている。
しかしだ、気まずい、とても気まずい
何か会話の様なものがあれば随分と和らぐと言うものだが生憎この橋姫は不機嫌そうな顔で編み物を続けているし会話なぞして中断したら何を言われるか分かったものでは無い。

ふむ…しかし、何かしらこの空気をほぐさないと精神衛生上悪い、非常によろしくない
ここは勇気を持って話しかけてみるのが吉だろう

「編み物上手なんですね」
「そうでもないわ」
「…なにを作ってるんでしょう」
「見て分からないのかしら」
「……誰に習ったんですか?」
「さあ?忘れたわ」

駄目だった、ばっさりだ
質問が悪いのだろうか、でもあまり踏み込んだことを言ってしまうと更に険悪な雰囲気になりかねない。

どん どん

不意にノックの音が部屋に響く
パルスィはその音でようやく顔をあげ、扉の方を見た

―――――橋姫、巡回に来たぞ

その声で私はいきなり冷水をかけられたように我に帰った
巡回か、考慮するべきだった
どうせ巡回の警邏に引き渡すならばここで留めていた方が危険性が低いと判断したのかもしれない、そうなれば私はまんまと引っかかった事になる。
橋姫は立ち上がりつかつかと扉の方に向かっている、もう止めても無駄だろう
逃走経路は正面の扉のみ、壁でもぶち抜けばいいかもしれないが正直運試しだ、私の武器はどこにあるかは分からない。

詰んだか
橋姫は扉に手を掛けた
掛けたが、そこから動かそうとしない

―――――どうした?何かあったか?
「何も無いわよ、全く疑り深いのもいい加減にしないと鬱陶しいわ」
―――――む、すまんな だがこれも仕事だ
「いつもの通り、こっちには誰も来ちゃいないわ」
―――――分かった、それより今日は家に入れてくれんのか
「今日は掃除よ、あんたが来ると汚れるわ それと毎日家に来て酒飲むのは止めなさい」
―――――ははは、四天王ともなるとゆっくり飲めるところは少なくてな
「にしても毎日来るのは止してくれないかしら、なんだか侵入者を催促されているみたいで嫌だわ、仕事なんてしたくないのに仕事を思い出させるなんて妬ましいわね」
―――――む、分かったが…それでも隠れている輩が居るかもしれん、一週間に一度は来るぞ
「そっちの方がまだましよ、じゃあね」

こつこつと足音が遠のいていく、随分と大きな妖怪なのだろう、足音もよく響く
橋姫は何事も無いかのように部屋に戻って来ると臨戦態勢に入っていた私を見て唖然とした表情をした。

「まあ、まるで私を刺殺さんばかりに睨みつけて一体全体何をするつもりなのかしら」
「……いえ、あなたが私を引き渡すのかと思った物で」

はっ
橋姫は自嘲気味に鼻で笑った

「そう、別にそうしても良いのよ」
「勘弁してください」
「でしょう?」

どうやら、彼女は本当に私を助けてくれるらしい、失礼な事をした。
それにしてもさっきの巡邏、鬼の四天王と言っていなかったか、それならば大妖怪の一角に数えられる程の大物だ、そんな権力者を軽々とあしらい、そう言った行為が許されるというのは信頼にせよなんにせよ、それなりの何かがあると言う事だ。
行動と言い、この橋姫は分からない事が多すぎる。
目の前にずいと桃色の塊が押し付けられた、それ先程まで橋姫が編んでいた手袋だった

「地底の冬は寒いわ、血糊すらすぐに氷つく」
「まさか、これを私に?」
「要らない?」

今度は黙って手袋を受け取り、その場ではめる
橋姫の意図なんてどうでも良いのではないか、私は今生きているし、希望だってあるのだ
そう思える程度にはその手袋は柔らかく、暖かかった。



▼△▼



私が地底に潜入して、封印がかけられてからもう数ヶ月が経った
この橋周辺は特に妖怪も居ないせいか平和である、最近ここら近辺で起こった大きな事と言えば大岩が転がってきて危うく二次元の住民になりかねたとか、その程度の事だ。
数ヶ月、地上ではもう冬の寒さも完全に去って春の訪れを告げている頃だろうか、地底に季節の概念は無いもののあの身を切るように寒い思いはしなくてもよくなった、今では油断をすれば命が持っていかれる程の寒さだ。
地底の冬ときたら地上のそれよりも遥かに厳しい環境なのである、この先に着々と範囲を広げている旧都はまだ少しはましだがここらは特に厳しい寒さだ、なにせ寒さを吸収できる物がまるで無いので仕方ない事だが
靴をしっかりと履いて無いと足元からも体温を奪われる、パルスィから貰ったあの桃色手袋は今でも現役だ、隠れたい時には少々目立ってしまうがそれでも重宝している、しかしよく壊れないものだ、未だに僅かなほつれすら見えない。

さて、そろそろ着く頃だな
私の前にポツリと一つだけ灯る明かりが見えた
旧都に立つ建物より二回りだけ小さい掘立小屋の様な家がパルスィの住居だ、今は私も居候させてもらっている。
元々一人用にしても狭すぎる住居に二人が住むのにはいかさか狭すぎると思うのだがパルスィは一つの文句も言わないし苦痛と言うものを感じてはいない様子だった。

薄い木製の扉を開けると良い匂いが鼻孔に飛び込んでくる、地底には食料は粗悪なものが多いのだがよくもまあこんなに美味しそうなものが作れるものだ、無論非常に美味しいのだが。
頭から羽織っていた灰色のマントを剥ぎ取って壁に掛ける、パルスィは丁度台所で料理をしている所だった。

「今、帰りました」
「ん、お帰り」

数ヶ月、この間に替わったのは何も環境のみでは無い
それは私とパルスィが互いの事をなんとなくは察することができるようになるのには十分すぎる期間だった。
家に帰れば食事があり、風呂も沸いている、地底に来た時は風呂なんて無い物だと思っていたがここの近くには水源があるらしく水には困らないらしい、つくづく幸運である。
私も居候、というよりも匿ってもらっている立場なので家事はなんでも手伝うようにしている、もっともそれらはパルスィの腕には及ばないし「一人分やるのも二人分やるのも同じ事だ」とか考えているパルスィにとってすれば助かっているのかどうかわからないが。

「いただきます」
「いただきます」

共に食事をするのはこれが何回目だろうか、やはり食事と言うものは一人で食べるよりも二人で食べる方がいい。
居候し始めてからもうずいぶん経つが相変らず出て行けとも出ていくなとも言われない、不機嫌そうな目で見られることもあるがそれは大抵パルスィの調子が悪い時や眠い時、それに手作業を続け過ぎて疲れた時などが原因だと分かった、それを知った時はここ数日の緊張は一体なんだったのかと無力感に苛まれたものだ。
今日の食事は豚汁、と言うよりも野菜の味噌煮込みと言った方が正しいか、冷えた体に心地よい。

ここで暮らして随分と長い期間が経った、その間色々な事をしたものだ。
私も料理の心得は多少あったので手伝いがてら教わったり、軽い戦闘指南や地底でのルールなどを教わった。
そのお返しとして私も地上での経験や今まで心を読んだ中で面白かったことなどを話したり、珍しい体験を話したりした。
パルスィは覚妖怪の能力を一切恐れなかった、「だって、読めた所で大したことは考えてないし、重要な事はすぐ言っちゃうし、そうでない事はすぐ忘れちゃうもの、意味ないわ」だそうで、地底の妖怪と言うのは皆このように合理的な考えを持っているのだろうか。

だが、いつまでもぬるま湯に浸っている訳にはいかない。
私には目的がある、この地底と言う社会において確固たる隔絶された地位を獲得する事、その為に私はここに降りてきた。
既に準備の期間は終了していた、地上にいる間に行っておいた是非局直庁への根回し、地底の権力闘争にこれから加わろうと野心を燃やす者、既に行動を開始した物の調査、及びその近辺の情報収集、そして状況の設定
覚妖怪の能力を持ってすれば情報収集なぞお手の物だし力や精神力の弱い妖怪は脅して、そこそこの妖怪は上手く懐柔して味方に付ければ流れを私の望む方に動かすなぞ容易い事だ。
後は期さえ来れば勝手に私の望む方向へと動いてくれるだろう。
そうなれば私は地底の権力を譲渡され、保護と言う名の隔離を受ける事だろう、それはつまりここを去らねばならないと言う事だ。

……元々そのつもりだったとか、ここは私が住むには厳しすぎるとか、言い訳は幾らでもできるだろう。
私はここの生活を気に入っていた、身分や安全な住居など必要ないと思ってしまうぐらいには気に入っていた。
冷えた体に風呂は良く沁みこんで心地よかったし、家に帰ると気が安らいだ
だが、私は去らないといけない、今更過ぎるがこれ以上彼女の領域に居続けてはならない気がする。


もうじきに全てが大きく動き出す
関わった者の運命を掻き混ぜて滅茶苦茶にする渦が迫ってくる
彼女を巻き込んではいけない、なんとしても遠ざけないといけない
いつまでもぬるま湯に浸り続けた私が言う事では無いけれども、他人を巻き込む事に躊躇も無かった私が言える事では無いけれども。

言わないと、私はもうここには居られないと 今日中に出ていくと
言おうとしている、だが言えない
どんなに声を出そうとしても、喉は震えるばかりでちっとも声が出てこないのだ


ああ、私はどこまでも臆病者なのだ
得てしまったばかりに失うのが惜しくなるのは知っていたと言うのに
私はパルスィの家から出る事が出来なかった
失うのは怖い、得られないと辛い
どこまでも私は臆病者で、卑怯者だったのだ


「なにかあったでしょ」
「え」

驚いたような顔をすると馬鹿にしたような顔で見られた
時々この橋姫はこんな表情をする、まるでいたずらっ子の様な
それが子供であったのだとしたらまるで厄介では無いだろう、だがパルスィがしているという事は大いに問題だ
成長した女性がそんな表情をすると非常に蠱惑的で誘惑的な物になるというのを始めて知った
そんな表情をしている事は恐らくは彼女の無意識であろう、そんな効果を生む事は彼女の意図しない所であろう、それがいよいよもって厄介だ、危険と言っても良いだろう

時折見せる艶美な表情は、そしてそれが例えようも無く美しい時は思わず息を飲むだろう
それは向けられた者の隙を生み、本音を生む まるで引き寄せられるように視線が離れない
それを彼女が使いこなせていたとしたならば私は今までで一番危なかったに違いない、精神的にも、なんにしても
くすくすとパルスィは薄く笑った

「やっぱり、まあこれだけ毎日面合してりゃあ嫌でも察するようになるわよ」

ああ、私はパルスィにはかなわない
どれだけ足掻いても決して勝てない相手が居るという事を私は初めて知った

「……話があるんですが、外に行きませんか」
「いいわよ」

どうせ話すのだとすれば早く終わらせてしまった方が良いだろう
私はもう食べられなくなるかもしれない食事を頬張った。



▼△▼



橋の上はいつでも冷え切っている、頭を冷やすのには十分すぎる程だ
普段着に着替えた私とパルスィは欄干に寄り掛かっていた

静かだ
誰も喋らない

パルスィは黙って私が喋り出すのを待っている、無論私が喋らなくてはならない
だが、どうしても喋り出せない

怖いのだ
この作戦は成功する可能性は限り無く高いと踏んでいるが、それでも失敗の可能性はいつだって無視することができない程にはある。
もしも失敗すれば私はどうなるのか分からない、投獄されてしまうかもしれない、もし万事うまく行っても外出すらできなくなるかもしれない、こいしがいつまで経っても来てくれないかもしてない。
いつ失敗するか分からない、失敗すればどうなるかも分からない、成功したとしてもそれが自分の望む結果になるのかすらも分からない。

しかし、私がそれ以上に気に掛けている事があった
それはこの橋姫の事だ
私が此処を出る事を話してしまえば今までが全て無に帰ってしまいそうで怖い
そもそも私はただ居候していて、何故か同居していただけなのになぜこんなにも怖いのか分からない、そう言った事も言い様の知れない恐怖を生み出す。
最近自分で自分が分からない、パルスィの事が分からないのは前からだったが、自分の事が分からないのはもっと怖い。
覚妖怪は自分の心を読む事が出来ない、それをこんなにも恨めしく思うなんて思わなかった。

怖い
まるで自分以外に誰も居ないような暗闇に取り残されてしまったようだ

つぅ、と頬を冷たい雫が零れ落ちる
雫は次々と零れ落ち、やがては流れとなって行く
ああ、私は泣いているのだ、その時になって私はようやく理解した

「涙が…」

理性は冷静だ だが制御ができない
私は泣きたくないのに、泣かない様に強くなりたいのに

「涙が 止まりませんよぅ…」

感情の堤防は決壊してしまったかのように崩れて、私では修理する事ができない
どうしよう どうしようか
最早膝をついてぼろぼろと泣き崩れている私を冷静な私が見つめている
みっともなく泣き崩れている私の姿を見るのは気持ち悪かった



だが不意に

私を暖かな感覚か包んだ

「下らないわね」

ああ、そんな下らない事で悩めるなんて妬ましい
いつもよりも穏やかな声が聞こえた

「あんたが何故泣いてるのかなんて分からないし、そんなの私は知ったこっちゃない」

目の前にはよく見知った服の模様があり、鼻孔をよく知っている香りが通り抜けた
良い匂いだ、ふわふわして 私を慰めてくれるような、そんな匂いだった
ああ、私は抱きしめられているのだ
心の何処かがそう理解した
前に抱きしめられたのはいつだっただろうか、母親にされたかもしれない、もしくはされたことなど無いのかもしれない。

「でもね、この地底で努力するべきことは泣かないようにする事じゃない、泣かないような環境にする事よ。寒けりゃ暖房をつけりゃいい、寂しけりゃ動物の一匹二匹飼えばいい、そういった事に努力の方向性を変えた方が良い、これだけはよく覚えときなさいな」

自分が変わるのではなく、周りを変えればいい
涙を飲む者なぞ一銭の価値も無い、重要なのは動く事、嘆きなぞなんの役にも立たない。
それが地底だ、地上の塵溜めにして法外者の楽園 そこにまかり通る暗黙の了解
いかにも鬼達が作った世界だ、力こそ全て、能力こそ全て
だが私にとってすればそちらの方がやりやすい
私には生まれ持った能力がある、大抵の者であれば怯え退る程恐ろしい能力がある

抱きしめられたまま袖で涙を拭く

「パルスィ、私は明日から旧都に行きます」
「……へぇ」

そうだ今更怖がってどうするのだろう、今更恐れてどうするのだろう
地底に来た時も賭けでは無かったか、一寸先が闇なのは私達の日常では無かったのか

「もしかしたら二度と外に出れないかもしれません、地上に居た頃よりも辛い目にあうかもしれません」

恐れはある、足は当然竦む

「それでも、行くんでしょ?」

だが私は勝つ、必ず勝って見せる 望む物は自分で手に入れてみせる
私は勝ってきたからこそ生きている、生きているからこそ此処に居る

「ふふ、人に甘やかされて奮起する様な奴にそんな事が出来るかしらね」
「できます、できますって」

そう言えばまだ抱きしめられたままだった
パルスィを振り払って立ち上がる

「なぜ助けていただいたかは分からないですが パルスィ、今までお世話いただきありがとうございました、もう会う事も無いでしょう」

そうだ、私の着想通りに進めば私は隔離される、それはもうここに来る事は出来なくなるという事で、つまりは私とパルスィはもう会えないという事だ。
パルスィは黙っていたが、不意に顔を顰めた

「いっ…」
「どうかしました」
「いや、少し頭痛がしただけよ」
「…頭が、痛むんですか?」

ふむ、頭が痛いと
少々苦しそうに顔を顰めるパルスィを見ていると不意にいい考えが浮かんだ
そろそろとパルスィの後ろに回り、思いっきり抱き着く そのまま右手で金髪を撫でると見た目に反してふわふわと気持ちいい感触がした

「ちょ、なにするのよ」
「なにって…頭を撫でてるだけですが」

特に深い意味は無い、ただの仕返しだ やられっぱなしではつまらない
パルスィは暫く抵抗を続けていたが。私がどく気も止める気も無い事を理解したのか溜息一つ、それっきりの抵抗しかしなくなった
パルスィのくすんだ金糸は、その見た目に反してよく手入れされているのか柔らかく、良い香りがした。
これでパルスィも見納めだと思うとなんだか名残惜しくなってきて半ば抱きかかえるようにしている左腕に力を込める。

「もしかしたら、もしかするとまた会えるかもしれませんがね」
「ふぅん…じゃあ、もしももう一度逢えたらどうするのかしら」

そんな事はありえない
ありえない、が もしもと言う事もある
事実は小説より奇なり 
私がまだ生きている様に運命とやらが気まぐれをおこしてまた私とパルスィが会う事があるかもしれない
そうしたならば

「その時は、そうですね…数日に一度はここに来ますよ」

私がパルスィにまた会えるとしたら、嫌がらせの様に来てやろう
パルスィの料理をまた食べに来るのも良い、偶には私の所に来させるのもいいだろう
そう パルスィは頷いて、僅かに微笑んだ

胸が、疼いた

“それ”はパルスィと話している時に時々垣間見えるいつもとなにも変わらない微笑だった
なのになぜ、こんなにも心が疼くのだろう
見ていると目が離せなくなって、まるで張り裂けるようにズキズキと心が痛くなる様で

「また、どうかした?」

僅かに心配そうな顔をしたパルスィがまた聞いてくる
大丈夫では無い、大丈夫ではないがこれ以上心配をかけるわけにもいかない
手を振って大丈夫だと断ち切った

「では、荷物をまとめるとします」
「あんたの荷物なんてその身一つぐらいしか無いじゃない」 
「自分の身を整理する、つまりは風呂に入るという事です」
「また入るの?」
「入り納めですから」

隣り合って話しながら家へと戻る
縦穴に吹き抜ける冷たい風が、私を先へ先へと押している様な気がした



■□■



その胸の疼きが恋だと知るのは それからだいぶ経ってからだった



■□■



真っ暗だ

何もかもが光無く、ただくすんで見える

下を向くと私の足はとうに消え去ってしまっていた
腕は―――分からない 私にはもうそこまでの力は残っていない
私の全妖力、全存在はここを護る結界に費やされてしまった

なぜ結界を張ったのか私には分からない
ただ私のどこか知らない所から命令が来たようにこの結界は私から勝手に発動し、力を吸い取り続けている
持って、後一時間か
自分でもすぐそこに終わりが見えてきた
それぐらいすれば私の存在は終わりを告げるだろう

私とは一体何なのか
何の為に生きるのか
それすらも忘却の彼方に沈んでしまった私に果たして生きる価値なぞあるのだろうか
昔は何かを覚えていた気がするがそれすらも失われてしまった
ただ、私の中には途方も無い程大きな虚無だけがある

暗闇
ただ何もない空間
私の中に湧き上がるこの感情は恐怖だろうか、それとも寂しさだろうか





何かを待っていた気がした
私を救ってくれる筈の存在を待っていた気がした
昔 一度救われた
もう一度私の事を救ってくれるはずだと 盲目的に信じていた
だが     来ない


分かっている
もうそんな者は来ないだろうと言う事は
奇跡は一度きりで十分過ぎた








なにかが


何かが降りてくる


何者かが侵入してくる


侵入者だ
あの結界を越えて侵入者が入って来た
勢いよくその場から立ち上がり、体勢を整える
腰の苦無も飛び道具も、鞘に納められた短剣も完璧だ、いつでも迎撃できる
侵入者が橋に降り立った 

まずは様子を見る そして油断をしたら一気に詰め寄り攻勢を仕掛ける
今回も侵入者は油断した 私は駆けより鋭い蹴りをお見舞いする

何故か足が戻っている事に気が付いたのはその時だった



■□■



「それで、昔封印がかけられたときパルスィはなぜ消滅を免れたんでしょうか」

迫り来る狗の形の化け物を斬り捨てながら映姫が問いかけて来た
巨大だ、一体当たり私の倍の背はあるだろうか それ程丈のある化け物がこの結界の中にはうじゃうじゃと居る
まあ、でかいだけなのでそのアドバンテージを覆せるほどの実力があればただ鬱陶しいだけなのだが
しかしまあ、上からは巨大な鳥が急降下して来たり下からはよく分からないものが沸いて来たり、中々退屈しない場所じゃないか

「戦うとか楽しそうとか、あなたはそんな事しか考えないんですか」
「鬼ってそんなもんだ、退屈を紛らわすには体を動かしたり酒を飲むのが一番なのさ」

腕を振ると化け物はすぐさま霧散する、手ごたえが無いと言うか何と言うか



パルっこが消滅を免れたのはさとりが何らかの干渉を施していると私は踏んでいる
そもそも古明地さとりと言う妖怪が地底の権力闘争の裏で姿を見せ始めたのは今から数十年前の話になる。
奴は狡猾で用意周到、しかも極めて用心深い、確実性のある勝負を好む、恐らくその影を見せる前数か月には地底で必要な事をあれやこれや調べていたのだろう、それぐらいやっても当たり前だと思える程の妖怪だ。
始めてその姿を見せたのは是非局直庁から派遣された閻魔の傍だった
あの時はただのお茶汲みかと思っていたがそれが次第に会議に口を出すようになり、席に座るようになり
その意見が極めて的を射ていたり名案だったりすることが多かったので会議に居座らせることになって
一部の者が仕掛けに気が付いた時、既に古明地さとりは地底における大部分の決定権をその手に納める程の影響力を保持するようになっていた
まったくもって、私達なんかより遥かに怪物じゃないか

数ヶ月
そう、その数ヶ月前だ
昔 パルっこが今と同じような状況に陥ったのは、つまり地底と地上の封印が成されたのは。

疑問に気が付いたのは古明地さとりが地底殿改築を終えた時開かれた宴会での事だ
その時さとりは表舞台に出て来なかったがそれが疑問の始点となる。
古明地さとりと言う妖怪は極めて用心深い、隠れる術も身に付けているに違いない
だが、数ヶ月の間誰の目にも晒される事無く地底内をくまなく歩き回れることができるだろうか、移動中は心を読めるから良いだろう、だが奴にも食事睡眠の必要があるだろう、隙を全く見せる事無く数ヶ月間普通の精神でやっていけるだろうか?

ありえない、ナンセンス、フィクションだ
普通ならば精神に何らかの異常をきたし、生命活動に影響を及ぼすだろう
だが私達の前に現れたさとりはそんな様子を微塵も見せることが無かった
それはなぜだ?演技だと言うのか?

そこで私は一つの仮説に行き着いた
さとりが姿を現わす前、私はパルっこと話をしなかったか、もうじきあるべき場所に行ってしまうだろうあいつと話していなかったか。
しかし今あいつは何事も無いかのように橋の上に居る
この二つは繋がっている、もしかすると古明地さとりはあのときパルっこの家に居たのではないか

パルっこに殺されたはずのさとりが何故生かされたのか
さとりはあいつに何をしたのか
その答えは分からない、ただあの二人の間に何かがあったことは確かだと思っている。

「成程、詳しい事情は後で本人に聞いてみるとしましょうか」

一体の巨人をビームで穴ぼこだらけにした後映姫が肩を竦めてぼやいた。
そうだ、後で聞いてみる事にしよう 
一人では無く、二人を問い詰めてやるとしよう
今頃激戦が起こっているであろう下を見下げてもそこにあるのはもうもうとした緑色の靄だけだった。

さとりは成功するんだろうか パルスィは戻って来るのだろうか
分かる筈の無い問いを繰り返すよりも私は目の前の化け物を駆逐することにした
橋姫と同じ、緑眼を持つ異形の物達を



■□■



「始まったね」
「ああ、始まったな」

私は横で楽しそうに殺し合いを観戦する妖怪を横目で見る
まるで空のような青い髪を持つ少女、いや少女面をした何か
古明地こいし
こいつと私は橋姫がここに来る前からこの横穴に待機していた
当然あの緑色の奔流ももろに受けたが私は桶に籠る事で難なくかわした、こいしの方は…よく分からない
しかし、この光景もこいつの思い通りの物だったのだろうか

地霊殿の主 古明地さとりがパルスィに向かってナイフを投擲し、橋姫 水橋パルスィがそれを難なく弾き前方に突撃する。
それを再びさとりが腰から引き抜いた短剣で防御、金属同士がぶつかるイィィィィンと反響する音が響き渡った。

これは、殺し合いだ
地上では日常の様に行われていると言う弾幕ごっこなどとは違う、正真正銘本物の命の削り合いだ
獣の咆哮のような叫び声が聞こえたと思えば水橋が短剣を、それもいつか見たあの禍々しさを溜めこんだような逸物を何の躊躇いも無く振り払った所だった。
勢い負けした短剣は勢い良く振り払われ、鮮血が舞った。

古明地こいし
こいつは目の前で斬りつけられているさとりの妹の筈だ
それなのに、こいつはどうしてそんなに笑っていられる?
お前はこの姉を助けたかったのではないのか?
そもそも、こいつの目的は何なのだ?
私はただこいつに「面白い事がある」と言われてから協力を受け入れたのだ

そもそも、「面白い事」とは一体何なのだ?


「こいし、古明地こいし  何を考えている」
あはっ
問いに答えたのは、まるで零れ落ちたかのような笑い声だった

「ねえ、すごい、凄いよ、あはは、パルさんとお姉ちゃんが戦うのなんか久しぶりに見たよ、凄いなぁ、やっぱり命の削り合いだなってね、はは、あはは、あははははは、凄いよぅ」

顔を紅潮させ、呂律すらも回らないように興奮した面持ちで見開いた眼を眼下に向けていた。
もしやこいつは、これを見たいが為に今まで暗躍を繰り返していたと言うのか。
ただ自らの姉を殺し合いに参加させたいが為にこんなことを引き起こしたと言うのか。

狂っている

「まさか、そんなはず無いでしょ」

と思っていたら普通に返された
さっきまでの興奮はどこへやら、今はいつもの古明地こいしだ。

「………対応が追い付かんね」
「そう?キスメの方がいつも飄々としてると思うけど」
「本物に比べたら形無しだよ」

元々私は他の妖怪に比べて弱い、その事を補う為にいつもは隠れたり目的をはぐらかすようなことをしたりしている。
だが目的を持たず、ただそうあれかしと振る舞うような奴とは絶対的に違う、敵わない。

「だが、まだ目的が分からんね あれだけ派手に暗躍しておいて目的が無いわけあるまい」

くくっ くくくっ
堪えようのないかのような笑い声
がばっと立ち上がり 腕を大きく横に広げて私の方に向き直る
鮮血を散らし、命を削り合う者以外誰も居ないこの空間の中
今、興奮が最高潮に達した演者の口から高らかに宣言が下された

「さて、この場に居合わせた幸運な淑女の皆様 今宵の宴最大の見せ場にて締めにございます」

ぱっという音と共に橋の茶の上にまた紅が咲いた



■□■



次の攻撃は投擲、10時方向から3発、3時方向から2発、上空から4発
普通なら避けきれない投擲量と配置だが私は難なく躱す事が出来る

まず右旋回を加え、反対方向に向き直りつつ右前方に、重心を水平に維持したまま移動、回転の勢いを維持したまま振り向き様右から来た3発を弾き、そのまま軽く飛んで足元の2発を難なく躱す、右頬に1本の苦無が通ったが気にもならない
すぐに殺到する上空からの投擲にはそのままバックステップで回避し、最後に右足で大きく後ろに後退する

一回、二回、三回

しゅぅっという鋭い風切り音と共に先程まで私が居た位置には短剣が水平に通っていた、気付けなければ首が飛んでいただろう、なにせ今のパルスィは全力でこちらを殺しにかかっているのだ


来る

突撃の失敗を理解したのかパルスィの一瞬思考と行動が停止したように動きが無くなる。
が、直ぐに次の行動、次の次の行動へと対応できるように動きがシフトしていく様は正に戦闘の為にあるような物だと間抜けな感動すら覚えた、心を読めていたのだとしたらさぞ凄い物が見れたに違いない。
続いては突進、それも微妙に左旋回を加え威力を強め、更には飛び道具を配置し逃げ切れない様に威圧を含ませたこちらも避け辛い一撃。
この攻撃は避けきれないので大人しく衝突の際に発生する衝撃を逃がす方に力と精神力を注ぐ事にする。
こちらとあちらまでの距離は約11m、それを3歩で突撃する様はまるで軽い三歩必殺でも似ている様だ
ごぃぃんと到底細身の短剣が激突したとは思えない音と共に右手と左手に衝撃が走った
ぎゃりぎゃりとしのぎを削る嫌な音と共に短剣を捌き、攻撃の失敗を理解するよりも先に後ろに向かって飛びずさったパルスィに3発短剣を投擲する
当然この一撃は難なく弾かれ、パルスィは私から目測10mちょいの所に着地した

私は動かない、次の攻撃を誘う様に半歩進めると足元に2発の苦無が刺さった
緊張から来る汗が次から次へと流れているのを感じる、前髪もべったりと額に張り付いてしまって鬱陶しい。

左手に3本、苦無を腰から抜き取り接近してからパルスィの足元に向かって投擲、バックステップしたところに更に追撃を加える、その体勢は避けにくいに違いない
更に苦無2発を投げながら短剣を右手で構え、更に追撃用の苦無2本を用意、勢いを殺さずにそのまま突撃

この後パルスィがどういった行動を取って、その結果どうなるか
私には分かっている、分かっているがそれと覚悟できているとは全くの別物だ

逃げ切れない事を理解すると同時にパルスィは後進の勢いを利用して突撃してきた、差し違える覚悟と言うのはこういう事なのだろう
私は左へ回避を行いつつ短剣で横薙ぎ、パルスィは微妙に軌道を変えてこちらも横薙ぎ
結果、パルスィの剣は私の脇腹を軽く擦った程度だが彼女の脇腹は大きく抉り取られた、苦悶の声が耳に届く。

パルスィの攻撃は考えうる中で最良の躱し方ができた
だが、私の方も嫌な感覚に襲われている
軽く擦った程度の脇腹からは電流の様に不快なピリピリとした感覚が走り、更にはまるで数百、数千の見えない程小さな小さな蟲が蠢いている様な気持ちの悪いうぞうぞうぞうぞと言う感触が脳に伝わって来ている。
それと同時に鋭い激痛が、抉られるのとはまた違った、まるで真冬の日に頬を思いっきりつねられたような痛さ。

先程私が競り勝ったのはあくまで短剣の間合いがこちらの方が長かっただけ、もし逆だったらと思うとぞっとする。
つぅっと頬を撫でると僅かに血が滲んでいた
パルスィの方を見るとあれだけ抉る様に斬った筈の傷口はもう半分ほど塞がってしまっている。






「いいですか、もしもパルスィに何らかの契約の効果が履行されていれば彼女を完全に殺しきる事は非常に難しいでしょう。」
橋に渡る前に映姫が言っていた事を思い出す
「なぜなら彼女が契約によって受けるのは束縛のみではありません、同時に加護を受ける事もできます。よって今の彼女は橋の上に居る限り体力面ではほぼ無敵でしょう、幾ら攻撃を加えられても傷は回復しますし瞬発力、持久力、跳躍力などもいくらか上がるようになっています」
「しかし、私が前パルスィと戦った時、最後の方では私と同じような回復力だったと思いますが」
「恐らくその時には八雲紫が結界を構築し終えたのでしょう、その瞬間契約によって発生する制約も加護も徐々に失われていきますから」
「成程」
「ともかく、現在橋姫の状況が分からない以上その効果が継続しているか確認は不可能です、失われていればこれ以上の事はありませんが、まだ継続しているならば…それは私の契約外の何かの要素が働いていると思われます、極めて厄介な事になるでしょう、覚悟しておいてくださいね」





「覚悟しろって言われたってですね…」

私にはどう覚悟したらいいか分からない
パルスィの傷が異常なペースで回復しているというのは、つまり加護が働いているという事であり、それはつまりまだ契約が完全に履行されているという事なのだ。
この世とあの世を繋ぐ契約の不履行によりこんな状況になったはずなのになぜ契約が完全に履行されているのか、矛盾だがそれが今まさに目の前で起こっている以上その言葉だけで済ませる訳にはいかないだろう。

しかし、この場合どうすればパルスィを大人しくさせる事が出来るのだろうか
私は何もパルスィを殺すつもりでこんなことをしている訳では無い、パルスィに僅かな心でも残っていれば僅かな希望があるのだと閻魔は言った。
方法は一つ、契約の再履行だ
閻魔が使った契約札を支点としてパルスィに新たな契約諸々を科す事で何とか繋ぎ止める事が出来るかもしれないと閻魔は続けた。
無論失敗する可能性もあるし、もう心の残滓なぞとうに残っていないかもしれない、成功してもどうなるかは分からない。
まるであの時の私だ、運命とは何と嫌らしい奴なのだろう。

まあ、大人しくさせてしまえば後はこちらの物
普通ならばそこからが大変なのだろうがこちらは生憎そう言った事にかけては右に出る者は居ない程の能力を持っている、となると一番の問題は戦闘と言う事だ。
勇儀か映姫に頼んだ方が早いという者が居るかもしれないがそれは違う、パワー重視の勇儀も、そして映姫もパルスィを沈黙させるには十分すぎる程の火力を持っているだろう。
そこからが問題なのだ、予想以上の火力を使われたパルスィがどうなるのか分からない、もしかすると過負荷によって本当に消滅してしまうかもしれないのだ。
そうなるとこの戦闘に参加できるのは実質私のみと言う事になる、こいしは連絡が取れないしキスメやヤマメはいつ捕まるかも分からない、協力してくれない可能性の方が高いだろう。

だが、パルスィに勝つことは私にとって不可能に近い事だ
なにせ私の体力やらが全盛期だった時においても私はパルスィに勝つことはできなかった訳だから当然の所、散々動く事を避けて来たので今では比べようも無いだろう。
現に今の私の体力はもう限界に近くなってきている、こんな事になると分かっていたら運動ぐらいしていたのに、後悔先に立たずだが。
正直初見でこの動きについていけるかも怪しい所だ、心を読めるという利点が無いのでまあ確実に無理だろう。
では、なぜ私が今まで耐えて来れたのか
それは私がパルスィの行動を全て分かっているからで、パルスィが私の行動を全て分かっているからだ。
無論イレギュラーな何かが入るかもしれないが外的要因はこの緑色の霧が封じているようだし、今のパルスィに自立行動を取る余裕はないのではないかと踏んでいる。
私の行動は私がパルスィと戦った時の行動をすっかりそのままトレースしている、いわばパルスィの行動を私が制御している状況だ。
故に当時の戦闘をそのまま再現しないといけない私は勇儀と映姫に戦闘の補助すら依頼することができない事になる。
しかしこの戦法を取っている以上“あの地点”まで私が負けることは無い、これが私の立てられる唯一の策だった。

全く、机上の空論にもほどがある

とっくのとうに体力など尽き果てた、予備としていつもより多めに持ってきていた投げナイフはもうすっからかんだ。
やはり、上手くはいかないものだ

急に距離を詰めたパルスィの一撃を腹に食らう
この作戦はあの時の戦闘を完全に再現する為、避ける事も食らう事も全て再現しなくてはいけない。
食らうと分かっているのに避けられないというのは中々に恐ろしい物だと気が付いた。
確かこの後、私は橋の欄干に叩きつけられて、立ち上がり際に苦無を3本投げるんだった、後ろに転がるようにして吹っ飛ばされながら腰に手を当てる。


私はそのまま橋の欄干に叩きつけられて―――――





そのまま、視界が一回転した





「ぇ…」


混乱できる暇も無く、私は真っ逆さまに落下してゆく 辛うじて上を見上げると一部だけ大破した橋の欄干が

しまった、如何に外見が変わらなくとも橋も朽ちるのだ、こうなる事を予測しておくんだった 部分改修をしたならば弱い所も出てくるというのに。
この体勢だと持ち直して飛び直す事が出来ない。

終わりか

これで、全てが終わりなのか



畜生







――――私がお前に科す制約は









そのまま私は緑の海に落ちて行って



橋の欄干に着地した


「おっ、とぉ」

慌てて橋の内側の方へ降りる
周りを見渡してもそこに在るのは何の変哲も無い、いつもの様な橋だ 違う所と言えば先程ぶち開けた破損部分のみか。
だが、落ちたはずの私が何故ここに着地したのだろう
何故



――――この運命を見事捻じ曲げ、ハッピーエンドで終わらせてみなさい



ああ、そうか
あの悪魔との契約か
契約が成立するまで私を縛り続ける鎖、それは同時に悪魔の加護を受けると言う事も意味する。
だが、あの時それを聞いたのは紛れも無く私の口で私の意志を持ってそれを開いた。
だとしらならば、それは何を意味するのか。

「どうしようもなく道化師ですね、私は」

いや、マリオネットと言うべきか
自分の意思で動いたつもりで、実の所自分は何も考えてない。
ただ操り主の思うままに操られ、舞台の上で孤独な道化を続ける。
意思はあるつもりだ、行動も制御できているつもりだ、だがそれらは何一つとして自分のものでは無い。
だとしたら、私は誰の為に道化師になる?何の為に道化を演じる?
決まっている、決まっているとも

短剣を斜めに構え、向き直る
思考は冷静だ、どこまでも澄み渡り、体のどこにも不要な物は無い
私が望めばそれらは確実に働いてくれる、命令伝達速度も上々
ああ、これがいつもの私だ いつも通りの私だ


――――なに、弱気になってんだか

そうだ、私が弱気な事を言った時、諦めそうなことを言った時、彼女はいつだって口癖のようにそう言っていた。
弱気になった所で何も変わらない、そんな下らない事をするよりもやる事があるだろう。
取り敢えず動いてみるとか、暖かい物を食べるとか、弱音を吐く奴には何もできやしないのだと。
そうだった、彼女はいつだってそうだった
誰の手も借りないほど強かった、誰も反論できないほど辛辣だった、誰も近寄れない程に冷淡だった。
だがその裏もある、彼女は弱い者に手を差し伸べるだけの優しさがあった、言動は冷たいがその後ろには温かさがあった。
地底に最も適した何にも影響されずに信じる事をやり通す冷たさと、地底に最も適さないその性格。
自分の意志を持ち、それを確固として実行できるだけの強さ。
それは緑色の靄に覆われていたが、私は心を読めるのだ
私はパルスィに憧れていた、その心の在り様に眩しい何かを感じていた。

私のしたい事は私にしかできない 成すべき事は私しか知らない

もう迷わない
私は、パルスィを救う為に此処に居る 重要なのはそれだけ
つぅと宙に鯉口を切る それが戦闘の再開を示す合図だった。



「さあ、第二ラウンドです」

私は負けるわけにはいかない、退く訳にもいかない
踊ろうか、この橋の上で
私が道化師だとすればパルスィはきっと踊り子なのだろう、実にぴったりじゃないか
ナイフをまた何本か投擲する、最早数は覚えていない 体が勝手にそうなるように動く。
パルスィはそれを突撃しながら弾き、避け、奪取し私の方に向かって投げ返す、ひゅんという音と共に私の耳元をナイフが掠った。

それでいい
パルスィが戦っている限りパルスィは消えることは無い
突撃を右にかわし、背中に短剣を突き立てて引き抜く 真っ赤な血が橋にぼたぼたと降り注いだ。

一緒に踊ろう、舞台はこの誰も居ない橋の上だ
私がくたばるか、パルスィがくたばるか それまでは付き合おうじゃないか。



▼△▼



懐かしい

ふっとそんな事を考えた
目の前には短剣を持った侵入者が一人、たった一人だ
だが中々仕留められない、巧みに私を誘導して攻撃をかわしてくる

ああ、面白いな
久方ぶりに味わう愉悦に表情が緩んだ瞬間左手に一線の違和感が走る
目の前にはいつの間に近寄ったのか短剣を振りかぶった侵入者の姿

そして、宙を舞う誰かの腕
ああ、あれは私の左腕だった

侵入者を蹴り飛ばし、後退する
傷口はすっぱり切られたのか血が吹き出しているものの、見た目に反してそんなに痛くは無い まあただ単に痛覚が麻痺しているのもあるだろうが。
左腕が無いことなど私にとって大したことでは無い、決着をつけるのに腕は一本で事足りる。

そうだ、私はこの侵入者と決着をつけなければならない
必ずやなんらかの決着をつけなければ私は消える訳にはいかない

あれ、なぜ私は決着をつけたがっているんだか
どうでもいいか



▼△▼



一瞬の油断を突き、パルスィの左腕を切り落とした
途端に強烈な蹴りが浴びせられ、欄干に背中が激突する
呼吸困難に陥るが舌を噛み切らんばかりに刺激して何とか立ち上がる、相当無理をしている所為でもう体はぼろぼろだが、それももうじき終わるだろう。
ここから先は台本無しのぶっつけ本番、勝率も何もかもが分からない完全運試しの戦闘となる。
私は過去、パルスィのトラウマを想起しようとして敗北を喫した、どうやってパルスィの隙を突けばいいか、どのように術をかけたらいいか。

いよいよもってパルスィの攻撃が激しさを増してきた、本当に片腕だけなのかと疑わしくなるほどの強烈で猛烈な攻撃の嵐が襲い掛かる。
飛んで来るのを躱したと思えばすぐさま逃げた先に短剣が躍る、それを後退したと思えば今度は鋭い蹴りが突き刺さる、捌ききれずに足に、肩に何発か食らう。

隙を見て反撃したいがこう激しくてはまともに物を考える事もできない、それどころかまともに前を見る事すらままならない。
昔であったならばここらで焦りが生まれてくるだろう、焦りはミスを生み、それは敗北へと直結する。
だが、私は焦らない 焦っても何も変わらない

ねぇ、パルスィ
私達は変わらないかもしれないけれど、周りはどんどん変わっていく物なんですよ?
変わろうとしなくても、周りはどんどん変わってゆく物なんです。
それぐらいは分かっているでしょう?

懐から一枚の札を取り出す
それは私達が戦った頃には無かったルール、新しい世界から来た新しい規律

それが、スペルカードルール

宣言すると同時に私から弾幕が発生する
まずは周囲を薙ぎ払うかのような光線 その後規則性を持って放たれる大玉
大玉の密度と速度は早いと言えど当然パルスィは難なく躱し、詰め寄る 私はただひたすら避け続け、そのパターンを放ち続ける

しかし、それも長くは続かなかい
私から大量に発射される大玉の一つの影から現れたパルスィは一気に駆け、私を吹き飛ばした。
堪らずに後方に吹き飛ばされ、それでも弾を放ち続ける私にパルスィは更に詰め寄り確実な止めを刺そうとした。



パルスィは勝ちを確信した、心を読めなくともそれぐらいは分かる
半ば自暴自棄の様な攻撃、体勢の不利 いずれを取っても私の方が勝機が薄い
だから油断した 油断して何の確認もせず突っ込んできた
短剣が私の腹に深々と突き刺さって









私の体が 爆ぜた
途端に私を模した“なにか”から夥しい量の打ち返し弾が四方八方に炸裂する

私は、本物の私は既にパルスィの背後に居た
こういった事に勘の良い彼女の事だ、思考能力を失っていようとももう仕組みに気が付いている事だろう。
私の手には一枚の札、一番初めに使用したスペルとはまた違ったスペルカードが一枚


想起「シロの灰」


要するに、私はパルスィを嵌めたのだ
私はパルスィには敵わない、直感も運動神経も何もかも敵いはしない
ならばどうするか、どのように勝つか
決まっている、私の持ち得る全てを利用し、全力で挑む事だ


私が持ってきたスペルカードはただ一枚 

想起「恐怖催眠術」

この系統のスペルの火力は全スペルの中でも最下級だろう、だが重要なのは火力では無い、能力だ。
本来ならば相手を催眠に掛け、トラウマを抉り出し、想起させ易くする為の言わば導入のような効果を持つこのスペルはこういった場合に様々にして絶対的な効力を発揮することができると自負している。

どんな精神に強力な物でもそのトラウマの片鱗を想起し、それを介して発動することができるのだ、それがよく知った自分のスペルカードであったならばどうだろう、心の殆どを失っていたとしても、もしその残滓が残っていたとしたらどうだろう。
正直の所、この行動は賭けだった、だが結果は見事に成功した。
この成功はつまり、パルスィに僅かなりとも心の残滓が残っているという事になる。
しかし、流石に威力が劣ってくる 元々トラウマと言うものはよほど念入りに催眠をかけない限りは無理やり引きずり出したところでその効力は本物の数分の一が良い所だろう、ましてや心が殆ど死んでいるとなったらどうだろう、下手すれば数十分の一だ。


だが、それで十分だ
このスペルの目的はパルスィの攪乱
そして攪乱の目的は私の術を用意する時間を稼ぐ事だ
この催眠スペルのもう一つの利点はあらかじめ導入部が用意されるので“本物”の術をかける時間が大幅に短縮できることに在る。
あの時はえらい時間がかかったがこの方法を使えば何とか間に合うかもしれない。
全く、妖怪の賢者も便利な物を考えついたものだ、その点は感謝したい。



少し、後少し時間があれば全てが終わる

だがこの世を操っている神様と言う奴はとことん私の邪魔をしたいらしい、本当に嫌な奴だ
パルスィがこちらに気が付いた、そしてこちらが何をしようとしているかも
こちらとあちらの距離は、彼女が本気で走れば4歩と持たないだろう 万事休すか



一歩
パルスィの肢体がぐいと伸びたかと思うと途端に大幅な距離が詰まる



二歩
右腕の短剣を腰に構え、そのままの勢いで突っ込んでくる
私は何もできない、思わず喉が鳴った



三歩
パルスィはぐいと短剣を深く構え



そして四歩
夥しい量の何かが上から降って来た
白い紐のようで、粘着性があるのかパルスィを絡め取って離さない
それはまるで

―――――蜘蛛の糸?

疑問は持たなかった
ただとうとう組み終った術式を叩き込むためにわざわざ近づいてきてくれたパルスィに襲い掛かり
当然パルスィは抵抗しようとしたが反応が間に合わず






「想起しなさい」




私は、パルスィの記憶へと潜り込んでいった



■□■



しゅぅっと軽い音と共に横穴にヤマメが入って来た
こいしは軽くヤマメに会釈をしてありがとう、と言ったきりまた橋の様子を見る事を再開した。
正直、この展開は予想していた
私に声をかけるぐらいだ、“それ専用”の予備兵を用意する事ぐらいやってのけるだろう。
私の横に座りこんだヤマメは「いやー、ヒーローは一番ピンチになった時に駆けつける者さ」とか地底においてそりゃ無いだろうと思うようなことをのたまっていた。

「…あんたもこいしに頼まれた口かい」
「まぁね、キスメもこいしに乗っかったのか」

からからと笑うヤマメを尻目に、私はこいしを問い詰める事にする
なんせ先程からじぃっと橋を見つめているばっかしで説明も何もしていないのだ。
橋姫の異変の原因はあのどでかい船が開けた風穴だろう、そう思っていた、だがその程度の事でこいつが動く訳が無いのだ。

なにがある?
古明地こいし、いったい古明地さとりの妹である彼女は何を知っていて、どこに持っていこうとしている?
私にはさっぱり理解できないし予想すらもできない。

その時、すっくとこいしが立ちあがった
橋の方を見るとさとりがパルスィの頭に手を掛けて何かやっている所だった

「よしよし、全てが上手く行った 後は賽が再度上手く振られるのを待つだけだよ」
「古明地妹、お前は一体何をしようとしているのかいね?何が目的なんだい?」

にこにこと笑っているこいしに問いかける
今までの様子からすると聞かれてなくともおかしくは無いと思ったがこいしはにぃっと口の端をせり上げて私の方を見た。

「実はね、私はお姉ちゃんが地底に潜った時に一緒に入ってきて それ以降もずっと一緒にいたんだよ」
「意地の悪い妹も居たものだ」
「まあね、でもそのおかげで色んな事が分かったよ」

そして

「昔々、ある橋に宇治の橋姫がいましたとさ」

全てを知る者の昔話は始まった。



■□■



昔話をしよう
それは私がいつだって思っていた事
思って、想って
それでも決して叶わなかった昔話



■□■



館の中は予想通り薄暗い場所だった

「で、私をこんな所に連れてきて一体どうするつもりなのかしら」
「もうじきだよ、橋姫のおねーさん」

目の前をくるくると回りながら変てこな妖怪が進んでいる
こいつの名前を古明地こいしと言うらしい、私とこいつが知り合ったのは数日前の事になる。
きっかけと言えば大したことは無い、私が橋の上でうとうととしていたらこいつが目の前に居ただけだ。
最初の頃はてっきり侵入者だと思って追い払おうとしたのだがその気は無いようなので放っておいたところどうやら懐かれてしまったらしい。
最初の頃はこちらの緑茶を強奪したりするだけだったのだが、今では勝手に家に侵入して来るまでになった、たった数日でそれはやり過ぎではないかと思うが怒っても聞きそうにないので言わないでおいている。


「おねーちゃんを紹介するよ」そう言われたのはつい先ほどの話だった。
普通なら準備なりなんなりする時間が欲しい所だがこいつはいつだって強引なのだ、私の腕を引っ張っていざ突撃、小さな女の子が腕を引っ張っている光景と言うのは何だか微笑ましい物を感じるかもしれないが生憎こいつは見かけによらず怪力を持っている。
人から化けたといえど私も鬼の端くれ、それなりに力はある筈だ だがこいつはそんな事はお構いなしと言った風に有無を言わさず私を引きずるようにして連れて行ってしまう、訳が分からない。


この傍若無人迷惑千万支離滅裂を形にしたやつの姉貴なぞ手におえない様な奴に違いない、そう決めつける程にこいつの言動は訳の分からないものが多かったが、行き着く先が最近地底の権力者の位置についた奴が住んでいると噂されている地霊殿だと気が付いた瞬間それは半ば確信めいたものになった。
住んでいるらしいとは随分とまあ曖昧だが仕方が無い、どうやら住んでいる妖怪が隔離されたか誰にも会いたくないのかは知らないが他者を寄せ付けないのである。

引っ張られ過ぎて痛む腕について行きながら私はさて、こいつの姉貴がどんな奴なのだろうと想像する。
果たしてこいつと同じような妙な言動をするのだろうか、それとも逆に理路整然とした思慮をする奴なのだろうか、もしくはこいしを更に酷くしたような奴なのだろうか。

そうこう考えているうちに地霊殿の入り口に到着した
私が地霊殿と言うものを見たのはこれが初めてだが、しかし厳つい建物だ
荘厳な門は入ろうとする者全てを拒む、その脇に建てられている像は侵入者と脱走者を見張る、重厚な煉瓦造りの壁はあらゆる攻撃を阻む、まるで要塞のような建物だ、
ここに住んでいる奴は一体何に怯えているのだろうか、何から自分を護ろうとしているのだろうか。
ぎぎぎ、こいしが隠してあるスイッチを押すと思い音を建てながら扉が開いた。
扉と言うのは中と外の境界だ、それを隠しているという事はつまり、そういう事なのだろう。



地霊殿の内部は薄暗かった
なにせ照明と言える照明が無いのである、申し訳程度に揺れている蝋燭がかえって物悲しい。
広い建物だが、何と言うか、生活感が無い
ここの住人は一体どれぐらいいるのだろうか、もしかしたら主一人しかいないのかもしれない。
もしそうだとしたら面白くも無い話だ、せめて沢山の妖怪に囲まれて笑顔でいたならば妬みがいもあると言うのに。
地霊殿を建てた奴は欠伸を堪えながら無駄に長い廊下をただ作業のように歩くというのは大変な苦痛となるという事に気が付かなかったのだろうか。



歩いてゆくと階段があった、例に漏れずこれも無駄に大きい
昇るのか、そうこいしに聞こうとぐるりとまわりを見回してみるがどういう訳かこいしは行方不明だった。
あの遮蔽物も何もない廊下で行方不明となるとは如何に、と思ったが私はただ淡々と廊下を歩いていただけなのでどこで別れてしまったかは分からない。
仕方ない、引き返すか、そう思った矢先




こつ こつ



上から足音が聞こえた
軽い足音だった

一瞬こいしがもう先に行ってしまっていて、私を探しに降りて来たのかと思うがどうにも様子がおかしい、何と言うか、先程までの元気さが無く、どこか重々しいと形容した方が良い様な足音だ。
やがて上から何者かの影が降りてきて、私の方を見ると同時に息を飲む音が僅かに聞こえた。
何か予期しない事があって、驚いた そんな小さな吃音の様な響きだった。



こつ こつ



影は徐々に私に近づいてきて、そこで私はようやくその影が誰なのかに気が付く。
背丈はこいしよりも頭半個分高かった、胸にはこいしと同じ、しかしこちらは桃色で目蓋が開き、不気味な目玉がむき出しになっているのがすっかり見えた。

「こんにちは、愉快な侵入者さん」

ああ、私はこの妖怪を知っている
この妖怪の事を知っている
知っているとも

そうだ、彼女は 彼女は―――――――――――
そこで私の思考の意図は途切れた

「こんにちは、引きこもりの覚妖怪」

ああ、何と言う事だろう、何と言う悲劇だろうか
私は彼女を“知らない”これっきりとも“覚えていない”故に彼女を“思い出せない”
ああ、ああ
悲鳴とも嗚咽とも思えない様な心の声は、しかし心の隙間に吸い込まれて消えた

「確か貴方は、橋の方の番人をしていた水橋パルスィとお見受けしますが役目を放っぽり出してどうしてこんな所に?」
「拉致されたのよ、あんたの妹に」
「ああ、こいしの事ですか ご迷惑をおかけした様ならすみませんでした」
「まあ、いいんだけどさ 居なくなっちゃったのよね 全くどこ行ってんだか」
「それがあの子ですから仕方ありません それにしても、何処かで会った事はありませんでしたか?」

ああ、その質問には答えられない
頭の中にノイズがかかった様になって、何も考えられなくなってしまう
もどかしい
手を伸ばしたいのに、まるで何かに縛られているように動けなくなる

「無いわね」
「そう、ですか」

じぃっと地霊殿の主の顔を見つける
そこに全てを示す答えがあるかのように
だが、当然ながらそんな事をしていても話は進まない、何も思いつかない
全ての原因は私に在るのだから

かちり
一旦外れていた歯車は全てが元に戻り、また新しい音を刻み始めた

ああ、会いたく無かった
こうなってしまうのだったら、私はあなたに会いたくは無かった
せめて会わなければ、私は何も考えずに済んだのだから

ああ
どうしてだろうか

「パルスィ、もし初対面ならば…私が覚妖怪だと知っているのはなぜでしょう」

私は知っている
なぜかって、私はあなたと戦ったから、短い間だけれどもあなたと共に暮らしたから

「こいしに聞いたのよ」

だが、口をつくのは辛辣ないつもの口調 返って来るのは辛そうな、何かに我慢しているような表情。

「では、私についてどう思いますか」

ああ、その答えは決まっている
私にとって、あなたはいつも、いつだって

「厄介な奴」
厄介な妖怪なのだから



▼△▼



私の心と心が同調したのは、それっきり、そのただ一回きりだった



▼△▼



燃える様に熱い激情のままに浸かった水はどこまでも冷たく、まるで私の全てを凍らせてしまいそうだった

流れる川はまるで激流のようで 私の何もかもを押し流してしまうような激しさだった

何も思わなかった 何も感じなかった

それは、考えたくないと言った方が正しいのだろうか 

こんな馬鹿なことをしでかしているのは実の所復讐心に駆られてでは無く、ただ単に何も考えたくないからなのかもしれない

何も考える事ができなければそれはどんなに幸せなのだろうか

そうだ、気が付いてしまうからこんなにも悲しいのだ 

簡単な話だった

失う悲しみは、得る喜びと同じ 失いたくないのであれば得なければいい

そう、得なければいいのだ

臆病と言われようと何と言われようと良い あの身を裂くような苦痛はもう味わいたくはない



ああ、目の前が急に暗くなってきた

もうじき私は死ぬのだろうか 死んでもいいか

どっちにしろ、私にはもう何もないのだから

心すらからっぽで 何も持っていないのだから失い様も無い


そうして、意識の帳が降りる



▼△▼



何の皮肉か冗談か それとも悪意か陰謀か
本当に鬼になってしまうとは思わなんだ

裏切り者をまず殺して
手当たり次第に殺して殺して 
目の前を血で染め上げて
それでも足りないからまだ殺して
都を恐怖のどん底に落として
それでも私は満たされなかった

当たり前の話だ
得たくないからこんなことをやっているのだもの
こうすれば、誰も私に会おうだなんて思わないのだもの
誰も私を見ない そこにはただ恐ろしい緑色の化け物が居るのみだ
それでいい そうでなくてはならない



危機をもたらす害悪は必ず退治される宿命の元に生まれる
私だって例外では無かった
人間が元人間を裁くとは何と言う事か 思わず苦笑が口から漏れる
さらばこの世よ せめて散りざまは格好よく逝こうじゃないか

すでに片手片足きりになって もはや残るは襤褸布のようになってしまった身体のみ
ああ、もうこれっきりなのだと思うとなんだか不思議な感じだった

空っぽの心が疼いたけれど 私は迷わず川に向かって飛び込んだ



▼△▼



そこで、私は覚醒する


「……うぇ 気持ちわる…」

起きて早々吐き気に襲われ 便所へと掛け込む
自分が一番狂っていた時期と言うのは見たくない 今の私を形成した出来事と言うのは間違い様も無く私の中で最も呪わしい出来事だから。
誰が あんな出来事をもう一度見たいと思うのだろうか

部屋に戻ると元侵入者――古明地さとりと名乗っていたか それがすぅすぅと穏やかな寝息を立てて眠っていた
胸には覚妖怪である事の証である第三の目が不気味にこちらを見ている、さとりが寝ていたとしても心が読めるのだろうか、だとしたら夢の中にでも出てくるのだろうか 考えようによっては恐怖だ。



本来ならば鬼に引き渡す筈の侵入者を態々匿って
なぜ私はこんな事をしているのだろうか、こんな面倒な事をする性格では無かった筈なのに
地上でも折り紙つきの嫌われ者妖怪を家の中に引き込んで、その癖何もせずにただ成すがまま、全く何をしたいか分からない
侵入者の方も最初は私を警戒していた物の、次第に傍若無人になっていくし。
本当に訳が分からない


この状況を打開するのは簡単だ、定期的に来る勇儀に侵入者を引き渡す それだけの行為で私は元の孤独を取り戻す
なぜそれをしないのだろうか、今の状況は私の望んでいるものでは無い筈なのに


――――そうかしらね

誰かの声が聞こえた
それは、紛れも無く私が一番聞きなれた声で 一番聞きたくない声だった

――――そろそろ自覚したらどうなのかしら、あんたは今の状況をそう嫌ってるわけじゃないのよ

…分かってるわよ

――――分かって無いわね あんたは自分が思っている以上にこの状況を気に入っている、だから崩したくない、それだけの話よ 全く簡単で、どこまでも臆病ね

煩いわね

――――どう思おうとどう行動したってあんたの自由よ でも あんたは

煩い

――――その妖怪の事を

「煩い!」


それで声は止んでしまう、そんなか弱い声の為に一々動揺していたかと思うと馬鹿らしい 動揺していた? そんな訳は無いだろう
大きな声を出してしまったので起き出しやしないかを一瞬心配するものの、どうやら相当こういった事には鈍感らしくその気配すら見せなかった。

全く、こんな無防備でよく外の世界に居たもんだわ
まるで面白い物を見ているかのように時折にやけながら眠り続ける侵入者は、あの激しい戦いを展開できたとは到底思えない。
だって、いくら私が友好的な態度を取っているとはいえいつ裏切られるか分からないのだ、それをこんな無防備でいるという事は

「信用、されてんのかしらね」

つまりは、そう言う事なのだろう
信用、信用ね
そう言われたって私はどうしたらいいか分からない、支え木には到底なれっこない
誰もが私の恐ろしさを知っている 嫉妬心の恐ろしさを知らないまでも気が付いている
だから私に誰一人として近寄りはしないのだ
それなのに、どうして誰かを支える事が出来るのだろうか、どうして誰かを信用できるのだろうか

あまり信用していると

「殺されるわよ」

そう、あっけなく 終わってしまう
屈み込んで首筋に手を掛ける   さとりの首は細くて、力を入れずとも手折れてしまいそうで、実際私は容易く手折れてしまうのだろう
しかし、なぜ私はそれをしないのだろうか
答はいくら待っても帰ってこなくて

「知ってますよ」

代わりに声を紡いだのは 私が今まさに命を握っている筈の侵入者だった

「起きてたの」

動揺を気取られない様に冷静な口調を無理して出して それが覚妖怪には無意味な事にようやく気が付く
殺そうとしていたのは半分本気だったのは分かっていたはずなのだが、さとりはそれでも薄く笑ったきりそれ以上何も言う気は無い様子だった。

「訳が、分からないわよ」

どうしてそんなにも、全てを諦めてしまったような口調でしゃべるのか
あの時の激情のただ中に居る様な激しさはどこに行ってしまったというのか
思わず、きしと手に力を掛ける

「ねえ、これから私があんたを殺すと言ったらどうするつもり?」

そんな馬鹿げた真似をしてしまったのは、ただ単に怒りに身を任せた結果かもしれない
あの時の様な、裏切られた怒りに身を任せてしまったどこまでも子供の様な激情に捕われていたのかもしれない
それでも、そんな心を読みながらもさとりは薄く“微笑みかけた”

「しませんよ」

ああ、どうして

「パルスィは、そんな事しませんよ」

どうして、そんな事を言えるのか

「だって、あの時助けてくれたじゃありませんか」
「あの時?」
「あの時、私が命を繋ぐ事の出来たあの時」

そんな馬鹿な
それじゃあ、そんな不確定的でどこまでも不安定な事の為にそんな賭けに出れると?
そんな

「それこそ、ありえないわよ」

思わず、掛けていた手を放してしまう
後に残るのはうっすらと紅くなった首筋と、少しだけ苦しそうな咳の音
ああ、悪い事をしてしまった ぼんやりとそう考えた

「ありえない…」
「ありえます」

返って来たのは妬む気すらも起きない程確固とした意志

「ありえます」

どうして、そんなにも自分を信じられるのか
どうして、そんなにも迷いの無い瞳をしているのか
私には 分からない

「私は、信じています」

信じている?
誰を?

「パルスィ」

眼が
強い瞳が私を捉えて離さない

「私はあなたを信じてますから」

どくん
音と共に、胸が疼いた

「あなたの優しさを、私は知ってますから」

どくん どくん
胸の高鳴りが抑えられない

「だって 私は覚妖怪ですし」

ね?
問いかけてきたさとりの顔は僅かに微笑んでいて
私はそれから思わず目を背けた













その後さとりは直ぐに眠りについてしまって、後には私だけが残された

暗いから見られなかったのが幸いだが 今の私は相当顔が赤いに違いない
そして、どうしようもなく胸が高鳴って
ああ、この気持ちを私は知っている どうしようもなく阿呆な気持ちを知っている
一回それに裏切られたのに その所為で成って果てたのに

「懲りないわね 私も」

ああ、私は馬鹿だ
期待しまえばいつかは傷つくのを分かっているのに、その痛みも分かっている筈なのに どうして また

――――ねえ、自分に正直になっても良いんじゃない?

また、声が聞こえた
知った様な口を聞く声だった

――――そりゃそうよ、だって私はあなただもの

そうかい


さとりの隣に敷いてあった布団に頭から潜り込む
それでも、今夜は眠れそうにない



▼△▼



少なくとも
他人と関わらなければ傷つくことは無い
ただぽっかりとした空虚な心を抱えて生きていくだけだ

そうだ、きっとそうなのだ
あの時、私がそれを見なかったことにすれば 気付かない事にすれば私は人のまま死んでいた それですべてが終わっていた筈だった
だが、私はそうしなかった
私は鬼となり、殺しに殺し 退治され 舞台は廻り続けた




それは、なぜなのだろう
本来ならとっくのとうに居ない筈なのに 閻魔の契約を飲んでまで生きながらえたのは一体なぜなのだろう
その理由が今分かった気がする




私は 卑怯で 臆病で
孤独が好きだとか何だとか偉そうなことを言っていても結局は誰かを求めて 信じてくれる人を探して
ああ、私はあんたほど強くは無い ただ強そうな張りぼてに籠っているだけ

傷つかない様に誰をも拒絶している風にして
それでも孤独に耐えきれなくて
自分を認めてくれる者を探して

思い出す
あの時、私が止めを刺そうとした時 あの瞳に映る顔は何か大きなものを諦めてしまった様な その癖完全に諦めかけていないような中途半端な決意の顔だった
何かに必死そうで 泣きそうで 私とそっくりだった

だから彼女を殺さずに匿ったのかもしれない 自分と似ているから、ただそれだけの理由
自分と似ている奴を探していたのかもしれない、だとしたらなんと滑稽な事か







旧都に向かうさとりの背中が遠ざかってゆく
妹を探すと言っていた 安住の地を手に入れると言っていた
また会う日が来るかもしれないと言っていたが、その日は多分来ないだろう
隔離されるか 偉い地位につくか分からないけれど 私はきっと忘れられているに違いない
そうなると分かっていても、私は来ないと分かっているのに待ち続けてしまうのだろう
なぜなら私は結局孤独で生きることなどできはしない臆病者なのだから


だったら、忘れてしまおう
意識しなければ思い出さない 思い出さなければ傷つかない
もう、私は傷付きたくない









好きです
愛しています
ですから、さようなら
どうしようもなくなる前に
思いが溢れてしまう前に
さようなら、誰かさん
去りゆく背中に向かって声をかけた
さようなら
さようなら
私の知らない誰かさん














さとり










■□■



我に帰った時には、すでに全てが遅かった
目が覚めた私の目の前にはすでに殆どの色を失ったパルスィが居て
もう長くない事を明確に感じたのが物悲しかった

「ぁ…ぁ………」

声が出ない
何も考えられない
橋の上にはもうほとんど何もない あると言えばつまり吹き荒ぶ冷たい風と それぐらいのものだった
そう、他には何もないのだ

ああ、何と言う事だろうか
馬鹿なのは私だった、愚かなのは私だった、臆病なのは私だった
それで全てが片付いてしまえれば、それはどんなに良かったのだろう
全て私が悪いのだ それは思考の停滞に過ぎないというのに

知ってしまった 彼女の想いを
私が見る事の出来なかった内側を、この哀れな橋姫すらも知る事の無かった内側を
彼女の一番清い部分が、ずぅっと昔から叩き続けた扉は 開けるのには遅すぎたのだ

なぜその扉が目の前に現れたのかは分からない
それは彼女の死に際で、境界が曖昧になったのかもしれないしほんの偶然かもしれない
全ては遅すぎた、過程などどうでもよく 全てはそこに帰結する

一体全体、誰が悪いのだろうか 誰が悪くて、どこが悪くて、どうすれば良かったのだろうか。
誰か救いようの無い程の阿呆な私に教えてくれはしないのだろうか
偉ぶって、ただ自分が悪いのだと言い続けて
それですべてが終わったわけでは無いのに見なかったふりをして

「馬鹿じゃないですか」

ああ、馬鹿だ
この地底には馬鹿しかいないのだ
誰も彼も自分を押し隠して、傷ついたまま生きてゆく
だって皆が皆何かから捨てられたから 愛する者など居ないのだから

耳を澄ませばぽたり、ぽたりと音がした
パルスィの閉じた瞳から水滴が零れ落ちている
翡翠で出来た瞳から湧き出流れる水流はこの世の何よりも透明で 美しかった
思わず目蓋に口を当てて、静かに啜る
ああ、しょっぱい それすらも美味しい

もはや半透明になって瞼を閉じたままのパルスィは例えようも無いくらいに美しかった
それはまるで、自らの終焉に相応しい花を咲かせようとする孤高な砂漠の花の様で、私は思わず息をすることを忘れた。


一等に美しい華の朝露を啜るのは その華に最大限の賛辞と敬意を表するからなのだろう
私は思わず 目の前の華の一番目立つ部分にそっとキスをした
その行為には何の感慨も無く、ただそうするのが一番相応しい様に思えたから そうしなければ侮蔑をしているように思えてしまう様にすらも思える程に美しかったから ただそれ以上なんの意図も無いキスだった


すると、何と言う事だろう 僅かなうめきとも嗚咽とも聞き分けられないような声と共に僅かに瞼が開いた
その目覚めの顔がまた美しく 私はまたその唇に接吻を施した
毒林檎を食べた白雪姫は、通りかかった王子の接吻によって目を覚ましたという 私は王子様と言うよりも毒林檎の方がふさわしいのだが
私にはパルスィがこの世で最も美しい花にも この世で最も気高い姫のようにも見えた
確かにパルスィは姫だ、この薄暗い地底で最も地上に近く 誇り高く、気丈で、最上の美しさを持つ橋姫だ

ああ、お姫様 どうか目覚めないでください
目覚めてしまえば別れが一層辛くなるから、直に来る別れの辛さに胸が引き裂かれてしまうから
それは私の望む事では無いし、彼女が最も恐れた事だから

だが
もし彼女が目を覚ましたとしたならば
私は彼女に言いたい事がある ずっと言いたかった事がある

「好きです 好きなんです」

決して叶う事のない願いを
ずっと心の中に秘めていた想いを

「水橋 パルスィ」

せめて 最後だけは―――――

「私は、あなたを」

貴方の事が好きです 好きでした
これまでも そしてこれからも 
ずっと言いたかったのに




『さとり』

声が
心の声が聞こえた気がした
紛れも無く私を呼ぶ声を

『古明地 さとり』

ああ、私はその声を聞きたかった 何よりも聞きたくなかった
私が憧れていた声は、消滅の寸前も全く変わりなかった
自分を保って居られる強さが羨ましかった 時折見せる優しさが好きだった

でも、もう遅い

『ごめんなさい』

頭に、もう薄っすらとしか見えなくなった片腕が伸ばされる
頭を撫でようとしているのだろうか その願いは叶う事も無く腕は私の頭を透過する
一瞬断面が見えた気がして、そのあまりに儚さに今更ながらぞっとした

『ごめん』

パルスィは何に責められているのだろうか
過去の罪からだろうか それとも自分からだろうか まさかとは思うが、私だろうか
謝らなくても良い ただ傲然と生きればいい そう教えてくれたのはあなたじゃない
言葉を発しようとした口は、だが遂に開くことは無かった


手を パルスィの頭に伸ばす
そうすればまたパルスィを繋ぎ止める事が出来るような気がして そうすれば全てが元に戻るような気がして

そうして、その手はいつまで経っても届かなくて 遂に虚空を掻いた
私の腕の中にはもう何も残っては無かった










いつもの様に 冷たい風が 橋をびゅうびゅうと吹いていた



■□■



橋姫の姿がすっかり居なくなってしまってから暫く、私達はその場にたたずんでいた。
私とヤマメは、呆然と虚空を見上げるさとりを見つめて こいしと言えば何も考えていない風にただ目を瞑っていた。

「これが、あんたの望んだ結末かい」

ヤマメがぼそりと呟く

「あんたが、あんたが過去から今までやって来た集大成がこの結末かい」

人を責めているようなその口調は、元来ヤマメが決して口にはしない口調だった
なぜかって、ヤマメは元々こういった不幸を喜ぶような性格だからであって、決してこんな風に静かな激昂をぶつけるような地底に似合わない性格では無いからだ。
それは彼女にとって、水橋パルスィと言う妖怪がただのからかい相手では無い事を何よりもはっきりと現わしていた。

私は、どう感じていたのだろう
ただ哀しいのではなく、かといって悲しいのでも無く 無力感に打ちひしがれるわけでも無く。
突然の展開に驚く訳でも無く、かといって半ば予想できていた展開に諦めるでもなく。
何もかもがごちゃ混ぜになってよく分からない そんな状態だった
それは、私があまりそう言った感情に触れる機会が無いからで 私にとって水橋パルスィと言う妖怪が普通では無い場所を占めていたからだろう

友人でも無し かといって敵でも無し 恐らく彼女の周りにいた妖怪と彼女の関係はそんな奇妙な物だったのだろう 一見当たり前のその関係は、0と1しかない地底においてはありえない程に希少なつながりだという事を誰もが心の底で理解していた。

この事をあの星熊が知ったらどうするだろう 力で何とかしようとするだろうか
いや、彼女に限っては 誰よりも力を持っている彼女に限ってはそんな事はしないだろう
知ったところで肩を竦め、仕方ないさと言いながらその場を立ち去るに違いない 胸に大きな空洞を抱えながら

そんな展開こそがこの古明地さとりの妹の望んだ展開だったのだろうか
ずれた感性の持ち主にはこれが最上のエンディングに見えたのだろうか
これが面白いというのであれば、それは特段に趣味の悪い地底の衆の中でも最上級に趣味の悪いセンスの持ち主に違いは無い

「いや、良い前座だったね」

不意に、ぱっちりと目を開けた古明地こいしは語り出した

「誰もが望む幸福には、誰もが望まない不幸が望ましい 終始お望みの展開を望むのだとしたならばコメディか陳腐なミュージカルをどうぞ」

うきうきと、まるでこれから始まる面白い出し物に興奮を隠しきれない幼子のような仕草を見せるこいしは、私が見た中で殆ど無い程心を持ってるような仕草に見えた、なにせこの自分を捨ててしまった妖怪はしばしばまるで機械のような表情をするものだから。
と言うよりもそれは、まるで感情を表したいのにそれにはどうすればいいのかまるで分らないような表情をするのだ。

「でもさ、ハッピーエンドには主役不足じゃないかい」

どこまでの嬉しそうなこいしに向かってヤマメが堪らずに口を出す
それはそうだ、主役のうちの一人はこの世にもはや存在しないのだから
それでもこいしはにこにこと相好崩さずにただ笑っているだけだった

「前提がおかしいんだよ」

ふいと真面目な顔になって 私達にずいと近寄る
先程までと打って変わってという言葉に慣れなければいけないのはこの妖怪に多少なりとも付き合うに当たって必要最低限の事だがやはり、まだ当分は慣れそうになかった。

「皆が皆パルスィは消えてしまったと思っている 皆が皆それで完結してしまっている 彼女は用済みだから消えたんだって思っている 彼女は何もしないままに遠くに行ってしまったんだって早とちりしている」

せっかちさんは嫌われるよ? そうして今度は鈴の成るような声とともに笑った
きゃらきゃら きゃらきゃらと

「どうして心のある物は皆が皆一つの方向からしか見る事が出来ないのかしら、あの面白い画家さんのようにいろんな方向から物事を見れたら それはすごく面白い事だと思うのよ」

そうしてくるりと一回転

「ねえ、この話は大きなように見えるけど 実際の所は小さな小さな出来事に過ぎないの」
「十分でかい話だと思うけど」
「だから、せっかちさんは嫌われるって」

向こうはその一言で納得してしまったようだが私達はますます訳が分からない、まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔でお互いに顔を見合すのみだ
せっかちなのは嫌われるが、話の分からない奴はもっと嫌われると思う

「ねえ、もしも今回の騒動のきっかけが橋姫が用済みになった事だとしたら、何であの封印がかかって本当に橋が不必要になってしまった時にパルスィは消滅してしまわなかったのかしら いくらお姉ちゃんが好きだったからって言ってもそれだけで任務を放棄できるのかしら」
「それは、そうだが…」
「ねえ、もしも、もしもだよ? パルさんの契約があそこで途切れて誰も意図しなかった形ですでに発生していた“また新しい契約”によってパルさんが生き延びていたとしたら?状況や勘違い、思惑や戸惑い、記憶に過去 そんな物が大きなお鍋の中でことこと煮込まれてあたかもパルスィが消滅する、“そう言う風に見えてしまった”としたら?もしも本当はそんな大事じゃなく、パーティーのサプライズ程度の物だとしたら?」

そこまで来て、私達はようやく事の本質を理解し始めた

「それじゃ、まさか―――」

そうだとしたら、私達は本当の本当に騙されていたことになる
舞台を見に来た子供を楽しませる道化師は、目の前の覚妖怪もどきでも、ましてやその姉でも無く

そこで私の唇に人差し指が乗せられた
しぃーっ まるで聞き分けのない子供をあやすかのように

私は思わず笑い出しそうになった、それはヤマメも同じだろう
ああ、まんまと引っかかった まんまと引っかかるところに引っかかってしまった
見事なまでに嵌ってしまった者はそのあまりの愉快さと滑稽さに腹がよじれるほど笑い出したくなるというのは初めて知った事だった。
もうじきにこの馬鹿げた、しかし最高の茶番が幕を閉じる
ありったけの拍手と役者紹介はその後でも良いだろう 今はまだ私は観客に徹していればいいのだ。



■□■



ねえ、想像してみて 
決して自分を理解する事の無かった弱い妖怪が
傷つきたくなかったから ただそれだけの為に外堀だけを整えた妖怪が それでも弱いままだった元人間が 
本来ならあり得ない筈の出会いを経て 傷ついて それでもまだ手を伸ばして 最後にやっと手が届く

それって、なんて素敵で、ロマンティックなシーンだと思わない?



■□■



しばらく 私はそこで座りこんでいた
座りこんでいる事しかできなかった

何も考えたくなかった
考えてしまえば現実を見てしまうから
それはパルスィがこの世界から消滅した事をどうしたって認めなくてはならないと言う事だから

何が悪かったのだろう 私はどこで間違えたのだろう
私は一つの不備も無く動いた、完璧と言えるほどうまく立ち回った その結果がこれだ
どこに間違いがあったのだろう 数百回の精査を経ればそれが見えてくるかもしれない

だが、それは全くの無意味さに塗りつぶされた行為だ これに尽力した者全てを侮蔑する行為だ
どうやったって最後に残ってしまうのはたった一つの 最もシンプルで分かり易い結論が残ってしまう
“水橋パルスィは助ける事が出来なかった”最後に残ってしまうのはただそれだけの結果に過ぎない

だから 諦めろと?
どうにもならなかったらパルスィを諦めろと?元々こうなる運命だったと区切りをつけろと?

無理だ、そんな事は出来ないに決まっている
私には彼女が必要だった 彼女が欲しかった

思考がぐちゃぐちゃに崩れて もう、何も考えられなくなって
気が付けば止めども無く涙を流していた

一度堰が切れてしまった涙の川は もう止まる事を知らないで流れ続ける
あの時と同じだ 違うのは彼女が居るか居ないかぐらいで

橋の上にはもう何もない 誰も居ない
ただいつの日も変わらない冷たい風が吹いているだけで















「いつまでそんな格好しているのかしら」

その中に 緑眼が揺らめいていた











「…ぇ……………」

くすんでいるがよく手入れの行き届いているであろう金髪は まるで地面の茶色の中に咲く花の様で
橋を意識した様な文様が織り込まれたいつもの大陸風の衣装はばたばたと強い風に靡いていて
そして何より、彼女を彼女たらしめている緑色が暗い橋にぽつりと光っていた

間違いなく それは私が望んだ―――――――――





もう、何も考えない
私はそこまで駆けて行って
そのままの勢いで腕に飛び込んだ






今度こそ、私はしっかりと受け止められた








■□■



――――――つまり、結論から言ってしまうと パルスィは消滅するなんてことは無くて

――――――新しい契約に順応できるように媒体となる存在を作り上げて それに向けて徐々に存在を注ぎ込んでいったんだよ 頭が痛かったのも徐々に消えて行ったのも心が消滅していったのもその影響、 それだけ

――――――私達は橋姫とあんたに踊らされていたってだけかい

――――――まあね、パルさんの方はほとんど無意識だから本人の気付かない内に他人を巻き込んでいた様だったけど 

――――――だから勘違いしてさも消滅してしまう様に振る舞ったと言う事かね

――――――そうだよ、だから妙に切迫感と現実味があって慌てさせちゃったって訳

――――――道化にも程があるよね

――――――でも、楽しかったでしょ?

――――――…どうだか


確かに、今回の騒動は興味深い事がいくつもあった
傍観者として見ている分には危害はほぼ及ばないし、働いた分の物は見れたのではないかと思っている
だが、まだいくつか私にはどうしても気になって仕方が無い疑問が残されていた


――――――そもそも、契約の再履行が目的だったら消滅しかける必要はないんじゃないか、詳しい事は分からないが、話を聞くぶんにはそんな大事じゃない様だがね

――――――う~ん…それはお姉ちゃんの気を引きたかったからじゃない?


なんじゃそりゃ
私とヤマメは思わず顔を見合わせる


――――――だってさ、あんなことになれば当然心配の一つや二つされるでしょ?


まさか
まさかそんな事の為にこの一連の流れができたと?
思わず体中が脱力するのを感じた


――――――まあ、無意識なんだろうけどね でも嫉妬ってそう言う物よ? 『自分だけを見て』とか『心配して』とか独占欲からも嫉妬は生まれるから こういった所は全く橋姫らしいね と言うよりも橋姫だからあんなことができたのかも

――――――じゃあ、問題が無いんだったら黙って傍観してればよかったじゃないか

――――――そんな訳にもいかないんだよね 新しい契約が成立するにはそのままじゃいけなかったし それにパルさんとお姉ちゃんをくっつけるにはどうしても調整が必要だったのよ ちゃんと制限時間もあったし でもせっかくのチャンスだもの、有効活用しないと

――――――それじゃあこいし、あんたは何の為にこんなに大がかりな事をしでかしたのさ

――――――これでも私はお姉ちゃんの事を大事に思ってるし、お姉ちゃんが何の為に命の危機を冒してまで地下に潜ったのかも知っている、その恩返しかな  それに恋のキューピットみたいなことをすればまた心が分かるようになるかなって

――――――……それで、望む物は手に入ったのかい

――――――駄目だったよ、まだ私には何も分からない それでも意味をある事はしたよ、それだけでいいんだと思ってる

――――――意味のある事?

――――――かつて裏切りと嫉妬の果てに鬼となって果てた元人間、誰からも嫌われる覚妖怪  人を知り過ぎるが故に臆病になった二人が繋がるなんて殆ど奇跡に近いと思わない?

――――――……成程

――――――それは十分運命を捻じ曲る事が出来たと思わない? 




橋の方を見やると 二つの影がただ重なっていた
確かに これは奇跡に近い光景だ
明日になればもう失われてしまうのだろうが それでも

私は言及をそこまでにすることにした
それ以上何を聞いたところで返って来るのは無意味な結果論に過ぎないのだから



―――――――最後に一つだけ聞いておきたい事がある こればっかりはどうしても分からない
 
―――――――なに?

―――――――さとりが橋姫に掛けてしまった契約の内容さね、橋姫を今まで生きながらえさせるに十分だったその内容は一体どう言う物だったのさ


聞くとこいしは顎に手を当て「気持ち悪くなっても知らないよ?」と一言だけ聞いてきた。


―――――――それはお姉ちゃんが無意識に言ってしまった一言で、パルさんをお姉ちゃんに縛りつけて、お姉ちゃんをパルさんに縛りつける契約 酷く簡単で、不用心なたった一言で崩れてしまうような脆い契約 全く滑稽で 愉快で 馬鹿らしい 







これだから現実は面白いのよ



■□■






ねえ

私達はもう会えないかもしれない 会う事が出来ないんだと思う
でも、それでも 逢えたとしたら
貴方は私の元に来てくれる? この橋を使ってくれる?






もしも あなたと私がまた会えたら

その時は、そうですね…数日に一度はここに来ますよ






■□■



そうして
全てがあるべき場所に還る



■□■



歩く

走る

駆ける

どれにしても進んでいる事には変わりない ただ速度が違うだけで
今の私は、ただのんびりと歩いていた
いつもと殆ど違う所は無い、ただ少しだけ違う所と言えば少々大きめな荷物を持っている事ぐらいだろうか
陽気に音痴な鼻歌の一つでも歌いながらただ歩いてゆく


地上と地底が開通した事で、地底は明るく様変わりした
小説だとしたならばそんな出だしが相応しいだろう、それが小説と云う物だ
だが、現実はそうともいかない、そんな簡単には変わらない

ある程度まで交流が進んだ所で地底はそれっきり変わらなくなった
理由と言うのも大した話では無い、地上の文化や機械とかいった物が地底に合わなかっただけの話だ
鬼は元々そういった物をあまり好まないし、元々地上が嫌になって地底に来たので文化なぞは今更と言った風だった
今では通行量を制限してあまりごちゃ混ぜにならない様にしようという動きだってあるぐらいだ。
物事なんて所詮はそんな物、始まりこそ大々的であるもののやがては収束し、どこか大したところでは無い場所に落ち着く。
それでいい、そうでなくてはならない

少し急ぎ足になりながら 私は旧都を進む 
周りの声など気にもかけないのはいつもの事、だって私はあの丘に建つ地霊殿の主
交流が制限されたとしても、魚や野菜は入って来て欲しいと思っている なにせ地底の野菜は核の力である程度良くはなったと言えど地上の美味しさには劣るのだ

もうじき旧都の道は終わりを告げて、後は荒涼とした地盤がどこまでも続く様な荒々しい道がある
どこまでも続くような道はある所で終わりを告げて、その先には縦穴に架かる橋がある
朱塗りの立派な橋は最近全改修になって、その傍には大きくて、やはり立派な一軒家 新築だ
そして橋の上には一人の妖怪がいつもの様にぽつんと立っている いつだって彼女はそこにいる
私は今日、彼女と共に地上へ視察をしに行くのだ 
外はまだ寒さが厳しいに違いないがここらほどではないだろう なにせここらは万年寒く、冬は何もかも凍り付いてしまう程に寒いのだから
それでも寒いと思った時は 彼女手作りの手袋とマフラーを使えばいい、二つとも私のサードアイの様な桃色に、白で桜のワンポイントが縫いこまれている。

もうそろそろ橋につく、その頃にはもう私は駆け出していた
橋に上に一人で、さも退屈そうに立っている人影に私はいつもの様に話しかける

「こんにちは、パルスィ」
「できれば会いたくなかったわ」

いつもの様な応酬 つっけんどっけんで不機嫌そうな目つきと口調もいつも通り

「今日はクッキーを焼いてみました」
「あら、良い匂いね 美味しそうで妬ましいわ」

手に持っていたバスケットからクッキーを一枚取り、さくさくと食べた

「…うん、妬ましい」








「そろそろ、行きましょうか」
「橋守が地上に行くって いいのかしら」
「職務怠慢はいつもの事でしょう?」

ま、そうだけどさ
かつて宇治の橋姫と呼ばれた橋守はぽりぽりと頭を掻いた

「何か面倒くさいのよね、仕事はしたくないけど地上に行くのも結局は仕事だし」
「仕事と思わなければいいじゃありませんか、例えば私とのデートとか」
「はいはい、馬鹿なこと言わないの」

ぽすんと頭をはたかれる
ああ、このやり取りもいつも通りで 何も変わっていない




あんな騒ぎがあってから果たして何も変わっていないのだろうか
私がやった事は全くの無意味だったのか

そんなことは無いだろう

「ほら、地上に行くんでしょう」

手を、すらりと伸びた手を差し伸べられる
私はそれをそっと掴んだ
手の温かさを一段と感じたのは、果たして縦穴が冷えているだけなのだろうか

とん、軽い音と共に私達は昇って行く 上へ 上へ
地上に出るのは何十年ぶりだろうか どんなふうに変わっているのだろうか


『覚悟はできているかしら?』

私は変わる 彼女も変わる
どういった意志を持っていたとしても変わり続ける
覚悟はとうにできていた
彼女と一緒であれば 私はどこまでだって変われる気がした












もうじき地上だ 光が段々と強く 辺りに広がって行く
パルスィが振り向き 私の方を見つめる
















地上から降り注ぐ光の中で
翡翠の輝きがただ揺らめいていた


















.
完結です
ここまでお読み頂きありがとうございました

いやしかし、どうしてここまで長くなったのか分かりません
始めはたださとパルを書きたくて書いたつもりが何故だか続いて
気が付いたら続編を書いていたにしては総容量が非常におかしなことになっていますがここまで書く事ができたのはやはり、叱咤にせよ期待にせよ様々なコメントを頂けたからです
それも含めてありがとうございました


気が付いたらもう年末です 良いお年を



(2012/1/6 コメント返信)

>>2さん
素晴らしいと言ってもらえる作品ができましたか、大変嬉しく、光栄です

>>雨宮 幽さん
気が付いたら書き始めてから三カ月以上経っていました、年内投稿できてよかった…
ああ、教会の鐘の音が…ってあれは鬼が鐘をぶっ叩いているだけでした

>>奇声を発する程度の能力さん
このような長い話を読了頂き有難う御座いました
長編にするつもりは無かったのに気が付けば大長編 見切り発車にも程が在りますね

>>猫額さん
ああ妬ましい妬ましい、太陽の当たる地上が妬ましい これからさとりと地上に行くパルスィが妬ましい
妬ましさこそ彼女に捧げる最高の花束です、目に悪い緑色ですが

>>8さん
最後の場面はああなると言う事は一番最初に決めていました、本当にあそこまで繋げられてよかったです、実は途中途中で大変怪しい時がありましたので

>>名前が正体不明である程度の能力さん
執念は確執となり、やがては溶けて縁となり 次へと繋がってゆく 全ては彼女の緑色の中で

>>名前を間違える程度の能力さん
限りなく壮大に見せかけた迷惑で誤解だらけな痴話喧嘩にしようとしていました
趣味悪いですね!計画通りです! …いや、軟着陸できてよかったです…できてるかな?
ヤマーメがヒロインでは無くヒーローなのはその所為です、地底にヒロインを目指す奴はいませんしヒーローもまた然り ヤマメは特殊ですね、いずれそこら辺を書く時が来るかもしれませんね どうせまた言いっぱなしジャーマンですが
あ、靴投げないで痛い痛い

>>12さん
こちらこそありがとうございます、とんでもなく大きい物を託されてしまった…
良いお年を…あれ、明けましておめでとうございますか

>>15さん
その言葉、ありがたく頂戴させていただきます

>>21さん
ありですか 性格とか諸々が他の作品と比べて崩壊ってレベルじゃないですが…わぁい
こいしちゃんが楽しんでない訳が無いです、キスメとかヤマメとか勇儀も心の底では楽しんでます、地底ですもの

>>25さん
口から砂糖がオロロロロ、最初が薄い分糖分過剰になれるようにしました!

>>A-さん
読み返されるような作品でしたか!わぁ嬉しや
さとパル流行ると良いです、今作品中はラッシュが起こってますが 波が来てますが
次作はプロット書き終えましたがその中に一つ容量がヤヴァイのが在ります、あくまで予定ですが書けたらいいなと

(2012/1/28 コメント返信)

>>28さん
さとパル書きたい、書くで書き始めましたからその言葉はとても嬉しいです
後日談は正直書くか分かりませんが、どこかでひょっこり出てくるかもしれません、でも書くかも





それでは

かしこ
芒野探険隊
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コメント



0.1020簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい作品、ありがとうございました
4.100雨宮 幽削除
今年最後にして最高のプレゼント、ありがとうございました。
多くは語りますまい。共に歩む二人の未来に、幸あれ。
5.100奇声を発する程度の能力削除
とても素晴らしく面白かったです
大長編お疲れ様でした
7.100猫額削除
完結、ですね。お疲れ様でした。
そして、さとりとパルスィに最大限の祝福を。
『ああ、妬ましい』
8.100名前が無い程度の能力削除
言葉は不要か・・・
9.100名前が正体不明である程度の能力削除
もし変われるのなら、緑になる。
11.100名前を間違える程度の能力削除
まさかの乙女なパルスィからラブコールオチとは・・・・・・橋姫が消えた時はどうひっくり返すか、ワクワクしながら読んでました。
蓋を開ければ命懸けの痴話喧嘩って・・・・・・こいしちゃんいい趣味してるな~。
あと、ヤマメさんその台詞は・・・・・・下手すると赤と青で彩られたボディスーツを着るハメになるから・・・・・・それはそれでありかも。

完結、お疲れ様でした。
12.100名前が無い程度の能力削除
ありがとう。
これからもさとパルを頼みます。
よいお年を。
15.100名前が無い程度の能力削除
良かった
21.100名前が無い程度の能力削除
このさとパルは――あり。
てか絶対このこいしって過程も全部楽しんでたよなあ、と思うと。
少しだけそら恐ろしい、ような。
25.100名前が無い程度の能力削除
理由聞いたら、甘すぎて気持ち悪くなりました。
お疲れ様でした
26.100A-削除
すごく面白かったです!!思わず、改めて最初から読み返しちゃいました!
さとパルは個人的にすごく好きなCPなので、この二人のあれやこれやを見るのはすごくすごく楽しかったです。お疲れ様でした!次作にも期待しております!!
28.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい…素晴らしく壮大で、でも単純なさとパルでした

野暮かもしれませんが、後日談を期待しています