Coolier - 新生・東方創想話

雪の中のデイドリーム

2011/12/06 23:03:45
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 私達はいつから生きていると錯覚したのだろう。
 互いが互いを殺し、命失われ蘇るその連環をこそ、生きていることだと思いたくて、思いたくて、私達は互いを求めていたのじゃないの。
 どこまでも、どこまでも、それは続いてゆくと信じたくて、たまらなかったのではないの。

 ここで。
 妹紅、あなただけで、私の全てを満たしてしまっても良かったのよ。









 私は狂っている。愛情と等価値の憎悪を一人の人間だけに集約させている。
「輝夜」
「妹紅」
 輝夜も私と同じように憎しみを露にする。等価値、そう、私達は狂い合っている。互いに互いの憎しみだけを喰い合って、殺し、殺され、やがて全てを失う時を願う。
 私が望むのは一つだけ、生きて生きて、やがて死ぬことだ。
 だがそれは与えられそうもない――なら、ここで生きてやる、と思う。生きることは輝夜を殺すことだ。明らかなことだ。それ以外には何もない。
 私は輝夜を殺す為だけに生まれたのだ。



 私達は、生きているのか、死んでいるのか?
 いくら考えても、分からなかった。ただ、どうでもいいと思った。死んでいようと、生きていようと、関係のない世界。輝夜を殺し、殺され、憎悪の中で踊る。人間であろうとなかろうと、我々はそこに落とし込まれた、それだけの存在だ。
 私は一本の研ぎ澄まされた刃だ。憎悪だけを振るう災厄。感情も倫理もいらない。輝夜が私を殺すなら、その何倍もの死をもって。そして輝夜が私をその何倍も殺すなら、同じように何倍も。
 永遠の輪廻の中。私は輝夜と踊り続けた。



 輝夜の撃ち出す弾幕が身体を貫く度、自分は血と肉でできた袋だと実感する。思えば、蓬莱の薬も小さな袋に入ってた。私は袋だ、あの老人の手にあった、蓬莱の薬だ。死に、死ぬ度に、私は生きていると思う。生きている痛み。

 他人が死ぬことに違和感を覚えなくなった――食事も睡眠も性交にも、喜びを見出さなくなった――人の向けてくる言葉が、どんな感情を伴っているのか分からなくなった。

 人としての感覚が先端から、ぼろぼろ腐ってこぼれ落ちてゆく。
 輝夜はこんなにも簡単に、私が憎悪を背負った人間だと思い出させてくれる。私はこいつの前でだけ人間になれる。
 私が求めて、求めて、殺すたびに輝夜から憎しみが返ってくる。
「輝夜」
 お前が必要だ。
 でも……何かがおかしい。
 私達は、いつからこんな風に、生きているのだろう?
 でも、そんなことどうだっていいことだ。憎しみしかいらない。私には。




 ―――Another World―――




「よお、輝夜。元気にやってるか?」
 幻想郷に、白い夜が落ちる。輝夜は月を眺めて一人、雪の降り始めた庭先に立ち尽くしていた。私が声をかけると首だけで振り向き、それから身体がついてくる。ほやんとだらしなく笑いかけ、私の名を呼ぶ。
「妹紅」
 会いたかった、その言葉の響き。柔らかく愛しく耳に届く。さくさくと雪を踏みしめゆったりと、輝夜が私に歩み寄り両手を私の背中に回す。愛しげに笑みを浮かべ、もこうもこうと名前を呼ぶ、おさなげに。
「妹紅は名前の響きが可愛いから好きよ。もこう。何だか愛しくって、嘘みたいに優しいの」
 輝夜が好きなのは名前だけ?
 そんなことを言ってもつまらないから、返事の代わりに抱き締めた。抱き締めると暖かい。輝夜はまるで子供みたいで、「おこちゃま体温だ」とからかうと「もう何千歳だと思ってるの」とむくれる。ほんとの大人なら、そんなこと言って怒ったりしない。輝夜は暖かい。ずっと一緒にいて、ずっと抱き締めてたくなる。
 そんなことできるはずないって、何度も何度も諦めた。でも、輝夜は一緒にいられる。これまで何度も喧嘩して、殺し合って、たまにくっついて、また憎しみ合って。そう、そもそも私はこいつのことが殺したいくらい嫌いなんだ。
 でも好きになった。
 もう一生別れたいと思っても、きっともう無理だ。
 生物には雄と雌がある。私達は雌同士だけど、きっとそんなのはもう関係ない。種族でいうところの対存在、私達は互いが互いを求めるようにできている。それが喧嘩相手でも殺意の対象でも、愛情でも。
 私が求め、満足出来るのは輝夜しかいなくて、
 輝夜を満足させられるのは私しかいない。
 ずっと一緒にいられる。そんな勘違いを、ずっとしていられる。何しろ人間にはずっと一緒にいたいって思っても、勘違いもできないのだから。



 啄むようにキスをする。輝夜のそれには素直な愛情が詰まっていて、私は愛しく嬉しくなる。求めるようにしてやると、輝夜が笑みをこぼし嬉しがる。嬉しいと、返したくなって、嬉しがらせる。また、返ってくる。永遠に続けられる。キスも、他の色々も。
「降ってきたわ」
 ちらついていた雪は、本格的に割合と質量を増している。輝夜の黒髪にも、綿毛のように雪化粧が乗っている。
「入りましょう」輝夜が手をぐいぐいと引いてくる。私は足を上げず、天上を見上げた。何もない。空の色は深淵のように黒く、暗黒の距離を隔てて月が煌めいている。クレーターの一つ一つが数えられそうに、近い。零れてくる雪は、月から剥離した薄皮のようだった。
 は、と一つ白い息を吐く。薄く目を閉じ、薄く広げ、白い息と雪と暗黒に掠れた月を見上げる。遠いなあ、とただそれだけを思う。遠いからどうしたっていうんだろう、思ってから不思議になる。遠いからって、元々行ける場所でもない。月は見上げるものだ。どうせ手を伸ばすなら、ここにいる、輝夜に手を伸ばす方がよほど、らしい。
 隣を見る。紅い頬をして輝夜が私を、見つめている。涙が浮かぶようにうるんだ瞳、いつしか引くことを止めていた手は頬に添えられて、私が輝夜を見つめているように、彼女も私を見返している。私は輝夜に向かって手を伸ばした。
 輝夜は、こんなにも近い。簡単に手の届く場所にいる。月になんて手が届くはずもないけれど、ほら。
 輝夜には簡単に触れられる。



 喘いだ身体、悩ましげに尾を引く嬌声。冷えたはずの布団は二人の体温で忽ち温もった。今は互いの体温が互いを更に高めて、その熱さしか感じられない。
 荒い息を上げながら、見上げてくる輝夜。もっと、もっとと求めてくる瞳に応えるように、私も指先の動きを早めていく。嬌声が明滅するように高く大きく早くなり、やがて果て、また求める。何度も何度も繰り返す。輝夜の欲望はどこまでも底が無いように思えた。求められるがまま、与えた。輝夜の愛しい姿をずっと見ていたくて。
 愛しい。輝夜の姿を見ているのが好きだ。こんなにも素直で、本能のままに欲望に従う。でも。どうして、私の心はこんなに静かなのだろう。凪いだ海のように、ひどく平静な内側をして、輝夜を見下ろしている。



 一緒にお風呂に入り、二度手間ね、と輝夜が笑う。いちゃいちゃ、手指を絡め合ったり、肩口に、胸元に、首筋に、頬にこめかみに耳元に唇に、唇を寄せ合ったり。互いの二の腕、腰、乳房を弄り合い、ふざけ合ううちにまたしたくなって、する。
 輝夜を後ろから抱きながら、胸元に触れる。片手は下に。顔を背けさせてキスをしながら輝夜の身体を愛撫すると、まるで巨大な肉質の楽器を演じているようで、その運指次第で楽器は音色を変えた。風呂場に反響してオーケストラ。輝夜の指先が行き場無く私の腕を掴んで、身体の感覚の変化に合わせて強く弱く愛しく力を込めた。
 何度目かの絶頂のあと、輝夜はぼうと瞳を緩ませて私を見上げる。
「……今度から、冬にはお風呂場ですればいいのよ……汗をかいてお風呂に入り直すことなんてないんだから……」
 私は優しい気分になって輝夜にキスする。それならそれで布団に入ったらまたしたくなるよ。



 輝夜に腕枕して、天井を見上げていた。さっきから輝夜はとりとめのない話をしていて、それが何であるのか、私は見失い、見出そうとしながら、ただ天井を見上げている。
 だけど諦める。言葉なんてものは全てを内包するくせに、全部打ち消して意味のないものにしてしまう。存在しているものだけが確かなものなら、言葉は意味のないものだ。言葉はいつ価値を得るのだろう。私の脳に届いた時? 言葉を発し、世界に産み落とした時? 脳内で言葉を作った時? その言葉の意味を覚えた時、その言葉がこの世に生まれた時、声が意味になり言葉になった時? いつが本当の言葉の在処? 私達がやりとりする記号なんて、その場の快感を埋めるだけのただの信号に過ぎない。

 ――いや。
 言葉だけじゃない。全部意味のないものだ。私が生きて見て来たものからすれば、全てが一瞬で生まれて消えていくだけのもの。
 私も、輝夜も、この愛情も――

 今考えたことは何なんだろう? 一瞬、ひどく虚無的で寂寥たる思考が私の中に生まれた。それが何なのか分からないけれど、それが凄く寂しくて……私は身体を横に向けて輝夜を見た。言葉が止まり、私を見つめ返す。私は腕枕とは逆の手を伸ばして、輝夜の髪を撫でた。心地良さげに目を細め、愛しげに身体を寄せて手を回してくる。肩口に手を寄せて、全身で輝夜に繋がる。
「妹紅、暖かい」
 私だって暖かい。輝夜の華奢で暖かい小さい身体。
「好きよ、妹紅」
 言葉が、意味を持って私の中に染み込んでゆく。言葉には意味がない。ただの、その場だけの快楽だ。明日になれば意味を成さないだろう。でも、輝夜はずっと、生きている限り、言葉に意味をくれる。愛していると言ってくれる。明日も、明後日も。



 明日はどこかに行こうか、と言い合って眠ったけれど、次の日も雪が降り続いていて、私達はそれを諦めた。
 なので、雪を見ながら雪見酒と洒落込むことにしたのだけど、「雪見大福」と輝夜は言い出して、酒のお供に大福を用意しだしたので私は閉口した。
 大福も嫌いじゃないけど、酒を飲みながら餅を食べると、口の中に張り付いて、すっと消えていくはずの酒の風味が残って違和感がある。だから、心持ち感覚を空けて両方をつまんだ。大福にはやっぱり熱い緑茶がいい。
「雪見には大福、そう決まっているものよ」
 輝夜は酒に甘いものでも一向に気にしないらしい。嗜む姿は、どこかで我慢していると考えても、楽しそうで、美味しそうだった。
「そうなのか。輝夜は物事を良く知っているな。でも、私にはそれが正しいのか分からないから……何だか、申し訳なくなるよ」
 ふむ、と輝夜が頷く。
「物事には観測者がいなければ、その知性も、何もかも現実のものとはならないということね。随分と哲学的じゃない」
「……どういうこと?」
 だからね、と輝夜が呟く。
「あなたという存在がいる。それを観測するものがいなければ、あなたは存在していないのと同じ。……他人にとってはね。あなたは自意識があるから、自分で自分が存在していると認識することができる。存在していることができる。
 でも、それが自意識を持っていないものなら? 例えばここにある大福」
 輝夜が大福を右手に持ち、左手を乗せて隠す。
「さて、この時、私の手の中に大福はあるでしょうか?」
「そりゃ……あるだろ」
「そう。あなたという観測者がいるからね。でも、もしあなたも私も見ていなければ? それが観測者の有無ということ。妹紅、あっちを向いて」
 私が振り返り、一瞬後に輝夜はもういいわよ、と言う。両手が重ねられたまま、さっきと変わらない状況。
「さて、今度はどうでしょう?」
 分からない。
「そうか、そういうことか」
「そう。そういうこと。あなたは見ていないから、この中にあるかどうかは分からない。私は見ていたから知っているけど、大福に自意識がない以上、ここで大福の存在を証明するものは何もない」
 輝夜が隠していた手を除けて、大福を口に運ぶ。
「私もあなたも、誰かが見ていてくれるから存在しているって証明できる。嬉しいことね、妹紅」
 ああ、と思う。全くだ。
 もし輝夜がいなくなり、私を見ていてくれなければ、私の存在は急速に薄れるだろう。生きているのか、死んでいるのか分からない私は、ちょうど手中の大福のようなものだ。
 私は急に不安になり、輝夜と私、その間に置かれた銚子や皿を押しのけて、正座に座る輝夜の足の上に転がった。
「あらあら」
 頭を乗せて、庭先、冷えた空気を見ながら、耳に輝夜の太ももの感触、後頭部に輝夜の腹を感じている。肩から爪先にかけて、冷えた廊下に身を横たえながら。輝夜が酒をまた口に運ぶ。片手で髪を梳き、小さく顎を上げて嚥下しているのだろう。何となく見たくなって、半回転して見上げると、輝夜は私の前髪を掻き上げ、額にお猪口を乗せた。肉の上とは言え、バランスが保たれそこに留まる。
「物置きにするなよ、輝夜」
「あ、駄目よ」
 そう言って手で除けようとすると、輝夜はそれを制する。悪戯っぽく笑い、口元に人差し指を当てる。
「おい、ふざけてるんじゃ……」
 いきなり輝夜の唇が落ちてくる。顎と頭頂を抑えられ、抵抗も出来ないまま、唇が重なり、輝夜の舌が私のそれを求めて、中へと入ってくる。
 思わず口の中でくぐもった喘ぎ声を上げて手足を動かし抵抗してみようとするけど輝夜の舌は意志が宿って強情で、私の中を掻き回し続けてて、私は悶えた。
「んっ……! か、ん……かぐや、」
 唇が僅か、離れまた繋がり、その合間に何とか輝夜の名を呼ぶ。けれどそれ以上のことは出来なかった。
 やがて輝夜の心のままに唇が離れ、私と輝夜の混じり合った唾液が口元についたあさましい表情で私を見下ろして、額に置かれ雫もこぼしていないお猪口から酒を飲んだ。おい、と言おうとする前に、再びお猪口が額に置かれる。
「いいこと、動いちゃ駄目よ、妹紅」
 駄目だ、こいつ、酔ってる。お猪口を額に置いたまま酒を注ぎ、「口を開けて、妹紅」、と輝夜が言い、言う通りにすると、お猪口を持ち上げて酒を口に含んだ。口を閉じたままの輝夜が私の、口を開きっぱなしにして恥ずかしい姿を見下ろし、やがて輝夜の唾液とカクテルされた日本酒が、輝夜の口腔から滑り落ちてくる。
 口を開けたまま物を飲み込むのは難しい。口腔から口腔へ渡り歩く日本酒、こんなことの為に作られたんじゃないだろうそれは舌の上で跳ねて雫、口の中にも外にもはじけた。口を開けたままんく、んくと飲み込み、僅かに薄まった感じの日本酒はけれど、酒精を強く感じた。
 酔っている。口移しですらない、倒錯的な行為に。
「んふ」
 輝夜が酔ってるのと同じように、私も急速に酔いに身を任せつつあった。
 脇腹に指がつん、と置かれる。
「ひゃ」
「可愛い声出た、妹紅」
 だ、だって。言い訳を言おうとする前にすすす、と指先が蠢き腰の方へと進んでゆく。
「んっ!」
 浮き出た腰骨に触れて指先が離れ、より直接的に輝夜が触れてくる。輝夜の指が、下りてくる……私は、必死に身体を動かさないように、耐える。輝夜の目が悦んでいる。嗜虐的な笑み、私は輝夜の支配下に置かれることを、倒錯的に心地良いと思い、どこかで間違っていると思いながら、委ね続けた。

 輝夜が喜悦を露わにして、私の身体を弄ぶ。されるがままになりながら、視線を僅か横に逸らすと、雪が静かに視界を横切って、私は素直に、綺麗だな、と思った。



「雪見妹紅」
「何だよそれは」
「雪を見ながら妹紅を味わうことよ」
 私は乱れた服をばばっと集めて身体を隠した。輝夜がにまにまと、今し方任せた情動など感じさせない爽やかさで私を見下ろしている。
「……馬鹿」
 輝夜をもっと罵倒してやりたかったけど、その顔を見てるとできなくなって、それだけを言った。



 冷えてきた身体を抱えて部屋に入る。
「暖かいお茶、入れてくるわ」
 輝夜はそう言ってどこかへと、ぱたぱた足音を響かせて行ってしまう。
 いつからだろう、と思う。こんな穏やかで、何もない日々に身を任せるようになったのは?
 壁に背もたれ、片膝を立ててその膝頭にそっと指を絡め、緩く目を閉じる。気怠い、けれど心地よい疲労が身体に溜まっている。
 襖の向こうでは未だ雪が降り落ちている。その音さえ聞こえるようだった。静かで、穏やかで。感覚が剥がれていくような、物寂しさに、けれど満ち足りている。
 何が私をこんな気分にさせるのだろう。目を閉じ、考えた。迷い、悩みながら、それでもにぎやかで煩わしい、人々の間で、自分の位置を探して、探して生きてきた。でも、私が求めていたのは結局のところ、輝夜だけだった。
 それに気付いてしまえば簡単なことだ。私に平穏をくれるのは輝夜だけ。平穏も……かつては怒りや哀しみ、憎しみ、人間らしい感情は全て輝夜と接している時にしか表れなかった。輝夜は全部をくれる。
 だからだ、と思う。こんなに穏やかで、自分が消えてしまいそうなくらい。自分達がどうして生きてるのか分からないくらい、本気で生きたら、輝夜と一緒に死ねるかもしれない。そんな希望を抱いてしまうくらいには幸せだ。
「……ん?」
 膝に感触を感じて目を開くと、膝に乗っていた手をのけて、輝夜が膝の間に身体を押し入れる所だった。私に背を向けてもたれてくる。輝夜の髪の匂いがして、私は自然に輝夜の肩に手を回した。痛くないくらいに力を込めて、抱き寄せる。
「なあ、輝夜」
「……何」
 どうしてか大人しい輝夜の肩に額を乗せる。
「私さ。……お前を憎むことができなければ、本当に死んでいたよ。だから、不死になって、生きることそのものが苦痛になった。でも、その先にお前を見出せた」
 輝夜は何も言わない。顔を背けたまま、ただ少しだけ、きゅっと私の手にかける指に力を込めた。
「殺しても殺しても、仕方ないって、諦められたら良かったんだ。お前に憎しみを生むだけだって。もっと早く、お前とこんな風にしていたら、私もこんな風になることもなかった」

 何を言ってるんだ、私は? 何かがおかしい。こんな風、って? 何かがあった訳じゃない……ただ……輝夜が好きで、でも、私達は最早殺し合うだけの存在で……
 そうだ、私達はここから一歩も動けない。そんな感情に凝り固まってしまった。それで、どうしようもなくなって、私は……

 す、と私の目に、輝夜の指がかかる。目隠しに暗闇が生まれ、視界が消える。ふっと、掻き消えるように、世界が消える。
「それで、妹紅はどうしたの?」
「あ、ああ……私は……今の私があるのは、お前のおかげだから…だから、お礼を言いたくてさ」
 輝夜がしている目隠しの向こうで、輝夜がどんな顔をしているのか、私からは垣間見ることができない。
「ありがとう。……ずっと、こんな風に言いたかった」

 でも、その言葉はどうしてこんなにも空虚に響くのだろう。

 不意に私は観測者の話を思い出す。この目隠しの向こうに輝夜はいるのだろうか? そこにいる輝夜は、私の知っている輝夜ではなくて――何か、別物の――

 唇に何か柔らかいものが触れる。
 すっと、手が離れる。そこには輝夜が、目を閉じて口付けをしている。
「ありがとう、妹紅。私も、あなたみたいに……一緒にいられる人はいないから。嬉しいわ、妹紅」
 ゆっくりと輝夜は唇を離してから、そう言った。雪の舞い落ちる静寂、薄暗い部屋の中目の前にいる輝夜、そして私自身が、この世界には在る。さっきまで感じていた違和感も何もかも、どこかへと消え去っている。



 もうすぐ正月ね、と輝夜は言った。大晦日になったら神社に行きましょう、とも。
 大晦日の夜は特別だ。親類意識が薄く、皆が自由に生きる幻想郷では正月の前日を家族で過ごすという意識が薄く、皆出歩く。店はどこも夜通しで、あちこちの家の前では厚着をした人々が集い、人里がどこも明るく飾られ、まるでお祭り騒ぎのようで。
 神社だって当然それに倣う。というよりも、神社の側からそう仕向けている気配もある。神社では宴会こそしないものの、畳と座机が出され、一晩中酒が振る舞われる。だけど宴会の時のように皆長居するでもなく、少し話せば去ってゆく。結局は皆行くところがあるということなのだろう。
 私達だって、そう。去年は慧音と、輝夜は永遠亭の皆と。でも、今年は二人だ。まるで恋人のように寄り添い、二人で神社を訪れ、少し居座り、二人で夜を過ごし正月を迎える。
その夢想することの、なんと美しく素晴らしいことか。
「ああ……うん、行こう」
「やった。約束ね、妹紅」
「でも……慧音とか、お前のところの連中には、悪いことになっちゃうな。まぁ、慧音には里にも知り合いがいるし、お前の所の連中もお前一人が抜けるくらいなら、大丈夫か……な……?」

 強烈な違和感が襲う。慧音、それから永琳、鈴仙……誰も居ない。私の側にいるのは輝夜だけで、知らないはずの連中をどうして、私は知っている?
「そうだ……そもそも、ここはどこだ?」
 永遠亭じゃない。ここは、それらしく見えていても、別物だ。ここには、輝夜と、私しかいない――






 ―――Another World?―――




「んなっ!?」
 見下ろしている輝夜の顔が、滅茶苦茶近いところにあって私はびびった。
「あ、起きた」
 輝夜がすっと顔を上げる。
「な、何を――!」
「もこぉぉう!」
 寝ていた覚えがないのに、私は横たえられてベッドの中にいて、布団をはね除けながら上半身を起こすと、飛びついてきた慧音のタックルに腹部を痛め小さく呻いた。
「け、慧音」
「良かった、良かったよぉ」
 慧音が私の胸元で泣きながら笑っている。部屋を見渡せば、そこは洋風のごちゃっとした部屋だった。自分に着せられてる服が白いゴスロリになってて、私はうげぇとなった。全然私の趣味じゃない。
 そして、輝夜、慧音の他に、もう一人私を見ている人間がいた。
「あーあ、起きちゃった。蓬莱の人形を眺めてる時間も終わりね」
 アリス・マーガトロイド。
「人を人形扱いするなよ。私は生きてる」
「でも、間違ってないでしょう? 人を人たらしめるのは意志の力なんだから、意志を失ったあなたは人に近い、自己修復機能を備えた蓬莱の人の形そのものだわ」
 輝夜が私を見下ろしながら言う。
「あなた、意志を失っていたのよ。生きても死んでもいないことを受け入れてしまったの。そうなればそこらに転がっている石と変わらない。それをアリスが見つけて……」
「子供達も喜んでたし、良い見世物だったんだけどな」
「お前なぁ……」
 意志を失う、か。言われれば確かに覚えがある。輝夜が好き、なんて言えるはずもない。あいつを憎んで、殺して、それで、輝夜が私を好いてくれるはずなんてないから。だから、余計に当たり散らすように、あいつを何度も手にかけて、私は諦めてしまった。私がいくら輝夜を求めても、輝夜が愛情を返してくれることなんてないと。
「それで、お前は……」
「慧音がどうしてもって頼むものだから。私の力を使って希望を探ってあげたの。とてもとても短い時間を操る力で、あなたの、もっと幸福に満ちた、別の歴史を見せてあげて、ね。
 あなたの見ていたものは、全て夢よ。そうなっていたのかもしれないという、一つの希望であり収束。あなたが生きたかもしれない、あなたと私の、別の歴史。
 私の力で、全部失ったはずのあなたにその夢を見させたの。絶望したあなたに、過去から何かを引き出しても逆効果なだけでしょう? あなたに良い夢を見せてあげなくてはと思って、私、頑張ったんだから」
 私ははっとする。
「お前、全部……見ていたのか? ……私の、中にいたお前は……」
「うん。全部見てた。随分と愛してくれてたじゃない。嬉しかったわよ、妹紅」
「輝夜ァ……!」
 私が本当に哀しかったのは。あれは夢の中の輝夜であって、本物じゃない。なのに、輝夜に対してあんなことを考えていると、知られるのが恥ずかしくて、そしてもう終わってしまったのだと思うと哀しかった。
 憎しみを与えることで、輝夜を求めていた。でも、輝夜はそのたび、私を憎む。その輪廻が終わったと思っていたのに。怒りも哀しみも綯い交ぜにして、八つ当たりのように輝夜を睨み付けた。輝夜は余裕たっぷりに私を見返していて。
「んちゅ」
 優しく微笑んだかと思うと、唐突に輝夜にキスをされた。肩口を抱き寄せて、愛しい恋人のように。
「わー」
「――っ」
 アリスが楽しげにしていて、慧音が顔を真っ赤にして目を逸らす。
 輝夜にそんな風にされても、さっきまでそんな風にしていたものだから、引き離すことができない。舌を絡めて、唾液が吸われるのを意識する。されるがまま、輝夜が唇を離して、ようやく解放される。
「な、何を――」
「あら。眠り姫はキスで起きるものよ。まぁ、さっきまでもっとしてたのに、今更赤くなることないじゃない」
「こ、殺す! もう殺す!」




「そうね」


 久々の殺し合いだし……ねえ、妹紅。


 楽しみましょう。







 ――Day Dreamin'――

 今年の大晦日は、約束通り妹紅と一緒に神社に行こうと思って来たのに怒り出すから縛り上げて担いで行った。下ろせ死ねとぎゃあぎゃあ喚いていたけれど、神社の石段の下で解いてあげて「別にいいわよ、嫌なら一緒に行っても仕方ないし」「一人で行くわ」と言ってやると、迷うような目になっておずおずと手を差し伸べて、手を握ると顔を背けて先に歩き出す。まじこの妹紅可愛すぎるんですけど。
 手を繋いだまま、妹紅が呟くように語り出す。
「なぁ、あの時さ。どうして、私の夢を覗いたりなんかしたんだ? 良くないだろ、そういうの」
「そうかしら」
「普通はそうだよ。そもそも、無闇に力を使うんじゃない。私なんて、放っておけばいいんだから」
「私はね、妹紅。あなたがちゃんと幸せな夢を見てるかどうか、確かめてたの。まぁ、興味もあったけど、本当に幸せになってくれるか、不安だったんだから。
 でも、幸せになってくれてたみたいね。私、自惚れじゃなくって、幸せにしてくれたし、幸せにできたと、そう思うの。
 ねえ、愛し合うって素敵なことだわ! 幸せには幸せで報いたくなる。あなたがそれを知ってくれたのが嬉しいの。殺し合いも素敵だけど、たまにはこんな風に愛するのって悪くないわ。それこそ私達は、永遠に愛を交わすことができるのよ。なんて素敵なんでしょう、そう思わない?」
 ずんずん先に行く妹紅に手を引かれ、ついていくのが精一杯。妹紅の歩みはますます早さを増して行く。
「ね、妹紅」
「う、うるさい」



 ―――Quarrel Happily!―――
 
 読んで下さってありがとうございました。
 好きなものを書きました。十五禁と十八禁の境界に挑戦した気がします。専用の方が相応しいかなと思ったんですが、(自分では)それなりに良い出来に出来た気がするのでこっちにそっと出してみることにします。
 前のゆかれいむに「べたべたな恋愛」って言って「違和感がある」ってコメントつきましたが、べたべたな恋愛ってこういうものをいうのかな? 苦手な人はごめんなさい。
 
 かぐもこ。僕なりの輝夜と妹紅です。妹紅の弱さと輝夜の強さをほんのちょっと書けた気がします。自分ではキャラ萌えに挑戦した感じです。それなりに可愛く見えてると嬉しいですね。 
 輝夜の「複数の歴史を持つことができる」求聞史紀ネタにちょっと触れてますが、今回は恋愛要素のが強くなり、その添え物にしてしまった感じがあるのでもうちょっと料理できそうならしてみたいかも?
 え、アリスがいた理由? ゴス妹紅を書きたかっただけですよ? というよりも、コスが好きなんです。入院服永琳とか、ウェディングドレス紫とか。アリス妹紅は「蓬莱人形」というワードで繋がってるので、それを中心にするのもありかもしれないですね。


私信
・ジェネリックの方の作品、また創想話の前の作品にもコメントをありがとうございました。いつも励みになっています。また、リクを下さった方にも感謝を。書けるものから書き始めています。神奈子様は結構書けてきました。また、リクエスト受付中です。必ず書くとは約束出来ませんが。
・コメント返しをしないので、(呟かない)ツイッターのアカウントを載せておきます。個人的に言いたいこと、返信が欲しいことがあれば連絡を頂ければと思います。激励暴言何でも気楽にどうぞ。

 ここまで読んでくれてありがとうございました。
RingGing
http://twitter.com/ProdicateJacks2
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コメント



0.780簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
姫様も妹紅も可愛すぎるw
2.60名前が無い程度の能力削除
まず最初に。この作品はアウトの部類に入ると思った。作者的にボツにするには勿体なく気に入ったのなら、逆にそういうギリギリな描写部分をもっと濃厚にして夜○話の方に投稿した方が良かったかもなあ。残酷描写はタグで表記すれば受け入れ可能だと思うがエ○スはな……まあどこまでがセーフかなんてのは、読んでる人のその瞬間の気分次第だとは思うけども。



そんで作品とカップリングの感想。個人的には○ロスな作品とかバッチコイだよ!好きなカップリングがイチャイチャしてたら萌え転がるしかないだろ?誰だってそーする俺だってそーする。かぐもこ万歳。可愛すぎるだろおおおお!
ただこの作品に関しては、扱い辛いことに定評のある輝夜の能力の珍しい使い方や、後書きにある妹紅と輝夜の精神力の違いを文中で表現出来てることを評価してるわけで。
そういった意味でギリギリを狙った○ロス描写が蛇足に感じられた。むしろエ○スにかけるkbをもっと減らして、その分他の箇所に力を入れた方が中弛みしなかったと思うだけに残念。
なんだろう、かぐもこの○ロスな表現自体は素敵なんだけど、作品に噛み合わなかったみたいなそんな感じを受けたんだ。
総じて、前作なんかと比べると完成度が低いように思えたのでこの点数で。
3.90君の瞳にレモン汁削除
おそらく15禁におさまってるかな、という感じてすね。アウトではなくアウフ。

内容はすごくよかったです。
二人とも可愛いよ二人とも可愛い
8.100名前が無い程度の能力削除
これは良いもこかぐ。二人とも可愛い
9.100名前が正体不明である程度の能力・夜削除
逆の世界のような、違うような…
13.70名前が無い程度の能力削除
ア…ウフ
かぐもこはやはり良い…

永琳なんていなかったんや!
17.80名前が無い程度の能力削除
蓬莱人の殺し愛系のssはもう40作程見た気がするんでいい加減食傷気味
でも目新しさはないものの面白かった
過去作の方が好きではあるもののこういうベッタベタなカプssもいいなぁ