Coolier - 新生・東方創想話

私が人肉食をやめたわけ

2011/11/22 05:04:19
最終更新
サイズ
19.49KB
ページ数
1
閲覧数
1333
評価数
16/44
POINT
2560
Rate
11.49

分類タグ


タイトルやタグの通りです。

グロ表現があるので、苦手な方はご注意ください。 











「博麗大結界が出来てからは、私は人間を殺した事も、食べた事も全くない。

えっ、最後に人間を食べたのはいつだって? そんな事を聞きたいの?

まあ、私の人生というか、妖怪生は暇が多いから、

そっちに時間があれば話してやってもいいけど。

聞きたい? じゃあそこに座りなよ。長くなるから。

あれは、ちょうど博麗大結界が作られようとしている時期だったな……」


















私が人肉食をやめたわけ










真夜中の魔法の森。暗闇の中に、一つの橙色の光が見える。

一人の少女が火を起こしていた。

宵闇の妖怪であるルーミアが、襲った人間を『調理』するためである。

獲物は若い男。道に迷ったのか、それとも何か山菜でも探していたのか知らないが、森を歩いていた所を後ろから襲って仕留めたのだ。延髄を手刀で一突きである。簡単だった。

服をはぎ取り、喉の動脈をナイフで切って逆さ吊りにし、血抜きする。血をなめてみるが、血を飲むのはあまり好きではない。

血抜きしたところで、皮をはぎ、手足を切り離し、腹を裂いて内臓を取り出した。
切り離した大腿部をたき火の両側に差した太い木の枝に引っかけ、じっくりと焼く。
じゅうじゅうと脂の煮立つ音、肉の焼ける香り、よだれが出てくるが、もう少し火が通るまで我慢する。知能の低い低級妖怪や、獣が食べたそうにこちらを見ていた。

「ちょっと待っててね、残りはみんなにおすそわけするからね。さてと、いただくとするか」

十分焼けた頃、布を巻いた両手で両側の骨をつかみ、かぶりつく。引きしまった筋肉から旨味があふれ出す。

「おいし~い」

骨だけになった後、指で力任せに骨を割り、ナイフで骨髄をかきとって口に入れる。
これもコクがあって旨い、スープにしてもいいかなとルーミアは思う。

「さてと、次は脳みそ脳みそ~♪」

座った姿勢のまま、男の生首を膝で抱え、のこぎりで頭蓋骨を横に切り、いくつかの脳を守る膜をはがし、スプーンで大脳を掬いとる。

「この脳みそにはどんな思いが詰まっていたのかしら。脳みそって一つの宇宙よね」

肉とは違った味に舌づつみを打っていると、友人の蛍と夜雀の妖怪が飛んできた。
蛍のリグル=ナイトバグは、右手に食べかけの八つ目鰻の櫛を持っていて、口の周りにわずかにタレがついている。
これは夜雀のミスティア=ローレライが、最近焼き鳥の代用品として売り出している物で、妖怪のみならず人間にも受けていた。

「ルーミア、今日も人を襲ってたのかい」 リグルがうつむいて問いかける。

「そうよ、だって人間美味しんだもん」

「でも、私たちは必ずしもこういう物理的な食べ物は必要ないんじゃないの?」

「そうだけど、妖怪は人間を襲ってナンボの物でしょ、リグル達も食べる?」

ルーミアが大脳の露出した生首を二人に向けた。

ミスティアが口を押さえてかがみこみ、その背中をさすりながらリグルは怒った。

「ルーミア、もうそう言うのやめなよ、みすちー嫌がってるじゃないか」

ルーミアは目が開いたままの生首に話しかけた。

「ごめんごめん、ねえ、貴方の事、みすちーはお気に召さなかったみたい、残念だね~」

当然反応はない。光の失せた瞳は、ただ虚空を見つめるのみ。

「みすちーは八つ目鰻を人間に売ってるし……まあ、鳥目にした後で売りつけるんだけど、

それに私も、蛍の舞いを人間の子供たちにみせると、すっごく喜んでくれるんだ。だから、だから……」

「人を襲うのをやめないか、という事? 

ご忠告ありがたいけど、私はこういう生活が好きだし、

私らが時々人間を襲う事で、人間達も適度に緊張感を保てて、

普段仲が悪い人間も団結できるのよ」

「ルーミアに信念があるのは分かるし、大事な友達だけど、目の前でこんな光景見せないでよ」

「来たのはそっちなのに? でもまあいいわ、これからはリグル達のいない所で食べるから」

ルーミアはなぜ妖怪仲間が自分の人肉食を嫌がるのか理解できなかった。

人間。いくらかの努力や忍耐と引き換えに、自然が恵んでくれる滋養ある食べ物。

食料とは思っていても、決して蔑視しているわけじゃない。

食べ物に対する畏敬の念は持っている。

しとめる時も、なるべく最小限の苦痛で済むよう心がけている。

そしてなにより、人間を襲うのは妖怪の本分ではないか、と彼女は思う。










「そんな私に転機が訪れたのは、ある日の昼間の事。空中散歩の最中に、人間にやられたのよ」










昼、ルーミアは空を飛んでいた。全身を丸い暗闇の球に包んで。

こうすれば、太陽光に弱い彼女も安全に昼の空を飛ぶ事ができた。

人間達がそうした彼女の習性を知り、退治を試みるのに時間はかからなかった。



「やつを見つけた。いいか、手筈どおりに仕掛けるぞ」

「ついに来たな」



ルーミアがよく出没する里近辺の草むら。

息を殺して機会をうかがっていた二人の魔法使いは、遠眼鏡でその姿を確認し、素早く箒に飛び乗り、彼女めがけて速度と高度をあげてゆく。

「いける、やつはまだ気づいていない」 一人はひげを生やした壮年の魔法使い

「あいつの仇、取らせてもらうぞ」 もう一人は彼の弟子。

二人はルーミアの背後の下方から追いすがる。やがて、魔力が限界に達しそうになる。

だが後もう少し、もう少しでルーミアに追いつく。

「今だ!」

二人は魔力を振り絞り、追い越しざまに凝縮した光線を浴びせた。

「喰らえ!」

二条の光線が暗闇の球を貫通し、中から宵闇の妖怪、ルーミアが姿を現した。

「やるじゃないの、人間」

二人の魔法使いは、彼女の少し前方斜め上まで飛び上がり、そのまま箒を下に向けて逃げの態勢に入る。

接近して撃ち合えばかなわない事を冷静に判断してのことだ。

だが若い魔法使いの方は空中でとどまり、ルーミアの方を振り返り、魔法の弾幕を浴びせようとした。

ルーミアは若者の顔を見た。先日食った男に瓜二つだった。

しかし、すでに息が上がっているらしく、弾幕はかすりもしない。

「それじゃ私に勝てないよ」

壮年の魔法使いがそんな彼の腕を引っ張り、彼が何かわめき散らすのを無視して、半ば自由落下に任せる形で急降下してゆく。

「位置エネルギーを運動エネルギーに……。だから高く飛んでいる所を狙った? 考えたわね」

悔しいけれど、狩りはおしまい。人間の勇気と知恵を称え、今回は勝ちを譲ろうと考えた。

その時、彼女の背中に衝撃が走る。

「えっ?」

最初の衝撃のあと、体をいくつもの星屑が貫き、もう一人の魔法使いが飛び去っていく。

太陽を背にして隠れていたのだ。太陽光を嫌う彼女にとって完全に盲点だった。

魔法使いが一瞬こちらを振り返る。里の人間には珍しい、金色の髪をした女。

彼女は背を向けたまま、とどめとばかりに星屑の弾幕を浴びせ、二人の魔法使いが逃げた方向へ飛んでいく。



「さようなら、永遠の一回休みを楽しみなさい」



激しい妖怪退治に不釣り合いな、綺麗な声だな。

そう思ったところでルーミアの意識は途切れた。










「その女の子魔法使いって、多分誰かさんのおばあちゃんか、ひいおばあちゃんでしょう。

確証はないけどね。あの金髪と声、雰囲気が何となく似ていたし、

で、ボッコボコにされた私は、神社の巫女に拾われたの。その世代の博麗にね」










どこかの灌木の中、ルーミアは頭部を地面にめり込ませて倒れていた。

ようやく気が付いて頭を引き抜き、顔を左右に振って泥を落とす。顔と服が真っ黒だ。

退治されるのも妖怪の本分とは言え、どうせならもっとスマートに消滅させるなりして欲しいものだ、と彼女は思う。

ここはどこだろう、リグル達に会えるかな。独り言を言いながら、彼女はさまよい歩いた。

途中で見つけた小川で顔を洗い、魔力でボロボロの服を再構築した。妖力が底を尽きかけている。人でも獣でも、何か食べて回復したかった。

渓流を下って歩いて行くにつれ、徐々に視界が開け、特徴的な建物がルーミアの目に入ってくる。

よく整地されたその土地は、まさしく幻想郷における聖地。

博麗神社。人間を守り、幻想郷を守護する巫女の住まう場所。

ルーミアが踏み入ったのは神社の裏手だった。

表をおそるおそる覗いてみると、彼女より背丈のある一人の巫女が掃き掃除をしている。

巫女は背を向けていて、襲うチャンスと言えばそうだ。

だが今は魔力も乏しい、逃げるか? それとも堂々と出ていって退治されるか?

後者も妖怪の最後としては悪くないなと思う。

「そこの妖怪さん、顔をだしたらどう?」

掃除の手を止めずに背を向けたまま、巫女が呼びかける。

これで運命決定か? ルーミアは覚悟を決めて進み出た。 

だが意外にも、巫女は彼女を退治しようとしなかった。

整った顔立ちのその巫女は、こちらに歩み寄り、顔を撫でた。

「ずいぶんやられたようね、お守り、相当効いたようね」

「お守り?」

「そう、魔法使いの一団が来て、仲間を食った妖怪を退治するんだって言って、必勝祈願していったわ」

巫女は超然とした態度で接してくる。普通自分を見た人間は恐れるか立ち向かってくるかしかなかったというのに。

「あなたも人間でしょ? 私は人間を食う妖怪よ。怖くないの」

「怖いわ。でもあなた達妖怪が人を襲うのは自然な事でしょう。そして人間があなた達を退治するのも自然な流れ。それ自体は善でも悪でもない」

調子が狂ってしまう。そして、ルーミアはこの巫女に興味がわいた。

これからどうしようかと迷っていると、何かが飛んでくるのが見えた。

箒に乗った魔法使いだ。おそらくさっきの連中か、その仲間だろう。

おそらく、ルーミアを倒せた事を神に感謝しに来たに違いない。

ルーミアは巫女の顔を見た。その巫女は何も言わず、ルーミアを物置にかくまった。彼女は扉の隙間から来訪者を見る。

魔法使いが降り立った。後姿からして、あの若い女の魔法使いだった。年の程は巫女と同じくらいか? 扉が邪魔で顔はよく見えない。

「よっ、元気にしてた?」 さっき聞いたよりも柔らかい声色。巫女も気軽に会話する。

「神をも恐れず、賽銭無しで願い事をするあんた程の元気はないわ」

「うふふふ、固い事言わない言わない」

「その様子だと、首尾は上々だったようね」

「うん、とどめはさせなかったけど、かなり打撃を与えたわ、当分悪さはできないでしょうね」

「これで、あの人も浮かばれるわね」 巫女が少しうつむき、急に場の空気が沈んでいく。

「これで一区切りついた。もうこんな悲劇はこれっきりにしないと、ね」

あの人というのは、ルーミアが食った若い男の事だろう。

二人のやり取りを見て、ルーミアは自分の胸が何かにつつかれているような感触を覚えた。

怪我とは違う、じいんとくるような痛さ。

「全く、運命って残酷だよね。あいつが一番才能あったのに」 魔法使いがつぶやいた。

自分が人間を食えば、当然仲間たちは仇を討とうとする、それは知っていたが、その仲間たちがどういう心情を示すのかは、ほとんど知らなかったし、興味も無かった。

彼女の中で、人間の立ち位置が、ただの獲物から、別の何かに変わった瞬間だった。

彼女は、人間をもっと知りたいと思った。

ただの食料としてではなく。










「駄目もとで人間達の暮らしが見たいと巫女に頼んだら、あっさり許してくれたわ。

当然制限つきだけど」










巫女に力を封ずる護符を髪の毛に結わえ付けられた状態で、ルーミアは里に出た。

力を制限されている事以外、なんら制約は課されなかった。

護符に手を触れると、しびれるような感触がして指がはじかれたが、神社に帰ってきたら外してやると巫女は言う。

どうせ大した事は出来やしないと高をくくっているのか? 

それとも、そうまでして見せたい物があるのか? あるいは単なる罠か?

どちらにせよ、頭の護符がある限り、自分は巫女の支配下にあるのだ。考えていても仕方がない。とルーミアは開き直った。

巫女に巾着袋に入った小遣いをもらい、教えられた道を歩いて里を目指す。魔力が尽きかけていた上に護符の影響で空は飛べない。

上空からなら里の位置を知るのは簡単だったが、こうやって歩いてみると、丘や木々などの地形が邪魔をして、教えられていなければ何処を歩けばいいのか迷いそうだった。

「飛べない人間はちょっと移動するだけでも大変なんだなあ」 

ようやく里に到着する。中央を貫く大きな道では、多くの人々が行き来し、商店がいくつも立ち並び、和風、洋風、中華風、あるいはそれらをごた混ぜにしたような、色々な服を着た人間達が物を売ったり買ったりしている。

中に混じって、水色の洋服を着た女性が、車輪のついた屋台で人形劇を披露していた。

「さあさあ、グランギニョル座の公演が始まるよ~」

人形たちは、彼女の見事な操演でぺこりとお辞儀をし、その様子を子供たちが興味深そうに見つめている。

同時に音楽が鳴った。確かアコーディオンとかいう楽器を演奏していたのも人形だった。

ルーミアは演目より演者の女性に注目する。彼女は人外だ。たぶん魔法使い当たりだろう。

自身を倒した人間の魔法使いよりさらに年季のある、不思議な術で人間を超えた寿命をもつようになった存在だ。

彼女はルーミアに視線を向けたが、すぐに視線を変えて人形の操演に専念する。

あまりルーミアの事を珍しいとも危険だとも思っていないらしい。

リグルの言葉を思い出した。最近人間と仲良くしつつある人外が増えているのは本当だったのか。

ルーミアは何だかそれが不愉快に感じた。

「何よ、人間に媚びちゃって」

気分を変えるために大通りをそれてふらりと路地裏へ出ると、人間の子供たちが遊んでいる。中になんとリグル本人がいた。

「はい今度君が鬼~」 「リグル飛ぶのずるいよぉ」 

「あはは、妖怪をなめちゃいけないよー」

空を飛んでの鬼ごっこ、とても楽しそう。ルーミアはさらに腹が立つのを感じた。

「リグル! あんたなんで人間と遊んでいるの?」

「あっルーミア、君も混ざる? 結構楽しいよ」

「楽しいよ、じゃない!! なんで人間に媚びるのよ。妖怪の誇りを忘れたの?」

自分でも何故だかわからない程、棘を含んだ声が出た。

子供たちは怯えて、リグルの背後に隠れ、リグルも両手を広げて子供たちを守ろうとする。

「媚びていないし、誇りを忘れてもいないよ」

「妖怪は人間を襲って、人間は妖怪を退治する。それが本来の秩序のあり方。違うの?」

「そうだよ。だからこうやって人間と競っているんじゃないか」

「それにしては、遊んでいるようにしか見えないわ」

今度はリグルが感情をこめて訴える。

「もう人間を死なせたくないんだ、ごっこで人間と戦って何が悪いの? 

あと知ってる? この前、どっかの魔法使いが死んだのを聞いたんだ、で、葬式も見たよ。

みんな泣いたり、泣くのをこらえている人たちばかりだった。

私はもうそんなのを見たくない」



またその話か……。

「リグル、もういいよ、勝手にしな、私は帰る」

「待ってよ」

ルーミアはリグル達のいる路地裏から早歩きで立ち去った。

再び大通りに戻る。今度は甘い匂いが鼻腔をくすぐってきた。

十字路の曲がり角、果物を売る店があった。黄色い皮をした果実、蜜柑に違いない。

巫女に貰った巾着袋の中身を開け、一つ買ってみる。

「おじさん、これ頂戴」

「あいよ」

皮をむき、ひと房を袋ごと食べてみた。

「おいしい」

山に自生している果実より甘みがあった。

「おじさん、これどうやって作ったの?」

「そりゃもう、百姓たちが苦労して土を肥やしたり、いろいろな品種をかけ合わせたり、

人間の思考錯誤、汗と涙の結晶よ」

店の主人は得意げに言った。

人間とは、生かしておけば、かように美味しい物を作れるのか。

自分が食って来た人間も、生きていればこういったものを作るようになっていたのだろうか?

そんな事を考えながらぶらついていると、田んぼの真ん中に、民家とは変わった作りの建物があった。

そこでは妖怪か、もしくは妖怪の血を引いているらしい女が、子供たちに読み書きを教えていた。

嫌でも分かる、もうこういう時代なのだ。

本当は分かっていた、自分が人形操演の魔法使いや、リグルに苛立つ理由を。

仲間たちは、人間と関わり合い、新たな時代へ向かおうとしている。

でも人食いである自分を受け入れてくれる人間などいるわけがない。

先程も人間に退治されたばかりだ。でも……。

「みんなと関われたら、どれほど楽しいかな?」

でも自分は人食い妖怪だ。人間と仲良くなれないはずだ。

かといって、今まで通り恐るべき人食い妖怪として、同じ妖怪仲間からさえも批判されて生きていくのも嫌気がさしていた。

仲間を失った魔法使いたちの悲しみ、共存を楽しむ仲間たち。

ルーミアは神社に戻る事にした。巫女に自分の決意を伝えるために。










「でね、巫女にもう人を食べるのは止めると誓ったの。

理由を聞かれたんだけど、何て答えたのかは覚えてない。

別に立派な考えじゃなくて、何となく人を食うのが億劫になっただけだったと思う」










ルーミアはこう自己分析した。

人間に対して憐れみや罪悪感が生じた、というには実利的理由が強すぎる。

かといって、生かしておいた方が実利になるからだ、と言い切るにも情が芽生えすぎた。

とにかく、ルーミアは今日一日の濃密な体験から、急に人を食う意欲が薄れてしまった。

もう人は殺さない、食べたくない。

そう巫女に誓った。巫女はならばそうすればいい、とそっけなく言って、頭に結わえ付けられていた護符を外した。

この事をリグル達にも言おう、きっと喜んでくれるだろう。

今自分は生まれ変わったのだ。今度の誕生日、仲間の前でそれを宣言しよう。










「そうそう、誕生日ってのは、私が適当な日を選んで、その日が誕生日だと言う事にしただけ。

正確な生まれ落ちた日なんて知らないけど、あった方が面白いと思ったから」










その日が来た、いつもの遊び場所へ行く。変な空気だった。

そこにはいつも通り、リグルとミスティアもいた。

「ルーミア、誕生日おめでとう」「おめでとう」

二人の顔や衣服に、なにやら黒いしみのようなものが付いている。そしてこの覚えのある匂いは?

リグルが無理やり作った笑顔で言う。

「あれから私、ミスチーと一緒に考えたんだ。ルーミアにもルーミアなりの信念があったんだって」

遊び場にある太い木の陰で、誰かが幹に背をもたれかけて座っていた。

「私達は人を食べたりはしないけど、食べる習慣の妖怪を、自分の主観で非難しちゃいけないなって思って……」

どさりと音がして、木の陰で座っていた誰かが、その場に寝転ぶ。

「だから、みすちーと相談して、誕生日の贈り物と、仲直りの印を兼ねて、受け取ってよ」

精一杯の作り笑いを見せる二人。

ミスティアは太い木の陰に周り、幹にもたれかかっていた一人の人間を引きずって、ルーミアの元まで運んでくる。

彼女は人間から顔をそむけながらも、その人間を運び、ルーミアに差しだした。

人間は少女だった、この顔、服、髪はもしや……?

「はい、今日仕留めたてのほやほやだよ。

わ、私、すっごく怖かったけど、リグルの毒虫で動けなくして、

それで、この子も苦しそうだったし、リグルにだけ手を汚……いや任せたらずるいと思って、

こう、爪で胸をぐさりとやって、一撃で仕留めたよ。妖怪らしく」

ミスティアは泣き顔を必死でこらえながら、それでも笑顔で居続けようとした。

「ほら、ルーミアは人間を食べるんでしょ、プレゼントだから、食べてよ、ウウッ」

言い終えると、ミスティアはまた口を押さえてその場にしゃがみ、胃の中の物をぶちまけた。

巫女は紅白の衣服を真っ赤にして、目を閉じて息絶えている。

その整った顔立ちの少女は、やはりあの巫女だった。

人間を食べないとルーミアが誓った相手だった。

「何でよ……」

「ええっ?」

「私、もう人間を食べないって、誓ったのに、なんで、何でよ」

「ルーミア?」

「私、人里へ行って、人間の生活と、人間と共存する妖怪を見て、うらやましく思ったの。それでもう人間を食べたくないって思ったのに……。こんな事、してくれなくても良かったのに!!」

ルーミアは二人を叩いた。そして、物言わぬ亡骸となった巫女の前で、三人でずっと泣き続けていた。










「巫女の死体をどうしたかって、食べたよ、さっそく誓いを破る事になったけど、

友達のせっかくのプレゼントだったんだもん。

味は良かったけど、あんな美味しくない人肉は初めてだった。

ほら、O・ヘンリーの短編集で、『賢者の贈り物』ってあったじゃない。

夫は妻にべっ甲の櫛を買うため自慢の金時計を、妻は夫に時計の鎖を買うため自慢の髪を売った。

二人が贈りあった物は互いに無駄だった。でも二人はより素敵な贈り物を手に入れた。

あれを幻想郷向けにグロテスクに翻案した話しかっての! 運命は残酷よね」










ルーミアは夢を見た。彼女は博麗神社にいた。

青空の元で、巫女が神社で掃き掃除をしている。

巫女はルーミアに気づくと、顔を向けた。ルーミアは頭を下げた。

「ごめん、約束、破っちゃった」

「でも、これでもう人を食う気にはならないわね」 淡々と話す巫女。

「うん。私の事、憎い?」

「ちょっとね。私もまさか、この年でこんな死に方ないわ~と思ったけど、

こういう結末も覚悟の上だし、もうどこも苦しくないよ」

「本当に? ねえ、私を罵っていいんだよ。本当はもっと生きていたかったんでしょ? 

どうしてもっと私を責めないの? 私は平気で人を食う妖怪だよ」

「言ったでしょ、妖怪と向き合う商売だから覚悟の上」

「これは本当のあなたの気持じゃない。許されたいと願う私が生み出した、都合のよい幻影だ」

「どうして、許されたいと思うのかしら」

「それは……」

「あなたは人を食う事が罪だと思えるようになった。私が幻影だろうと何だろうと、それは事実。

私は自分の命と引き換えに、人食いとしてのあなたを殺した。それでおあいこ」

巫女は後ろを向いて、再び掃除に戻った。

そこで目が覚めた。





その後、八雲紫ら幻想郷の賢者たちと、人間の代表たちによって、博麗大結界による幻想郷と外界の分離が宣言された。

同時に幻想郷内に住む人間を食う事が禁止され、ルーミア達は一も二もなく同意した。

ルーミアが気まぐれに決めた誕生日の翌日だった。










「人を死なせたり、食ったりしたのはそれっきり。外界から迷い込んだ人間も含めてね。

私はその後、八雲様に頼んで護符を付けてもらったの、力を押さえるために。今頭についているのがそれ。

もし私の決めた誕生日が一日後か、賢者様たちの決定が一日先だったなら、あの子は天寿を全う出来たかも知れない。今でも悔やまれるわ。

あなたは私に人をもっと襲うべきだと言ったけど、こういう理由で弾幕ごっこ程度しかしたくないのよ。

あと、人食いの習慣だけど、今は人を食うなど愚かの極みと見なす妖怪でも、それを『改心した』とか『悔い改めた』と表現すると怒る妖怪もいるから、人間は気をつけた方がいいわね。まあ私はいいけど。

今は許されない事でも、かつてはそれが人と妖怪との関係だったわけで、その事自体は誇りとしているヤツも多いから。

これで話は終わり、どう? いい記事書けそう?
文 「インタビューにご協力いただき、ありがとうございました」
とらねこ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1090簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
ま、待つんだ…いろいろといいたいことはあるんだが…

グランギニョル座 はまずい!!

神綺ママ「アリスちゃんをそんな風に育てた覚えはありません!」
里の観客「いや~このスリルがたまんないよねぇ~」
神綺ママ「!?」
3.80奇声を発する程度の能力削除
これは中々…
5.100名前が無い程度の能力削除
グロいだけの話でもなし、無感動で無慈悲なオチといい、最高でした。
11.90名前が無い程度の能力削除
巫女が、霊夢と表記されてる箇所がありましたね。
魔理沙(先祖?)との会話辺りで。
誤字、だと思うので一応報告まで。

話は、非常に興味深く読ませていただきました。
ラストの下りは、あまりにも悲しい展開でしたが…
引き替えに、人食いとしてのルーミアを殺した、というのがすっきり腑に落ちた感じです。
結界前には、こんな事もあったかもしれないですね。
12.100名前が正体不明である程度の能力削除
ルーミアって明るそうだけど過去が暗そうだよね。
まさに闇。
13.100名前が無い程度の能力削除
情にも実利にも傾きすぎてない なんとなく人を食べるのを辞めよう
って感じから決定的になった最後の人食がエグくてやるせなくてインパクトがありました
どこかドライな空気もいい雰囲気を出してます 良かったです!
14.100名前が無い程度の能力削除
このテーマでどう落としてくるのかな・・・
と期待して読みましたが、予想の斜め上のオチで非常に良かったです。
特にリグルとミスティアのキャラクターが非常に私好み。

ただ、一つ文句があるとすれば
ルーミアが人を食べる事を「罪」だと思うようになったことです。
人を食べることが嫌になったのかもしれませんが、罪と思うのは少し違うように思います。
それ以外は文句なしの110点で10点引いて100点ですね。
18.100名前が無い程度の能力削除
気だるそうなルーミアにもこんな過去があったのかと思うと、何だか感慨深いものがありますね。
20.90とーなす削除
なかなか見ないルーミアでした。
22.無評価とらねこ削除
うわああああああ、またしてもいくつもの誤字が……。一応訂正しました。
予想外の高評価感謝します。いろいろな印象を持っていただいたようで興味深いです。
人を食べることに関しての妖怪たちの見解ですが、まあ、妖怪にもさまざまな見方があるのだと思います。
あといつも作風が淡々としている、薄味であるとの評価をいただく事が多いのですが、変えようか、このままでいようか迷っています。
23.70名前が無い程度の能力削除
面白かったです。この作品には淡々としている書き方がかなりマッチしていましたね。
何でルーミアという点は最後まで違和感が残りました。
24.90名前が無い程度の能力削除
ルーミアならどんな過去もこんな風にあっけらかんと話すんだろうなあ
27.80名前が無い程度の能力削除
ほうほう……最後にうまく繋がった感じがしますね。
ただ、リボンをつけてもらったのに一旦外したのなら、再びつけるのに同じくらいの理由があったら良かったかな、とか。
それはそうと、全体を通して行間が1行開けなのかと思いきや、一部だけそうじゃなかったりしてその点がちょっと気になりました。
29.90名前が無い程度の能力削除
グロ表現というのは、使いどころを間違えると、本当にただの後味の悪い作品にしかならないと思っています。
その点、このSSはとても効果的にグロ表現を使っていたと思います。もちろんそれが全てではなく、最初から最後まで一貫してルーミアの心境をきっちり語っていることに好感を持ちました。
35.100名前が無い程度の能力削除
リグル、ミスティア、巫女がナイスすぎる。
それにしても切ない…(良い意味で)
39.100絶望を司る程度の能力削除
無駄なグロが無くて、むしろグロが作品を面白くしていると感じました。
とても面白かったです。
40.無評価とらねこ削除
こんな昔の話を評価して下さってありがとうございます。
グロい話は敬遠されるかもと思いましたが、そのシーンの使い方が効果的と認められて嬉しいです。
幻想郷において、力が秩序だった時代から、徐々に現代の秩序に近づいていく過渡期にはこんな事があったんじゃないかと空想して書きました。
時間はかかりますが、新しい話も書いている途中なので良かったらご覧ください。
42.100リペヤー削除
「人を食う事」をテーマにした東方のストーリーは数多くありますが、この作品は私の中で三指に入る素晴らしい作品です。
善も悪も慈悲もない食人……いえ、殺人という行為の重さ。それをこの描写した作者さんの腕に唸るばかり。
文句なしの100点をば。