Coolier - 新生・東方創想話

Conceal Incomprehensible

2011/10/31 21:29:25
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御触書

前々作【Contrainess Jealousy】
前作 【Coward Insensitive】

さとり×パルスィ 
今回も無味無臭
毎回の如く設定色々捏造
キスメのキャラ崩壊警報
映姫様の口調崩壊警報
以上の事に我慢らない方はブラウザバック推奨

それでは











































コツン コツン コツン
 コツ  コツ  コツ


どうやらこいしが帰ってきたようだ、誰かを連れて
誰かが、この地霊殿に来た その事に私はこの上ない驚きを感じる
誰もここを訪れない 誰もがここを見ない 誰しもがここを無かった事にする
当たり前だ、私は忌まわれている それは私達を守るこの上ない盾だ 誰もそれを突き通せない
ありえない ありうる訳が無いと思っていた 来客


それは敵か 興味本位か


どちらにせよ変わりなく
面白い この上なく腹立たしい 私の城に面白半分で入る事がどういう事か教えてやろう


コツン コツン コツン
 コツ  コツ  コツ


もうすぐだ、もうすぐ到着する
忌み嫌われし主に忌み嫌われる珍妙な来客が 間もなくここに姿を現わす
まあ、顔ぐらいは見てやろうか
来客者の顔にステンドグラスから差し込む光が当たる



その顔は           まるで





























[地底従者ネットワーク会員№01]



家に帰るとさとり様が筋トレをしようとしてばてていた、何とかして欲しい

 地底ネット 問題相談課  投稿者 火焔猫燐




あたいがさとり様を見つけたのは地霊殿内にあるジムだった。

本来住んでいる妖怪の特性上あるのはおかしいともいえるジムがなぜ地霊殿にあるのかと言うと至極簡単な話で、鬼がとりあえず河童に作らせたのはいいけど「こんなちまちまとしたのを使っているよりもじかに体を動かしていた方が百倍良い」とかなんとか相も変わらず身勝手なことを言い出してそれを目聡くいやさ耳聡く聞きつけたさとり様が「じゃあスペースの十分にある地霊殿で引き受けましょうそうしましょう」とか勝手に推し進めてこうなったわけだ。
そんな訳で家のジムにある機材は全て“鬼の気まぐれで作られて気まぐれでぶっ壊されようとしていたところを辛くも救われた死にぞこない”という訳になるのだがあたいがさとり様になぜ拾ったのか後々聞いたところ「だって、もったいないし。それに“ジム”とやらに少なからず興味がありましてね」と非常に残念な答えを返された経験がある。

さとり様とこいし様は世の中で一番似通っていない姉妹だと思っている、性格、思考、好物、行動、生き様、どれもこれもがあまりにも違い過ぎている、しかしそんな二人を見ていて姉妹を思わせる共通点が立った一か所だけある。
“好奇心”別にさとり様に限った話ではないのかもしれないが、さとり様にせよこいし様にせよ妖怪一倍の好奇心を発揮する。長らく引きこもっていたさとり様だがその余暇は主に読書に費やされた。
あたいもその時代から地霊殿に居たのでそのさとり様の『御使い』をしたことはあるが「面白そうな本を3冊下さい」と書かれたメモを咥えた黒猫を見た時の本屋の顔を忘れる事は出来ない。

――――へぇ はぁ ふぅん
あたいがまだ人型になれなかった時、さとり様はほの暗い蔵書室であたいを膝の上に置いて背中を撫でながらそう相槌を打っていた、誰も聞いている人はいないけれどあたいにとってその声は良い子守唄だったのだと思う、なにせしばらくしているとすぐに眠たくなってきたもんだから。
――――世の中にはかくも面白い事で満ち溢れているものなのですね
それでもまだ眠気に負けなかったときは良くさとり様の独り言に耳を傾けていた物だった「眠ってもいいのですよ?」とか時々気遣われたがあたいにとってさとり様の独り言は同じぐらい面白いものだった。
――――それを直接見る事が出来ないのは惜しいものですが、いいものです
「さとり様はそんな本を見ていて面白いんですか?」いつの日かそう聞いたことがある、それから逃げて来た者に、それが面白いのか聞くのはいかさかスマートではないと思ったがあの事の私はまだそんな事を考える余裕と言った物が無かったのだ。
果たして、さとり様はその答えを出す事をしばらくの間渋っていた。答えが見つからなかったのかもしれないし答えがありすぎてどれが適切かというのをを迷っていたのかもしれない。
あるいは答えを導き出す事を楽しんでいたのかもしれない、それはこの世の中で最も簡単複雑な思考のロジックだし、さとり様はどう見てもパズルが好きなように見える。
――――事実は、小説より奇なり
ロジックを経て出された答えはそのたった一言だった、あたいはその教訓のような言葉の後になにかそれに連なる教訓じみた訓示があるのかと思ったがさとり様はそう言うと満足げに黙ってしまった。
事実は小説より奇なり、あんまりにも完結していて簡潔な言葉過ぎたのでその言葉を反復する。
事実は小説より奇なり、はて、面白くない言葉だ、あたいが最初その分に抱いた感想はやはりそんなあっけない、悪く言えばそれだけの感想だった。
事実は日常で、日常は反復で、反復は退屈で、退屈はただそれだけの話、そんなものが奇な訳はない、それだけの物が奇であっていい筈が無い。ただそうとだけ思ったので「さとり様は好奇心旺盛ですね」とだけ答えてさっさと眠ってしまった。




後々、私が人型になった後に分かった事だが、この世も事実も実に面白く、奇怪で、飽きる所が無い。





……
………さて、現実逃避もそこまでにしておこうか


そのさとり様は今現在あたいの前でぜえぜえと荒い息を吐きながらうつ伏せ大の字になっている所だった。その姿は果たしてあの時のさとり様と今のさとり様は同一妖怪なのかと思ってしまう程のイメージギャップを生む。どうだろうか、私には分からなくなってきた。
取り敢えず、目の前のさとり様とおもしき妖怪にコンタクトを計ってみる事にする、どうだかなあ。

「………なにやってんすかさとり様」
「ああお燐、聞いてください。最近筋トレが趣味なのです」

趣味、趣味と申したか、果たして筋トレと言う競技は体力の限界に挑戦する物だったのだろうか。
少なくとも、私の知識から思い出すと体力増幅の為だった気がするのだが、あれは考え違いだったのだろうか。

「やってませんがね」
「やりました、5回」
「思った以上にできませんね」
「昔はもっとできました、これの何倍かは」
「……………………………」
「え、いや、そんな痛い視線で見ながら『どうせ1.5倍とかその辺でしょう』とか思わないでください」
「……………………………」
「……………………………」
「……………………………」
「……すみません、1.3倍です」
「でしょうね、分かってましたよさとり様」
「ああ、そんな生暖かい目で見ないでください、逆に辛いです」

どんだけ貧弱なんですかさとり様、そしてその程度の回数で「どやっ」て顔しないでください。
まあ地霊殿の主なんて動く事がまずないし日々の運動量なんてほんの僅かなので運動して下さるとこっちとしてもありがたいんですがね、もうちょっと仕事をまじめにコツコツとやって、たまには運動して、規則正しい生活をきちんと取って。それであたいは十分なんですがねえ。

「…何だか最近謝ったり呻いたり頼み込んだりしかしていない気がします」
「普段の行動を見ていればその理由が分かるでしょうね」

あちこちに迷惑かけまくってますから、特に橋姫のお姉さん、そう言いかけたが口に出すのは憚られた。あたいが遠慮しようが何しようがさとり様にはすっかりお見通しだが“口に出さない”と言う行動が効果を発揮する場合もあったりする。そしてさとり様は特別そう言った事に聡いのだ。

「……こいしにもへたれと言われましたが、暗に言われる方がよっぽど堪えますね」
「だってさとり様の思考ってもろ“好きな子だから苛めたくなる”じゃないですか、その癖いざという時にへたーれになっちゃうんですから困りものですね」
「お燐、あなたもしかしてパルスィの姉妹ですか?」
「だと いいんですがねぇ よっこいしょっと」

そこであたいは立ち上がる際に年寄りじみた声を出している事に気付いた。
おかしいなあ、前まではこんなことは言わなかったはずなのに、どうしてかなあ、何が原因だろうなあ。

「みんなして私を苛めるのを楽しんでいるんです、しくしくしく」
「泣き真似する位でしたら普段の言動を改めて下さい」
「いやです、苛めるのは楽しいので」

その一言はけろりと寝き真似から立ち直ってすぐに言う言葉では無い事はあたいにもわかる事だ。こうなってくるとさとり様が本当に悲しんでいるのか面白がっているかすらも分からなくなってきてしまう、それが狙いなのかもしれないけれども。
どちらでもいいがそろそろその性格を直してもらわないとこっちの薬消費量が今より格段に増えることは間違いないだろう、入院するかもしれない。
その時ふと橋姫のお姉さんの顔が頭に浮かんだ、星熊のお姉さん、こいし様、お空の顔が走馬灯のように浮かんでは消えてゆく。
いかん、ここで私が倒れたら地底の平和が危ない、具体的にはさとり様のすぐ傍に居てさとり様が暴走した時に止められる人材が居ない。私が入院して身動きが取れなくなったらさとり様は地霊殿の改修ならぬ改造を始めるかもしれない。

「なるほど、その考えはありませんでした」
「やらないでくださいね?」
「保証はできません」
「何としてでも血判書を書かせます」
「それは置いておくことにしておいて、あなたはなぜここに来たのでしょう。ああ、開催予定のパーティの事で相談があるのですね」



地底の住人並びに地上の住人をまとめて招待し、大規模なパーティーを地霊殿及び周辺の敷地を利用して開催する。
そんな計画が立ったらしいのはあの騒動が起こってから2週間後と意外と早い時期だったらしい。
立った“らしい”と言うのは些か正しい表現では無いように思えるのだがこの地霊殿において、ひいては地底に置いて計画は『立つ物』では無く『立ったらしい物』という認識がある、鬼の宴会なぞはそのいい例だ。

今回の例でゆくと、まずさとり様が夕食の卓において唐突にパーティー開催の旨を宣言した。その時にはあたいやお空はじめ星熊のお姉さんもこいし様も同席していたが誰一人として反応しなかった、確かその時もさとり様は泣き真似をしていたと思う。
そしてそのまま一週間が経過し、さとり様がペットの何匹かに大量の買い物や招待状の執筆を依頼したり妖怪の賢者に打診し始めてようやく地霊殿は俄かに騒ぎ始めたのだ。「まさか本当だとは思わなかった」と言うのはペットならびに星熊のお姉さんの弁である。みんながみんなそう言っている事から地霊殿の生暖かい絆が感じられる。

ともかく、そんな訳でパーティーは開催される運びとなったのだがその運営は当然の如くさとり様に一任されている、しかしさとり様はあたいに前線に居るように伝えた、ああ悲しきかな中間管理職。そんな訳であたいは問題を提唱しにさとり様の所まで足を運んだ次第なのである。

そうこう考えているうちにさとり様はぱっぱと用件だけを読んで暫く、とはいってもほんの数分の間だがだけ熟慮した後「わかりました、鬼に関しましてはこちらが何とかしておきましょう、それ以外の事に関しては書類にして手渡します、領収書は一銭たりとも余す事なく記録するように」とだけ言った。
本当に仕事が速い、やれば出来る筈なのになぜいつもそれぐらい働かないと常々思う。

「それはもちろんさぼっている時間が一番楽しいからに決まっているからじゃないですか」
「本当に嫌な性格してますよね」

やる事やってくれればいいと言うけどそれに「もっと早く」を追加する日は来ないものかと思う。





「そう言えば最近お空の姿を視ませんね」
「お空なら最近『核の力は見れば楽しい花火では無いんですぜお姉さん』とか言いながらメルトダウン起こしそうになってましたから成敗しておきました、ですから当分は大人しいと思いますよ」
「ああ、くすぐり一時間耐久戦なんて惨たらしい事をしたのですか、あの子はお腹が弱点なのに」
「最近力があり余り過ぎなんですよ、あの子馬鹿ですから無駄に力があるんです」
「馬鹿だからちからがあるのではないんですよ」
「うにゅうにゅうにゅうにゅ~♪ あ、さとり様にお燐じゃないですか」
「噂をすれば何とやらと言うやつですね」

お空はどこから貰ってきたかは分からないがペロペロキャンデーを舐めながらジムに入って来た、恐らくこいし様が犯人だろう。
キャンデーを舐めたりしゃぶったりしながら歩いてくる様は可愛いと言えば可愛い、寧ろアホっぽくてものすごく可愛い、だがお空はただの馬鹿では無いのだ。面倒な事に

「さとり様、連絡書が届いてましたよ」
「誰からでしょう」
「パルスィからです」

あの橋姫から?珍しい事があるものだ
あっちが何か用事のある時は急用の場合地霊殿に駆けつけるし、そうでない場合は気長にさとり様がそっちに行くまで待っている事が多い。随分と呑気な話だがさとり様の行く頻度を考えるとそれ程非効率的ではないのだろう。
さとり様もふむ、と興味深げに鼻を鳴らしてからその手紙がお空の手の内のどこにもない事に気が付いた。

「で、その手紙はどこに」
「ああ、今上に居ますよ」

そう言われてひょいと上を見上げてみると成程、小鳥が手紙を咥えて飛んでいた
あの鳥は恐らく分身術の応用だろう、なかなかに便利だ。
すいーっとさとり様の手の中に降りてきた小鳥は体に見合ったような小さな紙切れを持っていた、これではまるでメモだ。
さとり様がそれを覗き込んだ、私達もつられて覗き込む
そこにはたった一文だけ、几帳面さを現わすかのような綺麗な字でこう書いてあった


   あちらから此方に渡って来た 覚悟されたし







[全幻想郷金ダライの代わりにドリフに出てもおかしくは無い妖怪№35]


“あれ”を送り出した後、橋はまた普段の静寂を取り戻した
どこまでも見慣れたいつもの風景 いつもの静寂 いつもの状況
そう、これが地底と地上の境界の持つ本来の姿、あるべき姿
行く者も来る者も無くなった、お役御免と言われてもおかしくない橋は今現在確かに此処に在る。

地底と地上の交流が途絶えてから使われる予定の無かったこの橋が、交流が断絶されてから今までの間に一度だけ、イレギュラーな用途で使われたことがある。
あの間欠泉騒ぎの時、ここを異変解決のために駆り出された巫女と魔法使いが通ったのだ。
あの時の私と言えば平常通りの日常を送っていたのでまさか向こうでそんな大事が起こっているとは想像だにしていなかったし、知っていたとしてもまさか自分にまで火の粉が降りかかって来るとは思いもしなかったのである。
私は元々戦闘を好むタイプではないのだ、がち戦闘向けの力を持った奴と戦った時なんて勝敗が戦う前から決まっているも同然だし負けると分かっていながらも侵入者には番人として戦わなくてはならないのが辛い所で。

あの時はとばっちりもいいとこだったが騒動が収まって暫く、とは言っても大体数時間後だが、ともかくその頃になって俄かに地底は色めきたった。
者々は次々そこかしこに衆を作り、さんざその関係の話をしていたと勇儀は言っていた。
或る者は云う これから交流が再開されるのではないか
或る者は云う いや、これは戦争の始まりだ
どこから出て来たのかは分からない情報が口々に出回り、それは口から口へと伝わって行く間に湾曲し、歪み、拡大し、やがてそれは龍の様にくねりながら独り歩きを始めるのだ。
最終的にこれは龍神の怒りだなんだとかいう話になってそれをヤマメがほくそ笑みながらこちらに伝えてきた時は二人でくすくす笑ったものだ。
まあ、そう話し合うのも分からない話では無い、そんな状況になるのも分からない話では無い、なにせ地上とかその関係の単語が地底の者の間に出回るのは既に何十年ぶりなのだ、そこから逃げて来た物にとってもそこから追放された物にとってもその話題は話すに事欠かないのだろう。
其処から追放されてきた者にとってそれは虹色の果実で、其に嫌気がさしたものにとっては腐って蛆の湧いた肉片だ、どちらにせよ一度ちらと見ずにはいられない。


まあ、旧都の方は端から端までそんな事になってしまってので事態を収拾するのにえらい苦労したらしい、「噂話ばかりで本当の事を聞こうとはしないのかねぇ、やっぱり人間と何ら変わりないよ」と勇儀はここに来て溜息をついていた、旧都のまとめ役も大変な事ねとなんら苦労も関係も無かった私はそれだけ相槌を打っていた。

馬鹿らしい
そんな流れを見ていた私はただそれくらいしか思わなかった
貿易にせよ戦争にせよ地上と地底の交流が生まれるなぞ万に一つもあり得ない
地上は地底を忌み嫌うから干渉しない
地底は地上を諦めたから干渉しない
本来それだけの、たった一つにして絶対的な相互関係にして利害関係で結ばれている事で地底と地上は辛うじて均衡を保ってきたのだ。今更何があってもその関係が崩れる事は無いだろう、それが私の唯一の意見にして唯一の信念だった。

だがそんな私を嘲笑うかの如く事態は矢継ぎ早に、それも私が「万が一にでもない」と思っていた方向に向かって進んでいった。
まずは封印が緩和され、地底と地上の行き来が以前ほど厳しくは無くなった。
それを勇儀とさとりから通告された時私はひどく驚いたものだ、本来そんな事は夢想だにしていなかったものだから。
しかしその状態ではまだ地底の衆は地上に行く勇気を持ち合わせていない様だった、地上の奴らは当然として地底には行きたがらなかった。
私もその時は仕事が増えるかもと思って身構えていたが行く者も来る者も普段と変わりなく皆無に等しいからほっと胸を撫で下ろす事となる、仕事は嫌いだ。

だが、その時地底の秩序と言うのは一種の罅が入っている状態だったのだろう、繊細に、綿密に張り巡らされたそれは、秩序、恐れと言った物をふと触れば崩れてしまう程に脆くさせていたに違いないのだ。

止めを刺されたのはあの船が地底に向かって“出航”してしまった時だ、あの時地底には一つ、風穴とは比べ物にならないくらいに大きな穴が開いてしまった。巷の連中によるとそれは“星蓮風穴”とか呼ばれているそうだ、盛大にそれを『ぶち開けた』船の名前を取っている様で。
それで地底の我慢は限界を突破してしまった
緩和されたことで燻っていた地上への興味
怖い番人の存在しない近くて大きな風穴
何にせよそこから誰かが通って出て行ったと言う前例
そういったものを態々お膳立てされて行動しない方がおかしいのだと誰かが言っていた、ヤマメか、キスメか、どちらでも良いけれども。
兎も角それで地上の賢者も本腰を入れる事になってしまったらしい、規制は以前とは比べ物にならない程に緩和され、地底の民は一斉に地上を見に行ってしまった。地上の民の内新参者と思わしき奴らも入って来た。

だが私の仕事は全く増えず、寧ろ減ってしまった
まあ、ここより使い勝手がいい勝手口ができれば当然の成り行きだと思えるが
今は此処を地上と地底の通行用に使うのは殆ど居ないのだ、昔から此処を使っているただ一人を除いては

……どうにも頭が痛い 以前よりも酷くなったのではないか




静かな場所に居ると体の痛みと言うのを余計明確に感じ取る気がする
私はそんな静寂だからこそ、上から降ってくる微かな音に気が付いた


――――――――――――――ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


微かに、だがこれ以上無い程はっきりと聞こえる落下音
一瞬この間の惨事を思い浮かべるがさとりはそこまで阿呆じゃないだろう、それにあのバ鴉曰くまだ地霊殿にいるそうだし。
ヤマメは先程ここを通ったばかりだ、となると落下してきそうな奴は残ったのは一人しかいないだろう。
思わず溜息を吐かざるを得ない、それはまた厄介な奴を相手にせねばならんことに対する溜息だ。


――――――――――――――ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


落下音はいよいよ大きくなってきた、相当な高度からやってきているに違いない、本当に殺す気か。



――――――――――――――ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


恐らく次の行動まで


三つ

二つ

一つ




怪奇「釣瓶落としの怪」

嫉妬「緑色の目をした見えない怪物」




数え終わるのと同時にやはりスペルは発動され、ものすごい勢いで弾幕が上から降って来る。
一挙に押し寄せた弾幕をこちらもスペルで応戦しつつ相殺し、バックステップを決めて上を見上げる
すると物凄いスピードで何かがこちらに向けて降って来た、目視したところ着弾まであと二秒と言ったところか。
吹き荒れる風と、当たっては砕ける弾幕の中で自分の周りが遅くなってゆくように感じる

「今日も、私の勝ちね」
「やれやれ、また負けちゃった」
「あんたがワンパターンなのがいけないのよ」
「今日はいつにもまして具合が悪いと踏んだんでね」
「あんたって本当、性格悪いわ」
「汚いは誉め言葉だ」
「そう、じゃ、覚悟なさい」

そうして私は上から降って来た釣瓶落とし、キスメに弾幕を叩き込んだ












「いや、もうちょっと加減をしてくれないとと思うんよ」
「あんたが大人しく落ちてくるか歩いて来るかしてくれれば茶菓子と一杯のお茶を用意するわ」
「そりゃ無理だ、まるで殺してやると言わんばかりの酷い要求だ」

目の前の桶に入った小さな妖怪はそう言いながら目を覆っておいおいおいと酷い芝居の様な仕草で泣き真似を始めてしまった、いつも思っているのだが私の周りにはこういう芝居がかった事をやってのける奴が多いような気がする。

「…まったく、橋姫っていうのは小さくて内気そうな妖怪が目の前で泣いているのに気にもかけないのかい」
「あんたがそれほど腹黒でなければ小指ほどには気に掛けたかもしれないわね」

少なくとも目の前にいるキスメと言う釣瓶落としはさとりよりも、ヤマメよりも腹黒さ加減では一線を画していると思う。このランキングはこいつの本性を知ってしまった瞬間から揺るいでいない。

初めてこいつと会ったときは、確かヤマメに連れてこられた時だった、その時のこいつはまだ本性と言った物を見せていなかったのでその時の私には大人しそうで、無口で内気で、とにかく人畜無害な妖怪のように思えたのだ。
だがしばらくこいつと付き合っていてわかったのはこいつがだれよりも腹黒くて、人の不幸を面白がる妖怪で(これは私もそうだが)計算高い妖怪だと言う事だった、その他の事は分からんが。
ともかくこいつの事を理解するのはさとりの奥底にあるものを感じる事ぐらい、こいしをいつでも見つける事ぐらい難しい事なのだ。
いつのまにかキスメは桶の中からキセルを取り出してスパスパと煙を出していた、外見年齢一桁のこいつが吸っているのを見ると違和感しか感じない。

「いやしかし、『あれ』が来るのは何か月ぶりだっけか」
「いつも通り丁度27日ぶり、几帳面にも程があるわね」
「流石だね、いやしかし、いつ見ても恐ろしいものだよ」
「あんた、完全に立ち去ったって分かるまで上で隠れてたもんね」
「ばれてたか」
「タイミングでバレバレよ、もっと工夫しなさいな」

考えておくよ、キスメはそう言ったきり黙りこくってしまった キセルから出た煙が上に上にどんどん昇って行く
こいつはいつもこの調子だ、権力者だとか実力者だとかそういった肩書を持っている奴が来ているかどうかを確認してからやってくる。
本人によると「やっぱりそう言った輩とは話したくないし近寄りたくも無い、私は内気で弱いからね」だそうだ。
それもこの地底で生き延びるための知恵なのだ、生半可な頭の使い方ではこの法外者の地では生き残ることはできない、一応治安を守るために動く鬼もいるがやはり数には限りがあるし、そもそもそれすら一種のボランティア精神にのっとった物に過ぎないので旧都の主要部分にしか居ない、結局の所自分の身を守るのは自分と言う事になってしまう。

力のある奴は良い、何か明確に近寄りたく無くなる奴は良い、だがそれを持たないものは皆等しく頭をフル活用しなければならない、逃げる事、隠れる事、攻撃する気を失せさせること、不意打ち、なんでもいいからそういったものを何でも使って初めて生きる事が出来るのだ。
地底に置いて一番恐るべき存在なのは、案外こういった“何も持っていない”者だったりする、生き残る事が出来るのはそれだけで強力な力なのだ。

「で、いつまで管巻いてるのよ、そもそもあんたは何しに来たのよ」
「無論からかうため」
「何で私の周りにはこういった奴しかいないのよ…」
「諦めた方が良い、人徳、いやさ妖怪徳だ、うん?橋姫は元人間だからやっぱり人徳か」
「どっちでもいいでしょうよ、それとなんでこうもぶん殴りたくなるようなこと言うかね」
「おお、怖い怖い まあもうそろそろしたらあと一方が来るだろうし頃合いを見て退散するとしようかね」
「今すぐするべきだと思うわ」

面倒くさい事には慣れに慣れたがそれでもやはり面倒くさい事には変わりがないと言う事を再確認、スペルをちらつかせて退却を迫るとキスメは腕を横に振って「今日は弾幕をやる気は無いんだ」と誤魔化した、だったらさっきの襲撃は何なのだ。

「さっさと帰りなさい、私はこれからの事を考えるのに忙しいの」
「ま、そうするよ」

キスメはキセルを桶の中に仕舞ったかと思うとくすりと笑った、こいつの桶の中はどうなっているのだろうか、昔から気になって仕方がないが聞くのも癪なので結局聞いたことは一度も無い。変てこなプライドだが

「ああ、そうだ、最近頭痛がする様だね」
「ご名答!よく分かったわね、私感心しすぎてまた頭が痛くなりそう」
「薬は飲んでいるのかね」
「飲んでるけどちぃっとも治んないわ、噂によれば確か地上に腕利きが居たわね、今度休暇を取って見てもらおうかしら」

キスメはそう聞きながら笑っていた、ただくすくすと声を立てて
薄気味の悪い笑みは不快を呼ぶ、それは妖怪であっても何ら変わりは無い

「例えば」

唐突にキスメはそう切り出した その声は平常と変わりない様で しかしやけに閑散と、そして冷酷に響いたような気がした

「嫉妬の果てに辿り着いてしまった妖怪、それが持つ経験則“恐怖”“猜疑”“臆病”」

くすり くすり

「例えば」

くすっ

「心を読めるがゆえの比類なき好奇心を持ってしまった妖怪、それから目を背けてしまった妖怪、追放された妖怪、逃亡してきた妖怪、目を背けた妖怪、忘却の彼方に消え去った妖怪」

くすくすくす

「それら複数のルートを経て、複数のルートを歩んでゆく者の道が唯一交差する場所がある」

くすくす     くすっ

「それが、ここだ ここだった 唯一の標識にて交錯点、全ては此処を通り、ここから始める それがここの持つ唯一にして絶対的な特性」

キスメの言っている事の半分も理解することはできないが、この空気が尋常では無い事だけは理解することができた。

「だから、なによ」
「いや?なにも?私はただこの橋がどう言うものかを説明しただけ、それに遠からず分かる時が来るさ、遅すぎるか丁度良いかの違いだけ」
「なによそれ」
「じゃあ私はそろそろ行くわ、もうあれの迎えが来るだろうし橋姫の方も忙しくなりそうだから」

話を途中で止められることほど気持ちの悪い事は無いが、こいつを引きとめることなどは私にはできない事は重々承知している。
だから、私は一言だけ聞いてみる事にした

「ねえ、あんたは何を知っているの、どこまで知っているの」

キスメはやっぱり張り付いたような笑いを浮かべて、味わうかのように返答した

「『私は』知っているのではなく 『私も』知っているんだよ」




結局 それきり 私はなにも分からなかった
ただ後に残ったのは薄気味悪いキスメの笑みと、何も分からなかったことへの気持ち悪さと、このところずっと続いたままの頭痛だけだった。



[全幻想郷緑髪組合組合長]


パルスィからの言伝を聞いた後、さとり様は暫くの間完璧にフリーズしてしまっていた、よく見てみると呼吸すらもしていないので驚き桃の木山椒の木、これで言うとおどろきの木ってなんだろう。
お空は事の次第に気が付いていない様でさとり様の前で手をぶんぶん降ったりなんやかんや言っていたが次第に飽きてきたのか頬を摘まんでにょいーんと引っ張る遊びをやり始めていた。お空、それはおもちゃじゃない、さとり様だ。

「あ……………」

その状態からおおよそ一分ほどたった時にフリーズは解除されたようでさとり様が動き始めた、妖怪だから無呼吸の一分やなんやは大丈夫だろうけど貧弱なさとり様がここまでするとはよほど衝撃的何かが思い当たる節でもあるのだろう。
普段のさとり様をよく知っている私からすると嫌な予感がプンプンすると言うか嫌な予感しかしないがそれは御愛嬌だと言っておく。

さとり様はそのままあーだのうーだの言っていたがそのうち手から、額から、第三の目から、あらゆる箇所から汗が異常な量噴出し始めた、傍から見ると異様な光景だがこと地霊殿に置いては“大事な事をすぐ忘れるさとり様”と言う存在があるだけに一般的に見る事が出来る光景だ。
一般的だが汗だだ漏れな妖怪とは最悪な状況だと思う、それが自分の主人なら尚更だ。

「お燐」
「はい、なんでしょう」
「今すぐに地霊殿に保管されているありとあらゆ武器弾薬兵器諸々を持ってきなさい」

なんか妙なこと言い始めたぞ

「駄目に決まってるじゃないですか」
「早く!速く!手遅れになる前に!もう時間が無いんです、駄目ならば逃亡する為の準備を!預金を!箪笥預金?へそくりはありませんよ本当に!お菓子は後で買ってあげますから今すぐ準備を!ああ!窓に!窓に!」

そろそろ混乱が頭の隅々まで行き渡ってきたのかえらい錯乱しつつあちこちを転げまわったり叫んだり腹筋しようとしたりしているさとり様を見ているとぼやーっとこれから誰が来るか分かってしまった。そしてそれから何が始まるかも

「さとり様」
「何ですかお燐、私は今UFOがアダムスキー型かどうか確認する作業をしているんです」
「諦めなさい」
「お燐が敵になりましたうわあああああああん」

さとり様は頭を抱えてその場にうずくまってしまった、かわいそうな事をしたように思えるがこの件に関してはさとり様が全面的に悪いしやることはきちんとやらせなければならない、何だかこちらが保護者になってしまった気分。

さとり様の面白おかしい言動を生暖かい目で見ながら楽しんでいるとゆらあっとさとり様が立ち上がってお空の方に向き直った、何か猛烈に嫌な予感がする。

「お空、今すぐ旧都に向けて核の一撃を見せてあげなさい」

嫌な予感的中、それもコーションコーション鳴っている類の警告音と共に
いかん、さとり様は焦りのあまり思考が暴走して開き直ってしまった、しかもこの場合もっとまずい事はお空が乗ってしまうであろうことだ。なぜ馬鹿は力を見せたがるのか、能ある鷹は爪を隠すと言う諺を知らないのか、烏だけど。
案の定お空は元気百倍、急にうぉぉぉぉぉと叫びながら窓から外に出ようとした。

「おっしゃあ!今すぐぶっ放してきます!八咫烏のパワー見せちゃる!」
「頼みました、徹底的にやっちゃってください」
「止めて下さいさとり様、お空、ペロペロキャンディーあげるからそれしまいなさい」

どれだけ馬鹿な命令であってもそれをお空が聞いてしまえば大惨事になる事は免れない、そもそも旧都は滅ぼすものでは無い。さとり様は相当焦っているようでそこの所も頭からすっぽりと抜け落ちてしまっているらしい。
お空はキャンディーとさとり様の命令を両天秤にかけてうむむと考え込んでいる、そんなにさとり様の優先順位が低いのか、それともキャンディーが魅力的なのか是非とも聞いて…みたくはない。どちらにしてもこちらが不安になりそうだから。

結局お空はキャンディーを取った、さとり様は泣いた

「さとり様、これは必然であり、罰、天誅なんです。もっと仕事をきちんとやっていればこんなことにはならなかったんです」
「でもですねお燐、最近は地上の魅力的な書物などが入ってきてついつい読んでしまうんですよ、これは陰謀です、私に仕事をさせまいと私の中の欲望が囁いているのです。きっとそうなのです、地上が私に仕事をさせまいと陰謀を働いているに違いないのです」

さとり様は落ち着いているように思えるがよくよく聞いてみると言っていることが支離滅裂だ。

「さとり様、現実逃避はやめましょうね」
「分かりました、落ち着いて逃げる事にします」

こちらが気が付いた時、さとり様は既に行動を終了していた
しまった、一瞬の隙をつかれてさとり様を逃がしてしまった
さとり様はジムの出口に向かって全速力で駆けだしていく、こちらが捕まえようとしてもどこにそんな体力と俊敏性を隠し持っていたんだと言いたくなるような鮮やかなフットワークで次々にかわしてゆく。

「残念でしたねお燐、客人には急用があるので今主人はいないと言っておいてくださいね」

さとり様はドアノブに手を掛けて勝利を確信したかのような爽やかな笑みを浮かべながら言い放った。
だがその時さとり様は気が付いていなかったのだろう、ドアの向こう側に人影がある事に。
さとり様がドアノブを捻るよりも先にドアが蹴飛ばされてジムの向こう壁まで吹っ飛んで行った、さとり様はそれをかろうじて回避した。

「ほう、私が来ると分かっていながら逃亡を計るとはいい度胸ではありませんか」

蹴り破られたドアの向こう、歪んで壊れた蝶番を踏みにじった足
そこには、少女の姿を借りた悪鬼が立っていた

「こんにちは地霊殿の皆さん、こんにちは古明地さとり、年貢の回収にやって来ました」

四季映姫・ヤマザナドゥと言う名の鬼がそこに居た。

「ハロー職務怠慢の罪人さん、頭から湯気を出す覚悟はいいですか?目玉が兎並に真っ赤になる覚悟は?手豆を大量生産する覚悟は勿論準備完了済ですよね?」

にっこりと爽やかな笑みを顔に貼りつかせた閻魔の背後には、確かに不動明王ばりのこわもてガチムチの神が見えた気がした







[いかに職務中の昼寝時間を増やすか委員会会員№2]


「しかし、相変らず閑散としてるねぇ、ここは」
「仕方ないでしょ、そっちと違ってこっちは使う必要ないんだもの」
「ははは、全くもってその通りだ」

キスメが居なくなってから数分で死神 小野塚小町はやって来た
彼女がここにやって来る用事は二つある、一つは閻魔のストッパー役、もう一つはさとりの補佐役として私を連行してくる事。
私がさとりの仕事を手伝う羽目になってしまったのは昔、さとりがまだ地霊殿の主と言う役柄に着いた時のことに起因する。

ある日いつもの様に私が家から出るとさとりがぶっ倒れていた、家の入口にである
当時こいつの性格なんぞ把握していなかった私は一体何事かと尋ねてしまった。

――――たすけてください 仕事が追って来るのです 仕事が群れを成して追って来るのです 私を苛めに鬼よりも怖い輩が追って来るのです

なんのこっちゃ、どういうこっちゃ
当時の私は、それは今よりも遥かに優しかったのだと思う、普通はそこで話を聞かずに追い返すだろう、しかし当時の私はさとりに事情を聞かんと水を与えて落ち着かせた、それが全ての始まりだった。あの時非常に嫌な予感に従って素直に追い返していればこんな事にはならなかっただろう。


私がさとりの方に屈み込んだ時、凄まじい殺気が辺りを押し包んだ
鬼が喧嘩の時に発する闘気をじっくりと煮詰めた様な、修羅場の空気を直に当てられたかの様な
怯んでいる隙に何者かの襲撃を受けて私達はそろって打ち倒されてしまった。
その後の事はあまりにも唐突過ぎたのでよくは覚えていないがものすごい怒っている緑髪にあれやこれや脅されながらひいこら言って書類を片付けた事だけは覚えている。その後我に帰ったそいつが平謝りしながら事情の説明をして蕎麦を打ってくれた事だけだ。
事情を聴いた私は怒る事も笑う事も無くまずさとりに近づいて黙ってパイルドライバーを決めただけだった、間違いなくさとりが悪い。
しかし今までさんざ私達を脅しかけていた奴が閻魔だと言う事には驚いた、その後食わされた閻魔謹製手打ちそばが旨かった事にはもっと驚いた。本人は「あくまで趣味ですから」とか言っていたがあれほど旨い蕎麦を打つ者はこの地底には居ないのではないかと思えるくらいには旨かった。

その話はそこで終わってもよかった筈だし其処で終わらせて欲しかったが生憎続きがある、どうやらその時の私の仕事態度が大層気に入ったらしく閻魔が事あるごとに、つまりさとりが仕事を滞納してしばかれるごとに私を指名してくるようになったのだ、見張り役の死神まで連れる周到ぶり。

まあ、逃げるなりなんなりしてもいいのだが私にそんなやる気は無いしいつかも言った事だがそういったさとりとの付き合いをそんなに嫌っている訳では無いのだ。それがどんなものであれ、さとりのお目付け役と言うか、保護者のような立場が定着していても何ら気にしていない自分が居るしそれについて深く言及するつもりも無い。
ただそうある、ただそのように成っているという考え方に他ならないが。

「しかし、お前さんも変な奴だねぇ」

時々こういう事に首を突っ込みたがる奴も居るが、まあこの死神はそう言う輩の筆頭と言う事は知っているので別に不快ではない。
小野塚小町と言う死神とはそういった理由から付き合い始めたが仲は良好だと思っている、
ベクトルは真反対とはいえあれな上司がいるし、仕事へのやる気が欠けてるし。
小町はキセルと取り出してすぱすぱやり始めている、完全に勝手を知っているな、まあいいけど。
それにしてもキスメと言い、こいつと言い、最近周りの奴らがキセルを吸っている、確かさとりも吸っていた、まああいつが吸っているのは主に仕事が行き詰った時だが。

「あの面倒くさいにも“ほど”がある妖怪と一番付き合えるのはあんただけだって映姫様も呆れながら言ってたよ、何かコツでもあるのかい?」

コツ ねえ
あいつと付き合うのは確かに骨が折れる、面倒くさいにも程がある、利益も無い付き合い
だが、そんな奴と私は繋がっている、腐れ縁の様にぼろくても、確かに繋がっているのだ。
そんな事をふと強く感じる時が有る   数十年前のあの時も  数年前のあの時も  確かにあいつと私はなにかで繋がっていると感じた時がある。
そんな奴と付き合うにはどうすればいいか 飲み込まれないにはどうすればいいか 傷を負わないのはどうすればいいか。

「あるとすれば 一つだけ」

誰よりも後ろに立つこと
誰からも愛されないこと
何にも目を向けないこと

「絶対に意識しないことね」

そうしてしまったならば 意識をしてしまうから
そうしてしまったならば 傷つくのは自分だから



「そういえば、キスメがおかしいことを言ってたわ」
「うんにゃ、あのちびっ子が?」

そんな事を考えていると先程のキスメの笑い声が再び頭の中に再来したので薄気味悪くなった。
そういえば、こいつも同じような役職に就いている、ただ守っているものが陸続きか川が流れているかの差だけだ。こいつに聞けば何か分かるかもしれない、そろそろこのいやあな感じがする頭痛とはおさらばしたいところだ。
しかし、事の一部始終を話しても小町はうんうんと頷いたきり答える気は無い様だった。

「橋姫さんよ、悪いがその話に私は答えられないんだ」
「…?なんでよ」

小町はぽりぽりと顎を掻いた、それはどこか返答に窮しているように見えたが考えても答えは出ない様でそのまま黙ってしまった。そう言うのが一番困るのだが。
橋に居るのは私と小町だけだ、ひょっとするとキスメが上から見ているのかもしれないしこいしが隣に居るのかもしれないし勇儀が遠くに居るのかもしれないしヤマメが下に居るのかもしれないが。
誰も居ない、誰も来ない これは幾ら地上との交流が進もうとどうしようもない事だ 地底の住人は私を避ける、私も付き合うことは無い、この関係はどんなことがあっても崩れないだろう。
それはつまり、この橋の利用者がいつまで経っても以前と変わらないことを意味するのだが。
その結果としてこの静寂はどこまでも続くと言う事なのだ。

ルルルルル     ルルルルル

甲高い音と共に電話が鳴った、小町が懐から電話を取り出す
これは最近連絡の綿密化をモットーとしている是非局直庁が閻魔やら死神に持たせているハイテクな機械で携帯電話と言うらしい、携帯する電話だから携帯電話、命名がシンプルなのはいい事だ、変なふうに変えると碌な事が無いに違いない。



――――へっくし

――――どうしましたお嬢様、また鼻風邪ですか、はい正露丸

――――咲夜、この間正露丸は胃腸薬だとか言ってなかったっけ、その前は頭痛薬だったし

――――正露丸飲んどけば大抵の病気は治りますよ

――――正露丸って万能薬だったっけ



しかし聞いた話によると是非局直庁は財政難なのでは無かったのか、そんな事ばっかししているから財政難になるのではないのか、まあ知った事では無いが。
どうやら小町に連絡を入れた相手は閻魔のようで小町はしきりに頭を下げている、あれは連絡以外にも怒られているっぽい。

「あ、はい、今確保してるんで今からそちらに、ええ、はい、あ、すんません」
「確保とはあんまし穏やかじゃないわね」
「仕方ないだろ、いま四季様はえらいきれてるんだから」

確かに、あの状態の閻魔とはかち合いたくない、間違いなく裁判と言う名の暴力を持って滅されるだろう、物理的に。

「んじゃあ、行こうかい」
「準備はできてるしね」

私と小町、こいしはできるだけのんびりと旧都に向かう事にした、あいつには良い薬だ。





[四季映姫軍曹]


気が付くと私は机の前に居た
右には大量の書類 左には筆記用具類諸々仕事用具
そして後ろからは殺気だだ漏れの何か



私が楽園の最高裁判長 四季映姫ヤマザナドゥである




後ろから響いて反響している音は、まるで地獄の底から響いてくる法螺貝の様なおどろおどろしい声だった。 



話しかけられたとき以外は口を開くな
口で言い訳垂れる前と後に“Sir”と言え
わかったか職務怠慢人




「さ、サーイェッサー」




ふざけるな大声出せ玉落としたか





「サー私は女ですサー」



貴様の様な給料泥棒どもが私の訓練に生き残れたら
各人が兵器となる. 仕事に全てを捧げる死の司祭だ
その日まではウジ虫だ! 組織に置いて最下等の生命体だ




「サーそれは社畜と言いますサー」



貴様は生命体では無い
動物の尻尾の毛をかき集めた値打ちしかない




「サーそれは私にとって中々値打ちのある物ですサー」



貴様らは厳しい私を嫌う
だが厳しければ、それだけよく仕事をする
私は厳しいが公平だ 差別は許さん
さぼり魔、職務怠慢者、居眠り、偽装を私は見下さん
皆平等に価値がない!
私の使命は役立たずを刈り取ることだ
ぼろいアパートに住む私を差し置いて高給料を取る奴らをだ
分かったかウジ虫共




「サーイェッサー」



ふざけるな! 大声だせ!




「サー!イェッサー!」

ああ、パルスィは今どこに居るのでしょう、早く来てください。
この閻魔が怖すぎてわたしのSAN値が不味い事になり始めています、ああ、窓に、窓に。
取り敢えずこの椅子に縛りつけられている状況を何とかせねば、朝からトイレに行っていません、乙女のプライドが今、試されるとかいいですから、そんな需要ありませんから。


助けて      パルスィ















「ん?なんか言った小町?」
「いいや、何にも言っていない」
「ふーん、何かさっき呼ばれた気がしたけど」
「気のせいじゃないかい、それよりもこの苺大福旨いね」
「地底で今一番ナウい食べ物よ」
「ナウいね、うん、美味しい」

私と小町は今苺大福を食べに太郎屋に来ていた、この前さとりの所為で食べられなかったあれだ。別にさとりの所為だけとは言い難いがこの際そう言う事にしておいてしまおうそうしよう。
むしゃむしゃと大福を食べると口の中に甘い香りと瑞々しい苺の感触が広がる、これだから和菓子巡りは止められない止まらない。
前にさとりの前でこれについて熱弁していたら「そんなに食べて太らないんですね、妬ましい」とかこっちのお株を奪うようなことを言われたがそんなことは無い、私は我慢をしないだけだ、どこかでストレスを発散させてやらないと私が持たない。主に原因はあいつらだが。
取り敢えず、さとりの所にはできるだけのんびり行く事にしたわけだし、ここらで休憩して行くことにした訳だが。私達がまず大福を三つ頼み、また三つ頼み、更に三つ頼み、駄目押しとばかりに三つ頼んだ辺りで店の人たちの視線が嫌な物を見るような目に替わって来たので大人しく退散しておくことにした。



旧都の雑踏が店を出た私達の周りにまとわりついてきた
緑眼の橋姫と背の高い死神のトリオともなると否応にも目を引きそうだが誰も目をかけない。
当然だ、彼らにとってすれば私達はただの日常と言う名の平和への侵略者で、望むべくも無い災厄で、それ以上でもそれ以下でもないからだ。


かつて不吉の象徴とされていた彗星や日食は見なかったことにすればいいと言われた。
そうすれば不吉は無かったことになるのだと言うのが当時の考えだったように思える、権力者も農民も皆家に籠るのだ。
馬鹿らしい事だとは思うが実はそれが一番ましな解決方法かもしれない、見ないこと、感じないこと、忘れる事、結局の所それらが一番の防御方法なのだ。

小町はいつの間にかキセルを口に咥えてすぱすぱやり始めた、なかなか様になっている辺りが実に妬ましい。
そう言えば煙草とか酒とか娯楽とかそう言った文化も地上と交流するようになって大分変ったと勇儀が言っていた。
確かに地上と交流すればいい事はあるだろう、それが皆の認識だ。
だが、それでも傷つく者は存在する、明確に、しかしひっそりとそれらの者は致命傷を負いながらこの都を這いつくばっている。
私にはどうしてもそいつらの息遣いが聞こえてならないのだ、喚く事も嘆く事も許されない儘密かに、静かに恨み言を吐きながら息絶える者の声なき者の慟哭が聞こえてならないのだ。

光が旧都に差せば、当然の如く影は、影の中でも特に濃い部分は悶え苦しむ、忌み嫌われるものの巷の中ですら存在を許されないものはもはや生きる事すら許されない。
そういった奴らはどこに行ってしまうのだろうか、ただ単に消えるのだろうか、もしくは


より深い闇に身を賭すのだろうか


ぞくりとした感覚が背筋に走った
もしそうなれば彼らは不退転の厄災となる、全ての物に害しか撒き散らさない正真正銘の化け物になってしまう。
地上との交流はつまりはそういう事なのだ、そしてそれは誰もが知っている事。ただ、ただただ簡単な事に地底の住人が私達に目を背けるかのごとく知ろうとしていない、分かろうともしていないだけで。
皆臆病だ、リスクを覚悟して利益を生むのではなくリスクを見なかったことにして利益を生み出そうとしている。
それは紛れも無く癌だ、この世を残らず滅ぼす因子だ
すくすくと、みしみしと言う音が鼓膜の中で聞こえる気がする、鼓膜を突き破ってぐちゃぐちゃと掻きまわしたくなるような不快で心地の良い音が頭の中で反響する。

ああ、バオバブの木が育つ 小さな苗木がどんどん育つ

どんどん

どんどん



みしりっ
不意に頭が凄まじいまでの痛みに襲われた
意識が残らず白濁し、脳細胞が一個たりとも残さないまでにスパークしながら引きちぎられていくような痛みだ、
思わず倒れかけるが痛みは一瞬で収まった、小町にも気づかれていない様な僅かな瞬間
だが、その僅かな瞬きの中に私が今までに経験したあらゆる痛みを超えた衝撃が詰め込まれていた。

なんだこれは
なんなんだこれは

パンドラの箱がゆっくりと開き始めるかのように
あらゆる災厄がそこ這いずり出すかのように
なにかが繋がって行く かちりかちりかちりと
柄すら判別できなかったパズルのピースが自らあるべき場所に嵌っていくかのように
だが足りない 最後のピースが一枚だけ足りない
その無花果の葉を手に入れてしまったのならば全てが繋がるというのに
繋がってしまうと言うのに


そうだ、それを望んでいるのは他ならない自分自身だ
だがそれを最も望んでいないのも他ならない自分自身だ
どちらにせよパズルの最後の1ピースはじきに埋まる


「パルスィ」

不意に小町の声が上から聞こえた、見上げた所で妬ましくなるほどの胸しか無い事は分かっているので俯いたきり「なによ」と返答する。

「さっきの話だがな、私が言えないと言うのは分からないと言う事じゃない」
「そりゃそうよ、だったら素直にわからないと言うでしょうに」
「私“は”言えないし私“も”言えないんだ」

小町の言葉はそっくりそのままキスメのあの笑みと同じような響きを持っていた

「橋と言うのは境界を意味する、万人にとっての一番身近な境界は間違いなく橋だ、ここの場合は地上と地底、私の場合は“あちら”と“こちら”だが特に変わりは無いよ、『ただそれとこれを明確に隔てる物』がそのまま橋になる。」
「ふうん、それで?」
「それはとても、なによりもデリケイトな物だ、下手に触れてしまうと戻らないかもしれない、それどころか悪質な物へと変質してしまうかもしれないと言う危険性を十分すぎる程に孕んだ代物だ」

小町はそこまで言って一息ついてキセルを一つ吸った

「権力者も番人も知識人も皆その事をよく知っている、知り過ぎるほど知っている。だから言う事が出来ないのさ、その干渉がどれぐらいの影響を及ぼすかは誰も分からないからね。触らぬ神には祟り無しってやつさ」
「ちょっと待って、だったら私はなんで知らないのかしら」

私だって番人と言っても差し支えない筈だ、実際にそう認識されているしそう言った仕事についている以上何か知っていてもおかしくは無い筈なのだ。
だが小町はやっぱり頬をポリポリと掻いたままその質問に答えを返す気は無い様だった。

「パルスィ、あんたは多少特殊なんだ、イレギュラーでアブノーマルな存在だ、知らないのも無理はないしそろそろ“その時”が来てもおかしくは無い筈なんだ」

あんたは特殊なんだ、なにもかもが それが小町が言える限界の様だった。
相当考え込んでいた様で顔を顰めている小町を見ているとなんだか申し訳なく思ってきたのでお礼は言っておくことにする。
まだ胸に多少のしこりは残ったままだが

「まあ、そろそろ行こうや、怖いお方がお待ちかねに違いない」

小町はそう言って伸びをした後、地霊殿の方向に向かって歩き出した
さとりの手伝いをするその前に一つだけ、聞きたい事があった

「ねえ、小町」
「うん?」
「あなたは自分の終わりについて想像したことある?」

小町は暫く考えるような仕草をした後、「一回も無いね」とだけ返答した。

「その時が来ればなるようになる、そう思ってるから。だってその方が楽に生きれるだろ?」

そうだ、確かにその通りだ、それが最も私に合っている答えだ。
私は常にその宗教に従ってきた、成るように成ると云うのがこの世の哲学だった


だが、今回はそれが唯一にして最大の失敗だったとしか思えない、その所為で私は行動が遅れに遅れた
後から考えるとその時には既に私の中で答えは導き出されていたのだ
ただ遅すぎた、すでにそれは終わった事なのだ
すでに終わってしまった事の答えを導くのは愚か者のやることに他ならない
全ての賽は茶碗の中だ ベッドも揃えられた 準備は既に整えられてしまっているのだ
後はその中身を暴くのみ、私に残された選択肢はただその一つの行動のみ
その中身が分かっていようと、それが望む物でなかろうと、私はそれを開ける事しかできないのだ





しかし、そんな事は露とも知らないその時の私は鈍痛を抱える頭を押さえながらさとりの待っているであろう地霊殿に小町と行く事しかできなかった。





[幻想郷ロリと言われる妖怪ベストノミネート]


ここまで仕事の遅延に貢献してご苦労だった・・・と言いたいところだが、君等には仕事をしてもらう 
貴様等は知らんだろうが仕事をせずに安穏とした暮らしを迎えられることは無い
この私の眼前で 居座り族が歩き 自称OLが軍団を成し 戦列を組み前進する
唯一の理法労働基準法を外れ 外道の法理コネクションを持って通過を企てるのを
我々是非局直庁が 我々閻魔が この私四季映姫・ヤマザナドゥが許しておけるものか
これから貴様等はなんの手助けも受けず、ただひたすら、残業の限りを尽くすだけだ。
貴様らは震えながらでは無く藁の様にタイムカードを押すのだ
どこまで もがき苦しむか見せてもらおう


死ぬがよい





部屋に着いた時、私は思った
あ、これはやばいと
横に居る小町を見てみると明らか様にこう考えていた
あ、これはやばいと
閻魔はきれていた、過去嘗て無い程にきれていた

「…また何かあったのかしら」
「いや、どうやらまた給与が減らされたらしい、なんでも仕事率が悪いとかで」

それはきれるだろう、話によるとこの閻魔は私ですらドン引きするほどの赤貧生活を送っているというしそれを減らされるとなるともはや死活問題だろう。

「四季様の部下にはさとりの様な奴が多いからね、しかも幻想郷の閻魔とかその部下はほかの地区よりも少ないから結果的に一人一人の仕事量が増えるだろ、そんでほかの地区の閻魔とハンデ無でスコアを競わせるとかありえない話なのさ」

絶対負けるに決まってるだろうに、当然の様に小町は言っているがその仕事をしない勢に間違いなくこいつが一枚絡んでいるだろう。
しかし是非曲直長と言う物も意外と俗っぽいものだ、スコアとか効率とかまるであれの様ではないか。
兎も角この世は正直者が馬鹿を見るようにできているのは間違いない、この閻魔は不利な状況にもかかわらずスコアの偽装やそう言う事をやっていないのだろう、馬鹿な事だがそれを継続するとなるとやはり只ならぬものを感じる。
何度もこの閻魔には嫌な目には合っているが憎む気にはなれないし妬ましくも無いのはそう言った理由があるのだろう。

「小町」
「はっ、はいっ」

さとりの耳元で「ハリー!ハリー!ハリー!」とか言っていた閻魔が突如として此方を向いた時は心底震えあがりそうになった。いきなりこちらを向くんじゃない。

「遅かったですね」
「え、ええ、ちょっと橋姫を捕縛するのに手間取って」
「ふ~ん…へ~え…ほぉ~う…」

閻魔は暫く怪しむような声を出した後ぼそっと「大福の匂いがする」と呟いた。
なぜ分かるんだ、どうして嗅ぎつけられるんだ、小町の顔は笑っているがそこから汗がだくだくと垂れ流されていた。

「あなたはまたさぼったのですか、また仕事をさぼってそんな事をしていたのですか」
「…………お許し下さ「だが断る」」

どうやら小町にはチェックメイトがかけられたようだ、がっくしと項垂れている。
何やら非常に嫌な予感がする、小町がやられたと言う事はつまり私にも追及の手が来るに違いな「橋姫「ひゃいっ!?」」いかん、変な奇声が出てしまった。

「私の用事が分かってて寄り道をするとはいい度胸ですね、家に来てちゃぶ台の上に置いてある発泡酒を飲んでも良いです」

親しげな風に話しかけられているが言葉の端々に殺気が混じっている、どうやら隠す気も無いらしい。こっちは手伝ってやる身分の筈なのだが何故か頭が上がらない。

「まあ、あなたにはさとりを手伝ってもらうしそんなに強くは言いだせないのですが」

言い出せない代わりに殺気だだ漏れですかそうですか

「ともかく小町はこの後隣部屋に来なさい」

にっこりと
花の様な笑みを浮かべた閻魔を見た小町はもう完全に震えを隠す事を忘れたらしく歯をカチカチカチカチと鳴らしている。この光景もよく見られるのだが実際に閻魔が折檻している様子を見ることは無い、決まって隣の隼人か私達が見ていない所まで小町を引きずって、あ、今部屋に連れ込まれた。







……

………

ボー・アンド・ロー・バックブリーガーぁぁぁぁっ!
うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

数分後、絶叫が響き渡った
それに追悼して私とさとりは山のように積み上げられた書類の処理にかかるのだ
右には書類、左には書類、前には書類、のように見せかけた古明地さとり

「まあ、よくもまあこんなに溜め込めたものね」
「地霊殿の主も楽じゃないんですよ」
「あんたが書類を溜めこまずに日々きちんとこなしてればつけが回ってこないんじゃない?」
「盲点でした」
「見なかったふりでしょ」
「そうとも言います」

口の減らない奴め、後でどうにかしてやり込めてやる
そんな事を考えていても仕事は減らないので黙ってサクサク片付けてしまおう、これが終われば多分閻魔は蕎麦を打ってくれるに違いない、さとりは和菓子のいくつかを駄賃として奢ってくれるに違いない、そればっかしが楽しみだ。

「相も変わらずそんな事ばっかし考えているのですね、あなたは」
「当たり前じゃない、それが無かったら私はとっくのとうにあんたと縁を切ってるわよ」

本当はそれだけでは無いのだがそう言っておく事にする、どうせばれるだろうけどあまり過小評価されても困る、こいつのつかいっぱしりなど想像するだけで恐ろしい。
まあ、こいつはそこまで人格が腐っている訳じゃない、妖怪だけど
嫌がらせはするわ、ちょっかいは出すわだがそう言った事を命じられた事は無い。
これまでも、これからも私とこいつの関係はそんな物だろうと思っている。悪くはならないし、良くもならない。なんでかは分からないがそんな確信があった。
さとりはこっちの考えを呼んだらしく多少困ったような表情を浮かべた後「あなたは、私の事を信じてくれるのですね」と呟いた、
それは私に対してでは無く寧ろ自分に対して呟いているように感じられたが間違いを訂正しておくことにする。

「勘違いしないで、私があなたを信じるのではなく、私が私を信じるのよ」
「そうですか、でも結果は同じでしょう?」
「結果こそが重要な時が有る、それは例えばこの書類ね、私の手伝いで完成してもあなた独力で完成させてもあなたの生活が保障されるだけ、ああ妬ましい妬ましい」

だけど
ずいとさとりの顔をねめつける
さとりの白い肌や薄くととのった唇などが残らず緑眼に納められる

「私があなたを信じるのと私が私を信じるのはまるっきり違う、ただ結果が偶然同じになったに過ぎない、ありえない程の確立の海を乗り越えて“偶々”“偶然”“奇遇にも”『そうなってしまった』に過ぎないのよ」

きつい言葉のつもりだった、案に「私はお前を信用していないぞ」と言っているのだから。
だがこいつと言えばどうだ、相変らずよく感情の読めない笑みを浮かべているばっかしだ。

「同じ事ですよ」

その表情のまま、今私が再三言ってきたことを丸ごと粉砕しやがった

「どれほどそれが低確率で、ありえない程の道のりだったとしても、『あなたは私を信じている』その結末さえあれば他はどうだっていいのです」

ああ、こいつはそう言う奴だった
誰よりも臆病で、それ故に結果だけを見て安心して、結果が思うようでない時は目を隠してしまったり変に湾曲させてしまったり、それで最後にはやっぱり傷つくような奴だった。
目を背けなければいいのに、そうしたならば瘡蓋をひっぺがえされるような傷も痛みも追わないというのに。
でもやっぱり無理だろうな、なにせこいつはあの古明地さとりなのだから。

さて、そろそろ仕事を片付けてしまわないと地霊殿が埋まってしまいます
しれっとそう言いながら眼鏡をかけて書類と向き合ったさとりはいつもの世の中に対してふざけているとしか思えない様子はどこへやら、いたって真面目な表情だった。

時々こいつと付き合っていると、こういった落差について行けずに転んでしまいそうになる事がある。傷ついているように見えて実はなんとも思って居なかったり、笑っている癖して誰よりも傷ついたり。
自分を隠しきれていないように見せかけて大事な所は見せていなかったり、堅固に守っているように見えて案外本音がポロリと落ちてきてしまっていたり。
昔から何にも変わっちゃいないんだ、私も、こいつも
周りばっかしがどんどん変わって行って、それでも変わろうとしない、変われない、私達はそう言う奴らなのだ。

まあ、仕事を早めに終わらせてしまうとしよう、来てしまった災厄のダメージを減らすにはそれが一番有効な方法だ。


「書類を全て片付け終わるか私が漏らしてしまうか、これは負けられない戦いなのです」
「…前言撤回してもいいかしら」



[エルフ耳は希少価値だ ステータスだ委員会委員長]


「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………疲れた」
「…………疲れましたね」
「今度はもっと早く仕事終わらせなさいよ」
「嫌です、死んでしまいます」
「地底の奴らって仕事を真面目にやると死ぬ病気にでもかかってるの?何ならヤマメに見てもらえば?」
「かえって悪化しそうな気がするので却下です」
「…………………………」
「…………………………」
「…………あんたって時々まともなこと言うわよね」
「…………失礼な言葉ですね、私はいつだって真面目一直線ですよ」
「嘘つけ」
「嘘です」
「即答するなよ」
「即答しますよ」
「最初から言わなければいいじゃない」
「嘘はつくのが一番楽しいんですよ」
「あんたって本当に嫌な性格してるわよね」
「お誉めにあずかり大変光栄です閣下」
「寝そべったまま言われても何の嬉しさも感じないわ」
「寝そべったまま言われても何の恐れも感じませんね」
「悪かったわね」
「いえ、特に何も」
「取り敢えず、次回からはちゃんとやりなさい」
「無理ですって」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………疲れた」
「…………疲れましたね」

あまりにも疲れていたので話題が一周してしまった
私としてはさとりに文句の一つでも言って、はったおして、また文句を垂れて、それぐらいしても罰は当たらない筈だ。寧ろそれをやらなかったならば天から「お仕置きの一つもしないとは怠け者め」とか言って天罰が…いかん、閻魔を思い出してしまうからこれ以上この事を考えるのは止す事にしよう。また頭が痛くなりそうだ

仕事を何とか終わらせた私達はほうっと一息つく間もなく今度は閻魔に説教を喰らった、なぜ私までされねばならんのかとんとわからないがとにかく逃げだせる状況では無かったので残らず聞く羽目になってしまった。途中で小町がまた居眠りをし始めたのでしばかれて私と小町とさとりとこいしが並んで正座をさせられ説教を小一時間くらった。あいつも散々痛い目にあったのに懲りない奴だ。

そんな事があってからもやっぱり蕎麦を打ってくれる閻魔はなんだかんだ言ってやっぱり善人なのだと思う、普通ならそこで帰ってしまうだろう事は間違いない。
蕎麦は変わりなく旨かった、寧ろ上達したのではなかろうか、向上精神のある奴と言うのは妬ましいがその結果として旨い蕎麦が食えるとなると何だがそうとも言いきれなくなってくる、私は現金な奴だと常々思う。
とにかく、今回も全てが終わった、いつも通りのやり取りと、いつも通りの苦労を経て全てがあるべき場所に帰結した、そう、全てがそう在るべきものへとなった。
頭の痛みはさっきよりも増していた、仕事中は思い出せない程に忙しかったがそれが終わるとなると思い出したかのように痛み始めたのでさっきよりも痛く感じているのかもしれないが。

「ああ、パルスィ、パーティーの日時が決まったので近く招待状を送りますよ」
「ああ、あれね、あんたの突発的思い付きじゃなかったのね」
「ペットは皆そう言うんですよ、何ででしょうかね」
「自分の胸に聞いて見なさいな」

ぺったんと本当に胸に手を当てているさとりを見ているとこいつが先程まで「できる女」オーラを出していた妖怪なのかと思ってしまう。とにかく差が激し過ぎて時々ついてゆけなくなる。

「それで、地上からの来客って大勢来るんでしょう?どこを使うのよ」
「ああ、その件に関しては心配することはありませんよ、船がぶち開けた穴有るじゃないですか、何と言いましたっけ、あれ」
「星蓮風穴だったっけ」
「そうそれです、地上からの来客には主にあそこを使う事になりますからパルスィの仕事はありませんよ」
「ああ、もしかして配慮してくれたつもり?」
「あそこの方が地霊殿に近いですし、大きいので」

頭が また軋むような音をたてはじめた
目の前を風が舞い、何十枚もの葉が舞っている様に見える
もうすぐで掴める、もうじき掴める
だが足りない、あと一つ足がかりが必要だ
ああ、痛いなぁ

「…どうしました?」
「うん?何でもないわよ?」
「そうですか」

葉が壁から剥がれ落ちてゆくようにだんだんと壁画が見えてきた
モザイクの様だった絵柄が次第に鮮明になって行く
もうすぐ、もうすぐ全てが見える
だが一枚の障害が全てを不鮮明にしている
まるで数式の中にできた染みの様に

それが無くなってしまえば全てが見えるというのに
それさえ剥がれ落ちてしまえば全てが見えるというのに

「地上はもうじき冬らしいですよ」

不意にさとりがそう話しかけてきた



季節など感じることが無い地底に降りてきて何百年たっても冬と言うイメージが薄れることは無いし変わる事も無い。
死の季節 淘汰の季節
私が人間だったころのおぼろげな記憶にも確かにそれは刻み込まれている
しかし、なぜそれを今言いだしたのだろう。さとりはともかくとして私は地上に一番近くて一番遠い存在なのだから勇儀あたりに聞いた方が良いのではないかと思うが。
しかしさとりはどうしても話しておきたいようでぼそぼそと呟くように言葉を紡いでゆく。

「私は桜が好きなんですよ」
「桜?」
「桜、それも満開に咲いているのではなく散って、散って、花吹雪と成り果てて、もうすぐ葉桜となってしまうようなのが」

まあ、私が桜を見に行けるのがその機会しか無かったというのもありますが、少しさびしそうに笑ったさとりはそう続けた。
地底に桜の木は一本たりとも植えられていない、日の光を浴びる事も無く、月の光も浴びることが無い桜など誰が好き好んで見るだろうか
散る寸前の桜しか知らない者は、その桜が一番美しいと思うしかないのだ
そんな事をさとりは知っている、誰よりも心に精通しているが故に自分が一番傷つかない方法を知っている。
誰でも傷つくのが怖いのだ、だが怖がっていては面白くない
無機質な退屈程妖怪にとって致命的な物は無い

「だったら、見に行けばいいじゃない」
「……どういう、事でしょう」
「簡単な話よ、もう地上と地底の交流はできた、あんたが地上に行っても何の問題は無い筈よ」
「でも、他の妖怪は恐れるでしょうね」

何言ってんだか
私が知っているさとりはもっと傲然としていて、周りの迷惑など気にもかけない奴だというのに何を変にしおらしくなってしまってんだか。
甘えだ、そんなのは
結局は地上に言って自分が傷つくのを怖がっているだけなのだ、臆病で、卑怯な考え
別にそれが悪い事だとは言っていないが私にとって古明地さとりと言う妖怪はそういったものから最も遠いところにいる妖怪なのだ。

「関係ない」

だから、全てをその一言に掛ける
周りが何と言おうと、周りが何を思おうと 古明地さとりと言う妖怪には“何の関係も無い”、ただそれだけのシンプルな事だ。
所詮他者の考えることなどは客観的と言う言葉を着た身勝手な考えに過ぎない、自分がどうするかなんで結局は自分にしか決められやしないのだ。

「そうですね」

さとりは確かにその言葉を受け取った
確かに、私に向かって微笑んだ

「じゃあ私も、行くとしましょうか」

確かに、そう決意した

「地上の者と同じように、あの風穴を通って」

確かに、そう紡いだ









その時  

かしっと音がした

手に一片の葉が滑り込んだ

パズルのピースが見つかった

器が開けられた

突風が吹いて、最後の葉が捲られた







「…………あ……」

全てが一つの所に帰結した
あるべき場所にあるべき物があるべき様に組み込まれ、動き出した


もう遅すぎた
終わってしまったのだ、何もかもが
賽は既に手から零れ落ちてしまった
もはやそれは落ちるのみだ


「…用事を思い出したわ」
「うん?これから夕食に呼ぼうと思っていたのですが」
「悪いわね、あの閻魔に言われてたのを思い出したのよ」
「ははあ、それは災難な事で」



じゃあね、私はそう言って地霊殿から飛び出した
もう頭は痛くなかった
その代り、胸にぽっかりと穴が開いたような痛みが走っていた




ずきずきと張り裂けそうなほどの痛みを抱えながら、私は旧都の上空を駆けて行った












.
Q.キスメに謝れ
A.すみません

Q.映姫様に謝れ
A.申し訳ありません

Q.パルスィに謝れ
A.ごめんなさい

Q.さとりに謝れ
A.だが断る


構想を練り終わりました、大体あと2話でやりたかった話は書き終えます
その結果糖分はもう諦めました、犠牲となったのだ
最初に見た時からキスメの性格はこんな感じだと思っていてあまりの周りの考えの相違に戸惑った私は異端かも
映姫様の台詞については分かる人は分かりますね、時々入り混じってますが




(2011/11/1 コメント返し)

注釈があるのでちと早めの第一弾です

>>奇声を発する程度の能力さん
ギャグとシリアスの配合はいつも苦労しています
ふざけ過ぎても軽くなるしシリアス過ぎると読む気を無くす、ううむ精進です
誤字修正しました、御報告ありがとうございます

>>君の瞳にレモン汁さん
らめえええええ 染みちゃううう(ry すみません
誤字修正しました、ううむあたいの文字は神奈子様より鬼門だ
えーき様がサーと言えと言うのは映画の受け売りなのでと言う裏設定です
小町にでも見せられたのでしょう、フル○タルジャケット

>>6さん
「私は映姫大佐だ」
「私はヤマザナドゥ神父だ」
「そして私は四季映姫軍曹である」
さあ、あなたはどの映姫様がお好き?

>>9さん
ありがとうございます、精進です

>>11さん
読み返して作者が可能な分だけは訂正しました
御指摘ありがとうございます
続きもがんばります

>>とーなすさん
だらだら続けるのもいいのですが2話目を書いた時点でこうなるプロットはできていました
でもそうなるとさとパル分が足りない、元々さとパル書きたいのにさとりがへたれなだけの奴になっちゃう、どうしませうか
Q.作者よ、なぜ古明地さとりを苛めるのです 彼女が何をしたと言うのですか
A.さとりが可愛いからだ 可愛すぎてついつい苛めてしまうんだ


(2011/11/6 コメ返し)

>>君の瞳にレモン汁さん
今家の前に軍曹率いる海兵隊の皆さんと眼鏡の死神さんと史上最恐の神父と緋蜂に乗った大佐がやってきて尋常じゃないオーラを放っています
応援には答えなければならないというよりも答えなければ殺られかねませんので頑張ります

>>17さん
さとりは可愛い、異論は認めないと思います
いかん、出してあげなかったからフランが出てきてしまった!

>>20さん
誤字を数か所訂正しました、残り作者の見逃しか作者が根本的に勘違いしているか仕様です
御報告ありがとうございました
キスメは黒くても良いと思うのです おまけの方にも「内気な妖怪」としか書いてないし
という訳でこいしとキスメは私にとって地霊組の腹黒キャラですね

>>22さん
期待には答えろと軍曹が言っていました! サーイェッサー!

>>フェッサーさん
風呂場の窓からどら●もん…すみません
プロットを何回見返してもギャグが入る余地がありません 最後には望む展開になるのかすらわかりません
確信篇は次回かそのまた次になるかもしれません
…漏らしたのかは要するにシュレディンガーの猫、漏らした未来もあるし漏らさなかった未来もうわなにをするやめ

それでは

かしこ
芒野探険隊
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コメント



0.820簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
>そんな訳で値は問題を提唱しにさとり様の所まで足を運んだ次第なのである
あたい?
>変な奇声が出てしまった
ピクッ
ギャグとシリアスが良い具合に混ざってて良かったです
5.100君の瞳にレモン汁削除
誤字が何箇所かありました。
》値→あたい?
》緑溌→緑髪?
あと、えーき様は女なのでサーではなくマムでは?間違ってたら申し訳ないです。
6.100名前が無い程度の能力削除
山田さん怒首領蜂かヘルシングかはっきりしなさいwww
9.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
11.100名前が無い程度の能力削除
おもしろかったですがちと誤字が目立つかな
12.100とーなす削除
さとパル新作来たー!
結構だらだらと続いていくのかと思ったけど、のっぴきならない展開になってきましたね……これはひと悶着ありそうだ。
作者さんがさとりんに厳しい気がするのは何故なんだぜ?
14.無評価君の瞳にレモン汁削除
》えーき様がサーと言えと言うのは映画の受け売りなのでと言う裏設定です
》小町にでも見せられたのでしょう、フル○タルジャケット

あぁ、軍曹も混ざっていましたか。
ハ○トマンでしたっけ?
アンデルセ○神父とロンゲ○ナ大佐は気付けたんですけどねwww

Mama & Papa were Laing in bed
Mama rolledoverand thisis what's she said
Oh, Give me some(自主規制
次の作品構成と涙と鼻水の準備はよろしいか?
神様にお祈りは?
キーボードをカタカタと叩いて続きを投稿する心の準備はOK?

  頑 張 る が よ い
17.100名前が正体不明である程度の能力削除
さとりがもうかわいすぎて爆死しそう。
(きゅっとして)ドカーン。
20.90名前が無い程度の能力削除
幾つか誤字を見つけたが、あえて報告しない。

さとりよりパルスィより小町より映姫より、なによりキスメがどストライクでした。
22.90名前が無い程度の能力削除
次回期待しています。サーイェッサー!!
23.100フェッサー削除
窓にタイムマシンでもあるというのか、さとりん?

何だか悪い感じに心が堕ちていきそうなパルスィにオラワクワクしてきたぞ!
パルスィがどういう答えを見出したのか、次回をお待ちしています。


……で、結局漏らしたんですかね…?