Coolier - 新生・東方創想話

部下が腐ってる。チェンジで

2011/10/19 05:53:05
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無性に、腹が立つ。
腹の底からふつふつと湧いて出たようなイライラが、私の胃をうごめく。
落ち着いてなどいられない。私は居ても立ってもいられず、腰掛から立ち上がった。行く当てもなくうろうろと居心地の悪い自室を歩き回り、しばらくして再び腰掛に舞い戻る。こんな無意味な動作を、ひたすら繰り返していた。


このイライラの原因は、明白だった。
私の部下が、一向に帰ってこないのだ。
あと半刻ほどで、姿を消してからちょうど五日になる。あいつは一体どこで油を売っているのか。

「はあ」

怒りのこもったため息が漏れて出る。
当の本人、私の部下である宮古芳香は、キョンシーだ。もともとは死体だったものを強引に再利用させてもらったから、間接は曲がらないし頭も体も腐りかけで出来が悪い。いまもきっと腐った頭で色々と重要なことを忘れ、どこかをうろついているのだろう。

私は今度こそ意を決して立ち上がり、羽衣を纏った。この私がいつまでも我慢させられるのは許せない。近くの墓地へ探しにいってやることにした。あそこはあいつのお気に入りの場所だ。私のほうから見つけ出して、一回ガツンと言ってやろう。何を言ってもまたすぐに忘れるだろうが、少なくとも私の腹の虫は収まる。
私は怒りのぶつける先を求めるように、墓地へ繰り出した。




「うらめしやー!」

墓地に着いてそうそう、変なやつに出会ってしまった。でっかい化け傘が、こちらを活き活きとした目で見つめていた。
だが生憎、今の私は機嫌が悪い。「はいはい、表は蕎麦屋」などと、寛大に受け答えする余裕は持ち合わせていなかった。

「死ね」

懇切丁寧にそう言うと、私は化け傘の首根っこを掴む。

「あなた、このあたりで私の部下を見なかった?」
「ひい、知りません知りません」

したり顔だった化け傘の表情が、すぐさま弱者のそれへと変わった。

「ごめんなさい、人間と間違えたの。助けて」

青ざめた顔で必死に説明する化け傘。力関係を一瞬で理解したようだ。もしかしたら、なかなか賢いのかもしれない。
目の前でじたばたする妖怪を威圧するように睨んでいたが、ふと別の考えが浮かんできた。こいつを部下にすれば、芳香より使えるかもしれない。力はなさそうだが、元気はあるし話も通じる。もしかしたら今まで不満に思っていたことが、全て解消するかもしれない。もう、出来の悪いゾンビのことで気を揉む必要もなくなるのではないか。

「あなた、名前は?」
「ひいい、多々良小傘と言います。しがない通りすがりの妖怪です」
「そう。まあ、助けてあげてもいいけど、条件があるわ」
「じょ、条件?」
「私は霍青娥。今、私はあなたをどうにでもできる状況にある。生かすも殺すも、私次第。あとは、わかるわよね?」
「青娥、さん……? どういうことでしょう」

全く分かっていないようだ。私は小傘を掴んだ腕に力を入れる。

「青娥様と呼びなさい」

芳香が見つからない。なら、別の部下を使えばいい。この子もとりわけ優秀ではなさそうだが、物覚えもマシだろうし、関節だって十分曲がる。今思えば、なぜあんな不便なキョンシーなどを使っていたのだろう。
また芳香への怒りが湧いてきて、思わず力が入った。手の中の小傘が小さく呻く。

おっと、せっかく使えそうな奴を見つけたのに、このままでは壊れてしまう。心配しないでも、部下はこれから多少マシになるだろう。私は自分に言い聞かせるように、手を緩めた。

「あ、ご主人様、でもいいわよ」

私が手を放すと、小傘はへなへなとその場で小さくなってしまった。全く、部下なんて作ろうと思えばこんなに容易く作れたではないか。この私がこんなことで困っていたなんて。
 
その日は、墓場に長居しなかった。その必要もなかったからだ。私は揚々と、墓場での「収穫」を持ち帰った。



小傘は、意外にも良く働いた。
呼べばすぐにくるし、芳香には出来ないような細かいことも難なくこなした。

「小傘ー、お茶」
「はい、ただいまお持ちしますー」
「小傘ー、肩が重いわ」
「はいはい、お揉み致します、青娥さま」

小傘のほうも、はじめは恐々としていたが、ここに来て三日ですっかり私の部下が板についていた。指示をしなくても、大体のことをこなせている。
これが、彼女が生まれながらに持っていた「さでずむ」とやらの力だろう。彼女の持つ大きな傘が時折邪魔になるが、それぐらいは勘弁してあげよう。
唯一の懸念は、人間を驚かせなければ得られないという彼女の食糧だったが、私の妖力を分けてあげたら普通に動けていた。案外、そのあたりは適当な構造らしい。

「ところで、青娥さま? ひとつ相談が……」
私が紅茶を飲んで一息ついているところに、小傘がおそるおそる聞いてきた。

「あら、何?」
「ちょっと人間を驚かせに、出かけても」
「だめ」

私は即答した。小傘のしょんぼりした「さでずむ」な表情が、私の心の黒い部分を心地良く刺激する。

「こんなまずい紅茶しか淹れられないで、調子に乗ってちゃだめよ。だいたい、私は緑茶派だっていうのに」
「その緑茶、すでに備蓄が切れてたじゃないですかあ。聞いたら、この紅茶でいいって青娥さまが」

小傘がなにか口ごたえしていたが、とりあえず無視。
それにしても全く、困ったものだ。部下が主人を放ってどこかに行ってしまうなど、許されるはずがない。主人を放っている張本人、芳香のことが嫌でも脳裏に浮かぶ。せっかくの穏やかなティータイムだったのに、また怒りが込み上げてきてしまった。

「こんなところで休んでないで、掃除でもしてきなさい。やることは一杯あるのよ」
「青娥さま、なにか怒ってます?」
「あんたには関係ないわよ。ほらほら、いったいった」

未だにぶつぶつ言っていた小傘を、無理矢理追い立てる。私に押され、小傘はその場で盛大にすっ転んだ。転んだというより、渾身の体当たりを床にぶち当てた、とでも表現したほうが適切かもしれない。

「いたた……乱暴ですよう、青娥さまあ」

額でも強く打ったのか、涙目になりながら不平を漏らす小傘。彼女は体をさすりながら、ようやく起き上がる。肘を使い、腰を曲げて。
 
それを見て、衝撃が走った。もやもやしていた思考回路が、一つのヒントを得て次々と蘇るような感覚を覚えた。
転んだから、起き上がった。小傘にとって当たり前のことをしたまでだったが、私には違って見えていた。蘇った思考回路と共に顔を出したのは、不吉な予感だった。

「ゾンビは、関節が硬くて満足に曲がらない……」

私は絶句した。どうして、芳香が戻ってこないのか。どうせ、大した理由ではないだろうと高を括って、そこまで頭が回っていなかった。
もし、何かの拍子で芳香がああなったとして。自分ひとりで、なんとかできるだろうか。
さっきまでとは、全く別の感情が私を覆い尽くす。胸が異様にざわついた。不安のような、焦りのような、落ち着かない気持ちだった。

「急に、どうしたんですか? すごく深刻な顔ですが」

小傘が何か言っていたが、私には全く聞こえていなかった。

さんざん芳香のことをこきおろしていたが、今になって冷静に考える。彼女はゾンビとしては、最高傑作。それが彼女に対する私の評価だったことを、今更ながら思い出した。
普通は、一度死んだ者を復活させたところで、言うことは聞かないし体も満足に動かない。大半は使い物にならないというのが当たり前だった。
その点、芳香はまだ動けるほうだったし、頭も良かった。体も十分すぎるほど頑丈だ。そしてその能力以上に彼女を最高傑作にたらしめたのは、私への忠実さだった。
要領は悪かったが、私に従おうとする心意気だけは誰にも負けなかったのだ。

それでも。

「私のことはいいから、早く仕事に戻りなさい」

なんとかそれだけいって、小傘を追い払う。
私はその場から動かなかった。動けなかったのだ。私は、もう芳香の行きそうな場所に心当たりがなかった。長い時間を共にしたはずだったのに、彼女のことをこれっぽっちも理解していなかった。彼女への怒りは、気がつくと自分に向いていた。

小傘があたふたと退散する。芳香より優秀だったはずの彼女は、私には途端につまらないものに見えていた。
物覚えがいい。良く働く。だから一体なんだというのか。理不尽で意味不明な怒りが沸いてくる。その怒りへの対処の仕方も分からないまま、ただただ、私は混乱していた。

そのときだった。
不意に、足音が聞こえてきた。突然耳が良くなったのかと錯覚するほど鮮明に、私はその音をしっかりととらえた。どうやら、長い廊下の先からのようだ。不器用に跳ね、ときおり引きずりながら進んでくるその音には、聞き覚えがある。
間違えようもない、芳香のものだった。
私は思わず部屋を飛び出した。きちんと扉を通ったのか、それとも壁を抜けたのか。そんな些細なことはどうでもよかった。

「うおお! 何かが猛スピードで目の前に。びっくりしたぞう!」

能天気な顔と、間の抜けた声。拍子抜けするほどにあっけなく、私の期待していた姿が目の前にあった。

「あれ、超高速飛行物体はせーがさま?」

私の部下、宮古芳香はあくまでマイペースに、声を上げた。
ずっと留守にしていた部下に対して、私は確かに憤りを抱えていた。その怒りをぶちまけるように、叱ってやってもよかった。それこそが主である私の役目だと、言い張ることもできたのだ。でも、叱る気にはなれなかった。むしろ、そんな怒りは忘れていた。
私は無意識に芳香の全身を目で追った。どこか壊れていないか、調子の悪そうなところはないか。とにかく確かめるので精一杯だった。

一通り見回して異常がないことがわかると、これまで感じたことのない感情が湧いてきた。
冷静でいられない、どうしようも無い気持ち。当然怒りではないし、焦りや不安でもない。それらの気持ちが氷解し、その下から現れた暖かい感情。
ああ、これが安堵というものか、と感じると同時に生まれる疑問。なぜ私は安堵しているのだろうか。部下が帰ってきただけ。それも元は死体だった、つまらないゾンビだ。本当に、それだけの存在のはずなのに。

「どこいってたのよ」

私は困惑を隠すように言葉を放り投げた。
芳香は一転、不思議そうな顔をする。

「どこどこ……あれ? どこだっけ」

ぐぎぎ、と首を傾げた芳香の帽子から、筒状のものがガタリと転げ落ちる。私はそれを拾うと、蓋とおぼしき部分を引っ張った。
中にはぎっしりと茶葉が詰まっていた。どうやら、茶筒だったようだ。

ああ。
それを見たとき、頭の片隅に追いやっていた記憶が鮮やかに蘇った。


芳香が出かける少し前のことだ。

「あーあ、切らしちゃってるわ。すっかり忘れていたわね。補充しに行くの、面倒ねえ」

私はいつものようにお茶を飲もうとしたが、丁度切らしていたことに気が付いた。そのときに言った、日常生活の些細な小言。

「芳香、たまにはお使いぐらいできないの? お茶がないのよ……まあ、あなたに言っても無駄でしょうけどね」

私は半分独り言のようなつもりで、近くにいた芳香に話していたのだ。話しかけている、という意思すら薄かったように思う。
しかし芳香はそれを真に受けて、一人で出かけていってしまったことになる。
それから帰ってくるまで、一週間あまり。このお茶を一体どこで手に入れたのかわからないが、今の私にはそれどころではなかった。

「良く覚えてないけど、すっごく疲れた! もう死ぬかと思ったぞう!」

全く、出来の悪い部下を持ったものだ。それだけのことで一週間も迷子になるなんて。茶筒も密閉しきれていないまま放浪していたせいか、茶葉がやんわりしけっている。本当に、使えない。
でも。

「ばか。ゾンビが死ぬはずないでしょ。まったく、頭悪いんだから」

叱ることは愚か、不満をぶつける気にもなれない。今は、小さく言い返すので精一杯。
胸に灯った気持ちに、嘘はつけなかった。暗い感情が拭い去られ、かわりに満たされた安堵と喜び。ただゾンビが帰ってきただけじゃないか、と反抗する自尊心がえらく矮小に思えた。私はこの娘を、ただの不便な部下としては見ていなかった。この娘は、私にとって誰よりも有能なのだ。

「あれ、せーが、お腹でも痛いのかー?」

安心感で、胸が詰まる。脆さが見えないように、慌てて芳香から顔を隠した。
私は心を落ち着けるように、今回の部下の仕事ぶりに客観的な評価を下すことにした。
結果はしけっていたとはいえ、任務をこなしたことには変わりない。そもそも、お茶のことをちゃんと覚えていられたこと自体が奇跡なのだ。それに、長い間離れていたのに、私の名前も忘れなかった。これはゾンビとして、いや私の部下として、満点の出来だろう。
だとしたら、主である私のするべきことは決まっていた。こぼれんばかりの感情をなんとか押さえつけて、私は、ゆっくりと片方の手を伸ばす。

「いいこ、いいこ」

いつもより少しだけ長めに、自慢の部下を称えてあげた。

                                                                                                                                              
 霧雨魔理沙は、魔法の森で茸を採っていた。穏やかな早朝の森。そこに、突如闖入者が現れた。
「お茶ー、お茶ー」
 どこから来たのか、謎のゾンビが怨嗟の声を上げている。さすがの魔理沙も、これには恐怖を覚えて震え上がった。実はちょっぴり泣きそうになった。こういうところは乙女なのだ。
 魔理沙は家ではもっぱら紅茶派だったので、霊夢から貰った緑茶が大量に余っていた。とにかくさっさとお茶を供えて、震える手で成仏を祈った。
 ゾンビが満足そうにお茶を持っていき、一人残された魔理沙は改めて、人からモノを巻き上げるのは良くないことだと心に刻んだのだった。


★ ★ ★

「ということで、小傘、あんたクビね」
「ええーっ!?」
 芳香が帰ってきたあと、突然の命令が小傘に下った。
 青娥から解放された立場なのに、何故か小傘は残念そうな声を上げた。はぐれ妖怪も、色々大変なのだろう。再び、自由という名の荒波が彼女を襲い始めた。

★ ★ ★

お読み頂きありがとうございました。
セイヨシ、とやらに挑戦してみました。くっついてる二人を見ると、なんだか色々妄想が膨らみますよね。個人的には、こんな感じの青娥もいいかなあ、なんて。
あふりか
yakujinsama@mail.goo.ne.jp
http://ainoizumi89.blog117.fc2.com/
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コメント



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3.100oblivion削除
こればかりは小傘なんにも悪くないのにっ
7.100名前が無い程度の能力削除
好いね! すごく好いよ!
12.80奇声を発する程度の能力削除
小傘…
14.100名前が無い程度の能力削除
やったね!
15.80とーなす削除
小傘が可哀想とか思ったけど、まんざらでもなさそうだったからいいや。
21.100名前が無い程度の能力削除
原作4面から垣間見える溺愛ぶりからすると、少し「アレ?」と思える青娥でしたが、自分がしたいようにするというのが彼女のスタンスなので、実は何の違和感も無かった!
デレデレ青娥も良いですが、こんな青娥も良かったです。
ところで小傘ちゃん、私の部下にならないかい?
25.100名前が無い程度の能力削除
道具として使われる快感に目覚め始めた小傘ちゃんの明日はどっちだ!?
38.100名前が無い程度の能力削除
ご主人の名前を忘れない芳香はキョンシーの鑑
それはそうと、小傘の再就職先を斡旋してあげたいです
39.100名前が無い程度の能力削除
いい上司と部下ですね。
あと小傘強く生きろ。
42.100名前が無い程度の能力削除
あとがきの魔理沙かわゆすw
45.90名前が無い程度の能力削除
小傘はいつでも不憫かわいい
46.100名前が無い程度の能力削除
こんな青娥もおかしかないよねー、って思ってた矢先にこのSS。
タイミングよすぎアザッス
47.80洋菓子削除
三人とも可愛いかったです!
48.60名前が無い程度の能力削除
青娥娘々暴君すぎ吹いたww
芳香はいい子だなぁ。小傘はいつも通り不憫だなぁ。
70.100名前が無い程度の能力削除
セイヨシにゃんにゃんは甘くてナンボと思っていたけど、
我侭な主人と愛され従者なこんな関係もいいなあ、という発見。
満点おかせていただきます。
72.100名前が無い程度の能力削除
小傘ちゃんが不憫で辛い
74.100名前が無い程度の能力削除
色々とねじれ曲がってる青蛾が可愛い
78.100Yuya削除
小傘が不憫で可愛い