Coolier - 新生・東方創想話

朔日

2011/10/12 02:02:56
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 好きな人が出来た。
 そんな風に言うと、お前らは笑うかもしれないけど。



 悪魔城紅魔館の地下暗黒図書館。いつもの文机に、帽子を脇に置いて、肘をついて座る私、そして向かい側に座っている私と対極の文系不健康魔法使い。
「なあパチュリー」
 何、と答える声をどこか遠くに聞いている。パチュリーの声や姿よりも、存在そのものが浮き上がって感じるような、不思議な感覚。
「恋煩い」なんて言うと、乙女らしさが私にもあったんだなという新鮮な驚きと自惚れが生まれる。それはそれとして恋を知ればもっと何かに活かせるかもという探求心の部分にも気付く。私は、乙女そのもので出来ている訳じゃないらしい。というか、私はまだ幼い。まだそのものに、憧れや人寂しさと混淆して本質が見えていないのが本当の所だろう。「……って、どういうもんか分かるか?」
 パチュリーは鬱陶しそうだったが、いつもそうだから私は気にしていない。こんな暗くて湿っぽくて黴臭い所にいるから、精神も歪む。そのロン毛もいけない。髪切れ髪。
「感情の揺らぎは現実に作用するということでしょう。恋に限らず、感情は全てそう」
「そんな整然とした答えはいらないんだ、もっとざっくりと語れよ。感情の一言で済ませずに」
「……ままならないこと。結局はそこに行き着くと思うけれど」
「経験は?」
 ページを捲り、視線を表紙に落としたまま。
「毎日よ。ままならないことなんて」
「恋煩いの話」
「……実感として思い出せるほど、最近にはないわね」
「嘘だ」
 何となく。強いて言えば乙女の感性。パチュリーが黙り込んだことからすれば、当たらずとも遠からず、らしい。
「……それで? あなたは、恋煩いの途中なの?」
 パチュリーの方から話を振るのが、余計に怪しい。でもそれ以上は言わないことにした。
「……そうかもな。自分でもよく分かってないから聞いた訳だし。ままならない、って言ったら確かにそうだ。相手のことも、自分の感情のことも……」
「相手は?」
 パチュリーは何でもないことのように口を開いた。けれど、視線が初めて私に向けられていることに私は気付く。気付きながら、そこには触れずに、口を開く。


「恋煩い?」
 同じ問い。
 場所は変わって、人形派魔法使いアリスの家。とは言っても相手が変わったこと以外にはあまり変わりない。違いと言えば紅茶が出てくるサービスの良さだが、あっちには蔵書がある分プラマイ零というところだろう。
「恋煩いって、そりゃあなた……キラキラでウズウズでズキズキよ」
「馬鹿じゃないのか、お前」
 心底そう思うけど、パチュリーのそれより的を射ている気がする。いや、そんなことはないか? こういうニュアンスでのが、伝わる気はする部分はある気はするけど。
「馬鹿じゃないわよ。キラキラのドキドキのハラハラよ」
「変わってんじゃないか……」
「その時々によって変わるものなの」
 紅茶を優雅に注いで口に運ぶ仕草。何もかもかっこつけすぎでやってられねえ。
「……あんまり参考にならないな」
「そりゃそうよ。人によって感じ方は違うんだから……価値観の違いとかって話じゃなくて、相手も違えば感じ方も違うし、人間を横に並べて数値みたいになんて比べられないんだから。ま、しっかり悩みなさいな。悩んで悩んで、疲れたらいつでもいらっしゃい。お姉さん、いつでも慰めてあげるから。そりゃ精神から肉体までしっぽりと」
 アリスは嫌になるほどさわやかな笑顔で言った。
「それ、慰めるの擬音じゃないから」
 全くこの色ボケはと思う。誰にだってこの調子だから、嫌になる。そりゃちょっとだけドキドキはするけどさ。
「それで、お相手は?」
 こともなげに私は口を開く。


 神社に行き縁側に行儀悪く寝転んでいる不良巫女におう、と声をかけると、返事もせずに私をじーっと見上げた。まるで遊星からの物質Xに対する視線……そんな馬鹿なことを考えていると霊夢が口を開く。
「服、違う」
「おう。まあな」
 いつもとは印象が全く違う白のワンピース。ひらひらふりふりの裾。腰回りにアクセントがついたデザインのやつ。それだけじゃ寒いから上からカーディガンを被ってる。帽子も、今日はない。そう言えばもう秋だ。いつもの格好よりは、少し肌寒い。
「何となくな。しかし、もうだいぶ寒いな。こたつ出そうぜ。お茶くれ」
「秋は嫌いなのよね。落ち葉が多いから。夕立も降るし……全く、嫌になるわ。…それで魔理沙、今日はまだ掃き掃除もしてないのだけど、してくれるの?ありがとね」
 霊夢は私の言葉をあからさまに無視するために別の話を始めた。いつものことだから私は気にしないことにした。
「誰が。冗談だろ」
「お茶が欲しかったら自分でね。私は忙しいの」
 だろうな、と思う。しなければいけない仕事やその他をしなければと『思考する』ことに、霊夢は毎日忙殺されている。勝手に上がって台所でお茶を入れる。
 戻る。
「それで?」
 そいつは言う。
「一体、何をしに来たの?」
 いつものこと。だけど、今日はいつものように暇潰しとは違うからちゃんと答える。
「あ、ああ……こんな格好もするんだって、見せに来たくてな」
「誰によ」
 私はそいつの名を言う。



「八雲紫」
 パチュリーはちょっと微妙な目をした。
 アリスはあらそう、と呟いた。
 霊夢は趣味が悪いわね、と呟いた。

 でも、ほんとに好きなんだ。
 もしかしたらただの憧れかもしれない。
 でも、と私は思う。こんな風に、考えて考えた末に、面倒で、回りくどくて、伝わりにくい方法でアピールをしに来るくらいには、私はそいつのことが好きなんだ。

「呼ばれた気がした」
 そいつが中空から現れて、地面に華麗に着地する。豪華で絢爛なウェディングドレス姿。私よりも先に霊夢がつっこむ。
「何、その格好」
「かわいいでしょ」
「いや、いつもの格好は」
「あら。巫女とは違って、自由な格好をする権利は誰にもあるのよ」
「でも、その格好じゃ紫って分からなくて、誰てめえって言われるわよ」
 メタな発言をしないの、と紫はこれまたメタな発言をする。
「まあいいわ、で、魔理沙が好きなんだって、紫のこと。何か言ってあげなさいよ」
「あら、それは嬉しいわね」
 話が振られて、紫が私を見たとき、少し困って胸がぎゅっとなったけど普通には喋ることができた。正直、紫が現れた瞬間は何も言えないくらいには動転していたから、二人が喋っててくれて助かった。霊夢ありがと。愛してる。こんなこと普段は絶対言わないんだぜ。
「本当か?」
「うん。私は嫌いだけど」
 私は……死んだ。心臓が潰れて死んだ。形而上の話ではなくて本当に、霧雨魔理沙は死んで、じゃあここで思考している私はきっと別世界の霧雨魔理沙なんだ。そこには紫もいなくて、恋煩いにも惑わされることなく、私は研究をして生きて、じゃああれ? この世界で死んでた方が、私は幸せなのか?
「おーい魔理沙、帰ってこーい」
 霊夢の言葉で私は蘇ったが、言葉も出なかったし笑えなかった。
「嘘だって言った方がいい?」紫の無神経な言葉。
「本当なら、嘘を言った方が余計に傷付けるわよ」霊夢の正しいけど慰めにはならない言葉。
「まあ、嘘なんだけど」紫の優しさだか本当だか判別のつかない言葉。
「そ、そうだよな、びっくりしちゃったぜ」へらへら笑いながらの私の言葉。少しずつ平常運転を目指していったけど、自分でもきちんと笑えているか自信がない。
「でも、好意は大事よね。何が好きかで世の中は回ってるようなものだし」
 そう言うと、紫は私の方に向き直った。こんな時だと言うのに紫の相貌は嫌になるほど整っていて綺麗だった。
「ありがとう、魔理沙」
 優雅に一礼。目を細めて微笑。嫌になるほど様になってる。アリスの言ってた通りだ。キラキラでウズウズでハラハラする。
「でも、私はあんまり好きじゃないけどね」
 霧雨魔理沙は二度死ぬ。


 そんな訳で、いつものおふざけだと分かっていても私の好意は本物だしそーゆー無神経な所にイライラしながらもその場はおふざけで通して、それからまた数日が過ぎたけど私の恋心は変わらないままで紫の言葉は本当なのかやっぱりおふざけなのかうじうじ考えて、それから紫の無神経さも変わらないかどうかは会ってないから分からないけど、また性懲りもなく会いに行ったんだ、神社に。おめかしして。
「魔理沙?」
 霊夢はいつも通りそこにいた。私が来るのもいつものことのはずだけど、何か珍しいことでもあったかのように、私が来ることに少しだけ口調の違う感じで、霊夢は言った。
「魔理沙だぜ。どうかしたのか、霊夢?」
「紫見なかった?」
 紫? 紫がどうしたっていうんだ。私は何かがあったのかと訝しんだ。
「紫がどうかしたのか?」
「うん。実はね……」
 霊夢は一端言葉を切って、勿体をつけた。
「紫が、歩いて来たの」
「はあ。まあ、そういうこともあるだろうさ」
「それだけじゃなくて、歩いて帰っていったの」
「いやまあ、そういうこともあるだろ? ……何が言いたいんだよ、はっきりしてくれ」
 うーん、と霊夢は腕を組み、頭を傾けた。
「私にもよく分かってないのよね。ただ紫、何か様子が変だったし……」
「馬鹿! それを早く言えよ」
 紫はいつも飄々としていて何一つ困ることなどないように見える。出会った時からそう。 憔悴することなど、想像もつかない。
「探しに行くの?」
「当たり前だろ。心配じゃないのか?」
 うーん、と霊夢が再びうめく。
「紫のことだし、何かあるとも思えないんだけど……」
「紫だからだろ。あいつがそんな態度をわざと見せて、つまらない気の引き方をしようとするとも考えられない」
「……そうね、私も行くわ。分かれて、探しましょう」
霊夢が立ち上がる。腰が重いんだよ、と少しの苛立ちを感じながら箒に乗る。
「魔理沙、またその服見せに来たの?」
 今そんなこと話してる場合か? 霊夢が宙に浮き上がり、私も魔力を込めた箒の浮遊に身を任せる。
「そうだよ、だから、見せる相手がいないと様にならないだろ。それがどうかしたのか?」
「ううん、なんか、そういうのいいなと思って。うん。魔理沙はそんな風に真っ直ぐなの、似合ってる」
 何だかからかわれている気がして顔を逸らしたけれど、霊夢は、素直にそう思ったからそう言っただけだと、私が顔を背けてから思った。
「恥ずかしいことを言うなよ」
 私はぶっきらぼうに言って、霊夢より先へ飛んで空へと加速してゆく。風が強くなって全てを置き去りにする速度を感じながら、私は幻想郷を俯瞰した。霊夢は山の方へと向かったようだった。霊夢には霊夢なりの考えがあるのだろう。あいつは勘が鋭いから、適当にやっていても何でも済ませられてしまう。地道にやるのが好きな私は、人間の里の方へと行くことにした。

 聞き込みと、紫が来たら伝えるようにお願いをしてしまうと、私は行くべき所を失った。思えば、私は紫の寝床すら知らない。いつも、どこをうろついているのかなんてことも知らない。となれば、私は足で稼ぐことにした。霊夢がどこをどう探しているのか分からないけれど、山の方から湖、森の方まで、ひたすら飛び回って、人影を見れば声を掛けて回った。
 けれど、成果は上がらなかった。それどころか夕立のような雨が降り出し、家が近いこともあって私は家に逃げ込んだのだった。
 家の中は思ったよりも薄暗くて、窓から覗く外も、夕闇が辺りを覆い始めていた。もう夜が近いのだと、私はぼうっと思った。びしょ濡れになってしまった服と、その中の私を意識するよりも、私は紫のことを思った。
 もうこんなに暗いのだし、様子がおかしくてももう家に帰っているだろう。それに、夜の中を探してうろつき回るのは効率が悪いし、それにこの雨だ。……そう考えても、雨の中、ひとり闇に寄り添ってうずくまっている紫の姿を思い描くと、今もこの雨の中にいるような気がしてくる。いてもたってもいられなくて、いつもの格好に着替えるか、着替えないかの問答を自分の中で繰り返した挙げ句、私はランタンを引っ掴んで外へと飛び出していた。
 私は馬鹿だと思う。こんなことで自分が風邪を引いてしまっては元も子もないのに。


 私が八雲紫の元に辿り着いたのは、運の一言で済ませていいものか分からない。何しろ、幻想郷じゅうを一日中走り回ったんだから。確かに、森の中なんて空から探してたら分かんないけどさ。
 一本の樹の下に俯いて、帽子の下の金色だけが私の方を向いている。膝を抱えた座り姿は、そいつがしているにはあまりにも、違和感に満ちていた。望んでそこにいる滑稽さとも、望まずそこにいるしかない悲惨さとも違う。私に気付いて顔を上げる紫は、濡れていても、疲れ切った顔をしていても……ただひたすらに美しかった。
 私が掲げたランタンの灯りの下で、紫はふっと微笑みを投げかけた。
「魔理沙」
 紫が名前を呼ぶこと……いつもしていることだ。だが、ぞくりとする感触が私の肌の下に走った。その聞こえ方は、いつも繰り返しているそれとは、何もかもが違った。私が見下ろしているという立ち位置のせいではない……と思う。
「どうして、ここにいるの?」
「それはこっちの台詞だよ。一体、何をやってるんだ?」
 ふっと小さく笑い、紫は口を閉ざした。私達の言葉が途切れても、雨は降り続き、森の木々に当たって跳ね返った雫が私達を濡らし続けていた。
「いいから、行こうぜ。こんなところにいたら風邪を引く」
 紫はゆっくりと、手をついて立ち上がった。私が箒に跨がって急かしても、紫が浮き上がろうとする仕草は見えない。
「何やってるんだ? 早く行こうぜ」
 紫は困ったように笑った。疲れてるのかもしれない。仕方ないな、と私は呟いた。
「乗れよ」
「え?」
「特別サービスだ。こんなこと滅多にないぜ」
 紫の目はいつも以上に優しく見えた。紫の調子が悪いというのもあながち嘘じゃないらしい。
 紫は何も言わず、私の背に身体を預けた。私も濡れたつもりだったが、紫とは比べものにならないようだった。今まで川にでも浸かっていたような湿り気の塊が、私の背中にべったりと張り付いて気持ちが悪かったが、気にしないことにした。どうせこの雨の中を飛べば、否応なく私も紫と同じ濡れ鼠だ。二人分の無理をする箒が、重たげに中空に舞い上がり、雨の中を割いて飛び抜けた。

 風呂を沸かしている間、家の中にはその音だけが響いた。雨音を遠く感じている。私は紫がどうということよりも、ひとまずは落ち着かせてやりたいと思った。焦ってはいないかもしれないが、やっぱり今の紫は、どこかおかしい。
 紫は立ち尽くしたまま、どこかを見るでもなく視線を落とし気味に、ただぼうっとしているように見えた。あからさまに異常だ……何しろ、紫のような、他人からの視線によって成り立っているような奴が、他人の前でそんな仕草を見せている。いつだって優雅、誰にも隙を見せない、そんな奴が。凹んでいる時(紫にそんな時があるとすれば、の話だが)は、自分の境界の中に引きこもって人に見せないのに。誰かにそんな仕草を見せて、気を引こうとする、そんな動作からは無縁の奴のはずの紫が。
 しかも異様に見えたのは、紫はそんな調子だというのに表情を一切変えることがなかった。ただひたすら……嫌味や挑発をする時にはひどく似合うその微笑みを乗せたままで……目は開いていても、紫はどこも見てはいなかった。
「座ってろよ」
 見ていられず私は声を掛けた。紫がのろのろと私に焦点を合わせた。
「座ってろって言ったんだ、今暖かいものでもいれてやるから」
 紫は視線をテーブルの方にやり、椅子を引く動作を伴って(そんな普通のことでも、紫がやっていると違和感がある)紫はそうっと椅子に座った。私はキッチンに入って火の準備を始めた……ほんとに、今日の紫は調子が変で、こっちまで変になりそうだった。

「誰にも見つかりたくなかったの」
 ココアの粉を暖めたミルクに落とす私は、誰に言うともなくその場にこぼした、紫の言葉を、聞いていた。
「……そうかよ」
「……ええ……今の私は、本当の私とは違うものだから。私を見たら、認識が変わってしまう。だから、誰にも見つかっちゃいけないって恐怖感が、あって……」
 認識? 何のことを言っているのか、私には分からなかった。私は紫の前にコップを置いて、自分の分をすすった。
「残念だったな、見つけられて」
「ええ……ええ」
 紫はココアの入ったコップを手にとって……その時、ほろり、と涙が頬を一筋、流れて落ちた。微笑みを浮かべ、コップを両手で大事そうに持ったまま。その一瞬……目の前の情景が切り取られて、制止したように感じ……まるで絵画のように美しいと……私はそう思った。一瞬の後、私は焦りに体温が上がるのを感じた。
「魔理沙。私、力を」
 紫が私を見る。
「力が、使えなくなっちゃった」

 さあ、と雨の音が遠くに聞こえている。泣いている紫を前に、私は何も言えなかった。ただ手を引いて、紫の服を脱がせ、風呂に入れさせた。力が抜けて、されるがままの紫。さっきとは違って、気味が悪いとは思わなかった。何をすればいいのか、義務感に突き動かされて、とにかく自分にできることを考えていた。
 紫は、何だろうと考える。境内の境界に棲み着いてる妖怪。私にとっての思い人という以外で紫を示すパーソナリティは、そこにしか存在しなかった。紫個人のことでなくても、紫のことは、私は何一つ知らない。
 能力を失った紫は、そこにいるだけの、ただの少女に過ぎなかった。肩を抱き寄せ、立ち上がらせて脱衣所へと連れて行く。紫は、私よりも背が高いはずなのに何故か、とても小さかった。まるで存在感としての力が、憑き物が落ちたかのように。
 私は逡巡した。正直に言えば紫を風呂に入れた時、一緒に入ってやるかどうか、ひどく悩んだ。霊夢は他人の家で風呂に入りたがるような奴じゃないから一緒に入ったことはないけど、そういうことがあれば必要が無かろうが押し入っただろうし、アリスとは何度か風呂を一緒にしたことがある。パチュリーとも経験はないが、そうしたって私は気にしない。相手が気にしようが、私はどんな形でも相手に関わるのは好きだし、女の子の身体を見るのも好きだ。偽ることの出来ない部分だし、しょうがないじゃないか。
 でも、紫に対して気が引けたのは……自分の身体を見るのが恥ずかしかったし、紫の身体を見ることも一つだけど(見てしまったけど)、紫の身体を見てだっこしたいだとか触りたいだとかそういうことに対する欲求にブレーキがかけられるか、自分に自信が無かったからだ。それに、そういう考えを抱く自分を恥ずかしいと思ったし、もしその考えが表情に出て、紫に気付かれたら、と思うと気が気じゃなかった。紫に嫌われたくなかった。
 身体が小さく震える。ええい、と思った。さっきの紫の、小さな姿。自分がしたいだけじゃないのかという声は無視して、私は乱暴に濡れた服を脱ぐと、脱衣所に音を立てて投げつけた。

 紫の髪を洗い、服を着せ、手を繋いでベッドに運んでやる。その幸福に満ちた一つ一つの瞬間……紫がそこにいて、されるがままにされているという異常に、私はぞくぞくとする幸福を感じていた。紫には悪いけれど、感じてしまうものは仕方なかった。
 紫には小さい私のパジャマを着せて、ベッドに寝かせ、私はソファで寝た。紫は不安そうな無表情のままだったが、私は嬉しくなるのを止められなかった。紫が私の家に泊まるなんて。


 いつも昼過ぎまで寝ている癖がたたって、私が起きたときには紫は先に起きていた。自分の服を着て、ダイニングに座っている。パジャマのままココアを入れて、向かいに座るとくぁ、と欠伸をしてから、おはよう、と声を掛けた。紫は私を見て微笑を浮かべた。その程度には元気は出たようだった。
「昨日は……迷惑を、かけたわね」
 紫はうねる金髪を指先でいじりながら、俯き加減に私を見ている。
「気にすんな。お前らしくない」
「……うん」
 しおらしく俯く紫はらしくなかった。まだ本調子ではないらしい。当然、失ったという力もまだ戻ってはいないだろう。私はココアを飲み干し、台所に戻すと紫の分を作って紫の前に置いた。
「……ありがと」
 紫の声を背後に聞きながら、いつもの黒服を着て、髪もとかさずいつもの帽子を被った。箒を持ち、扉を開ける。
「……あの、魔理沙……?」
「お前は、」振り返りながら言う。「そのココアを飲んで、飲み終わったらゆっくり休んでろ」
 驚いたような表情を見せる紫。続く言葉を……恥ずかしさのあまり顔を逸らしながら、言った。
「私が、全部良いようにしてやるから。お前は、そこにいてくれ」言って、間髪入れず扉を閉じる。恥じらいも置き去りにするように、私は小さく助走して勢いのままに箒に飛び乗り、飛び立った。私は幸せの中にいた。熱い頬に、強い風が当たるのを感じている。

 最初に訪れたのは博麗神社だった。霊夢は相変わらずそこにいて、縁側に足を投げ出して、上体を板張りの上に横たえていた。
「何、してんだよ」
 霊夢は私を、目の動きだけで捉えると、一つ欠伸をしてから起き上がった。まるで猫のように気まぐれそうな姿を見せながら、霊夢は目を擦った。
「今日はいつもの格好なのね」
「お前、そんなにのんびりしてて、いいのかよ」
 私が食ってかかると、霊夢は鬱陶しそうに頭を掻いた。
「勘弁してよ。昨日は、夜通しで探していたんだから」
「夜通しって……あの雨の中をか?」
 霊夢のだらけた様子を見て少し憤慨した私も、その言葉と眠たげな様子を見て、考えを改めた。気分の変わりやすいのは私の利点だ。
「ええ。傘は持っていったけど、寒いのも濡れるのも変わりはないわよ。魔理沙は見つけたかな、と思ってあんたの家に行ってみたら。魔理沙、あなたお風呂で随分楽しそうだったじゃないの」
「な」私は驚きと呆れと恥ずかしさを同時に感じた。「お前、聞いてたのか」
「そんな、人を出歯亀みたいに言わないでよ。入ったら、お風呂場から声が聞こえたんだもの。『紫、熱くないか?』『熱かったら言えよ』『ああ、髪上げないと……』」
 お前、と呟いて、思わずその場にうずくまって膝と腕で顔を隠した。恥ずかしさで顔が真っ赤になりそうだった。
「紫は任せといても良さそうね、と思ったわ。むしろ私が行ったら邪魔そうだったもの。だから、私は別のを探しに行ったの。紫の使い魔……藍と橙の姿も見えなかったから」
「…それで?」うずくまりながら、顔を少し出して聞く。
「見つからなかったわ。ま、予想通りだけど」
「……紫さ、力が使えなくなったって」
「うん。知ってる」
「知ってるって……」
「ほんとは昨日から分かってたんだけどね。ただの違和感だけだから、気のせいかとも思ってたけど。何か……感じが、違うもの。この辺りの」
 霊夢にも、少しだけ境界を操る力がある。それは神社の巫女に由来する力か、紫と同じものかは分からないが……感じ? 感じで分かるものだろうか。それより……
「それって……異変じゃないのか?」
「違うと思うわよ。なんか優しい変化だし」
 霊夢は、そこはさっくりと否定した。霊夢が自信ありそうな時は、大抵当たりだ。何も言わずふらふら出て行く時が、異変として一番危ない。それは経験で分かっていた。
「ま、私はもうちょっと藍と橙を探してみるわ。紫の力がないなら、いないはずだけど、それはそれでいいし。私は境界の方を探してみる。魔理沙には出来ないでしょ?」
 そう言われると、悔しいけれどそうだった。感覚だけで境界を探る……私には出来ないし、したくもない芸当だった。私は感覚や運なんて言葉で説明できる、不確かで、まるで宝くじが当たるように問題が解決する力は欲しくなかった。自分で理解できて行使できる、それが力ってものだ。
「だから、魔理沙は紫をお願いね」
 霊夢はそう言うと、すっくと立ち上がり、欠伸をしながら神社の中へと入っていってしまった。
「おい、どこ行くんだよ!」
「うるさいわね、寝るの」
 それだけだった。私は一人残されて、そこに立っていた。
「紫をお願い、って言われてもなぁ……」
 大歓迎だった。

 とは言っても、私はすぐにその幸運を楽しんだ訳ではなかった。紫の為に使える時間は、それだけで全て埋めてやりたかった。
 私は阿求の所に行くと、紫に関係しそうな文書を読みふけった。最初は紫のことに拘って見ていたが、次第に紫そのものに関わらず、妖怪そのもののことから、幻想郷の成り立ちまで、分野を関わらずに見て行った。そういう調べ方では、まだまだ私が見るべき書物は莫大にあった。何しろ、紫は妖怪の中でも一目置かれる存在だし、幻想郷を縛る博麗大結界とも関わりがある妖怪だ。一見文書の中に紫が関係なさそうなところでも、どこかに痕跡はあるはずだった。それを見逃すわけにはいかなかった。
 霊夢ならこんな時、ひょい、と取って開いたページが正解で、あっさり終わらせるんだろうな。そう考えると、嫌になった。私は疲れ切ると残った体力で家に帰った。もう嫌だと思った。疲れて思考が嫌になっていた。

 でも、帰ったら紫がいた。「お帰り」なんて言う紫は、まだ表情に陰りはあったけれど昨日より明るくなっていて、なんかもう色々嬉しくなって私は浮かれた。その日も食事や風呂や睡眠を、一人でいつもと変わらない生活を二人でするというそれだけに幸福を感じて過ごした。

「ねぇ、魔理沙。私、誰かと一緒にいることなんて、初めてだから」
 風呂上がり、紫は私に髪をタオルでわしゃわしゃ拭かれながら、紫は言った。
「だから、ね。何だか、こういうの、楽しい」
 紫が楽しんでいてくれている。紫が初めてだと言うように、私だって初めてだ。けれど、私にとっての初めては紫とは違う。大好きな人が家にいて、一緒にいてくれて、待っていてくれる。紫にとっても、それは同じことかもしれない、けれど私は……
「そっか、紫が喜んでくれてるなら、私も嬉しいぜ」
 素直に言葉を吐き出すことは出来なかった。そして、紫の素直さを羨ましく思った。でも、それは私の素直さとは違うものなのだ。そう思うと、私は寂しくなった。
 紫、私は紫が大好きだ。いつもみたいに、信じてくれないかもしれないけど……


 書架と、埃の匂いと、紫に満ちた生活が三日ほど過ぎた。調べ物はうまく行かず、何か抜本的改革が必要だぜと考える雨の降ったその日。阿求の家を出ると、傘を持って歩く帰り道、天狗にからまれた。珍しく傘をさして、ゆっくりと飛んでいた。
「やや、これはこれは霧雨の。調子はいかがですか?」
「おう、霧雨のはいつだって平常運転だぜ。それより何だ天狗、何か聞きたいことがあるのか?」
 えぇえぇ、全くその通りですよ、あいや、魔理沙さんの洞察力にはお見逸れいたします。にこりともせずに天狗は好き勝手言う。いつものことだから放っておいた。
「私は近頃忙しいんだ、あまり大袈裟なことなら遠慮願うぜ」
「いえー、そう大したことではないですよ。現代の妖怪アンテナ、生きた異変探知機とでも呼ぶべきあなたのパートナー博麗霊夢が、近頃忙しく、けれどふらふら寄り道しながら飛び回っている。これは異変ではないかと最も仲が良さそうな貴女に聞きに来ただけのことです」
 ひどい言われようだ。だが、的を射ている気もするから同情のしようはない。さあな、と簡単に誤魔化して、天狗に向き直る。
「それよりお前さ、お前のとこの新聞とか資料とか、見せてくれよ。あるんだろそういうの」
 改革が必要だと思っていたところに資料を持っていそうな奴が来る。文が持っていなければパチュリーか慧音の所にでも行こうと思った。でも、と思う。どこかで紫の異常を独り占めしたいという思いがある。もし他の誰かが知れば、紫はそこに行ってしまうかもしれないという、根拠もなく浅薄な、欲望に起因した怯え。
 文献が必要なところに文献を持った奴がやってくる。だが、それは浅い考えだった。
「ええ、それなりに文献はありますよ……ところで。魔理沙さん、あなたも近頃忙しそうじゃございませんか。何かこう、面白いネタの一つや二つ、握っているのじゃありませんか?」
 私は口を滑らせたことを後悔した。紫が力を使えないと言えば、途端に面白がってネタにするだろう。そんなこと、パチュリーやアリスに知らせる以上にさせられない。
「……何を馬鹿な、調べ物だよ調べ物。ごく個人的な、好奇心をそそられる研究対象に対する興味、それ以外では何一つないのだ」
「喋り方変ですよ」
「…………」
「ね、魔理沙さん、交換と行きましょうよ。私の持ってる文献は全て見てもいい、その代わりにネタを用意する。異変だとか危機だとかそういうのじゃなくていいんです。ただネタを用意する、簡単でしょう? 今なら私の新聞を創刊号からおつけしますよ?」
「……嫌だね。それに、欲しいものは勝手に見る、それが私という生き方だからな」
 ふん、と息を吐くと、文は諦めたように息を吐き、何故か傘をしまうと数歩地を蹴って、飛翔した。加速を始める文。何かに気付いた私は急速に箒を蹴って飛び乗り、飛翔する文を追って飛んだ。
「おい、お前何を考えてる!」
「いやあははは、ごく個人的な好奇心をそそられる研究対象に興味が出まして!」
「自分で勝手に興味持ってろよ! どこに向かってる、おい!」
「あなたと一緒ですよ、欲しいものは勝手に見る、それだけのことです!」
「何言ってんだよ、そんなこと天と地が許してもこの霧雨魔理沙が――!」
「霧雨魔理沙が許さぬことでも、この射名丸文、真実の名の下に駆けるのみです! 許すか許さぬかは大衆が決めましょう! ははは、追いついてごらんなさーい!」
 いつもの三倍ものスピードで、木々を避けてごく低空を飛び抜けた(文はともかく、それに追いつく私の空中制御の巧みさを見てほしいものだぜ)私と文は、玄関先、争ってもつれ合いながら転がるようにして家の中に侵入した。顔に手を掛ける私、それを引きはがそうと肩を押して抗う文。私達が同時に見たのは、部屋の中にいた、普段着の上にエプロンをつけ、湯気の立つ鍋を持った紫が振り向く姿だった。部屋の中は美味しそうなスープの匂いに満ちていた。
 私も文も何も言えずそれを呆然と見つめていた。紫が柔らかく笑って言う。「お帰りなさい」
「ま、ま、魔理沙さんが」
 文が驚いて衝撃に打ちのめされながら呟く。
「魔理沙さんが入籍してるぅ-!」
 ばびゅん、と音がしそうな勢いで文は私をはね除けて飛び去ってしまった。
「入籍って……幻想郷に、役場とか……ないし……」
 私は追いかける気力もなく、床に倒れ伏したような姿勢のまま、がっくりとうなだれた。紫はあららぁといった様子で、面白そうでも心配そうにするでもなく私を見ていた。


 霧雨魔理沙、電撃入籍。可憐に笑う新妻八雲紫さん(年齢不詳)の側で楽しそうな様子の霧雨魔理沙さん(推定十四歳)。
 記者の眼前で二人はにっこりと笑って、まるで互いのことを分かり合っているようでした。まるで相手の数十年を見てきたと言わんばかりに。これからも、末永く幸せになって欲しいものです。写真こそ撮れませんでしたが、あの二人の表情は目蓋に焼き付いております。ええ、私は見ました、この目で、まざまざと!(記者、射名丸文 抜粋)
 ええ、びっくりしたわ。まさかあの二人がそんな関係になっていたなんて。魔理沙の方が好きだっていうのは噂で聞いていたけれど、もうそこまでとはねぇ……魔理沙、私は愛人でも一向に気にしないから、身体が疼いたら会いに来るのよ?(魔理沙さんの親友Aさん)
……そう、興味ないわね。それで、二人の仲はどんな風だったの? 何、言葉だけじゃ分からないわよ。写真持ってきなさいよ写真。どんな風に仲良かったか、確かめるから。何? 何よ、無いの?じゃあ何、あなたは何の為のブンヤなの? 全くもう、それじゃ確かめようがないじゃない(大図書館の主Pさん)
…………勝手にすれば? 私の知ったことじゃないし(博麗神社、Rさん)


 退屈だ、と呟く。そんな場合じゃないかもしれないが、外に出れないというのは退屈なものだった。「悪いな、紫。外に出れなくて」私は紫にも謝った。何度も繰り返したことだったが、同じことも繰り返してしまうほど退屈なのだった。
「あの天狗、余計なことをして。でも、その余計なことでいつもは楽しんでるから、お互い様なのかな。いつも、こんな風にネタにされてる奴らは、こんな気持ちだったのか?」
 紫はくすくすと笑った。いつもの服装ではなく、私の貸した奴だから、少し丈が短くてつんつるてんになっている。紫って私より色々長いのに、細さは変わらないから私のでも平気で入るんだぜ。そんなスタイルの良さも、立ち姿を美しくしている一因だ。
「魔理沙は、新聞の常連で……有名だから、その分注目されるのでしょう」
「それを言ったら、お前もな。出ないから、逆に気になるんだ。自分で言うのも何だが、私のような奴が誰かとけ、けけ、結婚して……それで、相手がお前なんて、そりゃ私でも気になる。……実際は結婚なんてしてないがな!」
 自分でフォローして、勝手に少し寂しくなった。
「ええ。自分でも、まさかこんな風になるとは、思いもしなかった」
 表情に変わりはなかったが、どこかで傷ついているのではないかと思ってしまう。口には出さずに謝る。ごめんな、紫、力になれなくて。もっと調べるから。
「でも、ごめんなさい、魔理沙」
 その言葉は私が言うべきだと思っていたから、紫が言った時私は純粋な驚きで答えた。
「何がだよ? 紫」
「魔理沙に甘えてしまって。こんなに、長居するのだって、迷惑でしょう」
 私はきょとんとした。どうして紫がそんなことを思う必要があるのだろう。私は、何一つ迷惑していない、むしろ嬉しいくらいだ。紫がいることで、部屋が少し狭く感じるだとか、食費が倍だとか、一人の時間がないだとか……そういった全てが嬉しくてたまらないのに。紫のいる不自由さも、私にとっては喜びでしかないのに。
「何言ってるんだ。ずっといていいぞ」
 今度は紫がきょとんとする番だった。私は紫が理解出来ていないと思って、言葉を重ねた。
「紫がいて迷惑だなんて思ったことないし……そうだな、なんていうか、紫がいてくれたら安心するっていうか……ずっといてほしいくらいだから、そんなことは気にしなくていいぞ?」
 むしろ紫の調子が良くなったら紫の家に住みたいくらいだ。そんなことは言わなかった。結局のところは紫が弱っているのを恩に着せているだけだと自嘲した。私の心が分かっていてかそうでないかは分からないが、紫は口元に手を当てて、声を上げて笑った。それから笑いすぎたのか目尻を撫でた。
「おかしい。それって、魔理沙。プロポーズのつもり?」
「な」何を、馬鹿な。でも、私は否定したくなかった。本当はそうだって、言いたい。でも、言えない。言えるはずがない。何故なら、私達は今だけの関係で。ずっと一緒にいられるはずもないのに、そんな言葉、虚しいだけのはずだから。
 いや、本当はそれだって言い訳に過ぎない。私は怖いのだ、紫に拒絶されるのが。離れていってしまうのが。せめて今だけでも一緒にいたいと、本当にそれだけなのだ。だから、せめてそれだけは奪わないで欲しい……でも、私は自分の言葉を否定することも出来ず、その狭間で動きを止めた。紫がまた目尻を拭う。そんなに笑わなくったっていいのに。
「ああ、おかしいわ。魔理沙。あなた、本当に私のことが好きみたいじゃないの、その顔」
 紫の言葉が更に演技臭さを増していて、私は馬鹿にされていると感じた。でも、私には馬鹿みたいに笑うことしか出来なかった。私は一緒にいたいだけなんだ。私は恥ずかしさに俯き加減になりながら、紫がそれで満足してくれたのならと安堵した。紫に馬鹿にされようが、私は今が続くならば、それでいいと思った。
 そうだ、それだけでいい。
 と、急に頭に優しい圧力がかかった。額に暖かく柔らかいものが押しつけられ、後頭部には回された指先の感触を感じた。
「ありがとう、魔理沙」
 幸福感、ただそれだけ。望んでいないもの。嘘だと、心の奥底が叫んでいる。紫が欲しいと言え、紫と永遠を過ごしたいと言え。紫と日々を過ごすだけで満足だなんて、自分に嘘をつくのを止めろ。それ以上のことを望んでいるくせに。
 ……けれど、臆病な私は、紫が抱いてくれるように、手を紫の背中に回すことしか出来なかった。


 少し騒ぎになってから一週間はひたすら面倒の連続だった。野次馬の見知った妖精はやたらといるし、誰かに会えば質問攻め、仕舞にはアリスやパチュリーがお見舞いと称して部屋を見てきょろきょろとし出す。それらが下火になってきて私はようやく胸を撫で下ろしたのだった。
 そして、今日も今日とて博麗神社だった。あらかた資料は見回って、もう嫌というほど調べ尽くした。でも、一切は分からないままだ。
「全く分からないぜ。紫のことは何もかも調べた。紫が何で出来てるのか、成分まで諳んじられそうなくらいなのに、能力のことと、その消失のことは何一つ見えて来やしない」
 霊夢は私の物言いにくすっと笑う。
「成分まで分かるの? よく調べたのね」
「まさか。物の例えだよ、それくらい調べたってことだよ。お前の方はどうなんだ?藍やら橙の捜索は、進んでるのか?」
「見つからないわ。でも、それでいいの。私にとってはね」
霊夢の言い方に引っかかった。まるで、全部分かっているかのような言い方。
「おい、霊夢……」
「心配しなくても、探すのは続けるわよ。見つかったら見つかったでいいわけだし。それより、ねえ、魔理沙。紫は元気?」
 霊夢が話題を奪う。出鼻をくじかれながら答える。
「ああ、近頃は元気が出て来たみたいだ。前よりかなり素直だけど、普通に話すようになってきたと思う……でも、素直なのはいいんだが、前とは全然違って別人みたいだ。そこはちょっと不安だけど……」
 私にとっては、嬉しいけれど。そんなことまで、赤裸々には言わない。
「……それでも、少しずつ戻ってきたようだから……元気になったら、大丈夫だと思う。力が戻ったら……」
「そう。……魔理沙って、いつから紫のこと好きだったの?」
「何?」
 霊夢がそんなことを気にするのは変だ。でも、そうだな、と私は考えた。
「……最初に会った時から、かもしれない」
 思えば、紫に初めて会った時。私は魔法が実在することも知らないただの小娘で、紫は今と変わらない変な奴で。でも、いくら変なことを言おうと優雅さが失われることはなく、ただひたすらに美しいひとだと思ったのを覚えている。
 すらりと、奇妙なバランスをもって美しさを体現する立ち姿。
 振り返り際に、姿勢の歪みが作る背中の曲線と、切れ長の目が最も魅力的に見える横顔。
 座って目を伏せるまるで真人間のような仕草をしている時の、溜息が出るような風情。
 神社を抜ける風の中、髪を抑えて風の行き先を見る時の視線。
 見下し気味に歪めた唇と、愉しそうな眼の色。
 時折振るう弾幕と腕力が見せるゆったりとした所作。
 軽くステップを踏む時の足の運び方と、付き合う服まで操っているのかと思うほど優雅にはためく服が作り出す、幼げでありながら品のある雰囲気。
 紫の全てに対して言葉を見出すことができる。幼い頃はただ美しいとだけ思っていた感情は、やがて愛情混じりの尊敬、友情、親愛となった。全ては愛情に裏打ちされた感情だった。その頃は分からなかった感情、今ならそうだと断言できる。

「魔理沙って、ほんとに紫のこと好きなのね」
 霊夢がそう言って、私は我に返る。どんな顔をしていたんだろう、恥ずかしくなる。
 何だか、私は私ではない気がしている。パチュリーやアリスと恋について話した時が遠い昔のことのように、私は紫と過ごした時間で、急速に変わった。明確に、紫のことを想っていると、言えるような、以前の私とは別のものに。
「……そうだな。私は紫が好きだ。でも、愛してる、とは言えない。私はまだ愛の意味を知らない。愛している、なんて、知らない言葉を使えない」
「それでいいと思うよ。紫に、正直に言ってあげたらいいと思う。今の魔理沙の気持ち……紫は、きっと分かってくれるよ」
「そうかな……って、何を恋愛相談にしてるんだよ。今はそんな場合じゃないだろ」
「そうなの? そういう話をしに来たんじゃないの?」
「そんなんじゃ……」でも、紫のことというのは違いない。「とにかく、そのことはあと。紫の不調のことが一段落ついてから……」
「一段落ついてるじゃない。紫は魔理沙と一緒にいることに慣れたし、魔理沙もそれを認めてる。それに、皆もう知ってるから、もう落ち着いているってことじゃないの?」
 う、とたじろぐ。霊夢にそんな風に言われると、何だかそんな気もしてくる。
「それにね、魔理沙。最初はあなたが紫のことを好きだ、って言ったのを聞かれちゃった訳だから、それについては責任をとってあげるべきだと思うの」
 今日の霊夢は変だ。いつもなら他人の恋愛話なんて興味もない、と言わんばかりに知らん顔をしているのに、自分から踏み込んでくるなんて全く霊夢らしさが存在しなかった。紫と言い、一体何が起こっているんだ?
「私は……私は、自分のタイミングでやる。霊夢に言われなくたって、そのつもりだ。それより、紫のことについて書いてある本とかあったら、探してくれよ。神社にも少しくらいあるだろ」
 ふぅ、と霊夢が息を吐く。仕方ないな、と言わんばかりに。部屋の奥へと入っていって、古い本を持って帰ってくる。
「これ。魔理沙にあげるわ、紫について書かれた論文」
 やっぱりな、と私は思った。霊夢はいつだって簡単そうに、私の探しているものを見つけてくるのだ。霊夢の努力を私は知らない。だから、あるのかないのかも分からない。でも、私が見つけた時、あるいは探している時、霊夢は簡単そうに持ってくる。
「私のお祖父ちゃんだか曾お祖父ちゃんだかが外の世界の人らしくてね。元々大学で民俗学を教えていた人みたい。紫のこと、少しは分かるかも」
 私は厚紙で挟まれた、紐で止めてある古い本をぱらぱらと捲った。何となく、それで紫のことが解決するような、そんな気がしている。

 次の日の朝起きると、いつものように紫の方が先に起きていた。ソファの上、身体を起こす私を見つめていて、お早う、と声を掛けてくれる。
「……おはよう」
 頭をがしがし掻きながら、寝ぼけ眼の私を微笑みながら見返している。
「ご飯、食べるでしょ」
 時間は昼に近い。朝昼兼用の食事をいつも作って起きるのを待っていてくれている。紫はそうして、一宿一飯の恩義を返そうとするかのように、世話を焼いてくれる。
「……うん」
 でも、家を貸しているだけで紫の為になっているとは、私には思えない。そこには嬉しさと同時に、申し訳なさも感じている。
 私が見ている前で、紫は台所のスープを温め直し、トーストを焼く。トマトを切り、同じように薄く切ったチーズをトマトに乗せ、黒胡椒をかける。紫は手際よくそれらを済ませていく。
「それ、何だ?」
「カプレーゼ」
 身体が目覚めるのを待って、ソファから身体を起こす。その頃にはテーブルにオニオンスープとカプレーゼが並べられ、紫がハニートーストを持ってくる。
「紫はいいのか?」いつものように聞く。「私はもう貰ったわ」いつものように紫が言う。一人、食事に手を付けるのを、紫がじっと見ている。
「うまい」
 紫が優しく微笑む。当然だと受けるのとも、恥ずかしがるのとも違う。何だか言葉を重ねるのも嘘くさくて、黙々と食べる。
「今日も出て行くの?」
「……どうしようかな」
 昨日、霊夢に貰った本をまだ開いていない。
「毎日、大変ね」
「そんなことないさ、しばらく家でだらだらしていたし……」
 食べる合間に言葉を返す。紫も私のペースに合わせてくれる。
「あまり、根を詰めることはないから」
「……紫は、不安じゃないのか? 自分のこと……」
 紫が黙り込む。その間に食事を終えてしまうと、皿を台所に運んで戻る。
「……時々、分からなくなるの。私が、何なのか」
 紫がぽつり、ぽつりと、言葉をこぼすように呟いた。
「私のような存在は、全く不安定なの。主体がどちらにあるか、分からなくなる。八雲紫が境界を操るのか、境界が八雲紫を基盤に、自らの安定を図るのか」
「境界が? ……そんなこと、考えたこともなかった」
「現世と幻想郷の境界を守るのが私の役目。でも、ずっとやっていると……八雲紫は境界そのものではないのかと錯覚してくるのね。そう……言うならば概念。そのものであって、本来は意志すら存在しないもの。……八雲紫という人格は、境界という概念を円滑に保全するためのものでしかない、そんな妄想に囚われることもある」
 明るく振る舞いながら、紫は今、最も傷ついているのかもしれない。でも、話すことが出来るということは良い兆候だと、私はポジティブに考えた。
「紫らしくないな。八雲紫という存在は、誰より……自分の在処を知っている、そんな風に見えた」
 ふっと、紫は私に向かって笑いかけた。
「長く生きてるっていうのは、それだけで存在があやふやになるものよ。妖が異形をしているのは、その時々の強い感情で、自分の姿を変えてしまって、そのまま自分の姿を忘れてしまうのね」
「紫」
 まるで今にも、紫が境界そのもの……目に見えない何かになって、ここから消えてしまうのじゃないかという妄想。
「でもね、魔理沙。私思うの……あまり、悩んでも、仕方ないかなって。……力が使えなくなったのも急なことだから、戻るのもある日ふっ、と帰ってくるわよ。きっと」
 私は何も言えなかった。そうか、とだけ呟いた。何を言ったらいいか分からなかった。特別、紫の為に何もしてやれない私には。
 紫が立ち上がり、私の隣に座る。
「どうしたんだ、紫?」
「髪が」
 髪? と聞き返す。紫が私の髪、短く三つ編みにしている前髪に触れる。
「乱れてるわ」
 寝る時でもそのままだから、そうなるのも仕方なかった。紫の指が髪留めをほどき、さらさらと柔らかく髪を流していく。紫の指に任せているという、暖かな心地良さに身を任せた。
「気持ちいいな」私は素直に、口にした。紫が幸せそうに笑って私を見る。
「わがまま、言って良い?」
「遠慮するなよ。何だ?」
 紫は眼を細めて言った。「魔理沙も、触って」私は何も言わず、紫の帽子を脱がせた。テーブルに置いて、両手で紫の髪を梳いた。柔らかくうねる金色が、指にからみついて、私の指の中で流れていく。
 紫は私の指に髪を任せながら、私の髪を三つ編みにしていく。三つに分けて、それぞれを絡めて、幾何学的に形作っていく。紫にずっと触れていて欲しかったけれど、髪を纏めてしまうと髪留めで止めて、離れてしまう。でも、私は放さなかった。
「嬉しい、魔理沙」紫はそう言った。
「気持ちいいか?」
「うん……とても」
 紫が身体を寄せてくる。胸元に紫の頭をかき抱くようにして、髪を梳いた。紫は心地よさそうに、時折身体を震わせた。

 互いの場所を交換するように、紫はソファに身体を横たえてぼんやりとしていて、私は机に向き合って昨日の論文を眺めていた。正直に言えば、昨日の予感のように、このまま紫の力のことが解決してしまうのは、嫌だ。紫の力が戻ることと、自分の感情とは別だ。このまま紫が家にいて、ずっとそんなのが続いていけばいいと思う。でも、そんな訳にはいかないのだ。いつかは向き合わなきゃいけないことだ。
 だから、私は読み進めた。

『境界とは物事を区別する力だ。全てのものに名前があるように、そうして区分けられたもの以前に、全ての生物、事柄、物質や空気、更には存在しない空想にさえ、境界は存在する。存在そのものを名前で呼ぶことによって、それらは明確に自らを区別する。
それらは全て決められたこと……決定されたことであるが、境界を操るということは、その前提を覆してしまうということである』
『八雲紫という境界を操る存在について、私は一つの仮説を得ることができる。八雲紫は、この世の理を操るモノ、つまりは存在しないものに名を与え、この世に存在させられるもの、逆に、存在するものを無きものとしてしまえるものとして、神あるいは、それに準じるものとして扱うこととする』
『八雲紫は妖怪として扱われている。西洋の神話で、天使が堕天して悪魔となるように、神が零落して妖怪となることは、民話では顕著な話である』
『八雲紫がどういった類の神であるかは、ここでは引用すべき文献が存在しない為、推論することが出来ない。ただ、八雲紫はどうあれ、この幻想郷を司るべき神であると言っても過言ではない。ただ、それはあくまで外の世界と幻想郷の結界の『神』であり、本来の『幻想郷』の神の力を疎外する為に、自らを『妖怪』としているのではないか。神と妖怪、同じ力を持つものが違う呼び方をされることは、前述した通りだ。外の世界では妖怪、あるいは神は存在しなかったから確認は出来ないが、妖怪や神が人間と同居する幻想郷という世界では、彼ら、彼女らは神か妖怪か、その有り様を観測者、記録者に任せるのではなく、自らで決めてしまうのではないだろうか。特に、八雲紫、彼女は境界を操る異能の持ち主である』
『外の世界であれば、境界に関する論文を取り寄せて調べることが出来るだろうに、それが出来ないのは残念なことだ。私にとっては、この幻想郷の世界と、外の世界を両立出来ないことが、最も残念なことの一つである。毎朝、暖かい珈琲を飲めないことも、その一つだが』
 紫が、神? 驚いたが、紫の力からすればそれもあり得ることかと思った。だが、私が目を引き寄せられたのは、論が終わった後の、後書きのような部分だった。
『八雲紫の話を聞いて、その生き方を見て思ったのは、彼女は非常に人間的だということだ。私は力を持つ人間、それから妖怪に触れてきたが、妖怪には妖怪のらしさというものがあるが、八雲紫はむしろ人間のようだ。自ら妖怪らしくあろうと演じている部分があるようにも見える』
 その私見に、私は共感した。紫が紫『らしい』と感じたのは、ひたすら享楽的でありながら面倒には目を向けない、その人間らしさだった。境界を操る力……それだけが紫のパーソナルであるとは、私は思わなかった。私はいつだって紫そのものを見ていたいと思っていた。紫が境界の中で何をしているか、私は知らない。でも、宴会で酒を飲んでいる時、神社で霊夢と茶を飲んでいる時、弾幕で勝負をしている時、話をしている時、そこには力に関わりのない紫がいた。幻想郷の結界を司る紫……それ以上の紫を見たいと、私は思っていたことを思い出す。
「紫」
 私は紫の名前を呼ぶ。霊夢に言われたからじゃない。私が言いたくなったから。
「好きだよ、紫。お前のことが好きだ。」
 紫が私を見ている。それは、傍目には何も変わらない。けれど、私には明確に分かった。紫は力に裏打ちされた存在じゃない。境界を操るだけの、神ですらない、長く生きた、ただの人間だ。
 そもそも、人間と神の境界は? 妖怪と人間の境界は? 全て、『そうである』と観測された結果でしかない。アリスは自分に魔法をかけたから妖怪か? 人間であるとも言える。例えば永遠を生きる妹紅は人間か? 妖怪であるとも言える。
「お前が境界を操るとか、妖怪とか、関係ない」
 八雲紫は、神であり、妖怪であり、人間だ。私が壁を作るか作らないかの差でしかない。
「お前が好きだよ。ずっと一緒にいてほしい、紫」
 紫にそう言ってやることが必要だ。私は、そう思った。



「……どうしてこうなったんだ?」
 タキシードなんて着るのは人生で初めてだった。私だってウェディングドレスを着たい。

 紫に力が戻り、藍と橙が見つかったのが三日前のことだ。霊夢は何となく分かっていたらしく、「紫だって告白されたら悩むわよ。だから、くっつけちゃえば何とかなるかなって。藍と橙が見つかったら、いつもの紫の悪ふざけだって、分かるし」なんてほざいた。乱暴にもほどがあるが、結果として良しなのだから仕方がない。
 それから、またネタに尽きたらしい天狗がやってきて、「結婚式をするそうですね!」とほざいた。寝耳に水の私は天狗を焼いてから詰め寄ったら、勝手にもう広めてしまった後らしい。「つきましては、独占公開したいなと思いまして」とボロボロになりながらも話す天狗にプロ根性を感じた。

 あれよあれよと言う間に霊夢や文や藍やらがお節介を焼いて、気付けばもう結婚式も半ばまで進んでいる。アリスとパチュリーが並んで、一時も手を休めずに一心不乱に日本酒を口に運び続けていたのを思い出す。互いに言葉を交わしながら、一言たりとも噛み合ってはいなかった。あまり触れない方がいいと思って放っておいた。
 紫がお色直しとやらを済ませるまで、私は退屈して待っている。やがてウェディングドレスを着た紫が入ってくる。一度、私の前に現れたことがあるそのままの姿。
「待たせたわね」
 力が戻った紫は、性格も前の通りに戻った。人前で気を張っているような、見られることを意識した喋り方、仕草。でも、演技をし切れていないのだ。以前から、紫はそうだった。
 でも、変わった部分もある。力がない時の紫は、他人に見られることを意識しない姿だ。紫が人前に出ない時、家で、他人に見せることを意識しない時、紫はそんな風に素に戻る。こうして気を張っているとき、家にいる姿を思い出して嬉しくなる。
「お前さ」
「何、魔理沙」
 椅子に座ると、純白の裾が広がって雪原のように見える。金の髪がより強くその存在を示し、柔らかい肌色が私を見ている。紫のウェディングドレス姿は、正直に言って私が着る何倍も美しいだろうと私は思った。
「……ひょっとして、あの時からそんな風になりたい、って思ってたか?」
 まさか、と言うようにふっと笑う。私の紫への気持ちを、初めて紫が聞いたあのとき。
「ねえ、魔理沙。私のことだけどね。私は、物事の境界を操ることができる。逆に言えばね、物事は私の思い通りには決してならないのよ」
 何を言い出すんだ、と思いながら、私はうんと頷いた。
「私が貴女に惹かれた時、きっと私自身の力が、私自身に、無意識のうちに指向したのね。私の力を使えば、私と魔理沙の境界を無くすことなんて容易なこと。でも、私が欲したのは、貴女が私を好きになるように、私も貴女を好きになることよ」
 私に惹かれた、……と紫が言うこと。私だって、今はもう、思い込みではなく両思いだと、はっきりと言うことが出来る。……くすぐったさは変わらないが。
「力を使って想いを遂げたとしても、それは私の望みとは違うでしょう? 力を使えるが故に、私は永遠に、私のままで世界に向き合うことはできないの。私の力は、世界を縛る力じゃない。私を縛る力なのよ。だから、あのときあの姿で魔理沙の前に出たのは、本当は諦めのつもりだった。理想、でも決して現実になることのない未来だと」
 くすくすと紫は笑った。私もそんな様子の紫を見て満たされて、幸せな気持ちになった。
「しかし、紫の力自身が紫の力を奪ったなら……どうして、力が戻ったんだろうな? 霊夢が言うように、本当にくっついたから戻ったなんて、そんなハッピーエンドみたいなことじゃないだろ?」
「さあ? 貴女のこと、思ったより好きじゃなかったのかも」
 悪戯っぽく笑う紫の髪に、ふんわりとキスをしてやる。
「これから、もっと好きになるようにしてやるさ」
 ふふ、と満足げに紫が笑う。
「貴女が死ぬまで貴女の思い通りになるのも悪くないわ。でも、それじゃつまらないでしょう。私はままならないけど、ま、頑張んなさいな」
 文が私達を呼びに来る。
 私は微笑んで、立ち上がって紫の手を取る。
僕はゆかれいむ派です。


キャラ崩壊がひどいと感じるかもしれません。そう感じた方には謝らせていただきます。申し訳ありませんでした。
また、恋愛要素が強いので、人によっては嫌悪感があるかもしれません。同じように謝らせていただきます。申し訳ありませんでした。
最近、東方は恋愛以外の関係性を描くのが最上だと思えてきました。そんな関係性が書けるようになりたいですね。

僕にとって東方二次は(心血を注いでいる方からすれば心外なことかもしれませんが)気晴らしのつもりでした。が、思ったよりページが増え、また文が詰まっているので読みづらいことと思います。なので、ここまで読んでくれた方にはお礼を言いたいです。どうも、ありがとうございました。
前述のように長く、また前回と同じく作者の意図も伝わりにくい出来かもしれませんが、それなりに読んでいただけると嬉しいです。

まりゆかです。前回もそうだったけど強い人が凹んでるのが俺は好きみたいですね
RingGing
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コメント



0.1170簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむ派…だと…?                          増えれば良いとおもうんだ、まりゆか だから増やして下さい
3.100名前が無い程度の能力削除
おお…これは新しい
確かにまりゆかはもっと増えていいな
7.90奇声を発する程度の能力削除
あ、何か目覚めそう
凄く良かったです
9.100名前が無い程度の能力削除
まりゆかでもゆかれいむでもいいや

ゆかりんが可愛すぎる
11.100名前が無い程度の能力削除
受けなゆかりんが萌え
13.100ナルスフ削除
あとがきの一文目になんか色々と持ってかれた。ある意味すごい綺麗にオチてやがるw
ストーリーラインとしては意外とシンプルな部類かもしれんけど、すごい詰まってる。
詰まってるなあ、うん。
そう好きでもない相手から好意を抱かれたとき。一番ありがちでそれゆえに難しいその反応を、見事に小難しく仕上げたのは、すごい面白いなあと思った。

あとたまに出てくるギャグっぽいの(入籍云々とか、自重しない親友Aさんとか)がほんといいアクセントになって面白かったです。
ともあれ、二人ともおめでとう。末永く爆発しろ。
17.100パレット削除
 たしかに一種のキャラ崩壊かなあとは思うのですが、ここまで突っ切って(あるいは開き直って)くれていて、また一発ネタ的だったりなんとなくイチャイチャ的なのではなくいくらかお話としての形も整えてくれている感じがあるので、逆に、と言ってしまっていいのかな、素直に楽しめました。おもしろかったです。
18.100名前が無い程度の能力削除
弱気なゆかりんとゆかりんのために駆け回る魔理沙にぐっときた
20.80とーなす削除
あーうん、末永く爆発しろ。
面白かったです。
21.100名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむ派かよ!
結構良いまりゆかだったのに……
魔理沙視点からみた紫がとてもキュートでよかったです。
29.80可南削除
ゆかれいむももちろんいいですけど、ゆかまりもいいですよねぇ。
甘い甘いお話、ありがとうございました。
30.90名前が無い程度の能力削除
イチャイチャパネェっす
この組み合わせ好きだけど少なかったから嬉しいです
31.100名前が無い程度の能力削除
面白かった。キャラ崩壊してるのかもしれないけど、ゆかりんがこんな一面を持ってたら可愛すぎて最高です。
32.100名前が無い程度の能力削除
これを読んで紫が好きになったよ!
なったよ!
34.100名前が無い程度の能力削除
新作面白かったので作者様の作品巡り中~

紫の力が無くなる→藍と橙がいなくなる(精々式が剥がれてただの九尾と猫又に戻る
だけじゃね?)ってのに少々違和感があったが、この話の大筋では実にどうでもいい
ことだったw感動したのでリア充爆発しなくていいぞw

しかし本作は、境界の妖についての面白い解釈等・魔理沙の一喜一憂する地の文の
表現・真に恋する乙女の行動力の描写が上手く合わさり最高のssになったと思われる

文にゆかりんの力が無いとバレた時は、普段のお礼参りと言わんばかりに妖怪の賢者
様に恨み不満がある奴がわんさか集まるんじゃないかとヒヤヒヤしたがそんなことは
無かった!この幻想郷優しい!
前作と違ってコミカルだけど、ギャグに傾きすぎずキメるとこはキメる作者様のさじ
加減が好きだなあ

最後の後書きに一番驚愕したけれども、こんなに可愛い紫様と恋する少女な魔理沙を
書けるならもうまりゆか派に改宗してもいいんではないのだろうか、いや改宗すべき
である
36.100名前が無い程度の能力削除
私もゆかれいむ派だよ!(何
力が無くなって、素直で少し幼くなったかのようなゆかりんが可愛すぎてヤバいです。
あと途中で、お前らさっさと結婚しろ!と思っていたら、本当にしちゃったでござるの巻
39.100名前が無い程度の能力削除
>椅子を引く動作を伴って(そんな普通のことでも、紫がやっていると違和感がある)

この記述にやられた
42.100名前が無い程度の能力削除
自分のまりゆかの原点です!