Coolier - 新生・東方創想話

ぬえ「お婆ちゃんの昔話には気をつけよう」

2011/10/01 17:05:54
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昼下がり、春の暖かな太陽に照らされる命蓮寺。

「うむ、飯も上手いし天気も良いし、幻想郷は良いところじゃ」

一週間ほど前に幻想郷にやってきた儂は、そのままこうして命蓮寺の世話になっている。
しかしまあ、急にぬえに呼び出された時は流石に驚いたの。1000年近くは音信不通だったはずじゃから。
正体がばれそうになったから地底に身を隠すと言うとったな。結局今は地上にいるみたいじゃが。

「あん? なんか言った?」

屋根の上から、当のぬえが顔を出してきた。どうもぬえは屋根の上で昼寝をするのが好きらしい。
……煙となんとかは高いところが好きというが……いや、別になんとかに当てはまるような奴じゃあないが……。

「言うとらん」

考えはしたが。

「あっそ、ならいいけど」

そう言って、顔を引っ込めた。相変わらず不遜な奴じゃ。
子供っぽいのは昔からじゃがの。

「あ、マミゾウさん」

うん?

「水蜜」

その声に反応して、またぬえが屋根の上から顔を出す。
儂の名を呼んだのは、水兵服姿の亡霊……村紗水蜜と言ったか。
儂と別れた後の千年、ぬえが地底で世話になった亡霊らしい。

「何か用かの? それと『さん』付けで呼ぶのは堅苦しいからやめい」

「あ、いや、なんかマミゾウさんと呼ばないと呼び辛くて……」

苦笑いを浮かべるムラサ。
これはムラサに限らず、ぬえ以外の全員がそう言っておる。
命蓮寺の面々は比較的若いのが多いから、儂のような妖怪の扱いには慣れとらんのじゃろうか。

「まあ良い。で、用件はなんじゃ?」

「ああ、その、ちょっと聞きたい事が……」

儂に?

「金の相談なら利息はおまけしておくぞ」

「あー、そのうち必要になるかもしれませんけど今は大丈夫です」

そうか。佐渡では久しくそういう依頼がなかったから、ご無沙汰しとったんじゃがの。

「そうじゃなくて、マミゾウさんってぬえの旧知の友人なんでしたよね」

「ん、ああ、そうじゃ。まあ、過ごした時間はお主の方が長いじゃろうが」

ムラサよりは昔からぬえと付き合っとったとは言え、その時間は100年ちょっとと言うくらいじゃ。
儂よりも10倍以上時間を過ごしとったお主らには敵わんて。

「あの、それじゃあ……」

何故か恥ずかしそうに言葉を濁らせる。
ムラサのイメージとしては、なんとなく豪快で裏表なくガンガン行くタイプじゃと思っとったが……。
とは言え、屋根の上から覗くぬえも首を傾げておるところを見ると、普段のムラサっぽくはないのじゃろうな。

「ぬえって、昔はどんな奴だったんですか?」

……ほぅ。

「ちょっ、水蜜!?」

「なんじゃムラサ、ぬえの昔話をして欲しいという事か」

「あわわ、言うなマミゾウ! あんたが話すと絶対ロクな事に……」

「ぬえのおしめも替えた事があるぞ」

「ぬえ、今すぐ私にも替えさせて」

「あるかそんな事!! 水蜜も真に受けんな!!」

顔を真っ赤にするぬえ。ばればれの嘘とは言え、ちょっと刺激が強かったかのう。

「まあ、親睦を深める座興話には丁度良かろう。長話になるがの」

「……ちゃんと本当の事を話せよ?」

「そう睨むな」

一度酒を煽り、一息吐く。

ほんの少しの時間じゃった。
千何百年と生きてきた儂にとっては、その十分の一にも満たないほどに。

遠い遠い昔の話じゃが、それでも、昨日の事のように思い出せる。

「ぬえと初めて出会ったのは、雲のない美しい満月の夜じゃった……」

ゆっくりと眼を閉じ、あの時の事を思い浮かべた……。





 * * * * * *





今から遡る事、凡そ1000年ほど前。

「はぁ? なんじゃと?」

日も沈む逢魔が時、儂は野良の狸から妙な報告を受けておった。

「狐が山の中に?」

報告に来た狸は、コクリと頷く。

佐渡の島には、狐はいない。儂ら狸との折り合いが非常に悪い為、佐渡の狐は一匹残らず島を出て行ってしまったからじゃ。
そのはずじゃが、出て行かないで住み着いておった狐でもいるのじゃろうか。
しかし、山の中は結構歩くが、狐など今まで一度も見た事がなかったがの……。

「迷い狐なら送り返してやらんとな。どこらにおったんじゃ?」

儂とて、佐渡に狐がいるというのは気に食わん。
痛めつけたりするつもりはないが、佐渡の島にいられても困る。ならば、報告を受けた儂が出向くとしようかの。

そうして儂は、野良狸から聞いた場所へと向かった……。





 * * * * * *





「この辺じゃったか」

佐渡の山の中腹ほど、人里からは遠く離れている森の中。
これほど奥まった場所に狐がおったとなれば、確かに見逃していてもおかしくはないかもしれぬな。
ただ、儂でもあまり来ないこのような森の奥に狐が住んでいるというのも、またおかしな話なのじゃが。
儂のような人型の妖怪が来ないからこそ、隠れ住んでいられるとも考えられるかのう。
どういう経緯でここに住んでいるのかは、本人から聞けばよいのじゃろうが……。

「しかし……」

妙じゃの。
さっきまで狐がおったというわりには、ロクにその匂いが残っておらん。
人型の妖怪になったとは言え、嗅覚などはまだ動物並じゃ。故に、よく知っている狐の匂いくらいなら、嗅ぎ分けられるのじゃが……。

そしてもう一つ、狐とは全く別の匂いが残っておる。
なんじゃ、この匂いは……。

「うん?」

茂みがガサガサと揺れる。
狸か、それとも例の狐か、他の獣か……。
普通ならそう思うのじゃが、どうやらそんなお気楽な事は考えていられないようじゃの。

強くなるのは、今まで嗅いだ事のない匂い。そして……。

「……?」

茂みの向こうから姿を現したのは、金色の毛を纏った一匹の獣。その姿は、まさしく狐であった。
……まさしく狐なのじゃが……。

「お主か、この島にまだ残っておった狐とは」

儂の問いに、狐は一切の反応を見せなかった。
此処はもうちょっと、問い詰めてやる必要がありそうじゃの。

「……しかし、おぬしのような狐を見たのは初めてじゃな」

ぴくっ、と、僅かに狐の耳が反応した。

「お主から感じる妖気は、全く正体が掴めん。まるで地獄の底のように暗く、何も見えないのぉ。
 それに、儂は知らんぞ。そんな奇ッ怪な羽が生えておる黒い狐なんての」

今まで以上に、狐が大きな反応を見せる。

見えてないとでも、思っておるのかの。
儂は狸の妖怪。人を化かす事を生業としておる妖怪じゃぞ?
その程度の幻術のようなものは、とうに見飽きておるわ。
儂には見えておるぞ、お主の真の姿が。

「お主、何者じゃ」

辺りの空気が凍りついたような気がする。
この狐から感じる妖気は相当なもの。間違いなく、此奴は只者じゃない。
恐らく、儂が知っている誰よりも……強い。

「きひっ、きひひひひっ!!」

不意に、狐は不気味な笑い声を上げる。

「いやはや、初めてだよ! 私の正体不明の能力を、此処まであっさり看破した奴って言うのはさ!」

狐の周りに、此奴の妖気と同じように真っ黒な雲が立ち込める。
数瞬の後、雲が晴れたその向こうには……。

黒い髪で黒い衣、その手に持つ漆黒の槍。そして何より目を見張る、右は赤、左は青の奇怪な羽が生えた人型の妖怪。
なんじゃ、此奴は。こんな姿の妖怪なぞ、儂は今まで見た事も聞いた事も……。

「きひひひっ!! 私の正体が判らないって顔をしてるね!!」

「……そうかの。まあ、判らぬのは確かじゃ。お主は何者じゃ」

「私は鵺、封獣ぬえ。まだまだ無名の新参者だけど、よろしく」

不気味に笑いながら、そんな事をのたまう謎の妖怪、封獣ぬえ。
無名の新参者、ね。確かに名前は聞いた事はないが、そのわりにはたいそうな妖気じゃないか。生まれ持った才能、といったところか。

「なんじゃ、まだ生まれたばかりの赤子というわけか」

「きひひっ、言ってくれるね。まあ、まだ生まれてから50年くらいしか経ってないけどさ」

ほぅ、それはそれは。本当にまだまだ若いじゃないか。
……たった50年でこれほどの妖気を持つというのも、恐ろしい話じゃが。

「……して、この佐渡の地に何用じゃ?」

なんとなく、予想は出来るんじゃがの。
此奴は自分を新参者と称しておる。しかし、此奴自身も、己の妖気が他の妖怪どもとは桁違いである事は承知しているじゃろう。
実力がある新参妖怪が考える事は、一つ……。

「勿論、佐渡の有名な二ッ岩の狸を倒して、私の名前をこの国に知らしめてやるのさ!」

やっぱり、狙いは儂のようじゃの。
自分で言うのも難ではあるが、儂はこの国でも屈指の実力を持つ妖怪であるという自負がある。
この国で儂の名を知らぬものは殆どおらぬじゃろうし、名を上げたい新参妖怪にとっては、儂を倒す事は大妖怪への一番の近道じゃ。
現に今まで何度も、そういう輩とは人間妖怪問わず戦った事があるからの。

全く、面倒な話じゃ。こんなつまらぬ欲望のために、いちいち誰かと戦わなきゃ……。



「で、その二ッ岩の狸ってどんな奴なの? あんた知ってる?」



……。

…………。

……………はぁ?



「お主、これから戦おうって妖怪の事を何も知らずに此処まで来たのか?」

「だって、知らなくたってこの私が負けるはずないんだし」

あっさりキッパリと、自分の言葉に何の疑いも持たずにそう返答してくるぬえ。

そりゃまあ、お主の妖気は大したものじゃ。それこそ、儂が知っているどの妖怪よりもお主は強いじゃろうて。
しかし、どうやら戦闘経験は皆無に等しいのじゃろうな。若い妖怪にはよく見られる、何の根拠もない過剰な自信じゃ。

なんだかもう、真面目に戦おうとした自分が馬鹿馬鹿しくなってきたの。
どれ、ちょっとからかってやるとしようか。

「二ッ岩の狸なら、この山のさらに奥にある洞窟なんかでよく見かけるそうじゃぞ」

当たり前じゃが、嘘八百である。

「おおっ、本当? よっしゃ早速ぶちのめしてくるよ!」

ああ、行ってこい。誰もいないと思うがの。
野良狸が迷い込んでたりしたら土下座して謝ろう。

「そう言えば、あんたの名前は?」

「儂か? 儂はふ……マミゾウじゃ」

うっかり二ッ岩と名乗ってしまいそうになってしまった。

「マミゾウ? 変な名前」

封獣に言われたくないわい。

「まあいいや、二ッ岩の狸を倒したらあんたのところに報告に行くよ。それじゃね、マミゾウ」

そう言って、嬉しそうにぬえは満月の輝く夜の空へと飛んでいった。
儂一人だけがこの場に残り、後は夜の静寂が辺りを包む。

うむ、それを儂に報告してどうするつもりなんじゃろうか。いやまあ、間違っても勝利報告は出来ないわけじゃが。
無駄に自信過剰で、人の言う事を疑いもせず、あれだけ無邪気に笑える。まさしく子供じゃの。

「悪いヤツじゃなさそうなんじゃがのぉ……」

呆れ半分になりながらも、儂は一度、自分の縄張りに戻る事にした。





 * * * * * *





そして、その翌日の事。

昨日のあの妖怪、ぬえの事が多少気掛かりながらも、儂は酒を呑みながらのんびりとしていた。
別段、儂は普段から何かをやっているわけじゃあない。時々人を騙したり、時々人を助けたり、時々のんびりしたり、自由に生きている。
尤も、昨日のような例外もあるのじゃが。そういう時だけは妖怪らしく、それ以外は割かし人間のようなものなんじゃろうな。

「なにか山の方で変わった事はなかったかの?」

時々野良狸にそんな事を聞いてみるが、答えは決まって首を横に振るばかりであった。
何もないなら別に構わないのじゃが、やはり気になってしまう。
彼奴はあれだけ強大な妖気を持ちながらも、それに見合った気性は持ち合わせていなかったからの。
自分で蒔いた種は、やはり自分で何とかせねばならぬのじゃろうか。

「お、いたいた」

……うん?

「マミゾウ、おはよう」

酒を吹きそうになったのを気合で堪える。

儂の目の前には、いつの間にかぬえが立っていた。
いくら酒が入っているとは言え、気付かなかったとは不覚じゃった。しかし、やけに嬉しそうな笑顔を浮かべておるの。

「……もう昼過ぎじゃぞ」

「あんたこそ、昼間から酒呑んでるの?」

「お主も一杯やるか?」

「いいよ、酒嫌いだし」

なんじゃ、酒は駄目なのか。やっぱり子供じゃの。
とりあえず、急な事で焦っっていた頭は落ち着いてきた。

「ぬえ、何の用じゃ?」

「ああ、そうそう。昨日あんたに言われたとおり山に行ったんだけどさ」

そう言って、懐に手を突っ込んで何かを探し始める。
二ッ岩の狸がいなかった事に文句の一つでも言いにきたのかと思ったのじゃが、先の嬉しそうな様子も見ても、それが用件じゃない事が判る。
儂の住処に関しては誰かに聞いたのじゃろうが、文句を言いに来たのじゃないとすると……。

「ほら、これ見てよ」

そうして、ぬえが懐から取り出したのは……。

「……!」

それには、ちと驚かされた。
ぬえが手に持っていたのは、金色に輝く小さな塊。小石ほどの大きさなのじゃが、それはまさしく……。

「金、か……?」

「そうそう、これって確か凄く価値があるんだよね」

そうじゃのお。

佐渡のこの山の中には、かなり大きな金の鉱脈があるのを儂は知っている。
尤も、儂の心に留めておいてあるだけで、人間共はそんな事は知らんだろうがの。
それ故に鉱山も整備されてはおらんのじゃが、よくもまあ金なぞ見つけられたもんじゃ。
それに、かなり状態もいい。売れば結構な値段が付きそうじゃな。

「これってどうやったらお金に出来んの?」

「あー、まあ、金属を取り扱う人間の店にでも持っていけばいいじゃろうが……」

「えー、人間に姿見せるのはイヤだなぁ」

「なんじゃそりゃ」

結構派手な外見……というか羽を持っておるくせに、目立つのは嫌と申したか。

「ほら、私って正体不明じゃん? それが売りなんだから、あんまり人間に姿を見せたくないんだよ」

「そうなのか?」

まあ、確かに正体不明ではあるかも知れぬな。
儂と同じ目晦ましのような能力を持ち、そもそもどんな妖怪なのかすらサッパリ判断のつかない外見をしておる。

「うん、だから仕方なく人間の前に出る時は、姿を変える事が殆どだよ。ちょうど、昨日あんたの前でやったみたいにね」

ああ、昨日の狐に変化していた時の事か。
確かに、儂は幻術など飽きるほどに見ているから見抜く事が出来たが、そうでない者にはぬえの幻術は見破れないじゃろう。

……ひょっとすると、その正体不明さがぬえの力の源なのじゃろうか……?

さしずめ、『正体を判らなくする程度の能力』と言ったところかの。

「仕方がない、儂が換金してきてやるとするかの」

「おっ、本当? ネコババしたりしない?」

「そういう嘘は専門外じゃ」

これでも金に関してはかなり厳しいつもりじゃ。人間との交流でもわりと大切じゃからな。
それに、他人を化かすための嘘は吐いても、妖怪に対して益の無い嘘を吐くような真似はせん。

「んじゃ任せるよ。夕方までには帰ってきてねー」

おい、ぬえ。此処は一応儂の縄張りじゃぞ。なんでそんなに図々しいんじゃ。
まあ、そんな事を気にするような性質の妖怪でもないか。儂もそうじゃしの。

そう言えば、結局ぬえは昨日の事をどうする気なのじゃろう。
儂を倒しに来たという目的を忘れているように見えるが、儂を油断させる作戦かなにかなのか?
……いや、そんな気の利いた作戦を考えているようには思えん。完全に目的を忘れているだけじゃろう。単純そうじゃし。
これ以上考えても無駄じゃな。帰ってきてからそれとなく聞くとしよう。

ぬえに見送られつつ、儂は金を両替するために、人里へと下りる事にした。勿論、尻尾を隠してから。





 * * * * * *





そして、時は再び夕刻の逢魔が時。

「おー、凄い」

儂の住処の机に詰まれた金。思ったよりも高い値段が付いたようで、結果的にこうなってしまった。
こんなに金があっても使い道は無いんじゃがのお。

「して、ぬえ。お主はこれで何をする気なんじゃ?」

そう言えば、と帰り道で気になった事を訊ねてみる。
ぬえは自分で『人に姿を晒したくない』と言っておるのに、金なんぞ持っててどうする気なんじゃろうか?
妖怪同士で金のやり取りがないとは言わないが、こうしてまで必要な事でもないじゃろうに。

「……うん?」

何故か首を傾げる。そして……。

「……なにするんだろ?」

がくっ、と膝の力が一気に抜けた。

「なんか金が要る事情でもあるんじゃないのか?」

「そんな事言ったっけ?」

いや、言うとらん。確かにそんな事は一言も言っておらんかった。
じゃが……まさか何も考えずに両替を頼むなんて事は思いもしなかったぞ……。

「……どうするんじゃこの金。人間共にくれてやるか?」

「うー、人間にタダでなんか施すってのもなァ」

露骨に顔を顰めた。気持ちは判らんでもないが。
じゃが、金を使うのは主に人間じゃ。儂らがこんなものを持っていても、基本的に意味は……。

「んじゃマミゾウ、これあげるよ。なんか適当に使って」

「はぁ?」

曇りない笑顔でそんな事をのたまってきおった。

「いや、あのなぬえ。お主も判っとるじゃろうが、儂らがこんなものを持っていても使い道はないんじゃぞ?」

「そうかなぁ? マミゾウは人間の前に気軽に出れるんだし、私よりは使う機会ありそうじゃない?」

ま、まあそうじゃが……。
気軽にってほどでもないが、酒だけは人間が造ったものを呑む事が多いから、それを買う金は必要じゃ。

「それに、これだけの大金をポンと渡すのもどうかと思うが?」

「私に必要ないんだから、私には価値ないものだよ」

欲のない奴じゃの。そのくせ妖怪としての地位は築こうと考えてるんだから判らん奴じゃ。

しかし、此処まで欲のない奴が相手じゃと流石の儂も困る。
なくて困る事はないんじゃが、あって困るものでもない。儂らにとって金とはそんなもんじゃ。
欲しい理由というのもあまりないが、要らない理由もないとなると、ぬえの申し出を断る理由もなくなる。

「……仕方ない、ならありがたく受け取っておこう」

結局のところ、儂が折れるしか選択の余地はないようじゃの。

「ん、そうしてくれると助かるよ」

本当に、なんで此奴は金なんぞ見つけて喜んでおったのじゃろうか。
ただ単純に、珍しいものを見つけて舞い上がっておっただけかの。

「まあ、金の礼じゃ。今日は儂の秘蔵の酒でも開けてやろう」

これだけの大金を譲られておきながら、何も返さんというわけにもいくまい。
二ッ岩の名が廃るというもんじゃ。まあ、ぬえには未だに黙っておるがの。

「えー? 酒は嫌いだって言ったじゃん」

おお、そういえばそんな事を言っておったの。
じゃが、今回は引き下がれん。儂に返せるものは酒くらいなもんじゃ。

まあ、嫌いとは言え酒に弱いというわけじゃないじゃろう。妖怪は殆どが酒には強いからの。
ついでにちょっとからかってやるか。

「なんじゃ、酒も呑めんとはやはり子供じゃのぉ」

ぬえの眉間に皺が寄る。

「そんな赤子同然の妖怪が名を上げようとは、片腹痛い話じゃな。
 酒付き合いの悪い妖怪じゃ、いくら強くなろうとも名は売れんじゃろうなぁ」

少々嫌味っぽく言っておるが、別に間違った事を言っとるわけじゃない。
名のある妖怪は得てして酒好きが多いもんじゃからな。儂もそうじゃし、鬼の伊吹童子なんかも酒豪として有名じゃ。

「酒の味も判らん子供が、まあ何処までそう自信過剰でいられるか、それはそれで見ものじゃがの」

酒樽を開け、一杯煽る。うむ、いい味じゃの。
青筋立てて露骨に苛立つ子供妖怪の顔というのも、なかなかいい肴じゃな。

「へぇ……いいじゃん、この私をこんなに馬鹿にしてくれたのはあんたが初めてだよ」

そうじゃろうな。

「ふんだ! こんなもの、この最強妖怪のぬえ様が呑めないはずないじゃん!」

儂の持っていた酒杯を奪い取り、一気に口に流し込むぬえ。
全く、予想通り単純な奴じゃ。ちょっと挑発してやれば、扱いやすい事この上ないのお。
まあ、酒の味なんてものは最初から、誰にも判るというもんでもあるまい。
ぬえが酒を呑める切欠を与えてやれば、儂の呑み友達が増える事にもなる。

……そう思っていた時期が、儂にもありました。



ぼふっ!



……と、まるでぬえの頭が爆発したかのような錯覚が見えた気がした。
酒を煽ってから3秒ほどで、ぬえは顔を真っ赤にして倒れる。

……えっ、ちょ、流石の儂もこの展開は予想しとらんかったぞ?
酒が嫌いとは言え、それは味の話じゃないのか? 酒の苦味が駄目という妖怪はたまにいるから、そういうもんじゃと思っておったが……。
いやしかし、確かにそれなりに強い酒じゃが、一杯煽った程度でぶっ倒れるとはどれだけ酒に弱いんじゃ。
此処まで酒に弱い奴なんぞ、人間相手だって見た事がないぞ。

「お、おいぬえ、しっかりせい」

「うにゃぁ~……」

目の焦点が全然合っとらん。

「きひひひ……マミゾウってさぁ……」

な、なんじゃ急に。不気味に笑いおって。
目が宙を泳いでいるせいもあって、笑い声の不気味さが3割増しじゃな。

「……いい身体してるよねぇ……」

……はぁ?

「背も高くて細身でさぁ……そのくせおっぱいは大きいし……きひひひひ……」

こいつは何を言っておるんじゃ。

「私なんてさぁ、ぜんっぜん胸もないし背も高くないしさぁ……」

まあ、お主の性格には合ってる姿じゃからちょうど良いんじゃないか?

「……嫉ましい、ちょっと分けろ」

少々、嫌な空気を感じ取るのが遅すぎたのじゃろうか。

「のわっ!?」

「あー、柔らかさまで完璧じゃん嫉ましい嫉ましい」

いきなり胸を鷲掴みにされる。お前は橋姫か。

「こ、こらぬえ! やめんかぁ!!」

「うっさい、狸の癖に牛みたいなおっぱいしやがって」

「そんなにでかくないわ!! って、違う!! いいから離さんか!!」

「いいならいいじゃん減るもんじゃないし、いや減らして私によこせ」

「やるわけなかろうがこの酔っ払いがぁ!!」

「ならば殺してでも奪い取る」

「いい加減にせんかああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

図的によろしくない展開になる前に、全力を持ってぬえを引っぺがして殴り倒しておいた。





 * * * * * *





「うー、頭痛い……」

一刻ほど気絶していたぬえが、そんな事を呟きながら眼を覚ます。

「あ、ああ……おはよう」

ぬえの頭痛が酒のせいだけじゃない事を思うと、ぬえと目線を合わせられんかった。

「マミゾウ……? なんでそんな明後日のほうを見てんの?」

自分の責任から眼を逸らしたいだけじゃ、気にするな。
とりあえず、ぬえのような子供にあの酒を呑ますのはやめようと心に誓おう。
頭痛のみですんでいるだけまだマシかもしれんが。

「あれ、私何してたんだっけ……」

非常によろしくない行為じゃな。原因は主に儂と酒のせいじゃし、ぬえに罪はないんじゃが。
すまん、ぬえ。心の中で謝っておく。

「うーん……なんか凄く気持ちいいものに触れてたような……」

「あー、そう言えばアレはどうしたんじゃ」

「えっ? アレって?」

思い出しちゃいけない事を思い出そうとしていたぬえの意識を逸らすため、咄嗟に話を変える。
儂にとってもちと地雷みたいな話じゃが、まあ仕方あるまい。

……それに、ちょっと言っておきたい事もあるからの。

「ほれ、お主は二ッ岩の狸を倒すために佐渡に来たんじゃろ? 昨日は結局どうだったんじゃ」

「……あっ」

当の二ッ岩の狸がこんな事を言うのもどうかと思うの。
しかしまあ、どうせぬえはその事を知らんのじゃ。儂がばらさぬ限りは問題あるまい。

「そう、そうだよすっかり忘れてた」

本気で忘れてたんかい。

「昨日マミゾウに言われて山ん中に入ったんだけどさ、それっぽい狸なんて全然いなかったんだよ。
 それで、洞窟を見つけたから探してみたら、さっきの金を見つけてさー」

「ほぅ」

「まったく、迷惑な話だよね。折角私が決闘しに来たって言うのに、姿すら見せないんだからさ」

迷惑なのはどっちじゃろうか。
少なくとも、決闘前にそんな生意気な事を言うようならば儂は恐らく本気で殴りに掛かっていたと思うぞ。
あとまあ、こんなに愚痴を言えるくらいには回復したようじゃの。

「まあ、二ッ岩の狸にも都合というもんがあるんじゃろ」

他人のフリというのは疲れるのぉ。

「……もしかして」

「うん?」

「二ッ岩の狸の奴、私の妖気にびびって逃げたのかな」

これはまた、随分と斜め上を行く発想が出てきたもんじゃな。

「きひひひっ、そうなればもう戦うまでもないね。これで佐渡の最強の妖怪は私って事だよね」

「ああ、うん、お主がそう思うならそれで良いんじゃないか?」

もはや突っ込みを入れる気すら起きんかったので、あえてそのまま捨て置く事にする。

ぬえが非常に強力な妖怪である事は間違いない事じゃろう。
じゃが、性格が子供っぽい故に、自らの妖気の強さに過剰な自身を抱いておる。それ故に、儂が何を言おうとそれが直るとは思えん。
一度なにかしらで痛い目に遭うたほうがぬえのためじゃ。
その役を儂が買うという選択肢もあるにはあるが、面倒なので止めておく。

じゃから、これだけは言っておくとしよう。

「真に己を強いと思っとるなら、大海原に飛び込むのを怖れてはならんぞ」

「うん? どういう事?」

ぬえは首を傾げる。

「お主は確かに強い妖怪じゃ。生まれてたった50年でそれだけの妖気を身に付けたのじゃから、それは間違いあるまい」

「本当の事を言っても何も出ないよ?」

「……じゃが、生まれて間もない故に、お主はまだ世界を知らなさ過ぎる。
 この佐渡だけじゃなく、この国のそこかしこに、お主よりも強い妖怪は沢山いる」

ぬえがムッと口を尖らせる。少々話の持って行く方向を間違えたかの。

「それに、お主がまだ無名の妖怪なのは、人間との関わりを避けるからじゃ」

「えっ?」

「妖怪の力の源は、人間が妖怪を恐れる心にある。
 お主がいくら妖怪の間で強くなろうとも、どんなに大きな妖気を身に持っていようとも、それが人間に伝わらねば意味がない
 こんな孤島の妖怪より強くなろうとも、それを知る者がいなければ何の意味もない」

尤も、儂がお主より劣っていると言うわけではないがの。新参者の妖怪に負けるほど柔ではないつもりじゃ。

「ぬえ、お主はまだ若い。こんな辺境の地で油を売ってるより、もっと派手に行動してみてはどうじゃ」

「と言うと?」

「簡単に言うなら、暴れて来い」

儂がそう言うと、ぬえは目を丸くした。

こんな事を勧めるのもどうかと思うが、儂ら妖怪は元々そういう生き物じゃ。
人と言う光を生きる者を飲み込む、闇の住人。どんな妖怪だって、基本的にはそういうもの。人間に友好的な妖怪もいるがの。

妖怪が人を襲う理由。それは生きるため。人の恐れが、儂らの妖気の源であり、生きる力そのものであるから。
儂のように名の売れた妖怪になればなるほど、その力は強くなる。

じゃが、ぬえはまだまだ若い。若いのに、それだけの大きな力を、生まれながらに持っているわけじゃ。
ぬえはきっと、名のある大妖怪になれるじゃろう。せっかくのぬえの才を、潰すのも勿体無い。

佐渡に来たのにも、ぬえなりの理由があっての事。じゃから、その目的を果たした、そう思うならば……。

「お主は、佐渡の二ッ岩をも怖れさせたんじゃ。もっともっと、世界に飛び込んで行くといい」

ぬえの妖気に驚かされたのは、本当の事じゃしな。

「……マミゾウ」

「なんじゃ?」

「あんたってさ、ホントにお婆ちゃんみたいだね」

……。

……あ゛ぁ!?

「誰がお婆ちゃんじゃ。儂はまだ1000歳ちょっとじゃぞ」

「私の20倍も生きてんじゃん」

「喧しい。そう思うなら少しは年上を敬え」

そりゃまあ、確かに妖怪の中ではかなり高齢な方じゃろうが……。
妖怪の寿命は人間よりも遥かに長いんじゃ。1000年ぽっちじゃまだまだ若いんじゃ。
獣の妖怪で一番高齢な因幡の素兎は、儂が生まれるよりもずっと前から生きておるんじゃ……。

「まあ、でも」

うん?

「そうかもしれないね。こんな小さい島で最強になったって、まだまだ強い奴がいると思うと、全然満足出来ないや」

……そうじゃ。それでいい。

「ありがとう、マミゾウ。結局二ッ岩の狸とは戦えなかったけど、あんたに逢えただけでも良かった気がするよ」

なんじゃ、気がする程度か。有り難味がないのお。
しかしまあ、こうして素直に笑う事も出来るんじゃな。こうして見ると、人間の子供となんら変わりがなく見える。

そもそも、人間と妖怪とは何が違うんじゃろうな。
身体の頑丈さとか、力の強さとか、そんな違いは確かにあるじゃろう。

じゃが、ぬえが浮かべるこの純然たる笑顔は……人間のそれと何も変わらぬ、暖かいものじゃな。

「それじゃ早速、まずは都の連中でも驚かしに行こうかね」

随分とまあ、いきなり大台に出たもんじゃな。

「なんじゃ、もう行くのか? 言い出しておいて難じゃが、もっとゆっくりしていっても良いんじゃぞ」

「若いんだから、思い立ったら行動しないとね。思い立ったが吉日、ってやつ?」

「ほぅ、ちゃんとと言葉を知っておるのじゃな」

「馬鹿にすんな」

褒めたつもりだったんじゃがの。こう誤解されたとおり、言葉とは難しいものじゃから。

「……まあ、確かに言う通りじゃ。若いうちは行動あるのみ」

「はいはい。行ってきますよ、お婆ちゃん」

全く、本当に不遜な奴じゃ。

しかし、本当にこういう孫でもいたら、案外可愛いもんかもしれんの。
なれば今一時だけ、ぬえの事をそう思ってみるのも一興じゃな。

「戻って来たくなったら、いつでも来るといい。儂はずっと此処におるぞ」

「ふふん、次に逢う時はそんな口利けないくらいな大妖怪になってるからね」

「そいつは楽しみじゃ」

本当にそうなった時は、儂の正体を明かしてやろう。
自分が探していた二ッ岩の狸が、本当は目の前におったと知ったら、どんな顔をするんじゃろうな。

「それじゃね、マミゾウ。いろいろありがとう」

「ああ。また逢おう、ぬえ」

最後にそれだけ言葉を交わし、ぬえは儂の住処から、昨日よりも僅かに欠けた月が輝く空に飛び出していく。
そんなぬえの姿を、儂はぬえの姿が夜の闇に消えるまで、ずっと眺めていた。

……ぬえと出会ってから、たった一日しか経っておらんはず。
どころか、ぬえとまともに会話した時間なんて、この数刻だけじゃった。

じゃが、そのたった数刻が持っていた意味は、100年に匹敵するほどの大切なものじゃったと思う。

「こんな小さい島で、か……」

儂は二ッ岩マミゾウ。この佐渡の島で、一番の化け狸じゃろう。
儂は今までずっとそれで満足していた。別に権力などを欲していたわけじゃないが、何処かそれで大物気取りだったのかもしれぬ。

じゃが、ぬえのそんな一言で、今までの自分の姿が、少し矮小に見えてきた。

ぬえは、この島で最強だと思おうとも、それで満足しなかった。儂に唆されたからとは言え、それは確かな事。
ぬえのような向上心を、儂は持ち合わせていなかった。……本当に、年を取ってしまったのかもしれぬな。
じゃからもう一度、ちょいと運動でもしてみようかの。

そうと言っても、今更ぬえのように外の世界に飛び出そうとは思わぬ。
儂は儂のやり方を見つけて、儂なりに成長して行くとしよう。

そうじゃな……ぬえが人に怖れられる事を目指すのであれば、儂は人に敬われる事、それを目標に。

お主は次に此処に来る時、口も聞けないような大妖怪になっていると豪語しておったな。

ならば儂は、それを上回るような妖怪になってやろう。人の怖れも、敬意も恣にする、そんな大妖怪に。

ぬえ、次に逢う時を楽しみにしておるぞ。



余談じゃが、儂はこの次の日から、人間に金を貸す仕事をするようになった。

孫が放り出していきおった金を元手に、な。

















「マミゾウ、ただいま」

「……大妖怪になってから帰ってくるんじゃなかったのか?」

そんなやり取りをしたのが、それから一ヵ月後の話じゃった。





 * * * * * *





ぬえが佐渡を出て行ってから100年余りは、特に目立った事はなかった。

なんだかんだで、ぬえはしょっちゅう佐渡を訪れていた。
儂に都での自慢話をして、満足したらまた都に戻って悪事を働く。そしてまた戻ってきて派を繰り返していた。
悪事と言っても、適当な噂を流したり、自分の能力で人間に幻覚を見せたりと、そんな程度の可愛いものじゃった。

じゃが、単純だからこそ、その効果は強かったのかもしれぬ。

人々は妖怪鵺を怖れるようになり、その名はいつしか、儂の住む佐渡にまで届くようになっておった。
正体を判らなくする能力。それは闇を怖れる人間にとって、恐ろしい能力だったのじゃろう。
人間の間でも、妖怪の間でも、鵺の名を知らぬものは存在しない。

儂の予想通りに、ぬえは本当の大妖怪と化していた。

そして、鵺の正体を知っている者としては、その風潮がたまらなく可笑しかった。



……じゃが、ぬえの名が世に轟くようになってから、数十年後……。





 * * * * * *





「あー、こっちの利子はこうじゃからこうなって……こっちの返済日は……」

金貸しを始めてから百数十年、その仕事は予想以上に大変なものとなっておった。
本土とそう離れていないとは言え、佐渡はあくまで小さな島。物品が少なくなる事もそう珍しくない。
故に、どうしても本土に行くための交通や宿泊で金が掛かる。この小さな島では、恐らく本土以上に金の需要が高いのじゃろう。

じゃから、ある程度忙しくなるとは思っておったが、まさかこれ程とは……。

「マミゾウさん、今日の分の借用書が……」

「ああ、すまんの」

手伝いの人型の妖怪狸から、郵便受けに突っ込まれていた借用書の束を受け取る。

「えっと、彼奴はあの集落の……なんじゃ、こっちの奴はまた借りにきたんか」

無論、何度も目にする名前も多々ある。ちゃんと返してくれるだけマシなんじゃがな。

「うん?」

と、借用書の束をざっと処理していると、一つだけ明らかに違う封筒が混ざっている事に気が付く。
封筒の表には、とても上手いとは言えない字で『マミゾウへ』と書かれていた。

なんじゃなんじゃ、儂に個人的に手紙を送ってくるような奴なんておったかの。
儂は何時でも此処で仕事をしておるんじゃ。妖怪ならば直接訪ねてくるじゃろうし、人間からか?

そう思ったのじゃが……。

『封獣』

封筒の裏面、隅のほうに小さくそう書いてあったのが目に付いた。

「封獣……? あ、ああ、ぬえの奴か」

封獣はぬえの苗字じゃな。つまり、これはぬえからの手紙という事か。

彼奴め、普段なら仕事中だろうとこの住処に乱入してくるくせに、いきなり手紙とはどういうつもりなんじゃ?
まあいい。用があるから手紙を送ったんじゃろう。難しい事は考えず、大人しく内容を見てみるとするかの。

そうして、中に入っていた手紙を読んでみて……。



『今日の丑三つ時、一番最初に出会った場所で待ってるよ』



……余計に頭が混乱した。

「はぁ?」

手紙の意味は判る。今日の丑三つ時……厳密には明日じゃろうが、とにかくその時に、一番最初に出会った場所で待っている。
文面通りに解釈するなら、そういう事じゃろう。と言うより、それ以外の意味はありえん。

しかし、なんだって急にそんな手紙を?
用件があるならば、直接言えばいいじゃろうに。しかもわざわざ、真夜中にそんな場所へ?

「……考えても埒があかんの」

儂は考えるのを止めた。ぬえにはぬえなりの考えがあっての事じゃろう。
どういう事なのかは、本人に直接逢って聞けばいい。それよりも今は、この借用書の山を何とかせねばならん。

そんな程度で、軽く考えておったのじゃが……。





 * * * * * *





「全く、こんな時間になんのつもりなんじゃ彼奴は」

草木も眠る丑三つ時。そして今日もまた、ぬえと初めて出会った時のような満月が、闇の世界を照らしている。
この時間はまさに妖怪の世界で、人間が出歩く事は決してない。儂は妖怪じゃから関係ないが。

しかし、いくら妖怪の時間とは言え、こんな時間に誰かに呼び出されると言うのは流石に経験がない。
儂は基本的には昼間に活動しているからの。人間との交流がそれなりにある妖怪じゃから、生活も人間に合わせておるんじゃ。

ぬえはどうかは知らんが、いつもは昼間でも仕事場に乱入してくるんじゃから、日の出ている内に呼び出さんかい。

「さて、ぬえの奴は何処じゃ」

愚痴をいろいろと考えてる間に、いつぞやの森の中に辿り着く。
この辺りで待っておるはずじゃが……もしこれで遅刻でもしているようなら、一発くらい殴ってやろう。
そう思った矢先……。

「うん?」

視界の端に、満月に照らされた夜の森に不釣合いな赤と青の羽が映る。
目を凝らしてみれば、何時も通りの真っ黒い髪と真っ黒な衣を纏ったぬえが、大きな岩の上に座っていた。
……何処か物憂げな表情で、空に浮かぶ満月を見つめながら。

「ぬえ」

そう呼びかけると、ぬえも儂に気付いたようで、儂の方を振り向く。

「マミゾウ、遅かったね」

「定刻5分前じゃ、お主が早すぎるだけじゃろ」

まあ、時間厳守なんて言葉からは程遠そうなぬえが、儂より早くこの場におったというのは評価するがの。

「まあ何でもいいよ。ちょっと話があるんだ」

「こんな時間に呼び出さなきゃいかん事か?」

「……うん」

軽い気持ちで聞いたつもりじゃったが、似つかわしくない深刻な顔でぬえは頷く。
これはちょっと、認識を改めなくてはならぬようじゃな。
ゆっくりと、ぬえの隣に腰を落ち着ける。

「……で、なんじゃ」

あまり黙っていても仕方ないじゃろう。早々に話を切り出した。
ぬえにとって、とても深刻な何か。この100年間、ぬえに近しい存在だった儂が、どれだけ役に立つかは判らん。
ぬえの事を他人以上に思っている事は確かな事。それに、ぬえは儂を頼ってくれておるのじゃ。
じゃから、少しでもぬえの力になれれば良い。そう思って……。



「……私さ、地獄に行こうと思うんだ」



じゃが、ぬえが発したその一言は、儂の予想よりもずっとずっと、重く圧し掛かってきた。

「なんじゃと?」

言った言葉の意味が判らなかったわけじゃない。
地獄。死した大罪人の魂が、贖罪の為に落とされる地下世界。
尤もそれは人間に限った話で、妖怪にとってはある意味では生活しやすい闇の世界じゃ。

ただし、地獄に住む妖怪と言うのは、妖怪にすら忌み嫌われるような危険な能力を持つ者が殆ど。
とは言え、今や知らぬものがいない大妖怪であるぬえならば、地獄でも暮らしていけるとは思うが……。

「急にどうしたんじゃ」

単なる思い付きとは思えん。一体どうして……。

「……見られちゃったんだよ、この姿を」

えっ?

「妖怪鵺を、私の作った幻を退治しようって言う、馬鹿な連中がいてさ。
 あんまり滑稽だったから、鵺を退治したって思わせられるように、正体不明の種を使ってそう認識させてやったんだよ。
 退治したと思った妖怪がまた復活したら、人間共が怯える種を作れると思ってね。だけど……」

物憂げな眼差しをそのままに、ぬえは俯く。

「……確かに、妖気は隠してるつもりだったんだ。それなのに、あいつはしっかりと、遠くから眺めていた私の眼を見たんだよ。
 しかも、私のほうに弓まで向けてさ。咄嗟に逃げたから射られる事はなかったけど……。
 ただの人間だと思ってたけど、意外と出来る奴だったのかもね。源頼政とか言ってたっけな」

「じゃが、お主が鵺の正体だとばれたわけじゃなかろう?」

「うん、そうだと思うよ。暗かったし、すぐに逃げたから」

それを聞いて、とりあえずはホッとした。
ぬえは正体不明の妖怪じゃ。何者かが判らぬという怖れの心が、そのままぬえの力になる。
逆に言えば、正体が割れてしまう事で、ぬえの力は失われる事になる。今となっては、儂にぬえの能力は一切効かないようにな。
今はまだ正体不明のままであるのならば、ぬえの存在が失われる事はないじゃろう。

「それなら、わざわざ地獄に行く必要なんかなかろう。ほとぼりが冷めるまで、何処かに身を隠しておれば……」

「私も、最初はそのつもりだったよ」

なんじゃと?

「……駄目なんだよ。凄く怖い。私の正体が知られる事が。
 マミゾウに正体をを知られてるだけならよかったんだ。マミゾウには私の能力は効かなかったし、そんな奴に正体を隠したって仕方ないから。
 だけど、人間に知られるのは……いや、誰にも、私の正体を知られたくない。
 正体不明じゃないと、私が私でなくなる気がして……凄く怖いんだ……」

身体を抱え、小さく震えるぬえ。そんな怯える小動物のような姿は、ぬえと付き合ってきた100年ちょいの間、一度も見た事はなかった。
それ故に、ぬえが本当に恐怖している事が伝わってくる。
当たり前じゃ。自分の存在に関わる事なのじゃから、正体が割れる事を恐れるのは自然な事じゃろう。

「だから、人間がいないところに行きたい。たとえこの姿を見られても、それが広まらない世界に行きたい。
 マミゾウみたいに、私の能力が届かないような奴がいる場所なら……」

……かも知れぬな。地獄の妖怪は強力な者ばかりじゃ。ぬえの幻術が効かない者がいても、おかしくはない。
それに、妖怪になら正体が割れてもそう困る事はないじゃろう。
人間は恐怖心から、妖怪の話を伝播させる。そうして恐怖心が広まる事で、儂らの力は強くなる。
じゃが、妖怪にはその恐怖心はない。いや、ないとは言わぬが、それを誰かに伝える理由がない。

そう考えれば、確かに地獄というのは、今のぬえにとっては最適の環境なのか……。

「……そうか、なら仕方あるまい」

「止めないんだね」

「止めて、お主はそれを聞くか?」

「きひひ、やっぱりマミゾウは判ってるね」

ああ、100年もお主の我侭に付き合わされて来たんじゃからな。

「……すぐに行くのか?」

「うん、今夜中にでもね」

「そうか……」

つまり、これは最後の挨拶ってところかの。
いつもの事とは言え、急な奴じゃ。この100年の間、唐突に現れては去って行く。最後の最後まで、そうであるつもりなんじゃな。

「……ぬえ、最後になるなら、一杯付き合え」

そこらにあった葉っぱを、酒杯に化かす。

「酒は嫌いだって、何度言えば判るんだよ」

「一杯ぐらい我慢せい。今回は弱い酒じゃ」

100年前のような失敗はもう御免じゃからの。
いつも携帯している酒を注ぎ、ぬえに手渡す。

「まったく……最後までずれない奴だな」

お主に言われたくはない。

「乾杯」

「乾杯」

二人の持つ酒杯が、小さく触れ合う。
ただ、お互いにその酒に口を付けようとはせんかった。

この酒を呑んでしまえば、それが別れの時を告げる事になるから、の……。

「ぬえ、お主は以前、儂にこう言っておったな」

「うん?」

「『あんたに逢えただけでも良かった気がするよ』と」

「そんな事、よく覚えてるね」

100年前、ぬえが佐渡を出て行く前に儂に言った、その一言。
あの時からずっと、儂はお主に言いたい事があった。遅くなってしまったが、今この場で返しておくとしよう。

「……儂もじゃよ。お主に逢えて良かった。
 お主に出逢わなければ、儂はただこんなちっぽけな世界で、ちっぽけな地位で満足するような、その程度の矮小な妖怪で終わっていたじゃろう。
 ありがとう、ぬえ。今一度、儂に強くなるという事を思い出させてくれて」

佐渡の二ッ岩。その名前は儂の誇りであり、それ自体はこれからも変わる事はない。
ただ、儂はそれで満足していた。満足して、長らくその地位に甘え続けていた。
遥かな向上心を持ち、そしてこの国全土に通じる大妖怪となったぬえを見ていなければ、儂はそのままで終わっていたじゃろう。
まだまだ成長する事が出来るのに、自分で勝手に立ち止まって……。

そしてそのまま、儂は杯を口へ運び、一気に口に流し込んだ。

「あっ……」

ぬえが、小さく声を上げる。
やはりぬえも、この酒が意味するところは判っているようじゃの。

……さあ、後はお主だけじゃぞ。

「……………」

ぬえの方は見ず、黙って満月の輝く空を見上げる。
ぬえと初めて出会ったのも満月で、そして別れのこの時も、このように美しい満月とはな。皮肉なものじゃ。

「マミゾウ……やっぱりさ、私は酒なんて嫌いだよ」

小さく酒を啜る音が聞こえたと思ったら、ぬえはそう言ってくる。
何処か遠く、今にも消え入ってしまいそうなほどに、儚い声で……。



「……こんなしょっぱいお酒なんて……全然美味しくないよ……嫌いだよ、こんなの……」



……あえて、ぬえの方を振り向こうとはしなかった。
ぬえの事じゃ。そんな塩辛い酒を呑んでいる姿など、見られたくないじゃろうからな。

……そんな味がするというなら、地獄になぞ行かなきゃいいじゃろうに……意地っ張りじゃな、本当に……。





 * * * * * *





「……呑み終わったよ」

それから暫くの間、儂は黙ってぬえが酒杯を空にするのを待っていた。
これで、二人とも杯は空。そう、これで……。

……これで、ぬえを地上に縛るものは、なにもなくなったの……。

「……じゃあね、マミゾウ」

そう言って、ぬえは儂に背を向けようとする。
ぬえとしても、これ以上儂の傍にいたくはないのじゃろう。この世界に、未練が残ってしまうから。

じゃがなぬえ、最後にもう一つだけ……忘れ物があるぞ。

「ぬえ」

一度は背を向けたぬえの身体が、今一度儂のほうへと振り向く。

「……いいのか。このまま地獄に行っても。
 お主が佐渡に来た理由は、二ッ岩の狸を倒すためじゃろう?」

「えっ?」

ぬえは目を丸くする。そうじゃろうな、この100年の間、一度も話題に出す事はなかった二ッ岩の狸の話を、此処に来て持ち出したのじゃから。
……儂自身も、驚いておる。まさか、こんな余計な事をしでかそうとしているとはな……。

「……二ッ岩の狸を倒さずに、地獄に行くつもりか?」

「そ、それは確かにそうだけどさ。この100年の間、一度も姿を見えなかった奴なんて、今更どうだって……」

思わず笑ってしまいそうになった。
一度も姿を見せなかった、ね。此奴は結局、最後の最後まで本当に気付いていなかったんじゃの。

「二ッ岩の狸は、何度もお主の前に姿を現しておったぞ?」

「え……えっ?」

「お主は二ッ岩の狸の事を、よく知っておるはずじゃ。なにせ、佐渡に来るたびに逢っておったんじゃからの」

「マミゾウ、何を言って……」

なんじゃ、まだ判らんのか。
仕方ない。今此処で、種明かしをしてやるとしよう。



「儂の名は二ッ岩マミゾウ。お主が探していた二ッ岩の狸とは、儂の事じゃ」



100年越しに、改めて名を名乗る。今度は、二ッ岩という名前を付け加えて。

「ま、マミゾウが……二ッ岩の……?」

それほどに驚愕したのか、大きく目を見開くぬえ。
鳩が豆鉄砲云々と言うのは、こういう顔の事を言うんじゃろうな。

「本当に疑っておらんかったとはな。じゃが、それが真実じゃ。お主はずっと、自分が倒しに来た敵と仲良くしておったわけじゃよ」

ちょっと大袈裟じゃったか。儂はお主の事を敵だとは思っておらんからの。
しかし、ぬえの敵愾心を煽るのにはちょうどいいか。

……この100年、ぬえが次第に強くなっていくのを見て来て、儂の心にとある思いが生まれていっていた。
最初に出会った時は、妖気がでかいだけの子供としか思わなかったぬえが、これほどまでに強大な妖怪になった。

……柄にもなく、儂はぬえの力を見たくなってしまっていた。
今のお主は、儂を越える力を身に付けているのじゃろうか。儂とお主、どっちが強いのか……。

……儂はぬえと、戦ってみたかった……。

「さあ、ぬえ。どうせ最後なんじゃ。派手に暴れてから地上を去るというのも一興じゃろう?」

改めて、ぬえを挑発してみる。
此処までして、誰かと闘いたいと思ったのはどれだけぶりじゃろうか。下手を打つと、今生で初めての事かも知れぬ。

「きひ、きひひひひひっ!!!!」

ぬえが、いつもの不気味な笑い声をあげる。どうも、この鳴き声だけは最後まで慣れんの。

「そっか、マミゾウが二ッ岩の狸だったんだ。道理で、私の幻術もマミゾウには効かなかったわけだ。やっと納得がいったよ」

なんじゃ、そんな事をずっと考えておったのか。
まあ、そんな事はどうでも良い。とにかく今は、ぬえが戦う気を起こして……。



「……私の負けだよ。今の私じゃ、どうやったってマミゾウには勝てない」



えっ?

あまりにもぬえらしくないその言葉が上手く飲み込めず、頭が真っ白になる。

「だって、私はずっと化かされ続けてきてたんだ。100年もの間、なにも疑うことなく、マミゾウを普通の狸だって思い込んでた。
 私はマミゾウに正体を明かしてた。だけど、マミゾウは私を化かし続けてたんだ。
 100年もずっと、正体不明のマミゾウを見抜く事が出来なかったんだ。私よりも正体不明の奴と戦ったって、勝てるわけないよ」

ぬえ……。

「……やっぱり、私は地獄に行かなきゃ駄目だね。
 私は強くなりたい。マミゾウになんか負けないくらいに、もっともっと強くなりたい。
 今回は負けを認めるけどさ、次に会う時は絶対に、マミゾウよりも強くなっててやるよ」

まるで100年前、ぬえが佐渡を出て行く時のような、何処か力のあるぬえの宣言。
拙いの、これじゃぬえは本当に強くなってしまうじゃないか。
どうやら儂も、うかうかしていられんようじゃ。たった100年で、ぬえはこれほどまでに成長したのじゃから。
あの時のような過剰な自信は微塵もなく、自分の弱さと、素直に向き合えるように……。

「……そうか。ならば、次に会う時は敵同士じゃな。楽しみにしておるぞ」

「きひひっ、そんな余裕ないくらいボッコボコにしてあげるよ!」

それはこっちの台詞じゃよ。口には出さないでおくがの。

「……もう、言う事はないよね?」

そして再び、ぬえから笑顔が消える。
じゃが、先ほどのように寂しそうではあるものの、何処か憑き物が落ちたかのように清々しく見えたのは、気のせいじゃろうかの。

「ああ、もうなにも言うまい」

これ以上、ぬえを地上に縛り付ける鎖はない。
二ッ岩という名前ですら、お主を縛る事は出来なかったんじゃ。もう種切れじゃよ。

「……じゃあね、マミゾウ。また逢おう」

「ああ、また逢おう」

そう言葉を交わすと、ぬえの周りを黒い雲が漂い始める。
ぬえが姿を晦ます時に作り出す黒雲じゃ。どうやら今度こそ、本当に別れの時のようじゃの。

黒雲はぬえの姿を隠し、そしてゆっくりと天へと上って行く。

「マミゾウ」

儂は黒雲の向こうにいるであろうぬえを、しっかりと見据える。
本当の最後の言葉を、雲の中で笑っているであろうぬえの姿を、決して逃さぬように……。





―― 100年間、ありがとう……





その言葉と共に空に浮かんだ黒雲は晴れ、何事もなかったかのように、光り輝く星空と満月が、再び儂の目に映る。

ああ、本当に行ってしまったのじゃな、ぬえ。
お主は昔からそうじゃ。唐突に現れては、こうして唐突に去って行く。性質の悪い嵐のような奴じゃった。

本当に面倒な……孫じゃったよ、お主は……。

「……さて、儂は呑みなおすとするかの……」

今宵は良い満月じゃ。折角じゃし、この月を肴にもう少しだけ呑むとしよう。

ぬえに最後に手渡された杯に、酒を注ぐ。

そして流れるように、そのまま口へと運んで……。



……ああ、ぬえ、お主の言うとおりじゃな。



いつも呑んでいる酒のはずなのに……。



……今日の酒は……随分としょっぱいのお……。





 * * * * * *





「とまあ、そういうわけじゃ」

「やばい子供ぬえ超可愛い。幼児プレイとかそういうのもありかな……」

「わー!! 違う違う!! そんな事ない!! そんな事した事ないから!!」

そうして、話は現代へと戻る。

今まで思い出しておったような事をムラサには一切伝えずに、適当なデタラメ話ばかりしていた。

何故かって?
今も昔も、儂はそういう妖怪じゃよ。術や口先で欺く、他人を化かす化け狸。
確かにぬえには成長する事を教えてもらったが、儂の本質まで変えるはずはなかろうて。
全く、1000年も儂から離れておったせいか、そんな事も判らなくなっておるようじゃな、ぬえ。

「マミゾウ!! あんたさっきからなんのつもりだよ!! ある事ない事デタラメばっかり!!」

「なんじゃ、おぬしが子供っぽいのは昔からじゃろうが。儂の事を『お婆ちゃん』と呼んでおったくせに」

これは本当の事じゃの。確かに何度か呼んでおったんじゃから。

「孫娘なぬえ……マミゾウさん、ぬえを私にください」

「ふぉっふぉっふぉ、お主にならこの悪ガキを任せても大丈夫そうじゃな」

「勝手に決めんな!! こんな変態の嫁なんて御免だよ!!」

そう言って、ぬえは結構ムラサに気があるようじゃがの。

「素直じゃないのお」

「喧しいわ!! ああもう怒った!! 人が黙って聞いてればいい気になりやがって!!」

全然黙って聞いておらんかったじゃろうが。始終顔を真っ赤にして反論しておったくせに。

「ちょうどいい機会だ!! 1000年前の約束、今この場で果たしてやるよ!! お前は此処で終わりだ!!」

槍を構え、激情に任せて妖気を解き放つぬえ。
その妖気は、確かに1000年前よりも強大で、深くて……。

……本当に、強くなったようじゃの。

儂と約束したとおり、儂を越えるために、ずっと鍛錬し続けてきたのじゃろう。

「ほほぅ、赤子が粋がるようになったもんじゃのお。丁度いい、弛んでおった性根、全力で叩き直してやるとしよう」

そう、全力での。

お主はもう、あの時の儂と同じかそれ以上に強くなったじゃろう。
じゃから、今度こそ儂も全力でお主と戦うとしよう。そして、全力を持ってお主を打ち倒す。

儂は儂で、お主に軽々しく踏み越えられぬよう、同じように鍛錬し続けてきたわけじゃからな。

「あー、マミゾウさん。ぬえを傷物にしないでくださいね? まあ傷物になっても貰いますけど」

「安心せい。それこそ赤子の手を捻るようなもんじゃ」

「うがーっ!! 舐めやがってーっ!!」

おっと、無駄話は此処までのようじゃ。
怒りで我を失っているとは言え、この妖気の大きさだけは油断ならんからの。

「弾幕十番勝負、何処まで耐えられるかの!!」

「正体不明の飛行物体に怯えて死ね!!」

ああ、全く。
何百年、何千年と経っても、本当にめんどくさい奴じゃの。とんだ孫娘を、持ってしまったものじゃ。

……本当に、可愛い孫娘を、な……。









後に、半壊した命蓮寺で白蓮様に説教される狸(だったもの)と鵺(だったもの)の姿が見られたのは言うまでもない蛇足
酢烏賊楓
magic_three_map@yahoo.co.jp
http://www.geocities.jp/magic_three_map/Kochiyami.html
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コメント



0.4290簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
事実を一切伝えないマミゾウさんマジ化け狸。
ぬえとマミゾウの馴れ初めを心待ちにしていた分、分量に比べてさくさく読めました。

あと後書きw
4.90奇声を発する程度の能力削除
マミゾウさんww
とても感動できました
7.100洋菓子削除
よいお話でした!
8.100名前が無い程度の能力削除
イイハナシダーと思ったらあとがきw
マミゾウさんは良いおばあちゃん。っつか命蓮寺の平均年齢って(ドゴオ
9.100スポポ削除
マミゾウ!マミゾウ!マミゾウ!マミゾウぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!マミゾウマミゾウマミゾウぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!二ッ岩マミゾウたんの栗色の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
神霊廟のマミゾウたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
あぁあああああ!かわいい!マミゾウたん!かわいい!あっああぁああ!
15.100名前が無い程度の能力削除
相変わらずぬえちゃんかわいい!
17.100名前が無い程度の能力削除
ベネ
19.100名前が無い程度の能力削除
マミゾウさんマジ化け狸
ぬえちゃんかわいいちゅっちゅ
20.100名前が無い程度の能力削除
あいかわらず好い過去話をお書きになられる!
27.100リペヤー削除
マミゾウおばあちゃんと孫のぬえの昔話、堪能いたしました
そしてムラサが変態すぎるwww
33.100名前が無い程度の能力削除
やっぱ マミゾウさんまじ化け狸。お茶目すぎる、化かされたい、いやむしろ馬鹿にされたい。
36.90名前が無い程度の能力削除
つまり、まみったわけですね!
44.100名前が無い程度の能力削除
うおおおオオオオっ! こういう話が読みたかったんだーっ!
ぬえちゃんマジなまいき可愛いすぎんだろッ!抱きしめてグリグリしたいなーっ! もう!
そしてマミゾウさんマジで「いい性格」してやがりますねwww
48.100名前が無い程度の能力削除
>一切伝えずに

ただの強調文で笑ったの初めてww
49.90名前が無い程度の能力削除
>一切伝えずに

不覚にもwwwwww
52.100名前が無い程度の能力削除
マミゾウさんは格が違った。でも南無三はもっと格が違った。
おばあちゃん可愛いなぁ。
58.100名前がない程度の能力削除
イイハナシダッタノニナー
60.100名前が無い程度の能力削除
狸(だったもの)と鵺(だったもの)の頭のところに「グロい」とつけて読んでしまった

あれからさらに時間がたって「おばあちゃん」を認められるようになったんだねマメゾウさん!
63.100カンデラ削除
作品のあちこちに原作の表現が使われていて本当に楽しめました!
マミさんの喰えないキャラっぷりに感服!
74.90名前が無い程度の能力削除
ムラサ駄目だ。。。はやくこいつをなんとかしないと....
76.100名前が無い程度の能力削除
マミゾウさんあなたほんといい性格してますねw

そして後書きの(だったもの)www
80.100直江正義削除
いい話ですね!!
マミゾウとぬえの過去話における良い典型を読ませて貰いました。
マミゾウおばあちゃん素敵でした。
83.80とーなす削除
>>一切伝えずに

おいこら。
「きひひ」といたずらっ子笑いをするぬえ可愛いよぬえ。
98.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり佐渡の二ッ岩はでかかったな… いえ胸じゃなく
すげぇよかったです お婆ちゃんと孫娘であり、切磋琢磨しあう友人関係って素敵
109.80名前が無い程度の能力削除
素直じゃないなあ、マミゾウ。
短いけれど濃い付き合いってありますよね。
111.100名前が無い程度の能力削除
いいね