Coolier - 新生・東方創想話

瞳を閉じて

2011/09/23 19:47:40
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 姿見の前に立ち身だしなみをチェックする。
 少し跳ねてる髪を整えて、お気に入りの帽子を被る。
 鏡に向かって微笑むと鏡の中の私が人懐っこい笑顔を返してくれる。
 少し愉快な気分になってきた。

 物の納まりすぎた部屋から出て、静かすぎる廊下を歩く。
 猫の姿のお燐が、廊下の隅で丸くなっていた。
 いくら猫の姿だからって少しだらしない。
 足で軽く突付いてみる。
「にゃ? あ、こいし様、おはようございます」
「おはよー」
 驚いて人間の姿になって、寝惚けながらあたふたと挨拶するお燐。
 気持ちよく寝てたのに邪魔しちゃったかな? でもこんな所で寝てるのが悪いんだよね。
「出かけてくるね」
「また地上に遊びに行くんですか」
「うん」
「そうですか、お気をつけて」
 挨拶が済むとまたお燐は廊下の隅に丸くなってしまう。あそこがお気に入りなのかしら?
 やっぱりだらしないと思うけど、猫なのだから仕方ないか。




 妖怪たちでにぎやかな地底の旧都を歩く。
 すれ違ってもぶつかっても、誰も私がいることには気づかない。
 無意識を操る私の長所。
 当ても無く歩いていると見知った顔に出くわした。
 勇儀とパルスィの二人だ。
 この二人はいつも言い争いをしているのに、それでもいつも一緒にいる。よほど仲が良いんだろう。
 今日も言い争いをしている。面白そうなので見物。
「同じお店で買ったのに私のお芋のが小さい。えこ贔屓だわ」
「そんなの芋なんだから大きさが違うのは当たり前だろ。だったらこっちのと交換するか?」
「嫌! 私のお芋のが甘いかもしれないじゃない」
「あーもう! じゃあどうすりゃ文句無いんだよ!」
 二人で買った焼き芋の大きさで揉めているみたい。しばらく言い争いをしていたけど、結局お互いの焼き芋
を半分ずつにして食べることで解決した。
 ほら、やっぱり仲良しなんだ。
 旧都にいる人たちを見ると、みんななんだかんだで楽しそうに過ごしている。
 地上で妬まれたり嫌われたりした妖怪が地底に集まっているらしいけど、ここで楽しく穏やかに暮らしてる
姿を見ると、とてもそうとは思えない。
 妬んだり嫌ったりっていうのも、少しの勘違いとすれ違いなんじゃないのかなぁ?




 地上に出て眩しい日の光を浴びる。
 体も心もぽかぽかと温かくなってきて気持ちいい。こればっかりは地底では望めない。
 踊りだしたくなるような陽気を楽しみながら小道を歩くと、暗い服を着た女の人と目が合う。
 見覚えがあるけど、えーと、あ、思い出した。
 たしか命蓮寺とかいう最近出来たお寺のお坊さんだ。
「こんにちは」
 声をかけられてびっくりしてしまった。この人には私の能力が通じないみたい。
「こんにちは、いい天気ですね」
「ええ」
 お坊さんの目を見てにっこりと微笑む。なにを考えているのかさっぱり分からない不思議な雰囲気。でも穏
やかで優しそうな人に見える。
「あなたは確か、古明地さんでしたよね? 地底に住む」
「はい」
「なにか困ったことがあったら遠慮なく私を頼ってください。きっとお力になれると思います」
 いきなりそんなことを言われたことにむしろ困ってしまう。変わった人かと思ったけど、しばらくして思い
出す。このお坊さんは妖怪の味方をする珍しい人で、お寺も妖怪を匿っているので妖怪寺と噂されてるんだっ
て聞いた気がする。
 じゃあこれもお寺の営業活動みたいなものなのかしら。
「あなたは人間なのに妖怪の味方をするの?」
「私は、人間も妖怪も等しく幸せに暮らせる世の中を作りたいと願っています。妖怪が虐げられているのなら
妖怪の味方をする、それだけのことです」
「地底には地上で嫌われて追われて地底で暮らすことになった妖怪が沢山いるのだけれど、その人たちも救っ
てあげられるの?」
「その人たちは困っているのですか? その人たちが虐げられ不幸を感じているのなら、救わなければなりま
せん」
 地底の妖怪は不幸なのだろうか? 楽しそうに笑う旧都の人たちを思い出すと、それもわからなくなってく
る。
「暇な時でいいです、またそのうち命蓮寺に遊びに来てください。もしあなたが困っていたとしたら、その時
はきっとお力になれることと思います」
「私は困ってないです」
 穏やかに笑うお坊さん。でもその瞳の奥にはなんだか底知れぬものがあって、ちょっと怖い。




 ふらふらと歩いているうちに神社の参道に辿り着いた。石段を数えながら登って鳥居を潜ると、いつものよ
うに霊夢が境内を掃除している。
 すぐ目の前に私がいても、手を振っても霊夢は気づかない。うん、いつも通りだ。
 耳元に近づいて、驚かしてやろう。
「わっ!!」
「ひゃっ!!」
 大声をあげると霊夢はびっくりして尻餅をついてしまった。ちょっとやりすぎだったかな?
 おもいきり箒を振り回して追いかけてきた。やっぱりやりすぎだったみたい。

 ひとしきり暴れたあとは、いつのまにか現れた紫も交えて縁側でお茶をすることになった。
「あんなに思い切り打たなくてもいいじゃない、まだ痛いよ」
「思い切り驚かせたくせに何言ってんのよ」
「可愛げのあるユーモアじゃない」
「あんたのユーモアは悪趣味すぎる!」
 日の光に眩しく輝く裏庭を眺める。境内のどこかから夏の終わりを名残惜しむかのよな蝉の鳴き声が聞こえ
る。ときどき吹く風の冷たさから、秋の訪れが近いことが感じられる。
「そういえば、さとりは元気にしてる」
「ん、お姉ちゃん? 一応元気だよ」
「最近ぜんぜん顔見かけないからさ、また顔出すように言っといてよ」
「うーん、どうかなぁ、お姉ちゃんあんまり地上には来たがらないかも」
「そうなの?」
「うん。心が読めるからっていろいろ辛い思いをしたみたいだから」
「あら? でもあなたは頻繁に地上に来てる気もしますけれど」
 団子を手にした紫に横槍を入れられる。
「あなたは辛い思いをしなかったのかしら」
「第三の目を閉じたときに綺麗さっぱり忘れちゃったの。だから私は平気」
 紫はじーっと私の顔を眺めている。さっきの質問といい流石に失礼だと思う。
 嫌な空気を感じたのか、霊夢が紫をたしなめる。
「あ、そうだ。今度うちでお月見の宴会やるの。そん時にあんたたちも来なさいよ」
「あんたたちって、私とお姉ちゃん」
「そうよ」
「どうだろう? 誘ってはみるけど、お姉ちゃんああ見えてけっこう忙しいからなぁ」
「日にちは、どうしよう」
「来週の金曜あたりがいいんじゃないかしら」
「金曜か。そうね、決めた。来週の金曜にやるから来なさい」
「うーん、考えとく」
 また紫は私の顔を眺めて、不気味で嫌らしい笑いを浮かべていた。
 なんか感じ悪いな。




 神社でお喋りしているうちに日がだいぶ傾いてきた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。そろそろ帰らないといけない。
 山の陰に日が暮れかけていて、烏が鳴き声をあげている。
 地上の烏はよく鳴く。
 地底の烏はめったに鳴かない。
 お空もあまり鳴かない。
 地上の烏と地底の烏は同じ烏なんだろうか?
 今度、誰かに聞いてみよう。
 誰に聞けばいいのかな?




「ただいま」
 物の納まりすぎた、人気のない部屋に帰ってきた。
 机に高く積まれた書類の山に気分が落ち込むのを感じる。
 だいぶ仕事が溜まってしまった。これじゃ当分、こいしにはなれないな。

 姿見の前に立ち閉じていた瞳をそっと開く。
 鏡の中の、こいしの姿が溶けるように薄くなっていき、かわりに本来の私の姿が写し出される。
 お気に入りの帽子を脱ぐと、小さく溜め息を吐いて仕事の待つ机に向かう。

 一族の秘密主義もあって、さとりの妖怪の生態は外部にはあまり知られていない。
 忌み嫌われていたのも好都合だった。
 他の妖怪や人間は、頭があり手足のある姿を私たちの体だと思い込んでいる。
 知らないのだから当然のことだ。
 しかし人間に似たその体は、実のところ私たちが見せている虚像に過ぎない。
 さとりの妖怪の体は、あくまでも第三の目そのものであり、他の妖怪や人間が古明地さとりだと思って接し
話し笑いかけているのは、古明地さとりがこういう姿をしているであろうという人の心を映し出した虚像でし
かない。

 地上の妖怪や人間に忌み嫌われ地底に追われた私は、思い悩んだ末に第三の目を自ら閉じることにした。
 第三の目を閉じることにより、私は心を読むという業から開放され、無意識を操るという思わぬ能力まで手
に入れることができた。
 なにも背負わず、悩みやしがらみから開放された私の姿は、まるで別人のように見えたらしい。その心を映
し出した私の虚像も、別人のように見えたことだろう。
 私はその、ありもしない私の姿と人格を古明地こいしと名づけ、さとりの妹だと名乗ることにより二重生活
を送ることを思いつく。

 第三の目が開いているときは、忌み嫌われる姉のさとり。
 第三の目を閉じれば、自由奔放な妹のこいし。

 心を読めない妹のこいしは、人懐っこい性格で地上に居ても誰からも妬まれず嫌われない。
 姉のさとりは地霊殿の主として、ペットに囲まれながら責任ある立場を全うする。

 私の心は満たされている。
 私はなにも困っていない。


「あ、こいし様、おはようございます」
「おはよー」

「出かけてくるね」
「また地上に遊びに行くんですか」
「うん」
「そうですか、お気をつけて」

「留守番よろしくね」
「はい、お任せください」








 


 


 
台風が過ぎて涼しく過ごしやすくなってきました。
暑くてやる気が出ないという言い訳ができなくなるわけです。
生煮え
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コメント



0.1100簡易評価
3.80奇声を発する程度の能力削除
成程…こういうのもまた一つですね
5.80名前が無い程度の能力削除
こういう思考実験的なSSも面白いですね
できればDSのカメラ撮影を誤魔化すトリックも入れてくれれば、なお良かったですが
8.90ぺ・四潤削除
おおお……こういう設定もなかなか……
そういえばさとり様のドット絵は動きが妙にカクカクしててなんか不自然な感じがあったかのような……
12.100高純 透削除
おお…………これはおもしろい設定ですね。
13.80愚迂多良童子削除
なるほど、多重人格を意識的にやるわけですね。
でも色とか変わっていたような気もする。
15.70名前が無い程度の能力削除
さとり=こいし設定は今までにもありましたが
あっさりした雰囲気でよかったです
16.100名前が無い程度の能力削除
これはなかなか……
面白いさとり論でした
18.90朔盈削除
いいわぁ~。
読み易くて、面白くて、よかったです。
23.100I・B削除
おお、これはすごい。
なるほど、こういったさとりもアリですね。二人が揃うことがないのは寂しい気もしましたが。
なんにせよ、面白かったです。
27.90名前が無い程度の能力削除
ペット達は主人二人の関係を気になったりはしないのか
28.90とーなす削除
確かに原作では(まだ)二人そろっているところは見ないですからね。
しかし、そこんところペットたちは疑問に思わないのは疑問かもしれない。
いろいろな解釈が出来そうな古明地姉妹の中でもあっさりと書ききっていてよかったです。