Coolier - 新生・東方創想話

さくやさんっ!

2011/09/17 02:43:47
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「紅茶をお持ちしました、さとり様。」

「ありがとう。今、書類を纏めているところだから、とりあえず、机に置いておいてちょうだい。」

「畏まりました、さとり様。」

「……ねぇ、無理しなくてもいいのよ。もともと、あなたは此処の住人ではなかったわけだし、私の従者ですらなかったのだから。」

「いえ、経緯はどうあれ、今の私は、さとり様に仕える従者、美鈴です。」

「そう…… ただ、いつかは、あなたも元の場所に戻るのでしょう? その時、妙な癖がついたりしていたら、なにかと都合が悪い気がして……」

「……こうしていると、昔を思い出すんです。そう、咲夜…… が、紅魔館のメイド長になる前、私がメイド長として働いていた頃の事を。」

「そこまで言うなら、主従関係について、私からはこれ以上口を出さないわ。ただ…… あなたの言葉からは、どこか無理をしている感じが伝わってくる。どうか、無理をしすぎる事は控えてちょうだい。」

「畏まりました、さとり様。では、私は他の仕事があるので、これで失礼します。」

「待って。せっかくだから、もう少し、お話をしましょう。……地上の話が聞きたいの。こいしのように地上に遊びに行く機会が少ない私にとって、地上の事を知る機会というのは、滅多にないのだから。」

「……霧の湖の話でしたら、いくらでもお話いたします。」

 そして、私は門の前で眺めていた風景についての話を始めた。地底の世界にはない湖という環境に、さとり様は興味を魅かれたらしい。氷の妖精の悪戯をはじめとした取り留めもない話に、微笑みをみせながら聞き入っている。それに応えるように、私も笑顔を作る。しかし、内心穏やかでないことは、既に筒抜けであろう。
 主人が変わったことは、そこまで辛いことではない。紅魔館を離れ、地霊殿でさとり様の従者として働くこと。それは、レミリア…… の指示だった。あの時の怒りを思い出すと、よくこの程度で済んだと安堵できるくらいだ。言うなれば、体のいい解雇通知のようなものだから。
私が紅魔館を離れ、地霊殿で働くにあたって、いくつかの制約をつけられることになった。さとり様を、さとり様と呼ぶこと。そして、紅魔館の住人を呼ぶ時は、必ず呼び捨てにすること。レミリアも、パチュリーも、フランドールも、そして、咲夜も……

「……あの人間、あなたにとって、かなり特別な存在なのね。」

 そう言われて、考える事に集中してしまったことに気づく。さとり様の表情からは、いつの間にか笑顔が消えていて、うっすらとした瞳をこちらにむけていた。私の方も、何も、隠し通そうと思っているわけではない。ただ、心を読まれた時点で、会話の方向が変化してしまうのは、唯一厄介なものだと感じていた。

「ごめんなさい、話を切ってしまって。この続きは、また今度にしましょう。」

 軽く会釈をして、その場を去る。どうやら、長く門番をやっていたせいで、考え込むとそれに集中してしまうという癖がついてしまったらしい。私が向かうのは、地霊殿の門の前。誰にも見つからない、静かな場所。訪問者が滅多にいない地霊殿では、独り、考え事をするには好都合な場所だった。そんな、普段は誰もいない場所に、今日は先客が居たようだ。銀色の髪を揺らして、どこか寂しげな表情で佇んでいたその人に、私は声をかけようとした。

「咲夜―――」

 名前を呼んだ時、既にその姿は門の前から消えていた。肌に感じる温もりは、以前の咲夜のものではなかった。目に映る姿は、確かに咲夜のものなのに、なぜこれほどまでに別の存在のように感じてしまうのだろう。……パチュリーの言葉を信じるならば、こうなった原因は私にあるのだ。誰もいなくなった門の前で、私は独り、あの日の出来事を回想することにした。



=========================================================================================



 因果応報という言葉がある。全ての物事には、必ずそれを引き起こした原因がある。では、原因の始点、発端というのは、どこまで遡れば辿りつけるのだろうか。今回の件について言えば、それは、咲夜がメイド長になった日、私が咲夜を『さん』付けで呼ぶようになった日が、発端にあたるのだろう。
 変化は突然訪れた。いつものように給仕をしていた咲夜だったが、その様子がおかしいことにレミリアが気づいた。異常なほどの熱波が、咲夜から放たれていた。体温が高いと感じないか、という質問に対し、咲夜は、そんなことはないと答えたらしい。すぐにパチュリーが呼ばれ、調査の結果、太陽が憑依したらしいと結論付けたということだ。






咲夜が、太陽になった。






 未だに、ばかばかしい話だと思う。しかし、実際そうなってしまったのだから、事実は受け入れるしかない。だが、事実と事情は別のものだ。紅魔館には、太陽は存在することができないのだから。
 太陽は自分を焼くことはない、故に、咲夜が自分の熱波で焼かれることはないということだったが、それでも周囲にいるものを焼くことには変わりない。しかも、館の主は吸血鬼である。すぐに、元に戻さないといけない。ただ、事はそう簡単にはいかなかった。
 
「解呪ができない、ですって?」

「えぇ、この種の呪術は、本人による解呪の意志が必要になることが多いの。誰が引き起こしたかということは、既に見当がついているわ。呪いをかけてしまったという事実を、当の本人が自覚しているかどうかが重要なのだけど、この様子だと、意図的ではないみたいね。」

 図書館に呼び出された私は、状況が飲み込めずに混乱するだけだった。パチュリーの眼が、原因はお前だ、と言うように私を見据えている。心当たりがあるのなら、これほど動揺することはなかっただろう。私の、どの行動が、このような状況を呼び起こしたのか。誓って言おう。私は、紅魔館の住人を不幸に陥れるような行動はしない。まして、咲夜に対して呪いをかけるなど、ありえない。

「言霊という概念があるわ。言葉には霊的な力が宿り、現実の事象に対して、何らかの影響を与えるというもの。良い言葉を発すれば良いことが起き、悪い言葉を発すれば悪いことが起きる。今回の件は、それに魔術的な要素が加わったのかもしれない。……美鈴、あなたが咲夜を呼ぶ時、呼び捨てにはしていなかったわよね。」

「は、はい。いつも、咲夜さんを呼ぶ時は、咲夜さん、と―――」

「私も信じられないけど、考えられるのはそれしかないの。『さん』は『SUN』に通じ、すなわち『太陽』を意味する。あなたが、ずっと『咲夜SUN』『咲夜SUN』と言い続けたことが、言霊となって実現したというのが、私の考えよ。」

 その行為が、なぜそのような結果に至ったのか。当事者である私ですら見当がつかない。それでも、パチュリー曰く、私の言動が、それまでの咲夜を今の咲夜たらしめたのだという。反論しようにも、どう反論していいのかわからない。

「―――気にいらないわね。今のあなたの眼、反省しているようには見えない。濡れ衣を着せられた罪人のような、そんな眼をしている。」

「レミリアお譲様、お言葉ですが、私には全く心当たりがありません。パチュリー様の言うことが真実だとしても、私はそのようなことを望んだりしていません。」

「望むと望まないとにかかわらず、お前は私から従者を奪った。さらに言うならば、友の言葉に疑いをかけられている。……えぇ、このまま黙って済ませるわけにはいかないわね。」

 怒気を孕んだ声を浴びせかけられる。レミリアから向けられる視線は、もはや、敵意と言っていい。その証拠に、周囲に渦巻く魔力が槍の形になって、その手に集約していくのが見える。本気で、殺しにかかるという宣言だ。

「覚悟は聞かないわ。私から、最も信頼する従者を奪った罪、報いを、心の臓で味わいな―――」

「そこまでよ、レミィ。まだ、解呪が不可能だと決まったわけではないわ。さっきも言ったけれど、この種の呪術は、術をかけた本人による解呪の意志が必要になる。後は、言わなくてもわかるわね。」

 魔力の奔流が、まさに放たれんとした時、パチュリーがそれを押しとどめた。それでも、槍が形を保っているところを見ると、本当にぎりぎりの線で、私の運命が左右されているということらしい。声を出すこともできないくらい、身体が緊張して強張っている。ちょっとでも動けば、その瞬間、私が串刺しになっているような気がしたから。

「……よく聞きなさい。今回の場合、咲夜にかけられた言霊の効果を打ち消さなければならない。ひとまず、あなたには、これから言う制約を守ってもらう。偶然とはいえ、魔力の知識がないはずのあなたが引き起こした現象なんだから、解呪にも、ある程度偶然の力を期待するしかない。」

 この時、例の制約を告げられた。咲夜に、『さん』付けすることを禁ずる。これ以上、言霊の効果を上乗せしないという気休め程度の処置ということではあるが、それでも、偶然解呪されるかもしれない。パチュリーからの指示はここまでだった。

「咲夜のことは、そうね…… 地底には太陽の力を持った烏がいたわね。地霊殿に、私から言伝を送って、解決するまで、そこに居させてもらいましょう。本来であれば、地上から地底に干渉することは出来るだけ避けたい。ただ、少なくとも、これは侵略の為ではない。グレーゾーンの交流、というべきかしらね。」

「待ちなさい。私は、太陽が一つあるくらいでまいったりするほど軟弱ではないわ。従者としての仕事はともかく、紅魔館から咲夜を手放すなんて、私は反対よ。」

「気持ちはわかるわ。レミィにとって、咲夜は手放したくないものの筆頭でしょうから。でも、今回ばかりは仕方ない。あなたが大丈夫でも、妖精メイド達はどう? 妹様は? ……仮に、みんなが大丈夫と言っても、私がだめというわ。万が一、図書館が火事になったりしたら困るもの。」

 咲夜が、紅魔館を離れる。どこか他人事のように、その事実を受け止めていた。このまま解呪が成功しなければ、咲夜は永遠に戻ってこない。そう思い至ったものの、まだ、私の中に、どこか楽観的な感情が残っていたのだろう。
 要は、私が、咲夜が元に戻るように行動すればいいのだ。そのための方法は、既に聞いている。偶然なんて、必然に変えてやればいいだけのこと。私だけが直せるなら、私だけが救えるのなら、きっと救ってみせる。

「さぁ、そうと決まったら、準備を進めないと。レミィ、あなたも、地霊殿の主に向けた書状の一つでもしたためなさい。貴族としての礼儀として、必要不可欠なことよ。……あと、美鈴、あなたには詳しい話が聞きたいから、ここに残りなさい。」

 ふんっ、という不貞腐れた声を残し、レミリアは図書館を去っていく。扉が閉まる気配を確認した瞬間、パチュリーの表情が冷たく、厳しいものに変化した。弛緩した心が、再び緊張に包まれる。

「……あなた、どこで魔術を教わったの? まさか、独学? よりによって、あんな呪いを発動するなんて、魔法使いとして、見過ごすことはできないわ。」

 さっきまでの態度とは違う、まっすぐに非難の意志を伝える言葉に、私はたじろぐ。私は質問に答える事が出来なかった。心当たりのないことを、どうして話すことができようか。もう、非難に耐えるのも限界だ。心が折れる直前、パチュリーは深い溜め息をついた。

「……本当に、自覚がないのね。もしかしたら、この館自体が、何かの魔力の媒体になっているのかも…… とにかく、あなたの事情は理解したつもりよ。椅子にかけて、少し、心を休ませなさい。」

言われるがままに椅子に座り、パチュリーと向かい合う形になる。非難されることはないという安堵感が、多少、私の心を落ち着かせてくれた。それでも、どこか落ち着かない部分があるのは、目の前で顔を伏せ、考え込んでいるパチュリーの姿が眼に入るからだろう。

「命の音は名に通じ、故に命運は名運に通ず。我は願う。曲が言から生ぜし業歪。断りて。元の理に事変わらんことを。」

 顔をあげたパチュリーが、ゆっくりと、その言葉を呟いた。何の事だかわからない私は、ただ首をかしげるだけだ。その言葉を聞きとった後も何かを呟いているようだったが、小声すぎて、私には聞きとることができなかった。

「……今の私にできるのはここまで。気休めくらいにしかならないけど、思い当たる言霊を試してみたわ。これで解呪出来るならよし。出来なければ、私が別の方法を考えるしかないわね。あなたが、どんな術式を組んだのか説明できるくらいに自覚があったなら、これほどの苦労はしないのだけど。」

 そして、これで用が済んだという意志をみせるように、パチュリーは机の上に合った本を開いた。会釈をして立ち去ろうとすると、本から眼を離さないまま、パチュリーが声をかけてきた。

「一つだけ、あなたがこの術式を発動させた心当たりがあるとすれば、それは、あなたが咲夜に強い思いを向けているということよ。私は、その思いの内容には興味がない。ただ、もし、あなたが術を解くきっかけになるものがあるとすれば、それは、おそらくそういうことなのだと思うから。頭の片隅にでも、置いておきなさい。」

 返事は返さず、図書館を出る。何も、遠まわしに言わなくてもいいだろうと思う。パチュリーの言わんとすること、それは、私が咲夜に強い思いを抱いているということだ。反論するつもりはない。ただ、一つだけ不安な要素がある。咲夜に思いを寄せる者は、私だけではないということ。

「やっと出てきたわね。何の自覚もないくせに、どんな専門知識を語ったのかしら。」

 腕組みをして壁にもたれるレミリアからは、未だに殺気が溢れていた。後ろ手に扉を閉め、無意識に身構える。もう、止める者はいない。戦いが始まればどうなるかということは予想できるものの、何もしないでやられるのは嫌だから。出方を伺っていると、レミリアが声をかけてきた。

「何も構える必要はないわ。あなたを殺してしまっては意味がないもの。私からは直接手を下さない。その代わり、あなたに命令を与えるわ。」

 レミリアからの命令は、咲夜と一緒に地霊殿に行け、というものだった。実質的な解雇通知だ。むしろ、出ていけと直接的な言い方をされた方が、気が楽になったと思う。やはり、貴族としての気遣いなのだろうか。

「出発は明日。今夜中に準備をしなさい。あと、館を出てからは、紅魔館の住人に敬称をつける必要はないわ。その代わり、新しい主に対しての礼は尽くしなさい。言いたいことはここまでよ。別れの言葉は言わないから、時間になったらとっとと出ていきなさい。」

 レミリアの姿が、廊下の奥に消えていく。コツコツと響く足音が徐々に薄れていくと共に、頬に伝う水滴の感覚を敏感に感じ取れるようになっていった。顔を上にあげて眼を閉じる。涙が流れないように、必死に抵抗したつもりだったが、どうやら無理そうだ。せめて声だけは出さないように。仄暗い蝋燭の灯りが照らす廊下で独り、あふれ出る感情に耐え続けていた。



=========================================================================================



 微かな物音がして、我に返る。振り向くと、俯いた顔で、さとり様が立っていた。とっさに目もとを拭う。どうやら、今の私は回想の中の私とは違っていたらしく、少しだけ安堵する。

「ごめんなさい。少しだけ、心を読ませてもらったわ。あなたたちが此処を訪れた時に事情は把握したつもりだったけど、どうしても、表面的な説明だけでは理解しきれないことがある。少なくとも今は、私があなたの主人なのだから、あなたが辛い思いをしているのなら、手を差し伸べてあげたいの。」

 わざわざ言葉にしなくても考えは伝わるだろうが、あえて感謝の言葉を口にする。そうすることが、これから会話をするにあたって、言葉の信頼を証明するものになると思ったから。

「お心遣い、誠にありがたく感じています。……恥ずかしい話、私が辛いと感じている事の責任は、結局のところ私にあるのです。だったら、私自身がなんとかしないといけない。」

 自然とこみ上げてきた笑いは、まさに自嘲じみていた。自分の失態を自分で解決する。結局のところ、今の私の境遇は、これだけで集約できるのだから。当たり前すぎる道理に、再び自嘲しかけた時、さとり様が声をかけてきた。

「美鈴、何をするにしても、得手不得手というものは存在する。自分に出来る事を心得なさい。全ての事を、自分ひとりで抱え込もうとするのは、傲慢というものよ。」

 さとり様に仕えて、初めて聞く強い口調だった。その語気に一瞬怯むが、言葉の意味を理解して、少しだけ肩を落とす。ただ、全てを納得するわけにはいかなかった。自分にしかできないことが、自分の手に余るなんてことはあるのだろうか。仮にあるとすれば、そんなときはどうすればいいのか。

「……簡単な話よ。手を借りればいい。一人で手に余るとしても、二人なら。それでも届かなければ、三人いれば。そうやって、組織というものは成り立っていくのよ。……紅魔館には、たくさんの妖精メイドがいると聞いたわ。まさに、組織の代表じゃない。」

 言わんとしていることは伝わってくる。しかし、紅魔館にとって、それは見当違いである。たくさんいる妖精メイドは、言ってしまえば単なる飾りのような物。紅魔館全体の仕事をしているのは、実質、咲夜一人だったのだから。咲夜は、一人でそれだけをやれる実力があったのだ。

「えぇ、それこそ見当違いなのよ。他人に出来る事が、自分にも出来ると思いこむことが間違い。咲夜は、それだけのことを出来るだけの力があった。それをするのに適していた、というべきかしらね。あなたにも力はあるはず。現に、あなたは、地霊殿に来てからとてもよくやってくれている。でも、それ以上に、咲夜には適正があったというだけのことよ。」

「……じゃあ、私には何が出来るんですか? 咲夜を元に戻すためには、私が行動するしかないと言われています。それだけの力を、私は持っているように見えますか? 呪いを解くといったって、魔術の知識なんて無い。そもそも私が術をかけたんだと言われても、そんな覚えは全くない。変わらない日々を送っていたはずなのに、なんでこうなったんですか? どうして私が悪いことになるんですか? どうして、私が責任を押し付けられないといけないんですか? 答えられますか? さとり様!」

 なんだか、心が締め付けられるように苦しくなって、こみ上げる思いをただ吐き出していた。前に進みたくても、固い空気の壁に阻まれて進めないような感覚。地団太を踏むだけで、状況が変わったようには思えない。そんな感覚を、地霊殿に来てからずっと感じていた。パチュリーに言われた通り、言霊を解くための行動をしているはずなのに、咲夜の状況は、一向に変化していない。
 そう、咲夜、咲夜を、咲夜に、咲夜へ、咲夜が、咲夜さえ、咲夜だけが、咲夜のために―――

「―――聞きなさい、美鈴。私は、無責任なことだけは言いたくない。あなたが咲夜を元に戻せるか、そんなこと、私が保証できるわけがない。パチュリーは、あなたが咲夜に向けた強い思いが鍵になると言ったのでしょう? なら、今のあなたに出来る事は、その言葉を頼ること。嘆くことではないわ。」

 だんだんと、目に映るさとり様の姿が滲んできた。どうしてこんなに涙があふれてくるんだろう。パチュリーから話を聞いた時、一度は納得したことのはずなのに。きっと出来ると思ったことなのに。それがうまくいかないから? 結果が見えないから? ……答えはどちらでもない。どれだけの時間がかかっても、これだけはやり抜くと決めたことだから。おそらく、心の奥に閉じ込めて考えないようにしていた不安が、さとり様と話しているうちに表に引き出されたのかもしれない。

「私が咲夜に向けた思いは、あえて言うまでもないくらい筒抜けなのでしょう。それについての不安はありません。私が不安に思っているのは―――」

「咲夜の思いが、誰に向いているのか。」

「えぇ、その通りです。さとり様だったら、それくらいわかるのでしょう。地霊殿に来てから、咲夜がどんな思いで過ごしているのか。私から声をかけようとした事は何度もありました。でも、そのたびに咲夜は姿を消す。私を避けるように。」

「それで、あなたは、咲夜の思いが自分には向いていないと考えるに至った。それでは、元に戻ったところで、自分が得るものはない。咲夜は紅魔館に戻るだろうけれど、自分は果たして歓迎されるだろうか。ならば、今のまま、同じ環境で暮らす日々の方が―――」

「もうやめてください! もう、私の心を代弁するのはやめて。もう…… 私には…… 未来が見えません……」

 膝をつき、顔を手で覆う。自分でも信じられないくらいの絶望感。自分がこれほど卑屈だとは思わなかった。さとり様が見ている事も関係なく、声をあげて泣き続けた。そうすることでしか、辛さに耐える事が出来なかったから。






「―――命の音は名に通じ、故に命運は名運に通ず。」

 聞き覚えのあるフレーズを、さとり様が呟いた。思わず顔をあげると、さとり様の頬にも、涙の跡があった。なぜ? そう思うより早く、さとり様が語りかけてきた。

「名前にかけられた言霊が、運命に干渉するのだとしたら…… いえ、これは、私の考えすぎなのかもしれない。紅魔館の主が持つ、運命を操る能力。これまでのやり取りが、全て、最善の結果をもたらすための運命に従った行動だとしたら。たとえ、一時的に辛い思いをしたとしても、結末に幸福が訪れるとしたら。」

 辛い思いに一時耐える事で、幸せが訪れるなんて、言葉遊びにしては冗談がきつすぎる。それでも、言葉を選んで語りかけてくれたことは伝わってきた。そして、ようやく、さとり様の涙の意味を考えるだけの余裕が生まれてきた。
 心を読む。それは、心を同調させる感覚なのかもしれない。仮にそれが正しいとして、今までの私の乱れた心に同調したさとり様は、どのような感情を抱いていたのだろうか。想像することしか出来ないのがもどかしい。涙の跡が、その答えだとするならば…… いや、それを知ったところで、私は何を得ると言うのか。それ以上、このことについて、私は考えないようにした。

「……取り乱してしまい、申し訳ありません。もう、大丈夫です。一縷の希望、という表現で正しいかわかりませんが、今は、私が出来る事をし続けます。良い結末が訪れると信じて。」

「えぇ、そう考えてもらえたなら、私は嬉しいわ。最初のうちは、紅魔館の問題は、紅魔館の住人で解決すべきだと考えていたのだけれど、あなたの心を読んでいくたびに、なんだか見過ごせなくなってしまったから。私に出来ることは、辛い時、悩みを共有することくらいだから。無理だと思ったら、相談しに来なさい。」

 今は、私が、あなたの主人なのだから。そう続けたさとり様に、深々と頭を下げた。レミリアとは違う、従者への思いやり。こういうのを、慈しみというのかもしれないと考え、私はその場を去った。そして、私が去った事を確認してから、さとり様は、私が一番知りたかった事の答えを呟いたのだ。

「咲夜の心の向く先。私からは、美鈴に直接言うことなど出来ない。もしかしたら、美鈴が咲夜に向ける思いよりも強い思いなのかもしれない。咲夜が――― に向ける、思いの強さというものは。」



=========================================================================================



 地底には太陽さえあれど、月というものは存在しなかった。そのせいか、日が昇り、月が昇り、そしてまた日が昇るという一日の感覚が徐々に鈍っていた。おそらく、ひと月ほどが過ぎた頃、地霊殿に二人の訪問者が現れた。
 その訪問者の姿に、私は思わず息をのむ。パチュリーが訪れた理由は推測できる。咲夜の様子を把握するため。もしかしたら、何らかの解呪の方法をつきとめたのかもしれない。もう一人。なぜ、紅い月が此処を訪れたのか。館を出る前の出来事がフラッシュバックし、反射的に顔をしかめる。当の本人は、私の態度など気にも留めず、さとり様との会話を始めた。

「従者を居候させていること、誠に恐れ入る。実際、これほど時間がかかるとは、私としても想定外のことだった。……だが、それも、今日で終わらせようと思っている。」

「今日で終わり…… 言葉通りの意味と、受け止めて良いのですね?」

「虚勢を張りに来たわけではない。詳しくは、パチェが説明してくれる。いや、わざわざ言葉にしなくても、どうするつもりなのかは理解できているのではないか?」

「……説明を、伺いましょう。」

 机を挟んで向かい合わせに座る、レミリアとさとり様。互いに視線を交わすものの、決して笑顔を見せる事はない。嫌な緊張感で、周囲が満たされている。さとり様の後ろに立つ私は、レミリアからすれば対するべき者なのだろう。気押されてはならないと気を引き締めた時、レミリアの後ろにいたパチュリーが一歩前に踏み出した。

「まず、咲夜達を預かってくれていること、改めて感謝の言葉を送るわ。私としては、美鈴の力で解決出来れば、それでもいいと思っていた。ただ、ね。レミィが、これ以上待てないって、私を急かし始めたから、本格的に、解呪の方法を研究することになったの。」

「パチェ、余計なことは言わなくてもいい。必要なことだけ話せ。」

「はいはい。……掻い摘んで話すと、解呪に必要な条件は、言葉にある。そもそも、この呪いは言霊の力によるもの。言葉を、それに通じる音に変換してやれば、自ずと解呪の方法は見つかるようになっていたのよ。」

「言葉を、変換する?」

「単純な話よ。今の咲夜には、太陽が憑依している。言いかえれば、太陽と化している。太陽は、すなわち、SUN。SUN化した物を元に戻すにはどうすればいいのか。私が導きだした結論はこうよ。」






 さんかしたなら、かんげんすればいい






 自信満々に、パチュリーはそう言い放った。ただ、私にはどういうことなのか理解できない。さとり様さえ、首をかしげて考え込んでいる。その様子を見て、パチュリーが説明の続きをし始めた。

「モノの本によると、『酸化』した物質を元に戻すためには『還元』という行為を行えばいいらしいわ。具体的には、酸素を奪い取ればいい。無事に還元が成功すれば、酸化は解ける。つまり、SUN化、太陽の憑依が解けるということよ。」

「……待ってください。酸素を奪うと、簡単に言いましたが、それこそどのような方法で行うのですか?」

「私が魔法を使って、咲夜の周囲の空間から酸素を遮断するわ。じきに、酸素は失われていくはず。」

「パチュリー……っ! それは、安全な方法ではないですよね? 私にだって、呼吸をする時には酸素を吸収しているということくらい知っています。酸素を遮断するって、それじゃ、その間、咲夜は呼吸が出来ないということじゃないですか?」

 こらえられなくなり、思わず声を荒げる。下手をしたら、咲夜の命が危険にさらされることになる。だというのに、パチュリーは涼しげな顔で返事を返してきた。

「えぇ、危険な賭けになるわね。」

「それがわかっているなら、どうして―――」

「パチェが言っただろう。私が、もう待てないの。……わかったら、早く始めるわよ。咲夜を連れてきて。」

 さも当然のように、命令を言い放つレミリア。しかし、その場にいた者は、誰一人動こうとしなかった。ここにいる者の中で、唯一、動く道理があったのは私だ。その私が動かない。だんだんと、レミリアの表情に苛立ちが見えてくる。

「……どうした? なぜ、咲夜を連れてこない。」

 レミリアの視線が、私を貫いた。明らかに、私に、動けと言っている。以前の私であれば、怖気づいて素直に従っただろう。だが、今の私には、レミリアに従うという道理がない。今は、レミリアは、私の主ではないのだから。

「……私は、この方法には反対です。これしか方法がないなんて、まさか、そんなことはないですよね。最初に、私に教えてくれた方法だって、まだ失敗したと決まったわけではないはず。いつか、時間がかかったとしても、いつかはきっと元に―――」

「何度も言わせるな! もういい。少しでもお前に期待したのがいけなかった。私が、自分で咲夜を探し出す。邪魔だけはするな。もしもの時は…… わかっているな?」

 そして、レミリアは部屋を出ていった。後に続いて、パチュリーも部屋を出ていく。残されたのは、私とさとり様の二人。さとり様が動く様子はない。私は、どうする? このままでは、咲夜が危険な目にあうのが目に見えている。だったら、私がとれる行動は―――

「―――もしも、あなたが彼女達の邪魔をしたら、咲夜が元に戻る機会が失われるかもしれない。それでもいいの?」

 一歩踏み出そうとした時、さとり様が声をかけてきた。思わず足を止める。たしかに、そうかもしれない。咲夜が元に戻れるなら、咲夜にとっては幸せなことなのではないか。だって、咲夜は、きっとそれを望んでいるのだろうから。……だけど、それは、何のため? 元に戻って、咲夜は何を得る? 失ったものが再生するだけ。そう考える事も出来る。では、失ったものとは? 咲夜が失ったものは、一体なんだ?

「美鈴。こんな状況だから、あなたに教えておきたい。おそらく、あなたが一番知りたいと思っている事。咲夜の心が、誰に向いているのかということを。」

 思わず、奥歯をかみしめる。こんな時に、何を言い出すんだ? 確かに、私が一番知りたいことではある。だが、今、この状況で知りたいとは思っていない。だって、それが、私が望むことでなければ、私の心は冷静でいられなくなるだろうから。
 そして、さとり様が続けた言葉は、私の心をかき乱すのに充分な力を秘めていた。一瞬、我を忘れていた時間があった。気がついた時には、放たれた拳が地面に亀裂を作り、周囲には、床だった物の欠片が飛び散っていた。肩で息をしながら、必死で冷静さを取り戻そうとする。

「辛い思いをすることは眼に見えていた。だから、あえて今まで言わなかった。……もう一つ、私から送る言葉があるとすれば、心の奥深くにしまいこんだ思いは、そうそう表には出てこないということ。表に出てきた感情が全てではない。時には、閉ざされた感情が重要だということもある。……これからあなたがどうするか。あなた自身が決めなさい。」

 さとり様が席を立ち、部屋を出ていく。残された私は、しばらくの間考えこんだ。咲夜の事。レミリアの事。私のこと。一つ一つ考えていって、ようやく一つの答えを出すことが出来た。命の音は名に通じ、故に命運は名運に通ず。命の音が、美の音にも通じるならば、命運は名運に通じ、さらに美運、すなわち、私の運命に通じていると言えるだろう。
レミリアが操る命運、咲夜にかけられた言霊から生じた名運、そして、私自身の美運が交錯した時、パチュリーの言うところの、偶然という名の必然にたどりつけるとしたら。私は、静かに眼を閉じて集中する。ちょうど、三つの気が集まる場所がある。私は立ち上がり、その場所へ駆けだした。







 私がたどりついたとき、既にパチュリーは魔法を発動している最中だった。横ではレミリアが、日傘を盾にするようにして身構えている。二人の視線の先には、胸元に手を当てて、苦しそうな表情を見せながら、それでもなお立ち続けている咲夜がいた。

「さすがに、一筋縄ではいかないみたいね、パチェ。……っと、今は、声をかけない方がいいかしらね。」

 額にうっすらと汗をにじませながら、呪文を詠唱するパチュリー。横にいるレミリアの額にも汗がにじんでいるが、吸血鬼という種族が太陽と相性が悪い事を考えると、よくこの程度で持っていると思う。私は、そんな二人の前に進み出る。

「……やはり来たのね。だが、もう止める事は出来ない。咲夜が元に戻るか、それとも、術式に耐えきることが出来ないか。運命はそれしかない。あなたは、どちらを望む?」

 質問には答えず、一歩づつ咲夜に近づく。パチュリーの呪文の影響なのだろう、呼吸が苦しくなってきた。肺を焼かれるような感覚。だんだんと、熱気が激しくなっていく。それでも、まだ充分耐えられる範囲だった。
 私は、レミリアの語った運命のどちらかを選びとるつもりはない。後者など、言語道断。咲夜が元に戻るだけでは意味がない。負に陥った物が零に戻ったところで、これまでの事が相殺されるだけ。では、正に届かせるためには。
 あえて、誰にとっての、とは考えなかった。誰かにとっての正が、誰かにとっての負だったとしたら、そこに相殺が発生する。誰をとってもそうなるのならば、最初から考えに含めない方が面倒ではない。
 正の概念。大切なのはそこだ。元に戻るのは最低条件。そこから、さらに変化をもたらすためには。しかも、良い変化をもたらすためには。運命を選びとるのではなく、運名を叫び、運美を切り開く―――



「命の音は名に通じ、故に命運は名運に通ず。運美を切り開かんために、我は願う。曲が言から生ぜし業歪。断りて。元の理に事変わらんことを―――!」



 咲夜を抱きしめて、言霊を詠唱した。これ以上、咲夜を苦しませたくない。苦しませる大本の原因が私だとしたらなおさら。服が焦げる匂いがする。まだ、熱波は治まらない。このまま元に戻れなければ、咲夜も命を落とすのだ。だったら、私の身体が共に燃え尽きたとしても本望だ。
 皮膚が焼ける。苦しそうだった咲夜の顔に、少しだけ悲しそうな表情が浮かんでくる。私は、精いっぱいの笑顔を向ける事にした。そして、咲夜に微笑みかけた瞬間、私の意識は糸を切ったように途切れた。






=========================================================================================






「―――ね。 ―――の為 ―――傷 ―――」

 遠くから、愛しい人の声が聞こえる。意識が身体から離れて、どこかを漂っているような感覚。うまく、聞きとることが出来ない。

「―――さい。 ―――た時は ―――が、怖くて ―――と、顔を合わせる事が―――」

 だんだんと、意識が身体に流れてくる。両手、両足、頭、少しづつ、全身に気を巡らせる。五感が、戻ってくる。

「―――っかく、元に戻ったのに。あなたがこんなんじゃあ、意味がないじゃない。やっと、あなたに触れる事が出来るようになったのに。どうして、最後の最後に、私があなたをこんな目に合わせてしまったの? ……ねえ、何か言ってよ。妖怪なんだから、身体だけは丈夫なはずでしょう? 答えなさいよ、美鈴―――!」

「―――美運を、切り開いたんですよ。咲夜……さん。」

 瞼が重くて、目を開ける事すら億劫に感じる。ようやく開けた視界には、見覚えのある紅い壁が飛び込んできた。そして、徐々に定まる焦点は、咲夜さんの姿をとらえることが出来た。少しだけ、目が潤んでいるような気がしたが、そんなことをいちいち指摘しなくてもいいと思った。

「もう、元に戻ったんですから、呼び捨てのままには、しなくていいですよね。呼び方も、元通りです。」

「……馬鹿。運命を操るのは、お嬢様の専売特許よ。あなたなんかが軽々しくいじっていいものではないわ。」

「そうですね。でも、もう、なんでもいいです。咲夜さんが元に戻ったのだから。こうして、面と向かって話すことが出来たのだから。地霊殿にいる間は、話そうとしても、逃げられちゃいましたからね。」

 すると、咲夜さんの表情がむっとしたものに変わった。思わぬ反応に、私は少しだけ肩をすくませる。

「……ほんと、人の気も知らないで。私だって、出来るなら話したいって思っていたわ。それが出来なかった。近付いたら、あなたの身体を焼いてしまうのだから。だから、あの時、あなたが近付いてきたとき、必死で、来るなって思ったわ。でも、それは口には出せなかった。息が苦しかったというのもあるけれど、なぜか、言葉を発することが出来なかったの。」

「そうだったのですか…… とにかく、もう、解決したことです。咲夜さん、私の事はもういいですから、レミリア…… お嬢様の所へ、行ってください。」

 胸が苦しくなる。咲夜さんを、私の意志で遠ざけているのだから。さとり…… の言うことが正しいとするならば、咲夜さんの心は、レミリアお嬢様に向いている。だとしたら、私の思いを押し付けるのは、咲夜さんを困らせる事になる。こうすることが、負だった物を正に変える、最善の方法なのだ。

「―――この…… 馬鹿美鈴!」

「痛っ!? ……どうして?」

 咲夜さんの人差し指が、私の眉間を弾き飛ばした。突然のことに、わけがわからず混乱してしまう。本当に、どういうこと?

「お嬢様のことも大切だけど、私は、あなたのことも、もっともっと大切に思っているのよ!」

 頬を真っ赤に染めながら、咲夜さんが叫ぶように声を浴びせかけてきた。あ…… これって、まさか…… いや、え、あれ? だって―――

「あ、あぁ、あの、咲夜さん? だって、え? 咲夜さんの心は、お嬢様に向いてるって、さとりが…… え? あれ? ええぇぇぇ?」

「はぁ、さとりが、ね…… 美鈴、少しは、言葉を疑うということを知りなさい。さとりの言うことが、全て本当のこととは限らないでしょう。どうしてそんなことを言ったのかは知らないけれど、それをそのまんま受け止めて心を乱されてるようじゃ、まだまだね。」

「つまり、その、さとりの言葉は嘘で、咲夜さんの言葉が本当で、ということは、咲夜さんは、私の事を――― って、痛いです! 咲夜さん!」

 また、咲夜さんの人差し指が炸裂した。そっぽを向いて、怒った表情の咲夜さん。さっきよりも、顔が紅くなっている。まるで、そこだけ太陽になったかと疑いたくなるような表情だ。

「もう、いちいち確認しないでよ! さっきだって、勢いで口走っちゃったけど、その…… はずかしかったんだから……」

 ベッドに包まれていた身体を跳ね起こし、咲夜さんをぎゅっと抱擁する。仄かに感じる体温が、私の心の鼓動を加速させる。迷惑そうに身体を捻る咲夜さんだったが、もう離れたくないという思いが湧きあがってきて、余計に両腕に力を込める事になった。

「ちょっと、痛い、そんなに強くしなくても逃げたりしないから。ほら、まったく、離れなさい。」

「嫌です! 絶対に離しません! あんな事言われたら、私、嬉しくって、あぁ、もう我慢できません! 咲夜さん、咲夜さぁぁん!」

「本当に、馬鹿正直なんだから、美鈴ったら……」

 溜め息をついて呆れた表情を見せるものの、これまでの用に時間を止めて逃げようとする様子はない。あ、そうか、ぎゅってしてるから、時間を止めても動けないのか。身体を捻ることを止めて、諦めたように身体の力を抜いたのを感じた。こうなったら、私は、私のやりたいようにやらせていただきます。とりあえず、全力で、思いを叫ばせていただきます!



「私、紅美鈴! 咲夜さんが大好きです! 咲夜さんっ!」
「しかし、運命を繋ぐために演技をするっていうのも、なかなか心苦しいわね。」

「そう? レミィの行動は、とても演技には見えなかったけれど。」

「演技と言っても、本気でやらなければ、運命は動かせない。ついでにいえば、さとりの協力もあって、解呪は成功したと言ってもいいかもしれないな。」

「話しながら、よく心を読んでくれたわよね。美鈴のコンプレックスを、うまく突いてくれた。咲夜への思いを引き出すには、あれくらいやってくれた方がちょうど良かった。」

「とにかく、全ては元に戻った。美鈴も、紅魔館に戻ることを許可すると言ってこないと。」

「……でも、あの様子だと、また咲夜が太陽化しかねないわね。」

「その時は、また運命を切り開けばいいさ。あいつらの力で。何しろ、あいつらの関係は、あいつらの問題なんだから、な。」


 ということで、kirisameです。
 ……はい、あえて語ることはございません。ご指摘、ご不満、全て受け止めるつもりですので、気になった事を教えてください。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

9月19日 あとがきに追記します
 コメントを残していただいた方をはじめ、評価をしていただけた方、評価はなくても読んでいただけた全ての方々に、改めて、感謝の気持ちを表したいと思います。
 ここ最近の自分は、コメントで指摘していただけたように、なんだか迷走しているようです。軸となるテーマに即した文体や表現を考え直すべきなのかもしれません。
 次回、作品が上がるようなことがあったら、また読みに来ていただけると嬉しいです。できる限り、反省点を生かした話を書ければと思っています。
kirisame
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コメント



0.1070簡易評価
1.70奇声を発する程度の能力削除
取り敢えず、着眼点が凄いなと思いましたw
5.90名前が無い程度の能力削除
な、何ともコメントのし辛い……。
一発ネタなのか、出オチなのか、メーサクなのか。
私のSANが削られそうな話だったぜ。

いや、面白かったですよ? 苦悩する美鈴は可愛いかったし、美運は「その考えは無かった」だし。
言霊、マジ万能。
14.80名前が無い程度の能力削除
ふぅむ、成る程成る程、つまり・・・どういうことだってばよ?
さくやさんに太陽が、のくだりで「なんだギャグか」と思えば、なんかシリアスなまま続いていきまして、「言葉遊びによる遠回しな異変なのか・・・?」と複雑に推測しだせば、世界めーさく劇場だったでござる。

いや、なかなかとらえどころの無い作品でした。
16.70名前が無い程度の能力削除
お嬢Summer、パチュリーSummer、妹Summer・・・ごめんなさいなんでもないです。

すわギャグかと身構えたそばからシリアスに展開されて、なんとも不思議な気持ちをあじわえました。