Coolier - 新生・東方創想話

シエスタである、誰にも邪魔はできない (前編)

2011/09/16 23:09:18
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《零》



 美しい夜の話から始めよう。
 それは、雲ひとつ無い綺麗な夜のこと。
 星のきらめきを背に従え、大きなまるい月が、冴え冴えと輝く夜のこと。
 青白く冴え渡る月光を背に、月夜の主たる紅い少女が、優雅に微笑んだ。

「楽しかったわ、妖怪さん――美鈴、って言ったかしら」

 小さな少女は頬を上気させて足元を覗き込む。やや息が荒いのは、疲労か興奮か。
 少女の視線の先――足元には、一人の妖怪が倒れている。
 げほ、と、その妖怪が血に濡れた咳を漏らす。
 勝敗は、歴然としていた。
 月を背にする少女は、体に傷一つ無い。衣服はぼろぼろだったが、その下の肌についた傷は、既に再生を終えている。
 地に倒れた妖怪は、体じゅうがずたずただった。血みどろの体はもう動かない。かすれた呼吸が続いていることだけが唯一の救い――いや、ここまで来ると、息が続いているのはつらいだけかも知れない。
 それでも、妖怪は眼を見開いていた。
 まるで、目の前の少女のことを、いっときも見逃したくないというように。

「じゃあね。今夜のことは、なるべくずっと憶えていてあげる」

 とどめの一撃。爪を振りかぶる少女にためらいは無い。
 命懸けの勝負に敬意を払うからこそ、最期は速やかに慈悲深く。それこそが、この一夜の好敵手にとって、何よりの賞賛となる。
 その一撃の瞬間、少女が見ていたのは、地に伏す妖怪の眼だった。
 死にかけの妖怪の眼に、涼やかな光が――今まさに命を取ろうとする少女の背中ごしの、優しい月の光が映っている。

 美しい月夜に相応しい勝負だった、と。
 少女は後日、自らの侍従や友人に、そう語った。



《一》



 紅魔館の門番の朝は早い。
 日の出と共に門前に姿を現し、ぐっと背伸びして深呼吸。
 早朝の、やや肌寒くも清々しい空気を胸に吸い込み、朝の日課として軽いストレッチ、そして基本的な武術の型を確かめる。
 武術の型――中国拳法においては、これを套路という。
 拳の握り、腕の振り、背筋の張り、腰の捻り、歩法の流れ、息吹きの深さ、重心の移動。
 それぞれの動作を緩やかに淀みなく行う、そのしなやかな挙動は、自ずと彼女の腕が確かであることの証明であろう。
 一通りの套路を打ち終えて、息を深く吐き出した。寝起きのために体内で淀んでいた気の流れを、清澄な流れに戻したのだ。
 これで心身共に万端である。さあ今日も一日頑張ろう、と意気込みも新たに、彼女は門の正面に仁王立ち。
 そしてそのまま目を閉じて、立ったまま穏やかな寝息を立て始める。
 すぴー。

「起きなさい、この駄門番」

 一時間後、激痛とともに再起床。
 後頭部にぐっさりナイフが刺さっているが、妖怪だから死にはしない。

「ああ、おはようございます咲夜さん。今日も早起きですね」
「おはよう美鈴。この場合、二度寝してるあなたのほうが早起きってことになるのかしら。あと見苦しいからナイフ抜きなさい」

 自分で刺したのに理不尽だなぁ、とぼやきつつナイフを抜いて返す美鈴。
 自分の後頭部からナイフを抜いてのほほんと返す美鈴というのも非常にシュールなのだが、今さらそんなことを気にするメイド長ではない。さっと血を拭き取る動作もまた堂に入っている。
 そもそも、後頭部に突き刺した程度では大した傷にはならない。現に、美鈴の頭にはほとんど目立った出血も無い、ナイフにほんの少しこびりついていたという程度だ。面と向かう咲夜には傷口は見えないが、じきにその傷もふさがることだろう。

「妖怪っていうのは、つくづく理不尽な体よね」
「唐突に何の話です?」
「たとえばほら、今だって頭にぐっさり刺したのに、なんともないじゃない。あなたが特別なの?」
「妖怪が体が丈夫なのは今に始まったことじゃないですよ。まあ、私がその中でも結構タフなほうだっていうのもあります……お嬢様たちほどじゃないですけど」

 そりゃそうだ、と頷く咲夜。
 何せ我らが主は吸血鬼。心臓を串刺しにされようと体を半分吹き飛ばされようと、一瞬で再生してしまうくらいの反則生物だ――あくまで月の出ている夜の話らしいが。

「あ、あと、咲夜さんが本気じゃないからっていうのもありますよ」
「別に容赦してるつもりはないけど?」

 そりゃそうだ、容赦するような人間は後頭部にナイフ刺したりしない。

「いえ、それでも殺意は無いじゃないですか。おふざけ……っていうとちょっと違いますけど、あくまでお仕置きでしかないって感じで」
「不服なら、次からは殺すつもりでやろうかしら」
「いえいえいえ! そういうことを言いたいんじゃなくてですね!?」
「わかってるわよ、感情を乗せるとか、魂を込めるとかって話でしょ? 前にも一度聞いた気がするわ」

 妖怪は人間とは違い、肉体ではなく精神に依存する生き物だ。
 では、その妖怪に効果的な攻撃とは何か。
 これは大雑把に分けて、三つに分類される。
 一つ目は、妖怪を倒すことに長けた概念を持つ攻撃――名のある武器や、妖怪封じの法力、妖怪を縛り付ける道術、特定の妖怪を倒すために作られた魔法など。これらは、妖怪殺しとしては最も効率的な攻撃で、その妖怪に相性の良い攻撃であるほどに、反則級の威力を誇るのだとか。
 二つ目は、精神攻撃――端的に言えば、悪口を言ったり、大事なものを傷つけたりなどの、精神的にいたぶるような攻撃だ。本来、生半可な精神攻撃では妖怪には通じないのだが、噂に聞くサトリ妖怪や、憂鬱の毒を操る人形などは、精神をほとんど直接に傷つけるらしい。ほとんどの妖怪にとっての天敵なのだという。
 ちなみに、妖怪の弱点を攻める方法は、この一つ目と二つ目の両方の特性を持つ。正しく語り伝えられた、謂れのある手法は妖怪殺しの概念となる上に、妖怪本人の苦手意識もあるものだから、精神にも相当の痛手を与える。鬼に豆、吸血鬼に日光など、強い妖怪であるほど、弱点への攻撃はより効果的になる。
 そして、三つ目――ほとんどの人間が妖怪に対して行うのが、強い精神を上乗せした攻撃。
 美鈴は言う。
 気合のこもった一撃は、どんな妖怪にも通じる、実に汎用的な対妖怪攻撃なのだと。

「ああ、今さらわかったわ。あなたが魔理沙に負け続けな理由」
「そうなんですよ。あの子、魔法使いな上に気合も超一級なんですよ? しかも携帯の魔法炉とか箒とか、アイテム武装も充分なんて。あれ反則、妖怪にとっての天敵みたいなものですって」
「確かあなた、弱点が無いことが売りだったと思うんだけど……」
「まあそうですけど、何でもできるってわけでもないですよ。防ぐのが苦手な攻撃っていうのもあります」

 妖怪が魔法を苦手とする理由は、先に挙げた三つ、全てに起因する。
 一つ、妖怪を封じる特殊な術が、魔法にもあること――もっとも、あらゆる種類の妖怪に通じるような封印魔法は、どんなに優れた魔法使いであっても、大がかりな儀式によってしか扱えないだろうが。
 二つ、魔法の種類が千差万別であるということ――パチュリー・ノーレッジが最も顕著な例だろう。戦う相手に応じて、魔法の種類をいくらでも変えられる。つまり魔法使いは、後出しで有利に立つ術に長けている。個々人によって術の得意不得意があるのも確かだが、それでも、敵に合わせた戦い方が全く出来ない魔法使いなど、三流もいいところだ。
 そして三つ――魔法の力は、精神から神秘を引き出すという側面がある。ゆえに、気合いで強くなる。

「だからって、軽々しく無断で通していいことにはならないけど」

 そんなー、と美鈴はぼやくが、咲夜とて紅魔館のメイド長として譲れない一線はある。
 というかこの門番の場合、一歩譲るとさらに二歩三歩と譲ってしまいたくなる人なつっこさがあるから、ちゃんと仕事上のことはきっちりしておかないと、けじめがつかないのだ。

「ああ……なんか、最初言いたかったこと言う流れじゃなくなったわね」
「え? 何か言いたいことあるなら遠慮なく言ってくださいよ。ガマンは体に毒ですよ?」
「いいわ、別に大した話じゃないし。ほら、朝ごはん。しっかり味わって食べなさいよね」

 ぐい、とバスケットから弁当箱を取り出して押し付けた。今日は趣向を変えて和食の弁当を作ってみたのだ。
 わあ、ありがとうございます、いただきまぁす。そうお礼を言う美鈴の顔は、嘘偽りの無い笑顔だ。
 わかっている。美鈴はいつも、咲夜の料理を美味しいと言ってくれる。
 しかしそれでも――しゃくに障る、という感覚は、なかなか振り払えるものではない。

「それじゃ、しっかり頑張りなさいよ。いくらお嬢様が大目に見てくださっているからって、際限無くだらけていい、なんてわけじゃないってこと、もう一度肝に銘じておきなさい」
「はーい」

 門の内側に引っ込んで弁当を食べ始めた門番――ちなみに食事は、門の内側にしつらえた卓で取るように言ってあるのだ、紅魔館の門前で立ったまま物を食べるなどと外聞が悪いにもほどがある――彼女にそう言い残して、咲夜は紅魔館の中へと戻る。
 咲夜の仕事は多い。美鈴にばかり構ってはいられないのだ。次にここを訪れるのは、美鈴の昼食を持ってくる時になる。
 ――もっとも。美鈴に手作りの弁当をわざわざ自分の手で届けている時点で、美鈴を特別に気にかけていることは間違いないのだが、当の咲夜自身はそのことに、自分では気がついていなかった。



《二》



 天に太陽は二つも要らぬ、と誰かが言った。
 その通り、これは太陽の輝きではない。もっと巨大な、真っ白の恒星の輝き。
 受け止められるものなら受け止めてみろ、彼女の真っ直ぐな心象が、光の奔流となって押し寄せてくる。
 恋符「マスタースパーク」
 逃げ場の無いところに追い詰められてから放たれた光線に、受け止めるか受け流すかを一瞬迷って、

「いや、これはどっちも無理でしょ」

 と、呟く間も無く、光に飲み込まれた。



 夕方というにはまだ早い頃だったろうか。いつものように当たり前に、黒白い魔法使いがやってきた。
 紅魔館の常連客であり、もうほとんど当主レミリアが来客扱いしているにも関わらず、正式に門を通すようには言われていない。理由は大まかに言えば二つある。一つ、紅魔館の食客パチュリー・ノーレッジが本を持ち出されるのを(少なくとも表向きは)嫌がっていること。もう一つは、当主自身が門番対魔法使いの弾幕戦を、酒の肴ならぬお茶請け代わりに楽しんでいること――もっとも、レミリアがじかにそれを見るかどうかもまた、レミリアの気まぐれ次第なわけだが。
 というわけで、気難しい食客とお気楽な当主様のご意向に従って、今日も美鈴は黒白ちびっ子魔法使いに通せんぼをしようとして、こてんぱんにやられてしまったのであった、まる。

「誰がちびっ子だって? このぐうたら門番」
「うひゃっ? ね、寝てませんよ咲夜さんこれは気絶、って、咲夜さんじゃない?」
「エプロンドレスなのは一緒だぜ」

 気絶していたのは何分ほどだったか。目を覚ましたら、倒れている美鈴を、黒白のちびっ子が覗き込んでいた。
 妙な話である。今までこんなことは一度も無かった。門番を倒した泥棒が次にやることは、家宅侵入と家捜しと決まっているのだ。

「魔理沙? どうしたのよ、紅魔館に用事じゃないの?」
「もちろん用事だぜ。けど、ちょっとな、ほんのちょーっとだけ気になることがあってな」
「私に?」
「お前に」

 何のことだろう。美鈴と魔理沙の関係など、門番と侵入者の関係でしかない。
 まあ、弾幕を交わした数だけなら随分重ねているから、そこそこ親しいと言えなくはないが。

「たとえばな、門番。私が気絶してるお前に攻撃してたら、どうなってた?」
「え? そりゃまあ、ただでさえズタボロなのが、もっとズタボロになってたわね」

 と美鈴は言うが、言うほど怪我が酷いということはない。マスタースパークの威力は確かに凄まじいが、美鈴が防御を怠らず、魔理沙が弾幕ごっこのルール通りに手加減をしているのなら、滅多なことは起こらない。

「ふん、じゃあ言い直すか。気絶してるお前に、私がナイフで刺そうとしたらどうなった?」
「レーザーの火傷が、ナイフの刺し傷になるだけでしょ?」
「殺す気で刺したらどうだ? 私が持ってるナイフが、妖怪退治専用の魔具だったら?」
「ああ、だったら避けるわよ」

 気絶していようが、殺す気だったなら避けるに決まっている。
 そう美鈴が応えると、魔理沙が頬に皮肉げな笑みを浮かべた。

「なんだそれ、気を操るっていうのは、そんなこともできるのか?」
「そうね、極端に言うと、周囲の気を操るっていうのは、周囲の気と同化するっていうことだから。意識的だろうと無意識だろうと、気の変化には反応できるわ」
「私が殺す気になった瞬間に、ほとんど自動的に反応するわけだな」

 ぎらり、と魔理沙の目に剣呑な光が宿る。箒を持つ手に力が込められ、もう片方の手がとんがり帽子に――その中の八卦炉に伸びる、
 敵意を込めて睨みつけた、つもりなのだろう。
 だが、美鈴は首をすくめて、ため息をついた。やれやれと、いかにも気の抜けたようなポーズを見せる。

「駄目だって魔理沙、そんな見せかけだけの敵意じゃ、私は騙せないわ」
「ちぇー。さとり妖怪じゃあるまいし」

 あっさりと魔理沙は臨戦態勢のポーズを解いた。

「私が読めるのは明確な感情の流れだけだから、思考まではとてもとても」
「なるほどな、戦ってる最中の先読みまではできないわけだ……で、実際に今、私が本気になってたら、どうしてた?」
「そりゃ逃げてたわね」
「は?」
「いやだから、逃げて助けを求めてた。咲夜さんに」
「お前それ、門番としてどうなんだ?」
「だって負けた後の話でしょ?」

 弾幕ごっこというルール上とは言え、勝負は勝負、手を抜いているわけではない――弾幕ごっこ全てがそうだというわけではないが、門番としての美鈴はそのつもりで勝負をしている。つまり、負けた以上はすでに全力を見せた後なのだ、それ以上やれることは無い。無駄な抵抗をしたところで、勝ち目は万に一つもありはしない。
 だったら、相手が追い討ちをかけてこようとしたら、逃げるしかないではないか。

「気絶したまま攻撃を避ける余裕はあって、追い討ちかけようとする相手から逃げる余力もあるんだろ? もうちょっとこう、戦う根性を見せてくれてもいいんじゃないか?」
「そんなこと言われても、それで勝てるのならその前の弾幕ごっこの時点で勝ってるでしょ」
「勝てない勝負はしない?」
「時と場合によるわ。今回のケースなら、咲夜さんに助けてもらったほうが確実だし、万一咲夜さんだけじゃ魔理沙に勝てそうになかったとしても、私と二人がかりならどうにかできるかも知れない」

 正論のつもりで美鈴はそう言った。どこにも嘘は無い。
 なのに、魔理沙は何が気に食わないのか、うぅんうぅんと首をかしげて考え込んでいる。

「だったら、そうだな……それでも逃げられなかったとしたら、どうだ?」
「物凄くおかしなケースよそれ? 紅魔館に一歩でも入れば咲夜さんは気付くし、現にこうやって外でくっちゃべってることにも気付いてると思うわ」
「まあまあ、例え話なんだからいいじゃないか、ちょっとこっちの疑問にも付き合ってくれよ」

 例え話にしては、やけに真剣な気が……というか、なんだか喧嘩腰にからまれている気がしてならないのだが。

「で、どうだ? 門番は逃げ出した、しかし回り込まれてしまった。今度こそ本気で戦うか?」
「時間稼ぎに徹するわね。まともに戦えば負けるなら、助けが来るまで待つ」
「っ……だ、だったら! それでも助けが来ないような気がした時!」
「何よそれ、どういう状況?」
「紅魔館が炎上してたとか! フランドールの虫の居所が悪くて紅魔館総出で――」
「さらにありえないわ。妹様が暴れだしたら魔理沙を放っておいて私が真っ先に現場に向かってるし、何よりパチュリー様の吸血鬼対策を妹様がそうやすやすと破れるとは思えない」

 もちろん万が一、億が一と言われれば否定はできないかも知れないが、そこまで言うと、もう何でもありすぎてどうしようも無い気がしてくる。
 ――しかし今日の魔理沙はどうしたのだろうか。なぜ自分にこうまで突っかかってくるのか。

「フランドールが駄目ならレミリアだ、それでも駄目なら二人同時だったらどうだ、これなら幾らなんでも」
「ああ、もういいわ。要するにあんたはこう言いたいのよね? 私、紅美鈴にとって、どうしても本気で戦わざるを得ない状況というのは無いのか、って」
「そ、そうだよ」
「もちろん、あるわ」

 それは、たとえば紅魔館の主を侮辱された時や、侵入してくる敵が極めて威力の高い爆弾でも持っていて、見るからに爆破する気満々だった時など。
 目の前の、まだまだ若い職業魔法使いでは考えもつかないような、最低最悪の状況というのはいくらでもあるのだ。

「で、そうなったら本気出して戦うんだな?」
「そりゃそうでしょ。勝ち目が薄かろうと、本気を出さざるを得ないわ」
「……私が相手なら、本気を出すまでも無い、か?」

 ………………………………ああ。
 なるほど、それが言いたかったのか。

「本当に勝たなきゃいけない状況で、魔理沙くらいに強い敵が相手だったら、私も本気になる。でも、ぎりぎりまでは本気になれない」
「そ、そうか」
「で、本気になっても、十中八九あんたが勝つ――納得した?」

 嘘は言っていない。魔理沙に言ったことも、今朝咲夜に言ったことも、全部本当だ。
 たとえ、弾幕ごっこから外れた真剣勝負に持ち込んだとしても、こちらが隠した切り札を使ったとしても、それでも魔理沙が相手では分が悪い。
 相性の問題というのも、もちろんある。だがそれよりも美鈴は、霧雨魔理沙という人間像そのものを警戒している。
 美鈴の知る限りにおいて、魔理沙ほど人間らしい人間もいない。急速に成長し、悪辣な戦術や切り札を幾つも隠し持ち、そして、土壇場で何をしでかすかわからない。

「ふん、よく言うぜ。勝ちを諦めてるようには見えないな」
「そりゃ、戦いもしないうちから諦めたりはしないわよ」

 もしお互いに、本気で戦えばどうなるか――
 一度目は、もしかしたら美鈴が勝てるかも知れない。弾幕ごっこから推し量る限り、魔理沙の実力にはムラっ気がある。その隙を突くことさえできれば、勝てる。
 だが、それでも魔理沙は生き延びる。そういう強かさにおいて、魔理沙以上の生き物はそうはいない。
 そして、二度目、三度目があったとしたら、回を重ねるほどに勝ち目は薄くなる。隙は薄れ、成長し、より抜け目の無い戦術を繰り出してくる。
 近い将来、この人間に勝てる妖怪は、ほんの一握りだけになるはずだ――いや、もしかしたら妖怪である限り、誰も勝てなくなるかも知れない。
 短命だが、だからこそ短い間に、誰よりも強くなる可能性がある。

「わかったわかった、もう充分だぜ……お前は結局、私と戦いたくないんだな」
「当然。あんたみたいな天敵に、誰が好んで塩を送るもんですか」
「この昼行灯め。いいさ、私だって、嫌だって言ってるやつをいじめるほど暇じゃない」

 長話は終わりということか、魔理沙が箒にまたがってふわりと浮いた。紅魔館の中は広すぎるから、徒歩で入ってもしょうがない。

「もういいの?」
「ああ。続きはレミリアにでも聞いてみるとするさ。図書館を冷やかした後でな」
「なるべく本の貸し出しは控えめにしてあげてよ、いくらパチュリー様と仲良くなったって言っても、貸し出しの許可が出たわけじゃないんだからね」
「考えとくぜ、貸し出しの時に忘れてなければな!」

 一度飛び立てば早かった。あっと言う間に紅魔館の中、曲がり角を曲がったらもう見えなくなった。

「……本当、人間って慌ただしいなぁ」

 霧雨魔理沙は、人間の前向きな部分を象徴したような人間だ。少なくとも、美鈴にとってはそう見える。
 その閃光のような生き様を、ほんの少し、羨ましいと思った。



《三》



「で、結局門番って強かったのか?」
「何の話よ?」
「この前の話の続きだぜ」

 窓の少ない紅魔館の中でも、よほど締め切られた部屋でもなければ、日光の有無は充分に確認できる。レミリアにしてみれば直射日光さえ避ければよいのだから、別にそれで困りはしない。
 日も没し、夜が訪れ、紅魔館の屋内に明かりが灯る。
 二人の少女が晩餐を共にしていた。黒白人間と、紅く幼い吸血鬼、二人が食べている料理は一見すると同じメニューに見えるが、中身は大きく違う。人間は同族の血を食べたりはしない。
 中身は違えど、料理が美味であることには変わりない。その料理を作った従者は、吸血鬼の斜め後ろにひっそりと控え、二人を見守っていた。

「この前? あー、あれか。図書館で私がちらっと話して……ああ、つまり、あなたが昼間に美鈴に言った話の続きでもあるわけね」
「言ってないぜ」
「ありゃ言ってたのと一緒でしょ、いやいや、久々に面白いものが見られたわ。魔理沙がムキになるところなんて、なかなか見られないからねぇ!」

 鈴を転がすような、それでいて下品にならない程度に控えめな笑い声。魔理沙はその声をことさらに無視するように、料理を食べる手を速めた。

「ふん、また覗き見か。金持ちのくせに趣味が悪い、いや、金持ちだから趣味が悪いのか?」
「今日は見てないわよ。今、私が魔理沙を見れば、あなたが何をやってきたかなんてわかっちゃうのよ」
「それが覗きじゃないなら何ていうんだよ」
「だから勝手に見えちゃうんだってば。私から言わせれば、他のみんなが露悪趣味なのよ――まあ、見て楽しむ分には不自由しないけどね」

 運命を操る、といっただろうか。
 レミリアのその能力でどんなことが出来るのか、魔理沙はよく知らない。が、どうせろくなことではない、というのは簡単に想像できた。
 あるいは、レミリアと本気で戦うようなことがもしあれば、その時こそ、能力の実態を拝めるのかも知れないが――

「面白いこと考えるわね、あんたは。ふふ、別に私はいつでもいいよ?」
「考えてないぜ。というか心を読むな、この館はいつからさとり妖怪の巣になったんだ」
「あっははは、確かに表情も隠してたし敵意も悪意も無かったけどね、私は暇つぶしの気配には敏感だからさ。ちょっとでもそれっぽかったら、すぐわかっちゃうのよ」
「へん、お貴族様は食事中におしゃべりだぜ」
「あんたに合わせてあげてるのよ。下賤の輩とは下賤な付き合いをしてあげたほうが楽しいもの」

 二人とも、とげのある言葉をぶつけ合いながら、食べる所作は上品なままだ。

「何かあったの、魔理沙?」

 と、二人の会話に口を挟んだのは、レミリアの後ろに控える咲夜だった。
 普段の咲夜であれば、レミリアと賓客との会食に口を挟むような真似はしないが、相手が魔理沙や霊夢といった、咲夜とレミリア双方と親しい相手であるなら、そういった心遣いは無用というのが暗黙の了解だった。

「ん、何かって何が?」
「お嬢様がおっしゃったじゃない、美鈴との話がどうとかって。今、お嬢様に喧嘩吹っかけようとしたことと関係あるの?」
「さりげなく事実を捻じ曲げるな、別に本当に喧嘩をしようとしたわけじゃ――ちょっと待て目つきが怖い、お前なんか勘違いしかけてないか、あと今は食事中だ、血のお風呂の時間じゃないぜ」
「だって、本当にお嬢様に何かしようっていうなら、まず私が魔理沙をころ」
「咲夜」

 物騒な発言をさえぎって、レミリアが咲夜をいさめた。
 決して大きくは無い声。だが、レミリアの制止の声を、咲夜が聞き間違えることは無い。

「はい、申し訳ありません、お嬢様」
「まったくあんたは。その血なまぐさい考え方はとっても貴族的でいいと思うけど、先走る癖はどうにかしなさい」
「お前のその考え方もどうかと思うぜ」
「あのね咲夜、魔理沙は今、ちょっとご機嫌ナナメなのよ。ほら、美鈴と私の馴れ初めを聞いて、私によけいな気を遣うな、とかなんとか」
「ああ、なるほど。お嬢様と美鈴とのことにやきもちを焼いていたと」
「大幅に違うぜ」

 魔理沙の訂正をどこまで聞いているのやら。くすくす笑うレミリアは、魔理沙とは逆に、今日はずいぶん機嫌がいいようだ。

「気にしなくていいわよ魔理沙、咲夜はちょっとしつけがなってないだけだから。別にあんたが嫌われてるってわけじゃないから安心なさい」
「ああ、そのへんは別に気にしてないから、話の続きをせがんでもいいか?」

 咲夜の顔がちょっぴり寂しげに見えた気もしたが、レミリアは意に介さずに答えた。

「美鈴が強かったかって話だっけ? えーっと、そうそう、何日か前の図書館での話の続きだったわよね」
「そうだよ。戦った、って言ってたじゃないか」
「そうね、私と美鈴、本気も本気の戦いだったわ」

 そう、レミリアは戦った、と言った。
 その時点ですでにおかしいのだ。だって、吸血鬼と、戦いになる妖怪なんてそうはいない。
 ましてや、今レミリアは、本気で戦った、と言った。
 本当にそれが事実なら、魔理沙が知る美鈴は、実力を見せてはいないということになる――不要な手加減をされていたというなら、これほど腹立たしいことはない。

「いきり立ってるねぇ魔理沙。いいよ、面白いからもっと見せなさいな」

 どうやらレミリアの上機嫌の種は魔理沙のようだ。人間の些細な感情の変化が、このお嬢様にはずいぶん上等な見世物になるらしい。

「見てないで話を続けてくれってば」
「とは言われても、どこからどう話したものか……咲夜、代わりに話して」
「え、何をでしょうか? 私はお嬢様と美鈴が戦ったところを見ていないのですが」
「だからさ、私たちが幻想郷に来るまでの話よ。咲夜の話に、私が知ってるところを継ぎ足すから」
「それなら……」

 そこからの咲夜の話は、簡潔明瞭だった。
 数年前、レミリアたちは幻想郷に入るため、パチュリーの指示の元で儀式的な魔法を行った、ということ。
 その儀式は、レミリアの魔力が最大となる、満月の夜に行われたということ。
 そしてなぜかその時、まだ門番じゃなかった頃の美鈴が紅魔館に紛れ込んでしまい、一緒に幻想郷に来てしまったということ。

「私が知ってるのはそれだけですわ」
「本当に簡単だったな……いや待て全然わからん、なんでそれで吸血鬼と戦うハメになったんだ、その紛れ込んだ将来門番の妖怪は」
「それは私も知らないわ。どうしてですか、お嬢様?」
「暇つぶしよ」
「「は?」」
「なんか面白そうな運命の妖怪が来たから、暇つぶしにかまってあげたのよ、私が」

 魔理沙は顔をこわばらせた。見ると咲夜も、頬が若干引きつっている。
 初対面の吸血鬼にいきなり暇つぶしに襲われるとは、あの門番、なんと運が無いのだ。

「いや、さすがに同情するぜ。よく生きてたな、門番」
「……なんか勘違いしてない? 一応その時点で、美鈴は無断で紅魔館に侵入してたのよ。庭先だったけど。不審者を現行犯処刑して何が悪いっていうのさ」
「せめて逮捕にとどめるわけにはいかなかったのか?」
「しょうがないじゃない。ちょっと殺す気で襲い掛かったら、まさか反撃されるとは思わなかったんだもの」

 幻想郷に来る際に行った儀式魔法は、レミリア、咲夜、パチュリーの三人を中心に行った。魔力の大部分を提供したのはレミリアだったが、咲夜とパチュリーへの負担もかなりのものだった。魔術の心得のある小悪魔は、外からの補助に回らざるを得なかった分、魔力の消耗も少なくて済んだ。
 魔法は成功したものの、咲夜とパチュリーはスタミナ切れでダウン。二人の介抱を小悪魔に任せて、レミリアは一人で散策に出かけた――満月の夜の吸血鬼に、スタミナ切れなどあろうはずもなかったのだ。
 だから、レミリア一人が最初に美鈴と出会ったのは、必然と言えた。

「で、戦ったわけだよな。どうだったんだ?」
「そうね。楽しい戦いだったわ」
「楽しい?」
「ええ。私は別に手加減したつもりはなかったんだけど。あの子は、それでも死なないの。それも、逃げ回るんじゃなくって、一歩も後ろに退かずに生き延びようとするの」

 怖じ気づいて後ろに逃げようとしていれば、その瞬間に美鈴は死んでいただろう。だが、美鈴は退かなかった。レミリア・スカーレットと向かい合い、戦うことを選んだ。
 レミリアは語る。その時の美鈴が、いかに勇猛に戦ったかを。
 ――強かったわけではなかった。吸血鬼と比べれば、せいぜい足元止まりの強さしかなかった。
 技術はかなりのものだった。だが、強さの天秤を覆すほどではなかった。
 相性は、やや美鈴が上だったかも知れない。陽の気の流れを吸血鬼の体に直接、強く打ち込めば、再生の速さを一時的に抑えることができた。しかし、それでも身体能力の差を埋めるには程遠かった。
 結論。
 美鈴の能力は、優れてはいたが、それでも吸血鬼には遥かに届かない。
 だから、本当なら、レミリアが一瞬で勝っていなければおかしい、そういう勝負だった。

「??? なのに、門番は本気のお前を相手に、互角に戦った?」
「互角とまではいかないけどね。私を大いに満足させる程度には、いい勝負をしてみせたわ」

 ほとんどべた褒めだ。言葉通りに受け取ると、美鈴はレミリアを相手にかなり善戦してみせたことになる。
 だが、その善戦自体がありえないことだとレミリアは言う。なのに、事実は違った。

「――まさか。いや、流石にそれは」
「お、さすがね、もう気付いたの。たぶん、今あんたが考えてる答えで正解だと思うわ」
「じゃあ何か、つまり」

 自分で言いながら、魔理沙はその結論が信じられなかった。

「あいつは、気合いだけでその差を埋めたっていうのか……!?」
「妖怪が精神に依存するって、知ってるでしょ? 魔法使いほどじゃないにしても、妖怪や悪魔だって、気合いで強くなるわ――まして、美鈴は気を操る程度の能力を持ってる。自分の精神のコントロールが、とてつもなく上手いのよ」

 気持ちを強く持てるかどうかで、実際に戦ってみての強さもまた、大きく変わる。
 これは、何も美鈴のみに限ったことでもないし、妖怪だけに限った話でもない。
 窮鼠猫を噛むという言葉がある。追い詰められた鼠が猫に一矢を報いる――文字通り必死になった鼠と、トドメを前にして油断した猫で、力関係がひっくり返るというわかりやすい例だ。
 人間も例外ではない。絶対不利な状況、体力や技術で負けている場合であっても、神がかり的なほどの精神力でそれをひっくり返す例は、スポーツや格闘技でもたまに目にすることがある。
 ならば、より精神に依拠する存在である妖怪が、本当にとてつもない気合いを入れたならば――

「いや待てよレミリア、やっぱりおかしい。お前だって本気だったって言ったじゃないか」
「最初はそうでもなかったんだけどね。でも途中からは本気も本気、あんまりしぶといから、最後は我を忘れるほど熱中してたくらいだったわ」
「だったら、本気同士でイーブンだ。美鈴だけが有利なわけがない!」
「だからさ、簡単な話じゃない。私が本気だった以上に、美鈴が本気だった、それだけの話よ」
「簡単に言えることか、それが!?」

 レミリアの本気とて、馬鹿にできるものではない。五百年を生きた吸血鬼の本気、その精神力は、並みの妖怪では足元にも及ぶまい。
 だから、それを踏まえた上で言うなら――答えは一つしかない。

「美鈴の本気は、並みじゃなかったのよ。そう、本気で、この私に勝とうとした」
「……ありうるか? 能力でコントロールしたって言っても、それだけで思い通りに強くなれるはずないじゃないか」
「そりゃ、能力でどうにかなる話じゃないわね。どっちかというと気を操る能力は、本気になった自分をより上手に操る、暴れ馬を御する手綱として使ってたんじゃないかしら。
 どうしてそこまでの本気になれるのか、本当のところは知らないし、興味も無いわ。わかってるのは、あの子がそれほどの本気を見せた、そして、私と素晴らしい勝負をやってのけた、その事実よ」

 そう。それは美しい月夜に相応しい勝負だった。
 レミリアとて、最初はそこまで期待していたわけではない。ただ、幻想郷に来た景気づけにと、侵入者を血祭りにしようとしただけだった。
 だが、美鈴は抵抗してみせた。他ならぬレミリアを相手に、だ。
 そうすると話は違った。すぐにレミリアは本気になって、美鈴と戦うと決めた。
 すると美鈴は、レミリアの本気にさえ負けまいとするように、懸命にレミリアと戦った。
 レミリアが超人的な力と速さの一撃を繰り出せば、美鈴は研ぎ澄まされた技術と反射神経でそれを受け流した。
 美鈴が起死回生の一撃を放てば、レミリアは時に霧やコウモリとなってかわし、時には正面から手のひらで受け止めてみせた。
 二人の攻防は、どのくらい続いただろう。
 一切の虚飾の通じない領域で、互いに必殺の一撃を交わし合った。
 あの瞬間の喜びは、二人に通じ合うものだったはずだ――少なくとも、そう語るレミリアに嘘は無い。そもそもこの吸血鬼は、魔理沙の知る限りにおいてほとんど嘘はつかない。そういう意味では、魔理沙はレミリアを信頼している。

「そして、最後に私の一撃をさばききれなくなって、ついにあの子は倒れた――」

 美鈴は最後まで諦めなかった。だからこそ、幕切れは呆気なく訪れた。
 ぎりぎりで防ぎ続けるだけで、すでに彼女はぼろぼろに追い込まれていたのだ。その防御を貫いて、ついにレミリアは美鈴を倒した。
 最後まで、美しい勝負だった。その一部始終を、輝く満月だけが見ていた。
 だから、レミリアは美鈴に、最期の一撃を繰り出そうとした。

「と、そこで終わっていれば、本当に美しい一夜だったのにねぇ」

 本当に口惜しいというように、レミリアは深々とため息をついた。



《四》



 紅美鈴は立ったまま夢を見る。
 夜にはなったが、定時にはまだ時間がある。もう少し、門番の仕事は続く。
 だから、美鈴は門前に立ち続けて、でも立ってるだけでは暇だから、気持ち半分だけ寝て、心身を休めている。
 日はとうに沈んだ。空には綺麗な満月が浮かんでいる。涼やかな月明かりの下で、門番は夜の心地良さに身を浸す。
 満月。
 まるい月の浮かぶ夜、美鈴はどうしても、昔のことを思い出してしまう。
 美鈴自身、月の影響を受ける妖怪だ、ということも無関係ではない。天に太陰が浮かべば、陰の気が強くなるのは道理。気を操る妖怪にとって、良くも悪くも、力を振るいやすくなる夜だ。
 もっとも、月の影響でどうこうなるほど、美鈴の自我は弱くはない。
 積み重ねた年月や経験によるところも無くは無いが、それ以上に、美鈴が生まれつき、自我の制御に秀でているということのほうが大きいだろう。

 ――それでも。
 たとえばの話だが――その自我の制御を手放したとしても、辿り着きたい境地がある。
 美鈴は思い出す。自分を変えた、二つの出会いの物語を。





 ――生まれは、とある内陸の街だった。
 妖怪としてはやや珍しいことに、紅美鈴は人の多く住む街の中で生まれた。
 珍しいとは言うが、全く無いわけではない。人が多くとも、人の目には死角があり、街には必ず、人の足が遠のく暗がりがある。
 街の中の、ほんのわずかな隙間。
 その赤髪の妖怪は、そこから現れた。
 現れた、という表現がおそらく適切だろう。自然発生的に湧いて出た、その始まりは、まさに妖怪そのものであった。妖怪の誕生の過程は様々であり、その中にはこうして、親や仲間を必要とせずに生まれる場合もある。
 だから、その妖怪にとって一番稀だったのは、親がいなかったことではない。
 周りに、誰一人妖怪がいなかったことが、最も珍しい状況と言えた。
 親がいなかったとはいえ、その妖怪はそれを不自由とは思わなかった。
 物を知らぬゆえ、ではない。
 物を知っていたがゆえにだ。
 その妖怪にはある程度の知識が備わっていた。人間や妖怪がどんな生き物でどう違うか、そして、自分が妖怪であるということ。ゆえに、自分の名前は自分で決めなければいけない、ということも、ぼんやりと理解していた。
 しかし、理解できぬこともある。
 一番わからなかったのは、これからどう生きてゆけば良いか、ということだった。
 これが人間の赤子であれば、まだわかりやすかっただろう。大声で泣き喚き、助けを求めれば良い。その結果生きるか死ぬかは天運次第であろうが、それ以外に対処の術が無いのならば、泣くより他は無かっただろう。
 妖怪は違った。立って歩き、周りを見聞きして判断することができた。それゆえに、どうすれば良いかわからなかった。
 だから手始めに、妖怪は、周りに順応することから始めようと思った。
 周りに順応。
 つまり、人間に、である。
 普通はそこでつまづく。というより、本来ならば考えもしない。妖怪が人間の中に割って入ったとて、はじき出されるだけに決まっている。妖怪はその本能の強さ、我の強さゆえに、人間に迎合などできはしない。
 だが、できてしまった。
 その妖怪は一番最初に、人間の中に溶け込むことを覚えてしまったのだ。
 できることに疑問を持つ者はいない、当たり前のことだからだ。その妖怪にとって、人の輪の中に紛れ込むことは、その程度のことでしかなかった。
 紛れ込む、という表現を使った。然り、加わる、とは言えない。
 その妖怪は人間の仲間になったわけではなかった。妖怪としての本性を隠したまま、実に上手く人の中に紛れ込み。
 そして、人を襲ってみせた。
 それは、ある時は街の外れだったり、ある時は路地裏の暗がりであったりした。街から生まれた妖怪は、街の中の、人の死角を知り尽くしていた。乱暴を働き、無力な者を打ち倒し、その心に恐れを植えつけた。
 妖怪は、人を襲うということを覚えた。
 そして、あろうことか、すぐに飽きた。
 なるほど、人を襲えばある程度、腹は膨れる。襲われた人の感情が、自分の中へと取り込まれるのがわかる。
 だが、何かが足りない。釈然としない。
 これでは、自分の本当の気持ちは満たされない。
 あるいは――ちゃんと殺しさえすれば、満たされるのか?
 人を襲ったとは言え、ちゃんと殺したことは無かった。人の輪の中に人死にが出ると騒ぎが大きくなってやりにくくなる、それを生まれつき知っていたからだ。決して、人を襲うことに罪悪感があったからではない。
 殺すかどうか。彼女はほんの少しだけそう考え、すぐにその考えを消した。そういうことではない、という確信があった。
 そこまでわかっていながら、では、本当の気持ちとは何なのか。
 それがわからないまま、妖怪はまた人の群れにもぐりこんだ。
 そんな時だった。
 ――見つけた。
 自分の望むもの、その切れ端が、ちらりと。
 人の輪の中、確かに輝いて見えるものがあった。
 妖怪は迷うことなくそれに近づき、そしてまた、紛れ込んだ。





「女の入門希望者だなんて珍しいなぁ。そうか、紅美鈴っていうのか」

 その時初めて妖怪は自分の名前を名乗った。その場で考えた名前だ。これほど密な人の輪に潜り込むのは初めてだったから、そうした工夫も必要だった。
 当時、太極拳は世に出てより、まだ日の浅い新しい拳法だった。新しい、と言ってもそれは余人から見ての話である、起源となると、これが恐ろしく古くなる。一説によると、13世紀にまでさかのぼるという話だが――だが美鈴は今でも、そんなはずはない、と考えている。それはきっと、初めて書物に著されたのがその頃だという話でしかない。この拳法が培われるのにかかった年月は、そんなものではない。
 ともあれ、美鈴が選んだのはそういう、人が伝えてきた古い拳法であった。
 太極拳の道場に、入門。
 妖怪が、である。異常としか言いようが無いが、それを指摘する者はいなかった。

「身寄りが無いんだよな? よく頭金を用意できたもんだ、女手で、相当苦労したろうに――ああ、でも、ここに入門するくらいだから、腕に覚えがあるってことか」

 自分を人間だと偽っての入門だった。
 ほとんど生まれたばかりだというのに、美鈴は呼吸をするようにこの手の嘘をつくことが出来た。人の狭間に生まれた妖怪だからか。彼女の嘘は、実によく人間に馴染んだ。
 ちなみに入門の際に必要な頭金は、人間を襲うときについでに頂戴したものだった。美鈴は人間を襲うのとは別に、人間の作る料理を食べることも好んだため、この手の強奪も日常茶飯事であった。

「よし、師父にしっかり挨拶してこい、そしたらお前も今日から俺たちと同じ門下生だ。家族だと思って気安く頼ってくれ」

 そうして、一番最初に美鈴の世話を担当し、以後も師兄として面倒を見ることになった少年。
 その少年こそが、美鈴が入門した理由だった。



“少年”と呼ぶことをご了承いただきたい。
 少年の名前、それ自体は話の上で重要な要素ではない。ゆえに、便宜上“少年”とだけ呼称することとする。
 少年と言ったが、体格だけ見ると大の大人と変わりは無かった。当時、美鈴の周りの――つまり大陸の人間は今と比べると、男女とも小柄な人間が多い。そんな中で少年の大きさは、すでに成人男性より頭半分ほど抜けていた。しかもまだ成長期だった、将来は大男になるだろうと何度も言われ、事実その通りになった。

「よお美鈴、これから飯か? 昼からも修行は続くんだからほどほどにしておけよ、お前は特によく食うからな」

 そして、成長期だったのは、何も体だけではない。
 彼の拳法の腕は、美鈴が入門した時にはすでに、門下生の中でも上から数えたほうが早い程度になっていた――この道場は、国の中でもかなり規模が大きい、にも関わらずだ。年齢を考えれば驚異的なほどの上達ぶりだった。
 体格も含め、才能に恵まれていたのは確かだろう。しかしそれ以上に、“少年”には更なる高みを目指す気概があった。

「いいか美鈴、震脚は何も力任せに踏めばいいってもんじゃない。大地を踏むのは、大地の力を借りるためだからな」

 そして美鈴は、“少年”のその姿勢にこそ憧れた。
 人間は弱い、そのことを美鈴は実感として知っている。
 だが、その弱いはずの人間が、強くなるという現実がある。
 嘘ではない。
 美鈴は本能で、“少年”と自分の間にある強さの壁を理解している。
 一度手を合わせれば、妖怪としての力を使ったとしても、この人間には敵わないと。
 それが人間の力。
 長い年月をかけて研鑽し伝承した技術と理念を、たった数年で受け継ぎ磨き上げた、“少年”の力。
 なぜ――それに憧れたのか、それはわからない。
 自分より強い相手がいたとて、それがなんだというのだ。だったら下手に手出しをせず、逃げた先でまた弱い人間を襲えばいい。
 当時、生まれたばかりの美鈴に妖怪としての矜持はほとんど無かった。生きること、それが第一に優先すべきことであったはずだ。

「お前も精が出るな、美鈴。修行の熱心さじゃあ俺に勝てるやつはいないと思ってたんだけど、こりゃうかうかしてられないな」

 だがそれでも、美鈴は憧れた。
 あるいはそれもまた、人間の狭間に生まれた妖怪のみが持つ、本能の類だったのかも知れない。
 美鈴自身にも、はっきりした理由はわからない。しかし、それでも確かなこともある。
 美鈴は、憧れた人間に近づいた。
 そして、ただ近づいただけでは飽き足らず。
 もっとその人間に近づきたいと、その人間の真似をすることを覚えたのだ。



 道場での生活は、本当に充実していた。
 人間たちと一緒の生活は、とても楽しかった。
 毎日の鍛錬は厳しかったが、それでも、体の動かし方を覚えるのは面白かった。
 また、そうして鍛錬に熱中しているうちに、人間を襲う機会も次第に減っていった。
 完全に無くなったわけではない。効率的な襲い方を覚えた、とでもいうほうが正しい。
 ――人間にわかりやすく例えるなら、規則正しい生活によって食事量の制限に成功した、という感覚が近い。体の動かし方を覚え、自分のコントロールを身に着け、美鈴は妖怪としても、少しずつ成長していった。

(余談だが、それこそが自分が人間に退治されずに済んだ理由だったのだろう、というのが後日になってからの美鈴の解釈である。人間を襲うことに興味を失ったままの散漫な考え方で、それでも本能のままに今までと同じ頻度で人間を襲い続けたなら、いつかは露見して退治されていたはずだ。全くの偶然でしかないが、人間の道場に入門したことが、一時的に美鈴を救ったということになる)

 そう、美鈴は妖怪であり人間ではない。人間のための拳法を、人間のふりをしながら習得するのはそれなりに骨が折れた。
 だがそれでも、美鈴は少しずつ、人間の拳法を学び、身に着けた。
 それは、例えるなら、険しい山道をすり足で登るような行為だ。
 ゆっくりと、慎重に労力を費やし、足裏で山肌の形を確かめながら、遠い頂を目指すような。
 着実に前進した。
 確実に上達した。
 それが亀の歩みでしかないことを、美鈴自身、よくわかっていた。
 それでもいい。
 引き離されるまま、諦めるよりは、ずっといい。
 美鈴は追いかけた。最初に目標に定めた、“少年”の背中を。追いつけないと知りながらも、いつか追いつきたいと願っていた。

 それだけなら――才の無い者が愚直に武を追求したというだけなら、どこにでもある話でしかなかったのだが。
 もちろん、それだけで済むはずが無かった。
 時は経ち、修練を重ねて、三年が過ぎた頃のこと――



《五》



「番付? この道場のですか?」
「そうだ。道場全体を上げての腕比べの勝負をするんだ」

 美鈴が入門して、三年。
 三年も経てば、美鈴もそれなりの腕前にはなる。基本的な部分はしっかり習熟したつもりにはなっていた。
 だが、目の前の少年との差は、縮まった気はしなかった。“少年”は、三年をかけて、さらに強くなっていた。体格も大きく育ち、少年から青年へと変わろうとしていた。

「けど、勝負って言ったって、いつもの散打と何が違うんです?」
「大いに違う。散打と違って、一回一回の勝負をもっと真剣にやるんだ」

 散打とは、日本で言うところの組手である。ある程度手加減はするものの、一対一での勝負形式で腕を競い、研鑽する。
 それを真剣にやるんだ、と“少年”は言う。
 美鈴は首をひねった。彼女の知る限りにおいて、人間はそこまで命を粗末に扱うような生き物ではない。

「って、ああ、違う違う! 美鈴、武器は無しだ、素手の勝負だよ」
「ああ」

 太極拳にも武器を使う技術はある。というより、中国武術において武器を扱わない武術などほとんど無い。
 ゆえに、真剣勝負と聞いて、白兵武器を思い浮かべた美鈴はそこまで間違えているわけではない。ただ、今回のように大規模で真剣な勝負の際は素手で行うというのが、この道場の習わしだった。
 それを聞いて、美鈴はそっと胸を撫で下ろす。武器の扱いは、どちらかというと苦手なほうだった。何せ手加減が難しいから――人間のふりをするのもそれなりに大変なのだ。

「そうだ。これはチャンスだ美鈴。滅多に手を合わせられない師兄たちと手合わせができる。俺はさらに強くなれる」
「前から聞きたかったんですけど――」

 三年も経てば、美鈴も道場に慣れる。
 道場の人間たちとも気心の知れた仲になったし、何かと世話を焼いてくれたこの少年とは特に親しくなった。
 とは言っても、色恋の類の関係ではなかった。美鈴からすれば、“少年”が自分とは違う生き物であるという意識はまだ拭えていなかったし、何よりそんな浮ついた感覚で“少年”に憧れたつもりではなかった。
“少年”からすれば、どうだったろうか。
 美鈴にはわからなかった。知りたいと思ったことも無かったし、少なくとも、そういったそぶりは見せなかったはずだ。
 だが――だから、というべきか。
 その程度の仲の良さでは、気になっていたその理由を、教えてもらえていなかった。

「ん、何だよ?」
「どうして、そんなに熱心なんですか? 強くなることに」
「え?」
「他の人たちはわかりますよ。強くなって兵隊になって武勲を上げたい、あるいは自分も道場を開きたい――人それぞれ理由があるのが普通だし、だから頑張ることができる。
 でも、あなたにはそれが無い。なのに、強くなることにどこまでも貪欲だ」

 美鈴にすれば、良い機会だった。
 何しろ、三年が経ったのだ。
 三年が経って、妖怪の美鈴の見た目は、何一つ変わらなかった。
 今はまだ不自然には思われていない。もとより、美鈴は生まれた頃から大柄な女だった――繰り返すが、当時のその国には小柄な女性が多かった。成熟の早い少女が入門して、三年経ってもなりかたちが変わらなかったとて、そう珍しくはない。
 だが、この先はわからない――美鈴なりに、考えてはいたのだ。

「どうしてあなたは、そこまで、強くなろうとしているんですか?」
「――――それは」

 だから、道場を離れるべきかも知れない。
 美鈴はそう考えていた。
 確かに、まだ拳法を極めたとは言えない。師兄たちに比べれば美鈴の打つ套路は稚拙であり、まだまだ修行を続けなければならない。
 だが、それでは“少年”に追いつけない――より正確に言うと、仮に追いつくことが出来たとしても、それより先に、自分の正体が露見する。
 ならば先に行方をくらませ、一人で修行を続けたほうがいい。あるいは、他の道場に入門するのもいいかも知れない。
 そう考えていた矢先に、今回の番付勝負の話だ。道場を上げての大一番。
 少年の言うように、確かにこれはさらなる経験を積み、自分の腕を上げる良い機会だ。そして何より、一つの区切りとしてわかりやすい。
 だから、気になったことを尋ねてみた。
 駄目で元々だった。教えてもらえなくても、別にそれもいいか、と思っていた。
“少年”は。

「――――妖怪だ」

 思いのほか、素直に答えてくれた。
 答えた“少年”の目は、暗く鋭い光を宿していた。


 /


 そして、当日――よく晴れた、やや風の強い昼日中。
 ついに番付勝負大会が始まった。
 国の中でも大きな街だとは言え、こうした大きな大会ともなると娯楽としては充分だ。一般からの観客も多く集まり、場外の観客席の周辺には屋台なども出て、ほとんどお祭り騒ぎになっていた。
 勝負は、トーナメントのような形式で行われた。負けた者でも戦意さえあれば残ってもいいが、基本的には勝った者が勝ちあがっていく形だ。
 また、真剣な勝負といったところで、勝負する相手は顔見知りの兄弟弟子が相手だ。ある程度はルール上の裁定や当人同士の判断によって、危険な技は極力減らしたり、寸止めで勝負を止めるように計らわれている。
 それのどこが真剣な勝負だ、と思う者もいるかも知れないが、しかしそうでもしないと死者が続出してしまう。中国武術は基本的に戦争の歴史の中で育まれてきた武術。それは太極拳においても例外ではない。美鈴の習った流派では特に、人体構造や急所についてもよく学び、発勁による打撃を主体に教えていたので、人体には危険な技も多く存在した。
 そういった技を本気で使うことはできない。使っても反則というわけではないが、ほとんどは寸止めで使われる。そうした技を審判が見極め、勝負ありを言い渡す。
 それでも多少のけが人は出る。だが、その程度なら日常茶飯事だ。骨の一本や二本なら二週間もあれば治るだろう、というのが、気の長いこの国の人間の考え方だった。



 ――ここでやや唐突だが、発勁と気功の原理について簡単に説明する。
 発勁。
 筋力の効率的な運用方法を指す。体じゅうの筋肉の動きを綺麗に力強く連動させることで、ごく自然、かつ確実に力を発揮する技術である。通常、人間は野生の獣とは違い、力をほとんど有効に使えていない。だが発勁を学ぶことで、人間でも強力な力を使うことが可能となる。
 気功。
 大雑把にいうと、生物の持つエネルギー全般を指す(厳密には無生物も持っているが、ここでは簡略化して説明する)。中国武術においては、自身の体内の気のコントロールを習得することで、より質の高い――達人ともなれば超人的な力を振るえるようになる。そして気のコントロールを覚えるためには、自身の体をよく知らねばならない。だが、それゆえに習得が難しい技術であり、気を自分の意思で使える武術家は一握り、さらにそれを実戦において武術として使えるのはごく限られた人間のみ、ということになる。
 何かと説明が多くなって申し訳ないが、ひとまずは、発勁と気功は別々の技術であり、特に気功は高等技術である、ということだけ覚えておいてもらいたい。



「勝ち上がってきたな、美鈴」

 そして、その時が訪れた。
“少年”は順当に全勝して上がってきたが、美鈴は少し勝手が違う。

「いやいや、もう必死でしたからね。ほとんど運みたいなものですよ。明らかに勝てない人にはさっさと降参してきましたし」

 負けた者でも残っていい理由がここにある。序盤から明らかに格上の達人とぶつかった場合、腕自体はそこそこだったとしても、負けた時点で最下位扱いというのであれば、番付勝負という目的が叶わなくなる。
 美鈴の腕もずいぶん上達はしていた。ある程度は実戦でも勝てるようにはなっていた。
 だがそれ以上に、美鈴は相手の力量を見抜くのが上手くなっていた。主観的なものだが、相手の一挙手一投足を見れば、その力量がどの程度かが把握できたのだ。なぜそんなことが可能になったかは美鈴自身にもわからなかったが、この大会ではその能力が大きく役に立った。
 だからこうして、彼の前に立つことができた。

「遠慮はいらないぜ、美鈴。全力でかかってきな」
「え? でも」
「心配すんな、お前程度の技をまともに食らったりはしないし、もしそうなったら、俺がそこまでの男だったってことだ」

“少年”の言葉に嘘は無い。それほどに、二人の力量差は歴然としていた。
 それでも美鈴は本気で“少年”を倒すつもりはなかった――妖怪としての力を使うなどもってのほかだったし、危険な技を使うつもりも無かった。まともに当てられるとは思わないが、それでも万が一があるのが武術の世界だ。
“少年”の、武術に打ち込む姿に憧れて、この世界に飛び込んだのだ。その憧れの相手の体を壊すわけにはいかない――この大会でお別れになるならなおさら、そんな置き土産を残すわけにはいかないだろう。

「――わかりました、全力で行きます」

 ただ、その言葉自体は――嘘は嘘だったかも知れないが、“少年”に対してのせめてもの誠意から出た言葉だった。
 持てる技と力を、できうる範囲で全て使おう。
 今まで学んできた、積み上げてきた自分なりの武術を、この人に見てもらおう。
 それがその時の、美鈴なりの本心だった。

「いい返事だ――来い、受け止めてやる」 

 試合が始まった。
 美鈴が挑み、“少年”が受けて立つ。
 美鈴の拳法は、美鈴自身が思うほど弱いわけではない。基本となる発勁の理念を忠実に習い、体に刻み込んできた武術は、基本がしっかりしているがゆえに、実戦には強い。
 技の種類も豊富だった――というより、時には技の型には捉われない動きも見せた。基本を覚えたことによって、変化を加えて動いても、体が勝手に柔軟に対応してくれる。臨機応変に、流れるように技を繰り出した。
 また、“少年”は知るよしも無いが、美鈴は人を襲い慣れている。実戦慣れというその一点のみなら“少年”をも上回る。
 だが、それでもまだ“少年”には及ばない。
“少年”の拳法は、発勁の力強さ、拳法のしなやかさ、共に美鈴の上を行っていた。さらに“少年”は、気功を体に充実させ、より頑強な肉体を作り上げることに成功している。この歳の人間にしては、驚異的な成長と言えた。

「ふっ!」
「甘い!」

 遥か格上の相手だが、今度ばかりは降参する気は無い。美鈴は果敢に“少年”を攻めた。
 拳は受け止められた。
 蹴りは間合いを外され、体勢を崩された。
 密着して打ち込もうとしたら、逆に打ち返された。
 それでも、美鈴は倒れなかった。一度倒れたが最後、“少年”にトドメを刺される――正確には寸止めだろうが、審判に勝負を止められる。
 何度も殴られ、蹴られた。致命的な攻撃だけは受けないように立ち回った。それでも打たれるうちに消耗が色濃くなっていく。
 限界が、近づいていた。
 とは言うが、美鈴は妖怪だ。本当の体力には、まだ余裕がある。
 だが、人間を装う限りにおいては、これ以上の攻撃は食らうわけにはいかない、という意味での限界がある。そうして美鈴自身が決めた限界が、どんどん近づいてくる。

「どうした美鈴――その程度か」
「――――!」

“少年”にはまだ、挑発してくるだけの余裕まであった。それに負けないよう、美鈴も必死に技を繰り出した。
 拳。肘。肩。膝。脚。
 どこで打とうとしても全て届かない。
 打撃に虚実を混ぜた、歩法に緩急をつけた、“少年”の動きをひたすらに追いかけた、攻める時は常に、最良の型をなぞろうとした。
 全て、届かない。
 あれもだめ。
 これもだめ。
 所詮、まだまだ、この少年には勝てはしない。

「違うだろうが、美鈴! お前は……その程度じゃ、無いだろう!」
「っ……!」

 勝てない、ただそれだけならいい。勝てる相手ではないのは、最初からわかっていたことだ。
 だが、美鈴には心残りがあった。
 違う。
 こうではない。
“少年”に見せたいものは、こんなものではない。
 自分の積み重ねた全ての武術を見せたいと思った。だから、見せたつもりだった。
 だけど、それでも、まだ足りない。
 勝てないのはいい。
 それでも――自分にできることをやらずに終わるのだけは、許せない。

「把っ!!」
「まだっ!!」

 トドメとばかりに放たれた“少年”の拳を、すんでのところで両腕で受け止めた。
 受け止めたとはいえ、発勁を込めた少年の一撃は体の芯に響く。妖怪の体力を持つ美鈴でさえ、衝撃に身を折りそうになる。
 ――ここまでだ。
 人間の振りをするなら、ここが限界だ。
 ぎりぎりでかわし、いなし、受け止め続けた、だがそれでも損耗は蓄積されていた。人間である以上は、もうここで倒れないとおかしい。
 だから、美鈴は覚悟を決めた。

 ――妖怪だと、ばれても構わない。
 ――だから。これが、最後だ。

「っっ……! っぁああ!!」
「!?」

 美鈴が前に出た。それは“少年”から見れば、無謀な突進に見えた。
“少年”は美鈴の突進に合わせ、まっすぐに拳を振るう。
 美鈴は、拳めがけて、まっすぐ前に――その一瞬。
 美鈴が震脚を踏んだ。腹に溜めた呼吸を吐いた。
 激突。
“少年”の全霊の一撃。
 美鈴は、拳を額で受け止めていた。額からは血が噴き出し、“少年”の拳にこびりつく。
 頭蓋骨の一番硬い部分――とは言え、それでも吹っ飛んで倒れなければおかしい、それだけの一撃だったはずだ。
 美鈴が妖怪だから――いや、それだけではない。

「づっ……!?」

“少年”の拳に、激しい鈍痛が走る。
 美鈴の、額の一撃によるものだ。
 頭突き――太極拳にも頭突きを含めた套路は確かにある、しかし、それは相手の拳を破壊する類の技ではない。本来、太極拳では相手に攻撃されたなら、それをいなすと同時に、相手の殴る勢いを利用して体勢を崩すように教えている――だが美鈴にはまだ、その技量が無い。
 それ以前に美鈴は、頭突きを教わったことが無い。だが教わっていなくても、美鈴は知っていた。太極拳の技術――その基礎の部分さえわかっていれば、体のどの部分でも、殴ることが可能であることを。発勁とは、それだけ優れた技術であることを。
“少年”に一撃を届けるためには、この方法しかなかった――自分から殴って届かないのなら、相手が殴るその拳を殴ることしか、思いつかなかった。
 そして、美鈴は思う――まだだ。
 自分が届けたかった思いは、こんなものではない。

「――――!」

 動いた。前へ。
 拳の内側、懐に、するりと入る。
“少年”は動けない。拳の痛み、そして何より、必倒のつもりで美鈴を打った、その一撃の後の硬直によって。
 ――そして、美鈴が最後の一撃を放つ。
 腰を低く落とし、震脚を踏む。先の頭突きの時と同じ、力強い震脚だ。
 同時。

「――ハァッ!」

 もう一度、吸った息を吐き出した――気功が体に満ちた。
 大地を踏む力から生まれた発勁が、体じゅうを駆け巡る。
 体内に生まれた気功が、発勁に乗って増幅し、加速する。
 走る発勁と気功が向かう先は、美鈴の拳。
 力がみなぎり、凝縮される。
 今までに無い速度で、体が動く。
 美鈴の身体の全てを最大限に機能させる、まさにそれこそが「中国武術」の原点。
 全身全霊を込めた一撃。
“少年”の胸にめがけて、まっすぐに振り抜いた。
 その直後。
 美鈴の胸に去来したのは、二つの思い。
 その先もずっと忘れられない、二つの思い。
 ――やった、と思った。今までに無い最高の一撃を放った、自分の持てる全ての力を出せた、“少年”に全てを見せられた、その満足感。
 ――しまった、と思った。



 一つだけ、注釈を加えておこう。
 この時点での美鈴が覚えた武術はあくまで、人間の動きによるものでしかない。たとえば、妖怪の速さや力をそのまま使って拳法を使おうとしたなら、それはとても歪なものになってしまう――妖怪としての拳法の使い方を美鈴が習得するのは、もう少し後の話になる。
 ゆえにこの一連の美鈴の動きは確かに、あくまで人間の枠内での力を使ったものだった。“少年”の拳を受けて立っていた、その耐久力は妖怪の力と言えなくはないが、それ以外――“少年”に拳を打ち込む直前までの一連の動きは確かに、美鈴が積み上げ磨き上げた、中国武術の技量によるものだった。
 美鈴の誤算は三つ。
 一つ。中国拳法において、最高の一撃はそれだけで人体を容易に破壊する。後の世に出る八極拳の達人ほどになると、人体のどこを打とうと一撃でショック死せしめたという逸話もある。もっとも、伝説とも呼べるほどの達人の話なので、今回のケースに当てはめるにはいささか極端には違いない。
 二つ。最後の刹那、手加減することを完全に忘れてしまったこと――人間の枠を超えた、妖怪としての力。拳が“少年”の胸を打ち抜いた、その本当にごくわずかな――まさに瞬く間も無い刹那のことだったので、強さの度合いだけ見ればほんの少しでしかなかったが、だがそれでも――人間としての動きに、妖怪としての全力を、上乗せしてしまった。
 三つ目、そして最大の誤算。
 発勁だけならまだ良かった。だが、発勁に乗せて走らせた気が、いくらなんでも大きすぎた。
 あの瞬間だったから生まれた気だった。最高の発勁だからこそ最大の気功を生み出せた。だが、その最大の気功が、人間の枠を大きく超えていた。
 その瞬間、美鈴は初めて知った。
 自分の能力が、気を操る能力だということを。



 その日の大会での死亡者は、一人だけだった。
 美鈴はその試合の直後、行方を眩ました。



《六》



 殺した。
 殺した。
 殺した。
 何度悔やんでも、結果は変わらない。
 殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した。
 結果は変わらなくとも、悔やむ思いは止められない。

 ――ずっと慕っていた人間を。
 数え切れないほどの恩を受けた人間を。
 これから先、自分なんかよりももっともっと、強くなるはずだった人間を。
 自分のこの手で、殺してしまった――

 思えば、初めて殺した人間だった。
 今まで人間を殺さなかったのは、必要ではなかったというだけの話だ。あとは、人間を殺せば騒ぎが大きくなって人を襲いにくくなるとか、そういう、美鈴本人にとってはどうでもいい話でしかない。
 人間の命など、その程度でしかなかったはずなのに。
 ……“少年”との試合で受けた傷は、決して軽いものではない。
 人間なら倒れていなければおかしいくらいに打撃を食らった。妖怪の美鈴であっても、そう簡単に全快するものではない。
 だが、傷の痛みなどちっとも感じなかった。
 心臓だけが、痛かった。
 剣で串刺しにされたように、痛かった。
 他ならぬあの人を、自分の手で殺してしまった。
 美鈴の中で“少年”の存在は、こんなにも大きなものになっていた。
 三年を共に過ごした。
 ひたすらに強くなろうという、その姿に憧れて。
 人間のふりをして人間の輪に紛れ込んだ、今思うと、その始まりさえ間違いだった気がしてくる。
 ――だったら、どうすればよかったというのだろう。
 わからない。
 美鈴には、自分が今どこに立っているのか、どこに向かって走っているのかさえ、よくわからない。
 それでも。
 立ち止まったら、気付いてしまう。
 確かな絶望がすぐそこにあることに、気付いてしまう。
 だから、その事実から逃げるために、美鈴はただひたすらに駆け続けた。

 向かう先は、とある山村だった。
 半ばは意識的に、その場所を目指していた。ただ、自分がやろうとしているそれが、何の意味も無いことだということから、目を逸らしていたかった。
 そこは“少年”から聞いた、彼の生まれ故郷だった。



「妖怪だ、美鈴。俺のふるさとには妖怪がいた。年に一人、人間を食べる妖怪だ」

 ――あの時、そう語った“少年”の眼には、暗く鋭い光が宿っていた。

「年に一人、人間さえ差し出せば村は助けてやると、そう言われていた」

 なるほど、そういう妖怪もいるだろう。美鈴は納得する。
 妖怪が人を襲うのは自然の摂理だ。中には人間の味を覚えるものもいる。あるいは、その村を支配下に置くことで、村人たちの恐れそのものを糧としていたのかも知れない。
 ――美鈴にとって、他の妖怪のことなど他人事だ。美鈴には妖怪に仲間意識など無い。同じく人間に対しての仲間意識も無いので、“少年”の身内に同情することもない――当時の美鈴は知らなかったが、妖怪にはこうした個人主義の持ち主は珍しくはない。

「村ごと逃げ出せば、追いかけて皆殺しにすると脅されていた」

 皆殺しにすることが本当に可能だったとは思えない。
 村は孤立しているわけではないのだ。近隣の村や町との交流もあれば、人の出入りもある。現に“少年”は道場に入門するために村から出て街に来ることができた、一度も襲われずにだ。
 だがそれでも、村人たちは妖怪を恐れた。
 人身御供を差し出すほうを選んだのだ。

「村のみんなが悪いとは言えない。俺の妹が生贄にされたことも……恨んでないわけじゃないけど、でも、それが俺の妹だったのはたまたまだ、みんなは悪くない。妹じゃなかったら、俺自身が殺されてたかも知れないし、そうでなければ他の人が選ばれてただけの話だ」

“少年”の言葉には一切の嘘は無い。
 美鈴はただ聞いていた。疑う余地の無い言葉というものはあるのだなと、その時はそんな風に考えていた。

「だけどそれでも、許せないものがある」

 それは、妹を見殺しにした村人か。
 妹を殺した妖怪か。
 いや、どちらも違う。それは。

「俺は、弱さが許せない」

 それは、妖怪を恐れる村人たちの弱さであり。
 それは、殺されるしかなかった妹の弱さであり。
 そしてそれは、妹を助けられなかった自分の弱さだった。

「村のみんなは妖怪を怖いと思ってる――俺もだ」

 どろり、と“少年”の眼の中で、濁った炎が燃えていた。
 それは自分を焼く炎。自分を許せぬ者が持つ、暗く激しい熱の固まり。

「妖怪の姿を思い出すだけで足が震える。吐き気がする。だから、村のみんなが怖がるのもわかる――だけど、そこで止まるのは許せない。俺は、弱いものが、何より憎い」

 だから、とそこで言葉を切って、“少年”は美鈴の眼を見た。
 自分の弱さを燃料に、炎が彼の中で燃えているのがわかる。“少年”は、弱いからこそ強かった。

「俺はこの大会が終わったら、その妖怪を殺しにいこうと思う――ひとつの、けじめとして」
「私も一緒に行きますよ」

 するりと返事が喉から漏れていた。
 なぜ自分がそう答えたのか、美鈴はわからない。
 あるいは“少年”がけじめをつける瞬間に興味があったからかも知れないし、単純に友情を感じたために力になりたかったのかも知れない。

「はは、バカ、お前にゃまだ早いよ……でも、気持ちはありがたいよ、本当に」

 笑った“少年”の眼からは、熱の固まりは消えていた。いつもの朗らかな少年。
 だが美鈴は忘れない。“少年”の身の内に、炎があることを。
 それこそが、彼の原動力であったということを――



 だから、こんなことには何の意味も無い――少なくとも、美鈴や“少年”にとっては。



 道場のあった街から少年の故郷までは若干遠く、人の脚では普通は三日はかかるはずの道程だった。だが美鈴は、一日とかけずに辿り着いた。先の少年との試合で発勁と気功のコツをしっかりつかんだ美鈴は、常人には不可能な歩法での長距離移動を可能としていた。
 辿り着いた頃には、夜になっていた。山間の夜は月と星が照らすため、意外に明るい。
 村に辿り着いた。どこにでもある寒村に見えた。中に入って人と触れ合えば、また違った物が見えたかも知れないが、美鈴はそれに用も無ければ興味も無い。
 素通りした。
 山に入った。
 山の中、木々が生い茂ると、月や星の明かりが届きにくくなるために余計に暗くなる。
 美鈴は夜目が利くから問題は無い――もっとも今の美鈴にすれば、眼をつぶったところでさして問題ではあるまい。
 そこから先は、詳しい場所を聞いたわけではなかった。だが、村の配置と近場の山道の位置関係からおおよその推測は立つ。
 そして何より、龍脈の流れを感じる。
 龍脈とは大雑把に言えば地面を流れる気の流れのことだ。ただしより正確に言うと、地面のみの流れではない。大気や森、川や山、天候に至るまで、全ての気の流れを指す――地の脈を特に龍脈と呼ぶことが多いのは、単に人間がより多く接する気脈であるからに過ぎない。
 なぜ龍と言うのかといえば、古来より人が龍を流の中に見てきたからだ。例えば河が流れればそれは水の龍の流れであり、風が流れれば風の龍がそこにいる。風に雲が乗れば天候の龍がいて、山が連なれば地の龍がそこにいる。
 美鈴はただ、龍の存在を読み取るだけで、己の向かうべき先がわかる。
 山道を跳ねるように駆け、ついに辿り着く。

「いぎぃい」

 と、文字に直すとすればそんな鳴き声だったろうか。高いような低いような、錆びた金属を引きずるような鳴き声だった。
 大柄な猿がそこにいた。
 大きい。優に美鈴の三倍を超えている。村にあった小さな家々であれば、簡単に踏みつぶされそうなほどだ。
 なるほど、これはただの人間には恐ろしくも感じるだろう。
 こんな大きな猿が、よく森に隠れていられたな、と美鈴はどうでもいいことに感心した。

「…………」
「貴様……ナニ、何者……? 弱イ、弱イ妖怪、オ前、何ノ用ダ」

 どうやら人語を解するらしい、耳障りな声で話しかけてきた。
 ――ああ、確かに美鈴は、この大猿から見れば弱く見えるのだろう。歳も幼い、生まれ持った力も、妖怪の中ではさして強くはない。
 だから大猿にしてみれば、次の美鈴の行動こそが不思議だったはずだ……普通、弱い妖怪は、好んで強い妖怪を襲ったりはしない。
 暗い森の中。美鈴は猿を見て、ざり、と前に歩を進めた。
 その一歩に、美鈴は、あらん限りの敵意を込めた。獣の妖怪なら敏感に察するだろうという期待を込めてだ。
 果たして、大猿は美鈴の期待に応えた。

「いぎぃいいい!!」

 美鈴の敵意が気に障ったか、猿が襲いかかってきた。
 なるほど、重量感溢れる一撃だった。その一撃を食らえば人間はぺちゃんこであり、その死体を見れば無力な人間たちは恐れおののくことであろう。
 だが、動きは鈍重だった。
 美鈴は懐に入り込む。何のことは無い、ここまで大きければ、道場にいた門下生たちならほとんどの人間に可能な動きだ――妖怪猿の姿にすくんでいなければだが。
 美鈴の頭の上で、猿が困惑の声を上げていた。美鈴のような小さな人間に懐に入られた経験が無いために、姿を見失ったのだろう。
 さて、おさらいだ。
 美鈴は思い出す。“少年”を葬り去った時の、あの一撃を。
 呼吸を特に深く吸い、吐き出した。呼吸は気功を生み出す技術の根幹だ、疎かにしてはならない。
 腰を深く落とし震脚を踏んだ。自分の気を地脈に打ち込むことで地脈の気の流れを活性化させ、その気を自分の体内へと吸い上げる。
 吸い上げた気を、爆発させるイメージ。
 どん、と美鈴が凄まじい勢いで跳んだ。
 気の力と、妖怪の力を組み合わせた跳躍――美鈴にとっても、初めての試みだ。だが、思いのほか上手くいった。
 目指す先は、汚らしい毛皮と分厚い胸板に覆われた、心臓。
 跳躍の勢いのままに、美鈴は脚を振り上げる。
 途中、空中の気脈を一度踏んだ。
 空中での踏ん張りは難しいが、なに、そこに気の流れがあるなら、美鈴にできぬわけがない。
 空中の龍脈から新たに吸い上げた気、そして最初の震脚で大地から吸い上げた気を、自分の体内の気と融合させる。
 大地と大気、二度の震脚で、発勁をさらに加速させる。
 発勁が気を加速させ、気が発勁をさらに力をみなぎらせる――向かう先は、振り上げた右脚。
 あとは、跳躍と回転の勢いのまま、回し蹴りを放つだけでいい。

「把……!」

 最後まで大猿はまともな反応が出来なかった。
 胸板を蹴り砕く。
 衝撃は骨を貫き、内臓へと届く。
 美鈴の気が妖怪猿の気を吹き飛ばし、誘爆させる。
 どん、と音を立てて、大猿の体内がはじけた。さすがにこれだけ大きな妖怪なら、気の総量が大きい分、ダメージも段違いだったようだ。
 そのまま、大猿は仰向けに倒れた。体じゅうの血管が破れ、血まみれになっていた。
 風をはらませて、美鈴も軽やかに着地した。何の達成感も無い、疲れ切った表情をしていた。
 たったそれだけ。
 あの耳障りな鳴き声は、もう二度と聞こえなくなってしまった。

「…………」

 猿の死体を美鈴は見る。
 とるに足らない弱さだった。
 本当に、ただ大きいだけの妖怪だった。
 なるほど確かに、あの大きさなら人を脅かすのはたやすいだろう。おそらく、人が驚いてくれるのに気を良くして、それだけに進化してしまった類の妖怪か。
 どうでもいい。
 とにかく、弱かった。
 この程度なら、“少年”なら楽に倒せたはずだ。踏み潰されないようにだけ気をつけて攻撃すればいいだけだ。武器を使ってもいいし、使わなかったとしても時間をかけて滅多打ちにすればいい。いくらでも倒しようはあったはずだ。

「……この程度の妖怪が、怖がられて――あの人が強くなった理由って、この程度だったのか――」

 違う、そうではない。
 否定したかった。だが、すぐ目の前に、大猿の骸が横たわっている。

「理由とか、そんなの、どうでもよかったってこと、だったのかな……」

 理屈はわかる。
“少年”は幼い頃から、この妖怪に脅かされて育ったのだろう。その幼少時の恐怖が、大猿の姿をさらに巨大に見せた。
 だから、とっくに大猿を倒せるほどに強くなっていたのに、自分ではそれに気がついていなかった――それだけの話なのだろう。

「私は……」

 ――だから、これは何の意味も無い行為だった。
“少年”が倒そうとしていた仇さえ倒してしまえば、“少年”の遺志を汲んだことになるかも知れないと、少しだけ期待していた。
 そんなわけがない。
 あの少年は……それを、ただのけじめだと言っていた。
 確か――なんだっただろう。弱さが許せなかった?
 馬鹿な。
“少年”はもう、とっくに強かった。
 なら、この猿さえ倒してしまえば、もう恐れるものは何も無かったのではないのか。

「なのに、私が、殺してしまった」

 そう、“少年”の道行きを、ただふさいでしまった。
 これからも、もっともっと強くなれたはずだった。美鈴も、それに少しでも近づきたかった。
 近づこうとすることが、間違いだったのか。
 憧れたこと、その一番はじめの感情が、何よりの間違いだったのではないのか。

「私は……私は、ぜんぜん、強くなんかない」

 ――そう、こんなものは、ただの付け焼き刃でしかない。
 確かに美鈴は強くなった。だがこれは、人間の技術によるものではない。
 妖怪としての身体能力。
 そして、気を操る程度の能力。
 これに武術を組み合わせれば、確かに今以上に強くなれる。今はまだ妖怪の力で武術を使うと荒削りになるが、そのムラはじきに取り除かれるだろう。
 だがそれはもう、人間が生み出した武術ではない。
 紅美鈴が自分のために生み出す、体と能力の使い方だ。人間の武術は、そのちょっとした材料でしかない。
 それは、本当に――人間の武術に負けないほどの、強さなのか。
 そしてそれは、本当に――自分がかつて憧れた、“少年”の強さだっただろうか。

「…………」

 暗い森の中、美鈴は自分の手を見つめる。
 憶えている。“少年”を殺したあの手ごたえは、しっかりと体に刻まれている。
 あの最後の瞬間、“少年”を倒した拳――あれは確かに、美鈴自身が満足できるくらいの、渾身の一撃だった。たとえ能力の後押しがあったとしても、その事実に変わりはない。
 なら、それは……“少年”を超えたということに、なるだろうか。

「違う……!」

 ほとんど不意打ちで“少年”に一撃入れただけ。それで“少年”を超えたことになるわけがない。
 何度も“少年”の拳を受けた。全て、美鈴の上を行っていた。あまつさえ、ところどころでは、手加減されていたのもわかっていた。
 何より、“少年”にはまだ先があった。今の美鈴を置き去りにして、さらに強くなれたはずだった。
 それを、美鈴が踏みにじった。
 妖怪であることを隠したまま、妖怪の力で“少年”を殺した。

「私は……! じゃあ、私が今まで積み上げた武術は、一体なんだっていうの!?」

 ――そうだ、三年の歳月を費やした。
 弱い人間でも、妖怪を脅かすほどに強くなれる、その強さに憧れて。
 人間のその強さを知りたくて、毎日を武術の修行に費やした。
 人間の強さを知るため、人間の武術を知るため、ただそのためだけに修行して、近づいたつもりでいて。
 ――あげくに手に入れたのが、妖怪としての力でしかなかった。
 なら、美鈴はもう、妖怪の力しか手に入らないのではないか――

「じゃあ私は! どんなに追いかけても、人間の強さには、届かないじゃないか!」

 ――そうだ。それこそが、美鈴の前に立ちふさがる絶望の壁。
 美鈴自身気付いておきながら、必死に目を逸らしていた、避けられない現実。

「私は! こんなものが欲しくて、あの人を追いかけたんじゃないのに……!」

 いくら、武術を学ぼうと。
 いくら、鍛錬を重ねようと。
 そうして手に入れた技術を、妖怪の力を使うためだけに利用して。
 それで手に入るのは、妖怪の強さでしかない。
 ――それは侮辱だ。
 千年を優に超える歳月をかけて積み重ねてきた、人間の武術に対しての侮辱でしかない。
 ならば、美鈴では届かない。
 妖怪の力を使う限り、美鈴は決して、人間の武術の深奥には届かない。
 そして――美鈴は知っている。美鈴自身、妖怪としては決して強くないことを。
 妖怪の強さは生まれつきの強さでほとんどが決まる。技術や戦術を学べば多少の助けにはなったとしても、妖怪の力を頼りにする限り、より強大な妖怪には決して敵いはしないということを、美鈴は生まれつきの本能で知ってしまっている。
 だから、妖怪としても、美鈴は半端な強さしか得られない。
 妖怪として強くなることはできない。人間の強さを得ることも、できはしない。
 人間の――“少年”の持つ、強さを求める心には。
 もう二度と、届きはしない――

「私は……っ! これからどうすれば……! わからない、何を目指せばいいの!? わからないよ……!! 誰か! 誰でもいい、誰か、教えてよぉ……!!」

 慟哭は届かない。
 いくら願っても、その願いはむなしく闇へと消える。
 美鈴を導くはずだった、道しるべは。
 美鈴が、その手で、殺してしまった。

「――――――――!!」
 
 夜の森の中、美鈴がくずおれる。
 闇の中、寒風が吹きすさび、美鈴の体を凍えさせていく。
 涙に濡れ、がたがたと震えて地に膝をつく美鈴――彼女に手を差し伸べる者は、誰もいない。
 ただ、びょお、という風が、木陰を揺らし。
 木陰の向こうから時おり覗く満月だけが、美鈴を冷ややかに見下ろしていた。















 慟哭に慟哭を重ねた末に、疲労で体も頭も動かなくなった。
 地に倒れ伏す美鈴――人間なら、このまま死ぬことができただろう。そのほうが、まだ楽だったかも知れない。
 だが、美鈴は死なない。
 妖怪だから、というだけではない。
 周りの龍脈――大地、大気、生い茂る草木から、ほんの少しずつ、美鈴の中へと気が流れ込む。
 無意識の内に、美鈴は自身を回復させる。
 美鈴にとっては、気さえ流れていればどこであろうと、温かな寝床と変わりはしない。これは、休養のための睡眠でしかない。
 その、意識が完全に落ちる間際――
 閉じていく目蓋の裏側に美鈴が見たのは、“少年”の最期。
 美鈴が拳を打ち込んだ、その後の話。





 ――しまった、と思った。
 これ以上無いほどに完璧な、渾身の一撃を、打ち込んでしまった。
“少年”の体が、為す術も無く吹き飛び、転がり、崩れ落ちる。
 死ぬ。
 絶対に助からない。
 わかっていながら、美鈴は、駆け寄らずにはいられなかった。
 助けたい。
 殺したくない。
 失いたくない。
 叶わぬ願いと知りながら、美鈴は、願わずにはいられなかった。
“少年”の体を抱き寄せる――瀕死の人間を下手に動かすことがどれだけ危険か、そんなことを考える余裕さえ、美鈴には無かった。
 自分の手の中で、大事なものが、失われていく。
 気を操る能力を持つ美鈴には、その決定的な死の気配がわかってしまう。思えば、今までも意識していなかっただけで、この能力で様々な気配を読んでいたのではなかったか。

「あ……美鈴」
「!?」

“少年”が声を出した。
 ほとんど即死していなければおかしいくらいの傷を負いながらだ。その事実に、まず美鈴は驚いた。
 まだ、死なさずに済むかも知れない――そんな、ありえない希望をつかみかけて、それはありえないと、目の前の“少年”の様子が否定していた。
 もう、心臓が――いや、体の気そのものが、ほとんど動いていない。
 脳が死ぬのも、あとほんの数瞬先だ。
 美鈴の心に、絶望が押し寄せる。どうすればいいのか――何もできない。
 だが。
 そんな、美鈴の気持ちを、まるで意に介さないように。
“少年”は、最期の一言を、口にした。

「なんだ、お前……やれば、できるじゃないか」

 がくりと“少年”の体から最後の力が抜け、崩れ落ちた。
“少年”は死んだ。
 なぜ、最期の最期に笑ったのか、美鈴にはどうしても、わからなかった。

《幕間》



「そこで終わっていれば、本当に美しい一夜だったのにねぇ」

 物憂げなレミリアのため息。その時のことを思い出すだけで、今までの上機嫌が嘘のように、むっつりと黙り込んでしまう。

「なんだ、そこまで行ったら、とどめを刺すだけじゃないか?」
「……うー。そうなんだけどさぁ。ああ、やっぱりとどめ刺しとけば良かったかなぁ」
「お嬢様、それでは門番がいなくなってしまうのですが」

 ぼやくレミリアに咲夜が注釈を入れる。主の話の邪魔はしないが、方向がずれれば修正するのが咲夜の立ち位置だ。

「ああ、そういえばそうよね。それにフランも怒るだろうし……でもなぁ。なんかこう、美鈴にしてやられたというか思うつぼというか、それはそれでしゃくなのよねぇ」
「おーい、そろそろ元の話に戻ってくれ。何が言いたいのかさっぱりわからん」
「ああ、うん、そうね……で、どこからだったかしら?」
「お嬢様が門番を倒して、とどめを刺そうとしたところからです」
「うん、そうよね。咲夜、代わりに話して」
「…………いや、ですから。私はその勝負を見てないんですって」

 いかに完璧な従者であろうと、できることとできないことがある。

「えー、じゃあ私が話すの?」
「そんなにお嫌でしたら、美鈴を連れてきましょうか? お嬢様の他に詳しく話せるのは、彼女しかいません」
「それはもっと嫌。あいつは私から生き延びたことを屈辱に思ってるのよ? 私の目の前でそんな顔見せられても、お酒がまずくなるだけよ」

 何がなんだか。聞いている魔理沙には話が余計にわからなくなる。
 が、二つわかったことはある。

「一つは、お貴族のお嬢様の屈折ぶりは半端じゃないってことだな」
「ぐっ、あんたにだけは言われたくない台詞ね、それ」
「私はいつも素直だぜ。だから本音で話す……もう一つは、美鈴との最後のくだりを話すのが、よっぽど嫌だってことだぜ」

 そう言って、魔理沙は席を立とうとする。
 すでに、料理はあらかた食べ終えていた。食器も咲夜がとっくに下げてしまっている――いつ下げたのかまるで気がつかなかったのは不覚だが、それを態度に出しはしない。

「じゃあな、今夜の話はこれでお開きってことで――」
「えっ……ま、待ちなさい! なに、なんでここで帰れるの?」
「ん? だって話したくないんだろ? だったら、無理に口を割らせるほど魔理沙さんも横暴じゃないぜ」
「いやいや、待ちなさい、おかしい、ここで帰るのはどう考えてもおかしいから!」
「ええ? なんだよ、実は話したかったのか?」

 本気で意味がわからない、と首を傾げる。レミリアは、さっきまでの威厳はどこへやら、必死で魔理沙に食い下がる。

「いや、話したくはないのよ!? あんな、私にとっても侮辱ものだったんだから、話したいわけないじゃない!」
「うん。だったらこの話はこれまで――」
「話したくはないけど! ここまで話したら、最後まで話さないと締まりが悪いでしょ!」

 はあぁ? と開いた口が塞がらない魔理沙。このお嬢様は一体何が言いたいのか。
 一方、咲夜は苦笑しながらも、あたふたと弁明するレミリアの様子を慈悲深い目で見守っている……まあ、こっちの従者の屈折ぶりは今に始まったことではないので、魔理沙は視界の端に追いやることにする。

「えーと……うん、じゃあ話してくれよ」
「違うでしょ!?」
「何が!?」
「私は話したくないんだから! あんたが、どうしても教えて欲しい、教えてください、って言ってくれないと話せないじゃない!」

 なんだそれ。体面? プライド? それとも実はお行儀の話だったりするのか?
 しかし、目の前の吸血鬼は既に駄々っ子モードに入っている。言わないことには話が進まない。
 進まないのだが、しかし――

「は――そうはいくか。この霧雨魔理沙、わけもわからないのに頭を下げろと言われて、ほいほい頭を下げるほど落ちぶれちゃいないつもりだぜ」
「な、何よぅ! じゃあ話さないわよ!」
「話さなくて結構、私は帰るだけだぜ」
「帰るな! 話をさせなさい!」
「じゃあ話せよ」
「話さないわよ!」

 ここまで来ると子供のけんかと同じである。話せ、話すもんか、じゃあ帰る、帰すもんか、と不毛な押し問答に発展する。
 このままヒートアップして弾幕戦突入、とも思われたのだが。

「ではお嬢様、お願いですから、お話を聞かせていただけませんか?」

 と、瀟洒な従者が横から割って入った。

「え……咲夜?」
「はい。いつもあなたのお側におります、十六夜咲夜でございます」
「は、話していいの?」
「ええ。僭越ながら従者の身でお願いを申し上げることをご容赦ください。しかし、咲夜はどうしても、続きが気になって気になって仕方ないのです」
「そ、そうなの! それじゃあしょうがないわね! 私は話すのは嫌なのよ? でも、咲夜がそこまで言うんならしょうがないわ、ほら、そこの白黒にもついでに話してやるから、ありがたく聞きなさいよね!?」

 今までの不機嫌ぶりはどこへやら。うきうきと続きを話そうとする吸血お嬢様。このお嬢様は、従者が微笑ましそうな目で見ているのに気付いてないのだろうか。気付いてないんだろうなぁ。
 なんだか色々ばかばかしくなってきたが、続きが気にならないと言えば嘘になる――吸血鬼様の気が変わらないうちに、魔理沙も話を拝聴することにした。









ようやく全編完結がすぐそこまで見え始めたので、思い切って投稿しました。
後編へ続く。もうちょっとで完成しますので、まだ後編投稿される前に読みきってしまった人がいたら、もうしばらくお待ちください。
後編も昔語りから入ります。ですが、昔語りを長く書いてしまったのは、昔語りの後の話と、その結末を書き上げるためでした。いましばらくお付き合いください。
後編では、魔理沙、咲夜の出番はやや少なくなります、ご了承ください。


追記
誤字等を少し修正しました。
後編上がりました。こちらになります。
http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1316513164&log=154

kuiasb@aol.jp
http://wrigglen.blog40.fc2.com/
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コメント



0.1970簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
平仮名が多様されているのは、そういう趣向でしょうか?少し読み辛かったです。
7.100名前が無い程度の能力削除
面白い。
ちょっとグダグダと感想を述べる気分ではないので、この一言だけで失礼しまう。
後編を全裸待機しています。
9.100コチドリ削除
個人的には非常に効果的な前・後編の分け方だと思いました。
美鈴が求める強さの性質や、それを獲得するための手段である中国武術について、
しっかり予習できた感じです。震脚カッケェ!

幕間も心憎い出来だ。レミ様可愛いよレミ様。
ちょっと解説パートが多めだった印象の前編はこの為の助走であった、と思わせるような
一気呵成の後編になるといいな。
凄く凄く楽しみです。
11.100目玉焼き削除
素晴らしい
続きを待っております
14.60名前が無い程度の能力削除
後書きのおぜうさまの可愛さは評価する
18.100名前が無い程度の能力削除
たまらん。
美鈴の過去話は作者によって色々違って面白いですが、またいい話を見つけた。
後半に期待! れみ☆りあ☆う〜!!
19.70名前が無い程度の能力削除
面白かったですけどこれだけだと評価出来ないな
後編が待ち遠しいです
21.90名前が無い程度の能力削除
まだ前編なのでとにかく支援コメ
29.80名前が無い程度の能力削除
李書文の話がチラッと出てきたのがうれしかったw
45.無評価削除
皆さんありがとうございます。コメント返しです。

>1さん
すいませんでした。少しだけ修正しましたが、まだ多いほうだと思います。
文中の、漢字とひらがなのバランスについてはいつも悩みの種です。なるべく気をつけたいと思います。

>7さん
そこまで期待していただけたなら光栄です。
後編も楽しんでいただければと思います。

>コチドリさん
ええ、まあ効果的なのを狙ったというよりも、分割するとしたらここしかなかったって感じでしたが。
震脚のかっこよさもお嬢様の可愛らしさも、気に入っていただけたなら幸いです。
期待通りの後編かどうかは自分ではわかりませんが、少しでも楽しんでいただければと思います。

>目玉焼きさん
光栄です。
期待通りかどうかはわかりませんが、後編も少しでも楽しんでいただければと思います。

>14さん
カリスマなお嬢様も可愛らしいお嬢様も、素晴らしいものだと思います。
他の部分も評価していただけるようになるためにも、今後も頑張りたいと思います。

>18さん
そこまで気に入っていただけたなら光栄です。
自分の中の、美鈴の人物像と相談しながら書きました。
後編も楽しんでいただければ幸いです。

>19さん
楽しんでいただけたなら幸いです。
後編、投稿しました。そちらも楽しんでいただければと思います。

>21さん
支援していただけたことに満足していただける後編になっていれば幸いです。

>29さん
李書文の伝説っぷりは凄いですよね。中国武術家の中でも群を抜いてます。人気が高いのもわかります。