Coolier - 新生・東方創想話

三歩進んで二歩下がってからのバック転

2011/08/24 20:45:36
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秋のあくる日、烏天狗に質問をされた日

風に憧れ、好いていたことを自覚した日

だからと言って何かが変わるわけではない

いくら自分が相手のことを嫌っていないことを自覚しても、
相手方がこちらのことを苦手にしているのなら関係に改善の余地などないのだから

***

「暇だなー」

秋が深まり、彼方では冬が訪れているだろうと思われるある日、いつもの待機場所である滝の裏に椛はいた。
この場所は夏の間は水飛沫が気持ち良い絶好の避暑地だが、冬を待つ季節となると逆に肌寒い。寒さに膨れた尾を左右に動かして微々たる運動をしてみるが、焼け石に水にもならない。
装備品である楯や太刀を弄くっていても、基本的に侵入者などいない妖怪の山での出動は期待できない。よく将棋を指していた河童も、最近は新しい玩具……“核エネルギー”だとかいう玩具が山の神から与えられたらしく、音沙汰がなかった。

つまりは、暇。
すごく、暇なのだ。

暇なのはよくあることだし、だからこそ何もしないでぼんやりすることは嫌いではない。特に今の時期は、何も考えずに景色を眺めるだけで時間が経ってしまう。
でもそれは普段の椛の話だ。最近の悩みを抱える椛の話ではない。
ここのところ何もせずにいると、椛は自然ともやもやな思いに囚われている。

(あの天狗が、変なことを自覚させるから……!)

ああもうっ、と心の内で叫びながら椛は頭を抱えて転がった。
どれもこれも秋へと季節が変わったばかりのある日、椛が哨戒中に現れた烏天狗からの質問が全ての元凶だ。

犬走椛は、風が嫌いではない
風を操るやつも嫌いじゃない
寧ろ、それは……

そんなことを自覚させられたのに、その想いが本物なのかをまだ確かめることができていなかった。なにしろ、その確認したい相手が姿を現さないのだ。
以前ならば、うざったくなる程度にちょっかいをかけてきたり、人間の侵入を事後報告しにきた彼女を、全く見かけなくなったのだ。
病苦にでも苛まれているのかと一時期心配もした。が、風の噂で巫女を地下に送りつける取材をしていたと、その健在ぶりを聞いて、直ぐ様にその心配を捨て去った。
もう椛に残るのは不完全消化な想いだけだ。
「ああもうっ、なんなんだっ」
会って自分の気持ちを確かめることは、正直怖い。
だが、その恐怖よりも今はこの煮え切らない苛立ちを相手にぶつけたい思いの方が強かった。あとで何倍返しされようと、見つけ次第どつきたい。

「や、やぁやぁやぁどうも突撃となりの天狗さんです!!」
「どっせい!!」

というわけでどついた。

「あややや、いきなりのご挨拶ですね」
何の苦もなく避けられて悔しく思う反面、何も考えずに行った攻撃が当たらずに済んでよかったと安心する。

現在進行形で椛を悩ます烏天狗、射命丸文は滝を背景にいつもと変わらない笑みを浮かべていた。

「どうも相も変わらず暇そうにしていますね」
「侵入者がいない、平和な証拠です」
軽口を叩くが、何処か視線が定まらない彼女に不信感を抱く。だが心理戦で百戦錬磨の文に勝てるはずがなく、持つだけでも疲れるので椛は早々にその不信感を捨ててしまった。

「それで、何の用でしょうか」
「用がなくちゃ来てもいけないのですか」
「自分はこれでも待機中、勤務時間内ですので」
どうにも自覚した想いに邪魔されて、逆に突き放したような口調になってしまう。これだったら以前の方がマシだったか?と内心あせるが、突き放す意味が変わっただけで喋り方は前と変わらないことを思いだし、安堵する。
根本的解決にはなっていないのだが。

「いやその、えーとですね。どこぞの引きこもりが……いやなんでもないです彼女は関係ない、私自身の問題ですから…うー」
「どうしたんです、頭でも打ちましたか」

「……相変わらず口の聞き方がなってませんね。引きこもり記者のことは何でもなくて、そう、今日は私も暇なんですよ。ご一緒しても構いませんか?」

その時、椛は自分がどのような顔をしたのか判らなかった。
ただでさえ自分の気持ちとうまく折り合いをついていないのに、そのうえ相手はこちらのことを苦手にしているはずなのに!!
多分、そんな気持ちがまま表に出たのだろう。椛の顔を見た文は、僅かにだがビクッと震えると、取り繕ったような笑顔になった。
「あ、あやや……そうですよね、いきなりで不躾すぎました。き、今日のところは、おいとまさせてもらいますっ」

「あ……っ」

慌てて踵を返そうとした彼女の裾を、椛は無意識に手に取った。
大した力もかけていない行動にも関わらず、文はそれだくで金縛りにあったように身体を硬直させる。
石像のごとく固まってしまった彼女から動きそうにないので、先に冷静さを取り戻した――といってもまだ顔は赤いし声色もしどろもどろだが、椛が声をかけた。

「べ、別に貴女が不躾なのは、今に始まったことじゃない。少し驚いただけだから、その、嫌だなんて……言ってない」
ギ、ギギと錆び付いたブリキの玩具が動くようにぎこちなく、文は後ろを振り返る。
泣いているような怒っているような、どちらともつかない奇妙な顔で見つめられると、ただでさえ言いにくいことをいって朱に染まっていた顔がさらに赤くなってしまう。
きらめく黒曜石のような瞳を見続けることに耐えきれなくなった椛は目線をそらす。ただし、裾は掴んだままだった。
気まずい沈黙が再び帳を下ろすが、今度は文から言葉をかけられる。

「いやじゃ、ないのですね。よかったぁ………」
「は、え?」
「いいえなんでもありませんよはい」

なんだか文が、物凄く可愛い、心からの笑顔で喜んでいたように見えた。

しかし次の一瞬には、もういつも通りの取り繕われた笑顔に変わっている。
多分見間違いだったのだろう、椛はそう考え直してから、ようやく自分がまだ裾を掴んでいることに気がついた。
どうにも気恥ずかしく、できるだけ静かに、気づかれないように指を離す。
「しかしご一緒にと言われても、やることなんてありませんよ?」
名残惜しさを誤魔化すように頭をかきながら、椛は文を横目に伝える。
生真面目な性格、自身の能力も相まって、椛に仕事中で持ち場を離れるなんて選択肢はない。
つまり、ここから動けない。
この滝の裏側で、何ができる?

分からなかったからこそ暇をしていたわけで、椛には文と二人になったとしても、何をするのか見当がつかない。
(それに、今日はちょっと態度がおかしいし……)
声をかけられてから今に至るまで、文の態度はいつもと違っていた。しどろもどろというか、苦手なものを涙目で食べる子供のような顔を浮かべたり、妙にそわそわしていたり。

(……っ、それじゃあつまり私は、苦手な食べ物扱いされているってことか)
ショックを受ける。
そして考えているよりも自分がショックを受けていることに、さらにショックを受ける。まさに負の連鎖。
迷い込んでしまった負の連鎖に、頭がグルグルしてきたところで、突如パシャッと快活な音と共に椛の目の前が真っ白に染まった。

「どうしました、椛。さっきから百面相してますよ?」

文のふざけた声と何かを巻く音で、彼女がフラッシュをたいて写真を撮ったのだと気がつく。
怒りと羞恥が半々で椛の顔を赤く染める。はやく文を見つけて一喝しなくればと目を擦ってみるが、そんなことをしても元に戻るはずがなく、仕方なく文がいるだろう場所にしかめ面を向けることしかできなかった。

「何もすることがないと言いますが、その、私は貴女とこうしていられるだけで十分に楽しいですから。あとはちょっとした雑談があればいい程度なのです」

そんな椛に、小さく幸せそうな声が届く。
まだ目の前がチカチカとしていて視界は戻らない。
だけど椛には、照れて顔を赤く染めた烏天狗を容易に思い浮かべることができた。

「……~っ!!」
ずるい、と椛は言葉にしないものの心中でつぶやく。こっちはまだ視界はぼやけているのに、あちらはこちらのことがよく見えるのだ。
先までしかめ面だった自分の表情がどうなっているのか、椛には判らなかったし、恥ずかしくて確かめる気にもなれない。

***

「……だけど実は射命丸文もまた自分の言葉が恥ずかしくて顔をそらしていることに、犬走椛は気がつかなかったのだった」
「っんだけ、甘ったるい空間なのよ!!痒い、甘すぎて背中が痒くなる!!!」
滝から程よく離れた山のなか、二人の少女が一本の樹のうえではしゃいでいた。
二人が持つのは手のひらに収まる程度の陰陽玉。文が地霊殿へ霊夢を送ったときに使用したものと同じものだ。
「もう何あの初々しすぎてすれ違うカップル!!ほんと甘すぎてネタにもできないわ!!!」
「一応、恋愛成就の道は進んでいるみたいだが、三歩進んで二歩下がってからのバク転かましてるようだぜ」
二人のもどかしさに震えている少女がはたて、面白げな玩具を手にしたような笑みを浮かべているのは魔理沙だった。
はたては今回も文にはっぱをかけ、椛のもとへいくように誘導したあと、陰陽玉を使って観察していたのだが、その途中で魔理沙と遭遇してしまったのだ。

『なんだ、面白そうなことしてるな!』

分かりやすすぎる一言で、魔理沙は自らはたての共犯者として名乗り出た。
はたても八卦炉片手に笑顔で言われたら了承せざるを得ない。
そのうえはたてはこれ以上、椛への想いを酒と共に吐き出す文に付き合っていられない。さっさとくっついて、互いのことでいっぱいいっぱいになってほしかった。
叫び疲れたのか、荒くなった息を整えてながら、はたては魔理沙へと顔を向ける。
「これでも互いへの苦手意識なくしたんだから、かなり進歩した方なのよ。ここまで黒子役を徹する私を誉めてほしいぐらい……というより、あんたはいつまで野次馬してるの」
「おいおい、私は恋色の魔法使いだぜ?こんな面白そう、もとい専門分野のことを私が放っておくわけがないだろ」
「それを野次馬っていうんでしょーが。専門家なら少しは貢献しなさいよ」
「椛は今、ようは素直になれないお年頃ってことだ。こういうのツンデレっていうらしいぜ、紫が言ってた」
「ふーん、まぁいいけどさ。文を積極的にするのはこれが限界よ、椛に会わせるだけでも一苦労なんだから」
「どんだけ乙女回路なんだよ……」
思わず魔理沙は呆れた声を出すが、慣れてしまったはたてはため息もでない。
しばらく眉間に皺をよせていた魔理沙は、ふと悪戯を思い付いた子ような表情を浮かべる。
そして誰が見ているわけでもないのに屈みこむと、こそこそと提案を出しあった。


「……よし、そういう手で!!」
「人間が指図するな。だけど、まぁ、楽しめそうじゃない!!」
心地いいぐらいに互いの手をうちならし、二人は作戦を開始する。
そんなことは露知らず、微妙にいい雰囲気でありながら、未だどこかぎこちない時間を椛と文は過ごしていた。
以前に書いた「互いが互いを苦手な理由」のちょっとした続編となります。
続く体裁をとっていますが、期末試験と紅楼夢と資金集めでいつ続きが完成するのか、ちょっと未定です。申し訳ありません。

あややと椛は好きだからすれ違ってしまう、けど端から見たらバカップル…が脳内理想です

前回はどちらかというと文を気にかけたので、今回は椛を中心にしてみましたが、キューピッド役がはたて+魔理沙となったので、続きはもしかしたら戦闘シーンがあるかも

ご意見・ご感想がありましたら、お願いします。

少々修正しました。少しでも読みやすくなれば…
schlafen
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コメント



0.640簡易評価
2.60名前が無い程度の能力削除
後半が説明ばかりで少し失速してる感はあるが
全体としては悪くない印象です
4.30名前が無い程度の能力削除
2番さんも言ってるけど説明ばっかで読んでてダレるな
>椛の能力は千里先を見通す程度の能力
特にこれが凄く必要無い描写だと思った
東方やってて此処に読みに来る人は殆ど知ってると思うよ
8.80名無し程度の能力削除
ここまできて続くのか…!!楽しみにしてますよ
9.80ほっしー削除
続く…だと!?
10.100名前が無い程度の能力削除
Good
18.100名前が無い程度の能力削除
何だろうこの気持ち、なんというかすごく・・・、やっぱ言葉にできないやw
とりあえず楽しかったですw