Coolier - 新生・東方創想話

狂気の夜に不死を求む

2011/08/21 02:36:50
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生き生き生きて生き続け
死に死に死んで死に続け
私は生きているのだろうか
私は死んでいるのだろうか
紅き月の昇る狂気の夜に
答えを出せと月の姫
答えを出すまであと数刻


私は伝える。愚かな人間に。
私は言う。不死を求める妖怪に。
私は認めない。不死は私達だけで十分なのだ。
「私はどうしようもなく不死だ。
死なない。それは魅力的か?心惹かれるか?
ただの好奇心から求めるのはやめろ。
ただの自暴自棄から求めるのはやめろ。
人でありたければ求めるのはやめろ。
妖怪でありたければ求めるのはやめろ。
一度手をだしゃ、大人になれぬ。二度手をだしゃ、病苦も忘れる。三度手をだしゃ永遠の苦輪に囚われる。
死なないことは、生き続けることではない。
私は死に続けることだと思う。
死に死に死んで延々死んで。
輪廻から外れ輪から外れ、生から死から人から世から。
外れ外れて錆ついて、魂を抜かれた人形に、お前もなりたいか?
なりたいならば私はお前達を殺そう。
気に入らない。ああ、気に入らない。
人であるなら人として死ね。
妖怪であるなら妖怪として生きろ。
不死を求める者は、どんな思想があろうと私はそいつを殺すだろう。
不死になり生きることに良いことなど何もない。
悲しみ憎しみ恨み憎み。
負の情念が降り積もる。
これは何も私が後ろ向きな女だからではない。
人生は往々にしてつらきことの方が多い。
生ける者は一生において、ただ一つの幸福のために命を燃やすのだ。
不死者は終わることなき人生で、いつ来るか、それがなにかわからぬ幸福を待ち続けるのだ。
待ちながら燃やし続けるのだ、負の情念を。
それがどういうことか、お前達にはわかるまい。
わからないからこそ求める。無いものをどこまでも求め続ける。
それが生きるというものだ。
私もどうしようもなく人間だ。
求め、求めて心を燃やす。
燃やし燃やして燃え尽きて。
それでも消えぬ魂を、私は燃やし続けている。
それがどういうことか、お前達にはわかるまい。
終わることなき不死の煙を、燻らせる気持ちが、お前達にはわかるまい。
死にたい奴は前に出てこい。
生きたい奴はさっさと立ち去れ。
私は不死なぞ認めない」

近くでにやにやしていた輝夜が、イラついた顔で私に近づき、耳打ちをする。
「ちょっと、妹紅。私の喋る時間はないわけ?」
「あんたの話なんてどうでもいいのよ。バ輝夜」
「な……!あんたの長い演説なんてみんな興味ないわよ!アホもこ!」
あほの子みたいに言わないでよ……
後は私が馬鹿を殺して終わりで良かったんだが……でもまあ、ここでケンカしてるわけにもいかないし、輝夜の好きにさせてやるか。
「わかった、わかったよ。好きにしろ」
「ふん、当然よ」
輝夜が人、妖怪の群れの前に立つ。
「私は永遠を生きる月の民。貴方達が聞きたがっていた不死者の話、とくと聞かせてあげるわ。
……死なないことは魅力的?蠱惑的?
死なないことに憧れる?
でも、死なないことって退屈よ?
死なないというのは、生き続けるということ。
やってやってやりつくして、それでもなお生きていくの。
なにもせずには生きていけないの。
心を壊して人形になりたいのなら、話は別かもね。
私はそんなのごめんよ。生きて生きて、生き生き生きて、楽しさを貪るの。
過去は無限にやってくるわ。だから、今を楽しまなければ意味が無いじゃない。千年でも万年でも、今の一瞬に敵う物は無いの。
だから一瞬を求めて生き続けるの。
これだけ聞くと、永遠に楽しさを探して行けるから不死はよいものだ。と思うでしょう?
でもそんなに甘くはないの。
何かを得るには、何かを犠牲にしないといけないの。
魂は燃料がなければ燃えないの。
貴方達はいったい何を燃やすのかしら。
何を差し出すのかしら。
貴方達は不死の片鱗も見えていない。
そんな奴が不死になれば、きっと後悔で心を潰すでしょうね。
私は構わないわ。
醜く潰れて私を笑わせなさい。
生きたい奴は生きなさい。
死にたい奴は死になさい。
不死になりたい奴は前にでなさい。
その前にこの娘を殺してからに、なるけどね」

輝夜の話が終わり、少しの間ざわめいたあと、一人、また一人とその場を逃げ出し、誰一人として残らなかった。
「あはは、やっぱり、そんなものよね」
輝夜は笑う。ただただ、滑稽だと言わんばかりに。
「そうさ。人も妖怪も、生きる者は皆生にしがみつく。それ故に不死を求める。そんな者が、みすみす命を捨てるもんか」
「人も、妖怪も、みな我先にと逃げ出す。これだからやめられないわ」
「安易に不死になりたいなんていう馬鹿が許せないだけよ。楽しい?性格悪いわね」
「あら、ひどい。私は嬉しいし、楽しいけどなぁ」
楽しい、ね。私はただただ腹立たしいけど。
「そうかね、人も妖怪もいつまでも変わらない。馬鹿はどこにでもいるし、いつの時代も変わらない。いい加減腹が立つけどね」
「そう、変わらない。だから変えてるんじゃない?変わらないのは私達だけで十分。私は、あなたがいればそれで十分よ?」
変わらない、から変えてやる。か。
「うれしいことを言ってくれるじゃないの。……はぁ、また一つ死に続ける意味ができちゃったなぁ」
「ねぇ、妹紅は、死に続けているの?」
「あ?そうだな、永遠に終わらない苦悩の中で、永遠に続く地獄の中で、私は死に続けてる。でもその地獄で私は見つけたの。死に続けてなおほしいものが。ああ、死んでいるってなんて素晴らしいんだろう、って思えるものが。そういうあんたは、生き続けているの?」
「そうよ。私は永遠に来ない死の瞬間が、訪れるまでずっと生きていくの。生きているうちで見つけた、大切なものがあるから。ああ、生きているってなんて素晴らしいんだろう、って思えるものが」
「「それは、何?」」
「「それは、あなたよ」」
輝夜も私も、似た者同士だな。所々違って、意見も違って。互いに憎らしくて、でも互いに大好きで。
「私達は生きているのかな?死んでいるのかな?」
輝夜の質問に、私はいつもの言葉を投げかける。
「どちらがより正しいか、戦って決めればいいんじゃない?」
「それもそうね。どうせ今日も私の勝利で終わるけど」
「言ってろ。どうせすぐ泣いて許しを請うようになるさ」




勝負は三日三晩続いた。
決着がつくことはなかった。
「はー……もうつかれちゃったぁ」
「そうだな……もう、引き分けでいいか……」
「引き分けねぇ……どうするの?私達は、生きてるの?死んでるの?」
「そうだなぁ……私達は、燃え続けているんじゃないか?永遠に」
「あはは、それでいいわ。私達は、心を燃やし、命を燃やし、魂を燃やし、永遠を過ごすのね」
行き方が分かれば、あとは生くだけじゃねえか。
私達は、とっくに明けてしまった狂気の夜を後にした。






燃やし燃やして燃え続け
消えぬ煙は不死の煙
その煙が途絶えることは
彼女達が死ぬまで
ないだろう
今回はちょっとよくわからない話になってしまいました。
不死を目指すものを、二人で戒めるお話。
生きていて得るものって、何でしょう。
死んで得るものって、何でしょう。
不死になって、何を得るのでしょう。
不死になって、何を失うのでしょう。
考えても、考えても、答えは未だ出ていません。
ds
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コメント



0.300簡易評価
4.80奇声を発する程度の能力削除
ちょっと、カッコ良いと思った…
9.80とーなす削除
同じ不死、同じ苦しみを味わうもの同士。
それでも微妙に自分たちを表す言葉が食い違うのが面白いですね。
10.80名前が無い程度の能力削除
先に言いたい事を詳しく言われてしまっていた…w
輝夜が優雅で残酷で、キャラが生き生きとしていたと思います。

-ちら裏-
「同じ時間」を過ごすほど仲が深まるのかしら、
とかお話とは少し関係ないかもな感想。