Coolier - 新生・東方創想話

そうだ、きみがほしい

2011/08/12 16:36:49
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 茹だるような暑さが続く幻想郷の夏。今日も今日とて自宅に篭り、はたては携帯を弄っていた。
 彼女の能力は念写をする程度の能力。だが対象にできるのは既に存在する写真のみであるため、極めて活用しにくい能力である。
 しかしだからといって、はたては自身の能力を嘆いた事はない。引きこもりがちだった彼女にとって、自宅にいながらにして写真を入手できるというのはとても便利なのだ。
 尤もそのせいで、彼女の発行する新聞に新鮮味がまったく存在しなくなっているのも事実だが。

 今はたてが行っているのは、単なる暇つぶしである。頭に浮かんだ単語を適当に携帯へ入力し、能力を使い検索。そして引っかかった画像を愉しむというものだ。
 幻想郷広しといってもこのような娯楽で暇を潰せるのははたてぐらいだろう。境界操作でどこの世界でもほいほいいけるスキマ妖怪には範囲面で大きく劣るが、そもそも愉しむ方向性自体が異なるので問題ではない。

「『射命丸文 はいてない』っと……。おーおー出るわ出るわ。ったく、なんでこの手の検索ワードだと腐るほど引っかかるのかしらねー」

 画面にずらりと並ぶライバル烏天狗のはしたない画像を眺め、嘆息するはたて。実際のところこれらは全て合成の紛い物であり、本物はない。
 幻想郷最速のブン屋はスピードだけでなくガードの硬さにも定評があるのだ。以前はたてと撮影勝負をした時もまるで隙を見せなかったのがいい証明である。

「『ほん明倫』……何よ、まだ変換登録されてないわけ? しょうがないわねー。『紅美鈴(くれないみすず) 今日の門番 盗撮』っと…。あれ、今日は珍しく起きてるんだ。
こりゃ雨が降るかもね」

 先程検索できるのは既に撮られた写真のみと言ったが、逆に言えばそれは『撮影済みであればよい』という事でもある。
 つまりリアルタイムで撮影し、まだ未現像状態の写真であっても検索条件を満たせば画像として表示される場合があるのだ。
 ただこういったケースで表示される写真は大抵が裏の取れない代物なので、記事のネタとしては使えないのが玉にキズといったところか。

「おっと。そろそろ充電しないとやばいか。んじゃ、次で最後にしましょ」

 画面端の電池マークが点滅し始めたのを見て、はたては最後の単語をポチポチッと入力し、検索にかけた。たちまち画面内で勢揃いする無数の画像。
 何気なくページ送りしつつそれらを眺めていたはたてだったが、ある一枚の画像を見た瞬間ぴたりと動きを止めた。画像をクリックし、合成でない事を確認する。
 どうやら本物らしいと確信したはたては、思わずにやりとした。

「温故知新。この場合はちょっと違うかもしれないけど、まあいいわ。こいつを使えば、文を見返せるかもしれない!」




 翌日、幻想郷中にばら蒔かれた花果子念報。これがある悲劇の引き金になろうとは、この時誰も知らなかった。







「はっ…はっ…はっ…。くそ、何なのだ一体!」

 魔法の森の中を、全速力で駆け抜ける一人の少女がいた。時代劇に登場する侍のような格好をし、腰に刀を下げているのが印象に残る。
 彼女の名は明羅。かつて霊夢の持つ博麗の力を狙い勝負を挑んだ少女剣士である。
 今となってはそんな一件があったことすら知る者も少ないため、お世辞にも知名度は高いといえないが。

「っ! ちいっ!」

 突如明羅は地面へと体を投げ出し、ごろごろと転がり草叢へ飛び込んだ。その頭上をびゅんと高速の何かが通り過ぎていった。
 恐る恐る草叢から顔をのぞかせ確認すると、近くの木にびぃんと真っ赤な槍が突き刺さっている。先程通り過ぎたのはこれらしい。動作があと少し遅ければ、
確実に直撃していただろう。
ほっ…と明羅が胸をなで下ろしていると、チッという舌打ちが聞こえた。

「外れたか。悪運の強い奴だ。確実に心の臓を貫く運命を設定していたのにな」

 そっと振り向くと、二人の少女の姿が見えた。
 一人は全体的に赤が強い服装と鋭い眼光、そして蝙蝠の翼が目立つ。恐らく吸血鬼なのだろう。全身から醸しだされている殺気の強さは並みではない。
 もう一人は銀髪にメイド服の少女だ。日傘を手に持ち、無表情で吸血鬼の側に付き添っている。どうやら従者か何からしい。

「おい、いつまでこそこそ隠れているつもりだ。さっさと出て来い。でないと、ここら一面を吹き飛ばしてやるぞ?」

 語りながら、吸血鬼は右手に魔力を集中し始めた。脅しではなく、本気だという意思表明だろう。
 どのみちこのままでは埒が明かないと判断し、明羅は草叢を出てすっくと立ち上がった。まだ抜刀はしていないが、鯉口は切っている。万が一に備えてである。

「よく出てきたな。そこだけは褒めてやるよ。ではせめてもの礼儀として、なるべく苦しまずに殺してやろうじゃないか」
「一寸待て。お前達、何故私を殺そうとする。怨恨の類ならば心当たりが無いでもないが、少なくとも私はお前達を知らん」

 爪を立て、間合いを詰めようとした吸血鬼を片手で静止する明羅。
 この状況が圧倒的に不利なのは理解している。ならばどうするか。対話という形で時間を稼ぎ、良い策が浮かぶまで粘る事だ。
 尤もこれはかなり分の悪い賭けであるが、このまま戦闘開始するよりはましだろう。

「それをお前に語って、私に何か得があるのか? 殺されるお前が事情を知る意味があるのか? くだらん」
「お嬢様。冥土の土産という言葉もありますわ。ここは一つ余裕を見せるのも王者の風格かと」

 一瞬失敗したかと思い身構えた明羅だったが、銀髪メイドの発言に目を丸くした。一体何を考えているのか、と顔を見つめてみるもその表情は固く、何も読み取れない。
 もしかすると、吸血鬼よりこのメイドの方が厄介かもしれない。

 メイドの言葉に、しばし渋面を浮かべていた吸血鬼だったが、軽く舌打ちをして爪を収めた。

「わかった。他ならぬ咲夜、お前の申し出だ。たまには聞き入れてやるよ。お前、咲夜に感謝するんだな。ほんの少しだけ、寿命が伸びたぞ」
「私の名は明羅だ。上から目線で語るのは構わんが、せめて名ぐらい名乗れ。それが礼儀だろう」
「ふん、それもそうか。私はレミリア。レミリア・スカーレット。紅魔館の主人で吸血鬼だよ」
「……そうか」

 紅魔館にレミリア・スカーレット。どちらも明羅には馴染みのない名前だ。
 霊夢に返り討ちにされた後、各地を巡りようやく幻想郷へ戻ってきたのがつい最近の事。
明羅のいない間に知らない地名が増え、あちこち様変わりしているのには驚くばかりだった。弾幕ごっこでさえ、僅かばかりのルール変更がされている。
昔はすぺるかぁどなどと言ったものは存在せず、弾幕密度、当たり判定ともにかなり厳しかったものだが……。

「さて、私がお前を殺す理由だったね。咲夜、こいつにアレを見せてやれ」
「はっ」
「アレ……だと? む……」

 レミリアの隣にいたはずの銀髪メイド…咲夜と呼ばれていた少女が一瞬視界から消えたかと思うと、明羅の目の前で何かを差し出していた。
 一体いつの間に移動したのか。訝しみつつも、差し出されたものを手に取ってみる。それは新聞だった。

「何々……。『衝撃の事実! 博麗の巫女に婚約者がいた?!』 …………は?」

 タイトルを読んだだけで、明羅の目は点になった。あの博麗の巫女に。あの傍若無人、天上天下唯我独尊の乱暴者に、婚約者だと?
 飛んだ物好きもいたものだと思いながら、文章を読み進めていく明羅だったが、内容を理解するにつれ次第にその顔色が青くなっていった。

「『その相手の名前は明羅。二つ名は『SAMURAI』(笑)という剣士らしい。記者は奇遇にも博麗の巫女とこの明羅という剣士が並んでいる写真を入手することに成功した。この件に関して博麗の巫女本人を直撃してみたところ、『あら懐かしい。そういえばこんな事もあったわねぇ』と肯定の言葉を返された。ちなみに巫女曰く、相当のイケメンとの事らしい。あの博麗の巫女が面食いだったというだけでも驚愕すべき事実であるが、よもや婚約者が存在するとは誰も思わなかったであろう。当花果子念報では今後もこの件について追求していく方針である』……だと……?」

 新聞を持つ手がわなわなと震え、顔がひきつる。
 明らかに誇張された内容に相変わらずちゃらんぽらんな博麗の巫女の応対。そして自身の二つ名につけられた(笑)に対する怒り…といったさまざまな感情が入り交じり明羅の中で渦を巻く。

「…と、言うわけだ。正直天狗の新聞なんぞゴシップだらけで鵜呑みにするのも阿呆な話だが、霊夢に『ああ、あれ本当だから』と肯定されてはどうしようもない。
 というわけでレミ霊の為にお前は殺す。許しは請わん。恨めよ」
「ちょちょちょ、ちょっと待たんかばかもん!」

 再び戦闘態勢を取ったレミリアを慌てて静止する。こんな馬鹿げた勘違い記事のせいで命を狙われるなど冗談でも笑えない話だ。

「ああ? 言い訳なら聞く耳などもたんぞ? 遺言もいらん」
「だから待てと言っているだろうが! この記事は出鱈目の誇張表現だ! 私は、私はただ……!」
「私はただ?」
「私はただ、博麗が欲しかっただけだ!!!」

 びしり、と何かに罅の走る音がした。少なくとも、明羅には聞こえた。
 眼の前のレミリアは顔を伏せ、表情が見えない。僅かに震えているようにみえる。そして殺気がぐんぐんと膨れ上がっているようにもみえる。
 傍らの咲夜はというと、あちゃー…といった表情。どうやら、かなりやばい状況になってしまったらしい。

「あ、あの」
「Kill you(ぶっ殺す)!!」
「ま、待て……ぎゃああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああっ!?」

 直後、魔法の森に、哀れな少女剣士の絶叫が木霊した。







 明羅の地獄はこれで終わらなかった。行く先々で因縁を吹っかけられ、問答無用で攻撃されたのだ。

「いつもなら戦いを愉しむところだけど、霊夢絡みとなっちゃあそうもいかないねぇ。ミッシングパワー!」

 小柄な鬼には巨大化されて踏み潰され、

「成程、霊夢さんの言うとおり確かにイケメンですね。でも許さん。幻想風靡!」

 烏天狗には高速高密度の弾幕でいたぶられ、

「霊夢の件もあるが、私の黒歴史にほんの少しでも関わりがある奴を見逃すわけにはいかん。マスタースパーク!」

 これまた覚えがない理由を勝手に付け加えてきた黒白魔法使いの光線に焼かれ、

「幻想郷の管理者の物である霊夢に手を出すとは身の程知らずにも程がありますわね。八重結界!」

 何か凄い加齢臭のする妖怪に結界攻撃された。緋想天のうどんげルートも裸足で逃げ出すボスラッシュである。
 最後の方は集まった連中で勝手に争奪戦を繰り広げていたようだが、そこまで見届けられるほど明羅は意識を保てなかった。






 どれくらい経っただろうか。ふと額に冷たい感触を覚え、明羅はぱちりと目を覚ました。どうやら、布団に寝かされていたらしい。
 むくりと身を起こすと額からぽとりと手拭いが落ちた。まだ冷たさが残っているところを見ると、ついさっき取替えられたようだ。
 一体誰が助けてくれたのか、と首を捻ったその時、障子ががらりと開いた。

「あ、気がついたんですね。よかったよかった」
「お前、は……。もしや、博麗……か?」

 恐る恐る確認する。明羅の記憶にある博麗の巫女とはかなり違う(特に服装)が、纏う雰囲気はまさしく彼女のものだった。

「ええ、そうですよ。明羅さんの知っている博麗霊夢です」
「そう、か……」

 安心した途端に力が抜け、明羅は肩を落とした。何故安心したのかは、明羅にも分からない。本来なら目の前にいる巫女は倒すべき敵の筈なのに、だ。

「安心してください。もう明羅さんは誰にも狙われたりしませんから」
「本当か?」
「ええ。あいつらには私がよーく言って聞かせましたから」
「そ、そうか。それは、何よりだ」

 にっこりと笑う霊夢の顔に黒いものを感じ取り、明羅はぎこちない笑顔で返す他なかった。深入りはしない方が身のためだ、と暗に忠告されたような感じだ。

「とりあえず、礼を言っておく。よもやお前に助けられるとは思わなかったが」
「そりゃまあ、助けますよ。明羅さんは一応人間の知り合いだし、あいつらは大体妖怪だし。妖怪が人間を虐めてたら、しばくのも私の仕事ですから」
「………変わったのは外見だけか」
「ん、何か言いました?」
「いや、なんでもない」

 変わっていないという事に呆れると同時に、ほっとした自分がいて、明羅は少し複雑な気持ちになったが、いやいやと思い直した。
 偉そうにいえるほど自分も変わっていないという事に気付いたからだ。それがいいのか悪いのか。それはまだ分からないが、少なくとも嫌とは思わない。
 それはこの博麗の巫女にとってもそうなのだろう。色々変わっているといっても、同じ人間なのだから。

「さて、世話になったな。だが忘れるな。私は諦めたわけではない。いつか必ず、博麗を頂くからな」
「まあ明羅さんてば、こんなところで二度目のプロポーズですか? どうしよう、いきなりそんな事いわれても」
「だから違うと言っているだろうが、このばかもん!」

 わざとらしくいやんいやんと顔に手を当てふるふるする霊夢に突っ込む明羅。これはもう条件反射といっていいだろう。
 このままここにいても霊夢のペースに振り回されるだけだと感じた明羅は、部屋を出ようとした。
 ……のだが、

「ぐがっ!? な、なんだこれは!」

 見えない壁のようなものに鼻を思い切りぶつけてしまった。周りを確認してみると、どうやら結界らしきものが辺りに張り巡らされているらしい。

「お、おい博麗! これは一体どういう」
「あ、言い忘れてましたけど、もう明羅さんはこの神社から出られませんよ?」
「な、なんだと!? おい、それはどういう意味だ!」

 詰め寄る明羅に、霊夢はにっこりと笑い、宣告した。









「だって私、明羅さんをこの神社の守護者として契約させちゃいましたから」








「な………な…………! なんだとぉぉぉぉぉ―――っ!?」

 ――こうして明羅は、博麗神社の守護者として余生を送る事になったのだった。めでたしめでたし。
その後、博麗神社の入り口で侵入者相手に燕返しを振るう明羅さんの姿が!

※8月16日 誤字修正。そして以下コメント返信です。

>1様

永久就職という名の籠の鳥だったりします。でも羨ましい。不思議!

>2様

イメージはまさしくそれです。明羅さんの格好がなんとなく連想させる感じだったので。

>3様

結果だけを見れば勝ち組ですよねー(棒読み)

>奇声を発する程度の能力様

シンプルイズベストな祝福をありがとうございます。

>6様

ぶらり廃線の方で無かっただけ有情(?)だと信じたいものです。

>7様

意識はしていませんでしたが、確かに霊夢はそれっぽくなってしまいましたね。おお、こわいこわい。

>12様

花果子念報の誤植に気づかれるとは流石です。……すみません、素で間違えました。

>14様

カッコいいセリフの筈なのに、どこか腑に落ちないのはきっと理由のせいでしょう。

>16様

やっている事はネットサーフィンとあまり変わらないわけですが、幻想郷ではレアな暇つぶしだと思うのです。

>すすき様

初めての霊明だったので少し不安だったりしましたが、評価していただけて嬉しい限りです。

>21様

某変態魔剣士を彷彿とさせるあのセリフは勘違いしか産みませんよね。旧作のプレイできる機会は確かに欲しいです。

>24様

知らぬは明羅さんばかりなり、というオチ。不幸? いいえ幸福です。


以上、コメント返信でした。それでは今作も読了及び評価、ありがとうございました!
橙華とっつぁん
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コメント



0.1630簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
永久就職おめでとうございます!
末永く爆発しろ!
2.無評価名前が無い程度の能力削除
某きのこの作ったエ○ゲーのアサシンが思い浮かんだ。

ゆっくり爆発していってね!
3.80名前が無い程度の能力削除
明羅さんかわいそうかと思ったら霊明話だった。おめでとう爆発しろ!
4.80奇声を発する程度の能力削除
おめでとー爆発しろ
6.90名前が無い程度の能力削除
八重結界w
爆発しろ
7.100名前が無い程度の能力削除
新しい形のヤンデレ・・・・・・コレは流行る!
12.100名前が無い程度の能力削除
なんという霊明……。

『SUMURAI』は『SAMURAI』の間違いですかね?
14.90名前が無い程度の能力削除
「レミ霊の為にお前は殺す。許しは請わん。恨めよ」
マジかっけえええええ・・・あれ?
16.90名前が無い程度の能力削除
はたての能力にこんな活用方法があったとは…。
とりあえず明羅さん爆発してください。
20.100すすき削除
霊明と聞いたならば評価せざるを得ない
21.100名前が無い程度の能力削除
『博麗をいただく』発言はどう見てもプロポーズです明羅さん!
旧作やってみたいなぁ…
24.100名前が無い程度の能力削除
誤解かと思ったら、既に成立していたとは……
36.100tukai削除
残念な連中が多すぎるw
明羅さん良かったね!