Coolier - 新生・東方創想話

霊夢更生

2011/08/10 10:14:16
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「そこは掘り下げなくても良い。何か本当に紫を呼ぶ方法は無いのか?」
「仕様がないわね。紫はこれをやると怒るんだけど……」
「何だ手が有るのか」
「有るんだけどねぇ……。これをやると、危険だから止めなさい、って紫が出て来るの」

(東方香霖堂第十一話「紫色を超える光」より)











 ある日、霊夢さんがお遊びで結界を緩めてから「もう二度とこんなことしない」と心に誓うまでの顛末。










「……さて。お嬢ちゃん、とりあえず、お名前教えてくれるかな」
「名前? 霊夢。博麗霊夢よ」
「はくれいれいむちゃんね。珍しい名前だね。それじゃあ、もしよかったら、どうしてあそこにいたのか教えてもらえるかな」
「どうしてって言われても、結界を緩めたら外に放り出されちゃって……」
「……結界?」
「……あーいやなんでもないわ。私がどこにいようと勝手でしょ」
「……? いや、うーん、でもね、そういうわけにもいかないよね。だってまだお昼だもんね。学校に行ってる時間だよね?」
「がっこう……?」
「うん、学校」
「よくわからないけど、私、行かないわよ。そんなとこ」
「……行かない? 学校に? ……サボるってこと?」
「そうじゃなくて、もともとそんなの行ったことないわよ」
「OH……(なんてこったい)」


 ……私は頭を抱えた。この近辺をふらふらうろついていた少女を、どうせまた不良気取りで学校をサボった子だろうと捕まえてきてみたらこれだ。彼女の見た目は小学生かせいぜい中学生といったところだ。明らかに義務教育の過程にある。それが、学校など行ったこともないと。

「あ。ねえ、そこの机にあるお菓子、食べていい?」
「……ああ、食べたければ食べ」
「んぐんぐ」

 許可を出す前から食べられていた。いや、そんなことはどうでもいい。重要じゃない。
 この気持ちは何だろう。怒りか、それとも悲しみか。無力感でもあるのだろうか。
 多くの少年少女たちにとって、学校に通った記憶というのは大切な思い出だ。毎朝、眠い目をこすって布団に別れを告げ、朝食をかっ込み、友達と一緒に学校へとてくてく歩き、給食や昼休み、放課後の部活や友人との約束を楽しみにしながら席についてノートをとり、黒板を眺める。そんな輝かしい日々を、彼女は奪われてしまっているのだ──


 ……いや、ちょっと待て。
 本当にそうだろうか?


「んぐんぐ……ねえ、お茶とかないの?」
「ああ、そこの急須に茶葉が……もう出涸らしだな。新しいのをいれてあげよう」
「ん、ありがと……んぐっんぐっ」

 昨今の子どもを舐めてはいけない。
 補導されたのを親や学校に内緒にしてほしい、と頼んでくるような子はどれだけかわいいものか。適当に頭を下げてその場を逃れ、後にまた反省なく繰り返す者。連絡先や名前などで嘘をつき、こちらが困るのを楽しんでいる者。このような子はまったく珍しくもないものなのだ。


 さて。
 椅子にちょこんと座って、ばぅむくぅへんをかじりかじりしているこの少女には……少なくとも、悪意は見て取れない、ように思う。
 だが、本人に嘘をついている気がなくとも、結果的に事実と異なったことを言っている可能性もある──少女の服装を見ていると、そんなふうにも思えてくる。いわゆる電波ちゃんのケースだ。失礼だとは自覚しているが……しかし、これが私服とは少々信じがたいではないか。
 紅と白の派手な色彩。大きなリボン、それに袖が上着部分とは分かたれていて、ちょうど腋だけを見せている格好だ……いや、そんなことはどうでもいい。重要じゃない。問題は、彼女の腋下からちらりちらりとその姿を見せる──そう、さらしである。さらし。この時代に、このくらいの歳の子に、敢えてさらし! 彼女の趣味か、あるいは親の趣味か……実際、後者である可能性が高いだろう。彼女の親。わかっていると言わざるをえない。
 そう。
 そうだ。
 親。保護者だ。
「ごめんね、ちょっといいかな?」
「んぐ?」
「おうちのお電話番号とかわかったりしないかな?」
「んぐ、んぐ。……おでんわ、ばんごう……?」
「そう。保護者さん……お父さんお母さんの、連絡先」
「保護者の……連絡先……?」

 保護者の話を始めると、彼女はあからさまに困った顔をした。補導された子にはよくあることだ。……が、その困った様子に、少し違和感がある。普通は保護者に連絡することを嫌がるのだが、彼女は、もっと……そう、まるで、保護者として誰の名前を出せばいいのか迷っているような。父か母以外の選択肢があるのだろうか?

「あー、私、保護者なんていないんだけど」
「えっ」
「あ、これおいしい」
「どういうことなんだ……」
「ねえ、これもっとないの?」
「あ、ああ……ここにまだ一袋あるけど」
「あー、霊夢、霊夢ったら、こんなところにいたのね」
「んぐっ」

 少女が喉をつまらせた。いや、そんなことはどうでもいい。重要じゃない。
 我が職場、我が交番の入り口に女が立っている。黒のスーツ。そして金髪が第一に目に入る。とはいえ、顔を見るかぎり外人ではなさそうだ。それに若い……見た目、若い、のだが、妙に落ち着いた、あらゆる物事に対して慣れているような、不思議な空気をまとってもいる。
 女は気だるげに頭をかきながら少女に近づくと、その手を取った。……と、ただ見ているわけにはいかない。「彼女の保護者の方ですか?」私が訊くと、女はこちらを振り向いて、目をぱちくりとさせ、そして、にっこりと微笑んだ。

「あー、そう、ええ、そうですの。私。この子の。保護者」
「え。ちょっと紫、あんたがいつ私の保護者になったのよ」
「……と、仰ってますけど」
「ああ、この子、反抗期なんです。反抗期。それはもう。なんだろうととにかく親に歯向かわないと気がすまないみたいで」
「誰が親だ!」
「そう、まさしくこんな具合に」
「むきぃー!」
「すみませんねウチの子がご迷惑かけまして……ああ、今日は家の用事で学校を休ませたんですよ。ええ。それがちょっと目を離した隙にいなくなってしまって」
「ウチの子って言うな!」

 ゆかりというらしい、女は暴れる少女の両手を背後から捕まえ、抑えている。
 さて。少なくともゆかりさんがれいむちゃんの知り合いであることはたしかだ。知り合いがわざわざ保護者を騙るだろうか……まあ順当に考えて、おそらくゆかりさんの言い分で間違いないのだろう。学校も保護者の了解の下で休んだというのだし、軽く注意くらいで帰ってもらっていいだろうと思える。
 しかし。しかし、だ。万が一というものがある。れいむちゃんの言い分が正しく、これが誘拐にでも発展してしまったら目も当てられない。……いや実際そんなことはないだろうが、やはり確認はしておきたい。

「えーと、れいむちゃん? このひとは本当にきみのお母さんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ! 赤の他人よ!」
「うう、昔はこんな子じゃなかったのに……いつになったらまた『お母さん』って呼んでくれるのかしら」
「紫……あまり調子に乗るんじゃないわよ」
「霊夢ごめんね。お母さんバカでごめんね」
「よし殺す」
「霊夢、殺すなんて言葉つかっちゃいけません!」
「うーん、でも、困りましたね」
「……なにが?」

 ゆかりさんに向かって舌打ちしていたれいむちゃんが、こちらを向く。
 しかしこのゆかりさん、れいむちゃんに嫌がられながらもすごく楽しそうである。なんだかんだでれいむちゃんの反抗期も含めて子育てを楽しんでいるのだろう。

「このひとがれいむちゃんのお母さんじゃないんなら、本当のお母さんに来てもらわなくちゃいけないよね」
「え、あ、えーっと、そうなの?」
「そうなの。だけど、れいむちゃんはたぶん、おうちの連絡先がわからないのかな」
「う、ぐぐ」
「でも、大丈夫だよ。このひとがれいむちゃんのお母さんじゃないなら、そのうち本当のお母さんが警察に連絡を入れてくるはずだからね。ここでもうちょっと待っててね」
「ぐぎ、うぎぎ」
「ハッ……! そうなったら、私は霊夢の母を騙って誘拐しようとした悪人ということで捕まってしまうわ! 霊夢、意地を張らずにお母さんを助けて……!」
「うぎぎぎぎ……!」

 それにしてもこのゆかりさん、ノリノリである。
 一方れいむちゃんは、しばらく自分の中の何かと戦っていたようだが、やがて勝ったのか負けたのか、がっくりと肩を落としてゆかりさんを指差した。

「ごめんなさい……うそついてました……このひとがわたしのおかあさんです……」
「れいむっ……!」

 ゆかりさん、感極まってれいむちゃんに抱きつく。れいむちゃん、されるがまま。
 つまり H A P P Y E N D である。我ながら良い仕事をしたと言わざるをえない。
 れいむちゃんが軽くノンハイライトアイ気味なようにも思えるが、そんなことはどうでもいい。重要じゃない。





 そして親子は帰っていった。
 結局、こちらからは簡単な注意だけで済ませた。紫さんも、「自分の行いについては既に反省してるでしょうから、改めてお説教はしませんわ。私が言って聞かせるよりも、いろいろ効いたでしょうし」とのことだ。よくわからないが、彼女がそれで良いと言うのだから良いのだろう。
 そうそう、れいむちゃんは最初はくれいれいむと名乗ったが、あれはでたらめだったらしい。本名は八雲霊夢。いちおう身分証明として紫さんの免許を確認したときに判明したのだが、いやしかし、自分はこんな家の子どもじゃないと主張するために新たな苗字まで作るとは、なかなか根性のある反抗っぷりである。だが最終的には彼女の口から「ごめんなさい……うそついてました……わたしのなまえはやくもれいむです……」と自己紹介してもらえた。八雲霊夢。よい名前ではないか。


 ……二人の関係がこの先どのように動いていくか。それは私にはわからない。この先再び関わることも、おそらくは無いであろう。
 だが今回の出来事が、娘の反抗期という親子間の壁を打ち破る手助けとなってくれたなら幸いである。頑張れ紫さん。霊夢ちゃんのデレはきっとすぐそこにある──。
 
 
 
 
 
 
 
 
「さあ帰りましょ早く帰りましょすぐ帰りましょ」
「霊夢はせっかちねぇ」
「早く帰ってお酒飲んで全部忘れたいの」
「お酒、いいわね。せっかく酒の肴もできたことだし、今夜はみんな呼んで宴会にしましょうよ」
「あのね紫。今日のことを誰かに言ったらただじゃおかないわよ」
「ええー」
「ええーじゃない」
「仕方ない、わかりましたわ。私は今日のことを誰にも言いません。約束しましょう」
「……なんか素直すぎて気味が悪いけど。他言したら本気で退治するからね」
「私はこう見えて約束はちゃんと守るのですよ」
「どうだか。……ところで紫、さっきからいじってる、その、機械? なに?」
「ん? ICレコーダーですわ」
「なにそれ」
「ひみつ」
パレット
http://gurupata.web.fc2.com/
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コメント



0.7850簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
ゆか れいむ ちゅっちゅ
2.80名前が無い程度の能力削除
普通に好きな雰囲気でした。けれど、霊夢と男(?)が話していたのは
どこだったんてましょうか…?
4.無評価名前が無い程度の能力削除
あ、交番か…見落としてました
6.100I・B削除
霊夢の可愛らしさで元気が出ました。
面白かったです!
9.80名前が無い程度の能力削除
霊夢可愛い
11.100名前が無い程度の能力削除
この警官?絶対パレットさんだろw
ほんとゆかれいむが好きなんだからー
13.80奇声を発する程度の能力削除
とても良いゆかれいむでした
14.100名前が無い程度の能力削除
ICレコーダーww
録音済みっすか紫さんww
16.90名前が無い程度の能力削除
確かに直接紫が言う訳じゃないからセーフですよねw
17.100名無し程度の能力削除
そのレコーダー……貰えませんか?
18.100名前が無い程度の能力削除
イイヨイイヨー
21.90名前が無い程度の能力削除
理解ある警官でよかった(さらし的な意味で)
24.80名前が無い程度の能力削除
成長したら外に出て行くって選択肢もあるのかなあと妄想。
投稿お疲れ様です。
28.90名前が無い程度の能力削除
さて、いくらで売ってもらえるのかな、そのレコーダー
31.100名前が無い程度の能力削除
おもしろい!
35.90名前が無い程度の能力削除
幻想郷の少女達は外に出た途端に幼く見え始める。どうしてだろうか。
37.100名前が無い程度の能力削除
霊夢ちゃんはほんと可愛いなあ。
38.100名前が無い程度の能力削除
重要なところがことごとくスルーされてるじゃねえかwwwww
41.90名前が無い程度の能力削除
この警官……できる……!
47.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
50.100あくあん削除
後書きで爆笑してしまったw
短く纏まっていても内容の濃い作品でした。
53.100名前が無い程度の能力削除
あれ? 宴会でレコーダー再生するお話は?
パレットさんの書く紫が特に好きです、ちょっと親バカっぽい感じが堪らんw
55.100名前が無い程度の能力削除
いやあ…ゆかりママは強敵でしたね…
56.100まりまりさ削除
発想とセンスが天才的
57.100名前が無い程度の能力削除
いい霊夢と紫でした
58.100名前が無い程度の能力削除
親子なゆかれいむちゅっちゅ
59.100名前が無い程度の能力削除
やべぇ、霊夢かわゆい……。
60.100名前が無い程度の能力削除
かわいい
警官のキャラもいいですね
63.100保冷剤削除
八雲霊夢と聞いて飛んできました。
唾が止まらなくなったぞどうしてくれるんですかパレットさんはもう、ホントにもう! お母さんお母さんする紫となんだかんだで彼女を立てる霊夢つーのは両者の、心底最低限とはいえ信頼関係、もしくは良識が見え隠れしていて素敵です。であればそこに親子関係を見出すのは全く容易、むしろ自然なことですし、可愛い子に冒険をさせつつフォローしつつ躾も忘れない辺り紫の母親スキルはやんごとなくなっているのではないかヨダレが止まらない。紫に邪悪ななにかを感じた気がしたけどそれは勘違いだったぜ。
霊夢はどこへ行っても霊夢。端的に彼女を現す良作だと思います。
66.100名前が無い程度の能力削除
この警官実はアトリーム星人じゃないのか
69.100KASA削除
おもすれー!
72.100名前が無い程度の能力削除
なんだこの胸のときめきはああああああああ!!!111
73.100名前が無い程度の能力削除
この霊夢の保護者になりたいです。
74.100名前が無い程度の能力削除
レイプ目の霊夢ちゃんかわいいです!
75.100名前が無い程度の能力削除
保護者な紫さま最高です。
76.100名前が無い程度の能力削除
こんな警官がもっといればいいのになぁ
84.100名前が無い程度の能力削除
完全に親子
…うん何もおかしくないな!
88.100リペヤー削除
親子なゆかれいむ、グレイト。
そしてこの警官、やりおる。
そしてレコーダーでの一波乱を期待できそうな後書きも良かった。
面白かったです。
90.100名前が無い程度の能力削除
霊夢とその保護者的な立ち位置の紫、という関係はたまらなです。
96.100名前が無い程度の能力削除
b
102.100名前が無い程度の能力削除
この霊夢餌付けしてお持ち帰りしたい
103.90名前が無い程度の能力削除
ナイスな警官だぜ!
104.100過剰削除
そのICレコーダー、いい値で買おう
105.100名前が無い程度の能力削除
なんかほっこりしましたw
106.90名前が無い程度の能力削除
ごちそうさまでした。
117.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
119.100名前が無い程度の能力削除
八雲霊夢…良い名前じゃないか
124.100名前が無い程度の能力削除
なるほど……なるほど……w
パレットさんの新作を読むことが出来て私はしあわせです。お久しぶりです~!
131.90名前が無い程度の能力削除
録音済みワロタw
142.100名前が無い程度の能力削除
録音しているとは!
144.100名前が無い程度の能力削除
録音ワラタw                 面白かったです。 
145.100名前が無い程度の能力削除
146.100名前が無い程度の能力削除
かっ…可愛いぞっ!!
149.100名前が無い程度の能力削除
こんな低俗な萌えSSごときに・・・萌えてしまった
ツボの抑え方が絶妙ですね、前半はあざとすぎる感があったけど
後半、紫が出てきてからの霊夢はなかなか
151.100名前が無い程度の能力削除
朝っぱらからニヤニヤが止まらんっ
この警官が、よくできてるのかダメなのかわからなくなってきましたよw
しかし、ゆかりんのことを考えて最後には折れちゃう霊夢かわいいよ霊夢
152.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい
156.80爆撃!削除
補導される霊夢を想像するとシュールだなあ。
紫さん、ゆゆさんあたりとICレコーダーできゃっきゃするのが目に浮かぶぅ。
165.100支援射撃!削除
警官のキャラがすごくイイ。
166.100風愉菓子削除
八雲霊夢……つまり将来二人は御結婚されるってことですね分かります。ゆかれいむ万歳!!!!
172.100名前が無い程度の能力削除
警官の周りに霧が出てるな…
ゆかれいむはやはりいいものだ
180.100名前がない程度の能力削除
( 罪)<八雲霊夢。いい名前ではないか。
185.90名前が無い程度の能力削除
ゆかれい親娘風味がこんなに素敵なお菓子だとは知りませんでした。
186.100名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむは最高だけど警官もいい味だしてるw
191.90名前が無い程度の能力削除
畜生これは卑怯w
206.90名前が無い程度の能力削除
さすが紫さん、抜け目がねぇ。
207.100名前が無い程度の能力削除
舞台設定がすごい好きです。
212.100名前が無い程度の能力削除
ノリのいい警官も保護者なゆかりんもいいな。
233.90ばかのひ削除
めちゃくちゃおもしろかったです