Coolier - 新生・東方創想話

ハクレイ恐怖神話

2011/08/03 00:43:10
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私がこれまでに見たものの一部をここに残しておこうと思う。こんなものが誰の役に立つのか分からないし、おそらく役に立たないほうがいいのだろう。しかし意図を以って幻想郷に近づこうとするものには何らかの示唆を与えることが出来るかもしれない。しかし私は決してあなたの行為を薦めない。あんなものには関わるべきではないし、関わってしまった者にも関わるべきではない。
 まずは私自身を紹介しておきたいと思う。私は1980年5月に生まれた25歳の普通の男だが、今は2051年にいる。名前は霧雨誠一(キリサメ=セイイチ)、1999年から行方不明者扱いだ。今だって本人とは認められず精神病院に閉じ込められている。私の言い分なんか何の価値も無いと証明するのが彼らの仕事だ。それもこれも幻想郷に関わってしまった愚か者の運命ということだろう。
 私がこのように記憶を文字にしてゆくのは知らない誰かの好奇心の餌食になりたいと願うからではなく、私自身の古き記憶に再び近づくことによって間接的に幻想郷へもう一度近づくことを意図している。そのため第三者から見れば読みにくい箇所もあるだろうが、それこそが幸運である事を知って欲しい。幻想郷に近づきすぎれば正気を失うし、しかも『どれほど近づいたのか』という判断は向こうから一方的に為されるのだ。またこの記録を書き終えるまで私の正気が続くかどうかも分からない。いや、今の私自身正気かどうか自分でも不安ではある。最近では幻覚幻聴と現実との認識を誤る事がよくある。自分の目にするもの耳にするものが本物かどうか分からない恐怖は沈黙を許さない。知ってもらいたいと思い誰かに話すほど私は独りになっていった。
 ともかく、幻想郷に関わってしまったものが幸福を得る方法は二つだけだ。全てを忘れるか、全ての人々に忘れられるか。つまり幻想郷に入るか。私はもう忘れるには近づきすぎてしまった。この記憶を通して幻想郷にもう一度入るきっかけにしたいと望んでいる。




 まずは霧雨マリサと私の関係を話しておかねばなるまい。私と彼女は従兄弟だった。私の父は個人で事務所を構える会計士をしており、その弟(つまり私の叔父)は中小企業の経営者をしていた。二人はとても仲がよく頻繁に会っていたが、叔父は突然この世を去ってしまう。都内の高級マンションからの飛び降り自殺だという。そのあと遺産の問題で親族が集まった時、マリサは突然現れた。外国人の女性に連れられて、まだ10歳だった少女は所在なさげに畳部屋の隅に座っていた。聞くと少女は叔父さんの子だと言う。結局、遺産のほとんどは叔父さんの遺書によってマリサが相続する事になったが、マリサはどこか他人事であるようだった。まあ、子供だったのだからよく分からなかったのかもしれないが。ともかく、それが私がマリサを見た最初だ。
 当時12歳だった私は可愛い外国人の女の子など間近で見るのは初めてで少し照れくさかった。しかしこの異国の地で寂しそうにしている女の子を放っておくのは可哀相な気がしたものだから、いつしか声を掛けて外へ遊びに行くようになっていた。私と彼女は、彼女の引き取り先が決まるまでの2週間、ほとんど毎日朝昼晩と一緒に過ごした。私の家はかなり田舎にあり周囲は民家よりも田んぼや畑が多いくらいだった。子供にとっては過ごしやすい環境の中で私と彼女はあちこち走り回っていたのだ。
 そんなある時だった。マリサが朝早くから一人で出かけて夕方まで帰ってこない事が一度あった。私は心配してあちらこちら探して回ったがどうしても見つけられなかった。帰ってきたマリサにどこへ行っていたのかと聞いたら、『空を飛ぶ女の子と遊んでいた』と言った。もちろん当時の私はそんな事を信じなかった。私はてっきりマリサがどこかで眠ってしまって夢でも見たのだろうと思った。しかし私が信じないのをマリサは気に入らなかったのか、次の日の早朝に私を叩き起こして空飛ぶ女の子に会わせると言った。私は手を引かれるがまま家から少し離れた小さい山を登らされ、細い獣道へと入り込んでいった。朝早かったため周囲は明るく不気味ではなかったが、そこはあまり近づくべきではない場所だった。険しい道の先は一面に背の高い草が茂っており数歩先も見通せず、見えるのは広い空と雲くらいだった。ここは昔から子供が行方不明になる場所として有名で、この草原のどこかに底なし沼があるのだと言われ、地元の老人や大人達からは絶対に近づくなと脅されていた。
 そんな私の不安をよそにマリサは草むらの中に進んでいってしまった。私も、彼女を置いていったら父に何を言われるか分からないので仕方なく追いかけた。二分ほど歩くと草むらを抜けて、開けた場所に出た。そこは、まるで何百年も誰も訪れていないかのような神社だった。草むらの中からでは分からなかった立派な鳥居はよく見ると表面がひび割れて色が落ちて抜け殻のような印象を受けた。足元の石畳はコケがびっしりと覆い、石畳の間からは雑草が人工物を押しのけるように力強く生えている。本堂もかつては神聖性を帯びていたであろう造形の隅々に自然の侵食があり築材はことごとく黒ずんで今にも崩れ落ちそうなほど弱弱しい呼吸を感じさせた。そして私の勘違いであろうか、開けた場所なのにまるで汚れた鉛のような空気が立ち込めており肺に汚物が溜まる錯覚すら起こした。マリサは恐れもなくズカズカと神社の中に入っていった。私は神を信じた事は無かったが、その神社には何か超越的な存在が居たのではないかと感じていた。しかも人々が信仰する博愛の神や自然物の神格といった話や祈りの通じるような神ではなく、あたかも私たち人間が足元の蟻の祈りなど気に掛けること無く踏み殺すように、我々人間など知覚される権利もないほどに無制限的で奔放な恐怖が其処には居たのだと感じたのだ。私はマリサを追って賽銭箱の横を駆け抜けて中に入った。早く彼女を連れて逃げてしまいたかった。マリサは台所に居た。そこもまた長く使われていないであろう程に朽ちていたが、水道設備や冷蔵庫が存在していた。この神社にはそぐわないその異物たちには最近使われたような痕跡は無かった。マリサはその様を呆然と見ていた。畳は腐りタンスが倒れて床下にまで突き抜けていた。マリサは部屋の中心にかろうじて残っているちゃぶ台を指差して言った。昨日、ここで御飯を食べたんだ。私は反論する事も出来ずにただ彼女の腕を掴んで神社を去ろうとした。建物を出るとマリサは腕を振り払い、神社の裏へと走っていった。私も後を追った。神社の裏には崩壊した縁側の成れの果てが広がっていた。しかしそこにおかしな所が一つあった。いわゆる神主が持っている棒、御幣が地面に垂直に立てられ根元には倒れないように多くの土が盛られていた。その土も御幣もとても新しかった。まるで昨日に立てられたように。そしてマリサは嬉しそうに言った。

「ここでね。その子に踊りを教えてもらったの。その子のお家がある、ゲンソウキョウっていう場所の踊りを」

その幻想郷という言葉を聞いたとき、私はそれが何を指すのかを理解できなかった。ただその時、突然に冷たい風が吹き、太陽が雲に少しずつ隠れ始めた。薄暗い影が神社と私達を覆うように遠くから迫ってきたのだ。それは別になんて事のないよくある景色の自然な変化であるはずだが私はマリサを連れて逃げ出した。あの影に飲まれては二度と戻ってこれない予感がしたのだ。

「来たよ! 来たよ! あの子が来たよ!」

私はマリサをどこかから連れ戻すように、ただひたすら振り返らずに走り続けた。





 それから7年が経ち、マリサはある日突然に失踪した。残されたのは大量のメモ書きと黒い箱。メモには日本語ではない言葉が小さい文字でびっしりと書き込まれており、部屋の壁に隙間なく貼り付けられていた。黒い箱には魔方陣の書かれた紙やルーンストーン、呪符、外国語で書かれた魔術書がどっさりと入っていた。マリサが何をやっていたのかは分からない。しかしその中に私に宛てた封筒があり、中にカタカナで書かれたメモが入っていた。

「ソラヲトブ ショウジョ ヲ ミタラ トバナクチャ トバナクチャ」

 マリサが何を伝えたいのかは分からなかった。しかしこのメモを見た時から私は

トバナクチャ
トバナクチャ





 2051年7月中旬。
 ある精神病院で患者の一人が不可解な死を遂げた。鉄格子の付いた窓に頭を突っ込んで死亡したのだ。患者の頭部は窓を破り、外の鉄格子に当たって首が折れていた。かなりの勢いで飛び出そうとしたようだった。また患者は死の直前、自らの指を噛み切って、その血で部屋の机に何か文章の様なものを書いていたようだが、文字の判別は不可能とのこと。余談だが、彼が亡くなった夜は綺麗な満月であったらしい。
クトゥルフ臭のする東方を目指してみました。
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コメント



0.400簡易評価
13.無評価名前が無い程度の能力削除
東方臭がするクトゥルフの間違い。
14.10名前が無い程度の能力削除
改行してください、滅茶苦茶読みにくいです。
16.70つくし削除
素敵な掌編でございました。
冒頭の派手なケレン味にあわせるならこの二倍くらいの文章量で読みたかったかもです。
17.30名前が無い程度の能力削除
東方なのかクトゥルフなのかよう分からん印象だった。
幻想郷や空を飛ぶ少女がなんなのか分かってるから恐ろしくないし、マリサの身を案じる気も起きない。
それであんな死に方をされても、本人が勝手に勘違いして勝手に狂って勝手に死んだようにしか。
いやまあそれはそれで怖いんですけどね、先のように幻想郷について読者は知ってる訳で、恐怖よりも滑稽さがくるというか。
不要な人物として幻想郷の食料として神隠しされたのかなと一瞬思ったが、死体が残ってるんだからそれはないか。
19.70名前が無い程度の能力削除
導入の精神病院やら時間軸のズレやらに期待が高まったんですが、いかんせん尻すぼみな感が否めませんでした。
恐怖神話であるならば、その末端だけではなく確固とした超存在に直面した場面の描写も見てみたかったですね。

個人的には嫌いではありませんが、どうにもクトゥルフの呼び声に惹かれすぎて、全体的な東方的恐怖感が足りなかったかと。
確かに、一般外界人からみた幻想郷は理解及ばぬ異界ではありますが、それは大地に密着した背中合わせの恐怖。
そういった滲み出るようなおぞましさが感じられれば、もっと良かったかと思います。
21.50名前が無い程度の能力削除
掴みはよかった
26.60名前が無い程度の能力削除
クトゥルーこわいよ。あの狂気感まじ半端ない

そこからするとこれはそこまでだったかなぁ、試みは面白いと思いました。次回に期待
27.80名前が無い程度の能力削除
こういうのも嫌いじゃないです
28.100もぐら削除
よかったですよー。
何故タイムスリップしたのかな、と疑問に思いはしましたが、それを明らかにしないうちに終わるのも作戦なのですよね。
かなり雰囲気出ていたし、文章もラヴクラフト本人より読みやすくて好きです(笑)
個人的には東方とクトゥルーはかなり近いものだと感じています。
だからもっと東方×クトゥルーは流行ってほしいな。次も楽しみにしています。
トバナクチャ
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