Coolier - 新生・東方創想話

流体の可視化技術を用いた人妖関係の円滑化に対する試みとその評価について

2011/08/03 00:04:27
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「それじゃあおやすみなさい」
「ハイハイ早く帰りなさいよ」

夏の夕べの博麗神社
いつものように霊夢は紫のお見送りをしていた。

「そんなにつんけんしなくっていいじゃない。
 どうせ暇なんだし」
「私は今から寝るので忙しい。早く帰れ」

もう霊夢ったら素直じゃないんだから、と紫はわざわざ霊夢に聞こえる様につぶやきながら階段を下りていく。
素直じゃないのはお互い様よ、と霊夢は口の中でもごもごといいながらも、紫の姿が見えなくなるまで境内で見送っていた。





「……帰ったわよね?」

十分ほど境内で時間をつぶしただろうか、しばらく落ちつかなさげに周囲を見回したのち、霊夢は小さく呼びかけてみた。

「紫でてこーい」

もう一度小声で。

「今出てきたら許してあげるー」

さらにもう一度

「紫、ごめんなさい、実は私この間からあなたのことくさいって思ってたの」

一応もう一回

「……それは嘘で実はそのにおいが好きだったり」








「よし、行ったようね」

若干頬を赤くして霊夢は満足した。
自分でも正直どうかと思うのだが、この程度の用心はしておかないとあのスキマ妖怪はどこで覗いているかわからない。過去の経験から学習せざるを得なかった霊夢は慎重だった。

ひととおり紫が帰ったことを確認すると、霊夢は神社の裏手の縁側に向かった。紫といた時にはまだかなたの稜線にかかるくらいだった夕日も、もうほとんど沈んでしまってあたりが薄暗くなってきていた。

「よっこいしょ、ってあー、紫のがうつってきたかしらね」

霊夢はのそのそと縁側に座って、そうつぶやく。もういちどあたりをきょろっと見回しても誰かの気配はしない。

「もういいかしらね」

そうやって懐をごそごそとやって取り出したのは、










紙巻であった。
フィルターのような軟弱なものはついていない、漢の両切りである。

じー、と取り出した紙巻を睨む霊夢。しばらくしてひっくり返してみたり、振ってみたり、とするが

「これどっちから吸うのかしら……」

やはり手の内にあるものをどうすればいいのか良くわからないらしい。
ま、いっか、と適当なほうを咥えてぴこぴこと紙巻を上下にうごかす。

むふー、とひとしきり満足げ浸った後、いよいよ懐から燐寸を取り出した。

「なんか吸いながら火つければいいのよね」

すー、と息を吸いながら先端に火を近づけていくと、

「うぇっ、がっ、ごほっ、ごほっごほっ」

口から紙巻を離して咳き込む霊夢。
しばらく深呼吸して肺の中身を落ち着けようとする。

「がはっ。……もう、あいつはこんなののどこがいいのかしら」

ぶつくさといいながらも手から紙巻を離そうとはしない霊夢。
暑かった夏の空気の残滓のもとで、手には紙巻を携えて。
人間の里でひそかに囁かれる「やさぐれ巫女」に大変に似つかわしい姿であった。




が、





「あら、悪い子ね?」

聞きなれた声がしたかと思うと、背後から伸びた手に紙巻を取り上げられた。
反応する間もない早業に霊夢は一瞬驚いたが、すぐに憮然とした顔をつくる。

「あんたねえ、もう帰ったんじゃなかったの?」

そこにいたのは帰ったことを念入りに確認したはずの紫であった。
やはり彼女の能力は油断できないと霊夢は思う。

霊夢から取り上げた紙巻を手の中で弄びながら紫は答えた。

「だれかさんがこっそり悪いことをしているような気がしてね」
「このスキマばばあ」

どこから見られていたのか知れたものではない。恥かしさに若干口が悪くなる霊夢。
いかにも疚しいところは無い、というように振舞おうとしているが、手の震えは隠せない。

「ふーん」
「な、なによ」
「別に。ただ霊夢が不良になっちゃったなあーと思って」

紫は怒っている様子も無く、ただ興味深げに手の内から立ち上る煙を眺めていた。
霊夢としてもばつが悪い。

「返してよ」
「えー」
「かーえーしーて」
「うーん」

言を左右して答えない紫。
だが、手の中の紙巻は霊夢に返そうとしない。
と、紫は弄んでいた紙巻を口元に咥えようとして、




















「あら、これ、お茶の葉?」
「もう、返しなさいよっ」

紫の動きが一瞬止まったところを狙って霊夢は紙巻を奪還した。
珍しいものを見た、と顔に書いてある紫に背を向けて、霊夢はぐりぐりと火を消す。
霊夢の手の内にあるのは、お茶の葉を細かく砕いて紙で巻いた、いわゆる紙巻茶葉であった。

「なんでまたそんな変なものを」
「あんただって煙草みたいな変なもの吸ってるじゃない。それに比べればお茶の葉のほうが何ぼか健全よ」
「いやまあそれはそうかもしれないけど」

完全に火が消えてもぐしぐしと紙巻をこする霊夢の肩にあごを乗せて紫は尋ねた。

「私としては霊夢が不良になってなくてよかったけど。どうしてそんなものに手を出そうと思ったのかしら」
「……あんたが、」
「私?」
「あんたが、うちじゃ吸わないからよ」

予想外の答えだったらしく、紫はきょとんとする。

「紫の服とか髪とかからわかるわよ。煙草吸うんでしょ?で、なんでかしんないけど私の前じゃ吸わないから。私も始めれば少しは抵抗が減るかなって」
「んー」
「別に、私も煙草がきらいなわけじゃないから、いいかなと思うし」
「……わたしが霊夢の前で吸わないのはね」

そっと霊夢のお腹に手を回して紫が言う。



























「霊夢の前で口寂しいなんてことはありえないからよ」
その後、霊夢が紫の前で紙巻を吸うことは無かったという。



茶葉を紙に巻いて吸うのはなかなかおいしいので是非お試しを。
ただしノートの切れ端なんかでやると、三日くらいは舌が馬鹿になります。
アステルパーム
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コメント



0.2900簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんイケメン・・・
12.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりさまー!
15.100名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむ
16.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんは煙管とかつかってそうだなぁ。なにげに愛煙家が多そうですよね幻想郷。
喫煙しないけど、ちょっとやってみたくなった紙巻茶葉……うー
23.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんマジ男前。
28.100名前が無い程度の能力削除
紙巻茶葉なんて有るんだ
一回やってみようかな
29.100名前が無い程度の能力削除
こうして霊夢はゆかりんの事がもっと好きになるのでした
33.100名前が無い程度の能力削除
なんという単純明快かつ素晴らしい理由か…!!

実際喫煙者の何割かは口寂しいから、って理由もありそうだ
36.100名前が無い程度の能力削除
このゆかりんまじ惚れる!
37.80名前が無い程度の能力削除
この補給で今日も生きていけそうだ
39.100名前が無い程度の能力削除
Good
40.100名前が無い程度の能力削除
オチがGJ
41.100Ash削除
ゆかりんカッコいい~

茶葉でやるんですか……未成年も大丈夫でしょうか?
49.100名前が無い程度の能力削除
紙巻き茶葉は知らなかったなー。ラストシーンがかっこよかったです。
50.100名前が無い程度の能力削除
ラブラブっすね、めちゃ甘いっすね。
51.90コチドリ削除
良い切れ味。スパッと来ましたね、スパッと。

二人は互いに中毒をおこしている。ニコチンなんか目じゃないぜ。
52.100名前が無い程度の能力削除
お互いの思いやりが良いね
53.80名前が無い程度の能力削除
紫様かっけぇ。
思いやれるって大事ですね。
55.100名前が無い程度の能力削除
昨今の嫌煙風潮なら、流行っても良いじゃないかと思うんですがねぇ。紙巻茶葉は。
59.100名前が無い程度の能力削除
紫さんに男装はジャスティス
60.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんかっこいい
ところで3日程舌が馬鹿になるってなったんですか?w
71.70名前が無い程度の能力削除
ウオーなんだこのイケゆかりんはいいぞもっとやってくださいお願いします……!
72.80名前が無い程度の能力削除
あら、素敵。

お茶タバコよさそうですね。
73.100名前が無い程度の能力削除
紫さんカッコイイ
76.80愚迂多良童子削除
ひゅう! こんなこと言われたら即落ちること請け合いですな。
84.90名前が無い程度の能力削除
紙巻タバコって中毒にならんのだろうか

ともかくとしてゆかりんかっこいい。すっと染み入るSSでしたー。
85.80名前が無い程度の能力削除
うん、ただタイトル関係ないと思ったのは私だけでしょうか。
86.無評価アステルパーム削除
>>85
以下が参考文献です。

「煙草と計算」著 八雲紫
本書は一般的に煙草と呼ばれる流体の可視化技術をより高度に使いこなすための専門書。内容は口から噴出する気体の速度の測定方法から始まり、可視化された渦からのレイノルズ数の導出、効果的な摩擦軽減方法、最終的には吐息が超音速となるために必要な吸い口形状の設計までをカバーする。
89.100名前が無い程度の能力削除
ごちそうさまでしたっ!! この前普通のタバコを初めて吸ってみたのですが、あー(汗
茶葉でこんどやってみます! 
参考文献は最後に明記していただかなければ……内容w
90.100名前が無い程度の能力削除
へたれな紫さまも好きですが、かっこいい紫さまも乙なものですね。惚れました……おっと、霊夢さんが睨んでくるので自重しますねー。
94.100名前が無い程度の能力削除
ヒューッ!
97.100名前が無い程度の能力削除
タバコとはまた珍しい話し。
れいゆか最高!