Coolier - 新生・東方創想話

拝啓、『ぶらり廃線下車の旅』が『ぶらり三輪車の旅』にすりかえられていた今日この頃、皆さん如何お過ごしでしょうか。

2011/07/31 14:09:45
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 キコキコキコキコキコ
 
「ぷぁーん」

 なんということでしょう。
 そこに在ったのは一つの三輪車。
 あれだけ大きかったボディと車輪は、事業仕分けによりこんなにもコンパクトになりました。
 さらに、かき氷機ごっこに適した美麗なフォルム。
 激しい戦いの合間にも、ふと童心に帰る事を可能としております。
 ガタゴトと周囲に振りまいていた騒音も、このように抑える事に成功。
 この殺伐とした幻想郷にあっても、近所への配慮を忘れません。
 そして、極めつけは可愛らしい『ぷぁーん』の声。
 変わり果てた姿の中でもせめて電車らしさを出そうと言う、橙の心意気が光ります。

「ねーよ」

 楽しそうに三輪車をこぐ橙の姿に、私はそう呟く事しか出来なかった。
 だって考えてみて欲しい。
 巨大な電車を通す為に、思い切って開けた大きなスキマ。
 そこから自分の式の式が三輪車をこいで現れたら、誰だってリアクションに困る。
 阿藤さんも唖然である。

「藍、これはどう言う事かしら」

 こんな間抜け且つ大掛かり嫌がらせをする匠など限られている。
 そう判断した私は、取り敢えず隣で笑いを堪えている式をギロリと睨みつけてやった。
 彼女も自分が疑われると予想していたのだろう。
 驚いた様子も動揺する様子も見せずに、ただただ呆れたように首を振る。

「嫌だなぁ。どうして始めから私が犯人みたいな目で見るんです?」
「違うの?」
「大正解です」

 ですよねー。
 予想通り過ぎる犯人に、失笑しか浮かんでこない。
 目の前では私の狼狽した様子を眺めながら、けらけらと笑う我が式神。
 頼むからもう少し主に対して忠誠心と言う物を持って欲しい。
 昔は可愛かったのに、どこで教育を間違えたのだろう。

「いやいや、誤解しないで下さい。これには橙の身長よりも高い理由があるのです」
「微妙過ぎる高さね」

 どうせ大した理由じゃない。
 そう決め込んで信用度0の視線を向ける私。
 しかしそんな私の予想を否定するかの如く、藍は小さく溜息を吐くと、その顔を真面目な物へと戻した。

「紫様、この間『ぶらり廃線下車の旅』で霊夢に怪我させたでしょう」
「うっ」

 その出来事が起きたのはおよそ一月前。
 たまには稽古をつけてやろうと、私は霊夢に弾幕勝負を申し込んだ。
 結果は『ぶらり廃線下車の旅』で彼女を倒した私の勝利だった訳だが、話はそれだけでは終わらない。
 すぐに起き上がって負け惜しみか恨み事を言うかと思った霊夢が、地面に倒れたままピクリとも動かなかったのだ。
 呼びかけても、つついてみても、まるで死体にように反応が無い。
 すぐさま永遠亭に運び込んで、幸い命に別条は無かった訳だが……流石の私もあの瞬間は生きた心地がしなかった物である。
 
「全く、相手は人間なんですから、電車で轢けばタダでは済まないのは当たり前じゃないですか」
「何よぅ。弾幕ごっこに怪我はつきものだし、霊夢だって結界でガードしてたから、大事には至らなかったじゃない」
「大事に至ったのは紫様ですよ。もうテンパって私に泣きついてくるわ。脳震盪だって言ってもらってるのに涙目で永琳様に詰め寄るわ。霊夢に嫌われたとか言って、あの後一週間は布団から出てこないわ。見ているこっちが恥ずかしいくらいでした」
「う、うぐぐ」

 何一つ言いかえせないから困る。
 確かにそんな迷惑をかけた以上、これくらいの悪戯は―――――

「いやまぁ、そんな紫様の恥ずかしい過去は本質には関係ないんですが」
「なら言わないでよ!」

 何処まで私をおちょくれば済むのだ、コイツは。
 両手で彼女の肩を掴みぶんぶん揺するが、藍は涼しい顔を崩さずに口を開く。

「実はあの事件の後、幻想郷PTAの会議が開かれました」

 その言葉に、ぴたりと私の動きが止まる。
 幻想郷PTA。
 それは幻想郷に生きる保護者の有志で作られた、子供達を健やかに育成する為の組織。
 子供達を守る為に、より良い世界の在り方を模索する、幻想郷一親馬鹿……げふんげふん、子供想いな集団である。
 無論、橙と言う存在を持つ藍もまたその一員。
 組織の中でもなかなかの発言力を持つ、準幹部に位置する存在なのだ。
 え、私?
 入会しようと思ったら、その準幹部に「養われてる側は来ないでください」と拒否されましたが何か?

「議題は弾幕勝負の安全性について。今回のように弾幕ごっこで怪我をする子供を減らすにはどうすればいいかと」
「……結論が、特に危ないスペルの変更って訳」
「流石、話が早くて助かります。取り敢えず一月ほど期間を設けて、実験的に行ってみようと言う事になりまして」

 権限強いな、幻想郷PTA。
 まぁ、ある意味モンスターペアレント、むしろモンスターだらけだから仕方ない。

「十六夜咲夜なんて、早くも武器を黒ひげ用のおもちゃナイフに交換しましたよ
「何その、危ないからって理由で、公園からジャングルジム取っ払っちゃうような暴挙」
「そうは言われましても、PTAの決定ですから」

 呆れたようにそう口にすると、藍は真剣な瞳で私を射抜く。
 つまりこの式神、PTAの決定に従って、私のスペルカードを改竄したと言うのだ。
 たまには主の決定にも従って欲しいものである、と言うかPTAを盾にしているだけだろう、この駄目式。
 正直不満を挙げればキリがない。
 とは言え、自分の不手際で霊夢に怪我を負わせてしまったのも事実な訳で。
 藍を始め幻想郷PTAの不評を買っては、厄介極まりないのもまた事実な訳で。 
 今日の所は大人しく従っておくのが得策だと、私の頭脳は結論を出していた。
 何、所詮は一ヶ月の間だけ。
 スリルに飢えている幻想郷の住民達が、何時までも弾幕勝負もどきで満足出来る筈が無い。
 それに実験期間が終わる頃には、前回の事故のほとぼりも冷めているだろう。
 問題はその一ヶ月の間をどう乗り切るかなのだが……。

「百歩譲って危険を緩和するのは良いとして、三輪車でどう戦えって言うのよ」
「その辺りは抜かりありません……橙!」
「はい、藍様っ!」

 主人の呼びかけに応えた橙は、キコキコと一生懸命三輪車をこいで私の足元へと向かう。
 もう三輪車と言う年でもあるまいに、実に健気な姿である。
 藍もこう言う所は見習……いや、見習わなくていいや。
 満面の笑顔で三輪車で暴走を決め込む我が式を頭の中で想像してしまった私は、心底うんざりした気分になる。
 そんな私の狼狽をよそに、何とか私の足元へと辿り着いた我が式の式。
 出現場所が若干離れていた為か、既に肩で息を吐いている。
 歩けば難なく辿りつける距離だと言うのに、何と言う非効率だろう。
 などと呆れて溜息を吐いた瞬間の事だった。

「いっ!?」

 突如足元に走る鋭い痛み。
 慌てて視線を下げると、私はそこで我が式の式が行っていたえげつない行為に目を丸くする。
 なんと恐ろしい事に彼女は、かつて武勇を轟かせた屈強な男ですら急所としたと言うその場所に向けて、体重を乗せたライトレッグを振りぬいていたのだ。
 端的に言うならば、スネ蹴りである。

「えいっ、やぁっ、とぉっ」

 スネ蹴りスネ蹴りスネ蹴りスネ蹴り。

「ちょ、まっ、痛いっ、地味にっ、痛い……って三輪車全く関係ないじゃない!」
「見ていて可愛いです」
「それアンタの趣味じゃん!」

 横で顔を綻ばせる我が式に、右斜め45度から綺麗にツッコミを入れる。
 この九尾、主のスペカの性能よりも式の愛らしさを取りやがった。
 恨みがましい瞳で睨みつけてやるが、当の式は知らんぷり。
 涼しい顔で主である私に反論するべく口を開く。

「電車だって紫様の趣味じゃないですか」
「全然違う。電車は大人の浪漫なのよ」
「三輪車だって大人の浪漫ですよ」

 どんな浪漫だ。
 いい年したおっさんが三輪車こいでる幼女見て喜ぶのか。
 それ即ち、浪漫では無くて犯罪と呼ぶ。
 幸せそうに橙を眺めている犯罪予備軍に対して、心底深い溜息を吐く。
 こんなスペカ、喜ぶのはこの式神だけ。
 まず第一に大仰にスペカ宣言して、出てくるのが三輪車では見栄えが悪すぎる。
 ならば性能はと問われても、果たして誰が戦闘中に三輪車の接近を許すと言うのか。
 この有様では幻想郷の猛者どころか人間の子供にすら通じないだろう。
 それどころか何も知らない者からすれば、私が橙を虐めているように映ってしまうかもしれない。
 私や藍の為に頑張って三輪車をこいでくれた橙には悪いが、『ぶらり廃線下車の旅』の穴は別のスペカで―――――

「私、紫様のために頑張りますっ!」
「うっ」

 埋め合わせしようとしてたのに、そんな目で見るなぁああああ!
 一点の曇りも無い瞳で顔を覗きこむ橙に対して、私は心の中で悶絶した。
 彼女の表情からは『紫様の力になりたい』オーラがひしひしと滲み出ている。
 余りに健気なその様子に、危うく『ぶらり三輪車の旅』もいいかななどと思ってしまう所であった。
 流石は傾国の美女の式とでも言うべきか、この年で早くも相手を魅了する術を習得しつつある。
 しかも天然だ。
 藍のような演技とは違う、天然のジゴロである。

 いやいや、落ち着け八雲紫。
 可愛さに釣られて、技の性能をないがしろにするなど愚の愚策である。
 ましてや自身の式の式に踊らされるなどもっての他。
 ここは主としての威厳を、橙にも見せてやらねばいかんだろう。
 呼吸を落ち着けた私は、威厳に満ちた表情で橙の瞳を覗き込んだ。

「やっぱり、橙じゃ頼りないですか……?」
「ノープロブレム!」

 そして、瞬殺された。
 いや、違うのだ。
 だって何か瞳が凄く輝いていたのだ、キラキラと。
 そんな彼女の健気な想いを踏みにじっていい筈がないではないか。
 そもそも、よく考えてみれば式の想いを汲んでやるのが真の主と言う者である、うん。
 つまり技の性能よりも、橙の想いを汲んであげた私はとってもいい主と言う事なのである。
 決して橙の姿のあまりの愛らしさに、衝動的に答えてしまったとか、そう言う訳ではないので念のため。
 孫のおねだりには弱いとかそういう訳でもないので念のため!

 いっその事この際、私のデッキは全て『ぶらり三輪車の旅』にしよう。
 橙の可愛さを幻想郷の連中に広めるチャ……私の式神への愛を示すいい機会である。
 え、四枚までが限界だって?
 いやいや弾幕ごっこは最早私がルールブックなので何ら問題ない。
 幻想郷PTAも三輪車なら何枚入れても文句は言わないだろう。
 などと言うよくわからない理屈で、デッキを三輪車一色に染め上げる。
 さぁ、早速三輪車橙のお披露目、もとい実戦でのテストを行わなければ。
 私は式神たちを連れると、意気揚々とスキマの中へと身を投じた。





――――――
【以下、実戦での橙の奮闘ぶりをお楽しみ下さい】


「脱線『ぶらり三輪車の旅!』」
「ぷぁーん」

 キコキコキコキコ。
 橙、三輪車で相手に迫るが空中に逃げられる。

「脱線『ぶらり三輪車の旅!』」
「ぷ、ぷぁーん」

 キコキコキコキコ……
 橙、一瞬で切り返し相手の着地地点を狙うが、ジャンプで飛び越えられる。

「脱線『ぶらり三輪車の旅!』」
「ぷぁ……ぷぁーん」

 キコキコ……ゼェゼェキコキコ……
 橙、反転してペダルを漕ぐが、なかなか追いつけない。

「脱線『ぶらり三輪車の旅!』」
「ぷぁ……ん」

 キコキコ……
 橙、勢いがなくなってきた。

「脱線『ぶらり三輪車の旅!』」
「ぷぁ……」

 キコ……
 橙、横転。

「脱線『ぶらり三輪車の旅!』」
「……」

 ポックリ
 橙は力尽きた。
――――――






「橙を過労死させる気ですか!」
「ち、違……私はただ橙の可愛さを幻想郷中に広めようと」
「その気持ちには全力で同意しますが、ゲージ溜まる度に橙ぶっぱしないで下さい!」

 ゾナハ病にでもかかったかのように、ぜひぜひと息も絶え絶えの橙。
 三輪車で駆けつけて、乗ったままスネを蹴っていくと言うのは見た目以上に体力を消耗する行為らしい。
 そんな彼女を看病しながら、我が式は正座の私の頭をべしべしと叩く。
 くそう、コイツ主を何だと思っているのだ。
 確かに私が調子に乗りすぎたのは否定しないけどさぁ。

「全く、これ以上橙を虐めるようなら、『発光虫ネスト』を『発酵中ポスト』にしますよ」
「なにそれこわい」

 絶対に投函したくないポストである。
 と言うか、だから私は別に橙を虐めようとした訳じゃないのだが。
 相変わらず式神の事となると周りが見えなくなる駄目親である。
 しかしこんな奴でも、八雲家の台所事情を握っているのは事実。
 何とか機嫌を直してもらえないと、私の食事の方が発酵してしまう。

「大丈夫ですっ、藍、様……」
「ち、橙」

 その時、室内に響き渡る弱々しい声。
 健気にも手を握りしめる橙に、藍は感極まったようにその表情を歪ませる。
 主を心配させまいと虚勢を張るとは見上げた式である。
 いいわよ、橙。
 その調子で上手く藍を懐柔して……。

「私、紫様の役に、立てればっ……本望ですから……(瞳に涙をためながら)」
「私が悪うござんしたァー!」

 余りの橙の眩さに、思い切り土下座した。

「え、あの、紫様っ!?」
「へぇ、私めは橙様の辛さも理解せず、何たる失態を! どうか、どうかこの通りでございますっ!」
「ゆ、紫様。顔をあげて下さいよ!」

 いや、無理、今顔起こすとか無理。
 汚れてしまった私には、今の橙の姿は眩しすぎるんです、ハイ。
 たくさんの愛情に包まれた橙の事だ、私の事など放っておいてくれればいい。
 放っておいてくれればいいのに…… 。
 土下座を続ける私の背中を、橙はゆさゆさといつまでも揺さぶり続ける。
 何とか引き起こそうと必死になって、私の名前を呼び続ける。
 嗚呼、こんな卑しい私をも気遣ってくれるなんて、橙は本当にいい子だなぁ。

「まだこんな私の力になってくれると言うの?」
「勿論です。紫様の為なら、何回でも三輪車を漕ぐしょぞんですっ」
「橙……!」

 迷いの無い橙の声。
 気がついた時には、目の前の愛しい式の式を抱きしめていた。
 彼女は何処ぞの不良式神と違って、心から私を尊敬してくれているのだ。
 私の力になりたいと、何処までも純粋に思っていてくれているのだ。
 こんなにも健気な式神が側に居てくれるとは、私は何て幸せな主だろう。
 そんなすぐ近くに存在する幸せを、強く強く噛み締めながら。
 私は背後から突き刺さるぱるぱるオーラから、目を逸らし続けたのだった。





――――――






「藍」
「ここに」

 その夜、橙が寝静まったのを見計らい、私は藍を呼び出した。
 闇が包み込む世界に、その金色の九尾が映える。

「さっきは驚いたわね。まさか橙があそこまで私の力になろうとしてくれるなんて」
「ええ、危うく嫉妬のあまりパルシウム光線が撃てそうでした」
「そ、そう」

 アクマイト光線みたいな物だろうか、それは。
 相手の嫉妬心を操り、内部から爆発させる恐ろしい技……って違う違う。
 阿呆な考えを振り切り、咳払いをして居住まいを正す。
 目の前に佇む藍にも、私の纏う真剣な空気が伝わったのだろう。
 背筋を伸ばしたまま静かに腰を下ろし、傾聴の姿勢へと入った。

「『ぶらり三輪車の旅』に代わる、新たなスペルカードを考えなさい」
「よろしいのですか? 橙は……」
「橙の気持ちは嬉しいけど、これ以上彼女をあんな幼稚な乗り物には乗せたくないわ」

 肉体的にも、精神的にも、最早あの乗り物は橙には不釣り合いである。
 主の力になりたいと願う一人前の式に、用意されているのがアレでは余りにも酷という物ではないか。
 忠義には忠義で応えてこそ、真の主と言う物である。
 果たして私の想いを、三輪車を用意した本人はどう思うのだろうか。
 そのような事、考えるまでも無い。
 何故なら彼女もまた、こよなく自分の式を愛す者の一人なのだから。
 まるでそんな私の考えを肯定するかのように、橙の主、八雲藍はふっと優しく笑む。

「流石は我が主。実はそう仰ると思い、既に幾つか案を用意しておきました」
「私も、貴女ならそうだと思っていたわ」

 流石長年寄り添って来たパートナー、見事なツーカー(死語)ぶりである。
 二人目を合わせて笑い合った後、藍は懐からスペルカード案の書かれた紙を取りだした。
 こういう時の彼女は、本当に心強い存在である。
 普段は主をおちょくる不良式な彼女だが、その能力は誰よりも私がよくしっている。
 必ずや私を満足させるような案を出してくれるに違いない。

「第一案、『ぶらり車エビの旅』」
「原形何処行った」

 うん、早くも前言撤回したくなった。
 車が付けばいいと言う物では無い。
 そもそもそのエビはぶらりと何処へ行こうと言うのだ、海か、海なのか。
 いずれにせよ、そんなネタスペルは宣言したくない。

「次」

 そう口にしながら私が首を振ると、藍は残念そうに紙を一枚めくる。
 本気でそんなスペルを採用して欲しかったのだろうか。

「第二案、『ぶらり寝台電車の旅~その時スキマ妖怪が見た物は死を司る亡霊に取りつかれた半人前の剣士だった~』」
「宣言させる気ないでしょ、そのスペカ」

 何処のサスペンス劇場だと言わざるを得ない。
 電車という単語を使用したのは評価するが、逆に言えば良い所はそれだけ。
 相手を電車に誘いこんだ末に、後ろから包丁で突き刺すような剣呑なシーンが浮かぶスペルである。
 と言うか、さりげなく冥界組を登場させるな、取りつかせるな。
 ともかく、そんな区切りのいい所で入浴シーンを入れさせられそうなスペルはお断りである。

「次」
「むぅ、これも駄目ですか」
「もっとシンプルにしなさい、シンプルに」

 成程、と藍は手を叩いて紙を数枚めくる。
 スペルカードは宣言してこその物、もう少し言いやすい名前にして欲しい物である。
 そうでないと……もし噛んでしまったりしたら恥ずかしいではないか。
 と、そんなアホな事を考えている内に次の案が用意できたらしい。
 私が先を促すと、藍はいかにも自信満々と言った様子で言葉を紡ぐ。

「第三案、『ぶらり旅』」

 随分とシンプルになった物である。
 確かにこれならば宣言するのに全く苦は無いだろう。
 苦は無いのだが……。

「効果は?」
「戦闘中におもむろに何処かへと旅に出ます」
「それって不戦敗じゃ」
「不戦敗ですね」

 サラダバーとでも言いながら消えていけって事ですか。
 宣言した瞬間負け確定なんて、『アイシクルフォール(easy)』も真っ青。
 ロマン技とかそう言う次元では無い、最早完全な無駄技である。

「藍、申し訳ないのだけど」
「むぅ、これも駄目ですか……やっぱり」

 やっぱりって何だ、やっぱりって。
 今までの提案は駄目元だったって事かい、真剣に聞いて損したよコンチクショー。

「それで結局、紫様は具体的にどのようなスペルを所望されているのですか?」
「今更それを聞くか」

 悪びれる様子も無く、今更過ぎる質問をする式の姿に、私は大きく溜息を吐く。
 この不良式神とツーカーだと思った私が馬鹿だった。
 主の気持ちがわかるならば、そもそも電車を三輪車に変えたりしないと言う物だ。
 ……とは言え、具体的な要件を伝えなかった私にも非が無かった訳ではない。
 まずはしっかりと情報を与え、一から仕切り直す必要があるだろう。
 ふぅ、と一つ息を吐いた私は、自らの表情を真剣な物へと引き締め直す。
 
「第一条件は何かしらの車を使う事、第二条件はロマンに溢れている事。そして第三条件、これが一番重要なのだけど」

 そこまで口にすると私は表情を僅かに緩め、眼前の式神の瞳を優しく覗きこむ。

「私と藍と橙、私達三人で協力できる技である事」
「紫様……」

 驚いたように、その目を丸くする藍。
 意外と思うのも無理はない、私にとって式神を用いるのは、あくまで目的ではなく手段。
 始めから式神を使う事自体を目的とするなど、これまで一度もなかったのだから。
 
 けれど今回の騒動でようやく私は気付けたのだ。
 主の力になりたいという、式神達の気持ち。
 そして、そんな式神達の存在を大切に思う、私の気持ちに。
 主と式神と言う立場だが、私達は一つの家族と言っていい。
 ならば、一つくらい。
 一つくらい、家族の満足の為だけのスペルがあってもいい。
 そう、思えたのだった。

「期間は明日の朝、私が目を覚ますまで。貴女なら出来るわね?」

 一聞すると、厳しい条件だと思われるかもしれない。
 だがそれも全て、彼女を信頼しているからこその条件である。
 何だかんだ言ってもやはり、この式神は限りなく有能なのである。
 そんな私の信頼の視線を受けながら。
 九尾の狐は静かに、けれども自信に溢れた言葉を紡ぎながら、私に向かって頭を下げた。
 その姿は、私の目には何処か嬉しそうに見えた。

「お任せ下さい、紫様。この不肖八雲藍、必ずや明朝までに条件に見合ったスペルを作成してみせましょう」

 




――――――







「えっほえっほ」
「ぷぁーん」

 次の日、『ぶらり三輪車の旅』は『ぶらり人力車の旅』へと姿を変えていた。
 ご丁寧に汽笛音を鳴らす式神二人を座席へと乗せて。
 自力で走れって事ですかそうですか。


 
 
 
【幻想郷PTA】
神奈子「駄目だ駄目だ! 早苗を常識知らずに育てる訳にはいかない!」
永琳「輝夜にもしもの事があったらどうするの! まだあの子を外に出す訳にはいかないわね!」
幽々子「そういう風紀の乱れが、刃物とか所持する子供を作るのよ!」
藍「そうだそうだー(訳:紫様を弄れるならなんでもいいです)」
手負い
rikibeam@yahoo.co.jp
http://twitter.com/TEOI2
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コメント



0.4880簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
わろたwwww
6.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
あとがき吹いたww
7.90名前が無い程度の能力削除
紫様かわいい
8.90名前が無い程度の能力削除
いや、少し考えて欲しい
むしろ咲夜さんはPTA側の人間なのではないか?
9.100名前が無い程度の能力削除
相変わらずの鬼畜式神である
10.100名前が無い程度の能力削除
仲のいい八雲家は見ててほのぼのします
しかし長女の権力の強さw
11.90名前が無い程度の能力削除
あとPTAにいそうなのは……()は対象とすると。


さとり(お空)
レティ(チルノ)
白蓮(ぬえ)


くらいか?
うむ、良いな。まぜてくだs(ry
12.80奇声を発する程度の能力削除
とても笑わせて貰いましたw
15.90名前が無い程度の能力削除
酷いオチだww
18.80過剰削除
タイトルが一番吹いたwww
19.100名前が無い程度の能力削除
よかったですwww
21.100名前が無い程度の能力削除
っくしょー、『ぶらり旅』までは耐えたのに…w

八雲家は今日も平和でなによりです
25.100名前が無い程度の能力削除
いい話だな
感動的だな
だが無意味だ
26.100名前が無い程度の能力削除
やはり手負いさんの八雲家は面白い!!
紫と藍のコンビはホント万能ですねw
楽しい時間をありがとうごさいました
27.100名前が無い程度の能力削除
ゾナハ病とサラダバーで力尽きたw
元ネタ知ってると破壊力半端ないw

まあ橙は可愛いからね、しょうがないね(諦観)
29.無評価名前が無い程度の能力削除
お前の弾幕では死なん…。サラダバー
30.100名前が無い程度の能力削除
タイトルからすでにやべぇw
あとがきまで楽しませていただきました
32.100愚迂多良童子削除
こいつぁ吹かざるをえないwww
39.80ぺ・四潤削除
タグのせいで開始しばらくあのナレーションが頭の中をを占領して中々読み進まなくて困ったww
三人で車が付くスペカっていうから「霊車コンチェルトグロッソ」が思い浮かんだけど全然違う方向だったww
こんないたいけな橙の攻撃をあっさりとかわすのは一体誰だ。非道すぎる。
ところで大きなお子様が三輪車を漕ぐと膝が高く上がってスカートg(ゲフンゲフン)
43.100名前が無い程度の能力削除
おやおや紫さん、こんなところで弾幕勝負ですかぁ~?
46.70名前が無い程度の能力削除
もしかして:あとがきでもう一本書ける
47.100名前が無い程度の能力削除
オチは「ヤッターモンダ、スッターモンダ」の3人乗り自転車かと思いましたw。
面白かったですw
48.100名前が無い程度の能力削除
笑いをこらえられなかったわww
53.100葉月ヴァンホーテン削除
ずるい。色々とずるい。
54.100名前が無い程度の能力削除
私もコンチェルトグロッソが来るかと
60.100U.N.owen削除
想像したら凄い和むよ三輪車。でもなんだかかわいそうだよ。

他人を笑わせないと死ぬほど苦しむあの病気ほどの苦しみなんて・・・
62.100名前が無い程度の能力削除
b
63.100名前が無い程度の能力削除
いい家族だw
64.100名前が無い程度の能力削除
「えいっ、やぁっ、とぉっ」が井上喜久子ボイスで再生された。
でも三輪車なら、MMDのスカートが仕事放棄したおぜうさまだって負けないんですよ!?
って、咲夜さんが言ってた。
三輪車ってギア比が1:1ですからね、幼獣には厳しいでしょう。
このスペカがコスト5なのはガンダムエックスにティファが搭乗してるから高コストって言うのと同じ理由ですねw
67.100名前が無い程度の能力削除
くそっ突っ込みが追いつかねぇwww
69.100名前が無い程度の能力削除
PTA解散しろwww
70.90名前が無い程度の能力削除
くっ‥…肩車かと思ったのに!
まさか人力車だったとはww
さすがの手負いさんクオリティだぜ
73.80名前が無い程度の能力削除
オチは電車ごっこだと思ったのに~
紐で輪っか作って中に入るヤツねww
75.100名前が無い程度の能力削除
>>11
神綺(アリス)
雲山(一輪)

も加えてあげて
76.100名前が無い程度の能力削除
幽香(メディ)も入れられるね。
幻想郷PTAの発言にツッコミどころしかねえww
77.100名前が無い程度の能力削除
発酵中ポストwww
83.80名前が無い程度の能力削除
あ、これ続編あるんですね!(プレッシャー)
PTA編があるんですね期待してますいやまじで。
パルシウム光線を筆頭にいろいろツボりました。
続編期待と紫があっさり屈しまくりなのがちょっと不思議だったのでこの点で。
92.90名前が無い程度の能力削除
え、続編あるの!マジで!?(圧力)
93.100名前が無い程度の能力削除
ゆ…紫だって霊夢を養ってるよ!って言ってみる。

…無理があるかもわからんね。

しかし霊夢を気絶させてうろたえまくる紫様かわいい
102.100名前が無い程度の能力削除
笑いました。そして何よりゆかりんに癒されました
103.100名前が無い程度の能力削除
本当になんということでしょう。
三輪車よりも人力車の方が強力ですよね!
104.90とーなす削除
これはひどいPTA。
お前らが言うなというのも野暮すぎて何も言えねえw
106.無評価名前が無い程度の能力削除
題名から名前間違えてたんで、気になって。
『ぶらり廃線下車の旅』ではありません。廃線「ぶらり廃駅下車の旅」です。
あと本文中ですが『発光虫ネスト』ではなく(勿論『発酵中ポスト』でもなく)
幻巣「飛行虫ネスト」あるいは「飛光虫ネスト」が正式名です。
紫のスペカ名は結構格好いいと思うので、わざとでなければ注意して名前を間違えないであげて下さい。
割と、げんなり来るのです。
108.90名前が無い程度の能力削除
確かになんということでしょうだよwww
113.100名前が無い程度の能力削除
多分発動させると人力車が降ってくるんでしょうね、紫目掛けて。
119.100ワレモノ中尉削除
もう橙の「ぷぁーん」が可愛すぎて……w
終始テンポのいい会話でスラスラと読み進められ、笑わせて頂きました。
藍の「第三案、『ぶらり旅』」のセリフが特に好きですw
123.100名前が無い程度の能力削除
オチwwwなんで主に引かせたしwww
136.50名前が無い程度の能力削除
上の方も言ってますがスペカ名違います。

内容は文句無しですがかなり嫌なモノですよ。
137.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
146.100名前が無い程度の能力削除
ぶらり旅wwwwwwwwww内容wwwwwwwww
147.100名前が無い程度の能力削除
テーレッテーキコキコ 想像したらワロタww
150.100名前が無い程度の能力削除
弾幕少女たち頑丈だからw
蓬莱人なんて連中までいるしぃ
155.100名前が無い程度の能力削除
いや~面白かったですw

そしてなにより、三輪車でかき氷機ごっこ!やりますよねやりました!
最初からそんな小さなネタに食いついてしまい、最後まで楽しめました笑