Coolier - 新生・東方創想話

妹紅と朝の挨拶

2011/07/25 23:04:31
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これは、かの女が里とかかわりを持つようになったころのおはなし。



妹紅はずっと、竹やぶの中でくらしていました。
ひっそりと、こっそりと、ひとりぼっちで。
妹紅は、自分がみんなとはちがうことを気にしていました。
いつまでも年をとらない体に、きずついてもすぐになおる体。
そんな、みんなとはちがう体の妹紅。
みんなからこわがられる。みんなとはちがうって思われる。
それがつらくて、こわくて。ずっとにげていました。


でも、本当はただの人間。
みんなとおなじはずだった、少しだけちがう、人間。
本当は、里のみんなとなかよくなりたいと思っていました。
妹紅はそれから、たまに竹やぶでつくった炭を
里に売りに行くようになりました。


妹紅は、炭を売りながら、里のみんなとなかよくするには
どうしたらいいのか考えていました。
自分がみんなとかわらないこと、
おなじ人間なんだってことを、
どうしたらわかってもらえるんだろう。
いっしょうけんめい考えたけれど、いい考えは思いつきません。


「そうだ、慧音にきいてみよう。」
慧音は妹紅が里に来て、はじめてはなしたひと。
右も左も分からなかったかの女に、
声をかけてくれたことが、しりあいになるきっかけでした。
慧音ならきっといい考えをおしえてくれるにちがいない。
妹紅は町のがっこうにいる慧音をたずねることにしました。


「そうか、そうか。よーし、そうだな……」
なんだか、ちょっぴり慧音はうれしそう。
はにかんだかおで、う~ん、う~んと言いながら
考えごとをはじめました。
「そうだ。」
しばらくして、慧音は何か思いついたようです。


「道をとおる人、すれちがう人たちにあいさつをするんだ。
ただそれだけさ。どうだ?」
「それだけ?」
「言うほどかんたんなことじゃないぞ?
やってみればわかる。」
慧音はそういって、うん、うん、とひとりでうなずいて、
妹紅のあたまに手をあてました。
「がんばるんだぞ。」
少しだけ、うれしいようなはずかしいような。


「ただし!」
慧音はゆびをぴしっと立てて言いました。
「何のためにあいさつするのか?
それをよく考えることだ。」

かえり道、妹紅は慧音に言われたことを
妹紅には、よく分かりませんでした。
なんのため?あいさつってなんのためにするの?
言われてみれば、考えたこともありませんでした。
「まあ、いいや。きっとやってればわかる。うん。」
そう考えたところで、ちょうどお家につきました。
明日から、がんばってみよう。


次の日。
妹紅はあさ早くから、しょいこいっぱいの炭をしょって
里までやってきました。
まだ外は少しくらくて、ちょっとさむいくらい。
里につくまでのあいだ、妹紅はなんどもなんどもあたまの中で
あいさつするすがたを思いえがいて、れんしゅうしていました。
里についた妹紅は、まずしんこきゅう。
道のはじっこ、いつものばしょに
こしを下ろして、またしんこきゅう。
しょいこから炭をおろして、またまたしんこきゅう。
あいさつをするだけ。それだけなんだけど。


少しして、道のとおくから人がやってくるのが見えました。
ふいに、しんぞうがばくばくと音をならしはじめました。
なんでだろう。
妹紅はてをぎゅっとにぎりしめました。
きづいたらあせでべったり。
あいさつをするだけなのに。
「おはようございます!」って。ただそれだけ。
それだけなのに、考えると息がくるしくて。
むねがくるしくて。
妹紅は思わず目をそらして、下をむいてしまいました。
少しずつ近づいてくる足おと。
早くとおりすぎてほしい。
けど、その時間はとてもとても長くて。
けっきょく、あいさつはできませんでした。


「言うほどかんたんなことじゃないぞ?」
妹紅は、そう言った慧音のことばをおもいだしました。
がんばらなきゃ。がんばらなきゃいけないんだ。
しばらくして、道のむこうから
誰かがやってくるのが見えました。
どうやらからだつきのいい男の人のようです。
「こんどこそあいさつするんだ。」
どきどき、どきどき。


男の人のかおが分かるくらい近くにきたところで、
妹紅は、ゆうきをふりしぼって声をかけました。
「お、おはようございます!」
妹紅はせいいっぱいの声であいさつをしました。
それはけっして大きくはありませんでしたが、
心のそこからふりしぼった、思いのつまった声でした。


でも、その男の人はなにも言わずに行ってしまいました。


一しゅんだけ、すっと体の中を
つめたい風がとおりすぎていくような、
少しだけ、何かがけずれてしまったような、
そんな気がしました。でも…。
「めげちゃだめだ。だめなんだ。」
ぎゅっと手をにぎって、しんこきゅう。
あきらめたらだめ。にげたらだめ。
まだがんばれる。がんばろう。


そのあとも、妹紅はひっしであいさつをしました。
はずかしいのをこらえてせいいっぱい、
道ゆく人たちに声をかけつづけました。
けれど、みんな妹紅をちらっと見るくらいで、
あいさつをかえしてくれる人はいませんでした。
なんのために、こんなことしてるんだっけ。
妹紅には、よく分からなくなってしまいました。


広がっていたあたたかいものも、どきどきも、
だんだんと冷たくなっていきます。
むねに、何かでつっつかれたような
かなしい痛みが、ずきん。ずきん。
さっきもらったゆうきもどこへやら。
そのうち声はちいさくなり、
やがて、おひさまがくもの向こうに
隠れてしまうようにくらく、消えてしまいました。


ゆうぐれ、慧音の家を妹紅がたずねました。
「どうだった?」
慧音はげんかん口で妹紅にそっとききました。
けれど、妹紅はこたえません。
「……そうか。」
慧音はだまってうなづきました。
「……だれも、なにもいってくれないんだ。」
ぽつり、と妹紅は言いました。
「わたしがどれだけがんばっても、
みんな相手にもしてくれないんだ。」
妹紅はうつむきながら、
ふるえるような小さな声で、ぽつり、ぽつり。
「きっとへんなやつだ、とか思ってたんだ。
やっぱりだめだよ。みんなとはちがうんだ。」
まるで自分に言い聞かせるように。
「ん。まあなんだ、入りなさい。」


慧音は妹紅をへやにむかえ入れました。
こしをおろしておちついたところで、
やさしくほほえんで聞きました。
「妹紅。あいさつするとき、笑ってた?」
「えっ?」
妹紅は、とつぜんのしつもんにびっくりしました。
「わ、わかんないよそんなの……
あいさつするのにひっしだったし、
そんなこと考えてるよゆうなんて……」
妹紅はしどろもどろになりながら言いかえしました。
慧音はわらってそれにこたえました。
「だからじゃないのかな?」


「『おはようございます』っていうことばは、
『あさ早くからおつかれさまです、がんばってください』
って言うような、そんなことばだと私はおもうんだ。」
「よく、わかんないよ……」
「あいさつは、相手へのかんしゃの気もちを
ことばで伝えることなんじゃないかな。」


「きっと、いっぱいいっぱいだったんだ。
だからぎゃくに、そんなよゆうがなくて。
それでだめだったんじゃないかと、わたしは思うよ。」
慧音は、てらこやのせいとに教えるような、
やさしいことばで、妹紅に言いました。
「自分がどう思ったか、どうされたかはかんけいないんだ。
相手がどう思ったか、相手をどう思ったかなんだ。
もちろん、そんなのさいしょはできなくてもいい。
でもそれをずっとつづけていけば、きっと心からかわれる。
そしたら、きっとみんなもこたえてくれる。
妹紅がかわれば、みんながかわるんだ。
つづけること、それがなによりだいじなんだ。」
「でも……」
妹紅は、うつむきながら言いました。


「そんなの、むりだよ。」
妹紅の手に、ぽたりとなみだがこぼれおちました。
「わたし、すごくつらかったんだ。
みんながこっちを見てる。それだけでつらかったんだ。
わたしはみんなとはちがうって。
そう思われてる気がして。どんどんつらくなって。
こんなの、できっこないよ。やっぱりわたしは……」
ぽろ、ぽろ。
なみだもことばも、とまりません。
ただただ、こぼれおちていくばかり。

「妹紅」


「なあ、かなしいことをいわないでおくれ。
わたしが妹紅をそんなふうにおもったことはないんだ。」
慧音はぴしっとしたかおで言いました。
「でも……」
妹紅はかすれたこえでいいかえそうとしました。
「妹紅がみんなとちがうなら、わたしも人間じゃないな。」
「そんなことないよ、慧音はわたしとは……」
「わたしは『妹紅と同じ人間』だよ。
妹紅も、わたしも、おんなじなんだ。
だいじょうぶ、妹紅は人間だよ。みんなと同じ人間なんだ。」


慧音はそう言って、こんどは妹紅をつつみこむような、
やさしい、とてもやさしい声と、えがおでつづけました。
「もしもだれかが、妹紅をみんなとちがうと思ったなら、
もしもみんなが、妹紅をみんなとちがうと思ったなら、
わたしはここにいる。いつでもここにいるよ。
いつでもここにかえってくればいい。
わたしは妹紅といっしょだ、だからがんばろう。
あきらめるのはいつでもできるんだ。だから、がんばろう。」
妹紅はまた、しずかになみだをこぼしました。
けれどさっきのなみだとは、ちがうなみだ。
あたたかい、なみだでした。


つぎの日。
妹紅は同じ時間、おなじばしょにこしを下ろしました。
まだ少しくらい、朝のまちかど。
ほんとうは来るのもつらくて、
今すぐにでもにげだしたいくらい。
だけど、だけど……。

やがて一人、道の向こうから歩いてくるのが見えました。
かみの毛の白い、おばあちゃんです。
また、しんぞうがばくばくと音をならしはじめました。
ぎゅっとにぎりしめた手。
少しずつ近づいてくる足おと。
とてもながくかんじる時間。


「お、おはようございます!」
妹紅はせいいっぱいの声とえがおで言って、
あたまを下げました。
でもなんだかはずかしくて、頭をさげたまま
かおを上げることができませんでした。


「おはよう。」
ふいに声をかけられて、妹紅ははっとかおを上げました。
おばあちゃんが、にっこりとしたかおで
妹紅に笑いかけていました。
「こんな朝からがんばってるね。えらい、えらい。」
とつぜんのことに、あたまの中はもうまっしろ。
なんて言えばいいのか分からず、
妹紅はぎこちなく、ぺこりともういちど
頭を下げるだけでせいいっぱいでした。
「がんばってね。」
おばあちゃんはそのままとおりすぎていきました。


どくん、どくんと音を立てていたむねが、
時間とともに少しずつしずかになっていきます。
かわりに、なんだかあたたかいものが
じんわりと同じばしょに広がっていきます。
気づいたら妹紅は少しだけえがおになっていました。
「あいさつって、されたらうれしいんだ。」
がんばろう。すこしゆうきが出た。
妹紅は「ぱしっ」っと両方の手で
ほほをかるくたたいて、かおを上げました。
気づけば、おひさまも山のむこうから
かおを出していました。
4作目、今度はまた絵本風です。
1作目の「妹紅と二本の木」の後の話ですが単品でも読めるようにしました。
もこたんがすごい子供っぽいですが、個人的には
成長=人と触れ合った数だと思っているので
ずっと一人でいたもこたんは年の割りにこんなんじゃなかったのかなっていう妄想ですw
またご意見、ご感想などあれば気軽にいっていただけると大変嬉しいです。
よっけ
http://yokkemoko.manjushage.com/
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コメント



0.610簡易評価
2.70奇声を発する程度の能力削除
何だか分かる気がする…
4.70名前が無い程度の能力削除
>>ぬげちゃだめだ。だめなんだ。

いい話なのに誤字で吹いた。
成長=人と触れ合う数はすごいわかるわぁ。フランなんかも適応されるんでしょうかね
13.無評価よっけ削除
>何だか分かる気がする…
割と日常でもあることかもしれないですねー。

>>>ぬげちゃだめだ。だめなんだ。
>いい話なのに誤字で吹いた。
誤字じゃないですw「ぬ」じゃないですよ、「め」ですw
めげるって言葉あんまりメジャーじゃないんですかね?方言なのかしら?

>成長=人と触れ合う数はすごいわかるわぁ。フランなんかも適応されるんでしょうかね
フランちゃんにまともになって欲しいお姉ちゃんと、
誰とも会えないからどんどん歪んでくフランちゃん、なんか一本かけそうですねw
14.100名前が無い程度の能力削除
なんだか心がぎゅってなるような感じでした
妹紅に感情移入して読むと涙が…
すごく好きな作品です