Coolier - 新生・東方創想話

再会の彼岸花

2011/07/17 15:49:04
最終更新
サイズ
10.3KB
ページ数
1
閲覧数
751
評価数
10/31
POINT
1810
Rate
11.47

分類タグ

真面目なこまえーき

死にそうにない人が死んでるトンデモ設定。




『再会の彼岸花』


「小町、起きなさい。」
あぁ、映姫様の声がする。ムニャムニャ。
「起きなさい。死者が来てるんですよ。」
ペチン
頭を叩かれた。そんな優しい叩き方じゃ目が覚めませんよ。
「あなたが運ばなくてどうするんですか。」
ペチペチペチ
連打が始まった。放っておくと悔悟棒できっつい一撃が来るんだろうな。
アレがくると痛いんだよなー、起きなきゃなーと思いながらもそれ以上に眠いから眠る。
「小町、いい加減にしなさい。」
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
あれ、まだペチペチ?棒でバキッとやられる覚悟で寝てたんだけど。珍しいこともあるもんだ。
「……おはようございます。映姫様。」
気になって目を開いてみれば、なるほど、映姫様は悔悟棒を持っていない。
そもそもいつもの閻魔の服ではなかった。白装束に三角頭巾、普段棒を持っている手には、代わりに数珠が握られている。
「映姫様、その格好……!」
「ええ、死んでしまいました。」
死に装束に身を包んだ映姫様は、こともなげにうなづいた。


なんで?なんで!?今朝会ったときに普通に挨拶したのに!
病気だとか聞いたことないし、事故で死ぬような方でもないし、そもそも閻魔って何万年も生きるものじゃないか!
「死んだって……いきなり過ぎます!」
「私も突然なことに驚いています。幻想郷へ説教しに周ってたのですが……頭に痛みが走って、気がついた時にはあなたの前にいました。」
死因はよくわからないが、死んだのはほんの数分前だろう。
突然死したばかりとは思えない、いつもの落ち着いた調子で映姫様は続けた。
「確かに普通の寿命より数万年も早い死ですが、しようがありません。天寿を全うできる命は稀です。唐突な不意の死に見舞われることのほうが多いのです。」
「そんなこと言われたって、急すぎて受け入れられませんよ。」
死者を裁く閻魔が簡単に死ぬわけがない。だから映姫様が死ぬなんて考えてもなかった。
「受け入れようとそうでなかろうと、死は死です。こんな急な死に方、小町は沢山見てきたでしょう?」
映姫様は白装束の懐に手を突っ込むと、いそいそと銭が入った小袋を取り出した。
「はい、渡し賃です。船頭さん、向こう岸までお願いしますね。」
三途の渡し賃は徳の高さと比例する。さすが映姫様、ずっしりと重い。
御代を受け取っても頭がボンヤリして動けなかったあたいに、ペチンと映姫様の気付けが飛んできた。







川岸には八部咲きの彼岸花が慎ましく揺れている。
ゆるやかに流れる川の水音に、キィキィと棹を動かす音が小さく混じる。
「死んだのが外出中でよかったです。裁判所内だったら、こうして小町に運んでもらうこともなかったでしょう。」
映姫様は手漕ぎ船の段に腰掛け、彼岸の風景を楽しんでいるようだ。
「いつも歩いている川辺ですが、船から眺めるとまた違う景色を見せてくれるんですね。」
話しかけられても、あたいは応えることができなかった。声を出すと泣き出してしまいそうで、ただ耐えるしか出来なかった。
「小町、せっかくだから何かお話しましょう。黙って漕いでるだけじゃ楽しくありません。」

泣いちゃダメだ。
映姫様は天界に行かれて、幸せに暮らすんだ。
そして十分に天界を堪能したら、輪廻の輪に入り再び転生される。
なんに生まれ変わるかわからないけど、映姫様ほど得の高い魂なら再び地蔵に……いや、もっと位の高い仏になれる。
だから泣くな。
死んだのは悲しいけれど、別れるのは辛いけれど、
映姫様の旅立ちを笑顔で送ってあげなきゃならないんだ。

涙をおし殺して、なんとか言葉を吐き出す。
「……映姫様。生まれ変わったら、またお地蔵様になりたいですか?」
「そうですね。他の生き方も面白そうですが、選べるのならまた地蔵になります。」
「閻魔の仕事、またやりたいですか?」
「ええ、非常にやりがいがありました。来世も地蔵になったのなら、ぜひ閻魔に立候補したいです。」
「じゃあ早く転生してくださいよ。あたいが船頭してるうちに、また閻魔になってください。」
「それは素敵ですね。……ですが、小町が生きている間に地獄から出られることはないでしょう。」
映姫様は謙遜が過ぎる。こんなに誠実に閻魔をこなしてきたのに、地獄で償う罪があるわけがない。
「なにを言ってるんですか。映姫様は天界行きですよ。」
「……いえ、私は地獄行きです。」
「そんなこと無いです。罪を負った魂を沢山救ったじゃないですか。」
映姫様はコホンと咳払いすると、いつものお説教するときの話し方に変えて言葉を続けた。
「たとえ裁きであろうとも、他人を地獄に落とし苦しめることは罪なのです。
死んだ閻魔は皆、この罪を償うべく地獄の底で責め苦を受けます。閻魔とは業を背負った仕事なのです。」

映姫様が地獄に落ちる。
信じられない。ウソだ、そんなの。

「それ、本当ですか。」
「もちろん本当です。私はこれまで生きた年月よりも長い間、地獄に住まうことになるでしょう。」
「初めから地獄に落ちるのを知ってて閻魔に……。」
「ええ。覚悟の上で閻魔の職に就きました。」
「でも裁きが罪になるってどういうことですか!?誰かがやらなきゃならない仕事なのに、免除とかされないんですか!」
「閻魔とはそういう仕事なのです。罪を恐れる余り、大量の死者を天界行きにした閻魔がいたそうですが……
私はそのようなこと考えたことありません。出来るだけ誠実に裁きを与え、そして地獄に落とした魂の分だけ罪を償うつもりでした。」

なんだよそれ。
映姫様は閻魔の仕事に一生懸命だった。
そりゃお説教が過ぎたり、おせっかいでめんどくさいところもあったけど
死者のことを思い、生者の死後を想う素晴らしい閻魔だった。
それなのに……きちんと魂を裁くほど、死者に誠実であるほど罪が重くなって罰を受けるだって!?
真面目な閻魔様が馬鹿を見るだけじゃないか!そんな理不尽な理由で、映姫様を地獄に送ってたまるか!

「すいません映姫様。向こうに送ることは出来ません。」
棹を操り、船の動きを止める。
「映姫様が地獄に行くなんて、あたいには納得できません。」

映姫様の顔が怒りの表情に変わった。鬼気迫る閻魔の顔。
だけど、あたいは折れるわけにはいかない。折れたらこの人は地獄に行ってしまう。

「小町、船を動かしなさい。」
「出来ません。」
「上司命令です。私を岸まで渡しなさい!」
「いやです!」
「それは輪廻に反する罪深き行為です!輪廻を正しく廻る意義に比べれば、あなたの納得など何の意味もない!」
「あたいが悲しいのを我慢して船を出したのは、映姫様なら天界で幸せに暮らすと信じていたからです。
それなのに地獄に落ちるなんて……あたいにはどうしても耐えられません!
輪廻なんてどうでもいい!理不尽に地獄に落ちるとわかってて、映姫様を岸に届けるなんて出来ません!」

自分がわがままを言ってることなんてわかってる。
こんなこと言っても、映姫様がの裁判が遅れるだけで意味がないこともわかってる。
映姫様が入る輪廻の輪をぶち壊せないこともわかってる。
それでも……それでも、黙っているわけにはいかない。

目を閉じて、ぐっと歯を食いしばる。こんな反抗したら悔悟棒でぶん殴られるところだ。
棒を失った今でも平手くらい飛んでくるだろう。
……だけど、何も起こらない。
そろそろと目を開けると、映姫様はダダをこねる子供を見る母親のような目付きで私を見つめていた。

「困りました。私は天界より地獄の方へ行きたいんです。」
「……そんなわけないでしょう。地獄に行って嬉しい人なんていません。」
映姫様はすこし気恥ずかしそうな様子で目を逸らした。
「天界に行けば輪廻に乗って、新しい命に転生してしまいます。
そうなったら、もう小町と会えないじゃないですか。
閻魔の罪は重いです。何千年も、何万年も経って、小町に寿命が来たとしても私はまだ地獄にいるでしょう。
ですから、遠い将来小町が死んだ時……そのときにまた、地獄で会いたいのです。」

何万年も地獄にいるなんて普通じゃない。閻魔の罪とはそれほどまでに重いのか。
誠実がゆえに背負った罪を思うと、その切なさに涙が出てくる。
でも……でも、それ以上に。
映姫様にまた会える。あたいにまた会いたいって言ってくれてる。
その喜びに笑みが零れる。

「小町。私が地獄に落ちることを悲しんでくれるのは嬉しいです。
でも、私は地獄に落ちるのを悲しく思ってません。
再び小町と会えるだろうと思うと、むしろ天界行きよりも嬉しいと思えるのです。」

映姫様が閻魔だから、あたいは出会えた。
映姫様が閻魔だから、重い罪を背負った。
閻魔の罪のことは納得できないけれど……罪のおかげでまた会える。
理不尽だらけの運命だけど、この巡り合わせには感謝します。

「じゃあ、さよならってわけじゃないんですね。」
「ええ。現世でお別れというだけです。」
「死神も閻魔に負けず劣らず長寿ですから、次に会うのはずいぶん先になりますよ。」
「ええ、いつまでも待ちますとも。私に会いたいからって、死に急いでは許しませんよ。」

ああ、笑いと涙が止まらない。
ぐちゃぐちゃになったあたいの顔を見て、映姫様がクスリと笑った。
涙は抑えてあたいも笑おう。
この別れは永遠の別れじゃない。悲しい死別ではないんだ。

「もしも、あたいが来る前に罪を全部清算できたなら、とっとと天界に上がってくださいよ。
あたいを待って地獄に残るなんて馬鹿らしいです。」
「そうですね。でも、小町が来る前にそうなることはないでしょう。」
「じゃあ逆に、あたいが地獄に落ちずに天界行きになったらどうします?」
「それはすばらしいことです。仕事を放棄する罪を重ねなかったいうことですから。」
「あ、それは無理です。あたいの地獄行きは確定ですね。」
「私がいないからって仕事サボってはいけませんよ。」
「……努力します。」
「気持ちがこもってないですね。ま、いいでしょう。こんなときまで説教する気はありません。」

映姫様は右手を差し出して、握手を求めてきた。
「小町が地獄に来たら、一緒に罰を受けてあげます。少しでも善行を行い、罪を負わないように生きなさいね、小町。」
その細い手をしっかりつかんで、あたいも返事を返す。
「その時は地獄で一緒に魂を清めて、一緒に転生しましょう。映姫様がまた閻魔になるなら、あたいもまた死神になります。」
「ええ。来世でもまた、よろしくね。」
優しく笑う映姫様の目から、一筋の涙がこぼれた。
映姫様は誤魔化すようにシパシパと瞬きをしていたけれど、その顔は次第に伏せられ細かく震え始める。
「笑って発つつもりだったのですが……ごめんなさい。少しだけ、泣かせてください。」
胸元に飛び込んできた小さな体は、なぜだろう、死んでいるのにとてもあたたかかった。







「映姫様、着きました。」
船が着いたのを見て、裁判所の案内人が近づいてくる。
あたいから魂を引き継ごうとして、それが映姫様であることに気づいた彼はハッと息を呑んだ。

「少しだけ時間を貰っていいですか?小町に渡したいものがあるのです。」
言うなり、映姫様は岸辺の彼岸花の隣に屈み込むと、一輪摘んで私に差し出す。
「彼岸花の花言葉、知ってます?」
「……『悲しい思い出』。」
「そういえば、花言葉が幾つかありましたね。私が言いたいのは別の言葉です。」
「じゃあ、『あきらめ』ですか?」
「そんな暗い言葉を送るわけないでしょう。他に知りませんか?」
黙って首を横に振る。すると、映姫様は私の手に花を握らせ、それを包み込むように手を重ねてきた。
「彼岸花の花言葉はもう一個あります。『再会』です。」
映姫様の手、やっぱりあったかい。
命が抜けた青白い手だけども、間違いない。魂があったかいんだ。

「それでは小町、しばしお別れです。」
「……はい。また会いましょう。」

重ねた手を離すと、 映姫様は案内人と共に裁判所へと歩み始めた。
あたいも岸に泊めた船に戻る。
振り返ることはない。そんな必要はない。
悲しくて辛いけど、それ以上に再会が楽しみでならない。
こんなすばらしい別れに未練なんかあるものか。

小船の客席に彼岸花を座らせて、帰りを漕ぎ出す。
「あたい、寿命の限界まで生きますよ。映姫様の分も頑張って生きます。
うんと長生きして、土産話をたくさん仕入れて地獄に向かいますから。
だから、それまで楽しみに待っててください。」
リボンのような細い花びらが、風に吹かれてゆらゆらとゆれた。映姫様が返事をしているように思えた。
おまけ

どれだけ経ったかわからなくなったころ、小町も地獄に行きました。

『溶けた銅流しまーす。いきますよー。3、2、1、ハイ!』

ダバァ

「あちゃちゃちゃちゃ!勘弁してよ~!」
「これは生前の罪に対する罰なのです。勘弁されるわけないでしょう。」
「それはわかってますけど、言うだけならいいじゃないですか。実際熱いですし。」
「ふざけたことを口にしてはなりません。罰とは罪を償い魂を清めるためのものでクドクドクドクド……」
「はい。(あー、地獄に行っても説教癖は変わらないなぁ。)」
「痛い熱い辛いと軽薄に騒ぐものではなく、自分の罪と正面から向き合いクドクドクドクドクドクドクドクド……」
「はい。(今日の晩御飯なんだろ。石かな。砂かな。それとも煮えた油……これは飲み物か。でもカロリーあるだけマシかな。)」

『じゃあ次は針山でーす。あっちの列に並んでくださーい。』
見ると、鬼が長い長い列の後ろで『針山 最後尾↓』と書いたプラカードを掲げている。

「映姫様、次はあっちの列です。アグレッシブな登山を楽しめるそうですよ。」
「クドクドクドクド……あ、次は並ぶんですか。じゃあ並んでる間に続きを話しましょう。行きますよ、小町。」

二人とも、地獄だというのに妙に幸せそう。でも四六時中説教される小町はちょっとお疲れ気味な様子。
鬼の獄卒よりもはるかに強い二人にとって、責め苦はあんまり辛くない。地獄でのデートは結構楽しいみたいです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

閻魔大王は死者を地獄に落とす罪を償うために、自主的に地獄へ降りては罰を受けてくるそうです。そんな話を元に書きました。
この方が亡くなる設定はかなり無茶と思いましたが、無茶を通してでもこまえーきが書きたかったのです。
こまえーきは素晴らしきかな。ああこまえーき、こまえーき。
アンチョビ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.840簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
閻魔ってそんな扱いなのか! 納得できないのは私が人の身だからでしょうか。

良いこまえーきをありがとうございました。
映姫さまはなんで死んでしまったのだろう…?
3.100名前が無い程度の能力削除
イイヨイイヨー
8.100名前が無い程度の能力削除
これは泣けるこまえーき
10.90奇声を発する程度の能力削除
とても良いお話でした
11.100Dark+削除
素晴らしい
12.100名前が無い程度の能力削除
こまえーき!こまえーき!
14.100名前が無い程度の能力削除
ああこまえーき、こまえーき。
こういう感じがこまえーきっぽくて、よかったです。
21.100名前が無い程度の能力削除
これはいいこまえーき
25.90名前が無い程度の能力削除
何か地獄が遊園地みたいでワロタwww
29.100名前が無い程度の能力削除
まさか四季様が…とても新鮮でした。