Coolier - 新生・東方創想話

天狗の嫁入り

2011/07/01 01:10:24
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 必要なものはカメラと手帖。
 射命丸文はふわりと飛び立つと、すぐに加速して、弾丸のような速さで幻想郷の空を飛んでいった。今日は大事な、というとちょっとおおげさだけど、まあ、はずせない用事があるのだ。

(ふんふんふんふーんふふふふーんふふふふーんふふふふーん……)

 と、自分のテーマ曲を口ずさんだ。新聞記者のときのテーマ曲だ。妖怪の山の守護者としてのテーマも好きだけど、やっぱり自分にはこちらのほうが似合っているように思う。
 文は新聞記者で、カメラマンだから、写真が好きだ。写真を撮るとき、カメラのシャッターを押すと、ぱちりと音がする。良い写真が撮れた、と思ったときには、布団に入って寝る寸前まで、その音がかすかな耳鳴りみたいに頭の奥に残っていて、興奮して寝付けなくなるくらいだし、現像してみてやっぱり素敵な写真だったりすると、もううれしくて、乳首が立ちそうになる。
 それが大事な友だちの、花嫁姿の写真ならなおさら気合が入るってもの。はたての花嫁姿を想像すると、自然と顔がにやけた。いったいどんなふうになっているだろう。
 妖怪の山を飛び立ってから百も数えないあいだに、文はもう人里に降り立っていた。ここから先は歩いて行く。







 大きな門をくぐって、大きな扉をあけて、大きな家に入った。廊下を右に。次は左に。階段を上がって、あとはまっすぐ。五番目の部屋。
 冗談みたいに大きな家だった。歩きながら庭に目を降ろすと、池があって橋があって、鯉がいてししおどしがあった。しばし立ち止まって、かぽーん、と鳴る音を聞いた。それからまた少し歩いて障子を開けた。
 姫海棠はたてと古明地こいしがいて、ふたりでたべっ子どうぶつを食べていた。

「それ、らくだね」
「らくだだねー。むぐむぐ」
「いっぺんに食べないで、ちゃんとひとつずつ見て食べなよ。もったいない。これ、きりん」
「きりん」
「ジィッラァァフ」
「ジラフ」
「ちがうちがう、ジィッラァァフ。もっと舌を使って」
「ジィッラァァフ」
「そうそう。これで英国に行っても困らないよ。一人旅できるよ」
「英国ってどこ?」
「女王様のいるとこ」
「あ、やらしいんだー」
「やらしくない、やらしくない」
「何やってんですかあんたら」

 文がツッコンだ。嫁入り前だというのに何をまったりしているのか。
 こいしははいつもどおりの、黄色い長袖の、袖のひろがった上着に緑色のスカートの格好で、はたてはと言えば白無垢だった。文は思わず目を見開いた。
 打掛も掛下も、帯も足袋も小物も真っ白で、はたての栗色の髪がよく映えていた。むむ、とうなって文を睨む。けれど真っ白だったので、ちっとも迫力がなかった。ひきこもりのくせにいつも勝気な瞳が、今日ばかりは清楚でひめやかで、どこか甘そうで、たとえれば、繭に包まれたミルクみたいに見えた。
 きれいだ、と文は思った。それからけらけらと笑った。

「よく似あってます」
「うっさい」

 ぷい、と横を向く。花嫁の気分はどうですか、と訊いた。記者口調で話されると調子が狂うわ、とのことだった。

「まあ、別にふつうよ。興奮してないし、かったるくもないし。体調は万全。今なら反復横跳びを一分間で2000回はできるよ」
「着物が乱れるからやめてくださいね。さて、生まれてからずっとじめじめした暗い部屋で過ごしていて、ひきこもるために生まれてきたと言われているあなたが、何を血迷ったのか人間の男性と結婚するという。どうした風の吹き回しでしょうか。ついに頭いかれたんでしょうか。率直に経緯を語ってください」
「含みがあるっていうか含みしかないなあ!」

 目を吊り上げて怒るけど、やっぱり真っ白だから、ぜんぜん怖くないのだ。文は手帖にさらさらと筆を走らせて、それでもぽつぽつと語る、はたての恋物語を書き留めていった。

「てきとうに念写してたら好みの男前がいてね」
「ふむふむ」
「何度か検索して写してるうちに家がわかってね」
「ほうほう」
「こいしちゃんに頼んで無意識で私を好きにしてもらった」
「やっぱり頭いかれたんじゃないですか」

 文はカメラではたてを殴った。丈夫なカメラだったのではたての頭のほうがへこんでたんこぶができたが、角隠しで隠れるので大丈夫だった。

「痛え!」
「当たり前だ! 洗脳してまで結婚したかったんですか!」
「恋とはふたりがふたりだけの暗示にかかることなのよ」
「それっぽいこと言うな。相手だけじゃないの」
「いやあ、最近親の目がきびしくてさあ」

 夕方に起きて、「昨日夢のなかでお金をいっぱい拾う夢を見ちゃった」などエキサイティングな話題を出すと、「昨日じゃないだろ」と天狗なのに豚を見るような目で見られるという。
 当たり前だ、と言って文はまたはたてを殴った。前歯が折れた。でも天狗なのですぐに治った。

「馬鹿やってないで帰るわよ。親御さんから連れ戻すように言われてるの」
「何でよ。このまま結婚すれば、人生安泰なのに。見てよこの冗談みたいな家、お風呂にミストサウナがあるんだよ」
「烏のくせに何言ってるの。どうせ行水なのに」
「ゲーム機もいっぱいあるよ。ほらこれ、メガドライブ」
「それはもらって帰ろう。でも、その前に。ね、立って」
「ん」
「もうちょっと体をななめにして、顔はこっちに向けて……はい、ぱちり」
「撮れた?」
「うん。じゃ、今度は座って」
「うん」

 座ったり立ったり、三つ指をついてみたり、庭に出たりして写真をたくさん撮った。耳鳴りのようなシャッターの音が、文の頭のなかでずっとひびいていた。はたてはきれいだった。言うのはめんどくさいので、伝えたことはないけど、文はいつもそう思っている。
 心ゆくまで撮影すると、じゃ、ということではたてを連れて妖怪の山へ帰った。はたては抵抗したが、「人間と結婚しても、せいぜい数十年しかひきこもれないのよ」と言うと、あんぐりと口を開けて挙動不審になったあと、おとなしくなってすごすご白無垢を脱いだ。







 帰ってからも興奮が冷めやらないので、ふだんなら次の日にやる現像を、その日のうちにやってしまった。夜中までかかって、できあがった写真を見ると、やっぱり良い写真で、見ながらついつい、にやけてしまった。
 大あくびをして、目をこすりながら寝間着に着替えて、枕の下にできあがったばかりの写真を入れて、眠ろうとすると、突然部屋の片隅から声が聞こえた。

「お姉さんえろいねー」
「んなっ」

 びっくりした。灯りをひとつしかつけていなかったので薄暗くて、よく見えなかったが、やがて光の届くところに声の主が出てくると、黄色い服と、緑色のスカートと、可愛い帽子が見えた。こいしだった。

「……いつからいたんですか」
「ずっといたよ。いっしょに帰ってきたの。お姉さんがにやにやしっぱなしなの、見てて気持ち悪かったよ」
「余計なお世話です。不法侵入ですよ」
「怖い怖い。お姉さんみたいなの、変態っていうんでしょ。いたずらされちゃう」
「……何が目当てなんですか」
「メガドラちょうだい」
「……ネオジオCDも持ってきたので、こっちではだめですか」
「ロードが長いから嫌。ツインファミコンでもいいよ」
「これは、夢工場ドキドキパニックをやるのでだめです。ネオジオポケットカラーはどうでしょう。ワンダースワンより液晶やCPUの性能がいいんですよ」
「ワンダースワンのがいいな」
「これは、ロマサガをやるのでだめです。ネオジオポケットがふたつあるので、ふたつともあげます」
「カラーじゃないのにふたつももらっても……やっぱりメガドラちょうだい」
「これはガンスターヒーローズが」

 最終的にはPCエンジンコアグラフィックスで話がまとまった。連射パッドが標準で付属しているのが決め手になった。

「さて」

 もうすぐ朝になりそうだった。徹夜は疲れるが、妖怪なので多少のことでは負けない。文は手帖を取り出した。筆の先をぺろっと舐めて、墨を溶かして書く用意を整えた。

「ここからは取材です。どうしてはたてに協力しようと思ったんですか」
「ん? 友達だから」
「友達なら、はたてを止めてくださいよ。取り返しのつかないことになるところだったじゃないですか」
「そうかな。結婚って、そういうものなの?」
「ええそうですよ。結婚って、ただのんびりできることじゃないんですよ。エッチなこと、いっぱいされちゃうんですよ」
「エッチなこと? どんなこと?」
「おっぱいをさわられたり、キスされたり、一緒に寝たり、お風呂に入ったり、男性のみすてぃあが女性のナムコに、えっと、ずいずいずっころばし」
「ああ」
「わかりましたか」
「おくうとお燐がやってるような」
「詳しく」

 取材は昼までつづいた。窓の外はからからの良い天気で、とても暑くなった。数十頁ほどうまった手帖をていねいにたたんでしまうと、文はこいしに、もう一度最初の質問をした。

「ね、なんではたてに協力したの?」
「うーん」
「無意識、なのかな」
「わからない。わざとかどうかって、そんなに大事かな。結婚ってどんなものか、知りたかったんだ。きっとそうなんだ。私もお姉ちゃんも、結婚できないだろうから。お姉ちゃんはみんなから嫌われてるし、私は誰からも好かれないから」

 文は息を呑んだ。こいしの口調は先程までの取材と同じ調子で、大事なことをしゃべっている感じはまったくなかった。けれどそれが、目の前の女の子のかわいい姿に、ちっともそぐわないように見える。
 文の部屋は狭いから、外の暑さと、消し忘れてずっとつけていた灯りのせいで、熱気がこもって空気が悪かった。風を起こせば、この空気も入れ替わるだろう。でも同時に、こいしもふと、いなくなってしまうような気がした。
 文はカメラをかまえた。

「ん?」
「あなた、またどこへ行っちゃうか、わからないですからね。私が撮っといてあげます」
「ん? 別にいいけど、それでどうするの?」
「写真ってね、いいものなんですよ。そのときに見たことや感じたことを、切り取ってとっておくことができるんです。あとで思い出すのに便利なんですよ。現像したら、取りに来てくださいね」
「ふうん。いいけど、もらっても私なくしちゃうかも」
「なくす前に、お姉さんにあげてください」
「お姉ちゃんに?」
「そうです。さとりさん、喜びますよ。きっとです。絶対です」
「……えへへ。そうかな」

 こいしはにこっと笑った。夜じゅういっしょにいたけど、はじめて笑顔を見たような気がした。
 ぱちり、ぱちり、ぱちり。
 角度を変えて、写真を何枚もとると、こいしは帰っていった。ちゃんと挨拶をして扉から出ていって、こころなしか上機嫌なように見えた。文はそれから、今度こそ眠った。耳鳴りのようなシャッターの音が、昨日からずっと聞こえていて、子守唄のようにそれを聞きながら、もしもこいしが自分の写真をなくしてしまっても、はたてが念写で取り返してくれるわ、と思った。







 
このSSを書くにあたり、白無垢の画像を検索しましたが、やはりJAPANの人間はウェディングドレスよりも白無垢のほうが良いんじゃないかと、私はそう思いました
あとゲーム機の種類の多さにも驚きました God of war3が目当てでプレステ3を買いましたが、やってません

>奇声さん
またもやありがとうございます、修正しました
でも今気づきましたがGoogle日本語入力に頼り切りで自分で書けない

>26 様
すいません、ご指摘ありがとうございます
修正しました
アン・シャーリー
http://ameblo.jp/an-n-e/
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コメント



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2.100奇声を発する程度の能力削除
>姫街道はたて
姫海棠
ずいずいずっころばしwww
はたてちゃんの白無垢姿見てみたいなぁ
17.100名前が無い程度の能力削除
引きこもり乙
20.100名前が無い程度の能力削除
なにこれこわい
23.70名前が無い程度の能力削除
うん
26.100名前が無い程度の能力削除
はたてがダメな子になってる…

返信の奇声さんの漢字がまちがってますよ。
36.100名前が無い程度の能力削除
アン・シャーリーさんの作品はどこか雰囲気が原作っぽい気がします。
文体がomake.txtの文に似てるからでしょうかね。
ともかく、「東方読んでる感」が強くて好きです。
44.80保冷剤削除
結婚が人生の墓場だとするとこいつらは墓荒らし以外の何者でもねえな。キャッツアイか。
45.100名前が無い程度の能力削除
なんか不思議
47.100名前が無い程度の能力削除
最後の一文が好き。
49.100名前が無い程度の能力削除
天狗ひっでぇw