Coolier - 新生・東方創想話

All My Loving(後編)

2011/06/26 03:54:05
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前編を読んでなくてもわかるかもしれませんが、多分わかりません。
この作品集の下の方にあります。(適当)



2-2.
 「そういうわけで小傘、ちょっと手伝って欲しいんだけど。」
 ぬえは翌日、いつもの庭で腕を組みながら仁王立ちし、小傘に向かって力強く言ったが、小傘は特に意に介さずに傘をぶらぶらさせながら訊いた。
 「そういうわけって……?」
 「だーかーらー。あの悪徳巫女の結婚を阻止すんの。」
 「うん……。だから、何をどうやって?」
 「どうやってってあーた……。そりゃあ……。」
 ぬえは空を仰いだ。特に何も考えていなかったらしい。小傘は退屈そうに傘を地面にぺちぺちと叩きながら呟いた。
 「結局ぬえっちょが何をしたいのか良くわかんないんだけど。」
 「ぬっ……。って言うかぬえっちょって言うなっつってんだろ。」
 ぬえは小傘の頬をつねったが、小傘は特に痛そうにするでもなく、つねられたまま眠たげに続けた。
 「大体さー。ぬえっちょ早苗さんの悪口しか言わないじゃん。来なくなる方がいいんじゃないの。良い事なんじゃないのー。」
 「それはあれだよ……あれ。お菓子とか色々さ、食べれなくなるでしょ。早苗は兎も角お菓子に罪はないじゃんか。子傘も食べれなくなると困るでしょ?」
 「わちきあれ食べたことないんだけど。甘いものそんな好きじゃないし。」
 「文句ばっかり言ってないで手伝ってよ!」
 「だから何をって訊いてるんじゃん……。手伝わないとは言ってないよ。」
 ぬえは小傘の頬から手を離し、再度腕を組んで考え、ぽつりと呟いた。
 「……それは今から一緒に考えよう。」
 呆れ顔で小傘がぬえを見つめる。
 「やっぱり特に計画とかないんだね……。」
 「うっさいなー!そんな昨日の今日で名案とか思いつかないっつーの!めっちゃ急な話だっつーの!」
 小傘は大きなあくびをした。これだけ張り切ってるのに、まだ好きとは認めないんだなぁ、とぼんやり思いながら。

2-3.
 「じゃあ状況を整理してみようか。」
 二人は命蓮寺の離れにあるぬえの部屋に移動した。あまり物もなく、広くもない。元々命蓮寺の住人ではないのだし、何も知らない人間にぬえを見られるのは色々とまずいのかもしれない。そう思いながら小傘は続ける。
 「えっと、早苗さんは、守矢神社を続けていくために結婚しなきゃいけない。相手のことはまだ見たことがないっぽい。早苗さんは結婚自体に反対してない。でも人里に降りるのは嫌なのかも。こんな感じ?」
 「そんな感じ。」
 ぬえは小さな机に肘をつきながら少し不機嫌そうに答えた。自分が不機嫌な理由を考えたりしないのだろうか。小傘は余計な思考を中断し、素直に思ったことを言った。
 「不確定要素多すぎないかな。今私たちが出来ることって何もないと思う。」
 「ああん?」
 「だって邪魔するにしたって、そもそも早苗さん本人が相手のことを知らないんでしょ?勿論わちきたちもその人のこと知らないし。つまりそっちにどうこうするってことは出来ないよね。ってことは早苗さんに対して何か行動を起こすしかないんだけど、当の本人は結婚自体には反対ではない。だから打つ手なし。寧ろ行動を起こしたら早苗さんが嫌な思いをする可能性すらあるね。ぬえっちょがそれを構わないと言うなら、何か方法があるかもしれないけど。」
 身を乗り出してきたぬえを抑えるために小傘はなるべく論理的に説明しようと心がけた。ぬえは机に頬杖をついて目を瞑りながら考え始めた。それを見ながら小傘は更に続けた。
 「そう――そもそも邪魔すること自体が早苗さんのためになるのかどうかも微妙だと思うけどね。わちきなら素直に祝福するかな。不幸ってわけでもないなら――」
 「そんなことは関係ないよ。」
 ぬえは姿勢を変えずに、語気を鋭くして呟いた。
 「そんなことは関係ない。私が嫌だって言ってんの。」
 「ぬえっちょ……。本当に早苗さんのこと好きなんだねぇ。」
 「は!?何でそうなんの!?今あいつの幸せを邪魔しようみたいな話してたよね!?」
 顔を真赤にしたぬえが机をバンと叩く。小傘はにやにやしながら答えた。
 「違うよ。ぬえっちょが早苗さんと幸せになるための話だよ。」
 「そんなの!」
 「別に意地悪とか冷やかしで言ってるんじゃないよ。好きだから悩みを打ち明けてもらえなくて悔しいんでしょ?自分の方が好きだって思うから邪魔しようって思ったんでしょ?認めなよ。ぬえっちょ自身も自分で何やってるかわかんないでしょ、このままじゃ。」
 「――ッ!」
 ぬえは顔を更に赤くさせて無言でぷるぷると震えた。もしかして今の今まで本当に気づいてなかったのだろうか。こういうのに慣れてないのかな。大妖怪も色々大変なんだなぁ。小傘が暢気にそんなことを考えていると、ぬえは突然叫びだした。
 「そうだよ!好きだよ!好きっていうか最早めっちゃ好きだよね!悪いか!好きで悪いか!結婚とかさせねーから!そんなんさせねーから!私はな、何でも欲しいもんは力づくで手に入れてきたんだ!今回だって力づくでどーにかさせてやっからな!クソが!」
 「悪いとは言ってないよ。良い事だと思うよ。」
 小傘は真顔でぼそりと呟いた。聞こえてないかと思ったが、しっかりとぬえは小傘の方を睨みつけて叫び続けた。
 「うっさい!このぬえ様にここまで言わせたんだから絶対に成功させてやるわよ!」
 「ごめん、そこまで熱烈に語りだすとは思ってなかった。」
 「いいから早くなんか案だしなさいよ!何でもいいから!」
 「結局それはわちきが考えるのね……。」
 小傘は首を横に振ってごきごきと鳴らした。変なものに火をつけてしまった責任はとらなきゃならないよね、と諦めながら。

2-4.
 二人は春の妖怪の山の上を飛んでいた。風が強く、上手く飛ぶのが難しい。しかし慣れてしまえばなんてことはない。景色を楽しむ余裕すら生まれる。桜はとうに散り、若葉が生い茂ったその山は、奇妙な生命力に溢れていた。
 「……ねぇ小傘、こっちって妖怪の山だよね?」
 「そだよ。」
 「まさか直接乗り込んで取りやめさせるとか、そんなこと考えてないよね?」
 「わちきもそこまで馬鹿じゃないよ。」
 ぬえは怪訝そうな顔を小傘に向け続けていたが、小傘は目を凝らしてきょろきょろと何かを探している。ぬえの表情に気づいたのか、捜し物をしつつ小傘は説明し始めた。
 「んーと、わちきたちはほとんど何の情報も持ってないし、これからも定期的に早苗さんとその男の情報は必要になるよね。」
 「そうだけど……。」
 「かといって監視するってわけにはいかない。特にぬえっちょは人里なんか降りたら色々まずいでしょ。わちきも傘のせいで目立つ。じゃあどうすれば良いか。誰かに監視させて、定期的に情報を貰えれば良いよね。」
 「……それはわかったけど、何で妖怪の山?まだ博麗の巫女とか白黒魔法使いのような人間に頼んだほうが――」
 「ぬえっちょはそんなにあの二人に馬鹿にされたいの?」
 「それは……そうね、あの二人は顔広そうだし、色んな奴に喋りそうだわ。じゃあ誰にやらせんのよ。」
 「まぁすぐにわかるよ。」
 小傘は目的の場所を発見し、着陸する体勢を整え始めた。

2-5.
 ぬえには小傘が何も無いところに着陸したように見えたが、よく見ると木に隠れて小さな小屋がぽつんと立っていた。一体どういう施設なのか一見するとわからなかったが、どうやら何処かの妖怪の棲家らしい。ぼろぼろになった表札らしきものが小さく見えた。
 「へぇ、妖怪の山にこんなとこがあったんだ。」
 ぬえは独り言を漏らしながら歩きにくい獣道を登っていった。小傘は既に登り切っており、家の前でぬえを待っている。
 「で、此処がその、監視させる奴の家なの?」
 難なく登り切ったぬえがそう言うと、小傘は自信たっぷりな表情を見せてから家の戸を叩き始めた。
 「すいませーん。」
 返事はなかった。小傘がもう一度戸を叩くが、何の返答もない。生き物の気配すら感じ取れなかった。
 「んー、留守なのかな。」
 「こんなとこに誰が住んでるのよ。」
 ぬえが苔の生えた壁に寄りかかりながら言う。小傘がちょっと困った表情でドアノブを回そうとした瞬間――
 「誰ですかこんな時間に私今物凄い勢いで寝ようとしてたんですけど誰ですか戸を叩くのは誰ですか。」
 半纏を纏いクマだらけの顔をした天狗――射命丸文がふらふらになりながら一切抑揚のない声を漏らして現れた。

2-6.
 「で、何なんですかほんと……。つまんない用事なら帰って貰いますよ。」
 「へー、天狗ってこんな質素な家に住んでるのねぇ。」
 ぬえは家に二人を入れるなりベッドに倒れ込んだ射命丸の発言を無視して周りをきょろきょろと見渡しながら言った。取材に使ったメモや書きかけの原稿が乗ったインクのシミだらけの机、整理したつもりなのか部屋の片隅に集められた保存の利く食料品、ぬえと小傘が座っている申し訳なさ気に住居の役割を果たそうとしている椅子、射命丸が寝ころんでいるベッド、ぼろぼろのカーテンと窓。誰かが住むにしては、質素というよりも凄惨といえる環境であった。
 「仮住まいです。昔誰かが住んでたのかもしれませんが今は空き家ですね。ついこの間まででかいヤマを追ってたもんで、姿とか住所とか特定されたら色々とまずかったんですよ。」
 「……あんたもろくなことしてないのねー。」
 「ほっといてください。やっと原稿が上がってこれから寝るんです。さっさと用件を言ってくださいますか?」
 ぬえは不安げに小傘の方をちらっと見た。天狗に教えるなんて、それこそ一瞬にして拡散しそうなものだが――
 「ってことは今は特にネタがないんですね?」
 「ないですね。ああ、探さないと……。」
 小傘の確認に射命丸は頭を抱え始めた。客に背を向けて壁に向かって何かぶつぶつ喋っている。相当精神が参っているらしい。
 「今度、山の巫女が結婚するそうです。」
 「は?」
 ゆっくりと小傘が告げると射命丸は素早い動きで二人の方向を向き、さっと机の上からペンとメモ用紙をひったくってベッドの上にどすんと座った。
 「それ本当ですか?どう言った理由で?いや、そもそも信頼のおける情報なんですか?」
 「確定はしてない、でも可能性は非常に高い。家系を守るため。本人が言ってたんですよ。ね、ぬえ?」
 「え、ああ、うん……。」
 ぬえは戸惑っていた。小傘は本当にこいつに教えるつもりなんだろうか。こんな胡散臭い奴に――
 「本人が?ふむ……。そちらのぬえさんが直接伺ったので?」
 射命丸はとんでもない速度でメモ用紙にガリガリと何かを書きながら質問した。ぬえの胃袋が一瞬冷たくなった。
 「私じゃなくて、聖が……。」
 「……あー、新しくできた寺の住職でしたっけ?へぇ……なんでそれであなたが知ってるかはいいですよ。どうでもいいことです。」
 ぬえの心苦しげな表情をどう解釈したかはわからなかったが、射命丸はメモを書きながらぶっきらぼうにそう告げた。そしてそのまま質問を続けた。
 「そのことは今誰が知ってるんですか?」
 「わちきとぬえ、白蓮さん、後山の神社の人たち。そしてあなた。他にもいるかもしれないけど、わかんない。」
 ぬえの代わりに小傘が答えた。射命丸は特に気にせずメモをとり続けている。
 「相手は誰ですか?」
 「里の人間ってことしかわからない。だから調べて欲しいの。」
 射命丸はペンを止め、顔を上げて不敵な笑みを浮かべた。
 「私は探偵じゃないですよ。」
 「でも調べなきゃあなたも記事にはできませんよね。」
 小傘がにっこりと返すと、射命丸はくっくっと喉を鳴らして笑った。
 「まぁいいでしょう。その様子だとあんまり情報は持ってないみたいですね。」
 「うん。それと、情報提供した代わりにいくつか条件をつけさせてほしいの。」
 「それは?」
 「わちきたちの名前は絶対に出さない。手に入った情報はすぐにわちきかぬえに教える。記事にするタイミングはこっちで決める。」
 「――虫が良すぎません?」
 「別に今から色んな天狗のとこに行ってもいいけど。こんなに競争率が低くてなおかつ大きなネタが他にあるならもっと譲歩してもいいよ。」
 射命丸はすっと立ち上がって小傘の方につかつかと歩み寄り、握手を求めた。
 「わかりました。交渉成立です。情報提供ありがとうございます。」
 「いえいえ。宜しくお願いします。」
 小傘もゆっくりと立ち上がり、傘を椅子に置いて握手に応じた。握手をしたまま射命丸が尋ねる。
 「手に入れた情報はぬえさんと小傘さん、どっちを優先して教えればいいので?」
 「わちきは割と色んなとこ行くから、ぬえに教えてあげてください。大体いつも命蓮寺にいるんで。」
 「承知しました。」
 ぬえはその光景を、ぽかんと口を開けながら見ていた。

2-7.
 「ねぇ小傘……。本当にあいつ信用できるの?」
 射命丸の小屋から命蓮寺へ戻る途中、ぬえはずっと胸にためこんでいた疑問を発した。
 「信用できるかどうかは兎も角、下手は打たないよ。腕は確かだし。飯の種なんだから誰かに言い触らしたりもしない。調査してるのが山の神にバレたら記事にならない。向こうとこっちの利害が一致してるから、買収でもされない限り敵にはならない。」
 小傘は前を向きながらすらすらと口にした。ぬえはもう一つ、ふっとわいた疑問を小声で呟いた。
 「……なんでそんだけ頭が回って人一人驚かせられないのかねぇ……?」
 「そ、それはちょっと傷つくなぁ……。あんまり反論できないけど……。――そんなことよりも。」
 小傘は苦笑を浮かべた後、真剣な表情でぬえの方を向いた。
 「お膳立てはしたよ。後はぬえっちょの問題。ちゃんと気持ち、伝えられるよね?」
 ぬえは一瞬だけ目を大きく見開いた後、にやりと口角をあげた。
 「あったり前じゃん。ここまで来てひけるかっつーの。ここまで来たら……何でもやるわよ。」
 そう言うとぬえは速度を上げ、一気に命蓮寺の方向へ飛んでいった。
 いつも自分勝手で気ままな巫女に。
 いつもいつもいじめてくる巫女に。
 いつも美味しいお菓子を持ってきてくれる巫女に。
 いつも優しい巫女に。巫女に。
 一泡吹かせてやれないまま、勝ち逃げなんて許さないから!

3-1.
 雨が降ることが多くなった。じとじととした部屋の空気が重たい。早苗は布団に寝ころびながら大きなため息をついた。低気圧なんか嫌いだ。奇跡でもおこして、空梅雨にしてやろうか。もしかしたら麓の巫女がすっとんでくるかもしれないが。
 雨が降らなければ作物はならない。水がなければ。奇跡が起こせても、案外自分の思い通りにはならない。誰も彼もが自分勝手に能力を使えば幻想郷の秩序などあっと言う間に崩壊してしまうだろう。そう、秩序。秩序を破壊してまわるほど私は自分勝手じゃない――
 「あーあ。」
 欠伸なのかため息なのか呻き声なのか自分でもわからない音を発しつつ、彼女は地面に無造作に置かれた籠を見た。中には十分に熟れた枇杷がたくさん詰め込まれていた。
 前から少し不思議だった。この神社にそう多くの人が住んでるわけでもないのに、一体誰がこんなに寄贈してくるのだろうか。そして最近気づいた。あの人だ。私がいずれ会わなくてはいけないあの人。一瞬、たまたま見てしまったのだ。あの人が神奈子様と諏訪子様に会っているところを。大量の枇杷を持って二人に会っているところを。彼は私にほほえみかけた。私はきっとぎこちない笑みを返しただろう。なんとなく良い人なんだろうなとは思う。優しい人だ、きっと。
 会わなきゃよかった。そう思う。会ってしまったら、会わなくちゃいけないじゃないか。かと言って、会わないわけにもいかない。あの時にきちんと挨拶をしておけば良かったかもしれない。
 「早苗、いる?」
 障子の向こうから諏訪子様の声がした。まさか?という気持ちが汗になって表面に浮かぶ。いませんよ、と返そうかと早苗は思ったが、何も言わなかった。
 「開けるよ。……なんだ、いるじゃん。返事ぐらいしてくれればいいのに。」
 「申し訳ありません。」
 口をとがらせて不満そうな表情を見せる諏訪子に対して早苗は寝ながら素直に謝った。
 「体調でも悪いの?」
 「いえ……。別に、そういうわけでは。」
 早苗はのろのろと起き上がり、布団の上に正座して諏訪子と向き合った。諏訪子は一瞬何かを迷ったような顔をしてから深呼吸し、言った。
 「この前枇杷を持ってきてくれた人、覚えてる?」
 「はい。」
 やはり――やはりか。良い予感だったか悪い予感だったかは兎も角、早苗の予感は当たった。思わず丹田に力が入る。
 「前にもちょっと話したけど、そろそろ早苗には婿をとってもらう。確かにお前は現人神だし、巫女だ。神に仕える身、神に捧げられた身、神の依代。そして神そのものでもある。だからと言って――だからと言って誰とも交わらずに子供を産むのは、いくら幻想郷にいるからといっても無理だ。お前は人間でもあるのだから。」
 「はい。承知しています。」
 諏訪子の表情は真剣そのものであったが、痛ましさも垣間見られた。多少の罪悪感はあるのかもしれない。早苗はそれを直視することが出来なかった。
 「だから。だからお前は婿をとらなくちゃいけない。神に仕えることのできる男を。神を娶るにふさわしい男と。――私と神奈子はそれを選んだ。」
 「はい。」
 諏訪子はいつの間にか俯きながら喋っていた。早苗は目を瞑っていた。覚悟はとうにできてきた。
 「それがあの人だよ。」
 「はい。……予想はしていました。」
 「そっか……。」
 静寂が湿気と混じり合い、部屋の重力が少しずつ増していく。早苗は雨の音が急に強くなったように感じた。神経が研ぎすまされていくのが自覚できた。早苗は小さく深呼吸し、畳を見つめたまま口を開いた。
 「お二方が選んだのであれば、私がどうこう言う資格はありません。きっと素晴らしい人なのでしょう。私一人では出会えなかったような……。」
 「早苗。」
 諏訪子は早苗の言葉を遮った。早苗が顔を上げると、諏訪子は泣きそうな表情で早苗のことを見つめていた。
 「本当にそう思ってるの?」
 「はい。」
 「あのね、私はあんたの神である以前に、母親みたいなもんなんだよ?私が神様じゃなかったらこんな馬鹿げたことさせないよ。」
 「……。」
 早苗は何も言い返せなかった。諏訪子が少しずつ言葉を選びながら続ける。
 「馬鹿げてるよ……。早苗にとっては単なる時代錯誤な思想でしかない……。私はできるだけお前にふつうの生活をさせてやりたかったんだ。神奈子だってそうだ。幻想郷にだって本当は来たくなかった。早苗の生活まで奪うなんてことしたくなかった!いつもいつも私たちの傲慢で……割を食うのは早苗なんだよ?そんなの……そんなの……。」
 「諏訪子様。」
 諏訪子は静かに泣いていた。早苗はそっと諏訪子を抱きしめ、語りかけた。
 「諏訪子様は神様です。」
 「早苗!」
 早苗は諏訪子の叫びを無視した。言わなくてはいけない。言わなくては私の決心が揺らぐ。
 「私は現人神であり、巫女です。」
 「早苗それは!」
 「そのことを恨んだことなどただの一度もありません。」
 「そんなのは!」
 「いつまでもついていきます。」
 「やめて!」
 「私の決心はもうできているんですよ?」
 「そんなの関係ない!」
 「次は諏訪子様の番です。」
 「そんなの……。」
 諏訪子は嗚咽を漏らし続けた。早苗はそれ以上何も言わなかった。悲しかった。ただただ悲しかった。その悲しさが、彼女の決心をより一層強いものにした。

3-2.
 もう行かなくてはいけない。思っていた以上に残された時間は少ない。
 早苗は大きな傘と枇杷のつまった籠を持って命蓮寺に向かっていた。彼女は俯きながらしきりに目をこすっていた。何故かはわからないが、そうしていないと落ち着かなかった。

 残された時間など関係ない。いずれにせよ、今回の訪問ですべて伝えるつもりだったのだから。
 深呼吸するために彼女は立ち止まる。悪いものを吐き出し、新鮮な空気を取り込むために。雨に濡れた地面の臭いが鼻に突き刺さる。思わず彼女は顔をしかめた。

 残っていないのは余裕。
 彼女は顔を上にあげて、一歩一歩ゆっくりと歩き始めた。月面を歩く宇宙飛行士のように。海底の生き物のように。赤ん坊のように。

 涙を用意する暇もない。
 彼女は出来るだけ冷たい表情を作るように心がけた。それ以外に冷静でいられる方法が思いつかなかったからだ。


 早苗は、自分が冷静でいられない理由を考えることをやめた。風に流された雨が彼女の身体をあざ笑っていた。彼女も彼女をあざ笑っていた。

3-3.
 「ごめんください。」
 早苗は傘にまとわりついた雨を払い落としながら命蓮寺の軒先でいつもの挨拶をした。いつもの通り少し待つ。そしていつもの通り――
 「いらっしゃい。そろそろじゃないかと思ってお待ちしてました。さぁ、傘をこちらに。」
 「――あれ?白蓮さん?」
 にこにことしながら丁重にもてなす寺の主の姿に早苗は意表をつかれた。今まで訪問した際に、白蓮が対応するようなことは一度もなかった。早苗があっけにとられているうちに白蓮は彼女の傘を手に取り、くるりと振り返って歩き出す。仕方なく彼女もその後についていった。
 「足下が悪い中よくぞお越しくださいました。今客間に案内しますね。」
 何故だか楽しそうに白蓮はそう言ったが、あまり長居するつもりはないという意志を遠回しに伝えようと早苗はぼそっと呟いた。
 「別に私は招待されたお客様でも何でもないですよ。ただのお裾分けです。」
 「この前大したおもてなしも出来ませんでしたから、そのお詫びですよ。こちらです。」
 早苗の発言を聞いていたのかいなかったのか、白蓮は相変わらずにこやかにそう答えながら客間の障子を開いた。

 客間には樫の木で作られた机の上に急須と湯呑み、茶菓子が用意されていた。床は畳張りで、床の間にはよくわからない掛け軸と壷が置かれている。あの船の中にこんな部屋を作るというセンスはどうなのだろうか。もしかしたら増築された部分なのかもしれない。品があるといえば品があるし、典型的といってしまえばそれまでだな、と早苗は思った。
 「雨、中々やまないですね。」
 「そうですね。」
 彼女は白蓮が出してくれた座布団に座りながら無表情で答えた。雨は更に強くなり、風がしきりに窓を揺らしている。もしかしたら、台風が来ているのかもしれない。白蓮は外を見ながら続ける。
 「今日はぬえ、いないんですよ。」
 「そうなんですか。」
 早苗は何の感情もこめずにそう言い放った。白蓮はそれ以上何も言わず急須を手に取り、慣れた手つきで湯呑みにお茶を淹れ、早苗の方に寄せた。彼女はそれに口を付けようとしなかった。
 「冷めないうちにどうぞ。」
 「長居するつもりはありませんので。お構いなく。」
 白蓮はほんの少しだけため息をついてからもう一つ置かれていた湯呑みに茶を淹れ、ゆっくりと、優雅に飲み始めた。早苗はその様子を見ながら白蓮の話をじっと待ち続けた。何もないのであれば――ぬえもいないのであれば――さっさと帰りたいと思っていた。
 時間がゆっくりと流れ続ける。白蓮は話を始める素振りすら見せずにお茶を楽しんでいた。早苗はちらりと自分に寄せられた湯呑みを見たが、手を出すことはしなかった。
 白蓮はお茶を飲み終え、一息ついてから二杯目のお茶を注ぎ始めた。早苗は下唇を噛みながら机に両手を付き、立ち上がろうとした。その直前、急須の最後の一滴を湯呑みにぽたりと垂らしたところで白蓮が口を開いた。
 「あなたはもっと、欲しい物は自分で勝ち取る貪欲な性格だと思っていましたが。」
 「……。」
 早苗は手を付きながら無言で白蓮を睨みつけた。どういう意味かわからない、というメッセージをこめながら。
 「案外、我慢するのですね。」
 白蓮はそう言って静かに湯呑みに口をつけた。何だか馬鹿にされたような気分になりつつも、早苗は手を机から離し、冷静に答える。
 「私は何も我慢してません。あなたの言う通りの性格ですよ。」
 「そうですか。」
 「言いたいことがあるならさっさと仰ってくださいますか。」
 早苗はいらいらしながら湯呑みのお茶を一気に飲み干した。ほんの少しぬるくなっていたが、口の渇きを潤すには十分だった。白蓮は目を閉じてゆっくりと語り始めた。
 「心の奥底を誰にも見せない、それは確かに一つの防衛策としては間違っていません。そうした方が傷つきにくくなるでしょう。心にした蓋を蓋だと思わず、自分自身さえ騙し通してしまえれば、それは本音とすら言わないのかもしれません。それでも蓋は蓋。閉ざしていることには違いありません。」
 「逃げてるつもりはありません。」
 「それが良いのか悪いのか、それはわかりません。良いこともあるでしょうし、悪いこともあるでしょう。決めるのは自分です。自分で選んだ以上、それを貫き通す。立派なことだと私は思います。いつだって自分が選んだ道以外は正解にはなり得ません。」
 「だから私は……。」
 「しかし、それはあくまでも自分自身の問題です。あなたの持つ関係は、あなたの取り巻く環境は、あなたの所属する社会は、それを許さないかもしれない。良しとしないかもしれない。多くのものを失うかもしれない。愛想を尽かされるかもしれない。あなたの選んだ道はそういう道でもあります。」
 「そんなの、こっちへ来た時点で覚悟していたことです!」
 「あなたが蓋をした心は何を求めているのでしょうか。」
 「それはあなたの願いでしょう?あなたの望む方向へ持っていきたいだけでしょう!?」
 「心に蓋をすることを覚悟とは言いません。心に傷がつくのを厭わないことを覚悟と言うのです。あなたは傷つかないまますべてを終わらせようとしている。あなたの選んだ道に文句を付ける気はありません。何度でも言いますが、それが正解なのです。でも、あなたは覚悟と言う言葉を使った。」
 「……。」
 「このままじゃあなたは一生悔やまない。これからずっと。それは……それは良いことなのでしょうか。悪いことなのでしょうか。」
 「……それは……。」
 「あなたとあの子の関係はその程度のものだったのですか?」
 「……。」
 早苗は何も言わずに立ち上がり、出口まで歩いていった。白蓮は目を開いたが、彼女を見ることはしなかった。障子を開けながら早苗が呟く。
 「……お茶、美味しかったです。ごちそうさま。」
 「いえいえ……。またいつか遊びに来てくださいね。」
 早苗は静かに障子を閉めた。白蓮は天を仰ぎながら暫く何かを考えていたが、そのまま表情一つ変えずに湯呑みと急須を片づける作業にとりかかり始めた。

3-4.
 雨だけでなく、風も強くなっていた。本当に、随分と気が早い台風が来ているのかもしれない。傘をしっかりと握りながら、早苗は帰り道を歩き続けた。
 「私だけが悪者になれば良い……。」
 風の音が彼女の独り言を吹き飛ばした。更に声量を上げて呟く。
 「それで済む話じゃないか。それで私は良いって言ってるのに。」
 再度風が彼女の声を上空に巻き上げてそのまま散らした。彼女は負けじと何かを叫んだが、最早彼女自身にもそれを聞き取ることは出来なかった。

4-1.
 彼女は傘も持たずに、雨風になぶられ続けながらそこに立ち尽くしていた。髪は雨に濡れべったりと顔に張り付いている。前髪の隙間から彼女は真っ直ぐ正面の階段の向こう側を見据えていた。口を真一文字に結んで待ち続けていた。彼女は、意図的に何も考えないようにしていた。感情の塊となるべく、手と足に力を入れ続けて仁王立ちしていた。
 言いたいことは何もなかったが、伝えたいことは山ほどあった。
 突然音もせずに階段の下から傘が現れた。彼女は視線を外さぬまま唇を少しだけ舐めて、またきゅっと結んだ。少しずつ傘が近づいてくる。傘は全貌を現し、それを持った人間が彼女の存在にようやく気づいた。
 「――ぬえ?」
 彼女は――ぬえは何も言わなかった。一切動くことなく傘を睨みつけ続けていた。髪から垂れた雨の滴がぽつりと地面に落ちる。
 「何でここに?いや、そんなことより何で傘持ってないの!?風邪ひくでしょ馬鹿!」
 「馬鹿はあんただよ。」
 彼女は首を少しだけ横に動かした。ぽきりと、雨に似合わない乾いた小気味良い音が鳴る。
 「な――」
 「私に何も言わないでこのまま行くのか。」
 首の角度をそのままにぬえが傘に向かって言葉を突き刺す。傘を持っていた少女――早苗は狼狽えていた。
 「何の話ですか?いいから早く中へ――」
 「結婚するんだって?」
 ぬえは早苗の発言を無視して続けた。早苗は予想外の出来事に狼狽え続けている。ぬえは右足を一歩前に出して追い打ちをかけた。
 「それは別に良いよ。」
 左足。
 「何で私に言わないの?」
 もう一回、右足。
 「里に降りるんでしょ?」
 左足を右足に合わせるように前に出し、ぬえは早苗の目の前に到着した。
 「――もう会えないんでしょ?」
 ぬえは傘の下から早苗の顔をのぞき込んだ。早苗は泣きそうな顔で歯を食いしばり、彼女の目を決して見ようとはしなかった。
 「何か言いなよ。」
 彼女はそう言いながら羽で早苗の傘を思い切り上に吹き飛ばした。早苗が一瞬怯えた表情を見せる。
 「……何で知ってるんですか?」
 視線を合わせないように早苗は呟いた。ぬえに質問しているようにも、自問しているようにもとれた。
 「今質問しているのは私だよ。」
 ぬえは冷たい目線を早苗に投げかけ続けていた。
 「何で私に言わなかったの?」
 早苗は濡れた子犬のようにぷるぷると震え続けていた。ぬえはそれを見ても何の感情も沸かなかった。彼女は伝えるためだけにそこにいた。インプットのための回路はすべて断ち切られていた。
 早苗は複雑な表情でぬえを睨み返した。怒っているのか、困っているのか、悲しんでいるのか、あるいはそれら全てか。雨が彼女の感情をかき混ぜ、そして吐き出させる。
 「……あなたに、ぬえにそれを言って、どうなるっていうんですか。誰が得するっていうんですか?私は結婚します。ええ、結婚しますとも。私はそれで良いと思ってます。何で言わないって、そりゃ私が結婚するなんて言ったらきっとぬえが悲しむんじゃないかって思ったんですよ。なんだかんだで寂しがり屋ですからね。泣いて止められでもしたら困るってもんです。まぁ確かにそれはそれでかわいいかもしれないですけど、私には私の都合がありますからね。優しさですよ優しさ。ほんと、どうして知っちゃったんですか?『最近あの巫女来ないなー』とか、そんな風に思ってれば良かったんですよ。自然に私があなたから消えていければ良かった。あなたたち妖怪の寿命は長いんですから、どっちにしたって私の方が先に別れなくちゃならないんだから。早いか遅いかの違いしかない。早いか遅いかの違いしかなかったんですよ!それを何で?どうして私を困らせるんですか……?もう……本当に……。」
 早苗は一息で言い切った。彼女は相当混乱しているようだった。言い切った後も俯きながら片手で両目を押さえながらぶつぶつと何かを呟いている。
 「そっか。」
 ぬえは短く鼻で笑った。初めて表情を崩し、優しく語りかける。
 「……本当にさよならも言うつもりがなかったんだね。」
 彼女の言葉に早苗はとっさに顔をあげたが、中々言葉が出る様子がなかった。数秒の沈黙の後、何かを諦めたかのようにゆっくりと俯きながら、しかししっかりと発音した。
 「そう、ですよ。……もういいでしょう。私はあなたが思ってるような人間じゃなかったんですよ。」
 ぬえは一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐさま呆れたような表情に切り替え、俯いたまま動かない早苗を後目に、何も言わず何処かへ飛んでいった。

 「嫌われたよね。」
 早苗は暫くその場に立ち尽くした後、口角をゆるやかに上げながらそう呟いた。
 「まぁ、もう会わないからいいか……。」
 雨は少しだけ弱まっていたが、未だ風は強く吹いていた。
 「会えない、のか。」
 彼女の髪はぐしゃぐしゃに濡れ、顔の上半分を隠していた。

4-2.
 「いやーすっきりした!もうめっちゃくちゃすっきりしたわ!こんなにすっきりしたのはあれだ、地底から脱出した時ぐらいだわ!凄い!今の私凄いテンション高い!今なら幻想郷ぐらい軽く征服出来るんじゃないかな!」
 ぬえは射命丸の隠れ家で新しい服に着替え、濡れた髪をタオルで拭きながら嬉しそうに叫んだ。
 「それって割と最近のことじゃなかったでしたっけ。……あー、あんまり水を飛ばさないでくださいね。この家の床、既にボロボロなんですから。」
 射命丸は半眼で原稿用紙にガリガリと何かを書き付けながらそう呟いた。自分の傘の水気を外で払い終わった小傘が戻ってくるなり言う。
 「しかしぬえっちょ、あそこまでやる必要は無かったんじゃないかなぁ……。早苗さん、あれ多分マジへこみだよ……。」
 「いーのいーの。私はこれまでさんっっっっざんいじられてきたんだから!寧ろちょっとやり返し足りないかなー?ぬえ様の温情出ちゃったかなー?まぁ私優しいから仕方ないとこあるかなー?ぐらいの勢いだよ。」
 ぬえは朗らかに笑いながらそう言った。いつの間にか原稿用紙に何かを書き終えた射命丸が二人の方を向き、お茶をすすりながらぼそっと呟いた。
 「あの傘高そうでしたね。もったいない。」
 「あー。多分そうだろうね。って言うか凄いかわいい傘だったね。もしかしたらお気に入りの傘だったのかも。」
 小傘はにやにやとぬえを見ながら射命丸の発言に乗っかった。
 「え、何?弁償とか言われても私知らないよ?そもそも悪いのはあの巫女であって……。」
 ぬえは多少焦りながら反論した。
 「いやいや、そうじゃなくてねぇ……。」
 小傘は発言の途中でくすくすと笑い始めた。
 「ああ、そうか。あの巫女は今日は命蓮寺に行ってたんですね。」
 射命丸が何かに気づいたかのようにぬえの方を見てそう言った。ぬえはきょとんとして二人を見比べた。小傘はくすくす笑いをやめずにぬえに説明し始める。
 「何で命蓮寺に行ったかってそりゃあ……。」
 「まぁ、ぬえさんに会いに行くつもりだったんでしょうな。」
 「あのかわいい傘を持って……ねぇ?」
 「あの巫女も意外と乙女なところありますからね。」
 「いいねー。最後の最後までいじらしいねー。」
 「腹立つぐらい微笑ましいですねー。かわいい傘って!なんかもっとあんだろ!ってなりますねー。」
 「またそういう流れか……。」
 ぬえは二人がにやにやと勝手な話をするのを横目に呆れかえっていた。目を瞑って先ほどのやりとりを思い出す。確かに少しやりすぎたかもしれない。が。

 「ま、そんだけ想われてるってのも悪くないんじゃない?」
 ぬえは目を閉じ続けていた。二人がどんな顔をしているかなど、想像したくもなかった。

4-3.
 「まーとにかく。結局早苗さんは結婚をやめたりしないってことで、次の計画に移らなきゃいけなくなるね。」
 ぬえをいじり倒すのに飽きた小傘は急に話を進行し始めた。射命丸はその発言を聞いてすぐに真面目な顔をして立ち上がり、机の上の紙を寄せながら何かを探し始めた。
 「その辺はぬかりないですよ。何処で二人が初めて対面するか、何時に行われるのか、周りの警備はどれぐらいの規模か、全部調べてあります。あ、それと相手の名前、容姿、年齢、その他色々あるんですけど、まぁ全部まとめて渡しておきます。」
 「……あんたさー。毎回思ってたんだけど、どうやってそういうの調べてくるわけ?ちょっと気持ち悪いんだけど。」
 「企業秘密って奴ですねー。ま、必要がなければ調べませんからその辺はご安心を……。」
 ぬえの質問を一蹴しつつ射命丸は茶封筒を見つけ出し、小傘に渡した。
 「別に真似しようとかじゃないんだけど……。どうやってんの?新聞屋の域を超えてない?」
 「ん。簡単に言えば、天狗社会を舐めるなってとこですかね。本気を出したらこれぐらい朝飯前なんですよ。普段は私たちのようなブン屋の要請じゃ動いちゃくれないですけど、あの二柱も絡んでくる問題ってのは色々と……ね。」
 そう言いながら射命丸はベッドに倒れこみ、手をひらひらさせながら二人に別れの挨拶をした。
 「じゃ、当日私も写真を撮りに行くんでその時に。おやすみなさい……。」
 「ありがとー。おやすみなさい射命丸さん。」
 小傘が封筒の中身を一つ一つ確認しながらのんびりと答えた。満足げに中の書類を封筒に戻すと、ぬえに対して指でドアの方向を示した。射命丸は既に静かに寝息を立てていた。起こさないようにしようという配慮なのだろう。ぬえはそれに従い、黙って外に出た。

4-4.
 ぬえと小傘は人里の一番大きな木の上で夜明けを待っていた。太陽が徐々に登り始める。
 「今日は暑くなりそうだねー。梅雨明け、かな?」
 「そんなんどうでもいいわ。」
 暢気な小傘の発言に対してぬえは射命丸からもらった見取り図を確認しながら適当に返した。
 「いけそう?」
 「警備って言っても相手は人間でしょ?まー妖怪対策ぐらいはしてるんだろうけど、私を倒したかったら麓の巫女でも連れてこいってね。」
 ぬえは頭をかきながら見取り図を懐にしまい、夜明けの太陽を眺めた。とても眩しい。誰をも祝福しない、攻撃的な太陽だった。ぬえはゆっくりと、口に出しながら頭の中を整理し始めた。
 「問題があるとすればあの二柱かな……。途中で気づかれた時点でアウト。多分逃げられて、後日更に警備が厳重なところに忍び込まなくちゃいけなくなる。やりあうのは得策じゃない。まぁ勝てるけど、速攻はちょっと厳しい。」
 「どうやって出し抜くか……。」
 「そう、だね。……正体不明の種は持ってきたけど、早苗には見抜かれる。私の正体を知ってるから……。」
 「忍び込んでも途中で早苗さんに見つかったら失敗。」
 「ま、最後の段階なら別に良いんだけどね。さて。」
 ぬえは枝の上にそっと立ち上がって呟いた。
 「……いっちょやったるかな。」
 「ぬえっちょ。」
 「あ?」
 「今初めて『早苗』って言ったね。」
 「……何度でも言ってやるわいそんなの。早苗の前でね。」
 「ぬえっちょ。」
 「何だよ。」
 「今朝日を前にしてさらっと物凄く恥ずかしい台詞を吐いたね。気合い十分だね。」
 ぬえはこめかみに人差し指を強く押し当てながら黙って静かに小傘を木の上から蹴り落とした。

4-5.
 慣れない袴を着て早苗は畳張りの部屋で一人静かに正座していた。
 障子、掛け軸、壷、急須、湯呑み。何処かで見たことがある構図、風景。デジャヴュというやつだろうか?これはそう、最近見た――
 そう、命蓮寺の客間に似ている。彼女は小さく舌打ちした。今そんなことを思い出すなんて。忘れよう。何も考えないようにしよう。
 最近まったく同じことを考えた気がする。忘れよう、忘れよう。何を忘れようとしたのか?忘れてしまったから成功したのか。なら思い出さなくても良いじゃないか……。
 彼女は早く済ませてしまいたかった。せめて、別室へ移動するか、さっさとあの人に会わせて欲しかった。此処は良くない。良くないことを思い出してしまう。
 「早苗。」
 諏訪子が障子の外から呼びかける。ああ、またデジャヴュ。いや、音は既視感と呼んで良いものなのだろうか。早苗はそんなことを考えながら返事をした。
 「そろそろ行くよ。……ついてきなさい。」
 諏訪子は返事も待たずに行ってしまった。早苗はさっと立ち上がったが、長い裾を踏みつけてしまい、転びかけた。うちに袴なんてあっただろうか。いつも着ている巫女服でないとこうも動きにくいのだな。いつも――もう着ないだろうが。
 彼女は頭を振りかぶり、転ばないように注意しつつも駆け足で部屋を出た。これ以上この部屋にいてはいけない予感がした。

4-6.
 「とぅぇあい!」
 小傘は木から飛び降り、思い切り自分の傘を警備の村人の脳天にたたきつけた。
 「ふっふっふ……なんかあからさまにあいてる落とし穴を不審に思って調べてたら上からわちきが落ちてくる……想像もしなかったであろう!完璧!びゅーちふる!ふぁんたすてっく!」
 「小傘……あんたの能力て……。」
 ぬえは音を立てないように自画自賛している小傘の側に降りた。
 「ぬえっちょ。今は味方の士気を削いでる場合じゃないよ!」
 「あ、やっぱ落とし穴に落ちなかったの気にしてるんだ……。」
 「してない!わちきだってこんなのに落ちるなんて思ってないよ!いやほんとに!そんなことよりも早く正体不明の種で変装しないとバレちゃうって!」
 「わーってるわよ。」
 ぬえは正体不明の種を手に持ち、腕ごと気絶している男の喉につっこんだ。男は突然の痛みに一瞬意識を取り戻したが、苦しそうに呻いた後また気絶してしまった。
 「え……?そんなアレな方法しかないの?」
 「人間相手ならもっとアレな方法かこれしかないよ。まぁ死にはしない……と思う。情報を貰うだけだしね。」
 小傘が引き気味に尋ねたが、ぬえは全く気にする様子もなく男の体内で腕を動かし続けている。
 「こんなもんでいいかな。」
 暫くした後ぬえは男から腕と正体不明の種を取りだした。小傘は後ずさりしながらも質問する。
 「それを……その……自分の体内に取り込むんだよね?やっぱり……た、食べるの?」
 「食べるかアホ。私の一部みたいなもんなんだから、同化するのも簡単なのよ。」
 そう言ってぬえはべとべとになった正体不明の種を強く握った。彼女の手の中でそれは少しずつ溶けていき、あっと言う間に消えてなくなってしまった。
 「おっけ。じゃあ後はそいつの処理をよろしく。」
 「え?全然変わって――ああ、私がぬえっちょのこと知ってるからか。ここまでは予定通りだね。んじゃ、こいつを適当なとこに連れていくから、私はもう戻ってこれないけど……大丈夫だよね?」
 小傘は男の両腕をつかみながら心配そうにぬえの方を見た。ぬえは腕を回しながら楽しそうに答える。
 「大丈夫大丈夫。――結局これはさ、私の問題なんだから、私がどうにかするのが筋ってもんよね。」
 「違うよ。」
 「あー?」
 「ぬえっちょと早苗さんの問題だよ。」
 「あー。なるほど。――小傘」
 「ん?」
 「ありがと。」
 そう言ってぬえは走って男が来た方向へと向かっていった。小傘はそれを見送らず、急いで男を遠ざけようと移動を始めた。しかしそれでも、言わずにはいられなかった。
 「頑張ってね、ぬえっちょ。」

4-7.
 「ちょっと休憩しましょうか。」
 諏訪子がそう言って早苗は夢から覚めた気分になった。もしかしたら自分は眠っていたのではないだろうか。そうだとしたらとんでもなく恥ずかしいことをしてしまった。それともちゃんと応答していたのだろうか。そんなことを考えてるうちにあの人が出ていく。退出したのを確認してから、彼女はぼそっと呟いた。
 「これ、完全にお見合いじゃないですか……?」
 「ん?まぁ似たようなもんだな。でもこの形式なら互いのことが良くわかるんだから良いじゃないか。」
 神の二柱の片割れ――八坂神奈子は笑いながらそう答えた。
 「さて……。私たちも休憩しようかなって思ってるんだけど、早苗はどうする?」
 「私は……此処にいます。」
 「そっか……。じゃ、また後でね。」
 二柱が部屋を出ていった後、早苗は大きなため息をついた。互いのことが良くわかる、か。彼女はその時初めて相手の名前すら覚えていないことに気づいた。そして笑った。屋敷中には響きわたらないように、しかし大きく。
 ――良いじゃないか、何も知らないぐらいで。
 興味を持てなくたって良いじゃないか。
 最初から興味なんかないんだ、今更無理矢理持ったって仕方がない。
 もうどうでもいいや。どうでもいい。さっさと終わらせてしまおう。

 彼女は笑い続けていた。笑いが止まらなかった。これが涙じゃなくて本当に良かったと、心からそう思った。

4-8.
 早苗はどうにか皆が戻ってくる前に笑いをおさめ、飲み物を飲んで心を落ち着かせていた。しかしそれでも、油断するとまた笑ってしまいそうだった。とても晴れやかな気分で彼女は待ち続けた。
 先に二柱が戻ってきた。早苗は済ました顔で座っていたが、笑いをこらえきれるかどうか心配だった。何と滑稽なのか。私は粛々と儀式を受け入れている。まるで供物。そう、私はこの二人の所有物。
 戸のある方向からがたりと音がした。足音も聞こえる。早苗は決してそちらを見ないことにした。今見てしまったら、確実に爆笑してしまう。それはまずい。こらえなければ。そうこうしているうちに全員が席に着く。早苗はじっと俯いて、誰にも気づかれないように深呼吸した。

 「いやあ、お待たせしました。」
 早苗は息を飲み、素早く顔をあげた。聞いたことのある声。聞き覚えのある声。忘れていたような、そんな。何で忘れていたのか。

 そう、これは――
 「それじゃあ続きを始めましょうか。」
 ――ぬえ!?

 あの人の席に、あの人がいるはずの場所に、にっこりと笑うぬえがいた。早苗は周囲の様子を伺った。誰も何も気にしていない。いるのが当たり前であるかのように振る舞っている。私は騙されているのだろうか?それとも、本当に気が狂ってしまったのか。早苗が唖然といるうちにもぬえはにこにこと喋り続ける。
 「その袴、良くお似合いですね。いやぁ、巫女服姿もかわいいですけど、そういうのも良いですねぇ。馬子にも衣装とはこういうのを言うんでしょうが……。」
 その発言を聞いて全員が不審そうにぬえを見た。早苗はぬえを見続けていた。ぬえも早苗を見続けていた。
 「だめだな、敬語苦手なんだよ……。ま、そういうのも悪くないと思うよ。ほんとに。ただその化粧はちょっといただけないかな。塗り過ぎじゃない?素材は良いんだからさ、やりすぎは良くないよ。」
 「ちょ、ちょっと……?」
 神奈子が思わず声をあげたが、ぬえは無視した。早苗は口を開けたまま何も言えなかった。
 「その姿をあいつにも見せてたってのが癪だけど、まぁ機嫌が良いから許す。良い?次回はないよ?次は私にだけ見せろ。良いね?返事は?」
 そう言ってぬえは、今まで以上ににっこりと笑った。早苗は笑った。笑ってしまった。先ほどのような馬鹿笑いではなく、自然な笑みを浮かべた。
 「うーん。まあいいや。その笑顔を返事としよう。あーっと、何を言おうかな。何でも良いや。こういうの慣れてないから、途中で笑うなよ?」
 「ごめん、もう笑っちゃった。でも聴きたい。」
 「早苗?」
 諏訪子もとうとう声をあげた。まさか早苗が反応するとは思っていなかったのだろう。ぬえは頭をかきながら語り始めた。
 「えーっと、そうだね。第一印象は最悪だったわ。まぁあんなんだったしね。しょうがないというか、私が悪いところもあるんだけど。極わずかにだけど。うん。んで、二回目会った時……あ、二回目っていつだったっけ?」
 気まずそうに訊くぬえに早苗は思わず吹き出した。
 「あんだけキメといて私に訊くかぁ?普通。あれだよ。博麗神社の……。」
 「あー思い出した。そうそう、あの後の博麗神社の宴会。あの時いきなり酔っぱらった早苗が来てさぁ……。」
 「かすかに抱きついた記憶があるね。」
 「そう、抱きつかれた。びっくりしたわ。すっごいびっくりした。力つえぇから逃げられないし。後酒臭いって思った。」
 「二回目も印象最悪じゃんか。」
 「いやいや。そんで凄い勢いで頭撫でられてさ。『かわいいなあかわいい。こんなかわいい子だったのか!私は間違てた!』って叫びだして。うん。めっちゃ恥ずかしかった。」
 「あー……。その辺あんまり覚えてない。」
 「覚えてないのかよ。まぁいいや。でも、かわいいなんて言われたの初めてで、嬉しかった。なんか。凄くね。」
 「そうだったの?え、じゃあ、え?両思いだったの?うっわーなんっであの時の記憶を失ったんだ私は!」
 「それはまだちょっと気が早い。で、あの後からうちに来るようになったじゃん。」
 「うん。あなたに会いに行ってたよ私は。」
 「最初はやっぱりまだ鬱陶しかったわけ。」
 「あれ……?」
 「いやだって酒臭い女にとんでもない力で抱きつかれてお前、犬っころみたいに頭撫で回されたんだぞこっちは。あ、流石に謝罪にきたのかな?って思ったもん。」
 「そうなんだ……。あはは、全然そんなつもりなかった。」
 「お菓子まで持って。」
 「お菓子まで持ってね。」
 「そしたらお前、何だっけ。『お菓子あげるからついといで!お菓子好きでしょ!絶対好きでしょ!その体型でお菓子嫌いなわけないよね!?おいで!』って。誘拐犯かよ。」
 「餌付けしようかなと。」
 「ペットかよ。」
 「飼えるなら飼いたい。」
 「そのさ、前から思ってたけど何でお前が主導権握るみたいになってるわけ?」
 「え、何で私が握らないと思ってるの?」
 二人の話が脱線していくのをその場にいる全員が呆然としながら眺めていた。諏訪子が何かに気づき、二人の会話を止める。
 「ちょっと待って、博麗神社の宴会で会った……?あなた一体?それにお菓子って……?」
 ぬえは大きく舌打ちして叫んだ。
 「今の私たちの会話を止めるなんて、神様は随分と無粋なんだな。まーどっちにしろ時間はあんまりない。さっさと本題に入るよ。」
 言い終わるか終わらないかのうちに、警備員が大きな音を立てて走ってきた!
 「神奈子様!諏訪子様!厠に新郎が倒れていました!」
 「おいおい新郎て。そいつぁーちょっと気が早いんじゃないの?」
 「早苗!早く逃げて!」
 諏訪子と神奈子は立ち上がり戦闘態勢に入った。ぬえはどっしりと座って腕を組みながら最後に一言叫んだ。
 「兎に角!私はね、早苗みたいにすっごい自分勝手なのにすーぐ自己犠牲の精神を出しちゃったりするような意外と脆いとことか、口も性格も悪いけど何だかんだ優しくしてくれるようなとことか、たまに自慢げにちょっと小難しいことを言うようなとことか、ああもうなんだ!好きなんだよ!私は早苗が好きなの!もう良いだろそれで!」
 ぬえは二柱の渾身の一撃をぎりぎりのところで避け、一気に早苗のところまで詰め寄った。
 「行くよ!」
 「行くって……。」
 ふんぎりのつかない早苗を無理矢理抱きかかえてぬえは思い切り窓を蹴破り外へ飛び出した。警備の村人たちを追い散らし、二柱の連係攻撃を回転しながら避けているうちに、強い風が吹いてきた。
 「天狗か。意外と気が利いてるじゃないか。」
 ぬえは天狗風に乗り、一気に上空まで躍り出た。一瞬で天狗風は消え去り、彼女は太陽の光を背に受けながら一目散に逃げ出した。

4-9.
 「逆光のおかげで助かったな。見失ってくれたらしい。」
 ぬえは肩で息をしながら地面に寝ころんだ。自分たちがどのあたりにいるのかいまいちわからなかったが、どうにでもなる気がした。
 「ぬえ、私は……。」
 早苗が心配そうにぬえの顔をのぞき込む。
 「そうだね。さっきの返事を聞いてないぜ?私。」
 ぬえは目を瞑って呼吸を整えながらそう言った。
 「……言いましたよ。両思いだったんだ、って。私も好きですよ。ぬえのことが好きです。こんなどうしようもなく馬鹿なことをするぬえが大好きです。」
 「おお……それは私をけなしてるのか?」
 「違う。嬉しい。でも……。でもやっぱり私は……。」
 ぬえは大きく息を吐き出し、そして吸った。
 「私のことが好きなんだろ?」
 「うん。」
 「会えなくなるのはやだろ?」
 「うん。」
 「じゃ、これが一番良い選択なんだよ。私にとっても、早苗にとっても。」
 「……うん。」

 ぬえは目を開けてちらりと早苗の方を見た。早苗は泣いていた。
 「何で泣くんだよ。」
 ぬえは呆れた顔でそう言った。早苗は涙を拭いて、答えた。

 「主導権、握られちゃったな、って。」














(5-1.)
 「いやー見事な脱出劇でしたねぇ!」
 射命丸は楽しそうに小傘に話しかけた。
 「ま、ここまでしたんだからあれぐらいはやってもらわないと。」
 彼女はなんてことないように答える。朝が早かったせいか、あくびが止まらない。
 「これで一件落着ですかね。」
 「そうだね。しかしよくこんな人の良さそうな人のスキャンダルがあったねぇ。」
 彼女は射命丸から貰った封筒から一枚の紙を取り出した。
 「いやはや、まさか私も本当にあるとは思いませんでしたよ。これと今回の記事を突きつければあの二柱のメンツも立たないでしょう。婚約なんて当然破棄されるでしょうね。」
 「……何もなかったんならわちきが無理矢理作ってたけどね。」
 彼女の発言に射命丸は思わず口笛を吹いた。
 「あの子にそんなに入れ込む要素は何なんです?」
 「え?ああ……別に入れ込むとかじゃないよ。いつも通り、わちき一人じゃ出来ない驚かせ方を手伝って貰っただけ。」
 「あの子にもですか……?ドライですねぇ。」
 「別にそんなことはないと思うけど。ぬえだってこうなることを望んでたわけだし。」
 「友達じゃないんですか?」
 「互酬と再分配。」
 「え?」
 「わちきはいっぱいの人を驚かせた。射命丸さんは記事のネタを手に入れた。二人はまぁ、言わずもがな。……みんなが無償でやってくれるほど、幻想郷も甘くないんじゃないかな。」
 「まぁ、それは……わかりますけど。」
 彼女はうんと伸びをした。もうすぐ夏だ。これから暑くなる。墓場に肝試しにくる輩も増えるだろう。どうやって驚かしてやろうか。
 「あっ、そうだ。」
 彼女は大事なことを思い出した。
 「写真、後でくださいね。あれがないとわちきのやってきたこと、何の意味もないし。」
 「はいはいわかってますよ。それじゃあまた何かあったらよろしくお願いします。」
 「ええ、それじゃあ。」

 射命丸が凄い勢いで飛んでいくのを眺めながら、小傘は自分も此処をさっさと立ち去ったほうが良いことに気づいた。あの二柱が戻ってくるかもしれない。



 「あの二人はこれからも幸せに過ごせるのかな?」
 小傘は傘を開き、歩くように、回るように独り言を漏らした。
 「ハッピーエンドなんて、そんなもんか。」









 
早苗さんはサンガリアの自販機とかで売ってる変な缶ジュースが好きそう。「いやまぁ確かにこれは見たことないですよ。見たことないってことはポピュラリティがない…つまり、まずい可能性も十二分にあるってことです。でもですよ?もしこれが美味しかったら?そう…。『自分しか知らない美味しいジュース』に変化するんです。どうですか?これがどれだけ魅力的なことかわかりますか?」と長々と語ってからプルトップを開け、少し飲んだ後に「あー…。まぁ許せなくはないんですけど、次は買わないですね。」と言ってテンションをさげる早苗さんかわいい。


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Special Thanksと言う名のBGM(聴いてた順)
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コメント



0.540簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
よかった。
4.80ラビィ・ソー削除
ビワが出てくると一気に秋っぽくなりますね。いいアイテムだ。
早苗とぬえのやりとりは現実に男と女の間で交わされるものに見えて、実は
女と女の会話だなあという印象で、なかなかアブノーマルでいいもんでした。
相手の男の描写が個人的には欲しかったし、これだけ失礼な破棄をしたんだから恨まれて
ドタバタが起こる展開にも興味ありますが、そこは各自で補完ってとこですかね。
面白かったです。執筆お疲れ様でした。また次回作楽しみにしてます。
6.90奇声を発する程度の能力削除
とても素晴らしいさなぬえでした
7.100愚迂多良童子削除
こんなにも味のある小傘は初めて見た。
相変わらず後書きに脈絡がないw
10.100名前が無い程度の能力削除
小傘がいい味だしてました
11.100名前が無い程度の能力削除
小傘がいいキャラしててよかった。
途中からぬえっちょって呼ばれても反応しないぬえ可愛い。
でもさなぬえはもっと可愛い!!
13.100名前が無い程度の能力削除
なんか前編と比べても小傘の印象が変わるなぁ
幸あれ

≫それは本音とすら言わないのかもしれません→それは本音とすら言えるのかもしれません
では?
15.80桜田ぴよこ削除
なんかこう、あれだね。ウザかわいいね。お幸せに。
19.100満月の夜に狼に変身する程度の能力削除
大久保篤の絵柄で場面を妄想