Coolier - 新生・東方創想話

廻る想い ~博麗霊夢~

2011/06/23 20:15:30
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※この作品にはカップリングのような要素が含まれています。
 そう言うのが苦手な方はお戻りください






「あーあ、また負けた~……」
「何度やっても、結果は同じよ」

地面に倒れ伏す魔理沙に、そう説き伏せる。
もう何度も何年も何戦も……長い間繰り返して来た。
結果は変わらない、毎度毎度自分の圧勝、魔理沙の腕が洗練されても、それは変わらない。

「へへ、そうとは、限らないだろ? 前にやった時よりも、避けられるように、なってるしな」
「……それでも、結局は負けてるじゃない」

振り返り母屋に向かう私に対し、「厳しいなぁ」とぼやいている。
そうしてまた立ち上がって、変わらず話しをして、帰って、また勝負を仕掛けてくる。何時もの変わらぬ笑顔で。

「……どうしてあなたは」

天才だと言われた。修行や修練の類をせずに大抵の事ができたし、努力をすれば人並み以上にそれが出来た。
『博麗の巫女』、そう人々は私を呼んで遠くに置いた。人だけど人とは違う、選ばれた人間だと離れていた。
だけど、彼女は

「よう霊夢、今日も呑気にお茶を飲んでるんだな」

霧雨魔理沙だけは違った。

「別にいいでしょ?他にやることがないんだから」
「まったく、そんなんだからみんなから巫女と認められてないんだぞ?」
「気にしないわよ、そんなの」

彼女は普通の人間だった。ただ影で隠れて誰よりも頑張っている努力家、それだけだった。
特別な才能なんかもないし、スペルカードルールが無ければ強力な妖怪に太刀打ち出来ない程度の実力者だった。
それなのに――――

「さあて、今日こそ勝つぞ!」
「また今日も?いい加減諦めなさいよ」
「へっ、そうは行くかよ。今日こそはお前に勝って言う事を聞かせてやるぜ」

彼女は、何度でも立ち向かってくる。
反省を繰り返し、同じミスをしないように。私の行動パターンを分析して、先読みして行動が出来るように。いつの日か私を倒して、私が特別ではないと説き伏せる為に。
何度も何度も何度も何度も……私に挑んでは敗れ、それを気にすること無くお茶を飲んで話しをしていく。

「ちっくしょう……まだ、駄目なのか、」
「いい加減に諦めなさい……負けないのよ、私は」
「けっ、大層な自信じゃあ、ねえか。だがな、そういう奴を倒した時が、最高に気分が、良いんだよ、」
「勝手にしない。お茶は淹れてあげるから」
「お、ありがとうよ。お前のそういう所、好きだぜ?」
「……巫山戯たこと、言わないの」

気付けば、私の心の中は彼女で溢れていた。彼女の笑顔が、彼女の優しさが、彼女の星空の様な明るさが、彼女の言葉が、頭から離れない。
私の感覚は他の人間とはズレているし、分かるつもりもない。

「あ~……ああッ!今日はクタクタだ、泊まってってもいいかぁ?」
「断っても勝手に泊まるんでしょ、アンタは」

それでも、この胸を締め付ける気持ちは、人が『恋い』だと呼ぶものなのだと理解できた。






「そんな感じで、アリスの人里での人形劇は大成功だったんだとさ。おまけに、里の子供たちに大層気に入られたらしいぞ」
「へぇ、あのアリスが子供たちに……ねぇ」

彼女は色々な話しを私にしてくれた。魔法の森で、紅魔館で、妖怪の山で、地底で……自由奔放な彼女が幻想郷をかき回した話しを、いつも楽しそうに話してくれた。
私はそれに適当な相槌を打って先を促すだけだったが、それでも魔理沙は楽しそうに話をしてくれた。そんな彼女を見るのが、たまらなく好きだった。

「それでさ、そん時のパチュリーがまた面白くて……」
「飽きないわねぇ、アンタも」

だから、私はどんな話でも耳を傾けた。弾幕の講座でも、魔法の知識でも、彼女の挟持でも、自分には関係の無い話でも、魔理沙が楽しく話す顔が見たくて、聴き続けた。
でも……

「そ、それでさ、そん時に、アイツがさぁ」
「…………そう」

アイツの話しをする時だけは、魔理沙を見たくは無かった。
魔理沙を好きになって、ずっと魔理沙のことを見続けて気付いたこと、それは魔理沙には好きな人が居ること。それはつまり、私の思いが実らないということ。

「――――ってことだったんだが……おい、聞いてるか?」
「聞いてるわよ、ちゃんと」

魔理沙がアイツの話しをするたびに、魔理沙が私には向けてくれない表情をするたびに、私の心はキツク締め付けられる。
正直に言うと、魔理沙の話しを聞いているのは辛い。でも、彼女の話を聴くことを拒んでしまうと、もう二度と自分が好きなあの表情を見れなくなってしまいそうで……それが怖くて、じっと聞いていた。

「本当に大丈夫か? なんだかちょっと顔色も悪いみたいだし、調子悪いなら休んだ方がいいぜ?」
「……そうね」

向いていないと知っていても、それでもこうして優しさを向けられるのが堪らなく嬉しくて、そんな事をただ繰り返して満足しているだけの自分に嫌気がさす。
ハァっっとため息を付き、どうでも良さそうに魔理沙に応える。

「お言葉に甘えて休ませてもらうわ。私のことは気にせず、アンタはさっさと行ってきなさいよ」
「い、行ってこいって何処にだよ」
「あら、言わせる気? さっきまで貴方が嬉し恥ずかしそうに話していた、想い人の所によ」
「お!? お、おおっ、お、想い人とか、そんなんじゃなくてだな!?」
「はいはい、ご馳走さまご馳走さま」

そうすると、魔理沙は直ぐに顔を真赤にして「もう知るか!」と叫びながら飛んで行った。
方角からして間違いなく彼女の場所だろう。そのように仕向けたのだから、当然だ。

「……なにしてるんだろうなぁ、私」

大きく、最近よく出るようになったため息を吐く。
私は魔理沙の笑顔が好きだ。もしも曇るような事があったなら、私はどんな手を使ってでもそれを払って、再び笑顔が輝けるようにするだろう。
だから、魔理沙が笑顔になるように、魔理沙の思いが実るように、魔理沙が悲しい顔をしないように、私は行動している。

「……だけど」

そうして、私の望み通りに魔理沙は笑顔を向けてくれた、私が励ましたり助言をすれば、翌日にはいつも通りの笑顔を向けてくれていた。
だけど、それなのに、胸を締め付ける痛みは、一層強くなっていた。私のおかげだと、ありがとうと言う魔理沙の笑顔を見る度に、どうしようもなく苦しくなる。
理由は分かっている、魔理沙の笑顔の先に私が映っていないからだ。
何時もアイツの事を考えていて、何時もアイツの事を見ていて、何時もアイツの事を想っていて……魔理沙の瞳には、何時もアイツが映っている。
もう二度と、私に向けて笑顔を向けてくれないのではないか……そう考えると、胸に穴が開いたかのような痛みが襲う。

「………………魔理沙ぁ」

小さい頃からずっと一人で過ごしてきた。子供も大人も寄り付かず、妖精も妖怪もなぎ倒し、孤独に過ごしてきた。
そんな自分を、魔理沙は救ってくれた。誰かと一緒に居るという温もりを、私に教えてくれた。私を優しさで包んでくれた。
それを知ってしまった今、もう以前のように戻ることは耐えられない。昔の冷たい日々に戻ることなんて、魔理沙が居ない日々なんて、想像したくもない。

「独りぼっちは寂しいよ、魔理沙」

誰も居ない境内で、すすり泣く声だけが聞こえた。
明るい恋物語を作りたかったはずなのに……どうしてこうなった!
魔理沙の相手が誰なのかとかは、今度続きとして書こうと思います(需要があれば)


誤字・脱字・表現の指摘、意見感想アドバイス等お待ちしております。
もじゃ
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コメント



0.520簡易評価
2.80奇声を発する程度の能力削除
うおっ、まさかの切ない終わり方…
3.50名前が無い程度の能力削除
地の文は悪くない。王道の展開も嫌いじゃない。しかし特筆すべき点がないのも確か。
もっと深く心情を掘り下げるべきかと思いました。
16.100非現実世界に棲む者削除
うん、切ないね...こういう話、大好きです(泣)。