Coolier - 新生・東方創想話

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2011/05/29 19:01:59
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昔々のことだ。
幻想郷のとある場所に、ちょこんと佇む一つの地蔵。そこへ毎日のように拝みに来る二人の少女がいた。
彼女たちは姉妹で、まだ幻想郷にやって来たばかり。右も左もわからぬ中、今後の安寧を祈っていた。
地蔵は思う。この娘たちの力になってやりたい、と。しかし所詮はただの石に過ぎない。無力な自分に嘆く日々が過ぎるうち、いつしか姉妹も姿を見せなくなった。
それからしばらくして、地蔵は閻魔となる。誰にでも平等で、公正な判断を下さなければならない存在に。
しかし地蔵の頃の記憶を失ったわけではない。むしろ彼女らと近い、人の姿を得ることで想いはより強くなった。
閻魔が贔屓することなどあって良いものか。きっと良くはない。
けれど仕方無いのだ。心とはそういうものだから。





魂を裁くという責任ある仕事。いつもなら淡々とこなすうち、あっという間に過ぎていく時間も、今日はとても長く感じられる。
けれどそれもあと少しの辛抱。あと少し、あと少しで私の勤務時間は終わる!
溜まっていた仕事がやっと片付いて余裕が出来たので、久しぶりに出掛けるつもりだったのだ。
今か今かと時計を確認し、針の遅さに随分イライラさせられたが、それもここまで。

「四季様、魂運んできました~」

と、小町がぞろぞろ魂を引き連れて来た。

「何しっかり働いてるんですか!? もっとサボってなさいよ!」
「え、えぇ~……?」

ハッ、私としたことがいけないいけない。閻魔が業務に私情を挟むとは何事か。
とりあえず今の発言はゴホンと咳払いで誤魔化すも、小町はどん引きといった感じで部屋を出て行った。
それにしてもタイミングが悪過ぎる。どうせならあと三十分早くか、五分遅く来てくれれば良いものを。やはり恨めしい。
やれ、そんな事を考えつつも表面上はあくまで平静を装い、きびきび仕事をこなしていく健気な私。愚痴っていても余計時間が掛かるだけだ。
その後さっさと業務の引き継ぎを済ませ、舟の上で昼寝をしようとしていた小町をしっかり叱りつけると、私は勢い良く彼岸を飛び立った。
背後から「理不尽だー!」という哀れな死神の叫びが聞こえたのは気にしないことにする。お土産買ってきてあげるから許しなさい。



こうしてようやく訪れたのは地底の奥に佇む重々しい建造物。その名も地霊殿。
ここの主である古明地さとりは、何を隠そう私の親友だ。それも随分長い付き合いになる。

「本日はどのようなご用件で?」
「視察――」
「管理はバッチリなのでどうぞお帰り下さい」
「というのは冗談で」

少なくとも、会って早々こんなおふざけが出来るぐらいには仲良しだ。

「友人を訪ねるのに理由は必要ですか?」
「はい」

苦笑を浮かべた私の目の前で、入り口の扉がバタンと閉じられた。
……えっ、ナニコレ。



「あまり私をいじめないで下さい。というかこれでも一応上司なんですが」
「おや、今日は友人として訪ねて来られたのではなかったですか、閻魔様?」
「うぐ、その返しはずるいです」

何だかんだでさとりはちゃんと私を中に招き入れてくれた。今は二人でお茶を飲みながら談笑に耽っている。
まぁ、五分ぐらい扉の前に放置されてちょっと泣きそうにはなったが、それも単におもてなしの用意をしていただけらしいので全然問題無い。……うん。

私たちがこのように交友を持ち始めたのは、私が閻魔になってそう間もない頃だった。
せっかく自由に動ける体を手に入れたのだからと、必死になってさとりとこいしさんの行方を探した。
聞き込みを繰り返して地底に赴き、とうとう旧都の外れでひっそりと暮らしている二人を見つけた時は柄にも無く万歳などしてしまった程だ。。

――私が誰だかわかりますか?

突然こんなことを言い出した私に、さとりも初めは不信の目を向けていたが、心を読むことですぐにかつての地蔵だとわかってくれた。
覚りという能力は実に優れたもので、地蔵の心まで読めてしまう。
自我を持ったばかりの当時は、さとりとこいしさんの二人だけが話し相手だった。
私の他愛無い話を飽きもせず聞いてくれることが嬉しくて、また私も彼女たちの話を聞くのがとても楽しみだった。
もしかしたら私たちはとっくに友人になっていたのかもしれない。
そして今では親友に。そう、親友……に。

「映姫さん」

名前を呼ばれてハッとする。

「す、すみません。最近寝不足だったものでついうとうとと。それでえーと、何の話でしたっけ」

私が尋ねると、彼女はやれやれといった感じでもう一度話してくれた。

「ですから、先日うちのペットが不祥事を起こしてしまった件については、本当に申し訳ありませんでした、と」
「あ、あぁ、空さんの」

彼女のペットの地獄鴉が暴走したとかいう話だ。

「まぁ、幸い例の人間たちのおかげで大事にはならなかったようですし、そんな謝ることなんてありませんよ」

多少私が上への報告書に頭を抱えた程度だ。さとりの責任問題になどさせはしない。

「そう、その人間なんですよ」
「はい?」
「彼女たちと遊んだおかげで、こいしに回復の兆しが見え始めたんです」

何ですと。あのこいしさんが?
表情に喜色を滲ませながら語りだしたさとりに対し、私の内心は正直よろしくなかった。
さとりの妹であるこいしさんは心を閉ざしている。私が二人と再会を果たしたその時には、既に第三の眼は閉じられ、覚りの能力は失われていた。
肝心なところで力になれなかったことを何度も悔いたし、こいしさんがまた能力を取り戻せるように尽力もした。
しかしどうにも彼女は掴めない性格で、ついに私は役に立たなかった。
それでも二人に何かしてやりたいと思った私は、さとりを灼熱地獄跡の管理者に推薦したのだ。

――こんな立派なお屋敷を使わせて頂いて、本当にありがとうございます。
――いえいえ、最終的な決定はあくまで是非曲直庁の公正な判断によるものです。あなたの実力ですよ。
――しかしきっかけが無ければこんな役職に就こうなんて考えもしませんでした。こいしに放浪癖がついてしまった今、あの子の帰る場所だけはちゃんと確保しておきたかったんです。

……そうだ、彼女の全ては妹の為。きっと恋人が出来ても、一番大切な存在といえばこいしさんだろう。
それは仕方の無いことだ。張り合おうなんて気もさらさら無い。
だからこそ、せめてそのこいしさんの心を開かせるのは私の役目だと思っていた。
それなのに、まさかポッと現れた人間に、私が出来なかったことをあっさりやられてしまうなんて。

「ペットたちも随分地上の人たちと仲良くなったようで、今もこいしはお空と守矢神社、お燐は博麗神社という所へ遊びに行ってるんですよ」

声の質から感じられる信頼感。どうやらさとり自身も地上の人間を気に入っている様子。これは良いことだ。
そう、ずっと忌まれてきた地底の者たちが再び地上と交流を持つ。良かったじゃないか。
こいしさんのことだって、親友として素直に喜んであげるべきだ。わかってる。
なのに……非常に妬ましい。さとりに笑顔をもたらしたのが私でないことが悔しい。
恋人どころか親友としての立場すら危うい。そのことが私にひどく劣等感を与える。
この感情は、いけない。こんな醜い心を彼女に読まれるわけにはいかない。

「今日はこの辺で失礼します」
「おや、もう少しゆっくりしていかれませんか」
「すみません。実はまだ仕事が残っていまして」

素っ気無いのは自覚している。しかし今は丁寧に挨拶している余裕も無い。
私は「友人」という仮面が剥がれ落ちる前に、逃げるように地霊殿を去った。





「はぁ」

業務も一通り終わってすることが無くなると、どうしてもため息が出てしまう。色々考えてしまうからだ。
ここ数ヶ月、私はさとりと会っていない。ボロが出るのが怖いのだ。
仕事にもいまいち身が入らない腑抜けっぷり。何をやっているのか、私は。情けない。
そうは思っていても、ずっと好きだったのだ。臆病にもなる。
彼女は心が読める。だから私の恋情も知っている筈だ。
しかしそのことについて一度も触れられたことは無い。つまり、応えられないということだ。
それでも私を突き放さず、気持ちは受け入れてくれたのだろう……友人として。
だからもし私が友情に収まらぬ想いをあらわにすれば、この関係すら終わってしまうかもしれない。
そんなのはイヤだ。嫌われたくない。かと言って彼女のことについては感情を自制し切る自信も無い。故に会いたくても会えないでいた。
私はこれからどうすれば良いのか。ほんの少しだけ泣きたくなって、腕に顔を埋めた。



「四季様、お客さんがお見えですよ」

いつの間にか部屋の中にいた小町の言葉に、伏せていた顔を上げる。
客……いったい誰が? 閻魔を訪ねてくるとは大した度胸だ。

「どなたかはわかりませんが、今は仕事中です。出直してもらって下さい」

今はまともに相手を出来る状態では無い。しかしその考えは、

「はぁ、さとりって名乗る妖怪だったんですけど」
「と、通して下さい!」

彼女の名前で簡単に覆された。

「あ、いやでも今は仕事中だから」

あああどうしよう。とりあえずは終わるまでどこかで待っててもらって……でも気になる。
私は焦っていた。なにせさとりの方から会いに来るなんて初めてのことだ。

「ちょっといいですか」

頭を悩ませていると、小町がお腹を抱えて苦悶の表情を浮かべていた。

「急にお腹の調子が悪くなりまして、休ませてもらいたいんですけど」
「え、はぁ、わ、わかりました。だ、大丈夫ですか?」
「はい、多分しばらく横になってりゃ治まりますんで。あ、そうだ。その間どうせ仕事も出来ませんし、先にお客さんの用件を済ませといたらどうです?」

やけに説明的な口調に、私はあっと気がついた。気を遣ってくれてるのだ。
部下に余計な気まで回してもらって、また情けないとは思いつつも、とにかく今は彼女の厚意に甘えさせてもらうことにした。

「ありがとう」

礼を述べると、彼女は頬を掻きながら照れた笑みで応える。
あぁ、私は本当に良い部下に恵まれた。そう思った瞬間、グボボッという鈍い音がする。同時に、小町が額に汗を滲ませながら腹を掻きむしった。

「そ、それじゃあ四季様、私はお客さんを呼びに行ったらそのまま休憩頂きますんで。それでは!」

捲し立てるなり、さっさと彼女は行ってしまう。
腹痛は本当だったのね。



「お仕事中に失礼します」
「そんな、とんでもない。ちょうど手があいたところですから」

割と真剣に。

「そう言えば、さっきの死神さんは大丈夫でしょうか。『朝食の川魚がアタった』と心の中で呻いてましたが」
「彼女のことは気にしないで下さい」

決して冷たい気持ちで言ったわけではない。彼女のタフさは私も信頼している。それに今は自分のことで精一杯だ。

「それより、お久しぶり、ですね」
「そうですね」

お互い微妙な空気を感じつつも、さとりは切り出した。

「どうして急に何の音沙汰も無くなったんでしょうか。こんなに長く会わなかったのは初めてじゃないですか。どうやら大病を患っていたわけでも無さそうですし」
「すみません。色々仕事が立て込みまして」

嘘だ。咄嗟に口をついて出てしまったが、こんな言葉、覚りの彼女に対しては何の意味も無い。

「嘘ですね」

やはり見抜かれた。

「私に不満があるのならちゃんと言って下さい。一方的に離れていかれても納得出来ません」

その言葉に、私は少なからず苛立ちを覚える。

「あなたもひどい方です。私の気持ちを知っていながら、追い打ちをかけようなんて」
「何のことです」
「だってそうでしょう。心が読めるのに、わざわざ口で言って欲しいなんてちょっと性格が嫌らし過ぎませんか」

どうせ恋情には応えてくれないくせに、「私は嫉妬しました」と言えというのか。流石に屈辱だ。
ショックだった。彼女にこんな仕打ちを受けるなんて思ってもみなかったからだ。
しかしふと思う。それも一つの道かもしれない。いい加減この親友を装った関係にも疲れていた。
いっそハッキリと告白し、潔く散るべきのも有りか。ケジメをつけた方が、改めて友人として付き合っていけるかもしれない。もしくは、完全にただの上司と部下という関係になるか。
そうか。きっと彼女もそれを望んでいるのだろう。わかったわ、さとり。

「もう、あなたとの親友ごっこはお終いということですね」

緊張する。長かったこの両者公認の片想いが、ついに終わるのだ。
早鐘を打つ鼓動を落ち着かせるため深く息を吸い、いざ切り出そうとしたその瞬間、ぱしんと乾いた音が室内に響いた。同時に左頬に感じる熱。

えっ、何……?

目の前には涙を浮かべるさとり。その手は振り切られた形で、ようやく叩かれたのだと理解するが、何故今叩かれたのかという理由がわからず、思考が硬直する。

「親友ごっこ、ですか。今まで色々気に掛けて頂いてありがとうございました。でももう無理して私に構って頂かなくても良いですよ」

時間の止まってしまった私を尻目に彼女は早口でそう捲し立てると、「さようなら」と小さな声で呟き、そのまま行ってしまった。



「しっかりして下さいよ」

さとりが出て行ってすぐ、入れ替わるように小町が戻ってきた。

「途中からですけどお二人の話、立ち聞きしちゃいました。余計なお世話かもしれませんけど、まぁ何というか、あの言い方は不味かったんじゃないですかねぇ」

と困った顔で笑う小町。かと思えば、急に神妙な顔つきで迫ってくる。

「四季様、あのさとりって人のこと好きでしょう」
「わ、わかりますか」
「もち。だってあなたがあんなにも素の自分をさらけ出すなんて、あの人が関わること以外ありませんよ」

ずばり言われて思わず赤面する。そんなにあからさまだっただろうか。

「さとりさんだってきっと四季様のこと好きですよ」
「それはありえません」
「どうしてです?」
「だって彼女は覚りの妖怪なんです。私の気持ちなんてとっくに知っている筈ですよ」

その上でさっきの行動。私は告白すらさせてもらえずに振られてしまったんだろうか。
まさかこんな形で彼女との関係が終りを迎えるなんて思ってもみなかった。

「そうですかねぇ。あたいにはどうもそんな風には見えませんでしたけど」
「小町は何も知らないからそう言えるんです」
「まぁ確かにそれもあるかもしれませんけどね。ただこういうことは本人たちより第三者の方が冷静に判断出来るんじゃないですか? ほら、よく言うじゃないですか、恋は盲目って」
「……」
「だから自信持って下さい。ほら、まずは仲直りからですよ」

本当にこの部下は。どうしてこんなにも他人を元気付けてくれるのか。
彼女に運ばれてくる魂は、皆どこか清々しさを漂わせている。きっと舟の上でもこうして明るく話をしてるんだろう。

「ありがとう、小町。おかげで勇気が出ました」

一度は折れかけた心を、支えてもらったのだ。出来ればこのまますぐにでもさとりを追いかけたい。
しかし私がそれを許されない立場なのも忘れてはいけない。
どうして私は閻魔なのだろう。どうせならただの地蔵の妖怪でも良かったのに。そうすればもっと身近で支えることだって出来たかもしれない。
もしも、なんて意味の無い妄想だけれど、それでもつい考えてしまう。そんな私の横で、再び小町がお腹を押さえてうずくまった。

「あーイタタタ。こりゃあまいった、あたいまだまだ治まりそうにないですわ」

棒読みにも程がある。おまけにウインクまでして、余裕丸出しだ。

「小町、留守を頼みます」
「あいさー!」

こんな私でも閻魔の端くれ。今度こそ白黒きっちりさせましょう。





地霊殿の前で私を待ち構えていたのは、既に臨戦状態のお空さんだった。

「来たわね。あなたの所を訪ねに行ったさとり様が、泣きながら帰って来た」
「そこを通して下さい」
「ダメ。たとえ映姫様が相手でも、さとり様を悲しませる奴は絶対に許さない」

彼女にとっても、さとりは大切な主人だ。おそらくこの言葉はただの脅しではない。

「止めなさい。これ以上その力を無闇に使えば、あなたの罪はどんどん重くなる」
「上等。地獄は私の生まれ故郷さ」

聞く耳持たずか。
彼女が左手を頭上に掲げると、一瞬で巨大な熱の塊が出現した。なるほど、確かに凄まじい力だ。
私も手加減はしていられない。本気で応戦する構えを取る。

「閻魔が私を裁く前に、私がお前を裁いてやる。灼熱地獄に落っこちろ!」
「待ちなお空!!」

彼女が左手を振り下ろす直前、それを制止する声が辺りに響いた。
地霊殿の中から出てきた、声の主はお燐さんだ。

「っ、何で止めるのさ!?」
「その人をやっちまったら、余計さとり様が傷つく」
「それはこのまま行かせたって同じことだよ」
「でもそうじゃないかもしれない」

お燐さんのハッキリとした声色に空さんはたじろぐ。そして少しの間思案していたが、やがて彼女の生み出した火の玉は静かに消滅した。
お空さんは拳を握り締めて俯き、震える声で私に言った。

「映姫様、お願いだから、さとり様とちゃんと仲直りしてね」
「はい」
「さとり様まで心を閉ざしちゃったら、私たちは帰る場所が無くなっちゃうのよ」
「大丈夫です。閻魔は約束を守ります」
「絶対だからね」

その言葉にしっかりとした頷きで返すと、ようやく納得してくれたのか、お空さんは道を開けてくれた。

「約束破ったら閻魔様の死体をコレクションに加えるからね」

黙って様子を見ていたお燐さんも、最後に明るい口調で声を掛けてくれたが、目が全然笑ってなかった。
いよいよ恋は命がけだ。



まっすぐにさとりの部屋へと向かう。勝手知ったる地霊殿。迷うことなく目的地に辿り着いた。

「お邪魔します」

返事は無かった。
ノックの後にゆっくり扉を開けてみれば、彼女は薄暗い部屋の中央で、入り口に背を向けるように椅子に腰掛けたまま俯いていた。まるで人形のようにぐったりとしている。
その光景に妙な焦燥感を覚えた私は、彼女の正面に回り込んでハッとした。さとりの第三の眼が半分閉じていたのだ。

「……何の用ですか。もう私には構わないでと言ったでしょう。仕事でないなら帰って下さい」
「そうはいきません。ついさっき、お空さんとお燐さんに『必ず仲直りする』と約束してしまったもので」
「ふふっ、そんな約束、最初から意味無いじゃないですか」

さとりは自嘲気味に笑った。

「意味が無いなんてことはありません」
「意味無いなんてことないわけないでしょう! あなたが言ったんじゃないですか。『親友ごっこはもう終わりだ』って。まさか私たちの関係がお情けだったなんてね。えぇ、ずっと心の中では私のことを哀れなやつだと思ってたんでしょう!?」
「ち、違います。それは誤解です」
「何が誤解か。あなたは確かにその口で言った」
「続きがあったんです! さとり、私はもう良き友人を演じるのは限界です。たとえ応えてもらえないとわかっていても、自分の気持ちを抑えることが出来ません。だからケジメをつけさせて下さい。好きです! 愛してます!!」

お互いにだんだん白熱していき、比例して声も大きくなっていった。だから途中で反論されないよう、最後は全部一息に言い切った。おかげでちょっと頭がクラクラする。
そして部屋全体に静寂が落ちる。沈黙、沈黙、沈黙……。

「ちょっと、待って下さい」

ようやくさとりが口を開いた。

「私の返事も聞かないで、何勝手にケジメつけようとしてるんですか」
「それはだって聞かなくてもわかります。ただ振られても、もしあなたが許してくれるならまた改めて私と友人になって欲しい」
「……ずっとうちに来なくなったのは?」
「あなたが地上の人間たちのことをあまりに嬉しそうに話すものだから、恋人でもないのに嫉妬してしまい、そんな醜い感情をあなたに晒したくはなかったので」

私が答える度、心なしか彼女の額にどんどん怒りマークが浮かんでいくように見えた。
と次の瞬間、私でも初めて聞くぐらいの大声で怒鳴られた。

「私にはあなたの心なんて読めませーんッ!!」
「そ、そそそうでしょう。ですから私は……へっ?」

今、彼女は何と言った。

「私の考えてること、読めないんですか?」
「えぇ、さっぱりです。てっきりあなたが心を読まれないようにしてるんだと思ってたんですがね!」
「いえ、特に何も」
「そのようですね!」

えーと、これはつまり、どういうことだ。整理してみる。
実際にはさとりは私の心を読めていなかった。私は「さとりに心を読まれている」と勘違いしてた。さとりは「私が心を読めないようにしている」と勘違いしていた。
ややこしいわ!

「えっ、あ、だって昔は普通に私の心読んでたじゃないですか!?」
「はい、確かにそんな頃もありましたが、いつの間にか読めなくなってて、それでてっきり何か対策を取られたんだと思ってました」

何だそれは。一気に力が抜けた。へなへなと床に崩折れる私。
しかしここで私は重大な事に気がついた。

「そうだッ、それで返事は!?」
「返事?」
「私は今までずっと、あなたに気持ちが伝わっていると思って、それで返事が無かったので諦めていました。でも実際はそうじゃなかった。それならあなたの本当の気持ちを、ちゃんとあなたの口で応えて下さい!」
「……あ、う、は、はい、そうですね。それでは」

さとりがスッと息を溜める。私の心拍数はピークを迎える。耳の奥で血流がどくどくいってるのだって感じ取れる。
永遠にも思える瞬間、真っ赤な顔で見つめる私の告白に対して、同じく真っ赤な顔で彼女は――。
「私があなたの心を読めなくなった理由、わかった気がします」
「何ですか?」
「恋は盲目、と言うでしょう? ふふっ」



盲目サード・アイ

読了ありがとうございます
なまこ
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コメント



0.1540簡易評価
3.90奇声を発する程度の能力削除
なるほど、上手い
4.90名前が無い程度の能力削除
あ、なるほど。
11.80名前が無い程度の能力削除
閻魔は波長が何たらってなかったっけ?
15.100名前が無い程度の能力削除
怒りながら返事するさとり様可愛い。
話はもうちょいじっくり進めてもよかった気がするが、この短さでキャラが魅力的なのが良い。
うん、おくうがカッコよくてツボったんだ。
17.100名前が無い程度の能力削除
上手いな
18.100名前が無い程度の能力削除
恋は盲目と申します
26.100名前が無い程度の能力削除
上手いとしか出てこない。うん、上手い。オチがすっきり。
28.90名前が無い程度の能力削除
なるほど、いい解釈だ。
閻魔は神様の一種だから人でも妖怪でもない次元の生き物の心が読めないのかと思ってました。
35.100名前が無い程度の能力削除
よかった
40.100ちゃいな削除
すっっっっごい良かったです。最後のオチも気が利いていたとおもしろかったです。四季様もさとり様も生き生き動いていて可愛かったし、おくうもお燐もかっこいい! あとセリフ回しがとてもうまいなと思いました!