Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷リーグ 第三幕

2011/05/24 12:11:10
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妹紅と慧音が入団し、レッツの新体制が整った。
しかし、補強をして戦力を揃えようとしているのは他球団も同様だ。

「昨日は交渉もまとまったし、新人は戦力になりそうだしで良い事だらけだったわね~。あ、咲夜~紅茶持ってきて~」
今日のレミリアの目覚めはすこぶる良い、咲夜を呼ぶ声もいつもよりリズミカルだ。

「おはようございますお嬢様。紅茶と今日の文々。新聞でございます。」
機嫌の良い主人を見て咲夜も上機嫌になる。まさに一心同体である。

「妹紅たちのニュースはもう載ってるかしら?新聞にはなんて書いてある?」
自分のやった仕事を早く確認したいのか咲夜を急かす。

「え~、野球欄のトップ記事は 

スピード決着!藤原 上白沢両選手が紅魔館デビルレッツ入り! 昨日、藤原妹紅選手と上白沢慧音選手と紅魔館デビルレッツが契約に達したと発表があった。 デビルレッツは打線の強化が課題だっただけにこの補強はとても効果的だと言えるだろう。契約内容には里の人間達を慮る内容があるとされ、今シーズンデビルレッツが何をしてくれるのか目が離せない。

ですね。おや、白玉桜の亡霊姫もFA権行使のようですよ。

西行寺幽々子もFA権行使へ!FA第三号!! 本日、西行寺幽々子選手がFA権を行使することがわかった。西行寺選手は「今のチーム(幻想ドリームス)に不満があるわけじゃないけど、1、2年目優勝で昨シーズンも僅差の2位だったじゃない? 勝ちが見えてる勝負は面白くないのよ~」との事。昨シーズン40本塁打の大砲の行方に注目だ。

らしいですわよ。」

最初の記事を聞いてるうちは絵に描いたような上機嫌だったレミリアだったが幽々子の記事を聞くと表情を変えた。
「あら、亡霊姫もFA行使なのね。聞くかぎりでは強いチームに行く気はなさそうだけどどこが手を挙げるのかしら?」

「あの打力を一番欲しがるのは命蓮寺スカイズでしょうね。あそこはうちと並んで貧打のチームですから。しかし守矢マウンツが黙って見過ごすとは思えませんわ。あのチームは攻撃力こそありますが一塁手が不在ですからね。」
咲夜が各チームの戦力を分析した上で言う。レッツも打力の観点から言えば是非欲しい選手だが妹紅、慧音の2人を獲得しているためこれ以上はFA選手を獲得することはできない。野球の制度などは外の世界に基づいているのだ。

「まぁ、その2チームのどちらかってところね。どちらにせようちとしてはドリームスの戦力減は嬉しいかぎりよね。」
やはり現在最強と謳われるドリームスの戦力ダウンは来シーズンへの手応えを感じているレミリアにとって追い風となるだろう。
「他球団の動向はどうせ新聞でしかわからないし私たちは私たちのできることをしましょうか。今日から本格的に練習始めるわよ!」


-------グラウンド

「全員集~合~!! 来季の体制も整ったし今日から本格的にキャンプ始めるわよ!当然来年も優勝を目指すわ、今までも優勝を目指してはいたけれど不甲斐ない成績が続いたわ。だけど今年は違う!ドラフトで有望な選手が入団し、FAで頼れる選手も入団してくれた! 今年のレッツは違うと他球団を見返し!不甲斐なかった私たちを応援してくれたファンに恩返しするわよ!」

----------紅魔館デビルレッツの逆襲をかけたシーズンが、始まる。

ブルペンではレミリアが練習の指揮を取っている。レッツでは基本的には自分達で課題を見つけて練習する方針だが、何から手をつけていいかわからないときの練習や、投手陣全体の目標といったものはレミリアが決めている。

「来シーズンの目標はズバリ!先発投手に勝ちをつけることよ、去年までの私たちは先発が4回でマウンドを降りたり中継ぎ陣が大炎上したりでなかなか思うように先発に勝ちがつかなかったわ。先発陣は最低5回を投げきること、中継ぎは目の前の打者を打ち取ることに全てをかけてちょうだい。」
レミリアは高らかにつげる。しかし投手陣の反応はあまり芳しくなかった。

そんな投手陣の思いを代弁するかのようにパチュリーが口を開く。
「あのねレミィ、それができたら私たち今までこんなに低迷してないわよ。確かにルナサが入って中継ぎは強化されたけどあくまで一人しか増えていないのよ?先発が思いっきり投げて5回で降板しました。あとはルナサを筆頭に中継ぎリレーでしのぐのは質、量的に無理があるわ。もっと具体的な目標を…」

待ってました、と言わんばかりにレミリアが割り込む。
「パチェ、あなたはルナサの投球を見たかしら?」

話を遮られて不服そうだがパチュリーは話に付き合う。
「えぇもちろん見たわよ。美鈴にあの打法を思わず使わせるまでのピッチング、ストッパーがレミィじゃなければストッパーでもいけるんじゃないかと思ったわ。」
パチュリーもルナサの実力は認めている。

そのことがわかるとレミリアはゆっくりと切り出す。
「それよ、来シーズンはね、ストッパーはルナサに任せて私はセットアッパーに回るわ。」

すかさずパチュリーが反論する。
「あなた何を言っているの?レッツの守護神があなた以外に務まると思って?」

「そうよお姉様。私が僅差のゲームを8回で降りてたのは9回がお姉様だから。ルナサの実力は認めるけどストッパーにするのは反対よ。」
フランドールもパチュリーに続いて反論。先発の看板2人はこの起用に反対のようだ。

そしてルナサはというと---------------------------はい、テンパっていた。
(レミリアさん、話違いますよ?めちゃくちゃ反対してますよ?今からでもあなたがストッパーやりましょ?)
だが表情は冷静そのもの。はたから見れば、反論など知ったことか、といった表情だ。

そんなルナサを見てレミリアは
(看板2枚からの反論を聞いても顔色一つ変えないか。いい度胸してるじゃないか。)
180度食い違っていた。しかし100人に聞いたら98人がそう考えるだろう。ちなみに2人はさとりと本人である。
「見てみなさい、パチェ、フラン、あなた達というレッツの看板2人の反論を聞いても顔色1つ変えないでこの態度よ。ストッパー向きな性格もしてるじゃない。それに私は肩が強い。スクランブル登板や回跨ぎが多い、うちの中継ぎ向きな肩してると思うわよ?それにルナサに回跨ぎしてもらうことも無いだろうし。」

「はぁ…、あなたがそこまで言うならもう何をいっても無駄ね。それにあなたの言うことも一理あるわ、思いつきではないみたいだし付き合ってあげる。ただしシーズン中にあまりに機能しない場合はっきりと言わせてもらうわよ。」
パチェが諦め半分、感心半分な声で言った。これ以上いっても水掛論だと判断したのと、ちゃんとチームのためを思ってのことだと判断したのだ。

「むぅ~、1対2でまだ反対してたら私が子供みたいじゃない。ルナサ!私はパチュリーほど甘くないからね!」
フランドールも渋々ながら認めたようだ。…ただ、ルナサへの脅迫という名の発破を残しつつ。

(丸く収まってよかった…。でも責任重大だなぁ…とにかく頑張るしか無いよね…。」
ルナサはそんな悲壮感あふれる決意をしていたのだが誰もそんなことは知らないのだった。表情って大切。

そんなルナサの決意をヨソに練習が始まる。
レッツの練習風景において、飛び抜けて目立つものは4人いた。
そう、レミリア、フランドール、パチュリー、そして新加入のルナサの4人である。

まず、ルナサ・プリズムリバー、今期から入団の期待の新人。
球速は140km/h後半と特別速いわけではないがその制球力はかなりのもの。投球練習でもキャッチャーの構えたところに狂い無く投げ込んでいる。
また下方向への変化球もよく、これも低めの良いコースに制球されている。
彼女の課題は本人が一番わかっている。精神面だ。
(う~、ブルペンでは落ち着いて投げられるし試合でも緊張する場面じゃなかったら大丈夫なんだけど…、もしフランのあとのリリーフ失敗したら…)
内心泣きたい気持ちであったがポーカーフェイスは崩さない。淡々と投球練習を続ける。

フランドール・スカーレット、彼女は先発の核でありその常人離れしたスタミナと直球が最大の武器だ。
毎試合150球は平気で投げるしストレートの平均球速は150km/hを上回る。さらに試合終盤でも球速は落ちない、だが彼女は乱調癖があり6回を超えたあたりからいつ四球病が顔を出すかわからない、そんなピッチャーだ。そして彼女の課題は誰しもがわかっていた。

(私の課題は乱調癖が出たときにどう対処するか、ね。なんとか抑えてきたことも多いけどこれじゃ真のエースとはいえないもの。せめてストレート以外にもう一つ自信を持って投げられる変化球があればなぁ…。)
フランドールはストレートがダメでもその球で勝負できればなんとかなるだろうと考えたのだ。実際、超一流のピッチャーとはそういったものだ、とパチュリーに聞いていたのもあるが。

フランドールの変化球は4つある、カットボール、フォークボール、チェンジアップ、カーブである。しかし彼女は元々変化球を投げるのが苦手であり、先の中のカーブなんていわゆる「ションベンカーブ」と呼ばれるものであった。
事実今行っている投球練習中も直球を投げればズドン!とえげつない音を立てるが変化球のときはポスン、と情けない音を立てる。

(やっぱりストレートに似てるし、まだ使えるカットボールを練習しようかなぁ…。今度パチュリーに聞いてみよ。)
「よし!じゃあ今日はストレートを磨こう!ストレートだけガンガンいくよ~!」
それを聞いてブルペンキャッチャーの顔がひきつったのはいうまでもない、そして明日は手がうちわになっていることを覚悟した。

次にパチュリー・ノーレッジ、フランドールと二枚看板を張り、球数が投げられないことを除けばフランドールより安定感のあるピッチャーである。
ストレートこそ140km/h前後だが多彩な変化球を操り球界トップレベルの変化球を7種類操る。さらに試合で実用できる球種は15球種以上あると言われている。
だが先ほども述べたように肩が弱いのだ。先発なら80球が限界だし、中継ぎなんてさせたら一週間で故障するほどだ。

(今更この肩はどうにもならないわ、少しでも長いイニングを投げるにはいかに打ち気を誘って打ち取るか、さてどうしたもんかしら。)
投球の中身はもう伸びしろがあまりないパチュリーは自身の投球術について考えた、すべて初球で打ち取れば27球で試合が終わる、それがパチュリーの理想であった。
「レミィ、思いついたことがあるから今日は練習もうあがるわ。(そうと決まれば球数少ないピッチャーを研究よ!)」
今練習が始まったばかりなのに一球も投げずに早々とあがるパチュリー、ここではよく見られる光景である。 だが、誰も非難しない。言葉が足りなくても彼女の行動は理解されているのだ。

「あ、パチェ!…まったく、せめて何するか教えてくれればいいのに…。」
そして最後にレミリア・スカーレット、昨シーズンまでの守護神である。
絶対守護神、それ以外彼女を表すのに言葉はいらない。
直球は150km/h後半を常時記録し球威も凄まじい、70イニング投げバットを40本へし折っている。そのあり余る力から彼女の直球は 「グングニル」 と呼ばれる。
さらに変化球も一級品である。スライダー、カーブ、縦に割れるスライダーと球種はオーソドックスながらいずれも、それ一本にしぼればなんとか打てるというほどの変化球だ。だがそんな彼女にも弱点がある、あまりに各球種がすごいためにキャッチャーの捕球ミスが多いことだ。捕ることに専念すれば良い、ここブルペンでさえパスボールが目立つ。

(ま、ちゃんと考えての行動でしょうし何も言わないわ。私は自分にできることをするだけ、縦のスライダーでもっと三振を取れるようにしないと。)
もちろんレミリアは奪三振率も優れているピッチャーだ。昨シーズンは72奪三振を記録しておりイニング数を上回っている。
だが、今季はセットアッパーとして控えるため内野ゴロや外野フライが許されない場面も大幅に増加するだろう、それを見越して落ちる球を磨くようだ。




一方野手陣は咲夜と美鈴が指揮をとっている。主に打撃を美鈴、守備を咲夜が担当している。

「さて、じゃあこれから練習を始めていくけど、その前に今年の守備目標と打撃目標を発表するわ。まず、守備目標は 「1カードにつきエラーは1つまで」 よ。
昨シーズンは120試合、前40カードでエラーが64個だったからね。 もちろん他のチームに比べれば良い数字だったけれど守備のチームとしてはもうちょっと上を目指しましょう。打撃目標は美鈴からお願いね。」

「はい!今年の打撃目標はずばり! 「出塁率の5分向上」 です。 うちのチームは貧打故にどうしても打てないことに対する焦りがでてしまいました。しかし今年は妹紅さんと慧音さんも加入してくれましたし中軸がだいぶ固まりました。なのでいかにチャンスを作ってクリーンアップに回すか? 塁に出る方法はクリーンヒットだけではありません、四球でつないだりできればクリーンアップにチャンスで回る、上位打線に多く打席が回ってきます。とにかく繋ぐ意識を大事にしましょう!」

ちなみにエラーの少なさは前6チームの中でもトップである。だが打てないチームである以上エラーは負けに直結する。事実エラーをした試合は勝率がすこぶる悪かった。そして打撃陣はチーム打率.236でチーム出塁率が.255と打てない、四球を選べない最悪の状況だった。もちろんリーグ最下位である。
だが今期は攻撃力が高まった、それに加えチーム全体になんとしても繋ぐという意識を植え付けることによってチャンスを増やそうとする目標設定、そして守備陣はもともと高い水準にあるがさらに一段のぼることにより首位争いをする。まさに優勝するための目標だ。

「今回はまともな目標じゃない、去年は 「積極的な打法を!」とかいってとにかく振り回してればそのうち当たるみたいなこと言ってたのに。」
咲夜がこっそりと美鈴に話しかける。

「それは言わない約束ですよ…。やっと目標を立てることにも慣れたってことにしといてください。」
美鈴は思わず苦笑いを浮かべた、だが表情はすぐに変わり
「それに今年の打撃陣なら、と思うんですよ。私が5番を打つ打線が理想だと常々思ってましたから。」
真剣なまなざしで咲夜を見ていう。4番の重圧から逃げれて良かった、などの意思はそこには無かった、純粋にこのクリーンアップなら勝てる。という思いが咲夜に伝わる。

「…そうね。じゃあ私はトップバッターとして頑張って出塁するからちゃんとホームに返してよ?」

「任せてください、ちゃんと返してみせますよ。」
2人はお互いの目を見てから------------微笑みあった。

まず始まったのは守備練習、レッツは守備練習に多くの時間を割いている。その中でも目立つものが3人。

ファーストのキスメはファーストベースから届く距離のボールならショートバウンドでもなんでも巧みなグラブさばきで一球もミスをしない、さらに自身への火が出るような当たりもなんなくさばいている。ライトの妖精メイドは途中からカバーに走るのがめんどくさくなって行かなくなったほどだ。もちろん咲夜に怒られて今は罰走中。カバーをサボったから当然の報いだ。カバーは大事です。
(前は…打撃だけだったから…アピールできなかったけど…、今は…チャンス…)


次にショートの咲夜、ファインプレーをファインプレーに見せないのが本当の名手だ、という言葉通り難しい打球も基本通り正面で捕球し一塁へ確実な送球。
ただし肩は強い方ではないので三遊間の深いあたりだけは苦手、だがファーストがキスメなので多少コントロールを無視して投げても大丈夫なのでまさに完全瀟洒。
(ファーストが上手いってこんなに安心できることだったのね、深いところにきてもなんとかなりそうね。)


最後にセンターのミスティア、持ち前の俊足を生かしてヒット性のあたりを軽々ともぎとる。さらに跳躍力もあり球際にも強い。
「まだまだー!もっと厳しいの来ーい!」
とミスティアが言えば
「言ったなー!これでどうだ!」
と美鈴が返しながらノックを打つ。

しかしそれを軽々とキャッチ。この流れがすでに5回は繰り返している。
そんなミスティアがなぜ外野手としての評価が低いのか、それは打撃が苦手ということもあるが、何より肩が非常に弱いのだ。
定位置よりちょっと前の外野フライでもランナーが鈍足でなければタッチアップされる、それは外野手として致命的な欠点だった。


守備練習の次は打撃練習が行われる。

打撃練習では咲夜の華麗な流し打ちや美鈴の下半身の粘りを使ったしぶといバッティングや小悪魔のケース打撃を想定した右打ちやバントが今までレッツの打撃練習で注目を集めていた。
だがしかし、藤原妹紅の前ではどれもが霞んで見えた。

打球方向は全て引っ張りのレフト方向、火のでるような当たりが次々と飛んでいく。
妹紅は典型的な引っぱり専門------プルヒッターだった。
昨シーズンも安打の7割以上がレフト方向、本塁打にいたっては36本中33本がレフトスタンドであり、ライト方向への本塁打は1本も無かった。
もちろん妹紅シフトと呼ばれる野手が極端に左に寄る守備シフトを敷かれていたが、なお引っぱりでそのシフトの間を破り打率.289を残している。
もし流し打ちができれば4割バッターになれるだろう、と言われているが本人は流し打ちをする気は一切ない。

「相変わらずの打撃だな、妹紅。お前がいると私が全然目立たないから困るよ。」
打撃練習を終えた妹紅に慧音が声をかける、困るとは言っているが表情は笑顔だ。

「全然困ってなさそうじゃんか、だいたい慧音だって二塁打性のあたり連発してただろ、私が打ってたから目立たないだけで。」
何を言ってるんだか、といった目で慧音を見る。慧音は自分はたいした事ない、と言いたげだが。

そう、慧音は走攻守において飛び抜けたものは無いが全てが高い水準にある。
今の打撃練習もフルスイングで長打性の当たりを打ったかと思えばヒットエンドランを想定したライト前へ軽打。
引っ張ってレフトに運んだかと思えば流し打ってライトへ、基本通りのセンター前など穴のない打撃を見せていた。
さらに先の守備練習でもレーザービームとは言わないがキャッチャーへのストライク返球など、目立たない好プレーを見せていた。咲夜と違い外野なので好プレーを連発するわけではないのがまた目立たない要因の1つだ。



その晩-------------

「咲夜、そっちの方はどんな塩梅だったかしら?』
レミリアが咲夜に尋ねる、新戦力はどうだったのかが気になるようだ。

「とても良かったですわ。慧音は目立たないものの堅実なプレーでチームに大いに貢献してくれるでしょうし妹紅の打撃は圧巻でした。一撃で流れを変える、というのはああいう打撃を言うのでしょう。クリーンアップを安心して任せられますわ。ミスティアとキスメは打撃はまだまだですが守備は合格です。特にキスメのファースト守備は素晴らしかったです。ミスティアは肩の弱さが気になりますがあの守備範囲と走塁なら目を瞑っていいと思いますわ。」
咲夜は今日一日の練習を終えた感想を述べる。レミリアは野手の練習や起用は咲夜と美鈴の意見を聞く事が多く、特に練習や実力は咲夜に聞くことが多く、調子の善し悪しによる起用や代打起用等は美鈴に聞くことが多い。

「いい感じよ、咲夜、来シーズンこそ-----チャンピオンフラッグを紅魔館スタジアムへ立てるわよ。」

「はい、お嬢様。この咲夜全身全霊を持ってその悲願成就へ助力いたします。」
グラスの音が響き、2人は誓いのワインを飲み干した。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



レッツは順調にキャンプを消化していった。
その間にレッツ以外のところでは大きくチームが動いていた。

文々。新聞より抜粋
「幽々子様 スカイズ入りへ! 先日、本紙でもお伝えした西行寺幽々子選手のFA権行使だが、昨年最下位の命蓮寺スカイズと契約を結んだことがわかった。守矢マウンツも交渉にあたっていたが争奪戦を制した形だ。西行寺選手は「やりがいがあるのはスカイズのほうでしょう?今年のスカイズは違うわよ~。」とコメント。代表者の聖白蓮選手は「亡霊と僧侶と普段は相容れないかも知れませんが、スポーツはそんな境界が無いことを示し、上位目指し頑張っていきたい。」とのこと。貧打に悩むチームの救世主となるか。」

「風見幽香 出陣 自由契約選手ながら幻想郷トッププレイヤーと高名な風見幽香選手がついに幻想郷リーグへ参戦することになった。注目の所属チームはなんと幻想ドリームス。幻想郷リーグ最強チームに幻想郷最恐のバッターが入団。ポジションは西行寺選手が抜けて空いた一塁と思われる。「別に、気が向いたから。」とコメントはそっけないが溢れる闘志を隠す様子はなかった。幻想ドリームスがV奪還へ本気だ。」

「月よりのV2を運ぶ使者! 永遠亭ルナーズに秘密兵器!? 永遠亭ルナーズに月の民の綿月姉妹(綿月豊姫、依姫)が入団することが発表された。幻想郷の住民でない者が入団するのは史上初だが、八雲紫氏は「幻想郷は全てを受け入れます。幻想郷リーグもしかりですわ。」とコメントしており何の問題も無さそうだ。綿月姉妹のポジションは不明で、オープン戦などでの出場が待たれる。藤原 上白沢両選手が抜けてV2は厳しいかと思われたが今年も十分に優勝の可能性はありそうだ。」

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

キャンプが終了すると各チーム同士でオープン戦が行われる。
今日は紅魔館デビルレッツと永遠亭ルナーズの間でオープン戦が行われる予定なのでレッツの選手は永遠亭ルナーズの本拠地、「永遠亭バンブーフィールド」へと向かっていた。永遠亭バンブーフィールドは大きさは標準的だがグラウンドサーフェスは内外野ともに天然芝であり、守備が難しいグラウンドで知られる。また観客席も緑色を基調としており、まさに竹林といった色合いになっている。そして何よりバックスクリーン最上部には去年の覇者の証のチャンピオンフラッグがはためいていた。

「いらっしゃい、今日はよろしくね、お互い怪我人の出ないように気をつけましょう。」

「えぇ、よろしく。去年の優勝チームだし胸をお借りするわ。」
お互い言葉を穏やかに言葉を交わす、だがここは負けず嫌いの多い幻想郷、オープン戦とは思えない緊張感が漂っていた。


「じゃあ今日のスタメンを発表するわよ、今日は公式戦を想定した起用をするからあまり気を抜いたプレーしてるとすぐにベンチに下がってもらうからね!」
レミリアが檄を飛ばす。勝って気分よくレギュラーシーズンに入ろうという作戦だ。

先攻:デビルレッツスターティングメンバー
1 遊 咲夜     右投左打
2 中 ミスティア  左投左打
3 左 慧音     右投右打
4 三 妹紅     右投右打
5 捕 美鈴     右投右打
6 一 キスメ    右投右打
7 右 妖精メイド  右投右打
8 二 小悪魔    右投両打
9 投 フランドール 右投右打

後攻:永遠亭ルナーズスターティングメンバー
1 左 リグル    右投右打
2 右 因幡うさぎ  左投左打
3 中 豊姫     右投右打
4 一 輝夜     左投左打
5 遊 鈴仙     右投右打
6 三 因幡うさぎ  右投右打
7 二 てゐ     右投左打
8 捕 因幡うさぎ  右投右打
9 投 依姫     左投左打



「依姫が先発みたいね。あちらさんもガチガチのオーダーよ。大方こっちと同じで弾みをつけてオープン戦を終えたいんでしょう。情報の少ないピッチャーだからじっくりせめて行きましょう。今シーズン何度もあたることになるんだから。」

プレイボールがかかり、まず打席に向かうのは咲夜。
(左のサイドハンドね、ちょっと打ちにくそうだけどなんとかチャンスで中軸まで回したいわね。)

初球、依姫が振りかぶって球を投げる、内角をえぐるようなクロスファイアー。球速自体は145km/hほどだろうが角度のせいで5km/hは速く見える。
これを見送ってストライク、見送るというよりも面喰らった、という表現が正しいだろう。
そしてカウント1ボール2ストライクからの4球目。

(一球目と同じストレート…!)
咲夜はレフト前に流し打とうとバットを出す。…しかしボールはバットのさらに先へ。

「ストライーク!バッターアウト!」
空振り三振、咲夜は苦い顔を浮かべ、打席を出る。

「たぶん最後はスライダーだったわ。私たち左打者にはかなり厳しい球種だから追い込まれる前のカウント球をたたきましょう。」
途中ミスティアにそう伝えベンチに戻る。

だがミスティアは空振り三振、慧音も窮屈な打撃でショートゴロ。あえなく三者凡退に倒れた。
そしてレッツの守備、フランドールがマウンドに上がる。
相手打者が構えたことを確認すると投球動作へ。大きなワインドアップから高く足を振り上げ全身を使うフォームから放たれた球はど真ん中ストレート。
ズドンと音をたてキャッチャーミットへ突き刺さる。初球から153km/h、先発ピッチャーとしてはかなり速い部類に入る。
次々に投げ込みなんなく三振。フランドールもこの回ストレートだけで三者凡退にしとめた。

両投手ともに好投をつづけ得点は0ー0のまま回は6回、ルナーズは4番の輝夜からの攻撃だ。
カウント2ー2と追い込んでから投げたフォークボール、…これがすっぽ抜けてしまった。
(あっ…)
そう思ったときにはもう打球はセンターバックスクリーンに向かって一直線。
ソロホームラン、輝夜は悠々とダイヤモンドを一周しルナーズが一点を先制。

(まだ1失点だし味方もそろそろ点とってくれるよね。気にしない気にしない。)
フランドールは頭ではわかっているが多少の同様があったのだろう。
乱調癖が顔を出し、次打者の鈴仙に対しストレートのフォアボール。

すかさずレミリアがタイムを取ろうとする…がパチュリーに制止される。
「パチェ!フランの乱調癖はせめて間をとってやらないと収まらないわ!あなたも知ってるでしょ!?」
レミリアが思わず声を荒げる、エースが自滅で崩れたままシーズンの突入するのは避けたかった。

「えぇ、去年までのフランならそうだったでしょうね。せめてあと一人だけ見てやってくれない?」
パチュリーが穏やかに言い聞かせる、フランは抑える、そう確信しているかのようだった。

(ストレートが入んなくなっちゃったな…、ほんとはオープン戦で見せる予定じゃなかったんだけど仕方ないかな。)
フランドールはうろたえることなく思案している。彼女もキャンプで新しい武器を身につけたのだ。
(見てて、お姉様。いつまでも手のかかる私じゃないんだよ?)
再び目に闘志をやどらせ投球動作へ、ランナーがいるためモーションは小さいが雰囲気は巨人そのものであった。

クイックモーションから投げられた球はきれいにストライクゾーンへ飛んでいく。150km/hほどのストレートだ。
だがバッターの手元でクイっと小さく、だが鋭く変化した。ストレートと思っていたバットを出していたが芯を外した打球はぽとりとホームベース手前に落ちる。
すかさず美鈴が二塁に投げ咲夜がとって1アウト、さらにボールを一塁転送してゲッツーの完成だ。

「ね?フランはこのキャンプで大きく成長したわ。今やあのカットボールはフランの中でストレートと同レベルの自信がある球よ。キャンプでそればかり練習していたもの、私はカットボールが得意でないけれど球が速くて腕の振りのいいフランには相性が良かったみたい。」
この結果がわかっていたかのように言う。フランドールはキャンプ中カットボールの練習に多くの時間を割いていた。パチュリーのアドバイスを参考にしながら自分自身の変化球を作り出したのだ。

「いつまでも小さいままじゃないわね、もうあの子の後始末をすることは無くなるかもね。」
感心していたがどこか寂しげにレミリアは言う。

「えぇ、それでもフランにはあなたが必要よ、レミィ。」

そんな会話をしているうちに次のバッターも打ち取りチェンジ、フランドール達がベンチに帰ってくる。
好投を労い、野手陣に発破をかける。7回表のレッツの攻撃は先ほどのルナーズと同じ4番から。

妹紅が右バッターボックスに入る。
初球に対し思い切ってフルスイング、澄んだ音を残しボールは三塁手の頭上を通過。だがあたりが良すぎてシングルヒットとなってしまった。

(もうちょっと打球が上がってたらホームランだったんだけどな、なんとかフランを援護してやりたいが)
そんなことを考えていると一塁手の輝夜が話しかけてきた。
「相変わらず引っ張るのが好きね妹紅。…そうだわ、今シーズン打撃成績で勝負しない?このカードでの打率、本塁打、打点で相手より良い成績を残したほうの勝ち。もちろん今日の結果は含まないわよ?ホームラン打ったからこんな勝負をする、なんて思われたら癪だもの。」
今まで同じチームで打順も違っていたため優劣をつけられなかったのがお互いに気にくわなかった。だからこその輝夜の提案であった。
「いいだろう、受けてたってやる。勝って吠え面かかせてやるよ。」
輝夜に対してはどこまでも負けず嫌いな妹紅は迷わず勝負に乗る。

この回続く美鈴のツーベース、キスメの犠牲フライと妖精メイドの内野ゴロの間にレッツが2点をあげ逆転に成功。
試合はフランドールがこのリードを守りきり1失点完投勝利をあげた。
お世辞にも快勝とは言いがたい結果だが7回以降ピンチらしいピンチを作らなかったフランドールの投球はエースにふさわしい内容だった。
野手陣も得点こそ挙げられなかったが初めて対決するピッチャーから中盤にチャンスを作り、ワンチャンスをものにした。
守り勝つ野球をするレッツにとって、今日の勝ちはレミリアの理想の形であった。

「今日はお疲れ様でした、フランもよく最後まで投げてくれたわね。最後まで投げ抜けるか見ておきたかったのよ。中継ぎ陣は今までの練習試合とかで結構見てたから無理に出す必要は無かったし。野手陣はワンチャンスをものにしたとはいえ1,2番が出塁無しなのはいただけなかったわ、咲夜とミスティアは開幕までに調子上げておいてよ?」

「すいませんお嬢様、シーズンが始まればこのような事はないようにします。」
「は~い、もっとがんばります。」
咲夜とミスティアは申し訳なさそうに返事をする。チームは勝ったがやはり自身の内容は気にしていたようだ。

次の日からは各自調整メニューをこなしていた、ペナントレースに向けての最終確認を行う。
この数日で咲夜とミスティアも納得できるほどに調子をあげ、他の打撃陣も不調に悩まされている選手はいない。
投手陣は少し中継ぎの妖精メイドが仕上がっていないものがいる程度でおおむね問題は無さそうだ。
チーム全体に今年こそは、という思いが広がっている。永遠亭バンブーフィールドで見たチャンピオンフラッグは今シーズン終了時には自分たちのグラウンドへ、
全員がそう思っていた。



いよいよペナントレースが---------始まる。
一幕、二幕からお読みいただいている皆様ありがとうございます。
コメントをいただけると非常に嬉しかったです。

実在選手紹介

東出輝裕 幽々子のコメントの元ネタの人、FA宣言せずに広島東洋カープに残った際「結果のわかってる勝負は面白くない」と言って残留。自分を評価してくれるのはお金以外無い、とかチームから一度見捨てられた、とか言った割に「このチームで優勝するのが一番かっこいい事」と盛大なツンデレを見せた人、今岡では無い。

物語中で取り上げられた相手チームのメンバーのデータをここに載せていこうと思います。

-----------
蓬萊山輝夜 昨シーズン成績 率.323 本塁打28 点108 盗2
      ルナーズの主砲、打撃面では確実性と長打力を併せ持つリーグを代表するスラッガー。

綿月依姫 昨シーズン成績 無し
     今シーズンからルナーズに加入した月の民。左のサイドスローから角度のあるボールを
     投げ込む。決め球はスライダー。

追記
誤字指摘ありがとうございます。修正しておきました。
何かの尻尾
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
いよいよペナント戦スタートですね。
毎回楽しみにしてます!
4.100Dark+削除
フラン流石に強いな……
他のチームも気になってきますね。次も楽しみです!
5.100名前が無い程度の能力削除
ついにペナント突入!
楽しみです。
6.100名前が無い程度の能力削除
スポ根とも違う、実に引き込まれるお話。
続きをお待ちしております!
10.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです!
しかしルナサは大丈夫なのか?w
11.70名前が無い程度の能力削除
内容が少し無難過ぎる気がしました。
せっかくの東方キャラなのに球速や打撃成績などがプロ野球選手と同じなのはもったいない気がします。もっと極端な数字にした方が各キャラクターの特性が出る気がしました。
13.100名前が無い程度の能力削除
もっとはっちゃけてもよろしくてよ。ここは幻想郷なんだから。
例えば魔球とか。
14.100名前が無い程度の能力削除
俺はこの適度な感じ好きですよ。
過激さが無い方が野球って感じがして試合を読むのが楽しいし
16.100名前が無い程度の能力削除
自分は今の感じが好きです。東方キャラ同士の対決だから、実力が拮抗してるほうが楽しいと思う。

レッツは順調なスタートでしたが、敵チームも手強そうでワクワクしてます。次のお話も楽しみにしてますね!
17.80名前が無い程度の能力削除
依姫がなんでいるんだよw
29.90名前が無い程度の能力削除
キスメは桶から出てるんですよね?
さすがに桶に入ったまま一塁守備は無理ゲーな気がしますw
31.100名前が無い程度の能力削除
ルナサとパチュリー球速140km/hもあるんだ……。

早っ!って思ったのは俺だけ?

すごく面白いです。監督達の頭脳戦も見れたりするのかな?
32.100名前が無い程度の能力削除
良いね。面白いわぁ。
ただ細かいことを言うと、けーねって右打の筈なのに、右に引っ張る、左へ流すってのはおかしいような。
これだとけーねって左打じゃない?
まぁ落合的感覚で言えば右に引っ張るってのはあながち間違いじゃないかもww
33.100名前が無い程度の能力削除
今回も面白かったです。
37.90Admiral削除
レッツ勝利おめでとうございます!
フランちゃんよく頑張った!
作中で特に出なかった豊姫が気になります。
そしていよいよシーズン突入ですか…!
これからも目が離せないですね。
39.100名前が無い程度の能力削除
内容もテンポよくて面白かったです。