Coolier - 新生・東方創想話

変わらない想い 巡る運命

2011/05/03 14:51:19
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グサッ!!

彼女の体に、ナイフが刺さる。
紅魔館の主人である彼女――レミリア・スカーレットは、突然の襲撃者と戦っていた。
いや、戦い始めようと思っていた。
気付けば、始まりの合図もなく、襲撃者である少女から、一撃を喰らっていた。

(何度も視た運命だな……)

彼女は、自身に刺さるナイフを、気にすることはなかった。
痛みよりも、喜びを感じていた。
何度も視てきた、最高のシナリオ……。
それを手に入れる、運命に……。

カランッ……

自身に刺さった、美しき銀のナイフを、引き抜き、投げ捨てる。
彼女は、真剣に相手と向き合う。
自分にとっても、相手にとっても、遊びとはいえ、油断すれば、死すらもありえる。

襲撃者を殺すわけにはいかない……。
襲撃者を殺さず、負かさなければ……。

「さぁ、始めましょう……」

失った運命を、手に入れるため……。

「私たちの、戦いを!!」

彼女はまた、少女と戦う……。
少女の口元には、笑みが浮かんでいた……。





「……ぅん……」

気が付くと、私はベットの上に居た。
全身が痛む。

……やっぱり負けた……。

私では、あの吸血鬼にはかなわなかった……。
また負けた、と感じる。
何故かは、わからない……。
私が生まれてから、あの吸血鬼に会った、という記憶などないのに……。

バンッ!!

「……?」

突然、大きな音がして、私は扉を見る。
そこには、私が戦った吸血鬼がいた。

「やっと、お目覚め?」

流石は夜の王、吸血鬼。
偉そうに現れる。
だけど、その入り方に、見覚えがある。
その横暴さを、知っているような気がする。

「もう少し、静かに入っていただきたいのですが……」

何故だかわからないが、口調が畏まったものになる。

「貴女には、ここで働いてもらうわ」

私の言ったことを無視して、私へ向かって言い放つ。
……なんとも言えない、デジャヴを感じる……。

「貴女がここでメイドとして働く」

何故かわからない、一度、あった出来事のように感じる。
大切なことのように感じる。
心の底に隠れた、色々なものが溢れてくる。

「それは、私が視た、私と、貴女の運命」

……思えばあのとき、私は、引き寄せられるように、この館へ向かっていた。
これは、運命か……。
それとも、必然か……。

「だから、貴女は……」

だから、私は……。

美しく輝く、十六夜月の下。
見えない力に引かれて、惹かれて。
差し伸べられた、その手を……。
差し出された、運命を……。
かけがえのない、大切なものを……。
私は、手に入れた……。





「暇ねぇ~……」

何も起こらない、平和な紅魔館の日常。
私は、することもなく、ただ、怠惰に過ごしていた。
別段、することもなく、つまらない。

……何かしようかしら……。
かといっても、何も思いつかない……。
……暇過ぎる……。

コンコン

扉をノックする音がする。
誰だろうか……。

「入っていいわよ」

「失礼します」

入ってきたのは、咲夜だった。
さて、なんの用だろう。

「お嬢様、お茶にでもしますか?」

ちょうどいい。
退屈を紛らわすことが出来そうだ。

「お願いするわ」

「かしこまりました」

一瞬にして、目の前のテーブルに、お茶会の準備がなされている。
流石は、我がメイド。
仕事が早い。

「今日のお菓子は何かしら?」

「チーズケーキですよ」

うむ、美味い。
いつものことながら、咲夜の料理は美味しい。

「どうですか?」

「美味しいわ」

「ありがとうございます」

咲夜の顔が綻ぶ。
私は、咲夜のこんな顔も好きだ。
抑えきれてない喜びが、ちょっとだけ出てくるこの顔が。
もちろん、思いっきり喜んでる顔も好きだけれど。

「ご馳走様」

「お粗末様です」

咲夜は、空いたティーカップに紅茶を淹れてくれる。
細かい気配りをしてくれる。
これも、咲夜のいいところだろう。

「ありがとう」

さて、このティータイムも、もう終わり。
……このまま、散歩にでも行こうかしら。

「ねぇ、咲夜」

「はい?」

「一緒に、散歩にでもいかない?」

「わかりました、お供しますわ」

私にとって、忌々しい青空が広がる。
それでも、日傘を持ってくれる従者がいる。
いつでも、隣にいてくれる従者がいる。

さぁ、今日は何処へ行こうかしら……。





『咲夜』

お嬢様に呼ばれた。
私は、ポケットから、時計を取り出し、能力を使う……。
時は止まり、世界は色を失う……。
私のみに許された、私だけの時間、私だけの空間。

お嬢様の部屋の前につく。
時を動かす……。
世界は色を取り戻す。
そして、私は、扉をノックする。

「入って」

「失礼します」

「ねぇ、咲夜」

さて、なんの御用だろうか……。

「今日は、こんなにも美しい月が望めるわ」

窓の外。
白き月が、優しく、妖しく輝いている。
おそらく……。

「折角だから、一緒にお茶でもしましょう?」

私はまた、時計を取り出す。
時間を確認しつつ、能力を使う。
色を失った世界で、私は準備をする。
そして私は、元の立ち位置に戻り違和感の無いよう、能力を解除する。

「では、こちらへ」

私は、お嬢様を案内する。
この紅魔館の中で、最も美しく、月を望めるテラスへと進む。
外では、月が美しく輝いている。

テラスに着く直前、ポケットに手を入れる。
時計に触れ、能力発動。
時を止める。
準備をしていた紅茶を淹れ、お菓子を置く。
すべての準備を終え、不自然さのないよう、時を動かす。

「さぁ、どうぞ」

お嬢様の席を引き、座りやすくする。
お嬢様が座った後、私は、お嬢様の向かいに座った。

私は、時計を取り出し、時間を確認する。
現在、午後10時、亥の3つ時。
空には、美しく輝く月が浮かんでいる。

私の時計は、月の光を受けて、輝いている。
もう、傷だらけだ……。
それだけ、私と一緒に、歴史を歩んできている。
この時計は、私の体の一部のようなものだ。

銀の懐中時計。
上手く例えるならば、能力の触媒。
この時計が無くても、私は時を操れる。
でも、時計無しでは、上手く扱いきれない。
それに、消耗も激しい。
だから私の一部、というわけではないけれど。

綺麗な月が望めるテラス。
私たちは、雑談に花を咲かせる。
空に浮かぶ美しき月は、私たち2人を、優しく、妖しく照らしている。

懐中時計……。
私にとって、大切な、かけがえのないもの。
私とお嬢様、2人を結ぶ、宝物……。

この時計は、私たち2人の歴史を、ずっと、刻み続ける……。
いつまでも、いつまでも。





何度も視た、避けようの無い、悲しい運命。
いや、避けようはある。
嫌なら、逃げ出すことだってできる。

でも……。
最高のシナリオを得るために。
私は……。
この運命を、選び続ける……。

ここは紅魔館、リビング。
今は夕食後。
咲夜は、後片付けのため、せわしくなく動いている。

「ねぇ、咲夜……」

「はい、なんでしょう?」

「夕食の片付けが済んだら、私の部屋に来てちょうだい」

「わかりました」

私は、咲夜に自室へくるよう伝え、自室へと向かう。
その足取りは重い。
私にとって、受け入れ難い現実。
それが、直前まで迫っている。

でも……。
逃げるわけにはいかない。
私は、何度も、この運命と向き合ってきた。
絶対に、私は、逃げない。

部屋に着き、私は、椅子に腰掛ける。
まもなくだ。
まもなく、咲夜がやってくる。

コンコン

いままで視てきた、運命の通り……。
このタイミング……。
ずっと、変わらない……。
……私は、覚悟を決める。

「お嬢様、只今参りました」

「入って」

「失礼します」

いい現実は得られない。
だが、これは運命。
避けてはいけない、受けとめなくてはならない、大切な運命の欠片。
よりよい、未来を得るための。

「……咲夜」

「……はい、なんでしょう?」

何度も視た、つらい運命。
なんでも手に入れる私の、ただ1つ、手に入れられない、大切なもの……。

「……私と、契約しない?」

「……」

「私は、貴女のこと、とても大切に想ってる」

咲夜は何も喋らない。
この沈黙も、何度も視てきた。

「私は、貴女を、永遠に失いたくない」

「……」

「だから……」

従者として、咲夜を信頼している。
友人として、咲夜のことを大切に想っている。
私は、咲夜のことが好き……。
だから……。

「私と契約して、私と、永遠を……」

涙が零れる。
咲夜との死の別れが怖い。
別れなんて、嫌なのに……。

「お嬢様」

咲夜の言葉に、遮られる。
何度も視た、つらい光景……。

「私は、一生死ぬ人間です」

それでも……。
それでも私は、この運命を視続ける。

「でも、死ぬまで、一緒にいますよ」

大切な、運命だからこそ……。
失いたくない、大切な人だからこそ……。

「いえ」

自分の心に、刻む。

「死んでも、一緒にいますよ」

大切な人の、その言葉を……。

「お嬢様は、私の、大切な御方ですから……」





……歳をとるのは、嫌なものね……。

外見は変わらない。
それは、時を操る能力者だからだろうか。
いつの間にか、身体は歳をとらなくなっていた。
でも、能力は、確実に衰えている。
最近は、能力が扱いにくくなってきている。

それに、身体のほうも、見た目の歳をとらないだけで、結構ボロボロになってきている。
私の生命力も、弱ってきているのかもしれない。
まるで、能力の衰えと比例するように。

きっと、私の最期は近い。
もちろん、すぐに、というわけではない。
でも、私の死は、目と鼻の先にまで、近づいているのだろう。

それでも私は、普段と変わらず、お仕事をする。
私は、メイド長だから。
私は、人間だから……。
……一生を悔いなく、生き続ける……。

ここは、紅魔館1階、エントランスホール。
今は、掃除中。

「咲夜」

「なんでしょう?」

お嬢様に声をかけられる。
はて。
一体、なんの用だろうか?

「明日は休みなさい」

「休暇が必要なほど疲労は溜まっていませんが」

いくら、能力が弱まっているとはいえ、仕事が出来ないほどではない。
それに、私に、疲れなんて溜まっていない。
私は、仕事をしていたいのだけれど。

「最近、働き詰めでしょ?」

「えぇ、まぁ」

確かに、ここ最近、休暇をとった憶えはない。
でも、十分に休息は取っているし、この仕事は、そこまでハードワークではない。

「それに、勝手に死ぬのは許さないわよ」

これは、絶対に引かないな。
昔から変わらないお方だ。

「わかりました」

仕方が無い。
いくら言っても、私の意見は却下されるだろう。

「心遣い、感謝いたします」

「うむ、ゆっくり休むといい」

手に入れてしまった休日だ。
ありがたく、休むとしよう。

「あ、そうだ」

「なんでしょうか?」

「暇だから、散歩に行きましょう」

「……わかりました、お供しますわ」

今日の仕事を、やりきってしまいたかったのだけれど……。
でも、お嬢様の命令は絶対。
明日もお休みだし、明後日にまわしましょうか……。

お嬢様は、私の大切なお方……。
だから私は、一生、お嬢様の後ろについていきますわ。
いや……。
ずっと、お側にいますよ。

死してなお、永遠に……。





……避けて通れぬ、運命の日。
この日を避けるために、あらゆる手は尽くした。
それでも、この日を避けることは出来なかった。

それは、咲夜の意思だから……。

咲夜は、もう弱りきっていた。
歩けない訳ではない。
仕事が出来ない訳ではない。
それでも、彼女の生命力は枯渇しかけている。

だから私は、今宵、月の下……。
彼女に別れを告げる……。
最高に美しい、満月のもとで……。

「咲夜……」

「お嬢様……」

「私の部屋で、ワインでも飲みましょう?」

「わかりました……」

何度も視てきた……。
その度、この運命を避けることだけは、出来なかった……。

視てきた運命は、いつも違った。
でも、最期だけは。
いや、最期に至る運命だけは、絶対に変わらなかった……。

だから私は……。
たとえ悲しくとも、この運命を受け入れる……。
よりよい未来が、その先に、きっとあると信じて……。

「今日は、私が注ぐわ」

「……ありがとうございます」

最後くらい……。
私が注いであげる……。

「さぁ、飲んで」

「……頂きます」

もう、どうにもならない……。
だからせめて、綺麗に終わらせてあげなければ……。

「咲夜……」

「……はい」

「今宵、この時を持って、貴女を、メイド長の任務から解く」

「……はい」

「いままでありがとう、咲夜……」

「やっぱり、わかってたんですね……」

「もちろんよ」

いままでずっと、一緒に生きてきたもの。
私は、貴女のこと、大切に想ってるもの……。
従者のこともわからず、何が主人だ。

「レミリア様」

「何かしら?」

「最後の私の願い、聞いて頂けますか?」

「もちろんよ」

最愛の従者、十六夜咲夜。
その最期……。

「私の時計、形見として、ずっと、持っていて頂けますか?」

「えぇ、わかったわ」

「ありがとうございます、レミリアお嬢様……」

消えていく……。
私の従者、十六夜咲夜が。
時を操れる能力の副作用だろうか……。
まるで、霧のように存在が薄くなる。

「いままで、本当に、ありがとうございました」

涙が零れる。
一度出始めたら止まらない……。
次から次へと溢れ出してくる……。

「わ、私こそ……」

声が震える。
悲しさで胸が苦しくなる。
それでも……。
私は……。

「本当に、ありがとう、咲夜」

咲夜に逢えて……。
嬉しかった……。

「……」

咲夜がいなくなる……。
私の手元に、咲夜の時計だけが遺される。

「貴女が嫌じゃなかったら……」

私は、彼女に嫌われなかっただろうか……。
彼女は、私を、好きでいてくれただろうか……。

「また、出逢いましょう……」

奇跡すら凌駕する運命があると信じて……。

「咲夜……」

私は、最愛の従者の名を呟いた……。





赤より紅い紅魔館。
夜空に浮かぶ、美しき十六夜月が、湖の畔の紅き館を、妖しく照らし出している。

この周辺は、妖精や妖怪が現れる。
普通の人間は、こんな所に、足を踏み入れることはない。
そんな危険な所に、人影が1つ……。
月に照らされ、その銀の髪は、美しく輝いている。

「ここは何処だろう……」

まるで、何かに引き寄せられるかのように、彼女は歩み続ける。
その先には、永遠に幼き吸血鬼の待つ、紅魔館。
失われたものを取り戻すかのように、彼女は進んでいく。

そして、少女は、館に足を踏み入れる。
目的地があるわけもなく、ただ歩み続けるだけ。
それでも少女は、導かれるように、館の主のもとへと向かう。

大きな扉の前。
少女の口元には笑みが浮かぶ。
その笑みに、少女自身は気付いていない。

少女は、ナイフを手に、部屋に入る。
ずっと変わらぬ、2人の出会い。

2人の想いは、奇跡を描く。
時と運命の協奏曲。

いつまでも、何度でも……。

この曲を、奏で続ける……。

D.C.
朔盈です。
久しぶりの投稿です。
なんとか、大学に入れたんで、作ってみました。
でも、半年くらい書かなかったせいで、ただですら稚拙な文章が、さらに悪化したような気が……。
楽しんで頂けました?
ほとんどが、既出ネタでしょうけど……。

ボクとしては、咲夜さんと、レミリアお嬢様は、ずっと一緒にいてほしい2人ですね。
お互いのことを、信頼している。
大切で、大切で、たまらないくらい。
そんな感じの2人が好きです。

ではでは、こんなところまで、読んでいただき、ありがとうございました。
楽しんで頂けたのなら、幸いです。
朔盈
http://fluck2011.web.fc2.com/index.html
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コメント



0.870簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
永遠に巡り会い続けるこの関係は良いね
9.100名前が無い程度の能力削除
○代目十六夜咲夜とか胸熱
11.90koo削除
懐中時計でつなぐ、咲夜とレミリアの運命。
思わず唸ってしまいました。素晴らしい。
雰囲気の作り方も好感がもてました。

……(3点リーダ)の頻度が少し多く感じます。
想いの強さを表すのに確かに効果的で多用したくなりますが、多いとくどくなりがちです。
ここぞ、というところで使うと、もっと作品が締まるのではないでしょうか?
13.100名前が無い程度の能力削除
感動した!
14.無評価朔盈削除
いまさら感の拭えないコメレス。

>>奇声を発する程度の能力 さん
良いと思ってもらえてよかったです。

>>9 さん
何回目の出逢いなのか、書いた本人ですら分かりません。
あぁ、胸熱。

>>koo さん
すばらしかったですか。ありがとうございます。
3点リーダですか。自分でも多いとは思ってるんですが、つい使ってしまうんですよ。
なるべく減らしていけるよう、努力します。

>>13 さん
感動してくれて、ありがとう。