Coolier - 新生・東方創想話

棒立ちカンフー、魔犬と踊る

2011/05/02 01:28:16
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「ダイコン」
「…………」

 突然に。
 そんなことを言われて返す言葉も思いつかず、紅美鈴はとりあえず隣の発言者を振り向いた。

「ダイコンをね。買いに行こうと思うの」

 腰に手を当て、胸を張って立つその少女は決して体格がよい訳ではない。珍しく底の厚いブーツなど履いているようだったが、それでもなお美鈴の方が上背がある。
 だが陽も凍り付くような銀糸の髪と、その鈍い輝きに縁取られた横顔は、呼吸を詰まらせるほどに冷たく、鋭い。

 威風堂々。玉姿凛々。
 十六夜咲夜――妖怪である美鈴をして一目を置く人間にして、悪魔の館こと紅魔館の執務一切を取り仕切る完全で瀟洒なメイド長である。
 そのメイド長が朝霧も消えぬ内から自分の仕事場……則ちここ、紅魔館の門前に仁王立ちになっている理由はいまいち分からなかったが。

 なぜかこちらでなく真っ直ぐ前を向いたまま、咲夜は話を続けてきた。

「知ってる? ダイコン」
「そらまあ。ダイコンですし」
「そのまさかよ」

 どのまさかだと。

 きっぱり言い切るメイド長を半眼で見やるが、彼女は頑として視線を動かさない。
 こちらの指摘には一切構わず、あくまで淡々と言葉を続ける。

「お鍋。お嬢様がね、食べたいって」
「あ、いいですね。そろそろ時季外れですけど」
「ダイコンが無かったの。おでんにしたいのに」
「それで買い物に」
「新鮮な物は朝市でないと」
「ご苦労様です。ところで、さっきからどこ向いてるんですか」

 ぺこりと頭を下げながら訊ねるが、やはり咲夜は正面を睨み続けている。
 何となく説得は困難なように思え、美鈴は軽く溜め息をつき、自分も正面に向き直った。

 門前に並び立ち、互いに視線も合わせないまま、それでも言葉は飛び回る。

「おでんと言えば、お餅の入ってるきんちゃく。あるでしょう」
「ありますね」
「好き?」
「好きです。美味しいですよね」
「見損なったわ」
「ええ?」

 しかめ面で呻くものの、咲夜は美鈴が振り向くより早く言葉を継いだ。

「あなたはこの紅魔館の門番――紅の一字を背負い、館の守護を司る者。気品という物を日頃から心がけなくてはいけないわ」
「はあ。まあ、そりゃすみません」
「何個くらい食べる?」
「結局入れるんですか」
「美味しいわよね」
「身の置き所ちゃんと決めて下さいよあんた」

 思わずじっとり睨んでしまうが、メイド長はやはりこちらを見てはいない。涼しげな表情のまま、何があるわけでもない前方を見続けている。
 心持ち負けた気分で美鈴が嘆息したとき、咲夜はふと眉間に皺を寄せ、僅かにその細い顎を持ち上げた。
 そして、さも今思いついたという風情で、ぽつり。

「ダイコンを買いに行こうと思うの」
「はい。行ってらっしゃい」
「行ってきます。しかし忘れないことね。この世に悪の栄える限り、いずれ第二、第三のきんちゃくが」
「売り切れますよ、ダイコン」

 半眼で告げれば、メイド長はふっふっふ、と不気味に笑いつつ里の方へ歩いていく。寸分だけ垣間見えた横顔は、やはり無表情だったように思うが。
 意外なほど大股で遠ざかるその背中を見送って、しばし。
 ひょろろろろ――野鳥の鳴く声など遠くに聞きつつ、美鈴は門柱に背を預けた。
 そして顔を曇らせ、考え込む。

(……変なものでも食べたのかな)

 常日頃、優雅でそつのない振る舞いを崩さぬ十六夜咲夜。
 ごくごく稀に、その独特の感性から突飛な行動に出ることはあるものの、基本的には完全で瀟洒な御方である。言動は常に怜悧にして理知的であり、人間離れした――あるいは人間ならではの――強靱な精神は如何なる時も乱れることはなし。
 少なくとも美鈴は、先刻のようにトチ狂った言動の咲夜を見たのは初めてである。

 とはいえ、もとより掴み所のない相手。
 たまたま挨拶がてらに自分をからかっていっただけと考えるのが妥当であろう。
 なにせ紅魔館が誇る十六夜咲夜。満月の魔力ですら狂わせること能わぬメイド長が、うっかり妙な薬やキノコでも口にして、理性を失う?

 答えは明白。有り得ぬ戯れ言だ。

 ほむほむと一人納得し、美鈴は朝の日課である太極拳の構えを取った。
 取ったところで。


「私も好きよ。きんちゃく」
「疲れてるんですか?」


 門の影から半分だけ覗いている無表情なメイド長の横顔に、困り果てて呻いた。





     『棒立ちカンフー、魔犬と踊る ~Clock Baby,Crack Lazy~』





 ぺそぺそと、布靴の頼りない足音を響かせて。
 紅美鈴が走る、走る。雑務の手を止め振り返る妖精メイドの視線を集め、長い廊下をひた走る。

 辿り着いたのは紅魔館の最奥。限られた者のみ叩くことを許された扉の前で彼女は立ち止まった。
 重厚な拵えの樫材に、くろがねの鋲も厳めしいその扉が体現するは、内におわす紅魔館当主の威厳と威風。
 人呼んで、レミりん☆ルーム。
 蛍光ペン手書きのプレートにごくり、と息を呑んでから、美鈴は扉を叩いた。 

「お嬢様、お嬢様。ちょっと宜しいですかー?」
「……うん? その声は、番長か」
「門番長です。お耳に入れたいことが」

 入れ、と短い許可の言葉を待ってから、そっと扉を押し開ける。

 部屋の中は、扉の印象からは想像もつかないほど簡潔に纏められていた。
 殺風景という意味ではない。天蓋付きのベッドや柱の彫金は目も眩まんばかりの造りだが、贅を尽くした品のない装飾とは一線を画する。
 こうあれかしという確信の下に飾られた、ひどくストイックな豪勢さ。

「門を番する、故に門番であると言う」

 その部屋の一画に、少女の姿はあった。
 美鈴が両腕を回せばすっぽり包み隠せてしまえそうな身体が、ともすれば滑稽な程厳めしい椅子に収まっている。
 しかし努々、侮るなかれ。
 白磁のティーカップを片手に紡がれる言葉は、おぞましい程冷たい妖気を孕む。
 唇の端から牙を覗かせ、紅魔館当主――吸血鬼、レミリア・スカーレットは笑みを転がした。

「ならば門を番せぬお前はきっと、番長なのだ。そうだろう?」
「……あ。い、いや。ちゃんと代わりの子を頼んでから来てますって」
「信用しているよ」

 慌ててぱたぱたと手を振る美鈴に片目を瞑り、吸血鬼。
 傍らの机にカップを置き、さて、と緋色の瞳をこちらに向ける。

「今朝は予定が込んでいてね。話は手短に」
「あ、はい。さっき、咲夜さんが門に来たんですが」
「里の朝市に行くと言っていたよ。マメなことだ」

 肩をすくめるレミリアに頷き返してから。
 どう言ったものか少し考えた挙げ句、美鈴は端的に切り出してみた。

「その時に挨拶したんですけど――――なんか、咲夜さんが変なんです」
「咲夜は変なものだろう」
「……はい。いや、えーと」

 眉も動かさず言い切る主に、なんとなく反論は許されない気がした。
 視線を彷徨わせる美鈴にふむ、と息をつき、レミリアが口元に手を添える。

「番長は、こちらに来てからの咲夜しか知らなかったかな?」
「はあ。個人的にお話しすることはありませんでしたね」
 
 こちらに来てから――即ちこの紅魔館が、幻想郷と呼ばれる地に転移してから。

 完全で瀟洒なメイド長と言葉を交わす様になったのは、思えば確かに、その頃からだ。
 もっとも挨拶程度のもので、業務連絡以上の会話をした覚えはない。
 その時はイメージ通りのてきぱきとした、ある種の緊張感すら漂う受け答えをしてくれたものだったが……

 記憶を探る美鈴に、レミリアが得心いったという風情で腕を組む。

「自分を高く志す子だからね。あれで、仕事中は精一杯気を引き締めているんだよ」
「仕事モードってことですか? それじゃ、それ以外のときは」
「さっき見たんだろう?」

 ああなるらしい。
 何となく、幻想を砕かれた心地で背中を丸める。

「瀟洒で奇天烈なメイドさんだったんですねえ」
「不思議なことに、その二つは必ずしも矛盾しない。ときに番長」
「門番長です。なにか?」
「実に気の毒な運命を伝えなくてはならない。――時間切れだ」
「へ?……って、あ。長々と申し訳ありませんでした、ご予定があると仰っていたのに」
「いや、私は構わんのだがね」

 ぴしりと敬礼する美鈴に、困った顔で手を振るレミリア。
 言わんとするところを掴みかね、首を傾げて口を開こうとした、その時。
 部屋の外に微かな、物音。

 きゅっ

「として、ドカぁーン!!」

 頭が何か判断を下した頃には、時遅く。

 何者も寄せ付けぬ城砦の佇まいも呆気なく、扉が盛大に爆発した。
 一瞬で膨れ上がり、天井までも舐め焦がす爆炎の中から飛び出した影が弾丸のように空を裂き、レミリアへ疾走する。
 岩盤でも貫きそうな勢いを一切殺すことなく、影はそのまま彼女の腕の中に飛び込んだ。

「おはようっ、お姉様!」
「もう朝だよ」

 飛び込んできた影――自身と瓜二つの容貌の少女を苦もなく抱き止めて、レミリアは首をすくめる。
 それから彼女の柔らかな金髪を撫でて、微笑。

「おはよう、フラン。我が血族。紅き夜を彩る可憐な茨」
「えへへ。びっくりした?」
「びっくりしたさ。見ろ、番長も驚きのあまりこうして五体投地している」

 それは爆発に巻き込まれただけだ。

 と抗議はしたかったものの、美鈴はとりあえず倒れ伏したまま黙っていた。
 無邪気であるが故に、命の脆さを御存じでないのだ。扉を吹っ飛ばした彼女――フランドール・スカーレットは。

 言われて初めて気付いたのか、フランドールがこちらを振り向き目を瞬かせる。
 姉の膝を滑り降りそばまで駆け寄ってくると、ひょいとしゃがみ込み。

「門番。焦げてるよ」
「そうだと思いました」

 なんか香ばしいと思ったんだ、畜生。
 頷く美鈴の返事を待たず、フランドールは彼女の襟首を掴んで持ち上げ、床に座らせ直す――できればそっとしておいて欲しかったが――。
 軋む身体に涙目で耐えていると、レミリアが何と言うこともなさそうに呟いた。

「時間切れだろう?」
「時間切れですねえ。……ご予定とは、このことで?」
「運命さ。予定とは言えないよ」

 軽く喉を鳴らしてから、しかし、と呟き。
 レミリアはふわりと椅子を立ち、空を滑るように歩いてくる。それから、ばしばし美鈴の服の煤を払っている――切実にそっとしておいて欲しかったが――フランドールの頭を撫でて、ニィと口角を裂いた。
 宙に翼が広がる。
 誇り高き夜の翼は圧倒的な魔力と妖力を纏い、見る者に畏怖の念を植え付けるよう。
 見つめれば、魂までも喰い破られそうな凶々しい双眸で、吸血鬼が嗤う。

「たった今、この世の全てを見限ってでも遂行すべき予定が出来た。そこに我が妹がいるならば、愛でず捨て置く惰弱は不死王の業に非ず――――違うか、従僕」
「カリスマフルオープンでなに口走ってんですか、あんた」
「私たちも器用でなくてね」

 半眼で見つめると、レミリアは意外なほど可愛らしく舌を出す。
 心地よさそうに目を細めた妹の頭をぐりぐり撫でる主の顔は、それでも威厳と威風を蔭らせはしなかった。

「お互い、どう接すれば良いかまだまだ確信できていないのだよ」
「お姉様ー。抱っこー」
「よーしお姉ちゃん張り切っちゃうぞー」
「説得力を自分で投げ捨てないで下さいよ」

 満面の笑顔で、甘えるフランドールを抱き上げる主に溜め息をつき……こっそり、口元を緩める。

 ――この姉妹が自由に触れ合い、言葉を交わせるようになってまだ、日が浅い。

 それこそ館を幻想郷へ移してからだろう。
 感情と共に、吸血鬼の能力を制御することに不慣れなフランドールはかつて、館の地下から出ることを禁じられていた。
 否、今でも不安定な事に変わりはない。
 それでも当主レミリアは、この極東の地で彼女にある程度の自由を認めた。
 五百年近い断裂を、手探りで、おっかなびっくり縮めようとしている。

 思惑は皆目分からぬ。
 木っ端妖怪に理解できるほど、きっと吸血鬼の夜は明るくない。

「――さて番長、すまないがもう行くよ。これからフランと二人でうきうきモーニングタイムだ」
「門番長ですってのに。はい、どうもお時間を取らせまして」
「構わんさ。妖精メイドたちに、扉を直しておくよう伝えてくれ」
「あ……お姉様。私、悪いことしちゃった?」
「とんでもないいやとんでもないぞ。お前が悲しむことはないんだフラン。笑っておくれ。ソー、アイラブユー」

 自分が一番とんでもない事を口走りながら、レミリアは抱き上げたフランドールごとぐるぐる回り出す。
 きゃあきゃあと嬌声を上げて高速回転する姉妹をぬるめの苦笑で見守りながら、美鈴は傷を刺激せぬようゆっくり立ち上がった。
 怪我や火傷はまあ、放っておけば良くなるだろう。生物的なアバウトさは妖怪の強みの一つだ。
 散らばった扉の破片を適当に蹴り除けようとしてふと思い当たり、美鈴は顔を上げた。

「……それで結局、咲夜さんが今朝になってあんなになっちゃったのは」

 どうしてなんでしょうかね、と訪ねようと思った頃には。
 既に姉妹竜巻は勢力を強めながら、キッチンに向かって北上して行くところだった。





 紅魔の館が門前に、ちょんと佇み、紅美鈴。

 あるいは主の言うとおり、門に立たぬ自分は門番でないのかも知れない。
 風光る空を細目に見つめ、ひとつ深呼吸。

「お昼寝日和だなー」

 主の部屋の修繕は、門番代行を引き受けてくれた妖精に言付けた。
 それからちくちくと庭の花を弄り、非番メイド達の博打に付き合い――種目は賭けケンケンパ。未だに勝敗の基準が分からない――、忘れていた太極拳も済ませて、ついでに読みかけだった文庫本も読み終えた。
 ふむん、と息つき、ぐるりを見回し。心の日誌に異常ナシとだけ書き加える。

「誰も来ないなー」

 そも、悪魔の館に来賓のある由もなく。
 外の世界にいた頃は、来る日来る日と吸血鬼ハンターやエクソシスト連中を相手取っていたものだが、この地はそういう手合いに無縁の風。
 噂には「ハクレイ」なるシャーマンが妖怪退治を行っているとも聞くが、彼の者がいざや立ち会え、と訪ねてくることもない。まあ、今のところは。

 斯様、平和な幻想郷。
 門を番する門番とて、瞼の緩むはやむなき仕儀。

「――っとと。いけないいけない」

 いつの間にか忍び寄ってきた眠気を、ぷるぷる頭を振って追いはらう。
 不覚千万。門番が居眠りとは情けなや。
 棒立ち一辺倒だから眠くなるのだな、と結論し。美鈴は上衣の裾を帯に挟むと、深く呼吸を整えた。

 軽く地面を噛む脚は、ズボンの上からでは分からぬ程度に引き絞る。
 右拳は口元近く。握らぬ左は腰の横。
 片脚を引き、肩を入れ、鎮める鼓動に意識を沈め――
 動く。
 空を切るのは左拳。狙った一点でのみ握り込み、戻す頃にはまた解く。
 その感触を確認してから、美鈴は横へ跳びざま腕を振り出した。今度は左右、二度の突き。

 身体が廻り始める。

 一連の京劇を舞うように、回転と跳躍の狭間に拳を置く。
 時には貫手。時には手刀。脚はあくまで地を擦り、靴底が複雑な軌跡を刻み続けていた。
 陰陽相反する二つの気を、円舞に依って練り上げる。
 指の一本、爪の先まで熱が行き届くのを体感しながら、徐々に回転を上げてゆく。

「必殺ッ、空飛ぶギロチンエルボー!」

 風を削ぎ取るように、肘が三日月を切り。

「震天ッ、稲妻ドラゴンキャノン!」

 蓄えた加速度を全て撃ち出す心地で、架空の目標へ肩と背中をぶつけて。

 一通り身体を動かした後ぴたりと静止し、胸の前で拳を合わせる。
 澱んだ眠気はいつしか鮮鋭な醒気へ変じていた。
 体内に巡る勁熱を感じながら、美鈴は静かに呼吸を整える。

「説明しよう。紅魔館の門番は、闇の科学者ドクトル・ムキューンに生み出された悲劇の改造超戦士である。館に魔の手が迫るとき、体内に埋め込まれたドラゴン・ダイナモをカンフーチャージすることによって、鉄壁番兵チャイナカイザーへ熱血転生するのだ」

 してたまるか。

 そろそろ聞き流せず振り向けば、反対側の門柱に人の影。
 一体いつ現れたのだろう――メイド長、十六夜咲夜。
 今朝方と寸分違わぬ仁王立ちでそこに立つ彼女の横顔に、じっとりと半眼を向ける。

「なに言ってるんですか、さっきから」
「ただいま」
「……や。まあ、はい。お帰りなさい」
「売り切れだったわ。ダイコン」
「残念ですね。で、誰が改造超戦士です」
「ぷい」
「してませんよね。改造してませんよね。そこだけハッキリさせときませんか、ねえ」

 そっぽを向くメイド長へ、美鈴は早足に詰め寄ろうとする。しかし咲夜は仁王立ちのままするする横へスライドしていき、一向に距離が縮まない。
 彼女の力――〝時間を操る程度の能力〟を利用しての事だろうが、そこまで頑なに姿勢を崩さない理由は見当がつかなかった。
 様々なことを諦めて、美鈴は溜め息をつき門の前に戻る。
 やはり指一本すら動かさないまま、咲夜も元の場所へ滑り戻ってきた。

 斯くて二人、再び門前に並び立ち。
 互いに相手でなく、前方を見据えたままの言葉が転がる。

「さっきの。カンフー?」
「や、そう大層なもんでは。眠気覚ましの運動ですよ」
「流石に迫力ね。ぬーん、まりッ! って」
「えぇー……」

 実際に適当なパンチを振りながら言う咲夜に、心底嫌そうな顔を向ける。
 自分の拳にはそんな擬音が似合いなのだろうか。
 嘆息し、美鈴は背中を丸める。

「功夫が足りないのかな。もっと鍛えないと」
「立派よ。干涸らびた牛糞に湧き出た蛆でも、無様に浅ましくのたうち回っていれば空を飛ぶことだって出来る。精進有るのみというわけね」
「そうですね。喩えは思いつく限り最悪のチョイスでしたけど」
「でも、飛べたところで蠅だものね。にゃんにゃん仔猫に弄ばれて、飛んで火に入る運命だものね。滑稽だわ、蠅」
「いやまあ、生態自体は別に彼らの落ち度じゃないですからね、蠅」
「そういえば里に露店が出ていたのよ」
「会話をしませんか。お願いですから」

 色々と挫けそうになりながら肩を落とした時――不意に、油の香りが鼻をくすぐった。
 思わず鼻を鳴らし、美鈴はくるり、首を巡らせる。
 匂いの元は隣のメイド長。
 明らかに空手だったはずだのに、いつの間にか片手に小さな紙袋を抱えていた。
 芳醇な肉の香りを漂わせるその袋に指を忍ばせて、咲夜が厳かに、呟く。

「唐揚げよ」
「唐揚げですね」
「断定するのは早計だわ」
「半秒前のセリフにくらい責任持っていきましょうよ」
「店主が気前のいい人でね。ちょっとオマケしてくれたの」
「咲夜さん、そういうこと多そうですよね。美人は得っていうか」
「財布を出すとき、誤って予備のナイフを全てばらまいてしまった私を憐れんでくれたのかも知れないけれど」
「それはもう、単にやくざの手口ですね」
「あるまじき失態だわ。さっきゅん不覚」
「どこまで冗談か分からないからツッコミ難いんだよなあ、この人」

 あくまで口調を崩さないメイド長の横顔に、心底困って溜め息一つ。
 精緻な氷細工を連想させる無機質の美貌を崩さぬまま、咲夜は黙々と唐揚げを口へ放り込んでいた。
 ふと空腹感を意識して腹を押さえると、相変わらず前だけ見ているはずの咲夜がするりと訊ねてくる。

「お昼、食べてないの?」
「あ、はい。実は」

 いつもなら詰め所から誰かが昼食を届けてくれるのだが、何故か本日は音沙汰無し。
 一食、二食抜いた程度で参ってしまうほどヤワなつもりはないが、空腹は精神衛生に宜しくない。
 腹の虫もおろろんおろろん鳴いていた。本当に腹の虫かお前。

「みんな、お嬢様の部屋の修理に駆り出されてるのかも知れないですね」
「修理?」
「いえまあ、なんて言うか。妹様が」
「ああ。元気になられてなによりね」
「本当に」

 僅か――本当に僅かに弾んだ吐息には気付かなかったふりをして、美鈴は頷いた。
 頷いたと同時、吠える腹の虫。
 心底情けない気持ちで眉を下げる美鈴に、メイド長はほんの一瞬だけ間を置いて、

「かなり空腹そうね」
「正直、気持ちが辛いです」
「力になれない我が身が歯がゆいわ」
「本当に力になれないか、もうちょっと考えてみてくれませんか。できれば右手を見つめながら」

 指摘されて初めて気付いたという風情で、意外そうに唐揚げの袋を見下ろす咲夜。何かを確かめるように中身を一つ摘み出し、口に放り込む。
 そんな所作すら優雅に見せる完璧な仕草で肉を嚥下し、彼女は合点がいったとばかりに頷いた。

「私、レモンはかけない派なの」
「訊いてません」
「酸っぱいものね」
「訊いていませんから」

 辛抱強く半眼を向け続けると、咲夜は不意に唐揚げを摘む手を止めた。
 顔の筋肉はぴくりとも動かさないまま、首だけをかくんと傾げて見せ、

「食べたい?」
「食べたいです。ようやく意思が疎通できました」
「代償も無しに糧を得ようという考えは頂けないわね。どうしても食べたければ、今すぐこの場で三回回ってワンと言ってあげるわ」

 言われても。

 言い間違えかと思い隣を見ると、瀟洒なメイド長は早くも華麗なるトリプルアクセルを決めていた。ブーツなのに。
 鋭く足を踏み、時計の針より精確に同角度で身体を止める彼女の瞳は、猟犬の如し。
 捕食獣のしなやかさを秘めたその右腕がスゥ、と緩やかに弧を描き――

「はい」
「言わないんだ」
「なにが?」
「いや、いいんですけどね」

 頭を下げつつ、放り投げられた紙袋を受け取る。
 まだ熱い唐揚げを二つつまみ出し、美鈴は我知らず頬を緩ませた。

「なんか意外です。咲夜さん、買い食いとかするんだ」
「意外かしら。子供の頃は、放課後血みどろイーターと呼ばれてぶいぶい言わせていたものよ」
「その仇名は多分買い食い関係ないですけどね。これ、食べ切っちゃっていいですか?」
「いいわよ。唐揚げ嫌いだし」
「……私もそうそう全部はツッコミ切れませんからね」

 飄々と言う咲夜を横目に見ながら、もそもそ唐揚げを頬張る。
 仁王立ちするメイド服は遠くを見つめたまま、どこか満足げな様子で呟いた。

「クリアー」
「は?」
「気にしないで。ちょっとウラベニウスバモンシロカミキリヤンマの株分け時季について思いを馳せていただけだから」
「植物ですか。その露骨に昆虫ライクな名前」
「じゃあ、私はもう一度出かけてくるから」
「疑問だけ残して行かれても」

 途方に暮れて呻く美鈴には目もくれず、咲夜はつま先で地面を叩く。

「お嬢様の命令だもの。朝市に敗れたとはいえ、ダイコンを諦める訳にはいかないわ」
「あ、それですけどね」

 不要に頑なな面持ちのメイド長へ、美鈴はぱたぱたと手を振った。

「新鮮な物が欲しかったらお店より、直に農家を回ってみた方が良いかもです。安く譲って貰えるんじゃないですかね」
「農家を?」
「はい。お願いすれば、多分その場で畑から引っこ抜いてくれますよ」
「新鮮革命というわけね」
「革命はきっと起こりませんがね」
「一パーセントの可能性を一〇〇パーセントに変えるのが従者の務めよ」
「その腹の括り方こそ一〇〇パーセント勘違いと思います」

 呻く門番の指摘はあっさり聞き流し。
 時間を止めたのか知らないが、メイド長はいつの間にか手に持っていた鍬で威風堂々、空を指していた。予告土一揆。
 冷や汗浮かべ見守る美鈴を余所に、彼女はひとり、何処吹く風。

「いいアイデアだと思うわ。よく気が付いたわね」
「まあ生活の知恵というか。昔は結構、貧乏もしたもんですよ。まだまだ並以下の下級妖怪でしたしね」
「クリアー」
「はい?」
「気にしないで。とにかく、目から鱗が落ちたわ」
「ですか。お役に立ったなら、食い詰めてた甲斐もあるってもんです」
「二階から目薬とはこのことね」
「目の字が入ってりゃ同じ意味ってわけでも」
「ジョークよ。こう言うとき私の故郷ではこういうの。目から鱗が落ちた、ってね」
「えーと……はい。もういいです」

 鬼の首を取ったように胸を張るメイド長に頷き返すのはそれなりに困難な作業だったが、とりあえずやってのけ。
 頭を振って意識を切り替えた所で、美鈴はふと思い出して訊いてみた。

「――ところで咲夜さん、いいんですか?」
「いいですとも」
「頷かれても話が続かないんですけど……や、もうお昼過ぎでしょう? 館内の仕事は大丈夫なのかなって」

 言って、背後を振り返る。
 鉄門越しに、しばし館の紅い壁を見上げてから、美鈴は咲夜へ視線を戻した。

「なんなら、私が代わりに探してきますよ。ダイコン」
「それがあの子の遺した最後の言葉でした」
「死にません。誰に話してるんですか」
「大丈夫よ、時間には余裕があるから。行ってきます」
「そですか。行ってらっしゃい」

 そろそろ会話の呼吸に慣れてきたため、話を流すことに苦労はなく。
 空になった紙袋を適当に仕舞い込む美鈴に、咲夜もやはり疑問のない様子で付け加えた。

「でも、ありがとう。あなたの言葉は忘れない」
「いやなんの。そう改まられるよーなことは、」
「まさか死なないとはね」
「そこだけピックアップされたら軽くバケモンじゃないですか、私」

 呻き、隣を振り返った時には、既にメイド長の姿はなく。
 そこに人の存在した痕跡すらない空間に目を白黒とさせてから――――ふと、気付く。

「……持ってっちゃったんだ、鍬」

 囀る風に、遠く悲鳴のような幻聴も聞こえた気もするが。
 途方に暮れるより他出来ることもなく、美鈴は業務用棒立ち姿勢に戻る事にした。





 地下の書庫には何が棲む。
 天網太極遍く通ず、智慧と知識の魔女が棲む。
 七曜の理法を究めてなおその智慧は研ぎ澄まされ、永劫鈍ること無く――

 ――と言った知恵者の風格を、全く感じず接し得る希有な人材がこの紅魔館には棲み着いている。

「パチュリー様ー」

 オークの戸板を押し開けて、美鈴がそっと押し出した声は、内に広がる空間にあっさりと呑み込まれていった。

 地下大図書館に満ちる薄闇は、質量すら伴っているように錯覚する。
 魔法で次元軸を調整した準無限空間は見渡す限り書架、書架、書架――本より他に何も見あたらない。

「パチュリー様、いらっしゃいますかー?」
「……おや?」

 と。
 不意に横手の書棚から、がらごろと人影が現れた。
 本を山積みにしたワゴンを、小さな身体で押しているその少女は、果たして尋ね人ではなかったものの。
 こちらに気付いてぴょこんと振り向き、少女は屈託無く微笑んだ。

「これはこれは。魔女の大図書館へようこそ」
「こんにちは、司書さん」

 気取った仕草でお辞儀などしてみせる少女に、美鈴もへらりと相好を崩す。
 頭と背中に生えた二対の黒い翼を揺らす少女は、嬉しそうに胸を張ってこちらを見上げた。

「本日はどのようなご用件でしょう。なんなりと、私がお力になります故に」
「おっと。今日はなんか頼もしいですね」
「ようやく仕事を任せて貰えたんですよぅ」

 眉を持ち上げる美鈴に答え、少女は喜色満面に声を弾ませる。
 その頭にぽむぽむと手を置き、美鈴はつられて笑みを浮かべた。

「パチュリー様に用事がありまして。どこにいるか御存じですか?」
「あい、ご案内しますです。この小悪魔にお任せあれー」

 さも得意げにぴしり、と敬礼して。
 浮かれた調子でぱたぱた羽ばたき、少女は書架の谷間を飛んでゆく。美鈴が見失わないようにか、傍らには魔法の灯りも浮かべていた。
 そこまで気が利くのなら、仕事を覚えきるまでもう少しだろうなあ――そんなことを考え苦笑しながら、美鈴はその場に放っておかれたワゴンを押して少女を追う。

 迷宮じみた書架の合間を右へ、左へ。
 羽と尻尾をふりふり飛び回る少女はやがて、開けた空間に飛び出した。

「パチュリー様、いらっしゃいますかー?」
「聞こえているわよ」

 応えたのは、ひどく陰気な返事。
 続いて積み上がった本の向こうから、ぼんやりとした灯りが近付いてくる。一緒に、ぺたぺたという軽い足音も。

「私の図書館では大声を出さない。仕事の基本よ、小悪魔」

 ややあって、現れたのは一人の魔女であった。
 如何にも魔女らしい、鋭い双眸をしている――が、全身をくるむローブと長い髪の印象で、眠くてぐずっている子供に見えてしまう。
 小脇に巨大な本を引き摺ったその魔女こそは、パチュリー・ノーレッジ。
 当主レミリアの友人にして、紅魔館に逗留する知識人である。

 小さな体躯から惜しげもなく不機嫌な気配を発するパチュリーに、小悪魔と呼ばれた少女は臆せず胸を張る――豪胆な訳ではなく、感動的に察しが悪いだけでないかと思われたが。
 とまれ、彼女は手近なところにワゴンを置く美鈴を腕で示し、

「お客様をお連れしました。おっぱいさんがお見えです」
「おっぱいさんて」

 思わず呻きつつ自分の胸を見下ろす美鈴へ、パチュリーが眠たそうに視線を向けてくる。

「なにか用事?」
「あ、はい。お借りしていた本を読み終わったので、返却に」
「そう。小悪魔、手続きを」
「はーい」

 美鈴が懐から取り出した文庫本を、小悪魔は満面の笑顔で受け取る。
 そのままぱたぱた図書館の奥へ飛んでゆく彼女を見送ってから、美鈴は仏頂面のパチュリーに笑いかけた。

「仕事。任せられるようになったんですね」
「使い魔は仕事をさせるために召喚するものよ」

 素っ気なく言い放ち、魔女は小脇に携えていた本を床に置いた。一抱えほどもあるその本は装丁も厳めしく、石畳の床に自立する。
 その上へ身軽に腰掛ると、パチュリーは視線を小悪魔の飛んでいった方へ向けた。

「それでも、任せきるにはほど遠い。今は実務訓練といったところね」
「またまた。信用してるんでしょう? 私には絶対本棚を触らせないくせに」
「あなた、魔術文字どころかラテン語もろくすっぽ読めないでしょう」

 じろりと三白眼を向けられて、美鈴はけっへっへ、と額を打つ。
 おどけた仕草に溜め息をついてから、パチュリーはふと、思い出したように話題を変えた。

「貸した本、どうだったかしら。なるべく平易なものを選んだつもりだけど」
「あ、面白かったです。武侠小説って言うんですか? 私でも読みやすくて助かりました」
「そう。気に入ったなら、またなにか持っていくといい」
「是非とも」

 笑い返すと、紫の魔女は肩をすくめてむきゅーと鼻を鳴らす。ただし、鼻はそんな音では鳴らないものだが。
 とかく寡黙で無愛想な魔女ではあるが、同好の士、即ち読書好きの相手にはそれなりに付き合いがいい。

 魔女は眠そうな目をさらに細めると、腰掛けた本の表紙をなぞる自分の指へ視線を下ろす。

「――ここには魔女を弾圧する宗教も、吸血鬼を狙う狩人もない。あなたのカンフーが振るわれる機会は、殆どないのかもしれない」
「そうですねえ。おかげで、読書する時間は多くとれますよ」
「そのまま励みなさい、カンフー。緩まず、弛まず、智慧と知識の内在宇宙を広げてゆけばいずれここの――そうね。目録くらいは読めるかも」
「……本棚に触れるまで何百年かかるんですかね」

 情けなく背中を丸める美鈴にパチュリーが口の端を歪めた。虫歯でも疼いたようなその表情が、笑みだと知ったのは実は最近の事だ。

「レミィはなんだか忙しそうだし、妹様も妖精メイドも本は読まない。せめて私の雑談相手が務まる程度には読書に励んで頂戴」
「う、うーん……気長に待ってやってください」
「気長に期待しておくわ。――咲夜は、相手をするのが疲れるし」
「あ。パチュリー様も御存じなんですね」

 嘆息し、ころんと巨大書物の上に寝そべる魔女の姿は、あたかも干された万年床。
 脱力しきった紫布団に、美鈴も同じ気持ちで息をつく。

「私は今朝知ったんですけど。結構ぶっとんだ人だったんですねえ」
「ああ。カンフーは、あまりあの子と話さないのだったわね」
「咲夜さん、いつも忙しそうですから」
「これからは話す機会も増えるでしょう。存分に振り回されなさい」

 特に含みのある風でもないパチュリーの物言いに、ぱちくりと目を瞬かせる。
 怪訝そうに首を傾げる布団魔女へ、美鈴は困惑顔で訊ねた。

「あの。機会が増える、って――?」
「パチュリー様ー」

 その時、彼方より暢気な声。
 見れば薄闇の向こうから、翼をはためかせて小悪魔が戻ってくるところだった。
 寝そべるパチュリーの眼前に降り立つと、彼女は悪魔らしからぬきらきらした瞳で敬礼する。

「手続きと返却を完了しましたー」
「ご苦労。……なんで敬礼してるのよ、軍隊でもあるまいし」
「あり余るやる気の現れととっていただければ。むふー」

 答えつつ、まだ余っているらしいやる気を鼻から噴き出す使い魔に、魔女は軽くこめかみを押さえる。
 
「――見ての通り。この小悪魔がそろそろようやく、どうにかやっとこ仕事をこなせるようになったでしょう。今までは、ここも咲夜に手伝って貰っていたのだけれど」
「……あれ? 咲夜さんはマジュツ文字とか、読めるんですか?」
「あの子は、正確に言われた棚しか触らないからいいのよ。大味なあなたと違って」

 半眼で睨むパチュリーから、無言で顔を背ける。
 その先にいた小悪魔が、こちらを見て頭の羽をぴこぴこ動かした。

「今朝からメイド長に代わりまして、大図書館における書架の整理と保存魔法の調整その他の雑務は、この小悪魔に一任されたのです。まさに出世魚」
「違う。……頭の方はまだ不安だけど」

 芥子粒ほども疑問のない様子で小鼻を膨らませる悪魔少女を見やり、パチュリーは億劫そうに嘆息する。

「ともあれ、ここの手伝いに割いて貰っていたあの子の時間が浮くことになる」
「機会が増えるってのは、そういうわけですか」

 腕を組み、先ほど聞いた咲夜の言葉を思い返す。
『時間には余裕があるの』――
 成る程。今朝になっての急な変化は、仕事モード以外でいられる余裕ができたから、というからくりであったか。
 ようやく合点がいき、美鈴は納得の表情で頷いて……ふと気付き、鼻の頭を掻いて苦笑い。

「あー、でも今朝はたまたまかも知れないです。外に出る用事があったみたいですし」
「外に?」
「ダイコンを買いに。今夜はおでんですよ」
「鍋とは時季外れね。またレミィの提案でしょうけど」
「さすが御親友」

 片目を瞑る美鈴に、魔女は軽く肩をすくめるだけで応えた。
 そしてぽつり、呟く。

「その考えはきっと心得違いよ、カンフー」
「……はい?」
「つまり今夜はおでんキャンセル。略しておでン」
「今すぐ滅ぶか魔界に還るか、でなければあっち行って踊ってなさい」

 合点承知ィ、と敬礼するや、元気よく遠くへ駆けてゆく小悪魔。
 そのまますぱたんすぱたん、とタップを刻み始める彼女に向けていた半眼をその主人へ向ければ、魔女は似たような目付きでこちらを見返していた。
 ――黙らせるより、何かさせていた方が大人しいでしょう。
 明らかに子供を躾ける親の表情で、魔女は頭を振る。

「話を続けるわよ。……今朝はたまたま。そう言ったわね」
「はあ。少しくらい時間が浮いたって、もともと忙しい人ですし」
「その通り。ここを手伝いが早くに済んだときも、彼女は私には話しかけない」
「だってパチュリー様、読書の邪魔するとすごい怒るじゃないですか。百科事典投げるのは勘弁してくださいって何度も言ってるのに」
「ではなぜ忙しいあの子が、あなたには話しかけに行ったのか」

 指摘が聞こえないはずもなかったが、魔女は素知らぬふりで続けた。

「理由はカンフー、あなたと同じよ。あなたは時間を持て余したから、これまで読まなかった本を読むことにし……咲夜は、余裕の出来た時間をこれまで話さなかった相手と話すことに使おうと考えた」
「はあ……そりゃ、なんでまた」

 困惑する美鈴に、パチュリーは僅かに表情を変えて見せた。
 虫歯が疼いたような、その表情。

「あの子は、魔犬よ」
「確かに犬属性っぽいですよね。カルシウム好きそう」
「なにを言ってるのか分からない。……元来、犬は群れを成す生き物。自分という存在が完全でないと識っているから集団に属し、自分を補う。人間のようにね」

 灯が揺れた。
 魔術灯を本の背に置き、パチュリーが床に飛び降りる――というか、滑り落ちる。
 ささやかな呪文と共に手の中に魔術の光を生み出してから、でも、と魔女は呟いた。

「あの子は違う。あの子は、あの子だけで完結していた。自分を補う必要もないほど強く、完全な存在だった」
「……」
「他の犬は、あまりに完全な彼女を畏れ遠ざけた。彼女もまた群れを厭い孤立していた。己が牙と爪のみで、生きて行くには事足りるのだから。故にあの子は――魔犬なの」

 滔々と語る魔女の掌上に、踊るは銀の魔術光。冷たく、鋭く、辺りの闇を寄せ付けぬ。
 時、という物質があったとして、凍てついたそれから雫が滴り落ちればこんな風にも輝くのだろう。

 美鈴は咲夜の事をよく知らない。

 遥か昔に当主レミリア・スカーレットの裁量によって引き立てられたという話を聞いた程度で、気付いた時、既に彼女はメイドとして働いていた。
 人間でありながら悪魔に仕える、その酔狂が気にならなかったわけではないが、どのみち門番隊の自分と関わる事はあるまいと考えていたのを覚えている。これまた当主の発案で幻想郷へ転移して来なければ、ずっと関わりのないままであったろう。

 別段、嫌っているわけではない。
 特別、親交のあるわけでもない。
 十六夜咲夜に対する自分のスタンスは概ねそんな物であり、恐らくは、逆もまた然り。

 今ひとつ自信のない頭を回転させる美鈴の鼻先に、銀光がゆっくり浮遊してくる。
 思わず魔女を見下ろせば、彼女の手の中にもう一つ、別の光が生まれていた。

「ただ生きてゆくだけで良かったなら、永劫、命尽きるまでそのままだったでしょうね。……でもあの子は、獰猛なだけの獣で在る訳にはいかなくなった」
「――お嬢様」

 自分が裁判にでもかけられているような心地で、言葉を押し出す。
 その答えは、果たして相手のお気に召したらしい。今度ははっきりそれと分かる笑みを浮かべると、魔女は新たな魔術光――紅色の光球を宙に浮かべた。

「そう、魔犬は自分の仕える主を見つけた。或いは主の方があの子を見出したか」
「……パチュリー様は、咲夜さんが紅魔館へ来た訳を御存じで?」
「いいえ、レミィもそれは話してくれない。詮索するつもりもないけれど」

 図書館の薄闇に一際輝く紅色の光球に、先に呼び出された光が引き寄せられる。
 闇に君臨する紅を守護するように、鋼鉄よりも冷たい銀を閃かせながら。

 その周囲へ、更に無数の色のない光の粒を浮かべつつ、パチュリーは肩をすくめた。

「主のためなら、あの子は取り得る最善を確実に尽くすでしょう。同盟関係にある妖魔もないこの極東の地で館を護るためには……館の者だけで強力に結束するしかない」
「ははぁ。つまりナンですね、我々門番隊の士気を上げるために咲夜さん自らコミュニケーションに来たと」
「どうしてそう思考が大雑把なの、カンフーは」

 今度こそ心得たとばかりに指を立てるも、パチュリーの視線はあくまで冷たく。
 情けなく眉尻を下げる美鈴へ、魔女は呆れ果てた風に鼻を鳴らした。

「魔犬は居場所に行き会ったのよ。己が存在だけでは埋めきらないものを手に入れた。そして難儀なことに……元来、器用でないのでしょうね。群れることなく走ってきたあの子は、見つけた居場所を居場所と認めきる事が出来ない…………接し方が、分かっていない」

 それは――
 今朝、主人からも聞いた言葉でもあった。
 接し方が分からない。だから手探りに、おっかなびっくり、相手との距離を探っている。
 無論、魔女がそれを口にしたのは偶然であったろうが。

「あの子は、なんて呼ぶ?」
「…………は。あ、え?」
「咲夜。あの子は、あなたをなんて呼んでいるのかしら」

 質問は、あまりに唐突に過ぎるように思えた。
 目を白黒とさせる美鈴に、しかし魔女は構わず言葉を続ける。

「謎かけじゃないわよ。私がカンフーと呼ぶように。レミィが番長と呼ぶように。妖精メイドが隊長と呼ぶように」
「そして私がおっぱいさんと呼ぶように」
「百円あげるから黙ってなさい」

 いつの間にか背後に忍び寄っていた小悪魔に、パチュリーは驚くでもない三白眼で硬貨を握らせる。
 満面の笑みを浮かべる彼女を適当に押しやると、魔女は細い指で空を撫でた。
 銀色の光が浮き上がり、孤独に宙へ迷い出る。

「推測だけど――多分、『あなた』としか呼ばれたことはないんじゃないかしら?」
「……そういやそうですね」

 子犬じみて彷徨う銀の魔術光を見上げながら記憶を探り、美鈴は眉根を寄せた。
 表情だけで疑問を表明する彼女を見返す、魔女の顔は薄闇に隠れて窺えない。

「名前とは、ひどく魔術的な要因を含むのよ。文字一つ、呼び方一つで相手の存在を定義し、変質させることすら有り得る。一種の呪文と考えていいかもね」
「じゃ、私もカンフーだのおっぱいだの呼ばれちゃまずいのでは」
「今更在り方に迷うほどナイーヴではないでしょう」
「さいですか」

 あまり褒められている気分もせず、曖昧に頷き返しておく。
 パチュリーは気に留めた様子もなく、長い髪の中へ埋もれるように首を縮めた。

「専門の呪術師でもなければ言霊で相手を縛るような真似は出来ないわよ。……影響が大きいのはむしろ、呼ぶ方」
「あ、それなら分かります。前にいっぺん門番隊のジャニーとキャリーって二人を取り違えて呼んじゃったんですけど、今でもどっちがどっちか微妙千万」
「それは出すべき例えを完璧に履き違えてるわね。つまり相手を呼ぶということは、自分にとって相手がどういう存在であるかを確定する儀式なのよ」

 勢い込んで述べた意見をにべもなく一蹴し、パチュリーは落ち込む美鈴へ指先を向けた。
 漂っていた銀光が、彼女の周囲をふわふわ回り始める。

「あの子はまだ、あなたをどう呼ぶか決めていない――いえ、決められない。魔犬の本性が故に、孤立を踏破することにひどく臆病だから」
「……かいつまんで、結局どういうことなんでしょ」
「自分で考えなさい。思索も、読書の醍醐味の一つなのだから」
「そうですよ、おっぱいさん」

 話は終わったと判断したらしく、小悪魔がもっともらしく頷いてみせた。
 硬貨を握った拳を宝物のように胸に抱き、頭の羽を忙しなくはためかせる。

「読書はいいものです。なんとなればこの小悪魔、週イチくらいで読書会を催す所存」
「お、やっぱり司書さんも本を読むんですね」
「当然ですとも。司書として。司書として!」
「なんで二回言うの」
「まあまあ。ちなみにどんな本がお好みですか?」
「説明書とか」

 むふー。

 この上なく自慢げに胸を張る小悪魔に、とりあえず何と言っていいか分からずパチュリーを見やる。
 主の魔女は宙に浮かべた魔術光をくるくる回し聞こえないふりをしていた。ずっけえ。

 美鈴は途方に暮れて頭など掻いていたが、小悪魔は別段気にした様子もなく喋り続けている。

「昨日、メイド長も本を借りていかれましたし。読書で紅魔館を征服する日は目前です」
「大胆なんだか小心なんだか分からないその野望は後でとっくり問い詰めるとして……咲夜が? 聞いてないわね」
「あい。引き継ぎが終わってから、図書館での最後の仕事だ、ってご自分で手続きを」
「ふうん? まあいいけれど」

 かくんと首を傾げ、パチュリーは小さく指を鳴らす。それが何かの合図だったのか、踊っていた光の球は一斉に弾けて消え去った。
 再び魔術灯の明かりだけになった薄闇に目を凝らし、美鈴は小悪魔に訊ねる。

「咲夜さん、なに借りていったんですか?」
「ビジネス書というか、ハウツー本的な」
「……休む気ないなぁ、あの人」
「真面目な子だからね。良くも悪くもおかしくも」

 だからあなたの呼び方ひとつ決められずにいるのよ、カンフー。

 肩をすくめて言い放ち、パチュリーは置いておいた魔術灯を取り上げる。言わんとするところは相変わらず掴めない。
 それ以上は何を言うこともなく踵を返そうとするパチュリーに、ふと思い立ち。
 出来の悪い生徒になった心地で、美鈴は小さく挙手して問いかけた。
 何となく気になっただけの事ではあるが、

「パチュリー様」
「……なに? 喋りすぎたせいで、眠たいのだけど」
「いえその。――パチュリー様も、司書さんの呼び方を決められずにいるんでしょうか」

 それなりに覚悟を決めて口にした、その言葉に。
 魔女は眠たげに尖らせていた目をぱちくり、と瞬かせた。
 パチュリー・ノーレッジが、図書館の司書を名前で呼んだことはない――「こあくま」という名前なのだとは、妖精メイドの益体もない噂であるけれど。
 何故、魔女が使い魔を名前で呼ばないか。
 それが分かればきっと、咲夜が自分の呼び方を決められない理由とやらに見当がつくのではなかろうか?

 期待を込めて見つめる美鈴に、魔女は。
 隣の司書と怪訝顔を見合わせてから、盛大に溜め息をついた。

「……本当に、大雑把な子ね。私もそこまでナイーヴじゃない」
「ぅえ?」
「この小悪魔を、ナナシのゴンディと思ってかッ!」

 きょとんとする美鈴に、威勢良く言いながら見得を切る小悪魔。あいやー、ジャパニーズ・カブーキ。
 単に囓った言葉を使ってみたかったのか、その後が続かず視線を彷徨わせる司書の頭を小突いて、パチュリーは小さく鼻を鳴らした。

「使い魔の名前も決められず、魔女が名乗れるものですか」
「あい、かっちょえー名前をいただいてます。スタイリッシュでドラスティックでギガンティックなやつをば」
「意味を知らない言葉を適当に並べる癖はどうにかならないものかしらね、あなた……」
「なんて名前なんです?」
「さてね、教えてあげないわ。それは誰にも教えないの」

 肩をすくめ、彼女は再び現れた時と同じ本の山へ埋もれていこうとする。
 隣をぱたぱたついてくる司書の頭に手を置いて、パチュリーは――美鈴は初めて聞く――含み笑いを溢した。
 困惑する美鈴に遺していった言葉は常通り、簡潔で、明瞭であるが故に難解であった。
 それこそ、

「私が知っていれば、それでいいことでしょう?」

 良くも悪くも、おかしくも。





 図書館から戻った美鈴を出迎えたのは、もはやそこが住処という風格で門前に立つメイド長。
 加えて、その足下に転がる死体であった。わぁお。

「……なんかもう、試練ですか。なんかの試練ですかこれ」
「ただいま」
「あーもーこの野郎ー。お帰りなさい」

 地団駄を踏む気力もなく、美鈴は淡々と呟く咲夜へ言い返す。
 三つ編みに編んだ銀髪をさらりと掻き上げ、彼女は片手に提げた買い物籠を軽く持ち上げる。

「ダイコン。いい物が手に入って良かった」
「そらまあなによりでしたけど、誰なんですかそれ」

 感慨深げに空を見上げる咲夜へ適当に呻き、美鈴は彼女の足下を見下ろした。

 地面にぶっ倒れているため確かには分からないが、背は高い。美鈴も上背のある方だが、それと同じか僅かに大きい程。
 女性、であるらしい。人里では見慣れぬ拵えの着物に身を包んでいる。
 曼珠沙華を思わせる綺麗な紅髪からは、いっそ清々しいほど堂々とナイフの柄が生えていた。

「少し、考えてみたのよ」
「嫌な予感丸出しですけど、とりあえず続けてみてください」
「私はトークが上手ではないのかもしれないと」
「…………」

 迂闊に肯定して良いものか。
 ごくりと唾を呑む美鈴に、咲夜は構わず続けてきた。

「どうにも、あなたと話がはずまないなー、と思って」
「……気付いてはいたんですね」
「妖精メイドたちも、今朝は私を見るとうわぁ、って顔をするし」
「はぁ」
「そこで話し上手そうな人を見繕って間に立って貰うことにしました」
「推察と行動力には拍手したいくらいですけど、手段と発想のエキセントリックすぎる点には目を瞑れませんからね」

 ほとほと困り果てながら、女の傍にしゃがみ脈を取る。微動だにしないせいで死体と思っていたが、まだ生きてはいるようだった。
 少し迷ったものの、美鈴は突き刺さったナイフに手をかけ、ひと息にそれを引き抜いた。

「あ痛ぁッ!?」

 瞬間、意外に威勢の良い悲鳴を上げてえび反りに跳び上がる女。まあ頭にナイフが刺さって尚生きているのであれば、そもそも尋常の生物でもあるまい。
 女はしばしごろごろ転がっていたが、ひとしきり騒ぐとぱったり動きを止め、呻く。

「く、串刺しは……串刺しだけは…………ふははは。讃え畏れよ地鶏帝国の曙。傲慢にして蒙昧なる人類よ、今こそ諸君等は串打たれタレ焼きにされる恐怖を味わ」
「てい」

 あまり関わりたくなさそうな世界へ飛んで行く女の意識を、額にチョップして引き戻す。
 きゃん、と悲鳴を上げてから――女は目を瞬かせた。徐々に焦点の合い始めた視線が美鈴を捕らえると、大きな嘆息と共に背中を丸める。

「やあ見知らぬ人。悪いことは言わない、今後焼き鳥は塩にすることだ」
「そこですか結論。いや、大丈夫ですか?」

 半眼で指摘してから、美鈴は女の眼前でひらひら手を振った。
 彼女は存外軽やかに立ち上がると、着物についた土を払いながら辺りを見回す。

「あいさ、身体は丈夫に出来てる。……どこなんだい、ここは」
「紅魔館です。霧の湖の傍。人里は大分遠いですね」
「ああ。確か、最近越してきた吸血鬼の館だっけ? 噂は聞いたことがある」

 ふむふむと腕組みして頷いてから。
 女は困ったように――実際、困るしかなかったろうが――眉間に皺を寄せる。

「……なんで、あたいがそんなところに?」
「話せばとことん短い事情ですが、話す相手がしこたま面倒くさい御方でして」

 そうとしか答えようが無く、美鈴は女と同じ困り顔で咲夜の方を見た。
 つられて女がそちらを見るのと同時、メイド長が淡々と口を開く。

「ククク。お目覚めかね」
「スタートダッシュで警戒煽ってどうするんですか」
「うう、なんて露骨な悪役顔。さてはあたいを刺したのはあんただな」
「その通り。クックック……」

 剣呑な目付きで睨む女に、咲夜は変わらず表情も変えないまま含み笑いを返す――前を向いた姿勢も変わらない。
 静かに、しかし確実に硬くなり始めた空気に、美鈴は身体を強ばらせる。
 いざとなれば即座に女を取り押さえられるよう体重を移動したところで、咲夜がそれを待っていたかのように女へ向き直る。
 それから、くにゃりと首を傾げ。

「ごめんね?」
「ぶん殴ってもいいかい、アレ」
「悪気はないんですよホント、あんなんですけども」

 ぐるぐると肩を回しながら訊いてくる女へ、直角に腰を折って言ってみる。
 まあ引っぱたかれても無理ないよなー、などと諦念も浮かんではいたのだが、女は割合あっさりと拳を解いた。
 大きく溜め息をつくと、二つに結った髪を掻き掻き咲夜を見やる。

「……事情くらいは訊かせてもらおうかね。あんたとは初対面だ、いきなり脳天を串刺しにされるような恨みを買った覚えもない」
「会話の間が保たなかったから場繋ぎのためにね」
「よし。止めるな見知らぬ人」
「まあ止めますけど」

 さらりと告白する咲夜へ飛びかかろうとする女を後ろから羽交い締めにして、美鈴はぐったり項垂れた。
 じたじた暴れながら、女はちょっと泣きそうな声音で呻いている。

「ああもう、仕事道具も置いてきたな? 盗まれたらどうするんだい。リースなのに」
「あら、大丈夫ですわ。ちゃんと『盗ったら怒る』って書いておいたから。サインペンで」
「……油性じゃないよな? 水性だと言っておくれよ、せめて」
「安心して、水性よ。だから文字が消えないようにナイフで彫ったその上から」
「ぎゃあああああ!」
「申し訳ない。なんかもう、申し訳ない」

 悲鳴を上げてぱたりと倒れた女に、それしか言えず美鈴は頭を下げた。
 それから咲夜の方を見て、

「流石にアレなんで私が取ってきますよ、その仕事道具。どんな物でした?」
「鎌」
「鎌? このナリでお百姓さんですか、この人」
「違うんじゃないかしら。背丈と同じ大きさの鎌で、刈り入れは出来ないでしょう?」
「そりゃデカいですね。どこに置いてきたんです? ていうかどこで拉致したんですか、この人」
「河原で寝てたのよ。頭に毛虫が忍び寄っていてね、親切心から唸りを上げる自慢の銀弾殺人ナイフ」
「それはもうオーバーキルって段階でもないですけど、殺意はなかったのだと前向きに信じましょう。……それにしても、河原で鎌を使う仕事ってなんなんでしょうね?」
「――――死神、てぇ仕事だがね。見知らぬ人」

 瞬間。
 背後から聞こえてきた声に、美鈴はぎょっとして振り返った。
 そこに立っていたのは、紅髪の女――手には刃の捻れた巨大な鎌を携えている。
 慌てて足下を見るも、無論、そこに倒れていたはずの姿はない。

「ああもう、こんなに深く彫って……まぁた大目玉だ」

 とほほ、と泣きそうな顔で鎌の柄をなぞる女に、美鈴は硬く声を強ばらせた。

「……いつ、後ろへ回ったのでしょう。その鎌もどこに隠し持っていたのやら、心算次第ではタダで帰せませんが」
「ふうん? 勇ましいねえ。吸血鬼の館の門番てぇところかい」
「左様に。……その態度、我等紅魔への敵対表明と受け取っても?」
「いやさ、待て待て見知らぬ人」

 双眸を尖らせる美鈴に、女が慌てて首を振った。
 鎌の切っ先を地面に刺し、大きな身の丈を縮めるように肩をすくめる。

「こいつは官給品でね。失くすと面倒だから、ちょいと拾ってきただけだ。まだ河原に落ちてて助かったよ」
「あら。あんな遠くの河原まで、この一瞬で?」
「驚いたかね、メイドさん――」

 首を傾ける咲夜へ、にぃと口の端をつり上げると、女は拳を構える美鈴に向かい一歩踏み出した。
 直後……女が、視界から消える。

「――死神なんてぇ、やくざな商売をしているとね。このくらいの隠し芸は身につくものさ」
「あら」

 また背後を振り向いたのは、勘でしかなかったが。
 ともあれ女はそこにいた。どうあっても一足には辿り着く訳のない距離に……即ち、咲夜の背後に。
 当の咲夜は眉一筋も動かさない。振り向くことすらしないまま、こちらの気合が抜けるほど淡々と口を開く。

「死神って本当にいるのね。私の魂でも迎えに来たのかしら」
「お前さんが勝手に連れてきたんだろうが」
「確かに私は死ぬ人間、紅魔館を切り崩すのなら最も脆い楔となる。いい判断よ、死神おっぱい」
「人の話を……いや、その言い方じゃおっぱいが本体みたいだろう」
「でも、浅薄――」

 げんなり呻き、女が掻き合わせる着物の胸元は成る程、確かに立派なおっぱい。紅魔館の総力を持ってしても太刀打ちは敵うまい。
 なんとなく感服しながら、美鈴はふと気付いて眉を顰めた。
 咲夜の背後に立っているはずの死神の胸を、なぜ自分が観察できている?

「――手品はメイドの専売特許なのよ」
「嘘でしょう、それは」

 ぴたり、と。
 死神の後ろに仁王立ちに立つ咲夜の言葉に、美鈴はぼんやり呟く。
 目を丸くした死神が、自分の前と後ろを見比べる。

「こいつはたまげた。お前さんも死神かい?」
「残念。時間を操る程度のメイドですわ」
「ふうん? そりゃあ何とも――――人間離れした話だね」

 言いながら、死神は再び踏み出した一歩で咲夜の背後へ出現する。
 ちろり、視線でそちらを追い、咲夜も再び時を止めて彼女の背後へ回り込んだ。

「その通り――――私はお嬢様に仕える悪魔の犬だから」
「時間を操るとは――――面白い。どうりで寿命が見えにくいはずだ」
「死神は、人の――――寿命も分かるのかしら」
「その通り――――あたいは『お迎え』じゃあないから、役に立った記憶はないがねえ」
「寿命が見えるとは――――面白い。連れてきた甲斐があったというものね」
「どこまで行くんですか二人とも」

 背後を取り合いながら無限に遠ざかってゆく二人へ、美鈴はやる気なく呼びかける。
 実際どこまででも行ってしまえ、と少し思ったものの、二人は存外素直に争いを止めたようだった。止められるのを待っていたのかも知れない。
 高い下駄でからころ地面を蹴りながら、死神女がはすっぱに笑う。

「事情は呑み込めた。面白そうだし、少しくらいなら付き合わんこともないよ」
「はあ。こう言っちゃなんですけど、肝の据わった話ですね」
「メイドさんも邪心でもってあたいを刺した訳じゃあないようだ。袖すり合うも多生の縁さね、見知らぬ人」
「助かるわ。これで会話も花咲き乱れるというもの」

 はいッ、と。
 唐突に手を打ち鳴らす咲夜に、美鈴と死神、二人の視線が突き刺さる。
 手品でも始まるのかとしばし凝視するが、程なくメイド長は手を下ろした。その手はゆっくり腰に当てられ、また仁王立ちの姿勢に戻る。

「……話し上手と見込んだのに。面白いことも言ってくれないとは失望させる」
「ムチャ振りと言うんだ。それは」
「えーと、それなりに訊きたいこともありますんで。話題は私が振りますから」

 さも不満げなメイド長とそちらを睨む死神に、ぱたぱたと両手を振りながら。
 おほんと咳払い一つ、美鈴はまず死神へ水を向けた。

「先ほど、『お迎え』じゃあないと言ってましたけど」
「あいさ。あたいは渡し守……渡し賃を貰って魂を彼岸に送り届ける、三途の河の船頭死神だ」
「三途の河? 咲夜さん、どこまでダイコン探しに行ったんですか」
「ご近所よ。そのおっぱいを拾ったのも里近くの河原だもの」

 不思議そうに首を傾げた咲夜の言葉に、死神、ぎくりと動きを止め。
 ますます双眸を細め、美鈴は低い声で訊ねる。

「死神さん。お仕事の方は大丈夫なんですか?」
「おや別嬪さん方。こんちこれまたいい女っぷりで」
「いきなりゴマすられても」

 ぴしりと額を打ち腰を低くする死神に、美鈴は呆れ果て息をついた。
 隣の咲夜が満更でもなさそうにふんぞり返っているのは極力無視し、ピシリと指を立ててみせる。

「三途の渡しと言えば、彼岸と此岸の境を司る番人。河原で昼寝とは何事です」
「誤解だ、誤解だ。合間合間の適度な休息が仕事の能率を上げるってぇ寸法で」
「本音は」
「お天道様もご機嫌だのに、ぎーこら舟なんざ漕いでられッかべらぼーめ」

 ぐい、と鼻を擦る仕草すらして見せると、死神はニヤリと歯を剥いた。
 全く悪びれないその態度にいっそ凄味じみた物まで漂わせ、サボり死神は無言で頭を振っている美鈴へ言葉を続ける。

「大丈夫だよ。うちのボスはしこたま切れる御方でね、あたいがサボるのも織り込み済みなのさ。そこであたいが下手にやる気を出してしまえば、逆にボスの予定を乱すことになる。そいつはうまくないんだよ」
「サボるって言ったわよあの死神」
「サボるって言いましたね、死神」

 咲夜と一緒に冷たく言ってみると、死神氏は落ち込んだらしくその場に蹲ってしまった。
 頑張っている、あたいは頑張っているんだと譫言じみて呟く彼女にどうしたものかと溜め息をついてから、美鈴は咲夜を振り返る。

「話の種にはなりそうですけど、面倒くささは倍になりましたね」
「そうね。面白いことも言ってくれないし」
「どうしましょ、また河原に捨ててきますか」
「もう少しいじってみましょう。やーい、こいつ死神だぜー」
「なんだよう。なんだよう。ほっといておくれよう」
「マッハで仲良いなぁ、この人たち」

 淡々と棒で死神をつつく咲夜を見下ろし、ぼんやり呟いてみる。
 何が楽しいのか無心につつき続ける咲夜に肩をすくめ、美鈴は半眼で告げた。

「ほら咲夜さん。あんまり日に当たってると、ダイコン傷んじゃうかも知れませんよ」
「なんですって? ひどいことするわね、日」
「ひどいですよね、日。後で文句いっときますから、咲夜さんは一刻も早くダイコンを料理しちゃってください」
「苦労をかけるわね」
「いやまったく。ああ、えっと」

 思わず頷いてしまい、慌てて取り繕おうとするが、そもそも咲夜は既にそこにいなかった。
 時間を止めて台所へ行ったのだろう。
 面倒臭い相手が半減した事にとりあえず安堵してから、美鈴は残った面倒の片割れに声をかける。

「死神さんも。咲夜さんが居ないうちに、仕事へ戻った方が良いですよ」
「……ありゃ? あのメイドさん、行っちまったのかい」

 と。
 あっさり泣き真似を止め、死神がひょこりと立ち上がった。
 驚いた美鈴が戸惑っている間にも、死神はきょろきょろと辺りを見回して軽く息をつく。

「やれやれ。せっかく人が協力してやってるのに」
「自由な方ですから」
「なにを他人事のように。お前さんに言ってるんじゃあないか」

 腕組みした死神が口を尖らせるのに、美鈴は顔をしかめた。
 不快に感じたわけではなく、ただ疑問に思って言い返す。

「なんで私が怒られるんですか?」
「あのメイドさんはね、見知らぬ人。お前さんを怖がってるんだ」

 ――その言葉は、今度こそ理解の範疇を逸脱していた。
 鳥に粘土を喰わせたような顔をする美鈴に、死神は呆れて頭を振る。

「お前さんに自覚がないなら弄られ損じゃないか、まったく」
「……ええと」
「信じられないか? 傍で見てりゃすぐに気付くさ」

 ぴし、とこちらの鼻へ指を突きつけ、死神は僅かに目を細めた。

「お前さんだって気付いて居るんじゃあないか? あの子、絶対にお前さんの手が届く距離に近付かなかったろう」
「……あれ? そ、そうでした……か?」
「死神は距離にはうるさいんだ。それに、お前さんとは目を合わせようとしなかったしね」

 それは大いに思い当たったので、つい言葉に詰まってしまう――視線を外すのでなく身体ごと明後日の方を向くというのは、いかにも彼女らしいように思えたが。
 納得して頷き……そうになり、美鈴は慌てて死神の指を押しのけた。

「ま、待って下さい、怖がられる覚えなんかないですよ。ほとんど話したこともないのに」
「そうだろうね」

 腰に手を当て、死神は首をすくめた。


「お前さんの方が、『話したいと思っていない』だろう?」


 トンッ、と。

 軽い棒が、胸を貫く錯覚。拳の勝負であれば死角から急所を打ち抜かれたに等しい。
 咄嗟に反駁しかけた口は……言うべき言葉を見つけられず、無為に閉じるのみ。
 抗弁はおろか呼吸もままならぬ意識の空白に、死神の言葉が遠く響く。

「そういう態度は伝わるもんさ。あたいでもそう思うんだから、あのメイドさんが察してないワケもないんじゃあないかね」
「――、っ」
「……あ。いや、なんだ。あたいもそっちの事情は承知でないし、身内の話だ、外様がクチバシ突っ込む道理じゃないってのは承知してるよ」

 言葉を失った美鈴に気後れしたか、死神は大仰な身振りで舌を回す。
 でもサ、と言葉を置いてから、彼女はおもむろに着物の袷を探り出した。

「仲良くなりたくて頑張ってるメイドさんを見てるとお節介のムシが騒いじまってねえ。職業病だ、これは」
「仲良……、あの人が?」
「岡目八目てェ言葉があらぁね」

 ようやく言葉を絞り出した美鈴へ、彼女はひとつ頷き、袷から取り出した何かをこちらへ放ってくる。
 微妙に狙いを外れていたそれを慌てて捕まえると、死神がひょいと肩をすくめた。

「そんなモンまで見ちまえば、尚更さ」
「……これは?」
「河原に、鎌と一緒に落ちてたよ。メイドさんの落とし物だろう?」

 投げ渡された物は、本、であった。
 飾り気のない裏表紙には目立たない刻印。パチュリーの施した、保存術と管理用追跡記録術を複合した積層魔法陣である――と、以前聞いた記憶がある。
 咲夜が図書館から借りていったという本がこれなのだろう。
 怪訝顔で本をひっくり返し、表紙に目を落とした所で。

 息が震える。

 硬直したわけでも、溜め息をついたわけでもない。まして言葉を紡ぐわけもない。
 肺から流れ出た空気を噛みしめ、美鈴はじっと手の中の本を見つめていた。

 薄くはない。さりとて分厚いわけでもない。
 装丁は、地下の魔女が好む重厚なそれとは違うライトなペーパーバック。外の世界から紛れ込んだのだろうか。

 ビジネス書、ハウツー本と言った小悪魔は正しかった。
 そんな本を借りていく咲夜に、休む気が無いと言った自分は正しかった。
 彼女が元来器用でないと言ったパチュリーの示唆は、全く、すべて正しかった。




【人間関係に悩むあなたへ/「あの人」と仲良くなるために】




 安っぽいインクで記されたタイトルを無言で唱えてから、適当にページを繰ってゆく。

 内容は、表題から想像したものと大差はなかった。「明るく楽しい人」であれ。内の籠もらず社交的に。積極的に人と関わるべし……
 口当たりは良くとも実態のない、チープな指針と安易な啓発。図書館の主の目に触れれば、鼻で笑って書架へ差し戻される事必至の陳腐な代物だ。

 ――その陳腐な代物を、いったい、幾度読み返したのだろう。

 草臥れた本には、これを読み込んだ人物の努力と研鑽が焼き付けられているかのようだった。
 コンテンツごとに何枚もの付箋が貼られ、余白に詰め込まれた覚え書きは本来記されていた文章に匹敵するほど。
 その大半はピントのずれた考察であり、大げさに解釈した仮説であって、他人が見れば失笑を禁じ得ないような有り様だが……
 美鈴は笑わなかった。
 笑うことなど出来なかった。
 何度捲られたのか妙な癖のついたページに目を落とし、音もなく吐息を押し出す。
 数カ所に走り書きがされた、そのコンテンツは――


◇「普段話しかけ辛いあの人」と仲良くなるために!(職場・同僚編)

・挨拶を忘れずに。ユーモアのある会話を心がけよう ――――前向きに善処。挨拶は返してくれた
・相手の趣味の話題などから、会話のきっかけを探してみよう ――――カンフーの話は盛り上がらず。失言があったか要検討
・ランチを奢ってあげたり、気さくな雰囲気をアピール(気を遣わせてしまわないように!) ――――クリアー
・会話が弾むようになってきたら、こちらから仕事のサポートなど申し出てみよう ――――時期尚早。長期的展望に
・昔の話(学生時代の他愛ない思い出や苦労談等)を話せればかなりポイントアップ ――――暫定クリアー。偶然か?
・勇気を出し、いつもより一歩近い距離へ。よそよそしいほど距離を開けるのはNG! ――――無理。凄い無理
◆トラブルシューティング:会話に困ったら?
 →相手の言葉を否定する、素っ気ない返事ばかりしていませんか? 「あなたとは会話したくない」という雰囲気を作ってしまうNG行動です!
 →話し上手な人がいれば会話に混じって貰い、話しやすい雰囲気を作ってもらおう
 …………
 …………

 本を閉じ。
 空を仰げば、風と陽が仄かに香る。
 平穏そのものを吸い込む心地で、美鈴は大きく深呼吸した。

 ――パチュリー様にも困ったものだ。

 七曜の魔女の悪い癖。
 話をあまりに簡潔に、明瞭にし過ぎるが故に、結局いつでも難解にする。
 たったひと言。こう告げてくれれば面倒はなかったというのに。

(あの人は)

 十六夜咲夜は。
 時間を操る瀟洒なメイドは。
 そのくせ時間の潰し方もろくに知らないあの少女は。
 ただ単に、



(時間の使い方が、とんでもなくヘタクソってだけのことなんじゃないか)


 
 良くも悪くもおかしくも――
 まこと全く、真面目な魔犬だ。

(こんなもの真剣に読み込んじゃって)

 本を懐にしまって、美鈴はがりがりと頭を掻きむしった。

 面倒な人だ。
 奇天烈な人だ。
 真面目な癖にすっとぼけてて、ずれてて、突飛で。
 とどのつまりは、やっぱり、面倒な人だ。

 だからあの人は。
 十六夜咲夜は――

「…………死神さん。すみませんが、」
「あいさ、皆まで言うな」

 おもむろに呟いた言葉は、全て言い切る前に差し止められた。
 地面に刺した鎌を引き抜き、肩に担いで、赤毛の死神はへらりと笑う。

「こっちも仕事に戻る頃合いだ。お前さんも、行ってやらにゃあなるめえ」
「まあ、そうです。――上手くやる自信はちょっとないですけど」
「相手がアレだものなあ。……ふむ、見知らぬ人。ちょいとこっち向きな」
「はい?」

 手招きされ、言われるまま怪訝顔を向ける。
 死神は僅かに目を伏せ、ちゃっちゃっ、と無造作に指印を切った。
 わけが分からず首を傾げる美鈴に、彼女は肩をすくめる。

「おまじないさ。名付けて呪願・友達百人出来るかな」
「なんですかそりゃ」
「死神だって神格さね。ご利益があったってよさそうなモンだろう?」
「訊かれても」

 どうにも困って背中を丸める美鈴へ、当の死神はあくまで気楽に笑い返した。
 それからぽんと肩を叩き、小器用に片目を瞑る。

「期待はしないことだね。おまじないなんて、一歩踏み出す背中を押す程度の役にしか立たん。肝心なのはお前さんがふんばることだよ」
「ケチですね、おまじない」
「無料サービスなんだ。贅沢言うない」

 からころりん。
 笑みと下駄の音を転がして、死神は風に吹かれるように歩き出した。
 ふらふらと、館の塀沿いに遠ざかってゆくその背を見送りながら、美鈴はなんとなく額を掻く。
 そこに死神の紋章やら魔法陣やらが刻まれているわけはなかったが。

「……それじゃ、頑張ってみましょうか」 

 無意識に溢した言葉は、愚痴とも悲鳴ともつかず。
 風の中へ嘆息を溶かし――――美鈴は、それでも迷い無く踵を返した。





「曲者!」
「さ――危なッ」

 キッチンへ入った途端。
 燃える空気すら幻視出来そうな速度で顔面へ投げつけられた物体を、美鈴は間一髪掴み取った。
 意外と柔らかく、ぺったりとした感触。ちょっと不気味悪い。
 おそるおそる下ろした手は潰れたはんぺんを握りしめていた。
 泣きそうになりながらも、美鈴は改めて呼びかける。

「えっと。咲夜さん」
「あなたは、生きるためにはんぺんを握るのかしら。それともはんぺんを握るために生きるのかしら?」
「食べましょうよ」

 はんぺんを投げた姿勢のまま得体の知れない禅問答に取り組む咲夜に、美鈴は半眼で答えた。
 潰れたはんぺんを置く場所を探していると、咲夜がさもありなんと菜箸を鳴らす。

「その通り。潰れたはんぺんだって、きんちゃくに仕込めばお餅の代わりに」
「それは残念な代物ですね」
「大丈夫。きんちゃくだけは親のカタキみたいに用意してあるから」
「なにがあなたをそこまで駆り立てるのかは見当つかないですけど」

 どこからか次々と取り出したきんちゃくをジャグリングする咲夜を見て、美鈴はこっそり息をついた。
 ――成る程。確かに目を合わせない。
 微妙に視線を逸らしたままきんちゃくをザルに乗せるメイド長に、おほんと咳払い一つ。

「ええと、ですね。咲夜さん」
「クックック。残念だったわね、おゆはんの準備はまだよ」
「気に入ったんですかそのキャラ」
「あなた、門番はどうしたの」
「うわぁもー、えい。このー」

 妖精の飛行軌道より予測のつかない会話の流れを追うことは早々に諦め、やるかたなく呻き。
 全身から絞り出すつもりで溜め息を押し出すと、美鈴は一歩キッチンに立ち入った。

「代わりの子を頼んできたんで大丈夫ですよ。……あ、死神さんは帰っちゃいました」
「それは残念ね。あなたのおっぱいを更に強化できたでしょうに」
「別に大きな人と話してれば大きくなるモンでもないですけどね」
「そうなの。……そうなの……」
「……あんたひょっとしてそれが目的で、危なッ」

 もう一度、神速で飛来したはんぺんを危ういところで捕まえる。
 その頃には、もう黙々と鍋の支度に取りかかっている咲夜の背を半眼で見つめていると、やがて彼女がぽつりと呟いた。

「それで?」
「は?」
「なにか用事? それとも私が古代宇宙銀河皇帝の末裔であなたの前世は皇室に仕えた宮廷魔術拳闘隠密ガンマン騎士だった?」
「なんで躊躇無くその二択に行ったのか分かんないですけど、とりあえず前者です」

 色々と底の知れない妄言は頑張って無視し。
 ぺそぺそと靴を鳴らして、美鈴は調理台に並んだ。
 無言で、息を呑む音――
 それを確かに隣に聞きながら、潰れたはんぺんを二つ、調理台に置く。

「夕食の準備。手伝おうと思いまして」
「そんな口実を信じて家へ上げてしまったのが過ちでした。初めから身体が目当てだったのね!」
「幅広く面倒臭いなこの人」

 言いながら、美鈴はシンクの蛇口を捻った。
 ざぶざぶと手を洗い始めた美鈴からきっちり一歩半の距離で鍋を睨みつつ――昆布は貴重品だ――咲夜が口を開く。
 僅かに。
 ほんの僅かに、声を硬くして。

「手間はないから大丈夫よ。おでんだもの」
「ええ。おかげで私でもお手伝いできます」
「……大丈夫だって言ったのだけど」
「聞こえました。けどまあ、お邪魔にはならんでしょ。おでんだし」
「…………むう」
「我慢してくださいよ」

 本当に困ったのか、珍しく口など尖らせる咲夜に、美鈴は苦笑して肩をすくめた。
 それから。
 タオルで拭った手で、そのまま懐を探りだす。

「『こちらから仕事のサポートを申し出る』ものらしいですから」
「ぽむンっ」

 取り出して見せたのは、死神に渡された本。
 癖のついたページを開き背後のテーブルに置く。咲夜は鍋を見つめたまま動かないが、どこから引用した言葉なのか、察しのつかない道理もあるまい。
 昆布の煮える静かな音だけが、しばしキッチンに響く。
 なんとなくその音に聞き入って――
 ふと半眼で隣を振り向き、訊ねる。

「悲鳴ですか、今の」
「どこでその本を?」
「河原に落ちてたそうです。パチュリー様に怒られちゃいますよ」

 元より答えが返ってくるとは思っていなかったため、素直に答えておく。
 尤も、施された保存術式は日光や土埃程度で本を劣化させる物ではない。咲夜の書き込みですら、数日もすれば跡も残さず消えてしまうだろう。
 さてと気合いを入れ、上着の裾を帯に挟む。余分のエプロンでもあれば助かったが、元より汚れて困る服でもない。

「ちゃっちゃっ、とやっつけちゃいましょ」

 返事はなかった。
 じっと鍋を睨みつける咲夜は、声が聞こえていないのではないかと思うほど反応がない。
 ややあって、黙々と別の鍋で湯を沸かし始めたのを見て、美鈴は肩をすくめ手近のコンニャクを手に取った。

「ざっくり三角でいいですかね?」
「いえ、短冊に。大きいと妹様が嫌がるから」
「了解」

 簡潔な指示に答え、くるくるとキッチンナイフを回す。
 そして、我ながら覚束ない手付きでコンニャクを刻み始めた頃。

「ごめんね」

 ――小さな声。
 ザルの上に厚揚げとガンモドキを並べながら、メイド長が氷の表情で呟いた。

「下手なのよ、私。おしゃべりとか」
「そんな感じでしたね」
「予習もしたのだけど。付け焼き刃だったわね」
「参考書が悪かったってこともありますし」

 しかめっ面でコンニャクと格闘しながら頷き返す。畜生ぷるぷるしやがって、切りにくいったらありゃしない。
 対照的に鮮やかな手付きで厚揚げを賽の目に切りながら、咲夜は変わらぬ口調で続けた。
 否、違う。
 今朝からの、どこかで間の抜けた奇天烈な物言いの消えた、硬質で隙のない受け答え。

 それは美鈴もよく知る――――「仕事モード」の十六夜咲夜。

「迷惑をかけたわ」
「別にそんなことないですけど」
「もうタイムテーブルは組み直したから。明日から面倒はないから安心して」
「いや。面倒ってことはないですけ、ど…………?」

 答えながら、次のコンニャクを取ろうと手を伸ばした時。
 気付く。

 伸ばしたこちらの腕を避けるように、咲夜が僅かに退いた事に。

 彼女自身、意識にない行動だったのだろう。一瞬ならず動きを止めた美鈴の手へ怪訝そうに視線を落としてくる。
 慌ててコンニャクを取り上げながら、美鈴は何か適当な言葉を並べた。……少なくとも、そのつもりではあった。
 頭は、まるで別の事のために回転を始めている。


『番長は、こちらに来てからの咲夜しか知らなかったかな?』――

『魔犬の本性が故に、孤立を踏破することにひどく臆病だから』――

『お前さんの方が、「話したいと思っていない」だろう?』――

『ごめんね』――


 様々な言葉が、目まぐるしく意識に浮かんでは沈んでいった。
 お世辞にも綺麗な形ではないコンニャクの欠片を作り続けながら、美鈴は、音もなく吐息を絞り出す。

(……そうか)

 怖がっているのだ。
 咲夜が自分を。



 ――自分が、咲夜を。



 完全で瀟洒なメイド。
 美鈴が抱く咲夜のイメージは正しくその文字のまま。機に富み敏に長け、主の望むままを最上の形で実現し、手落ちも抜かりも寄せ付けぬ才女。
 幻想郷へ転移してきてからは事実上、紅魔館の執務一切をこなす立場に就いていた。妖怪ですらない、人間の身で。

 だから、自分は、そんな完璧な彼女を恐れた…………

(そんなことはない!)

 ぶつッ
 まな板を飛び出したコンニャクの欠片を無言で拾い戻し、美鈴は強く奥歯を噛んだ。
 ――分かっている。「そんなことはある」。
 当たり前だ。彼女を誰だと思っている? 十六夜咲夜だ。悪魔の館をたった一人で取り仕切る、銀の牙を持った魔犬だ。

 怖いに決まってる。
 おっかないに決まってる!

 だから無意識に、彼女を避けようとしていた。
 冷静なつもりで。
 知った風な口で。
 彼女の言葉を片っ端から否定し、撥ね付け、とっとと会話を切り上げるために。

『いや、別に』――
『別にそんなことないですけど』――
『別に』――
『いや』――

 咲夜は勘付いていた。
 だから自分を恐れる。素っ気ない、否定の言葉ばかり返す自分を。

 彼女はただ…………時間を潰すための話し相手を探していただけなのに。

(失態だ、紅美鈴)

 不格好なコンニャクの短冊を見つめ、唇を噛む
 思い至るのが遅すぎた。
 横目に咲夜を窺う。慣れた手付きで淡々とダイコンの面取りをする彼女は、変わらず一歩半の距離。
 伸ばした手が届かない距離。
 最早越えることの出来ない、自分と彼女の「恐れ」の距離……

「えっと――咲夜さん」
「コンニャク。刻み目を入れておいて」
「…………、了解」

 予防線。
 下手な会話で拒絶の言葉を招く前に、否定する余地のない連絡だけでその場を収める。

 思えば、これが。
 十六夜咲夜が、見つけた居場所への接し方として探り当てた精一杯なのだろう。
 臆病で。
 不器用で。
 良くも悪くもおかしくも、真面目で――――真面目すぎて。自分の時間を潰すことも出来ない、孤独な、魔犬の距離。

 その距離は今日、縮められようとしていた。
 だが自分がそれを台無しにした。
 魔犬が人知れず奮い起こした勇気を、臆病さ故に、撥ね付けた…………

「……咲夜さん、あの」
「ジャガイモの皮は剥かないでね。その前に下茹でするから」

 溺れている気分で必死に口を開くも、返る言葉はそつなく、無駄なく、容赦なく。
 煮汁の味を確かめるメイド長との間に横たわる空気は果てしなく硬く、重たい。同じ厚さの鉄板がそこに聳えているようだ。

 こんな空気を踏破して、咲夜は自分に話しかけていたのか。
 こんな空気を張り巡らせて、自分は咲夜に接していたのか。

(私には無理だ)

 腹の底に、冷たく重い塊が生まれる。
 自分ではこの空気を越えられない。
 完全でも瀟洒でも、強靱に生まれついた魔犬でもない。おっかながりで、大雑把で、日々門前に棒立ちになっているだけの妖怪だ。
 勇気を振り絞ることも、彼女の話し相手を務めることも…………コンニャクひとつまともに切る事も出来ない、臆病者の木っ端妖怪だ。
 幾つもの自責と悔悟が胸に去来する。

 情けない。
 不甲斐ない。
 申し訳ない。

 だが、今は。

 それよりも、何よりも、ただ。


 十六夜咲夜に近付きたい。


「――――っ、……?」
「…………ぁ、え?」

 ――気付いたのは、二人同時のはずだったが。
 それでも美鈴は、自分が気付くのが一瞬遅れたと確信していた。
 すぐそこにあったのだ。
 ぱちくりと、意外なほど可愛らしく目を瞬かせる、咲夜の顔が。
 わけが分からずにしばし、互いの目に映った自分を眺める。
 それから思い至り、ふと視線を下ろしたのは、今度こそ二人同時だった。

 無意識に、縋るように伸ばしていた手。
 それが咲夜の袖を掴んでいる。

「……ぅわああぁッ!?」

 思わず、悲鳴も迸り。
 片手に握っていたキッチンナイフを放りだし、床を蹴立てて後ずさる。壁にぶつかった拍子に、棚から計量カップが落ちて来て頭を一撃された。痛え。
 失礼なくらい動揺する美鈴を、しかし咲夜は咎め立てなかった。掴まれていた袖とこちらの顔を見比べ、目を白黒とさせている。
 ――いつの間に?
 ばくばくと跳ね上がる心臓を押さえながら、美鈴は必死に記憶をほじくり返した。
 だが、幾ら探しても見つからない。彼女の距離へ踏み込んだ覚えなんかない。
 咲夜もそれは同じらしく、袖を押さえたまま微かに肩を震わせている。氷の無表情が剥がれ落ちたその顔に浮かぶのは、驚愕と…………恐怖。

 そのまま、しばらくキッチンの時間は止まっていた。否、空転していた。
 先に混乱から脱したのは、咲夜の方。

「……お湯、沸いてるから」

 誰に説明しているのかは本人も与り知らぬ所だろう。
 何も起きなかったという風情で鍋に向き直り、煮立った湯へダイコンを入れる彼女の仕草は、完璧に隙のない所作。
 それはつまり――何も無かったことにしようと言うことだ。

「…………」

 背で壁を擦るように立ち上がり、のろのろと歩き出す。
 咲夜は今のハプニングなど存在しなかったという風に、変わらぬ場所で作業を続けていた。
 互いの恐れの妥協点。怯えることも、傷付け合う事もない安全な立ち位置。
 何かの偶然でその境界を越えてしまった事は不問にし、この位置を続けようという無言の提案だった。
 それは美鈴にとっても安心で、願ってもない提案だった。
 これで、彼女に怯える必要はない。
 ……彼女を傷付ける必要も、ない。

(そう、だよね――)

 大きく、静かに、息を吸う。
 目に見えぬ熱が身体を巡って行く感触。それを実感しながら、コンニャクを放りだしたまな板の前へ差しかかると、鎮める鼓動に意識を沈め――

「咲夜さん」



 魔犬の距離へ。



 ぎょっと目を見開き、咲夜がこちらを見返している。
 一歩半の緩衝地帯は瞬間に踏み越えていた――――そのために極限まで練り上げた気を巡らせた足は、キッチンの床に踏み込みの焦げ跡を残している。
 身体から噴き上がる余剰の勁熱に髪を踊らせて、美鈴はふぅッ、と息をついた。

「……私の功夫も、なかなか捨てたもんじゃないですね」
「な――ッに、を。あなた、」
「あなたと同じですよ」

 ぱくぱくと喘ぐように零れる言葉に、美鈴は即座に言い返した。
 ちらりと横目にテーブルを窺う。開いたまま放り出されている本に、僅かに苦笑が浮かんだ。

「私も、きっと、下手なんです。おしゃべり」

 ぐ、と言葉を呑み込むメイド長に肩をすくめ、笑ってみせる。
 虚勢だ。練り上げた気が抜けてしまえば、脚はまともに立っていられないくらい震えているに違いない。

 それでも退くつもりはない。偶然でもなんでも、一度は越えた距離だ。
 ならば今。なけなしの勇気でもう一度だけ――
 今度は。「私が」。
 越えて行く。

「色々な方にですね、言われたんです。色々なことを」
「…………」
「それで、色々、考えて。思ったんです」

 咲夜はこちらを見返していた。
 踏み込まれた間合いから逃げ出す素振りもなく、さりとて警戒を解いた風もなく。黙って美鈴の言葉に耳を傾けている。
 それで上等。
 臆病者同士の一合目、それで充分。十二分。

 勁熱で火照った顔に掛かる髪を掻き上げ、美鈴は、ぐっと目を鋭くする。
 
「咲夜さん。あんた、面倒臭い人です」
「…………」
「あとビビリです。ヘタレで、トンチキで、頓珍漢です。時間を操れるクセに、時間の潰し方もロクに知らないすっとこどっこいです」
「……そんなにひどくないもん」
「どこまで本気か分かんなくて、でも蓋を開けりゃ頭から尻まで丸ごと本気って変な人です。片っ端から全部ひっくるめて――――あんた、面倒臭いです」

 小声で抗議するのが聞こえなかった訳ではないが、言葉を止めない。
 勘弁してください。こっちはハナからいっぱいいっぱいなんです。
 咲夜の目に映る、据わった眼差しの自分と睨み合いながら、つっかえ気味にまくし立てる。

「だから、ですね。ええと……そもそも予習て、あんた。そんなん、アレですよ。普通に話しに来てくださいよ」
「そうね。だから明日からは迷惑もかけないって、」
「だって咲夜さん――――同じなんですよ、私。あなたと」

 喋る、喋る。
 返事をも制して、喋り続ける。
 一度口を閉ざせばまた開くだけの勇気は持ち合わせがなかった。
 支離滅裂な言葉でいい。元より上手くやれるつもりはない。
 魔犬の距離は踏破した。
 後は届くまで、喋り続けてやるのみ。

「ビビリで、ヘタレで、すっとこどっこいです。だから、あなたが怖かったんです。つまんないこと言って機嫌損ねたらぶっ殺されるんじゃないかと思ってたんです」
「したことないじゃない。そんなこと」
「だから、イメージです。『私の《時間》を無駄に使わせたわね……シャキーン!』みたいな人だと思ってましたし、多分妖精メイド達もそう思ってます」
「……あうん」

 どこから出しているのか、不思議な声で鳴くメイド長。
 この姿を見れば少なくとも、そういった印象が偏見だと思い知るだろう。完全で瀟洒なメイド長にとって、それが良いことかどうかは分からないが。

「本当は、同じでした。ビビって変な方向に煮えたあんたと、へっぴり腰であんたを見てた私は、きっと大して違わない」

 本当は、違う。
 十六夜咲夜には勇気がある。安全な距離から、一歩こちらへ近付いてくれた勇気がある。
 私が、敵うもんじゃない。

「だから、その…………ええい。同じだからですね、言わなきゃならないことがあるんですよ。ええ、そりゃあもう」
「……?」
「あんたにだけ言わせて、私が言わないわけにゃいかないじゃないですか。だからですね、つまり……」

 胸の奥がむずむずする。
 練気の熱はとうに引いたはずなのに、奇妙に顔が熱い。声が上滑りし、膝はぷるぷる震え出す。表情は、当然気持ちの悪い半笑いだ。

 総じて、結局、とどのつまり、



 ――ごめんなさい



 紅美鈴は、途轍もなく面倒臭い妖怪であったと言うことだ。

「……その、ヘンに壁を作ってたというか。咲夜さんを避けてた感じはありました。だって、やっぱり怖いですもん」
「…………」
「それでも、あの。昨日までみたいな怖さじゃないんです。思ったよりは普通の人だなっていうか、案外隙だらけだし。やっぱり変な人だし」
「あなたもそうだったじゃない」
「同じですから。だから」

 どこか呆気にとられたような顔で呟く咲夜に答え、美鈴は言葉を止めた。
 息を溜めるため、ではない。この期に及んで怖じ気づいただけに過ぎない。

 ふざけろ、私の肝っ玉。ここで縮こまる奴があるか。

 向こう十年、いやさ二十年は踏ん張らなくていい。ここ一番、この瞬間だけでいい。
 だから、今だけ………………ありったけ、魔犬に届くくらいの勇気を絞り出せ!!

「だから、ですね――」

 奮起した勢いの割りに、腕はおずおずと伸びていった。
 おっかなびっくり、小心翼々、笑えるくらいの慎重さで伸ばした手で……ぽん、と。
 ごく軽く。
 咲夜の肩を、叩く。

「――もっとおしゃべりしましょうよ。今日だけって、そんなケチな話はない」

 上手く笑えた自信はないが。
 ぽかんと口を開けてこちらを見返す咲夜の顔は、思わず噴き出してしまいそうなほど間が抜けていた。

 一瞬だけ触れた肩は華奢ではなかった。瀟洒たらんとする意志の業か、見苦しいほど強ばっている訳ではないが、日々の激務に耐えられるようには鍛えられている。
 それでも、細い少女の肩。
 妖怪の自分とは比べものにならないひ弱な肩。

「懲りずに、また暇潰しに来ていただけませんか」

 その肩に、一体、どれだけのものを背負ってきたのだろう?
 責任。自戒。背負わなくてもいい心労まで勝手に背負って、それでも彼女は潰れない。魔犬は独り立つが故に、魔犬であるのなら。
 自分はそれに手を貸したりしない。
 自分にそんな事は出来ないし、それを魔犬は望まない。
 ただ。

「明日は多分……今日よりちょっと、楽しくお話しできると思いますから」

 魔犬が荷物の重さをぼやくなら、自分がそれを聞いてやろう。
 それっくらいがきっと――この臆病者には、分相応なのだと思うから。

 咲夜は動かなかった。
 否、動いてはいた。瞳だけが忙しなく、あちらこちらへ彷徨っている。
 続いて腕が持ち上がった。何かのジェスチャーか、かくかくと不思議な動きをしてから身体の横へ戻される。
 そのまま辛抱強く待っていると、やがて彼女は大仰に息を吐き出した。
 それから、やおらぴしりとこちらを指差し、

「条件がひとつあるわ」
「うわぁ、案外動じないし」
「メイドと鋏は使いよう。この一瞬に時間を止めて思う存分のたうち回っていたとは、お釈迦様でも気付くまい」
「セコいですよ。ごまかし方が」
「あら、ばれてーら。これが俗に言う覚り妖怪」
「違います。いや、ばれてーらもどうかと思いますけど」

 ぐったり答えながら辺りを見回せば、確かに先ほどより散らかっている。壁についた小さな血痕は、咲夜の額に出来ている傷に関係していることは疑いなかったが。
 ともあれ彼女はこちらを指差したまま、いつの間にか貼り付け直した無表情で告げてくる。

「条件の話をしていい?」
「ああ、はい。なんでしょ」
「あなたがいいと言ってくれるなら、私としても、またタイムテーブルを組み直すのに吝かではないのだけれど」
「そういや予定組み直したって言ってましたね。その辺の調整をお手伝いしますか」
「ううん、いい。あなた大雑把だし」
「……くすん」

 割と本気で泣きながら、まな板の上で無惨な姿を晒すコンニャクを見る。すまぬ、コンニャク。
 落ち込んで項垂れていると……頭に、柔らかな感触。

「――あなたを、ね。あだ名で呼びたいの」
「へ?」
「それが条件。いい?」
「えっと……そりゃまあ、好きなだけどうぞ」

 咲夜に頭を撫でられている。
 答えながら、美鈴はぼんやりとその現状を吟味していた。
 頭を下げているとはいえ、元より身長差がある。それなりに辛い姿勢のはずだが、咲夜はこちらの頭に手を載せたまま話を続ける。

「どんなあだ名が良いかしら。門番とか。カンフーとか」
「それで構いませんよ。よくそう呼ばれますんで」
「じゃあ辞める」
「子供ですかあんた」
「……秘拳うぶ毛丸剃りカッター掌、とか……」
「そんな愉快な奥義は断じて身につけてませんからね。……あの、頭放してくれませんか。腰が辛いんですが」
「駄目よ、まだ下を向いてなさい。黄金の腰が砕けるまで」
「どんだけ私の腰を買ってるんですか。ああもうッ――」

 頭を振りざま、手を捕まえる。あ、と小さな悲鳴を上げるのには構わず、美鈴は顔を上げた。
 ――上げて、硬直した。

「だから駄目だと言ったのに」

 笑っていた。
 十六夜咲夜が笑っていた。

 くすくすと口元を押さえ微笑むその所作は、決して瀟洒ではない。
 しかし素朴で、あどけない、綺麗な少女の笑み。
 魔犬、十六夜咲夜の――――それが初めて見せた、笑顔だったのだ。

 硬直する――他に何が出来た?――美鈴の鼻先をでこピンで弾くと、咲夜は笑いながら鍋に向き直る。

「いいわ、あだ名はその内考える。ダイコンも煮えてるしね」
「…………えー、っと……あの?」
「あなたも、あだ名で呼んでいいわよ。無理にとは言わないけれど」
「あ、えっと……確か、あれですよね。放課後血みど――危なッ」

 回転の覚束ない頭で拾い上げた言葉には、湯気を上げる昆布をもって答えられる。
 まだ熱いそれを放り投げるように調理台へ戻す美鈴に、咲夜は菜箸を鳴らしながら告げた。
 その顔はずっと、笑顔のままだ。

「ちゃっちゃっ、とやっつけましょう。……手伝ってくれる?」
「了解。ところで、この最早どうにもならない無惨なコンニャクたちはどうしてくれましょうか」
「大丈夫よ。あなたの分のきんちゃくに詰めておくから」
「……あいやー」

 思わず、悲鳴もあがるが。

「勘弁してくださいよ。コンニャクとはんぺんで、お餅入らないじゃないですか」
「食べ物を粗末にした報いね。自業自得。因果応報。こんにゃく対メカキングはんぺん」
「最後のは聞いたことないですけど……いや、はんぺんは咲夜さんのせいじゃないですか」
「クックック」
「うわー面倒臭ぇー」

 頭を抱える自分が、笑顔なのは疑いなくて。
 ひとしきり呻いてから、美鈴はふと、声に出して笑った。
 そして、怪訝そうに首を捻る咲夜と自分を交互に指差す。

「大分、気持ち悪いですね。私たち」
「…………そう、ね。ふふッ、確かに」
「ねえ。普通に、ちょっと話すだけのことじゃないですか。大げさっていうか、無意味に壮大って言うか」
「ビビリでヘタレだからでしょう? 私が。あなたが」
「ですね。あーもう――――」

 面倒臭い 

 拍を取るでもなく唱和した言葉に、一瞬鼻白み、
 さしたる間もなく、どちらからともなく笑い出す。げらげらと、くすくすと、品性には些か欠ける、腹の底から愉快な笑声。
 目の端に浮かんできた涙を拭い、苦しいくらい痛いお腹を押さえて――ふと。

(……あれ?)

 オーブン近くの窓に目をやって、美鈴はきょとんと眼を丸くした。

 窓から見える植え込みからねじれた大鎌の刃が覗いている。先刻の死神が、そこからにゅうと首を突き出していた。
 何事かと見ていると、死神は親指を立てて笑いかけてくる。一仕事片付けた、とでも言いたげな顔だ。
 彼女は何かしたのだろうか――特に思い当たることはない。件のおまじないとやらも、今の今まで忘れていた程だ。

 わけが分からずに顔をしかめている間に、死神は勝手に満足したらしい。植え込みを飛び出し、よじよじと塀を登って出て行った。
 首を捻っていると、すけん、と頭に何かがぶつけられる。

「ほら。サボってないで、無事なコンニャクを切って頂戴。ちゃんと刻み目を入れてね」
「あ、はいはい。……なに投げたんですか、これ」
「バジル。使わないから、テーブルにでも置いておいて」
「なんでそんなもの出したんですか」

 頭を押さえながら、空っぽらしい小瓶を空中で掴み取る。
 そのまま、それをテーブルへ適当に置こうとして…………美鈴は眉根を寄せた。
 卓上に放りだして置いた本。
 その開かれたページが変わっている。先ほどは書き込みで一杯だったはずなのに、今開いているのは綺麗な紙面だ。
 否、一点。余白の大きな一箇所にだけ、小さく何か書いてある。
 ペンではない、箸か何かで書いたのだろうぎこちない文字。
 調味醤油で記されたのは、ひどく短いひと言だけ。


【ありがとね】


 ……時間を止められるのなら、一度ペンを取りに行けば良さそうなものを。
 慌てる余りその事に考えが至らなかったらしい。苦笑して、美鈴は本の傍に空の小瓶を置いた。

(まったく)

 面倒臭い人なのだ。

「こら、早くコンニャクを切ってってば。もう煮汁は出来てるんだから」
「――ういっす。すいません」

 堪えきれない笑みは、なんとか見られないよう押し隠し。
 魔犬の隣――一歩半よりは、幾らか縮んだその距離に立ち。
 本日最後の気合いを振り絞ると、美鈴は残りのコンニャクへ立ち向かうことにした。





 悪魔の館、紅魔館。
 幻想郷に転移してきてより幾年月。変わらぬ威容を示し続けるその館の門前に、相も変わらぬ棒立ち姿勢。
 紅美鈴。今日も今日とて門番稼業。
 ひたすらに、嗚呼ひたすらに立っている。

「中国」
「……それはやめましょうってば」

 突然に。
 後ろから声をかけられて、美鈴は半眼で振り向いた。背後ではなく、隣の門柱を。

「なんか変に定着しちゃいそうな気がするんですよ」
「傑作と思ったのに」

 ここに門が造られたときから立っていたとでもいう風情で、メイドがそこに立っている。
 貫禄充分、仁王立ち。
 こちらでなく真っ直ぐ前を向いたまま、十六夜咲夜は無表情に呟いた。

「服装から命名してみたの」
「言われんでも分かりそうな気はしますね」
「他に皆が使っていなさそうなあだ名って、思いつかなくて」
「別にいいじゃないですか。同じ呼び方で」
「ところであなた、お昼寝はしないの?」

 相も変わらぬ、軌道の読めない会話。
 美鈴は慣れた調子で肩をすくめると、自分も前へ向き直った。

 二人並び、互いを見ぬまま、それでも転がす言葉は軽やかに。

「門番が寝てちゃ番にならないですからね」
「真面目ね、少しサボるべきよ。新しいシャープナーも買ったのに」
「仕事量に関しちゃそっちこそって話で…………いや、後半なんて?」
「徹夜で研いじゃった」

 てへ、などと不動の鉄面皮で言いながら、メイド長は鮮やかな手付きでナイフを取り出す。
 袖から、裾から、際限なく現れる、恐ろしく鋭い刃物を手の中で踊らせて、彼女は不安な気持ちで眉根を寄せる美鈴へ涼やかに言ってきた。

「知らないの? 昼寝している人の頭にナイフを刺すと、仲良くなれるのよ」
「…………それは、えっと。下手に実例があるんで誤解が深そうですけど、アレはなんていうか相手がひたすら奇特なお方だったからで」
「だから、たまには昼寝してなさい。刺すから」
「ええぇぇ――――いやまあ、善処はしますけど。普通に仲良くしましょうよ」
「ふむ」

 ばりばりと髪を掻きながら呻き返すと、咲夜は一応納得したらしかった。宙に散らばったナイフが一瞬でかき消え、彼女自身はまた同じ姿勢に戻る。
 ひとまず安心して息をついてから、美鈴はふと思いついたように話しかけた。

「そういえば、あの死神さん。あれから見かけないですよね」
「誰?」
「本人のことはもう忘れてるんですね……」
「あら、記憶力には自信があるわよ。朝ご飯に何を食べたか朝飯前に答えられます」
「それはモーニングの予定を立てただけでは」
「あなたに昼寝させようと企んでいたことは覚えているのだけど」
「……一歩間違えてたら私も血みどろだったんだなあ」
「名付けて鮮血ウーマン美鈴。略してナヅーリン」
「そこから略すんですか」
「……しっくりこないわね。やめましょう」
「全く英断だと思います」

 疑う余地はない。
 重々しく頷いてから美鈴はほぅ、と息をついて空を見上げる。
 そして、隣で咲夜も同じ事をしていると確信しながら、ぽつりと呟いた。

「――なんにせよ、しばらくはお昼寝って天気じゃないでしょうねえ」
「そうね」

 見上げた空は、紅く染まっていた。

 夕陽、ではない。
 落陽の儚さなど寄せ付けぬ。強く、ただ強く、紅であれという呪縛にかけられたような、身震いするほどの真紅――
 頭上を、否、幻想郷全土を包み込む程の濃密な、紅霧であった。

 実際に喉笛を締め上げられるような錯覚すら覚え、くわばらくわばら、と頭を振る。

「襲撃者は?」
「妖精の群れに、低級妖怪が何匹か。撃退は出来ましたけど……もうちょっと、練習が必要ですね」
「やっぱり」
「どうも勝手が違うんですよねえ。スペルカードルール」

 腕組みし、懐に収めた幾枚かの紙切れ――スペルカードを意識する。
 幻想郷における一つの決闘法、であるらしい。
 館の者は皆パチュリーにルールの講義を受けていたが、正直、細かい部分はうろ覚えだ。その内咲夜に教わり直さなくてはなるまい。

「お嬢様も、なんでこんな面倒を起こしたのやら」
「面倒ではなく『異変』と呼ぶのがトレンドよ」
「なんだっていいですけど」

 飄々とした態度を崩さない咲夜に答える声に、恨みがましいものが混じるのは押さえられなかった。

 当主レミリア・スカーレットが、紅霧で幻想郷を覆いつくしてしまったこの面倒……否、『異変』。
 彼女自身は「太陽を隠せば昼でも出歩けるだろう?」などととぼけたことを言っていたが、その言葉を額面通りに受け取れるほど付き合いの短いわけでもない。
 とはいえ、元より吸血鬼の深謀を全て把握することが出来るとは思わぬ。
 不満なのは主が自分たちに、霧の出ている間は幻想郷のルールに――即ち、スペルカードルールに則るよう厳命したことである。

「妖精くらいならまだしも、あのルールじゃ手練れ相手に門を護りきれませんよ」
「そうね。私も練習しておこうかしら」
「暢気だなあ。噂のシャーマンとやらがクチバシを突っ込んできたらどうするんですか」

 思案げに呟く咲夜に、美鈴は呆れて息をついた。
 まったく、忌々しいルールに縛られたものだ。
 手脚が千切れ、身体が潰れ首だけになろうとも侵入者を食い止める程度の覚悟はあるつもりだが、スペルカードルールの下ではそれもままならないだろう。ルールに則った弾幕勝負で敗北してしまえば、後は歯噛みして侵入者を見送るしかない。
 門番には門番の意地がある。矜持もある。
 何より――――主自身をも脅かしかねないこのルールに従う事は、美鈴が最後まで反対していたことだった。

「そんなに怖い顔をしなくてもいいんじゃない」

 と。
 不意に、咲夜が声をかけてくる。
 それまでと微妙に異なる声の調子に、美鈴は怪訝顔で振り返った。

「私たちの主人は、レミリア・スカーレットよ」

 飄々とした表情が、こちらに向けられている。
 腰に手を当て、仁王立ちで。咲夜は唇の端をにぃ、と持ち上げた。

「私たちが考える程度のことに、考え至らないと思う?」
「そりゃ……思いません、けど」
「なら、私たちはお嬢様の命に従うだけよ」

 事もなげに言い放ち、肩をすくめる咲夜に……美鈴は、眩しいものでも見るように目を細める。
 盲信ではない。崇拝でもない。
 確固たる確信と、絶対の信頼を以て、彼女はレミリア・スカーレットの命令に従うのだ。
 完全に、瀟洒に。
 そうである限り、彼女は変わらず紅魔の魔犬――――十六夜咲夜であるのだろう。

「…………敵わないなぁ」
「なに?」
「なんでも。それより咲夜さん、仕事の方は大丈夫ですか?」
「あら、いけない」

 浮かべた苦笑を気付かれぬよう手を振れば、咲夜はポケットから取り出した懐中時計を見て眼を丸くした。

「もうこんな時間? 今日はパチュリー様の手伝いも引き受けているのに」
「あれ? 仕事は司書さんに引き継いだんじゃ」
「その司書が、私にもスペルカード作ってくれなきゃ図書館中の本という本に都こんぶ挟むって引き下がらないらしくて」
「……ご苦労様です」

 子供か、使い魔。
 他にコメントしようもなく、美鈴はただ神妙に頭を下げた。
 子育ては甘やかし過ぎも良くないのにねえ、とぶつぶつ呟きながら懐中時計を仕舞い、咲夜は踵を返して館へ歩き出し――
 きっちり三歩目で足を止めると、肩越しにこちらを振り返ってきた。

「多分、ね」
「はい?」

 首を傾げる美鈴に、咲夜は軽く頷いた。
 意味のある仕草ではなく、一呼吸置きたかったのだろう。すぐに後を続けてくる。

「きっとお嬢様は、私やあなたが……あるいは自分が、スペルカードルールで負けるかも知れないことを分かっている」
「そうでしょうね」
「幻想郷は外の世界と違う。血眼になって吸血鬼や妖怪を狩り出そうとする輩もいないこの世界で、私たちはどう在るべきか。どう在ることができるのか――――お嬢様は、それを見極めようとしているように思うの」

 風――
 つかの間吹いた微風は、しかし紅の霧をそよがせる程度にも干渉しない。
 その生温い空気が肌を撫でて行くのに、美鈴は少しだけ瞼を伏せた。
 咲夜の声は包み込むように、すぐ傍に聞こえている気がする。

「お嬢様は不器用でいらっしゃるから。この幻想郷への――我等、紅魔の居場所への接し方を、手探りに探っているのかも知れないわね」
「……そりゃまるきり、どこかの誰かみたいな話ですね」
「本当? 恥ずかしい子もいたものね」
「自覚ないし」

 さりげに問題のある発言が飛び出た気もしたが、深くは追及せずにおく。
 特に思い当たることは無かったらしく、咲夜は肩をすくめただけだった。
 それから、くすっと笑みを溢し。

「今日はね。おでんを作ったの」
「は?」
「あなたは夜勤だと思ったから、取り置いておいたわ」
「はあ。そりゃどうも……わぉ」

 ぼんやりと返事しかけた所で。
 いつの間にか足下に置かれていたバスケットに気付き、美鈴は思わず言葉を止めた。
 蓋を開けると、キルトにくるまった小さな鍋が覗く。時間操作の応用か分からないが、空気孔からはまだ湯気が立ち上っていた。

「お嬢様は時季外れだ、って笑っていたけど」
「もう夏ですからねえ」
「でも縁起物だから」
「そうですね。縁起は良いと思います」

 へらりと笑い、バスケットを抱え上げる。お出汁の良い匂いが鼻をくすぐった。
 何も聞き返さない美鈴に、咲夜は照れくさそうに笑い頬を掻く。近頃はいかにも少女らしい、気安げな仕草を見せることが多くなった。

「大丈夫だと、思うのよ」

 浮かべた微笑に、溶かすように。
 ひどく穏やかな声音で呟くと、咲夜はそっと目を閉じた。

「この『異変』でお嬢様も、紅魔館も多くの人妖に知られるところになるでしょう。古株の大妖やハクレイのシャーマンは、きっと私たちを放っておかない。どういった形であれ、裁定者を送り込んでくるのは疑いないわ。そしてひょっとしたら、私たちはその裁定者に敗北するかも分からない」
「…………」
「でもね。美鈴」

 瞬間。
 思わずバスケットを取り落としそうになり、美鈴は慌ててその取っ手を掴み直した。
 一息ついて、呆けた顔を持ち上げれば――――
 笑っている。
 にっと歯を剥き、磊落に、どこか見覚えのある大雑把な笑みを浮かべて、咲夜は気楽に首をすくめて見せた。

「大丈夫だと思うのよ。もし私たちが負け、お嬢様が脅かされ、『異変』が失敗に終わったとしても――――きっと、全部いい方向に向かって行く」
「……なんで、そう思うんです?」
「私たちの主がレミリア・スカーレットで。私たちは紅魔の犬で。今夜のおゆはんは、おでんだからよ」

 ぱちん。
 器用にウィンクすらしてみせると、咲夜は颯爽と踵を返す。
 見惚れるくらいに凜としたその背中越しに、彼女はひらひらと手を振ってきた。

「見つけた居場所は裏切らない。求めているなら、きっと、多分。……教えてくれたのはあんたでしょ」
「……ぁ、え? っと、咲夜さ――」
「だから気を張ることないわ。あだ名はまた考えておくから、その辺で適当に棒立ちになってなさい」

 そう言い残し、きびきびと去っていくメイド長の麗姿を見送る自分の顔は、きっと目も当てられないほど間抜け面を晒していたが。
 咲夜が去った後も、美鈴はしばらくぽかんとそのまま突っ立っていた。
 ややあって、先ほどより幾らか冷たくなった風が首筋撫でていき、はっと我に返る。
 当たりを見回し、とりあえず襲撃者らしき姿が無いことを確かめると、彼女は門の前に胡座を掻いて座り込んだ。
 脚の間にバスケットを置き、保温のキルトを取りのける。

(きっと、あの人のことだから)

 疑いのない――それこそ、咲夜がレミリアへ抱くそれにも負けないくらい強い確信をもって、鍋の蓋を取りその裏を見る。
 案の定、そこにはひと言。出汁の昆布を細工したメッセージが張り付けてあった。

【がんばろうね】

(……相も変わらず、面倒臭い)

 腹の底から笑みが込み上げてくる。
 成る程、確かに。大丈夫だと思うわけだ。
 堪えきれず、美鈴は声を上げて笑い転げた。

(うん――そりゃ、そうだ)

 がんばろう。

 まだまだ功夫は足りないし、スペルカードは苦手だが。
 なにくそ、やってやろうじゃあないか。裁定者でもハクレイでも、来るというなら来るが良い。
 紅魔の一矢が紅美鈴、痩せても涸れても門の番。ひねもす魔犬と暇つぶす、棒立ちカンフーがお相手致す。

 怖じけるものか。
 臆するものか
 なぜなら今夜は、おでんなのだから。

 湯気に煙る鍋の中には、熱々に煮えたおでんだねの姿。
 とりわけ沢山入ったきんちゃくには、思わず顔も綻ぶというもの。
 バスケットに入っていた箸を取りいそいそときんちゃくをつまみ上げ、幸せ一杯の笑顔でそれを頬張る――前に。
 あっと気付いて箸を下ろし、美鈴は胡座のまま館の方を振り返った。そして神妙に居ずまいを正すと、やおらぱんっ、と両手を合わせ。
 そしてぺこりと、一礼してから、改めて箸を取る。
 立ち上る湯気に嬉しげに目を細めて、美鈴は忍び笑いを溢した。

 ――きっと、大丈夫。紅魔館は大丈夫だ。
 こんなに素敵で面倒で頓珍漢な居場所、受け入れられない訳などあるか。
 私は果たすべき門番の責務に備え、腹を満たしておればよい。
 だから、

「いただきます」

 今日も明日も、『異変』の後も。
 館のどこかで不器用に奔走しているに決まっている魔犬へ笑いかけ。
 美鈴は万感の想いを込めて、きんちゃくをひとつ、口へ放り込んだ。













 ダイコンが入ってた。
 あいやー。
Q.何故小町が?
A.お乳を贔屓するのに、理由がいるのかい――?
ジタンです。

三度目の二度手間です。石を投げないでください。石を投げないでください。

中途半端にダダ長いお話、お付き合いいただきありがとうございます!
昔の人も「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ紅魔館」と唄いましたように、東方SSを書く以上一度はやりたい紅魔館でした。
ダイコンの花言葉は「適応力」だそうで。なにそれ萌える。

ハムスターの脳みそくらいにでも楽しんで頂ければこれ幸い。
お読みいただき、ありがとうございました!
※5/6追記
ぎゃー! 数多くのコメントに評価、感謝です!
お褒めの言葉もズバリなご指摘も、等しく書くための力になってます。本当にありがとうございます!
精進しますので、見かけた時は是非尻をはたきに来てやってください。悦びます。いや喜びます。
二度手間
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コメント



0.8280簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
2.100名前が無い程度の能力削除
一度と言わずもっと書いてと言いたくなる紅魔館でした。
この咲夜さんはダイコンにも負けない味が出てますね。
5.100名前が無い程度の能力削除
『中国』にポジティブイメージを貼っつけた人を初めて見た!!
いや本当に見たことない感じの紅魔館って初めて見ました、しかもオモロイ。
あと小町、しかも小町。まだまだ書きたいところなんですが、
これから二度手間さんの残り二作を読まにゃならんのでこれで失礼します。
……今日寝れないかなぁ?

追伸:番長、門番、カンフー、おっぱい、中国……渾名が五個、愛されてるな美鈴。
   ちなみに私ならこの美鈴はツッコミと呼びたいです。
6.100名前が無い程度の能力削除
成績はいいけど不器用で人見知りする女の子
って感じでなにこの咲夜さんかわいい…
これから始まる紅魔郷の世界観も良かったです
8.100名前が無い程度の能力削除
100点!
9.100名前が無い程度の能力削除
魅せ方の上手さに脱帽しました。
10.100奇声を発する程度の能力削除
これ凄いわ…
とても魅力的でした
13.100名前が無い程度の能力削除
最初は美鈴と咲夜がひたすら万歳をやる話だと思ってたのに…イイハナシダナー

素晴らしかったです。ぜひ続編を!
15.100名前が無い程度の能力削除
こ、これは…

素晴らしい作品を見付けてしまったぜ
16.100名前が無い程度の能力削除
一度なんて言わないでもっと書いてくださいな

紅魔館の皆が可愛すぎですね
たまりません
18.100名前が無い程度の能力削除
二度手間さんの小町が大好き。他のキャラもいい味出してますけどね!
これからも書いてくれていいんですよ?
19.90名前が無い程度の能力削除
美鈴もさっきゅんもめんどくさい可愛い
21.100名前が無い程度の能力削除
とても良かった。
23.無評価名前が無い程度の能力削除
小町主体の話も読んでみたいな
24.100名前が無い程度の能力削除
100点しか入れられないのが申し訳ないくらい面白かったです。
最初は、咲夜さんの奇人振りが現れていて面白いとしか思っていなかった冒頭の大根のやり取りが、真相をしることで、不器用な咲夜さんの努力を表す場面に変わり感動しました。
そして、その努力が思惑通りに進まず、歯がゆい思いをし続けてきた咲夜さんだからこそ、初めて笑顔を見せる場面が本当に印象に残る良いシーンになっています。
厨房での小町の能力の使い方もとてもうまいです。文章で説明せずに、結果から読者に過程を想像させているのでスラスラ読めるし場面も想像しやすかったです。
この二人は、ただ仲良くするだけにどれだけの労力をかけるんだと笑って読んでいましたが、これだけ面倒な過程を経たからこそ生まれた二人の信頼関係だと思います。だいたいの読者が想定している異変後の二人の仲の良さに、説得力を持たせてくれるエピソードだったのではないでしょうか。
これぞ美咲ですね。
25.100名前が無い程度の能力削除
なんなんだこの奇妙なテンポは…… 100kbオーバーにも関わらずサクサクと読み進められました。オチも秀逸。
メンドイ咲夜とメンドイ美鈴も可愛いですが、単なるおっぱい枠のはずの小町がいい味出してる
27.100名前が無い程度の能力削除
アイヤー、これは素敵な紅魔館
えてしてマイナスイメージなあだ名やナイフ制裁をこんなにもかわいいものに昇華させてしまうとは・・・お見事でした
あなたの作品は小町が必ずいるのが個人的に最高ですw
29.100名前が無い程度の能力削除
あいやー、お見事でした。
両方とも不器用な従者コンビにここまで悶えることになろうとは。
小町の相変わらずの仕事っぷりに惚れる。
32.100名前が無い程度の能力削除
原作での紅魔館の面々の関係性に上手くつながる話だと思います。
紅魔館に一騒動ありつつも受け入れられる咲夜さんが、幻想郷に騒動の末に受け入れられる紅魔館と重なるような描写で締められているのがとても良いと思います。
34.100名前が無い程度の能力削除
いいものをみせてもらいました
ありがとう
35.80名前が無い程度の能力削除
さっきゅんかわいい
39.100名前が無い程度の能力削除
ギャグだと思っていたらいつの間にかすごくいいシリアスになっていて驚きました。
不器用な二人の様子と心の機敏が詳細に伝わってくるからこそ、美鈴がなけなしの勇気を絞り出すところが熱くて特によかったです。
41.100名前が無い程度の能力削除
読みごたえのある文章量でありながら、さくさく読み進められました。

すばらしき紅魔館に栄光あれ
45.100名前が無い程度の能力削除
あうん
47.100名前が無い程度の能力削除
普段長い作品はつい避けちゃうのですが一気に読んでしまいました
面白い二人の関係に顔がにやけてしまう
そして大根と小町が地味にいい仕事してるw
48.100名前が無い程度の能力削除
二度手間さんの掛け合いのセンスは最高だと思います
49.100桜田ぴよこ削除
面白い!
50.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい!
100点じゃまったく足りない。二人ともかわいいなー。
美鈴と咲夜の間にあったのは、小悪魔とパチュリー、レミリアとフランの間にもあるように、誰にでも経験のあるありふれた問題だ。
でもだからこそ、それに正面から取り組み、当たり前で正しい答えを出す姿はこんなにも美しいんだ!
52.100名前が無い程度の能力削除
b
53.100葉月ヴァンホーテン削除
この咲夜さん、良いですねぇ!
可愛らしさの演出の仕方にも色々あるのですね。感服いたしました。
54.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい
55.70euclid削除
咲夜さんに隠れてしまっているけれども、しれっとフランが可愛らし過ぎるのがまた堪りません。
シュールだったりギャグだったりするものに実はそれ相応の理由があるっていうのは大好きです。
ただその理由部分が、個人的にですが(言っていることがおかしいとかではなく只々純粋に)頭にスッと入ってくれなかったので、
心苦しいですがこういった点数で勘弁願います。
56.100名前が無い程度の能力削除
いやーお上手
出だしでは壊れ系かな?と思っていたのですが笑いをまじえつつ素敵な物語が出来あがっていて
引き込まれるように読めました
57.100名前が無い程度の能力削除
凄く良かった。凄く良かったです! 咲夜さーん!
59.100名前が無い程度の能力削除
とても面白かったです。
60.100名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしい
今はこの言葉しか出てこない
62.100名前が無い程度の能力削除
読み進めていくうちに自然と微笑んでた自分に笑ってしまった。素敵な物語をありがとうございました。
63.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんだけじゃなく紅魔館全体がステキキャラだらけですね
66.100名前が無い程度の能力削除
不器用だけど、そこが素敵。
67.100名前が無い程度の能力削除
面白かった。
会話のテンポもとても素敵です。
69.100名前が無い程度の能力削除
百点!
73.100名前が無い程度の能力削除
びくびくしながら仲良くなるのって、なんかニヨニヨする
80.100名前が無い程度の能力削除
がんばれさっちゃん!!きらきら道中~彼女が中国になった訳~

ち、言う事ですねww
81.100名前が無い程度の能力削除
館の皆がすっごい可愛い。

おでんのようにあったかな紅魔館。

ほくほくです。

こまっちゃんもグッジョブ!
85.100名前が無い程度の能力削除
少しピントのずれたチグハグな会話のやりとりは読んでいて楽しかった。
そして、あまりの咲夜の健気さに思わず彼女を応援せざるを得なかった。
ギャグとシリアスのバランスも良かったが、それにしても作者の小町はとても素敵だ。
彼女メインの話をリクエストしたい。
次回作も期待大。
87.100名前が無い程度の能力削除
アイヤー! いつのまにか、こんなに時間が経ってしまっていたとは!
とても面白く、気付けば全て読み終えていました。
中国と言う美鈴の呼称が、こんなにしっくり来たのは初めてです。
それぞれのキャラが本当に魅力的で、また別の話も読みたいと思いました。

コンニャクが入ってると思いましたが、読みが外れたか(笑)
92.100名前が無い程度の能力削除
長い。けど読むのを止められませんでした。
93.90愚迂多良童子削除
芳香ってキョンシーだから美鈴とカンフーバトルでも出来ないかな、
その場合は棒立ちカンフーって名前にでもなるのか、
とか思ってた矢先にこの作品があって、しかも芳香でてないとか色々奇遇。
95.100名前が無い程度の能力削除
中身餅かと思って食べたキンチャクの中にあっつい出汁の染みた大根
((;゚Д゚)ガクガクブルブル
98.100名前が無い程度の能力削除
魅力のある会話ですね
99.100名前が無い程度の能力削除
会話も地の文もテンポがよくて楽しく読めました。
みんな良いキャラしてるなぁ、素敵です。
105.100mthy削除
最初はギャグかと思っていたら、不意打ちであのシリアス展開
前半の掛け合いですぐにこの作品が好きになったからか、泣きそうになりましたが、
最後は温かい気持ちになれました

不自然さを感じない感情表現やテンポのいい文章は、
まるで登場人物たちが自分の意思で動いているかのようでした

この作品を読めて本当によかったです
106.100名前が無い程度の能力削除
私自身、咲夜さんが、完璧で瀟洒なメイド長というキャラがどうも苦手で……。
この作品を読んで、その理由に気付かされました。
あいやー。中国をバカにできないね。私も咲夜さんの笑顔を見てみたくなった。
気づけば書けるようでなかなか書けないテーマ。
紅魔館にはまだまだ可能性があるなあと考えなおされました。
もっと多くの方々に読んでもらいたいめーさくの名作ですね。
惜しむべくは冒頭の壊れギャグ風のやりとりがあまり面白くなかったこと。
咲夜さん苦手だったから、彼女の奇人ぷりを見てひいてしまった。(ごめんなさい、咲夜さん)
115.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんのぷいっでもう十分だよ。思考が止まったよ。死ぬかと思ったよ。
117.100名前が無い程度の能力削除
素敵っ
夏も近づく八十八夜 そんなことよりおでんたべたい
118.100名前が無い程度の能力削除
言葉で感想を表現するのがこれだけ難しい作品には始めてあった気がする
序盤の只々シュールなシーンや温い雰囲気と、中盤からジワジワ熱せられていたものが破裂するようなシリアスな展開のギャップがたまらなく好きになったのだけども、言葉にするとやっぱりこれも正解でない……

最初はぶっちゃけブラウザバックしようか迷ったし、面倒臭い奴らしかいねえこの館w突っ込み役足りんwくらいで見ていたものだけど、最後まで読んで良かった
本当に面白かったことだけは間違いない
119.無評価名前が無い程度の能力削除
読み終わってからしばらく経って気付いたんだけど、中盤で小町が「距離を操る程度の能力」を自分にしか使ってないことから美鈴は小町の能力を瞬間移動だと勘違いしてて、その後咲夜さんとの距離を縮められても美鈴は小町のやった事だと気付かないんだね。
芸コマや!
120.100名前が無い程度の能力削除
生真面目で変人な咲夜さんの魅せ方が上手い。
素晴らしい作品ありがとうございました。
122.100名前が無い程度の能力削除
第一印象とは真逆のお話でびっくりしました。
最高。
124.無評価名前が無い程度の能力削除
素晴しい、と
125.100名前が無い程度の能力削除
点忘れw
127.100名前が無い程度の能力削除
また奥深いSSが生まれちまったな…
131.100名前が無い程度の能力削除
Windows東方最古参クラスの紅魔館メンバーですら、こんなにも新しい顔を魅せてくれる。
氷の美貌という冷徹なイメージに固まりつつあったり、萌えキャラさっきゅんという一面が押されつつあったり、そしてまた、新たに不器用っ魔犬娘という可能性を見いだされたり。
ああ、善き哉善き哉、紅魔館。美鈴もこまちちも、勿論咲夜も、味があって軽妙な掛け合いがここちよかったです。
136.100名前が無い程度の能力削除
時間を忘れて読みました
137.70名前が無い程度の能力削除
あいやー
140.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんに只々萌えました。素晴らしい作品をありがとうございます。
141.100名前が無い程度の能力削除
これまで咲夜さんと美鈴の関係をテーマとする作品を何度も読んできました。
そこに描かれる二人の関係性の形は様々でしたが、ここへきて、私の中の決定版とも言うべきものに出会えた気がします。
軽妙な掛け合いのセンスも実に好み。素晴らしいお話を読ませていただき、ありがとうございました。

背後を取り合う二人→どこまで行くんですかのくだりでドラクエの四コマを思い出したのは俺だけでいい。
144.80名前が無い程度の能力削除
いい咲夜さんでした。虚勢って萌えるなあ
ギャグがどことなく秋田禎信チックなのも好み
146.100名前が無い程度の能力削除
面白い咲夜さんだ。
楽しかったです。
150.100名前が無い程度の能力削除
あふん!個性的だ……実に個性的、素晴らしい。二次創作のあり方の一つをこれでもかと感じました。そして語彙の少なさが恨めしく程美辞麗句を並べ立てたくなる作品でした。
154.100名前が無い程度の能力削除
善し善し善し善し善し善し善しィ!
ほむほむ
158.100名前が無い程度の能力削除
お見事でした。紅魔館の話は多々あれど、こんな紅魔館は読んだことがありません。

終盤の咲夜の台詞、「私たちは紅魔の犬で。今夜のおゆはんは、おでんだからよ」というのが個人的に気に入りました。理由になってないし、馬鹿馬鹿しい。でもどこか信頼できる、そんな不思議な力が備わっているような台詞だと思います。
165.100名前が無い程度の能力削除
ここまでシリアス分の少ない100KBは初めてだった。
ゆるゆると最後まで楽しく読ませていただきました。
168.100名前が無い程度の能力削除
大根に始まり大根に終わった……。「適応力」いや実に巧く結んだなあと感心しました。
前回、前々回共感じましたが、今回もまた芯のある話の構成が素晴しかったです。一見して東方テイスト溢れるほのぼの路線、しかし物語として筋の通った実に読み応えのある力作。堪能させて頂きました。
171.90名前が無い程度の能力削除
間の読めない奴は間抜け
2人ともいい間抜け
172.100こぶうし削除
面白いお話を読ませてくださって、ありがとうございました!
176.100名前が無い程度の能力削除
なぜだろう、この咲夜さんがとてもいとおしい
ギュッとしたい

あと小悪魔もかわいらしい
えいっとしたい
188.100名前が無い程度の能力削除
美鈴が歩み寄るところ、二度目に読んで不覚にも涙が出た。
咲夜さんの頑張りに共感したからだろう。
良かった、本当に良かった。
189.100名前が無い程度の能力削除
中国…このあだ名にはこんなに良いエピソードがあったのか…
あと姉妹と小悪魔可愛い
199.100名前が無い程度の能力削除
「おっぱい」
202.100名前が無い程度の能力削除
ピント外れのギャグ調の会話って個人的に読むのが辛いんですが、最後まで読んでよかった
美鈴が自分の作っていた壁に気付き、咲夜さんと理解しあえたところが心に響きました
素晴らしい
213.100名前が無い程度の能力削除
話自体もかなり好きですし
あなたの書くレミリアもとても好きです
218.100名前が無い程度の能力削除
傑作とか、大作とか、作品を評する言葉には色々ありますが、私はこの作品を「力作」と評したいと思います。
自分の好みから言えば、細かい欠点が無くは無いです。二人がおでんを作っているシーンからは、少しテンポが遅いように感じますし。
が、それを上回るほどの熱量。作者さんがこの作品に込めた熱量がびんびんに伝わってくるんですよね。

これだけの作品を読ませてもらったからには、100点以外つけることはできません。
大変な力作、どうもありがとうございました。
220.100名前が無い程度の能力削除
あいやー、100点までしかいれられないのが残念な程です。
最後のオチが大好きです。
味のしみたダイコンは本当においしい。
221.100名前がない程度の能力削除
すばらしい!
いい味出してました。
224.90みすゞ削除
セリフ回しが好きです。
あいやー。
235.100名前が無い程度の能力削除
正直、このセンスは凄い。会話もストーリーも戦慄するレベル。
小町といえば、二度手間さんですね。
238.100名前が無い程度の能力削除
大根の花言葉が適応力とはおもしろい。
大根が好きになりました。
239.100zon削除
なんてイケメンな小町…
気持ちよく読ませていただきました、ありがとう。
240.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
自分の中での咲夜さんと美鈴の関係の理想像がこれに変わりました。
249.100名前が無い程度の能力削除
面白い。
咲夜さんかわいい。
251.70名前が無い程度の能力削除
面白かった、面白かったんだけど…
咲夜のコミュニケーションがヘタクソと言う事を読者に周知させる為に序盤のボケとツッコミの応酬があるのはわかるんですが、そこらがちと冗長すぎて苦痛でした
ただでさえ咲夜に日本語通じてない様に見えるから、それが延々続くのかと思って、読むの止めようかと考えたくらいです
中盤以降の展開にスパッと入ってくれればあんま嫌な気分にならずに済んだのかな、と