Coolier - 新生・東方創想話

今日から貴方は私の家族

2011/04/08 11:00:50
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 紅い館の紅いホールには、多くの住民が集まっていた。
 円卓を囲むように座る五人だけではない。部屋の周りには妖精メイドたちが集まり、今から何が始まるのかと期待した声色で近くの妖精と話している。
「皆、よく集まってくれたわね」
 館の主が発した一言で、ざわざわとした声は静まる。静寂がそこにはあった。
「これから第五百三十五回紅魔館会議を始めるわ」
 喋る者は、レミリアを除いて存在しない。皆固唾を呑んで館の主を見つめている。
「お題は――」
 皆を見つめながら、レミリアは言った。
「可愛い可愛い大ちゃんを紅魔館の一員に迎えよう会議よ!」



   ●



 この姉は頻繁によくわからないことを言い出す。
 普段は私にあまり構わないくせに、こういう集まりには必ず参加しろと言ってくるから始末に負えない。この会議は不定期に行なわれる気まぐれ会議なわけだけど、その内容はいかんともしがたい内容ばかりだ。
 前回の「真冬に暖房が効いた部屋でアイスクリーム大食い大会をしよう会議」も理解に苦しむ内容だったし、前々回の「全世界メイド服計画会議」も中々に意味不明だった。
 今回はそれらと比べればだいぶいい、というより比べるまでもない案件ではある。脳内評価を上げてあげてやるのもやぶさかではない。
 しかし、
「お姉さま……大ちゃんってあの大妖精の大ちゃんよね。どうして急にそんなことを言い出すのよ」
「何言ってるのよフラン。大ちゃんとは家族ぐるみの付き合いじゃない。家族ぐるみの付き合いなんだから家族として迎えるのは自然でしょう? 当然出迎えはドレスを着ていくわよ」
「いやいやお姉さま、家族ぐるみだから家族にしてしまいましょうなんて初めて聞いたわよ。あんまり外のことを知らないわたしが言うのも何だけど」
 そう言うとお姉さまはニヤリと笑ってきた。悪魔的な笑いを浮かべる様は当たり前のように似合ってはいるが、中々に小憎たらしい。
「大ちゃんを我が館に迎え入れようと思ったのには理由があってね……ねえ、パチェ?」
「ええ……ほら、大ちゃんはよく図書館に遊びに来るでしょう? それもかなり頻繁に」
 稀にしか見られないまともな発想は、どうやらパチュリーの思惑が関わっていたらしい。評価の上げ損というものである。
「それでそんなに頻繁に遊びに来るなら、いっそのこと紅魔館に住んでしまったらどうかとレミィに相談してみたのよ。そうしたら、ね」
「私としても大ちゃんは可愛いし優しいし天然入ってさらに可愛いしで、紅魔館の一員に加えるのには賛成なのよね。ほら、最近だと一緒にお茶飲んだりもするし」
「私としてもあんなに喜んでお茶を飲んでもらえると、お茶の入れがいがありますわ」
「私としても門を通るたびにちゃんと挨拶してくれたりして、門番のやりがいが出るというものです」
 咲夜と美鈴までもが会話に参加してきた。しかし美鈴、大ちゃんが我が館に住むことになったらそのやりがいは無くなってしまうのではないだろうか。
 いやまあ、私としても大ちゃんが家族になることに反対というわけではないのだ。どちらかといえば賛成ですらある。
 大ちゃんこと大妖精。名前が本来無いにもかかわらず、その大ちゃんという名前はそれなりに有名である。妖精界隈ではなにやらアイドル的人気があるらしい。それどころか、人妖問わずにその人柄は――まあ妖精だけど――概ね多くの幻想郷住民に受け入れられているようなのだ。
 何が人気なのかといえばそう、ありていに言って可愛い。すごく可愛いのだ。そして幻想郷の妖怪や妖精には珍しい人格者なのだ。
 大ちゃんは礼儀正しい。門を入るときのこんにちはと帰るときのさようならは欠かせないらしいし、私なんかと鉢合わせてしまったときもしっかり挨拶してくる。しかも満面の笑みで。
 まるで小さな人間の女の子みたいで可愛いですね、とは美鈴の談である。私もそれに同意したいところであるが、大変残念なことに私は小さな人間の女の子に出会ったことが無い。無い。無いが、まあなんとなく雰囲気は伝わってくる。幼い子は可愛いという事実は理屈ではないのかもしれない。
 もっとも、精神的に幼女なんじゃないかと言われる私が言うのもアレだけど。
「名案だと思います」
「大ちゃんが来るんですか? やったー!」
「大ちゃんが来てくれれば館も明るくなりますね!」
「たまにはお嬢様もいいこと言いますねー」
 妖精メイドにもこの人気。私もその意見には賛成だ。最後の意見も含めて。この際パチュリー発案ということには目をつぶろう。
 勿論、提案に賛成する程度には私は大ちゃんと親しい。はずだ。まあ、友達ということになるのかもしれない。向こうもそう思ってくれているといいのだけれど。
 お姉さまも言ったとおり、紅魔館と大ちゃんにはそれなりに深い付き合いがある。
 巷の湖で人気者の大ちゃんが紅魔館に頻繁に遊びに来るようになったのは、お姉さまの起こした紅い異変が解決されてから数ヶ月経ったときのことだった。
 ファーストコンタクトを行なったのは当然のように門番たる美鈴で、好奇心を胸に紅魔館に遊びに来た大ちゃんは問題なく中に通されたのだった。異変のときならいざ知らず、普段は美鈴も門を通してくれるのだ。
 図書館の本に興味があったらしい大ちゃんは、目を輝かせながら図書館に足を踏み入れたらしい。妖精は子どもっぽくて本に興味がないと思われがちだけど、本が大好きな妖精もいれば新聞を読む妖精だっているのだ。
 パチュリーにも礼儀正しく挨拶していたらしい大ちゃんだけど、やっぱりというか、一番仲が良くなったのは小悪魔だった。
 名無しということで共感できるものがあったのか、それとも純粋に波長が合ったのかはわからない。一週間もするうちに、旧知の友達のようになっていたとはパチュリーの談である。
 私ことフランドールが直接大ちゃんと会ったのは、それからさらに数ヶ月経ってからのことだった。パチュリーや小悪魔から大ちゃんの話を聞いていた私は、少しの期待を抱きながら、一方では不安を感じていた。
 なにせ、お喋りする友達がいるどころか、まともに身内以外と話したことが無いのだ。霊夢や魔理沙のような弾幕ごっこの相手ならともかく、相手は一妖精で、私とまともに戦おうものならあっさりと死んでしまうであろう相手だ。いくらスペルカードルールが普及した幻想郷だとはいえ、戦いを通した交流などできるはずも無い。
 正直に言って、まともなコミュニケーションができるとは思っていなかった。何を喋って良いかわからないし、親しくも無い相手と喋っても、私では気まずい雰囲気になるだけだと思っていた。
 それなのに、である。
 ……あんな笑顔で、こんにちは! って言われちゃね。
 気負けするほどの好意をぶつけられてはどうしようもない。あのときの私の様子は、忘れてしまいたいと思う一方で良い意味で忘れられない思い出でもある。真っ赤になっていたであろう顔を見られたのが小悪魔だけでよかった。これがお姉さまにでも見られてしまった日には、恥ずかしさのあまり悶死を敢行する事態になるところだった。
 しどろもどろになった結果、別の意味でコミュニケーションが取れていなかったという疑惑が無きにしも非ずだけど、そこは、たぶん、些細なこと。
 そんなこともあって、大ちゃんはよく紅魔館に遊びに来るようになった。一番仲良しなのは小悪魔だったけど、私も妖精メイドたちも大ちゃんとたくさんお喋りした。お姉さまと咲夜も図書館に顔を出すことがあったし、美鈴も大ちゃんは可愛いですねえとよくもらしていた。大ちゃんとしっかり挨拶をしたいがために、美鈴のお昼寝が少なくなったことは、小さな副産物かもしれない。
 いつからだろうか、大ちゃんの存在が私達の中で大きくなったのは。あれから数年。さっきお姉さまが言ったとおり、家族ぐるみの付き合いと言ってもいいかもしれないほど、大ちゃんの存在は身近なものになっていた。
 大ちゃんが我が家に住むことになったらどうなるだろう。朝起きて、食卓につくと向かいに大ちゃんが。大ちゃんは満面の笑みでおはようって笑いかけてくる。料理好きな大ちゃんのことだ。いつかは自分でみんなの分の料理を作って、首をかしげながら、美味しい? って聞いてくるなんてことがあるかもしれない。そんなことをされたらもう――
「ああ……いいかもしれない……」
「ククク、フラン。ことの重大性に気が付いたようね」
「独り言に突っ込むのは無しよ、お姉さま」
 しかし重要なことがいくつか抜けているような気がする。まず初めの大前提として、
「大ちゃん本人が嫌って言ったらどうするのよ。まさか、無理矢理連れて来るつもりじゃないよね?」
 わがままなことに定評のあるこの姉である。先日も、おでんに入ってるのがちくわじゃなくてちくわぶだったというだけで、わざわざ咲夜に里までちくわを買いに行かせたほどのわがまま姉だ。嫌がった場合強制連行すると言いだしても驚きはしない。
「いやいやフラン、友人相手にそんなことをするわけないでしょう?」
 流石にそれくらいの良識はあるらしい。
「大体――嫌なんて言われるわけないでしょ? ありえないことを考慮してどうするのよ」
 最悪である。やはりお姉さまはお姉さまということか。いや、大ちゃんのことだ。例え嫌でも、面と向かって嫌ですなんて言わないだろうけども。
 まあお姉さまのことだ。こう言いつつも、嫌といわれれば素直に引き下がろうと考えているはずだ。たぶん。
 それはそれとして、私が気になった点はもう一つ。ここに集まっているのは、私にお姉さま、咲夜に美鈴にパチュリー。そして大勢の妖精メイド達だけだ。
 そう、小悪魔がいない。
「――お姉さま、なんで小悪魔がいないときにこの話をするの?」
 大ちゃんを紅魔館に呼ぶとしたら、一番驚き喜ぶのは小悪魔ではなかろうか。その小悪魔がいないときに何故この話題を出すのだろうか。というか、
「小悪魔って今日、その大ちゃんのところにお泊りに行ってるはずだよね?」
 今朝、小悪魔が悪魔らしからぬ爽やかな表情で館を出て行ったことは記憶に新しい。確か二人だけでのお泊りではなく、親しい妖怪や妖精が何人か集まるお泊り会だと言っていたはずだ。お帰りの予定は、確か明日。
 なんとうらやましい。ではなく、そんなタイミングで切り出すとは一体どういうことなのか。
 疑問のまなざしを向けると、この姉はいかにもな含み笑いを浮かべてきた。
 似合ってるけど、やっぱり妙に小憎たらしい。
「フフフ、そんなの決まってるじゃない。こあにサプライズを与えるためよ!」
 とたんにざわめき始める妖精メイド達。ざわざわとしてきたなあと思ったら、口で「ざわざわ」と言ってる子もいた。無駄にノリがいいのよね、この子ら。
「いい、フラン。楽しい楽しいお泊り会の後、おもむろにこの私レミリアが家を訪れる。なんだなんだと思っている中で、私自らが紅魔館への招待をする……大ちゃんは勿論、こあも驚くことになって二倍の驚きよ! ……どう?」
「どうと言われても」
 あんまり意味無い気がするのは気のせいだろうか。それともノリの問題なのだろうか。
 ……たぶんそうなんだろうなあ。
「でもお姉さま、お泊り会は二人だけじゃないのよ。邪魔にならない?」
「そこは雰囲気次第でなんとかなるわよ。それに解散間際に訪れるなら邪魔にはならないでしょう?」
「……確かにそうねー。お姉さまってにぎやかしの才能あるもんね。そこらへんは大丈夫かもね」
「にぎやかしってなあに」
「お姉さまみたいに場を盛り上げることが得意な人のことよ」
 なんだかんだでお姉さまの企画力と企画の盛り上げようは、上手いの一言に尽きる。その盛り上げスキルの活躍の機会を広げることに余念は無く、近年では主に宴会や花見やパーティーで大活躍中である。
 お洒落な長台詞を決めた後、カリスマ溢れる動きで日傘を上空に放り投げた姿には、我が姉ながら素直にかっこいいと思ったものだ。
 屋外のパーティーでかっこよく決めたため、日差しに焼かれてあたりを転げまわることになるオチをつける完璧っぷりだ。流石は我が姉。
 そんなお姉さまが言うのだ。それなりに自信があるのだろう。
「わかってるじゃない。大ちゃんの気持ち次第だけど、それ以外の要因で失敗することはないでしょうね。まあ見てなさい」
 それ以外の要因といっても、それ以外の要因などないんじゃないだろうか。大ちゃんに我が家に来ないかと問うだけだ。お姉さまがこの世と永遠のお別れをするとか、紅魔館が急遽崩壊する予定があるとかなら話は別なのだが。
 お姉さまの珍しく良い提案だ。成功するにこしたことはない。私自身も大ちゃんが家族になってくれるのは嬉しいし、小悪魔の嬉しそうな表情を想像するだけでこっちまで笑顔になってくるというものである。
「フラン、にやにやするのはやめなさい。気持ち悪いとか言われるわよ? 気持ち悪いわ」
 うっさい。
 ともあれ明日が楽しみだ。具体的にどうするのかはお姉さまが決めているのだろうけれど、もし気が向いたら私も外に出てみてもいいかもしれない。
 ああでも、一つ懸念がないでもない。
「ちょっと心配ね」
「あら、何か気にすることでも?」
 気にするほどのことでもない気はするけど、ちょっとわずかに引っかかることがないでもないのだ。なにせ、それは私達が大ちゃんを館に招く要因の一部だからだ。
 なんというか――
「大ちゃんってさ、人気者だよね」



   ●



「メディ。私、大ちゃんと一緒に暮らそうと思うのだけれど、どうしたらいいかしら」
「前から思ってたけどさ、幽香ってかなり奥手だよね。普通に直接言えばいいんじゃないかしら」 
 二桁の年数も生きていないし、行動範囲もとっても狭い私ですら言える。風見幽香という妖怪は、思春期の女の子もびっくりの奥手だよね、と。
 強気な人間や妖怪に積極的に戦いを挑んで、自分がいじめられるなんて頭に無い奴らをいじめ倒す。そんなアグレッシブで好戦的な幽香だけど、自分の好意を相手に伝えるのはとてもとても下手だ。
 ある夏、幾人かで向日葵畑で遊んでいたときのことだ。遊んでいた私達のところに幽香が歩いてやってきたのだ。なによなによスペルカード戦のお誘いかしらと身構えていると、ただただ無言でこちらを見てきたのである。思いつめたような、それでいて何かを言いたげな雰囲気を醸し出して。
 私達が訝しげに幽香を見つめていたところ、観念したかのようにポツリと呟いたのだった。家にお菓子を用意してあるんだけど、一緒に食べないかしら、と。
 そのとき、私の中の幽香のイメージに一文が追加されたのだった。奥手である、と。
 ついでにいうなら、私が知る限り大ちゃんと幽香が初めて出会ったのもそのときだ。その後、私達――大ちゃん、チルノ、ルーミア、リグル、みすちー――は、たびたび幽香の家にお邪魔することになるのであった。
 中でも大ちゃんは花が好きなのもあって、一人で幽香の家を訪れて、よく花の手入れの手伝いをしているらしい。大妖精は自然の具現。花の妖怪たる幽香との相性は良好なのだろう。
 でも、
「幽香は煮え切らないわよねー。弾幕ごっこのときみたいに強引にいっちゃえばいいのに。ねえ、スーさん」
「う……中々言い出せないのよ、そういうのって」
「弾幕ごっこをしかけるときなんて、とっても自然体で話しかけてるじゃない。私と初めて会ったときなんて、理由も無く勝負になったような気がするよ?」
「あのときは貴方が……いや、そうじゃなくて……」
「幽香っていつもはほんわかお姉さんって感じなのに、こういうときだけ乙女ちっくになるわよねー」
「うう」
 こんなときの幽香はとっても可愛い。勿論いつもの幽香も可愛いけどね。
 しかし幽香がそんなに大ちゃんにご熱心だとは思わなかった。知り合ったのは私のほうが先だというのに、いつの間にか大ちゃんに先を行かれてしまったようね。
 ……あれ、なんだかすっごく悔しい。
「私じゃ駄目なのかなー私じゃ」
「え、何?」
「……なんでもないわよ」
 いや、わかってはいるのだ。私は鈴蘭の毒で動く毒人形。ある程度は自由に動けても、定期的に鈴蘭畑で毒を補充しないといけない。そんな人形と一緒に暮らすのは、いくら幽香が大妖怪と言っても難しいのだ。
 わかってはいる。わかってはいるのだから、幽香もそう考えているんだろう。たぶん。きっと。そう考えているのだということにしておこう。
「むむむ……」
「メディ、もしかして機嫌悪いのかしら?」
「いーえ。そんなことはないわよ」
 我ながら子どもっぽいかなーとも思うけど、実際のところ私は若年妖怪なんだから許されるはずよね。
 まあそれはともかく。
「なんで幽香は大ちゃんと一緒に暮らそうと思ったの? そこらへんをはっきりさせればお誘いの言葉も見つかるんじゃない?」
「え、ええ。そうねえ」
 そういうと、幽香は快晴の青空に視線を向けて遠い目をし始めた。浸ってるわね。
「ええとね、ほら、私って一応大妖怪で通ってるじゃない?」
「実際大妖怪じゃない……それで?」
「やっぱり私みたいな妖怪だと、相手の反応がそれ相応のものになるのよね。それで――」
「――それで、大妖怪だって事を気にしないで接してくる大ちゃんの人柄にあてられちゃったの?」
「まあ、そういうことね。あの子ったら、少し指を切っただけなのに、我がことのように心配してくれるのよ? ちょっと指を切ったくらい、私みたいな妖怪ならすぐに治るっていうのに……絆創膏なんて貼ってくれたの、大ちゃんが初めてよ。まったく、なんで持ってるのよって思ったわ」
 似たようなことは私もやられたことがある。人形だから必要ないって言ったのに、それでも、本当に大丈夫って聞いてくるのだ。
 一歩間違えれば、単にしつこいだけかもしれないその行為は、不思議と好意となって私達の心の中に入り込んでくる。あれは一種の才能よねー、と昔ルーミアが言っていたような気がする。
 後はね、と幽香は言う。
「大ちゃんって私と一緒で花が好きだし、お料理も共通の趣味なのよ。この間二人でお料理したときは、うっかり作りすぎちゃったわね」
 この間夕飯をご馳走になったとき、妙にたくさんの料理が出たのはそれが原因だったのか。主にルーミアが食べまくったので、完食することはできたけど。
 まあ確かに大ちゃんは優しいし、幽香との波長もピッタリなんだろうし、ついでに言うととっても可愛い。惹かれないほうが不思議というものである。大ちゃんの魅力は友達の私からすれば、まだまだ出てくるし――
「それにね、メディ。私は大ちゃんに感謝してもいるのよ?」
「えっ、感謝?」
「そう、感謝。それと、メディ。貴方にもね」
 私と大ちゃんに感謝。私、幽香に感謝されることなんてあっただろうか。
「……覚えてる? 私、貴方達が遊んでるときにお菓子を食べないかって誘ったときがあったじゃない?」
 勿論覚えてる。アレは、私と幽香が、知り合いから友達に変わったきっかけなんだから。
「あのときね、実は私、メディだけじゃなくて大ちゃんとも知り合いだったのよ」
それは初耳。てっきりあのときが初対面だと思っていた。
「……友達だったの?」
「ううん。本当に、たまたま出くわして、一言二言話しただけ。でもね」
 幽香は言う。やっぱり空を見上げながら、何処か遠くを見るようにして。
「知り合いが二人いるってだけで、皆に話しかけるための勇気になったのよ。……私、メディや大ちゃんみたいな友達、それまでいなかったのよ。私と同じような力の友人しかいなくてね。貴方達のような、力を抜いて接することができるような友達が」
「それって、私達が弱い奴らなんだって言ってるのって質問はいじわるかしら?」
「ふふ、ごめんなさい。そういうわけじゃないの。……何度も戦って何度も勝って何度も負けて、そうして友人になった相手にはね、弱い私をみせたくないの。――傲慢かもしれないけどね? でも、弱い私を見せて、失望して、残念だって思いを得てほしくないのよ」
 私に向き直りながら幽香は言う。
「だから、ありのままの自分を見せられる友達の存在が嬉しかったの。そのきっかけになってくれた二人には、本当、感謝してるわ。二人だけじゃない。リグルとも、ルーミアとも、チルノとも、ミスティアとも友達になれたことを、有り難いことだって、そう思ってるわ」
「私も皆と友達でいられるの、嬉しいよ?」
「……ありがとう」
 思わず思ったことがそのまま口に出てしまった。
 でも、まあ。
 悪い気分じゃないからいいとしよう。
「まあそんなわけで、大ちゃんと一緒に住んで、もっと皆と楽しめたらなーなんて思ったのよ」
「一応聞いておくけど、私は?」
「私が鈴蘭の花を咲かせておくって手もあるけど、ずっと維持してるとなると、自然のバランスが崩れちゃうわね」
「だよねー」
 上手くいかないものである。
 まーそれなら。
「それじゃあ……大ちゃんが幽香家に嫁入りできるように頑張ろう? 勿論、大ちゃんの意思優先でね」
「嫁入りって言い方は引っかかるけど、協力してくれるのね」
 これだけ話されて協力しないわけ無いじゃない。それに、私達は友達でしょう?
 なんて、そんなことは口には出さないけどね。いくら私が人形だからといっても、赤くなるところは赤くなるのだ。
 そんなことを考えてるとはつゆと知らない幽香が聞いてくる。
「それでメディ、どうやって大ちゃんと一緒に暮らそうって打ち明ければいいと思う?」
 協力はするつもりだけど、最初から答えは出ているような気がするのだけれど。
 目を輝かせた幽香に問われた私は、少し悩んだ後にこう言ったのだった。
「――直接言えばいいんじゃないかしら」



   ●




 ――妖精の家は普通の人間には見ることができない。
 ただの人間にはただの木にしか見えないのに、妖精からすると三階建ての立派な家だと見えることもある。どう見ても子ども並みの大きさの生物が住めるスペースすら無いように見えても、そこには妖精が住み着いているということもある。
 そんな妖精の住処に立ち入るには、いくつかの条件がある。そのうちの一つが、その宿主の妖精自身が、我が家への立ち入りを許している場合だ。
 その妖精の許しを貰っている者は部屋の中にいた。
 小悪魔、チルノ、ルーミア、リグル、ミスティアの五人だ。
 皆が寝息を立てて眠る中、一人朝日を浴びる影があった。
 大妖精だ。
 朝日が眩しい。しかし嫌かというとそんなことはなく、むしろ気持ちがいいと、大妖精はそう思う。
 朝日といっても、太陽の位置はやや上ぎみだ。少しお寝坊さんだったかなと思うが、たまにはいいよね、とすぐに思いなおす。
「昨日はたくさん皆と話せて、楽しかったな」
 皆と遊ぶのはいつものことでも、夜遅くまでお喋りをする機会なんてそうそうないと、大妖精は思う。昨日は参加者の半数が夜行性の妖怪だったこともあり、遅くまで話していた。昼間に遊んだときの疲れがあったのか、流石に徹夜で話し込むなんてことはしなかったが。
 ……今度はメディと幽香さんも呼びたいな。メディは一緒に寝ると毒が漏れちゃうかもしれないからって言ってたけど、なんとかする方法はあるはずだよね。幽香さんもたまたま用があって駄目だって言ってたけど、今度は大丈夫だといいな。
 しかし誘ったとき、妙に顔が赤かったのは何故なのだろう。「いきなりお、お泊りなんて駄目よっ……そう、そういえばその日は先約が入っていたのよ! 残念だわ!」とやけにテンションが高かったのが謎といえば謎だが、それはまあ次のお泊り会のときにでも聞けばいい話だ。
「さて! そろそろ朝食を作って皆を起こさなくちゃ……って、あれ?」
 眺めていた窓の外に、人影が見えていた。それも知り合いの姿が三人だ。
「レミリアさんに咲夜さんにフランちゃん……?」
 吸血鬼たる二人が、こんな時間に一体どうしたのだろうかと、大妖精は思う。もしかして、こあを迎えに来たのかとも。だが、
「お迎えにしても変だよね。二人の服装、いつもよりもなんだか綺麗だし……」
 パーティードレスにも見える豪華な衣装に吸血鬼の姉妹は包まれていた。
 ……ええとなんであんなに綺麗な服を着てるのかはわからないけど――
 とにかくドアを開けて出迎える準備をしよう。寝起きのままだけど寝癖は大丈夫だろうか。
 そんなことを思いつつ、騒がしく鍵を外してドア開く。
「おはよう御座いますー」
 元気のいい挨拶と共にドアを開けた先には吸血鬼姉妹とそのメイド、ではなく。
 風見幽香その人が立っていた。



   ●



 あっれー、どうしてこんなことになったのだろう。
 今朝、私とお姉さまはまるで健康的な人間のように目を覚まし、健康的な人間のように身支度をし、健康的な人間のように午前中のさわやかな太陽の中に身を躍らせた。勿論、日傘つきで。しかも服装はいつもどおりではなく、パーティー用の特別なドレスで、だ。
 目的は勿論一つ。大ちゃんの家に行き、私達の家族にならないかと言うためである。まるで愛の告白でもするのかという言い方だけど、大体同じような物である。
 準備は万端。待ちきれないのは私もお姉さまも、たぶん咲夜も同じ。衝動を抑えることなく大ちゃん宅までやってきたのだ。
 そう、やってきたのだ。ここまで順調だった。
 なのに、だ。
「風見幽香……? お前が何故ここにいる」
 お姉さまの声が響く。私の知らない彼女は風見幽香というらしい。見るからに、というか、感じるからに私やお姉さまと同等の力の妖怪だということがわかる。
 しかし、その力の強い妖怪であるところの風見幽香さんが何故ここに?
「あら、レミリアじゃない。私はここに住んでいる大ちゃんに用があるの」
「なん……だと」
 お姉さまの額に汗が一粒。まさかこいつ、と言いたげな表情を浮かべるお姉さまがいた。運命でも感じ取ったのだろうか。
「お前、大ちゃんに何の用があるというの……?」
「貴方には関係ないでしょう?」
「それがあるのよ。私達の目的も、大ちゃんだからね……!」
「なん……ですって」
 今度は幽香が驚きの表情を浮かべる番だった。しかも後ずさりしながら。
 なんでこう力の大きい妖怪はリアクションも大きいのだろうか。私としてもそれなりに驚いてはいるけれども。
 幽香の隣を見れば、やや力の弱そうな妖怪が驚きと呆れを半分ずつ混ぜたような顔をしていた。たぶん私も同じような顔をしているはずだ。
「……ぉはよう御座いますー」
 にらみ合う二人の間に響く、寝ぼけたような可愛らしい声。声と共に開かれたドアから出てきたのは、話題の中心大ちゃんである。
「あれ……幽香さん? それにメディも。ええと、レミリアさん達も。一体どうしたんですか?」
 どうやらこちらの二人組みと大ちゃんは知り合いらしい。まあわざわざ家を訪ねるぐらいなんだから、それも当たり前か。
 問題はどういう用件でやってきたかである。まさか私達と同じように、大ちゃんと一緒になろうなんて用件ではないと思うけど。
「おはよう大ちゃん。ええと今日はね、その、なんていうか、つまりね?」
 幽香という妖怪はなんとも煮え切らない人のようだ。隣の妖怪の表情がじと目に切り替わるのに時間はかからなかった。
「何をやっているの風見幽香。どいていただけるかしら?」
「えうっ」
 えうってなんだえうって。この妖怪、妖気の大きさと反比例して態度が謙虚過ぎるのではないだろうか。
「フフフ大ちゃん。今日は貴方に重要なことを伝えに来たのよ」
 そこのところ、うちの姉は態度が大きいことに関しては定評がある。お姉さまのことだ、ずばりと言ってくれるに違いない。
「大ちゃん! よかったら……ええと本当に大ちゃんがよかったらの話なのだけれど……ちょっと提案があるのよ。それはえーとね」
 あんたもか。
 威張り散らすのと大言を吐くのには慣れているのに、なんでこういうときだけ伝えるのを躊躇するのだろう。
 もしかすると引きこもりの私が知らないだけで、身内以外とのコミュニケーションが下手なのかもしれない。どうやら私はお姉さまの意外な一面を垣間見てしまったようだ。
「お姉さま、今度一緒にコミュニケーションの練習しましょう?」
「妹様、お嬢様はコミュニケーション能力が低いわけではありませんわ。単に本番に弱いだけですわ」
「よく異変なんて起こせたわね、お姉さま」
「幽香ったら何やってるのよ。折角私が朝まで告白の練習相手になってあげたのに」
 向こうの妖怪もなにやら苦労しているらしい。もしかしてお姉さまも一人で練習したりしたのかしら。
「お嬢様、幽香も何か言いたいようですし、まずは話す順番を決められてはどうでしょう」
「幽香、咲夜が言ってるようにしたら? 大ちゃんも困ってるわよ」
 程度の差はあれど、どうやら皆はある程度の面識があるようだ。むむむ、私の人脈の狭さが発揮されているようね。
 唯一の知り合いであるところの大ちゃんに視線を移してみれば、ぽかんとした様子の困り顔だ。
 そりゃそうなるわよねー。
 とにかく話の順番を決めなければ先に進まない。それはお姉さまも向こうも同じ考えだろう、と思っていたのだが、
「ククク……咲夜、その必要はないわ」
「ふふ、そうね。どうやら私とそちらの目的は一緒のようだしね」
 なんで分かり合ってるんだこいつらは。後さっきまでどもりまくってた二人がかっこつけても意味無いからと言ってやりたい。何がクククだ。
 謎の第六感で分かり合っている二人はわりと謎だけど、もしその直感が正しいとするならばやっかいなことになる。というか私の嫌な予感が当たってしまったということか。
「風見幽香。ここはいっせーのせで言うことにしましょう? そのほうが平等なはずよ」
「そうね。いっせーのせで言いましょう。いっせーのせ、ハイのタイミングだからね。いっせーのせの“せ”で言っちゃ駄目だからね?」
 なんだその可愛いやり取りは。
「じゃ、じゃあ行くわよ?」
「え、ええ」
「いっせーの――」
「あのー、外で話すのもなんですし、話なら家の中で聞きますよ?」
 大ちゃんの気遣いが優しくて生きるのが辛い。
 この告白、無事に終わるんだろうか。



   ●



 今回のことでわかったことがある。大ちゃんの家は、やけに広い。
 お泊り会をしようと誘われたときは、そんな人数が家の中に入るのかと疑問に思っていたけど、これなら小さな宴会くらいはできそうだ。
 妖精は自然の権化であり、その妖精が宿ったものは自然としての力を得ることになる。妖精の中では大きい力を持つ大ちゃんが住む大木の家は、力に影響されて部屋の一つ一つまでもが大きくなっているのかもしれない。
 お泊り会のお誘いを辞退した私だけど、こんな形で大ちゃんの家にお邪魔することになるとは昨日の朝の時点では思ってもみなかった。
 しかしこの状況、完全に告白のタイミングを逃してしまっているのではなかろうか。
「大ちゃんの料理はおいしいわねー。最強のあたいだけど、料理だけは大ちゃんに負けるわね」
「うん、これはおいしいね」
「今度は大ちゃんの人肉料理が食べてみたいなー」
「大ちゃん今度私の屋台で料理してみない?」
「確かにこれはおいしいわね。うちの妖精メイドにも見習わせたいわね」
「咲夜さんが料理の腕で褒めるなんて珍しいですね」
「そんな……それほどでもないよ。素材がいいだけだよ」
「大ちゃんったら謙虚ね!」
 まだ朝食を済ませていなかったらしいお泊り組みと共に、私達は朝食をご馳走になっていた。どう考えても切り出せるような雰囲気ではない。
 昨日の夜から出かけるまで告白の練習をしていた私と幽香と違って、レミリア達は朝食を済ませていたと思っていたのだけれど、どうやらそうでもないらしい。こあから昔聞いた話からすると、レミリアは吸血鬼だったはずだ。
 こあはたまにしか外に遊びに来ない。いつもの遊び仲間の中で一番親しい友達は、紅魔館によく遊びに行くらしい大ちゃんだ。でもだからといって、私はこあと話したことがないわけじゃない。
 こあの家族構成は聞いたことはある。いや、こあは使い魔らしいし家族というのはおかしいのかもしれないけど、まあ似たようなものということにしておく。
 そんなわけで、こちらの三人のことは私も知っている。会うのは初めてだけど、想像通りの人達だ。
 館の主のレミリアに、完璧な仕事に定評があるメイド長の咲夜。そしてレミリアの妹のフランドール。
 吸血鬼ということは、普段は夜起きて朝に寝る生活なんだろうから、もしかすると生活のリズムが崩れてご飯を食べるタイミングを逃したのかもしれない。
 そんな主ともう一人に合わせて朝食を抜いてくるとは、流石は咲夜といったところなのだろう。
 幽香のおかげでご飯抜きだった私も、大変美味しくご飯をいただいている。人形妖怪たる私は本来食事をしなくてもいいのだけれど、美味しいものは美味しいのだから仕方が無い。
 もくもくとご飯を食べる幽香とレミリアは、さながら借りてきた猫のような大人しさだ。二人とも、そんなキャラじゃないでしょうに。
 やれやれとは思うけど、とりあえずここは大ちゃんの料理に舌鼓をうつことにしよう。折角の大ちゃんの手料理を味わわない手は無い。
 そんなこんなで。
「ごちそうさまー」
「はい、お粗末さまでした」
 つつがなく朝食は食べ終わった。美味しい料理を食べた皆はほんわかムードに包まれていた。若干二人を除いて。
 一見澄ましているような二人だけど、私には二人とも余裕が無いのがわかる。たぶんフランドールもわかっているんじゃないだろうか。
 だいたい家の前でのていたらくはなんなのだろう。あれほど告白の練習をしたというのに。
 なんにせよ、このままでは二人とも切り出せないのは火を見るよりも明らかだ。何かいい話の振り方はないだろうか。
 そんなことを思っていると、
「そういえばレミリア様達は何の用で来たんですか? 私のお迎えってわけでもないようですし」
 救いの手はこあから差し伸べられた。家の前でやっていたように、レミリアに乗っかって幽香も言ってしまえばいいのだ。
「……ふむ、そうね。そろそろ言ってもいいころね。そうでしょう? 風見幽香」
「ふふ、そうね。レミリア・スカーレット」
 事情を知らなければ大変かっこよく決まって見えたのだろうけど、大変残念ながら私は事情を知っている側だ。
 だからぽかんとしながら疑問を浮かべる役は他の皆に任せて、私は援護に回ることにしよう。
「さっきの手はずで行くわよ?」
「わかったわ。行くわよ」
「ええ、そうしましょう」
「じゃ、じゃあ行くからね?」
「え、ええこっちの準備は大丈夫よ?」
「早く言えよ」
 思わずフランドールとハモってしまった。
 どこまでへたれなのだろう、この二人は。
「ああもうまどろっこしいわね! そっちの妖怪、私に合わせて!」
フランドールから援護の要請が来た。こあはフランドールに私のことを話してないのかなーなどと思ったけど、ここは素直に援護射撃することにしよう。
「了解よフランドール! レミリア! それに幽香も! 準備はできてるんでしょう!?」
「え、え、何で私の名前を、いやちょっと待って!」
「ちょ、ちょっとメディそんなに急かさなくても!」
「問答無用よお姉さまに風見幽香。せーの」
「いっせーのせ! はい!」
私とフランドールの二人の掛け声に押されるようにして、幽香とレミリアはぽつりと同じ台詞を呟いたのだった。
「大ちゃん……私と一緒に暮らさない?」
 言った。
 ついに言った。思わずガッツッポーズをしそうになるけどそこは我慢。ここはただ大ちゃんの反応を待つだけだ。
 しかし大ちゃんは、何を言われたか今ひとつ理解していないようだ。
「ええと……暮らすって、お泊りのことですか? それなら今度は二人も一緒で楽しいですね」
「そういうことじゃないのよ大ちゃん。私の館に来て、そこで一緒に暮らそうという話よ」
「私の言いたいのもそういうことよ。私とレミリアは、貴方と一緒に暮らしたいと思っているのよ」
 ……これ、どう聞いてもただの告白だよね。ここまでいくと、私大ちゃんの料理なら毎日でも食べたいと思ってるの、なんて言い出しかねない。
 しかしまあ、成功は成功だ。想いのたけをぶつけた今、後は大ちゃんの気持ち次第。皆も空気を読んでいるのか、黙って大ちゃんの返答を待っている。こあの表情が大ちゃん以上に驚き顔になっているあたり、今回のことはこあにとってもサプライズだったのだろう。
 大ちゃんは最初は理解が追いついていないことがありありとわかる表情だったのが、次第に驚きの感情が追加され、そこに困惑がプラスされた顔になり、最終的には、
「ええっ!? 私が二人とですか!? そんな、私なんかとどうして――」
「私なんか、なんて言わないで」
「そうよ、私達は貴方が好きだからこう言ってるんだから」
 とうとう直接好きだなんて言い出す二人。どうやらこの二人は話を切り出すのは下手だけど、一度喋り出すと止まらないタイプらしい。こあの主人のパチュリーとかいう人は確かレミリア家の居候だったはずだけど、そのときもこの人はこんな愛の告白を披露したのだろうか。
「ええと、ありがとうございます。突然のことでびっくりしましたけど……あの、本当に私なんかで、いえ、私でいいのなら。えと、よろしくお願いします」
 おめでとう幽香。おめでとうレミリア。二人の精一杯の告白は実を結び、見事同棲生活の未来が約束された。練習に付き合った私としても、とても嬉しい。練習の成果は発揮されなかったけど。
 ってあれ、二人? 二人にOKのお返事は一夫多妻制が採用されていない幻想郷では許されざることである。大ちゃんは一体――
「それにしても私知りませんでした。幽香さんとレミリアさんが一緒に暮らしていたなんて」
「えっ」
「お二人でのお誘いということは、二人とも同じところに住んでいるんですよね? 驚きました。私の友達同士が家族だったなんて」
 静まる空気。いつもは元気いっぱいのチルノでさえ、その内に秘める能力を遺憾なく発揮し場の空気を冷やすことに余念が無いようだ。いや、本当は違うのだけれど、そんな風に感じるほど場の空気が静まり返ったのだ。
 私は忘れていた。大ちゃんの可愛さの理由の一つに、少し天然だって理由があるってことを。

 笑顔の大ちゃんの前で、思わず顔を見合わせた幽香とレミリアがなんともいえない表情を浮かべていた。



   ●



「あら、この紅茶美味しいじゃない。葉が良いのかしら。それとも入れ方が上手いのかしら」
「少なくとも後者の理由が当てはまるのは確定ね。もっとも、葉も咲夜が用意した以上、良いものであることはわかりきってるけどね」
「良いメイドを持っているのね。羨ましいわ」
「何言ってるのよ。今は貴方のメイドでもあるのよ。なにせ私の友人なんだから。勿論大ちゃんのメイドでもあるわよ?」
「ふふ……そうだったわね」
「わ、私のメイドだなんてそんな……」
「そんなに構えなくて良いのよ?」
「私が言うのはおかしいかもしれないけれど、もっと力を抜いたほうがいいわよ?」
 ――結論から言えば、紅魔館の住民が二人増え私の友達が六人も増える結果になった。
 あれから一月。大ちゃんの紅魔館への引越しは問題なく終了し、何故か居候することになった幽香も我が家にやってきたのだった。
 大ちゃんの勘違いを気が付かせないように、大ちゃんが引っ越してくる前に引越しを済ませるあたり、幽香はしっかりしている。
 そんなにあっさり引越しして大丈夫なのかと聞いてみたところ、幽香いわく、どうせ季節ごとに移住する生活を送っていたんだからこれくらい問題ないわよ、とのこと。
 そもそも無理に大ちゃんの勘違いに合わせる必要はないんじゃないかと思ったりもしたけど、あんな笑顔を見せられたら否定はしにくいというものだ。それに、二人が大ちゃんを取り合って戦ったら、一番気にするのは大ちゃんだろうし。
 私はというと、あの場にいた面々と知り合いになり、大ちゃんと小悪魔経由で友達になることに成功したのであった。大ちゃん以外の皆も紅魔館に遊びに来るようになっただけじゃなく、幽香という力を出し切れる弾幕ごっこの相手ができたのはとっても嬉しいことだ。
 同じような境遇だったらしきメディとは、妙に話があった。今回の件が無ければ、皆と友達になる機会もなかっただろう。嬉しいことだ。
 大ちゃんがあんなことを言い出したときはどーしたものかと思ったものだけど、終わってみれば全て丸く収まっているように思う。
 お姉さまと幽香は中々相性が良いらしい。初めこそどうしてこうなったという気持ちで引っ越してきたのだろうけど、今ではこうして優雅なティータイムを楽しむ仲だ。
 まあ、大ちゃんに告白するときの様子を見ていれば、息が合わないわけが無いと思う人が大半だろうけど。
 大ちゃんも幽香も紅魔館の生活には馴染んでいるようだ。大ちゃんは相変わらずの眩しさで館に明るさを振りまいているし、幽香も花壇の世話を美鈴と一緒にしたりして、太陽の恩恵を受けることに余念が無い。それでいいのか吸血鬼の館とも思うけど、実際幸せに感じているんだからこれでいいのだろう。
 家族は増えたし友達も増えたしで、幸せすぎてこあい。
 こあ、もとい小悪魔といえば、大ちゃんと暮らすということが決まって大変大変驚き喜んでいた。お姉さまの狙い通りになったわけだけど、二倍の驚きと喜びになったかは神のみぞ知る、じゃない。悪魔のみぞ知ることだ。
「なんにしろ、幸せよねー」
「フラン、悪魔が幸せをただ享受するのはいけないわ。悪魔らしく強欲にさらなる幸せを掴みにいきなさい」
「独り言に突っ込むのはなしよ、お姉さま」
 こんなにも幸せなのにこれ以上を望むなんて、なんて悪魔なのだろうかこの姉は。こわいこわい。
 もっとも、こんな私でも願わないことがないでもない。なにせ毎日のように起こるのだ。流石に気になるというものだ。
 そんなことを考えていると、今日も今日とて同じことが目の前で起ころうとしている。
「ね、ねえ大ちゃん。ちょっと話があるんだけど……そうよね幽香?」
「え、ええ」
「何かあったんですか? 私でよかったらなんでも言ってください」
「何かあったというわけじゃないんだけど……」
「ちょっと提案があるだけなのよ、うん」
「ええとね」
「ええとね」
 ……何かを提案するたび毎回この様子である。折角家族になったんだから、気後れする必要なんてないのに。そんなに構えなくていいっていうのは今のお姉さまと幽香に送るべき言葉だろう。
 何が紅魔館の一員に加えるのには賛成なのよね、だ。お姉さまだって大ちゃんのことが大好きなんじゃないか。
 全く、世話がかかる。
「お姉さまと幽香は、大ちゃんと一緒にお風呂に入りたいんだって。さっき大ちゃんが来る前に話してたわ」
「ちょっとフラン、何で言っちゃうのよ!」
「そうよ、私が言おうと思ってたのに何でフランが言うのよ」
「どの口で何でとか言うのかなーこの二人は」
「お風呂ですか……? でも吸血鬼の方って水に弱いんじゃないんですか?」
「私のような吸血鬼ともなると、お風呂くらいは余裕なのよ」
「レミリアさんが大丈夫なら、私はいいですよ」
「やった!」
「二人して子どもみたいな声あげないでよ……」
 小さい悩みはあるけれど、そんな悩みもそのうち解決していくのだろう。
 それまでは私が二人をフォローすることにしよう。それに、こんな日常を眺めているのも中々悪くないものだし――
「あ、じゃあフランちゃんも一緒にお風呂入ろうよ!」
「えっ。え、え、ええっ!?」
「折角だからこあちゃんとパチュリーさんも誘って一緒に入ろう? 皆で入ったほうが楽しいよ?」
「え、ええと」
「六人までなら一緒に入っても大丈夫だよね。紅魔館のお風呂大きいもん。あ、じゃあこあちゃんとパチュリーさんにも話してくるね!」
「ちょっとー!?」
 返事を待たずにぴゅーっと飛んでいってしまう。なんでこう、大ちゃんはあんなに直球なんだろう。お姉さまや幽香の真逆ではないか。
 ああ、頬が熱を持っているのがわかる。駄目だ、やっぱり大ちゃんには敵わない。
 ええい、お姉さまも幽香もこっちを見てニヤニヤするんじゃない。
「ああっ、もう」
 思わずうずくまる私。
 
 ああ、恥ずかしい。
 どうやらお姉さまと幽香に偉そうなことは言えないみたいだ。
 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
 初投稿になりますが、楽しんでいただけたら幸いです。
 こんな家族があってもいいよねと思いながら、好きなように書いてみました。
 文章を書くのは難しいですけど、それ以上に楽しいですね。

 追記
 感想と誤字の指摘、ありがとうございます。初めての感想、本当に嬉しいです。
 何度か見直したのですが、見落としが多くて恥ずかしいばかりです。初めと始めの違いは失念していました。助かりました。
 意図的な表現以外の誤字を修正しました。
海景優樹
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コメント



0.1710簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
最高です
6.100奇声を発する程度の能力削除
天然大ちゃん可愛いよ
8.100LOS-V削除
おぉう大ちゃん可愛い。
シマリス君みたいな幽香も可愛いし、冷静なように見えてデレッデレなフランもグッドです。
可愛いは正義。あとメディスンがハブラレなくて幸せです。
12.100名前が無い程度の能力削除
こういうのが読みたかったんだよな
17.80コチドリ削除
大ちゃんアッチョレ人気者~♪ って古過ぎるがな。

初投稿おめでとうございます。楽しく物語を読ませて頂きました。
これはまた果てしなくほのぼのしい幻想郷ですね。
一見被保護者、でも実は保護者的な立場でもあるフランちゃん&メランコの視点も良かった。

ただ、あくまで個人的な欲求ではあるのですが、もうちょっと山場となるシーンも見たかったかな、と。
一触即発のレミ様と幽香、あわや激突か? と皆が目をつぶった瞬間、大ちゃんの「めっ!」が炸裂とかね。
このお話においてはやっぱり大妖精が主人公。
彼女の魅力は十分伝わってきました。でも私はわがままなので十二分を求めちゃうんだよなぁ。
好き勝手な感想、ホントごめんなさいね。次も期待しています。
24.100名前が無い程度の能力削除
いいねえ、面白かったです。
27.100名前が無い程度の能力削除
良いなあこの雰囲気
レミリアと幽香の仲が良好で三角関係になってないのがまた良い
30.100キャリー削除
みんな可愛いです///

そして「大ちゃん・レミリア・幽香」という登場人物から予想できる他の登場人物も余すことなく使われており、大変良かったと思います^^
31.100名前が無い程度の能力削除
私を萌殺させたいのですか?
最高至高
33.100名前が無い程度の能力削除
ああ、夢の大家族だ……
しかも大ちゃんを中心に回っているのが素晴らしい!
34.100名前が無い程度の能力削除
こんな大ちゃんが見たかったんですよ。
全力で感謝です。
37.100名前が無い程度の能力削除
紅魔館+大妖精+幽香。よくよく見ればすごく合理的かつほのぼのかつ楽園……!

レミリアと幽香がいい感じに仲良しなのがまたいい。もちろん皆から愛される大妖精も最高でした。
次回作期待しています。
38.100万葉削除
可愛らしく、素敵な大ちゃんですねぇ。レミリアと幽香が一緒に暮らしたがるのも分かります。

これは良いほのぼの。堪能させて頂きました。
42.90幻想削除
これが初投稿・・・・だ・・・と?
楽しませてもらいました。

そして大ちゃんのせいで幻想郷のパワーバランスがやばい。
48.100名前が無い程度の能力削除
レミリアも幽香も可愛すぎだろw
2人が出くわしたとき、いつ「やめて! 私のために争わないで!」的な展開になるのかと思っていたら予想外にヘタレだった。
これはこれでいいものだ。
両サイドとも、優秀なツッコミ役がいてバランスもいいね!
面白かったです。大ちゃんマジ天使。
52.90賢者になる程度の能力削除
数ヶ月分の幽香さんを補給できました。ありがてぇありがてぇ

紅魔館行ってきます