Coolier - 新生・東方創想話

蟲と花の出会い

2011/03/27 12:26:56
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長かった冬が終わり、季節は春へと向かう。
動物達は活発に動き始め、木々が新芽を出す準備を始める。
そんな時期に、風見幽香は作業に取り掛かる。


「さあ、これからが楽しみね。去年あなた達が飛ばした種は、どれだけ美しい花を咲かせるかしら」

優しげな表情で語りかける相手は、既に枯れてしまった花々。
子種を残す役割を終え、色とりどりに咲き誇っていた姿は見る影も無く、茶一色に変色してしまっている。
幽香の能力を使えば、それこそ永遠にでも咲き続ける事が可能だが、彼女はそれをよしとはしない。
雨が降らなければ水を遣り、長雨が続けば土に排水のために溝を掘る事もある。
能力により生き長らえさせるのでは無く、自分の手で可能な範囲での補助。
これが彼女のこだわりだった。
そして今も‥‥

「あなた達の魂は天に上り、残された灰は次の世代を育てる糧となるでしょう。今までありがとう。さようなら」

寂しげに言うと同時に、枯れた花々に火をつける。
これこそ、幽香が毎年この時期に行う作業であった。
植物を焼いた灰は、土壌を豊かにするよい肥料となる。
最後の晴れ舞台だと言わんばかりに燃え盛る炎を、幽香は見つめ続けた。




同じ頃、夜空を飛ぶ姿があった。
動物が目覚め、植物が目覚めるのならば、虫だって目を覚ます。

「んふー‥‥やっぱり空はこうでなくちゃ! 寒い空なんて、私は認めないもんね!」

随分と身勝手な事を言いながら、ご機嫌に空を舞うリグル・ナイトバグは、久々の空中散歩を満喫していた。
向かうはどこかの花畑。
配下の虫達が今年の食事を十分に確保できるよう、今から目星を付けておくのだ。

「私の勘では、今年はこっちの方でいっぱい咲きそうな気がするわ! これがホントのかんの虫、ってね」

今宵は満月。
妖怪としての本能も、テンションも鰻上りだ。
長い冬の間にしわくちゃになっていたマントを翻し、リグルは飛ぶ速度を速めた。




虫は花から蜜を分け与えられて腹を満たし、花は虫によって子孫を増やす。
一部例外があるとは言え、見事な共存関係である。
フラワーマスター、風見幽香。
闇に蠢く光の蟲、リグル・ナイトバグ。
この二人が出会うのは必然であったのだ。
今まで出会わなかった方が不自然だと言えるほどに。


辺りは闇に支配され、音を立てる者も無い。
舞い上がる炎を除いては。
幽香は変わらぬ姿勢でそこにいた。
そんな彼女の耳に、静寂を破る音が聞こえる。
始めは風を切る音。
それに続いて‥‥

「ややや!? あれに見えるは眩い光! 無限の彼方へ、さあ行くあああっつううううい!」
「きゃああああ!?」

喧しい声と共に、炎に飛び込んで行く人陰。

「あああああ! 火が! 火がマントにいいいい!」

ゴロンゴロン! ばたんばたん!
一瞬にして火だるまと化す自分と同じ緑髪の少女。
突如目の前で起きた惨劇に、幽香は立ち尽くしていた。

「だ、誰か助けてえ! 飛んで火に入るには、まだ何ヶ月か早いわよぉ!」

必死に助けを求める悲痛な声を聞いて我に返った幽香は、念のために用意しておいた消火用の水をかけてやる。
屋外で火を使う時には、準備を怠ってはいけないのだ。

「ちょ、ちょっと。大丈夫?」
「うう‥‥熱いよぉ、痛いよぉ‥‥」

少し前までは元気にはしゃぎ回っていたとは思えない痛々しい姿。
人間ならば死んでいてもおかしくない大火傷である。

「はあ‥‥まったく、仕方ないわね」

丸まって震えるその姿を見かねた幽香は、自分の住処にリグルを運んでやるのであった。




「‥‥はっ! わ、私生きてる!? あいたたた‥‥」
「あら、目が覚めたのね」

リグルが目を覚ました時、体は冷たく濡れた布で包まれていた。

「どうやらあなたが助けてくれたみたいね。ありがと!」
「まったく。ビックリしたわよ。人が珍しく感傷に浸ってたら、目の前でいきなり焼身自殺ですもの。何か嫌な事でもあったの?」
「焼身自殺ですって? とんでもない!」
「じゃあ何よ」
「本能です。ほら、虫だし」

あまり立派でない胸を張るリグル。

「虫? へえ、あなた虫の妖怪なの」
「そうよ。私、蛍の妖怪のリグル。あなたは?」
「私は幽香。風見幽香よ。結構有名人なんだけど」
「ゆうか? ゆーか‥‥ああ、花の人ね!」
「は、花の人って‥‥」
「いつもお世話になってます。食事的な意味で」
「そうね。花と虫とは持ちつ持たれつ。‥‥虫の妖怪と縁を拵えておくのも悪くないかもね」
「ご入用なら紹介するわよ。蜂とか蝶々とか。お代には蜜を頂戴します」
「そうね。今は間に合ってるけど、その内頼むかもね」
「毎度!」
「さて、私はさっきの続きと後始末をしてくるわ。タオルが温くなったら、そこのタライに水を張ってあるから自分でやってちょうだい」
「あい」




数十分後、作業を終えた幽香が戻ってくる。

「どう? 少しは痛みが引いたかし‥‥ええええ!?」
「ごぼ‥‥ごぼごぼごぼ‥‥」

幽香を出迎えたのは、タライに顔を突っ込んで溺れているリグルだった。

「何をやってるの何を!」

ザバア

「えほっえほっ! い、いやほら‥‥蛍だし‥‥美味しそうな水があったら、ついフラフラと‥‥」
「な、何それ。それで燃えたり溺れたりするわけ? あなた、近い内に死ぬんじゃないの」
「いや、いつもこんな風なわけじゃないのよ。ただ、今日は満月じゃない? いつもより多めに蛍としての本能が表れるっていうか」
「虫も大変ね。ほら、戻りなさい。うちで水死体が出来上がっても嫌だし、私がやってあげるわよ」
「ごめんねー」

その後も甲斐甲斐しく世話をやく幽香。

「あなた、ご飯はいつも何食べてるの? 水でいいの?」
「ハンバーグ食べたい」
「えー」

「紅茶飲む?」
「飲む!」
「砂糖はいくつ?」
「角砂糖5つ!」
「えー」

「ほら、そろそろ寝るわよ」
「私、夜行性なんだけどなあ」
「怪我してるんだし他人の家なんだし、文句言わないで早く寝なさい」
「はーい」




翌朝。
妖怪特有の回復力と、幽香の献身的な介護によって、リグルの火傷も大分よくなっていた。

「うん。もう大丈夫そうね」
「お世話様でした」
「まったくよ」
「このお礼は、きっとするからね!」
「へえ、虫って義理堅いのね」
「んーん。違うよ。これは私個人の問題。お世話になった友達に、恩返しをしたいのよ」
「‥‥そう。花が咲いたら何か手伝ってもらおうかしら」
「うん! それじゃ私は行くね。バイバイ、幽香!」

炭化しかけているマントを翻し、飛び去っていくリグル。

「友達、ねえ‥‥」

それを見送る幽香の表情は、どこか照れ臭そうだった。





次にリグルが幽香の元を訪れたのは、春も真っ盛り、生命の息吹があちこちで感じられるようになった頃だった。
灰の肥料が効いたのか、幽香の花畑でも順調に花達が育っているようだ。

「はあい、幽香。元気?」
「あら、どうしたの?」
「ほら、花が咲く頃に手伝うって約束したじゃない。そろそろかなーって思って」
「ああ、そうだったわね。うん、ちょうどいいわ」
「およ。何かあるのね?」
「毎年の事なんだけど、害虫に困るのよね。特に毛虫。あなたなら何とかできるでしょう?」
「あー、うん。そうね。じゃああの子達には、別の場所に行ってもらいましょ」
「助かるわ」
「それじゃ少し待っててちょうだい。話を付けてくるわ」

花畑に出かけるリグルを見送る幽香は、ホッとしていた。
幽香は毛虫が苦手なのだ。
あのビジュアルでウゾウゾと動いているのを想像しただけでも鳥肌が立ってしまう。
例年は必死に目を背けながら、手袋を二重にはめた震える手で、長い木の枝を使って追い払ってきた。
しかし今年はリグルがいる。
蟲を操る能力がある彼女ならば、問題無く解決してくれるだろう。
ついでに家の中に入ってこないようにしてもらおうか。
そんな事を考えていると、リグルが戻ってきた。

「お待たせー。毛虫さん達に伝えてきたよ」
「あら、早かったわね。ありがとう」
「いえいえ。それで毛虫さん達がね?『幽香さんの縄張りとは知らず、ご迷惑おかけしました』だってさ」
「そ、そう」
「それでね、そんなに気になるなら、自分でお詫びをすれば? って事になってね」
「‥‥え?」
「連れてきたんだー。ほら、見て見て」

ドアの前から体を退けるリグル。
すると、今まで隠れていた景色が幽香の前に広がる。

「あ、あ、あぁ‥‥」

幽香の住処の前を埋め尽くす毛虫の群れ。
右を見ても毛虫、左を見ても毛虫、咳をしても毛虫。
リグルの命令で、整然と列を成している。

「どう? お行儀がいいでしょ」
「あ、あああ‥‥ああ‥‥」
「幽香?」
「あふぁ‥‥」
「え? ちょ、幽香? 幽香ぁ!?」

あまりの光景に、幽香はぷるぷる震えたかと思うと、そのまま意識を手放してしまった。

「幽香ってばぁ! た、大変だ! みんな、手伝って! 幽香を竹林の薬師のところまで運ぶよ!」

合点承知!
とばかりに、幽香を自らの背に乗せて運んでいく毛虫達。

毛虫の波に運ばれていく少女。
その光景たるや、見る者全てをドン引かせるに足るものだった。
途中、何度か目を覚ました幽香がその度に気絶した事と、永遠亭が未曾有のパニックに陥ったのは、当然の結果であろう。







「バカ! バカバカ! なんて事してるのよ!」
「ごめんごめん。まさか毛虫が苦手だなんて思わなかったからさぁ」
「うう、思い出しただけで背筋が震えるわ。まるで、まだどこかに毛虫がくっ付いてるみたい」
「あ、幽香」
「何よ」
「みたいじゃなくて、本当にくっついてた。ほら」
「にゃあああああああ!!」
トップ5に入るほどリグルが好きなのに今まで書いて無かったんで、ついに登場させてみました。
お相手はゆうかりんです。
リグルが書きたくて始めたのに、いつの間にか可愛いゆうかりんを書くのに夢中になってました。

花畑の世話についての描写ですが、昔学校で焼き畑っての習った事あるし、ガーデニングでも多分同じ事やるだろーなー、程度の認識なんで、間違ってるかも知れません。


毛虫絶滅しろ。
ブリッツェン
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コメント



0.2280簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
ジャンル:ホラー
3.100奇声を発する程度の能力削除
想像したら余裕で鳥肌立ちました…
5.100名前が無い程度の能力削除
なにこれこわい
7.100名前が無い程度の能力削除
世の中には元気に跳ね回る毛虫もいてだな……
9.80名前が無い程度の能力削除
毛虫、よく見たらかわいいのに。
10.無評価名前が無い程度の能力削除
simple2000シリーズに、大量地獄というソフトがあってだな
11.100名前が無い程度の能力削除
普通に友人関係な幽リグも、なかなか良いものですなあ。
しかし素直にトラウマでしょ、ゆうかりん(笑)
18.100がま口削除
最恐の幽香姉さんにえげつない心の傷を無意識に刻む……リグル、恐ろしい子ッ!
21.100名前が無い程度の能力削除
なんというホラーwww
続きのお話が読みたいですね
29.100名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんかわいい!
30.80名前が無い程度の能力削除
> 10
おいやめろあれはトラウマだ



リグルがアホの子すぎるw
40.80名前が無い程度の能力削除
どうみてもホラーですね
幽香かわいいな
44.100名前が無い程度の能力削除
どう考えてもホラー
58.100名前が無い程度の能力削除
どう考えてもホラー