Coolier - 新生・東方創想話

八雲家の橙

2011/03/26 08:48:28
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「ねえ、橙さ」

如月も終わりを告げようとしている暖かな日差しの中、縁側で茶を飲む博麗の巫女に声を掛けられた。
今日は、藍様のお使いでこの博麗神社の巫女である霊夢に手紙を持ってきた。結界の管理の事で、ちょくちょくと私はこの神社に来ている。
手紙を渡して、帰ろうとした所で呼び止められた。

「ひゃい!?なんですか?霊夢さん」

答える、突然の事で少し驚いて、尻尾が跳ねてしまった。
何度も博麗神社に使いをしているが、彼女に呼び止められたのは初めてだった。
そんな反応には興味なさそうに霊夢さんが続ける。

「何でアンタってさ、ただの橙なの?」
「はぁ……それは一体どういう」
「名前よ、名前、何でアンタは八雲って付かないのかなあってさ」


問われて、少し戸惑った。
私の名前は橙、ただの、橙だ。
八雲の姓は持っていない。その理由は、きっと紫様と、藍様しか知らない。

「うーと、どうして急にそんな事……いままで声も掛けなかったじゃないですかぁ」
「良いじゃないの、少し疑問に思ったのよ、教えなさいよ」

取り澄ましたように、お茶をすすりながら彼女は言う。
この巫女の強引さは身を以て知っている。

「そんなに面白い理由はないですよ」
「いいのよ、ただ疑問が解消すれば」
「にゃー……」

無駄な抵抗はそうそうに諦め、肩を落とすと、彼女はにっこり笑って縁側をぽんぽんと叩いた。

「うん、どうやら話す気になったみたいね、素直で結構、ここ、座りなさい、お茶の一つくらいは出してあげるから」

促されて私は縁側に腰掛ける。彼女は私が座ったのを確かめて、おもむろに立ち上がり、奥へと向かっていった。

日差しが、暖かい。本当ならばこんな日はお家でひなたぼっこをしていたい。
藍様のふさふさの尾に包まれて、紫様の、膝に抱かれて。

本当は、我慢しなくちゃいけないんだけれど、二人は自分たちがそうしたいのだと言って、私を縁側に連れて行ってくれる。

霊夢さんがお茶を持って戻ってきた。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

熱いかなと、恐る恐る口をつけてみると、意外な事に飲みやすい温度に調整されていた。

「猫舌でしょ、あんた」
「あ……はい、ありがとうございます」

意外に、気を遣ってくれているのだ、と思った。
実は、優しかったりするのかな、なんて。
有り難う、そう、本当に美しい言葉。

「で、なんでなの?」
「ええとですね……」

そう言えば、藍様と出会った時も、最初は優しい人だとはわからなかった。


















私は、猫又としてこの世に生を受けた。妖怪が、生を受けたと言うのも変かもしれないが、そう思っている。
ただの、猫が時を経て変化したのではなく、猫又の両親から生まれたのだ。

両親は、猫又としては強い力を持っていたらしい。
多くの人間を襲い、喰らい、力を蓄えていたのだろう。
幼かった私にとってはそれが、どういう事かわかっていなかった。
両親が、私を愛してくれていたのかどうかはわからない、たまに、巣穴に帰ってきては、何かの肉を置いていく、そんな形でしか、接してはくれなかった。幾日も、腹を空かしていても帰ってこない時もあれば、大量の肉を持ち帰る事もあった。
寒くて震えていても、自分たちは衣服を着て、私には何も与えてはくれなかった。
よく、殴られた。
そういうものなのだと思っていた。
言葉も、教えてはくれなかった。

たまたま、その日、両親が巣穴に戻ってきていた。
寒風吹きすさぶ、霜月の頃だったと思う。

「邪魔をするよ」

そう言って現れたのは、金色の毛、凛とした顔、そして、巨大な九つの尾を持つ九尾の狐だった。彼女が何事か呟くと、その姿は風を撒いて様変わりしていた。背の高い、人型のその姿も綺麗だった。
両親は、歯をむき出すと、巣穴の外に飛び出していった。
私はそれを、暗い洞の中から見ていた。

「お前達、私が忠告してやったというのに、意に介さなかったようだな」

両親は、何か罵るような言葉を吐いていたのだと思う。
何故だろう、あの方の言葉は一言一句覚えている。ことばなど、あの時の私は知らなかったはずなのに。両親の言葉は、一つも思い出せないというのに。

「やり過ぎたのだよ、お前達は、ほどほどにしていれば、妖怪が人を喰うのは自然の流れだ」

両親が舞い上がった、目は大きく開かれ、爪がぎらりと光っていた。

何が起こったのかはわからない、気がつくと両親の首は、胴から離れていた。
思わず、洞の中から這い出していた。

「子どもがいたのか」

九尾の狐は、私を見つめていた。私は、首と胴の離れた両親よりも、目の前の美しい金色の妖獣に、心を奪われていた。きれいだと、感じたのを覚えている。
両親はもう起き上がらない、その事について思ったのは、もう、殴られないで済む、と言う事と、食べ物はどうしようか、と言う事だった。

「にゃあ」
「言葉すら、与えられていない……か」

彼女は、己を指さし、言った。

「藍だ」

何のことだかわからず、首をかしげると彼女は私の手を取り、顔を見つめて再度言った。

「藍」

呆けたような顔をしていただろう。その私の口を掴み無理矢理その九尾は動かした。

「藍、ほら、言ってみろ」
「ふうう、うにゃああ!」
「ら・ん!」
「あーんー」
「らん」
「らぁん~」

藍、それが、私が初めて呼んだ、他人の名前だ。

「そうだ、それがお前の両親の仇の名だ」

彼女の手が、私の頭に伸びた、殴られる、と思い頭を覆った。
しかし彼女の手は、ゆっくりと、優しく頭の上に置かれただけだった。
頭に手を置かれて、暖かいと思った。

もう一度、両親に目をやった。動かない、さっきは何でもなかったのに、死体を見て目から涙が出てきた。優しくはなかった、好きだったのかどうかもわからない、けれど、だけれど、もう動かない、そう思ったら涙が出てきた。

何故かは、知らない。未だに。

「哀しいのか」

耳にその言葉が入ってきても、その時の私に、意味はわからなかった。




何故、藍様は私を連れて帰ったのだろう。哀れみだったのだろうか、ただの酔狂だったのだろうか、それは、いまだに教えてはくれない。勝手に思っている事はあるが。

私は、その時、この人がこれから食べ物をくれる人なのかなと思った。
殴られるのは、嫌だなとも思った。

おおきな、木で出来た場所に連れて行かれた。初めて見る、洞穴以外の寝床だった。

先ず、服を与えられた。なんとなく、むずがゆかったのを覚えている。
それから、食事を与えられた。藍様は、私を子猫と呼び、色々な事を教え始めた。
殴られる事は、一度もなかった。

そして、書見の日々が始まった。

最初は、五十音の意味を理解する事からはじめた。藍様が、指さした所を読み、私もそれに倣って言葉を発した。
はじめは、正座に慣れなくて、足を痺れさせた。

「い」
「い~」
「ろ」
「ろ~」
「は」
「は~」

上手に読めると、藍様は微笑んでくれた。その笑顔が好きだった。両親が見せる笑い顔とは違う。
その顔が見たくて、あまりで好きではなかったけれど、書見を、頑張った。
初めて、一人だけでいろはを全て言えた時、藍様は大きな魚を、何処かから手に入れてくれた。
美味しかった。思えば、何かを食べて美味しいと思ったのはあれが初めてかも知れない。

「おいし、です」
「そうか」
「らんしゃ、ま、すぅ、す……」
「何だ?」
「すい。ま、せえん」

つっかえながら頭を下げると、藍様は、やはり微笑んでくれた。

「多少は、礼という物を考え始めたか、しかしな、違うぞ、子猫、こう言う時はな、謝るんじゃない」
「?」
「有り難うと言うんだ」

有り難い、たった一人で穴蔵にいた自分にとって、ここに来てからの全ては有り難いことだった、否、有り得ない事だった。
それは全て、この人がくれた。

「あ、あぃがとう、ございま、す」
「そうだその謙の心、忘れるな」

藍様の尻尾が、ふるふると揺れていた。
ありがとうございます、素敵な言葉だと思った。でも、何か足りないとも思った。



徐々に、言葉を覚えるにつれて、色々な事を教えられた。私の聞く事に、藍様が答えられなかった事は一つもない。難しくて、わからない時も、わかるまで、何度も丁寧に説明してくれたものだった。


「らん、しゃま~」
「どうした、子猫よ」
「なんで、あついぃひと、さむいひがあるの?」
「それはな―――」


「らんさま?」
「なんだ」
「どうして、お魚はあんなにおいしいんですか?」
「それはだな―――」

「藍様」
「どうした」
「何故、藍様は、そんなにお強いのですか?」
「いや、まあそれは何というかな―――」

言葉、獣や魚の取り方、料理に、裁縫、猫又という妖怪の事、幻想郷と言う世界の事、妖怪と人間のことそして、親と子が、どういう物なのかも。
藍様から聞く、親子という関係に自分は全く当てはまらなかった、本当の両親よりも、自分と藍様の関係の方がよっぽどそれに近いと思った。

独りで生きるための技能は身についていた。でも、色々な事を教われば教わる程、暗い穴蔵の中で一人両親が帰ってくるのを待っていた自分を思い出して空恐ろしくなった、今ならば耐えられない。藍様がいない生など、恐ろしくてたまらない。

だから、いかめしい顔で、改まって話があると言われた時は、不安だった。
あんな怖い顔をした藍様を見た事はなかったから、怒っているのかと思い、ここから、出て行けと言われたらどうしようと思った。

向き合って座らされると、藍様がおもむろに口を開いた。

「私は、お前の父と母を殺した」
「はい」
「お前にも教えたとおり、この世界は、絶妙な均衡の上に成り立っている、人がいなければ、妖怪は存在できないのだ、人間の畏れが、妖怪を妖怪たらしめる最大の物なのだ」
「はい」
「お前の両親は、人を殺しすぎた、捨て置くわけにはいかなかった」
「はい」

藍様がその日教えてくれたのは、私の両親を殺した理由、その事を話す時、藍様は、珍しく眉間に皺を寄せていた。目を瞑ったまま。

「私が、憎いか」

何故そんな事を聞くのか、わからなかった。
何故そんな事を藍様がわからないのか、理解できなかった。

「どうして、ですか?」
「私は、お前の両親を殺した」

色々な事を教えて貰った、哀しい、とか、そう言う事も。

「はい」
「お前は、あの時、泣いていた」

藍様の目は閉じられたままで。

「わたし、なにも、もっていませんでした」
「ああ」
「あの時、自分が哀しかったのかどうかもわかりませんでした、言葉すら持たない、獣でした」

父と母が、藍様に殺された。それは、変えようの無い事実だ。
でも、食べ物と拳しかくれなかったあの二人の代わりに、藍様は私に沢山のものをくれた。

「孝には背く事かも知れませんが、私は、藍様がした事を間違った事だとは思っていません」
「……そうか、だが、私はお前をみなし児にしてしまった」

理で説明しえぬ事を、多く語ってくれる人ではない。
でも、その時の藍様の少ない言葉の中には、色々な意味が込められていたのだと思う。
私の気持ちは伝わるだろうか。三つ指を突いて、頭を下げた。

「ありがとうございます、藍様、気に掛けて下さっていたのですね、ずっと……」
「必要な事だった、とはいえ、お前には悪い事をした」
「いえ、感謝こそすれ、私には含む所など何もありません」
「そうか」

藍様の事が好きだ。どうしようもなく。この人は私に何もかもをくれた。
強く、優しく、聡明なこの人のようになりたいと思った。
ありがとうございます。でも、やはり自分の言葉に何か足りないと思っていた。




年が明け、暖かくなり、言葉と礼を教えられた私は、今まで近寄らせて貰えなかった館の奥へと連れて行かれた。

奥の間には、強力な結界が施してあった。中の者を封印すると言うよりは、外からの攻撃を防ぐ物のようだった。何故か、結界については教えて貰えなかった、近くで藍様の仕事を見ているうちに、いくらか、わかるようになっていた。
その封を破る時の藍様の顔は、珍しく緊張した面持ちだった。しかし、何処か嬉しそうに九本の尾がふるふると揺れていた。

「いいか、子猫よ、これからお会いする方は、私の主だ、粗相だけは決してするなよ」
「はい」

幾度か、冬眠をしているという、紫様の事は聞いていた。
曰く幻想を維持する者、曰く神に均しい力を持つ妖、曰く世の理の境を統べる者。
藍様は紫様の式神であると言う事だった。式神は主に最も忠実で、最も信頼される物なのだと教わった。紫様の事を話す時、藍様はいつも嬉しそうだった。
二人の間にどういう過去があるのかは知らない、でも、藍様は紫様のために自分の全てはあると言っていた。それが、式神なのだと。

「少し、ここで待っておけ」
「はい」

襖の前に立ち、藍様が中に向けて声を掛けた。

「藍、参りました」
「お入りなさい」

綺麗な声だと思った。悠揚として、艶やかで。声を聞いただけで胸がドキドキした。

「おはようございます、紫様」
「ええ、おはよう、藍、世界に変わりはない?」
「はい、特に何も」

あんなに嬉しそうな藍様の声は聞いた事はなかった。
自分には見せてくれないその態度に、いくらか紫様に嫉妬した。

「ところで藍」
「はい」
「貴女私に何か言いたい事があるのではなくて?」
「お気づきでいらっしゃいましたか、おいで」

自分が呼ばれたのだと気づくまでに、少し時間がかかった。
あわてて、部屋の中にはいると、正座をした藍様と、布団から身体を起こしたとても綺麗な女性が此方を向いて微笑んでいた。
どうしたら良いかわからなくて、藍様の尻尾の後に隠れるように正座した。

「あらあら、それじゃ可愛いお顔が見えないわ、こっちにおいでなさい」

藍様の方を見ると、首を此方に向けてクスリと笑った藍様は私に言った。

「ほら、紫さまがお呼びだ」

恐る恐る紫様の布団の端に近づき、頭を下げた。

「お、おはつのお目見え光栄です」

緊張で唇が震えた。
と、突然体が何かに包まれた。

「みぎゃ!?」
「こら、はしたない」
「可愛いわねえ」

紫様に、抱きしめられたらしいと気づくのに時間がかかった。

「私は八雲紫、貴女のお名前は?」
「ええと、藍様には子猫と呼ばれています」

私が紫様の腕の中でそう答えると、紫様が藍様に怪訝な視線を向けた。

「どうして名前をつけてあげないのかしら?可哀想じゃないの」
「この娘を私は、勝手にここに連れてきてしまいました、紫様の許可を得るまでは、そう思っておりました」
「馬鹿ねえ藍」

紫様は私を見つめた。優しい、眼差しだった。

「私の可愛い式神がすることに、間違いなんてあるはず無いじゃないの」

そう言って紫様は私の頭を撫でてくれた。
藍様と過ごすうちに、いつの間にか、頭の上に手を晒されても殴られるとは思わなくなっていた。

「本当はもう、名前、考えているんでしょう?」
「橙、と言う名前が良かろうと思っています」
「暖かい、名前ね」

ちぇん、これからそう呼ばれるのだろうか、指で空中に藍様がその字を書いて見せてくれた。紫様、藍様と同じ、彩色の名前。

「で、貴女はこの子をどうしたいの?ここの従者に?それとも貴女の式神に?」

問われて藍様は姿勢を正した。
どこか、決意したような表情だった。
その目は、紫様と言うより、私を見つめていた。

「出来うるならば……」

言葉に詰まる藍様を初めて見た。

「出来うるならば八雲の姓を与え、私の娘として育てたいと思っています」

藍様の言葉に、紫様は少し驚いたように身じろいだ後、私を見つめた。
私は、どうしたらいいのかわからなかった。

「ですって」

俯いてしまった。どう、答えたらいいのかわからない。こんな時、どうしたらいいのか、教わっていない。
ちら、と藍様を覗き見ると、本当に珍しく狼狽えた顔をしていた。

紫様は、クスリと笑って、私に尋ねた。

「貴女、藍のこと好き?」

それは、答えられる。きっと私には世界で一番簡単な問題だ。

「はい、大好きです」
「貴女の事、娘にしたいのですって」

娘、やはり、自分の両親を殺した事を藍様は気に病んでいたのだろうか。
いや、そうではあるまい、妖怪なのだから、そんな事は今までにもしてきているはずだと、思う。
いや、ひょっとしたらことある毎に、胸を痛めていたのかも知れない。
その痛みの果てに出会ったのが私だったのかも知れない。
だって、藍様はとても優しい。

娘にしたいと言われて、嬉しくないはずはなかった。事実、藍様から親、と言う言葉の意味を教わった時、自分にとって藍様の事のようだと思ったのだから。
そして、いまも想い続けているのだから。
今すぐに、胸に飛び込みたい。そう思った。でも。
未だ良くわかっていない意味の言葉、愛という物の正体に、私はその時気がついた。

私は紫様の腕の中を抜け出た。

「私……」

藍様の正面に座った。頭を下げて。

「藍様、ありがとうございます」

お礼を言う度に、なにか、足りないと思っていた。

「ありがとうございます、愛してくれて」

愛してくれて、きっとそれが足りなかったのだと思った。
藍様の教えてくれた事は何だったのか、言葉にすれば幾つも言える。でも、一言で言い表すのならば、それが正しいのだろう。
返しきれない程の、愛。

この人のようになりたいと思った。そして、いつか、苦労や苦痛を決して吐かぬこの人に恩を返さなくてはならない。

だから

「私を、藍様の式神にしてください」

言ってしまってから、傲慢かとも思った。強大な力を持つ紫様の式神は、これもまた大妖である藍様だ。
ただの猫又の自分が、釣り合わないかも知れないとも思った。
それでも、藍様に恩返しをするためには、それしか方法が見つからなかった。

藍様は、ため息をついて私を見つめ、それから紫様に視線を移した。
まるで、何かに、縋るように。

「紫様、私は……」
「そうね、あの時と、同じね」

何のことだかわからなかった、掌にじっとりと汗をかいている。
紫様が、言葉を続ける。

「もう、幾星霜も昔の事の筈なのに、昨日の事のようにはっきりと思い出せるわ」
「私も、忘れた事はありません」

お二人が、私を見つめ、紫様が言った。

「遥か遙か遠い昔にね、貴女と同じ事を言った子がいたの、まったく同じ事を」

その言葉を聞いて、自分は間違えなかったと思った。
藍様を正面から見据え、もう一度言った。

「私、橙を、八雲藍様の式神にして下さい」

藍様の目から、光が頬を伝い、床に落ちた。























「で、それが何でアンタに名字がない事に繋がるわけ?」
「ええとですね、式神として八雲の姓を名乗るにはやっぱり自分はまだ未熟でして」
「ふーん、何だか益体もない話ね、意地っ張りってことじゃない」
「だから言ったじゃないですか、面白くはないって」

霊夢さんがお茶を飲む。

「まあ、少しだけアンタを見直したわ」
「はあ、ありがとうございます」

私が答えると、霊夢さんが空を見上げた。
抜けるような青い空、雲一つ無く、美しく。

「アンタさ、後悔とかしてないの?」

どこか、憂いを含ませた顔で霊夢さんは空を見つめ続けている。
私は、二つ返事で答えた。

「はい」
「そう……」

やはり、何かに心を囚われたように霊夢さんは呟いた。

雲のない空に、ホオジロが舞う。
紫様の冬眠も終わる。
藍様の嬉しそうなお顔が見られる。

春が近い。









はじめまして
設定の捏造ではありますが、お読みいただきましてありがとうございます
何故、橙に八雲は付かないのかなあ、等と考えて妄想が膨み、橙が可愛かったので、書かせていただきました
感想など頂ければ、とても嬉しく思います

追記
取り急ぎ誤字脱字修正いたしました
ご指摘いただいてありがとうございます
というか多すぎですね、反省します
また、コメントのお返しなどもさせていただこうかなとは思っております

以下コメントのお返し、とても嬉しい私です

>奇声を発する程度の能力様
和んでいただけたならとても嬉しいです、わぁ、初コメだ

>yan様
私はyan様の八雲家話も大好きです、そんな人がうるっと来るなんて嬉しくてたまらないんだぜ

>11様
その通りの誤字です、得点もつけていただいて感謝でございます

>コチドリ様
バーディ取れていればいいのですが
面白い!と一言で戴くのも、具体的に褒めていただくのも嬉しいものです
私の中で三人の性格はあんな感じ、藍様は原作と比べると口調がちょっとあれかも知れませんが
橙はきっと立派に八雲の名前を貰えるでしょう、しらないけどきっとそう

>15様
ナイスタイミング私!楽しんでくれたならば幸いです

>18様
複雑な葛藤を乗り越えてこその本音ですかねえ

>22様
きっと八雲家は良い主従関係で半分くらいは家族関係だと信じたいのでござる

>25様
良い一家が書けていたなら嬉しく思います
次回も期待してくれるんですか?やったー!

>34様
私的にはあの台詞が、とても頭を捻って出た何とも捻りのない会心の一撃でした
初投稿の新参者ですが、ちょいちょい参加させていただこうと思っていますのでお付き合いいただければと思います

>40様
本気で泣いていただけるとか、作者冥利に尽きます、私が泣きそう
最後は少しあっさりしすぎましたかねえ……でもGJですって!

>おやつ様
正直な所を話しますと、意識してやってる部分と、癖になってしまって必要のない部分にまで出ている所があります
まあ、経験の少ないアホの子の私なのでミスってる部分のほうが多いかなあ……
藍の台詞とかもそうなってるし、どうして気づかないものか……
そこまで読み込んでいただけるとはまこと頭が下がる思いです
本当にありがとう

>42様
愛は良いものですね、表現できていたらとても嬉しく

評価点つけて下さった皆さん、コメントつけて下さった皆さん、本当に有り難う
そこまで面白い作品の描ける人間ではありませんが、幾人かの琴線に触れられたのならば、まあ私の脳みそもそこまで駄目ではないなと思える次第です
今後ともよろしく
ナイスパー安達
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コメント



0.2910簡易評価
1.100奇声を発する程度の能力削除
良い八雲一家だあ!
朝からとても和みました
5.100yan削除
とてもいいお話でした!電車のなかでうるっと来ました。
これからも素敵な物語をお待ちしています。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
自分と藍様の関係の法がよっぽどそれに近いと思った
         ↑
方が、ではないでしょうか
12.80名前が無い程度の能力削除
得点つけ忘れました
14.90コチドリ削除
ナイスバーディ!
ナイス初投稿!

健気な橙、母性と父性とを兼ね備えたちょっと不器用な藍、大物感漂う紫様もナイスだ。
時間はたっぷりとあるはず。八雲橙が誕生する日をゆっくり待てばいいのさ。
八雲一家万歳!
15.100名前が無い程度の能力削除
ちょうど橙のシリアスが読みたいと思っていたところでした。すてきな藍橙をありがとう
18.100名前が無い程度の能力削除
複雑な事なんだけどいい話。
22.90名前が無い程度の能力削除
いい主人と式の関係でした。
25.100名前が無い程度の能力削除
非常に面白かったです
八雲家には理想とする家族の形が詰まっていますね
次回作も期待しています
34.100名前が無い程度の能力削除
愛してくれてありがとう。
あぁなんていい響き。
初投稿!?これからも貴方の作品を楽しみにさせていただきます。
40.90名前が無い程度の能力削除
久しぶりに泣きました(本気で)
ラストが少し物足りなかったけど、GJです。
41.50おやつ削除
とても楽しく読ませていただきました。
八雲一家の温かい絆が感じられてほっこりします。
それぞれがそれぞれを大切に想うこと。
一番若い橙がしっかりとこの絆を大切にすることが出来ているのが嬉しかったです。

此処で少しだけ読みながら気になった点を……
文中で読点をかなり短い間隔で使用されている部分があり、その所々で読みながら突っかかる感じがいたしました。
またそれに関連して、文末が同じ文字で〆られている文章が続いて、やや全体としてのリズムを損なっているように感じられました。
文末まで読み進め、次の文章に移って直ぐ読点がおいてある為だと思います。

一読み手としては多少こんな所が気になりました。
ですがこの作品を見た場合、此れは橙の一人称で語られるお話なんですよね。
この突っかかる感じも、橙がたどたどしくも内面の大切な部分を少しずつ噛み砕いて吟味し、霊夢に伝えようとしている為だとすれば本気で脱帽!
ちょっとどの部分までが筆者様の計算なのか、アホの子な自分には読み解けませんでしたがorz

長くなってしまいましたが、良きお話を読ませてくださった作者様に感謝しつつ、今後の活躍を期待してます。
ありがとうございましたー。
42.80名前が無い程度の能力削除
愛って良いものですよね。
61.100名前が無い程度の能力削除
霊夢にも敬語な橙って珍しいな。
凄く素敵な話でした。