Coolier - 新生・東方創想話

ピザでも食ってろ!てんこ!

2011/03/26 05:13:26
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 私はあの女を倒さなくてはならない。
 比那名居天子をだ。
 私はあの女が憎い。
 あの女の言葉の端々には自惚れと地上の住人への侮蔑がある。
 それはまだ許そう。
 許せないのは、前回の異変の時に弾幕ごっこで私に手加減をし、しかもわざと負けたことだ。
 私のプライドは踏みにじられた。
 最早、あの女を倒さずには前に進めない。
 
 そう思ってはいるものの、
 普通の魔法使いである私と、天人である天子との実力差は明確だった。
 正面から戦っても勝てない。作戦を立てる必要があった。
 私は天人の情報を求めてひたすら書物を読み漁る。
 読めば読むほど、天人の力に眩暈がしてくる。
 こいつらは毒を盛っても、寝首を掻いてもピンピンしているだろう。
 私は毎日必死に努力しているというのに、
 どうして毎日遊び呆けているこいつらの方が――――
 
 何でもいい、攻略の糸口さえ見つかってくれれば……。
 私が憂鬱な気分でページをめくっていると、とある記述が目に留まった。
 なんでも、天人の天敵は穢れで、
 穢れが溜まると体から脂が出るなどの症状が起きて衰弱し、最悪だと死に至るらしい。
 そして、天人は普段桃ばかり食っているらしい。

 天敵……穢れ……脂……衰弱……桃ばかり食っている……

 脳内をキーワードが踊る。この中に天子を倒すためのヒントがあるような気がした。
 そして閃く。

「脂っこい物を食わせまくれば弱くなるんだな!!」

 悪魔的な閃きだった。

 ※※※
 
 その日、私は天子と人里で待ち合わせをしていた。 
 脂っこい物を食わせるなら人里の食堂に連れ込むのがいいだろう。
 天子を適当な口実を付けて昼食に誘うと、最初はもったいぶっていたがオーケーを出した。
 奴が普段暇を持て余しているのは調査済みだ。誘えばのこのこやってくる確信があった。
 
 ……そろそろ待ち合わせの時間なのだが、来ない。
 五分待つ、十分待つ、三十分待つ、一時間待つ…………
 
 ※※※

 そろそろ日が落ちようとしている。いい加減、足が痛くなってきた。
 もう諦めて帰ろうかと思った時、
 
「ごめーん、遅くなっちゃった。待った?」

 私は怒りを覚えたが、天子と険悪な関係になるわけにはいかなかった。

「私も今来たところだ」

 平静を装って無難な言葉を選ぶ。

「そうなの? 貴方、待ち合わせにくるのが遅いんじゃない?」

 私は無意識に作っていた握り拳を、ポケットの中に急いで隠した。

 ※※※
 
 ランチのはずがディナーになってしまったが、私はこの計画に手応えを感じていた。
 天子はスパゲティミートソースに夢中だ。
 「こんなの初めて!」だの「美味しい!」だのを連呼しながら口の周りを真っ赤にしている。
 
 トマトのまろやかな酸味と挽肉のしっかりとした旨味が特徴のこの一品なら、
 きっと天子も気に入るだろうという私の目論見は当たった。
 加えて、このソースには想像以上の脂が含まれている。
 天子は破滅への第一歩を踏み出したと言えるだろう。

 私は素早くスパゲティを平らげてしまうと、機先を制して天子の分の代金も払う。
 天子は何か言いたげだったが、
 
「次は私の分も払ってくれよ?」

 と、私は有無を言わせずに次の約束を取り付けた。
 
 スパゲティを食い終わった天子が口にソースを付けたまま立ち上がろうとした。
 あまりに見苦しいので、私は反射的に紙ナプキンでその口を拭う。

「あ……」

 天子は間の抜けた声を上げた。

 ※※※

 私は家で次の計画を練っていた。
 天子に次に何を食わせるのか慎重に吟味する。
 どの料理を食わせたら効率的に衰弱させられるのか試す必要がある。
 とにかく色々な物を食わせてみよう。
 
 ※※※
 
 その日、私は天子と人里で待ち合わせをしていた。 
 奴が遅れることは予想できたので、
 本を持ち込んで万全の暇潰し体制を整えてきたが、意外にも時間通りに来た。
 そして前回通りの茶番。
 
 昼食に親子丼を食べた。 
 とろっとした半熟卵と、軽く噛み切れる柔らかな鳥腿肉の食感が素晴らしく、
 噛み締めれば甘味と旨味が口の中に広がっていく逸品だ。
 天子はだらしなく顔を綻ばせて親子丼を食っていた。
 あの顔を撮影して人里にばら撒いてやりたかった。
 
 「次は貴方が払ってよね」
 
 今回で貸し借りはチャラになったはずなのだが、
 向こうから次の約束を持ちかけてきたのはラッキーだった。

 ※※※ 

 その日、私は天子と人里で待ち合わせをしていた。
 驚くべきことに、待ち合わせの時間よりだいぶ先に天子が来ていた。
 
「遅い!」
 
 本の返却期限は守らなくても、待ち合わせの時間は守ることがポリシーの
 霧雨魔理沙さんの心は傷付いた。

 昼食にカレーを食べた。
 インド風カレーにライスという一風変わった組み合わせだ。
 付け合せのジャガイモも嬉しい。
 辛さは控えめにしたが、お子様舌の天子には刺激が強かったらしく水を何杯も飲んでいる。
 が、口に運ばれるスプーンが止まることは無かった。

 ※※※

 その日、アリスの人形劇を観ながら肉まんを食べていた。
 天子は肉まんを食べるのを忘れて劇に熱中している。
 肉まんを二つ手に持って天子の胸に押し付けて辱めてやろうかと思ったが、
 私もそれは大差無いので止めた。
 劇が終わるとアリスが話しかけてきた

「貴方達って、最近いつも一緒に出歩いているわね。まさかとは思うけど、できているの?」

 愚問だ。奴と戦う覚悟ならとっくにできている。

 ※※※
 
 その日、鯛焼きを食べていた。
 私は尻尾からみみっちく食べる。天子は頭から豪快に食べる。
 格の違いを見せつけられたようで不愉快だった。
 熱々の餡子で火傷しそうになっている天子を見て少し溜飲が下がった。

 ※※※
 
 その日、とんかつを食べていた。
 奴が勘定を払う番だからと、私はうんと高い肉を注文してやる。
 天子が抗議の声を上げる。
 確かに私は安価にとんかつが食べられる店と言ったが、それは一番安い肉での話だ。
 人の話をよく聴かない方が悪い。
 
 ※※※

 その日、店のカウンターで天ぷらを食べていた
 私が勘定を払う番だからといって、
 前回のお返しとばかりに高いネタばかりを頼む天子に腹が立つ。
 揚げ油、跳ねろ!と強く念じる。
 念が通じたのか跳ねた油が天子に直撃した。ざまあ見ろ。

 ※※※
 
 牛丼を食べた。天丼を食べた。鰻重を食べた。
 蕎麦を食べた。うどんを食べた。ラーメンを食べた。
 餃子を食べた。麻婆豆腐を食べた。ホイコーローを食べた。

 ………………

 ※※※

 今まで随分と長い間、天子と食べ歩きをしたような気がする。
 あの馬鹿との珍道中も決して悪いものではなかった。
 だがそれも次で終わりだ。
 次は脂の塊たるピザを食わせる。
 これまでにたくさんの脂っこい物を天子は食ってきた。
 それにこのピザのダメージが加われば、奴は終わりだ。
 衰弱しきったところで私が襲い掛かり、私は勝利を手にし、奴は地に這い蹲る。
 奴の苦悶の表情が浮かぶようだった。
 私の脳裏に飯を食ってるときの脳天気な天子の笑顔が浮かび上がり、
 それが、苦痛に歪んでいく。
 
 ――胸が締め付けられた。

 ※※※

 私、比那名居天子は総菜屋で買った唐揚げをつまみながら人里を歩いていた。
 魔理沙に連れられて歩く内に、人里にも随分と詳しくなった。
 桃しかない天界に比べて、ここにはなんて色々な美味しいものがあるのだろう。
 それを教えてくれた魔理沙には感謝している。 
 それだけではない。自業自得とは言え、私は幻想郷に馴染めるのか不安だったが、
 魔理沙が何度も食事に誘ってくれたおかげで随分と勇気付けられた。
 今度は私から動いて友達を作ろうという気になった。
 
 そこへ、

「やめろーーーー!! それを食うなーーー!!!」
 
 と、魔理沙が箒で突っ込んできた。
 弾き飛ばされる唐揚げの入った紙袋。散らばる唐揚げ。嗚呼、もったいない。

「何するのよ!」
 
 私は抗議する。

「お前はそれ以上脂を採ってはいけないんだ!!」

 魔理沙は涙で顔をぐしゃぐしゃにしてわけの分からないことを言う。
 その後もわけの分からない魔理沙の言葉は続く。
 それを要約するならば、魔理沙は油物を私に食べさせて倒すつもりだったらしい。

「あのねえ、そんなことあるわけないじゃない」

「でも、本に……」

「桃ばかり食べているのは単に桃しかないからよ。
それに、衰退の兆候として脂が出るからって、なんで脂を採ったら衰退するのよ」

「う……それは……」

「とにかく、このハンカチで顔を拭きなさい。
私のご飯はさっき貴方が吹き飛ばしたから、今から一緒にご飯を食べに行くわよ」

「私を許してくれるのか……?」


「いいわよ、ご飯奢ってくれたらね」
この比那名居天子は出来損ないだ。てんこだよ。
ぶっちゃけ、てんこがメシ食ってるシーンを書きたかっただけです。
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根古間りさ
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コメント



0.5750簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
これはスタイリッシュに纏まった良い天魔理。
短く感じる人もいるかも知れませんが、質の高い落語を聴いているような独特のテンポ感が、とても好きです。
次も期待しています。
3.100名前が無い程度の能力削除
もう出よう!こんな天界!
6.90コチドリ削除
着眼点と、多少力技が入っている気はすれど、それをネタで終わらせない筆力はお見事。
まずいな、作者様に対する勝手な期待がどんどん高まっていく。
今度はもう少し長いのが読みたいな、とかね。

それにしても、ピザでも食ってろ! っていうかこの付き合いを続ける天子と魔理沙のピザ化がかなり気になる。
あ、気になるといえば作者様のHN。『根古 間りさ』さんか『根古間 りさ』さんのどちらでお読みするんだろう。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
ああ『てんこ』か
てっきりあっちのほうかと・・・ゲフンゲフン
9.80名前が無い程度の能力削除
すまん、点数忘れてた
10.100名前が無い程度の能力削除
まさしく変化球な作品。
16.80奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
17.100過剰削除
天魔理とか目から鱗
しかしいいねこの二人w

>「貴方達って、最近いつも一緒に出歩いているわね。まさかとは思うけど、できているの?」
> 愚問だ。奴と戦う覚悟ならとっくにできている。
不覚にも笑ったwww
21.80名前が無い程度の能力削除
意外な形で「里帰り」を見るとは。
人選も面白いしテンポも良いです。
26.100名前が無い程度の能力削除
エクストリームデート
27.100名前が無い程度の能力削除
仲いいな君ら
28.100名前が無い程度の能力削除
短いながらもいい話。
『奴と戦う覚悟ならとっくにできている』ここで笑ったw

あなたの作品は全部読ませていただきましたが、どれも私好みの作品で、これからも期待しております。
32.100名前が無い程度の能力削除
最初の奴は長すぎるので読んでないけど、蟹の話からは読んでます。
掛け合いが面白い。
これからもこのくらいの長さの短編を出してくれると嬉しい。俺が。
37.90名前が無い程度の能力削除
猫を虐待するコピペ思い出した。
42.80愚迂多良童子削除
新手のツンデレみたいなものかなw
43.100名前が無い程度の能力削除
この魔理沙可愛いですがもらっていってもかまいませんね
44.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、あなたが新たな神候補か
46.70名前が無い程度の能力削除
完全にデートだこれ
47.100名前が無い程度の能力削除
最初の待ち合わせの会話がまさにイメージ通りで最高w
49.100KASA削除
萌えっ!
久々に純粋に萌えたっ!
50.100名前が無い程度の能力削除
まったく関係ないけど最後の台詞はH×Hのネテロ連想しましたw
52.100名前が無い程度の能力削除
・w・b
53.80名前が無い程度の能力削除
キャラを書くのに、大した文量使ってるわけでも無いのに、よく描けてる
書くべき物事の芯を捉えてる印象
登場キャラの両名が魅力的だったぜ
57.100名前が無い程度の能力削除
満腹時に見て吐き気がしました。
もちろんいい意味(?)で(笑)
58.100名前が無い程度の能力削除
すげぇ、相変わらず面白い。
61.90名前が無い程度の能力削除
あらかわいい。
65.100日間賀千尋削除
てんこがデレていくのに萌えた。
71.90名前が無い程度の能力削除
というか食い過ぎwwww
72.100名前が無い程度の能力削除
あとがきに持ってかれましたw。
それに比べたら根古間さんの天子はてんこや!とか、本物の天子ってやつを見せて差し上げましょう、とか浮かびました。
74.90名前が無い程度の能力削除
こいつらの金はどこからわいてくるんだw
極端な発想が魔理沙らしいw
76.100名前が無い程度の能力削除
サクサク読めて楽しかったですっ!
79.90名前が無い程度の能力削除
素晴らしい
82.100名前が無い程度の能力削除
天人がデレたぞ
87.70名前が無い程度の能力削除
おもしろいがイマイチ落ちが弱い
なんでこんなに評価がいいのか疑問だ。。。。
90.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
93.80名前が無い程度の能力削除
タイトルに釣られて
本人たちは気づいてないが人里公認の仲なんだろうなw
95.100名前が無い程度の能力削除
いいなこれ
96.100名前が無い程度の能力削除
とてもいい
98.90名前が無い程度の能力削除
後書き笑ったwww
いいですね~なごみますね~'W'b
102.90名前が無い程度の能力削除
虐待コピペ思い出した
103.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙も天子も可愛くってきゅんきゅんしました
107.100名前が無い程度の能力削除
お幸せに!
108.100名前が無い程度の能力削除
無駄な文章が無くシンプルで読みやすいです。
テーマもはっきりしているため短くても印象に残る作品だと思います。
個人的にはもう少し過程の描写があった方がオチも活きるのではないかと感じました。
次の作品も期待しています。
112.80名前が無い程度の能力削除
既出だが、覚悟が~のくだりで笑ったw
中盤までは文句なしだけど、ちょっとオチが弱かったかなあ…。
114.100名前が無い程度の能力削除
いいねえー
119.80euclid削除
久々に素敵ツンデレを補給できてホクホクです。
(某魔理沙嬢を憎んでいるノーレッジ女史を思い出しつつも)
126.80名前が無い程度の能力削除
そして二人ともピザになる未来が
128.100名前が無い程度の能力削除
なんかahoさんのドリフを思い出した
133.100名前が無い程度の能力削除
\うめぇ/
145.90名前が無い程度の能力削除
和んだ。
171.100名前が無い程度の能力削除
ストーリーの発想がいい。とてもおもしろかった。魔理沙とてんこに幸あれ
175.80うみー削除
さわやか