Coolier - 新生・東方創想話

好きですから。(前)

2011/03/22 16:11:23
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『女同士で恋愛なんて気持ち悪いよ』

その言葉と大親友の顔。

「うわあぁあっ!
はぁっ、は」

最悪な目覚め。
時刻が早かったおかげで、神奈子様も諏訪子様にも気づかれなかった。
それに安堵しながらも、はぁっと大きく息を吐いて、起き上がる。
つい最近また霊夢さんに負けたから、いやな夢を見たんだと言い聞かせる。
動悸が少し収まってきたので、寝間着からいつもの服に着替えていく。
台所にいきエプロンをつけて、ご飯作りを開始する。
いつもより、早いけれど、特に支障もない。
だけど、早くとりかかれば、早く終わってしまうわけで 、考え事ばかりしてしまう。

「ごめんなさい」
「何言ってるの?」

いつの間にか、諏訪子様が私の顔をのぞき込んでいた。

「いえ、なんでもないです」

にこっと笑顔を浮かべ対応する。

「それなら、いいけどね」

ぱたぱたと諏訪子様は私の前から走り去っていく。
後ろを見ると神奈子様まで心配そうに見ていた。

「さて、ご飯にしましょうか」

わざと元気な声を出す。
作っておいた味噌汁を温めはじめて、魚を焼いていく。
お茶碗にご飯をよそい、しばらく待つと魚も香ばしく焼けてくる。
あたたまった味噌汁をお椀に入れたころには、魚もちょうどよく焼けていて、お皿にうつす。
私がそれらを運んでいるときには、もうお二方とも席についていた。
私が自分の席に座ると

「「「いただきます」」」

手をあわせて、ご飯を食べ出す。
ご飯の間は、おしゃべり禁止だ。
黙々と食べ進めていき

「ごちそう様でした」

お二方のお皿も持ち、流し台に向かう。
まだ寒いけれど、蛇口からお湯は出ないので、手を擦り合わせながら、食器を洗っていると

「早苗、今日地霊殿に行きなさい」
「はい、わかりました。
そこ、どこですか?」

神様の言うことなら従う。
ただ、場所を教えてもらわなければ、いくらなんでも無理だ。

「地図、置いておくから。

前回の謝罪に行っといて」

話が飛躍しすぎて、ついていけない。

「あの、何を謝れば?」
「地霊異変のことを。
主であるさとりにね」

あぁ、霊夢さんが私達のところに乗り込んできた理由か。

「かしこまりました」

返事をして、お皿洗いを再開する。
全てを洗い終わった頃には、お二方ともいなく、机に置いてある地図を持ち、外に出掛ける。
地図に従っていると、大きな穴に入っていく。
目的地に向かっている最中だけど修行の一環だと思い、弾幕ごっこをしていく。

「つ、ついた」

地霊殿というお屋敷についた頃には、もう心も体もぼろぼろだった。

「すいませ~ん!」

とりあえず、外から叫んでみる。
ざんねんながらなんの声も返ってこない。

「はぁ、どうしましょうか」
「お姉さん、一体何しに来たんだい?」

ぎょっとしすぎて、声も出なかった。
目の前に猫耳の美少女が現れたら誰だって驚くだろう。
でも、ここは幻想郷なのだ。
いいかげん、なれないといけない。

「ぇっと、さとりさんいらっしゃいますか?
先日の異変について」
「あぁ、ついておいで」

先に歩いていく後を追いかけていく。

「ほら、ここがさとり様の部屋だ」

そう言うと、あっという間に走り去っていく。
なにか、違和感を感じながらも、ドアをノックする。

「どうぞ」

落ち着いた少し高めの声が聞こえてくる。

「失礼します」

部屋の中に入っていく。
そこには、声よりも少し幼く感じる容姿の女の子が、大きな椅子に座っている。

「大きなお世話です」
「え、ぁ、すいません」

何か、失礼をしてしまったのだろうかと、とりあえず謝っておく。

「とりあえず、そこの椅子に座ってください」

指さされた椅子に座る。
その正面に、さとりさんも座る。

「で、なんの御用事でしょうか?」
「先日の異変で、大変なご迷惑をかけてしまいました。
その謝罪をしに参りました」
「実際何を謝ればいいかわからないのに来たんですか?
神様を信仰しているのならば、そこらへんしっかりしてくださいよ」

私が、典型的な謝罪を言い終わる前に、一人しゃべりだすさとりさん。

「お礼を言えば、いいと思ってるんですか?
私の能力について、何も知らないのですね」

能力?
なんのことだろう。

「私は、さとり。
心を読む妖怪です」

心を読むか。
そんな能力、私は……

「その能力故に恐れられています。
大丈夫ですから、謝罪なんていりません」
「友達になりませんか?」
「話聞いてましたか?」

さとりさんが、あなたの頭大丈夫かというように、眉間に皺を寄せている。

「あぁ、思えばこちらは名乗ってもいませんでした。
早苗といいます。
好きなようによんでください」
「だから」
「だめですか?」

心を読めるなんて、いいじゃない……
本音をきちんとわかってくれる。
嘘を見抜かれるけれども、それよりも、私は……

「そういうことですか」
「だめですか?」
「好きにしてください。
あなたがいやになれば、突き放してくれて、結構」

めんどくさそうに言う。

「じゃあ、お話でもしましょう。
お友だちになった記念に」
「コーヒーでいいですか」
「はい、もちろんです」

嫌がりながらも、飲み物を用意してくれるなんて、良い人だ。

「単純と言われませんか?」

「あはは、どうでしょうか」

はぁ~と大きくため息を吐きながら、さとりさんは部屋から出ていく。
机の上を見てみると、きれいな文字が並んだ書類。
なんの飾りもないペン。

「そんなにじろじろと見ないでください」
「すいません。
きちんと整理されてるなって」
「そんなこと思ってなかったじゃないですか」
「あはは、次に考えようと思ってたことです」
「はぁ、どうぞ」

カップを差し出される。
真っ黒のブラックコーヒー。
え、砂糖もミルクも無しですか?

「ここにありますよ」

すっと、ミルクと砂糖の入った容器を差し出される。
うわぁ、バラの装飾がきれいだな。
見れば、カップにも薔薇が描かれており、部屋の雰囲気によくあってると思う。

「さとりさんって、センスいいんですね」
「どうも」

何もいれずにコーヒーを飲むさとりさん。
甘いものを無しでよく飲めるものだと感心しながら、私は砂糖とミルクを加える。

「それは入れすぎではないですか?」
「甘いのがいいんですよ」
「それなら、ココアをいれてきましたのに」
「だって、さとりさんがお話に応じてくれるってだけでも嬉しいですからね。
あ、そうだ、さとりさん。
これを機に守矢神社を信仰しませんか?」

さとりさんが、がくっと机から肘が落ちていく。
コーヒー持ってたけど、大丈夫だったんでしょうか?

「なんですか、その……
友達になるんじゃないですか?」

さとりさんがひきつった笑みでこちらを見る。
あれ、私なにかおかしいんでしょうか?

「だって、自分が好きなものを友達も好きだと嬉しいじゃないですか?
強制はしませんけどね」
「まあ、考えておきますね」
「えへへ、楽しみに待ってます」

そうしたら、またいろんなお話も出来るな。
できるようになったら、嬉しいな。

「信仰するって決めたわけじゃないですからね」
「は~い、わかってますよ」

コーヒーを飲む。
なんか、コクがある?
高いコーヒなのかな。
えへへ、それってかんげ

「いつも、飲んでるやつですけど」
「も~、都合よく解釈させてくださいよ!」
「ふふ、それはすいません」

あ、笑顔かわいい。

「変わり者ですね」
「えへへ、かわいいは脊髄反射で思っちゃうものですよ」
「はいはい、そうですね」

ぐいっと一気にコーヒーを飲むさとりさん。
飲み終わった後、小さくけほけほって咳をする。

「あはは、熱かったんですか?」
「あぁ、もう仕事があるから急いで飲んだだけです!
あなたも、あるでしょ?」
「まあ、そうですね……
じゃあ、また今度」
「へっ、ちょ」

ひらっと手を振って、部屋から出て行く。
帰るときは弾幕ごっこを挑戦されることなく、神社に戻ると、掃除を開始する。
明日は、確か里のほうに信仰活動。
それなら、明後日にでもさとりさんのもとに行こう。
ほうきで境内を掃いていると

「あれ~、何かご機嫌ですね」
「えぇ、あのですね」
「あ、すいません!
今から、取材でした!」

向こうから話しかけてきたのに、ぴゅっとあっという間に飛んできて消えていく。
溜息を飲み込んで、掃除をする。
お昼ごはんはお二方とも帰ってこないからいいや。
そのまま掃除を進めていく。
神社が広いからなかなか終わらない。
こまめにやっておかないと、大掃除が大変だからやるんだけど……
だって、これが私の仕事だから、当たり前だし。

「もう晩御飯作らないと」

雑巾掛けしていたのをやめて、雑巾を洗ってから干し、ご飯を作る。
いつもどおりにご飯を作っていると、お二方とも帰ってきて、ご飯を食べる。
相変わらずの無言のご飯。

「ごちそうさまでした」
「思えば、地霊殿はどうだった?」

諏訪子様が尋ねてくる。

「いいところだと思いますよ」
「はぁ、何言ってるの?
早苗はいい子だよ。
だからこそ、無駄に傷つかないように」
「あはは、お皿洗いいってきますね」

お皿を持っていく。
だけれど、その前にお風呂を沸かしておかないといけないから、その準備をしておく。
現代設備のある家だから、便利だなって思う。
それが終わったら、お皿洗いをして、お二方が入った後お風呂に入る。
何かを言われるのが怖かったから、お風呂から上がるとすぐに布団に入る。



その次の日も、同じように食事の準備をして、人里への信仰活動。
必死に、笑顔を作る。
あぁ、私は笑えているのだろうか?
そんなことさえもわからない。
帰ってくると、次の日、さとりさんのところにいけるように、ある程度作業をおこなっておく。


「さっとりさん、こんにちは~」
「本当に来たんですね」

驚いたような呆れたかのような表情を浮かべるさとりさん。
よいしょっと椅子から立ち上がってしまう。
ぇ、まさかの会話拒否?

「紅茶のめますよね?」
「もちろんです!」

よかった、強引だったから追い出されるかと思った。

「よく来ますね」
「だって、あなたはきちんと話を聞いてくれますから」

他の人のようにめんどくさいって顔はするけれど、きちんと話してくれた。

「そんなに隙ばかり見せて……
本当に、能天気な人間です」

はっとばかにするように息を吐くけれど、顔は笑っている。

「あはは、そうですね」
「えぇ、本当に」

さとりさんが部屋から出て行く。
耳を澄ましてみる。
ここには確かな生活の音がある。
どたどたと走る音、動物達が好き勝手に鳴く声。

「お待たせしました……
蒸らすまでの時間、これでも食べててください」
「うわぁ、クッキーですね!
いただきます」

売り物ではなく、手作りであることが形から分かる。
洋菓子なんて食べるの久しぶりだ。
ずっと、神社のお仕事してたからな。
さっそくぱくっと一口食べる。

「うわぁ、これおいしいです。
どうやって作ったんですか?」
「普通のクッキーですよ。
まあ、すこし特別な植物の蜜を加えてるくらいです」
「あぁ、だから優しい味をしてるんですね」

何枚でもいけちゃいそうだな。

「どうぞ、食べてください」
「はい、喜んで」

それに、紅茶もすごくふわっと甘い香りがしてる。
なんか、すっごくおしゃれって感じ!

「おしゃれですけど、クッキーを一気に三枚も口に突っ込むんですね」
「んむぅ、ごくっ……
だって、さとりさんのおいしいから」
「ありがとうございます。
ほら、食べカスついてますよ」

すっと口から少しはなれた頬についたクッキーのカスを取ってくれる。

「えへへ、すいません」
「はい、紅茶もどうぞ」
「いただきます」

紅茶もいただく。
香りが甘いからか、紅茶もすこし甘酸っぱい味がする。
苦いのが嫌いな私にとってはちょうどいい。

「それはよかったです」
「まさか、私のために用意してくださったんですか?」
「ばかですね、あったやつですよ」
「それは残念です」

そこからは他愛もない話をしていく。
しようとしていた話を先に読まれたりしたけれど、不愉快じゃない。
だって、きちんと話が出来ているんだもん。

「あっ、もうこんな時間!
そろそろ、帰りますね」
「えぇ、おきをつけて」
「また、遊びに来ます」

ひらっとさとりさんが手を振る。
前みたいに、戸惑ってもない。
これって、歓迎してくれるってことで……
うれしい、うれしい!
ウキウキ気分のまま、かえってご飯を作る。
二人は不思議そうな顔をしていたけれど、話すつもりはない。
だって、お二方はこの関係を反対するだろうから。



「さとりさん、また来ちゃいました」
「はい、いらっしゃい。
よく飽きないものですね」
「えへへ、一緒にいたいですもの」
「紅茶とコーヒーどちらがいいですか?」
「紅茶がいいです」
「待っててください」

まだ、三度目。
だけれど、すごく居心地がいいなって思ってしまう。

「くすっ、ここのペットにでもなりますか?」
「さすがにいやですね~」
「あら、それは残念」

コーヒーが目の前に置かれる。
そして、近くにきちんと砂糖とミルクも置いてある。
それを遠慮なく、コーヒーの中に入れて飲む。
そして、今日はパウンドケーキも一緒に出されている。
これは食べてもいいのかな?

「食べてだめなものを出すつもりはありませんよ」
「それもそうですね。
それじゃあ、いただきますね」

ぱくっと一口いただく。
ドライフルーツがたっぷり入っていて、洋酒が結構きいている。
私は結構洋酒入りのお菓子が好きだから、好みの味だ。

「おいしいですか?」
「えぇ、もちろん!
すっごく、おいしいですよ」
「それはよかったです」

もぐもぐとあっという間に一切れを食べ終わってしまう。
私、こんなに食いしん坊だったっけ?

「おいしいって食べてくれれば、作り手は嬉しいですから、食べてください」
「さとりさん……全然食べてない」
「小食ですしね」

これは、まさか、私だけ太ってしまう。

「次来るときは私が何かお菓子作ってきます!
だから、さとりさん食べてください」
「魂胆はどうかと思いますが……
まぁ、楽しみに待ってます」
「えぇ、すっごくおいしいの作っちゃいますよ」

さて、何を作ろう。
実際、お菓子ってバレンタインでてチョコを溶かしてまた固めた程度のものしか造ったことない。
まぁ、なんとかなるよね。

「初心者が変にアレンジ加えようとするのは一番の失敗の元ですよ。
きちんと、なれてないならレシピ見て計って作ってくださいね」

さとりさんが心配そうに言ってくる。
結構、目分量でも何とかなるものじゃないかな、料理。

「お菓子作りは計量大切ですからね」
「あはは、まあ楽しみに待っててください」

大丈夫。
だって、幻想郷だもの。
奇跡だって、簡単に起こる。

「食べれるものであることを祈ります」
「ひどいです。
そこまで、料理音痴じゃないですよ」
「はいはい、期待してます」

うわ、全然期待してない。
練習してでも、絶対にギャフンッ!って言わせてやる。

「ギャフンッ!ってなんか表現古くないですか?」
「いいじゃないですか。
しかも、心で考えてるだけです」
「私にとっては口に出そうが心で思おうが、あんまり変わんないですもん」

でも、実際どういう感覚なのだろうか?
全然想像もつかないや。
体験なんかできるわけもないしね。

「えぇ、しないほうが幸せです」
「なんか、それ自分が不幸って言ってるみたいですよ」
「そうじゃなくて……
はぁ、もうめんどくさいです」
「うわぁ、丸投げですか」
「何を言っても、経験してない人には本当にはわからないです。
心を読む私だからこそ、それはいやなほどわかります」

そっか、いやというほど、相手の心を読んでるんだよね。
醜い心を間接的にではなく、直接に……
そんなの諸刃の剣と何も変わらない。
ひそひそ話でもこわいというのに、それを直接聞くなんて、こわい。
さとりさんは妖怪だけど、相手の心を利用するためだけにあるとは考えてないだろうし……

「都合よく解釈しないでください」

すぅっと目が細められる。

「でも、利用するためだけでしか考えてないなら……
こうやって、私と話ししてくれるわけないです」
「それは、地上との交流」
「じゃあ、それさえなければ……
さとりさんは私と話してくれません……か?」

自分で言い出しておいて声が震えた。

「私は、はな、したいです」

拒まないで、拒まないで……

「いやではないですよ」
「さとりさん!」

私の心を読めて、そう言うのだから受け入れてくれたってとっちゃいますよ!
また、パウンドケーキを食べる。

「くす、太るのが怖かったんじゃないですか?」
「ぅ、もう~!」

だって、おいしいのが目の前にあったら自然と手が伸びるじゃないですか!
食べてくれたら嬉しいって言ったくせに……

「うふふ、いっぱい食べてください」
「絶対、次は持ってきて、食べさせてやりますからね!」

そう言いながらも、またパウンドケーキを食べる。
本当にさとりさんが良いって言ってくれたのが、嬉しくて

「ぁ~、そんなにやにやして」
「えへへ~、心の中も幸せですよ」
「おめでたい人間です」

さとりさんにものすごく呆れられた。
そこからも、またすこし話して、家に帰って夕食を作る。
夕食を食べ終わると

「どこに行ってたの?」
「内緒です」

不思議そうに見ている二人に、にこっと笑いかけて、お風呂に入り、布団に入る。
また、次いけるのはいつだろうとわくわくしながら考える。



「というわけで、食べてください!」
「ありがとうございます。
シュークリーム……ですか」
「えぇ、食べてください」

どうかな、どうかな、おいしいかな?
ドキドキしながら待っていると、一口食べてからさとりさんがこちらを見る。

「卵、もったいないからって少なくしましたか?」
「ぇ、なんですか?」

なんで、ばれたんだろう?
一個と三分の一とか書いてあって中途半端だから一個でいいやって思ったんだけど……

「見てください」

断面図を見せられる。
あれ、ぜんぜん空洞がない。

「卵が少なすぎるとかたくなっちゃうんです」

うぁ、じゃあ失敗だ。
初めてにしてはうまくいったとかテンションあがってたのに……

「あ、あの、私が食べます!」

自分の分とさとりさんの分で二個持ってきたんだけど、丸々一個食べさせるなんてもうしわけない。

「ぎゃ~、なにしてるんですか!」

一気にさとりさんはシュークリームを一個食べてしまう。

「もう一個もらってもいいですか?」

あれ、私の心読めましたよね。
もうしわけないから、食べなくてもいいんですよ。

「まずいとは言ってません。
むしろ、おいしいですから」
「無茶はいいですよ」
「小食の私が二個食べたくなる程度ですから」
「ありがとうございます」

そう言いながらも、目が細くなってますよ。
確実におなかいっぱいなっちゃってますよね。

「大丈夫ですから、おいしいものなら」
「あはは、ありがとうございます」

その後、しゃべろうかとも思ったけど、リスみたいに必死にほおばっては噛んでいる姿が可愛かったから、その姿を眺め続けることにした。
さとりさんは、必死だったからか、何も突っ込んでこなかった。

「ごちっ、そうさまでした」
「お粗末さまでした」

今度はちゃんと成功させたの持ってくるぞ!

「まぁ、頑張ってください。
すいません、ゆっくり食べてしまったので、もう帰らないとまずいんじゃないですか?」
「まあ、時間はやばいですね。
それでは、また今度!」

神社に帰ってきたら、二人がもぐもぐと家においてきていたシュークリームを食べていた。

「ん、ご馳走様、早苗」
「ありがとうございます」

私一口も食べてないや。
ぁ、上手に作れたと思って舞い上がって……
一回も味見してなかった。
次からはきちんとしないとな。



次のものを練習をしている間に、かなり時間がたってしまった。
今度は、スイートポテトだ。
大丈夫、最初はパサパサしすぎたり、ねとねとになったりしたけど、うまくいったはず。

「いただきますね」
「はい、どうぞ!」

ドキドキしながら、さとりさんの言葉を待つ。
もぐもぐと何回か租借した後

「まあ、おいしいですよ」
「本当ですか、よかった。
コレ、全部さとりさんのために作ったんですよ」
「バカですか?
いや、もうバカですよね」
「ひどいです!」

別に、スイートポテトの十個くらい食べれるでしょ?

「一個が握り拳大ですよ……
私、小食ってわかってますか?」
「前回はシュークリーム食べてくれたじゃないですか」
「腹のたまり具合が違いますよ。
一個食べ切れるかもあやしいんですけど……
とりあえず、お茶いれてきます」
「あ、今日おちゃっぱもってきたので、いれさせてもらっていいですか?」

参拝客が高級なおちゃっぱをくれたのだ。
紅茶やコーヒーよりも、こっちのほうがスイートポテトにあうと思う。

「日本茶なんて久しぶりです」
「ふっふっふ、私お茶いれるのには自信あるんですよ」
「楽しみにしておきます」

キッチンはこざっぱりとしていた。
何人家族だよって言うくらい大きな鍋があるのが特徴かな?

「ペットのえさはまとめて作りたいですから」
「あはは、なるほど」
「はい、どうぞ」

急須とやかんを手渡される。
ストックしてあったお水を汲ませてもらい、やかんで沸かす。
いつもの要領でいれていく。

「じゃあ、湯のみは持っていっておきますから」
「私も行きますよ~!」

揺らさないように気をつけながら、隣に並ぶ。

「じゃあ、飲みますか?」
「もう少し、蒸らしてからですよ」

何分か経ってから、さとりさんの湯のみにお茶を注いでいく。
ぁ、茶柱たった。
いいことありそう。

「人間は単純ですね」
「でも、なんかいいことあるような気がしません?」
「そうですね」

さとりさんは私の言葉に頷いて、うっすらと笑う。
思わずドキッとしてしまった胸を誤魔化すために、お茶を淹れる。

「はい、どうぞ」
「いただきます……
ぁ、おいしい」

スイートポテトを食べたときよりもおいしそうに言ってる。

「早苗さんのいれ方が上手だからですよ。
私が紅茶とコーヒーばかり飲むのは、日本茶をおいしいと感じられなかったからです」
「本当ですか。
それは、嬉しいですね」
「みゃた、いれてください」

みゃた?
かみましたよね、今確実にかみましたよね?
見てみると、耳だけではなく首筋まで真っ赤になっているさとりさん。
あぁ、肌が白いからよくわかってしまうな。

「うるさいっ!
こんなこと言ったこともないし、緊張したんです!」
「そんな緊張しなくてもいいじゃないですか。
ペットたちにはペットになってくださいって言ってるんでしょ?」

これだけ、たくさんいるのだし……
人型になって、働いてるペットもいるのはさとりさんから誘ったからだろうし。

「ペットたちは勝手に定住していってるだけですから。
だから、その本当に初めてなんですよ。
早苗さんはいつも自分の気持ちを言ってくれるから、私もきちんと伝えようと思ったんです」
「そ、そうですか」

そういわれると嬉しすぎてなんて言っていいかわからなくなってしまう。
お互い、湯のみを持ったまま固まる。

「お、おいしいです」
「あはは、ありがとうございます」

そのまま、目もあわせることもままならず口を開いては、一言二言で会話は消えていった。

「じゃあ帰ります」
「おきをつけて」

そろそろ時間がまずいので立ち上がり、神社へと帰っていく。
さとりさんとのやり取りばかりがぐるぐると頭の中で回る。
料理をしていても、調味料のふたの紫色でさとりさんを思い出して、体温が上がってしまう。
あぁ、どうしよう!
料理を作り終わって、食べている最中もさとりさんのことで頭がいっぱいになってたら

「早苗、塩と砂糖間違えたよね?」
「へぁ、すいません」

指摘されてようやく、確かに甘いなって思う。
もう私はそのおかずを半分以上食べている。
そこまで、ボーとしていたのかと驚く。
食べ終わって、お風呂の準備をして一日を終える。
いつもどおりの一日なのに、胸が痛くてなかなか眠れなかった。



「しつれいしま~す」

あの日から数日後、胸の鼓動を気のせいだとごまかしながら、地霊殿へと訪れる。
どうしよう、私おかしくないかな?

「あぁ、お姉さんだね。
ごめんね、さとり様は少し体調崩されてるんだ」
「じゃあ、お見舞いと言うか少し傍にいてもいいですか?」

一大決心してようやく来たのだから、少しくらい見ていきたい。
う~んとしばらく首をひねった後

「まあ、お姉さんならいいよ」

許可をもらえたので、さとりさんの私室のほうに案内してもらう。
入っていくと、仕事部屋のほうとは違い、かわいらしい内装。
全体はクリーム色としながら、ピンクなども入れている正に女の子の部屋。
ベッドなんて天蓋つきだ。
ベッドのとなりに膝を突く。
さとりさんは、少し顔を赤くしながらも、寝息をたてていた。
早くよくなってくれますようにと願っていると

「うぁっ、や、まって!?」

さとりさんがいきなり、大声を出す。
はぁはぁっと荒い息をしている。

「大丈夫ですか?」

何か、悪夢でも見てしまったんだろうか?

「なんでもないです」
「お水でも持ってきましょうか?」

近くに水差しもないし、このままじゃ熱だって下がらない。

「そこまで、甘えるわけには」
「甘えてください。
お水持ってきます」

キッチンへと小走りで向かって、お水を持ってくる。

「はい、飲めますか?」
「ありがとうございます」

さとりさんはコップの水を半分くらいゆっくりと飲んで、また横になろうとして

「ぇ、なんでいるんですか?」

不思議そうに首をかしげる。
顔は真っ赤で汗だく、潤んだ瞳。
服なんて透けそうになってる。
相当熱が高いんだろうな……

「あなたのことが心配だからですよ。
さとりさん、きがえましょうか」

さとりさん自身が出しておいただろう着替えもあるのだから、きちんと着替えないとね。
ぷちぷちとボタンを外す。
そこには、予想通り真っ白で骨が浮いてしまうそうなほど細いからだ。
食べないから、体調崩してしまうんじゃないかと心配しながら、服を着替えさせていく。
さとりさんは恥ずかしそうだったけど、おとなしくしてくれていた。

「はい、終わりです。
寝てくださいね」

寝かせて、さとりさんの額に手を置く。
私は低体温なので、きもちいいはず。

「ふぁ、きてくれたのに、すいま、せ……」
「いえ、また体調戻したら話してください」
「はい、そうですね」

さとりさんが目と口両方閉じる。
しばらくすると、規則正しい寝息。
こうやってじっと見てみると、整った容姿だな。
顔もすごい小さいし、唇も……
って、私何考えてるのよ!
軽く自分の頭を叩いて、へんなことを考えないように目を逸らしながら、そばにいる。
残っても大丈夫な時間帯まで残って

「早くよくなってくださいね」

寝ているさとりさんに一声かけてから、神社に帰る。
夕食を食べ終わった時に呼び止められる。

「早苗、最近ちょっとね……
いりびたりすぎじゃない?」
「すいません。
きちんと、風祝としての仕事はしますので」

いやだ、もっと一緒にいたい。

「しばらく、信仰活動に専念して」
「わかりました」

こういわれては逆らえない。
だって、お二方は私の信じるべき神なのだから。
私を救ってくださったのだから。



「守矢神社への信仰よろしくお願いしますね」

にこっと笑う。

「巫女様だ~」
「今日も頑張って」

ひらひらっと信者に手を振る。
風祝として、当然のこと。
だけど、さびしい。
会いたい、さとりさんに……
ただただ、機械的に日にちを重ねる。
こっそり会いに行こうかとも考えたけれど、お二方にそむいたらダメだ。
だって、私は風祝だ。
夜に、布団に入ると、さとりさんのことで頭がいっぱいになる。
熱はもうひいたのかな?
さとりさんは寂しいって思ってくれてるかな?

「さとりさん」

呟けば、寂しさは紛れるような気がした。
だけど、『早苗さん』って呼び返してくれる声がなくて、もっとさびしくなる。

「あぁ、もういいよ。
行ってきな」

はぁっと大きく溜息をつかれながらだったけど、許可がおりる。

「もう、見てられなくなった。
だけど、ためこむなよ」
「はい、ありがとうございます!」

走り出す。
走るよりも、飛んだほうが早いと気づいて全速力で飛ぶ。

「はぁっ、はっ」

早く、早く、会いたい!
いつもどおりに、部屋に入っていく。

「さとり……さん」

入ってみると、さとりさんは眠っていた。
机にもたれかかって、静かに……

「ごめんなさい、さとりさん」

机には二つのティーカップがおいてあった。
起こすのが申し訳なくて、隣に座る。

「さなえさ……ん」
「さとりさん?」

名前を呼ばれたけれど、目は閉じられてる。

「すて……ないで」

眉間にしわがぎゅっと寄っていく。
すごく苦しそうで、さとりさんの身体を揺らす。
ゆっくりと目が開かれる。

「さとりさん、久しぶりです」
「早苗……さん?」

寝ぼけている虚ろな瞳が向けられる。

「ようやく来れました」

ぎゅっと抱きつかれる。
力は強いのに、身体ががくがくと震えていて、はかない。
壊してしまわないようにそっと包み込んでみると、まるで捨て犬のような寂しそうな顔で

「すて、ないで」
「すてないですよ。
今だって、さとりさんに会いにきたんですよ」

あぁ、さとりさんもさみしいって思ってくれてたんだ。
こんなことに安堵するなんて、最低だな。

「こわ、こわくて」

ひくぐすっと嗚咽まで漏らして泣き出す。
どうしよう、今日ハンカチ持ってきてない。

「えっと、私の胸ならかします」

ぎゅっとしばらくさとりさんが私の胸に顔を埋める。
しばらくの間、さとりさんの泣く声だけが響く。

「すいまっせん。
私から言ったのに、『突き放してもいい』って。
だけど、いつか私が望んでた……
早苗さんと一緒にいたいって」
「私もそうですよ」

嬉しい。
さとりさんも私と同じようにそう思ってくれてたんだ。

「利害関係だけでもいいから、一緒にいたかった。
だから、ペットが周りにいたとき嬉しかった。
だけど、すぐに離れていった。
みんな、みんな、みんな!
私の能力をわかってたのに、それなのに。
それがこわいって離れて……
妹のこいしでさえも、瞳を閉じる少し前から、『心を読むこと』も『心を読まれること』もおそれて近づいてきてくれなかった」
「さとりさん、私は」
「だから、あなたが来たときこわかったけど、嬉しかった。
あなたは最初からきちんと力を持ったものなのに、普通に接してくれて……
能力が目的だったけれど、能力が目的だったペットと同じようにはならなかった。
ううん、それどころか優しくて……」

優しくなんかない。
もう、自分勝手でこんなに傷つけてる。
最初だって、仲良くなろうと思ったきっかけなんかみにくくて

「いつのまにか、依存してた。
早苗さんが来なかったら、不安で……
早苗さんには大事なものがあるから、その次でもいいから」
「確かに私はお二方が大事です。
でも、私はさとりさんも大切です。
心を読んだら伝わってきませんか?」

今の自分の心を伝えよう。

「わかりますよ。
だけど、こわいんです」
「じゃあ、できるだけそばにいます。
私も一緒にいたいですから」
「はいっ、はい、早苗さん」

そうっとさとりさんの頬に伝う涙を拭う。

「じゃあ、一緒にお茶でも飲みましょうか、さとりさん」
「はい、準備します!」

ぱたぱたっと走り出してしまう。
しばらくすると、やかんを持って戻ってくる。
珍しい、いつも紅茶の温度のためにとかで、向こうでお湯を注いでくるのに

「一緒にいたいですから」
「そうですね」

直球の好意が嬉しい反面少し恥ずかしい。

「ねぇ、早苗さん……
来てなかった間、何をしていたか話してください」

そんなの心を読めばわかるような……
信仰活動なのだから、さとりさんが聞いてもつまらないと思う。

「だめ……ですか?」
「いいえ、さとりさんがいいのなら」

そこから、ゆっくりと思い出しながらしゃべりだす。
こんなことがあったかなと、曖昧な記憶を一生懸命思い出す。
つまらなくないかなとちらりとさとりさんの顔を見ても微笑んでいた。
だから、そのまま話し続けた。
時間の感覚なんて忘れてしまっていた。

「あの、楽しいんですけど……
時間大丈夫ですか?」
「か、帰ります!」

まずい、ご飯の準備間に合わない。

「じゃあ、これもっていってください」

渡されたのはバスケット。
中にはたくさんのお菓子が入っている。

「二人で食べるつもりだったんですけど、お話聞くのに夢中になってて忘れてました。
晩御飯作るまでの時間稼ぎにはなるんではないかと」
「ありがとうございます。
それでは、また!」

さとりさんがひらひらっと手を振ってくれていて、私も振りかえす。
お二方は、バスケットの中身をあてにしながら飲んでくれて、なんとか夕食を作って、一日を終える。

「えへへ、さとりさん」

布団に入ってつぶやく。
それだけで、幸せだった。
まるで『恋』みたいだ。
『女同士で恋愛なんて気持ち悪いよ』

「あそこと、こことでは違うの。
それにこれはきっと、ただの友情としての好意」

よぎった悪寒に対してぶんぶんっと頭を振る。
確かに、私はさとりさんが好きで一緒にいたい。
でも、私達は女の子同士で、これは友情。
だけれど、悩みだしたら結局朝まで眠れなかった。
顔色が悪いと心配されながらも、信仰活動をしていく。
ようやく、昨日許可をもらえたばかりなのだ。
それで、また調子が崩れたとなったら、さとりさんのところに行くのを禁止されてしまうかもしれない。
そんなの、絶対にイヤだから、身体を動かす。
そのおかげで、何日も眠れないって事にはならなかったけど、身体に疲れは蓄積されていく。
ようやく、時間が空いた日にさとりさんのもとを訪れる。

「お久しぶりです」
「えぇ、久しぶりです。
疲れているのならば、むりしないでくださいね」
「それよりも、さとりさんに会いたかったですから」

にこっと笑ってみる。
だけれど、やっぱり疲れているなって思う。

「くす、別にねむってもいいんですよ」
「いえ、せっかくきたんですから」
「そうですか。
じゃあ、お茶でもいれてきますね」
「は~い、お願いします」

さとりさんがいなくなって、無音になる。
まずい、首が勝手にカクカク動く。
まるで、ねむい授業中に気合でおきてるときみたい。
景色もかすんできちゃってるし……
いやいや、さとりさんとおしゃべりしたい!



「ふふ、まだ寝ててもいいんですよ」
「んぅ~、って、あれ?」

目を開けてみる。
どうやら、眠ってしまってたみたいだ。
起きるって言ってたのに、失礼だ。

「疲れてたんですからしょうがないです」
「で、ですけど」

それにしても、なんか枕がやわらかい。
さとりさんの顔もすごく近いし……
って、これ膝枕じゃないですか!
恥ずかしくなって、起き上がる。

「すいません。
ベッドまでお運びする力が私にはなかったので」
「いえ、こちらこそすいません!」

意識した途端、かぁっと体温があがってくる。

「きょ、今日はもう帰りますね!」
「きをつけてください」

一気に走り出す。
自分の顔が熱くて、冷たい風が当たっても気にならない。

「あれ、今日は早かったね」
「えぇ、今すぐ料理作りますね!」

何か言われたような気がしたけれど、もう耳に入らなくて料理を作ってしまう。

「食べ終わったらよんでくださいね」

もう、頭がパニックを起こしていて、自分の部屋にこもる。
どうしよう、どうしよう。
膝枕くらい、他の人にもしてもらってたじゃない。
それなのに、こんなドキドキしちゃって……
当たり前の少しのふれあいで、熱が収まらない。
さとりさんのことしか考えられない。
あぁ、もう否定なんか出来ない。

「私はさとりさんが好きだ」

さとりさんの全部が好きだ。
落ち着いた声も、控えめな笑い方も、さとりさんのいれる紅茶も、作ってくれるお菓子も……
心を読んで気配りをしてくれるところも、しっかりしているようでいて誰よりも繊細で、寂しがりやなところも、全部が全部!
女の子だとか、そんなこと関係ないんだ。
どうしよう、もうさとりさんに会いにいけない。
心読まれちゃう。
だって、私には……

「早苗、お風呂は~?」
「はいっ、かしこまりました!」

とりあえず、思考を中断して、お風呂を沸かす。
お二方が入った後、私もお風呂に入る。
だけど、心臓がドクドクしてすごく苦しくて、すぐにお風呂から出て、布団に入る。
できるだけ、考えないようにしながらも、必死に眠ろうと試みる。
『早苗さん、好きです』
まどろんできたと思ったら、そんな都合のいい言葉が幻聴で聞こえてくる。
うぅ、カンベンして欲しいよ。
結局、そんなことを繰り返して、明朝。
あぁ、ねれないや。
もう寝ることを諦めて、せっかくだから神社を掃除する。
ある程度時間が経つと、ご飯の準備をしていく。
そして、今日も信仰活動。
だけど、さとりさんのことばかり意識してしまう。
うぅ、自覚してしまうとだめだな……
二人が呆れているのがわかっても、変えられない。
時間が空いていると思っても、行くのがこわかった。
止められているわけでもないのに、足がすくんで動けない。

「あぁ、もう早苗……
気になることがあるなら、いってこ~い!」

どんっと背中を押される。
お二方とも、何かわかっているのか手を振っている。

「だ、だけど」
「大丈夫、私達はいつでもお前の味方だよ」
「諏訪子様、神奈子様……
はい、いってきます!」

もう玉砕覚悟でも行くしかない。
だって、想いが消えるわけもないし、むしろ増えていく一方だ。
もう、このまま会わないなんていう選択肢選べるわけない。

「さとりさん、お久しぶりです!」

部屋に直行する。
いつもどおり、さとりさんは椅子に座っている。
ゆっくりと、さとりさんの顔がこちらに向けられる。
それだけで、心臓が騒ぎ出す。

「はい、久しぶりです」

かすかにさとりさんが笑う。
あぁ、どうしよう!
なんていえばいいんだろう。
あぁっ、せっかく来る決心はついたというのに!
さとりさんが椅子からたってこちらに向かってくる。
服をつかまれる。
え、まさか気持ち悪い……とか

「バカ」

そう小さく言われて、さとりさんが背伸びをする。

「んぅっ、ぇ、さとりさん」

頬に唇があてられる。
さとりさんはすねたような顔で見上げてる。

「私はあなたが好きですよ。
ずっときてくれなくて、会えたときの言葉は告白……のつもりだったんですよ。
それなのに、あなたはただの友情の好意と思い込むし……
その上、また来なくなるなんて」
「ぅ、ごめんなさい」

思わず、謝るとぎゅっと服をつかまれる。
じぃ~とさとりさんが私の目を見つめてくる。

「あ、あのさとりさん?」
「それで、あなたの返事は?」

ぇ、私の心の声なんて聞こえてるんじゃ……

「あなたの口からでる声が欲しいんですけど」
「ぁ、はい。
わ、わた、わたしはさとりさんのこと……すき、ですよ」

無茶苦茶たどたどしい言葉になってしまった。
だって、誰かに告白するのなんて初めてだから、すごく緊張する。
なんで、さとりさんはあんなにすらすらと言えるんだろう。

「ずっと前から早苗さんのことを意識してましたから」

また、体温が高くなる。
嬉しくて、嬉しくて、どうしたらいいのかわからなくなる。

「あなたは、意識してくれないから……
この想いは叶わないんだって思ってたんですよ」
「大丈夫です、はい。
私はさとりさんのことが好きです。
絶対にさとりさんのことを傷つけませんから」
「はい、早苗さん。
でも、私はあなたといれればそれでいいんですよ」

顔を少し赤めながら笑うさとりさん。
うん、絶対に傷つけたくない。

「あはは、ありがとうございます。
でも、無茶はしないでくださいよ」
「はい、もちろんですよ」

大丈夫、私は間違えたりなんかしてない。
だって、こんなにもすきなんだもの。

「えへへ、早苗さん。
何か持ってきますね」

軽やかなスリッパの音。
あぁ、幸せだな。

「おまたせしました」
「ありがとうございます」

コーヒーとワッフルがやってくる。
ワッフルには生クリームとストロベリーソースが添えてある。
やっぱり、さとりさんのお菓子っていつみてもおいしそう。

「それくらいしか趣味がないんですよ」
「素敵だと思いますよ」
「ありがとうございます。
食べてみてください」
「はい、いただきます!」

フォークを手に取り、さっそく一口。
ワッフルが甘いんだけど、ホイップクリームと酸味が利いたストロベリーソースがちょうどよくしてくれてる。

「おいしいです」

フォークを動かす手が勝手に動いて、ワッフルを食べてしまう。
さとりさんは目の前でコーヒーを飲みながらゆっくりと食べ進めてる。
だけど、私と目があうとにこっと笑う。
私が食べ終わったら

「足りなければ、私の分も食べてくださいね」
「いえ、そこまでは」

おいしいけれど、それはさすがに……

「あ~ん」
「ん、おいしいです」

やっぱり、目の前に食べ物が出ると反応してしまう。
ぱくっとさとりさんがその後一口食べて

「間接キスですね」

嬉しそうに頬を染めて言うものだから、普段意識もしないのに恥ずかしくなってしまう。

「だって、好きな人と触れ合えるなら……
私はどんな形でも嬉しいですもの」
「わ、私だってそうですよ」

どうしよう、もう私食べちゃった。
さとりさんは、悩んでる私を見てくすくす笑ってる。

「えいっ!」

さとりさんにされたのだし、私もさとりさんのほっぺたにキスする。
あ、やわらかい。

「ほ、本当にあなたは突拍子もないですね」

自分だってキスしてきたのに、さとりさんは顔を真っ赤にする。

「あなただって、顔赤いですよ」
「えへへ、私も好きな人と触れ合えたら、嬉しいんですよ」
「そ、そうですか」

照れ隠しにかワッフルを食べだすさとりさん。
ワッフルおいしかったな~。

「あ、そうだ、さとりさん!」
「ぇ、って急にどうしてそんなことを?」

私の考えを読んで、不思議そうに首をかしげる。

「いつも、ご馳走になってるから夕食ご馳走したいんです」
「でも、私は」
「さとりさんのペットは頻繁に地上に通ってますよ」
「でも、いきなりお邪魔したら、神様が」
「じゃあ、宴会のときにでも……」

えっと、確か三日後くらいだ。
私も誘われているけれど、断れるだろう。

「あの、それは断ったらまずいんじゃ……」
「あはは、お酒弱いですから、すぐつぶれちゃうんです。
それで、その酒癖悪いみたいで……
私を家に一人にはさせたくないから、誘ってくださってるんです」

家に一人じゃなければ、許可してくれるだろう。
私がいたら、思いっきりお酒を飲めてないらしいし。

「じゃあ、お邪魔しましょうかね」
「はい、楽しみにしてください」

よし、色々作っちゃおう。

「作り過ぎないようにしてくださいよ」
「余っても、次の日に食べますから」
「それならいいですけど」

お菓子では勝てないけど、夕食ならば……

「でも、私神社の場所わからないですよ」
「じゃあ、迎えに行きます。
橋とかどうですか?」
「くすくす、ひょっとしたら神社にたどり着けなくなるかもしれないですよ」
「なんでですか?」

私、毎回あそこをとおっていってるのに……

「だって、橋姫のいる橋で、『恋人同士』の待ち合わせをするんですよ。
嫉妬されたら、なかなか解放してくれないですよ」
「えへへ、それもそうですね。
まあ、そのときは強引にでも突破ですね」
「くすっ、退治しちゃだめですよ?」
「えぇ~、わかりました」

まあ、本当に邪魔をするんなら……ね?

「じゃあ、待ち合わせの時間は六時ごろでどうですか?」
「はい、楽しみにしてます」

よし、約束これできちんとできた。

「じゃあ、そろそろ帰りますね」
「はい、おきをつけて」

手をお互い振りながら、神社へと帰る。

「どうだった~?」

軽い調子だけれど、明らかにこわばった顔で諏訪子様が聞いてきて、後ろで神奈子様がのぞいてる。
こんなにも、愛されてるんだなって思いながらも、さとりさんとのことを思い出してにやけそうになる顔を抑えて

「うまくいきましたよ」
「よかったぁ~!」

神奈子さまが微笑んでいるのが見える。

「早苗、結ばれたからには……
幸せになりなさい」
「はい、なります!」

ぼそっと呟かれた神奈子様の言葉に頷く。

「いやぁ、心配だったけど、早苗も成長してるんだもんね!
よし、今日は私がご飯を作るよ!」

袖をまくってにっと笑う諏訪子様。

「それは私が」
「えへへ、実はもう下準備全部すませてあるんだよ。
だから……ね?」

視線を神奈子様のほうに向ける諏訪子様。
神奈子様のほうにも行けってことだろう。

「じゃあ、今日は甘えさせてもらいます」

ぺこっと一回大きく諏訪子様にお辞儀してから、神奈子様のところに向かう。
私が近くまで寄ると、ぽんぽんっと床を叩き、優しい瞳で私を見る。

「失礼します」

がしがしっと髪をなでられる。
いきなりのことで、とりあえず大人しくしていると

「うん、良い瞳になった」
「そんなにひどかったですか?」
「くすくす、私達はずっとあんたと一緒にいるんだよ。
沈んでるときでも、嬉しいときでもすぐにわかる」

え、え、そんなにわかりやすかった?
頑張って、おさえ込んでたんだけどな。

「早苗」

神奈子様の声が真剣になる。
びしっと私は座りなおして、神奈子様の瞳を見つめる。

「一つのことに囚われるなよ。
それだけは覚えときなさい」
「はい、肝に銘じておきます」
「ふったりとも~、ご飯出来たよ!」
「運ぶのだけでもお手伝いします!」
「それは助かるよ」

出来た料理を運んでいく。

「「「いただきます」」」

ご飯を食べて、後片付けをしている途中に

「三日後の宴会なんですけど、家のこってもいいですか?
さとりさんを神社に呼びたいんです」
「んぅ~?
エッチなことはまだだめだからね?」
「そ、そんなつもりないですよ!?」

お二人が奥で楽しそうに笑う声が聞こえる。
そこでようやくからかわれたのだと気づく。

「あぅ、あぅ」

そんなこと考えてもいなかったのに、意識しだしてしまう。
唇と唇を触れ合わせたら、どんな感触なんだろ?

『ごめんね』

どくんっと心臓が跳ねる。
だめだ、思い出しちゃダメ。
もう、あれは過去のこと……
その他もろもろやることをして布団に入る。

『早苗ちゃん』

無理やり目を瞑って、眠る。



「んぁ、う」

眠れたけれど、眠った気がしない目覚め。
寝坊しなかっただけマシと、布団から抜け出し、いつもの巫女服に着替えて料理をする。
二つの顔が頭の中で思い浮かんでは消えていく。

「気にしちゃダメ、気にしちゃだめ」

そうだ、神奈子様も言ってた。
一つのことに囚われるなって……
思考を振り払って、色んな事を考えて気を紛らわさせる。
時々、さとりさんと会える日が楽しみだと思いながら、必死に毎日を過ごす。
そう思ったら、時間は長く感じるけれど、時を止めるメイドさんにジャマされずにきちんとその日は訪れる。

「まだ、かな」

楽しみにしすぎて早朝(ほとんど前日の夜)から、料理の仕込をしていて、待ち合わせ時間から一時間も前に待ってしまっている。
早く来ないかなっとそわそわしながら待っていると

『うわ、さとりだ』
『え、なんで?』

ようやく来たと嬉しくなって出てきそうになる笑みをかみ殺していると

『嫌われ者がなんでこんなとこまで』
『どうせ、読まれてんだ。
口に出したってかわらねえ』
『死んでしまえばいいのに』
『一生牢獄の中にいろ』
『人の心みて笑う悪魔が』
『きもちわるいんだよ』
『消えればいいのに』

遠くからでも聞こえてくる確かな悪意の形。
これは口に出てるだけ……
さとりさんにはもっと心の中でも罵倒されてるんだ。
とめなきゃ……
さとりさんを守らないと……
見殺しになんかしちゃだめだ。

「うご、うごいて」

だけど、相手に向かおうと思っても足が動いてくれない。
こわいこわいと心も怯えてる。
それでも、動かないとダメなのに……
もう、だれも……
ううん、好きな人を見殺しになんかしたくない。

「あらあら、急にねたましくなくなったのね」
「ひっ」

くすくすと笑う声。
ゆっくりと振り返るとそこには緑色に光る瞳。

「なに、いやにでもなったわけぇ?」
「ちがう!?
ちがうの……」
「くすくす、あぁ、ねたましい、ねたましい。
嫌われ者と人気者の恋」

ずしりと言葉が胸に刺さる。
喉が震えてくれない。
声が出て行ってくれない。

「さあ、それはどのような結末?」
「あ、あなたには関係ないですよ」
「えぇ、そうね……
私は所詮主役にはなれない女だもの。
だからにたにたと笑いながら見させてもらうわ。
あなたの恋はハッピーエンド、それともバッドエンド?」

バッドエンド。
やだ、どうしてこんなにも頭にこびりつくの。
でも、でもこのままじゃ……
嫌われてしまうんじゃないだろうか?
だって、私はあの時

「さ、さとりさんに体調が悪くなったって伝えてください」

ぼそりと了承の返事も聞かずに地上に戻る。
神社に戻って布団に包まる。

『さなえ』

にっこり笑ってる彼女……
そう、私の罪、過ち。
忘れるなんて許されない。
思い出したくなくても、思い出していく……



私がまだセーラー服を着ていたころ……
私の隣にはいつも一人の親友がいた。
何をするのだって二人一緒で、まわりからは『にこいち』なんて呼ばれてたりした。
風祝の私は小学生のときなどは、修行のために早く帰っていたから、友達はいても親友なんていなかった。
そもそも、女の子の世界というものがわからなかった。
ころころと話題は変わるし、お化粧に洋服にきらびやかなファッション。
それだけならともかく、私には異常な拘束がおそろしかった。
だから、彼女とのお互いが近づきすぎず、一緒にいたいときに一緒にいるのは楽だった。
サバサバとした性格で、困った人は放っておけないお姉ちゃんタイプ。
それゆえ多くに慕われているけれど、一人も好きな彼女は私と波長が合ってた。
学校以外の外で会うのも彼女だけだった。
カラオケにショッピング、色んなところに出かけた。
もちろん、修行はおろそかにしなかった。
神様方も私の話を聞いていて、嬉しそうだった。
優しい微笑を見せながら、『うらやましい』って言ってくれた。
絶対に壊れることのない絆だって信じてた。


今でも思うの。
あの時、もしも彼女を……


その日もいつもどおり、彼女と話してた。

「くすくすっ」
「えぇ~、まじで?」

明らかにこちらに向けられる視線。
それとともに向けられる女と少しの男の嘲笑。
明らかにおかしかったけれども、自分の髪が寝癖で朝から直せないほどひどかったから、そのせいだろうと思った。
四時間目の体育の授業。
おなかへったな~と思いながらきがえてたら

「早苗。
購買にご飯買いに行ってくる」

先に着替えた彼女は誰よりも早く更衣室から出て行く。
まあ、いつもそんな感じだった。

「ねえ、ねえ、早苗ちゃん」
「ん、なに?」

彼女が出て行った瞬間に、違う女の子が絡んでくる。
スカートのフックをとめながら、返事をする。

「知ってるぅ~?
あの子ってさぁ、レズなんだって」
「あはは、なにそれ?」

フックを留め終わり、ベストを着る。
脱ぎ終わった体操服をたたんでいると

「マジだって!」

どうせ、ガセだと思ってた。
彼女はお姉ちゃんタイプだから、女の子が度を越した甘え方をしてきてたから。
彼女自身、それに優しい笑みで応対してた。
ストーカーされたこともあると困った風に笑っていたから

「ほらっ!」

携帯を差し出される。
見ないと解放されないとわかってたから、受け取り見た画面には……
彼女と誰かがキスをしてる光景。
私服だけれど、彼女はきちんと彼女だってわかって。
もう一人の子はどう見ても、日本人の可愛らしい女の子。

「早苗ちゃんはさぁ~……
レズと一緒にいるの?」

にっこりと一人が笑う。
嫌な汗が出てきて、頭が真っ白になる。

「それにさぁ……
あいつが私のことを振った理由がさ、レズのこと好きになったからなんだよね」

いやなほど、相手の言うことがわかる。
私の手から自分の携帯を回収して

「ねえ、早苗ちゃん♪」

明確な言葉はない。
だけれど、言葉が伝わってくる。

「女同士で恋愛なんて気持ち悪いよ」

臆病な私は震えながら、そのような言葉をつむぐしかなかった。
群れるのが嫌いなくせに、一人は怖い。
二人でいることを求めたくせに、私は自分を守るために迷わずにもう一人を突き落とした。

「あっはは~、だっよねぇ~」

けたけたと下卑た笑い声。

「ねえ、早苗ちゃん。
ご飯、一緒にたっべよ~」
「うん」

こういうのは、一度入ってしまったら抜け出せない。
ターゲットが変わるまでは抜け出せない。
だって、一歩間違えれば自分がターゲット。
だけど、彼女は一人でも毅然としてた。
大丈夫、彼女は一人が平気なんだ。
まとわりついていたのは私のほう。
唾を飲み込むごとに胸が重くなっていく。
神様達は心配そうにしてた。
だけれど、直接何も言わない。
日数だけがゆっくりしっかりと過ぎていく。

「くっそ、あいつめ」

生徒をパシリのように使う先生に偶然見付かり、せっかく授業が終わったというのに、先生にいわれたノートをとりに教室に戻っていると

「ぇ?」

彼女がぼ~と空を眺めてた。
無理やり顔を逸らし、教卓にあるノートをとって、出て行こうとしたとき

「ごめんね」

ぼそりと呟かれた言葉。
私は勇気を振り絞り、彼女のほうを向く。
久しぶりにまともに見る彼女はあのころとやっぱり変わってない。
『一緒に帰ろう』
その一言を言おうと思った。
一方的に距離をとって、傷つけてしまっているから。
本当に謝るべきなのは私だから。
私は彼女ときちんと話したい。
だけど、時折聞こえる女の子の笑い声が私をすくませる。
もし、あの子達だったらどうしようと……
彼女の目がこちらに向けられる。
それがまるで私を攻めてるように思えて……
私の思いなんか伝えても迷惑のように思えて、教室から走って逃げ出す。
先生にノートを渡して、家まで帰る。
家に帰って、畳の部屋のはしっこで膝を抱えて座り込んでた。
携帯でメールも出来るのに何も出来ないまま。
修行だけは意地でおこなった後は、自分の部屋にこもる。
次の日登校すると……

彼女が死んだことが伝えられた

通り魔による殺人。
学校からの帰り道の最中にだった。
あの時、もしも私が声を掛けていたなら、彼女は助かったのかもしれない。
学校が終わった後に、お通夜に向かう。
彼女の笑顔の写真を見た瞬間、ぼろぼろと涙が流れ出す。
あの時、勇気を出せていたら……
ううん、もっとずっと前に動いていたら。
後悔ばかりが押し寄せてきた。
それでも、親族ではない私はお通夜が終わり帰ろうとしたとき、彼女の両親から手紙を渡される。

「これ、引き出しに早苗ちゃんへって」
「ぁ、はい」
「仲良くしてくれてありがとうね」

こくっと頷き、家へと走る。
彼女への手紙は開かなかった。
いや、開けなかった。
なんて書いてあるか分からなくて怖かった。
その後、学校に行く気力もわかなくて、引きこもってた。
家族は親友が死んだからと勝手に納得して、神様は怒った目で私を見てた。
そんなのを数週間も続けていたら、神様達が

「このままじゃお前にも良くない。
私達と一緒に来ないか?」
「はい」

どこに行くかわからなかったけれど、逃げ出したかった。



それからは、忙しさで自分を誤魔化した。
あの出来事を考えないようにしてた。
『心を読む妖怪です』
ずっと、心で考えてたことだった。
自分の想いが伝われば、あのときみたいな思いはせずに付き合えるんだって、そんな下心を持って近づいた。
私の心をわかって、欲してくれるのが嬉しかった。
彼女となら一緒に入れる。
彼女を見放したことを後悔しているから、さとりさんだけは絶対にしないって決めたのに……
結局、私は今さとりさんも見放した。

「どう、しよう」

どうしようじゃない、ゆるされない。

「ごめんなさい」

誰に謝るって言うの?
ひくぐすって涙が流れる。
身体が寒さ以外のもので震えが止まらない。




「さなえ?」
「ふあ、ぁ」
「どうしたの?」

諏訪子様が心配そうに駆け寄ってくる。
泣きつかれて寝てたみたい。
どうしよう、私どうしよう。

「さとりさんは?」
「あ、ぁの、その」
「あいつに泣かされたのか」

神奈子様の怒りを含んだ声。
ぎゅっと眉間を寄せた諏訪子様の顔。

「ちがっ、ちがうんです」

声を絞り出す。
さとりさんのせいなんかじゃない。
私のせいなのだから。
ゆっくり、ゆっくりと事情を話す。
最後まで話し終えると
『パンッ』
諏訪子様から平手をされる。

「ぅあ、んぅ」

当然のことだ。
私は許されない。
神罰を受けないと駄目な存在なんだ。

「いいかげんにしなさい」

頬を両手で挟まれ、上を向かされる。
諏訪子様の目と強制的に合わされる。

「私はね、あなたが前みたいに傷つかないように、最初付き合いをやめさせようとした。
私達と一緒にいれば、傷つかずにすむだろうと思って、今まで手を引いてきた。
だけど、あなたはその手を離した。
一緒にいたくて、一歩踏み出したんでしょ?」

諏訪子様の言葉に頷く。
大好き、さとりさんのことが大好き。
そばにいたい。
だけど、私なんかにその資格はもうないんだ。

「あなたのすることに、これ以上は口出ししない。
あなたが自分で選びなさい。
神は導く存在であるけれど、選ぶのはあなた達人間なのだから。
だけどね、さとりさんの気持ちを考えた?」

さとりさんは、わからない。
だけど、今の私の考えを見たら怒るに決まってる。
だって、みはなした。
好きなくせに私は自分を一番に選んだのだから。

「お前は自分の考えに囚われすぎだ」
「神奈子様?」
「相手はきちんといるんだ。
向き合いもせずに、お前は全てを終わらせるのか?」

いなくなった彼女……
きちんと生きているさとりさん。
だけど、地底と地上。
会いに行かないと、接点も全てなくなってしまう。

「いっ……てきます」

怒られるにしても、きちんと向かい合う義務があるんじゃないか?
ぎゅうっと諏訪子様が抱きしめてくれ

「愛しい早苗。
頑張って」

神奈子様はもうこちらを向いてない。
でも、背中で語っている。
お二方の力をもらい、私は地底に向かう。
飛んでる最中もいやなことばかり、思い浮かぶ。
そして、待ち合わせの橋に

「ぁ、しゃ、なえさん」

手袋もマフラーもしているのに、顔を真っ青にさせてたっていた。
もう、丸一日たってしまっているのに……

「あはは、間違えて一日待っちゃいましたかね。
実は朝の七時に目が覚めてしまいまして」
「どうしてですか?」

心を読んで、もうわかっているでしょう?
私はあなたを見放した。
こうやって、丸一日も寒空の下に放置した。

「くすくす、地底なので空はないですけどね」
「な、なんで怒らないんですか?」

とことことさとりさんが近づいてくる。
スカートから見える足は小刻みに震えている。

「言ったでしょう?
私はあなたが好きなんです。
あなたはちゃんと来てくれた。
それで、十分なのですよ」
「でもっ、でも、私」
「嫌われるのは慣れています。
それとも、嫌われ者の私の傍にはいたくないですか?」

ぶんぶんっと首を振る。
一緒にいたい。
でも、それなのに、こわい。

「周りなど、どうでもいいのですよ。
私にはあなたがいればね」

迷わずに言うさとりさん。
ずるっと鼻をすすりながらも、笑ってくれている。

「ごめ、ごめんなさいっ!」

ぎゅうっとさとりさんを抱きしめる。
とても冷たくなってしまったからだ。

「あったかいです」

さとりさんも私の身体に寄り添って、腰に手を回す。
周りからひそひそ声が聞こえる。
だけど、どうでもいい。
なんで、私はあんなに気にしてたんだろ?
さとりさんが傍にいてくれればいい。

「キスしてもいいですか?」

もっと、触れ合いたい。

「ばか、そういうのは雰囲気でいいんです」

真っ赤なさとりさんの耳。
そっと唇を重ね合わせる。

「「好きです」」

この想いさえあればいい。

「さとりさん……
今からでも、私の神社に来てくださいますか?」
「よろこんで」

身体を離して、案内しようと先に飛んでいくと

「さとりさん?」

微笑んで、手を差し伸べてた。
急いでさとりさんのところに戻ってさとりさんの手を握り、飛び出そうとしたら

「くすくす、これじゃあ進めないですよ?」
「ぇ、あ、はい!」

握る手を変えて、さとりさんと一緒に飛び出す。
何も話すことが思いつかなくて、ただとなりにさとりさんがいるのが幸せで……

「ただいまかえりました!」
「ぇ、え?」

さとりさんが困惑している。
どうしたんだろう?

「神様、いらっしゃるのですか?」
「えぇ、いらっしゃいますよ」
「なにか、都合が悪いですか?」
「い、いえ、そうじゃないですよ」

さとりさんがそわそわしだす。

「お、はじめまして……かな?」
「はい、はじめまして。
古明地 さとりと申します」

深々とお辞儀をするさとりさん。

「すいません。
いきなりおじゃまして」
「いえいえ、じゃあせっかくだし……のもうか!」
「はい、よろしくお願いします」

諏訪子様が盃を渡すと、丁寧に受け取るさとりさん。

「じゃあ、私はあてでも作ってきますね」
「うん、待ってるからね~!」

ぐいっと諏訪子様はさとりさんの肩に腕を回していく。
むぅ、こんなことで嫉妬しちゃうなんて……
あ、さとりさん、くすくすって笑ってる。

「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです」

神奈子様のところまで連れて行かれて、飲んでいる。
煮物だから、あたためればいいだけ。
煮物といっても、シチュー。
さとりさんって、洋食って感じがするし、パンも軽く焼けば食べられるからだ。
あとは、つけあわせを増やしておこう。
冷蔵庫をのぞき見ると……
塩辛に枝豆などの洋食とはほど遠いもの。
戸棚を見てもあるのはおせんべいやおかき。
とりあえず、シチュー鍋の隣で枝豆を茹でていく。
シチューが温まり終わると、鍋敷きを机において、鍋後と持っていく。
お玉は突っ込んで、お好きなときにお好きなだけ食べてくださいってやつだ。
塩辛も少し離しておいておく。
全てを準備し終えて、私はさとりさんの隣に行く。
しばらく私はお茶を飲みながら、さとりさんを見守っていた。
諏訪子様がさとりさんを質問攻めしていたからだ。
耳も真っ赤にして、たまにこちらに救いの目で見てくる。
それに心の中で応援する。
だって、答えてくれるさとりさんがかわいいし、何よりもその答えを聞くのが嬉しいから。

「あっちゃ~、つぶれちゃったね」
「そのようですね」

数時間後には私に寄りかかって、さとりさんは眠ってしまっていた。
その少し前から首がこくこくと動いていたんだけど、ついに限界だったみたい。

「早苗、もう寝かしてあげて」
「はい、わかりました」

さとりさんを起こさないように抱き上げていく。
急いで布団を敷いて、そこに寝かせる
後片付けも残っているし、立ち上がろうとした時

「いっちゃうんですか?」

さとりさんが抱きついてきて、私は布団の中に引きずり込まれる。
布団の中でも分かるほど真っ赤な顔。

「後片付けがありますから」
「ほんとうに?」

疑われてもしょうがない。
疑われてしまうようなことをしてしまっているのだから。

「ほんとうです。
えいっ!」

身体を引き寄せて、無理やり唇を重ね合わせる。
にゅっと舌が入り込んでくる。
さとりさんのほうから、そんなに積極的に来るとは思わなかったけれど、私も舌を伸ばす。
ぴちゃっとかすかに鳴る音。
かすかに伝ってくるお酒の味に酔ってしまいそう。
唇が離されそうになる。
だめ、まだ物足りない。

「んぅっ!?」

驚くさとりさんだけど、大きな抵抗はしない。

「ぷはっ、はぁ……
ねえ、さとりさん?」

にこっと笑ってみる。
ぎゅうっとさらにしがみついてくるさとりさん。

「ごめんなさい」

こんなことで謝られてもなって思う。
むしろ、甘えられたら嬉しい。

「ちがう、んですよ」
「何がですか?」
「なんでもないです。
ごめんなさい。
後片付けに戻ってください」

変だなと思いながらも、 後片付けがあるのは事実なため後片付けに戻る。
少し戻るのが遅くなったから、お二人にからかわれたりもしたけど、誤魔化しながらも後片付けを済ませる。
お布団に戻ったころには、すでにさとりさんはぐっすりと眠っていた。
たいしたことじゃなかったんだなと思い、軽く髪をなでた後、隣に入りねむる。



「さとりさん、朝ですよ」
「ぅあ、く、っ~!
ぉはようございます」

頭を押さえ、目を細めている。
二日酔いなのかな?

「どうやら、そのようです」
「じゃあ、朝ごはんできたらよびますね」
「いえ、手伝います」

よろよろっと立ち上がるさとりさん。

「お世話になったのですし……
少しだけでもさせてください」
「じゃあ、お魚やいてください」
「おまかせください」

台所に立つと、さとりさんは手際よく魚をさばいていく。
それを見ながらも、私は自分の作業を進めていく。

「うふふっ、朝から仲がいいね」
「諏訪子様、あともう少しでできあがりますから」
「机ふきにいってきますね」
「さとりさん、お願いします」

ぱたぱたとさとりさんが走っていく。
諏訪子様がゆっくりと近づいてきて

「幸せそうだね」
「あはは、ありがとうございます」

毎日、こんな風にさとりさんがいたなら、幸せだな。
叶うはずのない幻想に夢はせてしまう。

「早苗、もう逃げちゃだめだよ」
「はい、諏訪子様」

もうわかってる。
さとりさんは、どんな私でも受け入れてくれる。
とても優しい大切な人だから、そんなさとりさんと一緒にいたい。

「私、さとりさんのことが好きですから」
はじめまして、シークアーサーと申します。
珍しいカプですが、こんなのもありと思っていただけたら幸いです。
後編も近々あげようと思っているので、読んでいただけたら嬉しいです。
最後に、読んでいただき誠にありがとうございました。
シークアーサー
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コメント



0.1180簡易評価
1.40名前が無い程度の能力削除
何か歯車が噛み合ってるような噛み合ってないような曖昧な感じが所々にあるように思いました
2.80名前が無い程度の能力削除
ストーリーはとても面白いです。
早苗とさとりで、こんな風に展開するのかと、最後まで楽しめました。
ただ、文章の構成が曖昧で、場転がわかりづらく、盛り上がりに欠ける印象を受けます。

まだまだ伸び白が沢山有りそうだと感じました。
期待していますので、後編も頑張って下さい。
4.80名前が無い程度の能力削除
紅茶がいいって返答を了承してコーヒーをさりげなく出すさとりさんと
気にとめない早苗さんに思わずにやにやした
7.100幻影火賊削除
続きが楽しみです
10.100名前が無い程度の能力削除
面白い!!
話はとても面白いのだけれど、イマイチよくわからない会話、描写を省きすぎだと思った場面などがあった。
そんなのほとんど気にならないくらい面白かったけどw
後編、期待してます。