Coolier - 新生・東方創想話

ダウジング・デイ

2011/03/03 15:22:00
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私の名はナズーリン。『探し物を探し当てる程度の能力』を持った、しがない妖怪だ。
現在、私は命蓮寺という寺に住んでいる。
その寺には、人間も妖怪も平等に扱う尼僧、聖白蓮と、かつて彼女に救われ、彼女を慕う妖怪たちと、彼女が信仰している毘沙門天様の弟子が住まう、そんな寺にともに暮らしている。
この毘沙門天様の弟子は、私にとっての上司――私はご主人と呼んでおり、他の皆は彼女の名前である星と呼んでいる――であり、同時に監視すべき対象である。
元々、聖が修行していた寺がある山に住んでいた妖怪であったご主人が、毘沙門天様の弟子に選ばれた折に監視役として派遣されたのが私だ。
まぁ、山で『最もまともな妖怪』として聖より毘沙門天様に紹介されたご主人は、その触れ込み通りの生真面目っぷりで問題らしい問題も起こさず、毘沙門天様の代理として申し分ない働きをしていたので、こう言っては何だが、監視対象としては全くと言っていいほど張り合いがなかった。
しかし、完璧かと思われたそんなご主人にも悪い癖があったのだ。
それは――。

「ご主人……、またかい?」
「本当にすみません! さっきまで持っていたのは確かなんですけど!」
「まったく……」

――すぐ物を失くすのだ。
いや訂正しよう。あれは悪い癖などという生易しいものではない。
あれは『すぐ物を失くす程度の能力』と呼ぶに相応しい。
毘沙門天様は最初から分かっていて、『探し物を探し当てる程度の能力』を持つ私を監視役として送り込んだのではないだろうか。そんな風に思ってしまうのは、果たしてこれで何百何千回目だろうか。
とにかくその事実を知って以降、ご主人と私の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
ご主人が物を紛失しては、私がそれを見つける。
ほんの数分前に寺に居たはずなのに、数十キロ離れた場所で落し物をしていたこともあった。
毘沙門天としての業務を放り出して、一体どこをほっつき歩いているのかと思うほどの、とんでもない辺境で見つけたこともあった。
それをご主人は『うっかりしてました』の一言で纏めるから恐ろしい。
そんなことを繰り返していく内に、私の『探し物を探し当てる程度の能力』はどんどんと精度を増していった。しかし悲しいかな、ご主人の『物を失くす程度の能力』も悪いほうに成長していったのだった……。



「ほら、ご主人。見つけたぞ」

ご主人に探し物の宝塔を手渡す。
自室で神妙な顔をしていたご主人の顔に、安堵が漏れる。

「ああっ! ありがとうございます、ナズーリン!」
「礼より行動で示して欲しいものだね、ご主人」
「返す言葉もありません……」

いかにも申し訳なさげにうなだれるご主人。その姿が何となく、私より小さく見えてしまう。いつものことだ。
そんなご主人を見てしまうと、私は一言二言言うだけに留まってしまうのだ。これもいつものこと。
理由は二つある。一つは先に述べたように、ご主人の申し訳なさそうな表情。なまじ海より深く反省だけはしているだけに、この表情を見せられると途端にいたたまれなくなってしまうのだ。
もう一つの理由は、この日常業務と化した作業が、その日の私の調子を計るバロメータとなっているからだ。自らは有効活用しているのに相手を叱り飛ばすほど、私の性根は腐っていない。

「まぁ、すぐ見付けられるからいいけどね」

ご主人との茶番めいたやり取りも、私のこの台詞で締められる。勿論、いつものことだ。
お互い、こんなことに尾を引いていても業務に差し支えるだけだからだ。「切り替えていこう。でも反省はきちんとしてくれよ」と。
そうして私はご主人を背に部屋を後にした。背後で「どうしてこんなに泥だらけになっているのでしょう?」とご主人が唸っているのが聞こえた。
廊下に出て角を曲がる。曲がった先の庭には、プランターがいくつも設置されていた。つい先日、里の子ども等から贈られたものだ。
妖怪は人間を襲わなければいけない。その一方で、人間と妖怪の距離は昔と比べて近くなっているのも、紛れも無い事実である。今の幻想郷に、聖の考えは確実に浸透している。それが、このプランターである。
今朝方、プランターと一緒に貰った種やら球根やらを、聖とご主人が嬉しそうに植えに行ったのを、私は起き抜けに見ていた。
宝塔を失くしたと私に泣きついてきたのはその後だった。
球根と間違えでもしたのだろう。プランターの中に一つだけ、球根とは思えない何かが飛び出していたものがあって、それを引き抜いてみれば案の定だった。
気付くだろ、普通。ていうか気付いてくれ。聖も気付いてあげて欲しかった……。
とにかく、だ。
今日の私は調子が良かった。こんな日を逃す手は無い。久しぶりに趣味に走るのが正解だろう。
そう思った私は、身支度を整えて空へと飛び立った。





「そんなわけでやって来ました無縁塚」

ここには比較的よく訪れる。何故なら外の世界の道具が落ちていたりするからだ。いわゆるレアアイテム。
実に探しがいのある、ダウザーにとっての名所なのである。
……幻想郷にいるダウザーは、私だけのような気もするが。
いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、今日はここでダウジングと洒落込むのだ。宝塔以外を探し当てたいのだ。
思い出せ! あの感動を!
私は背中に背負っていたロッドに手を伸ばす。ロッドを構える手が喜びに打ち震えている。顔がほころぶのを抑えられない。今の私は、きっと面白い顔をしているに違いない。
早速手応えがあった。流石無縁塚である。幻想郷の中でも最も危険な部類に入るここ無縁塚では、手応えの大きさも他とは桁が違った。虎穴に入らずんば虎児を得ずとはよく言ったものだ。

「これだ……、私が求めていたのはこういうものだったんだ……!」

この感覚、久しく忘れていたな……。
聖の封印を解いて命蓮寺を開いてからは、何かと忙しい日々が続いたからなあ。本当は今も忙しいのだがね! 気にしない!

「さぁ、本日最初のアイテムは一体何かな!?」

無縁塚という、静かで寂しいロケーションで、独り叫び立てる私はまさに奇異そのものであった。少なくとも、寺の仲間が今の私を見たらドン引きすること間違いなしだ。
反応のある先に、私は嬉々として駆け出していく。目指すその先には、一本の木が立っていた。
目的の木に辿り着く。パッと見た感じでは、それらしいものが特になかったので、死角になっている裏に回り込んでみた。そして、そこにとある道具を発見した。

「鎌……、か?」

木に寄りかかるようにして鎌が立てかけられていた。
自ら発した言葉に疑問符が付いてしまったのは、その鎌の形状が少し不思議なものであったからだ。
その鎌は、私の知っているそれと比べて、先端の刃が波打つようにうねった形をしていた。
この形状にすることで、殺傷能力が増すのだろうか。武器として鎌を持ったことがないので計りかねるが、少なくともこんな特殊な鎌を見るのは初めてだった。つまり――。

「――レアアイテム、だな」
 
ならば、と手を伸ばしたところで突然「ちょいと待ちな」と背後から声を掛けられた。まさか私以外に無縁塚にいるとは思わず、柄にもなく肩を跳ね上げてしまってから、後ろへと振り向いてみる。

「その鎌はあたいのだ。触らんでもらおうか」

私に向かってそう言いながらこちらに歩み寄ってきたのは、赤い髪をした長身の女だった。私が手に取ろうとしていた鎌をひょいと持ち上げて、肩に乗せる。

「まったく……、人のものに手を出したら口うるさい閻魔様にこってり絞られちまうよ?」

女は呆れたように言う。私にそんなつもりは毛頭なかったのだが、あの鎌の所有者を名乗る彼女からしてみれば、物盗りに映って見えたのは仕方がないのかもしれない。
素直にそう思いつつ、タイミングが悪かったと自省する気など全くないと言った風に心の中で嘆いていると、女から不穏な発言が飛び出してきた。

「まさか、あたいの鎌で自殺でもする気じゃなかっただろうね?」

自殺だと? 馬鹿な。そんなことするわけないだろう。こんなに生気に満ち満ちている妖怪が、自殺なんて愚かな行為に走る必然性が見当たらない。
それにしてもこの女……、およそ人気とは無縁なこんな場所にいるなんて、一体何者なのだ。
まさか……、こいつもダウザーか? あの不自然に曲がった刃は武器としてではなく、ダウジング的な意味合いを持っているのかッ!? くそう、ここは私が先に見つけた猟場なのだ! どこの馬の骨とも知らぬ輩に易々とは明け渡さんぞ!!
普段は冷静沈着で通っている私だが、突如テリトリーを侵して現れたライバルダウザーを前にして、どうして冷静でいられようか。
一瞬で怒りが沸点まで到達した私は、宿敵目がけて踊るように飛び掛り、ロッドの一撃を見舞ってやろうとした。
しかし、確実に命中したと思われる一撃は何故か届かず、逆に鎌の柄で頭部を殴打され――刃部分の重みもありその威力はまさに殺人級の一言――、私の意識はそこで一度途切れてしまった……。



――私は今、綺麗なお花畑を走っていた。
――周りには、私と同じように楽しそうに「ウフフ」「アハハ」と言いながら走っている者達がいた。
――人も妖も、皆一様に笑顔であった。
――ああ、聖……。聖の目指した理想郷は、ここにあったぞ。おや、少し先に暖かな光が射し込んでいるぞ。
――よし、あそこに行こう。皆そこに向かっているようだしな。そーれ、私が一番乗りだぞー……。

しかし、その光に私は一向に近づくことが出来なかった。どころか、どんどんと遠ざかる一方だった。
これはおかしいと思い背後を振り返ってみると、先程の女が立っていた。

――貴様! どこまで邪魔をするつもりなんだ!
「馬鹿野郎! そっちに行くんじゃない!」
――馬鹿は貴様の方だろう! あの暖かな光こそ、我らが目指したもの! あれを掴みとらんとして何をするというのだ!
「さっきから訳の分からないことばかり言うな! いいか、あの光に触れてみろ! そうしたら、お前さん――!」

私は精一杯の抵抗をした。必死に前に足を踏み出した。だが、光への距離は離れる一方で、逆に例の女に近づいていくだけだった。
あの女は立っているだけだというのに、何故どんどん奴との距離が短くなっているのか、訳が分からないのはこっちの方だった。
もうダメだ。光へは届かない。あの光の先を見てみたかったのに。きっと聖が求めていたものがあっただろう、あの光が遠くなってゆくのを、私は歯噛みしながら見ることしか出来なかった。
赤い髪の女の手が、私の肩を掴む。そして、耳元にまで顔を近づけて口にした言葉に、私は一転背筋がぞっとすることになる。

「お前さん……、この世に帰ってこれなくなるんだぞ」



気が付けば、目の前には青い空が広がっていて、白い雲が緩やかに流れていた。どこからか、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
私は地面に仰向けになっていた。頭頂部がズキズキと鈍痛を訴えている。顔をしかめながら、痛みの元へと手を伸ばそうとした時、頭の先から声を掛けられた。

「お、目が覚めたかい」

私は片手で頭をさすりながらのっそりと起き上がり、声のした方へと振り返る。
そこには、赤い髪の女が木に寄りかかって座っていた。
女は立ち上がり、私の元へと歩み寄る。私の目の前まで来ると、その場にしゃがみ込んだ。女としては、少しばかりお行儀が悪い感じだ。

「いや、悪かったね。少し強く叩き過ぎた」

いきなり謝罪され、私は少しばかり混乱した。
しかしすぐに思い出した。そうだ、私は彼女に殴られて気を失ったのだった。そこで、お花畑を走り回って、暖かな光を見つけてそこへ向かおうとしたところで、彼女に邪魔をされて……。

――お前さん……、この世に帰ってこれなくなるんだぞ。

そうだ。あの時彼女にそう言われたのだ。
この世に帰ってこれない。それはつまり、あの光に触れていたら、私はあの世に行っていたことになるのだろうか。
私は女の顔を見る。ここで初めて、私は尋ねてみた。

「君は……、一体何者なんだ……」
「あたいは小町。小野塚小町。しがない死神さ」
「死神……、ああそうか……」

とすると、先程私が見た光景は生と死の境の光景だったのか。
死神ならば、あのような場所に現れても不思議ではないな。それに、鎌持っているし。
私は未だ痛む頭を抑えながら、よろよろと立ち上がる。小町が心配そうに声を掛ける。

「おいおい、まだ立たない方がいいぞ」
「いや、大丈夫だ。これでも妖怪だしね。それに、謝罪するのに座ったままというのも無礼だろう?」

と言いつつも、小町の補助もあってようやく立ち上がれる程度に、ダメージは大きかった。
そしてまず、小町へ謝罪した。

「すまなかった、小野塚殿。元を正せば、私の早とちりが原因だった。まさに自業自得とはこの事だと、深く自省している」
「よしとくれよ。あたいの方も必要以上に強くやりすぎたんだ。お互い様さ」
「お気遣い、感謝するよ。ああそれと、自己紹介が遅れて申し訳ない。私はナズーリン。しがないダウザーだ」
「ダウザー……、なるほどねぇ。ここは幻想郷では珍しい物に溢れているからねぇ。あぁ、それと『小野塚殿』なんて堅苦しい呼び方は、なしにしとくれよ。肩が凝っちまう」
「そうかい……。では、小町殿でどうかな」
「あー……、まぁ、さっきよりは柔らかいし、それでもいいか」
「では、よろしく」
「はいよ」

私と小町は、がっちりと握手を交わした。



「しかし、死に向かいかけた私を引き留めるなんて、死神としてそれはどうなんだい?」
「いやぁー……、あたいたちも無闇やたらに命を奪ったりなんてしないしねぇ。それに――」
「それに?」
「――もしあんたがあのまま死んじまったら、あたいの仕事が増えちまうじゃないか」
「違いない!」

無縁塚に私たちの笑い声が響く。何ともおかしな光景だ。
小町とは、すぐに打ち解けることが出来た。
彼女は聞いての通りの、怠け者だった。無論、今こうしてここにいる私も、同じくらいの怠け者だ。怠け者同士はどうやらウマが合うらしかった。
それからしばらく、私たちは何気ない日々のこと、仕事の愚痴などに花を咲かせていた。



「ああ……、そろそろ戻った方がいいかな」
「お、もう帰るのかい。真面目だねぇ」

小町がニヤニヤしながら皮肉ってきたが、既に話し始めて結構な時間が経っていた。
私としては、充分長い時間サボらせてもらったのだが、小町はまだサボりたりないようで、木に寄りかかったまま動こうとはしなかった。
楽しい時間を過ごせただけに名残惜しさはあったが、それはまた次の機会にしようとぐっとこらえて立ち上がる。
小町の方もそう思っていたようで、手をヒラヒラ揺らして「また話をしよう」と言ってくれた。
私もそれに応えて、手にしたロッドを掲げる。小町に背を向け、飛び立とうとする。そこでふと思いつく。そうだ。
私がその場で固まっていることに、小町が首を傾げた。

「ん? 行かないのかい?」

一眠りでも始めようとしたのか、足をだらしなく伸ばしていた小町が片目だけで私を見遣る。
私は思いついたことを、小町に伝える。

「小町殿と知り合えた今日という善き日の記念に、一つ小町殿の欲しいものを探してみようと思っている」
「あたいの欲しいもの?」
「ああ……、どうだろう?」
「うーん……、あたいの欲しいものかぁ……」

私の突然の申し出に、小町は胡坐をかいて考え始めた。そうしてしばらくの間考えを巡らせていると、やがて妙案が思いついたのか、ポンと膝を叩いてから私に伝える。

「映姫様の予定が知りたいねぇ」
「閻魔の?」
「『物』ではないけど……、いけるかね?」
「出来なくはないが……、どうしてまたそんなものを?」

少しだけ予想外な申し出に、私はその理由を聞いてみた。
すると、小町から全くもって彼女らしい理由を聞かされたのだった。

「だってそうすりゃあ、映姫様が仕事中の間、あたいは気兼ねなくサボれるじゃないか」

その回答に、吹き出してしまったのは言うまでもない。
私はロッドを構える。
小町が求めたのは確かに『物』ではないが、ご主人との戦いによって鍛えられた私の能力は、既に物体に囚われずとも探し出すことが出来るまでに進化していた。閻魔の予定など造作もない。今の私ならば、未来の結婚相手だって探すことも出来るぞ。恋のキューピッドだ。仲人妖怪だ。
呼吸を整え、精神を集中する。閻魔の予定という対象を、脳からロッドに伝えていく。
反応が、来た。ロッドから私の脳へと、イメージが逆流してくる。

「……わかったぞ」
「本当かい!? やるねぇ!」

ロッドを背中に戻す。
小町は今か今かと、身を乗り出しながら私の口から結果が出るのを待っている。

「閻魔は今から5時間後まで霊を裁き続ける予定になっているらしい」
「5時間かぁ……、なるほどなるほど。今日はそれなりに忙しいしなぁ」

小町はうんうん、と納得するように頷いた。
今日が忙しい日であるとわかっていて、今ここにいる小町の肝っ玉には感服する他なかった。

「あくまで、予定だからな。若干の誤差は生じるはずだ」
「わかってるさ。とりあえず、あと4時間くらいはここでのんびりして、それから仕事に戻る。それで映姫様にはバレないはずだね。ありがとう、助かったよ」
「これくらいなら朝飯前さ。それじゃあ、今日のところはここでお暇させてもらうとするよ」
「ああ、またね。今度は酒でも飲もうじゃないか」
「楽しみにしているよ」

私たちは笑顔で別れた。小町は再び足を伸ばして昼寝を始め、私は命蓮寺へ戻るため空へと飛び上がった。
今から次に会う時が、楽しみでしょうがなかった。





命蓮寺の門前に、ご主人が立っていた。
その姿を遠目で見た時は、思わず身構えてしまったが、その立ち姿が腕を組んでの仁王立ちではなく、しょんぼりと肩を落として俯いていたので大方察しはついた。
私は正面から堂々と門前に降り立ち、ご主人に声を掛ける。そこにサボってきたことに一切の後ろめたさはない。

「やあ、ご主人。またかい?」

対してご主人は、日に2度も失くしてしまったことにたっぷりの負い目を感じているのか、弱々しい表情をしていた。

「ナ、ナズーリン……、そのぉ、何と言いますか、これには深~い事情がありまして……、ね?」
「事情も何も、またいつもの『うっかりしていた』だろう?」
「うぅ……、すみません……」
「やれやれ……」

呆れたように溜め息を吐くと、ご主人はまた俯いてしまった。これではどちらが上司かわからないな。
そう言ってしまうと、本当に傷付いてしまうので、これは心の中までに留めておく。
ま、思うだけだ。普段の働き振りを考えれば、これくらいは我慢してあげてもいいとも思っていたりする。それも、私の能力あってこその話ではあるのだけれど……。

「ご主人は部屋に戻って待っていてくれ。私が探しておくから」
「ナズーリン! ありがとうございます!」

礼より行動で……、いつもであれば出てきた言葉も、今回は敢えてそのまま飲み込んだ。その代わりに、ご主人の肩を軽く叩く。ご主人の方が背が随分高いので、不恰好になってしまったけれど。
今日の私は、とても気分が良かった。
それはきっと、ダウジングの結果が上々だったからだと思った。
小野塚小町という、この世に唯一無二のレアアイテムを見つけることが出来たのだから。





宝塔は、またも球根として植えられていた。とんだうっかりやさんである。










――ナズーリンが命蓮寺に戻って2時間後、無縁塚。
小野塚小町は木に寄りかかって、だらしなく惰眠を貪っていた。
こんな場所で昼寝を楽しむ傑物など、幻想郷を探し回っても彼女くらいのものだろう。
そんな彼女に人型の影が覆い被さる。姿勢の良さを感じさせるその影を伸ばしているのは、彼女の上司に当たる閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥであった。
笑顔である。これ以上ないくらいに笑顔である。ただし、青筋が浮き出ている。その手に持つ悔悟棒がわなわなと震えている。公明正大な閻魔が内から溢れ出る怒りを抑えることが出来ず、オーラとなって体外に噴出している。
それでも、小町は起きない。このまま放っておけば、あと2時間は起きないだろう。

「さて……、予定した時間より3時間も早く、今日裁くべき霊が来なくなったと思って来てみれば……」
「ぐおー」

暢気にもいびきをかく小町の、幸せそうな表情を見て映姫の怒りがさらにヒートアップする。
そう。確かに、5時間後に映姫の仕事は終わる予定ではあった。
しかし、それは小町がきちんと彼岸に霊を運んだ上での予定だったのだ。
予定よりも早くに霊が来なくなったことを訝しんだ映姫は、小町の様子を見に来たのだ。
そして、案の定の体たらくを発見した次第なのであった。

「折角なので、起きるまで待ってあげることにしましょうか……、どうせあなたが起きるまで私の仕事はありませんしね。ねぇ……、小町?」
「ぐおおおおー」
「ふふ、ふふふふ……、あははははは!」
きっかり2時間後、無縁塚に悲鳴が響き渡ったという……。

それにしても。
ナズこまに、成り得るのか……これは。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました! サジィーでした。
サジィー
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コメント



0.560簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
新しい可能性をダウジング
3.100奇声を発する程度の能力削除
ナズこまかぁ
4.100名前が無い程度の能力削除
新しい
10.70鈍狐削除
もう少し掘り下げて欲しかったような、このくらいの手軽さが良いとも言えるような。
12.100名前が無い程度の能力削除
連作の冒頭としては、ちょうど良い塩梅でした(キリッ
なぜ二度植えたし。
次も楽しみにしてます。
16.50名前が無い程度の能力削除
いきなり飛び掛ったりするのは、戦闘担当でもなく、賢将と名のつく曲を持つナズとしてはちょっと違和感。
それなりにフォローはあるけど、話の展開のために無理やりって感が見え隠れしたかなあ。
ナズこまとしてはもうちょっとエピソードが欲しかった所かなー
確かに『連作の冒頭としては~』かもしれない。
星ちゃんがスゲエもの失くすエピソードは気合入れて書かれていたけど、実際に本筋には『ナズの捜査能力がチート級になった』程度の影響力しか及ぼしてないしなあ。(それが活用されるのも一瞬だし)もうちょっと有効活用されてもいい。
ともあれ、ストーリーの流れが必要最低限的な感覚があった、かな? いじりようによってはもっともっと魅力的な話にはなると思う。
19.100名前が無い程度の能力削除
ナズこま……
アリだな