Coolier - 新生・東方創想話

忘暇異変録 ~for the girls of leisure

2011/03/01 21:50:07
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[はじめに]
   ・長大になってしまったので連載モノの体裁を取らせていただきます。
   ・不定期更新予定。
   ・できるだけ原作設定準拠で進めておりますが、まれに筆者の独自設定・解釈が描写されていることがあります。あらかじめご注意下さい。
   ・基本的にはバトルモノです。

   以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。

    
    前回  A-3 B-1




  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――














  【 C-1 】



 「とりあえず、麓の時みたくゴタゴタしないで済んでよかったですね」
 先ほど天人と別れた場所を少し離れて、早苗は誰に言うともなく呟いた。

 「そうだな。こっちが決める前に指名してくれて手間が省けたぜ」
 「っていうかあと誰がいるのかしら?これで最後まで余ったら悲惨よ?」
 先頭を飛ぶレミリアは、多少飽きてきているような声を上げていた。
 まだここに来てからそんな大した時間は経っていなかったが、早く相手を見つけてもらわないと、このワガママなお嬢様は何を言い出すかわかったものではなかった。
 「ま、まぁまぁ。最悪神社まで行けば神奈子様がいると思いますよ?リーダーやるとなったら、あの方は進んで殿務める人ですから」


 「はい、正解~」


 思いがけず返ってきた言葉が、早苗の耳元すぐそばから聞こえてくる。
 顔と顔がぶつかりそうな距離に人がいる気配がする。
 そんな所から誰だか分からない声が聞こえてきた――ということに驚くよりも先に、声の主が、ふっ、と息を吹きかける。
 耳元にあたる風がぞわぞわっ、っと首筋を伝染していき、

 「キャ、キャアァァァァァッ!!」

 思わず大きな悲鳴を上げてしまった。
 一番後ろを飛んでいた早苗の悲鳴に、幽霊でもでたのかと思い、前を飛ぶ三人は一斉に振り返った。

 振り向いた先には案の定――本当にお化けがいた。
 それもとびっきりの亡霊が。

 「おいおい、ホントに出るヤツがいるかよ」
 溜め息半分にそう吐き捨てる。
 「あら失礼ね。人をお化けか何かみたいに。まぁそうなんだけどね~」
 幽霊はクスクスと笑っている。

 この幽霊の名前は、西行寺幽々子。
 比喩ではなく、歴とした亡霊のお嬢様。早苗の肩に手を回したまま柔らかく微笑む、呑気なお化けである。

 「~~~~~~ッ!!!な、なななななななっ、なんですか急に!!ビックリするじゃないですかっ!!」
 早苗は慌てながら幽々子から離れ、怒っているとも慌てているとも泣いているとも取れる声で抗議した。もうその声は限りなく悲鳴に近い。
 「え~だって幽霊だし~。せっかく来たお客さんはビックリさせないとかなー、と思って……気配消して近寄ってみました~」
 そう話す幽々子は相変わらずのホンワカとした雰囲気で話している。
 柔らかく、人懐っこい微笑みで無防備に佇んでいる彼女であるが、その力は掛け値なしに強い。
 現に気配を消した彼女の接近に、気づけたものは誰もいなかった。

 「幽霊だからって無闇やたらに人を驚かせてはいけません!!」
 早苗は涙目のまま、まだ反論していた。よっぽど驚かされたことが悔しかったのだろう。
 だが残念ながら、そうやって怒っていても当の幽々子にはのれんに腕押しであるようで、彼女は相変わらずフワフワと笑いながら目の前の早苗の怒号を軽く流している。
 やれやれと思いながら魔理沙は尋ねた。

 「さっきの天人の話じゃもう少し上にいるような感じだったんだが、なんでこんなトコうろついてんだ?」
 「まぁ確かに私ももう少し上にいたんだけどねぇ。暇だったから下りてきちゃったのよ」
 あっけらかんと言い放つ。
 「うーん、適当だなぁ。――まぁいいや、せっかく下りてきたからにはヤル気なんだろ?誰とやる?」
 「あら話が早い。っていうか私が決めてもいいのかしら?」
 「それが今の流行だ」
 「え~じゃあさっきすごい驚いてくれた巫女さん――――」
 その声に早苗が肩を震わせた――が、その幽々子の言葉を遮るようにして、魔理沙の後ろから彼女が割り込む。


 「いや、私とやりましょう」


 紅の瞳を薄く細め、口許にはわずかな笑みで――レミリアが一歩前へと進み出た。

 「あら、私が決めていいんじゃないの?」
 「私じゃ不満かしら?」
 「……いいえ~。じゃあ紅魔のお嬢様にお相手願おうかしら」

 会話に割り込めなかった三人を置き去りに、あっさりと次の対戦カードが決まってしまった。
 魔理沙も文も早苗も呆気に取られつつそれを眺めているばかりだ。
 しかし仮に声を挟んだとしても、レミリアの嬉しそうな顔を見て、反論するものなどいないだろう。反論したら面倒臭いことになるであろう未来が、三人とも容易に想像できた。
 具体的に言えば矛先が自分に向いて同じチームなど関係無しにレミリアと戦うハメになる。
 ワガママな吸血鬼の少女なら、本当にやりそうではあった。

 「じゃあ、そういうわけよ。残った輩はあげるわ。私はここでコイツと楽しんでいくから」
 「へいへい、リーダー様のおっしゃる通りにいたしますよ。んじゃ私たちは神社でも目指そうぜ」

 そう言って魔理沙と文は再び進行方向へと振り向く。
 「えっ!レミリアさんだけをここに残していくんですか!?」
 「わぁ!びっくりした!どうしました、早苗さん」
 「い、いや、どうした、って……リーダーがやられたら負けなんですよね、このゲーム……」
 その言葉にピクンと羽を震わせ、レミリアがゆっくりと振り向いた。

 「……ほーぅ、言ってくれるわね。私が、この亡霊に、負けると思うのね……」
 目が笑っていない笑顔を、早苗に向ける。

 「うぇっ!?い、いえ、そんなことは無いですけど!」
 「あーはいはい、行くぞ、早苗。わざわざレミリアをご機嫌ナナメにしても仕方ないぜ」
 「え、あ、ちょ」
 魔理沙と文で早苗の手を引き、そそくさとその場を後にする。
 そんな彼女たちを追いかけるように、幽々子の声が飛んだ。
 「じゃあねぇ~青い巫女さん。また今度遊びましょうね~」
 早苗はビクッと肩を震わせ、振り向くと、幽霊が笑顔で手を振っていた。
 どうやら彼女は幽霊が苦手なようだ。
 もしかすると幽々子が苦手なだけかもしれないが。

 涙目になりながらも、ペコリと頭を下げて挨拶を返し、一人足早にその場を後にしていた。





   ※





 「って、本当にいいんですか?」
 レミリアから離れ、少ししたところで早苗が尋ねた。

 「何が?」
 「レミリアさんだけ一人置いてきちゃって、って話ですよ。リーダーがやられたらチームの負けが決まる、ってルールです。最悪一人は傍に置いて、リーダーがやられるのだけは避けた方がいいんじゃないですか?」
 黙って話を聞いていた魔理沙と文が、互いに視線を交わし、

 「まぁ確かにルール的に言えばそうなりますね」
 文がとりあえず肯定し、

 「でもあの吸血鬼的にはアウトだな。そんなん、させるわけがないぜ」
 魔理沙があっさりと否定した。

 「あのお嬢様が自分でやる、って言ったんだ。きっとあぁなったらメイドも止めないぜ」
 「そんな気がしますね。まぁ大丈夫ですよ、自分でやるって言ったんだから、死んでも負けてはこないでしょう。それこそ、あの人の沽券に関わりますから」

 二人はああだこうだと言いながら、スルスルと進んでいってしまう。
 早苗も仕方無しに、その後を黙ってついていった。まだ釈然としないと、その顔が言っていた。

 そうして進んですぐ、魔理沙が思いついたように早苗と文へと振り向く。


 「さて、今話題のリーダー様もいなくなったことだし、一直線に神社を目指してやるか」
 鼻を鳴らしながら、当然のようにして言い放った。


 「って、自分で言ったことと違うじゃないですか。正解ルートを外れて行くんじゃないんですか?」
 早苗は思わずつっこみ、

 「まぁメンドくさくなってるのはわかりますけどね」
 文も相槌を打った。
 最初に四人、次に一人ずつ相手を見つけていき、残ったのはこの三人である。
 早苗も文も、先ほど残ったレミリアと同じように魔理沙が焦れてきているんだろうと思っていた。

 「まぁそれもあるけど……日の出まで時間もそうないみたいだからな。ウチのリーダーの吸血鬼様のことだから、どうせ朝になったらお帰りだろう?それまでに相手を見つけとかないと私たちは夜にハイキングしに来ただけで終わっちまう。――とりあえず、神社まで上れば誰かいるだろ?もしそれでハズレなら、また探しに下りればいいさ」
 別段表情を変えることもなく、“だろ?”と彼女は言った。

 そう何気なく言う魔理沙を早苗はまじまじと見てしまっていた。

 幻想郷に来て妖怪たちと出会い、今回のことで彼女らの気ままさにも慣れ始めてきた早苗だったが、そんな彼女もまだ魔理沙という人物が掴めずにいた。
 基本的には、適当なことを言いながらフラフラと立ち回っている印象しかないが、たまに物事を妙に正確に見据えているような判断をする――気がする。

 まだ知り合ってから日も浅いが、早苗は今まで会った人間と違う印象を、魔理沙に持っていた。
 ――この人の気質は、妖怪たちのそれに近いんじゃないかしら。
 もしかして幻想郷で生きていると人間の考え方も妖怪に似てくるのかも、とすら思えていた。
 文は別段普段と変わらずに、“それもそうですね”、などと返事をしている。どうやら魔理沙を不思議がっているのは早苗だけのようだった。

 それが、外の世界で生きた時間の方が長いからなのか、
 自分の修行不足なのか、
 はたまた自分が人間だからなのか、結局すぐに判断はつかなかった。

 「……ん?どうした?あんまりジロジロ見るほど珍しい顔してないはずだぜ?」
 「あ……!そ、そうですよね」
 「――そこでその返事もなんだかなぁ」
 「あ、す、すいません!……私もさっきの提案には賛成です。とりあえず、最短で神社を目指しましょう」
 「一応ちゃんと聞いてはいたみたいですね」
 「そうだな。まぁ意見も一致したみたいだし、文、案内頼むぜ」
 「はいはい、ついてきて下さいねー」

 そう言って文が先頭に立ち、木々の高さを飛び越える。
 それに続くように、魔理沙と早苗も空へと飛び上がり、風の神社を目指して飛翔する。


 ――まぁ……いいや。考えるのは後でも出来る。まだ三日もあるんだし、もう少し観察してみよう。


 そう考えながら前を飛ぶ二人に離されないように、スピードを上げた。





   ※





 二人きりになった暗い森の中は、ただ静かだった。
 木々は相変わらず鬱蒼としているが、麓よりはその密度が少ない。
 枝ぶりの大きい木に空を隠されてはいるが、向かい合う彼女たちの姿の邪魔にはなっていなかった。

 三人の後ろ姿が見えなくなってから、改めてレミリアは尋ねた。

 「ずいぶん早苗にご執心なようで。そんなに気に入ったのかしら?」
 「だってあんなに驚いてくれた子、久しぶりなんですもの~。最近の人間はあなたの部下といい、貧乏巫女といい、さっきの黒白といい、みんなあんなに楽しい反応はしてくれないわ」
 幽々子はそう言って、嬉しそうな顔をしてはしゃいでいた。
 扇子で口元を隠しながら上品に微笑む彼女からは育ちの良さが感じられる。佇まいの一つ一つに気品が漂っているようだ。

 「まったく、幽霊はこんなんばっかなのかしら」
 「楽しいわよ~。あなたもなってみる?」
 「私はまだピチピチの五百歳だからね。当分死ぬ予定はないよ」
 「それは残念。…………でも」
 口許に当てていた扇子をパチン、と鳴らして閉じる。


 「―――お望みとあれば殺してあげるわよ?」


 幽々子はそう言いながら、笑う。
 表情自体は先ほどと変わらない。しかし、先程までとはすでに空気が違っている。
 無造作に周囲へと放たれる殺気、ざわざわと空気が揺れ、それに呼応するかのように、木々もざわめく。
 それはまさに冥界の主として相応しいプレッシャーであった。
 彼女は依然として笑顔のままでフワフワ浮かんでいる。

 「……やっぱり腐っても冥界の主だけあるじゃない。山の神とやらともやりたかったけど、あなたでも十分楽しめそうだわ」

 レミリアもつられるように笑っていた。
 森を震わせるほどの殺気を向けられて笑っていられる彼女も十分、紅魔館の主としての風格を持っていると言える。

 僅かに零れる月の光が、二人を照らしている。
 スポットライトが当たったように浮かびあがる彼女たちの影は、この場が二人だけの舞台であることを示しているようだった。

 「あなたのことだから、霊夢がお目当てかと思ってたわ」
 「まぁ霊夢とも改めてやりあいたいんだけどね。あの子は、きっと今忙しいわ。――そうでしょう?」
 「あの巫女が忙しいのなんて一年に三日くらいよ」
 「じゃあこれから一年ずっと大人しいのね。それも大変そうだけど」
 「まぁここであなたをやっつけちゃったら、残ったどっちか一日くらい、多少暇になるんじゃないかしら」
 「あら?ご機嫌なこと言うじゃない。――悪いけど、せっかくのお祭りなんだから暇にはさせないわ。霊夢も……あなたも」


 どちらともなく、クスッと小さく笑う。
 互いに牽制もなく、スペルカードを宣誓した。













  【 D-1 】



 時刻は、草木も眠る丑三つ刻。
 レミリアと別れた魔理沙たちが守矢の神社を目指し始めたのと、ちょうど同じころのことである。
 夜はずいぶんと更けてきていた。

 妖怪の山に走る一本の道。
 麓から守矢神社までを繋ぐ、長い長い石段がある。
 そもそも大きい妖怪の山である、中腹にある神社までのものとは言え、それはかなり長大なものだった。参拝者用にしつらえられたものだが、人間がここを歩いて上るのは一苦労である。

 白い月明かりの下――そんな広い石段の中腹に腰を下ろし、頬杖をつきながら、麓まで伸びる長い長い道の先を見つめている少女が、一人。


 「あーあ……………暇ね……………」


 アリス・マーガトロイドは、心底退屈そうに吐き出した。

 「天人の地震があってからなーんにも起きやしない。なんかそこらでドンパチやってるみたいだけど、誰も階段は上ってこないし。正面から攻めると思ってここにしたの……失敗したかしら?」
 深々と溜め息を吐く。他に生き物の気配の無いその場所では、重く静かな溜め息の音ですらこだましそうだった。

 ふと、ここまでの経緯を改めて頭の中で思い返す。

 神奈子は山に陣を敷き、防衛戦を展開するという作戦を立てていたが、肝心の布陣は後から適当に決めたものだった。
 とりあえず、単体での力がさほど強くないプリズムリバー三姉妹とミスティア、それに秋姉妹を一つに固めて麓で足止めするというのはすぐに決まったが、他の面子の配置はなにも決めていなかったらしく、神社に残る神奈子は、一人だけを自分のそばに残すように言い、他は各々の判断で山の各地へと散っていった。

 そしてその中でアリスは、“やはり敵を迎え撃つなら正面ね”と階段で待機していたのだが……どうやら一番のハズレ場所に来てしまっていたようだ。


 ――戦闘の気配はあるから、神奈子の言った通りにどこかのチームが来てるのは確かみたいね。最有力はレミリアのトコ。単純に紅魔館が一番近いし。……神奈子はあのチームが攻めてくることが、事前にわかっていた?


 アリスはやることがないので今回のことについて考えていた。
 他の飽きっぽい妖怪たちなら、誰も来ない階段なんてろくにいないで、自分から相手を探しに行くだろう。
 だが、アリスはそこから動かず、誰も来ないのをいいことに、思考の世界を深く潜っていた。

 アリスらしいことに、考えだすうちにいくつも湧いてくる疑問を考察する方に傾注し、そして、たまに思い出したように“そういえば誰も来ないなぁ”ということに気づく、ということを繰り返していた。


 ――結局、神奈子が言った“今日はすぐに誰か来る”っていう根拠はなんだったのかしら……まさか本当に勘だったわけじゃないだろうし――あらかじめ知ってた?いや、それならこんな適当な陣は敷かない。ここは神奈子のホームな訳だし、侵入者が誰かわかってるならもっと効果的に布陣するはず。

 アリスはまた長考へと入った。山には風が吹き、木々がざわめく。


 ――っていうか、今回のこの会の意図はなんなのかしら……幻想郷で一番を決める?妖怪の覇権争い?どっちにしても明確な勝者の出ずらい今回のルールだと、決まるわけがない。……ただのお遊び?紫ならやりかねないけど、さすがにそれは…………。

 誰も上ってこない階下を見るでもなく見つめながら、思案に暮れる。


 そこに、静かに近づく人影があった。
 気配を消し、足音を殺し、音も無く石段を下る。
 不意にそれを察知したアリスが、それまでの思考を中断した。そのことを動きには表さなかったが、自分に気づいたことを読み取ったのか、誰かの足もそこで止まった。


 「――こんばんは。こんな夜に一人ぼっちなのかしら?」


 アリスは振り返らず、背中でその声を聞いた。
 聞き覚えのあるその声の正体には、すぐに至った。

 「こんばんは。――ええ、そうなのよ。誰も通らなくて嫌になってた所。っていうか、せっかく下を見張ってたんだから、上から下りてこないでよ。意味ないじゃない」
 石段に腰を落ち着けたまま、彼女はぶっきらぼうに答える。

 「あら、それはごめんなさい。ちょっとウロウロしてたら結構上まで行っちゃっててね。一回また下りようかと思ったら、あなたがいたから声を掛けたんだけど」
 声の主は“仕方なくね”、という風に喋っていた。本心ではないことが、透けて見えるようだった。

 「上に行く時はまず階段を使いなさい。空から飛んで行くのは失礼よ?」
 「それは知らなかったわ。なんせウチは平屋なのよ。階段無くってね」
 「まったく困った宇宙人ね。……で、御用はなにかしら?」

 そう言ったところでアリスは石段から腰を上げ、振り返って声の主と向き合う。
 三,四段上で月を背に微笑んでいたのはアリスの思った通りの人物。


 永遠亭の頭脳――八意永琳。
 レミリアのチームでも、ましてや神奈子のチームの者でもない、第三勢力。


 「さっきも言ったでしょ?暇そうだったから声を掛けただけよ。あとついでに私の暇潰しをしてもらおうかと思って」
 「ついでがメインの癖に……いいわ、私もいいかげん体動かしたいのよ」
 「あなたもそれが本音でしょう?感謝して欲しいくらいだわ」
 「恩着せがましいヤツは嫌いよ」


 二人は石段の上下に別れてお互いを見ていた。
 彼女たちの戦闘が始まるのは、この後すぐであった。














   【 E-1 】   【 F-1 】



 「さて、着きましたよ」
 「いやぁ、さすがに真っ直ぐ目指せば早いな」


 妖怪の山の中腹付近――六合目といった所――魔理沙たちの目の前には、風の社、守矢神社が建っている。

 山からの風景が一望できるその場所は、月の薄明かりの下、いつもより厳かな雰囲気を纏っていた。
 鳥居を潜ったその場所から、彼女たちは境内を眺めていた。確かに、博麗神社よりは広い。風の通り道になっているのか、どこかから吹く風が心地よかった。

 境内を一望するように立つ三人の少女――だが、正確には、ちゃんと立っているのは魔理沙と文の二人で、早苗はそんな二人の隣でゼェゼェと息を切らしながら、膝に手をついてどうにか立っていた。

 「そりゃ……あんなスピードで飛んで……くれば……すぐ……ですよ……」
 早苗は息も絶え絶えにそう反論する。
 膝に置いていた手を鳥居につき、どうにか身体を支えていた。目の前の二人がケロリとしている意味がわからなかった。
 ――特に……魔理沙さん……やっぱり……人間じゃないです…………

 「なんだよ情けないなぁ。あのぐらい普通だろ?」
 「そうですよー。そんなんじゃ新聞のネタ萃めに時間掛かって仕方ないですよ?」
 二人は息を乱すこともなく、ケロッとしながらそんなことを言っていた。

 現に二人はトップギアに入れて飛んでいたわけではなかったのだが、それでも、飛翔速度で幻想郷一,二を争う二人だ。
 ついていくことでさえ早苗には、いや、幻想郷の多くの者でも、やっとだった。

 「私……新聞……作らないですし……」
 早苗は息を整えながら小さく言い返したが、二人はまったく聞いていないようだった。もうそのことにつっこむ余裕すらない。
 ――なんでもいいや……休ませて…………

 「そういえば、魔理沙さん。これでウドンゲさんいなかったら、私違う人とやっていいんですよね?」
 「ん?なに言ってるんだ?いなかったらまた探しに行けよ。おまえのノルマだろ?」
 「えぇぇー。ここまで案内したじゃないですかぁ」
 「案内ご苦労。もう行ってもいいぞ?」
 「うわ、ひど…………」
 「諦めろ。ジャンケンで負けたオマエが悪い。油売ってたら明日妹紅に頼んで焼き鳥にしてもらおう。美味しくない兎よりは美味いだろ」
 「当然ですよ。兎肉と一緒にしてもらったら困ります」
 「味は似てるって聞くぜ?」

 敵陣本拠地最中まで来ただけで力尽きんとしている早苗をそっちのけで、二人はダラダラとした会話を繰り広げていた。
 緊張感、という単語は彼女たちの辞書には刻まれていないことだろう。
 TPOを問わない掛け合いを繰り返していると、その声を聞きつけたように、ガラガラという引き戸の音が響いた。
 早苗も文も、なぜか魔理沙も聞き覚えのある、神社の拝殿の戸の音。
 そしてそこから姿を現したのは、


 「――話し声が聞こえるから出てきてみたら……あんたたちか」


 拝殿から出てきたのは、神ではなかった。
 が、ある意味今話題の渦中の人である。


 月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバは、溜め息とも呆れとも取れるような声を上げながら三人を見ていた。


 「ご近所迷惑だから、夜中にギャイギャイ騒ぐのはヤメなさい」
 「お、噂をすれば。よかったな文。わざわざ麓まで下りなくても済んだぜ」
 「あ~あ~、ホントに出てきちゃいましたね……せっかくバックレようと思ってたのに」
 「――なんかわかんないけど、もしや馬鹿にされてる?」

 遠目に見てもわかるほどに肩を落とした文に、鈴仙は明らかに眉根を寄せていた。
 具体的な話はもちろん分かっていないが、自分を見るなりそのリアクションをされれば、誰だってそうなる。

 そんなふて腐れた彼女の後ろからノソノソと、もうひとつ人影が姿を見せた。
 出てきた彼女は、まるで待ちわびた客が尋ねてきたかのように、楽しげな顔をしている。


 「あらあら、いらっしゃい。――って結構見たことあるヤツばかりね。早苗もいるし。思った通り、あの吸血鬼のお嬢様のチームかな」


 そう言って鈴仙の後ろから出てきたのは、この妖怪の山を拠点とするチームのリーダーであり、この神社に祀られる神――八坂神奈子その人であった。
 敵チームが本陣まで攻めてきたというのに、彼女は相変わらずの態度のままを崩すことはなく、微笑ましく来客を迎え入れる。

 「よう、現れたなボスキャラ。勇者サマが遊びに来たぜ」
 姿を見せた神奈子へと歩を進めながら、魔理沙は堂々と啖呵を切る。
 どんな状況でも、誰に対しても態度を変えないという点では彼女も相当であった。

 「はいよ、いらっしゃい。――ってそっちのリーダーはどうしたんだい?よく知らないけど、あのお嬢ちゃんならここまで来るだろう、って思ってたんだけど」
 「よくご存知で。でも、ここまで来るのに飽きて、結局亡霊と道草食ってますよ」
 文も一緒になって神社へと歩いてゆく。

 その後ろを少し遅れながらについてゆく早苗も、ようやく息が整ったようだ。
 「ふぅ……ごほん!――神社にいるのはお二方だけですか?ここまで会ってきた人数から考えると、あと二人残っているはずなんですけど」

 三人は神社のすぐ前まで進み、そして立ち止まる。
 境内にいるレミリアチームの三人、そして本殿の神奈子チーム二人、互いの顔色までわかる距離だ。
 そこで改めて見た神奈子の顔は、なぜか心なしか嬉しそうであった。
 その理由も、その視線が早苗に向けられていることも、解っているのは当の神奈子だけだったが。

 「あぁ、ここには私たちだけだよ。あとは山のどっかにいるはずさね。どこにいるのかまでは知らないけどねぇ」
 「ここにいるのが私じゃ、なにか不満でもあるのかしらー?」
 まだ多少不機嫌そうな鈴仙も声を上げる。口をへの字に曲げて、赤い大きな瞳でジトーっと睨んでいた。

 「うーん、残念ながらあんまりあなたとはやりたくないんですよねぇ」
 文が聞こえないようにボソリと呟き、

 「大丈夫だウドンゲ!オマエの相手は厳正な抽選の結果、この天狗が務めることになってる。いやぁまったく残念だぜ!」
 いけしゃあしゃあと魔理沙が言ってのける。

 「あら、そうなの?――じゃあせっかくだからお相手願おうかしらね」
 そしてあっさりと、鈴仙はやる気になってくれていた。

 文はこっそりとため息を吐き、思わずまた肩を落としてしまった。
 大きく息を吐く間に、“もう諦めましょう”と自分に言い聞かせ、彼女は鈴仙へと視線を上げた。


 「しょうがない……焼き鳥にされても敵いませんしね。では今晩のお相手お願いします、ウドンゲさん。せめて適当なトコでやられて下さいね」
 「こっちのセリフよ。メンドくさいからさっさと落とされなさい」


 二人は言葉を交わすと、戦闘用に意識を切り返る。
 もういつでも――ゴングさえ鳴れば飛び出してゆける。

 「さて、とりあえずメンドいヤツは文が相手してくれるとして……どうする?早苗。どっちかが神奈子となんだけど」
 魔理沙は隣にいる早苗に尋ねてみた。早苗がやらないと言えば自分がやる気満々な顔である。
 もう今さら下まで相手探しに行くのも嫌だったし、以前やったとは言え、神奈子とならガチンコで戦うのも面白そうだ、と思っていたので、魔理沙は自分が戦う気満々であった。
 それに早苗のことだから普段自分が仕えている相手と戦うのは嫌がるだろう、という打算もあったので、どうせ自分がやることになるのだという気もしていた。
 のだが、


 「……できれば、私にやらせて下さい」


 こんな返事が返ってくるのは、魔理沙としても完全に予想外だった。
 隣で聞いていた文でさえ、早苗がそう答えるとは思っていなかったので、思わず二人して早苗の顔を見てしまう。

 「……どうしたんだ、早苗?なかなか好戦的じゃないか」
 「そもそもこんな好戦的な作戦立てといてよく言いますね……」
 「立てたのは私じゃないぜ」
 「知ってますよ。――せっかくだから私もちょっとこの流れに乗ってみようと思いまして。神奈子様と戦うなんて普段じゃ考えられないことですからね」
 「まぁそりゃそうでしょうね」
 文も思わず同意してしまう。
 その言葉に軽い微笑みで応える早苗は、手にした幣を静かに握り締り直した。
 すでにその瞳には神奈子しか映っていないようだ。決意に滾るその瞳が燦然と輝いている。

 そんな早苗の様子を、魔理沙は腕を組んで、神妙な顔つきで見る。
 そして言葉を見つけたかのように、彼女は口を開き、


 「……オマエの気持ちはよぉ~~~~く、わかる。だが、しかし!ここはすんなり譲れんな!なんせ私は、今から下に誰か探しにいくのがとてもメンドくさい!」
 そう、言い放った。


 「い、いやいや、魔理沙さん……。せっかく早苗さんがやる気になってるんだから譲ってあげればいいじゃないですか」
 「オマエは兎様がいるからいいじゃないか」
 「なんなら代わってあげますよ」
 「まったくもって結構だぜ。悪いが早苗、またジャンケンでもして決めようぜ」


 「その必要はないよ」


 そう諌める声を出したのは、先ほどから黙って見守っていた神奈子であった。
 彼女はいよいよ楽しくて仕方ないような顔をしながら続ける。

 「どっちも私とやりたいって言うならどっちも相手してあげるよ。いっぺんに二人ともかかっておいで」
 そう言い放った神奈子には楽しそうな雰囲気と、同時に確固たる自信も窺えた。
 最初と同じ気さくな空気と一緒になって、別の違う雰囲気が彼女を覆っている。

 「それはずいぶんなことを言ってのけてくれるな。私と早苗の二人だぞ?」
 「問題ないよ。所詮人間の小娘二人さね。それくらい相手出来ないで神様やってないよ」
 「……やるとなったら全力でお相手させてもらいますよ?」
 「それこそ願ったりさ」

 早苗と魔理沙の言葉も彼女は軽く受け流す。
 威風堂々とした佇まい。
 人の信仰する、神としての姿のまま、彼女はそこに立っていた。

 「――おいで早苗。風祝の巫女としてのあなたの力、私が見てあげる。――そして魔理沙。以前私を破ったあなたの腕前、もう一度見せてみな」
 「……いい度胸だな。後で謝っても遅いぜ」
 「神奈子様には申し訳ありませんが……その申し出、受けさせていただきます」

 そう言って魔理沙も早苗も、意識を戦闘用のものへと切り替える。
 すでに、幕は上がっていた。

 「ふふふ……いやぁーいいね!盛り上がってきたよ!」
 神奈子は笑い、境内へと降りてゆく。
 「――じゃあついておいで二人とも。ここで五人戦うのは無理がある。私たちは神社の裏でやろう」
 「わかりました。行きましょう、魔理沙さん」
 「言われなくても、だぜ。――じゃあな文、ウドンゲの相手は任せたっ」
 「まったく、そっちばっか楽しそうにしてくれて……いってらっしゃい、精々やられて下さいね」

 神奈子、早苗、魔理沙の三人は、示し合わせたかのように飛び上がった。まだそこに残る文に、声をかけながら。
 そんな魔理沙に減らず口を叩きながら、文も二人を見送っていった。

 神社に残された二人が戦火を交えるのは、それからすぐだった。





  ※





 ここに、妖怪の山は完全に戦場と化す。


 麓から神社まで、飛び散る火花は六つ。
 それらを見守るように、照らし出すように、そしてただ眺めるように、
 山の上では満天の星空と、無二の小望月が輝いている。


 夜空の真ん中には、スキマがひとつ。
 
 姿の見えないスキマの主が、クスッと微笑む声が聞こえた気がした。







   to be next resource ...
雨が降ると寒くてヤですね。寒いのヤですね。

ざっくりと対戦カードの紹介を済まさせてもらいました。
できればここの件はサッサと終わらせたかったのでかなり巻き巻きです。ひとまず組み合わせさえ把握してもらえれば幸い。

話が薄い・描写が浅い・早苗さんがお化け怖いキャラってどうなの?・諸々ありましたらぜひ指摘してやってください。次回以降の糧にさせていただきます。
なまら寒いですが、カゼをひきませんよう。
自分にも祈ります。かしこ。
ケンロク
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コメント



0.710簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
誤字?

それはずいぶんなことを言ってのけてくれるな。私の早苗の二人だぞ?
それともマリサナですか!?なんてね

アリスの相手は永琳ですか・・・荷が重いですね。頑張れ~
7.無評価ケンロク削除
誤字修正しました!ご指摘ありがとうございます!
さらっと所有権を主張するイケメン魔理沙になるとこでした。
9.100愚迂多良童子削除
ああ、もう。逐一カッコイイ。
10.無評価ケンロク削除
ありがとうございます。
掛け合い考えるのは楽しいなー