Coolier - 新生・東方創想話

「うたかたの夢」 その弐

2005/05/17 15:05:27
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 闇。

 闇がある。

 果てしなく広がり自分を包む闇。

 初め、咲夜が認識した物、それが闇。


 次に星。

 闇の中に輝く幾億もの星の輝き。

 死に逝く星の光。

 生まれたばかりの星の光。

 生きている星々の放つ光。


 そして。

 頭上に見える、いや、「見る」事を意識せずに見ている、自分の上に浮かぶ物。それは。


 砕けた月。

 自分の知っている物とは違う、それは、割れ、砕け、散った岩塊。

 周囲には、幾多の破損した金属の塊が浮かぶ。

 さらに、眼下にある物は。

 赤く燃えながら、落下していく巨大な「何か」と。

 それを大きく腕をひろげ、受け入れようとしているさらに巨大な蒼い星。

 自分でも理解できないのだが、咲夜は、それら全てを一瞬にして知覚していた。


 次に、咲夜の感覚のうち、触覚、聴覚が回復する。
 
 自分が何かに腰掛けている感触はある。手足が何かに繋がっている感触もある。何か聞きなれない言葉が聞こえるのも分かる。

 だが、まるで水の中に浮かんでいるような浮遊感、そして自分の体がまるで存在していないかの様な、不思議な違和感。

 そして女性の声。

 自分の体なのに、自分とは違う物。

 「敵衛星軌道上の、防御システム停止を確認。セシリア本星への降下進路補足、電子防御システム作動開始。なお、本機からの連絡はこれが最後になる。民間人の脱出、及び地球へ続く異空間ゲートの破壊準備はどうか、X-LAY02」

 また知らない男の声が、直接頭の中に響く。

 「02から01へ、民間人の脱出は全て終了した。04と07が、アラリック級重装機兵『マベロード』と『キシオムバーグ』に落とされた以外は、皆、無事だ。全員で、敵の追撃部隊を食い止めている。01が降下開始次第、全機ゲートに突入し、門を閉じる。上手くいけば、敵機動艦隊、全部吹っ飛ばせるはずだ。・・・・・・本当にいいのか01、いや、零」

 男の声に、零と呼ばれた者は、逡巡の迷いも無く答える。

 「残るのは、ユグドラシルを破壊するのは、私だけでいい。お前達は生き残り、同じ過ちを繰り返さない為に、後世に伝えろ。アッシュ」

 「分かった、幸運を祈る」

 「隊長、ご武運を」

 「幸運を!! 」

 「我らは必ず伝えます」
 
 アッシュと呼ばれた男以外の、複数の人間達の声が聞こえる。
 咲夜は、これから何が始まるのか理解できないでいたが、零と呼ばれる女性が、唯一人、足元に見える星に降下するつもりだという事だけは分かった。でも、どうやって?

 次の瞬間、自分が、違う自分を見つめている様な、奇妙な視覚が勝手に働いた。触覚、聴覚が消失する。
 
 そこに見える物、それは。
 咲夜は、まず鳥かと思った。紅い体に、八枚の銀翼を備えた鳥。
 だが、それは鳥ではない。
 後部にヴワル図書館で見た、ロケットの写真の、エンジンに類似した物が見える。
 あれは、機械だ。
 その機械は、両翼から槍の様な、銀色の突起物を備えていた。
 そして、その機械の鳥の、頭の部分を見ようとした時、彼女は、その中に急に吸い込まれるような感触を覚えた。
 再び、触覚と聴覚が戻る。
 咲夜は、自分は今、あの鳥の様な機械の中にいるのだと認識した。
 
 機械はゆっくりと降下を開始する。

 そして、どこかとても遠くの方で、大きな光が生まれ、そして消えるのを感じた。
 
 でも何故、自分はここにいる。
 私はお嬢様と一緒に、湖畔から湖に浮かぶ月を見ていたはずだ。
 それがなんで。


 「だいぶ混乱している様子だから、あなたに、今の状況を教えてあげるわ。しばらくは、敵の迎撃も無いでしょうから」

 咲夜の頭の中に、零と呼ばれた女性の声が聞こえた。その声は、やはり主の、レミリアの声と酷似している。

 「私は、今、あなたが見た機械、『X-LAY』で、目の前の星、セシリアに降下する。そして惑星の中枢にいる、人間を滅ぼそうとしている、敵機械兵器群、全てを統率しているシステム、『ユグドラシル』を破壊する。それが私の目的。でも」

 零は、自嘲的につぶやく。

 「これはとんでもない茶番劇なの。どこの馬鹿が考えたか知らないけれど。今までどおりになるなら、結末も知ってる。信じられ無いと思うけど、私はね、もう何度もあいつを、『ユグドラシル』を、『R-GLAY』と名づけられた機械で殺しているの。そしてセシリアごと自分も吹き飛ばされて」
 
 「で、気が付くとまた元に戻っている。味方の旗艦から発進を待つ『R-GLAY』に私は乗っているの、あいつら、『ユグドラシル』もご健在って訳。確か五百回目くらいまでは数えていたんだけど、面倒だから数えるのも止めたわ」

 「だけど、今度は、今回は違う」
 
 「今までだったら、味方は全滅、敵は門を越え、『地球』になだれ込み人間も絶滅。私はただ、自分の目的を遂行するだけだった」

 「でも、今回は、私は何故か『R-GLAY』の試作品だったはずの『X-LAY』に乗っている。そして味方も生き残り、無事に門を、さっきの光がそうだけど、ゲ-トの破壊に成功した。そして」

 「脳以外全て機械と成り果てて、『X-LAY』に接続された私の中に、十六夜咲夜、あなたが来た。今、私とあなたは一つの体に二つの魂を共有している状態なの」

 
 咲夜は、自分でも驚くほど冷静に、その事実を受け入れる事ができた。零という女性と、一つの体を共有している。
 不思議と嫌悪感は無い。むしろ自分の主と共に居る様な、そんな安堵感があった。

 「悪いけど、あなたの情報、勝手に読み取らせてもらったわ。紅き魔の館のメイド長か、平和な世の中だったら、私もやってみたいわね」

 零はクックッと笑う。
 その間にもX-LAYと呼ばれる機械は、降下を続ける。
 大気との摩擦で、機械の表面がさらに紅く染まる。眼下の惑星が蒼さを増し、彼女達を待ち受ける。

 
 「これは私の予感に過ぎないけど、今回でこの忌々しい時の輪廻を断ち切り、そして、本来の私の目的を果たせそうな気がする。咲夜、あなたという切り札を得てね。こういうのを運命って言うのかしら」


 機械は、大気圏を突破し水平飛行に移る。

 「さて、おしゃべりはここまで。敵が本腰入れてやってくるわ。咲夜、私は回避行動に専念するから、あなた、撃ち落すの得意みたいだから、攻撃お願いね。頼りにしてるわよ」

 「はい、お嬢様」

 つい、つられて、主にするような返事をかえしてしまう咲夜。

 「ふふっ、私なんかがお嬢様なんて。じゃ、行くわよ」

 零は、機体のエンジンのアフタ-バ-ナ-を全開にする。
 サイバネティック・リンク・システム(C・L・S)により、彼女の、機械の体と直結している機体は、操縦者の意思により、自分の体のごとく機動する。

 それは咲夜もまた同じ。
 咲夜は、今、X-LAYの構造をすべて理解し、そして把握する事ができた。
 火器管制、異常無し。
 対空兵装の主砲二門、および対地兵装の誘導式レーザー八門、共に異常無し。

 前方の雲海の中から、巨大な何かが浮上してくるのを感じる。

 戦いの幕が開く。

 
 咲夜は、自分でも分からない胸の高鳴りを感じていた。


 「続く」
   

 

 






 

 
 
 沙門です。感想、突っ込み等いただけると、とても喜びます。でわでわ。
沙門
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