Coolier - 新生・東方創想話

東方狂想曲 第三番

2005/05/02 06:54:31
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目が覚めると見慣れた天井が見えた。
そのまま数分、何をする事も無くボンヤリと布団の中で過ごした。布団から出ると渇いた喉を潤す為に水を飲み、何か食べる物を探した。まだハッキリしない頭でそこら辺にあったパンを手に取り、パンに乗せる物や塗る物を探した。今日は運が悪くバターしか見つからなかったので、渋々それを塗って食べた。寝ぼけた頭にはどうせ味なぞ深く理解出来ないので、いつものように朝食をてきとうに済ませた。
朝食を済まして洗面所で一連の作業を終わらせ、無秩序に積み上げられている物に注意を払いつつ、掛けてあった白黒の洋服に着替えた。
かなりてきとうな朝だが、私は変えるつもりは無かった。生活そのものを変えるつもりが無いからだ。
玄関で戸締りを確かめ、外に出た。もうかなり高くなっている太陽が見えた。いつも変則的な生活を送っているので、こんなものだ。
玄関の扉の鍵を掛けたのを確認して、帽子を被り、箒にまたがり空に舞った。今日も風が気持ちよかった。

ここ数ヶ月で、色々な事がおきていた。死人もかなり出た。そして十数日前、その原因が私に有ることが分かった。それから私は血眼になって元凶の物を探した。私のかなり曖昧な記憶や、持てる知識と他の連中が得た情報をかけ合せて、絞込みをした。そのおかげで先日、偶然にも空間が少し歪になっている場所を発見した。
私は事が起きる以前の生活が気に入っていた。気ままに生活をし、時には皆で馬鹿騒ぎをしたり、集まって宴会を開いたりして、のんびりと過ごす。そんな生活があたりまえだと思っていたし、あたりまえのように続くだろうとも思っていた。
しかし、私が抱いていた幻想は脆くも砕かれた。奇しくも私の手で。
大切な物ほど、失って初めて分かる事なのだと様々な形で痛感した日々だった。だが、それももう次期に終わる。
博麗神社が見えてきたので高度を下げた。相変らず、ひと気が無さそうだった。

何度か呼びかけたが、神社から誰も出てきそうに無かった。仕方が無いので勝手に上がらせてもらう事にした。留守にしているのに玄関の鍵もしていない霊夢が悪いのだ。
縁側でのんびりと霊夢の帰りを待つ事にした。風で草木が靡く音に耳を傾けつつ、流れ行く雲をぼんやりと眺めながら縁側に寝転がった。のんびりと時間が過ぎて行った。
しばらくして、足音がしたので目を開いた。どうやら眠っていたようだ。霊夢が帰ってきていた。
「よう、霊夢。無用心だぜ。」
「ここは元々ひと気が無いから心配ないわよ。それに取られる様な物も無いし。それより、何しに来たの?」
どうやら人里に買出しに行っていたようだ。いろんな物が入った袋が散乱していた。
「いや別に。こんな辺鄙な神社に用事なんかある訳無いだろ。」
「それじゃあ、いつもみたいに煎餅と饅頭を略奪しに来たのね。立派な用事だこと。」
「それと、客に茶を出すのは礼儀だぜ。」
「勝手に押しかけて来た奴を客なんて呼ばないわよ。」
それからしばらく、霊夢と他愛も無い話をした。大体はいつもしている世間話だった。
そろそろ日が暮れかけてきたので、帰る事にした。霊夢が玄関まで見送りに出てきた。
「じゃあね、魔理沙。今度からは勝手に上がらないでよ。」
「まあ、善処しよう。その時の状況次第だがな。それより霊夢、少しいいか。」
「ん、何よ。」
「なあ、霊夢の記憶力って良い方か?」
「な、何よ、いきなり。」
「いや、なに、霊夢の頭の春度を知りたいと思っただけだ。他に他意は無いぜ。」
「ご生憎様。魔理沙よりはいいと思っているわよ。何故?」
「別に。霊夢が人の事をどれだけ覚えていれるかを聞きたかっただけだ。」
「ふん、馬鹿にしないでよね。でも魔理沙だけは別よ。魔理沙が死んだら、すぐにでも貴方の事を忘れてあげるわ。」
「そっか、それならいい。」
霊夢が拍子抜けしたような顔をした。てっきり私が嫌味の応酬を返してくるものだと思っていたのだろう。
私はそのまま霊夢に背を向け、玄関から出た。
「じゃあな、霊夢。」
背を向けたまま霊夢に挨拶をし、箒にまたがった。博麗神社が見えなくなるまで、私は振り向くことをしなかった。

夕日が墓を赤く染めていた。人里に程近く設置されている墓地には、今は私しか居なかった。
数ヶ月前から、ここに納められる墓が増えた。まだ真新しい墓にお供え物や花が添えてある。どれも、まだ新しかった。
新たに作られた墓の群れを風が吹く中、ただ眺めていた。私にはお供え物を添えることや、哀悼の意を唱える資格が無いからだ。
気配を感じ、振り返った。幽々子がいつの間にか私の近くに来ていた。
「珍しいな、幽々子とこんな所で会うなんて。」
そう言ってから、別段珍しい事じゃないと思い直した。ここは墓地で幽々子は幽霊だ。
「魔理沙をお茶に誘おうと思ってね。」
「妖夢とでも飽きるまでしていろよ。私はこれでも暇じゃないんだぜ。」
「妖夢でも他の人でも駄目なのよ。魔理沙じゃなきゃ。今日一晩付き合ってもらうわよ。」
「それこそ他を当たれ。私はこれから忙しくなるんだ。お前とお茶している暇なんかこれっぽっちも無いぜ。何で私を誘うんだ?」
「魔理沙が、今日死ぬんじゃないかって思ったからよ。だから、止めに来たのよ。」
しばらく沈黙がこの場を支配し、互いに相手の目を見つめあった。私は幽々子が来た理由を何となく直感していた。
「私はね、誰にも死んで欲しくないの。」
暗い目だった。どれだけという別れを経験したら、こんな目をするようになるのか。
普段は呆けてアホをやっているが、恐らくこれが幽々子の本性なのだろう。妖夢を苛めて馬鹿をやっていなければ自分を保てられないのかもしれない。普通にのんびりと過ごすには、人の死を見すぎているのか。
「私は私でいたいんだ。何が私なのかは上手く説明できないけど、少なくとも他人を殺しておいてのうのうと暮らすのは、私じゃない。」
「違うわ、貴方が殺したわけじゃない。あいつ等が殺したのよ。」
「違わないさ、私のせいで死んだんだ。私が殺したも同然じゃないか。それに、ここに眠っているやつ等だけじゃない。妖夢もあんたもアリスもレミリアも咲夜も慧音も紫も、皆酷い怪我をした。もう少しで死ぬって奴もいた。友達をこんな目に合わせて何もしないなんて、私には出来ない。」
「魔理沙はよくやっているわ。あの時助けに来てくれたじゃない。それに、何故一人で行こうとするの。皆で行った方が確実に奴らを仕留めれるし、犠牲者も出ないわ。」
「これはもう、私の問題なんだ。そりゃ私の手に余る難事だけど、本来私一人が負わなきゃならない責任なんだぜ。」
「貴方、死ぬわよ。確実に生きては帰って来れない。」
「仕方が無いな、そればかりは。」
「信じられないわね。魔理沙は死ぬのが怖くないの?」
「人間誰でも、守らなきゃならない物があるはずだ。私の場合それが私の命じゃないだけの事だ。幽々子なら分かると思ったんだがな。」
「だから信じたくなかったのよ。」
幽々子の目に暗さが増した。底の見えない暗さだった。
「それに仕留め損なったら如何するの?魔理沙しか場所を知らないのよ。」
「そんときゃ幽々子達には悪いが、お前達で何とかしてもらうしかないな。奴らの大体の居場所はメモってある。アリスだったら、私が何処に隠したか分かると思うぜ。」
沈黙が重くのしかかってきた。誰が何と言おうと、決意を変える気は無かった。
「霊夢、貴方が死んだと聞いたら悲しむでしょうね。」
「それは大丈夫だ。さっき死んだらすぐに忘れてやると言われたぜ。腐れ縁が切れてせいせいするんじゃないのかな。」
「霊夢だけじゃない。アリスや残される人達の気持ち、考えたの?」
「仕方が無いな、それも。それも幽々子達には悪いと思っているぜ。」
「私だけでも、連れて行くって事はできないの?私も自分の守るべき物のために戦い続けているのよ。」
「私は他人の手を借りたくないんだ。借りたら、一生自分を許さない。」
「止められないのね、貴方を。」
「ああ、私は行くぜ。」
再び沈黙が場を支配した。幽々子の目には悲痛な表情が浮かんでいた。
不意に、幽々子の気配が変わった。私は数歩下がり身構えた。
「口で言っても魔理沙を止められないのなら、私が貴方を力ずくで止めてみせるわ。行きたかったら、私を倒してからにしなさい。」
「そこを退いてもらうぜ。」
場に気が満ちた。幽々子は本気だ。
「私にも、譲れない物があるわ。その為にも、魔理沙を止めなくてはならないの。だから、貴方には悪いけど下半身を吹き飛ばせてもらうわ。そうすれば、貴方は何処にも行くことは出来ない。」
「前に一度、ギタギタにしてやった事を忘れたのか。今度はそのあまり役に立ってなさそうな無駄によく喋る頭を吹き飛ばしてやるぜ。」
睨み合った。私も譲ることが出来ない。意地と意地のぶつかりあいだ。
一食触発の状態で、不意に物音がした。お互い物音のした方向を見ると、近くの墓のお供え物が転がっていた。さっきから強い風が舞っているので、恐らくそれで倒れたのだろう。
幽々子に目を戻すと、すでに構えを解いていた。
「今日いっぱい、魔理沙に時間を上げる。それ以上私は譲歩しないわ。明日になれば私は私で勝手にやらせてもらうわよ。」
「それだけ時間が有れば十分だ。もう、私は行くぜ。」
今度は幽々子は止めてこなかった。すれ違った幽々子の表情は読み取れない。
風が舞う中、沈み行く夕日を横目に箒に跨り、空に舞い上がった。

夜が訪れ、月が出た。まだ欠けた月だった。
しばらく飛びながらその月を眺めていた。眺めているうちに、色々な事を思い出す。どの記憶も全て懐かしい物ばかりだったが、今の私には思い出に浸る資格が無かった。
最後に霊夢の事を思い出した。私が最後に何となく取った行動が、霊夢に会いに行くことだった。他にする事があったはずだが、気が付くと博麗神社に足を向けていた。霊夢との腐れ縁は、最後まで自分から切る事が出来なかった。そんな自分を笑ったが、浅ましくいとは思わなかった。こんな私が居た。それでいいと思った。
後は私の家の事だが、別段気にすることは無いと思った。多分、アリスが良い様にしてくれるに違いない。アリスには悪いと思ったが、文句はあの世で聞くとしよう。
目標の山が見えてきた。周囲が森で囲まれているその山は、守る方には楽だろう。
もう、思いに浸るのは辞めた。今は駆け抜けるときだ。

森からは、超低空で突っ込んだ。空中から接近すれば対空砲火の餌食になるのは、目に見えていたからだ。
木々の間を擦り抜け、一心不乱に山を目指す。迎撃はいつ出てくるのか。
丁度山までの行程を三割ぐらい消化したくらいだった。突然囲まれた。敵は例の連中を加え、式神まで用意していた。しかし、ここで止まるわけにはいかず奪幕が飛び交う中、強行突破を試みる。しつこく食らい付いてくる数体の式神を左右に小刻みに動き、幻惑する。式神の動きが大きくなって出来た隙を突いて、左右の包囲を突破する。後は前後の例の奴等だ。一斉に連中から衝撃波が浴びせられた。体を思いきって横に飛ばす事で何とか回避した。後一息遅かったら樹に激突していただろう。
まったく、色々な芸を出来る奴らだと思っていたが、遂に弾幕まで飛ばしてきやがった。
軌道が大きくずれた事で、前に居た連中に式神が合流していた。
ち、魔力は温存しておきたかったんだが、これじゃあ埒が明かねえ。
前方から来る弾幕は酷くなる一方だ。私の体も傷だらけになってきた。
「くらいな、恋符:マスタースパーク!!」
閃光が前方の敵をなぎ払ったのを確認し、更に速度を上げる。後ろの連中にも注意を払った。

出てくる敵を全員なぎ払う訳にはいかなかった。到底魔力がもちそうに無い。
単体で行く手を阻む奴は殆ど無視した。体が傷を負うのも構わず、攻撃をギリギリで避け敵の脇を擦り抜けた。集団で邪魔をする奴等は、マスタースパークで焼き払う。後方の追っ手にも注意を常に払っていた。妙な動きをしているらしく、追ってくる奴等が少ないのだ。
突如、迎撃の奪幕が途絶えた。前方で迎え撃とうとしていた奴等も不意に姿を消した。
訳も分からずただ飛んでいたが、嫌な予感に襲われた。速度を落とし、全身の感覚を周囲に向ける。しかし、何もつかめなかった。
瞬間、悪寒が走った。何が起きたかを確認できぬまま、咄嗟に高度を上げた。枝。数本の枝が、さっきまで私が居た場所を貫いていた。周囲を急いで見回すと、無数の枝が伸びてきていた。
前方から突進してくる鋭利な枝を潜って避けた。待っていたかのように左右から同時に枝が伸びて来る。速度を速め、辛うじて避ける。背中に熱いものが走るが、上からの影に気にする暇も無かった。上から刺さ差って来る枝を、ジグザグに飛んで避けた。
思いつく限りのアクロバットな飛行を続けた。当然体には非常に堪えたが、変則的な動きが出来なくなった時私の体が串刺しになる事は目に見えていた。
内臓が締め付けられ、込み上げて来るものがあった。目が霞み、箒から落ちそうになった。不意に、上空からの攻撃だけが途絶えた。高度を上げたくなるのを必死で我慢した。罠である事は明白だ。このまま枝に串刺しにされるか、高度を上げて対空砲火で蜂の巣にされるか選べということか。
ギリギリのところを避け続けていると、不意に前方下部が空いた。嫌な予感がした。下から潜り込まずに、急ぎ高度を上げつつ右に動いた。突然地面が割れた。樹の根が私に襲い掛かった。紙一重で避けたが、あのまま釣られていたら確実に殺られていた。
左腕に急に痛みが走った。見ると鋭利な物で切られたような傷口が開いていた。根に気を取られていた隙に、枝にやられたらしい。
樹の枝と根をかい潜りながら、目標の山までの距離を着実に縮めていった。途中から式神も現れて危険度が飛躍したが、それでもスピードとマスタースパークにものを言わせて強引に突っ切った。最早、後のために温存するなどと言ってはいられなかった。
遂に山をこの目で捕捉した。ラストスパートをかけた。最後まで五月蝿く後ろから付きまとって来た枝や式神に向けてマスタースパークを放つ。既に体は限界を超えているが、体から魔力を搾り出して箒に注ぎ込む。後どれだけ搾り出せるのか、気にしても分かりようが無かった。限界を超えたところから本当の戦いが始まるのだ。後は私の意志の強さしだいだ。
やっと森を抜ける事が出来き、そのまま山を登って行く。途中から岩山になり、至る所に敵が潜んでいた。やはり集団で妨害してくる奴等だけを相手にしながら他の事に注意を向けた。奴等は自然にまで干渉できる、最早何でも有りな連中なのだ。唯一の利点は乗っ取られている人間の数はそれほど多くない事と、本体が動けない物だという事だ。
攻撃をかい潜りながら、最も警備が厳重な崖を見つけた。恐らくその上に例の物が有るのだろう。

周囲を取り巻く式神達をノンディレクショナルレーザーでまとめて焼き払い、崖を垂直に飛んで上りだした。途中で中に入れそうな洞窟を見つけるが、わざわざ動きが取れなくなる狭い場所に入るよりは一気に上まで上り詰めてマスタースパークで壁をぶち抜いたほうがまだ安全だ。
もう少しで最上部に達しようとした時だった。一際強い気配を感じて、その場で静止した。奴だ。一番強く干渉をされた人間。あの人間を媒体に他の人間に干渉を広める、言わば親のような物だ。奴を倒せばしばらく行方不明者は数を増やさなくなるだろう。
「ふん、ここまでご苦労。ずいぶん派手にやってくれたじゃないか。」
「消えな。恋符:マスタースパーク!!」
言うや否や、敵に向かって閃光を放つ。放った瞬間気を失いそうになる。本当の限界以外にも何かが近づいて来る気がした。それは忌み嫌う物だが、どこか親しみを持つものだった。まだだ、まだ来るな。まだ終わっちゃいない。唇を噛んで踏みとどまる。もう、痛みもロクに感じなかった。
「危ないじゃないか。せっかく造った式神が台無しだ。」
「お前も狙ったはずなんだがな。大人しくくたばってくれていた方が、私は嬉しいぜ。」
「まあ、そう死に急ぐな。どうせその調子だと長くないんだろう?」
「生憎、お前等を潰すまでは死ぬ事が出来ないんでね。あの世も私を受け入れてくれないだろうし。」
「愁傷な話だな。だが、勝手に貴様がそう思い込んでいるだけだろう。思い込みで死に来るなぞ、愚の骨頂だな。死ねば死んだ奴が生き返るとでも思っているのか。」
「私が死ねば死んだ奴が生き返るなら、いくらだって私の命を差し出すさ。しかし、そんな事は有り得る訳無いだろうな。」
「分かっていながら、死に来たか。理解できんな。」
「誰かに理解されようとは思っていないさ。私はお前等が現れる前の幻想卿が好きだし、そこに生きていた私も好きだ。あの幻想卿に生きていた私は決して、人を殺し仲間を傷つけて平然と過ごすような奴じゃない。だから私はあの頃の私を守る為に死ぬ。これは私が私自身のためにやっているだけだぜ。」
「やはり、理解できんな。」
「道具ごときに理解されてたまるか。それにな、私は約束もした。この身に変えてもお前等を潰す。だから安らかに眠ってくれってな。死んだ奴等にした約束は絶対だ。」
「死んだ奴等に何を約束できようか。それはお前の妄想に過ぎん。下らなさ過ぎるわ!!」
話は終わりだと言わんばかりに、殺気が膨れ上がった。どうやら本気で私を殺す気になったみたいだ。
途切れかかる意識を繋ぎ合わせながら、身構えた。奴の顔が、満月が出ていないのに狂気にゆがんだ。
「おい、コレが見えるか?」
その他の人間に抱えられている人を見た。慧音。ボロボロにされ、意識が無いようだ。
「手前、慧音に何をした!!」
「ふん、少しな。人間の子供を人質にとったら、面白いように抵抗してこなくなったので、ついつい興が過ぎてしまった。」
敵を射殺すつもりで睨みつけた。
「貴様はどうなのかな。貴様も抵抗を止めるのか、見殺しにするのか、どっちか選べ。」
最後まで聞いていなかった。魔力を体から搾り出して、マスタースパークを放とうとした。一瞬、覚めない眠りに落ちそうになったが何とか踏みとどまる。
せめて、一瞬で楽にさせてやる。少し経ったらすぐに文句を聞いてやるから。
腕を奴等に向けた。しかしほんの僅か、躊躇した。次の瞬間、脇腹に鋭い痛みが走り箒から落ちていた。脇腹に尖った岩が刺さっていた。みるみる地上が近づいてきた。
すまん、ここまでのようだ。後は頼む。脳裏に次々と浮かぶ友人の顔に向かって言った。最後まで出来なかったが、お前達の心の中であの頃の私は生き続けてくれるよな。
最後にアリスと霊夢の顔が浮かぶ。じゃあな。そう声をかけて目を閉じた。

急に誰かに抱き止められて、減速した。目を開いて目の前の人物に驚く。霊夢。何故ここに居る。そう声をかけようとして、脇腹に走る痛みに唸った。
「少し黙っててよね、気が散るわ。」
「な、なんで・・・」
「ああもう、怪我人は黙ってて!!」
ようやく私達の落下は止まったが、敵が接近してきた。魔力を搾り出そうとして、痛みに邪魔をされた。霊夢は私を抱えていて、身動きが満足に取れない。
「霊夢、私を離せ。このままじゃ・・・」
「嫌よ。」
霊夢は私を抱えながら、何とか距離を取ろうとした。しかし私の分だけ遅く、すぐに追いつかれた。
「霊夢、頼むから離せ!!死にたいのか!?」
霊夢は私を離そうとしなかった。埒が明かないのでもう一度魔力を練ろうとしたが、血が込み上げてきて咳き込んだ。
遂に敵に囲まれた。それでも霊夢は私を離そうとしない。この高さなら運が良ければ死なないかもしれないのに。霊夢の腕を振り払おうとした。殆ど力が入らなかったが、霊夢も絶対に離すまいとしていた。
いきなり敵の式神が数体、吹き飛んだ。残りも辺りを警戒しつつ下がりだす。その更に半分が吹き飛ばされ、敵は全員後退していった。
ひとまず安全になったので、私達は地面に降り立った。上を見上げると、藍が居た。
「藍!!どうしてここに!?」
「紫様が霊夢をそれとなく警護しろと、私と橙に命が下ったのだ。しかし焦ったぞ。いきなりお前が魔理沙の後を付いて行って、仕舞いにはこんなとこでこんな事になっているのだからな。」
「紫の奴、何でお前等を霊夢に?」
「普段一人で行動している霊夢の身を案じての私達を付けたのだろう。紫様は緊急時でもすぐに動けるとは限らないからな。」
「ねえ、そう言えば橙は?」
「今、紫様を呼びに言っている。今日は起きてられていたから、もうすぐ紫様を連れて来るだろう。それまでお前は魔理沙を安全なところに。」
「駄目だ。まだ私は奴等の本体を壊していない。」
「そんな体で何が出来るのよ。馬鹿もいい加減にして!!」
「頼む、霊夢。私を私のままで死なせてくれ。」
「駄目よ、それは私が許さないわ。」
背後に幽々子が立っていた。少し離れて妖夢が辺りを警戒している。
「幽々子、何故ここに。約束は・・・」
また、血が込み上げてきた。吐き出して喘ぐように空気を吸った。
「あら、魔理沙と約束した時間はさっきまで。今はもう日付が変わっているわよ。」
「どうしてそれが言える。まだ正確には変わっていないかもしれないぜ。」
「ふふ、私の腹時計はいつも正確よ。」
「そんなもの、余計信じられねえぜ。」
呆れて力が抜けた瞬間に、また意識が遠のきだした。今度は耐え切れるか分からない。
突如空間が割れて、紫が現れた。どうやらアリスや橙、紅魔館の面々、永遠亭の連中もそろえて来たようだ。
アリスが急いで駆け寄ってきて何かを言い出したが、上手く聞き取れなかった。視界もぼやけてきて、そのうち何も見えなくなった。
霊夢に体を預けながら、意識が途絶えた。

不思議な光景を見た。皆が集まって何時でもアポが取れる博麗神社で宴会を開いている光景だ。それはあの頃よく見た光景で、私はああやって皆で騒ぐのも好きだった。皆の中に楽しそうに騒いでいる私を発見した。皆で騒いでいる私もまた、好きだった。
奇妙な感じだった。あの頃の好きだった私を、罪である私が見ているのは。
私は償いきれない罪を犯した。誰もが一応は責めたが、最後は皆許してくれた。確かに凶行を重ねているのは奴等だが、そのきっかけを作ったのは私である。色んな悪い条件が重なっただけだと言う事が出来るし、皆そう思ってくれていた。
だけど私は、私が殺した人達のために言い逃れる事を自分に禁じ、罪である今の私が命をかけて結果を残し、それで好きだったあの頃の私を守ることを選んだ。皆には悪いが、あの頃の私が誰かの心の中で生きていてくれれば、それで十分だった。今の私には生き残る価値が無い。
この光景は、私が最後まで大事にしていた最後の記憶。それももう要らないと思い、捨てようと思った。死に行く罪には余りにも身分不相応だ。
徐々に光景が消えだした。そして、全てが消えた。

目が覚めた。近くには霊夢とアリスが居た。二人とも私に気がついているようだった。
「何だ、てっきり死んだと思ったぜ。」
「何馬鹿なこと言っているの。本当に死ぬとこだったのよ!!」
アリスが少しヒステリックな声を上げて責めてきた。どうやら耳も聞こえるようだ。
体を起こそうとすると、まるで体が燃える様に痛かった。慌ててアリスが私の体を支えた。
私の体を見回すと、包帯だらけだった。どうやら私が生きているのは、さっき来た永琳の仕事のおかげらしい。
周囲を見渡すと、さっきの場所からそんなに離れていなかった。ただ、安全の為だろうか、念入りに焼き払われていて所々クレーターが見える。
「あれからどれだけ経った?」
「多分、三刻ぐらいだと思うわ。でもよく気が付けれたわね、その体で。一週間くらい目が覚めないかもしれないって永琳が言っていたわ。」
「そっか。じゃあ霊夢、まだ終わっていないんだな?」
「変な気を起こさないでよ。貴方はここで全部終わるまで寝ているの。それから永遠亭に運んであげるから。」
回りを見渡し、私の箒を探した。すぐ近くに転がっているのを見つけ、近寄ろうとしたがアリスに止められた。
「離せ、アリス。」
「お願いだから、もう止めて。もう十分やったでしょ?」
「まだ私は生きているし、あの道具も健在だ。何も終わっちゃいない。だから私は行くんだ。」
「何で魔理沙がそこまでしなくちゃならないの?!全然分からないわよ!!」
埒が明かないのでアリスを振り払おうとしたが、まるで体に力が入らなかった。そのままアリスにもたれ掛かるように倒れこんだ。また気を失いかけたが、何とか踏みとどまる。大切にしていた記憶と引き換えに手に入れたラストチャンスだ。無駄にしてたまるか。
「魔理沙、聞いて。」
「何だ、霊夢。時間稼ぎなら止めてくれ。」
「貴方は私に自分の事をすぐに忘れるかって聞いたわね。」
「ああ、聞いたぜ。」
「もし私が忘れないって言ったら、こんな事しなかった?」
「霊夢には悪いが、それは無い。ただ、すぐに忘れるって聞いて少し気が楽になったがな。」
「じゃあ、もう一度言ってあげる。貴方のような馬鹿、さっさと何処かで朽ち果てちゃいなさい。もう、顔も見たくないわ!!」
「霊夢、何て事を言うのよ!!」
「その代わり、私の知らない時に私の知らない場所で死んでよね。私の目が届く所じゃあ、止めてよね。貴方の葬式なんかに出たくないわ。」
「私と霊夢の関係は、ただの腐れ縁だろ。葬式なんかにでる必要は無いぜ。大体、霊夢には人の葬式に出るなんて似合わないぜ。いつもの様に淡白にしていれば良いんだ。」
霊夢はそれっきり俯いて黙ってしまった。
「アリス、頼む。私を行かせてくれ。」
「教えて、魔理沙。何が魔理沙をそうさせているの。」
「アリスには関係ない。」
「魔理沙・・・」
「誰も何も関係ない。これは私がやらなきゃならない問題なんだ。」
アリスも黙り込んでしまった。
「頼むよ、アリス。私は私の罪を償わなきゃいけない。そうしなければ守れない物があるんだ。分かってくれとは言わない。ただ今は私の最後の願いを聞いてくれ。」
しばらく、誰も何も言わなかった。そして、唇を噛んで黙っていたアリスが私を静かに地面に置き、箒を取ってきた。
「魔理沙、交換条件よ。魔理沙が行くのを許す代わりに、私が魔理沙の代わりにこの箒を操って魔理沙の手足になる。これでどう?」
「アリス、頼むから一人で行かせてくれ。」
「何言っているのよ、一人じゃろくに動けないくせに。私が貴方を送ってあげると言っているのよ。感謝されても非難されるいわれは無いわ。」
今度は私が黙り込む番だった。確かにまともに動けない。
「それにね、私にも守りたい物はある。だから魔理沙を死なせる訳にはいかないの。」
強い意志がアリスの瞳に宿っていた。これ以上言うと強制的に気絶させられる恐れがあったので、黙って提案を受け入れた。
アリスが私を後ろから抱きかかえるかたちで、何とか箒に跨った。飛び上がりながら、まだ俯いている霊夢を見た。一瞬だけだが、体が震えているように見えた。

再びあの崖を上りだした。今度は私じゃなく慣れないアリスが操っているので、ゆっくりと上昇した。周囲は皆が掃討したらしく、敵の気配は無い。
一度目に来た時見つけた洞窟を発見した。
「アリス、多分あの中だ。」
私が指示を出すと、アリスが洞窟の中に入って行った。そのまま、おびただしい破壊跡が残る曲がりくねった洞窟を突き進む。これ見よがしに立て篭もる連中に対して無慈悲に撃ち込む皆の姿を、何となく想像した。自分で動かしていないので、以外と暇だった。
遂に視界が開け、大きな空洞に出た。今丁度、最後の戦いが行われているところだった。
連中の一人が慧音を人質に取っているものの、紫が居るので効果的に使えず、ただ逃げ回っているだけだった。大将格も必死で応戦しているが、見る間に敵の数が減っていく。
アリスが強く私を抱き寄せてきた。緊張しているのか、アリスの胸の鼓動が速くなっている。
「魔理沙、私達も応戦しよう。」
「いや、私達は敵の本体を叩く。アレを壊さない事には何も終わらないぜ。何処にあるか探してくれ。」
私達は繰り広げられている戦いをよそに、更に奥を目指した。あの大将格だけはその他の奴等とは別格だ。早くしないと要らぬ犠牲が出てしまうかもしれない。
そして、遂に最上部に達した。一人居た。そしてその手によく知っている物が抱えられていた。アレをここから持ち出そうというのか。
敵と睨み合いになった。敵は一人で片腕が使用不可。対するこちらは私が殆ど戦闘不能に近く、付記を操るアリスはまだ不慣れ。分が悪い。
「アリス、箒から降りろ。浮くくらいなら今の私でも出来る。」
「魔理沙はどうするの?」
「奴が唯の的を狙ってくれる事を祈る。私が狙われている間に、アリスは奴を倒してくれ。」
「そんなの嫌よ。絶対に箒から降りないから。」
「アリス、今はそんな事を言っている場合じゃないぜ。あれが持ち出されて行方不明にでもなってみろ。何が起こるか分かるだろう。」
「それでも、嫌よ。私は魔理沙の手足になるって決めたの。」
更に言い返そうと思ったら、先に仕掛けられた。襲い掛かってくる衝撃波をアリスは紙一重のところでかわし続ける。そしてアリスは私の耳元で呟き出した。
「決めたんだ。ようやく見つけたものを」
私が飛び降りて的になろうとしないように強く抱きしめられた。これでは私がアリスを突き落とす事も出来なくなった。
「私が付いて行くって決めた人を、失いたくないって。」
潰される空間を縫うように避けつつ、敵に接近する。
「だって、魔理沙は私の」
敵が接近戦に切り替えてきた。あっという間にお互いの距離が埋まる。
「・・・・」
何か言ったようだが、それを聞いている余裕は無かった。敵が拳を突き出してきた。魔力を体から搾り出して、箒の操作に介入する。際どいところで拳は体をかすめた。それだけでもかなり痛い。
急いで距離を取ろうとしたが、敵の方が早い。そして、一瞬気を失いかけた。もう本当に後が無かった。
「アリス、一度でいい。一度でいいから奴の気を引けないか。」
「如何するつもり?」
「如何するもこうするもない。あいつを倒すだけだぜ。」
「でも、」
「いいから私を信じろ。ここであいつを倒さなきゃならないんだ。それにこのままじゃあ次期にやられるぜ。」
拳がまた私達をかすめた。全部アリスに箒の操作を任し、私は途切れかかる意識と戦いながら全身から魔力を搾り出した。苦渋の表情をしてアリスが同意してきた。
「分かったわ。私は魔理沙を信じる。信じるから、お願いだから」
「わかってる。私を少しは信じるもんだぜ。」
敵が打ちかかって来たところを避け、強引に向きを敵の方向に向けた。敵は既に体をこちらに向けていたが、構わず対峙する。敵が突っ込んできたところを、アリスは人形達を敵の顔にめがけて嗾けた。思わぬ展開に敵はつい人形に手を出してしまった。隙。ほんの僅かだが私には十分だった。
「これで、終わりだ!!魔砲:ファイナルスパーク!!」
敵があの道具ごと閃光に消え、ついでにアリスの人形達も消えたのを薄れ行く意識の中見届けて、私の中で迫り来るものに全てを委ねた。

今日もいい天気だった。窓の外から見える外の風景は昨日と同様さわやかだった。いい加減変化の無いこの生活にも飽きていたが、それももう次期に終わるので我慢する。
誰かの足音が近づいて来るのが聞こえた。この時間は永琳が私を診察しに来る時間じゃない。たまに冷やかしに来るここの宇宙人の姫様はさっき来たし、飯の時間じゃないので宇宙ウサギやその部下でもないだろう。借りた本を返すように頼まれて、ここまでしつこく催促しにくる過労死寸前のメイドでは足音に重量感が無いし、突然現れて見舞いの品を食べて去っていくスキマ妖怪なら足音なぞ立てない。一通り考えて、やはりこの足音の主が思いつかなかった。丁度暇を持て余していたので、私はこの来訪者を歓迎する事にした。
扉が開き、意外な人物が現れた。幽々子。私は何をしに来たのか尋ねた。
「あら、心外ね。貴方のお見舞いに決まっているじゃない。私を何だと思っているの。」
「どうせ幽々子の事だから、見舞いの品を食しに来たんじゃないかって思ってね。でも残念だったな。この間、全部紫に食われちまったぜ。」
「失礼ね。私は唯見舞いに来ただけよ。ほら、お見舞いの品も持参してるわ。」
「あのな、幽々子。普通は果物なんかじゃないのか。何で米俵や味噌なんか持って来るんだ?」
「あら、ご飯の基本はふっくらと炊いたお米と味噌汁よ。これが無ければ一日は始まらないわ。」
「私は洋食派だ。それにちゃんと飯も出されているぜ。」
「だからよ。今から魔理沙を和食派にしようと思って持ってきたのよ。ああそれと、味噌汁は自分好みに味付けできるように色々持って来たから、味噌汁は自分でちゃんと作るのよ。」
「嫌だ。要らないから全部持って帰れ。それと幽々子は自分で味噌汁作ってないだろ、全部妖夢任せで。」
「そんな事無いわ。私が気に入るまで何度でも妖夢に作り直しを命じているんだもの。もう私が作っているのも同然だわ。」
妖夢に心底同情した。今度会ったら、ぜひ洋食に変えるよう進めてみよう。
私が白玉楼の食卓改革プランを考えているうちに、幽々子はテキパキと持ってきたものを部屋の中に置きだした。今度紫が来たら、何とか騙して持っていってもらおう。
「それにしても、すっかり貴方はこの部屋に馴染んでしまっているわね。ここに来てから何日経ったの?」
「約一ヶ月と二週間だと思う。今週中にも退院許可が下りると思うから、暇な生活ともおさらばだぜ。」
「あら残念。じゃあ三食全部にお米と味噌汁を食べなさいね。必ず良さが分かるようになるから。」
「ここの宇宙人どもの餌にしておいてやるぜ。」
幽々子が持ってきたものを置き終え、窓の外を見た。
「ようやく、終わったのね。以前のように早くなるといいわ。」
「まったくだ。人が死ぬ気でがんばったんだ。ならなきゃ全部アリスのせいだぜ。」
「これでまたしばらく、あんな思いをしなくてすむわね。私の知っている人が何時死ぬのか気にしなくてすむ。もうしばらく続いて欲しい物だわ。」
幽々子は窓の外を眩しそうに眺めていた。何となく、幽々子の気持ちが分かる気がする。
「一応言っておくけど、私は貴方を許したわけじゃないわよ。」
「んあ、何か幽々子に許されなきゃならない事したっけ?」
「私が止めたにもかかわらず、死にに行った事よ。私が何の為に、珍しく体を張って頑張っていたと思っているの?」
自分で言うなよ。そう突っ込みたくなったが、雰囲気を大事にしようと思った。
「だから、私は貴方の事を許したわけじゃないからね。」
「んじゃあ、どうしたら許してくれるんだ?何時までも過去の事でネチネチ言われるのは嫌だぜ。」
「せいぜい貴方が生きている間は、私を楽しませない。そうしたら貴方が死んで家に来てもこき使ってあげないから。」
うわあ、何やら死後の世界まで話が及んでるよ。迂闊には死ねなくなったな。
「へいへい。んじゃ我侭なお嬢様の命令を聞いとくとしますか。何の憂いも無く死にたいぜ。」
その後、幽々子の呆け話に付き合ってやって時間を過ごした。窓の外が夕焼け色に染まってきたので、幽々子が帰る事になった。
「何だ、ここで珍しい宇宙食でも食っていけばよかったのに。そうそう食べるものじゃないぜ。」
「そうしたいのは山々なんだけどね。外に妖夢を待たし続けているからそうもいかないわよ。」
うわ、てっきり妖夢を連れて来なかったと思っていたぞ。
「それじゃ、帰るわね。」
「ああ、また今度宴会の席で会おうぜ。」
幽々子が扉の前まで行き立ち止まった。
「魔理沙、貴方まだ自分のせいで大勢の犠牲が出たと思っているの?」
「ああ、事実だからな。この罪はずっと背負っていくつもりだ。」
「辛いわよ。」
「もう決めた事だ。気にするな。」
ふう、とため息を付いて幽々子は出て行った。

今日も晴れだった。この晴れた青空に誘われるように私の心も晴れていた。久しぶりに我が家に帰れるのだ。
のんびりと魔法の森を進みながら、ようやく手にした自由を満喫した。あまりの嬉しさにマスタースパークをそこら辺に撃ち込みもした。被害をこうむった動植物どもよ、今日の私に免じて許せ。
私の家の前に人が立っていた。アリスだ。私の家の管理を頼んでおいたのだ。そのせいか、一度も見舞いに来てくれなかった。
「ちょっと!!さっき轟音がしたけど、あれ魔理沙!?」
「ああ、そうだぜ。今の私は滅茶苦茶気分がいいからな。なにせ永琳の地獄のリハビリからようやく抜け出せたんだ。あまりの気分の良さに何でも出来そうな気がしてならないんだ。言われりゃ某米国の某大統領もふっ飛ばしてくるぜ!!」
「落ち着きなさい。ICBMが飛んでくるわよ。それよりどう、これ。」
促されるようにアリスの目線を追った。
「んな、何だよ、隣の建物は!?」
「貴方の収集した物の保管庫よ。」
「何でンな物建てたんだよ。第一、どうやって建てた!?」
「そんなこと魔理沙のお金で建てたに決まっているじゃない。前々から言ったはずよ、私は。きちんと保管しなさいって。だからあんな事が起きたんじゃない。」
何も言い返せれなかった。
「後それと、アレみたいに危険の物は処分したから。まさか異論は無いわよね。」
「あああ、私の記念すべき日が穢れてゆく・・・」
「馬鹿なこと言っていないで、さっさと家に入りましょう。客人にお茶を出すのが礼儀よ。」
項垂れながら、アリスから鍵を受けとって、玄関を開いた。中はアリスが掃除してくれていたのだろうか、綺麗なものだった。私が住んでいた頃よりも。
振り向くと、アリスが立ち止まっていた。
「如何してんだ、早く入ろうぜ。」
何かを堪え切れなくなったのだろう。いきなり抱きついてきた。
「お、おい、止めろって。いくら人が来ない森だからって、外でこんなことしちゃまずいぜ。いや、家の中だったらして良いって言う訳じゃないが。と、とにかく落ち着こうぜ。」
「魔理沙、魔理沙、魔理沙。魔理沙、本当に帰ってきたんだね。」
「おいおい、人を死んだように扱うなよ。」
「だって、だって、・・・」
まあ、確かにあの時の私の状態を見ていた、らそう思うのも無理は無いか。
「落ち着けよ。私は帰ってきたんだぜ。」
うん、と言うも私を離そうとしなかった。
「おい、いい加減放してくれないか?」
「あ、御免なさい。」
バツが悪そうに急いで離れた。
「私がこの手を離すと魔理沙がどっか行ちゃうんじゃないかって、そんな気がしたから。」
何とも言えない言葉だった。
「ねえ、魔理沙。私決めたから。絶対に魔理沙から離れないって。魔理沙が一人でどこかに行こうとしても、絶対に付いて行くから。」
「おいおい、地獄底まで付いて来るって言うんじゃないだろうな。」
「私、魔理沙の事、許してないから。」
「ん、何かしたっけ?」
「私の人形、壊したでしょう。直すのにどれだけ苦労したと思っているの?」
何も反論できなかった。確かに私はアリスの人形を盛大に吹き飛ばした。
「だから私が魔理沙に付いて行くことに反対させないからね。」
大きなため息を付いて、家の中にアリスを招こうとしてアリスのほうを向いた。アリスが私に笑顔を向けてきた。
「私が魔理沙を支えてあげる。罪の意識に押しつぶされそうになっても私が支えてあげるから安心して。」
瞬間、頭が真っ白になり、次には恥ずかしさが込み上げてきた。
照れ隠しをする為に、空を仰ぎ見る。くそ、何て顔で何て事を言いやがる。
「だから、ずっと一緒だよ。ずっと魔理沙を支えてあげる。」
告白にも似た言葉を言われたが、別に悪い気がしなかった。すごく照れるが。
「これからもよろしくね、魔理沙。」
この幻想卿の空は、快晴が続きそうだった。
お久しぶりです。ようやく終わりました。読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
そして陳謝の言葉を。すいません。私には空中戦を描写するスキルが有りませんでした。読者の方々の想像で足りない部分を補ってください。
失って初めて分かる大事な物。なんかよくあるパターンですが、これくらいで勘弁してください。
それでは、さようなら。
ニケ
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コメント



0.1410簡易評価
18.無評価名前が無い程度の能力削除
魔理沙は元から和食派ですが?
20.80名前が無い程度の能力削除
最近涙腺緩い私は、こういうのに弱いです。
暗いまま終わらず、話の最後に「救い」があって、良かったです。

>魔理沙は和食派?洋食派?
おそらく幽々子の言葉に対し、反射的に言ったのでしょう(笑
ってか、魔理沙は和食も洋食も、どっちでも食べてそう・・・
紅魔郷でレミリアの問いにも、いくら少ないと言っても即答してたから、実はアレも反射的にデタラメ言ったのかもしれないとか思ったり。