Coolier - 新生・東方創想話

ゆかれいちゅっちゅっ【秋】

2011/02/21 20:33:45
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「いっぱい採れたぜぇ~♪」

 豊作の神さまさまだぜ! と魔理沙は、背中に背負った竹籠を上機嫌に揺らして森を歩く。
 いっぱい採れたからアリスにもお裾分けしてやろう。なんて考えながらルンルンで獣道を進む。家へ帰るよりも先にアリス邸にキノコを届けて、ついでにお茶でも一杯頂こうとも考えたりしたら、自然と頬が緩んだ。

「へへっ。アリスの奴もきっと驚くぜ」

 竹籠に溢れんばかりの多種多様なキノコが背中でわっさわっさと揺れる。魔理沙はアリスの驚いた顔を想像して「くふふ」と忍び笑いを零した。

(それとも、いつも通り呆れるかな……)

 驚くんじゃなくて呆れ顔で「しょうがないわね」とか言って。でも結局キノコを受け取ってくれて。ついでに美味しいお茶と魔理沙好みの甘いクッキーを出してくれる事も想像してみたりする。
 結果は……どっちにしたって全然良いだった。
 アリスの家に行く口実となればそれで良くて、アリスの顔を見れるんならそれで良いのである。

「……へへっ」

 魔理沙は悪戯っ子が悪戯を考えている時のような楽しそうな笑みを浮かべ、「らららぁ~ららららぁ~♪」と、鼻歌混じりスキップを開始した。

「おっ、そうだ」

 だが、少し進んだところで魔理沙は一旦足を止めて、名案を思い付いたぜ! とばかりにポンッと手を打った。
 肩越しに振り返って、竹籠の中を見やる。
 得意げな顔でわさっと揺らしながら、白黒魔法使いは更なる悪戯を思い付いていた。

「もう秋だからな。霊夢のヤツ、絶対に機嫌悪い筈だぜ」

 そう。なんてたって今は秋である。
 たくさんの美味しい物が食べられる時期なのだから、あの食いしん坊巫女の機嫌は最高潮に良い感じになる季節だ。ちょっと前まではの話だが。
 だから、今はちょっと事情が違う。
 それは、ぜぇーんぶあのイケナイ妖怪の所為だ。

「変わったよなぁ……」

 少し前の親友の姿と、今の親友の姿を比べつつ、なんとなく懐かしく思う。
 地に爪先が辛うじて付いているんだかいないんだか。そういう感じでなんとなく同じ所には立っていなかった。自分とは違う場所に在るんだろうなって、心の片隅で思っていた、そんな親友。そんな奴を親友と呼んでいいのか危ういけれど。

「でも、今は違うって思うぜ?」

 同じ場所に立っているのかは、少しわからない。でも少なくとも同じ土俵には立っていると思う。
 肩をちゃんと組めるようになって、いざとなったら肩を貸してやれる位置にはなったんじゃないかって思う。

(愛とかよく分かんないとか、恋なんてしないとか……誰かに甘えるとか、そんなもん一生必要ない。って感じだったクセになぁ……)

 その変化は、急激なものじゃなかった。きっと、とても緩やかだった。でも多分、浅いモノじゃなかった。
 だって霊夢の『様子がおかしい』と気付いた時には、もう手遅れなまでに変わってしまっていたから。
 そしたら、改めて知る事になった。博麗霊夢は別に自分たちと変わらないんだって。ただの女の子だったんだなって。

「……そんなの、紫は最初から知ってたんだなぁ」

 ん? なんかちょっと違うか?
 こういうと語弊があるかもしれないと、魔理沙は口の中で色んな言葉を転がしてピッタリの単語を探してみる。
 けれど上手い台詞は浮かばなくて、口内に溜まった言葉の残滓は溜息となって出て行った。

「ま、あういう大妖怪じゃなけりゃあの破天荒な巫女さんを受け止めきれないぜ!」

 友達想いのお人好し魔法使いは、にかっと笑う。
 人間臭くなっちまって、まぁ~。と、軽口を叩くような口調の割には嬉しそうな笑みを浮かべて、肩を揺らして籠を背負い直した。
 籠の中でまた、秋の味覚がわさっと揺れる。

「ほいじゃ、巫女さんのご機嫌取りに行ってやるか」

 籠の中にはあの貧乏神社では絶対に手に入らないような高級食材、松茸さんも幾つか入ってる。この幸せキノコを差し入れてやれば、ちょっとは嬉しがるだろう。
 空を見上げると、鰯雲と一緒に、豊穣の神が秋の空気を堪能するようにゆったりと飛んでいた。

「お、丁度良いとこに……博麗に巫女への献上物にゃぁ食いもんが一番! ってな」

 焼き芋の良い匂いがそこら中にバラ撒いかれて、むやみやたらと食欲をそそってくる。
 魔理沙はお腹がぐぅ~っとなる前に、腹に力を込めて「お~い!」と声を張り上げた。


















おーたむふるーつ味















 一度家に帰ってから荷物をした魔理沙は、今は両腕で大きな籠を抱えて神社の石畳を歩いていた。
 籠の中には、果物ならば柿に梨に林檎に葡萄、栗に無花果に石榴、それから蜜柑に柚子に橙、金柑。野菜ならば茄子に南瓜に牛蒡、薩摩芋に馬鈴薯に里芋。そして先程採ってきた様々なキノコがたくさん……と、正に山と盛られていた。
 魔理沙は「ふんふ~ん♪」と鼻唄を口遊み、神社の石造りの階段をトントンとリズム良く登る。その度に、腰に下げた袋がカサリカサリと無邪気で軽快な音を奏でた。その袋の中にいっぱい詰まっているのは、実りを喜ぶように、恋する乙女の頬のように色付いた紅葉。

「さてさてぇ~。食い意地張った巫女さんの機嫌をどんだけ取れるかなぁ~」

 豊穣の神様と、紅葉の神様。秋を司る二柱の神からの贈り物を引っ提げ、魔理沙は意気揚々とステップを刻む。
 秋を司る二柱からの情報では、夕方には河童が取れたての鮎を、天狗達が下っ端哨戒天狗が獲ったという猪の肉を持ってきてくれるらしいとの事だ。
 現在の時間は午後三時を回ったところだから、このまま霊夢の機嫌がルンルンになれば、おやつの一つや二つでも出れるかもしれない。
 魔理沙はそんなことを想像しながら、階段の最後の段を「ほいっ!」と飛んで両足で踏んだ。足先から広がる石畳を視線で追って、神社をぐるりと見回す。だが、広がるのは無機質な石畳ばかり。掃除はもう終わっているようだったが、風に吹かれてやって来た数枚の枯れ葉が乾いた音を立てていた。

「おろ? じゃ母屋か」

 縁側でのんびりまったりと茶でも飲んでるんだろう。魔理沙はそう推測し、籠を抱え直すと神社の裏手へと駆け足で向かった。

「んっ……」

が、母屋目前にして魔理沙の足は止まった。

「……へ?」
(なんだ今の声?)

 魔理沙は困惑に顔を歪め、神社の物陰に反射的に隠れる。
 耳を澄ますと、

「……ゆかり……」

 誰かの、いや、誰かって言わなくても解ってはいるが……妖怪の名前を呼ぶ、蕩けてしまいそうな程に緩い、甘えた声が耳に届いた。

(な、なんだ……紫の奴が来てんのか……)

 つーことは、今のは霊夢の声か? いやぁ~、まさか幽々子じゃないだろう。ここ霊夢ん家だし。
 ってかそんな事になったら修羅場じゃないか。紫の命が危ないぜ。

(て、てかあいつ……紫と二人っきりだと、いつもそんな声で紫を呼んでんのか……!?)

 親友(『自称』という魔理沙自身による勝手な交友関係の位置付け)の聞いた事もない声に、魔理沙は動揺を隠せない。恥ずかしさとムズ痒さが背中を這いずり回る。今しがた知った事実がなんだかちょっと衝撃的で、心が萎縮する。
 ぶっちゃけ知りたくなんて無かった事柄である。

「ごめんなさい。痛かった?」

 そして、紫の優しい声が聞こえて、魔理沙は反射的に顔を紅くしてしまった。
 だって、その、ねぇ? あの妖怪は基本的に結構エロいというか……なんというか大人っぽいというか、フェロモンというか……そんな奴だとは思うが、今はその、声がすごく艶っぽくて。

(ただでさえエロい奴が、んなエロい声出してんじゃねーんだぜ!)

 落ち着け私。これくらいどうってことないだろ! 私はそんなにお子様じゃないんだからな!!
 魔理沙はそう自分に言い聞かせて平静を保とうとするが、

「ううん。大丈夫……」
「本当に? 我慢しなくていいから……」

(大丈夫ってなんだ! 我慢ってなんだぁあぁぁ!?)

 霊夢の甘えた声と、紫の優しくも異常に艶っぽい声が魔理沙の脳神経を過度に刺激する。
 見えないけれども、会話の雰囲気から何をしているかなんて予想が付き過ぎて笑えもしない。

「くすっ。本当だってば。もう、心配性なんだから」
「だって霊夢、眉間に皺を寄せたじゃない」

(だぁあぁぁ!!)

 よく知る友人が、しかもあの時に超おっそろしい鬼巫女と化し異変解決を邪魔するのならば容赦せずにブッ潰すというあの霊夢が、こんなにも穏やかでココア in 角砂糖十個みたいに甘ったるい声を出していやがりますわけで。

(うぉぉぁぁ痒いし恥ずかしいぜ!あとついでになんか居た堪れないんだぜぇ!)

 魔理沙は頬を真っ赤に染めて体を捩った。両腕が塞がってなかったら、背中や肩や首や二の腕や腹を盛大に掻き毟っていたに違いない。つーか、今超絶にそうしたくて堪らない。でも、そんな精神状態ながらもハッキリと理解している事が一つあった。それは、お邪魔しちゃ悪い、というか、お楽しみ中に邪魔なんかしたら命が危ない。いや、確実に命を落とす。と、いうことである。

(あと二時間後くらいにまた来よう。うん。それが名案だぜ。それが懸命なんだぜ……)

 魔理沙は踵を返した。
 採れたて新鮮ピチピチの秋食材だが、そんな旬の鮮度よりも自分の命の方が大事に決まっている。

「それは、その……」
「ん?」
「き、気持ちよかったから……」
(って、ぅ、うぉおおぉいぃ!?)

 これ全年齢指定なんだぜ!? んな「ピーッ」とか「バキュンッバキュンッ!」とかいう効果音が度々登場する事態とか困るんだぜぇ!? モザイク処理なにそれ美味しいの!?
 魔理沙は音無き声で叫ぶが、そんなもので想いが伝われば誰も苦労はしないわけで。

「そう。じゃあ……もっとしてもいいかしら?」
「バカ、聞かないでよ」
「ふふっ」
「んっ……ぁ、もうちょっと……」
「うん?」
「もうちょっと……奥まで……いいよ……」
「……えぇ」

(だぁーかぁーらぁあぁぁッッ! ナニがどこの奥までインしてオッケーって言ってんだぁああぁぁ!!)

 頭に血を上らせ、魔理沙は心の奥底から叫ぶ。超叫ぶ。頭に血が上りすぎているし動揺しているので、お前の発言自体が問題有りだとは気付いていない。そんな魔理沙は声を出すのを忘れていたので、やっぱり誰にもその叫びは伝わらなかった。

「ぅっっ、わわっ!?」

 その時、魔理沙の鼻から熱くて紅い液体が迸った。

「ぅおっ、ぉぉ!?」

 ぱぴゅーっというか、どぴゅーっと噴水のように、魔理沙の鼻から血が迸る。魔理沙はせめて旬の食べ物たちは死守しようと頭を明日へ向けたり明後日に向けたりして頑張るが、最終的には果物を頭の上に乗っけて自分は俯き加減で鼻血さんは地面へ好きなように自由落下させるという格好で落ち着いた。

「ん?」
「あら?」

 さすがに気配で気付いたのか(いや、おせぇーよとは突っ込まない方向で)。二つの視線がコッチに向く気配を感じた。魔理沙は「年貢の納め時か」という心境で、寧ろ治めたいのは鼻血だぜと付け加えつつ、そろそろと物陰から顔を出した。別に出さなくても良かったんじゃないかと思うが、そこはノリだ。

「……何やってんの?」

 そうして、両手に持った果物がもりもりと乗った籠を頭上に掲げて、地面に鼻血を垂らしまくっている魔理沙に、霊夢が呆れた声で一言。ものっそい冷たい視線がザクザクと刺さってくる。ナイフがグサグサという感じじゃない。なんというか、畑を耕す為に鍬で土をざっくんざっくんっと掘り返しているような感じの重たいザクザク感である。

「……ぞれわ、ごっぢのぜり゛う゛だ、じぇ……」

 魔理沙はなんとなく落胆を隠せず、鼻声で呟いた。
 それはどうしてかというと、霊夢と紫の格好が普段よりも露出度が上がっているわけでもなく、どこか乱れがあるわけでもなく、まったくもっていつも通りだったからだ。ただ可笑しな点があるとすれば、霊夢が紫に膝枕をさせれていて、その紫の手には耳掻きがある、ということくらいだったりする。ついでに紫がいつも被っている帽子は霊夢の手許にあった。何をしたいたのかなんてわざわざいう必要なんてない。

「耳掃除かYO!!」

 だが、魔理沙は「散々期待させといてなんだソレ!」との憤りを込めた叫んだ。
 霊夢は紫の膝の上に寝転がったまま「はぁ?」と首を傾げ、

「……とりあえず、鼻血を拭きましょうか?」

 紫はそう提案しながら、どことなく苦笑していた。


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