Coolier - 新生・東方創想話

フランドール・スカーレットの旅行記 後

2011/02/19 00:45:29
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『永遠亭』

 どうやら、迷ってしまったようだ。
 辺りを見回すが、当然、さっきと同じような竹林に囲まれている。
 私はため息を吐いて、置いておいた木の棒を立てて、それが倒れたほうに進み始めた。



 三途の川をあとにした私は、再び木の棒で行き先を決めた。
「ふむ、確かあっちは……」
 そちらを見据え、顎に手を当てる。
「迷いの竹林か」
 迷いの竹林。如何にも迷いそうな竹林だ。
 竹林の前まで来ると、しっかりと太陽の位置を確認した。念のため、木の棒を引き摺って歩くことにする。木の棒で描いた線を辿れば戻れるはずだ。
 ここまでは良かった。問題があるとすれば、その竹林に入ってしまったことだ。
 途中までは問題無かった。景色に変化があったし、太陽の位置もしっかりと確認していた。
 しばらく進むと、異変に気付いた。
 太陽が、無い。
 太陽の光は降り注いでいる。それなのに、太陽が無い。さっきから空は竹で閉ざされていたが、太陽の位置は分かった。吸血鬼だからだろうか?しかし、その感覚がいつの間にか消失していた。
 どういうことなのだろうと首を傾げ地面を見てみると、二つ目の異変に気付いた。
 木の棒で地面に描いた線が、あるところで途切れている。
「え」
 思わず、間の抜けた声が漏れた。
 そして、三つ目の異変に気付く。
 景色が少しも変わっていない。
 棒をその場に置いてしばらく歩いてみたが、やはり景色が変わっていない気がする。
 そして。
 大分進んだところに、それはあった。
 木の棒。
 さっきのだ。
「…………はぁ」
 どうやら、迷ってしまったようだ。



 それを見つけたのは、本当に偶然だった。
 すっと、視界の端に何かが映ったような気がした。
「!」
 そこに視点を合わせると、もはや複数で一個となっている竹の群れと群れの僅かな間に、ひらりと服の端が見えた、ような気がした。逃げた?
 全力で地面を踏み締め、蹴る。それが見えたところに、全速で突っ込む。
 竹が大破して、爆音が牢壁のような竹の檻に響き渡った。
「うをををををををををを!?」
 すると、それがそこから数メートルのところで叫びながらずっこけた。竹の破片を払いながら、それに近付く。
 兎。妖怪兎だ。
「ちょ、ちょっと待って!」
 歩み寄る私に両手を盾のように前に構え、膝立ちで冷や汗を掻きながら彼女は叫んだ。
「待って!ウェイト!」
 あまりに必死そうだったので、立ち止まった。
 彼女は全身に緊張を張り巡らし逃走の構えを取ることは諦め、馴れ馴れしい口調で話しかけてきた。
「え、私、貴方に何か恨み買いましたっけ?もしそうなら恨み事を私に打ち明けてくれませんか?」
 えへっ、と可愛く微笑む彼女。ろくな生き方してないらしい。
「……恨み事、打ち明けよう。その身に受けた恨みの理不尽さを噛み締めて、死ね」
 恨み事は無かったけれど、なんとなく悪乗りした。
 彼女は冷や汗をだらだら掻きながら叫んだ。
「ちょーちょちょちょちょちょ!話せば分かる!」
「生憎私は、言葉の矢を持たない」
「分かった、まずは落ち着こう!」
「落ち、着いた場所がこの竹林だ」
「そうじゃなくて!」
「お前にも落ち着いてもらおう」
「できることならする!あ、死ねとかは無しね」
「じゃあ」
 口調を元に戻し、頼み事を口にした。
「ここら辺にある大きな屋敷まで案内して頂戴」
「…………は?」



「吸血鬼?」
 迷いの竹林に、突然その屋敷は現れる。実際はそこにその者が現れるだけで屋敷が突然飛び出すわけではないのだが、確かにその噂通り、その屋敷はそれくらい唐突に姿を見せた。
 純和風な、紅魔館とは対極と言っていい造り。派手ではないが、荘厳、というイメージを与えられる。屋敷全体が、品の良い存在感を放っていた。
 屋敷には、妖怪兎が沢山いた。雑談していたり、駆け回っていたり、屋敷を掃除していたりしていたが、今は皆そわそわとこちらを、私を観察している。そちらに振り向くと、慌てて顔を背ける。視線を外すと、またこちらを窺い始める。ふむ、噂に聞いた永遠亭は兎小屋だったのか?
 その中でも明らかに秀でた力を持っていそうな偉そうな兎が、あの色々な意味で調子の良い兎に連れられてやって来た私を出迎えた。
「吸血鬼って、なんでそんなモノを連れてきたのよ。師匠に怒られるわよ?」
 面と向かって私を『そんなモノ』呼ばりした彼女は見た目堂々と私と対峙していたが、内心の怯えが見え見えだった。透けて見えるというか、むしろ愛着が湧くくらいに見え見えだ。
「まあまあ、いいじゃない。姫様が何か文句を言うと思う?」
「そ、そりゃ、姫様は何も……ていうかむしろ歓迎しそうだけど……。でも、師匠は――」
「まあまあ。もう連れてきちゃったんだし、とりあえずお師匠様に報告しないと」
「……怒られても知らないわよ?」
「まあ、たぶん大丈夫でしょう」
 私を案内してくれた兎は軽い調子でそう言うと、「じゃあ、こっちです」とすたすたと歩き始めた。偉そうな兎はため息を吐いた。
 案内兎のあとに続こうとしたが、ふと気紛れを起こし、偉そうな兎をじっと見詰め、戸惑う彼女に向かって右手をゆらりと前に差し出してみた。彼女はびくりと仰け反り、私は笑った。前を見ると、案内兎も笑っていた。
「な、なによぉー……」
 顔を赤らめむくれている彼女は、成る程、どこか兎のように見える。耳が無かったらまったく兎に見えないな、兎の本質は耳なのか?などと思っていたが、そうでもないのかもしれない。
 兎は孤独で死んでしまうらしい。精神と肉体の距離が近いのかもしれない。
 兎の眼は、宿した狂気で紅く染まっているらしい。狂気を孕んでいるからこそ、狂うことも許されず死んでしまうのかもしれない。
 それは辛いな、と思った。生まれながらの正気をずっとずっと保っている気分は、いったいどのようなものなのだろう。
 どうでもいい感慨に浸りながら、そういえば兎はとても性欲盛んらしいということも思い出す。もしかしたら、性交できない虚無感で死んでしまうのかもしれない。まあ、毒草を平気で食うような連中だからな。
 けれど、正気とは得てしてそんなものだ。理性の健全、知性の充実など、正気とはなんら関係無い。人間を見ていると、そう思う。
 妖怪は違う。妖怪のための辞書で『正気』と引けば、その意味には『正しい気違い』と記してある。正気を羨むようなやつは異常と呼ばれる。自我の自覚が無いような奴ばかりという点は、人間と同じだ。
「お邪魔するわ」
 屋敷の中は、とても広々としていた。明らかに、外から見た屋敷の面積より広い。どこぞの館のように。
「そのお師匠様というのが、この屋敷の主なの?」
 前を歩く案内兎に尋ねると、兎は笑って否定した。
「違いますよ。この屋敷の主は、我らが姫様です」
「姫様」
「そう」
「兎の?」
「いえ、月の」
 兎は意味の分からないことを言って、また笑った。
「まあ、月というと兎を連想しますしね。あながち間違いじゃないかも」
「月の姫、ね」
 もの静かでおしとやかな、着物が似合う黒髪の美人を想像した。
「月からやって来たの?」
「会えば分かりますよ」
「ふうん?」
 触角でも生えているのだろうか?
「まあ、でも姫様は今はたぶん外出中だから、残念ながら会えないかも――」
「うおおぉおおおい!」
 案内兎の声をかき消す怒鳴るような大声が、廊下に響き渡った。
 案内兎はその騒々しさに顔を顰め振り返り、私もおそらく同じような顔をして後ろを振り向く。
 さっきの偉そうな兎が、こちらに全速力で駆けて来ていた。私達の前で急ブレーキをかけ止まる。摩擦で床と彼女の足が焼け焦げなかったか気になった。
「何?」
 案内兎が尋ねると、偉そうな兎は荒い息で、それでも息急き切って案内兎に言った。
「て、てゐ」
「だから、何?」
「洋服を、洋服を用意して」
「――!」
 それだけで案内兎は何らかを合点したしたようだった。「分かった」と言うと、全速力で駆けて消えてしまった。
「……どうしたの?」
「え、あ、いえ。なんでもないです」
 なんでもないのにそんな行動を取るのであれば、医者に掛かったほうがいい。
「さ、じゃあ、奥でお茶でもお出ししますよ」
 先程とは打って変わって低姿勢な態度でそう言うと、偉そうな兎は私の手を取って歩き出そうとした。
 と、そのとき。
 ぐにゃりと。
 嫌な、感覚がした。
 心の絃を弄られるような、とでも言うのだろうか。乱すというより、調教されるような感覚。無遠慮に心の絃に触れられ弄られる感覚に、吐き気を覚える。
 無意識に、右手に持った日傘で彼女を殴り付けていた。
「ぶっ!?」
 彼女は無様な声を上げ、後ろ向きに倒れた。
 その途端に、嫌な感覚は消え去った。
「……あなた、いま何をしようとしたの?」
 倒れる彼女を見下ろしながら尋ねると、「そ、それは……」と鼻を押さえ焦りながらごにょごにょと声を濁した。
「それは?」
「そ、その」
「その?」
「……………………セ、セクハラ?」
「……………………」
「あ、いまの無し」
 おそらく絶対零度の冷たさを持った私の視線に、彼女は正気に返ったようだった。まったく意味が分からない。まず、なんで疑問形なんだ。
「それで?そうじゃなかったら、なんなの?」
「そ、それは……」
「それは?」
「そ、その」
「その?」
 セクハラ兎は苦々しい顔で、渋々といった様子で言った。
「…………あまりお見せしたくないものがありまして。それで、貴方の見ている世界をちょっと弄らせてもらおうかな、と」
「ふーん。……見せたくないもの?」
 なんだろう。兎の交尾か?
 ……彼女の冗談より酷いな。反省する。
「そ、そうなんですよ。だから、できれば早く奥に――」
「あらあら、お客様?」
 そのとき、その澄んだ声が廊下に響いた。
 大きな声ではなかった。しかし、その歌を想わせる美しい声は、まるでその空間が旋律を刻むように良く響いた。
 セクハラ兎が、額に手を当てうな垂れた。どうやら突然現れた彼女こそ、『見せたくなかったもの』らしい。
「吸血鬼!」
 彼女は私の姿を認めると、とても嬉しそうに笑って、手を横に広げ高らかに言った。
「蓬莱の屋敷に吸血鬼!うふふ、果たして蓬莱の死の血は、その者の血肉と成り得るのか?はたまた、永遠のようにその者を殺すのか?人形の血は純粋無垢、魂は血にこそ宿るのか?ふふ、共食いの鬼となった蓬莱の死体は、自らの血を吸い続ける?それとも、それでも誰かの血を頂戴するのか?永遠に宿った蓬莱の血はその者を慰めない。しかしだけれど、私の蓬莱の血はその者を慰めるのだろうか?――なんてこと!吸血鬼は蓬莱の存在を如何様にも運命付け、運命浸け、運命憑けられる!」
 歌を詠むようにそう口ずさんだ彼女は、何が愉快なのやら、上機嫌に微笑んだ。
「ようこそ永遠亭へ。歓迎するわ、綺麗なアストライア」



 絶対に人間ではない。
 一目見た瞬間、それだけは分かった。けれど、妖怪でもない気がする。
 奇妙、という表現はいまいちしっくりこない。一番近いのは、一度だけ会った――逢ったことのある、スキマ妖怪の雰囲気だった。あれは、妖艶。では、これは?
 これは、そう。
 異端。
 これだ。
 ああ、でも、そうだとするのなら。
 もしかしたら、彼女は人間なのかもしれない。
「…………姫様……」
 セクハラ兎が、呻くように言った。いや、呻き声のついでに言ったというほうがいいだろうか。
「……姫様?」
 私はその呻きに、疑問符を投げかける。
 姫?姫様?
 この、これが?
 セクハラ兎を見やると、逃げるように顔を背けた。
「……あなたが、永遠亭の姫様なの?」
 目の前の彼女に問いかけると、信じられないことに、彼女は頷き肯定した。
「その通り。私が永遠亭の姫様、名は蓬莱山 輝夜。輝夜ちゃんと呼んで頂戴」
「分かったわ、姫様」
 姫様、と呼んだけれど、それはただの文字の羅列であって、姫の意味を表すものではなかった。目の前の彼女は到底、姫と呼べるような姿ではなかったからだ。
 着物が似合う、黒髪の美人。
 これは、これだけは、合っていた。
 絹も絶倒するような滑らかな黒髪。水の滴るような、霊的な美しさをゆるりと放つ容姿。大きく主張する部分は無いが、十全にバランスの取れた美しい身体つき。
 それだけ見れば、なるほど、どこぞの名だけお嬢様とは違って、姫というのも頷ける。
 しかし。
 問題は、彼女の身に纏った衣服だった。
 否、衣服ですらない。
 彼女は、なんと驚き、灰をその身に纏っていた。
 ほぼ全裸。かろうじで灰の固まりが局部を覆っているが、これが服なら木の葉だって服だ。
「あ、シンデレラ」
 私は意味不明なことを口走った。
「ふふ、シンデレラ。ガラスの檻に気付かず消える。そして王子は灰を抱く」
 彼女はまた意味不明なことを歌のように口ずさんだ。
「……とりあえず、お風呂に入りましょう、姫様」
 セクハラ兎がどんよりした気を背負ってどんよりと言った。
「――あーあ。間に合わなかったか……」
 やっと服を持って戻ってきた案内兎は、苦笑いを浮かべて立ち尽くした。



「私は八意 永琳。ただの薬師よ」
「そう。私は、フランドール・スカーレット。ただの吸血鬼よ」
 私は死んだような抑揚の無い調子で答えた。
 彼女は、永遠亭の姫様は宇宙人だった。間違いない。案内兎の『会えば分かりますよ』という言葉の意味が、まさに会えば、嫌でも分かった。
 あれから、姫様はお風呂に入った。
 何故か、私も一緒に。
 どうやら彼女は、友人と遊んでいてあんなことになってしまったらしい。(彼女はその遊び相手のことを友人とは決して言わなかったが、話を聞いている限り――聞かされている限り、そのようなものなのだろう)案内兎がセクハラ兎のあれだけの言葉でぴんときたということは、今回のようなことは割と頻繁にあるのだろう。
「そうね、お風呂を頂こうかしら。じゃ、行きましょうか」
 そう言って、彼女は私の手を引いた。
「…………え?」
 その“当たり前”みたいな動作に、自然に私も歩き出していた。数瞬して、間の抜けた声を出す。
「いや、お風呂」
「え、いや、私はべつに……」
「いいじゃない、一緒に入りましょ?」
 微笑みを浮かべ誘ってきた彼女は無邪気というか、何を考えているのか分からなかった。
 まあ、いいか。
 そう思ってしまった。
 誤って。
 そんなの結果論での結論でしかないので仕方ないかもしれないけれど、でも、誤ってしまったのだった。彼女が私を誘った瞬間、兎達がほっと安堵したような表情を浮かべたのを見て気付くべきだった。
 盛大に後悔した。吸血鬼は流水が苦手だと言っているのに構わずシャワーを浴びせてくるし、背中を洗ってあげると言って何故か羽を齧ってくるし、やたらべたべた触ってくるし、洗い方が非常に乱雑だし、湯船に浸かってからも長々と話を聞かされ出ることも許されず茹ってしまったし、そんな私を人形のようにして遊ばれたし、極めつけには私の血を吸おうとしてきた。
 宇宙人だ。何を考えているのかまったく分からないどころか、こちらの意思がまったく伝わっている気がしない。使用している言語が違うかのようなちぐはぐ感どころじゃない。存在位置が違うような感覚を覚える。
 この人は、苦手だ。
「お疲れ様」
 薬師の彼女に労われ、お茶を差し出された。受け取り、一口飲む。
 嗚呼、お茶とはこんなに落ち付くものだったのだな……。
 姫様は、まだ着替え中だ。ここは薬師の彼女の部屋だ。普通の部屋だが、棚に試験管やら薬瓶などが置かれている。
「それで、……ええと、何と呼べばいいのかしら?」
「吸血鬼の妹」
「そう。じゃあ、妹様。貴方は何故、この屋敷に来たの?」
 彼女もお茶を飲みながら、べつに詰問するふうではなく、一応といった様子で尋ねてきた。が、その言葉の裏側に、微かだが、冷たい感情を感じた。
「べつに。噂に聞いたから来てみただけよ」
「そう。こんなところまで御苦労さま」
「あのお調子兎に会ってなければ、ギブアップして空からとぼとぼ帰ってたところだったけれど。運が良かったわ」
「ご明答。この屋敷は地からしか訪れることができない。出会い自体が幸運。ふふ、あの子は人間に幸運を与えると言われているのよ」
「幸運を、ねぇ。誰がそんな噂を流したのやら」
「さてね」
 彼女は笑い、そのついでのように言った。
「ようこそ永遠亭へ」
「…………」
 お茶を、じっと睨んでみる。一口含み確かめてみるが、それらしい味はまったくしない。
「用心深いわね」
「何か入れたの?」
「愛情と真心」
「…………」
 まあ、いいや。気にせず飲むことにする。
「……蓬莱の屋敷」
 しばらくお茶の心地良い渋みを味わい、やっと気力が戻ってきたので、気になっていたことを聞いてみる。
「ん?」
「蓬莱の屋敷。姫様はそう言ったの。……あの人は、人魚の肉でも食べたの?姫様は、人間?」
 彼女はゆったりとお茶を一口飲み、そして静かに笑んで、頷いた。
「そして、私もね」
「ふうん。姉妹だったの?」
「いえ、人魚の肉は作り出されたのよ」
「……誰に?」
 その問いには、彼女は答えなかった。静かに笑んで、お茶を啜るだけだ。
 ……どうやら、目の前にいる薬師は、結構に上等な薬師らしい。
「私はただの薬師よ」
 私の心を見透かして、彼女はまたその台詞を口にした。謙遜、という様子ではない気がした。
「ふうん。ただじゃない薬師でもいたの?」
「その人は薬師ではないけれど、ええ、そうね」
「ふーん」
 コイン三枚よりも高価なのだろうか?
 三途の川近くで食べた川魚の塩焼きの味をぼんやりと思い出していたところで、姫様はやっとやって来た。現実逃避のため彼女の存在を一時的に忘れていた私は、突然現れた彼女にお茶を噴き出しそうになった。
「ふー」
 と仄かに頬を緋色に染め息を吐いた彼女は、部屋に入ると後ろを確認せずに乱暴にドアを閉めようとした。
「がッ!?」
 ガアンッ、と良い音が響き、呻くような叫び声が聞こえ、ドアがぐわんと震えた。どうやら、後ろに誰かいたらしい。
「あ、ごめんイナバ」
「……いえ」
 姫様の文字列を読みあげるような謝罪に、ドアを思い切りぶつけられた誰かは、諦念と憂愁の籠った声色で答えた。なんだか聞いていて虚しくなってくる響きだった。
 姫様の後ろに続いて部屋に入ってきたのは、セクハラ兎だった。とぼとぼと足を引き摺るようにして歩く様は、大いに哀愁を誘った。その後ろには、同情と達観の中間みたいな表情を浮かべた案内兎。
 ……どうでもいいけれど、どうしてこの部屋の入り口は、襖ではなくドアなのだ。それと、畳部屋に重厚感のある銀色の机はどう考えても合わない。薬師の彼女はそういうことはあまり気にしない人らしい。
「遅かったですね、姫様」
 これは薬師の彼女ではなく、私の言葉。遺憾ながら、姫様に対しては敬語で話すのが定着してしまった。あまりにも計り知れない相手だったので、つい敬語になってしまったのだった。私が敬語を使う相手はいまのところ姫様だけだ。誠に遺憾だ。
「あ、待たせちゃったね。ごめんごめん」
 ずっと待っててもよかったです。
「あの後、もう一度お風呂に入ってね」
「もう一度?」
「うん。せっかくだしイナバもお風呂に入れちゃおうと思って」
「……だから、私は毎日お風呂に入っているのです。姫様」
 よく見れば、セクハラ兎の肌と髪は湿っていた。耳もなんだかよれよれだ。……これが日常だなんて、彼女も大変なんだな。
「それで?」
 姫様は私の前に座り、薬師の彼女のお茶を取って口にした。自由すぎる。
「今日は何しに来たの?ニンニクの食べ過ぎで気持ち悪くなったとか?それくらいなら、うちの医者に掛かれば三秒で全快よ」
「医者?」
「医者」
 薬師の彼女を指差す姫様。ふむ、薬師兼医者か。いや薬師は医者なのか?
「そうじゃないわ。噂に聞いたから、なんとなく来てみただけよ」
「ふーん」
 どうでもよさげな姫様。警備警戒なども薬師の彼女に一任しているらしい。
「じゃあ、何かして遊ぶ?」
 姫様の何気ない言葉に、兎達はびくりと震えた。私だって流石に学習する。姫様が何かを思い立つ、それ即ち何かろくでもないことが起こるということ。
「永琳、何か遊び道具ない?」
「うーん、倉庫のほうに何かあったかしら」
 薬師の彼女は立ち上がり、おそらく倉庫を漁りに行ってしまった。行かなくていいのに。
 ほどなくして、彼女はそれを持って戻ってきた。
「こんなものがありましたけど」
「紙と、駒。……双六?」
「のようですね」
 ということで、姫様と兎達と私と薬師の彼女とで双六をすることになった。
「あ、私も?」
 と薬師の彼女。
「うん。人数多いほうが楽しいだろうし」
「そうですか」
「……でも、普通にやっても面白く無いわね」
 きた、と言わんばかりに身構える兎達。私も無意識に身構えていたかもしれない。嫌な予感を、この世の何よりも確かに感じる。姫様の存在よりもよほど確かだ。
「お金を賭けましょう」
「お金?」
「姫様、私お金持ってません」
 とセクハラ兎。
「大丈夫。お金といっても、ゲーム内通貨よ。ゲーム初めの手持ちは、一人一万円。そして、そのお金によって、止まったマスの指示を無効にすることができる。これは、他人が止まったマスの指示にも有効ね。指示を取り消すには、自分に対しては一回二千円が必要。他人に対しては一回五千円が必要。指示を取り消す優先順位は、自分に対してのほうを優先する。この双六はなかなかハードな作りになっているようだし、丁度良いでしょう」
 なるほど。
 しかし、他人の指示を取り消すのには五千円が必要。これが嫌な感じだ。手持ち金の半分を使って他人を妨害する場面なんて、まず訪れないだろう。つまり……。
「そして、お金は他のプレイヤーに譲渡できる」
 ということだ。
「……譲渡の条件は?」
「それは、譲渡する人が決めること」
 えぐ過ぎる。
「ちなみに、最下位の人は罰ゲームよ」
「内容は?」
「それは、一位の人が決める」
 姫様は軽く言ったが、それはつまり『最下位は一位の言うことを何でも聞く』ということだ。姫様の制約無しの絶対のお願い。龍の口に首を突っ込むほうがまだましに思われる。
 姫様は私の、いや私達の不安を察してくれたのか、「じゃあ、私が勝ったときのお願いをあらかじめ教えておきましょうか」と言った。
 まず、姫様は私に顔を向けた。
「あなたが最下位だった場合……あ、そういえば、まだあなたの名を聞いてなかったわね」
 非常に今更だった。
「……フランドール。フランドール・スカーレット」
「そう。じゃあフランドール」
「はい」
「あなたが最下位だった場合、その羽に吊り下がっている宝石のようなものを一つもらうわ」
「……何故」
 問うと、姫様は肩を竦めた。
「最近、エイジャの赤石っていう石を無くしちゃってね。イナバ達が遊んでたら、どこかにいっちゃったみたいで。その代わりに」
「……あ、そうですか」
 もはや、そう言うほかない。
 ていうか、エイジャの赤石って、もしかして……。
「……それは、紅く透き通った石のことですか?」
「あ、そうそう」
「へえ……」
 やはり、あの日、あの川に沈んでいたあの石のことか。
 あの石は美鈴がちゃっかりしっかり私を助けるついでに拾っていて、いまは私の部屋に飾ってある。気付いたら、飾ってあった。誰の仕業かは言うまでも無い。
 ある程度の力と苦々しい思い出を宿した綺麗な石としか思っていなかったが、そうか、あれはあなたのものなのか。妙なところで縁があるものだな。
「ん?もしかして、あの石、いまはあなたが持ってるの?」
「ええ、まあ。川で拾いました。返しましょうか?」
「いや、いいわ。あなたにあげる」
 どうやら、その石にはもう興味が無いらしい。……じゃあなんで私の羽の石を欲するのだ。
「うふふ、それにしても、あの石をあなたが、ね」
 なにやら可笑しそうに笑う姫様。
「どういう意味です?」
「ふふ、あれはね、八雲 紫から聞いた話を元に、永琳に作ってもらったものなのよ」
「そうなんですか」
 八雲 紫。
 スキマ妖怪。
 この人と連想して思い浮かべた人物。知り合いなのか。
「あれは、あなたにこそ相応しいものかも」
「私に?あれにはどんな力が秘められているのです?」
「八雲 紫の話によれば、要約すると、ナチスの科学は世界一らしいわ」
 意味が分からない。
「ま、邪魔になったら売っちゃって頂戴。コイン十枚分くらいにはなると思うから」
 コイン十枚、ね。山の上の神社のお弁当が三つ買える。
 まあ、でも取っておこうかな。なんとなく。
「で、次、鈴仙」
「は、はい」
 セクハラ兎の名前は鈴仙というらしい。いきなり名を呼ばれて驚いたのか、びくっと耳が震えた。兎の感情は耳に現れるのだろうか?
「私、一度は月の兎の肉が食べてみたかったのよね」
「ええええええ」
 この人が言うと、本気にしか思えない。
 月の兎の肉、か。何かの比喩では無いのだろうな。なんだ、宇宙人の皆が皆姫様のようであるというわけではないのか。いや、兎だから宇宙“人”ではないのか。
「次、てゐ」
「はい」
「あなたの健康心得を教えて頂戴」
「はーい」
「ちょ、なんかてゐだけ軽くないですか!?」
「鈴仙、ただの兎が健康志願によって妖怪に成ったほどの健康心得だよ?妥当じゃん」
「くっ、でも、うぅ……」
 拳を握り締めるセクハラ兎。まあでも、姫様が勝った場合の話だ。
 ……なんだかんだで勝ってしまいそうな予感はあるのだけれど。
「次、永琳」
「はい」
「あなたは……最下位になった後に決めるわ」
「……はい」
 静かに頷く薬師の彼女。彼女は姫様に、大層信頼し、期待されているらしい。
「それからイナバの二人は、もし一位になったら、ゲーム終了時の全員の残り残金の合計をそのまま現実のお金にしてあげるわ」
「お、いいですねぇ。よし、やりましょう」
 と案内兎。
「フランドールが勝ったら、私の大切な宝物を見せてあげるわ」
「大切な宝物?」
「ええ。大切な、宝物」
 なんだろう?姫様が大切にしているものなんて、想像がつかない。薬師の彼女か?
「じゃあ、始めましょうか。ふふ、盤双六はやったことあるけれど、こういうのは初めてね」
 私も、初めてだ。
 あいうえお順でいきましょうということになり、一番はセクハラ兎、二番は薬師の彼女、三番は姫様、四番は案内兎、五番が私という順になった。何故セクハラ兎が最初かというと、彼女の愛称は『うどんげ』というらしい。私は何も言わなかった。
 一マス目は、『三回休み』の指示。これは避けたい。
 ニマス目以降六マスには大きなマイナスになるような指示は無い。とりあえず“二”以上を出すことから始めなければ。
「じゃあ、投げますよ」
「どうぞ」
「えい」
 セクハラ兎がサイコロを投げた。
 コロコロコロ……。
 一。
「え、う、うそぉ……。い、いきなり一って。つ、ついてない………………ってうおおおぉおおぉおおい!?」
 突然、大声を上げるセクハラ兎。
「なに?どうしたの?」
「サイコロの目が全部“一”なんですけど!?」
 これは酷い。
「え、嘘?あ、ほんとだー。へえ、こんなサイコロもあるんだ」
 白々しく惚ける姫様。
「あなた以外にこんなことする人いませんよ!や、やり直しです、やり直し!」
「鈴仙、諦めなよ。気付かないほうが悪い」
「そうよ。はい、二体一でその意見は却下」
「少数意見も無視しないで!」
「で、どうするの?」
「…………う、うぅ……。……分かりました、二千円払いますよぅ……」
「あ、そう」
「じゃあ、私の番ですね」
 それからは何事も無く、一巡終了。
 セクハラ兎以外は全員“六”だった。
「待って!」
 待ったをかけるセクハラ兎。
「何?」
「サイコロ貸してください!」
「はい」
「…………。どんな振り方しても“六”しか出ないんですけど!?」
「え、嘘。あ、ほんとだー。不思議」
「イカサマサイコロですよ!」
「へえ。じゃあ、取り変えましょうか」
「あ、でも私が振ってから……」
「イカサマサイコロなんでしょう、これは?こんな早い段階で気付くなんて、お手柄よ鈴仙。このままではゲームが成り立たなかった」
「う、うぅ……」
 酷過ぎる。
 新しいサイコロを入念にセクハラ兎が調べた後、ゲーム再開。それから何事も無く二順進んだ。
 そして四順目。
「あ……」
 セクハラ兎はその指示マスに止まった。
『コインを投げ、表なら一番前のプレイヤーと位置を入れ替える。裏ならスタートへ戻り二回休み』
「これは、コインを投げた後でも取り消せますよね」
「もちろん」
「……よし」
 姫様から渡されたコインを、入念に調べる。噛んだりもした。
「よし、問題無い」
「酷いわね、そこまで疑うなんて」
「…………」
 セクハラ兎はそれを無視して、コイントスした。
 キンッ、とまるで彼女の緊張を擬音にしたような音が鳴った。
 そして、結果は。
 裏。
 普通に裏だった。
「…………く、くうぅう……」
 なんだろう、彼女を見ていると、天狗達に抱いたのとは別種の悲しさを覚える。
 セクハラ兎は二千円を出し指示を無効化、薬師の彼女と案内兎は指示無し、姫様は一つ進むで私が二つ戻るのマスに止まり、五順目へ。
 セクハラ兎の出した目は、零だった。
「零!?」
 零だった。
「零!?ちょ、えぇええ!?」
 見ると、サイコロの目だったはずの黒い点がぽろぽろと落ちてしまっていた。
「へー。こういうこともあるのねー」
「酷い!酷過ぎる!これは、これはノーカンでしょう!?」
「落ち着きなって鈴仙。姫様相手に気を抜くほうが悪い」
「な、なんで私ばっかり妨害するのですか!?」
「私はいま、すごく月の兎の肉を食べてみたいの」
「――――う、うわああああああああああああああああ!!」
 彼女には色々頑張ってほしかった。
「まあ、まだマイナスになるかは分からないわよ?ほら、コイントス」
「う、ううぅううぅうう」
 震える手で、コインを宙に飛ばす。
 キンッ。
 …………。
 裏。
「うわああああああああああああああああ!!」
 セクハラ兎、残り残金四千円。



 普通に、楽しそうだった。
 というより、ここにいる誰よりも楽しそうだ。
 いや。
 私は、今までこんな楽しそうに笑う人を見たことがなかった。
 例えば絵に描いた少女は、きっとこんな笑い方をする。何かが欠落しているとか、そういう種類の笑い方ではない。楽しいを、可笑しいを、愉快を具現したかのような笑い声だ。あるいはそれを無垢というのだろうか?
 蓬莱の血。
 永遠の彼女。
 無垢な笑い声。
 くるくると私の頭の中を絡まり合った思いが回っている。
「ア、アハ!やった!『サイコロを振り、“一”が出れば、自分以外のプレイヤーはスタートに戻る。それ以外なら一回休み』!」
「鈴仙、多分で悪いけど、それ止まるべきでないマスだよ」
「やってみなくちゃ分からないでしょ!」
「もう見てられない」
「うるさい!」
「それと、独り盛り上がってるとこ悪いけど、五千円出すよ」
「え、え?ちょ、ちょっと、なんでよ!夢くらい見させてよ!」
「『サイコロを振り、“一”が出れば、自分以外のプレイヤーは』『それ以外なら一回休み』という指示を取り消す」
「え、ええええええええええええ」
「『指示を無効にできる』ってルールはそういう使い方もできるものだと思ってたけど」
「私も」
「私も」
「私も」
「ええええええええええええ」
「はい、スタートに戻った戻った」
「な、なんで、そんな、う、くぅ……。…………そ、その無効を二千円で取り消すことは……」
「できないでしょ」
「な、な、なんでてゐまで私を……?半額払ってまで……なんで?そんなこと……?…………?」
「でも。鈴仙、でもね」
「で、でも、なに?」
「四千円を私に譲渡するなら、いま言った指示の無効をやめてあげる」
「…………こ、な、……ッ、こ、この、この、やろぉ……ッ!」
「どうする?断わっても、全員の残り残金から言ってほぼ確実な最下位が出るって意味で、私はどっちでも構わないんだけど」
「…………………………………………払う」
「はい、まいど」
「う、ううぅううぅうう……」
「……馬鹿ね」
「え?」
「指示の一部を無効にするという発想は、私を含め皆持ってたのよ。それも、当たり前のように。そういうことができるって、最初にちゃんと説明されてたのよ」
「……え?い、いつ?」
「『指示を取り消す優先順位は、自分に対してのほうを優先する』っていうルールがあったでしょう」
「あ」
「あれは、そういう意味だったのよ。ただ指示を取り消すだけであれば、そんなルール必要無いでしょう」
「あ、ああ、なるほど……意味が分からなかったけど、あれはそういうことだったのか……忘れてた……」
「それと、『指示の無効化の無効化』はできないけど、『指示の無効化によって新しく定められた指示の無効化』はできたのよ」
「え、あ、あの、じゃあ、いまから無効にすれば……」
「もう遅いけどね。あなたの残金は、零だから」
「うわあああああああああああああああああああ」
 床に伏せ頭を抱え絶叫するセクハラ兎。もう見てられない。



 一名事実上の脱落者が出てからは、変則双六本来の持ち味を生かした接戦で四人白熱した。
 他人の指示を無効にする五千円をちらつかせブラフにし、他人の持ち金を削り合う。譲渡により誓約を交わし他のプレイヤーを牽制、束縛する。……セクハラ兎を利用する。
 奇想天外な誓約で有利を崩さない姫様。
 堅実な立ち回りで開始から安定している薬師の彼女。
 一位を狙うより金を集めることに腐心し機会を窺う案内兎。
 なんとか前二人に喰らいつく私。
 死に体のセクハラ兎。
 セクハラ兎を一番上手く使いこなしているのは姫様だった。仕掛け役だっただけはある。序盤、姫様がセクハラ兎にやたらちょっかいを出していたのは、セクハラ兎を混乱させて『指示を取り消す優先順位は、自分に対してのほうを優先する』というルールを忘れさせようとしていたからだったわけだ。止めと残り残金は案内兎に掠め取られたけれど、しかし、死に体になったセクハラ兎は確実に姫様に有利に働いている。
 ……セクハラ兎は序盤、何気にとても運がよかったのだが。
 そして。
 とても盛り上がった――一名を除いて――双六の結末は、しかし、拍子抜けする最後を迎えた。
 終盤だった。
『コインを投げて表なら、ゴールに一番近いプレイヤーと同じマスに移動する。裏なら、最下位のプレイヤーと同じマスに移動する』
 という指示マスに私が止まったのだ。『コインを投げて表なら』『一番近いプレイヤーと同じマスに移動する。裏なら、最下位のプレイヤーと同じマスに』という指示を無効にしたのだ。
 前二人の理知と戦略センスは残念ながら、私には到底及ばないものだった。もはや私が勝利するには、前二人に対し、『この回は指示の無効を行使しない』という誓約を結ばせそのマスに止まるしかなかったのだが、いや、運が良かったとしか言いようが無い。外していたらセクハラ兎のように利用される立場になるところだった。
「えぇえー。そりゃないよフランドールー」
「すみませんね姫様、私の勝ちです」
 ぶーたれる姫様に、若干の清々しさを感じながら私は言った。
 ちなみに、二位以下の順位は。
 二位、薬師の彼女。
 三位、姫様。
 ゴールぎりぎりで薬師の彼女が逆転した。姫様は大層、溶けるんじゃないかと思うくらいうな垂れた。
 四位、セクハラ兎。
 最下位、案内兎。
 セクハラ兎は、なんとか最下位は免れた。
 状況は絶望的、どう足掻いても最下位確定だったのだが。
「鈴仙」
「…………なに?」
「いま私が止まったマスは、『コインを投げて裏なら、スタートからやり直し』なんだけど」
「あ、そう。それが?」
「負けてあげようか?」
「…………え?」
「負けてあげようか?」
「…………?」
「そのかわり」
「…………」
「全員の残り残金の合計分のお金を、現実で私に借金してることにして頂戴」
「…………………………………………」
 ということで、なんとか鍋になるのは免れたのだった。
 鍋になるのは免れたけれど、目が完全に死んでいた。死んだ魚の目の裏側みたいな瞳だった。真っ白な灰という印象を与えられる彼女からは、もはや哀愁さえ感じられない。魂が尽きている。
「さて、罰ゲームか……」
「お手柔らかに」
 案内兎はにっこりと微笑んだ。ふむ、どうしようかな。私が得をするような内容は特に思い付かない。
 ……ふむ。
「ゲーム中にもう一匹の兎に課した譲渡の誓約を無効にして頂戴」
 私が罰ゲームの内容を口にすると、まるで時空が固定されたかのような静けさが、感覚的には永い間、訪れた。
 案内兎はしばらくは変わらずにこにこと微笑んでいたが、やがて顔を盛大に歪めた。セクハラ兎は茫然と放心している。
「え、ええぇええぇええー!?な、う、そ、そんなー……。そりゃないですよぉ……」
 うな垂れる案内兎。そして。
「フランドール様ーーーーーーーー!!」
 セクハラ兎がもの凄い勢いで飛び付いてきた。堪らず押し倒される。
「ちょ、ちょっと。ちょ、うざ……」
「フランドール様ーーーーーーーー!!」
「煩い」
「フランドールやさしー」
 床にべたっと張り付いたまま、抑揚の無い声でどうでもよさげに言う姫様。どうでもいいんだろうな。
「優しいとかじゃなくて……」
 なんか、あまりにもあんまりな彼女を見ていたら虚しくなってきたのだ。
「そう思う感性が『優しい』ってことでしょ」
 そうだろうか?
『優しさ』ではなく『優しい』。まあ、そうかもしれない。
「って、泣いてるし……」
 セクハラ兎は私の胸に顔を埋め、微かに震えながら嗚咽を漏らしていた。服が濡れるからやめて頂きたいのだけれど。あと凄く悲しくなってくるからやめて。
「あーあ、ちくしょー三位かー。くそー」
 仰向けに寝転んで髪をばりばりと掻き毟る姫様。やはり相当な負けず嫌いらしい。
「あ、そういえば……」
 ふと、思い出す。
「私が勝ったら、姫様の大切な宝物を見せてもらえるとかなんとか」
 なんだろう。少し気になる。
「ああ、そうね。んー、今すぐは見せられないの。またいつかね」
「いつか、ね」
「そのときは、私があなたのお屋敷にお邪魔しようかしら」
「…………」
 やめてほしかった。
 言えないけど。
「って、ほら、いい加減泣きやんで」
 服がぐちょぐちょだ。
「ほら」
「うい……」
 やっと顔を上げたセクハラ兎の目は真っ赤だった。
 兎だものね。
「……顔を洗ってきなさい」
「はい……」
「私もそろそろお暇しましょう。夕食の支度を指示しないと。……はぁ」
 案内兎も沈んだままに立ち上がり、二人は並んで出て行った。
「フランドールは夕食食べてくの?」
「いえ、私もそろそろお暇しようかと」
「ふーん。あ、そうそう、迷いの竹林を迷わず抜ける方法は知ってる?」
「いえ、知りません」
「まあ飛んでってもいいんだけど、地を行くなら、常に風上の方向へ進みなさい」
「風上……風の方向ですか」
 なるほど。それは考慮していなかった。
「その通り。ちなみに、この永遠亭は迷いの竹林の中心に存在しているの。だから、ここは無風。永遠亭に来たいときは、竹林の入り口から風下に進んで、風を感じなくなったところの近くを探せばいいの」
「なるほど」
 知ってしまえば単純な話だ。今度来るときは迷わず来れそうだ。また来ることがあるかは分からないが。
 ていうかそれは。
「それは、私に教えてもいいのですか?」
「え、あ、いいよね永琳―」
「……できれば、むやみやたらに言いふらさないでくれると助かります」
「だってー」
「……了解」
 諦観したように、しかし諦観しきれず僅かに顰まった口調で言う薬師の彼女に返事する。
 危機感無く自由奔放で口が軽く悪びれる素振りを微塵も見せない。そんな彼女の様はしかし、なぜかお姫様らしいと感じた。今日この短い時間で、私の中で『お姫様』のイメージがとんでもないことになっている。
「あー、お腹減った。永琳、何か甘いものある?」
「お饅頭がありましたね。持ってきます」
「お茶もよろしく」
「はい」
 薬師の彼女も出て行き、部屋には私と姫様だけが残された。姫様は冷めたお茶を飲みながら、双六のボードをまるで棋譜を吟味するように眺めている。
「あー、序盤、もうちょっとイナバを上手く使うべきだったか。終盤は地力で負けたって感じがするな。嫌な感じ」
「……楽しそうですね」
 本当に、楽しそうだ。
 生きるのが、とても楽しそうだ。
「えー。そう見える?」
 姫様は童話の少女のように笑んだ。
「はい。とても」
「今は割かし悔しがってるんだけど」
「苦しくないんですか?」
「んー、確かに、なんであのときフランドールを泳がしておいたのか考えると、苦しい」
「そうでなくて」
 私は姫様の目をじっと見て、しかし真面目な答えはあまり期待せずに、しかし程々に真剣に、問うた。
「苦しくないんですか?それとも、苦しさを感じないのですか?飽きませんか?気が滅入りませんか?茫然としませんか?絶望しませんか?ここがどこだか分かりますか?あそこがどこだか分かりますか?自分が誰だか分かりますか?誰かが誰だと分かりますか?何かが何だと分かりますか?今がいつだか分かりますか?明日がいつだか分かりますか?永遠がいつだか分かりますか?――……狂ってしまいたいと、思いませんか?」
 永遠って。
 どうしようもなく、どうしようもなくないですか?
 そう思いませんか?
 その問いに対し姫様の返答は、適当に適当なことを嘯くか、少しは真面目に答えてくれるかのどちらかだと思ったが、しかしそのどちらでもなかった。
「アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
 姫様の返答は、笑いだった。
 爆笑だった。
 大爆笑だった。
「ハ、ハハハハハハハハハハハハ!」
 ぽかんと口を開け呆けている私に構わず、姫様は笑い続けた。
「ハハ、な、なに?永遠が、なんだって?うふ、ふふふ。苦痛!?絶望!?冗談でしょう!」
 姫様は立ち上がり、両手をめいっぱい広げ叫ぶように言った。
「こんな素晴らしい世界なのに!こんなに素晴らしく素晴らしく素晴らしい世界なのに!目を開けば、素敵なものがそこら中に溢れている!足を踏み出せば、愉快が地の底から湧き上がってくる!両手を広げ踊り歌えば、世界は如何様にも美しく染まる!失楽?うふふ、なれば失楽こそ私の世界!狂ってしまいたい?馬鹿な!こんな素晴らしい世界を手放すなんて、それこそ狂気の沙汰!ああ、あと永遠程度しか時間が無い!とてもじゃないけど時間が足りないわ!」
「――――……」
 私は、絶句して姫様を見上げる。
 彼女のような存在がこの世界にあることが信じられなかった。こんな存在、童話にだって存在し得ないではないか。
 例えば、彼女と連想して思い浮かべた人物、八雲 紫ならば、もしかすると、いま姫様が言ったことと同じようなことを口にするかもしれない。しかし、その台詞を八雲 紫が口にするのと姫様が口にするのとでは、意味が違う。
 絶対的な意味の違い。
 それは、世界の認識の問題。
 八雲 紫がその台詞を口にしたのなら、彼女が言う素晴らしい『世界』とは、おそらく『幻想郷』ありきの世界だ。『幻想郷』を含めた『世界』のはずだ。
 しかし姫様は、きっとある日幻想郷が消えて無くなっても、今まで通り楽しく暮らすのだろう。そんな、確かな予感がある。
「姫様」
「なに?」
「正気とはなんでしょう?」
「自分の世界を肯定する意思」
「……狂気とはなんでしょう?」
「なんらかの思い、そのカテゴリに世界を収める意思」
「…………なるほど」
 頷く。
 賛同はできないけれど。
 私は天井を見上げ、思いを巡らせた。
 彼女の視界にはいったい、どんな景色が広がっているのだろう?
「失礼します」
 薬師の彼女が戻ってきた。ここは彼女の部屋のはずだけれど、彼女はノックして入ってくる。手にはお茶と菓子が乗った盆。
「お帰りー」
 姫様はさっきまでとは打って変わった間伸びした声を出して彼女を迎えた。
「お饅頭はイナバ達が食べてしまったようです」
「あら残念」
「代わりに羊羹を」
「あら素敵。……あれ?お皿が二つしかないじゃない」
「私はいいです。二人で召し上がってください」
「えー。しょうがないなー、私の半分あげるー」
「いえ、いいですよ」
「いいから」
「そうですか?では頂こうかしら」
「はい、あーん」
「え、いや、一切れずつお願むぐっ」
 羊羹三切れ一度に薬師の彼女の口に押し込め、姫様は笑った。
 とても楽しそうに。
 …………そういえば。
 ふと、思い出す。
「……ああ、そうか。もしかしたら……」
「ん?なんか言った」
 羊羹三切れ一度に頬張りながら私に振り向く姫様。
「あ、これフランドールの分のお茶と羊羹」
「あ、ありがとうございます」
「一切れもらってもいい?」
「……お好きなだけどうぞ」
「いいの?やったー」
 遠慮なんか微塵もせずに、六切れ全部一度に口に放る姫様。空になった皿を薬師の彼女に渡し、熱いお茶を啜る。なんかもう慣れてしまった。嫌な慣れだ。
「それで、何?」
「ああ、ええと、噂に聞いたのですが、姫様は竹取物語に出てくる姫様だとか」
 噂というか、美鈴と竹林の屋敷の話をしていたときに出た話題なのだが。時を操る人間メイドにたまたま聞いた竹林の屋敷の姫の名を口にすると、彼女は「え、輝夜姫じゃないですか」と驚いた。輝夜姫とは何かと聞くと、竹取物語という話を聞かせてくれた。倒れた枝の先にあったとはいえ、こんな辺鄙なところに来ようと思ったのは、それで興味を持ったというのが理由だったりする。
「ええ、その通りよ」
 彼女はなんでもなさそうに肯定した。どうでもいいが、どうやって羊羹を口いっぱい含んだまま喋っているのだろうか。
「そうですか」
「それが?」
「あの物語で、あなたは結婚の条件に五つの難題をあなたに惚れ込んだ男達に言い渡した」
「そんなこともあった気がするわね。それが?」
「姫様」
「なに?」
「あなたは、月から地上に落とされたのですか?」
「その通り。それが?」
「薬師の彼女と知り合ったのは、地上に落とされる前ですか?後ですか?」
「……もちろん、前よ。それが?」
「姫様は、それら難題の答えを持っていたのですか?」
「いいえ、持っていなかったわ。……それが?」
「では、今はそのどれかでも持っていま――」
「フランドール」
「はい?」
「それ以上言うと、私の口の中の羊羹をあなたの口に流し込むわよ」
「黙ります」
 私は目を瞑り黙り、真顔の姫様を見ないようにして込み上げる笑いを堪えた。
 薬師の彼女は堪えることなくクスクスと笑った。
 姫様は忌々しげに、これはただの私の勘違いかもしれないがどこか照れくさげに、舌打ちした。
 この人は何が無くなっても楽しく暮らすのかもしれないけれど。
 でも、今まで通りとはいかないのかもしれない。
 それでもこの人は、その失楽を肯定しそうだけれど。
「姫様」
「なに?」
「薬師の彼女に出会う前の姫様って、どんなだったのですか?」
「猫耳にしっぽが生えてた」
「あ、そうですか」
 それから姫様はいつもの調子を取り戻し、私は帰るまで弄られ続けた。
 踊り歌うのは勝手だけれど、そのステップに付き合わされ引き摺られ振り回されるのは堪ったものではない。相手の重力は六分の一、もしかしたら無重力なのだ。勘弁してくれ。



 結局、すぐにお暇とはいかなかった。やっと帰してもらったときには、心身共によれよれのぼろぼろの満身創痍だった。
 竹林を抜けて、ため息と共に見上げた茜色の夕焼け空が、やけに綺麗に感じた。いつもと同じ茜色のはずなのに、妙に色鮮やかで心を落ち着かせる。まったく、世界は素晴らしいな。



『博麗神社』

「ダイヤの10、縛りよ」
「よし。……ハートの5とスペードの3。ああ、スペードの3はさっきあったな。で、私はダイヤのJでイレブンジャックだ。この場合でも縛りは継続だろう?」
「そうだけど、魔理沙、それダウト」
「はあ!?なんでこのタイミングでダウトだよ!?」
「なんか嘘吐いてるっぽいと私の感が。で、どうなの?」
「…………クラブの4だ」
「はい、回収した回収した」
「くそー……」
「魔理沙さん、さっきから低数字ばっかですねー」
「鬼のような巫女に主力二枚を取られちまったからな。……まあいい。まだ逆転の目は十分にある」
「前向きねー。さて私の番。……これと、これ。よし、ダイヤとスペードのA」
「はあ!?Aはまだ一枚も開いてないだろ!」
「巫女の感よ」
「は、反則くせえ……」
「はい、ダイヤとスペードのAよ」
「おいこいつ速攻で上がるぞ。咲夜か門番のどっちか、2を二枚か2一枚とジョーカー持ってんじゃないか?止めてくれよ」
「私は残念ながら2を二枚も2一枚とジョーカーも持ってませんが、しかし、霊夢さん、それダウトです」
「え?」
「…………ちっ」
「……油断も隙もねえな。流石、一ミリも表情を変えず私の主力をぶん取っただけはある」
「ふん。クラブの3とスペードの5よ」
「……なにやってるのよ」
 博麗神社に立ち寄ったのは、なんとなくだった。
 博麗神社。
 特異な人間と様々な妖怪が集まる、幻想郷の果ての果て。行けば、いつだってなにかしらそこにいる。巫女とか。
 おそらく皆、ここに立ち寄る理由は“なんとなく”だと思う。なんとなく立ち寄ってみたくなるところなのだ。でもなんとなくはなんとなくであって、べつにここが神社だから立ち寄るというわけではないので、そんな連中ばかりが集まるここがはたして神社として機能しているかは謎に疑問だ。というか私のような連中ばかりが集まるので、里の人間を遠のかせてしまっているだろう。
 ここを神社として参拝しようとする者のために環境を改善しようとするどころか、のほほんとお茶を啜ってトランプゲームに興じているような職務怠慢巫女しかいない神社が、神社として機能しているとは思えなかった。
「あ、フランドール様。お帰りなさい」
「……ただいま」
 笑顔を向ける美鈴に適当に返事をして、彼女の隣に腰を下ろした。
「お、フランドールじゃないか。あ、フランドールも混ざるか?じゃあ、このゲームはノーカンだな」
「次のゲームから参加でいいでしょうが」
「いや、まず、あなた達は何をしてるの?」
 美鈴、人間メイド、魔理沙、巫女が、神経衰弱のように伏せて並べられたトランプを囲んでいる。並べられたトランプの枚数は一組程度ありそうだったが、それとは別に各自手札を持っていた。二組のトランプを使ったゲームらしい。
 自分の番が来ると、初めに並べられたトランプを神経衰弱そのままに二枚めくる。数字が揃っていたら手札に加え、違ったら再び裏向きにする。そして並べられたトランプの中心には空間ができていて、そこに手札を一枚または複数枚、裏面のままで、カードの種類を宣言して出す。そしてそのとき『ダウト』を宣言されると、宣言された人がそのとき場に出ていたカードを全て手札に加える。
 これは……。
「大富豪+ダウト+神経衰弱です」
「色々考えるわね」
「面白いですよー。ダウトを当てられる、または外すと、流れたカードも全部手札に加えなきゃいけないうえに、次は一回休みですから。後半になるほど緊迫します」
「あ、そう。ちなみにこれは誰が考えたの?」
「トランプやろうってことになったんだけどな、やりたい種目が、咲夜はなんでもいい、門番がダウト、霊夢が神経衰弱、私が大富豪と別れちゃったからな。一つにまとめたわけだ」
「あ、そう」
「ちなみに最下位は罰ゲームだ」
「……鍋?」
「は?」
「いや、なんでも」
 いけない、疲労でぼーっとしている。しっかりしろ、ここには姫様も兎もいない。自分に言い聞かせる。
 ……でも、巫女の鍋というのはなかなかに美味しそうだな。
「なんかいま、悪寒がしたんだけど」
 気味悪いほどに感良くぶるっと震える巫女。
「そんな恰好してるから寒いんでしょう。なにか上に着たら?」
「これは制服なのよ。制服で、聖服」
「あ、そう」
 聖服を着て神の目の前で職務を怠慢するのはいかがなものかと思うけれど。
「じゃあ、次のゲームから参加しようかしら」
「いやこのゲームからでいいだろ」
「そうですね。まだこの回は始まったばかりですし」
「えー……」
「えー……」
「なんだよ、霊夢はさておき咲夜、やっぱお前2を複数枚と、もしかしたらジョーカーも握ってたのか?」
「いえ、私は2は一枚よ。その他はわりかし充実してたけど」
「あ、ほんとだ。じゃあ霊夢と門番であと二枚か?」
「いや、私は2は持ってないわよ」
「は?…………。……おいおい門番こいつ、2を三枚とジョーカー握ってやがった」
「珍しく良い手札だったんですけどねー」
 ということで、私を含めた五人でゲームすることになった。
「負けたやつは次の宴会でなんかしろよー」
 変則ルールだが、しかしそこにあるのは“適度な緊張”だった。やはりゲームはこのくらいの緊張感が良い。
「お、結構良い手札だな」
「私も」
「私も」
「私も」
「私も」
「まったく、ここには嘘吐きしかいないのか?」
「魔理沙、さっさと二枚寄こしなさい」
「は?人増えたんだから、そういうのはリセットだろ」
「人は増えてないでしょうが。まったく」
「じゃあ霊夢さんからで」
「はいはい」

「おいこいつ止めろよ。ここで止めないと一気に突っ切られるぞ」
「魔理沙さん、良い手札じゃなかったんですか?」
「良い手札だったよ。8が二枚あった。縁起が良い」
「どうするの?流すわよ」
「仕方ないわね。私が出すわ。はい、クラブとハートとスペードのA」
「なんだよ咲夜、さっきから手札良いな」
「私は嘘吐きじゃないのよ」
「私も嘘吐きじゃないですよ。はい、ハートとスペードとダイヤの2」
「こいつは……」

「ハートのAと、……クラブの2」
「2は最初のほうに出ましたね。魔理沙さんここで当てないと、たぶん霊夢さんは当ててきますよ」
「なんの心配だよ。“は”ってなんだよ、霊夢さん“は”って。私より霊夢の方が優れていることなんて百八つもねーよ。……やっべ」
「何か言いました?」
「なんでも」
「クラブの7。縛り」
「どうぞ魔理沙さん」
「まかせろ。…………。これと、これだ!」
「……クラブの2と、スペードの4」
「おい誰か最初のほうに出た2の位置動かしただろ。霊夢か?」

「はい上がり」
「あーあ。また霊夢さん一抜けか」
「巫女の感が卑怯すぎるんだよ。封印しろ」
「魔理沙、次はちゃんと二枚寄こしなさいよ」
「なんで私だよ」
「巫女の感」
「ちっ。まったく、大符号様は嫌みだらけだ。見てろよ、生まれながらの普通符号である私が華麗に三位程度の順位を獲得してやる」
「では大変遺憾ながら、鵜飼の号は私が頂きましょう。スペードの8で流します」
「8は縁起が良いよな」
「続いてダイヤ、ハートの8です」
「……8は縁起が良いよな」
「クラブの5で上がりです」
「ちっ」
「では大変遺憾ながら、船の号は私が頂きましょう」
「あ?」
「クラブの2」
「……手札最後の2持ちはお前か」
「流して、スペード、ハート、ダイヤ、クラブの6で上がり」
「普通符号が革命起こしてんじゃねえ!」
「では大変遺憾ながら、鵜の号は私が頂くわ」
「おいおい……」
「4枚は流石に無いでしょう。流して、私からね」
「畜生、革命起こしといてゆうゆうと去りやがってこの犬野郎」
「犬よ」
「ハートとダイヤの4」
「咲夜てめぇ!ダ、ダウト!ダウトだ!」
「残念」
「があああああああああああ!」
「ハートのQで、上がり」
「次!もう一回やるぞ!」
「魚、早く二枚寄こしなさい」
「まだ配られてねーだろ!」
 こんな感じで、日が暮れるまでゲームを続けた。
「そろそろお開きにしましょうか」
 暖炉と鏡の間で世界が明るい藍色に染まったとき、何回目かの決着が訪れ、ゲームはお終いとなった。
「そうね。そろそろ帰って頂戴」
「ラスト一回!一回だけ!」
「やめときなさい。どうせやっても、またあんたの最下位で終了よ」
「分かんねえだろうが!……くっそー、八割私の負けとは、屈辱だぜ……」
「あんなに負けちゃ、宴会芸もマンネリになっちゃうでしょう。何回か負け帳消しにしてあげるから、その代わりお酒を沢山持ってきなさい」
「くそぉ……。次は覚えてろよ」
 苦い顔で『次も負けます』と宣言するような捨て台詞を吐いて去る魔理沙をなんとなく見送ってから、私達も博麗神社をあとにした。なんとなく、三人並んで、歩きながら帰る。
「お腹減りましたねー」
 加速的に明度が落ちていく空を見上げ、腹を擦りながら美鈴がぼやいた。
「夕食の準備、まだ何もしてないわ。昼食も作らなかったし。お嬢様に怒られる」
 人間メイドが嘆くようにため息を吐く。
「大丈夫ですよ。どうせフランドール様のことが心配で、お腹の調子のことなんて忘れているでしょう」
「そうかしらねぇ」
 そうとは思えないけれど。
 しかし美鈴は悪戯っぽく皮肉めいた笑みを浮かべ、「そうですよ」と断言するように言った。「そうかしらねぇ」ともう一度言って、顔を背ける。くつくつと可笑しそうに笑う美鈴の腹を、顔を背けたままに軽く殴った。
「フランドール様、今日はどこにお出かけしていたのですか?」
 ことのついでのように何気なく口にした美鈴の言葉に、人間メイドも興味を示しこちらに顔を向けた。……何故だか、二人に今日一日の自分の行動を話して聞かせるのは気恥ずかしかった。
「……色々よ。いろんなところを巡ってたわ」
 曖昧に答え、二人の視線から顔を背ける。
 美鈴はその答えに、愉快気で、何故か嬉しげな声を上げた。
「そうですか。じゃあ、プチ旅行ですね」
「旅行。そうね。旅行安全のお守りも買ったし」
「お守り?ああ、山の上の神社にも行ったのですか」
「ええ。知ってる?あそこのコイン三枚で買える絵馬に『お弁当が欲しい』って書くと、豪華で美味しいお弁当が貰えるのよ」
「へぇ、そんな裏技みたいなのがあるのですか」
「あそこの御利益は本物よ」
「素敵な御利益ですねぇ。今度時間があったら行ってみようかな」
「普通そういうときの“時間”というのは、勤務時間は指さないと思うけれど」
 人間メイドが釘を刺すような突っ込みを入れ、美鈴はからからと笑った。釘が刺さったとは思えないその愉快気な笑い声に、私も人間メイドも軽くため息を吐いた。まあ釘が刺さったところで、どうせこの門番は平気で釘が刺さったまま出掛けるのだろうけれど。
「べつに勤務時間である必要はないでしょう。今度一緒に出かけるときに立ち寄ってみればいい」
「そうですね。是非、そうしましょう」
 彼女のなんでもないただの肯定に、私は頷き、笑った。
「どうしました?」
「いえ、なんでも」
 少し、愉快な気分になっただけだ。
 館の門番と、館の主の妹というこの関係に。



「美鈴」
 ぽつりと、気紛れのような声を漏らす。
「はい、なんでしょう」
「月が綺麗ね」
 天蓋に浮かび輝くそれを見ようともせずに、呟くように言う。
 美鈴は明るい月夜を見上げ、夢を反射する鏡を見て微笑みを浮かべた。
「ええ、本当に」
 月夜を見上げたままに、彼女は答えた。
「私も、そう思います」
「…………そ」
 私は頷き、微笑んだ。



『紅魔館』

「遅い!」
 紅魔館の主、レミリア・スカーレットは御立腹だった。
「何時だと思ってるのよ!」
「紅魔館の門限は午前零時じゃ――」
「お前は口を開くな!」
 結構なマジ切れらしい。額に青筋を浮かべ、感情を隠そうともしない怒声で、テーブルの前に横一列で立たされている三人を叱りつけて――いや怒りつけている。
「死力で探せと言ったよな?」
「いや見つけたのは比較的早い時間帯だったんですよ。しかし見つけ次第連れ戻せとのことでしたが、フランドール様とマジバトルするわけにもいきませんし、そのまま私達同伴でフランドール様の行きたいところを巡ってまして。まあ次善の最善ということで――」
「じゃあどっちか一人が報告に来いよなんで自己完結してんだよ最善かどうかは私が決めるんだよ百歩歩いたら自分がなんで動いてたのかも忘れるのか比較的早い時間に見つかったならいくらでも連携取れるだろうが馬鹿かお前ら脳髄パアかおい聞いてんのかああああああああ!!」
「聞いてます」
「じゃあいま言ったこと繰り返してみろ!」
「要約すると『ほう・れん・そう』です」
「分かってんならそうしろよ糞がああああああああ!!」
「まあまあレミィ」
 いまにも美鈴を引き裂きそうなレミリアを、紅魔館の居候魔女、パチュリー・ノーレッジがなだめた。
「無事妹様も返ってきたことだし、何事も無かったようだし、まあなんの報告もしなかったこの子達も悪いけど、もう少し落ち着きましょう」
 パチュリーの言葉に、レミリアは荒い呼吸を繰り返しながらも、若干落ち着きを取り戻した。
「…………まあ、そうね。この役立たず共はともかく、何事も無かったみたいだし……」
「それより私、お腹が減っちゃったわ。少し遅いけど、夕食にしましょう」
「そうね……。咲夜、夕食の準備を」
「はい」
 答えた瞬間、咲夜は空間から消失した。
 露骨な逃げだった。
「すぐ夕飯の支度はできるだろうし、あなた達も座って待ってなさい」
「はい」
「そうね」
 パチュリーの言葉に従い、席に腰を下ろす二人。もう彼女の立ち回りが完全にお母さんかお婆ちゃんのそれだった。実は、紅魔館は居候な魔女の彼女ありきで廻っていたりする。
「……フランドール」
 レミリアは怒りの表情を鎮め、しかしむすっとむくれた仏頂面で、フランドールに声をかけた。
「なに?」
「次からは一人で出掛けるときは、出掛ける前に一言そうと言って頂戴」
「言えば許可してくれたの?」
「…………」
 フランドールが特に感情を込めず問うと、レミリアは数瞬だまり、感情どころか温度も感じさせない平坦な声で答えた。
「……まだもうちょっとは、誰かと一緒に出掛けて頂戴」
「あ、そう」
 フランドールは無表情に肩を竦めた。
 レミリアはフランドールから顔を背け、ワイングラスの中の赤い液体に目を落とした。
 二人の間に沈黙が訪れる。
 赤い液体に瞳の紅を映したままレミリアは口を開いたが、レミリアが何か言うよりも先に、フランドールが声を発した。

「じゃあ、今度一緒に出掛ける?」

 その何気なく自然に口にされた言葉の響きに、紅魔館食堂はまるで行間の空白のように静まり返った。
「――――――……え」
 間の抜けた、疑問符そのものみたいな声を出すレミリア。
 フランドールはなんでもなさそうに、しかしレミリアから顔を背けて、繰り返した。
「だから、今度一緒に出掛けるかって」
「…………え、…………あ、あ、うん。……うん。……いいんじゃない?うん」
 非常に分かりやすく取り乱すレミリア。
 ワイングラスに視線を落としているから本人は気付いていないだろうが、美鈴が額の前で手を組んで小刻みに震えていた。パチュリーは手の甲の皮を思い切りつねって笑いを堪えている。
「うん。……え、いつ?」
「べつに。いつでもいいでしょう。予定が合うときで」
「あ、うん、そうね。うん」
 レミリアは頷き、ワイングラスを手持ち無沙汰にくるくると揺らした。
「お待たせしました」
 そこで、計ったような絶妙なタイミングで咲夜が料理を持って現れた。
「あ、早いわね」
「メイド長ですから」
「そう、御苦労。ん、じゃあ頂きましょうか」
「そうね」
「まあ、フランドール、もうしばらくは、出掛けるときは誰かと一緒に出掛けて頂戴。どうしても一人で出掛けるというのなら、せめてどこに行くかを誰かに伝えて。裏口から出掛けるようなことはもうしないで」
「……裏口?」
 フランドールは、当然ながら首を傾げた。
 咲夜は料理を並べる手を一瞬止め、軽くため息を吐いた。
 美鈴は手で顔を覆い、天井を仰いだ。
 レミリアは真顔になった。
「……フランドール。あなたは出掛けるとき、どうやって外に出たの?」
「え、いや、普通に玄関扉を開けて」
「その後は?」
「だから普通に、庭を通って、門をくぐって――」
「おい門番」
「はいなんでしょうお嬢様」
「お前、誰かが門を通ったなら分かるとかほざいてたよな」
「はい、確かに言いました」
「…………」
「嘘は言ってないです」
「門の前に立ってろ一週間飯抜きださっさと行けッ!」
「ええ!?そ、そんな……」
「さっさと行けこの×××××!」
「ぅおわ!?ちょっと槍は危ないですって!うお危なっ!投げるのやめてってば!」
「ちょっとレミィ、夕食に埃が付いちゃうじゃないやめなさいって」
「お嬢様夕食踏んでます。それお嬢様のですよ?」
「……うるさい」
 ここは紅魔館。
 人が悪魔と畏れ魑魅魍魎共が王と敬う吸血の鬼が住まう紅い館。








 その後の小話

 一

 翌日、紅魔館に一枚の号外新聞が届いた。
 記事のタイトルは、『悪魔の少女の紅蓮の閃光』。
 そのタイトルセンスはさておき、大きく張り出された一枚のカラー写真はとても良かった。
 私が零距離で放った閃光が、二次元の立体として鮮明に映し出されていた。
「なんだ、弾幕的じゃないか」
 自分で呟いてみた。
 ちなみに、紙面の半分は吸血鬼な魔法少女が活躍する漫画で埋まっていた。
「おい」



 二

 コイン三枚で、奇跡のようなお弁当を。
 山の上の神社で絵馬に『お弁当が食べたい』と書くと、とても豪華なお弁当を貰える。
 誰がそんな噂を流したのやら、妖怪の山の上の神社のお弁当はちょっとしたブームになっていた。山の上のお弁当を貰いに行くがために妖怪の山に潜入する阿呆もいるらしい。何故か白と黒を思い浮かべた。
 山の上の巫女は、そのせいでてんてこ舞いらしい。絵馬は実質タダになるようなものだし、明らかに利益と労力のバランスがおかしいと嘆いているようだが、まあ、俗と神事は別の位置に存在しているらしいから、べつにいいだろう。



 三

「ひとつ積んでは父のため。ふたつ積んでは母のため……」
 三途の川。
 あの子は、まだいた。
 しばらくじっとその子を見ていたが、ポケットを探り、それをその子に投げた。それらは一回大きく跳ねて、その二つともが、その子の前に転がった。
「コイン二枚。あげるわ」
 紅魔館の居候魔女、パチュリー・ノーレッジが言うには、彼岸に渡るにはお金が必要らしい。お金と言っても、故人の財産ではなく、故人の事を心から慕っていた人の財産の合計らしい。
「油とぶとう酒と包帯、そして二枚のデナリオン銀貨が彼の命であり、祈りだった……」
 呟き、その子に背を向け、そこをあとにする。



 四

「あら、遅かったじゃない」
 あれから二日後だった。
 私は入り口で、呆けて立ち尽くしている。
 今日はそういう気分だったので皆と一緒に食事をとり、そして地下の自室に戻ってきたところだった。
 そこに、彼女は、姫様は、当たり前みたいに私のベッドに腰掛けていた。
「…………何用?」
 なんとか言葉を発する。まだ脳髄の大部分が茫然と機能停止している。
「え、いや」
 姫様はやはり、当たり前のように言った。
「私の大切な宝物を見せてあげるって言ったじゃない」
「……言いましたけど、いつか、って言ったじゃないですか」
「え、あ、五日に来たほうが良かった?」
「…………」
 もういいや。
「……それで、その大切な宝物というのはどこにあるのです?」
「あ、それは朝方にならないと見せれないのよねぇ」
「……いまはまだ、やっと日が暮れた時間ですよ?」
「そうね。だから」
 懐から、それを取り出し、振った。
「それまで、トランプしてましょ」
「…………」
「私が勝ったら、血を吸わせて頂戴」
 厄介な縁を作ってしまったか……。
 まあ、後悔しても、もう遅いけれど。
 まあ、いいや。
「……何で勝負するのです?」
「ババ抜き」
「いいですよ。私が勝ったら、もう勝手に部屋に入ってこないでください」
「ええー」
 ぶーたれながらも、カードを配る姫様。まったく、二人でババ抜きなんかして何が楽しい――
「おいッ!」
「え、なに?」
「手札全部がジョーカーなんですけど!?」
「え、嘘?なんだー、フランドールのストレート負けじゃん。よわーい」
「ババ抜きのストレート負けなんて聞いたことねえよ!」
 厄介な縁を作ってしまったか……。



「いつつ……」
 肩を擦りながら、小さな山を登り続ける。
 まだ藍色が世界を支配する、空気の澄んだ夜明け前だった。私は姫様に連れられ、名前も知らない小さな山を登っていた。
 あれから、本当に血を吸われた。巫山戯るな。彼女の歯は普通の歯だから、地味に普通にとても痛かった。吸血鬼の血を吸う人間って、なんだそれは。
「着いたー」
 頂上に到着し、姫様は思い切り伸びをした。私は特に感慨も無く辺りを見回す。ふむ、眺めは良いな。
「それで、大切な宝物とは何なのです?」
「慌てない慌てない」
 この人がその台詞を言うと、なんだか妙に説得力がある。この人が慌てている様子が想像できなかった。
 姫様はもう一つ伸びをして、地面に直接腰を下ろした。
「……濡れちゃいますよ?」
「気にしない気にしない」
 その言葉も、彼女が言うと説得力があった。気にしないことばっかりなんだろうな、この人は。
 私も、彼女の隣に腰を下ろした。
 しばらく、二人黙ってそうしていた。静寂の音が聞こえるほど静かだった。心地良い。
 そして、それから数十分後、それは現れた。
「――――……」
 光だ。
 光が、突然世界に差し込んだ。
 空を染める。
 雲を染める。
 空気を染める。
 私を染める。
 大地はまだ夜なのに、空とこの山と私と彼女だけがその光に染まり、新しい風を感じているようだった。

 世界だ。

 そう思った。それが何を指すのかは分からないけれど。

 これは、世界だ。

 そう思ったのだった。
「私は夜明けが好きなの。日の光が好きなのではなく、夜明けという時間が好き。その世界の時を止めて、永遠にこの情景を眺めることができたらいいのに」
 姫様が、ぽつりと呟いた。私も、内心で頷いた。
「前言撤回」
 私は、あの死神に向かって、呟く。
「死は、素晴らしい」
 神の御利益よりも。
 豪華なお弁当よりも。
「彼女を焼くのはその光か、その温かみか」
 歌うようにそう言って、姫様は私の手に自分の手を重ねてきた。
 体温なのか、それとも別の何かなのかは分からないけれど、温かいな、と思った。
「――安らぎを与えるのは血の温かみ。蓬莱の血にこそ魂は宿る」
 私も歌うように、口ずさんでみた。
 彼女は笑い、そして柔らかく微笑んだ。その微笑みは、まるで血の結晶のようなものだった。
「ありがとう、アストライア」
 地にも光が差して、そして世界は幻想に消えた。もう少し見惚れていたかったけれど、なに、明日もここに来ればいいのだ。明後日も、明々後日も来たければここに来ればいい。そうだ、次はあの門番でも誘おうかな。……まあ、気が向けば、あの姉も誘ってやらないこともない。
「……帰ろう」
 ぽつりと呟き、立ち上がる。姫様も「そうね」と言って立ち上がった。
「うえ、お尻が湿ってて気持ち悪い」
「だから言ったじゃないですか」
「でも、私の大切な宝物は素晴らしかったでしょう?」
「……まあ、ね。良かったです」
「でしょ?」
 姫様は笑み、そして天に手を伸ばすような伸びのついでのように、言う。
「またいつか来ましょう」
「…………まあ、いつか、ね」
 厄介な縁だけれど。
 面倒な縁だけれど。
 不愉快ではないし。
 たぶん。
「さて、私の分の朝食は用意してあるのかしら?」
「…………え、あ、来るの?」
「うん。メイドの料理って興味あるし」
「あ、さいですか……」
「そうだ。ゲームで負けたほうが館まで勝者をおぶっていくってのはどう?」
「歩くのが面倒になっただけですよね?飛んでいけばいいでしょう」
「飛ぶのも面倒くさいのよ。じゃあ、コインを投げての表裏で勝負しましょうか。あ、私は表ね。験担ぎなの」
「……ちなみに、どっちが表でどっちが裏ですか?」
「平面が表で側面が裏」
「突っ込みませんよ」
「何よ、寂しいわねえ。それじゃいくわよ」
「やりませんよ!」
「何よ、つれないわねえ。じゃあ、草を握ってどっちが長いかってやつやらない?」
「……や」
「決まり」
「おい」
「いいじゃない」
「………………まあ、いいか」
「じゃあ私が握る役ね。…………。はい、どっち?」
「…………。……こっち」
「ざんねーん。実はどちらも繋がっていて一本の草なのでしたー。正解は左手に握っていた草でした」
「巫山戯んなッ!」
 ……今度、兎達に何か贈り物でもしようかな。
 他人の苦労に心を痛めたのは、これが初めてだ。
 姫様を背負い、ため息を吐いて館へとぼとぼと歩いていく。不愉快な縁ではないけれど、もうこれ以上宇宙人と出会うのは勘弁してほしい。
 頼むよ神様、祈るから。
ということで、フランドール・スカーレットの旅行記でした。
この作品はいくつかの過去作品と繋がってたりします。そちらを読んでなくともこの作品は問題無く読めると思いますが、よかったらそちらも読んでみてください。
自サイト:http://sikiminoheya.yukimizake.net/
さて、たぶん次回作は姫様と永琳の過去話になると思います。この作品の『永遠亭』の最後のくだりでフランと姫様がうだうだやってたところのお話です。たぶんあそこは意味が分からなかったと思いますが、次作で明らかになる。と思います。
あのオリキャラをまた出せる。やったー。
完成がいつになるかは不明。
ではまたお会いすることがあれば、ぜひぜひその作品も見てくださいな。
読んでくださりありがとうございました。
識見
sikiminoheya@yahoo.co.jp
http://sikiminoheya.yukimizake.net/
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コメント



0.2610簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
ババ抜きのストレート負けには不覚にも吹いた。
演劇じみた立ち振る舞いのお姫様が新鮮で面白かったです。

無粋ですが誤字指摘をー。
>カゴテリ
→カテゴリでしょうか?
>普通符号
→普通「富豪」でしょうか?少し自信がありませんが…。いくつか見られました。
ちょっとレミィ口悪すぎに感じたかもです。
悪魔だったらもっとアリなのかもしれませんが。
3.60名前が無い程度の能力削除
吸血鬼が朝日を直接浴びるのはいかがなものかと・・・。
4.100奇声を発する程度の能力削除
はっちゃけた姫様が凄かったw
7.100名前が無い程度の能力削除
みんな楽しそうでなによりです
13.100名前が無い程度の能力削除
前編、地の文のフランちゃんの思考がとても好きです。彼女は私たち常人と異なる理の上で『常識に』則って思考し、
行動していると感じました。
後編はもはや姫様無双でした。姫様の了見が宇宙サイズに大きすぎて100点じゃ足りない気分ですw
14.無評価識見削除
>>2
誤字指摘感謝です。ずっとカゴテリだと思っていた……。
普通符号は“博麗の巫女”という大符号に対し“普通の魔法使い”である自分を普通符号と表現した魔理沙一流のシャレです。
吉良吉影みたいに普通の人という意味です。
22.100名前が無い程度の能力削除
こんな姫様、もうだめだ。
フランの独白にとても引き込まれました。フランが意外とアクティブなことに驚き。
識見さんの美鈴は、相変わらずだなぁ……

「巫女の感」ではなく、「巫女の勘」では?意図的だったらすいません。
26.90名前が無い程度の能力削除
朝日を浴びても何も反応ないのには驚きました。流水は効くのに。
フランドールの思考、輝夜との会話がとても面白かったです。
27.無評価識見削除
>>23
誤字指摘感謝です。
うーむ、誤字だけど響きとしてはなんかいい感じだし、このままにすることにします。
時たま、偶々の間違いを気に入ることがあります。
33.100TOT削除
掛け値なしに大好きな話でした!

この姫様とフランの関係、後紅魔館の雰囲気がドツボです

「それお嬢様のぶんですよ」

に笑ってしまったwww

というか文どうしたwwwもうマンガ雑誌にしちゃいなよwww

後トランプ混ぜすぎだろ!!
ややこしいし普通おわらねぇよ!!

早苗さんは労ってやりたいwww
でも信仰(笑)はきっと増えてるよ!!


まぁ朝日の吸血鬼云々は適当に脳内補正で楽しめましたし、OKです!!面白かったからオールグリーンです!

うどんげが可哀想すぎるけど可愛すぎる(笑)フランに恋しそうな勢いに笑いました。
てか泣くなよ笑

とにかくこの物語のフランが大好き!!

続編とかでなくても全然構わないので、この幻想郷をもっと見たいと思いました!
38.100名前が無い程度の能力削除
あなたの東方世界が好きです。

朝日云々はレミリアも三月精で初日の出を見てますから問題ないかと。
40.100名前が無い程度の能力削除
フランについて何か書こうと思ってたのに忘れてしまった
輝夜のインパクトが強すぎる
具体的には一部場面で姫がロリカードで再生される程

姫の正気で宇宙人的異端が、ここまでよく表れている作品は初めてかも
42.100名前が無い程度の能力削除
姫様フリーダムすぎるw
43.40名前が無い程度の能力削除
凄く読みづらかったです。
難解な台詞が多かったのと地の文での描写が分かりづらかったのと台詞ばっかりだったのとで、何をやってるのか分かりにくかったです。分からない訳ではないですけど。
内容自体もあまり面白くなかったです。
52.100名前が無い程度の能力削除
掛け値なしに面白かった
フランと周りの人達とのテンポのいい掛け合いのお陰で、長い文章なのにスラスラと読んでしまいました