Coolier - 新生・東方創想話

古明地こいしちゃんの無意識がーでにんぐ!

2011/01/19 17:02:39
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 はねまわる、かけまわる。
 ここは私の、私による、私のための、素敵なお庭。
 邪魔するものの存在しない、自由を謳歌するように私は、飛びまわる。
 走り、飛び込み、抱きつき、転がり、服が汚れるのも気にせずはしゃいだ。

 また立ち上がり、はねまわる、かけまわる。
 でも、私の庭には何かが足りない。なんだろう。一旦止まって考える。
 ちょっと視線を下げたなら、二つの目に映るのは、ひたすら続く、地面、地面。
 そうだ、と気がつく。このお庭には、緑が足りない。殺風景な庭なんか、遊んでいても楽しくない。

 それならば、こいしちゃんお得意のガーデニングで、この庭を賑やかにしてあげたらいい。
 そうすれば。走るも、飛ぶも、転がるも、もっと楽しくなるはずだから。
 ワクワクするような考えだ。躍動感があふれ出して、じっとしてはいられない。
 だから、はねまわる、かけまわる。今度は、少しでやめておく。残した分は、立派なお庭のために、大切にしまっておこう。

 ぐるっと見回して、考えた。どこになにが、なにがどこにあって、どうなったのなら良い庭か。
 私はただ、考える。花の名前など、知らなくてもいい。ビフォーな庭を前にして、アフターな庭をイメージする。
 後は無意識にバトンタッチ。全部の手はずを整えるのは、私の便利な潜在意識。

 赤、白、紫。ほら、もう完成。素敵なお庭の出来上がり。
 むき出しの土を緑が覆い、色とりどりの花が咲く。私の庭に、彩りが増えた。
 カラフルな彼らの間を縫って、またはねまわる、かけまわる。流れる景色が鮮やかで、吸いこむ空気は匂いやか、気分もますます高揚していく。
 かける勢いそのままに、地面に体を投げ出せば、葉っぱに優しく受け止められる。
 見上げる空の、深い青。流れる雲は、後ろ髪をひかれつゆっくりと。

 でも。まだまだ不満が渦巻いていた。心の底から楽しめない。
 起き上がって周りを確認。いろんな顔の花々が、私に向かって笑ってる。
 足りないんだと、そう思った。色も香りも、もの足りない。増やせばもっと、楽しくなれる。
 だから、私は考える。ここにまだ無い色彩を。世界中の色を、香りを、ここに集めて、素敵なお庭を作るんだ。

 青、橙、黄。新たな色が加わって、空気の匂いに深みが増す。
 これ以上ない、にぎやかな庭。充分だ、と確信した。これで、満足できるはず。
 そして私は、はねまわる、かけまわる。二倍華やかな色彩と、二倍芳しい香りとで、きっと四倍楽しめる。


 そう、信じていた。


 だけど結局変わらない。まだ、足りない。何か大切な一ピース、私の庭から欠けている。
 それがなんなのかわからずに、やっきになって探してみた。赤と白と紫と、青と橙と黄色の間を、二つの目が、何度もなめた。
 一つだけ、気がついた。私の庭には動きがない。こわいくらいにスタティック。だから、むなしく感じるのでは。
 そう考えて、最後に思い当たった。もう一つ、増やせる花があるだろう。ちょこんと可愛らしく生えて、よく動き、ふよふよで、もふもふな――

 ――タンポポ。大きな花々に囲まれて、一輪、小さく花開く。
 踏んでしまいそうな小さな体躯で、風にゆられて自己主張。目を奪われる、健気な光景。
 一際大きく風が吹き、まんまる綿毛が飛ばされて、大空めがけて飛び上がる。
 ふわふわ、ふわふわと飛ぶ。私みたいにふわふわ。何にも縛られずふわふわ。

 私はただ、見上げていた。はねまわりも、かけまわりもせず。タンポポをつぶさないよう、注意深く横たわった場所から、遠い空を眺めていた。
 綿毛は、自由に浮かんでいく。青い青い空に、吸い込まれるように、白い綿毛はどこまでも、高く。
 急に、寂しさを感じた。こんなにも賑やかな場所から、あんなにも小さな綿毛は、ふよふよと、どこまでもさまよい出てしまう。
 帰っておいでと、呼び返したかった。声は出ないで、代わりに涙が出そうになった。周りの鮮やかな花たちは、びっくりともせずたたずんでいた。

 結局綿毛はどうなったか、覚えていない。
 爽やかな風が吹き抜ける中、葉っぱのベッドに体を預け、いつの間にか意識を手放していた。
 最後まで、満足のいく庭が出来ることはなかった。






 ベッドの上で、目が覚めた。もちろん葉っぱではない。
 周りを見渡しても、いつもと何ら変わりはない。花瓶の花すらなく、青空も見えない、そこは自分の部屋そのものだった。

「夢、か……」

 言葉にして確認する必要のあるほど、鮮烈な夢。その中で見た色や、感じた香りは、鮮やかに記憶に焼きついていて。
 何よりも、目の奥にまだ、涙が残っている気がして、気分が悪かった。

 ダウナーな心持を断ち切るよう、軽く頭を振る。思考がすっきりすると同時に、昨夜の記憶がようやくよみがえってきた。
 昨日地霊殿へと帰りついたのは、夜も遅く、夜行性のペット以外の生き物が皆、寝静まった後だった。
 当てのない放浪の旅に疲れ、しばしの休息を求めての帰宅。長居するつもりはなかった。早朝、屋敷が起き出す前に、気づかれないまま立ち去るつもりでいた。
 しかし、既にすこしだけ、決心がゆらいでいた。夢に出てきた庭のせいだった。あの、私だけの、自由な、庭。

 地霊殿にも庭はある。建物に囲まれる形で、中庭として存在するその空間は、ずいぶんと長い間ほったらかしにされたまま。
 あの庭を改造しようか、と思った。楽しい時間が夢だというのなら、たとえそうだとしても、夢のままでは終わらせない。
 だから、もう一度、今度は本当に、素敵なお庭を作ってやろう。確かな現実の中で、あの楽しさをもう一度体感するんだ。そして……。


 そして。今度こそ、満足できるお庭が作れたら。


 作れたら、いいな、と思った。確かに、作れる気もしてきた。もはや、安穏としていられなかった。
 急ぎ着替えを終えて、廊下に出る。ネコの足音も響きそうな静寂が支配する中、朝方の空気はひんやりと冷え切っていた。
 足元の冷たさに身がすくみ、思わず忍び足になる。そろそろ、ぺたぺた。
 道中誰に会うこともなく、中庭へ続く出口にたどり着いた。扉を大きく開け放ち、まだ冷たい風にしり込みしつつ、最初の一歩を踏み出し……





 そして、驚いた。
 目の前には、赤と白と紫と、青と橙と黄色。夢の中で、自分が作った庭だった。
 気が付けば、花に囲まれた場所まで飛び出して、思いっきり大声で叫んでいた。

「夢だけど!夢じゃなかった!」

 気分は突如、うなぎのぼり。あふれる喜びにまかせ、はねまわる、かけまわる。
 夢と同じ、景色が流れ、夢と同じ、匂いがした。
 夢心地で一人、はしゃぐ私は、どこまでも自由だった。自由すぎて、何にも縛られず、綿毛みたいに、ふわふわと……

「うにゅ?こいし様、久しぶりに、おはようございます」

 ふいに、後ろから声がかかり、現実に連れ戻される。振り向けば、私の大声につられて中庭をのぞいた、お空の姿。
 おはよー、と返す。お空は、なぜか両手いっぱいに卵を抱えて、挨拶の次に何を言っていいか、考えているようだった。
 私は私で、言い知れぬ感覚がわきあがってきて、言葉が出なかった。
 ただひとつ、わかるのは、今、悪い気分ではないということ。

「お空、早くそれ台所に……ってあれ、こいし様?庭も豪華になってるし。……あ、おはようございます」

 続いて、こんな朝から忙しそうに姿を現したのは、みつあみをほどいたお燐。私をみつけて足を止める。
 おはよう。やっぱりそれしか言えなかった。
 でも、だんだんわかってきた。今、どうしてこんな気分なのか。夢で、私は何が不満だったのか。
 あの庭に一つ、決定的に足りなかったもの。それは、

「こら、朝から廊下で立ち話ですか?サボってないでパッパと朝ごはんを……あら?」

 声。みんなの、声。第三の目を閉ざしても、確かに聞こえる、家族の声。
 どんなに庭が立派でも、それを楽しむのが自分だけでは、寂しかった。みんなと一緒に、楽しみたかった。
 庭をのぞきこむお姉ちゃんと目が合う。久しぶりに見る私の姿と、改造された庭の景色に、少しだけ驚いたような顔をしていた。
 それがおかしくて、ちょっと微笑みながら、今度は私から、言った。

「おはよう、お姉ちゃん」
「……ええ、おはようこいし」

 それからは、とんとん拍子に、良い方へと話が進んだ。
 まず、この庭で朝ごはんを食べたい、とお空が言い出した。この意見が満場一致で可決される。
 すぐさま、ペット十匹がかりでテーブルが中庭に運ばれ、あれよあれよという間に朝食の準備が進んでいった。
 私は、運ばれてきた椅子に座って、なんとなく楽しい気分で、その様子を眺めていた。サボりだと責められることはなかった。

「あたいはゆでたまご。半熟で!」
「温泉卵で~」
「お空、温泉卵は剥いちゃだめだからね。ちゃんと覚えてる?」
「うにゅ」

 廊下を通り過ぎる家族の声を聞きながら、周りを囲む花たちをながめる。
 私の気分と連動するように、大きな花も、小さな花も、みんな、ゆらゆらと楽しげにゆれていた。
 ふと、強い風が吹いた瞬間、わずかに残ったタンポポの綿毛が、親元を離れて飛び立った。
 ふわふわ、ふわふわと飛ぶ。でも、夢と違って、遠く離れていかなかった。意気地なしの綿毛は、私のそばを、ふよふよ、ふよふよ飛びまわるだけ。

「こいし、あなたは卵、どうする?」

 気ままな綿毛にみとれていると、お姉ちゃんが顔をのぞかせ、問いかけてきた。
 珍しくエプロンなんかつけて、菜箸を手にして。今日の朝ごはんは、お姉ちゃんがじきじきに作ってくれるみたい。
 考えるふりをしながら、エプロン姿のお姉ちゃんにずっと、見惚れていたかった。でも、そんな"ふり"なんか、すぐにばれて叱られそうだから、早めに答えを出した。

「目玉焼き。目玉は三つで!」

 了承して台所に戻っていくお姉ちゃん。その後姿から目を離してみると、さっきの綿毛がテーブルに着地していた。
 ふっ、と息を吹きかけて、背中を押す。臆病風じゃない、強い風に吹かれて、どこか遠くへ飛んでいけ、と願いをかけて。
 綿毛はどんどん離れていき、ますます小さくなりながら、青い青い空に吸い込まれていったけど。


 もう、涙は流れなかった。

 
CAUTION!! コレステロール CAUTION!!

そんな感じの話です。
パルスィちゃんの重っったい過去話を書こうと決め、その前に、何か軽いものを書こうと思ったら、こうなりました。
『がーでにんぐ』ってひらがなで書くと、そこはかとなく『いっしょにとれーにんぐ』臭がする。不思議。

批判などあれば、遠慮なく言ってください。全て受け止める所存であります。
もちろん、普通の感想も、首を長くしてお待ちしております。
コメ返は、三日後にまとめて。


では、読了ありがとうございました。


追記
予想以上にコメントもらえて、喜びにわたわたしております。

>6,13
僕の妄想の中でふわふわしてたこいしちゃんの様子が伝わったようで、何よりです。
どろどろは確かに入ってないなあ。というより『入れられなかった』か。
ほのぼの話にうまいことどろどろを混ぜこむ技術が欲しいです。

>14,奇声を発する程度の能力様
この話には最高のほめ言葉。ありがとうございます。

>8
今のままで幸せだから、もうこれ以上要らないな。ですってw

>20
恐怖ガーデン、知らなかったので聞いてみた。いいなあ、ああいうの好み。
やりかねないですね。さらっと無意識に。

>22
意味のありやなしやを問われると、なかなか答えに窮します。
原作で雪が降っている描写があったと思うので、地底の空も外と同じように見える魔法がかかっているのかなあ、と
そう考えた上で、綿毛の白さとのコントラストを見せるなら青い空がいいだろうと思って書きました。

ただ、それも考え無しに書いたわけではないです。
そもそも、前半は真夜中の話なので、地底地上関係なく青い空は見えないはずなんですよね。
夢の中ですから、言ってみればこいしちゃんの願望みたいなもんでしょうか。広い青空の下にある、楽しい庭。
話の最後、幸せそうに書いていますが、綿毛の飛んでいく先が作り物の空かと思うと、少し悲しい気がします。

と、まあ。色々書いたけれども、投稿した時点でここまで深く考えていたわけではない。ちょっと反省。
半妖
[email protected]
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コメント



0.980簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
こいしちゃんのふわふわ感が半端ないな。ちょいとどろどろ感が物足りない気もしたけど、アリだわ。
7.100奇声を発する程度の能力削除
ほんのり和みました
8.100名前が無い程度の能力削除
いやいや、ほら、こいしちゃん、まだ何か足りないだろう?
俺的なものが足りていないだろう?
13.100名前が無い程度の能力削除
ふわふわ
14.100名前が無い程度の能力削除
素敵な感じ
20.100名前が無い程度の能力削除
恐怖ガーデン的なオチを予想していたけど全然そんなことはなかった。
こいしちゃんは、やりかねないから困る。
22.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのした話で良かったです。
地底なのに「青い青い空」という表現がありますけど、何か意味があるのでしょうか。
26.100名前が無い程度の能力削除
こいしちゃん、満足いくお庭が出来て良かったね。
28.100名前が無い程度の能力削除
これは良いね