Coolier - 新生・東方創想話

人々が藍した幻想郷

2011/01/13 20:33:37
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 空は黒、雲ひとつ無く広がる果てしない空は黒。
 星は白、雲ひとつ無く広がる果てしない空にまたたく星は白。
 地は黒、雲ひとつ無く広がる果てしない空と同じ黒。
 月は白、雲ひとつ無く広がる果てしない空に浮かぶ月は白。
 瞳にうつる色は、その二つだけだった。

【第一戦】
【兎にも角にも月に吠える】

「どうする?」
「どうしようか」
 黒い砂をかかとで踏みつける妹紅。
 白い月をぼんやりと眺める輝夜。
 背中合わせに立つ二人。
「とりあえず、歩こうか?」
「それよりも、空を飛びましょう」
 背中合わせのまま、輝夜は妹紅の手に己の指を絡めた。
「誰も見ていないのだし。それに」
「それに?」
「殺し合いの方法なんていくらでもあるけれど、弾幕ごっこは、楽しいわ」
「楽しいな」
 妹紅もまた、輝夜の指に己の指を絡めた。風が吹き、黒い砂を巻き上げる。砂に混じって、自分自身の肉体も砂となって散ってしまうように感じた。
「妹紅、する?」
「する」
 それだけで十分だった。
 それだけで十二分だった。
 ともに長い時を歩めば、永い時を歩まねばならぬなら、自然と理解は深まる。
 どちらからともなく風に乗ったかのように舞い上がり、弾かれたように身を離す二人。
「お先にどうぞ」
 輝夜がうながす。
「久し振りに、あのスペルが見たいわ」
「どのスペルだよ」
「あのスペルよ」
 それだけでは不十分だった。
 ともに長い時を歩んだとしても、永い時を歩まねばならぬとしても、言葉に出さなければ通じない事もある。
 しかしやはり十分だった。
 要するに「お好きにどうぞ」と言っているのだ。どのスペルでもいい。
 だったら久し振りに、あのスペルをやってみようか。
 妹紅の背中に、紅蓮の翼が燃え上がった。足元からは孔雀の尾羽のように炎が伸び、その一枚が黒い大地に舞い落ちて、一対の角を持つ獣の形へと変化した。
 黒の夜で赤の炎が踊る。
「ああ、今日は満月だったか」
 見上げた夜空に輝く月は欠けぬ円。
 幾星霜流れても、月は変わらぬ姿で空にあった。変わらぬ姿のままで。


 追憶「白沢と舞う鳳凰」


 夕陽が見たい。どうせなら見晴らしのいい場所がいい。人里全部を見下ろせるような。
 そんな彼女のわがままを聞いて、じゃあ見に行こうと妹紅は笑った。
 予感はあったが、それ以上に夕陽が見たかった。彼女と一緒に。
 毎日迷いの竹林を歩き回る妹紅の健脚は、彼女とともに歩くより、背負って歩く方がうんと早かった。
 だから妹紅は彼女を背負うと、彼女とともに歩く速度で歩いた。
 のんびりとした足取りだが、頭の中の地図に現在地と目的地をマークすれば、このペースなら丁度夕陽が見られるはずだとわかる。まさかそういう時間帯を狙って、彼女は言い出したのだろうか。
 人里を抜けて野原に入り、小さな薄紫の花が、ひとつの茎に多数咲いていた。名を紫苑。花言葉は追憶らしい。
 続いて発見したのはとても濃い紅色、吾亦紅、妹紅と同じ名前の花だった。花言葉は物思い。
 彼女はとても物知りだ。妹紅の半分も生きていないのに。
 しかし、それは当然の事だろうとも妹紅は思う。長生きするだけなら鶴や亀でもできる。学びながら生きるというのは難しい。どれだけの知識を学んだのだろう。どれだけの知識を伝えたのだろう。それを思えば妹紅のすごした千余年、なんと虚しい事か――。
 木立に入ると、木陰から赤い瞳が覗いてきた。
 すでに人里を離れ、妖怪のテリトリーに入っている。人間を襲うのが妖怪というものだ。でも。
 今日は勘弁してくれと、妹紅は言った。
 赤い瞳の妖怪は、妹紅に背負われる彼女をしばし見つめた後、木立の奥へと消えた。
 あの妖怪も、彼女になんらかの好意や恩を持っていたのかもしれない。
 その後も。
 何匹かの妖怪が木陰から二人の様子をうかがいに来たが、決して手出しはしてこなかった。
 二人の道程を阻む物は無く、阻む者もいない。
 木立を抜け、坂を登り、切り立った崖に到着した。
 一本の朽ちた木の下に行くと赤々と染まった人里が一望でき、妹紅の目頭は熱くなった。
 背負われたままの彼女は、わずかに身じろぎし、妹紅の耳元にささやいた。
 そのまま、彼女を背負ったまま妹紅は、決して振り返ろうとせず、じっと、夕焼けを眺め続けた。
 人里の向こうに、山の向こうに、西の空に沈む夕陽。
 穏やかな時間。ゆっくりと、しかし確実に沈んでいく夕陽。
 空は暗い藍色に染まっていく。
 完全に日が没し、妹紅は今さらながら思い出した。

「ああ、今日は満月だったか」

 空に浮かぶ銀色を見上げる。
 背中の彼女は応えない。
 満月になっても、彼女は変わらぬ姿で妹紅の背中にいた。変わらぬままの姿で。


 易々と弾幕を回避できたのには理由がある。
 妹紅と輝夜は数え切れないほどの弾幕ごっこをしてきたので、撃つも避けるも達人レベルだ。
 そして弾幕の相手はお互いである事がもっとも多く、弾幕のパターンや癖も理解している。
 さらに今回妹紅が放ったスペルは、優しく易しい弾幕で、初級者や中級者に使うスペルだった。
 だから輝夜は、このスペルカードが好きだ。見ていて落ち着く。
「ごめんなさい妹紅」
「あ? どうした」
「あなたの不運を、私は幸運として喜んでしまっているわ」
「相変わらずいい性格してやがる。なにが不運でなにが幸運だ」
「妹紅が、蓬莱の薬を飲んだ事よ。私にとってこれ以上の幸運は無いわ!」
 輝夜の胸元が真っ白に輝くと、無数に分裂してそれぞれが地を跳ねる白兎となった。


 遺品「キャロットアミュレット」


 その年、永遠亭のために尽くしてくれた一羽の兎が天寿をまっとうしようとしていた。
 信じられない。信じたくない。
 こうなる事を予期していたかのように片づけられたてゐの部屋は、河童に作らせた加湿器のおかげで冬の冷たく乾燥した空気をそのまま吸わずにすんでいた。
 布団に寝かされた因幡てゐの安らかな、しかし生気の失せた顔を見つめながら、鈴仙は押し黙っていた。
「魂にも寿命があるのよ」
 鈴仙の隣に座る永琳が言う。
「肉体の寿命、精神の寿命、魂の寿命……いずれかが尽きた時、死が訪れる。世の中には寿命を延ばす術、寿命を延ばせる種族もいます。紅魔館の吸血鬼などは、吸血によって生命力を補えば肉体と魂を保てるでしょう。妖怪の山の神々の場合は肉体が必要ありません、信仰によって魂の寿命を満たせばいい。妖精はそもそも自然現象の延長なので、自然を破壊すれば妖精は消えます。妖怪の場合は、種族によって様々です」
 永琳の手が、青白いてゐの額に触れる。
「てゐは健康に気を遣ってました。肉体の寿命は十分です。てゐは日々の変化や他者との交流を楽しんでしました。精神の寿命も十分です。しかし、魂の寿命を延ばせる類の妖怪ではありません。その時が迫っているのです」
「そうなの」
 豆知識を聞いた。面白い雑学を学んだ。その程度の反応をしたのは永遠亭の姫、蓬莱山輝夜である。
 同じ月の出身で、同じ永遠亭に住まう鈴仙は、地上の住人よりも姫の尊さを知っている。
 それでも。
 病床のてゐを挟んで、のほほんとしている姫を見すごすなんてできなかった。
 正座を解き、膝立ちになり、前のめりになって、歯を剥き、眉を釣り上げ、手を。
「うどんげ」
 師匠に掴まれて、止まった。
 こんな所で暴れてはてゐの身体に、いや、魂に障る。
 昼寝をしていると言われれば呆気なく信じてしまいそうなほど静かな、耳を澄まさねば、いつ聞こえなくなってもおかしくないほどの寝息。それが今、鈴仙の耳にだけは届かない。みずからの心臓の音で。
 落ち着け。落ち着け。この心臓音をなんとかしなければ、てゐの寝息が聞けない。
 このどうしようもない悪戯兎の、寝息が。
 でも、沸騰寸前の感情を吐き出さねばおさまるはずもない。
「姫は、姫様にとって、てゐは、てゐは……いなくなっても、気に留める事すらない、そんなイナバなのですか」
「まさか。てゐくらい目立っていれば、他のイナバと見分けくらいつくわ」
「そういう……意味じゃ」
 この能天気なお姫様にわからせる言葉を探して鈴仙がうつむくと、蒼白のてゐと、目が合った。
「れ、せん」
 唇がかすかに上下し、消え入りそうな声で、確かに呼ばれた。
「て、てゐっ。気づいたの?」
 慌てふためく鈴仙とは逆に、永琳は落ち着き払った様子で布団からてゐの手を取り出し脈を取った。
 表情は、凍りついたように変わらない。
「てゐ、大丈夫だから。あんた、健康オタクなんだもの。こんなの、すぐ」
「寿命の事は、とっくに、お師匠様から聞かされてるよ。真っ先にね。でも、酷いなぁ。誰にも言わないでって、お願いしたのに」
「えっ……」
 誰もにも言わないで……って、いつから?
 急に倒れたと聞いた、今日よりずっと前から、てゐは苦しんで……?
「ど、どうし、て」
「今、てゐが言ったでしょう。黙っているように頼まれたからよ。でもそろそろ、隠し通せる状態ではないわね」
「そん、な……」
 崩れ落ちる。
 心の中のなにか、大切なものが、崩れていく。
 目の前が、濡れて、歪んで。
「この人参のネックレス、さ」
 いつも首から下げているそれを、永琳に取られているのとは逆の方の手で撫でながら、てゐは笑って見せた。
 普段見せるお日様のような笑顔ではなく、晴れ晴れとした笑顔ではなく、今にも消え去りそうな儚い笑顔を。
「私の力を込めたから、今は幸運の加護があるお守りになってるはず。私が死んだら、これ、鈴仙に……」
「な、なにを馬鹿な事、言ってんのよ。あんたが、殺しても死にそうにないあんたが、死ぬ訳、ないでしょう!?」
 もう止まらなかった。止められなかった。
 決壊して、あふれ出す。熱くて冷たい、感情の雫を。
 鈴仙は叫んだ。
「憎まれっ子らしく、長生きして、迷惑かけなさいよ!」
「え、いいの?」
 てゐは起き上がった。
 何事も無かったかのように軽々と。
 顔色は相変わらず蒼白で、しかし太陽のような、晴れ晴れとした笑顔で。
 悪戯が成功した後に見せる、笑顔で。
「やったー、鈴仙のお墨付きをもらったぞー。死ぬまでいーっぱい迷惑かけられるー」
「……え、えぇっ?」
 あろう事か。ついさっきまで死にかけていたてゐが、布団を跳ね除けて嬉しそうに跳ね回っている。
 元気な兎のように。
「ていうか元気だ!?」
 涙目のまま鈴仙は、尊敬する師匠を見た。
「師匠、これはいったい!?」
「えーっと」
 苦笑を浮かべ、どうしたものかとてゐに視線をやる永琳。
 それを受けて悪戯兎は大笑い。
「うーっさっさっさっ! お師匠様はいい子の私のお願いは、ある程度聞いてくれるのさー」
「て、て、ててて、てゐぃぃぃッ!?」
「私が死んだらこの人参アミュレット上げるから、怒らないでー」
「怒る! ついていい嘘と悪い嘘があるわー!」
 鬼ごっこが始まった。逃げるてゐ、追う鈴仙。
 笑いながら部屋から飛び出し、縁側からジャンプして庭に着地するてゐ。
 涙を拭わぬまま部屋から飛び出し、縁側から駆け下りて落とし穴に引っかかる鈴仙。
 ほがらかな笑顔のまま部屋から出てきて、縁側に腰かける輝夜。
 藍色の空の下には、いつもの永遠亭の姿があった。
「イナバー、大丈夫?」
「きゅ~……」
 駄目みたいだったが、別段心配したりしない。日常茶飯事という言葉が虚しくなるほど日常茶飯事だ。
 それでも永遠亭の住人に笑いや呆れを提供してくれる。
 輝夜は、穴に落ちた鈴仙を見て笑う派だ。
 けど今日は、庭ではしゃぐてゐを見て笑っていた。
「どうかしましたか?」
 背後から寄り添う永琳。ちなみに穴に落ちた鈴仙を見て呆れる派。
「だって、珍しいものが見れたんですもの」
 てゐから視線を外さぬまま輝夜が言い、永琳は眉をひそめた。
「うどんげが騙されるのも、穴に落ちるのも、いつもの事でしょう?」
「ううん、イナバじゃなくて」
 振り返る輝夜。
「てゐが一度も嘘をつかないなんて、珍しいなーと思って」
 永琳はてゐに恩を感じている。この迷いの竹林に隠れ住むために、数多くの知恵と幸運をもたらしてくれた。
 だから多少の悪戯には目をつぶるし、頼み事があればだいたいは聞く。
 約束だって嘘をつかれたり破ろうとされない限りは律儀に守る。
「ええ、珍しい事です」
 重要な事を喋らずミスリードさせるのは、嘘つきとは違うのだろうか。
 どちらにせよ、永琳はてゐが嫌いではない。輝夜も鈴仙もそうだろう。

 翌年、永遠亭のために尽くしてくれた一羽の兎が天寿をまっとうした。


「月が綺麗ね。ヤッホー」
「月に向ける言葉としてどうなんだそれ」
 すべての弾幕を軽やかにかわし切った妹紅が、ハンドポケットで黒い砂に着地する。
 兎の足跡がいっぱいできていて、なかなか面白い光景だ。
「じゃあ妹紅なら月になんて言うのかしら」
「ん、そうだな。ゲームソフト返せぇぇぇええええええッ!!」
 月に吠える妹紅。だがその内容は貧しい。
 呆れ顔の輝夜、同様に地上に舞い降りる。
「貸してたの? なんのソフト?」
「ほら、初代霊夢を主人公にした、スペルカードルール設立以後の異変を次々に解決していく奴」
「じゃあ私も叫ぶわ。次は私に貸してー!」
 月に吠える輝夜。だがその内容は酷い。
「おい、なに本人の前で又貸ししてもらおうとしてる訳!?」
「昔の人が言っていたわ。お前の物はお前の物。私の物は私の物」
「当たり前じゃん!? 誰が言ってたのそれ!」
「それより、早く続きをしましょう」
「なんのだよ」
「もちろん、弾幕ごっこよ」
 当然のように言って輝夜は笑った。


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第二戦】
【紅白黒のHUMAN TOUCH】

 今度は地面でスペルカードを展開しようとする妹紅。
 黒き地と白き月の狭間で、紅の瞳が強く輝く。
 こうやって。
 終末の後も楽しくすごせるのは、幻想郷の人々に触れたおかげだと妹紅は思う。
 感謝してもし切れない。
 特に、スペルカードルールなんてお遊びを考えた、楽園の巫女様には。
「紅白一号と二号がそろえばよう、輝夜ァ! お前に勝てない道理は無い!」
 妹紅の全身から妖力の結界が発せられ、夜の闇を鮮やかに照らした。
「あら、そのスペルを使うのなら、このスペルで対抗するのが彼女への礼儀というものね」
 そう言って、輝夜は懐から手のひらで鷲掴みにできる程度の物を取り出し、前方に構えた。
 砲門に白光が集まる。
 甲高い震動音が響き渡り、輝夜の口元が卑しく歪んだ。
 姫にあるまじき笑みを。
 意地汚い、しかし、快活で楽しそうで、やんちゃな笑みを。
「くっ……くっくっくっ! いいぞ輝夜、それでこそ私のライバルだ!」
「ふっ、うふふ……妹紅、ああ妹紅、思い出すわね、思い出せるわね、あの頃の日々を」
「くくっ、ははは、ウワーッハハハハハハッ!!」
「ふふっ、ははは、あはははははははははっ!!」
 哄笑。
 声を大にして、二人は笑う。
 笑い続ける。
 だが、まるで示し合わせたように同時に口を閉じると、やはりほぼ同時に、そのスペルの名を叫んだ。
 ほんの一瞬だけ、妹紅の方が早かったかもしれない。


 借り技「封魔陣」


「いや、そういうつもりじゃないんだけれども」
「じゃあどういうつもりよ」
 心底どうでもよさそうに霊夢は言った。まったく無関係な話題という訳ではないのに。
 だが実際、どうでもいいのだろう。縁側にて、妹紅との間に置かれたお煎餅と熱いお茶に比べれば。
「つまりだな」
 出涸らしのお茶でもまったく気にせず飲んでしまうのは、妹紅もまた出涸らしのお茶を日常的に飲んでいるからだろう。買出し面倒だし。
「仮に私が博麗の巫女になったら、私じゃなくてもいいけど、不老不死の人間が博麗の巫女になったら、代替わりの必要は無いし、死ぬ心配も無いから、博麗大結界は永遠に安泰になるんじゃないかなーって」
 煎餅をかじりながら、霊夢は庭に咲いている花を見つめていた。植えた、というよりは自然に生えたのだろう。
 20~30cm程度の草丈の先で、可憐な花が無数に咲いていた。
「博麗の巫女は人間でなければならない」
 名前は知らない。小さな藍色の花だ。
「散らない花は、もはや花ではないわ」
 つまり不老不死の人間は。
 妹紅もまた、霊夢の見つめる藍色の花に視線をやった。
 ――慧音なら、こんな花の名前でも知っているだろうか。
 ぼんやりと、そんな事を思った。
「でも」
 ふいに霊夢が顔を上げる。
「案外イケるかもしれないわね。ちょっと巫女修行してきなさいよ」
「えっ」
 幸い妹紅は紅白衣装なので、博麗神社の巫女服に着替えてもカラーリングに問題は無い。
 それ以外に問題があるようだが霊夢は華麗にスルーした。
「とりあえず夢想封印の撃ち方から」
「いや、私は妖術使いで、霊力を使った術は……って、おい、霊夢?」
「身体で覚えなさい。十発も受ければ、多分できるようになるわ」
「なるかー!」
 巫女が増えれば仕事が楽になるかなーといういい加減な理由で、しこたま夢想封印を撃ち込まれてしまう妹紅。当然、そんなやり方で巫女の奥義である夢想封印を体得できるはずもなかった。
 でも霊夢は一度見ただけでできるようになったらしい。
 しかし。
 そんな霊夢がいる間は、どんな異変が起ころうと幻想郷は安泰だなと安心する妹紅なのだった。


 霊光の結界に向けられたのは、魔光の大砲だった。
 轟音は大気さえ揺るがし、余波だけで黒い砂を高々と巻き上げた。
 白く、白く、夜が染まる。
 大地は白、夜空は黒。
 白と黒の大激突だ。


 借り物「ミニ八卦炉」


「高貴なる私に相応しき、これがロイヤルストレートフラッシュ!」
 永遠亭の自室にて、蓬莱山輝夜は満面の笑みで手札をさらした。
 スペードの10、J、Q、K、そしてエース。完璧なロイヤルストレートフラッシュだ。
 もはや輝夜の勝ちは確定したも同然で、つき合わされていたイナバ達はワンペアやツーペアのカードを畳に投げ捨てた。
 だが、しかし!
「おーっと、私はファイブカードだぜ」
 スペード、ハート、ダイヤ、クラブの5が四枚。さらに、一枚のジョーカー。
 これこそ奇跡の(という程でもない)確率で成立する、手札のパワー!
 イナバ達が歓声を上げる。輝夜も歓声を上げる。フフンと鼻を高くする魔理沙。しかし。
「ロイヤルストレートフラッシュとファイブカード、どっちが強いんですか?」
 魔理沙の襲撃に巻き込まれてトランプに参加していた鈴仙が、己の手札であるワンペアを放りながら言った。
 輝夜と魔理沙は顔を見合わせ、同時に笑い、同時に言う。
「それはロイヤルストレートフラッシュでしょう」
「そりゃファイブカードに決まってるさ」
 まあ。
 ルールを完全に把握していないのであれば、自分の手札を強いと言い張るに決まっていた。
 それにしても二人とも、すごい強運だなぁと鈴仙は胸元にぶら下がってる人参型の首飾りを指でいじりながら、己の手札を見る。ダイヤとクラブの2のワンペアだ。なんの面白味も無い。というか役の中で一番弱い。ワンペア同士で争っても負ける。イナバ達もなにがしかの役を作っているので、今回のドンケツは鈴仙で確定だった。
「ロイヤルストレートフラッシュよ」
「ファイブカードだよ」
「じゃあ多数決で決めましょう」
「おい、私とお前以外、全員ウサ耳を生やしてるじゃないか。多数決なんてお断りだ」
「ところで、ちょっと冷えるわね」
「冬だからな」
「イナバ、熱いお茶を淹れてきて」
「ついでに茶菓子も頼むぜ」
 カードの強弱に関しては平行線の癖に、お茶に関しては見事に息の合う二人。
 呆れながら鈴仙はお茶を汲みに部屋を出た。部屋の中も寒いが、外はもっと寒い。
「あ、そうだ」
 震える鈴仙を見送ってから、ふいに思いついた魔理沙は懐からミニ八卦炉を取り出すと、出力を低めにして起動させて畳に置いた。
「まあ、暖かい」
「へへ、暖房も調理も実験も弾幕も、なんでもござれだぜ」
 えっへんと胸を張る魔理沙。ミニ八卦炉の周りには、すでにイナバ達の輪ができている。
「へぇ、便利ねぇ。私も欲しいわ」
「わはは、羨ましいだろー。でも、やらないぜ」
「じゃあ、ポーカーで勝ったら頂戴」
「だからやらないって。ていうか私の勝ちだし」
「じゃあ、死んだら貸して頂戴」
「死ぬまでじゃなく、死んだらか?」
「ええ、だって魔理沙は人間だもの」
「うーん、死んだ後は返す必要が無いから、それって実質、貰い物になっちまうだろ」
「いいえ、借り物よ。輪廻転生してきたらちゃんと返すわ」
「前世の記憶なんて覚えてられねーよ」
「いいじゃない。私が勝ったら、これ、死んだら貸してくれるって約束しましょう?」
「まあ、いいぜ。その代わり私が勝ったら永遠亭にある本を全部、死ぬまで借りるぜ」
「いいわよ」
「いいのかよ」
「だって、私の勝ちだもの」
「いいや、私の勝ちだ。永琳に計算でもしてもらうか? ロイヤルとファイブカード、成立する確率はどっちが低いか。低い方が、強いだろ」
「そうなのだけど、確認する必要は無いわ」
 スッと、輝夜は魔理沙の懐を指差した。
「今回は、魔理沙の反則負けだもの」
 己の胸元を見下ろす魔理沙。
 ミニ八卦炉を出した拍子に、懐に隠し持っていたトランプがはみ出ていた。
 イカサマだー。イカサマだねー。イナバ達が口々に言う。
「いや、その、これは」
 慌ててトランプをしまう魔理沙だったが、時すでに遅し。
 輝夜は満面の笑みで言った。
「死んだら貸してね」
「……はい」
 負けを認めた魔理沙は、早くお茶もとい鈴仙が戻ってこないかなぁと思いながらそっぽを向いた。
 座卓の上に飾られた藍色のドライフラワーが視界に入る。花の中央だけ白いのはおしべだろうか。多分知っている花だ。しかし名前が思い出せない。気にかかる。輝夜なら知っているだろうが、わざわざ花の名前を訊ねるなんて乙女チックな姿を、こんな所で披露するのは気が引ける。そうこう悩んでいるうちに、お茶もとい鈴仙は戻ってきた。
 ちなみに。
 お茶を配った鈴仙をすぐさま永琳へ確認に行かせたところ、ファイブカードの方が強いそうだ。
 ただしジョーカーを認めないルールもあるので、その場合はロイヤルストレートフラッシュが最強との事。
「つまりルールが一番強いのね」
 一味ズレた理解を示す輝夜だったが、もうそれでいいですと鈴仙はあきらめ気味にうなだれた。


「ぐうぅっ、わぁー!」
「くぅんっ、きゃー!」
 同時に悲鳴を上げて。
 同時に後方にふっ飛んで。
 同時に黒い砂に突っ込んで。
 全身真っ黒、砂まみれ。
 起き上がった二人はそれを見て、またもや笑い出した。
 笑う、笑う、二人は笑う。
 こんなにも楽しいのだから、二人は笑うのだ。


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第三戦】
【Loreleiの屋台】

 身体を洗いたくて水場を探したが、行けども行けども黒い砂ばかり。
 ようやく見つけたと思ったら、環境汚染のせいか、黒い砂のせいか、黒く濁った池だった。
 とてもじゃないが身体を洗う気にはなれない。
「リザレクションでもするか?」
「それがよさそうね。それにしてもお腹が空いたわ」
「ああ、食べ物も探さなきゃなー……」
「海ならさすがに生命は残っているでしょうし、海水を蒸留すれば真水が手に入るわ」
 他に当ても無いので、二人は海を目指す事にした。
 幻想郷があった場所と、古代の日本地図を頭の中で重ねれば、東西どちらかに行けば冷たい海に出られるだろう。どうせ海に行くなら南国でリゾート気分を味わいたいが、それは贅沢というものだ。
「ああー、腹減った。鳥でもいないかなぁ?」
「私の隣にいるわ」
「私は鳥じゃない」
「それもそうね。ていうか、いたら食べるの? 鳥」
「いや、鳥がいたら嬉しいじゃないか。それに、鳥を追いかければ鳥の餌にありつけるかもしれない」
「それはとても貧しいわ。素直に海を目指しましょう」
「東と西、どっちに行く?」
「せーので指を差しましょう。せーの!」
 運命だろう。こういう時、絶対に正反対の方角を示してしまうのは。
 二人とも、特にその方角でなければならない理由は無い。どっちでもいいのだ。しかし自分の意見を押し通したい。それが二人が築いた信頼関係である。
 どちらでもいいのなら、問題無く対立できる。
 どちらでもいいのなら、問題無く喧嘩できる。
 という訳で。
「行くぞ輝夜ぁー!」
「来なさい妹紅ぉー!」
 またもや弾幕ごっこが始まった。
 夜の闇を抱いて飛翔した妹紅は、澄んだ歌声とともに小さな火の鳥を無数に浮かばせた。
 雀のように小さい分、弾数は半端じゃない。
 彼女がたびたび鳥扱いをされる理由が、ここにあった。


 夜雀「焼き鳥撲滅運動」


 チンチン、ドンドン、ピ~リャララ。
 祭囃子が聞こえる。今日は楽しいお祭りだ。朝昼晩、三日三晩、ぶっ通しでお祭りだ。
 人間にはちょいときついスケジュール、けれどなんら問題無し。
 これは人里から離れた山中に新設された、妖怪の里の完成を祝うお祭りだから。
「つーか、人里とあまり変わらないな」
「ほらあの、虎さんって人里の"白蓮寺"に住んでるんでしょ? そりゃ似るよ、参考にしたんならさ」
「"命蓮寺"の寅丸星さんな。まっ、住みやすそうでなによりだ」
 夜雀の少女と連れ添って歩くのは、妖怪の里にいていいのか疑問になる存在、蓬莱人藤原妹紅だった。
 妖怪友好派の命蓮寺同様、彼女もまた妖怪の里新設に協力している。
 人間と。
 妖怪と。
 どちらも肯定したかったから。
 ていうか、幻想郷はすべてを受け入れますとどこぞの賢者様が言ってますし。
 祭りの開始は妖怪らしく夜に行われ、大通りには屋台が立ち並び、ちょうちんに赤々と照らされている。
 行き交うのは八割方が妖怪だ。残りは妖怪友好派の人間や、無邪気な妖精や、神なども。
「広場では、みんなで歌って踊ってしてるはずだし、早く行こうよ」
「お祭りは始まったばかりだろ? そこいらで軽く腹ごしらえしよう」
「そうだね、焼き鳥屋が出てるかチェックしないとね!」
「まだ焼き鳥撲滅運動を続ける気か。もうあらかた撲滅しただろ」
「あらかたじゃなく、完全粉砕するのー!」
 プンスカプンと、頭から湯気を出すんじゃないかって勢いで怒られてしまった。
 撲滅運動に貢献したのは自分なんだけどなー。
 迷いの竹林は焼き鳥のメッカとか、健康マニアの焼き鳥屋とか、そういったネタを妹紅は元々持っていた。そのため焼き鳥推進派から警戒される事は無く、ミスティアと交友を持った後はうまい具合に内通者として活躍できた。
 おかげで焼き鳥屋界隈からは裏切り者として睨まれている。
 だが鳥妖怪からは仲間として認められている。
 蓬莱人だけど鳳凰属性を持っているのもプラス評価に繋がった。
 リンゴ飴と綿菓子の屋台が並んでいるのを見つけた妹紅は、どっちをおごった方が喜ばれるかなと思案した。
「ところでさ、お前、一日目は完全フリーなんだっけ?」
「うん。二日目は屋台出して、三日目はステージで歌うよー。どっちも夜。夜雀だもの」
「そっかー、楽しみだなー」
 話題を変えたためか、ちょっと機嫌を取り戻してくれたようだ。
 よしよし。おごるより安値ですむし、この調子でおだてておこう。
「にしても、浴衣、よく似合ってるよ」
「えへへ。お母さんの形見なんだ!」
 言って、その場でくるりと回って見せる。
 深い藍色の生地に、白百合が縫われた浴衣。背中にはちゃんと、異形の翼を出すための隙間が開いている。
 あまりの可愛さに、周囲にいた大人の妖怪が微笑ましい表情を作っていた。そう、七五三で着物を着た子供を見るような目で。めんこいのう、めんこいのう。眼福じゃあ、眼福じゃあ。
「ふふん。私の全身からオーラとなって放たれる大人の魅力に、みんなもうメロメロのようね」
「大人ぁ? ああ、いや、そうだな。もうメロメロだな」
 ここでツッコミを入れて機嫌を損なわれてはまた面倒。妹紅も調子を合わせて愛想笑い。
 まったく、やれやれ、こんな風にはしゃぐこの娘はまだまだ子供だ。元気な子供だ。
 ふと、空を見る。
「ああ、今日は満月だったか」
 当たり前だった。妖怪の力が強まる満月をお祭りの開催日に選んだのだから。
 しかし、どうもこのセリフ、昔どこかで使った覚えがあるような。
 大事な思い出はたくさんあるが、その詳細まではとても覚え切れない。稗田さんならともかく。
 思い出は色褪せていく。でも決して忘れない。どんなに色褪せても、忘れられない。
 今日この日も、そんな特別な思い出になるのだろうか。特別な事が起きれば、なるかもしれない。
 例えば。

「ああーっ、焼き鳥屋発見ッ! ガオーッ!」
 一緒にお祭りを楽しみに来た夜雀が。
 運営委員会の許可を得て出店している焼き鳥の屋台に突っかかって。
 ドロップキックからマウントポジションに移り往復ビンタをするという暴力沙汰を起こして。
 尻を蹴っ飛ばして店主さんを追い出して。
 屋台も夜雀ダークネスパンチと夜雀デッドエンドキックと夜雀デモニックエルボーと夜雀ヘルソバットで粉砕して。
 残骸の上で勝ち誇る程度の騒動があれば。
 まあ。
 思い出に残っちゃうかもなぁ! 悪い意味で!

「焼き鳥撲滅運動は勝つ!」
「にしてもやり方があるだろうがぁー!」
 妹紅渾身の鳳翼天翔ツッコミverを浴びて、夜雀、星空となる。そして落ちてくる。お姫様抱っこキャッチする。
 なぜかギャラリーから歓声が上がる。まあ妖怪だし。血の気の多い妖怪だし。むしろ火事と喧嘩と弾幕は妖怪の里の華になる予定だし。この程度の騒動はむしろみんな期待してたし。でも、その第一号になっちゃわなくてもいいでしょう? 妹紅はがっくりとうなだれてしまった。
「で、どーすんのこれ。屋台壊しちゃって、空きができちゃったじゃない。雲山の旦那に怒られるぞ」
 妖怪の里建設の際、揉め事担当は命蓮寺の一輪雲山コンビだった。頑固親父の鉄拳制裁で幾つの事件を解決してきたか。
「う、雲山さんの拳骨はイヤだなぁ……」
「仕方ない、一緒に謝っ……」
「よし! 予定を早めて、私が屋台をやろう!」
「なんでそーなるの」
「妹紅さん! Loreleiの屋台、スタンバって!」
 こうして。
 一日目はのんびりとお祭りを楽しむはずの妹紅は、半ば無理やり、天下無双の焼き八目鰻を自負するLoreleiの屋台の臨時従業員として働かされる事になった。うんざりとしながらも、焼き鳥屋から奪った敷地で勝手に屋台を開いて、鉄拳制裁に来た雲山を焼き八目鰻の味で唸らせて帰らせてしまっては、さすがの妹紅も感心するしかなかった。
 味は、すでに先代を超えたかもしれない。
「よぉし、雲山さんのGOサインももらったし、ジャンジャン焼くぞー!」
「へいへい」
 元々高い人気を誇るLoreleiの屋台は、すぐに客の列ができて大繁盛。
 形見の、藍色の浴衣を着て八目鰻を焼く少女の姿は、まさしく母親の生き写しで、妹紅は焼き鳥撲滅運動をめぐって対立したり和解したり共闘したりした夜雀の友達を思い出した。
「お前の娘は、しっかりやってるよ」
「えー? 妹紅さん、なんか言ったー?」
「あー、三人前追加な。ジャンジャン焼いちゃって」
「了解っ!」
 Loreleiの屋台。
 自慢の味と少々面倒な運動は、母から子へ、脈々と受け継がれている。


 艶やかな黒髪が、小さな火の鳥に喰いつかれて焼け焦げてしまった、
 輝夜が顔をしかめて炎をはたくと、火が消えると同時に焼失した髪の毛が復元した。
 まったく元通りの長さに。
 まったく元通りの艶やかさに。
「もうっ、女の子の髪を燃やすだなんて!」
「私はいつも燃やしてる」
「あなたのは燃えても、焦げたりしないじゃない。ズルいわ」
「どうせすぐ元通りになるんだから」
 自分の白髪を撫でながら、妹紅は羨むように輝夜の髪を見た。
 黒くて綺麗な髪。
 自分はもう、リザレクションしても黒髪に戻る事はできない。
 理屈は永琳が説明してくれた気がするが、魂がどうの記憶がどうのとややこしくて覚えていない。
「あー、それにしても、腹減ったなぁ」
「今の私達にとって、食べ物は宝物に等しいわね」
「ん、そうかもな」
「という訳で」
 またもや懐から道具を取り出す輝夜。
 胸のサイズは小さいはずだから、懐に物を入れていればすぐわかるはずだ。
 なのにほとんどふくらみが無いのに、ああもポンポン出せるのはどういう秘密が隠されているのだろう。
「この弾幕を見れば、きっと生き残った獣が寄ってくると思うわ」
「なんでだよ。そういうスペルじゃないだろ?」
「なんとなくよ。ほら、動物って光に寄ってくるじゃない?」
「寄ってくるのは虫だ」
「じゃあ今日は虫料理ね!」
「嫌だー!」


 落し物「毘沙門天の宝塔」


 チンチン、ドンドン、ピ~リャララ。
 祭囃子が聞こえる。今日は楽しいお祭りだ。朝昼晩、三日三晩、ぶっ通しでお祭りだ。
 人間にはちょいときついスケジュール、けれどなんら問題無し。
 これは人里から離れた山中に新設された、妖怪の里の完成を祝うお祭りだから。
「てい」
 放たれた矢は、的の中心に向かって弧を描いて飛び、見事命中した。
「大当たりぃ~!」
 魂魄妖夢のように人魂をかたわらに漂わせる、もしかしたら半人半霊かもしれない老人が、小太鼓をデンデンと鳴らして射的の大成功を祝福した。
 そして景品の並べられた棚から小さなネックレスを取り出すと、射的を見事に命中させた黒い髪のお嬢さんに手渡す。
「お主のような娘さんに弓矢の心得があるとわな。私の孫も剣を学んではおるが……さあ、ご希望の景品、人参ネックレスをどうぞ。きっとお嬢さんによく似合いますな」
「どうも」
 お祭りを楽しんでいる射的名人の彼女、蓬莱山輝夜は優しい手つきで人参ネックレスを受け取った。
「しかし、せっかく最高得点を出したのに、本当にそれでよかったのかね? こう言ってはなんだが、それは以前、悪さをして懲らしめた妖怪から取り上げた物でな。出所もよくわからぬし、なにか他にいい景品は……と」
「いいのよ。これは大切なお守りで、無くしてからずっと探していたの。見つけてくれてお礼を言いたいくらいよ」
「なんと、お嬢さんの持ち物であったか。ならば尚更、他の景品も受け取っていただかなくては」
「荷物になるからいいわ」
「むう……しかし、それはお守りであったか。邪気を感じなかったので景品にしてしまったが、どういう効力のお守りなのかね? 安産かのう?」
「幸運のお守りよ。うちで飼ってた兎が、友達の兎に上げて、またその兎から、今度は私がもらったの」
「ふむ、友の形見か。くぅっ、この歳になると涙もろくて……ええい、こうなったら一番高価な景品を持っていってくだされ! 大丈夫、荷物にはならぬ。さあ受け取るがいい! 魂魄一族に伝わる究極の至宝……白と藍の縞々パンティ!! 武器や防具は装備しないと効果がありませぬぞ。さっそく装備するかね?」
「サラマンダーシールド」
「みょん!? 屋台が燃えるー!」
 射的屋全焼。火事と喧嘩と弾幕は妖怪の里の華、野次馬ははしゃいだが誰も消火活動しなかったとさ。
 幸運のお守りをさっそく首にかけた輝夜は、焼け焦げた変態老人を気にもかけずゆったりと歩き出した。
 可愛らしい人参のデザインは、可愛い娘にはとても似合うだろう。しかし輝夜は美女だ。絶世の。だからミスマッチなのだが、そのギャップがさらに輝夜を美しく見せていた。結局は、余程不恰好な物でない限り、なにを着ても、どんなアクセサリーでも、似合ってしまうのだ。
 ああ、それにしてもまさか、落し物がお祭りで見つかるとは。レミリアの運命占いはよく当たるなぁと感心する輝夜だった。そのレミリアは一日目の晩、満月の下で、聖白蓮とスペルカードルールによるエキシビジョンマッチを披露している。その時にお話する機会があり、レミリアから「好き勝手お祭りを楽しんでいれば見つかるわ」と教えてもらったのだ。占いではないかもしれない。
 そんなこんなで吸血鬼の親切を受けた輝夜は、誰かに親切をしたい気持ちになっていた。
「あら?」
 屋台の並ぶ大通りを抜けて、イベントをやったり踊ったりする広場に出てみると、輝夜は落し物を見つけた。
 塔の形をしたランプ、だろうか。屋根をかぶった球体が発光している。
 今は丁度、広場のメインステージで夜雀が「赤い赤い花びらが~」と歌ってみんな注目しているため、足元の落し物に気づいたのは輝夜だけだった。なので拾う。持ち主が見つかれば返せばいいし、見つからなかったら、なかなかシャレたデザインなので持ち帰ってしまおう。
 お祭りはすでに終盤を迎えており、この夜雀ステージが終了したら、命蓮寺から妖怪の里の長の発表が行われる予定だ。里に住む事になった妖怪達も、長が命蓮寺によって選ばれるのなら安心だと考えている。
 妹紅などは大昔にいなくなった半人半獣への思い入れがまだ残っているため、人間も妖怪も救おうという命蓮寺の考えに同調しており、この妖怪の里の建設も手伝っていたそうだ。だが輝夜はただ、お祭りと聞いて遊びに来ただけであり、誰が長になるかなどは全然興味が無い。でもせっかく来たんだから見ていくか程度には思っている。
 一部ではトトカルチョも行われているらしく、エントリーされてるのは聖白蓮や寅丸星といった命蓮寺組はもちろん、長になる気は無いと公言しているレミリア・スカーレットの名前もあれば、長は強くあるべきと風見幽香の名前も挙がっている。でも所詮トトカルチョ。人選はかなり滅茶苦茶だ。
 寅丸星や八雲橙の売れ筋は良好らしい。やはり本命は強い。
 私もトトカルチョに参加しようかしら、なんて考えていると大喝采が鳴り響いた。
「みんなー、ありがとー!」
 どうやら夜雀ステージが終了したらしい。妖怪達は美声に大歓喜だ。
 その後、司会者がステージに上がりマイクで何事か喋り出したが、運営進行に関するつまらなそうな話だったのでスルーし、さて次はどこへ行こうかと歩き出す。屋台の大通りに行くと、綿菓子の屋台があったのでさっそく購入した。さあ一口、というところで。
「見つけたぞ」
 と、服の裾を掴まれた。雑踏の中で振り返る。ネズミの耳があった。視線を下ろす。ネズミの妖怪少女がいた。
「どちら様?」
「命蓮寺のナズーリン、運営委員会の者だ」
「トトカルチョなら、まだ買ってないわ」
「それは黙認状態だから……じゃなくて! 君が持っているそれは、我が主の落し物なのだ」
「まあ、そうなの」
 と、輝夜は手に持っていた綿菓子を渡した。
「ほら、甘くてふわふわしてておいしいわよ」
「わぁい、ありがとう……て、違うわーっ! これ拾ってないだろ! そこの屋台で買ってただろ!」
「そういえば確かに。あなた、賢いのね」
「フッ、こう見えても賢将と呼ばれる身だからな」
 えっへんと胸を張るネズミ妖怪の頭を撫で撫でしてやると、嬉しそうに頬を染めた。
「それじゃ、運営のお仕事、がんばってね」
「うむ。君も祭りを楽しんでくれたまえ……って、いい加減にしないか!」
 なぜか運営委員会のネズミさんに怒られてしまった。理由がわからず、輝夜は首を傾げる。
「そっちの手に持っている宝塔を返してもらいたい」
「このランプの事?」
「そうだ」
「あなたが落としたのね」
「いや、私ではない」
「あら、それならあなたの物じゃないでしょう」
「私のご主人の物だ。代わりに探していたんだ。証明なら運営委員会のテントでできる」
「証明は不要よ。落し物に関して、今日はちょっと親切でいたい気分なの」
「そうか、それは助かる。では」
「私の出す難題を攻略できたら返すわ」
「なんでそうなる!?」
「私も射的をしたもの」
「なんの話だ!?」
「せっかくのお祭りだし、弾幕ごっこをしましょう」
 という訳で。
 蓬莱山輝夜は宝塔を持って浮かび上がると、難題「宝塔のランプ(仮)」を即席で発動した。
「ちょ、待て貴様ー!」
 慌ててナズーリンも飛び上がる。火事と喧嘩と弾幕は妖怪の里の華なので、事情はわからずとも突然始まった弾幕ごっこに歓声が上がった。そこでようやくナズーリンは失態に気づいた。これではまるで自分がスペルカードルールを受けてしまったようではないか。実際はどうであれ、妖怪の里に集まった皆の目にはそう映る。運営委員会としてどうのこうのと言い出したら、権力にものを言わせていると取られてしまう。
「くっ、どこの誰だか知らないが、こうなったら賢将と呼ばれる私の実力をうわぁーっ」
 瞬殺だった。運の要素が絡んだと思う。輝夜が幸運のお守りを持っていたのは多分関係ある。
「ナズーリン様がやられた!」「おい、あの黒髪のお嬢さんが持ってるのって……」「なにぃ!?」「ではあのお方が!」
 なんだか妖怪達が盛り上がり始めた。なんだろう。
「輝夜ぁー!」
 不思議に思っていると、赤い翼が現れた。夜空を燃やす焼き鳥人間、藤原妹紅。
「あ、もこたんヤッホ」
「お前、なにやっちゃってんの! よりによって三日目の、最後のイベント前になにやっちゃってんの!?」
「なぁに? もこたんもこれ欲しいの?」
「殺してでも奪い取る!」
 もう一度、即席スペル。難題「宝塔のランプ(仮)」が発動した。さすが輝夜と戦い慣れているため、ナズーリンよりも善戦する妹紅。しかし冷静さを欠いて突っ込んで玉砕! やったね輝夜ちゃんニ連勝!
「そこまでです!」
 三人目は宝塔の持ち主、寅丸星! 威勢よく飛び出した。しかし。
「ダメだ、宝塔が無くて力が出ない……」
 ナズーリンとほぼ同じタイムで落とされた。
「うおおー! 強いだけでなく美しいとは!」「妖怪ではないようだが、美人なのでよし!」「長!」「長だー!」
 突然始まる「長」コール。
 気がつけば、輝夜は広場のステージ上まで来ていた。集まった妖怪達が大歓声を上げている。
 先ほど輝夜がスルーした運営進行で説明があったのだが。
 宝塔の持ち主が妖怪の里の長であるとの事。
 で、その宝塔の持ち主をステージの上で倒しちゃったりすれば、そりゃ、輝夜が長だと勘違いするだろう。
 長を紹介するためのデモンストレーションだと思われるだろう。
 仮に運営委員会が訂正したとしても、こうも簡単に長の象徴を奪われたとなれば大問題。
 さらに「宝塔を持っている者を長と発表したのです。それを覆すなど命蓮寺の名折れ」と聖白蓮が決定を下してしまった。
 こうして永遠亭の姫改め。
 永遠亭と妖怪の里の姫として、蓬莱山輝夜は君臨する事になった。
 もちろん後で永琳に怒られました。
 ちなみにトトカルチョは無理やり『蓬莱山輝夜』の券を作らせたレミリアの一人勝ちだった。運命占いって便利だね!


 弾幕を受けた方も、放った方も、空腹のため力尽きて地面に落下した。
 どうせとっくに砂まみれ。
 ああ、水が欲しい。
「ねえ妹紅、やっぱりリザレクションしましょうよ」
「ああ、うん、それがいいな。どうやって死ぬ?」
「首を刎ねましょう、苦しまないですむわ」
「OK」
 言って、立ち上がった妹紅は手刀を赤熱させた。
 今の妹紅にとって、人の首を落とすくらいたやすい。
「そういや、幻想郷の外で死ぬのって初めてだな。ちゃんと生き返れるのか?」
「生き返れるわよ。だって」
 同様に起き上がった輝夜は、二振りの剣を握っていた。
「蓬莱の薬は、私と永琳が創った薬なのよ?」
「一気に不安になったんだが……」


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第四戦】
【美しい剣は人と人つなげて】

 夜が明け、青い空と黒い砂漠をさすらうと、二人は偶然緑を発見した。
 海までなにも見つからないだろうなというあきらめもあったので、最初は蜃気楼かとさえ思った。まあ、砂地というだけで本物の砂漠とは違い蜃気楼など出るはずがないのだが。
 なので、砂漠のオアシスのように幻想的でもなければ美しくもない。
 かつては緑の茂る立派な森林だったのだろうけれど、その大半は無残に薙ぎ倒されてしまっていた。動きづらいので二人は低空飛行で移動する。倒木の合間には草花が確認でき、あのハリケーンをよくぞ生き延びてくれたと感動さえ覚えた。生命の底力。永遠の生命に呪われてしまった蓬莱人にとって、死ぬ宿命を背負いながら生きるものはなにもかも尊く美しい。
 世界は死で満ちたと思ってしまった。
 でも違った。生命はそんなにやわじゃない。
 蓬莱の薬なんかに頼らなくても。
 生命は世代を重ねて、時の終わりまで生き続けられるのかもしれない。
「ははっ……なあ輝夜、なあ! 聞こえるか? この音、これさ、水だよな? 水の流れる、だろ?」
 水音に気づいた妹紅はあえて倒木の上に飛び降りると、倒木から倒木へと次々に跳躍した。
 喜んで跳ね回る。子供みたいだが、妹紅のそういうところを愛しく思う。
「もうっ。川があったって、使い物になるかわからないんだからね。前に見つけた池みたいに……」
「バーカ。この辺は黒い砂も少ないし、植物だってあるんだ。大丈夫さ!」
「その確信はどこから出てくるのかしら」
「あった! 水だー!」
 倒木の上で高らかに叫んだ妹紅は、その場で衣服を脱ぎ始めた。
 水浴びできるくらい大きくて綺麗な川があったという事か。低空飛行をしていた輝夜は高度を上げた。なるほど。折れた大木が突っ込んでいたり、橋のようにかかっていたりしていたりしているが、岩場の合間になかなか流れの速い川があった。透明で、水の底もぼんやりとだが見る事ができる。多少毒素がある可能性は否めないが、蓬莱人ならば問題無く飲み水として活用できる。
 などと考えている間に妹紅は、倒木に服を引っかけて、川に頭からダイブした。
 水しぶきが上がる。
 潜水した妹紅は、母の胎内で眠る胎児のように丸まって、全身で水の流れを感じる。
 ぶくぶくと息を吐いてから威勢よく水面から飛び出し、川底の岩に立った。水流と空気にへそをくすぐられ、妹紅はぶるぶると震える。
「くぅ~っ、気ん持ちいい~!」
「はしたないわよ、妹紅」
「いいじゃん、人なんかいないし」
「私がいるわ」
「じゃあ構わないだろ」
 胸を張る妹紅。適度に鍛えられた肢体が描く曲線は優れた機能美を描いており、小振りながらも力強い女性の象徴は陽光を浴びた水滴が眩しくきらめいて、まるで大自然に祝福されているようだ。
 昨晩、切断した首はもちろん傷ひとつ無く、首筋に貼りついた濡れた髪は鎖骨のくぼみまで伸びていた。
「ほら、輝夜も来いよ」
「ちょっと待ってよ。私の服、脱ぐのに時間がかかるんだから」
「どうせ洗うんだ。そのまま飛び込んでこいよ、受け止めてやる」
「そんな不安定な場所で? 転ぶなら一人でどうぞ」
 チェッと舌打ちをした妹紅は、再び水に潜った。
 魚でもいないかなと目を凝らす。昨日からずっとお腹が空いている。岩陰を覗き込んだり、岩を持ち上げたりしたが、魚は見つからなかった。もしかしたらこの水、綺麗なのは見かけだけで、魚が住めないような環境なのかもしれない。
 でもまあ蓬莱人の自分達なら平気だなと、輝夜と同じ結論に至るのだった。
「ん……大丈夫そうね」
 服を脱ぐよりも先に、輝夜は水をすくって口に含んだ。
 少々の濁りはあるが、人と地を育むには十分な生命力がある。
 しかしどこか人工的な味がする。少し砂っぽいような。黒い砂がわずかに混じっているのかもしれない。
 あれこれ考えたところで外の世界の事情はわからない。自分達はずっと幻想郷に潜んでいたのだから。
 永琳なら、あるいは外の住人以上に物事を把握しているかもしれないが。
 思案していると、水の中から急に白魚のような手が飛び出してきた。河童か!? 一瞬そう思ってしまったのは幻想郷住人ならではだろう。しかし手は輝夜の尻ではなく手首を掴んで、川へと引きずり込んだ。あっという間に服は水を吸って重くなってしまったが、輝夜はパニックを起こすどころか冷静に水中で視線を走らせていた。したり顔の妹紅がいる。
 白と黒の髪は下流に向かって波打ち、水上から覗けば白と黒の魚が戯れているように見えただろう。
 反する色の魚はもつれ合うと、どんどん下流へと泳いでいった。あるいは流されていった。
 下流で待ち構える岩の直前で黒魚は水の上へと跳ね上がり、さんさんと陽射しを浴びた岩に着地した。白魚は岩に頭をぶつけてさらに下流へと泳いでいった。あるいは流されていった。
 黒魚の輝夜は乱れてしまった髪を手ぐしで整えると、重たくなってしまった衣服を脱いで岩の上に広げた。
 これで輝夜を構成する色は白と黒のみになる。
 新雪のように穢れ無く、触れれば溶けてしまいそうな白い肌を水滴が伝い落ちていく。妹紅と対照的に輝夜の肢体はやわらかい曲線を描いていた。胸のサイズは妹紅とほぼ同じだが、妹紅が釣鐘型なのに対し輝夜はおわん型でボリュームがあるように見える。白桃のようなお尻を上げ、背筋を伸ばして立った輝夜は太陽に向かって惜しげもなくすべてをさらけ出した。
 早く乾かないかな。
「輝夜ーッ!!」
 下流にて、水柱を立てて現れたのは額から血を流す藤原妹紅。
「よくも私を盾にしやがったな!」
「だって、盾にしないと私が頭を打っていたし、そもそも私を川に引きずり込んだのは妹紅よ」
 正論だった。
 ならば妹紅が取るべき手段はひとつ。
 逆ギレだ!
「ええい、もはや問答無用。永遠に裁かれぬその身に、この私が裁きを下してくれようぞ!」
「理不尽ねぇ」
 そう、理不尽だ。
 こんな事をやっていたら確実に友達を無くすだろう。
 だから輝夜にだけなのだ。
 こんな理不尽を押しつけるのは。
 こんな理不尽を受け止めてくれるのは。
 だから輝夜は迎撃すべく浮かび上がった。
 薙ぎ払われた森林を流れるせせらぎの空で、白い裸身が鋭敏に躍る。優雅に躍る。
「天の理、地の理、人の理、理より外れし蓬莱人はみずからを罰す! 顕現せよ裁きの鉄槌!」
 呪文を唱えた妹紅の背後に、人型のオーラが出現した。
 小さな山ほどもある巨人は雄々しく猛々しく、その手には仕置きのための棒が握られている。
 このスペルは、さすがにちょっと苦手だわと輝夜は冷や汗を流した。


 説教「永遠に裁かれぬ罪」


 閻魔様は、どこぞのメイドのように時間を操れるに違いないと妹紅は確信した。
 もう一時間は説教を聞いているはずなのに、時計は十分しか経っていなかった。
 時間の流れを遅くしてまで説教するとは、それが閻魔のやる事か!
「――とか、考えているでしょう。楽しい時間は短く、つらい時間は長く感じてしまうものです。つらいのはあなたが不真面目に説教を聞いているからです。しっかりと耳を傾け、己の在り方に真摯に向かい合えば、むしろ充実した時間として受け取れるはずです。んな訳ねーよ、とか思っているでしょう。だからあなたは駄目なのです。いいですか? あなたは不老不死。永遠に閻魔の裁きを受ける事ができぬ身なのです。永遠に罪を積み重ねる宿命――駄洒落ではありません、真面目に聞きなさい」
 藤原妹紅はその日、竹林に流れる秘密の川の穴場にて、静かに釣りを楽しんでいた。
 ぼんやりと水面を見つめ穏やかにすごしていたら、隣に、四季映姫・ヤマザナドゥが座っていた。笑顔で。
「釣れますか?」
「大物が釣れました」
「そうですか。ところで太公望殿、お時間はありますか?」
「ありません」
「まあまあ、そう言わず」
 こんな調子で説教は始まった。
 閻魔の説教は長い。しかも絶対に正しいから反論できない。正しいからつらい。つらいから嫌い。
 体感一時間が、実時間十分が流れ、妹紅の精神は磨耗していた。
 蓬莱人を殺すにゃ刃物は要らぬ、延々説教すればいい。
「――つまり、永遠に善行を積み続けねばなりません。そうしなければあなたの魂は罪業にまみれ、身も心も堕ち続けるでしょう。その先に待つのは生き地獄。いつか必ず、死後の地獄よりも過酷な思いをするでしょう」
「あーっと、閻魔様」
「なんですか、お話はまだ終わっていませんよ」
「ちょっと、気になった事がありまして」
 妹紅の表情からは少しでも説教から逃れたいという気持ちがうかがえたが、同時に疑念の気配も感じたので、四季映姫は続きを言うよううながした。
「私は不老不死だから、永遠に死なず、決して彼岸には行かない。だから閻魔様の裁きを受けられずっていうのは、よくわかりました。いや、ホントよくわかりましたから。それはそれとしてですね、彼岸の住人である閻魔様方に、寿命はあるんでしょうか? つまり、ええと、私は死にませんから、裁かれませんが、彼岸はいつまで存在するんですか?」
「一生説教されてはたまったものではない、と考えているようですが」
「いやいや、いやいやいやっ、そんなつもりは」あるけれど「ただ将来、もし彼岸に縁の無い連中だけが生き残ったら、閻魔様はどうするのかなー……と。現世に居着いて説教三昧、とか?」
 妹紅の質問はたどたどしく、明らかに説教を先延ばしにするため、あれこれ考えながら喋っている風だった。しかし、言いたい事もわかる。言っておくべきだろうとも思う。四季映姫は静かに深呼吸をした。
「聞きなさい、藤原妹紅。この世の真理は諸行無常。形あるものは生命の有無に関わらず、いつか必ず失われます。彼岸もまた然り。裁くべき生命が絶滅すれば、彼岸もまた存在理由を失い消滅するでしょう。彼岸も、閻魔も、永遠ではないのです。この世に永遠などというものは存在しませんでした。しかし、永遠を生み出してしまった者が現れました。あなたもよく知る、蓬莱山輝夜と八意永琳です。生み出されたものは蓬莱の薬。完全絶対なる不老不死を与える究極の秘法。この世に不死と呼ばれる存在は数あれど、寿命無き存在は数あれど、完璧無比の生命ではありません。唯一の例外が蓬莱の薬を飲んだ者の魂。そう、あなたです。あなた達です。この世から生命が根絶し、彼岸が消滅し、この世の時の終わりまで在り続けるものまでもが滅びても、この世の時が終わった後までも、あなた方は在り続けます。堕ちるのは死の国の地獄ではなく現世の生き地獄。人間の寿命を逸脱した時間をすごしたあなたには、その恐ろしさを多少は想像できるでしょう。蓬莱の薬とは、それほど罪深い代物なのです。一時の感情の暴走、一度きりの過ち、人が当たり前に持つ欲望だとしても、決して越えてはならない一線を越えてしまったのですから。永遠に裁かれぬ罪を背負い続け、あがない続ける。そのための第一歩として、あなたは憎しみを乗り越えるべきです。いかにお父上を侮辱されたとはいえ、そのお父上にも非があるのはまごう事無き事実。いい加減、逆恨みはやめなさい。あなたも本当はわかっているはず。気づかぬフリをしているだけのはず。蓬莱山輝夜は、あなたと永遠をともにできる数少ない人物。なればこそ、彼女への憎しみに決着をつけねばなりません。蓬莱山輝夜には八意永琳がおり、八意永琳には蓬莱山輝夜がいます。永遠の孤独に陥りたくはないでしょう。先にも申しましたが、閻魔とて永遠ではありません。こうしてお話をしている時間も、あなたの人生に比べれば一瞬にも満たぬ――寝るなッ!!」
 豆知識。
 閻魔様が常に持つ棒は『悔悟の棒』といい、これに罪状を書き込み罪人を叩くための物。罪の重さに比例してその重みを増す。相手が永遠を生きる蓬莱人ともなれば、その重さは。
 凄まじい轟音が竹林を揺らし、妹紅は顔面から川へと叩きつけられた。その衝撃で今度は大地が揺れる。
 当然必殺の威力。藤原妹紅は死んだ。すぐ生き返ったけど。
 川の中から見上げてみれば、四季映姫様がとても素敵な笑顔で見下ろしていました。
「さて。先ほどの話をもう少し詳しく、丁寧に、十倍ほどの長さで丁寧にお話しましょうか」
 堕ちるのは地獄ではなく生き地獄らしいが、まさしくこれが生き地獄に違いないと妹紅は確信した。
 死にたい。そう思いながら、妹紅は天を仰ぐ。藍色の鳥が空を飛んでいた。
 今すぐ翼を広げて飛び立ちたい。閻魔様が追ってこれない宇宙の果てまで……。


 直撃を受けた輝夜は身を護る物がなにも無いまま、河原にあった巨石へと突っ込んだ。やわらかな肢体の輝夜といえど、その落下速度が生み出すエネルギーは岩をも砕く。
「ふはははは、見たか、逆恨みはこの藤原妹紅の専売特許!」
 誇れる事ではなかった。
 全裸で誇る事ではなかった。
 未だ妹紅の背後で裁きの棒を構えている巨大閻魔の偶像にもし、自由意志があるのなら、間違い無くもう一人の蓬莱人にも鉄槌をプレゼントしたに違いない。
「妹紅……」
 岩場の陰から静かな声がした。
「あなたが私を裁くというのなら」
 銀閃が走る。
「私があなたを捌くわ」
 輝夜の衝突によって割れた岩がさらに、鋭利に切断されて崩れ去った。
 粉塵の中に立つ輝夜、その両手には長刀と短刀が握られていた。
 輝夜は相変わらず、一糸まとわぬ姿である。
 どこから出したんだ、その刀。
「さあ受けなさい、月で学んだ美しき剣の舞を!」


 宝刀「楼観剣と白楼剣」


 ――迷いの竹林。一人の剣士が、抜刀した。竹が斜めに、切れた。
 枝と葉をこすり合わせながら崩れ落ちた竹の、鋭利な切断面。
 鋭利すぎる切断面は、つまり、鋭利さがまったく足りていないのだ。
 また駄目だった。うつむいて歯を食いしばった妖夢は、静かに剣を収めた。
 パチパチと拍手がした、背後から。ギョッとして振り向き様に抜刀。
 人が、笑いながら拍手を。
 首筋に触れるか触れないかというギリギリで刃が止まった。突然の凶行に、彼女はまったく慌てない。彼女は。
「――蓬莱山、輝夜」
「居合い斬りっていうのかしら? お見事様でした」
 賛美の言葉を自嘲して受け取りながら剣を収める妖夢。
 あっ、これ格好つけてるなと輝夜は思った。
「戻し斬りを、したかったんですけどね」
 言い訳をするように妖夢は言う。
 戻し斬り。剣術の奥義のひとつだ。切断面の組織を一切潰す事無く斬る事により、真っ二つにしてもくっつければ元に戻るのだ。名刀と達人、どちらが欠けても成し得ぬ奥義である。ただし。
「物理的に無理よ」
「みょん!?」
 何年、あるいは何十年と修行して成し遂げようとした事が、無理!?
「刀剣の性質、剣術の性質では無理よ。組織を傷つけず分離させる程度の能力でもあれば別でしょうけれど。そもそも戻し斬りというのは、どれだけ綺麗に切断できたか確認するためのものよ」
「お詳しいですね」
「百年前、戯れにやってみたのだけれど、物理的に無理って永琳が言ってたわ」
「そうですか……」
 月の頭脳が言っていたのなら、そうなのだろう。しかしだからといってあきらめられるほど、妖夢が剣術に懸けた情熱は浅くない。ていうか。
「あれ? でも、私のお爺……師匠は私の前で戻し斬りを……」
「それは多分、剣術ではないもっと別の技術だと思うわ。精神とか霊魂とかの。あるいは刀剣の完成度は別に、そういう特殊な能力を持った妖刀や魔剣だったのかもしれないわね。どんな刀で?」
「この楼観剣で」
 鞘から半分ほど引き抜かれ、輝夜は冷たい輝きをじっと見つめた。
「じゃあきっと、お師匠様が特別だったのよ」
「真摯に剣術に打ち込めばできるようになると……剣の指南の中での事だったので、剣術のはずですよ、戻し斬り」
「それよりもう一度やって見せて、ほらさっきの、えーと居合い斬り」
「居合い斬りじゃありません! だいたい居合い斬りは大道芸のようなもので、居合いという技術はもっと実戦的な」
「じゃあ決闘しましょう」
「なんでそうなるんです!?」
「最近、妹紅が竹林にも里にも顔を出さなくて暇なのよ。紅魔館で遊んでるみたい」
「じゃなくて、どうして決闘なんて」
「あら、月にいた頃に剣舞を嗜んだわ」
 舞と一緒にするなと、妖夢は少々カチンと来てしまい決闘の申し出を受けてしまった。
「じゃあさっそく。偶然竹光を持ってて助かったわー」
 竹の枝に、藍色の羽の鳥が留まっていた。
 その鳥だけが見守る中、魂魄妖夢は惨敗した。
 輝夜の剣は術ではなく、確かに舞だった。舞踊であった。
 妖夢は思い出す。魂魄妖忌が言っていた、八雲紫が言っていた、西行寺幽々子が言っていた。
 ――地上の民は、決して月の民に勝てない。
 輝夜は月から堕ちた姫で、悔しさから妖夢は泣き出してしまった。感情を吐き出す。
「やっぱり、私じゃ駄目なんだ……お爺ちゃんみたいな、立派な剣士にはなれない……」
 才能に限界を感じていて、祖父が見せてくれた戻し斬りを試してみたが成功せず、本当は昨日の時点で泣き出してしまいそうだった。輝夜が現れなければ。そして今日。輝夜に負けて泣き出してしまった。
「私には、楼観剣を使う資格が無い。私が使う楼観剣は、斬れないものばかりだ……」
「でも、お爺さんはあなたに剣を託したのでしょう? だったらまず、才能の限界を斬っちゃいなさいよ」
 事はそう単純な話ではない。そう妖夢は思った。
 しかし、単純にそれだけに励めばいいのかもしれないとも、思ったのだ。
 そうして妖夢は輝夜に頼んだ。
「いつか私が私の剣と技に納得ができた時、また、私と決闘してください。今度は負けませんから」
「えー、やだ」
「みょん!?」
 ここはOKする流れのはずだ。誰だってOKする。妖夢だってそうする。
 しかしそんな常識、幻想郷には通じないし、宇宙人には通じない!
「だって妖夢の方が強いって、もうはっきりわかってるじゃない」
「えっ。だってさっき、コテンパンにやられちゃって……」
「だってさっき、頭に血が上って剣が乱れていたもの。あれなら舞でだって勝てるわ。でも心乱れず剣を振るえていれば、私なんて手も足も出なかったはず。あなたはまず心を鍛えたら?」
「むう……確かに剣に限らず武芸は心技体がそろってこそ」
「じゃあ後は心と技と体だけね」
「全部!? 技では勝ってるって言ったのに!?」
「私より剣が強くたって自慢にならないじゃない。技も体も磨かないと」
「うぅ、正論すぎて反論できない……どこの閻魔ですか、あなたは」
「閻魔と聞いて」
 唐突に、忽然と、蓬莱山輝夜と魂魄妖夢の前に四季映姫・ヤマザナドゥが現れた。
 ぎょっとして身体を固めてしまった隙に、四季映姫は二人の肩に手を置いた。
「どうもこんにちは。心技体のうち、心を清く正しく鍛えられるお説教はいかがですか?」
 無論断ったが、その程度で閻魔様が引き下がる訳もなく、二人は数時間ほど説教を受けた。
 不憫だと哀れんでいるあなた。そう、そこのあなたです。
 ほら、あなたの後ろにも閻魔様が……。
「ホラー扱いはやめなさい」
 ほら、ホラー。閻魔様は駄洒落好き。
「違います」


 川のせせらぎ、血に染めて。
 藤原妹紅の斬殺死体、河原にしがみついて必死に流されまいとしていた。
「ぐぬぬ……おのれ輝夜、スプラッタな真似しやがって……18歳未満のお子様が見たらどうするんだ」
「素っ裸で言うセリフじゃないでしょう」
 と、妹紅の前に舞い降りた輝夜。ちゃっかり服を着ていた。
「ああ! ずるい!」
「だって、撃ち合っている間に乾いてしまったんですもの。妹紅と違って露出癖は持ってないの」
「私だって持ってない! くそっ、ちょっと服を取ってくる」
「行ってらっしゃーい」
 水を赤く染めていた半身は、いざ水から上がってみれば傷ひとつ無い綺麗なものだった。
 そう、瀕死っぷりを強調するための演出でわざと再生を遅らせていたのだ。無駄に芸達者。
「さてと」
 空中で弾幕ごっこをしている間に、だいぶ川上に来てしまった。だから妹紅は川下へ服を拾いに行った。川上に行ってみようと輝夜は思った。急がず歩く。靴越しに伝わる小石の感触を楽しみながら。せせらぎの唄を聴きながら、口ずさみながら。
「かーえーるーのーうーたーがー」
 魚影無し。
「きーこーえーてーくーるーよー」
 カエルの姿も鳴き声も無し。
 水の音だけが、輝夜の中で大きくなっていく。
「かーえーるーのーうーたーがー」
 倒木まみれの森はまだまだ続く。無事な木々も何本か見られ、草花もあって、生命が死滅していない事は純粋に嬉しい。
 でもそれだけではさみしいと思ってしまうのは、欲張りなのだろうか。
「きーこーえーてーこーなーいー」
 聞こえたらいいのに。
 聴こえたらいいのに。
「かーえーるーのーうーたーがー……」


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第五戦】
【時には昔の話ばかり】

「ええい、どこにいるんだ」
 高々と飛翔し、東西南北も見渡す妹紅。
 服を着て戻ってみれば輝夜がおらず、こうして空から探しても見つからない。
「一人でどこほっつき歩いて……」
 背中に紅蓮の翼を広げて自分の姿を主張しても輝夜は出てこない。無視されている可能性もゼロではないが、輝夜の場合は概ね素で気づいていないだけである。
 舌打ちをする妹紅。
 川上は山林となっているが、黒い砂漠との境界線がやけに規則正しい。
 恐らくこの川も森も、外の人間が人工的に残したものだろう。世界を汚染し滅ぼしたのが人類ならば、人為的に自然環境を守ろうとしたのもまた人類。その矛盾は故事と異なり、矛が強すぎた末路がこれだ。
 しかし外の世界の調査をしていた永琳の話によれば、地球環境を保護するための運動もエスカレートし、地球のため人類を抹殺しようなどと戦争を起こして余計に汚染を進めてしまった事もあったらしい。
 そういえば、外の調査に出かけたのは永琳だけではなかったな。
 外の世界。か。
 うつむき、ちょっと考え事にひたろうかと思ったら、眼下に蓬莱山輝夜がいた。倒木の下をあさっている。
「ふ、ふふふ……見つけたぞ」
 挨拶代わりに炎の羽根を一枚投げた。
 トスッ。
 後頭部に刺さった。
「避けろよ」
 呆れながら降下しようとしたら、羽根が刺さったままの輝夜が急上昇してきた。
「なにするのよ」
「いやー、見つけたから、見失わないよう目印でもと思って」
「目印って、頭蓋骨にまで届いちゃってるじゃない。死んだらどうするの」
「その時は泣いて謝るよ」
「つまり泣くつもりも謝るつもりも無いのね」
「えーと。うん、そう」
「これだから妹紅は。昔から反省ってものをしないのね」
「お前だって反省とは無縁な人生送ってるだろ」
「私は過ちを犯さないから反省する必要が無いのよ」
「ところでなにしてたんだ?」
 疑問を投げかけると、無言のまま輝夜は降下し、倒木をポンポンと叩いた。
「これ、どかしてくれないかしら?」
 妹紅も降下し、一際大きい倒木を見た。
 この木がどうしたというのか。
 壊すのは駄目なのだろうか。
「じゃ、ちょっとどいてろ」
 とりあえず風を起こして転がせばいいか。


 悶死「衝撃の黒歴史」


 ゴッドブレス ガンダム
 ブレスは祝福と吐息のダブルミーニング。白、緑、青のカラーリング。
 地球の古代神殿に祀られていた石像から現れた黒歴史時代の機械人形。
 かつて地球人類と火星移民者の戦争で猛威を振るった最強の機体。

 基本武装
 マサムネ・ブラスター 高出力のビームサーベル。ビームは細くあらゆる物質を溶断する。
 ロングレンジ・ギガ・ビームライフル 長距離射撃、狙撃能力に優れ、オートターゲットで百発百中。
 ゴッド・ハンド 手のひらに装備されたアンチビームフィールド発生装置。あらゆるビームを拡散させる。
 エンジェル・ウイング 背部に生えた翼型の反重力装置により優れた姿勢制御と空中機動を可能とする。
 ツイン・ライジング・キャノン 両肩に搭載。太陽のエネルギーを吸収して放出する最大火力の兵器。
 タカマガハラ 人為的にプラズマストームを発生させる気象兵器。自機以外の動きを阻害する。

 サナ・E・W・ヴァレー
 ゴッドブレスガンダムのパイロット。
 東=EAST 風=WIND 谷=VALLEY
 地球人と火星移民者のハーフ。紅と藍のオッドアイ。銀髪。
 戦場で不殺(ころさず)を貫くその姿勢から、聖女と崇められるエースパイロット。
 地球と火星の架け橋となるべく奔走する。
 また、彼女には隠された悲しき過去があり――。

「ぎゃああああああ!!」
 守矢神社の一室に悲鳴が轟いた。せっかく持ってきたお茶とスイーツを、早苗は落としてしまう。
「ど、どうした?」
 妖怪の山に来たついでに遊びに来た妹紅は、驚愕に満ちた早苗の表情と、床に落ちたお茶とスイーツを見比べていた。その手元には、早苗が中学生の頃に妄想を書き連ねた秘密のノートがあった。
「な、ななな、なに勝手に読んでるんですかぁー!?」
「えっ? いや、本棚の裏に落ちてたから、拾って……」
 それは落ちていたのではなく隠していたのだが。
「これ、なにかのSFアニメの設定か?」
「いや、その、あの、ですね」
「ゴッドブレス……なんとかって、堂々と最強って書いてあるの、凄いな。よっぽど強かったんだろうな」
「ぐあああああああああ!!」
「武器がさ、マサムネとタカマガハラは日本のだけど、ゴッドとエンジェルって外国のだろ? 和洋折衷って奴?」
「ぼえええええええええええ!!」
「不殺じゃなくってさ、普通に"殺さず"でいいんじゃない?」
「じゃおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ん? 早苗、どうしたんだ、壁に頭なんか打ちつけて」
 幻想郷はすべてを受け入れます。それはそれは残酷な話ですわ。


 神の息吹きにより倒木は転がって、後方にあった岩にぶつかって止まった。
「で、この木がどうしたって?」
「下敷きになってたのよ」
 輝夜は倒木のあった場所から、一枚の羽根を拾った。
 黒々としたそれは、鴉の羽根だろうか。
「当然、木が倒れる前に抜けたものでしょうけれど、鳥だってきっと生きているわ。妹紅」
「……そう、かもな。私達がまだ見つけてないだけで、鳥の一羽や二羽、そこら辺にいるよな」
 植物以外の生物の残滓。
 妹紅の胸に希望が灯り、ふいに昔を思い出した。
「なぁ輝夜。あいつ、もしかしたら外の世界で生きていないかな」
「無理よ。幻想郷の住人は、外の世界では存在を保てない。私達のような例外を除いて」
 幻想郷を維持するため、外の世界の情勢を知る必要に迫られ、妖怪の山から一人の天狗が名乗りを挙げた。
 外の世界を取材して、幻想郷の皆に伝えると意気込んだ彼女は、何人かの仲間とともに博麗大結界の外に出て行った。報告はたった一度だけ。
『やはり外の世界で我々が存在を保つのは不可能。科学力は妖怪の山をはるかに越えています。消滅する前に戻りますので、妖力の補給のため最高級のお酒を用意しておいてください』
 天狗総出で最高級のお酒を用意した。
 立派に務めを果たした英雄の凱旋を誰もが待っていた。
 妹紅も。
 輝夜も。
「ところで妹紅」
「なんだい輝夜」
「さっきのお返しよ」


 廃品「文々。新聞創刊号」


 ある日、輝夜は竹林にて古い新聞を見つけた。『文々。新聞』の創刊号だった。
 丁度『永遠亭のお姫様のコレクション展覧会』の最中だったので、最新の宝物として飾ってみた。
 取材に来ていた射命丸文が悲鳴を上げて創刊号を抹消しようとストームを起こしたが、永遠亭脅威の技術力で作られた保護ケースはびくともせず、展覧会に来ていたお客さん達が風のせいで転んだりして怪我をしてしまった。永遠亭での出来事なのですぐ治療できたが、この一件は展覧会に来ていた他の天狗達に記事にされ、挙句、大暴れしている時にめくれてしまったスカートから覗く藍色のパンツのカラー写真も新聞に載せられてしまい、射命丸文はしばらく失踪した。
 永琳は『文々。新聞創刊号』はさすがにコレクションとして不適切ではと忠言したが、今回の騒動を思い出とした蓬莱山輝夜は頑として『文々。新聞創刊号』のコレクション入りをゆずらなかった。
 その後、謎の廃品回収業者が頻繁に永遠亭を訪れたらしい。
 幻想郷はすべてを受け入れます。ギャグに割り当てられた小話さえも。それはそれは残酷な話ですわ。


 後頭部に炎の羽根を刺したままの輝夜。
 眉間に鴉の羽根を刺されて仰向けに引っくり返っている妹紅。
 もしネタ探しに必死なブン屋がいたとしても、こんな光景は日常茶飯事すぎて記事にならない。
 でも、空を見上げればあの面倒くさいブン屋が飛んでいるような気がして――。
 羽ばたく音がした。ハッと見上げる妹紅と輝夜。
 青空の中、黒い翼で飛ぶ一羽の鴉がいた。
「は、はは、はははっ。輝夜、鳥がいたぞ、輝夜よ」
「そうね、今日は焼き鳥かしら」
 起き上がった妹紅は、ニッと笑った。
「焼き鳥は撲滅すると宣言した。全力で妨害させてもらうぜ」


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第六戦】
【悪魔法のベストフレンド】

 手頃な長さの枝を地面に突き刺し、穴を掘る妹紅。
 黙々と、倒木だらけの森林で見つけたちょっとした広場に穴を掘る。
 珠のような汗を浮かばせて、すでに自分が横になって入れるほどの穴が掘れている。
 こういう時、あの悪戯兎ならさぞ効率よく掘るのだろう。
 そもそも落とし穴用スコップを常備していそうだ、生憎妹紅は素手で掘るか石で掘るか枝で掘るかしかない。
 スコップやシャベルとまでいかずとも、もっとこう、土を掘り返せる道具は無いものか?
「ド畜生、面倒くせぇ!」
 怒鳴りながら妹紅は跳躍した。
 夕陽を浴びて紅色に染まった妹紅は、みずからが掘った穴に向けて枝を振り上げる。
 注ぐ。
 そのまま投げては土に刺さるか折れるかしてしまうだろう棒っきれに、己を注ぐ。
「ぐっ……ぐぐっ」
 右腕に込められた腕力と妖力。
 それらを霧散させて、妹紅は力無く枝を手放した。
 穴に転がった枝を眺めながら、ゆっくりと降下する。
 使い道は言い訳ができる。
 だが動機には言い訳できない。
 面倒くさい。イライラした。八つ当たりしたかった。
 そんな理由では両者に申し訳ない。
「ただいまー……どうかしたの?」
 夕焼けの方角から戻ってきた輝夜は、汚れを知らないと評しても過言ではないほど美しい指を土まみれにして、藍色の花を持ってきていた。根っ子を包む土の塊ごと。
「はかどらない? 楼観剣と白楼剣は?」
「使えるかよ、こんな事に」
「妖夢は気にしないと思うわ」
 妹紅は穴に飛び込み、素手で穴を掘り始めた。
「私とお前が気にするんだよ!」
「そう……そうね。ありがとう」
「なにが」
「私を気遣ってくれて」
 輝夜の手が土だらけだから、妹紅も手を汚そうという気持ちになった。枝で掘るより効率は悪いが、土の匂いをより身近に感じられる。爪が割れるのも構わず妹紅は掘り続けた。
「手伝うわ」
 輝夜も真似をして、素手で穴を掘り始めた。
 完全に日が没してからようやく、二人はようやく発見した外の世界の人間を、穴に埋めてやる事ができた。
 一緒に花を植えてやる役目を輝夜にゆずった妹紅は、先に川まで戻って手を冷水にひたした。傷口に沁みる。痛みは生きている証だという言葉を、長い人生の中で何度も聞いた事がある。実際に輝夜と殺し合い、受ける苦痛によってみずからの生を実感できた。どれほど――空虚だった人生が輝夜のおかげでどれほど救われたか。
 終わり無き、不死の道。
 迷い込んでしまった愚かな人間の手を取ってくれた輝夜に、あんなにも手を汚させてしまって。
 情けなくて、涙が出そうに――。
「ムーンプリンセス・ブリリアントキック!!」
「うおあー!?」
 背中に衝撃が走って、川に顔面から突っ込んでしまう妹紅。
 しかも浅かったので川底の石に顔面を強打。
「わーい、もこたんINしたお!」
 ぶくぶくと泡を吐き、ついでに再びせせらぎを血に染めた妹紅は岸に両手をつくと勢いをつけて上半身を起こした。
「なにしやがるバカグヤァァァアアアッ!」
「なにって、お昼に水に引き込まれたお返し?」
「夜に、お前なー! 日が沈んで、寒くなって、輝夜ー!」
「自分で燃えればいいじゃない。外来語で言うとセルフバーニング」
「こんな森の中で使えるか! 成長が早くて生命力の強い竹林だから許されてたんだよアレは!」
「まあ、そうだったの」
「だから!」
 額から血を流したまま、妹紅は夜空に飛び上がった。
 その手のひらに槍を握りしめて。
 実体の無い槍。
 夜の王。不死者の王。
 神の槍の名を冠しながら、幻想郷では悪魔に使われたその超高速の一撃が放たれようとしている。
「そっちがそう来るなら、こっちはこれよ」
 両腕を水平に広げた輝夜は、歌うような詠唱をする。
 すると袖から出てきた五色の宝石がふくれ上がり、両腕で抱えられるほどの大きさとなった。
 哲学者の石とも呼ばれる錬金術の到達点。
 魔法使いの叡智の結晶。
「く、くク、ハーッハッハッハッハッハァッ!」
 妹紅は笑う。悪魔のように残忍に。
「ふふっ……」
 輝夜は笑う。魔法使いのように不敵に。
「貫く!」
「弾く!」
 同時にその弾幕は放たれ、夜の闇を真紅に染め上げた。
 その光景、まさしく紅魔郷。


 魔槍「スピア・ザ・グングニル」


「私が吸血鬼だからよ」
 ベランダのテーブルで優雅に紅茶を飲みながら、レミリアは曇天を見つめていた。
「わからないな。なんでそれが死ぬ理由になる? 地底に避難すれば助かるんだぞ」
 壁に背中を預け、腕を組んだ妹紅が眼差しを細める。
「吸血鬼はね、故郷を離れられないのよ」
「お前はここにいるだろ」
「紅魔館の土地ごと引っ越してきたからな。紅魔館を幻想郷に転移させた時の魔法陣が地下にあるのだけど、それを解除しないと新しい転移魔法陣は組めないし、術式も複雑ときている……パチェがいないんだ、どうにもならん」
 そういうものか。
 妹紅はベランダの端に行くと、手すりに飛び乗って眼下を見渡した。少しずつ色褪せつつ緑。わずかに濁ってきたように感じられる湖。
「外の世界は、どうなってんだ……」
「人間らしく戦争だろ」
「汚染ってなんだよ、クソッ」
「死体だの糞だので疫病を蔓延させる人類に対し、それは今さらというものよ」
 外の世界の状況は幻想郷の自然環境の悪化から予測できるし、忘れ去られて幻想郷に現れた機械兵器を見れば、戦争は宇宙にまで拡大し、もはや幻想郷住人の想像できるスケールではなかった。機械兵器よりも早く幻想郷に入ってきた映画フィルムやビデオテープなどで、SFというジャンルのフィクションも長く親しまれてはいるのだが、それを現実のものとして受け取るのは別問題だ。
 所詮、外の世界に依存した箱庭にすぎない。そんな事を昔、誰かが言っていた気がする。
「幻想郷は人工の星の落下の余波によって地表は吹き飛ばされる。これはもう、避けようのない運命」
「八雲のに頼めば、どうにかならないのか? 紅魔館ごと空間転移とか。あれで一応賢者様だ」
「馬鹿を言え。あいつ等には博麗神社の維持だけで手いっぱいなんだ、他を護る余裕なんて最初から無い」
「だからってお前が紅魔館の人柱にならなくても……」
「妹紅、私はね」
 レミリアはまだ紅茶が残っているカップを、ベランダから放り捨てた。
「あなたより、飽きっぽいのよ」
 庭園でかろうじて藍色を保っていたホトトギスの花に紅茶が降りかかり、カップの割れる音がした。
「あなたと違い、終わりもある」
 そうか。
 ならばもう、妹紅が語るべき事は無かった。
 でもあの娘は違うと、レミリアは言った。
「あの娘の瞳はまだ、キラキラと輝いているわ。だから妹紅、同じ色の名前を持つよしみで、フランドールを連れて行け」
「……ああ。フランは今?」
「さっき文句言ってきたから、本気のグングニルで腹ぶち抜いて地下に放置」
「悪魔だなお前」
「そうよ、知らなかったの?」
 知ってるけど。
「でも、フランも吸血鬼だろ? 土地に縛られてるんなら」
「生家の土を入れた棺桶がひとつだけ残ってるわ。それに入れておけば傷も治るし、仮に紅魔の土地が失われても、吸血鬼という存在を保てるはず」
「逃げれば紅魔館と土地は滅亡し、吸血鬼は存在を保てない。棺桶は一人分しかない。だから紅魔館を護れるかどうかわからなくても、土地のために、お前が命を捨てるのが一番理にかなっている……って訳か?」
「まさか。私一人が人柱になったところで、紅魔館を護り切るなんて不可能よ。理にかなうというなら、棺桶無しでもいいから私も地底に避難するべきなのよ。魔法や秘薬を駆使すれば、故郷の土が無くてもあるいは、存在を保てるかもしれない」
「そうすればいい!」
「飽きたっつってんだろ」
 吐き捨てるように言うレミリア。
 瞳は精彩を欠き、人生に疲れた老人のような希薄さを感じられた。
 妹紅は拳を握った。爪が食い込んで、血が流れるほどに。
「……遺言とか、ある?」
「無い。ああ、でも、フランを任せるのだからお礼をしないと。そうね。私のスペルカード、好きなのひとつだけ使用権をゆずるわ。不夜城レッドとかお前にも似合うだろ。使わせてやる」
「謹んで辞退するわ……」
「そう? 残念、じゃあね」
 別れの合図か。いいだろう。
 妹紅はベランダから飛び降りた。紅魔館の中を通るより、玄関から入り直した方が地下室には近い。とっととフランドールを棺桶に入れて――迷いの竹林――人里――寺子屋――魔法の森――妖怪の山――守矢神社――紅魔館――名残惜しいが、地底に避難しよう。地表が薙ぎ払われても、みんなで力を合わせて再建すればいい。その一員になるのだ。
 玄関の重たい扉を開いて、中に入ろうとし、妹紅は後ろ歩きでベランダを見上げられる位置に下がった。
「おいレミリア! 竹槍弾幕の強化版って事で、グングニルもらっとくわ!」
「不夜城レッドじゃないのっ!?」
「グングニルでいいっつってんだろッ! じゃあな!」
 これにて終了。
 妹紅とレミリアの物語は終了した。
 後日談として、託されたフランドールや、頂戴したグングニル、シェルター扱いされた地底の住人とのいざこざなど、まだまだ話は尽きない。
 でもこれがレミリアと交わした最後のやり取りだったので、ここで終了と言っていいだろう。
 妹紅とレミリアの物語は。
 だからここから先は。
 妹紅の知らない物語。

「あれでよかったんですか?」
 ベランダに現れる、紅色の髪の中華美人。紅魔館の門番、最古の従者、紅美鈴。
 妹紅とフランドールの気が、すでに深き地底へと逃れたのを美鈴は感じていた。
 みんなみんな地底に避難してしまった。
 だが地上に残っている気も幾らか察知できる。生まれ故郷や築いた里と運命をともにしようとする酔狂な輩が、自分達以外にいても不思議ではないだろう。酔狂な輩さん達とは友人知人という訳じゃないので、各々好きに朽ちればいい。
 従者のように。
 主人のように。
「なんだ、まだ残っていたのか」
 椅子の背もたれに体重を預け、曇天から暗雲へと変わった空を眺めているレミリア。
 その対面に座る美鈴。
「門番ですから、紅魔館の」
「だったら門を離れるな。お前はクビだ、失せろ」
「クビになったのなら、私はもう自由ですね。逃げるのも自由。ここに居座るのも自由」
「フンッ。私の手元に残ったのは居眠り門番だけか、泣けてくる」
「泣いていいですよ」
「お前のために流す涙は無い」
「酷い! 悪魔ー」
「悪魔だよ、知らなかったのか?」
「知りませんでした。妖怪からも人間からも愛されるお嬢様が、あの恐ろしい悪魔だったなんて!」
「不敬な奴だ、地上が滅びる前に滅ぼしてくれようか」
「それは光栄。でも一個、質問いいです?」
「なんだ」
「なにをお待ちになっているので? まさか本気で星落としの余波から紅魔館を護ろうなんて思ってないでしょう。幻想郷の賢者や実力者達が結集して、博麗神社ひとつを護れるかどうかの瀬戸際なんですから。どうせ死ぬつもりなら、お嬢様も博麗神社の盾になろうとするでしょう?」
 少し間を置いて、吸血鬼は答えた。
「知っているか?ペットを飼っていた奴はな、死後、天国でペットが列を作って待っているそうだ」
「それは感動的な光景ですね」
「だが悪魔の狗ともあろう者が、おとなしく地獄で待つなど瀟洒ではない」
「というと?」
「当然、ご主人様を迎えに来るに決まってるだろう」
「忠犬でしたからねぇ」
「だが問題は」
「なんです?」
「あの狗はペットではなく――」
 家族だからなと、レミリアは笑った。
 美鈴も笑い、ともに幻想郷の崩壊と、家族との再会を待った。

「ていうか、ペット飼ってる人はペットも家族と思っていませんか? お嬢様の発言はペットは家族ではないと言っているように感じられます。ここはメイドは家族とか言い直した方がですね」
「綺麗に決めたのに台無しにするな居眠り門番ッ!!」
「ペット飼ってる人に気を遣った結果がこれか……ぎゃあああっ!!」
 人生最後の漫才を邪魔するのもどうかと思うので、瀟洒なお迎えはニコニコ笑いながら待つ事にした。


 魔宝「賢者の石」


「竹を植えさせたわ。だって、やっぱり竹林の方が住み心地がいいんだもの。ちゃんと道は作ってあるから、前の竹林みたいに人が迷ったりはしないわ。でも盆栽や花壇ならともかく、自然を自然に任せず人工によって自然を造るのは不自然よねぇ。ところで永遠亭になにか御用?」
「喘息の薬を」
「そう。でも困ったわ、永遠亭への帰り道がわからなくなってしまったの」
 まあ、地上にあった様々なものを再建している最中だ。永遠亭は医療設備の確保という名目もあって、真っ先に再建された施設のひとつだ。建物だけではない。魔法の森も、迷いの竹林も、人の手を借りねば再生できぬほどの被害をこうむっている。
 作りかけのややこしい竹林、迷子になっても仕方あるまい。だがなぜ笑いながら言う。それでいいのか永遠亭の姫。
「だって、竹を植えたのはイナバだもの。私は知らないわ」
「あなたに道を訊いたのが間違いだったようね」
 パチュリー・ノーレッジはうんざりとした調子で竹林を歩き出した。ついでに探知の魔法を唱え、永遠亭の方角を探る。
「結界の類は張ってないわよね?」
「さあ?」
「ムキュー……発見、あっちね」
「連れてってー」
「……勝手になさい」
「ところで、ちょっと寒いわね」
「そうね、幻想郷も寒くなったわ」
「着火」
 竹やぶ焼けた。そんな回文が脳裏に浮かび、まさか竹に火を点けようとしているのではとパチュリーは振り返った。輝夜は、いつの間にか取り出していたミニ八卦炉に火を灯していた。その気になれば山も焼き払えるマジックアイテムだが、暖房器具としても優秀だ。
 まあ。考えてみれば、従者に植えさせた竹林を焼くほど愚かなはずがない。多分。恐らく。きっと。
 それより、輝夜はなにを考えてこのタイミングでミニ八卦炉に火を灯したのか。
 単に自分が暖まりたかっただけ? 喘息のパチュリーを気遣って? 昔いたただの魔法使いを思い出させるため?
 二人は横に並んで歩き出した。
 パチュリーは口数の多い方ではない。会話をするにしても、たいていは相手から口を利いてくる。
 今回は違った。
「ちょっといいかしら?」
「なぁに? 長生きの秘訣?」
「それは知ってる」
「若さの秘訣?」
「それも知ってる」
 蓬莱の薬は反則すぎる。
 魔道を歩むパチュリーとて、手を出すつもりは毛頭無い。
 というか、このままではいつになっても自分のターンが回ってこない。間髪入れずパチュリーは言葉を続けた。
「あなたのイナバが死んだ時、どうしたの?」
 そのため少し、不明瞭な質問になってしまった。
 死に関する話題を振ったというのに、輝夜はのんびりとした微笑をたたえたままだった。
「みんなでお葬式をしたわ」
「そうではなくて、なにを感じなにを思ったの?」
 輝夜は、首から下げた人参のお守りを指でさすった。
「お爺さんとお婆さんと、お別れした時を思い出したわ」
 風は無かった。しかしミニ八卦炉の火が、強く揺れた。
 喘息のため、汚染の進んだ地上で病床に就き、先んじて地底の病院に運ばれ療養していたパチュリー。
 そのために、できたはずの事をできなかった。
 助けられたはずの親友を、助けられなかった。
 無理にでも地底に連れて行けば、魔法や秘薬を駆使すれば、吸血鬼の一人や二人救えたはずだ。
 幻想郷は外の世界に依存した、脆い箱庭にすぎない。いつかまた、存亡の危機を迎えるだろう。幻想郷の誰かが異変を起こさなくとも、外の世界の人類の手によって。幻想郷の存在を知らぬ、外の世界の人類の手によって。
 その時、自分はどうしているだろうと、パチュリーは思った。
 輝夜を見る。
 輝夜の持つミニ八卦炉を見る。
 ――死ぬまで借りるだけだぜ。
 迷惑な魔法使いだった。好きか嫌いかと問われれば、躊躇無く嫌いだと言えるほどに。
 でも。
 霧雨魔理沙という人間は。
「着いたわよ」
 探知魔法を使っていたのはパチュリーなのだが、先に永遠亭を見つけたのは輝夜だった。
 さすがに近場まで来ればわかるらしい。
 どういう手品を使ったのか、再建された永遠亭は地表ごと薙ぎ払われた永遠亭とまったく同じ姿をしていた。
 だからだろうか。同じようにという事で、迷いの竹林という迷惑な地形まで再生しようとしている。植物があれば空気も澄む。おかげで永遠亭近辺は、喘息持ちのパチュリーにとって住み心地のいい環境だった。
 それでも。
 紅魔館がもっとも賑やかだった頃に比べれば、この竹林の空気さえ濁っていると言える。
 玄関で輝夜と別れたパチュリーは、永琳から喘息の薬をもらう際、とある交渉をした。
 代金にあまり拘らない永琳は、代金ではなく代価を受け取る事を了承した。
 パチュリーはさっそく薬を吸うと、輝夜の部屋に向かった。
 戸を開けると暖かい空気が出迎えてくれる。部屋の隅ではミニ八卦炉が稼動していた。
 輝夜は。中心に白を抱いた藍色のドライフラワーが飾られた座卓にて、『文々。新聞』の最新号を読んでいた。
 スターチスだと思うが、図鑑ではもっと濃い紫色をしていたので確信が持てない。しかし花には個体差があるし、ドライフラワーともなれば色合いも多少変化しているだろう。だがこれがスターチスなら、藍色の部分は萼(がく)という部位で、花はその中央にある小さな白の事だ。本ばかり読んで知識が豊富なくせに引きこもってるから、実物を見ても確信を持てずあれこれ考えてしまうのがパチェの弱点だと、昔、言われた気がする。
 花言葉はこのお姫様によく似合うものだったと思うが、花言葉は人間が好き勝手につけたものなのでひとつの花に複数あったりして、どれが正しくてどれが間違いと明確に線引きできない。
 永遠に変わらぬ姫は、穏やかな表情で新聞から顔を上げた。
「あら、お薬はどうしたの?」
「もうもらったわ」
「そう。私、粉薬って苦手なのよね。喉に引っかかるし、むせるし。錠剤も苦手なのよね。噛まずに物を飲むのって、どうやればいいのかしら。水と一緒に飲もうとしても口に残ってしまうわ」
「要するに飲み薬が苦手なのね」
「液体の薬は飲めるのよ。蜂蜜やシロップをたっぷり入れれば」
 蓬莱の薬にも入れたんだろうか、蜂蜜やシロップ。
 いや。良薬口に苦しと言うし、禁忌の霊薬ともなれば逆に甘いのかもしれない。
「代価を、払いに来たのよ」
 輝夜に任せていては永遠に本題に入れない。
 そんな風に思いながら、パチュリーは座卓へと向かった。
「これを受け取って頂戴」
 と、パチュラーは空っぽの手を差し出した。
 ああ、そういえば、魔理沙も欲しがっていたっけ。
 出現する。
 魔性の輝きを放ち、魔性の色彩を持つ、パチュリー・ノーレッジの魔宝。
「賢者の石」
 火。水。木。金。土。
 紅。蒼。翠。黄。橙。
 五つの属性。
 五つの色彩。
 五つの結晶。
 パチュリーの周りを旋回する、賢者の石。
 その価値を、途方もない価値を、輝夜ともあろう者が知らないはずがなかった。
 喘息持ちの脆弱な魔法使いにとって、生命線にも等しい宝物だという事も。
 驚き固まっている輝夜の目を、真っ直ぐに見つめるパチュリー。
「一生分の喘息代として、これを支払うわ」
「や……そう言われても。いいの?」
 様々な宝物を、様々な形で手にしてきた輝夜も、さすがに躊躇した。
「いいの。この先、なにがあろうとも、あなたは私より、妹様より、絶対に長生きするんですもの」
 妹様という呼称に馴染みの無い輝夜は、それが誰を示すのか悟るのにやや時間を要した。
「あの吸血少女なら、確か、妹紅が気にかけていたでしょう?」
「あなたも気にかければ、より万全になる。もしこの先、妹様が困るような事があって、それを賢者の石で助けられるようだったら……お願いしてもいいかしら?」
 パチュリーにとって賢者の石とは。
 喘息の代価として支払うには高すぎる魔宝で。
 親友の妹のために支払うには安すぎる魔宝だ。
 それを。蓬莱山輝夜は察した。
「いいわよ」
 受託を理解したのか、五つのきらめきは輝夜の元へと移動し、その周囲を漂った。
 魔力の流れが繋がるのがわかる。もはや賢者の石は月の姫の所有物であり、思い通りに動く魔法の結晶だ。
「随分と簡単に引き受けたわね」
 微笑みながらパチュリー。
「だって、賢者の石があればもっと色んな弾幕で妹紅をやっつけられるもの」
 微笑みながら、輝夜。
「相変わらずすぎて納得したわ」
「それはなにより」
「ところで」
 天井から吊るされている塔の形のランプ――毘沙門天の宝塔を見上げて、パチュリーは言った。
「財宝を集める程度の能力って、あの虎の妖怪のじゃなく、この宝塔の能力なんじゃないの?」
「これをもらう前から集まってきたわよ?」
「あら、それは妬ましいわね」
「そういう時は『パルパル』って言うのよ」
「ムキュー。お断りよ」
 永遠亭に響く、二人の少女の笑い声。

 こんな友情も悪くはない。そうは思わない? ねえ、レミィ。


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第七戦】
【人が安心して眠るためには】

 ぐっすりと眠った二人は、心地よい朝日によって晴れ晴れとした目覚めを迎えた。
「あー、よく寝た」
「んー、いい天気」
「やっぱり運動した後はよく眠れるな」
「そうね、昨日は久々に激しかったわね」
 今回に限らず、事後は健全な疲労のためよく眠れる。弾幕ごっこ的な意味で。
 敷き詰めた草と葉から起き上がるとまず、髪の毛と背中についたそれらをはたき落とす。もちろん自分の背中は見えないので、お互いの髪と背を丁寧に綺麗にしてやった。仲睦まじいその姿、じゃれ合う仔猫のようだ。
 それが終わると、昨日黒猫が偶然見つけた木の実を取りに行った。大木の陰にあったおかげで折れていないその木には、赤い実がたくさんあった。外の世界の、しかも人類の歴史が終焉を迎えるほど時が流れていては、この手の知識に強い妹紅でもいったいどういう植物なのかはわからない。とはいえ、実際に口にしてみれば食べられるかどうかわかる。
「うん、大丈夫。人間は食べないだろうけど、鳥なら大喜びで食べるよ」
「まあ。それじゃあ私は食べないけれど、妹紅は大喜びで食べるのね?」
「うん、それでいいよ。独り占めしちゃっていいなら」
「あっ、ウソウソ。私も食べるー」
 とても空腹を満たせる量ではなかったが、久々に味のある物を口に入れられて二人は大満足だ。
「ふー。なにか食べるのなんて、いつ以来だ?」
「幻想郷が滅びる三日前にドライフルーツを一粒だけ食べたわ」
「私は神社で死んだり生き返ったりしっぱなしでそれどころじゃなかったからなぁ。最後の異変が起きる前か、なに食べたっけ……」
「ねえ妹紅、もうこれくらいにしておきましょう」
「なにが?」
「木の実。ほら、鳥は大喜びで食べるんでしょう? まだ生き残っている鳥がいるわ」
「ン……そうだな」
 蓬莱人にとっての食事は、決して無駄ではない。
 飢え死にしたところで生き返るが、空腹も飢え死にも苦しいし、ちゃんと栄養を摂らねば活力は湧いてこない。また食事とは空腹だけでなく精神も満たしてくれる。永遠を生きる蓬莱人にとって、食事は精神を保つ大切な栄養源だ。
 でも今は、食事が生き死にに直結するものにゆずろう。
「なあ、今日はどうする? このあたりを散策するか?」
「昨日、遺体を見つけたじゃない。探せば生き残ってると思うのよね、人類」
「あれは死後、だいぶ経ってたぞ。終末以前から死んでたんだと思う。だから、どうなんだろうな」
「どうしてこんな所で死んでいたのかしら」
「死体が飛ばされてきただけかもな。考えても仕方ないさ……行こう、鳥がこっちを見てる。実を食べたいんだよ」
 川まで戻った二人は水で空腹を誤魔化した。
 相談した結果、この川を拠点に人探しをしようとなった。
 この有り様だ。水道などの文明の利器が使えなくなって、川や湖に水を求めてやってくる生存者がいるかもしれない。
「なら下流に向かう方がいいかしら。わざわざ山を登るよりは、ほら、外の人間って自力じゃ飛べないでしょう?」
「下流か」
 一端二手に分かれ、上流も下流も探索した方が効率はいいだろう。
 しかし。
 河原に並んで立つ輝夜の横顔をじっと見つめ、その考えを振り払う妹紅。
 自分勝手な自分が恥ずかしかったが、この終末世界を一人でさすらえるほど心の強い人間ではないという自覚があった。そう。藤原妹紅は人間なのだ。幻想郷最古参が自分達になってしまった時も。どれだけ長く生きていても。妹紅はまだ人間だ。
 それは弱さだ。強さではない。
「ねえ妹紅」
 横顔を向けたまま、輝夜はそっと妹紅の手を握った。
「一緒に行きましょう」
「ン……そうだな。外の世界には馴染みが無いし、なにがあるかもよくわからない。この状況で二手に分かれるのは危険か」
「そういう事にしておきましょうか」
「他になにかあるか?」
 バレバレとわかっていても、くだらない意地を張ってしまうのが妹紅だ。
 それから二人は歩き出した、下流を目指して。
「海まで出るとなると、日本列島の、ええと。日本地図なんてもう忘れちまった」
「私も覚えてないわ。地形が変わるような戦争を何度もしているはずだし、海、ちゃんとあるかしら」
 海まで黒い砂漠になってやしないかと不安になったが、さすがに地表の七割を占めた海を埋め尽くすなどナンセンス。そもそも知識が不足しているのだ、あれこれ考え続けるより早々に実物を確認すればいい。
「さあ、川の流れとともに参りましょう」
「楽しそうだな。羨ましいよ、お前のそういうところ」
 十分後。
「飽きた」
 森を出て、川は草木の生えぬ荒涼とした大地に入った。
 見栄えのしない景色が続き、飽きた輝夜は地面に座り込んでしまう。
「飽きたって、お前なー」
「ねえ妹紅、なにかやって」
「……羨ましいよ、お前のそーゆートコ」
「ねーねー、暇ー。なにかやってー」
 なにをやれと言うのか。
 妹紅は輝夜と違って宝物を持ち歩いたりはしていない。
 というか幻想郷壊滅の時に外であれこれしていたせいで、まったく物を持っていない。
 となると、やる事はひとつ。
「仕方ない。人形劇でも見せてやるか……」
「わーい」
 にっこりと笑う輝夜。
 にんまりと笑う妹紅。
 手が、真紅に燃える。
「ただし、弾幕のなぁ!!」


 炎劇「地獄を訪ねて三千度」


 不老不死だとか、蓬莱人だとか、どんなに特別ぶっても結局、お前はただの人間でしかないんだ。
「大丈夫、作戦内容はバッチリ頭に叩き込んだ。大船に乗った気で待っててくれ」
 ただの人間でしかなかった。
「ただの人間でしか、博麗の巫女の役目はこなせないんだ。だから今回の異変は、私みたいな化物に任せとけ」
 ただの人間の分際で。
「焼死しない人間なんだ、地獄の炎が待ち受けてようと心配無用さ」
 なにを思い上がっていたのか。
「行こうか、みんな」
 死んじまえ。

 死にかけた古明地さとりが永遠亭に運ばれてきた時、すでに永遠亭だけでなく、地上は地下からの避難者であふれ返っていた。かつて幻想郷滅亡の危機に、地上の住人が地底へ避難したように。地底の住人は地上へと避難していた。
 地底がまさしく地の獄と、地獄と化してしまったために。
 それでも地獄と化した地獄に耐えられる者が、わずかながら存在した。
「はぁ、はぁ……さとり様は、お空は、まだ来ていないの? はぐれちゃって……」
 火焔猫燐は古明地こいしを背負って、互いに消耗していたが意識は保っていた。
「さとり様を助けてぇー! お願いっ!」
 その三日後。三日も経った後。
 霊烏路空が泣きながら駆け込んできた。意識を喪失し、生と死の境をさまよう古明地さとりを背負って。
 火車であるお燐、八咫烏の力を持つ空は、他の妖怪より高温に強く、灼熱に満たされた地底で救助活動を続けていたのだ。
 愛しい古明地さとりの命令で。
 優しい古明地さとりと一緒に。
 あふれ出る溶岩から逃げ惑いながら、呼吸するだけで口も喉もからからになる熱気の中で。
 さとりは死にかけ、こいしとお燐は酷く消耗し、空は八咫烏の力により高熱にほぼ無敵だったがために無茶な救出活動を続けたために外傷が激しかった。もはや、地底をよく知る地底の住人に頼る事はできない状況。
 それを期待していた八雲藍は、やむを得ず代替案を提示した。
 地底にあふれ返る溶岩と、その熱気に耐えながら、異変を解決できる人材を集結させた。
 焼死しない人間、藤原妹紅。
 魔法と科学による耐熱スーツを所有する、アリス作の自立人形達。
 それだけだった。
 異変解決は自分の役目だと乗り出してきた博麗の巫女は、人間の身で今の地底に入るのは不可能だと八雲藍に咎められた。
 地熱が花々に悪影響を与えると憤慨した風見幽香は、下手すると溶岩が噴出し地上も壊滅するから勘弁してくれと八雲藍に頼まれた。
 地底の案内が必要なはずだと強く主張した水橋パルスィは、独断専行して地底への入口を確保するも大火傷を負って意識不明の重体に陥っている。
 外の世界を追われようやく得た安住の地、幻想郷は一度、滅亡寸前に追いやられた。
 幻想郷の賢者達が力を駆使し、博麗神社を守護する事で博麗大結界をも守護し、結果的に幻想郷という世界を護り切る事に成功した。地上に存在した様々な生命と引き換えに。
 だからこそ幻想郷の住人は、幻想郷を滅ぼしてなるものかと一致団結したのだ。
 なのに。
 現状、異変解決に当たれる人材は――あまりにも少ない。
「橙、星熊勇儀の消息はまだ掴めないのか?」
「式にも探させているのですけれど、地上で姿を目撃した者はいません。やはり、もう……」
 地底の住人の救助に当たっていたのは、地霊殿の者達だけではなかった。星熊勇儀は溶岩に囲まれて取り残された妖怪の子供達を助けるために、みずから溶岩に飛び込んだという。
 助かった子供達は証言した。星熊勇儀はまだ取り残されている子供がいないか、さらに地底の奥へと確認に向かったと。
 以後の消息は掴めない。
 同時期に、他の鬼も姿を消している。
 勇儀を手伝いに行ったのではと噂されている。
「いかに鬼でも、今の地底ではそう長くは持つまい」
 苦渋の表情で八雲藍は言った。肉体と精神の強さと、観測した地底の環境を計算した上での、冷静な分析だった。
 鬼でさえ耐えられない溶岩地獄。
 挑むのは藤原妹紅と自立人形チーム。

「ここか、パルスィが切り拓いてくれた入口ってのは」
 再生がほぼ完了した魔法の森にそびえる岩山に、地底へと続く洞穴があった。漏れる熱気で周囲には陽炎が生まれている。
 洞穴の端に術式を書き込んだ八雲藍は、土を変化させて鋼鉄の扉を作り出す。内部に突入可能なよう開いた状態でだが、突入後は硬く閉ざして封印を施す。
「私はここまでだ。この先は、まさしくお前達しか活動できない」
 そう。必要なのは生存できる能力ではなく、活動できる能力。
 耐熱の結界を張った八雲藍は、その名前と同じ、藍色の呪文が書かれた符を持っていた。
「確認しておく。お前達が入ったら、この扉を閉めて符を貼り、結界を張る。異変が解決せねば符は剥がさず封印を持続させ、その間に新しい土地を探し、新しい幻想郷を築くしかない。仮に土地を見つけられたとしても、移住の過程で幻想郷住人の半分以上が死滅しかねん。頼むから、私にこの符を剥がさせてくれよ」
 剥がすのは、妹紅達が帰ってきた時だ。
「大丈夫、作戦内容はバッチリ頭に叩き込んだ。大船に乗った気で待っててくれ」
 安心させるように親指を立てる妹紅。その衣装はブラウスにもんぺという私服姿、焼死しないのは本人の能力なので耐熱の装備や結界は不要なのだ。
 彼女に続いて威勢よく騒ぎ出したのは、大昔に輝夜が永遠亭で開いた月都万象展で展覧された"宇宙服"に酷似したスーツを着込んだ人形達だ。白く分厚く全身を覆い、重く動きにくそうで、人形の姿は透明のバイザーでかろうじて顔だけ確認できる。
 人形達は元気。
「ラクショーだぜー」
「レッツ蓬莱・蓬莱に任せとけー」
「瀟洒に解決してやるー」
「私達の大活躍を見られるのは妹紅だけかー」
「アリスにも見せたかったなー」
「アリス……あんな事さえなければ……しくしく」
 威勢のいい自立人形チームだったが、アリスの名前が出るや物悲しいムードになってしまった。
 ああ、アリス、アリス、自立人形の母、アリス・マーガトロイドよ……。
 娘達の活躍を、どうか見守っていてください。
 遠い、遠い場所から……どうか……。
『ちょっと、なに私が死んだみたいなムードになってるのよ』
 と、上海人形からアリスの声がした。
 人形に通信機能も搭載しているなんて凄いや、電話要らずだね!
「軽いジョーク。あまり気にするとハゲるぞー」
 人形達を代表して蓬莱人形がおどけた。
『まったく、誰に似たんだか……』
「誰でもいいさ。こいつ等個人個人、ちゃんとアイデンティティを確立している。それでいいじゃないか」
『妹紅もたまにはいい事を言うのね』
「だからハゲなんか気にするな!」
『お前は焼け死ね』
「体質的に無理です」
『あなた達、いざとなったら妹紅を見捨てていいわよ』
「酷ぇ!」
 妹紅とアリスが上海人形を通じて冗談を言い合っているのは、やはり不安を誤魔化すためなのだろう。
 決して不真面目な訳ではない。自分にそう言い聞かせながら、八雲藍は妹紅の肩を叩いた。
「あんまりのんびりもしていられない。遠見の術で地底を観測したとはいえ、データは万全ではないんだ。導き出したタイムリミットにも誤差がある。早々に地脈の暴走を抑えねばならん。外の世界から紛れ込んだ自己増殖兵器を破壊してな」
「ナノマシンだっけ?」
「あれは精神や霊魂を持たず、ただ地球環境を破壊するために蠢くプログラムにすぎん。慈悲は不要、根絶する」
「何度も聞いたよ。さてと。みんな、準備はいいか?」
 妹紅が見回すと、耐熱装備の人形達は元気よく拳を掲げて応じた。
『それじゃ、この娘達を頼んだわよ。結界を張ったら、もう通信はできないんだから』
「それも何度も聞いたよ」
『じゃあ何度でも言うわ。私の可愛い人形達を頼んだわよ』
「はいはい。一人も欠けずにお返し致しますよ」
 うんざりした口調で妹紅は言ったが、表情は優しく頼もしい。
「行こうか、みんな」
「おー!」
 妹紅が行く。地底に通じる洞穴へ。
 人形が行く。妹紅とともに地の獄へ。
「頼んだぞ。焼死しない人間、不老不死、蓬莱人、藤原妹紅。そしてアリスの人形達よ……」
 幻想郷の命運を託し、八雲藍は術で扉に触れずに閉めると、符を放った。
 符は磁石のように扉に貼りつき、藍色の文字が唸りを上げて輝く。この封印は妹紅達が帰ってきた時に解くのだが。
 結論を言ってしまえば。
 この符を剥がす事は無かった。

 洞穴を進むとますます熱気は強まり、妹紅は身体を弱々しい光の膜で覆った。
「焼死しないんじゃなかったのかー?」
「しないけど、熱に対して無敵って訳でもない。夏は暑いし、汗もかく。だからこうして弱い炎をまとって熱を相殺してるんだ」
 先頭を飛ぶ上海人形のすぐ後ろで、並んで進む妹紅と蓬莱人形。
「足し算で余計に熱くならない?」
「ならない。理屈はわからんが。まあ、そろそろ自分の炎をまとわなきゃ靴が燃えちゃうよ」
「セルフバーニングって奴かー」
「なんだそれ?」
「和蘭がやってたレトロゲームでさ、そういう魔法があったのさー」
「でもネーミングがな……他の名前を考えてくれ」
「フェニックスオーラなんてどうよ。あれ? これマジ格好よくね、やべーよこれ、センスありすぎ。フェニックスオーラですぜ旦那? フェニックスのオーラ。ううむ、響きがグッド。ぶっ飛んでるぜベイベ」
「お前、そういう言葉どこで覚えてくんだよ……」
「そこは乙女の秘密って奴だぜー……おっと、上海どしたー?」
 先頭の上海人形が動きを止めたので、他の者の注意が前方に向いた。
 蛇のようにのたくった洞穴はいよいよ終了し、地底の旧都の天井近くに出た。
 上海人形と妹紅が顔を出してみると、赤々とうねる溶岩の流れの中、中洲のように一部の岩山などが見られた。
「建物は、みんな沈んで溶けちまったのか」
「いや、あっちのあれ、地霊殿……いや、場所は合ってるけど小さすぎるな。検索開始。検索終了。ペット小屋だね、救助活動中は、溶岩被害をまぬがれたから色々使ってたみたい」
「じゃあ勇儀さんがいるかもな」
「だね。仏蘭西、オルレアン、それから妹紅も一緒に来て。星熊勇儀、および生存者がいたら保護する。蓬莱は他のみんなを連れて最深部へのルート探索」
 テキパキと指示を出し、溶岩の上を飛んでいく上海人形。名を呼ばれた面子も後に続く。
 他の人形達は蓬莱人形の周囲に集まった。
「じゃ、私達はルート探索! 私と倫敦は中央のメインゲート、和蘭と露西亜は北部の大穴、西蔵と京は――」
 蓬莱人形も同様に、指示はテキパキとしている。
 それぞれがアイデンティティを確立しており意見も頻繁に食い違う彼女達だが、必要とあらば一糸乱れぬ結束力を発揮できる。それが自立人形最大の個性なのかもしれない。
 分散した蓬莱達は脅えず、すくまず、プールにでも飛び込むように溶岩へとダイブした。
 摂氏二千度。
 岩石の融点を超える高熱を防ぐ耐熱スーツは、魔法と科学を組み合わせて製作した特別製だ。自立人形用に開発された実験的なオプションで、いずれは人間サイズのスーツも生産する予定だったのだが、特に必要も無く、他に優先する物もあったので後回しにされていた。
 ――もし今回の事態を予測できていれば、優先して人間サイズの耐熱スーツが生産され、今回の異変に投入できる戦力も格段に増えただろう。そんな泣き言を今さら言ったとてなにも変わらない、今ここにいるメンバーで最善を尽くすだけだ。

 地霊殿のペット小屋に侵入した上海人形達は、さっそく生存者の捜索を始めていた。
 結論から言えば、取り残された生存者はいなかった。
 代わりに激しい戦闘の痕跡を発見した。
 壁はぶち抜かれ、床は踏み砕かれ、血痕が散っている。
 そして角が、焦げた角が、落ちていた。
 発見したのはオルレアンで、すぐさま上海、仏蘭西、妹紅を呼び寄せた。
 角は表面が真っ黒に焦げており、色も、艶も、消失している。
「これ、まさか」
 妹紅は角を持ち上げた。星熊勇儀の額から生えていたあの角と、同じサイズじゃないか?
 否定材料を必死に探す。
「87%の確率で星熊勇儀の角と推測」
 しかし無情に、機械的に、上海が告げた。
「馬鹿なっ、星熊勇儀は鬼の四天王なんだッ!」
「13%の確率で違うけどさ、それより大事なのは、ここで激しい戦闘があって、鬼が角を折られるほどダメージを受けたって事だよ。つまり今回の異変の元凶は鬼に匹敵、あるいはそれ以上の戦闘能力を保持してる可能性が極めて高い」
「ナノマシンがか? そういう物理的な力が強い機械じゃないって、八雲のが言ってたはずだ」
「観測データは不十分。異変の元凶の正体にも誤差があって然りだよ」
「だとしたら、先に行った蓬莱達が危ない! 通信は!?」
「さっきからやってる。通じない。溶岩のせいにしては……急ごう、手遅れになる前に」
 手遅れと、上海は言った。
 どこからどこまでが手遅れで、どこからどこまでがそうでないのか。
 わからない、今はまだ。
 蓬莱人形達が残した目印を追って、地底最深部に到達すると、溶岩の温度はさらに増していた。
 摂氏三千度。
 耐熱スーツの限界が近い。それでも人形達は臆せず姉妹を探す。
 幸運にも、最深部は完全に溶岩に没した訳ではなかった。霧の湖程度の空洞がまだ残っていた。
 そこには一対の角を生やし、さらに鋼鉄の肌を持つ化物がいた。所々破損し露出した内部には、内臓と機械が同居している。化物は三メートルほどの巨体で、半身を溶岩にひたしながら暴れ狂っていた。
 悪鬼のように。
 悪魔のように。
 相対するは耐熱スーツ装備の人形達。
 蓬莱人形。
 倫敦人形。
 和蘭人形。
 京人形。
 その四体だった。
 その四体だけだった。
「ろ、露西亜は? 西蔵はどこだ、他の……」
「反応無し。大破したものと断定。仏蘭西、オルレアン、これより援護に向かう。蓬莱達からあの化物の情報を得るまで直接攻撃は禁止、慎重に援護」
「了解ー」「了承ー」
 二体を連れ、援護に向かう上海人形。化物と戦う七体の人形。
「くっ、なにしに来たんだ、私はっ」
 妹紅も慌てて加勢に回る。七色の人形達とともに戦った。
 先に戦闘を開始した蓬莱人形達の情報によれば、異変の元凶であるナノマシンは、無機物有機物を問わず寄生し増殖し、肉体も精神も奪い取り、吸収同化するという。故に近接戦闘はできない。不死身の妹紅も無茶はできない、不死身の肉体が同化吸収されたら手に負えない。
 悪鬼のような、悪魔のような、化物は一対の角を有しており、元となった肉体は鬼ではないかと推測されたが、鬼ではないが角を持つ地底の妖怪である可能性もあり、結局、星熊勇儀や他の鬼達の発見には繋がらなかった。
 そして。
 他の人形は、という問いに。
 蓬莱人形は、全滅したと答えた。
 戦闘不能に陥った人形は、奴に寄生されないようにと溶岩に飛び込んで、焼け死んだと。
 自立人形の個性。それは異なる主義主張を持っていたとしても、多種多様なアイデンティティを確立していたとしても、必要とあらば一糸乱れぬ結束力を発揮できる事。
 姉妹の死さえも、幻想郷とそこに住まう愛しい人々を護るという使命のためなら感情を封殺し、機械的な行動を可能にする。それが、魔法と機械によって生み出された自立人形という生命体の習性であるとも言える。
 だから。
 死を悼む妹紅は、姉妹であるはずの人形達が悲しむ素振りも見せず戦う様を見て、不信感を抱いてしまった。
 だから。
 この戦いにおいて藤原妹紅は、完璧な不死性と強大な戦闘能力を有しながら、足手まといとして被害を拡大させてしまった。
 けれど。
 妹紅が悪い訳ではない。ただ歯車がうまく噛み合わなかっただけで、ただ運が悪かっただけだ。
 けれど。
 そんな風に考えられない妹紅だからこそ、人形達はがんばれた。

 さあご喝采。
 アリス・マーガトロイドの自立人形劇団、最後の演目は。
『地獄を訪ねて三千度』
 観客はたった一人、されど人形の少女達の心はこれ以上ないほど熱く熱く燃えている。
 どうかご覧あれ。人形の少女達、最後の輝きを。

 スペルカードルールの欠点。
 実戦とは違う形で戦闘経験を積み、強さを保てるルールあるバトル。
 殺し合いを封じたバトル。
 幻想郷に来る以前は当たり前だった、殺したり殺されたりする戦いはもう忘却の彼方で。
 人形達の死は、妹紅の心を深くえぐった。
 五体の人形が死に絶え、上海人形が化物のコアを捕らえる事に成功した時の事を。
「シャンハーイ!」
「ホウラーイ!」
 打ち合わせ無しで一糸乱れぬ連携を見せ、蓬莱人形が上海人形ごとコアを破壊した光景は、妹紅の目に凄惨に焼きついている。フルチャージによる最大出力の攻撃の反動で蓬莱人形の耐熱スーツは破損し、もはや、最後の生き残りである蓬莱人形もまた死を待つのみの状況となった。
「なあ、しっかりしろよ、おい。目を開けろ。返事をしてくれよ、蓬莱っ……」
「あ、ああ……もこ? よかた、無事で」
「急いで帰ろう。大丈夫だ、こんな、この程度の、アリスが直してくれるさ。そうだろ?」
「そう、だね。アリスなら、これくらい、ちょろい……もんだ、ぜ」
「ああ、楽勝さっ……」
「でも、アリスの所、より、上海達の、所が……近くて……楽そう……」
「なに、言ってんだ。お前は帰るんだ、アリスの所に。そうだろ? なあっ」
「うん……行こう。レッツ……蓬莱・ホウラーイ……」
 今にも燃え尽きそうな蓬莱人形を抱えて、妹紅は脱出を試みた。
 でも。
 外に出るにはどうしても、溶岩の中を通らねばならなかった。
 耐熱スーツを失った蓬莱人形には耐えられない。
 他に出口は。他に脱出手段は。
 そうこうしているうちに、地底は溶岩で満たされていった。
 もはや口を利けなくなった蓬莱人形を抱えて、妹紅は溶岩の波を浴びた。
 三千度の地獄に、蓬莱人形は焼失した。

 蓬莱人は肉体が消滅しても、魂だけから復活できる。
 今回、藤原妹紅は新生された迷いの竹林で復活した。
 たった一人きりで。
 たった独りきりで。
 仲間を誰一人、連れ帰れずに。
 獣のように妹紅は叫んだ。叫び続けた。
「不老不死だとか、蓬莱人だとか、どんなに特別ぶっても結局、私はただの人間でしかないんだ!」
 不死身の肉体。不死鳥の猛火。そんな自分はもう人間ではない。
「ただの人間でしかなかった……!」
 人間より強い存在だと、心のどこかで思っていた。
「ただの人間の分際で」
 それで偉ぶった訳ではない。しかし。
「なにを思い上がっていたんだ」
 あの陽気で愉快な自立人形の友人達を、誰一人欠けさせず、連れ帰る事ができると――。
「死んじまえッ!」
 死ねないから、死にたい。
 ああ、いつか、閻魔が言っていた。
 地獄に堕ちない蓬莱人は、いつか、生き地獄に堕ちるだろうと。

 あの場所が地獄だった。
 この場所が生き地獄だった。

「うわあああぁぁぁぁぁぁ……」
 誰か。誰でもいい。
 私を殺してくれ。私を裁いてくれ。
 私を――。
「妹紅」
 輝夜の声がした。
 振り返ると、顔を、包まれた。
 あたたかく、やわらかく、癒してくれるものに。
「お疲れ様、妹紅」
 宿敵に、怨敵に、蓬莱山輝夜に抱きしめられて、藤原妹紅は泣き続けた。
 泣いて泣いて、喉が枯れ果てても、悲しみは消えなかった。
 けれど、まだくすぶっていた蓬莱山輝夜への憎しみは――その日、流し尽くした。
 その光景をなにも言わずに見守っていたアリスはやはり、立ち去る時もまた無言のままだった。


「ぜはぁっ、ぜはぁっ、どうだ輝夜、地獄を見た感想は」
「こ、こんなの、霊夢クラスじゃなきゃ、クリアできないでしょ……」
 汗だくになり、地面に突っ伏してしまっている輝夜。呼吸も荒く余程こたえたらしい。
 決して地獄に堕ちない蓬莱人を生き地獄に堕とす、超鬼畜難度の弾幕。
「まさか鳳凰幻魔拳以外に地獄を見せるスペルがあったなんて……」
「地獄に縁の無いお前には、さぞつらいだろうな」
「熱くて、喉カラカラよ」
 そう言うや、輝夜は懐からひょうたんを取り出して口をつけ、ゴクゴクと。
「そ、そのひょうたんは!? 輝夜っ、まさかお前、酒を、酒を持っているのか!?」
「プハァッ。残念、中身は水よ。今じゃただの水筒ね」
「水、汲んでたのか」
 弾幕ごっこ中にやや距離の離れてしまった川を見やりながら、妹紅も水筒のひとつくらい用意した方がいいかなと考えた。竹があれば水筒のみならず様々な竹細工を作っただろう。というか、森を出る前になにか作っておけばよかった。河原の石と木を組み合わせて、石斧なんかは手軽に作れる。石斧。穴を掘る時にあれば便利だったかもしれない。
 後になって、ああすればよかった、こうすればよかったと、懲りても後悔し続けてしまうのは人類の悪癖だ。
 ひょうたんをカラッポにした輝夜は、ひょうたんの穴を妹紅に向ける。
「なんだ? 名前を呼ばれて返事をすると、中に吸い込まれたりするのか?」
「いいえ、中のものを出すだけよ」
「まだ水が残ってるのか?」
「カラッポよ」
「じゃあなにを出すんだよ」
「もちろん弾幕よ」


 鬼宝「今はもうカラッポのひょうたん」


 鬼と呼ばれる種族がいた。
 幻想郷から姿を消した鬼。
 幻想郷に帰ってきた鬼。
 そしてまた鬼は姿を消した。
 最後に鬼を見たのは蓬莱山輝夜。
 最後に見られた鬼は伊吹萃香。
 蓬莱山輝夜と伊吹萃香の間になにがあったのか?
 未だ蓬莱山輝夜は語らず、真相を知る者はいない。

「お酒をご馳走になったのよ」
「ふーん」

 異変による地底崩壊から、生存者を救助するために一丸となって挑み行方不明になったというのが、鬼が姿を消した理由ではないかと言われている。ただの噂にすぎない。はっきりしているのは、星熊勇儀が地霊殿の者と協力して地底の住人の救助に当たり、行方不明になったという事だけだ。それ以外のすべての情報は噂。推測。憶測。想像。
 だからブン屋の天狗でなくとも、その真相を知りたがる心理は当然と言えた。

「ほら、あの鬼っていつもひょうたんを持ってたでしょう? そこからはいくらでもお酒が出てくるの。それをいただいたのよ、おいしかったわ」
「あの緊急時に酒盛りかっ」

 だから、最後に鬼と会ったという蓬莱山輝夜への取材は殺到したが、頑として彼女は語らなかった。
 余程重要な、機密性の高い情報をやり取りしていたものと思われる。

「休憩時間中だったからいいのよ。それでね、目玉焼きには醤油かソースかそれとも塩かで熱い口論を交わしたわ」
「くだらない話が好きねー」

 果たして蓬莱山輝夜はなにを隠しているのか……!?
 伊吹萃香の遺言とは……!?

「彼女は塩、醤油、ソースの順に好きみたい」
「コショウはかけないの?」

 という感じに幻想郷全土が熱望している一大ニュースは、人里のファミリーレストランにて世間話のネタとされていた。
 カプチーノを飲みながら話す輝夜。
 カフェオレを飲みながら聞く天子。
 午前十時という朝食には遅すぎて昼食には早すぎる時間帯のため客は少なく、二人の席の周りはガラリと空いていたが、仮に満員だったとしても輝夜は構わず話しただろう。
 別に秘密にしていた訳ではない。
 取材に興味は無かったし、他愛のないお喋りの内容をいちいち詮索するような手合いの相手は単純に面倒だった。
「私はなにをかけるかより、焼き加減が大事だわ。その日の気分によって違うけれど」
「やっぱり、箸でつついたら黄身がとろ~りって流れる方がいいわよ」
「それもいいけれど、しっかり火を通した黄身をかじるのもおいしいわ」
「あー、なんだか目玉焼きが食べたくなってきちゃった」
「メニューにハムエッグトーストがあったわ」
「普通の目玉焼きがいいわ」
「今日のお昼はオムレツにしようかしら」
「目玉焼きは?」
 伊吹萃香に関する最後の話は、お昼ご飯の話題によって終了した。
 そんなんでいいのか。
 だが伊吹萃香がここにいたらこう言うだろう。
 そんなんでいいよ。
 笑いながら。
 陽気に。
 豪気に。
 それが鬼という種族で。
 それが伊吹萃香という奴だ。
 それに、あれはただの偶然だった。
 誰でもよかったのだ。
 誰かが輝夜だっただけだ。

 女の子同士のお喋りを終えた輝夜と天子は会計をすませて店を出て、適当に人里を歩きながら、またもやお喋りを続けた。そしてふと、天子が張り出しを見つけた。そこは酒屋で、張り出しには藍色の文字でこう書かれていた。
『銘酒 鬼の涙 入荷しました!』
 幻想郷の住人は酒好きである。
 少女であっても酒好きである。
 かつて地上以外に住んでいた二人は、地上の酒の味というものを十二分に理解できる時間をすごしており、これは買わねばと財布の中身も確認せず酒屋に入った。二人の財布を合わせて、ギリギリで最後の一本を購入できた。だからお酒は半分ずつ分けようとなり、とりあえず永遠亭へ。
「私の分はこれに入れるわ」
 輝夜の自室にて、取り出されたのはひょうたんだった。
 どこにでもあるようで、どこにもない、伊吹萃香のひょうたんだった。
「今はもうカラッポよ。効力をすべて失って、ただのひょうたんになってしまったわ」
 それでもこのひょうたんは、酒を入れるための物だった。
 あの日。
 永遠亭が地底からの避難者であふれ返っていたあの日。
『先週さー、お寺の入道に手相占いしてもらったら、死相が見えるとか言われちゃったんだよね。来週死ぬって。はっはー、今週だね。まあ、私が死ぬわきゃないんだけど、万が一もあるしさ、これ預かっといて。数十年は手入れしなくても酒は出ると思うけどさ、出なくなっても、酒瓶代わりに使ってやってよ。このひょうたんはお酒が大好きだからね。もし私が今週中に死んだら、お前の物にしちゃっていいからさ。ところで目玉焼きについて語り合わない?』
 と言っていたのだと話し終える頃には、ひょうたんは銘酒鬼の涙がたっぷりと注がれていた。
 半分ほど軽くなった酒瓶を受け取った天子は、なんとなく輝夜の部屋を見回す。
 なんだか見覚えのあるものがたくさんある。
 ミニ八卦炉に賢者の石。どちらも昔、よく弾幕ごっこをした魔法使いの所有物だ。
 天井から下がっているランプは、毘沙門天の宝塔ではないだろうか?
「長生きすれば、自然と色々萃まっちゃうものよ」
「あんたの場合は長生きじゃなくて永生きでしょ」
 呆れながら、ふと、天子は己の腰に視線をやった。
 緋想の剣。
 蓬莱山輝夜が持っても、似合いそうだ。
 くだらない妄想だったので、鼻を鳴らして笑った。
「まっ、なにが起こっても緋想の剣は上げないけどね」
「フラグ乙」
「……は?」
「古語よ、外の世界が西暦と呼ばれていた時代の。そうね、そういう事を言うと、逆にそういう事が起きちゃうって意味かしら。今までもそうだったわ」
「つまり緋想の剣があなたの物になると?」
「一千万年以内になりそうな予感がするわ」
「期間が長いわーっ!」
 さすがに一千万年も待たれたら、天界どころか地球さえ無くなってそうだ。
 その後、天人以上の不死身っぷりで緋想の剣を回収でもされたらたまらない。
 いやいや、一千万年も経てばさすがの緋想の剣も朽ち果ててしまうだろう。
 でもでも、永遠を操るこのお姫様なら。
「あっ……」
 もしかしたら、偶然ではなかったのかもしれない。
 伊吹萃香がひょうたんを託したのは、永遠の姫ならば永遠に大切にしてくれると思ったのかもしれない。
 他の宝物がここに萃まったのも。きっと。
「決めたわ。私が死ぬ時は、絶対に緋想の剣もろとも盛大に散ってやる。私は粉々、緋想の剣も粉々。これであなたには決して渡らない! ざまぁみなさい!」
「そんなに派手に散るのなら是非とも見てみたいわ。ねえ、いつ死ぬの?」
「惜しまれるどころか楽しみにされちゃった!?」
 永遠に死なないお姫様は、永遠に生きるために退屈を嫌う。
 比那名居天子、派手に死にませい!
「ムキーッ、一千万年生きてやる!」


「地獄を見せられたんだもの、これくらいはやり返さないとね」
「ぐおお……萃香のスペルの真似はやめろ、弾幕ってより物理攻撃じゃねーか……」
 顔面で地面をえぐって煙を上げている妹紅。
 蓬莱人でなければ二目と見られぬ顔になっていてもおかしくない。
 あるいはギャグ補正が無ければ。
 リザレクションしてから起き上がった妹紅の頭を、輝夜は軽く小突いた。
「攻略させる気の無い弾幕を放っておいて、よくそんなセリフが言えるわね」
「あれ、初見ノーミスクリアした奴いるぞ」
「嘘。誰よそれ」
「本気モードのアリス」
「……二重の意味で納得したわ」
「すげぇ鬼気迫る勢いでさ、生き地獄を味わったわ。終わった後はお互い精根尽き果てて、でもまあ、スッキリしたかな」
「私はまだスッキリしてないわ。もう一戦やる?」
「どうせなら、下流に向かって飛びながら撃ち合おうぜ」


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第八戦】
【天上天下レッドゾーン】

 天上天下を紅く染め、藤原妹紅は飛翔する。
「うぉりゃあー! フェニックスの尾! フェニックスの尾! フェニックスの尾!」
 天上天下を紅く染め、蓬莱山輝夜も飛翔する。
「サラマンダーシールド! サラマンダーシールド! もうひとつオマケにサラマンダーシールド!」
 炎と炎の対決。
 同じスペルをひたすら連発し、川が干上がるんじゃないかと心配になるほどの熱戦を堪能していた。
「輝夜てめぇ! いつまで私の真似してんだ! 炎以外も使えよ!」
「妹紅こそ! いつまで私の真似をしているの! 炎以外もあるでしょ!」
「お前がやめろ!」
「あなたがやめなさい!」
 どういう経緯でこうなったか、もはや記憶の彼方である。
 ただ引き下がれない。引く訳にはいかない。
 つまらない意地の張り合いだ。
 つまらない意地を貫きたいだけだ。
「くっ、このままじゃラチが明かない! 極大奥義で蹴りをつけてやる!」
「望むところよ! この究極奥義をその身に刻むがいいわ!」
 妹紅の背にある炎の翼が数十メートルという規模にまで極大化した。
 さらに、それに匹敵する高エネルギーを右腕一本に集束する。
 一方、輝夜は一振りの剣を構えた。楼観剣ではない。白楼剣でもない。
 その剣の輝きに呼応して、天が赤々と燃えた。

「地の光よ! 天を灼く剣となりて我が敵を滅せ!」
「天の光よ! 地を焦土とする剣となりて我が敵を討て!」

 天上天下が真紅に染まり、超々高熱の爆炎弾幕が世界を彩った。


 融合「フェニックスメルトダウン」
 天宝「緋想の剣」


 資源採掘の役目を終えた小惑星が、外の世界の人類に忘れ去られ幻想となった。
 小惑星は幻想郷に向けて落下を開始。午後六時前後に激突するものと推定。
 かつて外の世界に落ちた星は、余波だけで幻想郷の地表を薙ぎ払った。
 だが今回は幻想郷に直撃しようとしている。地底やシェルターに逃れたとて気休めにもならない。
 作戦は一刻を争う!
 緊急収集に応じたメンバーのみで打破するしかない!
 蓬莱の人の形、藤原妹紅。
 熱かい悩む神の火、霊烏路空。
 非想非非想天の娘、比那名居天子。
 そして永遠と須臾の罪人、蓬莱山輝夜。
 以上四名の突入チーム! 小惑星の内部破壊に出向いてもらう!!

 妹紅の疑問。
「妖怪の山の連中はどうしてるんだ?」
「シェルターへの避難誘導で手いっぱいだ」
 空の疑問。
「守矢の神様は?」
「人口が減った。信仰も減った。今回も裏方だ」
 天子の疑問。
「他の突入メンバーは?」
「連絡がつかない」
 輝夜の疑問。
「フランちゃんに任せればいいんじゃないの? 昔、隕石を壊した事が――」
「冗談じゃない」
 三人の疑問に答えたのは作戦立案者、八雲藍だった。
 輝夜の疑問に答えたのは妹紅だった。
「あの頃とはなにもかもが違うんだ。フランに無茶はさせられない」
「それにだ」
 人情から拒否の意を示した妹紅に、八雲藍が実質的な理由を明かす。
「あの小惑星は徹底した資源採掘のため、もはや核を失っている。フランドール・スカーレットの『ありとあらゆるものを破壊する能力』は通じないんだ。しかし、資源採掘のため穴だらけになって、核が無いからこそ脆くもある」
「そーなのかー。それならフランちゃんもおとなしくしていてくれるわね」
 緊急時でもマイペースなのが蓬莱山輝夜の人となりであるため、不要に反感を買ってしまう事も多々ある。
「つまり、私達でなんとかできるんだから、私達ががんばらなきゃ。だな? 輝夜」
「そうね。がんばらないとね」
 緊急時でもマイペースだから蓬莱山輝夜と一緒にいると安心できる。
 そんな風に思えるようになったのは、いつからだったか。
「じゃ、後は作戦通りに。四人とも準備にかかってくれ」

 宇宙空間から地球に、幻想郷に向かって落ちてくる小惑星の質量と速度は尋常ではなく、発達した長距離転移魔法を使ったとしても、ほんのわずかでも座標やタイミングがずれれば宇宙空間に放り出されてしまう。確実に転移するには送信機だけではなく受信機が必要なのだ。
 精鋭を送り込むための受信機は、小惑星と並んで飛んでいた。
 転移魔法陣によって幻想郷と魔術的繋がりを確保している、高速宇宙艇ヤゴコロ号。小惑星衝突の危機をいち早く察知し幻想郷に連絡したのは、操縦士の八意永琳だ。
『こちら幻想郷HQ、八雲藍だ。これより蓬莱山輝夜、藤原妹紅、霊烏路空、比那名居天子の四名を転移送信する』
「了解。姫様に会うのは何年ぶりかしら」
『27日ぶりだろう。なんのための転移魔法陣だ?』
「お茶を飲みに戻るためでしょう?」
『外世界が宇宙戦争ばかりしているから、偵察する必要があると言い出したのはお前だろう!』
「そうだったかしら。やぁねぇ、歳を取ると物覚えが悪くなって……」
『ええい、とにかく送るぞ! 送信転移開始っ!』
「はい、受信転移完了。時間が無いから感動の再会はまた今度にしてと。転移送受信室切り離し。ターゲット、廃棄コロニー第四ハッチ。射出」
 ドキッ、宇宙艇で輝夜と星空ランデブー!
 というのも魅力的だが、今回はお邪魔虫が多すぎる。それでいいのか月の頭脳。

「やっぱり空気は無いみたいね……」
 初めて体験する無重力空間でありながら、少女達はすでに適応していた。空を飛べる。重力に逆らう必要が無いというのはやはり慣れが必要だが、特殊な環境で弾幕ごっこをする事も多かったため、不慣れな状況には慣れている。台風の中よりはマシだ。
「そうだな。でもまぁ宇宙服も進化してるし、そんなに動きにくくはないんだろう?」
「ヘルメットは大きくて邪魔そうだけど、ボディスーツは身体のラインがわかるくらい洗練されてるもんね!」
「永琳が開発協力したんですもの、大気圏を突破できる程度の性能だから安心していいわ」
「……そうね妹紅、そんなに動きにくくはないわ。そうねお空、ボディのラインがよ~くわかるデザインよね……胸が平らって言いたいの? そうね輝夜、そんなに凄い性能の宇宙服なら安心よね……なのにッ」
 白い宇宙服の腰に下げられた鞘から緋想の剣を引き抜き、振り回しながら天子は怒鳴った。
「なんであんた等は真空状態で普段着のままなのよ!?」
 藤原妹紅、相変わらずブラウスともんぺ。
 霊烏路空、ミニスカートで太もも露出。
 蓬莱山輝夜、長いスカートは無重力で優雅にふんわり。
「なんでって」
「言われても」
「必要無いし」
 三人は口をそろえて言った。
 妹紅の全身が紅色に輝いているそれは、フェニックスオーラ! 不死の炎は宇宙でも消えない! なので問題無し!
 空の全身が紅色に輝いているそれは、さとり様オーラ! 八咫烏の力なので実はさとり様関係無し! さとり様大好き!
 では輝夜は!?
「八意印の環境適応クリーム。これを塗るとね、宇宙空間でも平気になるの」
「そんな便利なものがあるんならみんなに配りなさいよ!」
「ただし強力すぎて蓬莱人以外が塗ると天人だろうと神様だろうと死ぬわ」
「ちょっ、お空っ、この馬鹿姫に近づいちゃ駄目よ!」
「もう乾いてるから平気よ」
 コントをしながら少女達は進む。自前のオーラのおかげで灯りは不要だった。
 永琳が獲得した小惑星内部の地図を頭に叩き込んである妹紅と、ちょっと見ただけで覚えてしまった輝夜が先頭を歩いていた。天子もほとんど暗記しているが、細かいところは宇宙服のバイザーに地図を映して確認せねばならない。空は全然覚えてない。
 小惑星の内部は地球に存在する坑道と似たようなものだが、ところどころにある機械やらなにやらに興味津々な空が迷子になりそうなので、天子がいちいち袖を引っ張ってやらねばならなかった。
 そのため輝夜の話し相手は自然と妹紅になっていた。
「こんなお星様を資源採掘のため地球付近に持ってくるだなんて、人類も進化したものねぇ」
「その力を戦争ばっかりに使われちゃあな。それで自然環境は悪化したし、何度か幻想郷は滅びかけてるし、今回も滅びそうだ。前にもあったよな、戦争での隕石落とし。幻想郷の近くに落ちなくて助かったが、余波だけで地上は更地さ」
「外世界が滅亡するのと、幻想郷が滅亡するの、どちらが早いかしら」
「外が滅びたら自然と幻想郷も滅びるし、フェアじゃないよ」
「フェアよ。幻想郷は外の世界に依存している、寄生虫にも等しい存在。宿主が死んでも生きていられるのなら、最初から自立して生きていくべきよ」
「っと、中枢に到着したな」
 中枢はドーム状の巨大な空洞となっており、ここに小惑星の核が存在していたらしい。本来なら核を失って真っ二つに割れてしまうはずが、資源採掘の都合で無理やり繋ぎ止められていた。
 合金やコンクリートをふんだんに使った採掘設備は都市のようであったが、酷く冷たくさみしい印象を受けた。それでも地底よりうんと発展しているように見えて感心している空の肩を、妹紅の手が掴んだ。
「お空、行くぞ」
「うにゅ? どこ行くの?」
「核の炎に耐えられる私達は、機能停止しちまった核エンジンで大爆発を起こす役割だ。作戦説明聞いてただろ」
「天子さんはここでお留守番?」
「大地を操る力で、中枢から小惑星全体の地盤を操作するんだよ。輝夜は石でサポート。作戦説明聞いてただろ」
「ここで核融合しちゃ駄目なの?」
「面倒ならここでやっても爆発の威力は十分に伝わるし、幻想郷は救えるだろうな。ただし天子が蒸発して死ぬ」
「じゃあ核エンジンに行こう!」
「そうだな、行こう。じゃ、ここは任せた」
 二手に分かれる際、もっとも不安な眼差しをしていたのは妹紅だった。
 本当の意味で妹紅と和解できた日を思い出す輝夜だったが、今は、各々が全力で使命を果たす時。
 任せなさいと輝夜は胸を張った。天子も真似をした。空も真似をした。だから、妹紅も真似をした。

 気を張っている。張りすぎている。
 輝夜の気遣いで幾分楽になったが、無重力という事を除けば宇宙空間だというのに地の獄のようなここは、遠い日の悪夢を呼び覚ます。あるいは帰ってきたのかもしれない。天の地獄に。
「到着だ」
 外の世界で忘れ去られた機械技術は幻想郷にも入ってきているが、床も壁も天井も冷たい合金で構成された空間は異質すぎた。神ではなく人間の力で核融合を生み出し制御するための施設。これを爆破すれば。
「木っ端微塵に消し飛ばせばいいんだよね!」
「いや、無理」
 まだ作戦内容を勘違いしているらしい空のオツムだったが、一生懸命幻想郷を護ろうとする姿勢はとても心強く感じられた。一人じゃない安堵。一人じゃない不安。自分勝手を許されるのなら、危険に身をさらすのは自分と輝夜、それから永琳だけであって欲しかった。なにがあっても。なにが起きても。決して死なない宿命なれば、子供同士の弾幕ごっこよりも安全で安心できる。
「私が合図したら、えーっと、こっちの方向に協力して全力で核融合砲撃。そうすれば小惑星は真っ二つに爆砕して、地球落下軌道から外れて、宇宙の彼方まで飛んで行ってくれるんだ。私達は生身で大気圏を突破して地球に帰る。ここは幻想郷の上空と空間が繋がっているから、どう間違えたって幻想郷以外に落ちる事はないさ。進入角度を間違えて大気に弾かれでもしなけりゃな」
「つまり……どういう事?」
「私が合図したら一緒に全力核融合砲撃」
「天子さん蒸発しない?」
「しない。砲撃の角度が違うから大丈夫」
「天子さんと輝夜さんはどうやって帰るの?」
「クリームと宇宙服があるから、あいつ等も大気圏を突破して幻想郷に落ちる」
「わかった! 妹紅さんが合図をしたら、全力でフュージョン!」
「うん、そう」
「小惑星をやっつければ、さとり様も喜んでくれるよね!」
「ン……ああ。きっと、いや、絶対だな。大喜びさっ」
 健全で前向きな精神というのは、いつ見ても眩しい。
 こういう子は、死後地獄に落ちるような事は無いのだろう。地獄鴉なのに。
「そうそう、妹紅さん知ってる? ペットを飼っていた人はね、死後、天国に行く時に先に死んだペットが出迎えるんだってさ。うちはペットがいっぱいだから、賑やかすぎて大変だねっ」
「ああ、でも、天国はなぁ。彼岸には行けるだろうけど、幻想郷の天国はちょっとなぁ。素直に冥界で輪廻転生した方がいいと思うよ。それに、ペットが待ってるうんぬんって、死後の天国を幻想の存在だと認識してる外の世界の人間が考えた話だぞ」
「でもいいじゃない。その方が楽しそうだもん」
「それもそうか。無粋だった、ごめ……んっと、そろそろかな。チャージしとけ」
 小惑星全体に走る地の波動は、天子が忠実に役目を果たしている証だ。
 要石無しでこれほどの規模をどうこうしようとするのは至難の業。
(この作戦の成功確率は、私達四人の場合は七割程度だって八雲の連中が言ってたな。さて……)
 すでに心は決めている。
 空が作戦内容をいまいち覚えていないのも好都合。
 いざという時は、確実に後悔する自己満足にひたろう。
「爆炎の流れは私が操作する。お前はただ真っ直ぐに放て」
「操作? でも核融合って、コントロールするのに膨大なエネルギーが必要なんだよ?」
「溶岩に潜ってまで炎を極めた私が、ここで役に立てないようなら……」
「妹紅さん?」
「お喋りはここまでだ。撃てぇぇぇッ!!」
 合図だ。
「フルパワーッ! 地獄極楽……メルトダウンッ!!」
 八咫烏の力を。
 核融合の力を。
 天を灼く剣を振り下ろす。

 天を灼く剣は、小惑星に真紅の稲妻を走らせた。
 それは恐ろしくも美しく輝く亀裂である。

 小惑星は真っ二つに溶断された。
 一見、八雲藍の計算通りに。
 しかし。

 天子は感じていた。弱い。緋想の剣を突き刺した岩盤から流し込んでいる大地を操る力が、想像以上に馴染まない。小惑星は巨大な岩石のようなものだった。だから認識が足りなかった。これは大地ではない。大地とは地球だ。地球の土と石だ。これは大地ではない。一瞬足りとも地球だった事のない、宇宙を漂う大岩だ。だからこそ地球という惑星に分類されず、小惑星と呼ばれている――。

 輝夜は感じていた。弱い。縮小させて持ち込んだ賢者の石が放つ魔力が弱い。宇宙空間とはいえここは幻想の地。だのに幻想郷で実験した時と比べて出力が三割は劣る。天子の能力の強化に回す魔力が不足してしまっているし、さらに賢者の石で張ったバリアが破れかねない。いかに月の頭脳の宇宙服とはいえ、小惑星を砕くエネルギーを浴びては耐え切れない。賢者の石の能力を処理し切れないのは、そうか、誰かに盾になってもらう事は何度もあったけれど、誰かの盾になるのは今回が初めてだから。そのあまりにも小さすぎる歯車が今――。

 空は感じていた。強い。ここまでの火力が自分にあるなんて知らなかった。いや、そもそもこれは、本当に自分自身の火力なのだろうか。胸が熱い。心が熱い。眼の奥がチリチリする。歯がガタガタ震える。熱い。ただひたすらに熱い。強すぎる力。融合。ああそうか。自分のすべてを注ぎ込むほどの全力を今、受け止めてくれる人がいる。それが嬉しくて限界以上の力が出せる。二人の力がフュージョンしているから限界以上の力が出る。出てしまう。出てしまった――。

 妹紅は感じていた。強い。溶岩に潜って炎を極めた? 溶岩ってなんだ、どっかの温泉か。温泉につかって鼻歌を吹いて強くなった気でいたのか。なんて無様で滑稽なのだろう。最初はコントロールできていた。でも、どんどんお空のパワーが強まって、炎の力を制御しきれなくなってきてしまって。最後の悪あがきとして、天を灼く剣による小惑星の溶断を試みた。それほどの力を小惑星全体に流せればギャンブルなどせずにすんだのだが。吉と出るか凶と出るか。吉ならばよし。運がよかったと天に感謝しよう。凶が出てしまったのなら――!

「天子ッ!」
 悲鳴が。
 悲鳴が聞こえない。
 溶けたバイザーの向こうで、眼と口を大きく広げて絶叫する天子の声が聞こえない。
 賢者の石による結界が不十分だったから、核によって融解した岩石を防げなかった。天子の身を護る宇宙服のバイザーにかかってしまった。結果、バイザーは溶け、真空に肌を露出させてしまった。
 なんとか、しなければ。早く。一刻も早く。天人が人間より頑丈といえど限度がある。
 こんな時、天才の永琳ならどうする? 修羅場をくぐった妹紅ならどうする? 賢者の石の本来の持ち主であるパチュリーなら――!?
「きっとこうする!」
 賢者の石はそれぞれ五行の魔力を宿している。万物は五つの元素より構成されている。
 ならば。
「木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ず」
 万物を創造できるなら。
「空気っ!」
 融解したバイザーの向こうを空気で満たす。酸素濃度は地上と同じに。真空に散らないよう圧力をかけて。
「……っぷはぁ! し、し、死ぬかと思った」
 荒い呼吸をしながら、涙目を向けてくる天子。
「ありがと、輝夜」
「そんな、結界が不十分だったのは私の――」
「ていうか、こっちの力が弱すぎて、向こうの力が強すぎたわ。プラスマイナスゼロならうまくいったかもしれないけれど、どうなったのかしら。バイザーごと通信マイクがやられて」
「じゃあ私が」
 輝夜は懐から通信機を取り出した。
「もしもし、永琳? 小惑星はどうなったの? ここからじゃわからなくて」
『バッチリ観測してるわよ。うん、あなた達の事だから失敗するかもと思ってたけれど、やっぱり失敗したわね』
「えっ、じゃあ」
『小惑星は綺麗に真っ二つ』
「それなら成功じゃないの? 質量が軽くなって進入角度から外れれば、地球圏から飛び出していくはずよ」
『割れた前半分はそうなのだけど、後ろ半分がね、爆発が強すぎてブレーキがかかってしまったのよ。計算してみたけど、幻想郷に落ちるわ。想定内だけど』
「そう。妹紅は無事かしら?」
『先に通信を入れました。幸い、彼女達が残されたのは……姫様達もですが、地球に落下する後部隕石です。作戦に変更無し。姫様は天人と一緒に外に出て、大気圏に生身でダイブしてください』
「嫌よ」
『嫌って、クリームを塗ってあるのだから、コタツに入るようなものですよ? 小惑星に残られては回収が面倒です』
「天子のバイザーが溶けてしまったわ。このまま大気圏に落ちたら天子だけ焼け死んでしまうもの」
『……わかりました、比那名居天子は私が救助します。姫様は大気圏へ』
「嘘つき。天子を救助できるなら、私も一緒に救助すればいいでしょう? 天才のくせに、妙なところで抜けてるんだから」
『そこまでわかっていらっしゃるなら、姫様、お逃げください。私は救助に迎えません』
「甘いのは身内にだけ。永琳のそういうところ、ちょっと嫌いよ」
『嫌いで結構。姫様には永遠亭へ帰っていただきます』
「私は、星ごと大気圏に落ちるわ。岩壁と結界と私の身体で三重に盾を作れば、天子一人なんとかなるかもしれない」
『それは無理です。後部隕石は大気圏に入る前に爆破します。早く退避しなければ、宇宙空間に放り出されてしまうかもしれませんよ? そうなったら』
「ならないわ」
『何故そう言えるのです。作戦通り事を進めれば――』
「妹紅は爆破を妨害するわ」
『しません。爆破せねば幻想郷は壊滅します。それを割り切れないほど子供ではないでしょう』
「妹紅は未熟な人間で、可愛い子供なのよ。最後の手段も考えておいてね」

 すべての力を使い果たした空が赤熱した床に倒れ伏すかたわらで、妹紅は決意の眼差しをしていた。
「妹紅さん……ごめんなさい、私の力が暴走したせいで……」
 すでにガス欠になってしまった空は、燃え尽きない肉体を持っているとはいえもはや役立たずだ。
 だから。
「お空、これからお前を地球に向けて飛ばす」
「脱出……するの?」
「ああ。八咫烏の力を持つお前なら、炎の翼をまとっても大丈夫だ。だから」
「小惑星はどうするの」
「第二、第三の作戦があるさ」
「第二も主役は私でしょ」
 力強い口調だった。力という力を使い果たしたにも関わらず。
「私が命と引き換えに核融合の臨界自爆」
「なんでそんなトコだけ覚えてんだ、お前」
「うにゅ。そこ"だけ"はがんばって覚えたよ。死を前提にした作戦だもん。他の誰かが死ぬんなら反対するけど、私が死んでおさまるなら、まあいいかなって」
「よかない。それに私だって反対する、他の誰かが死ぬ作戦なんてのはな」
 言いながら妹紅は胸元で呼び出し音を鳴らす通信機を取り出した。
「はい、妹紅」
『永琳よ。自爆準備は?』
「すまん、無理になった。撤退する」
『嘘でしょ』
「わかるか」
『自爆させないと幻想郷が壊滅するわよ』
「自爆させたらお空が死ぬ。却下だ」
『あー、そう……姫様の行った通りって訳ね』
「輝夜がどうしたって?」
『姫様も隕石に残ってるわ。天人のバイザーが壊れてしまって、一緒に残ってなんとかするそうよ』
「バイザー! 天子は大丈夫なんだろうな?」
『このまま大気圏に入れば、摩擦熱に耐え切れず焼け死ぬわ。姫様は結界を張るつもりだけど。霊烏路空の犠牲だけでも反対しているのだから、比那名居天子も巻き込む自爆は』
「意地でもしない」
『そう。幻想郷滅亡のスイッチを押してくれてありがとう。まったく、せめてもう半分程度の大きさだったら――』
『半分でいいのか』
 不意に、何者かの声が間に入った。突入チームのものでも、永琳のものでも、幻想郷HQのものでもない。
『……誰?』
『私達は幻想郷にいるよ。今までも、これからも』
『なにをするつもり?』
『もう半分は、私とお前達でなんとかしよう』
『質問に答えなさい』
『じゃーねー』
 通信への割り込みはそこで途絶えた。永琳はすぐに地上の幻想郷HQに連絡を入れる。傍受はしていたが、割り込んだ者の正体はわからないそうだ。そうこうしている間に後部隕石は落下軌道から外せる限界ラインを越えてしまった。
 後は、あの正体不明の通信に賭けるしかない。

 八雲藍は絶望していた。
 あんな訳のわからない通信を信じられるほど楽観的ではない。
 妖怪の賢者である八雲藍、月の頭脳である八意永琳が協力して立案した作戦が崩れ去ったのだ。
 もうどうにもならない。
「でも」
 八雲橙は言った。
「紫様がいたら、きっとあきらめなかったと思います。なにか別の方法を見つけられたかも」
「橙。私もそうだろうと思うよ。しかし紫様はもういない。なにもかもが紫様より劣る私が幻想郷の賢者では、もうどうにもならないのだよ……」
「そんな事は……えっ、地震!?」

 鬼と呼ばれる種族がいた。
 幻想郷から姿を消した鬼。
 幻想郷に帰ってきた鬼。
 そしてまた鬼は姿を消した。
 しかし。

 ――私達は幻想郷にいるよ。

 博麗神社と人里と間の大地が盛り上がったかと思うと、火山のように噴火した。
 マヨヒガに住まう賢者、八雲藍は立体モニターにその光景を映し出す。
 飛び出したのは。
『ミッシングパワー全開ィィィッ!!」
 地から天へと登る流星と化した、巨大な伊吹萃香だった。
「生きておられたのか――」
 しかしその肉体、無数の傷跡と火傷、すでに満身創痍だった。
『地底の喧嘩を終わらせて来てみれば、今度は空の上で宴会かい!?』
「地底の喧嘩……まさか、人形が全滅した異変はまだ終わってなかったというのか」
『終わらせたから来たんだよ! たかが石ころひとつ、鬼の力で押し出してやる!』
 伊吹萃香、大気との摩擦で灼熱と化した流星に迫る。
 その巨体、分断されたとはいえ小惑星と比べるとなんと小さな事か。
「無理です! いかに萃香様といえど、お一人では……」
『一人じゃないさ……そうだろ? 幻想郷よ!』
 呼びかけに応えるように、萃香の右の角の先端で熱く輝く刃があった。
 モニターを拡大し、その正体を確かめてみれば。
 楼観剣を構えた剣士。
「魂魄妖夢!? 幽々子様が成仏なされてから、行方不明だった魂魄妖夢か!」
 返事は無い。
 ただ真っ直ぐ、妖夢は小惑星を睨む。
『戻し斬りだけでなく、様々な奥義を習得した私がたどり着いた境地をお見せましょう』
 跳躍。
 伊吹萃香に先んじて、巨大隕石に挑むは一振りの剣。
『我が心、明鏡止水。されどこの剣は烈火の如く! 妖怪が鍛えた楼観剣と、幻想郷が育んだこの魂魄妖夢に――斬れぬものなど、無い!』
 一刀にて両断。
 宇宙にて真っ二つに分断された流星、再びその質量を半分とする。
 しかしその巨大なエネルギーは、小さな妖夢一人を吹き飛ばすには十分だった。
 荒れ狂う空気の流れによって、妖夢は小惑星の断面に吸い込まれ、瓦礫に混ざって姿を消した。
『後は、頼みましたよ――!』
『応さッ!』
 割れた左半分の流星に、両手と二本の角を同時に叩きつける萃香。
 その震動は内部に取り残された四人の突入メンバーにも届いた。
『輝夜ーッ! ひょうたん返しにもらいにきた、星を砕いて帰って飲むぞぉぉぉ!』

 切断された小惑星。蓬莱山輝夜と比那名居天子が残る左半分は巨大な伊吹萃香が支えている。
 では半分、藤原妹紅と霊烏路空が残っている流星を支えるのは誰か?

「サナエ・コチヤ。行きまーすッ!!」
 妖怪の山、守矢神社の敷地内にある湖が割れた。
 その中から現れた鋼の巨人。
 白いボディに緑と青のカラーリングが施された、V字アンテナにツインアイの機械人形。
「ゴッドブレスガンダムは伊達じゃない!」
 天使の翼を羽ばたかせながら、早苗の駆るゴッドブレスが右半分の流星に向かう。
 その速度はまさしく神の風!
「幻想郷最強種族の鬼のしかも四天王と肩を並べられる! 守矢の春がきたー!」
 勢いを維持したまま妹紅と空が取り残された隕石にショルダータックルをし、さらに両腕を当てて押し返そうとする。背部の翼は大きく広がってストームを発生させ推力とした。
 大気との摩擦で灼熱と化した隕石に取りつき、ゴッドブレスも灼熱となった。
「しかも! さらに!」
 機械人形ゴッドブレスの手のひらから、小さな人影が隕石の表面へと飛び移る。

 その光景を眺めながら、やはり八雲藍はあきらめていた。
 永琳の通信通り、せめてもう半分に砕けていればどうにかなっただろう。
 だが魂魄妖夢がやったのはニ分割だ。
 内部の者が全力を尽くしても、壊せるのは片方が精いっぱい。
 もう片方は地に落ちる。質量が減ったとはいえ、幻想郷を壊滅させるには十分な威力。
 どうにもならない。
 そんな八雲藍を励ますように、八雲橙はずっと、主の手を握り続けていた。

 隕石内部。暴れる空を押し倒して留めているのは、私情に走って幻想郷を見捨てた妹紅だ。
 二人の口論は過熱しており、ゴッドブレスに支えられている事も、内部に入り込んだ者にも気づいていないでいた。
 なので妹紅は頭を蹴り飛ばされた。
『スカーレットキック!』
「ほげっ!?」
 間抜けな悲鳴を上げてひっくり返った妹紅は、自分を蹴った者の正体を確かめるべくすぐ起き上がろうとして。
 起き上がろうとして。
 その姿を見て、身体が固まってしまった。
 金色の髪、真紅の眼、異形の翼、背負った棺桶。彼女はまさか。
「ふ、フラン……?」
『NO!』
 胸の前でバッテンを作って否定した彼女は、えっへんと胸を張って言い切った。
『我が名はフラン・ドール!』
「フランじゃねーか!」
『違う! フラン・ドール! 間を区切るの! ドールは人形のドール! フラン人形と呼んでもよし!』
 意味がわからない。が、改めてよく見れば、サイズが小さい。
 遠い昔、ともに時をすごした事もあった人形達と同じサイズだ。
 ていうか人形だ。
 フランドール・スカーレットを模した人形だ。
「……アリスか? なんだこの人形は。遠隔操作?」
『え、アリス? 今変わるね。アリスー……妹紅が変わってって。はい。ガガッ、ピーッ。もしもし妹紅? 想像通りこれは遠隔操作の人形よ。さっそくだけどこれも契約の内、写真を撮るわ。題名は"天上天下レッドゾーン"。はい、チーズ』
 カシャリと。
 すっごく見覚えのあるカメラを取り出して、フラン人形は妹紅と空を撮影した。
 情けなく這いつくばっている無様な姿を。
「それ、文のカメラか?」
『うん。風力で動いてるから、エンジンがね』
 と、フラン人形の両目から立体映像が映写された。
 そこには隕石を外部から支えるゴッドブレスの姿があった。
「……エンジン?」
『格好いいところを見せずに終わっちゃ天狗の名折れだそうよ。エンジン役で動けないから、人形をここまで運ぶ代わりに写真撮影してこいって。でもエンジン役じゃ、格好いいところなんて見せられないわよねぇ……』
「アリス、フランの部屋にいるのか?」
『お邪魔してるわ。小悪魔ってケーキを焼くのが上手なのね』
「あ? それ焼いたのフランじゃないか? 小悪魔が得意なのはタルトだぞ」
『え? ちょっとフラン、さっきのケーキってあなたが焼いたの? そうだよ、言ってなかった? 聞いてないわ。まあいいけど』
「喋るなら一人ずつにしてくれ」
『じゃあ先に私が』
「フランか」
『妹紅。隕石見えてるよ。真っ赤に燃えてる。ねえ妹紅。プリンが食べたいわ』
「ああ。帰ったら作ってやる。……口に出しておねだりするの、初めてだな?」
『そういえばそうだね。ねえ妹紅、私……私、アリスに替わるね』
「ああ……」
『アリスよ。さっそくだけど、このフラン人形、妹紅に貸すわ。以上』
「……それだけか? この一大事に?」
『今度こそ、ちゃんと返してよね』

 ――それじゃ、この娘達を頼んだわよ。結界を張ったら、もう通信はできないんだから。
 ――それも何度も聞いたよ。
 ――じゃあ何度でも言うわ。私の可愛い人形達を頼んだわよ。
 ――はいはい。一人も欠けずにお返し致しますよ。

「……アリス、私……」
『返事は!?』
「あ、は、はい!」
『よろしい。じゃ、操作を早苗に回すわ。お空に渡すものがあるのよ』
 勢いで返事をしてしまった。
 たった今、幻想郷を救う唯一の機会をつぶしたばかりの自分が、こんな約束をしていいのだろうか。
 ――シャンハーイ。
 ――ホウラーイ。
 空耳か。どこか遠い場所から懐かしい声が聞こえた気がして、いいのかもしれないと思うと、やけに晴れ晴れとした気持ちになってしまう。熱い。摩擦熱で小惑星内の温度が上昇して酷く熱い。でも。いつぞやの地獄ほどじゃない。
 だったら約束のひとつくらい、きっと守れるはずだ。きっと。
 健全で前向きな精神を維持するのは難しいが、ちょっとしたきっかけで人の心は前を向けるのかもしれない。
『という訳でフラン人形の操作は東風谷早苗が引き継ぎました。お空さん、任務ご苦労様です』
「うにゅ……でも失敗しちゃった。今からでも自爆すれば間に合うかな?」
『間に合いますよ。でも自爆する必要はありません。八咫烏は神の力、神の力は信仰の力。守矢の信仰を吸ってください!』
 それを聞いて驚いたのは妹紅だ。
 神は信仰によって存在を保てる。神であり妖怪である空ならともかく、100%神である守矢の三柱にとって信仰の有無は死活問題だ。しかも人口の減少による信仰の減少をこうむり、幻想郷からさえも消え去ってしまう日は遠くないはずだ。
 あるいは、だからこそなのかもしれない。
 最後の華を咲かせるために。
「わかった!」
 他者の犠牲を拒絶した空が、そこまで信仰の大切さを理解していたのかはわからない。
 早苗からゴッドブレスへ、ゴッドブレスからフラン人形へ、フラン人形から空へ、信仰が流れる。
 神の息吹きを吸い、神の祝福を受け、霊烏路空の力は今までに無いほど高まっている。
「神と、妖と、人と! すべてをフュージョン……!!」
 絶大な核エネルギー。これなら、小惑星爆裂も不可能ではない。
 制御し切る事ができれば。
「お空! 私の命も貸すぞ!」
「妹紅さん!」
「力の制御に二度も失敗したら、首を吊らなきゃなぁ、蓬莱よぉ!」
 フェニックスオーラとさとり様オーラが小惑星の内部を満たす。
「今再び顕現せよ! 天を灼く剣……!!」
 赤熱した肉体、赤熱した精神、赤熱した魂が燃えて、幻想郷を救えと轟き叫ぶ。

「地の光が集まる……これが極大奥義、融合『フェニックスメルトダウン』!!」

 霊烏路空最後の核融合。

「さとり様が安心して眠るためには!」



「熱い! 空気が熱い!!」
「水、賢者の石は水の力で空気を冷やす!」
 幻想郷存亡の危機でありながら、摩擦熱で灼熱と化した隕石の中、輝夜と天子はてんやわんやしていた。
「返事が無いと思ったら、なにしてんの」
 そこに声をかけたのは、伊吹萃香の小さな分身だった。
「あら、やっぱり生きていたのね。今までどこにいたの?」
「地底の底の底のそのまた底にさー、外の世界から入り込んだ機械の化物がいて、鬼族総出でずーっと戦ってたんだよ」
「それはそれはご苦労様。そんな鬼さんが、どうしてこんなお星様の中に?」
「助けに来たのさ。外でさー、私、かなり格好いいセリフをいっぱい吐いたんだけどなー……」
「輝夜ー。ひょうたん返しにもらいにきた、月を砕いて帰って飲むぞー。だっけ?」
「聞こえてたんじゃん! ていうか月じゃなく星だから! 砕月してないから!?」
「どうしてこんな所にいるの?」
「今! 巨大化した私の本体が外でこの石ころを支えている真っ最中なんだけどねぇ……」
「まあ、それはどうもありがとう」
「これはこれはご丁寧に。じゃなくて、この石ころちゃん、なんとかできそう?」
「無理そう。賢者の石の魔力が不十分だわ。私の精神力が足りないみたい」
「それじゃ私が魔力を補えば破壊できる?」
「破壊するわ、なんとしても」
「んじゃ、頼むわ。魔力を萃めてやる」
 ミニ萃香は霧となって消えた。
 残された輝夜は、賢者の石に魔力が萃まるのを感じて、これならばと微笑む。
「さあ天子、今度こそこの石ころを砕くわよ」
 返事が無い。
 天子の顔は凍りついていた。
 空気が熱されて熱い。水の力で冷やした。萃香が魔力を萃めた。水の力もパワーアップ。冷凍完了。
「締まらないわねぇ」
「誰のせいよ!」
 凍結を砕いて叫ぶ天子。乱暴に緋想の剣を振り回して危ないったらありゃしない。
「最初の四分の一の質量になって、絶賛大気圏突入中のこの状況なら、魔力を萃めた賢者の石と、あなたの大地を操る力で焼き尽くせるんじゃないかしら」
「……そう、ね。バイザー無しのこの状況かなり怖いし、とっとと終わらせるわよプリンセス」
 失笑しながら天子、再び地面に緋想の剣を突き刺す天子。
 大地を操る力を注ぎ込む。
 最初は地盤を弱めた。空の核エネルギーで破壊できるように。
 今度は地盤を砕く。木っ端微塵にしてやれば大気との摩擦に耐え切れず燃え尽きてくれるはずだ。
「ぐっ、ぐぐ……そういえば、お空達はどうなってんの!?」
「ここにはいないみたい。だから、妹紅達の事はわからないけれど、私達はただこの石の破壊に専念すればいいわ。萃香もそれでいいって感じだったもの。緋想の剣に五行の魔力を注ぎ込むわよ」
「バイザー代わりの空気、意地でも維持してよ!」
「もちろん。賢者の石よ、創造主に比べれば至らぬ私だけれど、どうか力を貸してちょうだい。あなたの創造主が愛した幻想郷を護るために。あなたに、力を……」
 五色の閃光が比那名居天子を包み込む。
 ああ。大地を操る天子は今、土だけではなく、火も水も木も金も、すべてを操れるに違いない。
 小惑星すべてが、自分の手の中にある。すべてを感じられる。
 どこにどう亀裂が走っているか。どこをどう破壊すればいいか。
 弱い。それでもまだ、わずかに弱い。
 だったら。
「気質を操る! 五行の力よ、火を、炎を、焔を! 緋想の剣はッ、この地を焦土とする剣と化せ!」
 さらに高まる小惑星の温度。
 注ぎ込まれる天子の生命。
「ぐぐぐっ、ぐぅぅぅっ……か、輝夜ッ」
「天子……あなた、まさか」
「一千万年……まだ、経ってないけど」
「やめて」
「派手に散るから」
「言わないで」
「この剣、上げる」
 視界すべてが灼熱の赤。
 熱気で歪み、意識がかすむ中、やけにはっきりと、天子の笑顔が見えた。
 笑顔が、戦士の顔に変わるのも。

「天の光が集まる……これが究極奥義、天宝『緋想の剣』!!」

 比那名居天子最大の咆哮。

「人の叡智が生み出したものなら、人様に迷惑をかけるなぁぁぁッ!!」



 真っ二つに割られた流星が同時に赤熱し、それを支えていたゴッドブレスは小爆発を起こしふっ飛ばされた。
 そして伊吹萃香は、星を抱きしめる腕にさらに力を込めた。
「楽しい夢に、感謝するよ、紫……」
 鬼の剛腕が岩壁にめり込み、弾けた瓦礫の中、萃香の身体は霧となって散ってしまった。
 天空が真紅の光に包まれる。
 地が真紅の光を浴びる。
 天上天下が紅く染まる。
 天の光。
 地の光。
 それはあたたかく、優しく、強く、悲しく、弱く、幻想郷に生きる人々の心の光だった。

「やったぜフラン!」
 小惑星の破壊を確信した妹紅は歓喜の声を上げた。
『うん、見えてるよ……窓から、星が……天と地が、お姉様みたいに紅く染まってる。綺麗だね』
「よし、今度こそフラン人形も連れ帰るからな。お空、脱出するぞ。……お空?」

 名前を呼ばれて、お空は顔を上げた。
 なぜか地霊殿だった。愛しき懐かしき地霊殿。
 ペット仲間が左右に整列してお空を出迎えてくれている。
 奥の方ではお燐が手を振っていたので、お空も手を振り返し、一番奥に立っている少女を見つけた。
「あーっ! さとり様! こいし様も!」
「お疲れ様、お空。がんばったわね」
「うにゅ! さとり様が笑っていられるようにって、私、いっぱいいっぱいがんばったよ! だから」
「ええ。お空がいっぱいがんばってくれたおかげで、私達はやすらかに眠れるわ。だから」
 とてもやわらかい笑みで、さとり様は言った。
「もう少しがんばってみて。今度はお空自身の笑顔のために――」

 名前を呼ばれて、空は顔を上げた。
 空中だった。赤くない空中だった。
 大気圏とかいう熱い場所は越えたようで、周囲には小惑星も見当たらない。
 という事は、大成功したのか。
 よかった。
 空は目を閉じた。酷く疲れていた。もう指一本動かせない。
 このまま大地に抱きしめられて、もう一度さとり様に会いに行くのも悪くない。
 ――もう少しがんばってみて。今度はお空自身の笑顔のために――
 名前を呼ばれて、空は顔を上げた。
「おい! 聞こえてるのか、お空! お空!」
 真っ直ぐに、自分に向かって降ってくる妹紅。
「身体を、翼を広げろ! それだけでいい! お空!」
 身体を? 翼を?
 それくらいなら。
 指一本さえ動かすのは億劫だけど。
 それくらいなら、がんばれる。
 両手両足、そして翼を広げた途端、全身に叩きつけられる空気の圧力を実感した。
 空気抵抗の増した空の落下速度は減少し、姿勢を垂直に保った妹紅はすぐに追いついて、空の身体を抱きしめた。
「今度こそ、連れて帰るんだ……今度こそ!」
 真紅の翼が、広がった。
 不死鳥の腕の中で、空は誰よりも純粋に生命というものを感じていた。

 地面に降り立つと、真っ先に現れたのは半壊したゴッドブレスだった。
 最初は驚いた妹紅だが、それが早苗だとわかると互いの無事を喜び合った。
 疲労困憊した空は、ゴッドブレスから降りた早苗に介抱された。その時にわかったのだが、空の身体からは八咫烏の力が消えてしまっていた。力を限界まで使い果たした代償だろうか。空はこれから神ではなくただの妖怪として生きていく。それはなぜか、空の心を晴れ晴れとさせるものであった。
 妹紅、空サイドはこれにて万事解決!
「しまった、フラン人形が燃え尽きてる」
「そうですか。まあいいんじゃないです? 即興で作ったそうですし、自立タイプじゃないから本当にただの人形ですし」
「今度こそ連れ帰るって約束したんだけどな……アリスに怒られる」
「大丈夫ですって、お空さんを無事に連れ帰ったのですから。怒られても本気じゃありませんよ。許してくれます」
 からからと笑う早苗に、背部から暴風が押し寄せ土に転がされる。
「絶対に許しませんよ!」
 その叫びは、ゴッドブレス腹部のハッチから放たれた。
 現れたのはエンジン役の射命丸文である。
「カメラを預けて写真を撮らせるのを条件にエンジン役を引き受けたのに、人形もろとも燃え尽きてしまうだなんて。私のカメラが! 私の写真が! ええもう絶対に許しません成敗してくれます」
 団扇を取り出して猛る文ではあったが。
「早苗ー。フランが気になるし、アリスにも謝らないといけないから先帰るわ」
「うにゅ。妹紅さんまたねー」
「お疲れ様でーす。お空さんは守矢が責任を持って保護致しますので」
 妹紅と空と早苗はすでに解散ムードであった。
 ひたすら喚く文だが、それが新聞のためでは残念ながら共感を買えないでいる。

 リザレクションをするのは何十年、いや何百年ぶりだろうか。
 それだけ蓬莱山輝夜という存在は強く、そして姫として崇められ護られていた。
「うっ……」
 ミニ萃香の前ではふざけた態度を取ってしまったが、輝夜は知っていた。
 隕石を切り裂き、瓦礫とともに消えた魂魄妖夢。
 満身創痍でありながら、隕石を支え続けてくれた伊吹萃香。
 彼女達が無事だとは思えない。
 もしかしたら援軍に来た時にはもう、死の世界の住人だったのかもしれないとさえ思う。
 確かめるすべは無い。
 それから。
「天子……?」
 命を懸けて戦った仲間の姿を探す。
 輝夜が復活したのは迷いの竹林で、その周囲には五つの色彩を放つ賢者の石と。
「天子……」
 緋想の剣が、地面に刺さっていた。
 小惑星最後の崩壊の時、天子を護るために必死になった結果、輝夜は自分の護りを疎かにしてしまっていた。瓦礫で頭を打ったのか、全身に衝撃が走ったと思った直後に視界が真っ暗になってしまって、気づいたら、ここだ。
 一千万年生きると言っていた天人は、割れたバイザーから流れ込む高熱で燃え尽きたに違いない。
 虚脱した輝夜は、頬に冷たいものが流れるのに気づかぬまま、天を見上げた。
 赤い。隕石の落下推定時刻は日暮れ頃だった、あまり時間は経っていないらしい。
 泣こうかな。
 泣いてしまおうかな。
 少し迷って、ようやく、顎から落ちた雫に気づく。
 すでに泣いていたのか。
 ポタリと、雫が落ちる。
 ドサリと、人が落ちる。
「……え?」
 輝夜の目の前に、うつ伏せの宇宙服が落ちてきた。
 慌てて抱き起こしてみれば。
「う、うう……コバルトに光る地球を見た気がするわ……」
 目を回した天子が意味不明なセリフを吐いていた。
 あの状況からどうやって助かったのか、そんなのどうでもいい。
 今ここに天子が生きている喜びに、輝夜は泣いて泣いて、泣き続けた。

 マヨヒガにて、一匹の老狐が息も絶え絶えに、うずくまっていた。
「ち、橙……隕石は、幻想郷は、どうなった?」
「隕石は燃え尽きました。幻想郷は無事です。藍様、今のは……なにをなさったんです?」
「禁術を使ったのさ。式が主の能力を行使する、己の命と引き換えに……せめて、これくらいは」
「藍様……」
「橙。八雲橙よ。今日からお前が、妖怪の賢者だ……紫様、今、お側へ……」
 とても穏やかな表情で息絶える、一匹の老狐。
 そのかたわらで、すでに主の背を越してしまった式は、高く高く喉を震わせた。

 数日後。
 幻想郷の賢者を送る告別式は、賢者の名前と同じ藍色の旗と花によって満たされていた。
 藤原妹紅が、霊烏路空が、蓬莱山輝夜が、救われた比那名居天子が。
 数多くの者に見守られながら、賢者は旅立っていった。


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【第九戦】
【ALFA and OMEGA】

「海か。実際に見るのは、何年ぶりだろうな……」
「一千万年ぶりくらいじゃない?」
 さすがにそこまで昔ではない。
 しかし、不思議とそんな気もしてしまう。
 激しい弾幕ごっこをしながら下流へ下流へと飛び、ついに二人は海へと至った。
 暗い。空は青だというのに、暗い青の海。
「こんな色だったかな」
「汚染が進んでるんでしょう」
 そう言って海水を舐めた輝夜は、すぐに吐き出した。
 表情は厳しい。塩辛さなどどうでもよく、ただ悲しい。
「母なる大地、母なる海、そのどちらも人類は穢してしまった。みずからが滅びるほどに」
 頬を雫が伝う。
 悲しい。
 月の姫が、地上の惨状を心から悲しみ涙している。
 地上の人間以上に、地上を憂いてくれているのかもしれない。
「ん……ごめん」
「妹紅、どうして謝るの?」
「こんな事をしたのは、地上の人間の仕業だ。私の同族の仕業なんだ」
「あなたは私達の側の存在よ」
「でも、人間だ」
 砂浜に足跡を作りながら、妹紅は海岸を歩いた。
 黒い砂は少ない。緑も少ない。砂以外は岩場ばかりだった。
 なにか魚介類はいないかと探してみたが、無駄骨に終わり、妹紅は岩を殴りつけた。
 骨が砕け、皮が剥けて血が流れても、足りないと感じた。
 地球が受けた痛みはこの程度ではない。
「人間め……!」
 憤る妹紅の肩が掴まれ、振り向かされ、パシンと頬をはたかれた。
「妹紅。確かにこれは人間の仕業、でもすべての人間に責任がある訳ではないわ。善人もいれば悪人もいる。信じるもの、護るもの、様々な違いは善人同士であっても殺し合いをさせる。人の業とは重いもの。死後も地獄であがなわねばならぬほどの罪を重ね続ける。けれど、けれどね妹紅、それで人間すべてを憎んでは駄目。自分を憎んでは駄目よ。あなたは人間なのだから。人間は、憎しみだけを抱いて生きるのは、嫌よ。妹紅が昔みたいになってしまうのは」
 肩を抱いて震える輝夜が今にも消えてしまいそうで、妹紅はそっと手を伸ばした。
「ごめん」
 濡れた頬を拭ってやる。
「……地獄って、まだあるのかな」
「わからないわ。冥界も、彼岸も、行けなくなってしまってから、もう何百年と経つもの」
「裁かれる人間がいなくなったら、彼岸も役目を終えて無くなるとかって、閻魔様が言ってたな」
「そう」
「行けなくなった異世界っていうのは、滅んで無くなってしまったからなのかな。今の、幻想郷のように」
「かもしれないわ」
「でも私達はここにいる。外の世界にいる。じゃあ、まだ滅んでないのかな、この世界は」
「きっとそうよ」
 妹紅の胸に顔をうずめ、輝夜は静かに泣き続ける。
 優しく抱きしめながら、妹紅は暗黒の海を見つめた。
 日が暮れて、水面に朱が混じってきらめいている。
 潮の香りはする。
 生命の息吹きは感じない。
「輝夜、遊ぼうぜ」
「うん」
「弾幕ごっこでいいか?」
「うん」
「じゃあさ、とっておきを見せてやるよ」
「うん」
「確か、お前にはまだ見せてないスペルだからさ、楽しんでくれよ」
「うん」
「輝夜」
「うん」
「泣かないで」


 幻想「勿忘草の翅模様」

「今日こそ死ねや、鳳翼天翔ー!」
「ぴちゅーん」
 幻想郷の一角で、藤原妹紅渾身の鳳翼天翔が炸裂した。
 炎に身体を包まれ、回転しながら花畑に落ちていく可憐な少女。
 おっとこれはいけない。このままでは花が燃えてしまい、怒り狂った某妖怪に首をへし折られるぞ。
 妹紅はパチンと指を鳴らした。途端に少女を包む炎が消える。
 なので、少女は普通に頭から花畑に落っこちた。うつ伏せに倒れた少女の背中に妹紅は着地する。
「勝利ッ!!」
 ガッツポーズを取った直後、妹紅は落下した。
 地面に倒れた少女の上に立っていたのに?
「こんな可愛らしい少女を踏んづけるなんて、なにを考えているのかしら」
 二人がいた頭上に開いたスキマから、うつ伏せの妹紅の背に立つ可憐な少女が降ってきた。
「はい、地面にキス」
「むぐぐっ。勝ったのは私だぞ、どけ紫」
「粗暴な少女と違い、私は人を踏みつける趣味はありませんので」
 そう言って八雲紫は優雅に舞い降りた。髪とスカートが風になびき、ふわふわと飛んでいってしまいそうな儚さを感じさせる。逆に、立ち上がった妹紅は火山の噴火のようで、力強い生命力に満ちあふれていた。
「はっ。無様に負けた分際で、気取ってんじゃない」
「あらあら、一勝をもぎ取るために何連敗したか数えていませんでしたわ。勝率って概念はご存知?」
「さ、最初の一回は霊夢と二人がかりだったからノーカンだろっ」
「負け犬の遠吠えが聞こえるわね」
「くそっ、やっぱりお前嫌いだ」
「私は大好きよ」
 誰を。
 目を丸くして硬直してしまった妹紅は、なにか言い返さねばならないと強く思っていたが、なにを言おうとしても唇が小さく震えるだけだった。そんな彼女を見て紫はうふふと笑う。
「そう、私は私が大好きよ」
 そこでようやく、妹紅は吐き出すべき言葉を見つけた。
「鳳翼天翔!」
「ぴちゅーん」
 黒コゲになった紫だが、一瞬スキマに入ったかと思うと汚れひとつ無い姿で現れた。便利だな。
「はぁっ。憂鬱ですわ」
「フンッ、連勝記録が止まったからか? 次から連敗記録をつけさせてやる」
「ところで、この花の名前をご存知?」
「は?」
 紫はしゃがみ、足元の花に触れた。
 妹紅も見下ろすと、20~30cm程度の草丈の先で、可憐な花が無数に咲いていた。
「勿忘草(わすれなぐさ)だろう? 知ってるよ」
「あら意外、寺子屋の彼女に聞いたのかしら」
 その通りだった。
 しかしわざわざ明かす必要は無い。
「神社にも咲いてたからな」
「霊夢は元気だった?」
「夢想封印の修行をさせられた」
「結果は?」
「封魔陣の真似事はできるようになった」
「なぁんだ、夢想天生くらい習得しなさいよ」
「夢想封印以上に無理ありすぎる! だいたい霊力扱うの苦手なんだよ」
「その通り、この花は勿忘草というの」
「あれ? 話の流れおかしくない?」
「花言葉は知っていて?」
 足元の藍色をいちべつしてから、改めて紫の、どこか憂いを帯びた表情を見る。
「知らん。でもまあ、名前の通りの花言葉なんだろ」
「意外と聡いのね。霊夢がすき焼きを食べていたのを目撃した時と同じくらい驚いてしまったわ」
「それ、霊夢にチクれば退治してくれそうだ」
「ところで蓬莱人。ねえ、蓬莱人のあなた」
 紫は空中にスキマを作り腰かけると、急に態度を改めた。
 いかにもこれから真面目な話をしますって表情だったが、相手が紫なので胡散臭さが先に立つ。
「あなたはこの幻想郷を、どう想っているのかしら」
「はぁ?」
 だから割りとシリアスそうなこの質問も、どうせくだらないものに違いないと妹紅は思った。
「外の世界で忘れ去られたモノの楽園。すべてを受け入れる残酷な世界。幻想郷。……所詮、外の世界に依存した箱庭にすぎないわ。ねえ蓬莱人の妹紅、あなたはこの幻想郷をどう想うのかしら。幻想郷に依存しなくても存在できる、究極の幻想である蓬莱人にとって、幻想郷は永遠の旅のほんの一時をすごす宿のようなものなのかしら。ねえ、完全で生者なあなた」
 やっぱりくだらなかった。
 霊夢や慧音やチルノからとっくに聞かされている。紫はややこしい事をややこしく言って賢いフリをするのが大好きなのだと。まあ、悪口だから話半分に聞いておくにしても、半分くらいは信じていい。
「質問の意図がわからん。質問を簡潔にする程度もできないで賢者様とは笑わせる」
「幻想郷じゃなくても生きていける蓬莱人ならではの幻想郷に対する意見と感想プリーズ」
「うわっ、わかりやす……」
「簡潔にしたわよ。簡潔に答えなさいよ」
 どうしよう。真面目に答えてやるべきか。
 いや、そもそも、自分の素性すら慧音くらいにしか話してないのに、なんでこんな胡散臭い妖怪に自分の胸のうちを明かさねばならないのか。下手に漏らせばどこで言いふらされるかわかったもんじゃない。
「簡潔にか……竹林にゴミ捨てる馬鹿がいて困ってる、以上」
「……それだけ?」
「これも立派な意見、感想だろ。賢者ならゴミのポイ捨てなんとかしろよ」
 はぁ、と。
 八雲紫は溜め息をついた。
 深々と。げんなりと。
「同じ蓬莱人なら、高貴な蓬莱山輝夜や明晰な八意永琳もいるのに、最後に出会い、最後に質問した相手があなたというのは、非常に残念ですわ」
「そりゃ結構、ざまみろ」
 からからと笑う妹紅を、じっと見つめる紫。
「けれどゴミ拾いは大事です。竹林を汚さない事、幻想郷を汚さない事、竹林を大切にする事、幻想郷を大切にする事」
「ほんと、回りくどい言い方が好きだな」
 呆れて肩をすくめる妹紅を、じっと見つめる紫。
「幽々子や萃香、霊夢と違い、私はあなたを特別な存在だと思っていません。何者であろうと幻想郷が受け入れた一員。人間だろうと蓬莱人だろうと些細な問題。ですが……」
 紫は手のひらの上に、スキマを開いた。
「幻想郷が滅んでも存在し続けられる唯一の幻想、蓬莱人が最後に出会った人物だというのは、不思議な縁を感じますわ」
 スキマから、藍色の翅模様が舞った。
 視界を埋め尽くすほどの蝶の群れ。
 目を凝らせばその翅は、藍色の花びらでできていた。
 蝶と花の混成弾幕の一種?
 新スペルカードの披露?
 意図がわからない。
 しかし、なんと幻想的な光景か。なんと幻想郷的な光景か。

 花の翅模様が天と地とその狭間に舞い、幻想郷を藍色に染める。

「どうか、忘れないで」

 花吹雪の中、妹紅は紫を見失った。
 忘れないで?
 誰を?
 なにを?
「おい紫、いったい」
 雪のように舞い散る藍色の中、妹紅は紫の姿を探したが、どこにも見つからない。
 ふと、肩についた花びらを取ってみると、足元にある花畑のものと同じ種類のものだとわかった。

「勿忘草……か」

 その後、八雲紫の姿を見た者はいない。


 失敗したかな。
 スペルを終えた妹紅は、そんな風に思いながら輝夜の表情をうかがった。
 泣き止んでいる。
 けれど、ぼんやりとした表情で、どう感じたのかわからない。
 藍色を基調とした弾幕なんて、嫌がらせに思われても仕方が無い。
 世界を破滅させたのは、藍色の光だったのだから。
「綺麗ね」
 でも輝夜は言ってくれた。
「とても優しくて、綺麗な弾幕……忘れかけていた大切なものを、思い出せそうな……」
「輝夜」
「……私は、お母様の顔を覚えているのかしら……」
 妹紅は唇を噛んだ。
 言うべきか、言わざるべきか。
 言う必要は無い。不幸自慢をするタイミングでもない。なのに。
「忘れちゃったよ」
 言ってしまった。
「父上の顔、もう忘れちゃった。ははっ……輝夜を追いかける、最初の理由だったのにな。私は薄情な娘だ」
「妹紅、でも、それは」
「人間の身で、暦が何度も変わるほど生き続けたんだ。そりゃ、大切な事も忘れちゃうさ。でも……」
 藍色の小さな光を握りしめて、妹紅は笑って見せた。
「思い出は消えない。幻想郷が消えてから、輝夜と何度も弾幕ごっこをしたけれど、その弾幕に込められた出来事は幾つか忘れちゃっているけど、でも、弾幕に込めた思いは……想いまでは、消えてない。消えてないはずだ。だって、こんなにもあたたかい気持ちになれるんだから」
 光が散った。
 ああ、この海が再び、空と同じ色を映してくれたなら。
 そんな希望を、抱かせてくれた。
「ありがとう、妹紅」


 忘れ物「永遠に溶けないカエルの氷像」

「かーえーるーのーうーたーがー」
「きーこーえーてーくーるーよー」
 湖の岸にて、戯れるお姫様と妖精。
 陽光を浴びて艶やかに光る長い黒髪と、濡れた黒真珠の瞳。
 青空をそのまま落としたような髪と瞳、透き通った翅。
 今は無き永遠亭の姫、蓬莱山輝夜。
 今はもう小さな湖の妖精、チルノ。
 二人の歌を中断させたのは、チルノの作業の終了であった。
「完成ー! チルノ作、最強にカッコいいカエルの氷像!!」
「わぁー、可愛い」
 カエルの氷像を掲げるチルノに、惜しみない拍手を送る輝夜。
 互いの表情は無邪気な子供のようで、快晴の空の下、眩しいほどに輝いている。
「よーし! 湖に浮かべるぞー!」
 氷像はそっと水面に浮かべられ、頭をプカプカとさせた。
 それが面白くてチルノはキャッキャとはしゃぐ。
 そんなチルノが可愛くて輝夜はキャッキャとはしゃぐ。
「まるで本物のカエルみたいね」
「んー? 輝夜、カエル見たことあるのか?」
「もちろんよ。昔はカエルの神様だってよく見かけたものよ」
「そっかー。湖にもカエルがいたらなー。水場に住むんでしょ?」
「昔にはいたのよ。妖精を一口で食べちゃう大きなカエルも」
「へぇ、そーなのかー。輝夜は物知りだな!」
 心底感心した様子のチルノは、輝夜の胸元に飛びついた。
 もちろんそんなチルノを優しく抱きとめた輝夜は、冷たいぬくもりに頬をほころばせる。
「そういえばチルノ、よくカエルさんの歌を知ってたわね」
「霊夢に教えてもらった!」
「霊夢? うーんと、どの霊夢かしら」
「神社の婆ちゃんだよ?」
「まあ……今の霊夢はてっきり歌はお嫌いかと。先代霊夢はスペルカードルールより、ナイトバードソングルールが得意だったけれど、そう、あの霊夢がね……」
「先代ってあれか? 弾幕ごっこを考えたって奴か?」
「それは初代霊夢よ。巫女は三割が霊夢だったかしら」
「ほー。どんな奴かは知らないけど、弾幕ごっこを考えたのは偉い! 生きてたら子分にしてやりたいくらいだ」
「でも初代霊夢はとっても弾幕ごっこが上手だったのよ」
「最強のあたいにかかればロートルなんかラクショーね!」
「私や妹紅よりも上手だったの」
「マジか!? すげー! 一度遊んでみたかったなー」
 無邪気なチルノ。
 楽しそうなチルノ。
 だから輝夜はチルノが大好きだ。
 何度でも大好きになれる。
「そうだ輝夜、私な、昨日あそこの廃墟探検したんだぞ」
「廃墟って、紅魔ハウス? 入っちゃ駄目って妹紅が言ってたでしょ」
「でもさ、藍色の翅の綺麗な蝶が、館に入り込んでったんだよ。捕まえて輝夜に見せてやろうと思ったんだけど」
「蝶の翅も綺麗だけど、チルノの翅も綺麗で好きよ。それで紅魔ハウスはどうだった?」
「庭の花畑にお墓があった。蝶もいっぱいいたよ」
「そのお墓とお花畑に悪戯をしては駄目よ」
「なんで? 誰も住んでないじゃん」
「土地が意味を無くしても思い出はあるって、あの家に住んでいた娘は言っていたわ。具合が悪くなってからは妹紅も一緒に暮らすようになって……妹紅にとって妹みたいな娘のお墓だから、大切にしないと」
「子分の妹は私の妹も同然! でもさー、なんで地上にお墓があるの? お墓は場所を取るから地底墓地でしょ?」
「命蓮寺の許可を取れば地上にお墓を建ててもいいの。八雲の歴代賢者や、向日葵魔王幽香のお墓も地上にあるわ」
「そーなのかー。輝夜は物知りだなー……あれ? カエルどこ行った?」
「あら? 見当たらないわね」
「溶けちゃったのかな」
「また作ればいいじゃない」
「よし! 作ろう!」
 今から作り直す気らしい。輝夜の胸から飛び出したチルノは、湖の水をすくって氷結させた。
 ああ、今日もいい日和。
 自然環境が少しずつ衰退し、神々は存在できなくなり、天界や冥界への道は閉ざされ、人間も妖怪も数を減らし、特に妖精はほとんど見かけなくってしまった。
 外の世界の影響で、幻想郷はゆるやかに死を迎えつつあった。
 それでも。ああ、それでも。
「私達は幻想郷にいる……そうよね、みんな」
 青空を見上げる。
 青空に浮かぶ白い月を。

 藍。
 藍色。
 天空で波打つ藍の光。
「な、なに!?」
「う……」
 弱々しい声がし、輝夜はチルノへと視線を落とした。
 胸元を押さえて苦しそうに喘いでいる。
「チルノ!? どうしたの、ねえ」
「苦しい……ってか、臭い。なに、これ」
 妖精だけに人間より敏感なのだろう、その異臭は注意せねば輝夜には気づけなかった。
「イオン臭? オゾン臭も混じってるような、段々強まってるわ。あの藍色の光のせいなの?」
「輝夜ぁー!」
 空から高速で舞い降りる紅蓮の翼、藤原妹紅が緊迫した表情で二人に駆け寄ってきた。
「妹紅! これは?」
「ナノマシン・ハザードだ! 外の連中、とうとう世界を滅ぼす気らしい……」
「そんな! チルノ、急いでシェルターに……あっ、他のみんなは?」
「もう各地に連絡が行ってるッ。でもシェルターは駄目だ、人工物の中じゃなく地底に逃げろって、永琳が言ってた」
「妹紅はどうするの?」
「私は神社に行く」
「私も」
「チルノがいるだろう。先に地底へ!」
 言われるがまま、チルノの手を取って輝夜は走り出した。湖から一番近い地底の入口を目指して。
「輝夜、これ、なんなの? 気持ち悪いよ、輝夜……」
 足取りを重くしたチルノを背負い上げ、風が強まる中、輝夜は何度も転びそうになりながら走り続けた。
 ああ、永琳。こんな時、永琳がいてくれれば。
 藍の光に包まれた空を見上げたが、もう、月を見つけられなかった。


「今の弾幕は?」
「幻想郷での、最後の思い出をね、今、スペルカードにしてみたの」
 海に向けて放たれた弾幕は、海水に落ちるや色鮮やかに輝きながらスイスイと平泳ぎをして妹紅を楽しませた。
 あれは、カエルだろうか。
「チルノの……か?」
「ええ。数少ない妖精の生き残り。湖の氷精。最強の妖精。チルノ」
 カエルを凍らせるのが好きだった氷精。
 カエルを凍らせて遊んだ事さえ忘れてしまった氷精。
 でも。
「弾幕だけじゃない、幻想郷のすべてを楽しんで笑う事ができるあの娘は、いつだって最強だったわ」
「ああ。最強の笑顔だったな」
「あの時、あの娘が作った氷像は溶けてしまったけれど、私が生き続ける限り、決して溶ける事は無いわ。私の心の中で……永遠に……」
 人類が絶滅したのなら、ゆるやかに地球は再生していくだろう。
 そうしたらいつかまた、自然の具現である妖精が姿を現す日がくるかもしれない。


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【最終戦】
【限りなき旅路】

 銀月が海面で揺れる夜、二人の少女が海上で向かい合っていた。
 憎んでいた時期もある。
 けれど今は。
 出遭いが出逢いに変わった日、二人にとって真の永遠が始まったのだと思う。
 それでも。
 出遭ってしまったから。
 出遭ったために、生きる痛みと喜びを実感し、絆という蕾を育み、出逢い直せたから。
 これは儀式だ。
 互いを確かめ合うための。
 これは遊戯だ。
 互いを楽しませるための。
 幾百、幾万、幾億の星と、海面に浮かぶ月光の狭間で。

「こんなにも星が多いから」
「こんなにも月が白いから」

 微笑みとともに、妹紅は紅蓮の翼を広げた。
 微笑みとともに、輝夜は夢色の郷を見せた。

「お前も紅に染まれ!」
「貴女を藍して染める!」


 蓬莱「凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-」

 神宝「蓬莱の玉の枝-夢色の郷-」


 黒い砂に半ば埋もれた妹紅が目を覚ますと、雷雲が渦巻いていた空は久し振りにお天道様を見せていた。
 生きてる。そう実感し、起き上がった。
 死んでいる。そう実感し、立ち尽くした。
 黒い砂で覆われた地表。黒い砂の柱。黒い砂の山。ここはいったいどこなんだ。
 幻想郷にこんな場所は――。
 思い出す。幻想郷がどうなってしまったのかを。
「そうか……そっかぁ……」
 ただただ空虚であった。
 風に運ばれる黒い砂が、胸を吹き抜けていくような。
 呆然としていた妹紅は、ふと、手のひらを広げた。
 藍色の花びら。
「あっ……」
 理由はわからない。だがそれを見て、妹紅は思い出した。
「輝夜、輝夜は? 私が生きてるなら、輝夜も生きてるはずだ。輝夜!」
 叫びながら、飛び回りながら、妹紅は輝夜を探した。
 行けども行けども砂ばかり。ここは本当に地球なのか。
「輝夜! くっ……そうだ、合図を送れば」
 両手に火炎を集め、上空に放ち爆発させる。フジヤマヴォルケイノだ。
「頼む輝夜、気づいてくれ、輝夜……」


 黒い砂の上で目を覚ますと、久方振りに夕焼けが見えたので輝夜は微笑んだ。
 天変地異が起きた際、輝夜は地底にいたのだが、ハリケーンによって天井をめくり返され、暴風になされるがまま飛ばされてしまった。そしてハリケーンがおさまって地面に落下。死んだのかどうかは覚えていない。たいして意味は無いし。
 ここはどこだろうと輝夜は周囲を見る。黒い砂漠。幻想郷ではない。外の世界だろうか。
「もしかして、本当に滅んじゃったのかしら……」
 呆然とし、輝夜は砂漠に座り込んでしまった。
 これからどうすればいいのかわからない。
 悲しめばいいのか、怒ればいいのか、泣けばいいのか、笑えばいいのか。
 なにも。
 沈む夕陽をただ、ぼんやりと眺めて……いたら夕陽が爆発した。
 正確には、夕陽の中を飛んできた妹紅が火炎玉を爆発させていた。
「も、妹紅!?」


 再会をひとしきり喜び合った二人に待っていたのは、幻想郷が滅びたという冷たい現実だった。
 地表であらがい続けた妹紅が見たのは、ハリケーンに蹂躙され死んでいく幻想郷の人々だった。
 地底に身を潜め続けた輝夜が見たのは、次第に存在を保てなくなっていく妖怪や妖精の末路だった。
 多くを語る必要は無かった。
 太陽は完全に没し、夜の世界が訪れる頃にはもう、二人はそれらを痛いほど理解し合った。
「そして誰もいなくなった」
 自嘲気味に笑いながら妹紅は言った。
「でも」
 輝夜は拳を握る。
「永琳は、生きてるはずよ。妹紅、永琳は?」
「わからん。地球がヤバいって通信が入って、対策を聞いてる間に通信が途絶えた。月の周辺を偵察していたはずだから、生きていたとしても永琳は月にいると思う」
「じゃあ、地球には私達二人しかいないかもしれないのね」
 妹紅は逡巡した。
「そういう可能性も――ある」

 無くしてしまった。
 失ってしまった。
 今までに何度も経験した事。
 癒せるのは、記憶を思い出に変えてくれるだけの時間だけかもしれない。
 幻想郷の滅亡、そこに生きていた人間、妖怪、妖精達の死。
「いつか、こういう日が来るってわかってたはずなのにな。私と、お前と、永琳以外、みんな死んでしまう時が」
「私も知っていたわ。永琳が留守の時にそうなってしまったのは、地図を持たず砂漠をさまようようなものね」
 すべてが死に絶えたかのようなモノクロの世界で、これから二人、生きねばならない。
 空は黒、雲ひとつ無く広がる果てしない空は黒。
 星は白、雲ひとつ無く広がる果てしない空にまたたく星は白。
 地は黒、雲ひとつ無く広がる果てしない空と同じ黒。
 月は白、雲ひとつ無く広がる果てしない空に浮かぶ月は白。
 瞳にうつる色は、その二つだけだった。


 それは幻想の光景。
 美しく、愛しく、懐かしい、色彩の幻想。
 長いようで短い、短いようで長い、弾幕の語らい。
 この瞬間が永遠に続けばいい。お互いがそんな風に思うも、決着の時は迫る。

「今日こそ死ねや、輝夜ァー!」
 輝夜の美しき夢色の弾幕を突破した妹紅は、ついに渾身の大玉火炎を直撃させた。
 命中し花火のように雄々しく弾けると、炎の雨と一緒に輝夜は月の浮かぶ海へと落ちていった。
「ははっ、やったぜ、今回は私の勝ちだな輝夜」
 無言のまま。
 身じろぎもせず。
 輝夜は水柱を立てた。
「……輝夜?」
 呼びかけるも、海面で仰向けに浮かんでいる輝夜はわずかな反応も見せない。
 蓬莱の薬は不老不死をもたらす。
 幻想郷が無い今、幻想の存在は消えてしまう。
 蓬莱人だけは別のはず。
 リザレクションなら外の世界でもしている。
 幻想郷がまだあった頃、外の世界で存在を保てなくなるまでわずかな猶予がある事が判明している。
 蓬莱の薬。
 その効力は永遠である。
 月の頭脳も、閻魔も、魔法使いも、賢者も、皆がそう言った。
 でも、本当に?

「か、輝夜ッ!」
 声を裏返させて、妹紅は急降下し海面に再び水柱を立てた。
 飛沫が舞い散る中、立つと胸の下まで冷たさにひたってしまう海の中、妹紅は輝夜を抱き支える。
「どうしたの?」
 不思議そうに視線を向けてくる輝夜。
 まばたきをして、息をして、自分を見つめてくれている。
「し……死んじゃったのかと、思った」
 悪い事をしてしまって慌てる子供のように、震える声で妹紅は言った。
 せっかくの楽しい時間を台無しにしてしまったようで、輝夜は申し訳ない気持ちになる。
「心配をかけてしまってごめんなさい。ちょっと、月を見ていたのよ」
「よかった、生きてて」
「バカね……私達が死ぬはずないでしょう?」
「そうだけど、でもっ」
 熱く焼ける目頭を、輝夜の胸に強く押しつける妹紅。
 冷たい海水を全身に浴びているにも関わらず、輝夜は確かに妹紅の涙のぬくもりを感じた。
「輝夜。頼む、私を一人にしないでくれ」
 妹紅の頬を両手で覆った輝夜は、ゆっくりと顔を離させ、濡れた瞳を真っ直ぐに見る。
「もちろんよ、妹紅」
 片手で妹紅の額に貼りついた前髪をのけると、目を閉じ、そっと額に口づけをした。
「ずっと一緒に……」
 そのまま再び妹紅の顔を胸元に押しつけると、母が子を抱くように、優しくあたたかく、妹紅を抱きしめた。

 輝夜の体温を感じて。
 輝夜の鼓動を感じて。
 輝夜の生命を感じて。
 妹紅は湧き出るような痛みに喘ぎ、きつく輝夜を抱き返した。

「月が綺麗ね」
「うん」

 月と星と人が見守る中、互いのぬくもりだけが世界のすべてだった。
 月と星と人が見守る中。
 月と星と人が。

『……あなた達、そんな所で寒くないの?』

 若い女の声がし、二人は目を剥いて岸辺を見た。
 月明かりの下、二十歳前後の女性が松明を持って立っていた。
『爆音や閃光が見えて、まだ戦争できる馬鹿が残ってたのかと思って見に来てみれば……花火でもしてたの?』
 彼女がなにを言っているのか理解するのに、妹紅も輝夜もやや時間を要した。
 松明が照らす彼女の顔は日系人に見えるが、言葉は英語、そういえば大昔に世界公用語になったと永琳が言っていたかもしれない。
 そこまでわかっても、慣れ親しんだ日本語で二人は叫んだ。
「生き残りが! 生き残りがいたぞ輝夜ー!!」
「人類は滅んでいなかったんだわ! よかった、よかった……!」
 抱き合い、飛び跳ねて喜んだため、バランスを崩して海の中で転んでしまった。
 ゴボゴボと大量の息を吐き出して、水中で笑い合い、勢いよく立ち上がり、猛スピードで岸の女性に駆け寄る。
『あの天変地異を生き残った人間が私達以外にいたなんて! 他にもいるのか? 他にも生き残った人間は!』
『お腹が空いたわ、なにか食べる物はないかしら? お風呂にも入りたいわ。お布団かベッドは?』
 全身ずぶ濡れの美少女二人に詰め寄られ、しかも古めかしい英語で話しかけてくるので女性は困惑し後ずさった。
『お、落ち着きなさい! あなた達、どこに避難していたの? なんでそんな時代錯誤な服で海に入ってるのよ!?』
『隠れ里でひっそり暮らしてたら、世界が滅びちゃってもう訳わかんなくてさ。いやー、無事でよかった!』
『お団子が食べたいわ。お饅頭でもいいわ。羊羹や甘納豆も捨てがたい。もちろん洋菓子も大歓迎よ。ケーキやクレープとか』
『黒い髪の方はちょっと黙ってて! 隠れ里って、不法滞在者? 今となってはどうでもいいけど……』
 いくら絶世の美女でも、出会って早々におやつを要求されては胸がときめくはずもない。
 彼女は輝夜を押しのけ、まともに話ができそうな妹紅と向き合った。
『で、あなた達、何者?』
『隠れ里に住んでた不法滞在者でいいです。あなたは?』
『私は空軍の少尉だ。もっとも、軍どころか人類が築いた文明が埋葬されてしまった今、軍人だの階級だの、意味は無いけど』
『軍人さんですか。文明が埋葬されたって、なんです?』
『私だってよく知らないわよ。ただ、人類は神様や妖怪を信じていた時代からやり直すはめになってしまった……』
『……という事は』
 妹紅と輝夜は顔を見合わせた。
「輝夜ぁ! 人間が妖怪の存在を想像すれば、妖怪が復活するかもしれないぞ!」
「だとしたら幻想郷を創れるわ! ううん、いっそ新しい歴史に妖怪や神霊の存在を認めさせれば、幻想郷に頼らずともみんな外の世界で存在できるようになるかもしれない! そういう国を創るチャンスよ!」
「だとしたら、他の大陸に生き残ってるだろう人類と交流を持つ時、大騒ぎになりそうだな! 黒船どころの騒ぎじゃないぜ!」
「若い時の苦労は買ってでもしろって言うでしょ? 私達が苦労すれば、そんな困難乗り越えられるわ!」
「うおお、湧いてきた湧いてきた。新生幻想郷、新生日本のビジョンが!」
「やりましょう妹紅!」
 未来に抱いた希望は、爆発的に巨大なものとなって蓬莱人の想像力を刺激した。
 しかもそれを実現できるだけの知識や経験がある。吉と出るか凶と出るかはわからない。
 だが。
 やらずに後悔するより、やって後悔するべきだと、昔から色んな人が言っていた。
 だからやるのだ。やってやる!
 置いてきぼりの女性はしかめっ面をしている。
『ちょっと、なに盛り上がってるのよ。どこの言語で喋ってるのよ。古代人や宇宙人の類なの?』
 まさしくその通りだった。
『いやー、悪い悪い、つい興奮して。私達は隠れ里に住んでいた不法滞在者の古代人と宇宙人とでも思ってくれ』
『ところで、ねえあなた、生存者がいるって事は、お月様はどうなったの? 外の住人は宇宙や月にも都を築いたのでしょう?』
 今度は白髪がくだらない冗談を言い出し、黒髪の方から真面目っぽい質問をしてきたため、女性はもはや主導権を握れないのだろうなとあきらめの境地に達していた。
『地球に残った私達は地球環境を回復させる。月に避難した人々は科学技術を維持させる。ニュースくらい見なさい、どんな隠れ里に住んでたのよ』
『という事は、永琳は無事なのね。月でがんばってくれているのね!』
『エーリン? 地球から月に派遣される技術者は、みんなトップエリートよ?』
『永琳はトップエリートよ。天才だもの』
『あなた達と話していると、変な夢を見ている気分になるわ……常識ってものは無いの?』
『無いわ。私達は非常識の存在だもの』
『……隠れ里って、精神病患者の隔離施設じゃないでしょうね』
『幻想郷よ。隔離施設というより避難所ね』
『はぁっ……このまま話していてもらちが明かない。二人とも、ハクルーに来てもらおうか』
『はくるー?』
 地名? 固有名詞?
 女性は溜め息をついた。
『ハクルー・シラインよ。生存者はそこに集めてる。紀元前から何度も建て替えられてるんだけど、なぜか今回の大災害の被害をほとんど受けてないの。なにかに護られたり、身代わりになってもらったかのような……』
 神社は英語でshrineだ。シライン。ハクルー。
 もしかしたら、それは。
「妹紅、博麗神社ってどうなったの?」
「ボロかったからなぁ、ハリケーンで根こそぎ飛ばされたよ。柱一本残らなかった。その後、私も飛ばされて、どこともわからん場所で気がついて、フジヤマヴォルケイノで合図をしながら飛び回ってたら輝夜と合流できた」
「私も似たようなものよ。幻想郷が壊滅して、私も飛ばされちゃったから、博麗神社どころか幻想郷がどこにあったのかもわからない状況だったし……」
「つまりだ。新しい幻想郷を、外の世界の一部として創るには、ハクルー・シラインは最高の出発点って事になるな!」
「なんだかできすぎた話ねぇ」
 またもや謎の言語で話し出した二人に辟易としながら、女性は松明を振った。
『早く来なさい。ずぶ濡れのままじゃ風邪を引く。ハクルー・シラインまでは徒歩で数日かかるんだから、足手まといはごめんよ。生憎、車みたいな便利なものは、みーんな砂になっちゃったんだから』
 ぼやきながら女性が歩き出したので、妹紅と輝夜は慌てて追いかけた。
『大丈夫さ、こう見えて健脚なんでね。服もすぐ乾かせる』
『ところで少尉さん。空軍の少尉さんだったわよね? お名前はなんて仰るの?』
 女性はどうでもよさそうに答えた。
『リェム・ハクルー』
 妹紅と輝夜は顔を見合わせた。
 なにこれ、なんの冗談? 話ができすぎてない?
 不思議がられると予測していたらしく、彼女は続けた。
『この地方に転属して、ハクルー・シラインの名前を聞いた時はビックリしたわ。ご先祖様がこの辺りの出身なのかもね』
 妹紅と輝夜の抱いた疑問はその点ではないのだが、ここで自分達の知る少女の存在を事細かに語ったとて、彼女にはなんの意味も無いだろう。だとしたらこの想像は二人の胸のうちにだけしまい、いつか永琳が月から帰ってきたら、永琳にだけそっと教えよう。
『よし、大急ぎで博麗神社に行こうぜ』
『さあ霊夢さん、案内役なのだからもっと急いで』
『急にやる気を出してどうしたのよ。ていうか、人の名前くらいちゃんと発音しなさい!』
 濡れっぱなしのまま妹紅と輝夜は駆け出した。
 案内役を置いてきぼりにしないよう、進んでは立ち止まり、声をかけ合いながら。
 そんな彼女達が海辺の草木を揺らして走ると、木陰から舞い出た蝶が、月明かりを藍色の翅に透き通らせた。

「輝夜! 人生ってのは、楽しいもんだな!」
「そうね妹紅! 本当に、生きていてよかったわ!」

 今まで多くの、本当に数え切れないほどの宝物を得て、同じ数だけ失ってきた。
 けれど思い出までは消えない。

 一緒に見た夕陽も。
 嘘つきの優しい悪戯も。
 楽園を築いた事。
 楽園を楽しんだ事。
 受け継がれる想い。
 思いがけぬトラブル。
 口うるさい説教。
 剣による繋がり。
 家に遊びに行ったり。
 イベントで人々を招いたり
 家族を託された事。
 約束を託された事。
 悲しい別れ。
 くだらない雑談。
 命懸けで戦った事。
 命懸けで護った事。
 あの花の色。
 あの笑顔。

 すべては二度と戻らぬ過去の出来事。
 それらによって今の自分がある。未来の自分がある。
 支え合える誰かが隣にいてくれるなら、悲しい思い出も背負っていける。
 笑い合える誰かが隣にいてくれるなら、新しい思い出を創っていける。

 天が灼き尽くされたとしても。
 地が焦土と化しても。
 歴史を忘れても。
 暦を改めても。

 風は種子を飛ばし、雨は川を流れる。
 太陽と月とが、この大地をあたためる。
 草花が芽吹き、咲き誇り、そして散っていく。
 死の中で生きるすべてに営みを与えながら。
 それが新しい未来を創る。

 例え過去を忘れてしまったとしても、人は歴史を積み重ねていく。
 今日までも、そして明日からも。
 限りなく旅は続く。

 特に、彼女達の旅は。
 NaNaNa...長い。
 色々語りたい事はあるんだけど、語らない方がいいかなとも思う。

※追記
 布団の中で唐突に「最終戦に入れるべき描写だ!」と思いついてしまったので、この長い長い長いSSを読んでくださった皆様には申し訳ないのですが、最終戦のスペルカード宣言直後を加筆修正しました。せっかく読んでくださったのに申し訳ありません。
 お詫びになるかわかりませんが、気に入ってくれた方もいるようなので二人の使ったスペカ名をまとめておきます。

藤原妹紅のスペルカード
追憶「白沢と舞う鳳凰」
借り技「封魔陣」
夜雀「焼き鳥撲滅運動」
説教「永遠に裁かれぬ罪」
悶死「衝撃の黒歴史」
魔槍「スピア・ザ・グングニル」
炎劇「地獄を訪ねて三千度」
融合「フェニックスメルトダウン」
幻想「勿忘草の翅模様」
蓬莱「凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-」


蓬莱山輝夜のスペルカード
遺品「キャロットアミュレット」
借り物「ミニ八卦炉」
落し物「毘沙門天の宝塔」
宝刀「楼観剣と白楼剣」
廃品「文々。新聞創刊号」
魔宝「賢者の石」
鬼宝「今はもうカラッポのひょうたん」
天宝「緋想の剣」
忘れ物「永遠に溶けないカエルの氷像」
神宝「蓬莱の玉の枝-夢色の郷-」


>28さん
報告ありがとうございます、修正しました。小宇宙ではガンダムではなく聖闘士になってしまう……。

>35さん
報告ありがとうございます、修正しました。間違えて魂魄一族に嫁入りさせてたようです申し訳ありません。

>64さん
たくさんのご報告ありがとうございます、修正しました。お、多い……長さ故のってレベルじゃないこれこそまさに我が黒歴史也。
イムス
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コメント



0.4780簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
感無量です。ハッピーエンドでよかった…
7.100玖爾削除
出た、モーメント型(ド失礼)。
こんな光景が見られるなら永遠に不老不死でもいいかもしれない。
いや、わけわかんねえ。自分が何を言いたいのかはっきりしねえ。
仕様がないので、確かに読んで、楽しませていただきましたという証を。
9.100名前が無い程度の能力削除
世界の片隅で「幻想郷は良い所だぞ」と、妖怪に帰ってくるように叫ぶ妹紅と輝夜を幻視できるお話でした。
11.100名前が無い程度の能力削除
これも巨大な輪廻の一つなのか
それとも終わらない幻想の始まりなのか


ターンタイプが戦ってはいけないってことですよね
12.100名前が無い程度の能力削除
文明埋葬と
そのときの幻想郷ってのは時々ぼんやり考えたりしていましたが
まさにそういうものを読む機会に恵まれるとは
おひげのガンダムの最終回を見終えたときの気持ちを思い出しました
13.100名前が無い程度の能力削除
ジーンときた。こう、瞼と肺が痺れたような。
少尉さんがご先祖やら不老不死etcを知ったらどう反応するかなど、その後も気になるけども少々無粋ですね。
あらためて、面白かったです。
15.100名前が無い程度の能力削除
しかし実際、こんな世界にならなければ、人類がやり直すことは出来ないんじゃないか……なんて。

生き地獄の果てに楽園を見ることが出来るのならば、不老不死だって悪くないさ。きっと……ね。
18.100名前が無い程度の能力削除
力作でした。
20.100名前が無い程度の能力削除
壮大すぎて脳が爆発した
ありがたやありがたや
21.100カスケ削除
紅魔館メイド妹紅ヒストリーの続編みたいで楽しめました。
最期までフランドールの面倒をみた、妹紅に敬礼。

何故かレミリアと美鈴にジン・ジャハナム閣下とゴメス艦長を幻視した。
幻聴のBGMはいくつもの愛をかさねてだった。
ふう、どうやら疲れているようだ。少し休ませてもらうよ。
23.100名前が無い程度の能力削除
『終わりなき旅』の中を彼女達は生きているのですね。
24.100名前が無い程度の能力削除
なんで輝夜は永琳とはぐれてんの?
28.100名前が無い程度の能力削除
これだけの物語、よくぞ書ききりました
個人的には貴方の妹紅を通した貴方の幻想郷をもっと観たかったですが
まずは完結、ということでお疲れ様でございました
また別の物語を期待してます

誤字?っぽいのを一点
融合・天宝の章の
>小宇宙の内部は
小惑星でしょうか?
34.100おにがみ削除
なげぇ 読んでる最中にどんな風に感想を書くか考えられるほどになげぇ。
だが、俺的ドストライク 満足感をさらに溢れさせるほどの満足を味わいました。
誤字脱字や突っ込みたいところやもろもろの感想を書くと長くなるので手短に。

この作品を書ききったイムスさんに感謝を・・・自分が読むことができたのが、誇りに思えるような作品が創作されるから 生きててよかったと思うんだよなぁ。 

やはり言葉だけでは思いは伝えきれないものです。直接お会いしてこの思い・感想を伝えたいものです。
35.100名前が無い程度の能力削除
>>八戦目最後のほうに誤字(?)

隕石を切り裂き、瓦礫とともに消えた魂魄妖夢。
満身創痍でありながら、隕石を支え続けてくれた魂魄萃香 ←名字が一緒になってます

辛い時に耐え、慣れてしまった後に訪れる一筋の光明。「夜明け」のような印象の作品でした。
39.100名前が無い程度の能力削除
スペカ名にグッときた
40.100名前が無い程度の能力削除
見事、見事の一言に尽きます。
4クールの番組を一気に観終えたような…素晴らしい読後感。
ああ、目から月光蝶が……
42.100名前が無い程度の能力削除
ブラボー、おお、ブラボー!!
43.100名前が無い程度の能力削除
(人によっては)長すぎて回れ右しちゃうかもしれませんし、
そのせいで点が伸びてないのかと思います・・・が!
間違いなくこれは超大作ッッ!

ガンダムネタの散りばめ方が上手すぎるw
45.100名前が無い程度の能力削除
蓬莱の旅路に果ては無し
幻想に終わり無きが如く

泣けばいいのか、笑えばいいのか
素敵な読了感、ありがとうございます
46.100名前が無い程度の能力削除
読みごたえ抜群でした。
47.10名前が無い程度の能力削除
場面の移り変わりが多く非常に読みにくかった。
もっと短く出来たのではないでしょうか。
最後もご都合主義すぎて残念でした。
48.100名前が無い程度の能力削除
Bravo
49.100名前が無い程度の能力削除
弾幕と共に回想する幻想郷の思い出、絶望的な今を生きるため支え合う二人、そして新たなる始まり
壮大で、素晴らしい物語でした
50.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい。
悲劇的な世界ではあるけれど、そこへ至るまでに抗い続けた幻想郷の住人達の奮闘と
その幻想郷の記憶を継承し、寄り添うように生きる妹紅と輝夜。
そして新世界への希望を感じさせるラスト。
正直、100点ではとても足りません。
53.100名前が無い程度の能力削除
もう初っ端のスペカ名見ただけでピンというかジンときてしまったわけだが。
そこから最後の一行まで引き込まれっぱなしだったわけだが。
読み終わった今も「限りなき旅路」が脳内再生されて困ってるわけだが。

ただ感謝。
素晴らしい作品を読ませていただきありがとうございました。
55.100名前が無い程度の能力削除
タグにガンダムがついてたけど、ガンダムを全く知らなくても存分に楽しめた。
蓬莱人の二人が見た、滅びに向かう幻想郷の中の人々。
彼女たちの最後がスペカとともに二人に受け継がれていって、感無量です。
時間の許す限り、全員のエピソードを見てみたかった。
特に守矢の二柱は作中でチラチラ話題になっていたから、神奈子は妹紅、
諏訪子が輝夜かな、と予想までしてましたww
終始、ディストピア観が色濃く落とされていたから物語の着地点に不安を覚えていましたが
最後は清々しいくらいのハッピーエンド。
すごい力作でした。ありがとう。
59.100名前が無い程度の能力削除
とっても面白かったです。
61.100名前が無い程度の能力削除
涙腺決壊しました。
言葉にできない…そんなSSでした。

そして歴史は繰り返されるのかー
64.100身も蓋も無い程度の能力削除
誰も帰ってこない家で延々とお人形さんごっこをしている子供たちを見ている気分。知った人でなく知らない人物がもたらす
この救われた感はいったい何なのだろう。永琳でも出せないこの感じは。ついでにどうぞ。
てゐ を に視線をやる  説明してくれ が 気がするが  幻想郷の命運を を 託し  外の世界 の に依存している
永琳だけであ て欲しかった  自分に向かって 振 ってくる妹紅  氷像を掲げる に チルノに
67.100名前がな(ry削除
感動と興奮で涙が止まりません。
こうゆう壮大な話大好き。

シリアスだけじゃなくて所々ほっとできる場面があって良かったです。
もっと評価されるべき。
69.100ケトゥアン削除
よかったです。
感動しました。
71.100名前が無い程度の能力削除
ここまで遠大で、尚且つ終わりの見えない話は初めてです。不幸があるから幸せを想えて、幸せがあるから不幸も耐えられる。そんな裏表が永遠に続いていく様を幻視しました。感動に感謝と賞賛を、ありがとうございました。
72.80名前が無い程度の能力削除
俺にとってはいまひとつ終末の幻想郷観に心を撃ち抜いてくれるような設定及び描写が無く、もう少しコンパクトに出来たのではないかと思える長めのお話。
作中のキャラの価値観もビシィっとフィットせず、心の中に少し蟠りが残りました。そこはまぁ二次創作では避けては通れない場所なので、税金みたいなもんだと思ってくれると有り難いです。

でもこういう書きたい物を詰め込んでやったぜ系な話が俺は好きです。
無論、物にもよりますが、書きたいもん書いてんだ! って事が伝わって来る作品は読んでても気持ちが良いもんです。

満点は出せませんが間違い無く大作。
読んで損は無し。
75.40名前が無い程度の能力削除
ガンダムが詳しくないのでいまいち楽しめませんでした。
あと作者さんの作品には裸の描写がよく出てきますが、せっかくの壮大な物語が幼稚になります。
個性を出すには違う方法がよろしいかと。
76.100名前が無い程度の能力削除
非常に長いお話でしたが、この作品の読破に費やした時間は無駄ではありませんでした。
個人的にてゐが好きなので、導入部でもう涙腺がやられました…

形ある愛しいものをことごとく失っても、そこで築いた絆や温かな記憶は受け継がれ、明日を勝ち取る光となる。
そしてそんなかけがえのない思い出こそが、永遠を生きる輝夜と妹紅が健全な魂でいられる活力となっているのではないでしょうか。

ただ一つ、輝夜と妹紅の「二人っきりで残された」演出がしたかったのはわかるのですが、
そのために永琳の存在が脇へ追いやられちゃったのはちょっと残念でしたね。
もちろんフォローの努力はうかがえるんですが。
85.100SAS削除
ガンダム知らないけど、すごく良かった。
この作品を読めたことにありがとうといいたい
86.90名前が無い程度の能力削除
50点では足りないと思ったので
92.100名前が無い程度の能力削除
これはすごいわ
93.100名前が無い程度の能力削除
長い時間読みました、けれどそれだけの価値があったとも思えました
二人で仲良く喧嘩しながら阿呆なことやってると思ったら
度々起こる弾幕ごっこでの回想シーンに涙が溢れることもありました
大作をありがとうございます

ただ少しわからないことがいくつか
1妖夢と消えた楼観剣を受け取れないんじゃないか
2萃香の最期の紫…とは
94.無評価イムス削除
>93さん
あえて語らず情報をしぼったりしましたが、せっかくの3月だしこういう質問に答えてみるのもいいかなと思ったのだ。

>1妖夢と消えた楼観剣を受け取れないんじゃないか
妖夢が還ってくるなり、竹林あたりに落ちてるのを発見するなり、ある日輝夜の部屋に忽然と置かれてたり、空から降ってきて輝夜の脳天に刺さるなり、ご自由にご想像ください。ん? そういえば萃香と一緒に駆けつけた妖夢、半霊がいなかったな……セルフ喧嘩中?

>2萃香の最期の紫…とは
なんなんでしょうね? まあ萃香と紫のような古い友達同士か、心が読めるさとり様か、ニヤニヤしてる作者か、浄玻璃の鏡を持つ閻魔様しかわからない事ってのもあるでしょう。……多いな。

修正報告の類とは違うので、フリーレスで失礼しました。
99.100名前が無い程度の能力削除
睡眠時間を40分近く削るだけの価値、いや、それ以上の大作でした。
この作品に出会えて良かった…っ
101.100名前が無い程度の能力削除
途中で涙が出ました。
創想話読んでて泣いたの初めてだ・・・
102.100電動ドリル削除
巨大化した萃香が飛び出してきて、挙句地底の機械を打ち負かしてきた、と言いのけたところで目尻が……。
ちょっとガンダムネタが多すぎないか? とも思いましたが、そんなの大したことないと思えるくらい楽しませていただきました。
この蓬莱人達は、二つ目の幻想郷で末永く楽しみながら生きればいいと思う。
103.100名前が無い程度の能力削除
最高すぎる…もっと伸びないかな…
107.無評価名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナーッ!!
108.100名前が無い程度の能力削除
面白かった……とても、とても面白かった。
109.100名前が無い程度の能力削除
これはすげぇ、何書けばいいかわかんないけど凄まじかった。
ただ、二人が生き続ける意味はあったと思えた。
112.100名前が無い程度の能力削除
生き様と思い出の品、過去を語る上で欠かせない物がそれぞれの下に集まってるんですねぇ
紫とチルノ、それぞれの思い出が一番心に響きました

…最近この手の感動が見当たらなくなってきました
幻想入りしかけてここに来ちゃったのかなぁ
118.100名前が無い程度の能力削除
面白かった。
最後に救いがあってもなくても面白い話だったと思うけど、
そうなると二人のパラダイスにしかならないか
個人的には、救いのないかぐもこ大好物なので、それはそれでありなのですがー
119.100名前が無い程度の能力削除
珍しくライトノベル以上に出来のいいSSに出会えました。さすがに長かったですけど。
123.100名前が無い程度の能力削除
あまりにも壮大なパロディだったので、最初はまったく分からなかった。まさかこういうことだったとは…。ギャグでないパロディも良いものだとわかりました。作者さんの作品がすごい好みなので、楽しませてもらってます。
126.100名前が無い程度の能力削除
残念ながら私はガンダムを見たことがないのでパロディとかはよくわかりませんでしたが、それでもとても楽しめました。
元ネタを知ってればもっと楽しめたんだろうなー…
130.100名前が無い程度の能力削除
長かった。途方もなく。
作品への感想としても、文章量への感想としても、そう感じました。
たった二人の生き地獄。そこに至るまでに築かれた思い出が、徐々に紐解かれて行く仕様に、心を動かされない訳がない。
正直言うと、ちょくちょくご都合っぽいのが気になるなぁ、なんて中盤で思ってしまったんですが、萃香が地底から推参した時点で、そんなことは些細なことなんだと吹っ切れましたね。
燃える。超燃えた。

個人的にはてゐのエピソードがグッときたっす。
134.100名前が無い程度の能力削除
一個の壮大な神話の序章を読ませてもらったような感じだった。
特に地底の戦いと小惑星破壊の話はそれぞれ別々の理由で泣きそうになった、てか泣いた。空は幸せになれたのか、天子は結局どこまで生きたのか、その辺が気になるけど語られなかったのがまたジンときた。

無数の出会いと別れを繰り返して、永久の時を生きながら誰よりも人らしく生きていく彼女達に永遠の祝福を!
138.100名前が無い程度の能力削除
彼女たちはこれからも限りなき旅路を続けていくのですね
未来に幸あれ
139.90名前が無い程度の能力削除
さらに未来、幻想郷の再生を描いてください
140.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい
141.100名前が無い程度の能力削除
ブラボー!!おお、ブラボー!!
なんとなく、ジョジョ6部彷彿させる展開でしたね。
144.100名前が無い程度の能力削除
何回も読み返したけど今日また読み返したら初めて泣きそうになってしまった。
名作だと思います。すばらしすぎる。面白かったです。いやもうどんな言葉を尽くしてもこの気持ちは表せない…
この作品に出会えて良かった!
147.100名前が無い程度の能力削除
最後に救いがあって本当に良かった
148.100dai削除
こんなにも幸せなら、永遠も悪くないと思います。
150.100名前が無い程度の能力削除
うーん、時の最果てだよ早苗さんエンドと甲乙つけがたい