Coolier - 新生・東方創想話

霊夢の巫女ミコ大作戦・前編

2010/12/30 21:53:31
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「はぁ」
霊夢は深いため息をつく。もう何度目かもわからない。
「はぁ……」
霊夢が持つのは血判状。目を落とすのも血判状。
「はぁ。どうしようかしらね、これ」
昨日、博麗神社で行われた大規模なクリスマスパーティー。宴もたけなわ、酒のはずみで交わしてしまったそれには、こうあった。
『覚書
来る新年元旦、双方の神社の鳥居を賭けて参拝客の賽銭勝負を執り行う。
博麗神社 博麗霊夢
守矢神社 東風谷早苗』
霊夢はそれに一瞥をくれると、コタツにごろんと寝転んだ。

霊夢の巫女ミコ大作戦

――思えば昨晩、そう、昨晩。聖白蓮がふと漏らした一言がきっかけだった。
「そういえば霊夢さん、去年……いえ、今年はどうでしたか?」
そう問いかけるのは白蓮。どこから持ってきたのか、白蓮の周りにはすでに十数本の一升瓶が転がっていた。酔いが脳までまわっているようだ、普段からどことなく焦点の合っていない目がさらにうつろな方向を向いたまま、白蓮は優しく霊夢に問いかける。
「今年って、なにが?」
「なにがって、初詣ですよ初詣。この博麗神社には、それはもう大勢の参拝客がいらしたのでしょう?」
大勢。参拝客。
その二つの単語で霊夢の口が微かにひきつったが、白蓮は気付かないようで、ニッコリと微笑みながら続ける。
「これは……去年でしょうか今年でしょうか。折角建てた命蓮寺、末法の世を少しでも正そうと、除夜の鐘を撞くことにしたのです」
「殊勝な心がけじゃない」
「はい。名付けて、『ナムサン! ひじりおねーさんと一緒に除夜じょや鐘つき!! ポロリはないよ!?』です」
「……は?」
「ンもうっ、ちゃんと聞いて下さいよ、霊夢・さ・ん」
霊夢の頬を人差し指でツンツンしながら、白蓮は驚くべき話を続けた。それは、『ひじりおねーさんと一緒に鐘つき券』なるチケットの話だった。仏法の体現者、末法の救世主、大魔法使いこと超人・聖白蓮が迷える子羊を一人ずつ後ろからそっと優しく包み込み、その豊かな体を密着させつつ一緒に鐘をつくという権利&ライブS席。一枚百銭。ちなみに、販売五分で完売。
煩悩を除き清らかな心で新年を迎えた後は、命蓮寺に集まった信者数百人と一緒に寅年南無三ライブ。会場は『南無三ーー!』『ひじりーー!!』『びゃくれぇぇん!!』の大合唱、最後は『ナムサーンッ!』とキめてフィナーレ。ライブのみのチケットは一枚五十銭。
「そのチケットが飛ぶように売れたとき、私は確信しました」
売れる、という重要単語に霊夢の眉がピクリと動く。
「一枚売れ、十枚売れ、百枚売れ――ああ、仏様は本当にいらっしゃるのですね、南無三――と」
そのあと白蓮が信仰と仏法についてとうとうと語り出したが、霊夢の耳にはもちろん入っていない。ほろ酔い加減の霊夢の頭に残っているのは、信仰がお金を生みだしたと言う事実だけ。チケット。100銭。その二つが頭上でくるくる回って、オカネオカネと囁きだした時。
「――で、お寺でこうなら、霊夢さんの神社はどれほどかと思いまして。参拝客」
「えっ? ええ。そりゃね、そりゃもうね。コホン、賽銭箱が一つじゃ足りな――」
霊夢がまことしやかな嘘をさらりと流そうとすると、横からヌッと緑の頭が出てきた。
「マコトにあしゃく大欲非道ッ! 煩悩まみれの俗物ですッ!」
ところどころロレツの回っていない東風谷早苗だった。右手には地底銘酒『鬼殺し』、左手にはスルメ。それをグイと一呑みすると、素面とは思えない目つきでまくしたてた。
「いいですか、霊夢さん、そして聖さん。信仰とはお金で買うものではありましぇん! お金で信仰は買えないのです! 地道な努力と熱心な布教、貧者への施し、富める者への説法、異教の排除、撲滅、弾圧、根絶! それはもう長い長い道のりを経て、人は唯一無二なる絶対の信仰にたどり着き、人は信者となるのれす!!」
早苗の目が妖しく輝く。霊夢は『オマエぜってーヤバい宗教ヤってるだろ』と言いそうになったが、実際そうなので胸の内にしまっておくことにした。代わりに霊夢は訊く。
「でーなに? アンタのとこにはどれくらい来たの? 参拝客」
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、早苗は指を突き出した。四。
「何? たったの四人? しけてるわね」
ちがいますよ、と早苗はかぶりをふる。
「四つです!」
「四つ? 何が?」
「もちろん、賽銭箱ですよ、賽銭箱。参拝客は夜通し途切れず、境内を通り越して山のふもとまで行列、用意した守矢グッズは完売、あまりの参拝客の多さに賽銭箱から賽銭があふれて、換えの賽銭箱を――」
それ以上は、霊夢の耳の穴には入ってこなかった。賽銭箱。四つ。あまりにも桁違いな信仰に、酒に酔った頭がもっとクラクラした。賽銭箱、四つ。四つ、賽銭箱。足の生えた賽銭箱が神社にぞろぞろ行進する風景を垣間見た時、早苗の一言が霊夢を我に返した。
「――で、博麗神社はどれくらい儲けたんですか?」
「私も聞きたいわ。どれほどの信仰を集めのかしら?」
と白蓮。
しかし、霊夢は言えない。言えるわけがない。
「忘れたわ。もう一年くらいも前のことよ? それに、人間は昨日よりも今日、今日よりも明日。日々未来に向かって前を見据えることが――」
「じゃあ、次の元旦でしゅね!」
キレイにまとめようとしたところに、早苗の茶々が入る。
「は?」
「ついに……。ついに、信仰の雌雄を決める日が来たのれすぅ!」
早苗はがばと立ちあがってグッと握りこぶしを作る。少々うつろな視線はあさってを見据えている。
「竜虎相搏つ、不倶戴天。同じ地に二つの信仰は相容れません。異教が滅ぶまで、守矢神社が残るまで、徹底的に信仰を広めねばなりましぇーーんっ! 信者と書いて儲け! 儲けと書いて信者! より大勢の信仰こそ、神の力の源です! 遙か神話の昔より、信仰の落とし前は勝負で決まると相場が決まっていますっ! これは決戦れす。けっしぇんです、聖戦れすぅ!!」
一升瓶を高々と掲げ、早苗が演説らしきものを終えると、周りに出来ていたギャラリーらしきものからパラパラと拍手が送られる。さらに白蓮が――鳥居を賭けるのはどうでしょう――などと漏らすものだから収拾が付かなくなり、ギャラリーの圧力と酒の勢いでで引くに引けなくなった霊夢も『その勝負受けて立とうじゃない!』とヤケになり、文は新春特別企画のネタがやっと出来たと写真撮影にいそしみ、紫は『博麗と守矢、どちらの勝ちに賭ける? オッズは1.1対30.0よ』と胴元までやりだす始末。最後にはそこらへんにあったわら半紙と朱墨で、いつの間にか覚書まで出来上がっていた。自分でもいつ拇印を押したのかもわからない。わからない、わからない――。

――ごうがいー、ごうがいー
何かの声で、意識がコタツに引き戻された。
「号外ー、号外ー」
文の声が小さく響いてくる。ひらりと舞い落ちた号外は風に乗り、行儀よく霊夢の手元に収まった。
『文文。新聞 号外
博麗神社と守矢神社が信仰勝負 鳥居を賭けた世紀の対決
昨日行われた博麗霊夢と東風谷早苗の緊急特別会談により、互いの鳥居を賭けた信仰勝負が行われることが決定した。勝負は新年元日に行われ、獲得した賽銭の額を競う。敗者は神社の象徴たる鳥居を勝者に渡すとのこと。結果は1月2日の号外で発表。識者の一人である聖白蓮は「自らの信仰を賭けて戦う、これほど美しいことが他にあるでしょうか」とコメントしている。なお、この勝負のオッズは1.1対30.0、守矢神社ががぜん優勢であり――』
紙面の中央には、握手している霊夢と早苗の写真がデカデカと載っている。いつの間に、と思いつつも号外をくしゃくしゃに丸め、クズ入れに投げた。外れて畳に転がった。
――こんな勝負、勝てるわけないじゃない!
――あら、そう? 博麗の巫女たるもの、物おじせずに挑むことが肝要よ。
――あっちは四つよ、四つ。こっちは四枚。一文銭が四枚よ!
――ううん、信仰はお金じゃないわ。もっともっと大切なものよ。
頭の中で二人の自分が延々と語り合っているというのに、一向に答えは見つからない。
――今までの異変とは桁違いなのよ? わかってる!?
――大丈夫。今までの異変と同じように、自分の持てる力を信じて……
異変。その何気ない一言が、霊夢の頭を駆け巡った。はっ。
「これよ。異変よ、異変。異変が起きれば……!!」
決心と方向が定まり、霊夢は勢いよくはね起き、コタツの足に小指をぶつけてうずくまった。

<後編に続く>
後編は2011年元日にアップします。ご期待下さい。
ごぼう抜き
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コメント



0.570簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
信者と書いて儲けw
続き待ってます
8.100名前が無い程度の能力削除
ああ…どっちも数銭しか入ってなさそうな予感が
これで来年にも期待出来る

あと除夜の鐘チケット、おいくら?

米6:だれうまwww
でも確かにそうだwww
10.100奇声を発する程度の能力削除
来年を楽しみに待ってます
13.100名前が無い程度の能力削除
部外者は大笑いだが、当事者たちは全く笑えないオチがつきそうな予感がひしひしと…
15.無評価名前が無い程度の能力削除
足の生えた賽銭箱が4つ…あれがタッグ戦している光景が浮かんでしまった。