Coolier - 新生・東方創想話

人の心は解らぬもの

2010/12/24 11:05:54
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苦手な方はご注意ください。

















「それじゃ、この本は借りて行くよ」
「ああ。感想も忘れずに返してくれよ。早苗にも宜しく言っておいてくれ」
カラン、という音と共に神奈子が出て行く。

和やかな雰囲気から一転、シンとした空気になる。いつもの香霖堂の雰囲気。
この雰囲気こそ、この店本来の姿だ、と霖之助は思う。
静寂に身を任せ、少し渋めのお茶を飲みつつ本のページを捲る。いつもの学術書や小説とは違い、絵の多い物。所謂『マンガ』だった。
(それにしても最近、本の仕入れが多いのだよな…本屋でも構えられそうだ)

そんなことを考えていると人がやって来た。
人、と言ったのは、それが客ではない事が解っていたからだ。どういう事かというと――
カラン。
「よぉ香霖」
小柄な少女。真っ黒な服装が金髪の美しさを際立たせている。
「なぁ、何時からこの店は神社も兼ねるようになったんだ?」
普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
彼女は今までまともにこの店を店として使った事が無い。であるから“客”という言葉は相応しくないだろう。
正しく彼女との関係を言葉にするならば、『義兄弟』か『腐れ縁』か、もしくは『悪友』が近いだろう。
『保護者』、も間違いではないかもしれない。米などの食べ物や、生活必需品を与えているのは、『一応』僕なのだから。
「……確かにこの店では神にかかわる物を扱いもするし、神棚も床の間にあるよ。しかしその程度で神社と呼ぶなら、人里は神社だらけだ。だからこの店は神社ではないな」
「んなこた知ってるよ。いやさ、そこで神奈子とすれ違ったんだが、妙に楽しげで気味が悪かったからな。何か喜ぶ程度の事があったんだろうと思った訳さ」
言いながら手頃な木箱に腰を下ろす。
この店にいるときはそこまででは無いように見えたが。しかし、こちらの思惑以上に喜んで貰えた様で、道具屋冥利に尽きると言う物だ。
「何、大した事じゃあないさ。僕がしたのは本を貸し出しただけで、有難い力を分けてもらった訳でも、分社を建てた訳でもない」
今まで僕の店を訪れた人たちは、揃いも揃って勉学自体に興味が無いヤツばかりだった。
霊夢は必要に応じて、魔理沙は魔法に応用できなければ興味を失くす。
紫はどちらかと言えば教える側の人間だし、阿球は『大体自分の知識その物なんで…』との事。
書物があっても興味を持たないし、持っても魔理沙位だ(その上、魔理沙はコレクションとして持っていくだけの様だし)。
つまり何が言いたいかというと、一つの本に対して意見を交わせる相手がいなかった。
最近ようやくその得難い相手に出会えた。山に越してきた神社の面々の事だ。
その上彼女等はついでに何かを買っていく事もある。
もしかしたらこの店始まって以来の客らしい客かもしれない。

「へぇ~本ねぇ。ちなみに何て本を貸したんだ」
興味津津といった様子で聞いてくる。恐らく神が借りて行ったという事で、その内容にも興味が出たのだろう。
「悪いが魔理沙の興味を引きそうなのはなかったな。まず、『上手な作物の育て方』、『ビューティフル・ガーデニング・ライフ』、『よく知ろう!海外のイベント』。後は『我が闘争』と『天元突破グレンラガン(漫画ver)』だったな」
「前半は、まぁ、何となくわかるが、後半は何だ?」
「何でも、外の世界で有名な政治家の本らしい。なにかの参考にするんじゃないかな。神と言っても、この国の神は政治家の様なものだし。
もう一つは外の世界で読んでいた娯楽作品らしい。偶々入荷したのが続刊だった様だね」
(私は余り興味が無いんだ。本当に。早苗がこういうのが好きでね。私じゃないよ?早苗がね)
墓穴を掘っている事に気付かない様子で神奈子が言っていたのを思い出す。彼女は本当に神なのか偶に疑いたくなる。ともすれば人よりも人らしい。
「ふ~ん、漫画ねぇ。余り読んだこと無いな……なぁ、時に香霖」
「僕もツケを払ってくれるならやぶさかじゃないだが」
即答する。そろそろ厳しくしなくては彼女のためにならない。懐が冷えて来たのもあるが。
それに、いつも食べ物や道具を貰っているせいか、ツケの話をすれば魔理沙は大体引きさがってくれる事を僕は知っている。
「ちぇっ。まぁいいや。確かパチュリーの図書館に何冊かあったはずだし、そこで読むかな」
あまり親しくはないがパチュリー氏に幸あれ、と願わずには居られない。きっとその何冊かは魔理沙のコレクションとして持っていかれるのだろうな……。



「なあ魔理沙。親父さんとは会っていないのかい?」
此処で言う『親父さん』とは魔理沙の父親であり、人里に在る百貨店『霧雨店』の店主である人物を指す。
親父さんは人里でも力のある人物で厳しくはあったが、それを感じさせない程親しみやすい。
その上、義理と人情を大事にする人だったので里の皆からは慕われていた。
魔理沙も小さい頃(僕から見ればまだまだ小さいが)は父親にベッタリという感じだったのだが――
「何でその話を今するんだ?やめてくれよ」
タヌキを模したヌイグルミを抱きしめ、楽しげに突いていた様子が一変、眉間にしわの寄った顔になる。
何時だったか、彼女は家を飛び出し魔法の森の空き家に住むようになった。
それに前後して親父さんが勘当を宣言をした。あの親子がこれ程まで険悪な関係になるなんて、と当時の人里では持ちきりだった
何があったのか、何をしてしまったのか、僕は知らない。
幾度か聞こうと思ったが、今みたいに驚くほど不機嫌になるのでそれ以上追及するのが躊躇われた。
だから、今日はもう少し聞いてみよう。
「僕の記憶では、『偶々』店に来ていた親父さんと、何時もの様にやって来た君が鉢合わせたのが最後だと思うんだが…」

二年ほど前にあった事だ。僕と親父さんが『久々に』話をしていると、魔理沙が突然やって来た。
彼女はその姿を目にすると、不機嫌そうな顔で無視を決め込み僕に話しかけてきた。
――香霖。少し奥で待たせてもらえるか。なんか古臭い匂いがして気分が悪いんだ
どうしたものか、と思案しかかった僕をヨソに、親父さんがそれに対して皮肉を返す。
――なぁ香霖。何やら急に臭くなってきたな。妙に乳臭い。いや、小便の匂いかな?あぁ臭い臭い。
それをきっかけに怒鳴り合いが始まった。親父さんのそんな剣幕は、長い付き合いの僕ですらその時以降見た事はないし、魔理沙も同様だった。

「ああ、ソレで合ってるよ。それきり会ってない。で?この話はまだ続けるのか?」
話を切り上げたい様子で魔理沙が言う。いつも魔理沙が怒る時と違う様子だった。
この年でこんな迫力を出すとは。やっぱり親子だな。
両手を前に出して手のひらを見せる。
「悪かった。もうやめるから気を収めてくれないか?もう君の前ではこの話はしない。約束しよう」
「なら始めからすんなよ。…全く、そんなだから香霖はモテないんだよ」
聞き捨てならないな。これでも昔は……いや、止めておこう。虚しくなるだけだし。
そう思いながら、魔理沙の顔に一抹の寂しさが浮かぶのを、僕は見逃さなかった。





「さて、そろそろ帰るかな」
空に星が見えだす頃、ようやく魔理沙は帰る気になったようだ。
今日も何をする訳でもなく店に居たな。追い出さない僕も僕だが。
(あ、そうだ)
ドアを開け出て行こうとする背中に声を掛ける。
「魔理沙」
振り返る魔理沙に言葉を続ける。
「明日は絶対に店に来るなよ」
「はぁ?何で」
魔理沙が不満げに言う。気の赴くままな自分の人生に口を出されるのが嫌なのだろう。
それにしても感情の出やすい顔だ。
「何でもだ。来ても中に入れてやる訳にはいかない。だから来るな」
「理由を説明しろよ。何時でも来る訳じゃないけど、来るなって言われると行きたくなるんだぜ、私は」
ふぅ、とため息を吐く。本当に天の邪鬼な奴だ。
「明日は、真面目な商談があるんだよ。余り人には聞かれたくないし、邪魔が入ると先方に悪い」
「へぇ~。ふぅ~ん。商談、か。……おし。良いぜ。明日は『絶対に』行かない。約束してやるよ」
ニヤニヤと笑って言う魔理沙。
あの調子だと、近くにまではやってくるだろうが、店には入ってこないだろう。





翌日、昼過ぎ。
店の前でバタバタと音がする。恐らく『商談相手』がやって来たのだろう。
ドアが開き数人の若い男が荷物を抱え、店を通り過ぎ住居部分へ向かっていく。
運び込まれるのは『米などの食料と生活必需品』だ。
それを目の端に映しつつ、正面の男に気をやる。
「よぉ香霖」
短く刈り上げた髪の毛。前に比べて少し薄くなったようだ。
そのせいで解り辛いが、髪の色は金色だ。
「いつも通り、二月振りですね。親父さん」
親父さんの後ろ、店の外に、飛び去る黒い影が見えたのは見間違いではないだろう。



「最近はどうだ?まぁ繁盛はしていないだろうが」
荷物を運び込んだ後、若い者達は帰って行った。見知らぬ顔ばかりだったので、僕が独立した後に入った人ばかりなのだろう。
「察しの通り、閑古鳥が鳴いている状況ですよ。書籍ばかり入荷してしまいましてね。それに来るのは友人か、博麗の巫女か、貴方の娘か、ですよ」
そうかい、と愉快そうに笑う。それなりに年を取っている筈だがそれより十は若く見える。
生涯現役だとよく言っていたが、彼なら可能だと思える。
「ウチもすこし失敗してなぁ。一つ空き家が出来ちまった。何か有ればお前に貸してやるが、どうだ?」
「今のところは結構です。が、何かあれば、そうですね。貸して頂くとしますか」



互いの近況についてや、最近の出来事について粗方喋った後。
「…お前には感謝している」
親父さんが言う。
「何も聞かず、アイツの世話をしてくれている。住む場所もそうらしいな」
どうしたのだろうか。これまでは彼はこんなことを言わなかった。
「食料やらなんやらもお前からキチンとアイツに与えてくれている。今アイツが自立できているのはお前のおかげだ。――有難う」
深々と頭を下げる。
頭を上げてください、僕は言う。恩人に頭を下げられることほど気まずい事は無い。
「礼を言われるようなことではないですよ。貴方には多くを学ばせて頂きましたから、そう、魔理沙の一生分世話するくらいなら、まだまだお釣りを返さなければなりません」
「…ふん。義理堅い男だな、お前は」
「そうでもないですよ。貴方からアレらを渡して貰わなければ世話なんて出来ないし、しませんから。僕は所詮、冷静に自分の利益を優先させる様な男ですよ」
「その上素直でない。全く変わらんな」
アイツの世話の利益のあるものかよ、と親父さんは笑う。少し恥ずかしい。



つまりこういうことだ。
勘当話の数日後、親父さんは唐突に店にやって来た。
――大人げない事に大喧嘩した挙句に勘当まで言い渡してしまった。撤回したいところだが、世間と立場がそれを許さない。だからせめてアイツの生活を影から支援したい。その仲介をしてくれないか。
成程、確かにそれならどちらも欺ける。人里にとっては僕への差し入れだ。そして魔理沙にとっては僕からの差し入れだ。
けれど。
――それで良いんですか?貴方は。あの子の事を、とても大事にしていたでしょう?
――……可愛い子には旅をさせよ、とも言う。何時までも俺が生きている訳でもないし、いつかは独り立ちさせなきゃならん。早めの独り立ちと、思うしかあるまい。
このままでは仲違を、貴方は演じなくてはならないのに、それでも?と問うと、寂しそうに笑いながら親父さんは言った。
――自己満足かも知れん。だが…あの喧嘩で思い知ったよ。あの子と俺じゃあ、どうせそう長く一緒には暮らせなかっただろうさ。それに、娘は父親を疎むものさ。
僕は、いくつか言いたい事もあった。けれど、僕は喧嘩の内容も知らない、他人だった。
当人が良いと言っているんだ。僕が口出しすべきでない、そう納得させた。

あの日魔理沙と親父さんが鉢合わせたのは、『初搬入』の後の事だった。



「仲直りは為さらないのですか?」
回想から戻った僕は尋ねた。少なくとも、親父さんの方にはいがみ合う要素はないと感じたからだ。
「それは無理だな」
僕の期待に対して返事は素っ気なかった。
「いつかも言ったが、あの喧嘩で解った。もう俺もこれで良いと感じているよ」
「その…喧嘩とは何が元で始まったので?」
恐る恐る聞く僕の手は汗に濡れていた。こんなに緊張するのは弟子入りを志願した時以来かもしれない。
「――それは俺とアイツの個人的な話だ。他人に話すつもりはない。
…というのは薄情に過ぎるな。お前は家族同然だ。だが、アイツがお前に言ってないんだろう?なら俺が話すべきじゃないな。ただそう、簡潔に言うなら、アイツは魔性に惹かれ、俺は魔性を厭うていた。そこが決定的に相容れなかった。それだけの話さ。……アイツはきっと、そんなお堅い俺の事を嫌っているのさ」

それにしても、
「理解できないですね」
「?…何がだ」
「貴方は決定的に相容れないと言った。離れ離れでもよい、と。
それなのに心配して、陰ながら支援もする。そこが僕には解らない」
すると親父さんは、はは、と笑って言った。
「当り前じゃないか。子供を心配しない親などいるものかよ」
成程。それならばまだ僕には理解できない筈だ。
しかし、何故だか解る気もして、僕の心は暖かくなるのだった。



じゃあまた二月後に。そう言って親父さんは帰って言った。
全く、二月でなく一月でもよいだろうに。以前そう言った所、
『支援するとてそれに甘え切っては意味が無い。ある程度は自分で考えさせねば無意味だ』
と言っていた。甘えさせる気は毛頭ないようだ。

さて、それはともかく。実は今回、僕は一計を案じた。
僕が思うに、親父さんは、本当は仲直りをしたいのにある程度で妥協してしまっている。
そしてそれは、魔理沙にも言えるのではないか?と僕は考えている。
彼女は実家や父親の話をすると怒りだすが、同時に話を切り上げると寂しそうな顔を覗かせるのだ。しかし、魔理沙の方がより『距離』を置いている。
そこで僕は魔理沙の『距離』を縮めようと考えた。だが、どうすれば良いだろうか。
急激に近づかせる事は出来ない。出来たところでより関係がこじれるだけだろう。
だからまずは、魔理沙に“意識させる”事にした。
まず『親父さんの話』をして、頭にそれ自体を意識させる。
次に『次の日の商談』というイベント、『絶対に来るな』という言葉。
天の邪鬼で好奇心の塊である魔理沙なら、店に入らず様子を見に来るだろう。
そして『大きな荷物を持ってやってくる親父さん』。
魔理沙は顔を合わせないように立ち去ってしまうだろう。しかし疑問は残る。
何故商談相手が父親なのか?あのやけに大きな荷物は何なのだろう?
それだけでいい。それを考えるだけで。
彼女は明日香霖堂へやって来て、それについて僕に尋ねるに違いない。



案の定彼女はやって来た。
「…よぉ」
「おや?どうしたんだ。妙に元気が無いが」
恐らく考え込んで上手く眠れなかったのだろう。この時点で僕の計略は成功したと言えるだろう。
「いや…あの、さぁ。悪いんだけど、少し昨日、覗いてたんだよ。――いや!何て言うか商談の相手が誰かなぁって思ってさ!どんなしけた面したやつなのかなぁってさ!面見たらすぐに帰ったから話は何も聞いてないぜ!」
手を振りながら魔理沙が言う。そんなに慌てなくても怒りはしないのに。
「あまり褒められた事じゃあないな。ま、僕は余り気にしないが。で?」
えっ、と言って固まる彼女に先を促す。
「だからさ。どうだった?僕の商談相手は。しけた面だったかい?」
「……商談って何だったんだよ」
露骨に話を逸らそうとする。しかし、今回に限ってはそれは許さない。
「さてね。企業秘密だ。教えてもいいが、代わりにさっきの質問に応えて貰おうか」
「なんか香霖、今日はイジワルだ。そんなの聞いたって何にもならないじゃないか」
頬を膨らませて言う魔理沙。
「そうかもね。だけど気になったのだからしょうがない」
微笑みながら返答を待つ。
此処で魔理沙の口から『父親』と言う言葉を引きだす事は、今まで一言も口にしなかった魔理沙に、ほんの少しだけの変化をもたらす筈だ。
「……何でアイツなんだよ」
「解らないな。アイツってのは誰の事だい?」
今の様に全く話もしないという状態が一番まずいのだ。僕が嫌われる位でそれが変わるなら問題ない。
少し緊張して言葉を待つ。僕を睨みつけていた魔理沙はハァ、と大きくため息を吐くと、
「わかった、わぁかったよ。だから、何で私の親父が商談相手なのか、って聞いてんだよ」
これで満足か、とぼやく。ああ、大満足だとも。
「それは当り前じゃないか。人里でも有数の大型店の主なんだから。不思議な事はないよ。ちなみに商談は『大した事ではない』よ」
「あぁ!香霖それはずるいぞ!」
「商談の内容は教えたよ。具体的には秘密、だけどね」
「~~~!……も~!何なんだよぉっ!今日はすっごいイジワるだぞ!」
頭から湯気を出す勢いで怒り腕を振り回す。プンスカという擬音が聞こえてきそうだ。
そんな魔理沙の仕草や表情が可愛らしく、且つ面白くて僕は吹き出し、更に魔理沙を怒らせるのだった。



魔理沙を宥めて落ち着かせた後。どうしても今しなければならない質問をする。
「なぁ魔理沙。何で親父さんと喧嘩なんかしたんだい?」
本命は隠しつつ、ジャブを飛ばす。それでも、今までだったら決して出来なかった質問だ。
「……親父は何か言ってたか?」
「尋ねたけど、教えてはくれなかった。君が言ってないなら自分が言うべきじゃない、とね。ただ、魔法とかに関係はあるって事は教えてくれたけど」
そっか、と言うなり黙りこむ。きっと彼女は父親が悪し様に罵っていると思っていたのだろう。何やら考え込んでいる。
声を掛けようか、と思った時、
「…悪いんだけどさ。下らない事だし、プライベートな事だから…もう少し、待ってくれないかな。私の中で整理がつくまで」
――我ながら、素晴らしい。と自画自賛してしまう程上手く行っていた。
今までなら機嫌悪そうに、話を逸らすか切り上げようとしていた筈だ。
既に彼女の中の『悪しき父親像』には揺らぎが生じている、と言うことだろうか。
「他人に言う話じゃないのか?だったら言わなくてもいいよ。聞いたところで何がある訳でもないしね」
思った以上の戦果を得て、僕は非常に満足していた。
だが、もう一つだけ聞かなければならない。

恐らく、魔理沙は本当に僕と親父さんの話を聞いていないだろう。
しかしだからこそ、確実に気にしている事がある。
それは“大きな荷物”。前に魔理沙に聞かれた事がある。
――なあ。こんなに私に物やって大丈夫なのか?
魔理沙はああ見えてかなり頭の回転が速いし、察しもいい。
何も言わずともその内『親父さんの支援のカラクリ』に気付くだろう。
その時、魔理沙がどう行動するのか。この質問の返答で解る。

「魔理沙。親父さんの事は、まだ、嫌いなのかい?」

さっきまでとは違う。明らかに魔理沙は警戒している。
「……香霖。それを聞いて、どうするんだ。親父にでも言うのか?」
魔理沙はこれでも、全力で戦えば人間に負ける事はないだろう(霊夢は除くが)。
そんな相手が今、非力な僕に向けて敵意をむき出しにしている。
気を抜けば一瞬で汗まみれになってしまいそうな恐怖を隠し、余裕の態度で続ける。
「それこそ、何の意味があるんだい?親父さんがそれを聞いたところで態度を変える様な人か?君の頭に聞いてみなよ。“NO”と答えてくれる筈さ」
「…確かにそうだけど」
少しは敵意が緩んだ。彼女の中でも親父さんはそういう人なのだ。
とはいえそれでも充分に怖い。彼女の夫になる人は苦労しそうだ、と思った。
「なぁに。僕の好奇心以外の意味はないよ。思えば、君はその話題を避けていたし、そのたび不機嫌そうにしていた。だけれど君から親父さんの悪口は聞いた事もない。どう思っているのか、気になる所だろう?」
さて、果たしてどう答えるのか。
そして体の震えはまだ抑えられているだろうか。
「仕方が無いな、全く。――親父に対しては、色んな感情がある。小さい頃は尊敬していたし、ああなりたいとも思っていたよ。その為に一生懸命勉強もした。
けど、歳を取るたび見方も変わっていくんだ。過剰に厳しい様にも感じたし、頑固すぎるとも思った。私の言うことに駄目出しするその顔に怒りも憶えたさ」
過剰に厳しかった?可愛い娘を手放したくないって感じだったが、彼女はそう思っていたのか。解らないものだ。
「決定的なのは、やっぱり喧嘩した時さ。あれは絶対に解り合えない部分がある事を露わにしちまった」
暗い顔の魔理沙を見て思う。
…思っていたより、溝は深かったのだろうか。そうならばもっと時間をかけなければ解決出来ないんじゃないだろうか。
とその時。
「でもな、解ってんだ。お互い引っ込みが付かなくなっちまった事位。けど、それは大した事じゃないんだ。問題なのは、私達が解り合えないという事なんだから」



「………だけど、好きか嫌いかで言うなら」

「嫌い、じゃあ、ないかな」



彼女は顔を赤らめて言う。
なぁんだ。
僕が思っていたよりも、もっと大したことは無かったんじゃないか。
「悪いな。今までその話題に過剰に怒ってたのは、何て言うか、恥ずかしかったんだ。正直、人が聞いたら下らない、っていう程度の事かもって思ったら、つい」
僕は、魔理沙が親父さんの事を、明確に嫌っているのかもと思っていた。いや、憎んでいるのかも、とまで考えていた。
けど実際はどうだ?それどころか嫌ってもいない。
ただお互いに嫌われていると思い合って、素直になれずにいるだけだったんじゃあないか。
何の事は無い。二人の間に距離なんてそんなに無いじゃないか。
「全く…。君達父子は本当に厄介だな」
魔理沙は、僕の言葉にムッとした感じで、
「この事は他言無用だ!絶対に言うな、言ったら全力で魔法をぶっ放すからな!それと、もうこんな話すんなよ。お前は家族同然だけど、この話をまたしたら、縁をぶった切るからな!!」
「わかった。もう二度とこの話はしない。約束する。だからそんなこと言うなよ」
そう、こんなことならもう僕の出番は無い。
親父さんが歩み寄るか、魔理沙が大人になるか。
はたまた別の、些細なきっかけで解決してしまうだろう。
それまでにどれだけの時間がいるだろうか。そう遠くない未来であるように思う。
僕はもう何もしなくても良いだろう。始めから何もしなくて良かったのかもしれない。
けれど今日、彼女等が生きているうちに仲直り出来るだろうと確信できた。
それだけで嫌われる覚悟をした甲斐があったというものだ。





その日僕は夢を見た。
僕は所用で霧雨店に向かう。
すると、大分大人びた魔理沙が面倒臭そうに店を手伝っている。
そして親父さんと話したり怒鳴り合ったりしている。
それを他の来客と、『またやっているよ』と思いながら眺めている、そんな夢だ。
願わくば正夢である様に。
願わなくても叶うとしても。
そう思わずにはいられなかった。
今回は一応過去話じゃない、かな?
この話を書くにあたって、頭の中のものを言葉にするのは難しいと、
改めて思いました。もっと語彙を増やさなきゃなぁ…。

面白いと思って頂けたのなら幸いです。
もっと面白い物を書けるよう精進します。
アドバイス、感想等を頂けると嬉しいです。
涅槃太郎
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コメント



0.950簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
大人びた魔理沙か……


想像もつかないなw
5.100奇声を発する程度の能力削除
とても良かったです
大人びた魔理沙も良いな…
7.100名前が無い程度の能力削除
面白かった
けど
>紫はどちらかと言えば教える側の人間だし、阿球は
阿球では無いです…
11.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
14.80幻想削除
ほのぼのしてほんわか。