Coolier - 新生・東方創想話

天狗二人と巫女と魔女の、優雅で怠惰な冬の鍋ライフ

2010/12/11 01:00:05
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 木漏れ日差し込む昼下がりの博麗神社。霊夢は縁側にふわりと腰掛け、急須からこぽこぽと茶を湯呑みに注ぐ。あら、茶柱が立ってる。これは今日良い事あるわね。賽銭とか入らないかしら。などと妄想した霊夢はご機嫌だった。

 上機嫌に鼻歌をふふふーん、と口ずさみ始めながらぷらぷらと足をバタつかせながら茶を飲む霊夢。彼女にとってとても幸せな至福の時だったであろうその時、一陣の風がごう、と吹いた。
 
「あややややこんにちわー……ってあやややや、これは……」 

天狗の少女、射命丸が突風を巻き起こしながら颯爽と舞い降りてきたのだが、そんなものと一緒に着地して周囲が無事である筈も無く。

「……こんにちは文。私ね、さっきまですっっっごく機嫌良かったのよ。でもね、今は物凄く機嫌が悪いの、何でだか分かるかしら?」

 そこには庭から舞い上がった枯葉や土埃に塗れ、ついでに湯呑みから零れた茶を顔から被り、上半身を塗らした霊夢の姿があった。プルプルと震えているのは、寒さのせいなのか、はたまた怒りのせいなのか。

「えーっとー、うーんと……文、わかんなーい!きゃぴ♪」
「―っ、この大馬鹿カラスがー!!」
「あべしっ!?」


鉄拳制裁から逃れる為に考えたブリっ娘作戦。しかしその程度の媚では博麗霊夢を陥落させる事は叶わず、文は無念のまま夢想封印で派手に吹き飛ばされる事となった。

「うう……ちょっと私が可愛かったからって酷い……しくしく」
「どうやらもう一回ふっとばされたいようね?」  「……ごめんなさい」

 ぺこり、と申し訳無さそうに素直に頭を下げる文を見て、先ほどの怒りもどこかに飛んで行ったのか霊夢は「じゃあ罰として庭の掃除しといてよね」と別段不機嫌な訳でもなく、先ほど濡れた服を脱ぎ捨て新しい巫女服に着替えながら文に命令した。

 「相変わらず妖怪使いが荒い……ってたんまたんまその針仕舞ってー!?」
「ふん」





 「……で、あんた今日はどうして来たのよ?また取材とやら?」
「ああ、そうだった。本来の目的を見失うとこだったわ。ところで、私にもお茶貰えない?もう体が冷えて冷えて仕方が無いの……」

 普段使う敬語を使っていないので、今日は鬱陶しい取材で来た訳ではないと、霊夢は内心ほっと胸をなでおろした。

「ん」
「ありがとう。おお、ぬくいぬくい」

 幸いな事に、境内は荒れていなかったので縁側から見える範囲を掃除するだけで済んだ文は、霊夢から手渡された湯呑みの温もりを堪能しつつ一先ず茶を一口すする。

 「実は、後輩に鍋と酒を振舞わなくてはならなくなっちゃって……そこで場所を探してんだけど。ご馳走するんでちょっと居間の炬燵使わせてくれないかな?」
「ふむ、悪く無いわね。でもなんで私の家なの?あんたの家とか、どうせ後輩って椛なんだから彼女の家でやればいいのに」
「炬燵よ炬燵。天狗って家が汚なかったり、寒さに強かったりで置いてある家が皆無なの」
「へぇ」
「で、たまには炬燵に潜りながら一杯やってみたい ってのが椛の要望で。そんなわけでいいかな?」
「まあ別に断る理由無いしね。ご馳走になれるんだし。今日?」
「ええ、やれるなら今日でも全然構わないわよ」
「じゃあ特に今晩何も無いし、やっちゃおうか」 

手元のお盆に入っているおかきをぽりぽりと摘みながら、トントン拍子に話が進んでいく。恐らく突然拉致られてくるであろう、当事者の椛を全くスルーして。

「とりあえず、具材と椛持ってきちゃう。日が落ちる頃までには来るね」
「ん。こたつ暖めて待ってるわ」

 ちゃちゃっと行きますかー、と言って軽く伸びをしてから、今度は来た時と違って控えめに風を起こしつつ、文は飛び去って行った。山の方へと姿が消えるとあの犬の子も大変ねぇ、とこれから椛に訪れる突然の災厄(?)を軽く憂いた。





 犬走椛はいつもと変わらない哨戒の任に当たっていた。いつもと同じ滝の麓、いつもと同じ衣装を着ていつもと同じようにあふぅ……と欠伸を漏らしながらいつもと同じ手頃な岩を椅子代わりにして座っていた。
 早くお仕事終わらないかなぁ、などと考えているとぎゅるぎゅると腹の虫が悲鳴を上げた。

 「うう、お腹空いた……」
「あ、いたいた。椛先輩お疲れ様っす!交代です!」
 とてとてと後輩に当たる白狼天狗が小走りでやってきて、今日の仕事の終わりを告げてくれた。
 
「あ、もうこんな時間か。ありがとね。今日は特に何にも無かったよ。寒いと思うけど頑張ってね」
「いえいえ、わっかりましたー。それじゃあお疲れ様でした!」

 早朝から警備に当たっていたが特に何か事件が起きた訳でも無く、平和な一日であった事の喜びを噛み締めつつ帰宅の途に着こうと手荷物を袋に入れて担いだその瞬間。見上げたら上空から高速で降ってくる物体。いや、天狗の姿を椛は視認した。

 「もーみーじー!」
「!?」

 考えるよりも先ず体が動いた。素早く飛び退くと、先ほどまで自分が立っていた地面に良く知った「何か」が舞い降りてきた。派手に土埃が舞い上がり椛は思わず顔を背け口を手で覆った。こんな事をしでかすのは先ほど聞こえた声の主しかいない。

  「けほっ……全く、文さんは普通に現れられないんですか!?」
「いや、ほら。驚かせたくってつい」
 
 もう少し大人しく来て下さいよと、文の頭をぺしりと叩いているのを見て、衝撃で唖然としていた後輩の天狗は肩を震わせた。

  「せ、先輩!烏天狗である射命丸様を叩くだなんて無礼な!」
「あ、いいの。この人はいつも無茶苦茶やるからしっかり叱ってあげないと。ほら文さん、あの子腰抜かしちゃってます。反省してください。ほら、立てる?」
「うう……こんなに強く叩くと身長縮んじゃうわよ……」
 
 椛が後輩に手を差し伸べている後ろでは、頭を抑えて唇を尖らせて不機嫌そうに目に涙を浮かべている文の姿があった。
 平均的な身長の文と、女性としては比較的長身の椛が並んでいて尚且つ椛の方が力関係が上に見えるこの構図だと、とても文の方が上司に当たる天狗。しかも白狼天狗よりも位が上の鴉天狗の中でもその名を轟かせているあの射命丸文だとは到底思えない。

 「で、いきなり空から降ってきて何の用ですか?
「ええ、これから博麗神社で鍋をやるから誘おうと思って」
「いいですけど……何で神社なんですか?
「ほら、こたつでお酒が飲みたいって言ってたじゃない?だから神社でやる約束を取り付けてきたの」

 へぇ、思い付きだけで言った事なのに覚えてくれたんですね。と椛が関心すると、文はそうでしょうそうでしょうと胸をそらせて誇らしげな顔をした。そういうの無ければかっこいいのになぁ……と溜め息を付く椛に向かって惚れてもいいのよ、と言いながらその薄い胸を張った文に対して、深い深い溜め息を再び吐いた。

 



 「あら、随分と早いわね。もうちょっとゆっくりしてようかと思ってたのに」
「まあ材料と椛持ってくるだけだったしね」
「何ですかそれ。私、きのこや白菜と同レベルってことですかぶーぶー」
「椛はもうちょっと上よ。鍋の主役を張る予定のこの牡丹肉くらいには」

 障子をすぱん、と開けて入ってきた天狗娘二人を、いつもの巫女服の上からはんてんを着込んで炬燵に潜り完全に脱力しきっていた霊夢が迎え入れたとたん、神社の居間が姦しい空間となった。蜜柑の入った籠と、その横に積み重なっている皮の残骸が炬燵の魅力を更に引き出しており、文と椛は抗う事が出来ず部屋の隅に食材の入った籠を一先ず置いて炬燵に潜り込む事にした。

 「これはっ……ぬくい、ぬく過ぎる!」
「ふぇ……あったか~い」
「ちょっとあんた達、少しは手伝いなさいよ!」

 普段親しみの無い故に耐性も無い、炬燵の魔力に天狗娘二人が取り憑かれている間にも霊夢は台所できりきりと鍋の準備を進めていた。えのきに葱。白菜に人参を手頃な大きさ―適当とも言える に切り刻みふつふつと沸騰している味噌仕立ての汁の中に投入していく。神社にある宴会用の鍋だと大きすぎて鍋を囲む会と言うよりは炊き出しになりそうだったのだが、椛が手頃な鍋を持ってきてくれたおかげで解決出来た。
 
 「うーん……それにしてもちょっと量多いかしら?」

 汁から頭を出している野菜の上に牡丹肉をこんもりと盛り付けながら、果たして食べきれるのだろうかと思案した。まあみんなお腹空いてそうだし大丈夫っしょ。と楽観的な結論を出し、肉の山の上から出汁を何度か掛けてから鍋の蓋を落とし、火が通るのを待つ事にした。


 「椛ー。蜜柑無くなったから取ってきてよ」
「嫌です。私、炬燵から出たら寒さで死んじゃう病にかかってまして」
「じゃあ私もそれー。という訳でお互いの生死をかけてじゃんけんしましょ?」
「断固拒否します。じゃんけんするのも面倒くさいです。でも蜜柑欲しい」
「うん、蜜柑欲しいね」
「じゃあ文さん取ってきて下さい。一生のお願い使っちゃいますよ?」
「じゃあ私も一生のお願い使うー」
「あーずるーい」

 天板に顎を乗せ、脱力しきった会話を繰り広げていると玄関の戸がガラガラと音を立て、「お邪魔するぜ」と言う快活そうな少女の声が聞こえた。あ、魔理沙か。と普段から比較的聞き慣れている人声なので文はすぐさま理解した。
 とっとっとっ、と足跡がこちらに接近しているのが分かるのだが文も椛も立ち上がって「やあやあ寒い中御苦労さま!」などと言って新たな客人を迎え入れる気は更々無く、相も変わらずに炬燵の中でぬくぬくとしていた。

「おいおい、神社の炬燵でぐーたらしているのは巫女と昔から相場が決まっているのに今夜は代わりに天狗が二人いるとな」
「こんばんは、お先にお邪魔してたわよ」
「ふぁぁ…」
「おい文、お前さんの後輩寝ちゃいそうだが大丈夫か?」
「いいのよ。寝たらその間に牡丹鍋が無くなるだけだから」
「おお、そりゃいいな。私の取り分が増える。よーし椛、ぐっすり寝ちゃいな。ねんねーんころりーよ……」
「うう、眠たいけどお腹も空いた……」

 軽口を叩き合いながら魔理沙は颯爽と炬燵の空いたスペースに潜り込もうとするが、文が翼をばさりと広げて進路を遮った。

 「炬燵に入ったら私達と同じ状態になるのは目に見えてるんだし、入る前に蜜柑とか取り皿とか取ってきて貰える?」
「ああ、あと蜜柑お願いしまひゅ……」
「とりあえずお前達が蜜柑を欲しているのはよーく分かったぜ」

皮の残骸を見せつけられれば嫌でも分かるというもんだぜ。と溜め息交じりに呟いて、とりあえず屑入れに皮の山を根こそぎ叩きこんだ魔理沙は「じゃあちょっと台所行ってくるぜ」と言い残して去って行った―障子を開け放ったままで。廊下から冷気が流れ込み冷たい風が当たる。顔とか首筋とか。

 「ちょっと!閉めて行きなさいよ!おお寒い寒い……」
「ああ、でもおこたから出たくない……暖かいですしふぁぁ……」

 冷たい風にも負けずに炬燵にへばりつく椛に対して、座り込む位置が悪かったのか後ろから冷気の直撃を受けた文は耐える事も出来ず、遂に炬燵から出ざるを得なくなってしまった。

 「うう、思慮が足りなかったわ……座る場所まで考えておけばよかった」

 おずおずと立ち上がって障子をぴしゃりと閉じさて戻ろう、と振り返るとそこにはくーくーと寝息を立てて炬燵に突っ伏している椛の姿があった。暖かさからか、頬を薄く紅潮させて時たま耳をぴくぴくと可愛らしく動かしている様子を見て、文の中で何か危険な感情が込み上げて来た。


 そっと起こさない様に近づいて、耳に手を伸ばしてみる。指先が触れたか触れないかといった微妙な距離になった瞬間、ぴくっ!とへたれていた耳が立つも、すぐにまたぺたりと倒れた。

 「……なにこれ可愛い」

 慎重に背後に回り込んでぺたりと地面に寝ている尻尾にそっと手を伸ばしてみる。右から手を出すと、左に尻尾が揺れて掴めない。左から掴もうとすると右へ。ならばそのまま稼働領域の限界まで追いつめてみようか、と思えば手の上をひょいと超えて避けられる。なんだこいつ、実は起きてるんじゃないかと思って頭に手を伸ばしてみると特に反応は無い。ちょっと枝毛が混ざった銀色の髪の毛越しに頭を撫でてあげると、頬を緩めてただでさ幸せそうな顔を更に多幸感でいっぱいにしている。

 「えへへ……文さん……気持ちいいですぅ」

 その瞬間文の中の何かがぷちり。という音を立てて切れ、はぁはぁとおおよそ健全な人妖が出す事の無いような息を立て始めた。

 「もう辛抱堪らん!もみもみ!もみもみ!!」
「ふぇ……ぎ、ぎゃー!?尻尾掴まないでー!頬ずりしないでー!?」

 文は背後から椛に覆いかぶさり、その頬に頬ずりしつつ左手は尻尾をがっちりホールド。右手は伸びては袖口から服の中に潜り込んでいた。俗に言うもみじもみもみが始まったのである。





 「だーれだ?」
「こら、その前に言う事があるでしょうが」

 先ほど聞こえた玄関の開く音と、後ろから聞こえる足音の主は同じであるという確信を持っていた霊夢は先程まで居なかった人物から投げかけられた声にも驚く事無く答えた。

 「ただいまだぜ」
「あんたの家は森の中でしょ」
「こんばんわだぜ。ところで居間で炬燵と同化している天狗が二人いたんだが」
「ああ、これのスポンサーよ」

 そう言ってふつふつと音を立て、味噌の良い香りを出している鍋を指差す。

 「なるほどな。ところで、晩飯をたかりに来たんだが私も相乗りしてもいいか?」
「ああ、構わないわよ。今日は何持ってきたの?」
「全く抜け目無いな。ほれ」
「わっ、大きい」

 魔理沙が籠ごと差し出したのは、見事に育った天然物のしめじだった。あんな陰気臭い森にも育つんだ、と軽く驚いた霊夢に陰気臭いとはなんだ、この太陽の様な魔理沙さんが住んでいる森に向かって。などと軽口を叩いたが哀れにスル―された。半分ほど籠から取りだされたしめじは、水洗いの後に蓋の開いた鍋に投入されていった。野菜に火が通って縮んだおかげでしめじを投入する余地はまだ存在していた。

 「丸ごと投入するか。贅沢だなぁ」
「そう、タダで用意されたお肉と野菜に、タダで貰った茸が入ってタダで私の胃袋が膨れるの。贅沢の極みね」
「何もそこまでタダを主張しなくてもいいじゃないか……」

 世の中タダより強い物は無いのよ、と言いながら戸棚の上の方から人数分の取り皿を出し、用意しておいた箸と一緒に鍋敷きの上に乗せて魔理沙に手渡す。「タダより怖い物は無いんじゃなかったっけ?」という魔理沙の反論は虚空に消え、ほらさっさと運ぶ!という一声に従うように居間に向かって強制移動させられる。酷いんだぜ、と後ろを振り返ると、床に置いてあった一升瓶を二本ほど抱きかかえた霊夢がとてとてと後ろを追いかけて来ていた。

 「なぁ、私の記憶が正しければ、居間にあいつ等が持ってきたっぽいポン酒の瓶が何本かあった筈なんだが。霊夢さんやい、お前のその腕に抱きかかえられているのは何ぞや」
「あら、あんたはあのうわばみ達相手にあれだけで足りると思うの?」
「おっと、その中には私達も含まれているんじゃないのか?」

 居間に三本、霊夢の手元に二本で一升瓶が計五本ある計算になるが、とてもじゃないが年頃の少女達が飲めるような量ではない。しかしここは幻想郷、そのような幻想など簡単にぶち壊されてしまうような世界なのだ。

 「まあ、そういう事になるわね」





 「それでは……えーっと何に乾杯しましょう」
「そもそも何でお前達ここに集まったんだ?」
「あぁ、前に文さんと賭け将棋をやって私が勝ってご飯とお酒をご馳走になる約束をしてて……」
「という事で、かんぱーい!」

 かんぱーい、と部屋に金属やガラス、陶器のぶつかるかちゃりと言う音が響いた。徳利とお猪口を用意して日本酒を飲もうなどという風流な者は誰一人としておらず、霊夢は普段の湯呑み。魔理沙は金属製のタンブラーを神社に常備しており、宴会の際にはいつもこれを使用している。文と椛はこれまた持参の、陶器で作ったタンブラーで酒を呷っていた。

 「おお、これはいけるな。ちょいと甘口だが旨いぜ」
「本当。飲みやすいわね」
「でしょ?今若い天狗の間で人気のお酒なの」

 まあ文さんが宣伝したからってのもあるんでしょうけどねー、と補足する椛は幸せそうな表情を浮かべながら一気に杯の中身を飲み干した。

 「じゃあこっちもそろそろいただくとするか」

 手元のほかほかと湯気を上げている器から牡丹肉を一切れ箸で摘みあげると、そのまま口の中に丸ごと入れた。

 「あひ、あひ、れもうまひ」
「こら、もう。お行儀が悪いんだから」

 魔理沙とは対照的に、霊夢はきちんと肉を箸で食べやすい大きさに分けてから、白菜とえのきを一緒に摘んで口に運んだ。

 「うんうん、お肉なんて久々に食べたけどやっぱ美味しいわね」
「久々だなんて勿体ない。お肉美味しいのに…」
「椛、今すぐに賽銭箱を覗いて来てみなさい。すぐに分かるから。よよよ……」
「鬱陶しい泣き真似すな。別に私は賽銭で食ってる訳じゃないから安心しなさい。ただ好みの問題よ好みの。」

 左手にいる文の頭をぽかりと叩くと、何も入っていないような軽い音がした。「うう、酷い。この暴力巫女……」と言う文の呻き声は上機嫌にしめじを食べる霊夢には届かなかった。届いたら届いたでまた一撃殴られる訳だが。

「そうだな。霊夢をお肉大好き人間にしようと私もいろいろと頑張っていたんだが、どうにもこうにも上手く行かなくてな」
「いいじゃない。私、お肉そんなに量食べられないし。魔理沙はもっとお野菜食べなさいよ。食べなきゃ大きくなれないわよ」
「む、それは遺憾だぜ。背は負けてるかもしれんが、最近出るとこは出てきたんだぜ?」
「ああ、お腹ね。じゃあ尚更肉は少なめにしてお野菜食べなさい。はい」

 菜箸とお玉を駆使して、大量の葱と白菜を魔理沙の器に投下する霊夢に慈悲など無かった。「うう、酷いぜ。酷いんだぜ……」と涙目になりながら白菜を貪り食う魔理沙を横目に、椛はマイペースに鍋から直接箸で摘んでは口に入れていた。

 
 「わふぅ、お肉美味しいです……文さんありがとうございます」
「まあ約束だしね。でも喜んでもらえたいだし良かった良かった。うんうん」
「文さん最近忙しそうだったし、こうして一緒にご飯食べるのも久々かもです」
「そうだったっけ?ああ、私最近貴方のとこ寄って無かったしね……」

 宴は進み、鍋も大分無くなり酒も残すところあと一升となった所で、霊夢と魔理沙思い出したかのように「私の方が身長高いし!」「いーや、この魔理沙さんの方が高いね!ついでにおっぱいもある!」などとぎゃーぎゃー言い争っている間に、まったりと天狗二人は鍋の中を攫っていく。―どっちも大差無いわよ。この時ばかりは藪蛇を突つくのは止めておこうと文は決心していた。もっとお酒飲みたいしね、とデコとデコを突き合わせて争っている二人を差し置いて新たに手酌で酒を注ぐ。椛もどう?と声を掛けようとした時、聞こえてはならない言葉が耳に入ってしまった。

 「二人ともそんなに変わらないですよ。大丈夫!これから育ちますって!」

 ばかもみじ。分かり切ってた地雷踏んで、と思わず目目頭を押さえながら怨嗟の呟きを吐きだした。

 「ほう、言うわね。ちみっこ天狗」
「つまり今の私達はどっちも大差無いくらい小さいとな」
「ふぇ、二人ともちょっと待って。なんで私押し倒されてるの……?」

 椛の両肩をがっちりホールドした二人は、酒臭い息で迫る。
「そりゃ決まってるだろ」
「生意気な事言う娘は引ん剥かなきゃいけないって、偉い人達が言ってたわ」
 
 本日二度目のもみじもみもみ。酔っ払い二人にセクハラされて涙目になっている椛を肴に飲む日本酒の旨い事旨い事。ああ、涙目になって両手で胸を隠している椛かーいい。

 「……しっかし、物足りないわね」

 久々に酔っちゃったし、仕方ないわね。と自分に言い訳してから、そっとタンブラーを置く。たまには羽目を外すのもまた良いだろう。

 「ちょっとちょっと、私も混ぜなさいよ!」
「ふぇぇ、文さんまで……って、変なとこ触らないでー!」




 おわれ
やまもオチも意味も無いぐだぐだなお話ですが、読んで下さってありがとうございました。

12/19追記 コメントありがとうございます! 次もあやもみで何か書きたいと思います!
フェンリル
http://www.pixiv.net/member.php?id=623116
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コメント



0.1570簡易評価
10.100もみじもみもみしたい程度の能力削除
これは良い文椛。そしてさりげなくレイマリも含んでいるのにほっこりしました。
とりあえず自分的には霊夢はおっぱいあって魔理沙は身長がある(キリッ
異論は受け付ける。
16.100名前が無い程度の能力削除
会話と擬音がほのぼのしてて最高!!
33.100名前が無い程度の能力削除
炬燵と鍋とお酒の魅力に取り付かれそう・・・寒くなってきたし尚更ですね。
4人とも可愛かったし読んでて気持ち暖かくなりました。