Coolier - 新生・東方創想話

栗羊羹。

2010/12/04 21:43:17
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「綺麗ねー、庭園。流石姐さんが管理してるだけあるわね。」
「そうだね、聖は年寄りくさ・・・・じゃない、この事に関してはベテランだからね。」
「ふぅん、ベテランねー。」

命蓮寺の縁側で世間話をしながらお茶を啜る二人。雲居一輪とナズーリンだ。
ちなみに雲山は今はいない。きっと、ぬえか村紗辺りに悪戯されていることだろう。この前なんかは額に肉って書かれてたし。

「・・・・・そうだ、里で買ってきた和菓子があるんだ。持ってくるが、君もいるかね?」
「もちろん。ちなみに何の和菓子なの?」
「栗羊羹だ。この前新しくできた和菓子専門店でね。」
「じゃあ尚更食べたいわね。」
「分かった。じゃあ持ってくるとするよ。」

すっと席を立ち、命蓮寺の中へと入っていくナズーリンを見届けた後、目の前にある庭園へと目を移す。本当、綺麗な庭園だ。ずーっと見てても飽きないほどに。
ゆっくりと時が流れていく。一秒、二秒、三秒と。時折、強い風が吹いて頭巾が飛んでいきそうになるが、そんなことは気にせずに身を任せる。
身を任せながらふと考えた。鼠は自分の事をどう思ってるんだろう、と。友達?仲間?ライバル?それとも・・・・。

「ほら持ってきたぞ、栗羊羹。ついでに緑茶も注いで来たから。」

戻ってきたナズーリンの声で現実に引き戻される。お盆に置かれた栗羊羹が美味しそうにつや立ち、緑茶の湯気がふんわりと揺れる。
ご丁寧にナズーリンは栗羊羹を食べやすいように一口サイズに切り、それを爪楊枝で刺してくれていた。
その事に感謝しつつ、ひとつを手に取り口の中に放り込んだ。

「・・・・・美味しい。」

つい嘆息の声が漏れてしまうほど、この栗羊羹は美味しかった。噛めば噛むほど栗の甘味が口内に広がって、自分を満たしてくれる。後味もそこまで悪くないし、緑茶にも合う。
これはいいものだなって、ナズーリンに伝えようと横を向いたのがまずかった。縁側に座って、黄昏ながら緑茶を飲むナズーリンが酷く様になっていて、それにどきりとしてしまった。
胸の鼓動が痛いほどに響いて、五月蝿く感じてしまう。

「・・・・・ね、鼠は、さ。好きな人とかって、いるの?」
「・・・・ん?どうしたんだい、藪から棒に。まぁ、別段好きな人はいないね。」
「星とはどうなの?」
「ご主人とはただの主従関係さ。ご主人が私を信頼してくれるように、私もご主人を信頼している。」

大きな耳をぴくぴくと動かしながら何でもなさそうにお茶を啜るナズーリン。

「じゃ・・・・じゃあ、さ。わ、私のことはどう、思ってるの?」
「え」

私からの意外な質問によって、ナズーリンのお茶を啜る手が止まる。そしてナズーリンはうーん、と考える素振りを見せた。

「・・・・なかなかに答えにくい質問だね。友達とも思っているし仲間だとも思っているよ、一輪のことは。」
「・・・・そう。」

そっか・・・・友達。鼠は私のことを今まで友達か仲間だと思っていたんだ。
その鼠が言った言葉が何度も胸の中で反響されて、何だか胸が痛くなってきて箍が外れたように涙がぼろぼろと出てきた。
泣きたいわけじゃないのに、でも心が痛かった。泣いている顔を見られたくなくて、頭巾を深く被って俯いてしまう。

「・・・・・・どうしたんだい?一輪。どこか悪いところでもあるのか?」

自分の様子に異変が起きたと感じとったのか、ナズーリンが顔を覗き込んできて大変だった。涙でぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて、頭巾をもっと深く被ろうとしたら先に脱がされてしまった。
誰にも見せたくない、自分の髪。くせっ毛の多い髪型の自分が何だかかっこ悪くて、それで頭巾をしていたというのに。今、もっとも見られたくない人物に見られてしまった。
また鼻の奥がつんとなって、目頭が熱くなってきた。つい強気になってしまって、ふいとナズーリンとは違う方向へと顔を向けた。

「・・・・・・べつに、なんでもないの。」

心が痛くて、涙がじわりじわりと出てくる。鼻をすすりながら何度も何度も目を袖で拭っても涙がとまらなくて、そんな自分がだんだんいやになってきた。

「何でもない、わけがないだろう?どうして泣いているんだい。」

ふわり、と抱きつかれて一瞬涙がとまったけれど、次にはもう涙がぼろぼろどころかたくさん溢れていた。たぶん、顔も真っ赤になっているだろう。
もう何もかもがやけになってきて、今まで思ってきたこと、考えてきたことを後ろにいるナズーリンにぶちまけた。

「・・・・・・どうして、いつもそんなに余裕があるの。どうしてそんなに私よりも格好いいの。どうしてこんなに・・・・・ッ!」

一拍子おいてから深呼吸して、それから後ろにいるナズーリンに抱きついた。

「・・・・・・・好きになっちゃったのかな。」

そっと囁くように告白した。それを聞いたナズーリンは少し固まったけれど、次には私よりも強く強く抱きしめ返してくれた。

「ねず、み・・・・・?」
「・・・・君は実に馬鹿だね。私が本当に君のことを友達か何かだと思っていたのかい?私だって、君のことが好きで好きでたまらないんだよ。」
「――っ!」
「君が私の事を想っているように、私も君のことを想っているんだ。愛してるんだよ、一輪。
 だから、付き合ってくれないだろうか一輪。私が一生をかけて、君を守ってみせるから。・・・・・それと鼠、っていう呼び方止めてくれないかな。・・・・・・ナズーリン、ってちゃんと呼んでくれよ。」
「っ、ナズー、リン・・・・・。」

両想いだってことがわかって、今まで自分が思っていたこととか、告白したんだっていう恥ずかしさとかが湧いてきて。もう何が何だか分からなくなってきた。
唯一、分かっているということは。恋が実ったんだっていうことぐらいだった。それは嬉しいことでもあり、恥ずかしくもあった。それに、私は今その愛しい人に抱きついているわけで。意識してきた途端、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた。

「ふふふ、可愛いよ一輪。」
「・・・・・・うるさい。」

余裕たっぷりに頭を撫でながら微笑んでくるものだから、その余裕を潰してやろうと思いっきり足を踏んでやった。そしたら、案の上痛がっていた。そりゃ誰でも思いっきり踏まれたら痛いもんね。
しばらく痛みに悶えていたナズーリンだったが、痛みに落ちついたナズーリンはごほん、と咳払いをすると私に向き直った。その時のナズーリンはすごく真面目な顔をしていて、それでいて格好良いものだからまたどきりとなった。

「・・・・・ともかく。これから一輪は私の彼女、っていうことになるね。やっぱり、これは皆に伝えたほうがいいのかな?これからずっと、一輪は私の彼女ですってね。」
「や、やめてよ・・・・・・お願いだから、皆には内緒にしてて欲しいの。特に姐さんとかには。」
「ふむ、可愛い可愛い一輪からの頼み事だったら仕方ないな。けれど、二人っきりだったら我慢出来ないかもしれないね。」
「もう、ナズーリン!」
「ふふふ。こう見えて鼠は結構肉食だからね。押し倒したりしてしまうかもしれないよ?」
「・・・・・・ばか。」

その口から私を赤面させるような言葉ばかりしかしゃべらないから、黙らせるように栗羊羹を口に押し込んでやった。あと持っていた緑茶も一緒に。そしたら口を一生懸命動かして、もぐもぐさせて食べてた。
そして口の中のものを全て食べ終わると、顔を近づけさせてこう言った。

「雲を扱う青頭巾は、鼠という名の狼に食べられてしまいましたとさ。」

次の瞬間、ナズーリンの顔だけで視界が埋まった。初めてのキスは食べてもいない栗羊羹と緑茶の味がして、甘かった。
格好いいんだかよくわからないんだか、小さな小さな大将は今日も何時も通り格好よかった。







ちなみに、二人とも開いた襖からちゃっかりと皆に見られていましたとさ。


   
  
  
皆さん、こんばんわ。
ナズいちもいいんじゃないか、ってことで試しに書いてみました。
・・・・・本当はナズ星とか星ナズとかが結構多いから、これ投稿したら空気読めてないんじゃないかってことで私のチキンハートが物凄く揺らいだんですけど、勇気を振り絞って投稿しました(笑)
さて、今度はムラいちあたりでも書こうかな。びゃくいちもいいですよね。
ではではっ。
rin
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コメント



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2.100奇声を発する程度の能力削除
ナズいちはありそうで無かった!
良かったです
5.90名前が無い程度の能力削除
なかなか
8.90名前が無い程度の能力削除
ナズいちも良いと思います
9.80ぺ・四潤削除
ナズー輪か……これは考えもしなかった。
小さな紳士が美人さんをエスコートする姿っていうのもなかなか素敵な光景です。
10.90名前が無い程度の能力削除
あまり見かけませんでしたが、ナズいち良いですね!

なんとかリードしようと頑張るけど最後はナズーリンにやり込められる一輪が目に浮かびますw