Coolier - 新生・東方創想話

ドリーミン東京ウォーカー

2010/11/23 00:16:26
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 威勢の良い呼び声があちこちから乱れ飛ぶ。
 そのエネルギッシュな接客で時に観光客をもてなし、時に観光客を萎縮させている彼らを見ていると、なるほどこれが下町の情緒というものなのかとどこか納得する。
 初めて東京を訪れた私にさえそう感じさせる、ある種の独特な空気がそこにはあった。
 
「ううん、この雑多で落ち着きのない感じ、久々だわ。これぞ東京、これぞ下町ってなもんね」
「なんでそんな嬉しそうなのよ。人混みなんて疲れるだけじゃないの」

 下町のエネルギーに圧倒され、いい加減人通りの多さにうんざりしていた私をよそに、根っからの江戸っ子、宇佐見蓮子の歩みはいたって軽快。まさに水を得た魚といった風である。

「私もこっちに住んでた頃はそう思ってたんだけど、やっぱり故郷ねー。この落ち着きのない雰囲気が逆に落ち着くのよ」
「矛盾してるわね、その言動」

 まあ、気持ちはわからないでもないけれど。
 久しぶりの里帰りとあっては、気分が高揚するのも当然といえば当然だ。

 というわけで、私たち秘封倶楽部は東京を訪れていた。
 サークルのメンバーが一人、宇佐見蓮子が実家に帰省するついでに、霊都・東京でのサークル活動もしてしまおうとの魂胆である。もっとも、ただの東京観光に終わる可能性も否めないというかむしろ私的にはそっちがメインなんだけど。

「それに比べて、京都はちょっとお上品すぎるのよね。娯楽も少ないし」
「何事も洗練されてるほうがいいに決まってるわ。そもそも貴方、「ここは地元と違って落ち着いてていい」とか前に言ってなかったかしら?」
「女心と秋の空よ、メリー」
「こんな場面で使う言い回しだったかしら、それ」
「メリーのほうこそ、ヒロシゲの中ではあんなに東京楽しみにしてたじゃないの。あの元気はどこへいったのよ」
「女心と秋の空よ、蓮子」

 はしゃぐ蓮子とお疲れ気味の私。早くも気分の高低差が表れてきた凸凹コンビ秘封倶楽部は、江戸の気風を隔世遺伝的に受け継ぐ旧き都、東京の街を往く。

「メリー、メリー、ほら、ペナント!」
「今時そんなものに反応する……?」

 しかもそれ、地元のペナントでしょうに。




 この地が首都であった頃から、東京のシンボルとして親しまれてきたスカイツリーをファインダーに納める。

「ううん、やっぱり東京に来たからにはこれを撮らないとね」
「おっ、やっとノってきたねえ。それにしてもスカイツリーの写真を撮りたいだなんて、メリーも意外とミーハーなんだ」
「だってこの「高ければ高い塔のほうが登ったとき気持ちいいんだもん!」みたいな酔狂さ。実に粋だと思わない?」
「これを建てた当時の人が聞いたら烈火のごとく怒るか涙を流して悲しみそうな解釈ね」

 呆れる蓮子とはしゃぐ私。気分の高低差が逆転しつつある私たち秘封倶楽部の活動は、当初の予想通りごくごく一般的な観光の様相を呈していた。私としては何も問題はないけれど。

「でもメリー、どうせ撮るなら浅草の松屋屋上の方が良かったわよ。迫力が違う」
「ちょ、どうしてそれを早く言わないのよ! さっきまで居たじゃないの、浅草!」
「うわ、予想以上のお怒りっぷり。いや、スカイツリーが撮りたかったなんて知らなかったし、メリーが人混み疲れたやだやだーって言うから」
「駄々っ子みたいに言わないでくれる? うー、悔しい」
 
 なんたる迂闊。その巨大な店舗を眺めるだけで旧時代の遺産に触れた気になってはいけなかったのだ。
 しかし浅草松屋は人気観光スポット。人の多さも推して知るべし。だけどせめて事前情報があれば、屋上に行くことくらいは我慢したのに! 

「……ふむ」

 でもまあ、少し遠目から撮ったこのスカイツリーも、これはこれで無骨さが薄れて風情があっていいかもしれない。うん、そうに違いない。
 何だかんだでいい感じに撮れたスカイツリーの画像を眺めると、思わず頬が緩む。そんなご機嫌な私を見て、蓮子はやれやれといった風に肩をすくめているが、知ったことではない。




 スカイツリーを見るという観光客としての使命を果たした私たちは、近くの隅田公園でしばしの休息をとっていた。

「あー、なんか懐かしいなあ。こうしてると色々思い出しそう」
「うん? 蓮子はここに来たことがあるの?」
「さあ? 多分小さい頃にはよく来てたんじゃない? 実家割と近いし有名な所だし」
「なにそのふわっとした記憶」

 ベンチに腰掛けて二段重ねのアイスを舐める。なんとなくセレブで風流な気分を味わう私の隣では、蓮子が四段重ねのアイスを幸せそうに舐めていた。日々是体重との戦いである乙女にとっては暴挙以外の何物でもない。

「太るわよ、蓮子」
「今を楽しまなきゃ損損」
「刹那的な生き方ねえ。ええっと、14時28分35秒」
「それ私のセリフ」

 お気に入りの腕時計を見ながら、蓮子のお株を奪う。
 
「まだ時間はたっぷりあるわね。次はどこに行く? 出来たら今度は浅草みたいな人通りの多いところは遠慮願いたいわ」
「おもいっきり観光気分ね、メリー」

 なぜかジト目で睨まれた。なにかまずいことでも言っただろうか。

「違うでしょ。私たちは東京に何をしにきたと思ってるの」
「蓮子の帰省に合わせて東京観光でしょ?」
「ほら、肝心のサークル活動が抜けてるよ!」

 ビシっと指を突きつけられた。人に指差すとは失礼な。しかも勢い余ってアイスの巨塔のバランスが窮地に陥っている。おっとっとと勝手に一人で慌てる蓮子に、真面目なサークルの一員である私は今後の活動方針を尋ねる。

「忘れてたわけじゃないのよ。いやホントに。ただ蓮子、そもそもサークル活動って言っても、具体的には何をするつもりだったのよ。将門公の首塚参りとかかしら?」

 態勢を危機一髪で立て直した蓮子は、ちっちっちっと指を振りながら言った。

「そんな普通の観光客と同じ事をしてどうするの。いい? 私たちは秘封倶楽部。結界の向こう側を探求せんとする新本格霊能サークルなのよ」
「旧本格的な霊能サークルというのがイマイチよくわからないわね」
「変な茶々入れない。と・に・か・く。ここは「石を投げれば結界を通る」と言うくらいに結界が無秩序に入り乱れる霊都・東京! この霊験あらたかな旧都の結界を制覇しなきゃ、秘封倶楽部の名が廃るってモンよ!」

 キッパリと言い切るのと同時に、蓮子はコーンの先っぽを口に放り込む。あれ、私も今食べ終わったところなんだけど。アイスの初期残機設定は確かに違っていたはず。まあ深くは考えまい。閑話休題。
 石を投げれば云々は聞いたことないけれど、蓮子の言うとおり、東京は放置された結界の切れ目に溢れているらしい。そういう意味ではこの旧都は秘封倶楽部にとってまさに絶好の舞台と言えるけど……。

「もしかして、本当にするつもり? 冥界参りって要するにいつもの結界暴きのことでしょ?」

 ヒロシゲの車内でなされた、蓮子の冗談ともつかない提案。あのときはさらっと流したけど、今になって実はとんでもないこと言ってたんじゃないかと思えてきたのだ。

「え? するよ?」

 私の質問に対する蓮子の返答、そして「むしろなんでしないの?」と言わんばかりのキョトンとした表情もある意味予想通りだ。

「だってせっかく東京まで来たんだもの。ここでやれることはやらなくっちゃもったいないじゃない」
「まあ、それはそうなんだけどね……」

 蓮子の言い分は常識的かどうかはともかく、秘封倶楽部の一員としては至極真っ当なものだろう。それに私だってメンバーの端くれ、結界の向こう側への興味は尽きることがない。

「うーん。でもなぁ」
「どうしたのメリー。なんかまた元気なくなっちゃってるけど。スカイツリー撮って満足したら気が抜けちゃった?」
「そういうわけじゃないんだけど。ただ、なんというか、不安にならない?」
「不安? 結界を暴くことに? そりゃまあ何があるかわからないんだし少しは不安に思うかもしれないけど。でもメリー、それは今更ってもんじゃない?」

 私の抱える不安がちゃんと伝わっていないらしく、首を傾ける蓮子。
 確かに今更と言えばその通りだ。結界を暴くこと自体はこれまでも何度か決行しているわけだしそう問題にするものでもないのかもしれない。いや、実際には禁止された行為なわけだし大問題なんだろうけど。とにかく、私が言いたいのはそういうことではない。

「結界のある場所が問題なのよ、場所が」
「場所?」
「そう。さっき貴方も言ったように、ここは様々な怨念や霊的要素が渦巻く古来よりの霊都なのよ。そんな場所にある結界が、今まで私たちが越えてきた結界と同じような代物とは、私には到底思えないって、そういうこと」

 オカルトとは本来秘匿されるべきパンドラの箱だ。結界もまた然り。物見遊山のつもりで安易に中身を覗いたりすれば、手痛いしっぺ返しを受けるのは自明の理だ。

「そんな危ない結界を越えて祟られなんかしてみなさいよ。それこそこっち側に帰ってこれないなんて洒落になってない事態も十分あり得るんじゃないかしら」

 科学が進歩して自然の神秘性が取り除かれ続ける過程においても、祟りへの恐怖はいつだって人々の意識に根付いていたのだ。つまるところ私が感じ取った不安とは、時代を超えて人々が抱える、禁忌への畏れともいうべきものなのである。
 “これはただごとではないぞ”、この重要なメッセージを伝えるべく、真剣な面もちを蓮子に向ける。

「えーっと、つまりメリーは祟りや神隠しが恐いってこと?」

 私の内心をよそに、蓮子は訳知り顔でおかしなことを言い放った。

「……」

 ちょっと待て。何だか私のメッセージ、だいぶ間違った伝わりかたをしてはいないだろうか。その言い方じゃ私がお化けを恐がる幼子みたいではないか。

「そうじゃないわ蓮子。これは私個人の問題ではなくて、人類の原始的本能に基づく……」
「そっかそっかー。メリーったら怖じ気付いちゃったかー。はぁーあ」

 これ見よがしにため息など吐いてくれちゃって、おまけににやけ面まで向けてくる。
 こ、この、私の気も知らないで……! 寛大な私も、これにはさすがにちょっとカチンときた。

「ちょっと、貴方ねえ」

 私がグイっと詰め寄ると、

「わかってるよ、メリー」
「え?」
 
 蓮子はそんな私の剣幕を退けて、クスリと笑いながらベンチから立ち上がった。
 トレードマークである黒の帽子を脱ぎ、右の人差し指でくるくると回す。

「私だって東京に存在する結界の危険性を考慮しなかったわけじゃない。メリーの言うとおり、この都市は少々特殊すぎる」

 帽子の緩慢な回転運動を見つめる蓮子の表情は、世界の謎に無謀な挑戦を仕掛け続ける物理学者のそれになっていた。

「蓮子……」
 
 そうだ。聡明な蓮子のこと、ここの結界を暴くということがどんな意味をもつかなんて、私に言われるまでもなかったのだ。

「……もしかして蓮子も、恐かった?」
「“も”ってことは、やっぱりメリー、恐かったんだ」
「う、まあ、その……ゴニョゴニョ」

 赤面する私に、さっきと同じようにニヤニヤした笑いを向ける蓮子。いや確かに、率直に言えばそうなんだけども。

「だからってそうあからさまに言うのも。子どもじゃないんだし、ねえ?」
「そうやって隠そうとする時点で十分子どもよ」 

 今度ははっきりと笑いながら蓮子は言った。不本意ながら反論の余地なしなので、負け惜しみを言うしかない。

「はいはい、どうせ私は子どもですよっと。それに引き換え、大人の蓮子さんに恐いものなんてないんでしょ。東京の結界だって」
「いや、恐いよ?」
「は?」

 あっさり認めちゃったよこの人。さんざん人をイジリ倒しておいて、それはないでしょうに。
 私が釈然としないでいると、蓮子は帽子を振って苦笑する。

「正確には、恐くなった、かな」
「恐くなった?」
「うん、まあちょっとヤバいかなーくらいには考えてたけど、実際そこまで危機感を持ってた訳じゃないのよ」
「じゃあなんで」

 私が尋ねると、蓮子は少し不安げな表情を見せて言った。

「メリーの話を聞いたら、ね」
「……私の?」
「そ。他ならぬメリーの言うことだから。その気持ち悪い眼を持つ、メリーのね」

 結界を見ることが出来る私の能力。蓮子はこの能力を、私以上に重要視しているフシがある。
 そしてこの能力を持つ私の勘は、もしかしたら私の思う以上に、蓮子にとって大きな影響力を持つのだろうか。

「ま、でも」

 と、蓮子は先ほどまでの不安げな様子を打ち消すかのように、声の調子を上げた。

「東京の結界がどんな不確定要素を孕んでいようと、私たち秘封倶楽部が止まる理由にはならないよね」

 そんな無茶を言いながら、私にウインクしてみせる。
 どうやら蓮子のスイッチが入ったらしい。ああ、結局私の説得は功を奏さなかったのか。

「それにさ」

 蓮子が私を見て、微笑む。
 
 いや、そうではない。
 
 私の危惧は、少なからず蓮子を揺さぶったはずだ。もちろん私の中の恐怖も払拭されたわけではない。
 そもそも未知という意味では、これまでの結界だって同じこと(今までなんともなかったのは、単に運が良かっただけなのかもしれない)。結界を暴くその度に、私たちは危ない橋を渡ることへの不安を抱えていたはずだ。

 では私は、結界探索なんてもうやめてしまいたいと、一度でも思っただろうか。
 否。なんだかんだ言いながらも、不思議とその選択肢を取るつもりはまったくなかったし、今だってそう。
 それは蓮子も同じのようで、つまるところ。
 
「そういうことかしら? 蓮子」
「そういうことよ、メリー」

 蓮子にできるだけの不敵さをこめて、笑いかける。どうやらようやっと私のスイッチも、オンに切り替わったらしい。
 芝居じみた動作で帽子を被り直し、そして蓮子は宣言した。私たち秘封倶楽部の、呆れるほどに単純で向こう見ずで、そしてなによりも強力な行動理念を。

「どんな危険が待ち受けていようと、二人一緒なら、きっと楽しいよ」

 その通り。コンビの頭につくのが名なのか迷なのかなんて些細な問題だ。とにかく私たちは二人揃えば無敵、そんな青春時代の全能感にも似たことを思いこめるほどには、私たちは信頼し合っているつもりだ。

「以下同文よ。さて蓮子」

 言いながら指差す。その方向にあるのは、私の目が捉えた秘封倶楽部の目的そのもの。

「ちょうどそこに結界の切れ目が出現したわ。この都合のいいタイミング、なんだか今の私たちの話を聞いて“来れるもんなら来てみなさい”って挑発してるみたいだわ」
「それか“おいでませ秘封倶楽部”って歓迎してくれてるのかもね」
「能天気ねえ」

 だが悪くない解釈だ。

 さてさて、虎穴に入らずんばなんとやら。もう一度決心を確認するようにお互い頷き合い、そして敢然として結界と対峙する。

「じゃあ行くわよ、メリー」
「ええ、蓮子」


 幸せはもちろんのこと、不思議だって向こうからは歩いてこない。
 ならば進軍せよ少女二人。
 九つの命を持った猫だって殺す好奇心をその胸に秘めて。
 それでは張り切って参りましょう。


『いざ、秘封倶楽部!』 
 









「なーんて、意気込んで結界に飛び込んだまではいいんだけど……」

 蓮子のげんなりしたような声と表情。呆然と立ち尽くす私の顔も概ね似たような感じだろう。こんな時にまで迷コンビぶりを発揮しなくてもとは思うが、この光景と状況の前にはそれも必然のような気がしてくる。

「これはちょっと想定外、だったかな」

 スイッチを入れる意味で被り直したはずの帽子は、再び蓮子の右指にてその身を回転させる。その様はまるで、状況に振り回される私たちを見ているようである。

「23時59分55、56、57」

 蓮子が星を見ながら、新しい日へのカウントを始める。
そして、

「宇佐見蓮子が、午前0時をお知らせします。ぷっ、ぷっ、ぷっ、ぽーん」

 蓮子の時報は、途方に暮れる私たちを後目に沸き上がる歓声に打ち消される。夜の闇と言うには明るすぎる空には、色鮮やかな花火が次々と打ち上げられていた。職人たちの業と祝福の念が込められた華々しい催し物を、私は死んだ魚のようなというおよそそれらの観賞にふさわしくない目で見上げていた。
 そんな私に、蓮子は現実を突きつけるかのように、それでいて昨晩見た夢の内容を語るかのように、なんとも頼りない声色で呟く。

「……2001年、1月1日のね」
 
 それが蓮子の気持ち悪い目が捉えた事実であり、私たちの周りでバカ騒ぎする群衆の、ハッピーニューセンチュリーという歓声が伝えてくれる真実だった。要するに先ほどの蓮子のカウントは、新しい日に向けてのものであり、新しい年に向けてのものであり、新しい世紀に向けてのものだったという、それだけの話だった。それだけというには随分と受け入れがたい話なのが玉にきずではあるのだけれど。



  新世紀を迎えた興奮から未だ覚め遣らぬ様子の広場。どうやらここを会場として、新世紀へのカウントダウンイベントが催されていたようだ。すでに新世紀を迎えた今も、その喧騒は収まる様子が無い。それをパーティー会場さながらの場から一歩引くように設置されたベンチで見つめていた私は思った。どうしてこうなったと。むしろ声に出ていたかもしれない。

「どうしてって言われてもねえ」

 やっぱり声に出ていたらしい。しかし今はあいにくと、あらやだ恥ずかしいと思えるほどの余裕は持ち合わせていない。

「で、結局ここはどこなのよ」
「うーん、一応お台場らしいんだけど……私が知ってるのとは大分違うなあ」

 自信なさげにお台場の月を見上げる蓮子。私はお台場を訪れたことがないからピンとこないが、地元民である蓮子の戸惑いはいかほどのものか。そもそもからして。

「当たり前か、2001年って何十年前の話なのよ」

 そう、そこが一番の問題。私たちは今、とんでもない場所、というか時代にいるのだ。

「本当に2001年なの? 今……今っていう言い方でいいのかしら」
「星はそう言ってるわ。あんまり信じたくないけど」

 それは私も同じだ。蓮子の目は信じられるだけに、その目が告げる現実がいかんとも信じがたい。

「はあ、私たち秘封倶楽部は人類初のタイムスリップに成功しました! って言えたらどんなに楽だったか」
「それはそれで一大事だけどねえ」

 私はそれっぽい夢を見たことがあるが、今は関係ないだろう。
 とにかく頭を抱える蓮子が楽になれない理由が、そこにある。

「なんでスカイツリーが……」
 
 蓮子が信じられないといった風に見つめる先には、私のカメラに記録された画像が映し出すものと同じ建造物が、でんとそびえ立っていた。もちろん撮影の日時は、21世紀の夜明けなど遙か昔に通り過ぎ、むしろそろそろ22世紀の幕開けが見えてきた年のお彼岸である。

「私の記憶が確かなら、スカイツリーって2001年にはまだ建造も始まってないんじゃなかったかしら」
「私の記憶でもそうだね。多分公式の記録も同様。だいたい、お台場からこんなにハッキリと見えたっけなあ」

 このあまりにめちゃくちゃな光景、そして時間。私たちは単に時間を遡ったわけではないということなのだろうか。

「“東京の結界を抜けるとそこは過去の東京であった、ただしオーパーツ付き”ああもう、一体全体どうなってるのよ。いくら私が不思議に飢えてるっていっても限度があるわ」

 蓮子がう~っと唸って、頭をかきむしる。むむ、このままではどんどん思考の深みにはまってしまう。理系の悪い癖だ。ここは一つ、私が一肌脱がねば。

「いやいや、この世に不思議なことなど何もないのだよ、宇佐見君」
「それじゃあ秘封倶楽部の存在意義がなくなっちゃうよ。まあいいわ、ならマエバリー先生は私たちが置かれているこの不可解な状況をどう説明してくれるのかしら」
「この世の全ての謎はプラズマで説明できるのだよ、宇佐見君」
「プラズマ。へえそう、そりゃすごい」
「ちょっと、ちゃんとツッコんでよ。場を和ませようとボケたこっちが恥ずかしくなるじゃない。あと私の名前を噛むにしても、もうちょっとなんとかならなかったのかしら」
「注文の多い先生だねえ。ああ、それにしても星が見えにくい」

 漫才めいた会話も、いまいちキレを欠いたまま途切れてしまう。
 そしてしばらく二人して、近くて遠い場所での喧噪をボーッと見つめる。
 イベント会場は目に鮮やかなイルミネーションで彩られ、行き交う人々の表情も、新世紀という言葉が内包する根拠のない希望に照らされたかのような輝きを伴っている。こんな祝福ムードの中において、マイナスオーラを振りまいてベンチに座り込む私たちはさぞかし場違いな存在なのだろう。そう考えると、ますます気分が滅入ってきた。あー。

「ってダメだダメだこんなんじゃ!」

 蓮子が我に返ったように勢いよく立ち上がる。

「私たちがやるべきは過去の文化資料でしか見たことのない“やまんばぎゃる”なるものを探してみたり、「2001年にはまだ東方のWin版は出てないんだなー」って思いを馳せたりすることじゃないのよ!」
「いやに静かだと思ったら、何やってるのよ貴方。相当煮詰まってたのねえ」

 現実逃避を試みるとか本当にダメダメだ。いや、私も人のことは言えないが。

「で、私たちが本当にやるべきは?」
「行動よ!」

 乱暴に帽子を被り直し、きっぱりと言い切る蓮子。微妙にヤケになってる気がしないでもないが、道を失いかけている今の私たちにはそれくらいの無鉄砲さが必要だ。ベンチにへばりついている時間とはそろそろオサラバしないといけない。

「とにかく動き回って現状を確認するの。ああまったくもう、本当はもっと早くこうしないといけなかったのに」
「後悔先に立たず。状況が状況だったし、仕方ないわよ」
「……なーんか上から目線。メリーだって完全に呑まれてたくせに~」
「気のせい気のせい。ではベンチさん、短い時間でしたがお世話になりました」

 私も立ち上がる。遅ればせながら、探索開始だ。


「まずは聞き込みよ」
「基本は大事ね。ただ、町の人全員に話しかけないとフラグが立たない仕様だったりするとちょっと面倒だわ」
「ゲームじゃないんだから……多分」

 まだ蓮子のツッコミの歯切れが悪い。これは秘封倶楽部の調子的になかなかよろしくない。ノリと論理が絶妙に噛み合ったそのときこそ、秘封倶楽部の真骨頂なのだ。

「じゃあ、あの人たちに話を聞いてみよう」

 蓮子が指差したのは、喧噪からやや離れた所で和やかにお喋りしているカップル。この騒がしい場で話を聞くには丁度いい。お邪魔するのは少々気がひけるが。

「すみませーん。ちょっといいですか?」

 私が逡巡している間に蓮子はすでに行動していた。遠慮なしか。

「……すみませーん」

 うわ、完全に無視されてる。空気を読めという言外のメッセージなのだろうか。だとすると全面的にこちらが悪いので謝るしかない。なんだか可哀想になってきたので私もそこに向かう。

「あのー……」

 再度呼びかけてみても返事はなし。何か、様子がおかしい。
 蓮子は何かを考える素振りを見せたかと思うと、おもむろにカップルの顔の間近で手を振り始めた。それでも反応がないのを見ると、今度は女性の肩を叩く。そんな蓮子の大胆な試みのいずれもが、見事に無視された。見事すぎるほどに。

「……」

 合流した私も一緒になって、カップルのほっぺたをつつく。
 女性のカバンに入っていたお菓子を食べる。
 二人でせくしぃぽおずをキメて男性を誘惑してみる。

「……」
「……」

 まったく反応なしという結果に、思わず顔を見合わせる。そして自分たちの所業の悪ノリ加減に自己嫌悪を覚え、二人して頭を抱える。その様はさながら鏡写し。迷コンビ秘封倶楽部、未だ健在である。


 ひとまずわかったことを整理するべく、私たちはさっき別れを告げたばかりのベンチに舞い戻った。やあやあしばらくだねベンチさん。

「つまりこの人たちには、私たちの姿が見えてない」
「姿が見えてないっていうよりは、存在が認識できてないって感じだったけどね。実際に触ってもダメだったし」
「私たちみたいな美人の誘惑にも乗らなかったしねえ」
「え? なにそれ、そんなことしたっけ」

 蓮子の中ではあの悪フザケはもう無かったことになっているらしい。なんとも便利なブレインだ。蓮子の海馬の優秀さはさておき。

 あれから他の人たちにも接触を試みたが、結果は変わらず。皆一様に、私たちなどそこにいないという風に振る舞ったのだ。

「なんだか幽霊にでもなった気分だわ。こうも無視され続けると、自分の存在を疑うみたいなやんちゃの一つもしたくなるわね」
「ご安心を、世界中の誰一人目を向けてなくったってお月様はちゃあんと出てるから。そんなことよりも考えないといけないのは」
「“ここ”は一体どういう場所なのか、ということね」
 
 蓮子の目が私たちの生きる時代から見た過去を示し、その頃には存在しないはずのものが存在し、そして私たちが認識されない空間。果たしてこれらの条件から導かれる結論とは。

「うん、さっぱりわからない」
「とにかく情報が足りないわね。これは会場の外にも出てみる必要があるかな」

 同感だ。これ以上ここにいても得るものはないだろう。

「またブルーになる前にガンガンいくべきね。ほらほら、行くよメリー」
「あ、待って蓮子。一つ重要なことを思い出したの」
「ホント? なになに?」
「お菓子はおいしかったわ、イチゴ味のポッキー」
「どの辺が重要なのよそれ。そりゃまぁ私も、いつも食べてるのと同じだ! って時代を越えた味に感動しちゃったけどさあ」

 そうそう、それよそれ。ようやく本調子になってきた秘封倶楽部の状態に満足しつつ、腰を上げる。
 そしてガンガンいこうぜをスローガンに掲げた私たちが、広場を抜けて通りに出ようとしたその時である。

「……」
「……」
「あ……ありのまま」
「そういうのいいから」
「え!? そんな殺生な! こんなセリフ、実際に使える機会滅多にないのに!」

 なぜかものすごい勢いで抗議する蓮子は放っておいて、今私たちに起こったことを端的に述べると次のとおりである。

 広場を出ようとしたらベンチさんと三度目の邂逅を果たしていた

「よっぽどこのベンチさんと縁があるのねえ」

 私たちを取り巻く状況はいよいよ混迷の度合いを深めるばかりである。この空間に放り出されたばかりのときとは違い、軽口を叩けるくらいの余裕が残っていることは救いではあるのだけれど。

「うーん。広場からは出られない、か。まるで空間がねじれてるみたい」
「良かったわね蓮子。不思議が盛りだくさんよ」
「いい加減ちょっと胸焼けしそうだわ。でも少し、わかったことがある」
「ふむ?」
 
 私が期待を込めた眼差しを向けると、蓮子は人差し指を立てながら自らの推論を語り始めた。

「まず当たり前のことだけど、2001年は私たちが生きる時代ではない。次に私たちのことはこの世界、と呼んでいいのかはわからないけど、とにかくここの人たちには認識できない。加えてもう一つ、私たちはこの広場から出ることは出来なかったけど、ほら」

 そう言って蓮子が指を差す。……なるほど、蓮子が何を言いたいのかわかった。

「ここの人たちは、普通に出入りしてるわね」
「そう、何の制約もなくね。さて、ここでちょっと論理を飛躍させるわよ。思うにこの人たちは、風景の一部なんじゃないかしら」
「風景の一部……どういうこと?」
「そうね、行き交う人々、建物、イルミネーション、私たちが世話になりっぱなしのベンチその他諸々。これら全部が、この空間を過去のお台場“らしく”見せるためのツールだって言えば、私の伝えたいこと、わかってもらえるかしら」

 何となくもどかしそうに、蓮子が言う。お台場“らしく”見せる、か。そう聞くと何だか周りの風景が作り物めいているように思えてくるから不思議だ。と、作り物という言葉からあるものを連想した。

「ええっと、つまりこの空間は、過去のお台場を再現したジオラマのようなものってこと?」
「それよメリー! さすが文系、ぴったりな表現だわ」

 それはあまり関係がないと思う。ともあれ、ジオラマというとっかかりを得た蓮子の熱弁が続く。

「そう考えると、私たちが何をしても反応が無かったのは当然とも言えるよね。だって私たちのやっていたことは、非常に良くできた模型を触っていたようなものなんだから」
「良くできた模型、ね。そんなもの食べたりして、お腹壊さないかしら」
「またそうやって話の腰を折るんだから~。ええっと、で、私たちが会場から出られないのは、会場の内と外の境目がこの箱庭の限界点だったから。境目から向こう側に見えていた風景は、カレイドスクリーンに映し出された映像のようなものだったと考えればいい」

 意気揚々と持論を展開する蓮子の説を支持するならば、私たちはこのジオラマを観賞しにきた見学者で、私たちが通り抜けた結界は博物館の入館口だったということになる。

「どう? そんなに悪くない解釈じゃない?」

 捉えどころのなかった正体不明の空間に一応もっともらしい説明をつけられたからか、蓮子は心持ちスッキリとした面持ちである。

「ええそうね、思わずなんだってーって言いたくなるくらいのご高説だわ。でもね蓮子、一つ聞いてもいいかしら」
「ん?」

 仮にこの空間をジオラマと想定するならば、一番に考えなければならないことがある。それは、

「ならこの良くできた展示物は、いったい誰の手によるものなのかしら」

 私の問いに、蓮子の眉が寄る。痛いところを突かれたと、その表情が物語っている。

「うーん、やっぱりそこが問題よね。神様を引っ張ってくるのもあれだし」
「全ての謎は神様で説明できる、なんてそれではあまりにロマンがないわよねえ」
「プラズマも大概だけどね。で、そういうメリー先生には何か考えがあるの?」
「……んー、そうねえ……」

 一応あるにはある。蓮子の話を聞いているうちに、その着想に至ったのだ。でも正直、神様にご登場願うのと同レベルの発想だと自分でも思う。言うか言うまいか迷ったが、まあ何が減るってわけでもなしと自分を奮いたたせ、なるべくそれっぽく聞こえるように語り始める。

「私が思うにこの空間は、東京という都市が見る昔の夢みたいなものなの」

 『夢の世界とは魂を構成する物質に刻まれた記憶が築き上げたものである』とは私が私自身の夢の世界で打ち立てた新説。はて、このことは蓮子にはもう話したんだったかしら。まあいいか。

「つまりこの空間の、このジオラマの制作者は他ならぬ東京という都市それ自体であり、今私たちが見ているのはこの都市が覚えていた、新世紀を迎えた瞬間の東京お台場の光景なのよ。そして私たちはあの結界を経て、東京が見る夢の世界に侵入した」

 東京という都市にも人間でいう魂に値するものが存在すると仮定したならば、東京だって記憶の底に眠る思い出、すなわち東京で起きた過去の出来事を夢に見たりするのではないか。
 私は蓮子を悩ましていたオーパーツを指差しながら続ける。

「私の考えが正しければ、スカイツリーがこの空間に存在しても何もおかしくないわ。だってそもそも夢なんて支離滅裂なものだもの。私の講義は以上よ。どうかね? 宇佐見君」

 話してるうちにだんだん気が乗ってきた私は、得意げに話を締める。が、肝心のたった一人の聴衆の反応は、ない。蓮子は伏せた顔を上げようともしなかった。うーん、イイ線いってるんじゃないとか思い始めたけど、やっぱり蓮子のお気には召さなかったのだろうか。

「れ、蓮子ー? 冗談でもいいから「なんだってー」くらいは言って欲しいかなー、なんて」

 この沈黙に居たたまれなくなった私が恐る恐る蓮子に呼びかける。すると蓮子は、顔を伏せたままポツリと言った。

「……それ、いいかも」
「へ?」
「夢、か。なるほど、いかにも夢と現の境界に立つメリーらしい発想ね」

 真面目くさった顔をして、しきりに頷きながら考え込む蓮子。
 ……その反応は少々予想外だった。正直笑わば笑えくらいのつもりだったのだが。

「……おーい、そんなに面白かった? 私のトンデモ理論」

 もの凄く真剣に捉えられたのがどうにもむず痒かったので、バランスを取るべく冗談めかして尋ねる。私の呼びかけに、蓮子は思考の海から帰ってくるように顔を上げたかと思うと、今度はクスクスと笑いだした。

「面白いね。東京が夢を見るなんて、なんだかガイア理論や付喪神に通ずるものがあってとてもロマンチックだわ」
「それにしたって、あまりにロマンに溢れすぎてると思うけど」
「自分で語っておいて何言ってるのよ。いいじゃない、ロマン過多でも。それぐらいが秘封倶楽部にはちょうどいいわ」

 そう言う蓮子の表情は目に見えて楽しそうだ。なんだか久しぶりにその顔を見た気がする。
 思えばこの空間に足を踏み入れてから私たちは、状況に振り回されるばかりで些かサークル活動を楽しむ余裕を欠いていた。これは秘封倶楽部の行動理念に照らしあわせて大いに反省すべき点である。

「理系のくせに、蓮子は私に勝るとも劣らないロマンチストねえ」
「あら、物理学者なんて人種は、この世で一番のロマンチストなのよ?」

 私のため息混じりの皮肉に、蓮子はウインクをしながら真っ向から応じる。それを見て、なんだか自分のトンデモ理論を心から信じられる気がしてきた。我ながら現金だとは思うが、楽しくなってきたからそれでいいのだ。
 と、秘封倶楽部が復調の兆しを見せるのと合わせたかのように。

「蓮子」
「うん?」
「ほら、結界」
「いや、ほらって言われても困るんだけど」

 私たちの前に、結界の切れ目が出現したことを蓮子に伝える。

「出口かしら」
「もしくはステージ2への入り口ね」
「どうする?」
「決まってるでしょ? じゃ、よろしく」

 そう言いながら、私の手を力強く握る。左手にかかる力に頼もしさを覚え、そして結界を見据えながら私は呟いた。

「ロマンはどこだ、なんてね」

 それを合図に、結界の切れ目に飛び込む。隣で、蓮子が吹き出すように笑った気がした。後でとっちめてやろう。





 そして私たちは言葉を失う。
 
 たった今まで存在した人混み、高層ビル、喧噪、色鮮やかなイルミネーション。その一切合切が、それこそ夢のように消えてしまった。
 代わって私たちの眼前に広がる光景に、私は蓮子をとっちめることも忘れて呆然と立ち尽くすしかなかった。動作こそ先ほどの空間に放り出されたときのそれと同じだが、裡に沸き上がる感情はまるで違っていた。

 直感的に、何かが終わったのだと悟った。

 視界を遮る建物が一切ない、寒々とした風景。そこにあるべき建物はどこへ行ったのか。その答えは私たちの足下に、いや、私たちが見渡せる地面一帯に転がっていた。
 右を見ても左を見ても、あるのは否応無く滅びのイメージを突きつけてくるガレキの山ばかり。そんな中、場違いにそびえ立つ巨大な鉄塔。心を躍らせてファインダーに納めたそれも、今はその輪郭をぼやけさせ、どこか墓標を連想させる。
 そして私たちの他に、人の姿は見えない。果たしてそれは夢の整合性の無さがなせる業なのか、それとも東京の記憶を忠実に再現しているのか、私には知る由もない。
 こんなものを見せつけられてなお冗談を飛ばせるほど、私は人間が出来ていなくはなかったし、また強くもなかった。


「16時51分35秒」

 ほとんど聞き取れないほどのかすれた声で、蓮子が呟く。蓮子が見上げる先には、一番星と燃えるような夕焼け空。

「……1945年、3月10日の」

 つまりはそういうことだった。
 私たちの時代にはもう知る者もいない、資料が語るだけの歴史に成り果てた出来事。
 だけど、この都市にとっては確かに自らが体験した紛れもない現実なわけで。ならばこの光景は、東京にとっての悪夢なのだろうか。私にはそう思えてならなかった。所詮それは、何も知らない人間の感傷にすぎないのだろうけど。

 蓮子の右手を握る。怖くなったとかぞっとしたとか、多分そういうことではなくて。あまりに命を感じさせてくれないこの光景の中、ただ隣にいる人の存在を確かめたかったのだ。人の温もりに、触れたかったのだ。取り付かれたように夕焼け空を仰ぎ見る蓮子の表情からはその心中は伺い知れないが、蓮子は私の左手をギュッと握り返してきた。

「……あ」

 唐突に、結界が出現する。まるで、お前たちはここにいるべきではないと告げているように。……ダメだ、どうもこの空間は私を感傷的にさせる。

「行きましょう」

 握った蓮子の手を引く。それに応えるように蓮子は視線を下げ、無言で頷く。いつもの快活さは、なりを潜めていた。ついさっき、サークル活動を楽しもうと決めたばかりで、実際に楽しくなってきたというのに、どうにも上手くいかない。だけど、この風景が東京の見る夢だったのならば、それも仕方のないことなのかもしれない。

 だって夢の内容など、自由に選べるわけがないのだから。

 重い足取りで、この空間から逃げるように結界を通る。
 ふと、空を見上げる。そこには宵の明星や夕焼け色は影も形もなかった。その代わりに、荒れ果てた地上の有様を忘れそうになるくらいに、私がこれまで見てきた中で最も澄みわたる青空が広がっていた。



 その後も、私たちは様々な「夢」を渡り歩いた。

 初のオリンピック開催に沸く東京からは、あの焼け野原を想像することは出来なかった。
 
 今上天皇の前代にあたる天皇の即位祝賀パレードを観覧した。結局これが、東京で行われた最後の即位の礼となった。
 
 ヒロシゲの開通式にも立ち会った。私たちにとっては特に珍しくもない乗り物へ、詰めかけた多くの人々が「夢の超特急」を称えるような視線や歓声を向けているのがなんだかおかしかった。




「あー、さすがにもうお腹いっぱい」
「そう? 私はなんだかお腹が減ったわ」
「そういうことじゃなくてね。もー、メリーったらわかってて言ってるでしょ」

 数々の結界を越えたその先は、私たちがアイスに舌鼓を打ち、そして最初の結界を通ったあの隅田公園だった。

「振り出しに戻ってきたのかしら」
「いや、そうでもないみたい。ええっとね」

 本日獅子奮迅の活躍を見せている蓮子の気持ち悪い目は、

「20××年、7月7日、20時15分24秒」

 私たちの生きる時代の15年前の時間を告げていた。

「やっと私たちが生まれている年代に来たのね。長かったような短かったような」

 妙な感慨に浸る私をよそに、蓮子はまた一人考え込むように、腕を組んで突っ立っている。

「蓮子、どうしたの?」
「いや、うん。なんか引っかかるというか頭から出てきそうというか」
「ふうん?」

 要領を得ない蓮子の答え。私が首を傾けながら蓮子から視線を外すと、その先にはベンチが設置されていた(15年も前のようだから、私たちが座っていたものと同じ物かは定かではないが)。そしてベンチには、先客がいるようだ。

「あら、女の子ね。それもまだ小さい。こんな時間に一人なんて、迷子かしら」

 ぼんやりと空を見上げる、黒い髪の少女。背格好を見るに、まだ小学校に上がらないかという年齢だろう。
 こんな可愛らしい女の子が人気のない公園に一人ぼっち、これほど危険なシチュエーションも中々無い。

「ふう、義を見てせざるはなんとやら。親御さんも心配してるでしょうし、ここは大人の対応を、って私たちは干渉できないんだった……蓮子?」

 蓮子は目を見開いて、ベンチに座る少女を見つめていた。しばらくそうしていたかと思うと、ふっと笑って。

「ああ、そうか。うん、そういえばそうだったかも」

 そう言いながら、蓮子はベンチの方へと歩き始めた。おいてけぼりにされた私は、慌てて蓮子を呼び止める。

「ちょ、ちょっと、一人で納得しないでよ。どういうこと?」
  
 ハッとして振り向き、ゴメンゴメンと謝る蓮子。いや、謝罪はいいから説明を要求する。蓮子はどこか優しげな視線を少女に向けて、私の要求に答えた。

「あの子、私だわ」

 実に単純明快な蓮子の答え。

「え」
 
 にもかかわらず、私はその答えの意味を飲み込めずにいた。
 あの子とは、ええっとつまりあの少女のことで、私っていうのは当然……え? あれ?
 
「……うそ。ホントに?」

 ようやくそれだけ言った私に、蓮子は苦笑しながら答える。

「ホントだって。自分を見間違えるわけないでしょ? なんなら実家帰ったとき写真見せてあげようか?」

 どうやら間違いないらしい。そう言われると確かにどこか面影があるような。
 それにしても信じられない。そりゃまあ、私たちが見てきたのが東京の過去の夢だったならば、こういうことが起きてもおかしくはない。それでも、まさか相棒の過去を垣間見ることになろうとは。なんだかとても不思議な気分だ。

「確かこの時、親と一緒に買い物に来ていたのね。それで帰りにレストランに連れてってもらって、そう、お子様ランチを食べたっけ」

 少女を見つめながら、蓮子は自分の記憶の底に存在する思い出を語る。夢のようにあやふやで、されど決して夢などではない、遠い日の思い出を。

「だけど親が会計してる間に、私一人で勝手に外出ていっちゃったのね。今でも母さんによく言われるわ。「あんたは何をするかわからないからいつも目が離せなかった」って」
「蓮子の落ち着きの無さは今も昔も変わらないのね」
「あら、行動力に優れているって言って欲しいわ」

 目に映るもの全てに好奇の眼差しを向けてちょこまかと動き回る、幼き蓮子の姿がありありと思い浮かべられる。
 三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。

「まあとにかく、親は目を離してはいけない子どもから目を離しちゃって、案の定私は迷子になった。私にその自覚はなかったんだけどね。それで、気がついたらこの公園に迷い込んでたのよ」

 ほら、と蓮子が示した先には、私たちの時代でも同じ位置にあった、京都でもよく見かけるレストランチェーン。公園からは目と鼻の先に位置するので、小さな子どもの足でもここにたどり着くことはそんなに難しいことではないかもしれない。

「とりあえずベンチに座ってみた。不思議と不安とかそういうのは無かった気がする。それよりも何だか自分が大冒険の真っただ中にいるような、とにかくとてもワクワクする気分だったわ」
「はぁ……なんて将来有望なお子様なの。そんな無鉄砲さにおいて一級の素材が成長した結果、今の貴方が完成したというわけね」
「褒め言葉として受け取っておくよ、メリー」

 私が呆れるのも構わず、かんらかんらと笑う蓮子。
 そして蓮子は夜空と幼い自分を見比べるようにして言った。

「きっとこの瞬間がね、宇佐見蓮子の原点なのよ」

 原点。始まりの場所。蓮子のスタート地点が、この迷子体験……? 
 どういう意味か図りかねている私をよそに、蓮子は帽子を脱いで独り言のように呟いた。

「やっぱりすごいなあ東京は。私がすっかり忘れちゃってたことまで覚えてくれてるんだから」
 
 どこか照れくさそうに笑いながら、蓮子は幼き頃の自分の隣に腰掛ける。そして小さな瞳が見つめる方向へと、その視線を送った。その光景に、正確には小さな蓮子の表情に、思わず息を呑む。
 顔立ちはもちろん幼いものの、夜空に吸い込まれそうなほどにジッと星を見つめるその表情。それはまさしく、いつも私の隣で星を見る相棒、宇佐見蓮子の見慣れた表情だった。

「本当に衝撃的だった。この世にこんなきれいな光景があったことを、私はこのとき初めて知った。ほら」

 蓮子の言葉に誘われて、私も空を見上げる。そこには、これぞロマンチックと呼ぶに相応しい光景が広がっていた。
 どんなに近くに存在しているように見えても、星たちは孤独に輝いているのだという厳然たる事実。そんな現実的見解を無粋だと切って捨てる、絨毯のように敷き詰められた星、星、星。

「わあ……」

 感嘆の声を漏らさずにはいられない、見事なまでの天の川だった。
 いくら昔よりも星が見えやすくなったとはいえ、東京でこれほどの天の川を見るにはよっぽどの好条件が揃わないといけないだろう。そういえばさっき蓮子は7月7日といったか。偶然にしても出来すぎだ。
 眩しいほどの星たちの瞬きに目を奪われる私を見て、蓮子は満足したように笑いながら話を続ける。

「同時に理解した。夜空で輝く星々が、私の生きる“今”を伝えてくれていることを」

 そう言いながら蓮子は、隣で食い入るように星を見つめる少女の髪を愛おしげに撫で上げる。もちろん反応が返ってくることはないけれど、蓮子は妹を慈しむ姉のように微笑んだ。

「きっとこれが、私がこの目と、そして星空と初めて出会った瞬間なのよ」

 蓮子は今一度夜空を見上げ、星を見据える。二人の蓮子の表情が、そして、

『20時30分ジャスト』

 二人の蓮子の呟きが、重なる。

 宇佐見蓮子が始まった時間を、他ならぬ宇佐見蓮子自身が告げていた。

「……」

 それを見届けた私は、少しだけ羨ましくなった。
 時折夢と現の境目を見失う、自分の立ち位置がわからなくなってしまう私だ。
 蓮子の目はそんな私に気持ち悪さとともに少しの憧れを抱かせる。
 あの目があれば、自分の時間を、自分の居場所を、自分の存在を、見失わずにすむのではないかと。

「でもやっぱり、気持ち悪いわねえ」

 一瞬よぎった無いものねだりの思考をかき消すべく、蓮子に聞こえないように一人呟いて苦笑した。
 そんな私の様子を見て首を傾けている蓮子に、いつも通りの調子で言葉を投げかける。

「そんな大事な瞬間を忘れちゃうなんてねえ。いくら小さかったとはいえ、それはないんじゃない?」

 蓮子はむっ、と口をとがらせながらバツが悪そうにしている。若干苦し紛れに放った皮肉ではあったが、割と効果はてき面だったようだ。蓮子は拗ねた声色で言った。

「とっても綺麗な星空を見たってことはちゃんと覚えてたわよ……ぼんやりとだけど。それに、本当に大切な記憶は、心の奥底で大事に大事にしまわれてるものなのよ、きっと」
「ロマンティックな言い訳だこと」

 そう言って私が笑ってやると、蓮子は頬を膨らましながらも、結局は堪えきれなくなったように笑いだした。そうしている間に、さっきのちょっぴりブルーでシリアス風味な思考も忘れていった。蓮子のブレイン顔負けだ。
 
 静かな夜の公園に笑い声が響く中、結界が開く。さて、このまま次のステージへレッツゴーといきたいところだが、夢とはいえ、このままこんな小さな女の子を一人放置しておいて大丈夫なのか。そんな懸念が頭をよぎったが、

「ああ、この後すぐに親が迎えにくるわよ。こっぴどく怒られるけど。母さんなんて泣きながら怒るから恐いのなんの」
 
 他人事のように笑う蓮子はともかくとして、それなら安心(?)だ。いたいけな少女に待ち受ける過酷な運命に合掌。

「さ、行きましょ」

 私が促すと、蓮子はまた何か考え事をしている。と思ったら何かを思いついたように顔を上げた。しかもあれはロクでもないこと思いついた顔だ。蓮子はベンチに座る自分に、自らの分身ともいうべき黒の帽子を被せて、

「じゃ~ん、ちび蓮子~」

 思わず噴き出してしまった。
 夜空を見つめる真剣な瞳と、その瞳を覆い尽くさんばかりのぶかぶかな帽子。
 小さな頭に乗っかるサイズの合わない帽子はあまりに不恰好で。
 それでいて星を見る少女の一部であるかのように、とてもよく似合っていた。

「下らないことしないの。邪魔しちゃかわいそうじゃないの」
「メリーも笑ったくせにー」

 蓮子は一本取ってやったと喜びながら笑った。まったく、中身はちび蓮子と変わってないんじゃないの?

「はいはい認めます。面白かったです。これでいいでしょ」
「うむ、よきかなよきかな」

 蓮子は帽子を定位置である自分の頭に戻しながら、私の手を握る。

「バイバイ、私」
 
 空いた手を振りながら、結界に向かう私に続く。
 
 最後にもう一度、二人で15年前の東京の夜空を見上げた。

「20時35分22秒」

 “今”を伝えてくれる満天の星。蓮子の原風景を、私は心の底から綺麗だと思った。


 


 結界を抜けた先は、さっきまで私たちがいたのと同じ公園だった。
 違う点といえば、空はまだ明るく、公園で遊ぶ家族や待ち合わせの最中らしき人々が見受けられてわりかし賑やかだということだ。もしかすると……

「14時36分15秒」
「だからそれ私のだって」

 蓮子のアイデンティティの危機はさておいて腕時計を確認すると、最後にこの時計を見てから10分も経っていなかった。公園に設置された電光掲示板も、私が初めて東京に降り立った日にちを示している。

「戻ってきたんだ……」
「さっきの結界がゴールだったのね。そうするとちび蓮子はさしずめラスボスかしら」
「ちょっと、人聞きの悪い。どこの世界にあんな可愛らしいラスボスがいるのよ」
「自分で言っちゃうのね、可愛らしい」

 まあ否定はしないが。
 
「それにしても、最後の夢が私の過去だなんて、なんだか照れるというか話が出来すぎというか」

 東京が見た白昼夢。その締めはまさしく私たち秘封倶楽部に向けられたものだった。
 夢の内容が選べるとは思えないけど、東京にはその常識は通じないのだろうか。 

「そうねえ」
 
 ふと、蓮子の疑問に対する答えが思い浮かんだ。
 考えても詮無きことは偶然の一言で済ませてしまっても良いのかもしれない。それでもあえて理由付けをするならば。

「東京の粋な計らいじゃない? “おかえりなさい蓮子”って。何せここは、江戸の気風を受け継ぐ都市、東京なんだから」

 私がしたり顔で答えると、蓮子は目を丸くして呆気にとられた様子だ。かと思えば、ぷっと吹き出して堰を切ったように笑いだした。

「ちょ、ちょっと、笑いすぎよ貴方! ここ公共の場なんだから静かにしなさい! ほら、見られてるわよ!」
 
 遅ればせながら恥ずかしさが頂点に達した私の制止を蓮子はものともしない。しばし昼下がりの穏やかな空気が流れる隅田公園に、空気の読めない迷惑な蓮子の笑い声と私の怒声がこだました。なんの罰ゲームだこれは。


 ひとしきり笑うだけ笑った蓮子は、涙をふきながらおかしそうに言った。

「いやあ、世界中の物理学者集めても、メリーに敵うロマンチストは見つからないだろうね」
「世界最高の称号! なんて名誉なことなのかしら、もちろん丁重に辞退させてもらうわ」

 大げさに反応して、何とか恥ずかしさをごまかしにかかる。ううん、私にこんな「恥ずかしいセリフ禁止!」ってツッコまれるような悪癖があったとは。新しい自分を発見した気分だ。一生見つからなくてよかったのに。

「あらもったいない。でもね」

 まだ顔の赤みが抜けない私に、蓮子はとても楽しそうに微笑みながら言った。

「その理由付け、私も気に入ったわ。とっても素敵」

 今度は私が目を丸くする番だ。しかし淑女な私は爆笑などしない。
 代わりにため息を付きながら淑女の嗜みである皮肉を一つ。

「やれやれ、世界最高のロマンチストに匹敵する物理学者がこんなとこにいたわ」
 
 当然私の皮肉など、蓮子は意に介さない。蓮子はニッ、と笑って帽子を恭しく外しながら応じた。

「光栄の極みよ、メリー」

 呆れる私とご機嫌な蓮子。この凸凹さ加減、まったくもっていつもの秘封倶楽部である。

「さて、それじゃあ行こうか」

 帽子を手で弄びながら、蓮子が呼びかける。

「行くってどこに?」
「私の実家。ほら、小さい頃の写真見せてあげるって、言ったでしょ?」

 ああ、そういえばそんなことも言っていたか。

「ということはセーラー服姿の蓮子とかも見れるのかしら。その御身はさぞかし面白い、もとい可愛らしいんでしょうね」
「なんだろう、どっちにしてもバカにされてる気がする」
「気のせい気のせい」
「というか何で私の学校がセーラー服だったって知ってるのよ」
「女の勘という名の出任せよ」

 むくれる蓮子を適当になだめながら、私はまだ見ぬ宇佐見家に思いを馳せていた。
 蓮子の家はどんなところなんだろう。こんな落ち着きのない娘を立派に育て上げたご両親はどんな人たちなんだろう。興味は尽きることがない。それに。

「セーラー服姿もいいけど、貴方の赤裸々な昔話も聞きたいわ。例えば、あなたが最初に月と出会ったときの話とか」

 蓮子は面食らったような表情をしたが、すぐさま嬉しそうに言った。

「もちろん。私の昔話は、きっと百物語より面白いわよ。御代はメリーの昔話でいいわ」
「お安い御用よ。まるで本当にあったお話のように熱弁してあげる」
「こらこら、堂々と偽金造りを宣言しないの」

 ううん、これは貴重な機会だわ
 どうせだから修学旅行効果を利用して、蓮子の甘酸っぱい初恋話とかも聞きだしてやろう。
 
「決まりね。私の家はここから一駅だからすぐよ」

 駅に向かってはやるように歩き出す蓮子。
 私は蓮子の家への興味を抑えつつ、その後ろ姿を呼び止めた

「ちょっと待って。蓮子のご自宅へお邪魔する前に、一つ提案があるわ」
「提案?」

 そう、提案である。東京の過去を見て、今私が改めてやりたくなったこと。

「時間はまだあるんだし、もう少し見て回らない? この、私たちが生きる時代の東京を」

 私たちが垣間見た、東京の夢。それは東京が抱える膨大な過去の記憶の一片でしかないのだろうけど、それでも、一つとして同じ東京は無かった。
 移ろい続ける時代の中で、東京は様々な姿を見せていた。中には目を背けたくなる光景もあったけれど、それらを含めた過去を記憶して、東京は現在に至っている。
 その現在の東京の姿を見られるのは、現在を生きる私たちの特権である。いつか遠い未来、今日の私たちのように、今日という日を過去の夢として目撃する人が現れるかもしれない。しかしそれはあくまでも夢。私たちは今の東京の姿を紛れもない現として、その目に、その記憶に納めるのだ。それは何と素敵で幸せなことだろう。私は一期一会という言葉の重みを改めて噛みしめた次第である。これを蓮子風に言うと、「今を楽しまなきゃ損損」になるのかしらね。
 
 私の提案に、蓮子はうーんと少し思案した様子をみせて、しかしすぐに笑顔とともに言った。

「うん、それもいいかもね。私にとっては東京なんて見慣れたものだと思ってたけど、うん、今ならなんだか新しい発見が出来そうな気がする。名案ね、メリー」
「でしょ? それに」

 ウインクを一つ加えながら蓮子に笑いかける。蓮子もそれに応じるように笑う。
 まるで予定調和のように。私は今一度ここに、秘封倶楽部唯一にして絶対の行動理念を高らかに宣言する。

「どんなに見慣れた景色でも、二人一緒なら、きっと楽しいわ」

 真実は主観の中に存在する。
 ならば我が相棒、宇佐見蓮子と共に見る現在の東京は、きっと最高の形でその姿を現してくれるに違いない。

「以下同文よ。さあメリー、早速だけどどこに行こうか」
 
 蓮子は私の宣言を受け、帽子を被り直しながら躍る心を隠そうともしない。
 今にも幼子のように駆け出しそうな勢いである。
 ああ、まだ見ぬ蓮子のお父様、お母様。やっぱり貴方たちの娘さんは少々落ち着きが足りないようです。
 でもごめんなさい。私にはそれを注意することはできません。
 
 だって、私も!


「エスコートはお任せするわ。あ、でもハチ公は絶対に写真撮らなくっちゃ」
「ロマンチストの上にミーハーなんだから、メリーは」

 呆れる蓮子とはしゃぐ私。凸と凹の目まぐるしい移り変わりはまさに女心と秋の空、そして流れゆく時代の如し。
 女二人で十二分に姦しい秘封倶楽部は、時代の流転を映し続ける夢見る霊都、東京の街を往く。


 さあ、馬鹿みたいに楽しもう。
 まったく、忙しいお彼岸になりそうね。
少し不思議な東京観光、みたいな。
果たして秘封倶楽部らしさが出せたかどうか。とにかくちょっとでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

それではここまでお読みいただき、ありがとうございました。
おつもつ
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コメント



0.1200簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
時代と共に東京を巡るってのはやってみたいですねえ
秘封の世界だから見られる夢ですね
いつまでこの国の首都なのかはわかりませんが…
このノリは好きなんですがどうにも各時代が薄っぺらく見えてしまったのは残念
10.90名前が無い程度の能力削除
東京が夢を見るっていうのは素敵な発想ですね!
長さはこれぐらいでよかったと私は思いますが、上の方が仰ったように、各時代を長くして、「ラスボスちび蓮子」を置いてみても面白そうかなと思いました。
14.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
16.100名前が無い程度の能力削除
良い!
18.100名前が無い程度の能力削除
いかにも冒険を楽しんでるように見える二人は見ていて非常に好ましかったです。
20.100名前が無い程度の能力削除
東京の見る夢という素材がとてもいいなと思いました。
二人の雰囲気も良かったです。
25.100名前が無い程度の能力削除
これは良い旧都巡り。
26.100名前が無い程度の能力削除
あと100kb分くらい読みたかった。
それくらい好き。
27.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい