Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷最速選手権3

2005/04/18 06:59:15
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前回までのあらすじ
みょんなことから幻想郷版競馬「競妖」に参加することになった魔理沙
第2戦では強敵モコーを打ち負かしみごと2連勝、しかし願いはかなわなかった。



「あら残念、私はすでに賭ける妖怪を決めてしまったわ」



1月下旬の西行寺家、当主の幽々子は庭師である魂魄妖夢に伝えることがあると部屋に招き入れた。
「私が競妖に参加して早100年、今までダービーを狙える妖怪に出会うことは出来なかった」
「そういえば、幽々子様もダービーだけは勝ったことがありませんね」
幻想ダービー、競妖に関わる者なら一度は勝ちたいと願うレース。
幻想郷屈指の競走妖を所持し、数々のビッグタイトルを獲った幽々子であったが幻想ダービーだけは未勝利だった。
「でも妖夢、あなたならダービーを狙えるわ」
「私がダービーを…ですか?」
「そう、あなたの速さならダービーを、いやクラシック三冠全てを取れる。だからこそ私は貴女を競妖に参加させたい」
「幽々子様がおっしゃるならば私に拒否する資格はありません。ですが…」
「何か不満があるの?」
「いえ不満ではありません。ですが西行妖賞は4月末、ダービーは5月末に行われます。
 それまでにデビューして参加資格を手に入れるとなれば 少々時間が足りないのではありませんか」
「そこは抜かりないわよ妖夢。貴女にはトライアルレースでデビューしてもらう予定なの」
「重賞レースでデビューですか!?それは少々厳しいのでは」
「あら妖夢、私の言葉が理解できていないようね。貴女だからこそ出来るのよ」
妖夢は幽々子の言葉を思い出す、そもそも幽々子様がこんな畏まって私に話をすることなんて年一回あるかないかの出来事だ。
それに幽々子様は勝ち目の無い勝負をしない。勝算あってのお考えなのだろう
「私だからこそ……分かりました。幽々子様、私に指示を」
「それでは私の競走妖になりなさい妖夢、誰よりも速い競走妖に」
「お任せください。幻想郷最速のスピード、ご覧に入れましょう」
かくして、妖夢は幻想ダービーを獲るべく訓練を開始することになった。
幽々子は慧音に妖夢を預ける。慧音としても妖夢ほどの素質を持った競走妖を手がけるのは初めてだった。
妖夢はすぐにコツを飲み込み、訓練開始3週間後にはすでにトップクラスの妖怪と遜色ない力を見せるようになったのだ。
素早いスタートダッシュ、道中追走の安定感、勝負所での瞬発力すべてを兼ね備える理想的な競走妖へと成長する妖夢。
そして、幽々子は妖夢のデビュー戦を決定した。
「妖夢、あなたのデビュー戦を決めたわ」
「いつですか幽々子様」
「4月初めの西行妖賞トライアルよ、そこであなたの実力を見せ付けてやりなさい」
「仰せのままに」







「さーて、こいつとこいつを混ぜ合わせれば完成だ」
ここは魔理沙の実験室。今日も新魔法薬の精製に余念の無い魔理沙。
そして出来上がったのは得体の知れない香りを漂わせる漆黒の液体。いかにも魔法のクスリといった感じだ。
魔理沙が今日生成しようとしたのは魔力増強剤。魔法使いの魔力を引き上げるプロテインのようなものである。
しかしどこかで配分を間違えたようだ。本来ならば青い液体にならなければならない。
「なんだこれは…とりあえず飲んでみるか」
好奇心旺盛な魔理沙はその失敗作に口をつける。だが、それがいけなかった。
「うぎゃあああああああ」
魔力の暴走。次の瞬間スターダストレヴァリエやマスタースパークが暴発し、魔理沙の家は木っ端微塵に吹き飛んでしまった……



「…と、いうわけで家を建て直す必要がでてきたわけだが、過去と未来の境界を弄くって元に戻してもらえんだろうか」
「だからって私の家に住みつかないでくれる?」
3月下旬の暖かい一日、家を失った魔理沙は住処を求めてマヨヒガにやってきていた。
居候するついでにそこの主人、八雲紫に家を直してもらおうとしたのだが…
「はい、これが見積書よ」
「うげげっ、5000コインって高すぎるだろ!」
「なに言ってるのよ、世の中は等価交換。過去と未来の境界を弄くるのは相当な危険が伴うのよ」
「てっきり一瞬で直るもんだと思ってたのにな~。借りた本や集めたアイテムごと元に戻すにはこれしか方法が無いのがなんとも」
魔理沙は語る、面白そうだと思って軽い気持ちで薬を飲んだ。今は反省している。
しかし家を直さなければ魔法の研究もアイテム蒐集もままならない。なんとかしなければ。
でも5000コインなんて大金そうそう稼げるもんじゃない。競妖での賞金がまだ残っていたが、それでも遠く及ばない金額なのだ。
「まぁ、あなたなら飛んで稼げばいいじゃない」
「おいおい、何回レースで勝てばいいんだよ。数ヶ月はかかるぜ」
「あら、うちの藍は1レースで5000くらい平気で稼ぐわよ」
八雲藍、競妖登録名ヤクモランは競妖界でもトップクラスの実力者だ。主な戦績は西行妖賞(G1)永遠亭杯(G2)など。
「そんな大金を一気に稼げるレースがあるのか?」
「もしよければ今夜の大金が稼げるレースを一緒に見に行きましょう」
「参加してもいいぜ」
「だめよ、あなたではまだ参加資格が無いもの」
「ちぇっ」
「ゆかりさま、今日はらんさまの応援ですか?」
「橙も一緒に行きましょうね」
「はーい、今日も当ててみせますー」
「…こいつも賭けるのか」



その夜、3人は白玉楼競妖場へとやってきた。
ここと紅魔館競妖場との違いは、直線が800メートルしかないことと左回りであること。
そのほかルールは全く同じ、業務提携こそしていないが競争妖怪のクラスなどは共通に取り扱われている。
「ここにも競妖場があったのか」
「そういえばあなたは紅魔館でしか飛んだことが無かったわね」
3人は藍のいる控え室へと向かう。
藍の出るレースは第11レース、白玉楼記念(G2)距離4000メートル。出走メンバーも有名な競走妖ばかりだ。
「うおっ、一着賞金6400コインだって!?」
「それが藍のいる世界よ」
「らんさま、二番人気ですけどがんばってくださいね」
「まかせておけ橙、レースでは一着になってやるさ」
「今日は藍のスピードを魔理沙に見せ付けてあげなさいね」
「おいおい、そんなに速いのか」
「見せてやろう、私の速さを」


「で、橙はなにから買ったの?」
「らんさまを軸にケダマガーディアン、デーモンロード、リリーブラックへ妖連3点流しです」
「あら、一番人気のクロマクを切ったのね」
「クロマクは4000メートル以上のレースでは勝ったことがありません。それに冬しか勝てませんから」
「いい読みね、では私も切りましょう」
「こいつら賭け方を熟知してるぜ」


そしていよいよレースがスタートし、出走17匹が一斉に飛び出す。
リリーブラックが先頭に立ち、クロマクが2番手。藍は得意の中団待機作戦をとった。
道中はハイペースに加え激しいポジション争い。魔理沙なら潰されてしまっているかもしれない。
「うーん、らんさまにはちょっと厳しい流れですね」
「後方の大穴ホンミリンはいい位置じゃない?私これに賭けたのよ」
「あ、それホンメイリンって読むんですよゆかりさま」
この厳しい流れでも流石はG2、一匹も脱落するものはいない。
その中で藍は先頭から5・6番手のインコースにつけ、加速の時機を待つ。
全員がコーナーを曲がり終え、短い直線に出たところで藍が一足先に抜け出す。このまま押し切る構えだ。
出し抜けを食らった格好になった他の妖怪は必死で藍を追うが時既に遅し、藍が見事一着でゴールした。
二着は最後方から追い込んできたデーモンロードで妖連35倍、一番人気クロマクは直線で失速し9着だった。
「やったー、らんさまが勝った~」
「あら、橙あなた当たってるじゃないの」
「ばっちりですよゆかりさま。ここは当てやすいレースでした」
「私も実は藍の単勝買ってたのよ。4倍ゲット」
「さすがゆかりさま、今日はごちそうですね」
「うーん、霊夢なんかより数枚上手だな」



「これで賞金が6400コインか、こんなのに勝てば一気に家が直せるなぁ」
「魔理沙、貴女でも出走できる重賞レースが来週あるんだけど」
「なんだって?」
そういって紫は魔理沙に日程表を見せる。
そのレースは来週行われる西行妖賞トライアル(G3)魔理沙にぴったりのレースだ。
「おお、バッチリじゃないか」
「でも簡単にいくと思わないほうがいいわ、毎年このトライアルは強敵がそろうからね」
「そこは気合だぜ」



次の日、魔理沙は霊夢を訪ねて博麗神社へと向かった。次のレースの作戦を考えてもらうためだ。
境内に入るなり、またも違和感を感じる。今度は何だ?
まずは庭、完璧に手入れがなされている。いつもの霊夢では考えられないことだ。
障子も張り替えられ、縁側もぴかぴかに磨きあがっていた。魔理沙は何かあったんじゃないかと恐る恐る霊夢を呼ぶ。
「おーい霊夢、遊びに来たぜー」
「あら魔理沙、いらっしゃい」
「今日はどうしたんだ?いつもはテキトーな掃除が今日は完璧になってるぜ」
「毛玉人材センターにお願いしたのよ。昨日のレースでボロ勝ちしちゃって」
こんなときに限って霊夢は絶好調だ。先日までのどん底人生とは一転ハッピー霊夢になっている。
「なぁ霊夢、今週レースに出るんだがアドバイスをくれないか?」
「有料よ」
「ひどいぜ」
心に余裕があると人はここまで変わるのか。魔理沙はまた一つ賢くなった。
魔理沙は事情を説明し、霊夢にアドバイスを求める。
「へぇー、とうとう貴女が自主的にレースに出るとはね」
「大人の事情ってやつだぜ」
「まぁいいか、基本的に白玉楼競妖場は直線が短いから先行したほうが有利よ。あとは当日のメンバー次第だわ」
「じゃあ当日はご同行願うぜ」
「コインいっこで引き受けます」
どこで霊夢はこんなにも染まってしまったのだろう、と黄昏る魔理沙であった……





レース当日、魔理沙は一人で白玉楼競妖場へとやってきた。
白玉楼競妖場は基本的に昼間開催。霊夢は寝ていて一緒に来てくれなかったのだ。
「しかし霊夢のやつ、自分がピンチじゃないと助けてくれないんだもんな」
そこで幻想郷屈指の競走妖オーナーでもあり、競妖場の経営者でもある幽々子と出会う。
「ようこそ白玉楼競妖場へ。今日はどのレースに出るつもりなの?」
「メインレース初登場だぜ」
「あら」
「お前も私に賭けるか?」
「あら残念、私はすでに賭ける妖怪を決めてしまったわ」
「そうか、じゃあしっかり損させてやるぜ」
「頑張りなさいね」
そういうと魔理沙はレース登録窓口へ向かった。幽々子は笑みを浮かべながらその後姿を観察する。
「妖夢に叩き斬られてきなさい、魔理沙」



登録を済ませ控え室に戻ると、紫と橙がやってきた。
「魔理沙、応援にきたわよ」
「応援ついでにアドバイスをくれると感謝感激雨あられだぜ」
「そうね…橙に聞いてみたら?」
「橙に?」
「そうよ、あの子のアドバイスはかなり的確。いつも藍の作戦を考えるのは橙なのよ」
橙は椅子に座ってパンフレットを片手に予想を始めている
「ゆかりさま、第1レースの予想できましたよー」
「あら、ありがと。そのついでに魔理沙にアドバイスをしてあげなさい」
「魔理沙さんはメインレースでしたね」
先日、魔理沙は橙の予想の腕前を目の当たりにしている。なんと12レース中5レースも的中させていたのだ。
当然収支は大幅プラス。私よりも霊夢がアドバイスを必要としているかもしれない。
「強敵はメイド長予想でも◎のウドンゲインですね。去年の紅魔フューチュリティ(G1)の勝者でここも断然の一番人気」
「うわ、優曇華の奴そんなに凄かったのか」
「でもわたしの狙いはヨーヨーム、西行寺幽々子所有の上白沢厩舎というだけでもかなり話題になるんですけど
 その上ここがデビュー戦。重賞でデビューなんて並の競走妖じゃありません、調教でも素晴らしいスピードでした」
「そんなに凄いのか?」
「もともと幽々子は慎重派だからね、勝ち目の無い勝負はしないはずよ」
「その幽々子さんが競走妖を重賞でデビューさせるなんてこれまで無かったことですから、余程自信があるんでしょうね」
「こりゃ要注意だぜ、ところで藍の姿が見えないんだが」
「今日は紅魔館へ偵察に行ってるわ。藍も次はG1に出るからそのライバルの研究」
「なるほど、見えないところで頑張ってるんだな、それでレースはどう戦えばいいんだ?」
「魔理沙さん、デビュー戦みたいに逃げてください」
「あれは3600メートルも持たないぜ」
「あれは力加減なしで飛ばしたからです。余裕を持って途中抜かれてもいいくらいの気持ちで行けば楽ですよ」
確かにその通り、デビュー戦はがむしゃらに飛ばしただけだった。
「それに魔理沙さんの2戦目を見る限り、後ろからの追い込みはあまり得意じゃなさそうですし」
前回は出遅れて最後方からだったが、性格的に追い上げるより追い上げさせるほうが好きだ。
「というわけで、今回は先頭から3番手くらいまでのところで進んでください」
「了解だぜ」
「おそらくヨーヨームは後方から追い込んでくるはずですから、余力を十分残しておくことを忘れないでくださいね。
 いいですか、敵はヨーヨームです」



午後3時、メインレースが近づいてきた。
第11レース、西行妖賞トライアル(G3)左回り3600メートル出走16匹。
一番人気は昨年の新人王ウドンゲイン、二番人気にデビューからレコード勝ち連発のマリサ、三番人気にヨーヨームが続く。
この様子を霊夢は紅魔館競妖場の巨大モニター(これもマジックアイテム)で眺めている。
「魔理沙には悪いけど、ここは絶対ウドンゲインよ」
霊夢の手にはウドンゲインの単勝妖券がしっかりと握られていた。
「おや、霊夢じゃないか。今日は魔理沙の応援じゃないんだな」
今日は紅魔館メインレースの偵察に来ていた藍が霊夢に話しかける。
「今日はさすがに魔理沙勝てないわ」
「おやおや、随分と突き放したな」
「私も勝負師よ、時には涙を呑むことも大切なの」
「ほぅ、私は賭けたことがないからよく分からんが」
「まぁ見てなさい。私の英断を」



スタートゲートに萃まる出走妖。スタートの時が近づく。
「ヨーヨームって妖夢のことだったのか。お手柔らかに頼むぜ」
「魔理沙さん、あなたにも負けるわけには行きませんので」
「上等だぜ」
スタートと同時に先頭に立つ魔理沙、このスタートダッシュも魔理沙の武器だ。
しかしデビュー戦のような暴走ではなく、3600メートルを意識してスピードは控えめだ。
その魔理沙を追い越していくのが一匹いた。一番人気ウドンゲインだ。
「あなたはペースを守って飛んでいるつもりでも、すでにペースは狂っているのよ」
これがウドンゲインの戦法、月兎遠隔催眠術『テレメスメリズム』だ。
新人王決定戦である紅魔フューチュリティでは他の有力妖怪のペースを乱させ、自分のペースに持ち込むこの戦法が炸裂した。
当然魔理沙も一瞬焦った、自分のペースが遅すぎたのかと。
しかし魔理沙は橙の「ヨーヨームだけには気をつけて」という言葉を信用し、あえてウドンゲインを追わない選択をした。
他の妖怪はウドンゲインを逃がしてはいけないとペースを上げる。魔理沙の目にはそれが明らかに飛ばしすぎに映った。
実際、そのペースは観客席から見れば明らかな超ハイペースである。
「あら、これはまたレコード決着かしら」
「これは後ろで待機していたほうが断然有利ですね」
「そうね…ところで橙、あなた何に賭けたの」
「マリサ-ヨーヨーム一点勝負しちゃいました、当たれば11倍ですよ」
「あらま、このハイペースは願っても無い展開じゃないの」


1000メートル地点。
魔理沙は7番手に後退したがペースは守っていた。最初から変わることの無いマイペースで行けば直線で十分に余力が残る。
優曇華には好きにさせる。それよりも最後方にいる妖夢のほうが気になった。先程の乱ペースにも全く動じていない。
その視線は他の妖怪には見向きもせず、ただ先頭のみを捕らえているようだ。
調教の時、慧音は妖夢に対しこう言った。
「最後の直線でのスピードなら妖夢に勝てる者はいない」
小細工無しの絶対スピード差を生かすには直線勝負が最適。駆け引きに弱い妖夢にとってはかえって好都合だった。
道中は集団の一番後ろにつけ、直線でスピードを爆発させることだけに集中する妖夢。
魔理沙は後ろの妖夢と前の優曇華、両方に気を配らなければならなくなってしまった。
「こいつは難しいな」
先に動けば妖夢に抜かれる、動くのが遅ければ優曇華に追いつけない。非常に仕掛けどころが難しくなってしまった。


2000メートルを過ぎ、第3コーナーに突入しても先頭集団は順位が目まぐるしく入れ替わる。
乱ペースを仕掛けたウドンゲインは4番手あたりで落ち着いてしまっているので、まだ余力があるようにも見える。
優曇華と魔理沙との差は約20メートル、魔理沙から妖夢までの差も約20メートル。
「最後の直線でどこまで余力が残っているかが勝敗のポイントね」
「そうですね、ウドンゲインは若干疲労してますけどマリサとヨーヨームは余力十分ですよ。
 特にヨーヨームは最初から直線勝負を決めていたみたいですし」
「あら、この白玉楼で直線一気なんて戦法取るのかしら」
白玉楼競妖場は直線が短く、先行有利だ。
「並の妖怪ならそのまま沈みます。でもヨーヨームは西行寺期待の星、それにこのハイペース、突き抜ける可能性は十分です」
「そ、それをレース前に言って欲しかったわ…」
「ご、ごめんなさいゆかりさまっ!」



勝妖投票券を握り締め、モニターに向かって何時もの如く応援する霊夢。
「おらーウドンゲ!休んでる暇なんかないでしょ!!!」
今回、霊夢は持ってきた有り金全部をウドンゲインに注ぎ込んでいた。後のことなんてこれっぽっちも考えてはいない。
その様子を見て仰天する藍。何時もの縁側でお茶を飲みつつのんびりしている霊夢ではない。
「お、おちつけ霊夢」
「うるさいこのテンコー!いいところで邪魔するなっ」
霊夢は藍に向かって怒号を飛ばす。藍は自分の知っている霊夢はすでにここにはいない事を悟った。



レースは2600メートル地点を通過し、直線まで残り200メートルとなっている。
そのとき妖夢が遂に動いた。前に障害物の無いコースを取るために大外へと移動したのだ。
その動きをいち早く察知した魔理沙は一足先に仕掛けることにした。
一足先に仕掛けてリードを取って置けば、追いつかれそうになっても『切り札』を使うだけの時間が出来るはず。
「いくぜッ!」
直線に差し掛かると同時に加速する魔理沙、妖夢のスピードは分からないが自分だって相当速いはずだ。
たちまち隣の妖怪を置き去りにし、猛然と先頭集団へ襲い掛かる魔理沙。
すでに3000メートル地点、先頭集団はすでにスタミナが切れかかっている、前方で恐ろしいのは優曇華だけだ。
「先にマリサが来たか!」
優曇華も力を振り絞り加速する。ここから先はG1を勝利した底力で挑戦者を退けなくてはならない。
だが魔理沙のスピードは段違いだった。あっという間に追いつかれる。
それに優曇華も前半の乱ペースに自分も体力を消耗してしまい、いっぱいいっぱいだった。
まだ直線は400メートル残っているというのに。
「ここで負けるわけにはいかないっ!!」
「負けることを推奨するぜ」
優曇華と魔理沙、一進一退の攻防が続く。優曇華は引けば負けるので引くわけにはいかない。
しかし魔理沙は横の優曇華ではなく後ろを見ていた、後方の強敵、妖夢の位置を確認するために。
……やはり凄まじいスピードで追いすがってきている。このままではゴールまでに追いつかれるかもしれない。
「遅いぜ遅いぜ、欠伸が出るぜー!!!」
「う、うわあああああぁぁぁ」
魔理沙は限界までスピードを上げ、しぶとく粘る優曇華を振り切った。


残り200メートル、必死で魔理沙は妖夢から逃げる。
妖夢と魔理沙の差は10メートル、その差は縮まりそうで縮まらない。魔理沙のスタミナが切れなければこのまま逃げ切れる。
妖夢はこのままでは追いつけないことを悟り、気合を入れた。主人の期待に応えるためにも勝たなければ。
「覚悟しろ魔理沙、 現 世 斬!!!」
妖夢が遂に放った『切り札』現世斬、調教中の妖怪たちを切り裂くようなスピードを出したことから付けられた名前。
「行くぞ魔理沙!」
稲妻の如きスピードで魔理沙に襲い掛かる妖夢。10メートルあった差をたちまち0にしてしまい、あっという間に追いついてしまった。
「なんだこのスピードは、速すぎるぜ!!」
「貴女と違い、私には譲れないものがある!」
突然現れた妖夢に驚く魔理沙、抜かれまいと必死に堪えようとするが妖夢の加速力は桁違い。
それに対し魔理沙は優曇華を振り切るために力を使ってしまっていたため、すでに勝負は付いていた。
奮闘むなしく妖夢に抜き去られてしまった所が丁度ゴールだった。
「幽々子様、勝ちましたよ」
「ま、負けたぜ…」
妖夢の勝ちタイムは1分45秒5、従来の記録を1秒も更新したレコードタイム。白玉楼競妖場に衝撃が走った。



「わーい、的中~」
「おめでとう橙、これで今日5勝目ね」
喜ぶ橙と紫。これでしばらく紫は寝て過ごせる。
「ほらね、言ったとおりヨーヨームが来たでしょゆかりさま」
「幽々子の心境まで予想に組み込むなんて、恐ろしい子!」
「ありがとーヨーヨーム!」
そこへ目を真っ赤に腫らした魔理沙が帰ってきた。泣きべそをかいている。
「負けちゃったよぅ…」
タイミングが悪すぎる。橙は小さくなって紫の後ろに隠れた。
「あらあら、また次頑張ればいいじゃない」
「次って…負けちゃったから本番に出られないよぅ」
「なに言ってるの、3着までに入ったから本番に出られるわ」
「へっ?」
そう、トライアルは3着までに本番への優先出走権が与えられるのだ。
「はい、鼻水拭いて元気だしてくださいね」



そのころ、紅魔館でもメインレース・ヴワルステークス(G2)が終了した。
西行妖賞と同日に行われる神主賞・春(G1)への出走を決めていた藍にとって、この日のメインレースの勝者はライバルだ。
藍は本来ならばそのメインレースを見終わった後、まっすぐマヨヒガに帰るつもりだったのだが…
「おい霊夢、いつまでそうしてるつもりだ。帰るぞ」
「     」
へんじがない ただのぬけがらのようだ。
「しょうがないな、送っていってやるよ」
霊夢は辛うじて頷く。
西行妖賞トライアルで燃え尽き、ヴワルステークスで灰になった霊夢。残念ながらあちらの世界へ旅立ってしまったようだ。
どうせなら白玉楼で燃え尽きてくれ、と思う藍であった。
みなさまこんばんわ。
競走妖マリサも第3弾となりました。魔理沙のライバルを登場させましたがいかがでしたでせうか?
なんか大変多くの方に読んでいただいて戸惑ってますが、同時に励みになってます。
あと魔理沙は凹むと、まりしゃに…ゆずってくれ、たのm(現世斬



おまけ 幻想郷クラシック三冠
西行妖賞(桜花賞)、幻想ダービー、永夜賞(菊花賞)
刺し身
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コメント



0.3620簡易評価
15.70名前が無い程度の能力削除
魔理沙にしてみれば自分にできる精一杯の努力をした結果で負けた、というところでそれは悔しかったことでしょう。
前回温存した「切り札」が気になるところですが……直線が短い故にまたもや見送り?
28.70藤村流削除
橙の助言が今の私には必要です。ください(何
33.80SETH削除
うるさいこのテンコー! このレースの真の敗者は・・・w
37.100名前が無い程度の能力削除
幻想最速の世界観が、だんだんと明らかになってきましたね…
初の敗北を喫した魔理沙、次々に現れるライバル達…
あぁ~もぅ! 次回が楽しみでしょうがないです!!
……あと、泣きべそなまりしゃにかなり萌。
41.無評価しん削除
これはとてもカイジちっくな霊夢ですね。豪華客船に乗るはめにならないことを祈ってます(それはそれで
52.90紫音削除
毛玉人材センターに噴出したのは私だけでしょうか(ぉ)

いやぁ、このシリーズは全部読んでますが楽しいです。続きも是非是非きたいしております。
59.90名前が無い程度の能力削除
俺たちの知っている霊夢はもういない
ギャンブラー霊夢ももういない
そこにいるのはぬけがらの霊夢だ
77.100時空や空間を翔る程度の能力削除
まっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                                                                                                         白に燃え尽きたね・・・・・・・・・・・・・霊夢・・・・・・・・


目に浮かびます・・・・・・・・・