Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷最速選手権

2005/04/13 09:27:37
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「泣き言いわない。その箒は飾りなの?」



冬のある日、霧雨魔理沙はいつものように博麗神社へ暇をつぶしにやってきた。
「おーい霊夢、遊びに来たぜ」
だが神社の中からは返事が無い、霊夢は寝ているのだろうか
「よっと。勝手に上がらせてもらうぜ」
「……あら、いらっしゃい…」
「何でそんなにテンションが低いんだ?」
「また今週もなけなしのお賽銭を使い込んじゃって……」
そういう霊夢の手には、一冊のパンフレットらしきものがある。
「珍しいな、お前が無駄遣いするなんて」
そういうと、魔理沙はそのパンフレットをひょいと霊夢から取り上げる。
「なになに…出走表?こりゃまた変わったカタログだな。中身は…おいおい、なんか妖怪ばっかりだぞ」
「あら、魔理沙は知らないの?」
そういうと霊夢は真剣な面持ちで語り始める。
「それは競妖といって、賭け事の一種なのよ。その中から一着になる妖怪を見事的中すれば倍率に応じてお金が返ってくるの」
「なるほど、それで賽銭を増やそうとしたのか」
「初めて競妖やった時は、手持ちのお金が10倍になったわ」
「そりゃすごい、それならチマチマ賽銭集めなくてもいいじゃないか」
「でもね、それは始まりだったのよ。大きく儲かったのは初日だけ。あとは勝ったり負けたりの繰り返し。
 遊びじゃあ勤まらない、まさに食うか食われるかの真剣勝負なのよ!」
熱弁を振るう霊夢は魔理沙の顔を真剣な目で見つめつづける。
「で、ここまでの成績はどうなんだ?」
霊夢が固まる、触れてはいけないところに触れてしまったようだ。
「……うちの中を見れば分かるでしょっ」
「……まぁ世の中の厳しさを知る勉強になったんじゃないか?」
励ましなのか慰めなのか良く分からない言葉をかけ、魔理沙はコタツにもぐりこんだ。
そして出走表と呼ばれるパンフレットを眺めることにした。そこにはいろいろな妖怪の名前やら情報が書かれている。
「この中で一着になる妖怪を当てりゃ良いんだよな。おい霊夢、この本の読み方を教えてくれ」
「やめるなら今のうち、後悔しても遅いわよ」
そうは言うものの霊夢は魔理沙にパンフレットの読み方を教えていった。レース距離、過去の成績、妖怪別タイムの見方等々。
霊夢は説明しているうちにあることに気が付く。魔理沙のスピードなら結構良い線いけるのではないか?
訳の分からない人間ならばオッズ(配当倍率)は大きいし、それに賽銭をつぎ込めば今までの負けを取り返せるかもしれない。
一方の魔理沙も説明を聞いていくうちに、こいつら相手なら私でも勝てるぜ、という思いを抱いていた。
そして大レースに勝てば一気に大金持ち、香霖堂の不思議アイテムを堂々と買って帰ることが出来る。
「ねぇ魔理沙」「なぁ霊夢」
両者の思惑は一致した。すぐさま計画は実行に移されることとなる。



競妖、これは元々紅魔館の主レミリア・スカーレット用の娯楽ということで150年前に始まったとされる。
3代前のメイド長が夜の間しか外に出られないレミリアの為、昼間でも退屈しないようにと考案されたのだが、
これがレミリアのお気に入りとなり、現在に至る。
当初は日光を避けるため室内で行われていたが、レミリアの「広いところで大きくやりましょう」の一声で舞台は屋外へと移る。
これが「紅魔館競妖場」のはじまり。
1レース最大20匹の妖が速さと強さを競い合う競妖、最高クラスのレースで見事一位になれば莫大な賞金と名誉を手に入れることが出来る。
また、いつのころからか賭けも行われるようになり、今では紅魔館主催の立派なギャンブルとして人気の娯楽となったのである。



翌週、霊夢と魔理沙は紅魔館へと向かう。
紅魔館の裏庭は競妖場となっていて、ここで毎週熱い戦いが繰り広げられているのだ。
「あらお二人さん、今日は二人仲良く賭けに来たんですか?」
声をかけてきたのは紅魔館の門番だった。
「よぅ、参加しに来たぜ」
「参加するのは魔理沙だけどね」
「参加って、レースに出るんですか?」
「そうだぜ。別に人間が出ちゃいけないってルールは無いはずなんだが」
「まぁ、たまに人間も出てるみたいですけどね」
参加方法を尋ねると、門番は丁寧に教えてくれた。
「あちらの窓口で受付をしてください。今日のレースは夜からですからまだ間に合いますよ」
「助かるぜ」
「受付を済ませたらあとは待合室で待っていてくださいね」
一通り説明を済ませると門番は軽く会釈をし、入り口へと戻っていった。
「ところで、さっきの門番の名前なんだっけ?」
「そういう些細なことは、どうでもいいことだぜ」



控え室に入った魔理沙がまず確認したことは、自分の順番である。レースを間違えたら話にならない。
「で、霊夢。私の出番はいつなんだ?」
「えっと、第3レース・未勝利戦ね。はいこれ出走表」
「お、私の名前があるぜ」
「距離が2000メートルしかないわよ。最初から全速力で行って、最後は気合で粘りこむのがベストね」
「おいおい、一分間全速力で飛ばし続けるのはキツイぜ」
「泣き言いわない。その箒は飾りなの?」
「飾りだぜ」
「つべこべ言わないの。勝てばお宝ザックザクよ?」
「まかせろ霊夢、お前の仇は私が取ってやるぜ」
「仇ってなによ」
二人があれやこれや喋っているうちに第2レースが終了、いよいよ魔理沙の出番が近づいてきた。



霊夢は出走表とオッズを眺めている。
「魔理沙は10匹中4番人気、オッズは9倍ね。おいしいわぁ」
霊夢としてはしてやったり。『魔理沙に全財産つぎ込んで負けを取り戻す』計画はここまで順調。
「このレースの一番人気はイナバ45かぁ、こいつ結構速いから要注意よ」
「安心しとけ、地上の兎ごときには負けないぜ」
そう言うと魔理沙はスタートゲートへと向かっていった。
「……まぁ、魔理沙ならスタートで出遅れない限り勝てると思うけどね」
「あら霊夢さん、競妖はそんなに甘くありませんよ?」
声をかけてきたのは白玉楼の主人、西行寺幽々子だった。
「魔理沙さんは確かに速いですが、それだけでは競妖では勝てませんわ。あなたにしては随分主観が入ってますのね?」
「私みたいながけっぷちギャンブラーは、金持ちの道楽とは気合の入れ方が違うのよ」
「ふふふ、まぁこのレースに私の妖怪は出ていませんから魔理沙さんを応援してあげましょうか」
「そりゃまたどーも」霊夢はそっけない態度をとる。
「今回はお手並み拝見といったところですわね」
そういうと幽々子はオーナー席へと戻っていった。



第3レース・未勝利クラス戦、直線2000メートル。
いよいよレース開始30秒前、出走する妖怪たちは次々とゲートに入っていく。
目を閉じて集中している毛玉、鼻息を荒くして待つ兎などそれぞれがスタートの時を待ち構える。
魔理沙は2000メートル先のゴールを眺め、霊夢の言葉を思い出す。
「最初から全速力か…ひとつやってみるか!」
開始10秒前、カウントダウンが始まり高まる緊張感、魔理沙は集中力を高めスタートの合図を待つ。
「さあ、いつでもいいぜ」
3,2,1、スタート!合図とともにゲートが開き9匹の妖怪と魔理沙は一斉にスタートを切る。
「どけどけどけー!!」
スタートして100メートル地点で魔理沙は作戦通り早くも先頭に踊り出た。
弾幕ごっこでは出すことの無いスピードで魔理沙はゴールを目指してひたすら飛ばす。
全魔力を推進力に変換し、疾風のごとくゴールを目指して突き進む。
普通の妖怪であればあっという間に引き離せるであろう。
しかし流石は競妖専門の妖怪たち、魔理沙に劣らないスピードで後を追いかけてゆく。
「おいおいおい、これで未勝利の妖怪達なのかよ」
魔理沙は競妖妖怪のスピードに驚きながらも、2位とは約30メートルの差をつけて先頭を飛ぶ。
只ひたすら飛ばす直線のレース。途中でコーナーが無く、スピードのロスが少ないレースを選んだのもまた霊夢の作戦だった。
魔理沙は超高速でコーナーを曲がりながら飛んだ経験が無く、レース慣れしている妖怪たちと比べれば若干の不利があると考えたためだ。
「なかなか歯ごたえのあるやつらじゃないか、でも追いつかせるわけには行かないぜ」
魔理沙は自分の魔力に少々不安を抱きながらも、最高速度を維持しつつゴールを目指した。残りは800メートル。



「ちょっと序盤から飛ばしすぎてるけど、大丈夫かしら」
観客席から手に汗を握り締めながらレースを見つめる霊夢。魔理沙が負けた時、博麗神社の歴史も終わる。
「そのままそのまま…」
残り600メートルの地点で魔理沙のリードは約20メートル。安全圏にはすこし足りないが結構なリードだ。
魔理沙の挙動が少しだけ怪しくなっているものの、ゴールまでは十分もちそうだ。
このまま魔理沙が一着でゴールすればオッズは9倍、極貧状態から一気に脱出だ。
「行け逝け魔理沙ーーーー!!!」
少々血走っている霊夢の目に、嫌なものが入ってきた。最後尾からものすごい勢いで飛んでくる妖怪、一番人気イナバ45である。
「やばいっ!魔理沙加速しなさいっ!!」
ゴールまで残り400メートル。



「げげっ、なんだあいつは!」
丁度同じ頃に魔理沙もイナバ45の姿を確認した。力を温存していたのか先程までとは明らかにスピードが違う。
それに対してこちらはスタートから全力で飛ばしたため魔力切れが近い。
「ここからは気合だぜ」
魔理沙は必死でスピードを上げようとするが体が言うことを聞かない、じりじりと追いつかれ始めているのが分かる。
残り200メートル、魔理沙とイナバ45との差はすでに5メートルに縮まっている。
観客席からは「ウサギ抜け!」「黒いの踏ん張れ!」の声が沸き起こりゴールが近いことを魔理沙に知らせる。
歯を食いしばりスピードを維持する魔理沙、しかし残り100メートル地点で遂にイナバ45にあと1メートルのところまで追いつかれてしまった。
「きゃああああああ魔理沙ーーーー!!!!」
魔理沙より必死なのが霊夢だ。このレースは博麗霊夢一世一代の大勝負、魔理沙が負ければ全財産が紙くずになる。
観客の誰もがイナバ45の勝利を確信しかけていた。
しかしイナバ45も仕掛けどころが早かったのか先程までの勢いがなくなり、わずかに魔理沙がまだリードしている。
「負けるわけにはいかないぜ!」魔理沙も死力を振り絞りゴールを目指す。
逃げる魔理沙、追うイナバ45、一人と一匹のデッドヒートがゴールまで続く。
「ま゛り゛さ゛ーーーーーーッッ!!!」
「うおおおおおおおーーー!!!」
魔理沙とイナバ45は全く並んでゴールに飛び込んだ。決着は写真判定にもつれ込む。



「もうだめだ、精根つきはてたぜ…」
魔理沙はピクリとも動けない。全魔力を飛行に使ったのは初めてだ。
「         」
霊夢は真っ白に燃え尽きている。結果次第ではそのままこちらの世界へ戻ってくることは無いだろう。
待つこと3分「おおおっ」観客席がどよめく、結果が出たようだ。
「勝ったのか?負けたのか?」
着順掲示板を見た魔理沙、一着は私か、ウサギか?



一着は魔理沙、勝ちタイム1分3秒2は未勝利クラスのレコードタイムだった。
人間が競妖で勝利を収めたのは実に1年ぶりのことである。
「おめでとう霊夢さん、魔理沙が勝ちましたよ」
霊夢をあちらの世界から引き戻してくれたのは、あちらの世界の主でもある幽々子だった。
「ま、ま、ま」
だが完全には戻って来れなかったらしい、まだ霊夢の意識は朦朧としている。
「とりあえず勝妖投票券を換金してきなさい、盗まれないようにね」
「私のものは私のものー!!」
我に返った霊夢は先程の魔理沙並のスピードで換金窓口へすっとんでいく。
「ふふふ、おもしろいのが出てきたじゃないの」
幽々子は妖しい笑みを浮かべながら、自分の下僕たちを応援すべく自分の席へと戻っていった。






二人は朝日を浴びながら博麗神社へ戻ってきた。
「魔理沙、今日はうちでご馳走するわ」
「サンキュー、恩にきるぜ」
「恩に着るのは私のほうよ、これでしばらく生きていけるわ」
「私も結構いい臨時収入になったぜ。また挑戦してみるか」
「それはいいけど、今のままじゃ次のクラスで勝てないわよ」
「やってみなくちゃわからないぜ?」
「とりあえず今日は休みましょ、幻想郷最速を狙うのはそれからでも十分よ」
そういうと霊夢は台所に入っていった。
コタツにもぐりこんで丸くなった魔理沙は、疲労感と昨夜の素晴らしいレースの余韻に浸りつつ眠りについたのだった。

皆さんこんばんわ。
魔理沙が自慢の速さを生かせるのは、弾幕ごっこよりもレースじゃないか?ということで書いてみました。
すずめの涙ほどの賽銭を増やすために、ギャンブラー霊夢がんばってます!

4/14追記
思いのほか反響が大きかったので、第2レース発走が脳内決定しますた。
競馬知ってる人も結構多そうなので、ちょっとだけ設定公開
競馬の100m≒競妖の200mのつもりで書いてます。大体時速120kmで飛んでる計算。
オッズや人気は実際の競馬をベースに。単勝9倍はかなりオイシイです。
刺し身
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コメント



0.2860簡易評価
4.無評価七死削除
こんなに銭ゲバな霊夢もどうしたもんかとw?
12.30シゲル削除
ぜひ続きが見たいですね♪
15.60名前が無い程度の能力削除
ゆゆ様がオーナー、っていうのが、らしいですね。
金持ちお嬢の道楽って感じで。しかも、ちょっと悪役ッポクていい感じ。
やっぱ、妖夢とか出してるのかな。永夜じゃ結構早かったし。
上位クラスには橙とかもいそう。
つか、れみりゃ本人出てたり。
芋夢想でのダッシュは異常だからな~ 永夜でも、ボムで加速するし。

……門番(の名前)の扱いについてはノーコメント(笑
20.50名前が無い程度の能力削除
狂った霊夢に激しくワロタw
これは続きものなのでしょうか。ぜひ続いて欲しいものです
21.60名前ガの兎削除
ヤバイ!
この題材、化けそうだ
24.50名前が無い程度の能力削除
う、ウイ○ングポスト!?
んや、走る方だからむしろファイ○ルハロンか!?

っていうか霊夢……ギャンブルじゃお金は増えないんだよ(合掌
25.無評価東方が大好きな程度の能力削除
おもしろい
つづきがみたい
26.70名前が無い程度の能力削除
続編に期待して入点。
30.60名無し削除
素敵。
そしてどんどんイメージが変わっていく霊夢。
56.70名前が無い程度の能力削除
続編待ち♪
74.90名前が無い程度の能力削除
れいむがきゃああああとかwwwwww