Coolier - 新生・東方創想話

門番な日々

2005/04/12 03:58:34
最終更新
サイズ
19.06KB
ページ数
1
閲覧数
1352
評価数
1/64
POINT
2710
Rate
8.42
私の名前は紅 美鈴。決してどこぞの国名なんかじゃない。

今日も今日とて、自分の後ろに聳え立つ大きなお邸、そして自分の職場(なんだろうか)でもあるこの「紅魔館」の門番をしている…のだろうか。
やっぱり今日もこの門を通って入る者など現れる訳が無く、色々と下らない事を考えてしまう。

「あ~あ…お腹すいたなぁ…今日でご飯抜き何日目だろう?でも昨日神社に行って味のりわけてもらったから、正確には抜きじゃないかも
…いや、あれは一昨日だったかな?」

心でそう呟きながら、私は大きな門の左側、丁度「紅魔館」と記された札の下辺りにさっきまで片手で持っていた矛を立て、自分は座った。
いつも見慣れた風景や自然の演出。体と耳をやさしくくすぐる心地良い風、どこまでも行けるかのように連なった木々、手を伸ばして届いたとしても到底抱え切れそうに無い雲、先に何やら荷物をぶら提げて飛んでいく黒い影を映し出す、青々とした大きな空…。

…黒い影?

「あぁ!」と言うのも飽きたのでやめた。
今日もあの魔法使いが図書館から本を盗って(本人曰く借りて)行ったんだろう…。
それにしてもよくこの場から荷物があるのを確認出来たなと我ながら思う。やはりいつも遠くを眺めてるから視力は良かったりするのかもしれない。

そんな事を思っていたらもうあの黒い影の正体、霧雨 魔理沙はとっくに見えなくなっていた。
第一あんな上空ではもはや門番が門を番していても防ぎ様が無いじゃないか。自分はちゃんと門を見張ってたわけだし…。
…しかし自分は空も飛べるし、それなりに力を出せば十分追い払えるぐらいは出来た筈、どう考えても自分が悪かった。

「はぁ…今日も咲夜さんに怒られる…今日だとあのパターンの台詞かなぁ。」
昨日も今日も自分は役に立てなくて、なんで自分なんかが門番をやっているのかと思えた。
ほんとうにこんな毎日でいいのかなぁ…途端に力が抜ける。
…明日も……明後日も………明々後日も…………。










――――――――――

…ふと気が付けば私は目をつむっていた。
長い時間首が下を向いていのだろうか、頭がモヤモヤする。
どうやら眠ってしまったというのはぼんやり理解できたが、どうも起き上がる力が出ない。
しかしこのままだと明日所か今日の自分の存在が危ぶまれたので、自分は門に立ててあった矛を持とうとした…。

「…あれ?」

…どうも握り具合がおかしい。それは長い間使ってきたからこそ思える意思。
ふと見れば、先の鋭利な刃は不気味にもそのままの形で真茶色に錆びつき、自分の手に視線を向ければ、柄は緑色にしか見えない程にコケが湿っていた。
「いやぁっ!」
思わず変な声を出してしまった。手はべっとり汚れてしまい、手でおもいっきり叩いてから、服を汚したくないので周りに生い茂る大量の雑草を布巾代わりに自分の手を乾かせるぐらいに拭いた。

…雑草?

どうもおかしい、この門の前にはこんなに草は生えていない筈…いや、それより今疑わしいのは…。

「ここってやっぱり…」

見たくなかった、そして信じたくなかったけど、恐る恐る私は視線を上にやると、そこにはやっと読める位に古ぼけた字が確認出来た。


紅魔館


「そ…そんな…」
どうやら自分は100年以上眠っていたようだ!と思えばまるで物語のようだが、その状況が自分に来るなんて思った筈も無かった。
しかし、ここは幻想郷。到底人間界でいう「常識」というものなど存在しない。どうせまた変な妖怪が私をからかっているのだろう。
なんせ自分も妖怪だから、こんな事では動じない、その辺でも散歩して時間を潰せばすぐに戻るだろうと思ったので、私は道といえる道を歩き始めた。

―――――そうやって、自分を必死に励ましながら。


…辺りには木だの草だのが繁茂しているのに、なぜか自分には色彩が感じられない。
空は鼠色、雲は動きが止まっている。聞こえるのは…何も無い。自分の足音すら聞こえない。世界の全てが抜け殻になっていた。
気が付けば、もうそこは道なんかではなくなっている程の荒れた場所を歩いている。
「…あれは…」
足が止まった。
どうにもそれは自然では想定出来ない、人工的な形をしたものが目に飛び込んできた。
近寄るとどうにも木製らしいが、まるで柱を組み合わせるようにして形が出来ている………この形は……。
「これって鳥居?」
その前を見れば、遠くでは木々と同化していて分からなかったのであろう、本堂らしき建物が見えた。
「いや、でも博麗神社は階段の上に鳥居がある筈…だったよね?」
誰もいないからそう自分に尋ねた。でも、今ここまで来た道も時間もよく覚えていない…もしかしたら階段らしきものがあったかもしれない。
とりあえず私は、まだ原型を留めている本堂の中へ、居ないとは思うがあの巫女が少し気になるので足を運んでみた。

―――――本当は、とても心細かったから。


中は以外に状態が良かったが、やはり断然に老朽化している。
軋みより、廊下に張り付くような嫌な感覚が気になってしょうがない。
ここは以前に何回かあがったので構造は覚えていたが、その構造とこの古ぼけた神社が一致すると、分かってはいてもやはり………。
…ふと、気が付けば目の前の障子が足を一旦止めた。
この障子は…間違いない、いつもだとこの向こうには、とても神様に顔向け出来ないぐぅたらとした格好で寛ぐ巫女、博麗 霊夢の居る居間だ。
しかし、どうにも今までの事を振り返ると、やはりこの障子の向こうにあの巫女は居ないとしか考え様がない。
そもそも私は何をしてるんだろう?ただ宛も無く歩けばその内この世界が戻るだなんて…大体自分は紅魔館の門に居なくてはいけない身。
このままこの変な世界が戻れば、勝手に番をサボったと疑われ、まんまと変な妖怪の思う壺ではないか。あぁ…また私という人は。
こんな事をしている場合ではない。この世界が戻る前に早く紅魔館に帰らないと……。


―――――何を言ってるの?


―――――自分独りでは何も出来ないくせに。


―――――どうせあの巫女が居ないのを知るのが恐いんでしょ?


……誰?………誰なの?
さっきから文句をつけてるのは…そいつがこの世界を私にみせている妖怪?
姿もみせないで全く卑怯にも程がある。いい加減にして欲しい。


―――――この弱虫。役立たず。


―――――独りが恐いのか。


「あぁ!もう!」
段々腹が立ってきた。もうこんな妖怪は無視して紅魔館に帰ろう。
足早に私は本堂を抜け出した。外の空気と室内の空気の違いが分からなかった。
そしてこの怒りをぶつけるかのように、私は鳥居を後ろ足で蹴飛ばして勢いよく風に乗った。
そもそも何でわざわざ歩いていたりしたんだろう…そんな事にもいちいち腹が立ってしまう。


―――――館に戻っても無駄だ。どうせ何も変わりはしない。


…うるさい。


―――――お前はずっと独りだ。


……うるさいったら…。


―――――独りだ。


………もうやめて……。


―――――独りだ。独りだ。


…………やめて……私を独りにしないで………。


―――――独りだ。独りだ。独りだ。


「くぅ…ッ」
体が一気に熱くなった。顔に吹きかかる風で涙を手で拭わなくて済んだ。
早く…早く帰らないと。もう叱られても何でもいい、誰か自分を相手にして欲しい。
顔を横に向けると、風の音が少し弱まる。果たしてこんなに歩いていのだろうか…急いでも急いでも目的地が見えない。
そう思うと今度は急激に悪寒が襲った。

早く………早く私を…………叱ってください……………咲夜さん……………。










――――――――――

………あれは……いつの頃だったろう。
無限に広がる虚空を切り開くかのごとく速く、しかし私は静かに思った。

なんで私は紅魔館の門番になったんだろう

……
………あれは……いつもが変わらなかった昼下り。

「美鈴、ちょっと表に出てお客様をお迎えしてくれる?」
「え~、お手伝いさんにやらせれば?」
「あいにく今買出し中よ」
私の家はどうも裕福だったらしいが、生まれつきの環境なので実感はない。
欲しい物は何でも恵んでもらい、親は忙しいにも関わらず、私に愛情を与えてくれた。

私はトテトテと貝の中身のような形をした階段を下りきる。
長い廊下を進めば目の前に玄関。扉を開ければ、まるで目を驚かして楽しむかの様な、いたずらな日光が迎えた。
「うぅん……あぁ」
伸びをしながら私は門の前まで歩み寄る。
そこには決して部屋からでは味わえない、とにかく凄いとしか感想が出ないような世界があった。
空はどこまでも広がり、それと競うかのように木々も広がる。
ちょっと頭を傾けて空の位置を下にして見る。するとまるで天空にいるような気分になり、そのまま吸い込まれそうだ。
「まだお客さん来ないみたい…」
少し短気だが、わざわざ出迎えに行かせる程だからそんなに時間は掛からない筈。
「…ちょっと時間でも潰そう」
目の前の森が口を開けている。あまり一人で外に出た事がなかったから興味が沸く。何だか分からないけど何か見つかるかも。

…そんな、ちょっとした好奇心。

左右の道の彼方を確認してみるが、人影は無い。
ほんの少し、ほんの少しだけその場に行って見たかっただけ。
本当に、ほんの少しだけだった。

――――――――――

……やはり目に入るのは緑しかない。中途半端な気持ちで足を踏み込んだのが少し恥ずかしくなったので、私は早々と門に戻ることにした。

「…あれ?」

…確かこの倒れた木はさっき見た。でも、なんだか違和感がある。
自分はあっちの方角から来た…でもどうしてこんな風景が出てくるんだ?
少し汗が出た。体に気持ち悪い感覚が走る。そんな一瞬の不安。
だが、というの一瞬。少し道と格闘はしたが、すぐに見慣れた我が家が見えた。
「もうお客さん来ちゃったかなぁ?」
門から離れた時間からすると、もう既に来てしまってもおかしくない、むしろとっくに来ているような時間になっていると思った。
またまた面倒な事をしてしまった…ちょっと家に入って確認してみよう。来てなかったらいいけど。
スタスタと坂を駆け上り、この足取りでそのまま一旦家に戻った。

ガラン。ただいまとは言わずに扉をこっそり開ける。
もし、もう上がっていたらどうしよう…まだ来てなかったらそれで助かるけど、早くまた出迎えに行かないと。
そんな焦りが頭を回転する。でもこっそりと、長い廊下、階段、なぜか気配を出してはいけないような感じがして、ゆっくりと部屋まで向かう。
そのせいで無駄に長ったらしく感じ、余計に焦った。
我慢できず最後辺りはたったと階段を2段飛ばしにして、部屋のドアまでたどり着いた。

そしてこっそり。

「おかぁさぁん…?」

ドアを。

「………」

開けた。

「………お母さん!?」

床には様々な物と言える物が散乱し、違う所に来てしまったような錯覚。
うつ伏せに倒れる母の右には、カーペットに染み込んだ血痕。
「やめて!ねぇ変な真似しないでよ!!」
騒がないと気が済まない状況の中、首筋に冷たく、しかし熱い感覚が走る。

「撃つぞ」


……
………お前…か………私の……ワタシノッ!!…………―――――

刹那、自分の周りに散乱した物は轟音を響かせ部屋中を暴れ、窓ガラスが破片も残らず消し飛び、家が悲鳴を上げる。

何が起きたのか分からなかった、何が起こっていたのか分からなかった。

そして次の瞬間、私は人間ではなくなった。

――――――――――



……

………人間が……憎かった。
自分の全てを奪い去った…あの人間が…。
…そして…親を守る事が出来なかった…「自分」という存在が…憎かった…にくかった…ニクカッタ…。

自分はまたあの森を彷徨っていた。宛も無く。
…気が付けば、大きな湖にでた。
「ハァ…ハァ…グッ…ゥアァ……」
自分には何も感じられなかった。
今まで歩んできた道のりも、この湖を目の前にしたのも。
そして、ここは何処であるかと言う事も。
……私が…どんな存在であるかと言う事も…。



……

………

「…あなた…妖怪?」

…………誰?

「珍しいわね、そんなとこで寝てると共食いされるわよ。早く館へいらっしゃい。茶の一杯でもご馳走してあげる」

…………館…………。

………。

「……私を……」

「何?」

「………私を……その館の番に使って下さい」










――――――――――

「咲夜さん!!」
門の前まできたら飛ぶのをやめて走った。
横には、無造作に放り出されたままの……刃は錆つき、柄はコケ塗れの矛。
走りながら…また悪寒が襲う。
しかし、私はあの日決めたんだった。
守りたいものを守れなかった…あの屈辱を打ち消すため。
絶対に今度は守ってみせる…と。

館は跡形も無かった。
長年住んできた感さえも、役に立たない程に。
あたりを見回せば、大きな塊があちらこちらに突き刺さっているだけだ。
断面からは骨組みが剥きだしになり、今にも折れそうである。

……だがその事は自分が身構えるよりも反則的に早く襲い掛かってきた。

「………!!!!」

声が一瞬出なくなった。
それはあの時と同じ、うつ伏せに倒れていた。
「咲夜さん!」
無我夢中で体を揺すると、既に血の気の無い、十六夜 咲夜の顔が露になった。


―――――また守る事が出来なかったか。


………また守れなかった。


―――――またお前は独りだ。


………また私は独りだった。


―――――お前は誰からも愛されない。


……いや……


―――――お前は


いや………


―――――


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」










――――――――――

「…りん」

……。

「…いりん、美鈴!」

「……ぁ…」

体は汗でびっしょりと濡れ、服に張り付いていた。
横には、長年使ってきて手入れの行届いた矛。
上には、黄土色に輝く三文字。

そして前には、黄昏時の夕日を背に、いつもの眉間にしわを寄せた顔が逆光にも関わらず確認できた。

「門番たる者が平気で居眠りなんて勇気があるわね。その勇気を違う意味で使えないものかしら?」

「………」

「そんな事ではこの紅魔館を守っているなんて絶対言えないわね。まぁいつもの事だけど、今日は特に」

……。

「………ります」

「聞こえないわ」

「守ります!私、絶対にこの紅魔館を守り抜いて見せます!!」










――――――――――

波紋の一つもない、まるで凍っているかのような湖。
辺りは霧に支配され、世界は青の濃淡のみで形成されている。
だが、その「世界」の中にポツリと、対抗的な色の館。
赤く、いや紅く、一際存在感を惹きたてるその館にも朝がやって来た。
「おはようございます、咲夜さん」
「随分と早いのね」
「はい、侵入者に備えて警備です」
「…そう」
それはいつもの……いや、今日だけちょっと特別な朝の言葉のやりとり。
今日はあのぐぅたらな門番がどうもおかしい。
いつもは門の前で退屈そうな顔をしていたのが、今では背筋をぴんと伸ばし、その面影はまさに門番。
「なんだか気分が変だけど…頑張りなさい」
「はい」
…やはりどうもおかしい。
いつもの返事は語尾に小さい「つ」が付くぐらいの無邪気な返事が……誰かに操られてない?

そんなやりとりを、ミカエル像の如く館の最上で立ち見する…紅く小さな影。
永遠に幼き月、レミリア・スカーレットは誰かの秘密でも聞いたかのような笑みをかもし出す。
「…………」
それは本物の像のように、ピクリとも動かない。
全てを知って満足したのかのように……だが次の瞬間、像は少し動いた。
「っくしゅ!…」
……やはりまだ永遠に幼いという肩書はとれそうにない。

........

いつもの風。いつものさえずり。いつもの背景。
しかし今日は一つだけいつもと違う。
右手は腰に、左手には矛を持った明らかに浮いた人物。
丁度この時間帯だとあの夢をみた頃。辺りにはいつもと同じ自然の演出。
だがそんな事には一切気を傾けず、紅 美鈴は侵入者に対して今まさに完全警戒体制だ。

陰影の凄まじい雲に負けない程の存在感をもつ空の青の中、持ち前の視力でそれを確認。
…侵入者が早速やってきた。ちなみに黒い。
「丁度いい…」
体中の気を右手に送り込む…。
私はあの影に向けて一発気弾を放つと、辺りのさえずりの主が一斉に飛び去った。
弾道に接する地は一瞬激しい砂嵐を立て、そして一瞬にして弾は空の彼方に消える。
すると黒い影は見えなくなった……と思いきや、気が付けばすぐ上空に影ではなく姿で確認できた。
「今日は威勢がいいな。給料でも上がったか?」
よっ、という声と共に、霧雨 魔理沙は箒から大地に身を移した。
「あんた速過ぎるのよ…」
「その速さはこの館の門の強行突破には実に勿体無いな」
「どういう意味だか知らないけど…ここは通さない」
眼を見開き、矛を構えた。
「おいおい、今日はこの本をアイツにわざわざ返しに来たんだぜ?一年と4ヶ月振りに」
「門番として、根拠の無い言い訳と小道具を出したって騙されないわ」
「門番?お前には子供の秘密基地の合言葉確認の係がやっとじゃないか?」
…カチンと来た。
今日の自分は一味も二味も違うという事をみせてやる。
矛がどうも不要に思えたので、おもいっきり地面に投げて突き刺した。
すると魔理沙はニヤニヤと、黙って戦闘態勢に入る。
「………」
「………!」
しばらくの沈黙の後、目が合ったと同時に両者は一緒に地面を蹴り上げ、高々と天に舞い上がった。
「いくぜ!」
「いくわよ!」
その瞬間、空は無数の光に包まれた。
昼にも関わらず星が舞い、そして弾ける。
鮮やかな赤、緑、黄の結晶が踊り、そして散る。
何色ものグラデーションが混じりあい、残像は空の色さえも変え、それは決して絶えなかった。
美鈴はその空の中、懐の符を取り出す。
「彩符『極彩颱風』!」
主は激しく発光した後、周りの結晶が意思をもったかのような動きで一斉に散らばる。

あの侵入者を何としても追い返す…いや、堕とすのだ。
もう絶対にあんな事は二度と起こしてはいけない。
必ず…守り抜いてみせる。

「あまり初っ端から疲れても私は知らないがな」
空中に舞う紙切れのような不快な動きで魔理沙は呟く。
「そろそろやるぜ。恋符!…」
その宣言は強引にカットされた。
目の前に殺意を秘めた表情で美鈴が強引に乗り出したからだ。
「ハァッ!」
右手の拳から本気で気弾を撃った。相手を確実に仕留める為。
その瞬間、爆音と共に衝撃波が起こる。
目を開けていられなかったので、何が起こったかは正確にはわからなかった。
「とった…」
耳鳴りでクラクラする中、ゆっくりではない速度で目を開けた。
…が、自分で煙幕を張ってしまった様で、その姿は確認できない。帽子も残らず逃げられてしまった。

…これでよかったのか?

…自分はこれで紅魔館を守れたのか?

辺りの背景が確認出来る程になっても、広い上空で一人静止している。
そんな門番を暫くの間、地上の門で腕を組みながら完全で瀟洒な従者はぼんやりと眺めていた。










――――――――――

夜が降りてくる。
朝の支配者であった霧は、その座を闇に交代した。
ほのかにまだ青い世界の中、対抗的な紅い月。そしてもう一つが、この館。
二つのアクセントは、さらに大きく存在感を増していく。

それにしても今日はどうも時間の流れが早い気がする。
警備以外の事での考え事はそれ程度しかない、眠気の一つも感じず美鈴は侵入者に対して万全だ。
…すると、何やら自分以外の存在の気配が全身を駆け巡る。
「誰だ!」
「私よ」
即答されたので少し慌てふためいた。
後を振り返れば、そこには私の守るべき人。
「美鈴、ちょっと話があるから来なさい」
「で、でも咲夜さん、まだ夜でも警備は…」


..
...
....

「…あ、あれ?」
本当に慌てた。
気が付けば先程の闇からは開放され、光に包まれている。
そこは門ではなく明らかに紅魔館内の部屋。
自分は椅子に座り、目の前にはティーカップが二つ。
ふと横の存在感に振り向けば、そこには目の前のティーカップに紅茶を注ぐ十六夜 咲夜の姿がった。
そしてもう一つ、エプロンのポケットから懐中時計が見えたのを確認。
という事は………あまり深く考えないようにした。
「はいどうぞ」
「…ど、どうも」
紅茶を注ぎ終わった咲夜は美鈴の隣に座り、ティーカップに口を少し付けてから小さく息をした。
「………」
「………」
また時間でも止められたのかと思うような沈黙。
美鈴はどうしてもティーカップに手を伸ばす事が出来ず、ただ下にうつむいていた。
「………最近何かあったの?」
どれだけ続いたか分からなかった沈黙を、やっと打ち消した発言。
美鈴はとっさに顔を上げて答える。
「そっそんなことは!…」
「………」
咲夜は急な大声にも動じず表情を固め、ただ黙って聞いていた。
…またしても、沈黙。

........

「…夢?」
「はい…私のせいで…咲夜さんが…」
「まぁ別に私はそんなに弱くないけどね」
美鈴にとっては凄く深刻な事を、咲夜はあっさりと片付け、再び紅茶に口をつけた。
さっきから美鈴は一度も紅茶に手は付けていない。
すると段々目が曇ってきた。
「美鈴、あなたはどうして紅魔館の門番になりたかったのかしら?」
「それはっ!……守り…たかったから…」
「誰のために?」
「ぇ………」


―――――そうだった。

―――――私は誰かを守りたい。

―――――そんな気持ちでこの門番をしていた筈だった。

―――――でもそれは違っていた。

「………それは」

―――――自分のためだった。

―――――独りになるのが恐かった。

―――――あの時の悲しみが。

―――――凄く恐かったんだ。


咲夜は最初から全てを察していたかのような表情をしていた。
どうしても我慢出来ずに手を震えさせ、一生懸命に声を殺そうとしている美鈴を横に。

そして、そっと、ゆっくりと、美鈴を胸で抱いた。

「美鈴、私以外にだって、お嬢様やフラン様、パチュリー様もいるのよ」

…………

「あなたが守りたいと思っていれば、それは私たちも一緒」

…………う

「こんだけあなたも思われていれば、その分答えてあげるのよ」

…………うぅ…

「門番としてね」

…………とうとう我慢出来なくなった。
もう、今夜だけ、本当に今夜だけ。
そう思いながら私は、全てを搾り出すように。
体が壊れるぐらいに。
この大切なものに包まれているのを実感しながら。
泣いた。










――――――――――

私の名前は紅 美鈴。決してどこぞの国名なんかじゃない。

今日も今日とて、自分の後ろに聳え立つ大きなお邸、そして自分の居場所であるこの「紅魔館」の門番をしている。そう、キッパリと言える。

―――――だって

「うぅん…」

―――――だって、こんなにも守りたい

「あぁ…」

―――――いや、大切にしたいものが沢山あるんだから。



「よーし!今日も頑張ろう!」




伸びをする私を背に、今日も空から黒い影が門を過ぎていった。




はじめまして そしてごめんなさい。
さて、私は誰でしょう?←電波

えっと、初投稿です。
実は自分はあまり小説を書かない身で、この話は絵の構図を練っていたらその場面のイメージから話が生まれたんです。寝る前に。考えれば今回が初めて書くお話かもしれませんね…。

最後にこの小説(?)を最後まで読んで下さった皆様、大変感謝感激です。
EDは ♪上海紅茶館 ~ Chinese Tea っつことで。
えぞ天ぐ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2640簡易評価
27.70名前が無い程度の能力削除
う~ン・・・ こういうのじわじわっと心に染み渡ります。
咲夜さんナイフ投げた~ 中国の額に刺さった~
みたいなのも好きですが、こんなシリアスなカップリングも大好きです。
最萌トップ2伊達じゃないです。萌え