Coolier - 新生・東方創想話

ひとつの境界

2005/04/05 11:14:36
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 ……早朝、銀嶺から差し込む陽光に、彼女は目を覚ました。
 そして、それに気づいたのは自分が最初だという直感を得たので、彼女は天を翔けた。





「お前いい加減コタツ片付けろよ」
「そう思うなら入らないでよ、狭っ苦しいじゃない」
「いいだろ寒いんだから」
「じゃあ片付けなくてもいいでしょうに」
「お前そう言って、去年は梅雨過ぎまで出しっぱなしだっただろ。こういうのは思い立った時にやるのがいいんだよ」
「何がアレだって、魔理沙に片付けのことで説教されたくはないわね」
「あー? あれは一見ただ散らかしてるように見えて、実は綿密に計算された使いやすさがだな」
「嘘でしょ」
「嘘だな」
「…………」
「…………」
「……それにしても」
「?」
「今日はあったかいわね」
「そうか? 昨日と変わらない気がするが」
「うーん、なんか違うような気がするんだけどなあ」
「ふうん。まあお前がそう言うならそうなんだろうな……と」
「どうかした?」
「ほら、あれ見ろよ霊夢……マンサクだ」
「ああ、あれマンサクって言うの? 昨日は咲いてなかったわ」
「お前な……自分ちの境内に咲く花の名前くらい知ってろよ。まず一番に咲くからマンサクだぜ。さっきはこのことを言ってたわけだな」
「何が?」
「……まあいいか。……で、そこのお前は何の用だ?」
「ちょっと魔理沙、私の家なんだからそれは私が言うべきでしょ」
「じゃあ早く言えばよかっただろ」
「今言おうと思ってたのよ。……は? ああ、そうね、言われてみれば」
「わざわざそんなこと言いに来たのか? ……まあ、そりゃそうだが。だがこいつに言っても意味ないぜ。なんせ年中頭がぬくいからな」
「どういう意味よそれ」
「誉めてるんだぜ」
「嘘でしょ」
「嘘だな」
「…………」
「…………」
「まあ決着はいずれつけるとして、あんたももっとやりがいのあるところ行ったら? ……え、例えば? ……そうねえ、あそこなんかいいんじゃない? 行き方は知らないけど」
「寝てるんじゃないのか?」
「そろそろ起きるんじゃない……境界を過ぎたんなら」





「ん……んん~……ふぁ……あ~あ。
 なんだまだ昼にもなってないじゃないの。早く起きすぎたわ。
 なんだか空気が鋭いわね。冷気が通った後みたいね。
 らーん、ちょっと来なさーい。
 …………
 いないのかしら。
 ……また橙と遊んでるのね。昔はもっと主思いの子だったのにねぇ。今じゃすっかり子煩悩の親ばかだわ。
 そこの人、せっかくだから藍の面白エピソードを聞いていかない? どれくらい前だったか、そこの霊気入れで見た奇術師のショウに感動して自分もやろうとしたはいいけれど、失敗してなぜか全裸に……
 え、いい? あらそう。これから面白くなるのに。
 ふぁ……まだ寝たりないわ。今年は少し早いんじゃないの?
 去年が遅かった? そう言えばそうだったわね。
 境界をずらしましょうか。
 眠いんですもの。
 …………
 冗談よ。
 そんな顔しないで頂戴な。
 自然の理を曲げるのはよくないこと。
 ……あら、信じられないって目ね。そんなことしたら、そこの椿も困るでしょう?
 私は幻想郷と共にあるのよ。あなたも私も、幻想の境に生きる者。わかるかしら?
 ふふふ。
 藍も帰ってこないし、起きることにしましょう。
 ああ……次の目標が決まってないなら……あそこはここより暖かいわよ。多分。
 行ってみたらどうかしら?」





「妖夢、よーうむー」
「なんですか? また西行妖を咲かせようって話でしたら嫌ですよ」
「違うわよ。話も聞かずに頭ごなしに否定するなんて。妖夢ったらいつからそんなにスレてしまったのかしら。私は悲しいわ。よよよ」
「幽々子様、口でよよよなんて言ってる時点で説得力が皆無です」
「ふ、まだまだね、妖夢」
「何がですかっ!?」
「知りたい?」
「はい」
「仕方ないわね。いい? 今の会話の中から、主の隠された深い悲しみを敏感に感じ取ってこそ真の従者というものよ」
「はあ、そんな従者が存在するなら見てみたいものですが……それで、その悲しみとやらはなんなのですか?」
「妖夢、お昼ごはんまだ?」
「…………花より団子、ですか?」
「わかってないわねえ。花と団子、よ。私くらいともなると花と団子の両方を同時に愛でることができるのだわ。妖夢、覚えておきなさい」
「はあ……にしても、急に咲きましたね。毎年のことですが驚きます」
「この子達は敏感なのよ。生命が無い分、こういった類の変化にはね」
「……そういうものなのですか。ですが、よくわかりません」
「なにがかしら?」
「この木々は死んでいるのに……どうして生きている木と同じように咲こうとするのでしょうか?」
「妖夢、亡霊というのは儚いのよ。だから生前の習慣にしがみつくの」
「そうですか? 生者のほうがよっぽど儚いような気がしますが……」
「妖夢も後半分死ねばわかるようになるわ」
「いえ、私はあまり死にたくは……って、あ」
「…………」
「…………」
「……妖夢」
「……はい」
「焦げ臭い」
「あぁ~~~っ!」
「……全く騒がしいわ。妖夢に任せていたら花も団子も駄目にしてしまいそうね。……そういうわけでそこのあなた。ここにあるのは死者と半幽霊と妖怪桜だけだから、あなたが探してるものはたぶんないわよ。行くならもっと活きのいいところに行きなさいな。絶対に死なない人なんていいんじゃない?」





「……それで、私のところに来た、と。
 その亡霊が言ったのは多分私のことじゃないと思うんだけど、まあいいわ。
 ここにはあまりお客が来ないから、暇なのよ。
 今日はあなたで二人目。来たと思ったらすぐに行ってしまったのだけど。水色の髪の子だったわ。
 イナバ、客人よ、お茶を入れて頂戴。冷茶でね。
 ……さて、用件は何と何だったかしら?
 ……なるほどね。
 去年も似たようなことを言われたわ。
 一昨年も、一昨々年も、その前も、その前も、その前も……
 どれくらいの月日だったかしら。
 これくらい長く生きていると、少しわからなくなるのよ。
 あなたは、去年と今年は違うと思う?
 ええ、そりゃあ違うでしょうね。人の世は移り変わるもの。
 でも私は変わらない。
 私が変わらないなら、私の世界だって変わらないのよ。
 だから……あなたがそれを私に告げても、私には関係ないんだわ。
 ……ああ、お茶が入ったようね。ありがとう、行っていいわよ。……粗茶ですが、どうぞ。
 …………
 あら?
 あなたの、肩……そう、それ。
 珍しいわね。
 稲? 違うわよ。
 これは竹の花。120年に一度だけ咲くの。
 一斉に咲き誇って、一斉に枯れるのよ。
 …………
 なよ竹のかぐや姫、か……
 どうも最近は昔を思い出させるようなことが多いわね。
 ……あら、もう行くの? もっと居てくれてもよかったのに。
 そうそう、もうひとつの用件のことだけど。
 ああ、私は知らないわよ。でも、そういうことは案外その辺の小妖のほうが詳しいんじゃない? 聞いてみたら?
 さようなら、またいずれ会いましょう。
 ……あ、永琳、今日のところは妹紅を殺しに行くの、やめにするわ。そう、竹に免じて」





「ちょっとくらいいいじゃない」
「駄目だってば」
「冬場は食べるものが少ないから大変なのよー」
「そんなこと言ったら私だって大変だー!」
「なんなら、あんた自身でもいいんだけど……ちょっとこう、その触角とか、ズボンとか」
「ひぇぇ! なに言ってるのよー! ていうかズボンって何!?」
「食べて食べられないことも無いかな、と」
「食べれないわよ! 下半身なにもはいてない私なんか見て楽しいか? 楽しいか!?」
「楽しくない。そういうわけで触角のほうを……」
「いやいくら鳥だからってむやみに蟲を食べるな! いや百歩譲って食べていいとしても、ひとの使い魔を食べようとするなー!」
「だから食べるものが無いんだって」
「人間でも食べればいいじゃない」
「いや、それが去年の秋以来なぜか失敗続きで」
「なんでよ」
「さあ」
「とにかく、私だって冬は大変なんだから。ほか当たってよ、ほか」
「……ところで、あんたって普段なに食べてんの? やっぱり樹液とか?」
「カブトムシじゃないんだから」
「じゃあ花の蜜? そこに咲いてるやつとか」
「蜂でもないわよ! 花いっこの蜜吸って栄養補給できるなら経済的にもほどがあるわ!」
「じゃあ……っと。あなた誰?」
「……ふーん。それって今日から?」
「でも、今日からそうだとしても、突然果物が生ったりするわけじゃないし」
「知ってても意味が無いかなあ」
「え、突然花が咲いたり果物が生ったりする場所を知ってる? ……あの世?」
「さすがに死ぬのはなぁ……いや、死なないのに行けるならあの世じゃないじゃない」
「用ってそれだけなの? ……え? うーん。知ってる?」
「知らない。あ、そういえば関係ないけど朝からチルノがなんか探してたなぁ」
「あ、私もさっき見たわ。じゃあ朝からずっと探してるのかな?」
「ん? あ、ごめんごめん。そういうわけで私たちは知らないよ。知ってそうな人?」
「そうねえ、森の外れに変な人間が住んでるんだけど、いろいろ変なもの持ってるから変なことも知ってるんじゃないの?」
「ふうん、そんな人間がいるんだ」
「いるの。それで話を戻すけど、やっぱり一匹ぐらいなら……」
「駄目ったら駄目!」





「ああ、申し訳ないが今日はもう店じまいですよ。もうすぐ日が落ちる。
 ……ええ、ごもっともです。あまり商売っ気はありません。よくからかわれますよ。
 そして……どうやらあなたも、品物ではなく僕に用がおありと見える。
 性質というか、体質なんですかね。色々な方がここに来ますが、お客は来ないんですよ、なぜか。
 品揃えの問題、ですか?
 それなら、なかなか面白いものがそろっていると自負しているんですが。
 例えばこれ、見てください。
 綺麗に咲いているでしょう?
 でもよく見ると……花ではない。造花というのだそうです。作り物の、偽物の花です。
 世話の必要が無いし、枯れることもない。
 え、気味が悪い? そうですか……
 便利だと思うんですが。
 ……ところで、ご用件はなんでしょうか?
 ……?
 あ、いえ、どうもそういった変化には疎くて。
 そうなんですか?
 はあ。
 …………
 あ、それだけ。
 ああいえいえ、他意はないです。ちょっと拍子抜けしただけで。
 もうそんな時期ですか……このストーブもそろそろ片付ける頃合かな。
 これらですか? 拾い物ですよ。こういうものがよく落ちてる場所がありましてね。この造花も今日拾ってきたものです。
 妖精のような子と鉢合わせたりもしましたが、同業者ではなかったようで……
 え、その子ですか? ……いえ、透き通った羽が生えていて……ああ、でも帰り道にその人も見ましたよ。
 眠っているようでしたが。
 ……お役に立てましたか? できれば次はお客としてもおいでください。ま、そうでなくとも構いませんが」





「ここにいたのね。探したわ。ぎりぎりセーフ、って所ね。
 まったく、最初に起きるべきはあなたでしょう。
 でもおあいにく様、私のほうが先に起きたから、気まぐれにあなたの仕事を少しやらせてもらったわよ。
 こう言ってはなんだけど、つまらない仕事ね。誰も感謝してくれない。
 考えてみれば当然ね。
 日々に意味を求める人間や、
 世界と共にある監視者や、
 生者より死を恐れる死者や、
 退屈をもてあそぶ暇人や、
 日常をせわしく生きる妖怪や、
 果ては人間なのかそうなのかすらよくわからない人。
 絶対的な境界とは別に、みんなそれぞれ自分の境界を持っている。
 私やあなたがどうこう言ったところでだからどうした、って話なんだわ。
 でもきっとあなたは、それでいい、って言うんでしょうね。
 …………
 チルノには悪いことをしたかしら。
 …………
 みんな色々あるのよねぇ。
 当たり前か。
 ああ、やっぱりあなたの仕事は必要だわ。
 ……早く起きなさい。あなたが起きないと、冬が終わらないじゃない。私はそれでもいいんだけど。
 嘘よ。
 ほら、起きなさいってば。起きて私の続き、しなさいな」





 夕刻、山の端から漏れる陽光に、私は目を覚ましました。
 一瞬、冷やりとした風が頬をなで、去年の嫌な思い出が脳裏をよぎったのですが、周囲を見る限り、どうやらいつも通りのようで安心です。
 辺りには誰もいません。私は誰か見つけようとして起き上がろうとしましたが、その時何かが私のお腹の上から滑り落ちました。
 拾い上げたそれは、十字を変形させたような、ちょっと変わったブローチでした。なんとなく記憶にあるような気はするんですが、よく思い出せません。
 ここに誰かいたのでしょうか。
 私はなぜかこのブローチに愛着みたいなものを感じて、少し迷いましたがそれを胸につけました。
 そして改めて出発しようとすると、右手の藪ががさがさと音を立て、女の子が顔を出しました。
「あ、チルノさん、こんにちは」
 彼女は氷精のチルノさんです。彼女の周りには冬の空気が漂っているので少し苦手ですが、彼女自身はいい子です。
 チルノさんはなぜか疲れたふうで、服もあちこち汚れていました。
「うん…………あのさ、一人?」
 チルノさんは私をじっと見てそう言いました。せっかくですので、最初に彼女に告げることにします。
「そうですよ。それよりチルノさん――」
「知ってるわよ。来たんでしょ?」
 チルノさんはなぜか、少し悲しそうに言いました。
「あれ、知ってるんですか?」
「まあね。つい今しがた」
 それは少し残念ですが、でも私の役目から言ってそれを告げないわけにはいかないんです。
 私はできるだけ楽しそうに、笑ってチルノさんに告げました。
「でも、言わせてくださいね。
 チルノさん、今日から、春です。春が――来ましたよ」



 そして、幻想郷に春が訪れた。



「もう創想話じゃてめえのことなんざ誰も覚えてねーよ何か書け(意訳)」
というコメントをある日頂戴したのでじゃあ一つやってやるかと発奮し
新作発表に浮かれたテンションのまま構想5分で書き上げた凡用人型兵器ですこんにちは。

えーと……
ああ、春ですね。
私の住む地方も、ようやく最低気温が+になったりして、ああ春が来たなあと実感できます。
嘘だ、こんなの春じゃないやい。

今回、読めばお分かりかと思いますがかなり実験的なことをいくつかやっています。
皆さんの読むに耐えうる作品であればいいのですが。

それでは、色々とよろしくお願いいたします(何
凡用人型兵器
[email protected]
http://crapena.hp.infoseek.co.jp/sichisei/sichisei.html
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コメント



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5.40シゲル削除
今までの視点はリリーだったんですねぇ。
何かのんびりとしていて穏やかな気持ちになりますね♪
これからも頑張ってください。
10.70名前が無い程度の能力削除
レティですか。
レティが春を伝えているとは最後まで読むまで思いませんでした。
チルノはレティを探し回っていたんでしょうか?
19.60削除
ああ、春になったのですねぇ~
何気に悲しそうなチルノに萌えてみたりしましたが
やはり冥界組の会話がステキかとw