Coolier - 新生・東方創想話

リグルの狂気 そして彼女は狂気に堕ちる

2005/04/04 05:40:34
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この話は「リグルの狂気 冥界で…」の続きです。駄文ですがそちらの方を先に読んだほうがわかりや
すいと思います。
それでは目を覚ましてしまった本当の脅威、どうぞご堪能あれ。


そして彼女は狂気に堕ちる。編


深夜。
チルノの家。
湖の中にある、湖底洞窟内で。
一つだけあるベッドにリグルは横になっていた。
―こんなことになるなら、損傷修復で治しておくんだった…
そう思いながら、リグルは近くで慌てふためくチルノを眺めている。
体中包帯だらけで身動きすらできない。
しかし、この状況を満更でもない、と思っている自分がいるのも事実だった。
と、チルノが何かをゴリゴリとすり潰す音が聞こえ、
嫌な予感、
「ねぇ、チルノ?」
おずおずと声をかける。
チルノは何?と言いたそうな顔で振り返り、そのチルノに向かってリグルは訊く。
「…何をすり潰してるの?」
「ああこれ?」
チルノはいつもとなんら変わらぬ声で
「冷凍蛙。」
恐ろしいことを。
「…それって…火傷に効くの?」
できる限り平常心を保つよう心がけながら、それでも少々上ずってしまった声で気がかりなことを尋ね
る。
「多分ね。」
多分?
「ほら、漢方薬でもよくあるじゃない。」
あるの?
「それに、この私が直々に凍らせた蛙だしね!」
関係ないと思う。
口にしたいことを口に出せずにしどろもどろしているうちに、
「できたッ!名づけて[チルノちゃん特性冷凍蛙の粉末]!」
悪夢が出来上がってしまった。
わざわざ[チルノちゃん特性]をつける必要はない、と反論しようと口を開こうとしたが、
「リグルちゃん、動いちゃダメよ?」
封殺された。
代わりに口から
「ひえぇ…」
悲鳴の様な、呻きの様な声が漏れた。
チルノが近寄ってくる。
「ひえぇ」
それは、本を拾ってから今まで感じたことのない恐怖だった。
たとえレミリアや魔理沙と戦ってもそれを感じることはなかった。
一時的な包帯を器用にリグルな体から巻き取っていく。
そして手に持っていた粉末を湯に溶かし…
「ちょっと痛いかも知んないけど、我慢してね?」
「ひえええぇえええぇええええぇええええ!!!」
チルノの家に恐怖の悲鳴が響き渡った。


「それにしても。」
体にまとわりつくような深遠の中で、ぼやく様に美鈴は
「此処はいったい何処なんでしょう?」
誰も答えられるはずのない問いかけをする。
「さあな、とりあえず冥界じゃないのは確かだぜ?」
そう答えた、答えてくれたのは魔理沙だ。
「じゃあ此処はいったい何処なんでしょうね?」
レミリアも美鈴と同じことを言う。
「さあね。」
楽観的な口調で言う魔理沙。
誰かがついたため息、再び周りが静寂に包まれる。
「なあ?」
その静けさを破ったのはやはり魔理沙だった。
「今思ったんだけど…」
そこまで言いかけて口をつぐむ。
途中で言葉を切られるのは気持ち悪い。
「何ですか?」
美鈴が先を促す。
「それが、リグルが私達をこういう形で生かしとくのに何のメリットがあるのかなって。」
「?」
意味がわからない。
「つまり、あの蟲…魂喰の食料が魂なら、私達はとっくに消化されて自我を失ってるってこと?」
そういったのはレミリア。
「そういうこと。食い物は消化しないと栄養にならない。でも、私達は自我を持っている。肉体を消化
 するのなら魂は冥界に行くと思うけど、魂を消化する、ってことは自我を消化するって事だと思う。」
魔理沙が言葉をつなぎ、
「つまるところ、私達は生かされてるって事。気にくわないわね。」
レミリアが結論を出す。
―でも、私達をなぜ生かしておくのでしょう?―
美鈴がもっともの質問を
轟音、
周りの闇が一気に取り払われ、
「えっ、なっ、ちょ、ぇ、何~~!?」
言う代わりに混乱した言葉がでた。
同時に
―ふは…ふはは…ふははははははは!!―
不気味な笑いが。
―ようやく条件が整った!ようやく…ようやく自由だッ!!―
不気味な声が。
そして、何がなんだかわからぬうちに、
吹っ飛ばされた。
ずぽん、
という音とともに、彼女達は現世に戻った。
―何から私達は抜け出したのか。
レミリアは近くでパニくっている美鈴と、お~~、と感嘆している魔理沙をよそに冷静な思考を保つ。
と、眼下に一冊の本、
―…蟲符の手引?
その赤茶けた本の題名を、そしてその本が(どういう原理か)飛び去った方角を脳裏に焼き付ける。
その方角は…



霊夢は訝しげにその二人を見やる。
「…届け物?」
紅魔館に、珍しい客が珍しい届け物を携えてやって来た。
「ええ、私と妖夢を救ってくれた命の恩人よ。ねっ、フランドールちゃん?」
幽々子とフランドールだった。
前者が客、後者が届け物。
「それより霊夢、私リグルを殺したよ?お姉さまと魔理沙の敵を討てたんだッ!!」
心底うれしそうにフランドールが言う。
霊夢はその瞬間、見た。
幽々子のその目が、フランドールを哀れむかのように見やった事を。
「それじゃあ私は帰るわ。妖夢の看病もあるし。」
幽々子がいつの間にか目線を霊夢に戻し告げる。
「フランドール、ちょっとパチェリーと咲夜のところに先に行ってて頂戴。」
霊夢がそう言うと
「うん、じゃあ先に行ってるね。」
素直に従い、その場を飛び去った。
「さて、」
霊夢が幽々子に向き直る。
「リグルは死んでいないわね?」
「…勘がいいわね、貴方。」
幽々子は向こうを振り向いたまま
「確かに私はリグルがスペルで逃げたのを見たわ。」
端的に告げる。
「…やっぱり……フランドールには悪いけど、黙っといてくれないかしら?」
幽々子には霊夢の真意がわからない。
「なぜ?」
「このことをフランドールに教えたら、あいつは絶対幻想郷を破壊してでもリグルを殺すわ。そんなこ
 としたら、あっちとこっちの均衡が崩れる。」
なるほど。
「流石は境界の守人ね。結構気を使ってるんだ?」
茶化す様にいう。
と、
「守人はその子だけじゃなくってよ。」
霊夢の後ろから響いたその聞き覚えある声に、二人は同時に振り向く。
「私だって結構気を使ってるんだから。」
声の主は隙間妖怪、八雲紫だった。
「…貴方昔、博麗大結界に穴開けたでしょ?」
霊夢がその胡散臭い妖怪に食って掛かる。
貴方は気なんて使っていない、とでも言いたげに。
「アレはただの挨拶代わりよ、挨拶代わり。」
扇子を口元で開き、優雅とも怠惰とも取れるような動きで煽ぐ。
「で、何の用よ、紫。」
問いかけなのに[?]が付いていない霊夢の冷徹な声に、紫は苦笑しながら
「手伝ってあげようと思ってるのよ。」
「?」
「リグルの討伐。」
思いがけないことを言った。


「美鈴、ちょっとお茶淹れて来て。」
「ああ、はい、わかりました。」
咲夜とパチェリー、美鈴の3人はレミリア、魔理沙の看病をしていた。
しかし、一向に埒が明かない。
それもそのはず、2人は魂を失ったわけで、事実、魂を肉体に戻さないといけないのである。
息抜きに、お茶でも飲もうと思って美鈴に頼んだのだ。
「…でも、レミィと魔理沙は本当に元に戻るのかしら…?」
パチェリーが弱音を吐く。
「第一、その魂がこの世に存在している証拠はどこにもないわ。もし…」
―消化されてしまっていたら。
そこまで言おうとして、
断念
口をつぐむ。
咲夜に睨まれたためだ。
いつの間にか目の色が赤に変化している。
「いくらパチェリー様でも…!…許しませんよ!?」
殺気まで混じっている。
「…悪かったわ。」

そんな2人のやり取りを、ことの原因を作った2人が、眺めていた。
「ほ~う、咲夜は相当お前に忠誠を誓ってるんだなあ。」
そういうのは魔理沙。
「…そうね。」
レミリアができるだけ気のないように答える。
が、
その顔には隠しきれない喜びの色が浮かんでいた。
「「だけど問題は…」」
同時に部屋の片隅で青ざめた顔をしている美鈴に眼をやり
「「あの美鈴が何者か…」」
同時に言う。
「…まあ十中八九リグルのスパイだろうなあ…」
魔理沙が最も妥当なことを言う。
「まあそうでしょうね。」
レミリアも否定しない。
「あう~~…私の体は何処~~…」
泣声で美鈴はぼやく。
「じゃあ、私が先に体に入ってアレの正体確かめてくるわ。」
レミリアが残りの2人に問う。
「おうい、ちょっと待て。私も行くぞ?」
魔理沙も行こうとするが、
「だめよ。」
あっさり拒否された。
「なんでさ?」
明らかに不服そうな声で、しかしどこかこの状況を楽しんでいるかのように訊く。
「だって、まだ美鈴の体が見つかってないじゃない。近くに体のある魔理沙と違って、楽観視できない
の。だから、見つかるまでは話し相手にでもなってあげて?」
そういい残してレミリアは自分の体に向かっていき、
「あっちょっと抜け駆けは卑怯だぜ!」
魔理沙の引き止める声も無視し
肉体と魂が重なった。



「あう~~~……まだヒリヒリする…」
半泣声でリグルはぼやく。
そんなリグルを横目に見ながら
「でも、痛みは引いてきたでしょ?」
チルノが言う。
「やけどの痛みは引いたけど別の痛みが…」
蛙の粉末を刷り込まれた体は、見る見るうちに回復していった。
もともとが蟲なため再生能力が高いのか、それとも実際にチルノの作った薬が効いたのか…
どちらにしろ、リグルにとってはありがたいことだった。
「ねえ、チルノちゃん…」
おもむろに口を開く。
「何?」
チルノはリグルを真正面から見据える。
「…ありがとう。」
いきなりお礼を言われた。
チルノは余りお礼を言われるのに慣れていない。
そのせいか
「?うん、まあね!このチルノ様にかかればこのくらい余裕だって!」
文の始めに[?]がついている。
リグルは苦笑しながら
「外で月でも見ない?」
立ち上がる。
「あっちょっとまだ寝てなきゃダメだって。」
チルノがあわてて立ち上がり、リグルの肩に手をかけるが、リグルはその手を逆にとりチルノを引っ張
る形で外に向かっていった。
「ひゃわっ!?ちょっと、まだ寝てなさいって!」
チルノが動転しながら言うが、
「大丈夫よ、蟲は生命力高いから。」
まるで相手にしない。
チルノはその言葉であきらめたようだ。
リグルに引っ張られるままになっている。



満月だった。
夜風が心地よい。
小高い丘の上で、リグルとチルノは月を仰いでいた。
「綺麗ね…」
チルノが率直な言葉で感動する。
「そうね。」
リグルが応答する。
満月。
元来蛍が嫌う月。
理由は簡単、自身の放つ光をかき消されるから。
しかし、その時リグルは確かに満月を綺麗だと思った。
チルノを見つめる。
蛍と、氷。
蛍の放つ淡い光は氷に反射すると数倍も美しく、輝く。
そんな詩人のようなことを考えながら再び満月に視線を戻し
驚愕した。
二つの影。
肉眼でようやく見分けられる程度の小さなそれは、徐々にこちらに近づいてくるのがわかった。
そのシルエットは見覚えがない、といったら嘘になる。
片方は人間。
博麗神社の巫女をやっている。
片方は妖怪。
隙間からいつも覗いている。
「あら?アレは何かしら?」
チルノも気づいたようだ。
「チルノちゃん、早く逃げて!今度は殺されるわ!」
いつの間にか色まで判別できるほど近づいている。
「何で?アレはそんなに危ないの?」
チルノはまだ知らないらしい。
自分が何をしでかしたかを。
何人の人間や妖怪を弄り、痛めつけていったかを。
「いいから早く、逃げなさい!」
しかし、遅かった。
「あらリグル。こんなところで何をしてるの?」
地に降り立った紫は白々しくリグルに問う。
「そんなことはどうでもいいわ、フランに見つかる前に早くコイツを殺さないと。」
霊夢はいつもどおりの口調で紫に言った。
「………」
無言のまま、リグルはチルノを自分の背後へ。
チルノは全く今の状況を理解できていないようだ。
自分の責任でこうなったんだ、チルノは自分の身を挺してでも守らねば…

―ソンナコト、ドウデモイイダロウ?

突如はじけた脳内の思考にリグルは身を強張らせる。

―ドウセオマエニハカンケイノナイコトダ、ソノムスメガドウナロウガ。

嫌だ!

その思考に対して、リグルは猛反発をする。
いつの間にか、リグルの気づかぬうちに、チルノはリグルの中で最も大切な人になっていた。
いや、なってしまった。

―ソウカ…コウカイスルナヨ…

そういい残し、その思考は波が引くようにどこかへ去っていった。

「リグル!リグルってば!」
チルノの呼ぶ声が聞こえる。
周りを見渡すと、森の木々がすごいスピードで流れていく。
後ろを見ると、
「待ちなさい!!」
「霊夢、待てと言って待つ馬鹿はいないわ。」
悪夢が。
「チルノちゃん、私はおろしってっていいから!こんなことしたらチルノちゃんも殺されちゃう!」
守ると決めていたものに守られていた。
その状況に耐えられず、チルノに言う。
「馬鹿!見殺しにできるはずないでしょうが!」
いつかの言葉と同じことを言う。
が、言葉は同じでも状況は違う。
自分はチルノが大切なのか、と自問する。
きっとそう。
だからアレほどまで普通に接しられたのだ。
自分はきっと、チルノのことが…

腹を…括った。

大切なものを守るためなら、死んでもかまわない。
好きなものを守るためなら、地獄の業火にも喜んで身を投じよう。
「チルノちゃん…」
きっと、これがチルノとかわす最後の言葉だ。
「何よ?!」
こっちを振り向かずにチルノは答えた。
最後にチルノの顔を見ておきたかったが、これでよかったのかもしれない。
もし見てしまったら、

未練が残るから。
後悔するから。
自分の最後の顔が、相手の心に残ってしまうから。

「バイバイ…」
そういい残し、チルノの肩から手を離す。
空いた手でチルノの肩を軽く押し、後ろ、
悪夢の方角へ飛んだ。
チルノが驚愕の表情でこっちを見たが、
マントで顔を隠す。
これでいいんだ。
これで。
「大結界[博麗弾幕結界]!」
「深弾幕結界~夢幻泡影~!」
回避不能なまでの弾幕がリグルを取り囲み、
チルノの悲鳴が聞こえ

リグルを何かが飲み込んだ。

「!」
「?」

弾幕を全て弾く。

弾幕の最も密度が高い地点、すなわちリグルがいた地点には、一冊の赤茶けた表紙の本。

―…蟲符の手引…―

その本は頁を勝手に開き、裏表紙に織り込まれていたらしい一枚のスペルを発動。

―蟲神[帝釈天~劫聯燐~]―

リグルを吐き出し今度は逆に本がリグルに吸収され始めた。
吸収、という表現は適切ではない。

寄生。

蟲が、蟲に。

そう、アレは本ではない。

蟲だったのだ。

グリュッ…ズチャッ……

リグルのその虚ろな瞳から一条の涙がこぼれ、

ボゴン!!

その音をかわきりに、羽が、腕が、足が、触覚が、体全体が、変化し始めた。

リグルは薄れ逝く意識の中で、ようやくわかった。
―便利な力にリスクは付物だ。―
自分で昔思ったその言葉が反響する。
自分が犠牲にしていたもの。
それは…                     そして彼女は狂気に堕ちる。…了
なんかもうホントにすいません、やりたい放題な雪羅奈界です。
どんどんドロドロしてきている…
というかグロい。
これはグロいの部類に入るのか?
タイトルに表記しようか迷った挙句、結局しませんでした。
もしも気分を害された方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
この場をお借りして謝らせていただきます。
まあこのシリーズを読んでいただいているかどうかは別としてですが(笑
ようやく次回で最終回です。
ああ、長いようで短かった…
それでは駄文失礼します。
雪羅奈界
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