Coolier - 新生・東方創想話

小さい頃も神様がいて

2010/10/04 09:57:03
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「よしよし」

泣いている赤ん坊を彼女はあやしている。

大きかった泣き声もしだいに小さくなっていく、やがてそれは寝息に変わった。

すやすやと眠る赤ん坊を見て、彼女は幸せそうに微笑んだ。

「生まれてきてくれてありがとう。あのね、貴方の名前は……」

少しの間を空けた後、彼女は満面の笑みを浮かべて続けた。

「夢子!今日から貴方は夢子ちゃん!」









































「はぁ……」
私は自分の部屋で、一人溜め息をつく。
描いていた絵も途中で止めてしまい、今はベッドに寝転がって天井を見ている。
私は魔界神に創られた存在。
それも、一番最初にだ。
私の後にも創られた魔界人達はいるのだが、みんな大きい。
私だけが小さい。
私が一番お姉さんなのに。
なんで私だけこんな姿なの?
いつものように考えるが、答えは出ない。
再び溜め息をついていると、部屋の扉がノックされた。
「夢子ちゃん、いる~?」
呑気な声が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
「入るわね~」
開かれた扉の向こう側から、サイドテールを揺らして神綺様が顔を出す。
「何してたの?」
「……何もしてないです」
身体を起こし、神綺様の方を見るでも無く返す。
「あら、それだったらママと遊ぶ?」
「結構です。子供扱いしないで下さい」
「夢子ちゃんは私の子供だもの」
またこれだ。
「私はいいですから、他の人の所に行ってください」
「だってみんな忙しいみたいだから……」
「だったら……」
私はベッドから下りて立ち上がる。
「だったら何で私だけこんな幼い姿なんですか!?私だけが何もしないで部屋にいて……私は、何の為に!」
この場にいたくなくて駆け出し、部屋を出る。
「夢子ちゃん!外は駄目!」
神綺様の声が聞こえてくるが、無視をした。








呼び止めてくるメイド達をかい潜り廊下を抜け、パンデモニウムの外に出た。
薄暗い空の下、所々に見える建造物。
それ以外は植物などが見えるが、一番多く見えるのは地面。
何も無い地面。
行くあても無く、ただただ歩き続ける。
たまにすれ違う魔界人達は不思議そうに私を見る。
そう、この世界に私のように小さい者は他に存在しない。
私が……一番お姉さんなのに……。
「なんで……私だけ……」
何度も思う事を再び口にする。
きっとこれは神綺様のただの気まぐれなのだ。
深く考えてなんていない、理由もなく私だけが幼いのだ。
「神綺様なんて……」
言葉を続けようとした時、身体が浮遊する感覚に陥る。
「え?」
下を見ると地面が無い。ただただ黒い空間が広がっている。
そこで私は少し前に神綺様に言われた言葉を思い出した。

「夢子ちゃん、この世界、魔界はまだ未完成なの。だから外は不安定で危ない所もいっぱいあるわ。だから勝手に出ないでね?ママとの約束」

そう言っていた。
ああ、私は悪い子だ。
自分が幼いのを神綺様のせいにして。
あげくの果てに、約束を破ってこんな事に。
ごめんなさい……神綺様……。
身体はどんどん下に落ちる。
この下には何があるのだろう?
私、死んじゃうのかな?
「夢子ちゃん!」
声が聞こえた。
はっとして上を向く。
神綺様がいた。
六枚の翼を生やし、凄いスピードで降りてきながら、こちらに手を伸ばす。
「掴まって!」
私は反射的に手を伸ばしていた。暖かい手を掴んでいた。
手を掴んだ私を引っ張り抱き抱え、神綺は上へ飛ぶ。
その姿はとても頼もしくて、私は何も言えなかった。
「大丈夫?怪我は無い?」
地上に立ち、私を抱き抱えたままいつもの笑顔で神綺様は言う。
「あ……はい……」
どんな顔をして良いか分からず、俯いてしまう。
「そう……良かった……」
神綺様はゆっくり腰を下ろすと、私の頭を優しく撫でた。
「夢子ちゃん、少し私の話、聞いてくれる?」
「え?は、はい……」
怒られると思っていた私は拍子抜けする。
「世界って言うのはね、一人の力では成り立たないの。みんなの力で初めて成り立つの」
神綺様は優しい目で私を見る。
「だからね、夢子ちゃん以外のみんなは世界の為、一生懸命働いて貰ってるわ」
「なら、何で私だけ……」
「夢子ちゃんが私の最初の子供だっていうのは言ったわよね?」
「……はい」
「みんなのお姉さんになりたいって思ってるのは分かってるわ。最初の子だものね。……でもね私はみんながみんな、私の所を離れてしまうねは寂しいの」
神綺様は寂しそうに微笑む。
「私は子供達は全員愛してるわ。けど、その中でも初めての子供……夢子ちゃんは小さい頃から深く深く愛して育てようと思ったの。けど、それは私のわがままだったみたい」
私は何も言えなくて、黙っていた。
「夢子ちゃんは嫌がってるものね、ごめんね。わがままなママで」
何故だか涙が溢れてきて、それを必死で堪える。
「夢子ちゃんが望むなら、夢子ちゃんも成長させてみんなと変わらないようにするわ」
「……いい」
限界が来て、涙が目からこぼれ落ちる。
「私は神綺様の……ママの娘だから……」
神綺様に抱き着いて、涙を流す。
「ごめんなさい……わがまま言って……偉そうで……ママの気持ちを考えないで……」
「いいの、私がいけなかったの」
優しく頭を撫でられる。
「これからは私……いい子にします……好き嫌いしません……お勉強もします……だから、だから……私を今までみたいに……今までみたいに……」
嗚咽が漏れてうまく喋れなくなる。
「うん、分かったわ。ありがとう、夢子ちゃん」
私の方こそありがとう。
それはもう声にならなかった。















「神綺様、抱っこして!」
「いいわよ」
夢子ちゃんがお外に出ていって、色々あってから数週間。
今では夢子ちゃんは私にべったり。嬉しい限りです。
前より笑うようになったし、楽しそうにしている。
子育ての難しさを実感して、私は他の子達も少し気にかけた。
最初からある程度の知識をつけて生まれた子供達、でもその知識はあくまで私の知識を元にしたもの。
これから少しずつ、自分の知識を蓄えていって欲しい。
でもひとまずは、この可愛らしい長女だ。
無邪気に微笑むその姿は、成長したら見れないかもしれない。
だから沢山見ておこう。
「ねぇ、夢子ちゃん」
「何、ママ?」
しかしママと呼ばれるのは良いものね。
「夢子ちゃんは将来何になりたい?」
「メイド!」
即答だった。
「メイドになってママのお世話をするの!」
「あら~、嬉しいわ~」
「私はずっとママの傍にいるよ」
涙腺が危ないわ。
泣きそう、魔界神泣きそう。






























「夢子ちゃ~ん、お仕事終わらないよ~」
「もう少しですから、頑張って下さい」
手元の書類に目を通し、何度目か分からないサインを書く。
魔界で何で行う時は、基本的に魔界神である私の許可が必要になる。
今はまさにその許可を出している所。
「……ん~、頑張ろう。魔界神ファイト~」
私は黙々と作業というのが苦手だ。口と手が連動しているのかもしれない。
「ラスト……」
サインを書き終え、息を吐く。
「終わった~……」
「お疲れ様です」
夢子ちゃんは書類をさっさとまとめると、紅茶を出してくれた。
「ありがとね」
早速紅茶をいただく。
「それと、ごめんね。こんな遅くまで付き合わせちゃって……」
「いいんですよ」
そう言って夢子ちゃんは小さく微笑んだ。





「私はずっと神綺様の傍にいますから」
今回は幼少期夢子さんです

自分の作品内では、今でこそもうママ大好きっ子ですが、昔はどうだったかと言う感じで
自分だけが小さくてイライラしてるのも、神綺ママの役に立てない事への苛立ちだと思っていただければ……


ここまで読んでくださってありがとうございました
鹿墨
https://twitter.com/kaboku013
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コメント



0.1270簡易評価
11.90奇声を発する程度の能力削除
とっても良かったです!!
幼少期の夢子姉さん可愛いよ!
15.100お嬢様・冥途蝶削除
タイトルがよかったわ!100点!! お嬢様
かわいいお話は安心して読めます 冥途蝶
19.90名前が無い程度の能力削除
魔界神にべったりな夢子さんも良いな。GJ
28.無評価名前が無い程度の能力削除
良い